JP6803534B2 - 培養用足場の製造方法、および、培養用足場の製造装置 - Google Patents

培養用足場の製造方法、および、培養用足場の製造装置 Download PDF

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Description

本発明は、培地および繊維集合体の製造方法、ならびに培地の製造装置に関し、特に、一方向に配列した繊維を備える培地および繊維集合体の生産性の向上に関する。
近年、生物組織や微生物を培養するための培地として、繊維基材が注目されている(特許文献1参照)。繊維基材は、例えば、織物、編物あるいは不織布であり、三次元の構造を備える。そのため、in vitroで生理的環境に近い状態で、生物組織や微生物を培養することができる。
特表2010−517590号公報
生物組織や微生物の成長に方向性が見られる場合、繊維基材を構成する繊維は、ある一方向に配列していることが望ましい。生物組織や微生物が成長し易くなるためである。しかし、通常、繊維基材は、繊維同士の交絡によって形状が保持されており、上記のような配列性を有さない。
本発明の一局面は、繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させる繊維生成工程と、前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積工程と、前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を基材に転写する転写工程と、を備え、前記繊維が、電界紡糸法により生成され、前記巻取回転体の前記周面が、前記巻取回転体の回転軸と交差する方向に延伸する複数の帯状絶縁部を備える、培養用足場の製造方法に関する。
本発明の他の一局面は、一方向に配列した複数の繊維を備える繊維集合体の製造方法であって、繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させる繊維生成工程と、前記繊維を、巻取回転体の周面を周回するように堆積させる工程と、を備え、前記繊維が、電界紡糸法により生成され、前記巻取回転体の前記周面が、前記巻取回転体の回転軸と交差する方向に延伸する複数の帯状絶縁部を備える、繊維集合体の製造方法に関する。
本発明のさらに他の一局面は、繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させる繊維生成部と、前記繊維を、巻取回転体の周面を周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積部と、前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を基材に転写する転写部と、を備え、前記繊維が、電界紡糸法により生成され、前記巻取回転体の前記周面が、前記巻取回転体の回転軸と交差する方向に延伸する複数の帯状絶縁部を備える、培養用足場の製造装置に関する。
本発明に係る製造方法および製造装置によれば、一方向に配列した繊維を備える培地(培養用足場)および繊維集合体を、効率よく製造することができる。
本発明に係る巻取回転体の一例を示す斜視図(a)および平面図(b)である。 本発明に係る巻取回転体の他の例を示す分解側面図である。 本発明に係る巻取回転体のさらに他の例を示す斜視図である。 本発明に係る製造方法の各工程における巻取回転体および基材を模式的に示す側面図である((a)〜(c))。 本発明に係る他の製造方法の電荷付与工程における巻取回転体を模式的に示す側面図である。 本発明に係る他の製造方法の予備堆積工程における巻取回転体を模式的に示す側面図である。 本発明に係る他の製造方法の各工程における巻取回転体および基材を模式的に示す側面図である((a)〜(c))。 繊維の配列を説明するための繊維集合体の一部の領域の概略上面図である。
繊維を紡糸しながら巻取回転体で巻き取っていくことにより、巻取回転体の周面に形成される繊維集合体は、高い配列性を備えることが期待される。
電界紡糸法では、繊維の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を原料液として用いる。原料液には高電圧が印加され、プラスあるいはマイナスに帯電された状態で空気中に吐出される。このとき、巻取回転体の少なくとも周面は導電性を備えており、少なくともその周面をグランドさせるか、あるいは、原料液とは逆の極性に帯電させることにより、空気中に吐出された原料液の吐出端は巻取回転体に引き寄せられて、その周面に付着する。原料液に含まれる溶媒は、巻取回転体の周面に到達するまでの過程において揮発するため、巻取回転体の周面には繊維が堆積する。このとき、巻取回転体を回転させると、繊維は、巻取回転体の周面に付着した吐出端を起点として、巻取回転体の周面を周回するように堆積する。そのため、繊維は、ある程度、一方向に配列しながら堆積する。
本実施形態では、繊維の配列性をさらに高めるために、図1(a)および(b)に示すように、帯状絶縁部10Iを、巻取回転体10の回転軸Aと交差する方向に延伸するように配置する。繊維集合体20は、繊維21を巻取回転体10の周面に複数回(例えば、30周以上)周回させることにより形成される。繊維21が堆積し始めた段階(1周目)では、繊維21は、帯状絶縁部10I上にも堆積し得る。しかし、帯状絶縁部10Iに堆積した繊維21の電荷は、帯状絶縁部10Iから移動し難いため、次に堆積しようとする繊維21は、帯状絶縁部10I上にある繊維21の電荷(すなわち、堆積しようとする繊維21が持つ電荷と同じ極性の電荷)に反発し、帯状絶縁部10Iを避けるようにして堆積される。つまり、繊維21は、巻取回転体10の周面の導電性を備える限られた領域(帯状絶縁部10Iが配置されていない非絶縁領域)に堆積させられるため、繊維21の配列性が向上する。さらに、非絶縁領域における堆積密度が高まるため、所望の密度を有する繊維集合体を効率よく得ることができる。図1(a)は、巻取回転体10の一例を示す斜視図であり、図1(b)は、その平面図である。
帯状絶縁部10Iは、帯状であって、巻取回転体10の周面に、巻取回転体10の回転軸Aと交差する方向(以下、延伸方向D)に延伸するように配置されている。延伸方向Dと回転軸Aとがなす角度θ(ただし、θ≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下でもよい。角度θは、80°以上、90°以下であってもよい。なお、延伸方向Dは、帯状絶縁部10Iを巻取回転体10の周面の法線方向から見たとき、帯状絶縁部10Iの長手方向の中心線LCIが延伸する方向である。中心線LCIが曲線を含む場合、延伸方向Dは、中心線LCIを囲む最小の矩形の中心線が延伸する方向である。
帯状絶縁部10Iの形状は、帯状である限り特に限定されない。帯状とは、帯状絶縁部10Iの延伸方向Dの長さが、延伸方向Dに垂直な方向の長さの2倍よりも長い形状である。帯状絶縁部10Iを巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの形状としては、例えば、矩形、台形等が挙げられる。
帯状絶縁部10Iの数は特に限定されず、例えば、所望の繊維集合体20の形状および構成に応じて適宜決定すればよい。帯状絶縁部10Iには繊維21が堆積され難いため、得られる繊維集合体20は、ストライプ状になり得る。帯状絶縁部10Iの短手方向の長さ(幅)も特に限定されず、上記と同様、所望の繊維集合体20の形状および構成に応じて適宜決定すればよい。帯状絶縁部10Iの上記幅に対して垂直な方向の長さも特に限定されない。例えば、帯状絶縁部10Iは、巻取回転体10の周面を周回するように連続的に配置されてもよいし、断続的に配置されてもよい。また、帯状絶縁部10Iは、例えば、複数のスポット形状(後述参照)の絶縁領域の集合体により形成されていてもよい。なかでも、配列性がより向上する点で、帯状絶縁部10Iは、巻取回転体10の周面を連続的に1周するリング状に配置されることが好ましい。
帯状絶縁部10Iの高さは特に限定されない。帯状絶縁部10Iは、巻取回転体10の周面と面一であってもよいし、巻取回転体10の周面から突出していてもよい。後者の場合、帯状絶縁部10Iの高さは、例えば、10〜3000μmである。帯状絶縁部10Iの高さは、巻取回転体10の周面の法線方向における平均値である。
帯状絶縁部10Iが巻取回転体10の周面から突出している場合、帯状絶縁部10Iは、絶縁部材を巻取回転体10の周面に配置することにより形成される。絶縁部材の材料(絶縁材)は、絶縁性である限り特に限定されず、各種樹脂材料が挙げられる。樹脂材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
繊維21は、巻取回転体10の周面を周回する方向(以下、配列方向D21)に配列しながら、巻取回転体10の周面に堆積される。配列方向D21は、例えば、巻取回転体10の回転方向(すなわち、巻取回転体10の回転軸Aに垂直な方向)に沿う方向である。配列方向D21と回転軸Aとのなす角度θ21(ただし、θ21≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下である。なお、配列方向D21は、繊維21を巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの、繊維21の長手方向である(図1(b)参照)。繊維21の長手方向は、巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの繊維21の近似直線をとって、求めてもよい。角度θ21は、複数の繊維21の配列方向D21と回転軸Aとのなす角度の平均値である。巻取回転体10に堆積する複数の繊維21の配列方向は、上記範囲内で互いに異なっていてもよい。
取扱い性の観点から、帯状絶縁部10Iは、巻取回転体10に着脱可能な状態で配置されることが好ましい。例えば、図2に示すように、支持シート131と、支持シート131の表面に帯状に配置された絶縁部材132とを備える部分絶縁シート13を準備し、この部分絶縁シート13を回転基体11の周囲に捲回してもよい。このとき、絶縁部材132が帯状絶縁部10Iに対応する。この構成により、帯状絶縁部10Iの配設が容易となるとともに、帯状絶縁部10Iが劣化した場合の交換も容易となる。
支持シート131の材質は、導電性である限り特に限定されず、例えば、導電性材料が添加されたPET、ポリスチレン等が挙げられる。また、支持シート131は、絶縁性シートにアルミ、ITO(酸化インジウムスズ)等の導電性薄膜が形成されたものでもよい。この場合、回転基体11と支持シート131とを電気的に接続させる。支持シート131の厚みは特に限定されず、支持シート131の材質等に応じて適宜設定すればよい。絶縁部材132としては、上記した絶縁材が例示できる。
繊維集合体20の剥離性を向上するために、図3に示すように、巻取回転体10の周面に、さらに、スポット形状の凸部10Pを複数、配置してもよい。これにより、繊維集合体20は、巻取回転体10の周面から剥離され易くなる。剥離性および配列性の向上の観点から、凸部10Pは、帯状絶縁部10Iに重複しないように配置されることが好ましい。例えば、凸部10Pは、帯状絶縁部10Iで挟まれる領域に配置される。なお、図3では、回転軸Aと同じ方向に延びる1本の直線に沿って、複数の凸部10Pが配置されているが、これに限定されない。複数の凸部10Pは、ランダムに配置されていてもよい。
凸部10Pの形状は、スポット形状である限り、特に限定されない。スポット形状とは、凸部10Pを囲む最少の矩形を想定したとき、当該矩形の任意の一辺とこの一辺と頂点を共有して直交する一辺との長さの比が2以下である形状をいう。凸部10Pを巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの形状は特に限定されず、例えば、矩形、台形、円形、ドーナツ形等が挙げられる。凸部10Pの数は、2以上であれば特に限定されない。繊維集合体20の剥離性の観点から、複数の凸部10Pは、等間隔に規則的に配置されることが好ましい。
凸部10Pの大きさも特に限定されない。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、すべての凸部10Pの巻取回転体10の周面に接触する総面積が、巻取回転体10の周面の表面積の5%以上、70%以下、特に20%以上、50%以下になるように、凸部10Pの大きさを決定することが好ましい。
凸部10Pの高さは特に限定されない。ただし、繊維21の弛みを抑制し、一方向への配列を維持し易い点で、凸部10Pの高さは過度に高くないことが好ましい。繊維集合体20の剥離性および繊維21の弛み抑制の観点から、凸部10Pの高さは100〜5000μmであることが好ましい。凸部10Pの高さは、巻取回転体10の周面の法線方向における平均値である。帯状絶縁部10Iが巻取回転体10の周面から突出している場合、剥離性の観点から、凸部10Pの高さは帯状絶縁部10Iの高さよりも高いことが好ましい。
凸部10Pの材質は特に限定されないが、導電性であることが好ましい。凸部10Pの材質は、例えば、PA、PET、ポリスチレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂、各種ゴム等が挙げられる。なかでも、弾性を備え、基材と安定して接触できる点で、ゴムが好ましい。ゴムの種類は特に限定されず、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。なかでも、剥離性の観点から、シリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムは、凸部10Pの繊維21との接触部に、シリコーンゴム層として配置されてもよい。シリコーンゴムは適度な粘着性を備えるため、転写工程の前に繊維集合体20が巻取回転体10の周面から剥離することも抑制される。これらの材料には、必要に応じて、導電性材料が添加される。
シリコーンゴムとは、主鎖がケイ素−酸素結合(シロキサン結合)により形成される、非熱可塑性の化合物である。シリコーンゴムとしては、例えば、メチルシリコーンゴム、ビニル−メチルシリコーンゴム、フェニル−メチルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられる。もちろん、凸部10Pの全体が、導電性のシリコーンゴムにより形成されていてもよい。
以下、図面を参照しながら、上記巻取回転体10を用いる本発明を詳細に説明する。
本実施形態に係る培地(培養用足場)100の製造方法は、繊維21の原料液をノズルから吐出して、電界紡糸法により、繊維21を生成させる繊維生成工程と、繊維21を、巻取回転体10の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体20を形成する堆積工程と、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材に転写する転写工程と、を具備する。
上記の製造方法は、繊維21の原料液をノズルから吐出して、電界紡糸法により、繊維21を生成させる繊維生成部と、繊維21を、巻取回転体10の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積部と、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材に転写する転写部と、を備える製造装置により製造される。
さらに、本実施形態では、繊維21の原料液をノズルから吐出して、電界紡糸法により、繊維21を生成させるとともに、繊維21を、上記巻取回転体10の周面に周回するように堆積させる工程を備える方法により、繊維集合体20が製造される。巻取回転体10の周面に形成された繊維集合体20は、必要に応じて離型紙に転写される。繊維集合体20は、単独で培地として使用され得る。
以下、本実施形態に係る製造方法および製造装置について、主に図4を参照しながら、詳細に説明する。図4(a)〜(c)は、本実施形態の各工程における巻取回転体10および基材30等を模式的に示す側面図である。
(1)電荷付与工程(図4(a))
繊維生成工程に先立って、帯状絶縁部10Iに、繊維21と同じ極性の電荷を付与する電荷付与工程を行うことが好ましい。これにより、繊維21が堆積し始めた段階(1周目)から、繊維21は帯状絶縁部10Iを避けるようにして堆積する。よって、繊維21の配列性がさらに向上するとともに、堆積密度がより高まる。
帯状絶縁部10Iを帯電させる帯電手段は特に限定されない。例えば、図4(a)に示すように、接触型の帯電装置59Aを用いて、接触帯電により帯状絶縁部10Iに電荷を付与してもよい。あるいは、図5に示すように、イオン流発生装置59Bを用いて、イオン流帯電により帯状絶縁部10Iに電荷を付与してもよい。接触型の帯電装置59Aは可動であり、帯状絶縁部10Iに電荷を付与した後、巻取回転体10から離間する。
(2)繊維生成工程および堆積工程(図4(b))
本工程では、電界紡糸法により、原料液22から繊維21を生成させるとともに、繊維21を巻取回転体10の周面を1周以上、周回させながら堆積させる。これにより、巻取回転体10の周面には、繊維集合体20が形成される。
電界紡糸法では、繊維21の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を原料液22に高電圧を印加しながら空気中に吐出する。原料液22に含まれる溶媒は、巻取回転体10の周面に到達するまでの過程において揮発する。
電界紡糸法では、原料液22に高電圧を印加するため、原料液22は、プラスあるいはマイナスに帯電する。このとき、巻取回転体10をグランドさせるか、あるいは、原料液22とは逆の極性に帯電させることにより、空気中に吐出された原料液22の吐出端は巻取回転体10に引き寄せられて、その周面に付着する。そして、原料液22を吐出しながら巻取回転体10を回転させる。巻取回転体10の周面には帯状絶縁部10Iが設けられているため、繊維21は、帯状絶縁部10Iを避けるように一方向に配列しながら、巻取回転体10の周面を周回するように堆積する。なお、図示例では、巻取回転体10はグランドされている。
(原料液)
電界紡糸法で利用する原料液22は、繊維21の原料と溶媒とを含む。繊維21の原料としては、生物組織や微生物の培地として用いることができる限り特に限定されない。なかでも、生物組織や微生物に対する親和性が高く、培養する際、生物組織や微生物にストレスを与え難い点で、繊維21の原料は、ポリスチレンブロックおよびポリブタジエンブロックを含むブロックポリマーと、当該ブロックポリマーとは異なるスチレン樹脂と、を含むことが好ましい。
ブロックポリマーは、例えば、ポリブタジエン(PB)ブロックとポリスチレン(PS)ブロックとが連結したジブロック体であってもよいが、PBブロックとPSブロックとが交互に連結したトリブロック体以上のポリブロック体が好ましい。ブロックポリマーは、スチレン樹脂との親和性を確保する観点から、少なくとも末端にPSブロックを含むことが好ましい。PBブロックは、得られる繊維21の柔軟性や伸度を高める。
ブロックポリマー中のPBブロックの含有量は、例えば、10〜30質量%であり、15〜30質量%であることが好ましく、20〜30質量%または20〜25質量%であることがさらに好ましい。PBブロックの含有量がこのような範囲である場合、スチレン樹脂との親和性が高くなって、均質な繊維21が生成され易くなる。また、得られる繊維21は高い柔軟性および伸度を備える。さらに、繊維21の高い曳糸性が確保される。
スチレン樹脂としては、上記のブロックポリマーとは異なるポリマーが使用される。スチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン(スチレンホモポリマー)、スチレンと他の共重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせてもよい。
繊維21の柔軟性と形成し易さとを両立させる観点から、ブロックポリマーとスチレン樹脂との質量比(=ブロックポリマー:スチレン樹脂)は、例えば、2:1〜1:5であり、好ましくは1:1〜1:4である。特に、質量比が上記範囲であると、ブロックポリマーおよびスチレン樹脂は溶媒に溶解し易くなって、高い紡糸性を確保することもできる。
溶媒としては、繊維21の原料を溶解できる限り特に制限されず、原料の種類や製造条件に応じて、水および有機溶媒から適宜選択して使用できる。溶媒としては、非プロトン性の極性有機溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド(鎖状または環状アミドなど);ジメチルスルホキシドなどのスルホキシドなどが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
原料液22の固形分濃度は、溶媒の種類などに応じて調節できるが、例えば、5〜50質量%であり、10〜30質量%であってもよい。原料液22は、必要に応じてさらに添加剤を含んでもよい。
(繊維)
上記原料液22から生成される繊維21は、上記ブロックポリマーおよびスチレン樹脂、さらには、必要に応じて添加剤を含む。繊維21の平均繊維径は、例えば、0.5μm〜10が好ましく、1〜5μmがより好ましく、1.5〜4μmが特に好ましい。
なお、平均繊維径とは、繊維21の直径の平均値である。繊維21の直径とは、繊維21の長さ方向に対して垂直な断面の直径である。そのような断面が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、繊維集合体20の1つの主面の法線方向から見たときの、繊維21の長さ方向に対して垂直な方向の幅を、繊維21の直径と見なしてもよい。平均繊維径は、例えば、繊維集合体20に含まれる任意の10本の繊維21の任意の箇所の直径の平均値である。
(繊維集合体)
繊維集合体20は、複数の繊維21の集合体である。繊維集合体20において、複数の繊維21は一方向に配列している。複数の繊維21が一方向に配列しているとは、繊維集合体20において、繊維21同士が交差していないか、繊維21同士が交わる平均的な角度が、0°を超え60°以下であることをいう。このように、複数の繊維21が配列した状態である場合、繊維21は配列方向に沿って伸び易いため、生物組織や微生物へのストレスも低減できる。よって、繊維21の配列方向に沿って生物組織や微生物が成長し易くなる。
ここで、繊維21同士が交わる平均的な角度は、繊維21の平均的な長さ方向の交わりから決定できる。繊維21の平均的な長さ方向は、例えば、繊維集合体20をその法線方向から見たときのSEM写真に基づいて決定することができる。図8は、繊維の配列を説明するための繊維集合体の概略上面図である。図8では、繊維集合体を法線方向から撮影したSEM写真における繊維集合体の状態を模している。複数の繊維21で構成される繊維集合体20を法線方向から見て、所定のサイズ(例えば、100μm×100μm)の正方形の領域Rを設定する。このとき、領域Rは、領域R内に12本以上の繊維21が入り、かつ領域R内に位置する繊維21の50%以上が領域Rの対向する2辺と交差するように決定する。この領域Rにおいて、ある繊維21が、上記の対向する2辺と交差する2点間を結んだ直線(図8では点線)の方向を、その繊維21の平均的な長さ方向とする。
繊維21同士が交わる平均的な角度は、例えば、上記領域Rにおいて、任意に選択した複数(例えば、20本)の繊維21から、さらに任意に2本の繊維21を選択し、各繊維21の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図8のθ1)を求める。別の2本の繊維21を選択し、各繊維21の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図8のθ2)を求める。このような作業を、選択した残りの繊維21(例えば、16本)について行う。そして、それぞれの角度の平均を算出し、繊維21同士が交わる平均的な角度とする。
繊維集合体20の単位面積に占める繊維21の面積の割合は10〜90%から選択できる。例えば、心筋細胞の培養や電位測定装置に利用する場合には、繊維集合体20はごく薄く、単位面積当たりに占める繊維21の割合は20〜50%であり、30〜40%で均一に分散して堆積していることが好ましい。なお、繊維21の面積の割合は、繊維集合体20の一方の主面(例えば、上面)において、繊維集合体20における所定の面積(例えば、短軸3mm×長軸6mmの楕円形)の領域において、光沢度計により光沢度を測定し、繊維21と繊維21以外の領域との光沢度の違いに基づき、繊維21が占める面積を算出し、単位面積当たりの面積比率(%)に換算することにより求めることができる。
(基材)
基材30は特に限定されず、従来の培地(足場も含む)に利用されるものを用いることができる。基材30としては、培養する生物組織や微生物の種類などに応じて、樹脂フィルム、カンテン層、ゼラチン層、不織布などの多孔質基材、あるいは、これらの組み合わせが挙げられる。
不織布に含まれる繊維の材質は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、セルロース、セルロース誘導体(エーテル、エステルなど)、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが例示される。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。不織布に含まれる繊維は、これらの材質を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
(巻取回転体)
巻取回転体10(回転基体11)の構成は、回転可能である限り特に限定されず、ドラム状であってもよいし、複数のロールで張架されたベルトであってもよい。後者の場合、少なくとも1本のロールを回転駆動させて、ベルトを回転させる。巻取回転体10の材質としては、例えば、金属材料、各種樹脂、各種ゴム、セラミックスおよびこれらの組み合わせが挙げられる。巻取回転体10がベルトである場合、ベルトは、金属ベルトであってもよいし、導電性の樹脂ベルトであってもよい。さらに、樹脂ベルトのノズル51に対向する部分の裏側に、導電性の部材(例えば金属部材)を配置することが好ましい。巻取回転体10の外形は、例えば、円柱または角柱であってもよい。
(3)予備堆積工程
繊維生成工程の後、堆積工程の前に、図6に示すように、繊維21を巻取回転体10以外の予備堆積部材60に堆積させる予備堆積工程を備えることが好ましい。予備堆積工程と堆積工程とは、原料液22をノズル51から継続的に吐出させながら、連続して行われる。すなわち、予備堆積部材60に繊維21を堆積させて、紡糸を安定させ、その後、巻取回転体10に堆積させることにより、巻取回転体10には均質な繊維21が堆積する。このとき、予備堆積部材60を、図6のようにグランドさせるか、あるいは、原料液とは逆の極性に帯電させる。そして、ノズル51を、予備堆積部材60の近傍から巻取回転体10の近傍にまで、原料液22を吐出しながら移動させると、生成する繊維21は、堆積目標を予備堆積部材60から巻取回転体10へと変えて、巻取回転体10の周面に堆積していく。
堆積工程の後、ノズル51を、巻取回転体10の近傍から予備堆積部材60の近傍にまで、原料液22を吐出しながら移動させて、再び、繊維21を予備堆積部材60に堆積させてもよい。これにより、安定した紡糸状態を維持することができる。そして、例えば、繊維21を予備堆積部材60に堆積させている間に巻取回転体10を交換し、新たな巻取回転体10に繊維21を堆積させてもよい。この場合、新たな巻取回転体10に対しても、当初から均質な繊維21を堆積させることができる。
予備堆積部材60の形状は特に限定されず、図示例のように平板状であってもよいし、回転体であってもよい。予備堆積部材60の材質は特に限定されず、少なくとも表面に導電性を備えていればよい。
(4−1)接着剤付与工程
後述する転写工程の前に、繊維集合体20および基材30の少なくとも一方に、接着剤を付与する接着剤付与工程を備えることが好ましい。繊維集合体20と基材30との接着性が高まり、剥離が抑制されるためである。接着剤付与工程は、堆積工程の後、転写工程の前に行われる。接着剤の種類は特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂、ホットメルト樹脂または紫外線硬化樹脂等が挙げられる。
巻取回転体10が凸部10Pを備える場合、接着剤は、繊維集合体20の凸部10Pに対応する領域に付与されることが好ましい。この場合、繊維集合体20および基材30は、接着剤を介在させた状態で、凸部10PとXZステージ52に支持された架台53(いずれも図4(c)参照)とで押圧される。よって、繊維集合体20と基材30との接着性が向上する。XZステージ52は、架台53、ひいては架台53に載置される基材30を、回転軸Aに交わる方向(X軸方向)および上下方向(Z軸方向)に搬送することができる。
シリコーン樹脂等の感圧接着剤は、フィルム状に成形された後、繊維集合体20あるいは基材30に付与されてもよい。この場合、フィルム状の感圧接着剤を基材30に付与するタイミングは、転写工程の前であれば特に限定されない。例えば、架台53に載置される前に、基材30にフィルム状の感圧接着剤を付与してもよい。
接着剤の付与量は、特に限定されない。なかでも、上記接着性を確保しながら細胞の培養を阻害しないようにする観点から、0.5〜100mg/cmであることが好ましい。
(4−2)加熱工程
転写工程の前に、接着剤付与工程に替えて、あるいは、接着剤付与工程に加えて、繊維集合体20および基材30の少なくとも一方を加熱する加熱工程を備えていてもよい。転写工程の前に繊維集合体20を加熱することにより、繊維集合体20が軟化した状態で基材30に転写される。これにより、繊維集合体20と基材30との接着性が向上する。また、転写工程の前に基材30を加熱することにより、転写後、繊維集合体20に熱が伝わって軟化する。これにより、繊維集合体20と基材30との接着性が向上する。なかでも、基材30を加熱する方法は、繊維21の劣化が抑制できる点で好ましい。
(4−3)プラズマ処理工程
転写工程の前に、接着剤付与工程および加熱工程に替えて、あるいは、接着剤付与工程および/または加熱工程に加えて、繊維集合体20にプラズマ照射するプラズマ処理工程を備えていてもよい。繊維集合体20の少なくとも基材30に当接する領域にプラズマを照射することにより、繊維集合体20と基材30との接着性が向上する。なお、繊維集合体20を基材30に転写した後、繊維集合体20の基材30とは反対側の領域に、さらにプラズマ照射してもよい。培地100で培養される生物組織や微生物の電位の変化を測定するために、繊維集合体20と電極(例えば、白金電極)とを接続する場合、プラズマ照射によって電極と繊維集合体20との密着性も向上する。
(5)切断工程
転写工程に先立って、繊維集合体20は、巻取回転体10に捲回された状態で基材30の形状に応じて切断される。このとき、繊維集合体20は、例えば、回転軸Aに沿う方向に切断される。この切断部をきっかけにして、繊維集合体20は基材30に転写される。切断装置としては特に限定されず、例えば、長尺カッター等が挙げられる。
切断工程により、基材30に転写されない不要な切断片が生じる場合、切断工程の後、転写工程の前に、切断片を除去するクリーニング工程を備えることが好ましい。工程が簡略化されて生産性が向上するとともに、得られる培地の品質が高まる。
クリーニングは、例えば、粘着層を備える粘着部材(図示せず)を用いて行われる。粘着部材としては、例えば、粘着テープや粘着ロール等が挙げられる。粘着ロールは、周面に粘着層を備え、例えば、巻取回転体10とは反対向きに回転可能である。粘着部材は、巻取回転体10に対して接近および後退が可能である。巻取回転体10の回転によって不要な切断片が粘着部材に対向するタイミングに合わせて、粘着部材を巻取回転体10に接近させる。これにより、不要な切断片は粘着部材の粘着層に粘着されて、巻取回転体10の周面から除去される。粘着層の材質は特に限定されず、例えば、アクリル粘着剤等が挙げられる。
(6)除電工程
転写工程の前に、図7に示すように、巻取回転体10の周面を除電装置61を用いて除電することが好ましい。これにより、繊維集合体20が巻取回転体10から剥離し易くなるため、繊維21の配列が維持され易くなる。除電工程では、巻取回転体10の周面の帯電性がわずかでも低下すればよい。
除電装置61は特に限定されず、除電ブラシや、コロナ放電、電離放射線(紫外線等)等を利用して、静電気を除去するものであればよい。なかでも、繊維集合体20の損傷を抑制できる点で、コロナ放電や電離放射線等により、非接触式で除電する装置を用いることが好ましい。
(7)転写工程(図4(c))
本工程では、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材30に転写する。これにより、繊維集合体20および基材30を備える培地100が得られる。
基材30は、XZステージ52に支持された架台53に載置されて、搬送される。このとき、基材30は、巻取回転体10の周面の移動速度(周速)よりも相対的に速い速度で、X軸方向に搬送されることが好ましい。これにより、弛みがさらに抑制された状態で、繊維集合体20は基材30に転写される。
一方、転写工程では、基材30を、巻取回転体10の回転により搬送させてもよい。すなわち、基材30を所定の位置にまで搬送した後、架台53を上昇して基材30を巻取回転体10に押し付ける。次いで、巻取回転体10を回転させて、凸部10Pと基材30との間に生じる摩擦力により基材30を搬送させてもよい。これにより、基材30の相対的な搬送速度が巻取回転体10の周速と同じになり、繊維集合体20の弛みが抑制される。また、基板3の位置合わせが容易となるため、繊維集合体20の転写ずれが抑制される。繊維集合体20が転写された後、速やかに架台53を降下して、基材30を巻取回転体10から離間させる。
(培地)
培地100は、繊維集合体20と基材30とを備える。基材30は、主に、繊維集合体20を支持するために用いられる。繊維集合体20は、単独でも培地として用いられ得る。
本発明により得られる培地および繊維集合体は、一方向に配列した繊維を備えるため、特に、成長に方向性がある生物組織または微生物を培養するための培地として有用である。
10:巻取回転体
10I:帯状絶縁部
10P:凸部
11:回転基体
13:部分絶縁シート
131:支持シート
132:絶縁部材
20:繊維集合体
21:繊維
22:原料液
30:基材
51:ノズル
52:XZステージ
53:架台
59A:接触型の帯電装置
59B:イオン流発生装置
60:予備堆積部材
61:除電装置
100:培地

Claims (10)

  1. 帯状絶縁部に、繊維と同じ極性の電荷を付与する電荷付与工程と、
    前記繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させる繊維生成工程と、
    前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積工程と、
    前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を基材に転写する転写工程と、を備え、
    前記繊維が、電界紡糸法により生成され、
    前記帯状絶縁部は、前記巻取回転体の前記周面に前記巻取回転体の回転軸と交差する方向に延伸するように複数配置されている、培養用足場の製造方法。
  2. 前記帯状絶縁部が、前記巻取回転体の前記周面に配置された絶縁部材により形成されており、前記巻取回転体の前記周面から突出している、請求項1に記載の培養用足場の製造方法。
  3. 前記巻取回転体が、回転基体と、前記回転基体の周囲に捲回された導電性の支持シートと、を備え、
    前記帯状絶縁部が、前記支持シートに配置された絶縁部材により形成されている、請求項1に記載の培養用足場の製造方法。
  4. 前記電荷が、接触帯電により前記帯状絶縁部に付与される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の培養用足場の製造方法。
  5. 前記電荷が、イオン流帯電により前記帯状絶縁部に付与される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の培養用足場の製造方法。
  6. 前記堆積工程の前に、前記繊維を前記巻取回転体以外の予備堆積部材に堆積させる予備堆積工程を備え、
    前記予備堆積工程と前記堆積工程とが、前記原料液を、前記ノズルから継続的に吐出させながら、連続して行われる、請求項1〜のいずれか一項に記載の培養用足場の製造方法。
  7. 前記転写工程の前に、前記巻取回転体の前記周面を除電する除電工程を備える、請求項1〜のいずれか一項に記載の培養用足場の製造方法。
  8. 前記巻取回転体の前記周面が、さらに、複数のスポット形状の凸部を備える、請求項1〜のいずれか一項に記載の培養用足場の製造方法。
  9. 前記凸部の少なくとも前記繊維集合体との接触部に、シリコーンゴム層を備える、請求項に記載の培養用足場の製造方法。
  10. 巻取回転体と、
    前記巻取回転体の周面で前記巻取回転体の回転軸と交差する方向に延伸する複数の帯状絶縁部と、
    前記帯状絶縁部に、繊維と同じ極性の電荷を付与する電荷付与部と、
    前記繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させる繊維生成部と、
    前記繊維を、前記巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積部と、
    前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を基材に転写する転写部と、を備え、
    前記繊維が、電界紡糸法により生成される、培養用足場の製造装置。
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