JP6743451B2 - 積層多孔フィルム - Google Patents
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Description
このようなゲル状ポリマーとしてフッ化ビニリデン系ポリマーが知られており、フッ化ビニリデン系ポリマーを表層に有するセパレータが実用化されている。
また、α−アルミナ粒子を含む塗布層を形成したセパレータは、塗布層を形成していないセパレータよりも軽量性の点で劣る。例えば、空孔率50%、厚み20μmのポリオレフィン系セパレータの表面に、従来法により5μm厚みのα−アルミナ粒子及びバインダー樹脂を含む塗布層を形成した場合、得られるセパレータの総質量の約40%はα−アルミナ粒子に由来する質量であり、セパレータの総質量もバインダー樹脂等を含めると70%以上増加することになる。当然ながらセパレータの厚み増加に伴い必要な電解液量も増えるため、多数の電池を搭載する電気自動車などでは、kg単位の重量増加を余儀なくされ、電池モジュールのエネルギー密度が低下するという課題があった。
[1]ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔フィルムの少なくとも一方の面にアルミナを含有する塗工層を有する積層多孔フィルムであって、該塗工層はアルミナ粒子とバインダー樹脂とから形成された3次元網目構造を有し、該アルミナ粒子は遷移アルミナ粒子を含み、かつ、600℃で燃焼させた時の灰分量が30質量%未満である積層多孔フィルム。
[2]前記多孔フィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分とする延伸多孔フィルムである、上記[1]に記載の積層多孔フィルム。
[3]面内圧力2g/cm3の押圧条件下、150℃で20分加熱した時の流れ方向の収縮率及び該流れ方向に対し垂直な方向の収縮率がいずれも3.0%以下である、上記[2]に記載の積層多孔フィルム。
[4]前記バインダー樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、シアノエチルポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレン−ビニルアセテート共重合体、プルラン、シアノエチルプルラン、シアノエチルスクロース、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、及びポリイミドからなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
[5]前記3次元網目構造により形成される孔径が、前記アルミナ粒子の平均1次粒子径よりも大きい、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
[6]JIS K3832:1990に準拠してバブルポイント法により測定される前記多孔フィルムの最大細孔径が0.001〜0.5μmである、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
[7]前記多孔フィルムと前記塗工層との厚み比が1:1〜30:1である、上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
[8]上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の積層多孔フィルムからなるセパレータ。
[9]上記[8]に記載のセパレータを有する電気化学素子。
本発明の積層多孔フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔フィルムの少なくとも一方の面にアルミナを含有する塗工層を有する積層多孔フィルムであって、該塗工層はアルミナ粒子とバインダー樹脂とから形成された3次元網目構造を有し、該アルミナ粒子が遷移アルミナ粒子を含み、かつ、600℃で燃焼させた時の灰分量が30質量%未満である。
前記塗工層は、前記多孔フィルムの少なくとも一方の面に、前記アルミナ粒子及び前記バインダー樹脂を含有する塗工液を塗工することにより形成できる。本発明者は、前記塗工層中でアルミナ粒子が形成する高次構造に着目して検討した結果、該塗工層における高次構造を、α−アルミナよりも低比重な遷移アルミナの粒子と、バインダー樹脂とから形成された3次元網目構造とすることで、セパレータとして用いた際の実用的な耐熱性、耐熱収縮性を維持しつつ、軽量化、薄型化が可能であることを見出したものである。
しかしながら本発明者らは、あえて1次粒子径が小さい遷移アルミナ粒子と、バインダー樹脂を用いることで、該遷移アルミナ粒子の1次粒子径よりも大きな気孔を有する3次元網目構造膜を得ることに成功した。
この3次元網目構造を有する塗工層は、従来公知の技術とは明らかに異なる高次構造を有しており、従来のα−アルミナ粒子同士の間隙により形成される空き空間を利用した塗工層よりも透気特性に優れ、かつ、熱収縮抑制効果も大きいことを見出した。さらに、この3次元網目構造を有する塗工層は、アルミナの含有量が従来の1/5程度であるにも関わらず、従来と同等の透気特性及び熱収縮抑制効果を有していた。
遷移アルミナ粒子1は従来使用されていたα−アルミナ粒子と比較して1次粒子径及び比重が小さいので、前記塗工液及びその塗工直後のWet膜中において沈降し難い。そのため、塗工層中でアルミナ粒子が沈降して、多孔フィルム4の孔を閉塞して積層多孔フィルムの透気特性を悪化させるという従来の問題を回避でき、かつ、塗工層中で前述したような3次元網目構造を形成できるものである。
また、図3右及び図4右の模式図にも示されるように、該3次元網目構造により形成される孔径は、遷移アルミナ粒子1の平均1次粒子径よりも大きい。そのため本発明における塗工層5は、平均1次粒子径が小さい遷移アルミナ粒子を用いても透気特性が良好になる。さらに、塗工層5を有する本発明の積層多孔フィルムは、遷移アルミナ粒子1の含有量が少なくても多孔フィルム4に由来する熱収縮も抑えることができるので、優れた透気特性と耐熱収縮性を維持しつつ、軽量化、薄型化が可能になる。
図5右の模式図にも示されるように、前記空き空間による孔径は、α−アルミナ粒子6の平均1次粒子径よりも小さいものである。そのため本発明の積層多孔フィルムにおける塗工層5と比較すると透気特性は低くなる。さらに、塗工層7中には1次粒子径の大きいα−アルミナ粒子6が存在するので、塗工層7を有するセパレータ内をイオンが移動する際にはイオンの行路長が長くなり、その結果、セパレータに適用した際のセパレータ抵抗も高くなる傾向がある。
<多孔フィルム>
本発明に用いる多孔フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔フィルムである。本発明において「主成分」とは、全構成成分に対する割合が50質量%超、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90〜100質量%の成分をいう。
当該多孔フィルムとしては、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、セパレータ性能の点から、好ましくは1000秒/100mL以下の透気度を有するフィルムであれば特に制限なく使用することができる。多孔フィルムの透気度は、より好ましくは300秒/100mL以下、さらに好ましくは200秒/100mL以下である。透気度はJIS P8117:2009に準拠して測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
これらの中でも、アミド化合物、テトラオキサスピロ化合物、及びキナクリドン類からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
β晶核剤としては上記に例示したもの以外でも、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成、成長を増加させるものであれば特に限定されず、また2種類以上を混合して用いてもよい。
さらに、前記無孔膜状物を少なくとも一軸方向に延伸することで多孔化し、本発明に用いる多孔フィルムを得ることができる。延伸は一軸延伸、二軸延伸のいずれでもよい。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。延伸条件を選択でき、多孔構造を制御し易いという点では逐次二軸延伸が好ましい。
なお本明細書において、無孔膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
さらに、得られた多孔フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、ミシン目加工などを施すことができる。
一方、電池が高性能になればなるほど電池用セパレータの多孔構造には均一性が求められてくる。すなわち、多孔フィルムのFBP径についても、0.5μmより大きい範囲であっても、本発明の積層多孔フィルムをセパレータに適用した際の電池の安定性やセパレータの多孔構造の均一性の観点から、電解液中のリチウムイオンの行き来を遮らない範囲で小さい孔径にすることが好ましい。
また、前記バブルポイント法により測定される多孔フィルムの平均流量細孔径(以下、当該平均流量細孔径を「MFP径」ともいう)は、0.0001〜0.2μmが好ましく、0.001〜0.1μmがより好ましい。
多孔フィルムのFBP径及びMFP径は、JIS K3832:1990に準拠したバブルポイント法にて、パームポロメータ(PMI社製、500PSIタイプ)を用いて測定することができる。
また多孔フィルムの厚みは、特に限定されないが、得られる積層多孔フィルムの透気特性及び機械的強度の両立の観点から、好ましくは3〜50μm、より好ましくは5〜30μmの範囲である。多孔フィルムの厚みは、例えばダイアルゲージにより測定することができる。
本発明の積層多孔フィルムは、前記多孔フィルムの少なくとも一方の面にアルミナを含有する塗工層を有し、該塗工層はアルミナ粒子とバインダー樹脂とから形成された3次元網目構造を有するものである。当該塗工層を有することにより、本発明の積層多孔フィルムはセパレータに適用した際に、軽量でかつ薄型であってもセパレータとしての実用的な透気特性及び耐熱収縮性に優れるものとなる。塗工層の3次元網目構造については前述した通りである。
本発明における塗工層は、従来のα−アルミナを含有する塗工層と比較すると非常に均一な構造であり、塗工層の表面のSEM画像を2値化し、フィルムの流れ方向(MD)あるいは該流れ方向に対し垂直な方向(TD)に画像を複数に分割した場合、それぞれの分割画像で、前記3次元網目構造により形成される気孔又は該3次元網目構造を形成する骨材に対応する部分の面積率の標準偏差が非常に小さくなる。つまり、気孔の存在率が均一であることを意味する。本発明における塗工層は、その表面を10万倍で観察したSEM画像をMDに0.15μmおきに分割した時の、それぞれのエリアにおける、骨材に対応する部分の面積率の標準偏差は3以下が好ましい。より好ましくは2以下である。標準偏差が3以下であれば、塗工層中の気孔の分布のバラつきが小さく、本発明の積層多孔フィルムを電池用セパレータに適用した際に、電解液中のリチウムイオンの還元反応により析出する金属リチウムが樹枝状に成長したリチウムデンドライト発生のリスクを低くできる。
SEM画像の2値化、分割、面積率算出、標準偏差算出は「A像くん」(旭化成エンジニアリング(株)製、商品名)などの画像解析ソフトにて可能である。なお、塗工層における上記面積率の絶対値は、2値化のしきい値やその他の設定条件によって変化するが、各エリアの面積率の標準偏差に関しては、バラツキの指標なので設定条件の影響をほとんど受けず、大きく変化することがないことがわかっている。
本発明で用いるアルミナ粒子は、遷移アルミナ粒子を含むことを特徴とする。本明細書において「遷移アルミナ粒子」とは、結晶構造がα以外のアルミナの粒子をいい、より具体的には、結晶構造がγ、θ、及びδからなる群から選ばれる1つ以上であるアルミナの粒子をいう。なお以下の記載において、「遷移アルミナ粒子を含むアルミナ粒子」を単に「(前記)アルミナ粒子」と称することがある。
塗工層において上記のような遷移アルミナ粒子を用いることで、塗工層の形成に用いる塗工液、及び塗工直後のWet膜中でのアルミナ粒子の沈降を抑制することができ、塗工層において均一な3次元網目構造を形成することが可能である。また、遷移アルミナ粒子はα−アルミナ粒子と比較して硬度が低いため、積層多孔フィルムの製造設備の摩耗を抑制し、製品への異物混入のリスクを低減する効果も期待できる。
本発明の効果を得る観点から、塗工層に含まれる全アルミナ粒子に対する遷移アルミナ粒子の含有量は、好ましくは50質量%超、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、よりさらに好ましくは90〜100質量%、特に好ましくは100質量%である。
前記アルミナ粒子の平均1次粒子径は、具体的にはTEM観察及び画像解析ソフトによる画像解析により求められる。
また、アルミナ粒子の1次粒子を意図的に凝集させ、所定の粒径の2次粒子を調製することもできる。例えば、アルミナ粒子のスラリーが水系の場合はpHをコントロールし、アルミナの等電点付近とすることで、該粒子を凝集させることが可能である。また、従来公知の造粒技術を使用して所定の2次粒子を調製することができる。造粒の際には公知の造粒用バインダーを使用することができる。
前記アルミナ粒子の2次粒子のD50は、スラリーの状態で動的光散乱法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
また、前記アルミナ粒子の真比重は3.0〜3.6g/cm3が好ましく、3.1〜3.4g/cm3がより好ましい。前記アルミナ粒子の真比重がこの範囲にあることで、真比重が約4g/cm3のα−アルミナ粒子を用いた塗工層を有する積層多孔フィルムよりも軽量にできる。当該真比重は、JIS R9301−2−1:1999(ピクノメーター法)により求められる。
本発明に用いるバインダー樹脂の種類には特に制限はないが、電解液と接触すると電解液を吸収し、膨潤する性質の樹脂が好ましい。この観点からは、ポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、シアノエチルポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレン−ビニルアセテート共重合体、プルラン、シアノエチルプルラン、シアノエチルスクロース、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、及びポリイミドからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。より好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、及びポリアクリロニトリルからなる群から選ばれる1種以上であり、接着性の点から、さらに好ましくはポリオレフィン樹脂系樹脂及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる1種以上である。
前記バインダー樹脂に用いられるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、及びポリメチルペンテン系樹脂からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ポリエチレン系樹脂がより好ましい。
前記重合体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステルによりグラフト変性等された変性体でもよい。
他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸エステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステル]、不飽和カルボン酸又はその無水物[例えば、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)シトラコン酸、(無水)イタコン酸など]、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)などが例示できる。他のモノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
またポリメチルペンテン系樹脂は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステルによりグラフト変性等された変性体でもよい。
前記ポリオレフィン系樹脂の市販品としては、ユニチカ(株)製の「アローベース」等が挙げられる。
前記バインダー樹脂に用いられるポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンを主成分とするものであれば特に制限はなく、例えば、フッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデン−4フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリクロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、及びこれらの混合物を使用することができる。
(メタ)アクリレート系樹脂としては、各種(メタ)アクリレートを主成分とするものであれば特に制限はなく、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等の、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルの単独重合体、及びこれらの混合物を使用することができる。当該(メタ)アクリレート系樹脂は、重合性官能基を有していてもよい。
セルロース系樹脂としては、セルロース;メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロースなどの、炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルセルロース;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース;セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル;及び、上記以外の、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、並びにこれらの混合物を使用することができる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物を使用することができる。
ポリビニルアルコールとしては特に制限はないが、水への溶解性、耐電解液特性の点から、鹸化度が60〜100mol%であることが好ましく、80〜100mol%であることがより好ましい。また、接着性、塗布性の点から、ポリビニルアルコールの平均重合度は好ましくは1000〜10000、より好ましくは1500〜5000である。
バインダー樹脂が樹脂粒子の形態である場合、その製造方法には特に制限はないが、各種乳化方法により製造された樹脂乳化物であることが好ましい。樹脂乳化物は、粉砕などのBreak−Down法により製造されたものに比べて、粒子径の揃った微粒子を低コストで得やすいからである。
なお積層多孔フィルムが前記多孔フィルムの両面に塗工層を有する態様である場合、「塗工層の厚み」とは、塗工層の合計厚みをいう。
樹脂粒子の分散液における分散媒も水系分散媒であることが好ましく、上記と同様の分散媒を用いることができる。塗工液の調製時に、必要に応じ水、炭素数1〜4のアルコール、及び任意の添加剤等をさらに添加してもよい。
塗工液の固形分濃度は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
上記塗工液を、所望の厚みとなるように多孔フィルムに塗工し、次いで乾燥して前記分散媒を除去することで塗工層が形成され、本発明の積層多孔フィルムを得ることができる。乾燥温度は分散媒の種類等によって適宜選択できるが、30〜100℃の範囲が好ましい。
塗工層の厚み、並びに多孔フィルムと塗工層との厚み比は、積層多孔フィルムの断面をSEM観察することにより求められる。
また本発明の積層多孔フィルムの総厚みは、透気特性及び機械的強度、並びに軽量化、薄型化の観点から、好ましくは3.3〜90μm、より好ましくは5.5〜50μmである。積層多孔フィルムの総厚みは、例えばダイアルゲージにより測定することができる。
本発明の積層多孔フィルムは、600℃で燃焼させた時の灰分量が30質量%未満であることを特徴とする。従来のアルミナ粒子を塗布した積層多孔フィルムは、熱収縮防止等の機能を発現するために30質量%以上の灰分量が必要であったが、本発明の積層多孔フィルムは、当該灰分量が30質量%未満であることから、アルミナ粒子による増加質量は50%未満となるので、軽量化することができる。この観点から、本発明の積層多孔フィルムは、600℃で燃焼させた時の灰分量が好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下である。また、耐熱収縮性の観点からは、当該灰分量は、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。
上記灰分量は、積層多孔フィルムを空気雰囲気下、熱重量分析(TGA)を行うことにより測定できる。具体的には、TGA測定において120℃で吸着水分を乾燥させた後、600℃まで昇温して保持し、アルミナ粒子以外の成分を燃焼させて、120℃乾燥後の質量に対する、600℃燃焼後の質量の割合を求める。より具体的には、上記灰分量は、実施例に記載の方法で測定できる。
当該収縮率は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
本発明のセパレータは、本発明の積層多孔フィルムからなるものである。本発明のセパレータの好ましい態様、及び好ましい特性は前記積層多孔フィルムにおいて記載したものと同じである。本発明のセパレータは後述する電気化学素子用のセパレータとして好適である。
本発明の電気化学素子は、本発明のセパレータを有するものである。当該電気化学素子としては、ニッケル−水素電池、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、及びリチウムイオンポリマー二次電池などのリチウム二次電池、アルミ電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタのようなコンデンサ系デバイスが挙げられる。これらの中でも、リチウム二次電池が好ましい。
多孔フィルムのFBP径及びMBP径は、パームポロメータ(PMI社製、500PSIタイプ)を用いて、JIS K3832:1990に準拠したバブルポイント法により測定した。
アルミナ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、旭化成エンジニアリング(株)製画像処理ソフト「A像くん」にて、画像から粒子抽出を行い、平均1次粒子径を求めた。
大塚電子(株)製の光散乱光度計「ELS−Z」を用いて、動的光散乱法により、スラリー、分散液、又は塗工液中のアルミナ粒子及び樹脂粒子の分散粒子径、並びに多分散指数を測定した。
積層多孔フィルムの面内を不特定に3箇所切り出し、イオンミリングにより断面を出した切片を走査型電子顕微鏡(SEM)で5000倍の倍率で観察して、塗工層の厚みを求めた。厚みの数値は0.5μm単位で四捨五入した。
積層多孔フィルムの塗工層の表面及び断面を、SEMを用いて10万倍の倍率で観察した。なお、実施例で得られた積層多孔フィルムは、いずれも、アルミナ粒子の1次粒子とバインダー樹脂とが3次元網目構造を形成しており、アルミナ粒子の平均1次粒子径よりも大きい孔を形成していることがわかった。
塗工層の表面を倍率10万倍でSEM観察し、塗工層表面のビットマップイメージを得た。次に、旭化成エンジニアリング(株)製画像処理ソフト「A像くん」でビットマップイメージを開き、フレームをトリミング除去した後、しきい値0の2次微分2値化法で2値化イメージを得た。得られた2値化イメージを区分ピッチ0.15μmでMD軸を13分割し、それぞれのエリアにおいて、3次元網目構造を形成しているアルミナ粒子及びバインダー樹脂(骨材)部分の面積率を求めた。13区分の面積率を累計したときの標準偏差を求めた。
JIS P8117:2009に準拠して、多孔フィルム及び積層多孔フィルムの透気度(秒/100mL)を王研式透気度計により測定した。透気度の値が小さいほど連通性が高く、セパレータとしての性能が良好であることを示す。
判定基準は、透気度が300秒/100mL以下であるものを「○」、300秒/100mL超、1000秒/100mL以下であるものを「△」、1000秒/100mL超であるものを「×」とした。
積層多孔フィルムをMD100mm×TD100mm四方に切り出して平滑なガラス板2枚の間に挟み、さらに、積層多孔フィルムへの面圧力が2g/cm2となるように重りを乗せて調整した。その状態のまま150℃に設定したオーブン(タバイエスペック社製「タバイギヤオーブンGPH200」)に入れ、20分加熱した。加熱後、積層多孔フィルムをオーブンから取り出して自然冷却し、40℃以下になったところで重りを取り除き、TD方向に最も収縮した部分のTD長さ(mm)を測定し、以下の式から150℃加熱時の熱収縮率を算出した。
TD熱収縮率(%)={(加熱前のTD長さ−加熱後のTD長さ)/(加熱前のTD長さ)}×100
判定基準は、TD熱収縮率が3.0%以下であるものを「○」、3.0%超であるものを「×」とした。
なお、本実施例及び比較例では、多孔フィルムとしてMDに対してTDの収縮が大きい傾向にある乾式二軸製法のフィルムを使用しているため、TDの熱収縮率のみ測定した。
熱重量測定装置(TA Instrument社製「Q5000」)にて熱重量分析(TGA)を行った。測定試料である積層多孔フィルムを空気雰囲気下、120℃で30分間保持し、吸着水分を除去した。次に600℃まで昇温し、30分間保持した後の質量を求め、下記式から積層多孔フィルムの灰分量を算出した。なお、3回測定の平均値を積層多孔フィルムの灰分量の測定値とした。
灰分量(%)=(600℃30分加熱後の質量)/(120℃30分加熱後の質量)×100
積層多孔フィルムの軽量性の判定基準は、3.5cm×3.5cm角に切り出した積層多孔フィルムの質量が、同じ大きさの、塗工層を有しない未塗工多孔フィルムの質量と比較して、増加質量が50質量%以下であるものを「○」、50質量%超であるものを「×」とした。
増加質量(%)=((積層多孔フィルムの質量)−(未塗工多孔フィルムの質量))/(未塗工多孔フィルムの質量)×100
ポリプロピレン系樹脂((株)プライムポリマー製「プライムポリプロ F300SV」、密度:0.90g/cm3、MFR:3.0g/10分)と、β晶核剤として、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンを用いた。前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、β晶核剤を0.2質量部の割合でブレンドし、東芝機械(株)製の同方向二軸押出機(口径:40mmφ、L/D:32)に投入し、設定温度300℃で溶融混合後、水槽にてストランドを冷却固化し、ペレタイザーにてストランドをカットし、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを作製した。
前記のペレットを用いて、Tダイ押出機の口金より押出し、124℃のキャスティングロールで冷却固化させて膜状物を作製した。前記膜状物を、縦延伸機を用いて100℃で縦方向に4.6倍延伸し、その後、横延伸機にて150℃で横方向に2.1倍延伸後、153℃で熱固定を行った。
続いてVETAPHONE社製ジェネレータ「CP1」を使用し、出力0.4kW、速度10m/minでコロナ表面処理を施すことで、ポリプロピレン系樹脂からなる多孔フィルムを得た。
得られた多孔フィルムの厚みを、1/1000mmのダイアルゲージにて面内を不特定に5箇所測定し、その平均値として算出したところ20μmであることがわかった。また、多孔フィルムの透気度は152秒/100mLであり、FBP径は0.045μm、MFP径は0.0196μmであった。
また、3.5cm×3.5cm角に切り出した積層多孔フィルムの質量は98mgであった。
(塗工液の調製)
結晶構造がθ、δ及びγである遷移アルミナ粒子(日本アエロジル(株)製「AEROXIDE Alu65」、平均1次粒子径:20nm、真比重:3.2g/cm3)20gと、脱イオン水71.5gと、酢酸0.5gを混合した液体を、ポットミルで分散、解砕した。さらに、バインダー樹脂として、アクリル酸エステル単位を含有するポリエチレン樹脂の乳化物(ユニチカ(株)製「アローベース CD−1010」、カチオン分散型、固形分濃度:20質量%、分散粒子径D10:69nm、D50:134nm、D90:265nm、多分散指数:0.192)を8g、イソプロピルアルコール(IPA)を21g混合し、塗工液を得た。
前記多孔フィルムをガラス定盤上に貼り付け、塗工液をバーコーターにて多孔フィルムの片面に塗布し、45℃の温風で乾燥させて、多孔フィルムの片面に塗工層を有する積層多孔フィルムを得た。
得られた積層多孔フィルムを前記方法により評価した。結果を表1に示す。
結晶構造がθ、δ及びγである遷移アルミナ粒子(日本アエロジル(株)製「AEROXIDE Alu65」、平均1次粒子径:20nm、真比重:3.2g/cm3)20gと、脱イオン水77.9gと、酢酸0.5gを混合した液体に、バインダー樹脂として、ポリビニルアルコール(クラレ(株)製「PVA124」、鹸化度:98.0〜99.0mol%、平均重合度:2400)1.6gを加え、ポットミルで分散、解砕した後、イソプロピルアルコール(IPA)を21g混合し、塗工液を得た。
上記塗工液を用いて、実施例1と同様に積層多孔フィルムの作製を行った。得られた積層多孔フィルムを前記方法により評価した結果を表1に示す。
結晶構造がαであるα−アルミナ粒子(日本軽金属(株)製、低ソーダアルミナ「LS−235C」、平均1次粒子径:0.59μm、真比重:3.9g/cm3)20gと、脱イオン水79.1gと、酢酸0.5gを混合した液体に、バインダー樹脂として、ポリビニルアルコール(クラレ(株)製「PVA124」、鹸化度:98.0〜99.0mol%、平均重合度:2400)を加え、ポットミルで分散、解砕した後、イソプロピルアルコール(IPA)を21g混合し、塗工液を得た。塗工液中のα−アルミナ粒子の分散粒子径は0.53μmであった。
上記塗工液を用いて、実施例1と同様に積層多孔フィルムの作製を行った。この積層多孔フィルムの塗工層の高次構造を観察したところ、3次元網目構造は形成されておらず、アルミナ粒子とバインダー樹脂が従来技術と同様の粒子堆積構造を形成し、アルミナ粒子の平均1次粒子径より小さい孔を形成していることがわかった。
また、得られた積層多孔フィルムを前記方法により評価した結果を表1に示す。
塗工層の厚みを表1に示すとおりに変更したこと以外は比較例1と同様に積層多孔フィルムの作製を行った。得られた積層多孔フィルムを前記方法により評価した結果を表1に示す。
比較例2で調製した塗工液の分散粒子径を前記方法により測定し、アルミナ粒子とバインダー樹脂との間で凝集していないことを確認した。
結晶構造がαであるα−アルミナ粒子(日本軽金属(株)製、低ソーダアルミナ「LS−235C」、平均1次粒子径:0.59μm、真比重:3.9g/cm3)20gと、脱イオン水71.5gと、酢酸0.5gを混合した液体を、ポットミルで分散、解砕した。このときのα−アルミナ粒子の分散粒子径は0.53μmであった。さらに、バインダー樹脂として、アクリル酸エステル単位を含有するポリエチレン樹脂の乳化物(ユニチカ(株)製「アローベース CD−1010」、カチオン分散型、固形分濃度:20質量%、分散粒子径D10:69nm、D50:134nm、D90:265nm、多分散指数:0.192)を8g、イソプロピルアルコール(IPA)を21g混合し、塗工液を得た。
上記塗工液を用いて、実施例1と同様に積層多孔フィルムの作製を行った。この積層多孔フィルムの塗工層の高次構造を観察したところ、3次元網目構造は形成されておらず、アルミナ粒子とバインダー樹脂が従来技術と同様の粒子堆積構造を形成し、アルミナ粒子の平均1次粒子径より小さい孔を形成していることがわかった。
また、得られた積層多孔フィルムを前記方法により評価した結果を表1に示す。
多孔フィルムのいずれの面にも塗工層を形成せず、前記方法で透気度及びTD熱収縮率を測定した。結果を表1に示す。
これに対し、実施例1及び2のように塗工層において遷移アルミナ粒子を用いた場合には、積層多孔フィルムの灰分量が30質量%未満であっても熱収縮を抑えることができ、軽量化が可能なことがわかる。図6は実施例1の断面SEM写真であり、塗工層の高次構造が図1又は図2の模式図のような3次元網目構造であるのがわかる(なお、図6において最表層の孔が閉塞して見えるのはリデポジションの影響である)。このような微細な網目構造が形成された塗工層を有することで、本発明の積層多孔フィルムは、優れた透気特性及び低熱収縮性を維持したまま、軽量化及び薄型化が可能となる。さらに、実施例1及び2では塗工層の骨材部分の面積率の標準偏差は3以下であり、比較例よりも塗工層の孔分布が均一であることがわかる。
2 バインダー樹脂
3 分散媒
4 多孔フィルム
5 本発明における塗工層
6 α−アルミナ粒子
7 アルミナ粒子同士の間隙により空き空間が形成された従来の塗工層
Claims (9)
- ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔フィルムの少なくとも一方の面にアルミナを含有する塗工層を有する積層多孔フィルムであって、該塗工層はアルミナ粒子とバインダー樹脂とから形成された3次元網目構造を有し、該アルミナ粒子は遷移アルミナ粒子を含み、かつ、600℃で燃焼させた時の灰分量が30質量%未満であり、前記アルミナ粒子の平均1次粒子径は5〜50nmである積層多孔フィルム。
- 前記多孔フィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分とする延伸多孔フィルムである、請求項1に記載の積層多孔フィルム。
- 面内圧力2g/cm3の押圧条件下、150℃で20分加熱した時の流れ方向の収縮率及び該流れ方向に対し垂直な方向の収縮率がいずれも3.0%以下である、請求項1又は2に記載の積層多孔フィルム。
- 前記バインダー樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、シアノエチルポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレン−ビニルアセテート共重合体、プルラン、シアノエチルプルラン、シアノエチルスクロース、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、及びポリイミドからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
- 前記3次元網目構造により形成される孔径が、前記アルミナ粒子の平均1次粒子径よりも大きい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
- JIS K3832:1990に準拠してバブルポイント法により測定される前記多孔フィルムの最大細孔径が0.001〜0.5μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
- 前記多孔フィルムと前記塗工層との厚み比が1:1〜30:1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層多孔フィルム。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層多孔フィルムからなるセパレータ。
- 請求項8に記載のセパレータを有する電気化学素子。
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