生物組織や微生物の培養には、一般に、カンテン培地や不織布培地などが用いられている。しかし、生物組織や微生物の種類などによっては、従来の培地では、効率よく培養することができない場合がある。生物組織や微生物の機能などを評価する際に、生物組織や微生物にストレスが加わり難い状態で行なうことができれば、より正しい評価が可能になると期待される。
[第1実施形態]
(培地)
本発明の第1実施形態に係る培地100は、図1に示すように、基材30と、基材30の一方の主面(上面)に互いに間隔を開けて配置された複数の突起4と、複数の突起4に支持された複数の繊維21からなる繊維集合体20と、を備える。培地100は、基材30の一方の主面と繊維集合体20との間に空隙gを有しており、生物組織または微生物を培養するために使用される。空隙gは、基材30の一方の主面と繊維集合体20との間の少なくとも一部に形成されていればよい。生物組織や微生物を培地100の繊維集合体20上に載置して培養する際に、空隙gが存在すると、生物組織や微生物が繊維21間において基材30に接触することが低減される。そのため、生物組織や微生物と基材30との接触により生物組織や微生物に加わるストレスが低減され、生物組織や微生物の成長や動きが妨げられるのを抑制できる。よって、このような培地を用いることで、生物組織や微生物の成長に適した環境下で培養を行うことができ、培地には、特に、生物組織や微生物を培養するための足場としての利用に適している。なお、図1は、第1実施形態に係る培地を、基材の一方の主面に垂直な断面を模式的に示す概略断面図である。
本明細書中、「生物組織」には、生物組織またはその一部、生物組織や臓器を構成する細胞、iPS細胞やES細胞などの生物組織や臓器などに分化可能な細胞(およびその細胞から培養される組織または臓器、もしくはこれらの一部など)を含むものとする。
複数の突起4の平均高さは、例えば、1〜500μmであり、2〜200μmであることが好ましく、3〜50μmであることがさらに好ましい。複数の突起4のうち隣接する2つの突起4間の平均間隔は、例えば、1〜50mmであり、2〜30mmであることが好ましく、3〜20mmであることがさらに好ましい。突起4の平均高さおよび突起4間の平均間隔がこのような範囲である場合、繊維集合体20と基材30との間に空隙gを確保し易くなり、生物組織や微生物と基材30との接触をさらに低減し易くなる。
複数の突起4の平均高さは、例えば、基材の一方の主面に垂直な方向における培地の断面のTEM写真において、任意に選択した複数(例えば、10個)の突起4について高さを計測し、平均化することにより求めることができる。隣接する突起4間の平均間隔は、例えば、培地から繊維集合体を剥離して、突起4を露出させた状態で、基材30の突起4が配置された側の主面のSEM写真を撮影し、このSEM写真に基づいて求めることができる。具体的には、SEM写真において、任意に選択した複数(例えば、10個)の突起4について、隣接する1つの突起4との間の距離を計測し、平均化することにより求めることができる。隣接する突起4間の距離とは、隣接する2つの突起4において、一方の突起4の他方の突起4側の端部と他方の突起4の一方の突起4側の端部との最短距離であるものとする。
図2は、図1の培地100において、隣接する2つの突起4およびその周辺を拡大した概略拡大断面図である。図2に示すように、培地100を基材30の一方の主面(上面)に垂直な面(図2では断面)において見たとき、2つの突起4の頂点を結ぶ直線をL1とする。そして、2つの隣接する突起4間に架け渡された繊維集合体20の、一方の突起4から延出する部分に沿うように引いた直線をL2とする。このとき、突起4から延出する部分(具体的には直線L2)が、直線L1に対してなす角度(θv)は、5°以下(例えば、0〜5°)であることが好ましく、0.001〜5°または0.001〜2°であることがさらに好ましい。θvがこのような範囲である場合、空隙gの確保がさらに容易になる。
なお、角度θvは、例えば、基材30の一方の主面に垂直な方向における培地100の断面のTEM写真において、任意の選択した突起4の部分において求めることができる。また、任意に選択した複数(例えば、10個)の突起4のそれぞれの部分についてθvを求め、その平均値が上記の範囲となるようにしてもよい。
また、培地100を基材30の一方の主面に垂直な面において見たとき、2つの突起4間に架け渡された繊維集合体20の最下端と上記の主面との間の距離(d)は、複数の繊維の平均繊維径の、例えば、1倍〜200倍であり、1倍〜50倍または1倍〜20倍であることが好ましい。距離d(つまり、繊維21の平均繊維径に対する距離dの比)がこのような範囲である場合、生物組織や微生物の培養に適した大きさの隙間gを確保し易くなる。
複数の突起4は、ゴム弾性を有することが好ましい。この場合、繊維集合体20に力が加わった場合でも、突起4が伸縮して繊維21を撓ませ易くなり、繊維21の断線を抑制し易くなる。
好ましい実施形態において、複数の突起4は、固化した接着剤で形成されている。この場合、繊維集合体20は、突起4と接触する部分では突起4に接着により固定されており、突起4と接触していない部分では、繊維21の動きの自由度を確保し難い。そのため、培地100の強度を確保しながらも、生物組織や微生物の成長を妨げることが少ない。
生物組織の中でも心筋細胞は、成長に方向性があり、培地によりストレスが加わり易い。本実施形態に係る培地100は、心筋細胞と基材30との接触を低減することができるため、心筋細胞と培地100との高い親和性を確保し易い。よって、本実施形態に係る培地100は、特に心筋細胞を培養するのに適している。
以下に、本実施形態に係る培地についてより具体的に説明する。
(繊維集合体20)
繊維集合体20を構成する繊維21の材料は、繊維集合体20を生物組織や微生物の培地100に用いることができる限り特に限定されない。なかでも、生物組織や微生物に対する親和性が高く、培養する際、生物組織や微生物にストレスを与え難い点で、繊維21の材料は、ポリスチレンブロックおよびポリジエンブロックを含むブロックポリマーと、当該ブロックポリマーとは異なるスチレン樹脂と、を含むことが好ましい。
ブロックポリマーは、例えば、ポリジエンブロックとポリスチレン(PS)ブロックとが連結したジブロック体であってもよいが、ポリジエンブロックとPSブロックとが交互に連結したトリブロック体以上のポリブロック体が好ましい。ブロックポリマーは、スチレン樹脂との親和性を確保する観点から、少なくとも末端にPSブロックを含むことが好ましい。ポリジエンブロックは、得られる繊維21の柔軟性や伸度を高める。
なお、本明細書中、ポリジエンブロックとは、ジエンユニットが繰り返し連結したポリマーブロックを言う。ジエンユニットとしては、ブタジエン、イソプレン、およびクロロプレンなどからなる群より選択される少なくとも一種のジエンのユニットが挙げられる。ポリジエンブロックは、ポリブタジエン(PB)ブロック、ポリイソプレンブロック、ポリクロロプレンブロックなどの単独重合ブロックであってもよく、ポリ(ブタジエン−イソプレン)ブロックなどの共重合ブロックであってもよい。高い柔軟性や伸度を繊維に付与し易い観点から、PBブロックが好ましい。
ブロックポリマー中のポリジエンブロックの含有量は、例えば、10〜30質量%であり、15〜30質量%であることが好ましく、20〜30質量%または20〜25質量%であることがさらに好ましい。ポリジエンブロックの含有量がこのような範囲である場合、スチレン樹脂との親和性が高くなって、均質な繊維21が生成され易くなる。また、得られる繊維21は高い柔軟性および伸度を備える。さらに、繊維21を後述する電界紡糸法により生成させる場合、高い曳糸性が確保される。
スチレン樹脂としては、上記のブロックポリマーとは異なるポリマーが使用される。スチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン(スチレンホモポリマー)、スチレンと他の共重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせてもよい。
繊維の柔軟性と繊維の形成し易さとを両立させる観点から、ブロックポリマーとスチレン樹脂との質量比(=ブロックポリマー:スチレン樹脂)は、例えば、2:1〜1:5であり、好ましくは1:1〜1:4である。特に、溶液を用いる電界紡糸法により繊維集合体20を形成する場合には、質量比がこのような範囲であると、ブロックポリマーおよびスチレン樹脂を溶媒に溶解し易く、高い紡糸性を確保することもできる。
繊維21は、上記ブロックポリマーおよびスチレン樹脂、さらには、必要に応じて添加剤を含む。繊維21の平均繊維径は、例えば、0.5μm〜10μm、好ましくは、1μm〜5μm、さらには、1.5μm〜4μmであってもよい。例えば、電界紡糸法により繊維21が生成される場合、繊維21の平均繊維径は、3μm以下であることが好ましく、100nm〜3μmまたは0.5〜3μmであってもよい。後述する溶融紡糸法や溶液紡糸法により繊維21が生成される場合、繊維21の平均繊維径は、3μm以上であることが好ましく、3〜5μmであることがさらに好ましい。
なお、平均繊維径とは、繊維21の直径の平均値である。繊維21の直径とは、繊維21の長さ方向に対して垂直な断面の直径である。そのような断面が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、繊維集合体20の1つの主面の法線方向から見たときの、繊維21の長さ方向に対して垂直な方向の幅を、繊維の直径と見なしてもよい。平均繊維径は、例えば、繊維集合体20に含まれる任意の10本の繊維の任意の箇所の直径の平均値である。
繊維集合体20の単位面積に占める繊維21の面積の割合は10〜90%から選択できる。例えば、心筋細胞の培養や電位測定装置に利用する場合には、繊維集合体20はごく薄く、単位面積当たりに占める繊維21の割合は20〜50%であり、30〜40%であることが好ましい。また、繊維21はできるだけ均一に分散して堆積していることが好ましい。なお、繊維21の面積の割合は、繊維集合体20の一方の主面(例えば、上面)において、繊維集合体20における所定の面積(例えば、短軸3mm×長軸6mmの楕円形)の領域において、光沢度計により光沢度を測定し、繊維21と繊維21以外の領域との光沢度の違いに基づき、繊維21が占める面積を算出し、単位面積当たりの面積比率(%)に換算することにより求めることができる。
(基材30)
基材30は特に限定されず、従来の培地(足場も含む)に利用されるものを用いることができる。基材30としては、培養する生物組織や微生物の種類などに応じて、樹脂フィルム、カンテン層、ゼラチン層、不織布などの多孔質基材、あるいは、これらの組み合わせが挙げられる。
不織布に含まれる繊維の材質は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、セルロース、セルロース誘導体(エーテル、エステルなど)、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが例示される。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。不織布に含まれる繊維は、これらの材質を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
(突起4)
突起4の種類は特に制限されず、繊維集合体20を支持できればよい。突起4は少なくとも基材30に固定されていることが好ましい。突起4の材質は特に制限されず、例えば、樹脂や接着剤などであってもよい。なかでも、突起4は、繊維集合体20と基材30とを固定するように、接着剤で構成することが好ましい。接着剤の種類は特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂、ホットメルト樹脂または硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等)等が挙げられる。培地100において、突起4は、これらの接着剤が固化されたものであり、例えば、接着剤として硬化性樹脂を用いる場合には、突起4は、硬化性樹脂の硬化物である。
シリコーン樹脂は、感圧接着剤とも言われており、その粘着性により、繊維集合体20と基材30とを接着する。シリコーン樹脂としては、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン等が挙げられる。ホットメルト樹脂は、加熱されながら繊維集合体20に塗布され、冷却されることによって、繊維集合体20と基材30とを接着する。ホットメルト樹脂の材質は特に限定されず、例えば、ポリウレタン(PU)、PET等のポリエステル、ウレタン変性共重合ポリエステル等の共重合ポリエステル、PA、ポリオレフィン(例えば、PP、PE)等の熱可塑性樹脂を主成分(50質量%以上を占める成分)として含む。
硬化性樹脂は、熱や光(紫外線など)の作用により重合して硬化することにより、繊維集合体20と基材30とを接着する。硬化性樹脂の種類は特に限定されず、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
(培地の製造方法)
基材30に対して繊維21を堆積させて繊維集合体20を形成すると、繊維21が基材30の主面に沿って堆積されるため、空隙gを確保し難い。そのため、上記の培地100は、繊維集合体20の基材30への転写を利用する製造方法により製造される。
以下、本実施形態に係る製造方法について、適宜図面を参照しながら、より詳細に説明する。図3(a)〜(c)は、本実施形態の各工程における巻取回転体10および基材30等を模式的に示す側面図である。培地100は、例えば、繊維21を巻取回転体10の周面に堆積させて、繊維集合体20を形成する堆積工程と、繊維集合体20を基材30に転写する転写工程と、突起4を形成する工程と、を具備する製造方法により製造できる。
より具体的には、上記の培地100は、まず、繊維21の原料液をノズルから吐出して、繊維21を生成させるとともに、繊維21を、巻取回転体10の周面を周回するように堆積させて、繊維集合体20を形成する(堆積工程)。そして、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材30に転写する(転写工程)。突起4は、繊維集合体20および基材30の少なくとも一方に形成される(突起形成工程)。
上記の製造方法は、繊維21の原料液をノズルから吐出して、繊維21を生成させるとともに、繊維21を、巻取回転体10の周面を周回するように堆積させて、繊維集合体20を形成する堆積部と、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材に転写する転写部と、繊維集合体20および基材30の少なくとも一方に突起4を形成する突起形成部と、を備える装置により製造される。
(1)堆積工程(図3(a))
本工程では、原料液22から繊維21を生成させるとともに、繊維21を巻取回転体10の周面を1周以上、周回させながら堆積させる。これにより、巻取回転体10の周面には、繊維集合体20が形成される。
原料液22から繊維21を生成する方法(紡糸法)は特に限定されず、生成させる繊維21の種類等に応じて適宜選択すればよい。紡糸法としては、例えば、溶液紡糸法、溶融紡糸法および電界紡糸法等が挙げられる。溶液紡糸法や溶融紡糸法では、繊維21を配列させ易くなり、繊維集合体20の厚みを小さくすることができる。よって、空隙gを確保し易くなる。
溶液紡糸法は、繊維21の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を、原料液22として用いる方法である。溶媒を用いる溶液紡糸法には、いわゆる湿式紡糸法および乾式紡糸法がある。湿式紡糸法では、原料液22を凝固液中に吐出して、繊維21の原料と凝固液との化学反応により、あるいは、溶媒と凝固液との置換により、繊維が形成される。乾式紡糸法では、原料液22を空気中に吐出した後、加熱等により溶媒を除去することにより、繊維が形成される。なかでも、繊維21を一方向に配列させた状態で堆積させ易い点で、乾式紡糸法が好ましい。
溶融紡糸法は、繊維21の原料を加熱して溶融させた溶融液を、原料液22として用いる方法である。得られた原料液22は、空気中に吐出された後、冷却されることにより、繊維状に固化する。この場合、通常、繊維21の原料を溶解するための溶媒は使用しない。よって、溶融紡糸法は、溶媒の除去作業が省略できる点で好ましい。
溶液紡糸法および溶融紡糸法では、原料液22の吐出開始前に、ノズル51の吐出口を、巻取回転体10の周面あるいはその他の部材(以下、吐出端保持部材。図示せず)に当接させた後、この状態で原料液22の吐出を開始する。これにより、原料液22の吐出端は、巻取回転体10の周面あるいは吐出端保持部材によって確保され、そのまま保持される。巻取回転体10の周面に吐出端を保持させた場合には、そのまま原料液22の吐出を継続しながら、巻取回転体10を回転させることにより、繊維21は、巻取回転体10の周面を周回しながら堆積していく。吐出端保持部材に吐出端を保持させた場合には、そのまま原料液22の吐出を継続しながら、ノズル51の吐出口を吐出端保持部材の近傍から回転する巻取回転体10の近傍にまで移動させることにより、生成した繊維21は巻取回転体10に堆積していく。このとき、巻取回転体10あるいはノズル51を、例えば回転軸A方向に移動させながら原料液22を吐出することにより、巻取回転体10の周面の少なくとも一部を覆い、巻取回転体10の周面を周回する方向(以下、配列方向D21)に配列する繊維21を備える繊維集合体20が形成される。
電界紡糸法は、繊維21の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を原料液22として用いる点で、溶液紡糸法と共通する。しかし、電界紡糸法では、原料液22に高電圧を印加しながら空気中に吐出する。原料液22に含まれる溶媒は、巻取回転体10の周面に到達するまでの過程において揮発する。
電界紡糸法では、原料液22に高電圧を印加するため、原料液22をプラスあるいはマイナスに帯電させる。このとき、巻取回転体10をグランドさせるか、あるいは、原料液22とは逆の極性に帯電させることにより、空気中に吐出された原料液22の吐出端は巻取回転体10に引き寄せられて、その周面に付着する。そして、原料液22を吐出しながら巻取回転体10を回転させることにより、溶液紡糸法および溶融紡糸法と同様に、繊維21は、巻取回転体10の周面を周回しながら堆積し、巻取回転体10の周面の少なくとも一部を覆い、配列方向D21に配列する繊維21を備える繊維集合体20が形成される。
(原料液)
溶液紡糸法や電界紡糸法で利用する原料液22は、繊維21の原料と溶媒とを含む。溶融紡糸法で利用する原料液22は、溶融した繊維21の原料を含む。繊維21の原料としては、前述の繊維21の材料が使用される。
溶媒としては、繊維21の原料を溶解し、揮発などにより除去可能なものであれば特に制限されず、原料の種類や製造条件に応じて、水および有機溶媒から適宜選択して使用できる。溶媒としては、非プロトン性の極性有機溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド(鎖状または環状アミドなど);ジメチルスルホキシドなどのスルホキシドなどが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
原料液22の固形分濃度は、溶媒の種類などに応じて調節できるが、例えば、5〜50質量%であり、10〜30質量%であってもよい。原料液22は、必要に応じてさらに添加剤を含んでもよい。
(巻取回転体)
巻取回転体10(回転基体11)の構成は、回転可能である限り特に限定されず、ドラム状であってもよいし、複数のロールで張架されたベルトであってもよい。後者の場合、少なくとも1本のロールを回転駆動させて、ベルトを回転させる。巻取回転体10の材質としては、例えば、金属材料、各種樹脂、各種ゴム、セラミックスおよびこれらの組み合わせが挙げられる。巻取回転体10がベルトである場合、ベルトは、金属ベルトであってもよいし、樹脂ベルトであってもよい。電界紡糸法により繊維21が紡糸される場合、樹脂ベルトは導電性を備えることが好ましく、さらには、樹脂ベルトのノズル51に対向する部分の裏側に、導電性の部材(例えば金属部材)を配置することが好ましい。巻取回転体10の外形は、例えば、円柱または角柱であってもよい。
巻取回転体10には、例えば、図4(a)および(b)に示すように、巻取回転体10の周面に、巻取回転体10の回転軸Aに沿う方向に延伸する複数の帯状の凸部10Pを配置してもよい。これにより、巻取回転体10の周面を周回するように配列した繊維21の集合体(繊維集合体20)は、巻取回転体10から剥離され易くなる。この場合、繊維21の配列を維持したまま、繊維集合体20を基材に容易に転写することができる。図4(a)は、巻取回転体10の一例を示す斜視図であり、図4(b)は、巻取回転体10の一例を示す平面図である。図4では、巻取回転体10の周面に堆積する繊維集合体20の一部も併せて示している。
凸部10Pは、帯状であって、巻取回転体10の周面において、巻取回転体10の回転軸Aに沿う方向(以下、延伸方向DP)に延伸している。延伸方向DPは、回転軸Aに平行である場合に限られず、延伸方向DPと回転軸Aとのなす角度θP(ただし、θP≦90°)は、例えば、0°以上、30°以下である。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、角度θPは0°以上、20°以下であることが好ましい。
また、延伸方向DPは、繊維21の配列方向D21と交差する方向である。延伸方向DPと配列方向D21とのなす角度θ(ただし、θ≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下である。なお、延伸方向DPは、凸部10Pを巻取回転体10の周面の法線方向から見たとき、凸部10Pの長手方向の中心線LCPが延伸する方向である。中心線LCPが曲線を含む場合、延伸方向DPは、中心線LCPを囲む最小の矩形の中心線が延伸する方向である。後述するリブ10Rの延伸方向DRも同様にして求められる。
凸部10Pの形状は、帯状である限り特に限定されない。帯状とは、凸部10Pの延伸方向DPの長さが、延伸方向DPに垂直な方向の長さよりも長い形状である。凸部10Pを巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの形状としては、例えば、矩形、台形等が挙げられる。
凸部10Pの数は特に限定されず、2本以上であればよい。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、巻取回転体10の周面に3本以上配置されることが好ましく、10本以上配置されることが好ましい。また、同様の観点から、凸部10Pは等間隔に配置されることが好ましい。なお、後述するように、繊維集合体20の基材30(図3(c)参照)への転写工程に先立って、繊維集合体20が巻取回転体10に捲回された状態で切断される場合、切断後の繊維集合体20の少なくとも一部が凸部10Pに接触した状態になるよう、繊維集合体20は凸部10P同士の間で切断される。これにより、繊維21の配列が維持され易くなる。この場合、切断予定箇所C(図5参照)の凸部10P同士の間隔を、他の部分の凸部10P同士の間隔よりも小さくすることが好ましい。
凸部10Pの短手方向の長さ(幅)は特に限定されない。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、すべての凸部10Pの巻取回転体10の周面に当接する総面積が、巻取回転体10の周面の表面積の10%以上、80%以下、特に30%以上、70%以下になるように、各凸部10Pの幅を決定することが好ましい。凸部10Pの延伸方向DPの長さも特に限定されない。なかでも、巻取回転体10の周面のうち、少なくとも繊維21が堆積し得る領域にわたって、凸部10Pが延伸していることが好ましい。
凸部10Pの高さは特に限定されない。繊維21の弛みを抑制し、一方向への配列を維持し易い点で、凸部10Pの高さは過度に高くないことが好ましい。繊維集合体20の剥離性および繊維21の弛み抑制の観点から、凸部10Pの高さは100〜5000μmであることが好ましい。凸部10Pの高さは、巻取回転体10の周面の法線方向における平均値である。
凸部10Pの材質は特に限定されず、各種樹脂材料が挙げられる。なかでも、凸部10Pは、少なくとも繊維21との接触部にシリコーンゴム層を備えることが好ましい。繊維集合体20の剥離性がさらに向上するためである。一方で、シリコーンゴムは適度な粘着性を備えるため、転写工程の前に繊維集合体20が巻取回転体10の周面から剥離することが抑制される。
シリコーンゴムとは、主鎖がケイ素−酸素結合(シロキサン結合)により形成される、非熱可塑性の化合物である。シリコーンゴムとしては、例えば、メチルシリコーンゴム、ビニル−メチルシリコーンゴム、フェニル−メチルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられる。もちろん、凸部10Pの全体がシリコーンゴムにより形成されていてもよい。なお、後述するように、繊維21が電界紡糸法により生成される場合、凸部10Pは導電性を備えることが好ましい。
取扱い性の観点から、凸部10Pは、巻取回転体10に着脱可能な状態で配置されることが好ましい。例えば、図5に示すように、支持シート121と、支持シート121の表面に帯状に配置されたシリコーンゴム122とを備える凹凸シート12を準備し、この凹凸シート12を回転基体11の周囲に捲回してもよい。このとき、シリコーンゴム122が凸部10Pに対応する。この構成により、凸部10Pの配設が容易となるとともに、凸部10Pが劣化した場合の交換も容易となる。
支持シート121の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド等が挙げられる。繊維21が電界紡糸法により生成される場合、支持シート121もまた導電性を備えることが好ましい。支持シート121の厚みも特に限定されず、支持シート121の材質等に応じて適宜設定すればよい。シリコーンゴム122としては、上記した化合物が例示できる。
また、基材への転写工程の際に、繊維21の配列が維持され易い点で、巻取回転体10の周面に、図6に示すように、回転軸Aと交差する方向に延伸するリブ10Rを配置することが好ましい。
転写工程は、巻取回転体10を回転させながら行われる。巻取回転体10の周面あるいは凸部10Pの表面に形成された繊維集合体20が、順次、基材30に当接することにより、繊維集合体20は基材30に転写される。繊維集合体20は、図7(a)に示すように、複数の凸部10Pの近傍では、巻取回転体10の周面から浮き上がった状態で形成されている。転写の際、凸部10Pは、図7(b)に示すように、基材30に当接して変形する。そのため、凸部10Pの近傍の浮き上がった繊維集合体20に弛みが生じ易く、転写によって繊維21の配列が乱れる場合がある。
リブ10Rは、例えば図6に示すように、回転軸Aと交差する方向に延伸している。図6では、リブ10Rは、巻取回転体10の周面を回転方向に沿って周回するとともに、複数の凸部10Pの端部を連結するように、巻取回転体10の端部近傍に配置されている。リブ10Rの延伸方向DRと回転軸Aとのなす角度(ただし、≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下である。
リブ10Rは、図6で示される形状に限定されない。例えば、巻取回転体10を回転軸A方向から見たとき、リブ10Rは、凸部10P同士の間を埋めるように、断続的に配置されていてもよい。リブ10Rの数は特に限定されないが、転写の安定性の観点から、2以上であることが好ましい。リブ10Rの材質は特に限定されず、凸部10Pと同じであってもよい。
(2−1)突起形成工程(図3(b))
本工程では、後述する転写工程の前に、繊維集合体20および基材30の少なくとも一方に、突起4を形成する。突起4を接着剤で形成すると、繊維集合体20と基材30との接着性が高まり、剥離が抑制されるため好ましい。
図3に示すように、繊維集合体20に接着剤4aを付与する場合、突起形成工程(図3(b))は、堆積工程(図3(a))の後、転写工程(図3(c))の前に行われる。接着剤として、硬化性樹脂を用いる場合、転写工程の前に熱や光を硬化性樹脂に作用させて、半硬化状態にしておくことが好ましい。この場合、転写工程において繊維集合体20と基材30とが当接した後、さらに熱や光を作用させて、硬化性樹脂を完全に硬化させる。転写工程における光の照射は、例えば基材30側から行う。
接着剤4aとしては、硬化させるための特別なステップが省略できる点で、ホットメルト樹脂およびシリコーン樹脂が好ましく、さらに、接着剤を溶融させるための加熱装置が不要である点で、シリコーン樹脂が好ましい。また、硬化が速やかに進行する点で、光硬化性樹脂を用いてもよい。接着剤4aは、例えばディスペンサー55により付与される。
接着剤4aは、繊維集合体20の凸部10Pに対応する領域に付与されることが好ましい。この場合、繊維集合体20および基材30は、接着剤4aを介在させた状態で、凸部10PとXZステージ52に支持された架台53とで押圧される。よって、繊維集合体20と基材30との接着性が向上する。XZステージ52は、架台53、ひいては架台53に載置される基材30を、回転軸Aに垂直な方向(X軸方向)および上下方向(Z軸方向)に搬送することができる。
シリコーン樹脂等の感圧接着剤は、フィルム状に成形された後、繊維集合体20あるいは基材30に付与されてもよい。図8に、フィルム状の感圧接着剤4bを基材30に付与する場合の接着剤付与工程を示す。この場合、フィルム状の感圧接着剤4bを基材30に付与するタイミングは、転写工程の前であれば特に限定されない。例えば、架台53に載置される前に、基材30にフィルム状の感圧接着剤4bを付与してもよい。図8(a)は、図3(a)に対応している。
接着剤(4aまたは4b)の付与量は、特に限定されない。なかでも、繊維集合体20と基材30との接着性を確保しながら生物組織や微生物の培養を阻害しないようにする観点から、0.5〜100mg/cm2であることが好ましい。
(2−2)加熱工程(図9A、図9B)
転写工程の前に、接着剤付与工程に加えて、繊維集合体20および基材30の少なくとも一方を加熱する加熱工程を備えていてもよい。転写工程の前に繊維集合体20を加熱することにより、繊維集合体20が軟化した状態で基材30に転写される。これにより、繊維集合体20と基材30との密着性が向上する。また、転写工程の前に基材30を加熱することにより、転写された繊維集合体20が加熱され軟化する。これにより、繊維集合体20と基材30との密着性が向上する。なかでも、基材30を加熱する方法は、繊維21の劣化が抑制できる点で好ましい。
繊維集合体20を加熱する場合、例えば、図9Aに示すように、基材30の近傍に加熱装置54Aを配置して、転写される直前の繊維集合体20を加熱することが好ましい。このとき、繊維集合体20は、例えば、回転軸Aに沿ったライン状に加熱される。繊維21の配列が維持できる点で、加熱装置54Aは非接触式であることが好ましい。非接触式の加熱装置54Aとしては特に限定されず、ハロゲンランプ等、公知のものを適宜選択すればよい。加熱温度は、繊維21の軟化点あるいは融点等を考慮して、適宜設定すればよい。加熱温度は、例えば、繊維21の表面が80〜140℃になるように調整する。
基材30を加熱する場合、例えば図9Bに示すように、基材30が載置される架台53とXZステージ52との間に加熱装置54Bを配置する。この場合、加熱装置54Bとしては、基材30全体を加熱することのできるパネルヒータ等を用いることが好ましい。基材30の温度ムラが抑制されるためである。この場合の加熱温度も、繊維21の軟化点あるいは融点等を考慮して、適宜設定すればよい。加熱温度は、例えば、基材30の表面が80〜140℃になるように調整する。
(2−3)プラズマ処理工程(図10)
転写工程の前に、加熱工程に替えて、あるいは、突起形成工程(および加熱工程)に加えて、繊維集合体20にプラズマ照射するプラズマ処理工程を備えていてもよい。繊維集合体20の少なくとも基材30に当接する主面にプラズマを照射することにより、繊維集合体20と基材30との密着性が向上する。なお、繊維集合体20を基材30に転写した後、繊維集合体20の基材30とは反対側の主面に、さらにプラズマ照射してもよい。培地100で培養される生物組織や微生物の電位を測定するために、繊維集合体20と電極(例えば、白金電極)とを接続する場合、プラズマ照射によって電極と繊維集合体20との密着性も向上する。
繊維集合体20にプラズマ照射する場合、例えば図10に示すように、巻取回転体10の周面に対峙するようにプラズマ照射装置56を配置する。プラズマ照射装置56としては特に限定されないが、真空チャンバを用いることなく処理できる点で、大気圧下でプラズマ照射可能な装置であることが好ましい。プラズマ照射等の条件も特に限定されず、繊維集合体20が損傷しないよう適宜設定すればよい。
(3)切断工程(図3(b))
転写工程に先立って、繊維集合体20は、巻取回転体10に捲回された状態で切断予定箇所Cにおいて切断される。切断予定箇所Cは、例えば、基材30の形状に沿って設定される。繊維集合体20は、例えば、回転軸Aに沿う方向に切断される。この切断部をきっかけにして、繊維集合体20は基材30に転写される。切断装置57としては特に限定されず、例えば、長尺カッター等が挙げられる。
基材30の回転軸Aに垂直な方向(X軸方向)の長さLが、巻取回転体10の円周よりも短い場合、図11(a)に示すように、繊維集合体20は、切断予定箇所C(C1、C2)に加えて、分離予定箇所Ca(Ca1、Ca2)およびCb(Cb1、Cb2)でさらに長さLに対応する長さに切断されてもよい。このときも、繊維集合体20は、例えば、基材30の形状に沿って切断される。なお、図11では、2箇所の分離予定箇所(CaおよびCb)が設定されており、巻取回転体10の周面には、3つの基材30に転写される3つの繊維集合体20が形成されている。
切断予定箇所C1とC2との間、分離予定箇所Ca1とCa2との間、および、分離予定箇所Cb1とCb2との間に位置する繊維集合体20は、基材30に転写されない不要な切断片である。このように、切断工程により不要な切断片が生じる場合、切断工程の後、転写工程の前に、切断片を除去するクリーニング工程を備えることが好ましい。工程が簡略化されて生産性が向上するとともに、得られる培地の品質が高まる。
クリーニングは、粘着層を備える粘着部材58(図11(b)参照)により行われる。粘着部材58としては、例えば、粘着テープや図11(b)に示す粘着ロール等が挙げられる。粘着ロールは、周面に粘着層(図示せず)を備え、例えば、巻取回転体10とは反対向きに回転可能である。粘着部材は、巻取回転体10に対して接近および後退が可能である。巻取回転体10の回転によって不要な切断片が粘着部材に対向するタイミングに合わせて、粘着部材を巻取回転体10に接近させる。これにより、不要な切断片は粘着部材の粘着層に粘着されて、巻取回転体10の周面から除去される。粘着層の材質は特に限定されず、例えば、アクリル粘着剤等が挙げられる。
(4)転写工程(図3(c))
本工程では、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材30に転写する。これにより、繊維集合体20および基材30を備える培地100が得られる。
基材30は、XZステージ52に支持された架台53に載置されて、搬送される。このとき、基材30は、巻取回転体10の周面の移動速度(周速)よりも相対的に速い速度で、X軸方向に搬送されることが好ましい。これにより、弛みがさらに抑制された状態で、繊維集合体20は基材30に転写される。
一方、転写工程では、基材30を、巻取回転体10の回転により搬送させてもよい。すなわち、図12に示すように、基材30を所定の位置にまで搬送した後、架台53を上昇させて基材30を巻取回転体10に押し付ける。次いで、巻取回転体10を回転させて、凸部10Pと基材30との間に生じる摩擦力により基材30を搬送させてもよい。これにより、基材30の相対的な搬送速度が巻取回転体10の周速と同じになり、繊維集合体20の弛みが抑制される。また、基板3の位置合わせが容易となるため、繊維集合体20の転写ずれが抑制される。繊維集合体20が転写された後、速やかに架台53を降下して、基材30を巻取回転体10から離間させる。
[第2実施形態]
(培地)
本発明の第2実施形態に係る培地は、基材と、基材の一方の主面(上面)に配置された複数の繊維からなる繊維集合体と、を備えており、複数の繊維が一方向に沿って配列している。図13は、第2実施形態に係る培地の繊維集合体20において、複数の繊維21が一方向に沿って配列している状態を説明するための培地の一部を示す概略上面図である。
繊維21が交差する場合には、この交差部分が生物組織や微生物の成長の妨げになることがあるが、第2実施形態によれば、成長の妨げになる繊維21の交差部分を低減できる。よって、生物組織や微生物と繊維21の交差部分との接触により生物組織や微生物に加わるストレスが低減され、生物組織や微生物の成長や動きが妨げられるのを抑制でき、繊維21の配列方向に沿って生物組織や微生物が成長し易くなる。よって、繊維集合体は、生物組織や微生物の培養用途(特に、培地(足場))に適している。
生物組織の中でも心筋細胞は、成長に方向性があり、また培地によるストレスに弱い。そのため、第2実施形態に係る培地は、特に、心筋細胞との高い親和性を得ることができ、心筋細胞を培養するのに特に適している。
複数の繊維21が一方向に配列しているとは、繊維集合体20において、繊維21同士が交わる平均的な角度が、0°以上60°以下(好ましくは0°以上30°以下)であることをいう。なお、繊維同士が交わる平均的な角度が0°である場合とは、繊維21同士が交差していない場合を意味する。
ここで、繊維21同士が交わる平均的な角度は、繊維21の平均的な長さ方向の交わりから決定できる。繊維21の平均的な長さ方向は、例えば、繊維集合体20を上から見たときのSEM写真に基づいて決定することができる。図13では、培地を繊維集合体20側(つまり、法線方向)から撮影したSEM写真における繊維集合体20の状態を模している。複数の繊維21で構成される繊維集合体20を法線方向から見たとき、まず、所定のサイズ(例えば、100μm×100μm)の正方形の領域Rを設定する。このとき、領域Rは、領域R内に12本以上の繊維21が入り、かつ領域R内に位置する繊維21の50%以上が領域Rの対向する2辺と交差するように決定する。この領域Rにおいて、ある繊維21が、上記の対向する2辺と交差する2点間を結んだ直線(図13では点線)の方向を、その繊維21の平均的な長さ方向とする。
繊維同士が交わる平均的な角度は、例えば、上記領域Rにおいて、任意に選択した複数(例えば、20本)の繊維から、さらに任意に2本の繊維を選択し、各繊維の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図13のθ1)を求める。別の2本の繊維を選択し、各繊維の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図13のθ2)を求める。このような作業を、選択した残りの繊維(例えば、16本)について行う。そして、それぞれの角度の平均を算出し、繊維同士が交わる平均的な角度とする。
第2実施形態においても、第1実施形態の場合と同様に、図1に示されるように、培地100は、基材30の一方の主面(上面)に、互いに間隔を開けて配置された複数の突起4をさらに有し、繊維集合体20が、複数の突起4に支持されていることが好ましい。このような突起4により、第1実施形態の場合と同様に、繊維集合体20と基材30との間に空隙gが形成されることになる。そのため、生物組織や微生物と基材30との接触を低減できる。このことと繊維21の配列とにより、生物組織や微生物の成長や動きが妨げられるのをさらに効果的に抑制できる。
図14は、図1の培地100の一部を拡大した概略拡大断面図である。第2実施形態では、図14に示すように、培地100を基材30の一方の主面に垂直な面(図示例では断面)において見たとき、繊維集合体20が占める領域の厚み(t)は、複数の繊維の平均繊維径の1倍〜100倍であることが好ましく、1倍〜10倍または1倍〜2倍であることがさらに好ましい。厚みt(つまり、厚みtの平均繊維径に対する比)がこのような範囲である場合、基材の主面方向だけでなく、垂直方向にも良好な配列ができており、細胞を効率よく培養することができる。
なお、繊維集合体20が占める領域とは、図14に示されるように、培地100を基材30の一方の主面に垂直な面で見たときに、繊維集合体20の上端を通り上記の主面に平行な直線と下端を通り上記の主面に平行な直線との間の領域である。厚みtは、繊維集合体20全体について求めてもよいが、図14に示されるように、培地100を基材30の一方の主面に垂直な面において見た時に一部の領域において求めてもよい。厚みtは、培地100の断面のTEM写真において計測することができる。TEM写真において、任意の複数(例えば、10箇所)の領域について厚みtを求め、平均値を算出し、この平均値が上記の範囲となるようにしてもよい。
第2実施形態に係る培地は、突起4が必須の構成要素でなく、繊維21が配列している点で、第1実施形態とは異なるが、それ以外については第1実施形態の培地およびその製造方法についての説明を参照できる。
第2実施形態では、図4において、繊維21は、配列方向D21に配列しながら、巻取回転体10の周面に堆積される。配列方向D21は、例えば、巻取回転体10の回転方向(すなわち、巻取回転体10の回転軸Aに垂直な方向)に沿う方向である。配列方向D21と回転軸Aとのなす角度θ21(ただし、θ21≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下でもよい。なお、配列方向D21は、繊維21を巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの、繊維21の長手方向である(図4(b)参照)。繊維21の長手方向は、巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの繊維21の近似直線をとって、求めてもよい。角度θ21は、複数の繊維21の配列方向D21と回転軸Aとのなす角度の平均値である。巻取回転体10に堆積する複数の繊維21の配列方向は、同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
図7に示されるように、リブ10Rが配置される場合、基材30は、巻取回転体10の周面ではなく、リブ10Rに当接する。よって、凸部10Pの変形の程度が小さくなる。そのため、転写の際に生じる繊維集合体20の弛みが抑制されて、繊維21の配列性が維持される。リブ10Rの高さは、転写工程における凸部10Pの変形を抑制する観点から、凸部10Pの高さ以上であることが好ましい。
[第3実施形態]
第1実施形態に係る培地および/または第2実施形態に係る培地は、生物組織や微生物を保持した状態でこれらの電位を測定するための電位測定装置に利用するのに適している。上記の培地を用いると、生物組織や微生物にストレスが加わり難い状態での電位を測定することができ、電位に基づいて生物組織や微生物の機能を評価することができる。本発明の第3実施形態は、第1実施形態に係る培地および/または第2実施形態に係る培地を含む生物組織または微生物の電位測定装置に関する。
図15は、本発明の一実施形態に係る生物組織または微生物の電位測定装置を模式的に示す斜視図である。図16は、図15の電位測定装置の概略上面図である。電位測定装置200は、絶縁性基板201と、絶縁性基板201上に配置された複数の電極(第1電極)202と、第1電極202上に配された培地100と、を備えている。複数の第1電極202は、互いに絶縁されている。このような装置200では、複数の第1電極202の少なくとも一部を、培地100に保持された生物組織または微生物210と電気的に接続させることで、第1電極202により生物組織または微生物210の電位を測定することができる。なお、図16では、図15の電位測定装置200の培地100上に生物組織または微生物210を載せた状態を示しており、第1電極202を備える絶縁性基板201を省略している。
図示例では、電位測定装置200は、さらに第1電極202と電気的に接続する複数のマイクロ電極(第2電極)203を備えている。複数の第2電極203は、行列方式にて所定の間隔で形成されており、複数の第2電極203は互いに絶縁されている。複数の第2電極203は、第2電極203と第1電極202および/または絶縁性基板201との間に培地100を挟むように形成されている。そして、生物組織または微生物210は、複数の第2電極203の少なくとも一部に接触するように配されている。複数の第2電極203、および培地100により保持された生物組織または微生物210を取り囲むように、絶縁性のリング204が配されている。第2電極203を形成すると、第2電極203を生物組織または微生物210と接触させ易くなるため、生物組織または微生物210の電位の測定が容易になる。
図示例では、培地100は、第2実施形態に係るものであり、培地100に含まれる繊維集合体を構成する繊維21は、繊維21が一方向に沿った状態で配列している。そのため、繊維21の長さ方向には生物組織や微生物210が繊維21の長さ方向に沿って成長する際に、生物組織や微生物210にストレスが加わり難くなる。しかし、この場合に限らず、第1実施形態に係る培地を用いる場合でも、生物組織や微生物210に加わるストレスを小さくできる。よって、生物組織や微生物に対してストレスが少ない状態で、生物組織や微生物の電位測定(および機能評価)が可能となる。
電位測定装置200は、必要に応じてホルダーなどに収容してもよい。
絶縁性基板としては、特に制限されず、用途に応じて選択でき、例えば、ガラス基板、石英基板、アクリル板などが例示される。
第1電極としては、特に制限されず、用途に応じて選択でき、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)電極や白金電極などが例示される。
第2電極としては、生物組織や微生物の電位を測定可能であればよく、用途に応じて適宜選択できる。第2電極のサイズ、隣接する第2電極間の距離、第2電極の個数は、生物組織や微生物の種類やサンプルのサイズなどに応じて適宜選択できる。第2電極の一辺の長さ(円盤状の場合には直径)は、例えば、10〜100μmであり、15〜60μmであってもよい。隣接する第2電極間距離(第2電極の中心間距離)は、例えば、50〜1000μmであり、50〜500μmであってもよい。
絶縁性のリングは、特に制限されず、ガラス製や樹脂製(エラストマー製も含む)のものが使用される。ガラス製やシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサンなど)製のリングが用いられる場合が多い。なお、絶縁性リングの内側の領域は、仕切り板などにより仕切られていてもよい。
培地が突起を有する場合には、第2電極や絶縁性リングの外側となる領域に突起を形成すると、電位測定の妨げになり難い。
第2電極を設ける場合には、繊維集合体を絶縁性基板上に配した後、第2電極と第1電極および/または絶縁性基板との間に培地を挟むように第2電極を形成する。このとき、第2電極を、第1電極と電気的に接続させる。第1電極の表面は、各第2電極と接続させる領域で露出していればよく、残りの領域は絶縁製の膜で覆ってもよい。電位測定装置は、必要に応じて、基準電極および/または参照電極を備えていてもよい。
電位測定装置では、培地に保持された生物組織または微生物の電位を、第1電極(第1および第2電極)で測定する。電位の経時的な変化や条件を変更した際の変化を求め、この電位変化に基づいて、生物組織または微生物の状態や機能などを評価することができる。
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1(培地の作製)
第1基材としての巻取回転体の周面に、電界紡糸法により、繊維を堆積させて繊維集合体を作製した。このとき、原料液を吐出させながら巻取回転体を回転させて、繊維を巻取回転体の周面を周回させながら堆積させた。周面の幅方向に沿って繊維集合体に切れ目を入れ、複数のITO電極を備えるガラス基板(第2基材)の表面に、繊維集合体が接触するように、ガラス基板を巻取回転体の周面に押し付け、繊維集合体を、ガラス基板上に転写させた。このようにして、培地を作製した。ガラス基板の一部の領域には、格子状に予め接着剤を付与しておいた。
なお、電解紡糸に用いた原料液としては、PBブロックとPBブロックの両方の末端に結合したPSブロックとを有するブロックポリマー(トリブロック体、PB含有量:23質量%、メルトフローレート(MFR):6g/10分)、およびポリスチレン(MFR:7.7g/10分)を、それぞれ、15質量%濃度で含むDMAc溶液を用いた。得られた繊維集合体における繊維の平均繊維径は、2.5μmであり、繊維集合体の単位面積当たりに占める繊維の面積の割合は35%であった。
図17は、得られた培地の主面に垂直な断面のTEM写真である。図18は、得られた培地の上面のSEM写真である。図17に示されるように、培地では、基材(第2基材)30上に、硬化した接着剤が突起4を形成しており、繊維集合体を構成する繊維21が突起4に保持された状態である。基材30の上面と繊維集合体との間において、隣接する突起間には空隙gが形成されている。また、培地の繊維集合体では、上から見た時に、図18に示されるように、複数の繊維が一方向に沿って配列している。