JP6931813B2 - 培養用足場の製造方法 - Google Patents

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本発明は、培養用足場の製造方法に関し、特に、一方向に配列した繊維を備える培養用足場の生産性の向上に関する。
近年、生物組織や微生物を培養するための培養用足場として、繊維基材が注目されている(特許文献1参照)。繊維基材は、例えば、織物、編物あるいは不織布であり、三次元の構造を備える。そのため、in vitroで生理的環境に近い状態で、生物組織や微生物を培養することができる。
特表2010−517590号公報
生物組織や微生物の成長に方向性が見られる場合、繊維基材を構成する繊維は、ある一方向に配列していることが望ましい。生物組織や微生物が成長し易くなるためである。しかし、通常、繊維基材は、繊維同士の交絡によって形状が保持されており、上記のような配列性を有さない。
本発明の一局面は、細胞、生物組織または微生物の培養に用いる培養用足場の製造方法であって、繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させるとともに、前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積工程と、接着剤を備える基材を準備する基材準備工程と、前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を前記基材に前記接着剤を介して転写する転写工程と、を備え、前記繊維集合体は、一方向に配列した複数の繊維の集合体であり、前記巻取回転体の前記周面に、前記巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する複数の帯状の凸部が配置されており、前記転写工程において、前記繊維集合体の任意の前記凸部からの剥離が開始する開始地点および前記剥離が終了する終了地点が、前記接着剤に接着される、培養用足場の製造方法に関する。
本発明に係る製造方法によれば、一方向に配列した繊維を、弛みのない状態で備える培養用足場を、効率よく製造することができる。
本発明に係る製造方法の転写工程における巻取回転体および基材を模式的に示す側面図である((a)〜(c))。 本発明に係る巻取回転体の一例を示す斜視図(a)および平面図(b)である。 本発明に係る巻取回転体の他の例を示す分解側面図である。 本発明に係る巻取回転体のさらに他の例を示す斜視図である。 本発明に係る製造方法の転写工程における巻取回転体および他の基材を模式的に示す側面図である。 本発明に係る製造方法の各工程における巻取回転体および/または基材を模式的に示す側面図である((a)〜(c))。 繊維の配列を説明するための繊維集合体の一部の領域の概略上面図である。 繊維集合体の剥離が開始される地点が接着剤に接着されていない場合の転写工程における巻取回転体および基材を模式的に示す側面図である。
繊維を紡糸しながら巻取回転体で巻き取っていくことにより、巻取回転体の周面に形成される繊維集合体は、高い配列性を備える培養用足場として有用である。しかし、その配列性を保持したまま基材に転写することは容易ではない。繊維同士は、巻取回転体から繊維集合体を剥離したときに、その配列を維持できる程度に交絡していないためである。
本実施形態では、繊維の一方向への配列を維持した状態で繊維集合体を基材に転写するために、巻取回転体の周面に、巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する複数の帯状の凸部を配置する。これにより、巻取回転体の周面に周回するように配列した繊維の集合体(繊維集合体)は、巻取回転体から剥離され易くなる。
さらに、基材の表面の少なくとも一部には接着剤が配置されている。そのため、転写工程では、上記の凸部と接着剤とが繊維集合体を介して密着することにより、繊維集合体は、凸部から接着剤を介して基材へと転写される。このとき、繊維集合体の任意の凸部からの剥離が開始する開始地点および剥離が終了する終了地点は、同時に、あるいは、順次、接着剤に接着する。これにより、繊維集合体は、繊維の配列を維持したまま、弛みのない状態で基材に容易に転写される。
以下、転写工程を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る製造方法の転写工程における巻取回転体および基材を模式的に示す側面図である。図1(a)は、任意の凸部10P上の繊維集合体20の剥離が開始される前の側面図であり、図1(b)は、当該剥離が開始する開始地点Pにおける側面図であり、図1(c)は、当該剥離が終了する終了地点Pにおける側面図である。なお、図示例では、便宜的に繊維集合体20、凸部10Pおよび接着剤40にハッチングを付している。
転写工程では、巻取回転体10を回転させながら、その周面に堆積する繊維集合体20を基材30に転写する(図1(a))。基材30の少なくとも一部には接着剤40が配置されており、繊維集合体20は、接着剤40を介して基材30に転写される。
繊維集合体20の開始地点Pが接着剤40に接着されていない場合、図8に示すように、当該剥離は、巻取回転体10が回転することによって、基材30と凸部10Pとの距離が十分に大きくなった時点で開始される。このとき、繊維集合体20には大きなテンションTがかかっている。そのため、繊維集合体20を形成する繊維が断糸したり、繊維集合体20自体が断裂したりする場合がある。さらに、繊維集合体20に断裂が生じた結果、繊維集合体20の一部が巻取回転体10に残存する場合がある。なお、図8は、繊維集合体20の開始地点Pが接着剤40に接着されていない場合の転写工程における巻取回転体および基材を模式的に示す側面図である。
繊維集合体20の終了地点Pが接着剤40に接着されていない場合も同様に、当該剥離は、基材30と凸部10Pとの距離が再び十分に大きくなることにより終了する。このときにも、繊維集合体20にはやはり大きなテンションがかかっている。そのため、基材30に転写されて上記テンションから解放された繊維集合体20には弛みが生じ易く、また、繊維の配列が乱れ易い。
本実施形態では、繊維集合体20の任意の凸部10Pからの剥離が開始する開始地点Pは、接着剤40に接着されている。つまり、繊維集合体20の開始地点Pは、接着剤40に接着された状態で凸部10Pから剥離される(図1(b))。さらに、繊維集合体20の終了地点Pも、接着剤40に接着された状態で凸部10Pから剥離される(図1(c))。そのため、繊維にはテンションがかかり難い、よって、開始地点Pと終了地点Pとの間で繊維集合体20は弛むことなく、かつ、配列を維持した状態で、容易に基材30に転写される。
転写工程において、回転する凸部10Pの少なくとも一部と接着剤40の少なくとも一部とが繊維集合体20を介して密着することによって、凸部10Pの投影された形状が反映された、繊維集合体20と接着剤40との密着領域(図示せず)が形成される。開始地点Pは、この密着領域のうち、凸部10Pの延伸方向D(図2参照)に沿う端部であって、最初に接着剤40と密着する方の端部である。終了地点Pは、密着領域の開始地点Pに対向する端部である。なお、密着領域は、堆積工程の後、転写工程前において、凸部10Pと繊維集合体20とが接触している領域とは異なり得る。転写工程では、凸部10Pは回転するとともに、基材30に押し付けられて変形し得るためである。
(巻取回転体)
巻取回転体10の構成は、回転可能である限り特に限定されず、ドラム状であってもよいし、複数のロールで張架されたベルトであってもよい。後者の場合、少なくとも1本のロールを回転駆動させて、ベルトを回転させる。巻取回転体10の材質としては、例えば、金属材料、各種樹脂、各種ゴム、セラミックスおよびこれらの組み合わせが挙げられる。巻取回転体10がベルトである場合、ベルトは、金属ベルトであってもよいし、樹脂ベルトであってもよい。電界紡糸法により繊維21が紡糸される場合、樹脂ベルトは導電性を備えることが好ましい。巻取回転体10の外形は、例えば、円柱または角柱であってもよい。
図2(a)および(b)に、巻取回転体10の一例を示す。図2(a)は、巻取回転体10の一例を示す斜視図であり、図2(b)は、その平面図である。図2では、巻取回転体10の周面に堆積する繊維21(繊維集合体20)の一部も併せて示している。
繊維21は、巻取回転体10の周面を周回する方向(以下、配列方向D21)に配列しながら、巻取回転体10の周面に堆積される。配列方向D21は、例えば、巻取回転体10の回転方向(すなわち、巻取回転体10の回転軸Aに垂直な方向)に沿う方向である。配列方向D21と回転軸Aとのなす角度θ21(ただし、θ21≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下でもよい。なお、配列方向D21は、繊維21を巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの、繊維21の長手方向である(図2(b)参照)。繊維21の長手方向は、巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの繊維21の近似直線をとって、求めてもよい。角度θ21は、複数の繊維21の配列方向D21と回転軸Aとのなす角度の平均値である。巻取回転体10に堆積する複数の繊維21の配列方向D21は、上記範囲内で互いに異なっていてもよい。
凸部10Pは、帯状であって、巻取回転体10の周面において、巻取回転体10の回転軸Aに沿う延伸方向Dに延伸している。延伸方向Dは、回転軸Aに平行である場合に限られず、延伸方向Dと回転軸Aとのなす角度θ(ただし、θ<90°)は、例えば、0°以上、30°以下である。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、角度θは0°以上、20°以下であることが好ましい。
延伸方向Dは、繊維21の配列方向D21と交差する方向である。延伸方向Dと配列方向D21とのなす角度θ(ただし、θ≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下である。なお、延伸方向Dは、凸部10Pを巻取回転体10の周面の法線方向から見たとき、凸部10Pの長手方向の中心線LCPが延伸する方向である。中心線LCPが曲線を含む場合、延伸方向Dは、中心線LCPを囲む最小の矩形の中心線が延伸する方向である。後述するリブ10Rの延伸方向Dも同様にして求められる。
凸部10Pの形状は、帯状である限り特に限定されない。帯状とは、凸部10Pの延伸方向Dの長さが、延伸方向Dに垂直な方向の長さよりも長い形状である。凸部10Pを巻取回転体10の周面の法線方向から見たときの形状としては、例えば、矩形、台形等が挙げられる。
凸部10Pの数は特に限定されず、2本以上であればよい。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、巻取回転体10の周面に3本以上配置されることが好ましく、10本以上配置されることが好ましい。また、同様の観点から、凸部10Pは等間隔に配置されることが好ましい。なお、後述するように、繊維集合体20の基材30(図10(c)参照)への転写工程に先立って、繊維集合体20が巻取回転体10に捲回された状態で切断される場合、切断後の繊維集合体20の少なくとも一部が凸部10Pに接触した状態になるよう、繊維集合体20は凸部10P同士の間で切断される。これにより、繊維21の配列が維持され易くなる。この場合、切断予定箇所C(図3参照)の凸部10P同士の間隔を、他の部分の凸部10P同士の間隔よりも小さくすることが好ましい。
凸部10Pの短手方向の長さ(幅)は特に限定されない。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、すべての凸部10Pの巻取回転体10の周面に当接する総面積が、巻取回転体10の周面の表面積の10%以上、80%以下、特に30%以上、70%以下になるように、各凸部10Pの幅を決定することが好ましい。凸部10Pの延伸方向Dの長さも特に限定されない。なかでも、巻取回転体10の周面のうち、少なくとも繊維21が堆積し得る領域にわたって、凸部10Pが延伸していることが好ましい。
凸部10Pの高さは特に限定されない。なかでも、繊維21の弛みを抑制し、一方向への配列を維持し易い点で、凸部10Pの高さは過度に高くないことが好ましい。繊維集合体20の剥離性および繊維21の弛み抑制の観点から、凸部10Pの高さは100〜5000μmであることが好ましい。凸部10Pの高さは、巻取回転体10の周面の法線方向における平均値である。
凸部10Pの材質は特に限定されず、各種樹脂材料が挙げられる。なかでも、凸部10Pは、少なくとも繊維21との接触部にシリコーンゴム層を備えることが好ましい。繊維集合体20の剥離性がさらに向上するためである。一方で、シリコーンゴムは適度な粘着性を備えるため、転写工程の前に繊維集合体20が巻取回転体10の周面から剥離することが抑制される。
シリコーンゴムとは、主鎖がケイ素−酸素結合(シロキサン結合)により形成される、熱硬化性の化合物である。シリコーンゴムとしては、例えば、メチルシリコーンゴム、ビニル−メチルシリコーンゴム、フェニル−メチルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられる。もちろん、凸部10Pの全体がシリコーンゴムにより形成されていてもよい。なお、後述するように、繊維21が電界紡糸法により生成される場合、凸部10Pは導電性を備えることが好ましい。
取扱い性の観点から、凸部10Pは、巻取回転体10に着脱可能な状態で配置されることが好ましい。例えば、図3に示すように、支持シート121と、支持シート121の表面に帯状に配置されたシリコーンゴム122とを備える凹凸シート12を準備し、この凹凸シート12を回転基体11の周囲に捲回してもよい。このとき、シリコーンゴム122が凸部10Pに対応する。この構成により、凸部10Pの配設が容易となるとともに、凸部10Pが劣化した場合の交換も容易となる。
支持シート121の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリイミド等が挙げられる。繊維21が電界紡糸法により生成される場合、支持シート121もまた導電性を備えることが好ましい。支持シート121の厚みも特に限定されず、支持シート121の材質等に応じて適宜設定すればよい。シリコーンゴム122としては、上記した化合物が例示できる。
また、基材30への転写工程の際に、繊維21の配列が維持され易い点で、巻取回転体10の周面に、図4に示すように、回転軸Aと交差する方向に延伸するリブ10Rを配置することが好ましい。
(接着剤)
接着剤40は、基材30の少なくとも開始地点Pおよび終了地点Pに対応する位置に配置される。接着剤40は、開始地点P、終了地点P、および、開始地点Pと終了地点Pとの間に対応する位置に、帯状に配置されてもよい。この場合、凸部10Pの短手方向における接着剤40の長さ(幅)は、凸部10Pの短手方向の長さ(幅)よりも大きい。なお、凸部10Pの幅(短手方向の長さ)が小さい場合、開始地点Pと終了地点Pとは、密接、さらには、重複し得る。接着剤40は、図5に示すように、開始地点P、終了地点P、および、開始地点Pと終了地点Pとの間の一部に対応する位置に、帯状に配置されてもよい。
接着剤40の種類は特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂、ホットメルト樹脂または紫外線硬化樹脂等が挙げられる。
シリコーン樹脂は、感圧接着剤とも言われており、その粘着性により、繊維集合体20と基材30とを接着する。シリコーン樹脂としては、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン等が挙げられる。ホットメルト樹脂は、加熱された状態で基材30に配置され、冷却されることによって、繊維集合体20と基材30とを接着する。ホットメルト樹脂の材質は特に限定されず、例えば、ポリウレタン(PU)、PET等のポリエステル、ウレタン変性共重合ポリエステル等の共重合ポリエステル、PA、ポリオレフィン(例えば、PP、PE)等の熱可塑性樹脂を主成分(50質量%以上を占める成分)として含む。
紫外線硬化樹脂は、紫外線照射により重合して硬化することにより、繊維集合体20と基材30とを接着する。紫外線硬化樹脂の種類は特に限定されず、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。紫外線硬化樹脂を用いる場合、転写工程の前に紫外線硬化樹脂に紫外線を照射し、半硬化状態にしておくことが好ましい。この場合、転写工程において繊維集合体20と基材30とが当接した後、さらに紫外線照射を行って、紫外線硬化樹脂を完全に硬化させる。転写工程における紫外線照射は、例えば基材30側から行う。
接着剤40としては、硬化させるための特別なステップが省略できる点で、ホットメルト樹脂およびシリコーン樹脂が好ましく、さらに、接着剤を溶融させるための加熱装置が不要である点で、シリコーン樹脂が好ましい。また、硬化が速やかに進行する点で、紫外線硬化樹脂が好ましい。
接着剤40の付与量は特に限定されず、凸部10Pの数や幅等に応じて適宜設定される。なかでも、繊維集合体20と基材30との接着性を確保しながら生物組織や微生物の培養を阻害しないようにする観点から、接着剤40の付与量は、0.5〜100mg/cmであることが好ましい。
[製造方法]
本実施形態に係る培養用足場の製造方法は、繊維21の原料液をノズルから吐出して、繊維21を生成させるとともに、繊維21を、巻取回転体10の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体20を形成する堆積工程と、接着剤を備える基材を準備する基材準備工程と、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材30に接着剤を介して転写する転写工程と、を具備する。このとき、巻取回転体10の周面に、巻取回転体10の回転軸Aに沿う方向に延伸する複数の帯状の凸部10Pが配置されている。さらに、転写工程において、繊維集合体20の任意の凸部10Pからの剥離が開始する開始地点Pおよび当該剥離が終了する終了地点Pは、接着剤40に接着されている。
上記の培養用足場は、たとえば、繊維21の原料液をノズルから吐出して、繊維21を生成させるとともに、繊維21を、巻取回転体10の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体20を形成する堆積部と、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を、接着剤を備える基材に接着剤を介して転写する転写部と、を備える装置により製造される。このとき、巻取回転体10は、その周面に複数の帯状の凸部10Pを備える。
以下、本実施形態に係る培養用足場の製造方法について、主に図6を参照しながら、詳細に説明する。図6(a)〜(c)は、本実施形態の各工程における巻取回転体10および/または基材30等を模式的に示す側面図である。本実施形態において、培養用足場100は、繊維集合体20と基材30とを備える。
(1)堆積工程(図6(a))
本工程では、原料液22から繊維21を生成させるとともに、繊維21を巻取回転体10の周面を1周以上、周回させながら堆積させる。これにより、巻取回転体10の周面には、繊維集合体20が形成される。
原料液22から繊維21を生成する方法(紡糸法)は特に限定されず、生成させる繊維21の種類等に応じて適宜選択すればよい。紡糸法としては、例えば、溶液紡糸法、溶融紡糸法および電界紡糸法等が挙げられる。
溶液紡糸法は、繊維21の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を、原料液22として用いる方法である。溶媒を用いる溶液紡糸法には、いわゆる湿式紡糸法および乾式紡糸法がある。なかでも、繊維21を一方向に配列させた状態で堆積させ易い点で、乾式紡糸法が好ましい。乾式紡糸法では、原料液22を空気中に吐出した後、加熱等により溶媒を除去することにより、繊維21が形成される。
溶融紡糸法は、繊維21の原料を加熱して溶融させた溶融液を、原料液22として用いる方法である。得られた原料液22は、空気中に吐出された後、冷却されることにより、繊維状に固化する。この場合、通常、繊維21の原料を溶解するための溶媒は使用しない。よって、溶融紡糸法は、溶媒の除去作業が省略できる点で好ましい。
電界紡糸法は、繊維21の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を原料液22として用いる点で、溶液紡糸法と共通する。しかし、電界紡糸法では、原料液22に高電圧を印加しながら空気中に吐出する。原料液22に含まれる溶媒は、巻取回転体10の周面に到達するまでの過程において揮発する。
電界紡糸法では、原料液22に高電圧を印加するため、原料液22をプラスあるいはマイナスに帯電させる。このとき、巻取回転体10をグランドさせるか、あるいは、原料液22とは逆の極性に帯電させることにより、空気中に吐出された原料液22の吐出端は巻取回転体10に引き寄せられて、その周面に付着する。そして、原料液22を吐出しながら巻取回転体10を回転させることにより、溶液紡糸法および溶融紡糸法と同様に、繊維21は、巻取回転体10の周面に周回しながら堆積し、巻取回転体10の周面の少なくとも一部を覆い、配列方向D21に配列する繊維21を備える繊維集合体20が形成される。
(原料液)
溶液紡糸法や電界紡糸法で利用する原料液22は、繊維21の原料と溶媒とを含む。溶融紡糸法で利用する原料液22は、溶融した繊維21の原料を含む。溶融紡糸法では、原料の溶媒への溶解性を考慮する必要がないため、原料の選択肢が広がる。
繊維21の原料としては、生物組織や微生物の培養用足場として用いることができる限り特に限定されない。なかでも、生物組織や微生物に対する親和性が高く、培養する際、生物組織や微生物にストレスを与え難い点で、繊維21の原料は、ポリスチレンブロックおよびポリブタジエンブロックを含むブロックポリマーと、当該ブロックポリマーとは異なるスチレン樹脂と、を含むことが好ましい。
ブロックポリマーは、例えば、ポリブタジエン(PB)ブロックとポリスチレン(PS)ブロックとが連結したジブロック体であってもよいが、PBブロックとPSブロックとが交互に連結したトリブロック体以上のポリブロック体が好ましい。ブロックポリマーは、スチレン樹脂との親和性を確保する観点から、少なくとも末端にPSブロックを含むことが好ましい。PBブロックは、得られる繊維21の柔軟性や伸度を高める。
ブロックポリマー中のPBブロックの含有量は、例えば、10〜30質量%であり、15〜30質量%であることが好ましく、20〜30質量%または20〜25質量%であることがさらに好ましい。PBブロックの含有量がこのような範囲である場合、スチレン樹脂との親和性が高くなって、均質な繊維21が生成され易くなる。また、得られる繊維21は高い柔軟性および伸度を備える。さらに、繊維21を電界紡糸法により生成させる場合、高い曳糸性が確保される。
スチレン樹脂としては、上記のブロックポリマーとは異なるポリマーが使用される。スチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン(スチレンホモポリマー)、スチレンと他の共重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせてもよい。
溶液紡糸法あるいは電界紡糸法の場合、繊維21の柔軟性と形成し易さとを両立させる観点から、ブロックポリマーとスチレン樹脂との質量比(=ブロックポリマー:スチレン樹脂)は、例えば、2:1〜1:5であり、好ましくは1:1〜1:4である。特に、電界紡糸法により繊維集合体20を形成する場合には、質量比がこのような範囲であると、ブロックポリマーおよびスチレン樹脂を溶媒に溶解し易く、高い紡糸性を確保することもできる。
溶媒としては、繊維21の原料を溶解し、揮発などにより除去可能なものであれば特に制限されず、原料の種類や製造条件に応じて、水および有機溶媒から適宜選択して使用できる。溶媒としては、非プロトン性の極性有機溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド(鎖状または環状アミドなど);ジメチルスルホキシドなどのスルホキシドなどが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
原料液22の固形分濃度は、溶媒の種類などに応じて調節できるが、例えば、5〜50質量%であり、10〜30質量%であってもよい。原料液22は、必要に応じてさらに添加剤を含んでもよい。
溶融紡糸法の場合、ブロックポリマー(好ましくは、ジブロック体)とスチレン樹脂との質量比(=ブロックポリマー:スチレン樹脂)は、例えば、5:1〜1:1であってもよく、4:1〜2:1であってもよい。
(繊維)
上記原料液22から生成される繊維21は、上記ブロックポリマーおよびスチレン樹脂、さらには、必要に応じて添加剤を含む。繊維21の平均繊維径は、例えば、0.5μm〜20が好ましく、1〜8μmがより好ましく、1.5〜4μmが特に好ましい。
なお、平均繊維径とは、繊維21の直径の平均値である。繊維21の直径とは、繊維21の長さ方向に対して垂直な断面の直径である。そのような断面が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、繊維集合体20の1つの主面の法線方向から見たときの、繊維21の長さ方向に対して垂直な方向の幅を、繊維の直径と見なしてもよい。平均繊維径は、例えば、繊維集合体20に含まれる任意の10本の繊維の任意の箇所の直径の平均値である。
(繊維集合体)
繊維集合体20は、複数の繊維21の集合体である。繊維集合体20において、複数の繊維21は一方向に配列している。複数の繊維21が一方向に配列しているとは、繊維集合体20において、繊維21同士が交差していないか、繊維21同士が交わる平均的な角度が、0°を超え60°以下であることをいう。このように、複数の繊維21が配列した状態である場合、その繊維21の配列方向に沿って繊維21が伸び易いため、生物組織や微生物へのストレスも低減できる。よって、繊維21の配列方向に沿って生物組織や微生物が成長し易くなる。
ここで、繊維21同士が交わる平均的な角度は、繊維21の平均的な長さ方向の交わりから決定できる。繊維21の平均的な長さ方向は、例えば、繊維集合体20をその法線方向から見たときのSEM写真に基づいて決定することができる。図7は、繊維の配列を説明するための繊維集合体の概略上面図である。図7では、繊維集合体20を法線方向から撮影したSEM写真における繊維集合体20の状態を模している。複数の繊維21で構成される繊維集合体20を法線方向から見て、所定のサイズ(例えば、100μm×100μm)の正方形の領域Rを設定する。このとき、領域Rは、領域R内に8本以上の繊維21が入り、かつ領域R内に位置する繊維21の50%以上が領域Rの対向する2辺と交差するように決定する。この領域Rにおいて、ある繊維21が、上記の対向する2辺と交差する2点間を結んだ直線(図7では点線)の方向を、その繊維21の平均的な長さ方向とする。
繊維21同士が交わる平均的な角度は、例えば、上記領域Rにおいて、任意に選択した複数(例えば、12本)の繊維21から、さらに任意に2本の繊維21を選択し、各繊維21の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図7のθ1)を求める。別の2本の繊維21を選択し、各繊維21の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図7のθ2)を求める。このような作業を、選択した残りの繊維21(例えば、8本)について行う。そして、それぞれの角度の平均を算出し、繊維21同士が交わる平均的な角度とする。
繊維集合体20の単位面積に占める繊維21の面積の割合は10〜90%から選択できる。例えば、心筋細胞の培養や電位測定装置に利用する場合には、繊維集合体20はごく薄く、単位面積当たりに占める繊維21の割合は20〜50%であり、30〜40%で均一に分散して堆積していることが好ましい。なお、繊維21の面積の割合は、繊維集合体20の一方の主面(例えば、上面)において、繊維集合体20における所定の面積(例えば、短軸3mm×長軸6mmの楕円形)の領域において、光沢度計により光沢度を測定し、繊維21と繊維21以外の領域との光沢度の違いに基づき、繊維21が占める面積を算出し、単位面積当たりの面積比率(%)に換算することにより求めることができる。
(2)基材準備工程(図6(b))
本工程では、接着剤40を備える基材30を準備する。
(基材)
基材30は、主に、繊維集合体20を支持するために用いられる。
基材30は特に限定されず、従来の培養用足場に利用されるものを用いることができる。基材30としては、培養する生物組織や微生物の種類などに応じて、樹脂フィルム、不織布などの多孔質基材、ガラス製あるいは樹脂材料製の基板、あるいは、これらの組み合わせが挙げられる。
接着剤40は、例えばディスペンサー55により、基材30の所定の位置に帯状に配置される。シリコーン樹脂等の感圧接着剤は、帯状のフィルムに成形された後、基材30に配置されてもよい。
(3)転写工程(図6(c))
本工程では、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材30に転写する。これにより、繊維集合体20および基材30を備える培養用足場100が得られる。
転写工程に先立って、繊維集合体20は、巻取回転体10に捲回された状態で切断予定箇所Cにおいて切断される。切断予定箇所Cは、例えば、基材30の形状に沿って設定される。繊維集合体20は、例えば、回転軸Aに沿う方向に切断される。この切断部をきっかけにして、繊維集合体20は基材30に転写される。切断装置としては特に限定されず、例えば、長尺カッター等が挙げられる。
基材30は、XZステージ52に支持された架台53に載置されて、搬送される。このとき、基材30は、巻取回転体10の周面の移動速度(周速)よりも相対的に速い速度で、X軸方向に搬送されることが好ましい。これにより、弛みがさらに抑制された状態で、繊維集合体20は基材30に転写される。XZステージ52は、架台53、ひいては架台53に載置される基材30を、回転軸Aに垂直な方向(X軸方向)および上下方向(Z軸方向)に搬送することができる。
一方、転写工程では、基材30を、巻取回転体10の回転により搬送させてもよい。すなわち、基材30を所定の位置にまで搬送した後、架台53を上昇して基材30を巻取回転体10に押し付ける。次いで、巻取回転体10を回転させて、凸部10Pと基材30との間に生じる摩擦力により基材30を搬送させてもよい。これにより、基材30の相対的な搬送速度が巻取回転体10の周速と同じになり、繊維集合体20の弛みが抑制される。また、基材30の位置合わせが容易となるため、繊維集合体20の転写ずれが抑制される。繊維集合体20が転写された後、速やかに架台53を降下して、基材30を巻取回転体10から離間させる。
本発明により得られる培養用足場および繊維集合体は、一方向に配列した繊維を、弛みのない状態で備えるため、特に、成長に方向性がある生物組織または微生物を培養するための培養用足場として有用である。
10:巻取回転体
10P:凸部
10R:リブ
11:回転基体
12:凹凸シート
121:支持シート
122:シリコーンゴム
20:繊維集合体
21:繊維
22:原料液
30:基材
40:接着剤
51:ノズル
52:XZステージ
53:架台
100:培養用足場

Claims (5)

  1. 細胞、生物組織または微生物の培養に用いる培養用足場の製造方法であって、
    繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させるとともに、前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積工程と、
    接着剤を備える基材を準備する基材準備工程と、
    前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を前記基材に前記接着剤を介して転写する転写工程と、を備え、
    前記繊維集合体は、一方向に配列した複数の繊維の集合体であり、
    前記巻取回転体の前記周面に、前記巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する複数の帯状の凸部が配置されており、
    前記転写工程において、前記繊維集合体の任意の前記凸部からの剥離が開始する開始地点および前記剥離が終了する終了地点が、前記接着剤に接着される、培養用足場の製造方法。
  2. 前記接着剤が、シリコーン樹脂、ホットメルト樹脂または紫外線硬化樹脂である、請求項1に記載の培養用足場の製造方法。
  3. 前記凸部の少なくとも前記繊維との接触部に、シリコーンゴム層を備える、請求項1または2に記載の培養用足場の製造方法。
  4. 前記巻取回転体が、回転基体と、前記回転基体の周囲に捲回された支持シートとを備え、
    前記凸部が、前記支持シートに配置されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の培養用足場の製造方法。
  5. 前記接着剤は、前記基材の表面の少なくとも一部に配置されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の培養用足場の製造方法。
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