JP6952286B2 - 培養用足場の製造方法およびその製造装置 - Google Patents

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Description

本発明は、培養用足場の製造方法およびその製造装置に関し、特に、一方向に配列した繊維を備える培養用足場の生産性の向上に関する。
近年、生物組織や微生物を培養するための培養用足場として、繊維基材が注目されている(特許文献1参照)。繊維基材は、例えば、織物、編物あるいは不織布であり、三次元の構造を備える。そのため、in vitroで生理的環境に近い状態で、生物組織や微生物を培養することができる。
特表2010−517590号公報
生物組織や微生物の成長に方向性が見られる場合、繊維基材を構成する繊維は、ある一方向に配列していることが望ましい。生物組織や微生物が成長し易くなるためである。しかし、通常、繊維基材は、繊維同士の交絡によって形状が保持されており、上記のような配列性を有さない。
本発明の一局面は、細胞、生物組織または微生物の培養に用いる培養用足場の製造方法であって、繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させるとともに、前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積工程と、前記巻取回転体の周面に堆積された前記繊維集合体を加熱する加熱工程と、前記巻取回転体を回転させながら、加熱された前記繊維集合体を基材に転写する転写工程と、を備え、前記繊維集合体は、一方向に配列した複数の繊維の集合体であり、前記巻取回転体の前記周面に、前記巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する複数の帯状の加熱層が配置されており、前記加熱工程では、前記加熱層により前記繊維集合体が加熱される、培養用足場の製造方法に関する。
本発明の他の一局面は、細胞、生物組織または微生物の培養に用いる培養用足場の製造装置であって、繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させるとともに、前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積部と、前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を基材に転写する転写部と、を備え、前記繊維集合体は、一方向に配列した複数の繊維の集合体であり、前記巻取回転体が、その周面に、前記巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する複数の帯状の加熱層を備え、前記転写部では、前記加熱層により加熱された前記繊維集合体が前記基材に転写される、培養用足場の製造装置に関する。
本発明に係る製造方法および製造装置によれば、一方向に配列した繊維を備える培養用足場を、効率よく製造することができる。
本発明に係る巻取回転体の一例を示す斜視図(a)および平面図(b)である。 本発明の第1実施形態にかかる巻取回転体の要部を模式的に示す断面図である。 本発明の第1実施形態にかかる他の巻取回転体の要部を模式的に示す断面図である。 本発明の第2実施形態にかかる巻取回転体の要部を模式的に示す断面図である。 本発明に係る製造方法の各工程における巻取回転体および/または基材を模式的に示す側面図である((a)および(b))。 本発明に係る巻取回転体の他の例を示す分解側面図である。 繊維の配列を説明するための繊維集合体の一部の領域の概略上面図である。
繊維を紡糸しながら巻取回転体で巻き取っていくことにより、巻取回転体の周面に形成される繊維集合体は、高い配列性を備える培養用足場として有用である。しかし、その配列性を保持したまま基材に転写することは容易ではない。繊維同士は、巻取回転体から繊維集合体を剥離したときに、その配列を維持できる程度に交絡していないためである。
本実施形態では、繊維の一方向への配列を維持した状態で繊維集合体を基材に転写するために、巻取回転体の周面に加熱層を配置する。転写工程の前に繊維集合体を加熱することにより、繊維集合体は軟化して、巻取回転体から剥離され易くなる。よって、繊維集合体は、繊維の配列を維持したまま、基材に容易に転写される。さらに、繊維集合体が軟化した状態で基材に転写されるため、繊維集合体と基材との密着性が向上する。これにより、繊維集合体と基材との密着に必ずしも接着剤を用いることを要しないため、生産性およびコストの面でも有利である。
加熱層は、巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する帯状に配置される。一方、繊維集合体を構成する繊維は、巻取回転体の周面に周回するように、つまり、加熱層と交差する方向に配列している。加熱層の延伸方向と繊維の配列方向とを交差させて、繊維を間欠的に加熱することによって、巻取回転体の周面に堆積する繊維を、その集合体(繊維集合体)として基材に転写させることがさらに容易となる。さらに、巻取回転体の周面を部分的に加熱するため、熱効率が高まる。
(加熱層)
以下、加熱層について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、加熱層を備える巻取回転体の一例を示す斜視図(a)および平面図(b)である。図1では、巻取回転体の周面に堆積する繊維(繊維集合体)の一部も併せて示している。
加熱層60は、帯状であって、巻取回転体10の周面10Sにおいて、巻取回転体10の回転軸Aに沿う延伸方向D60に延伸している。延伸方向D60は、回転軸Aに平行である場合に限られず、延伸方向D60と回転軸Aとのなす角度θ60(ただし、θ60<90°)は、例えば、0°以上、30°以下である。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、角度θ60は0°以上、20°以下であることが好ましい。
延伸方向D60は、繊維21の配列方向D21と交差する方向である。延伸方向D60と配列方向D21とのなす角度θ(ただし、θ≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下である。なお、延伸方向D60は、加熱層60を巻取回転体10の周面10Sの法線方向から見たとき、加熱層60の長手方向の中心線Lが延伸する方向である。中心線Lが曲線を含む場合、延伸方向D60は、中心線Lを囲む最小の矩形の中心線が延伸する方向である。
加熱層60の形状は、帯状である限り特に限定されない。帯状とは、加熱層60の延伸方向D60の長さが、延伸方向D60に垂直な方向の長さよりも長い形状である。加熱層60を巻取回転体10の周面10Sの法線方向から見たときの形状としては、例えば、矩形、台形等が挙げられる。
加熱層60の数は特に限定されず、2本以上であればよい。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、巻取回転体10の周面10Sに3本以上配置されることが好ましく、10本以上配置されることが好ましい。また、同様の観点から、加熱層60は等間隔に配置されることが好ましい。
加熱層60の延伸方向D60と直交する方向(以下、短手方向と称す)の長さ(幅)は特に限定されない。なかでも、繊維集合体20の剥離性の観点から、すべての加熱層60の巻取回転体10の周面10Sに当接する総面積が、巻取回転体10の周面10Sの表面積の10%以上、80%以下、特に30%以上、70%以下になるように、各加熱層60の幅を決定することが好ましい。加熱層60の延伸方向D60の長さも特に限定されない。なかでも、巻取回転体10の周面10Sのうち、少なくとも繊維21が堆積し得る領域にわたって、加熱層60が延伸していることが好ましい。
加熱層60における発熱の原理は、特に限定されない。例えば、IH(Induction Heating:誘導加熱)により生じたうず電流を加熱層60に流し、発生したジュール熱を利用する方法であってもよいし、加熱層60に直接的に電流を流し、発生したジュール熱を利用する方法であってもよい。これらの場合、加熱層60の材質としては、例えば、金属材料または導電性を有する樹脂が挙げられる。
巻取回転体10の周面10Sが熱伝導性を有する場合、加熱層と周面10Sとの間に、断熱層が配置されることが好ましい。これにより、周面10S全体が加熱されることが抑制されて、繊維を間欠的に加熱することができるとともに、熱効率がさらに向上する。
以下、加熱層が金属材料により形成される形態(第1実施形態)、および、加熱層が導電性を有する樹脂組成物により形成される形態(第2実施形態)を例に挙げて、図面を参照しながら詳細に説明する。図2Aは、第1実施形態にかかる巻取回転体の要部を模式的に示す断面図であり、図2Bは、第1実施形態にかかる他の巻取回転体の要部を模式的に示す断面図である。図2Cは、第2実施形態にかかる巻取回転体の要部を模式的に示す断面図である。
[第1実施形態]
本実施形態では、加熱層60Aが金属材料により形成されている。さらに、加熱層60Aと周面10Sとの間には、断熱層61が配置されている。
(加熱層)
加熱層60Aの材質は金属材料である限り、特に限定されない。金属材料としては、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル−クロム合金、鉄−クロム合金、タングステン等が例示される。なかでも、適度な剛性を有する点で、ステンレス鋼が好ましい。
金属材料の形態は特に限定されず、例えば、箔状であってもよいし、線状であってもよい。線状の金属材料は、例えば、複数本が密接して、あるいは、間隔をあけて同一平面上に並んで配置されて、加熱層60Aを形成する。
加熱層60Aの厚みも特に限定されず、所望の発熱温度に応じて適宜設定すればよい。加熱層60Aの厚みは、ステンレス鋼の場合、例えば2〜50μmである。
(断熱層)
断熱層61の材質は断熱性を有する限り、特に限定されない。このような材質としては、各種樹脂材料が挙げられる。樹脂材料には、合成樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)、天然樹脂、エラストマー、天然ゴムおよび合成ゴムが含まれ得る(以下、同じ)。なかでも、耐熱性の点で、シリコーンゴム、フッ素ゴムが好ましい。
断熱層61の厚みは特に限定されず、発熱温度に応じて適宜設定すればよい。断熱層61の厚みは、例えば、80〜4900μmである。
断熱層61は、断熱効果の観点から、加熱層60Aの周面10S側の全面に対向するように配置されることが好ましい。断熱層61の短手方向の長さ(幅W)は、加熱層60Aの短手方向の長さ(幅WH1)と同じか、それよりも大きいことが好ましい。断熱層61は、周面10Sの全面を覆うように配置されてもよい。
(第1樹脂層)
本実施形態では、さらに、周面10Sに、加熱層60A(金属材料の表面)の少なくとも一部を覆うとともに、剥離性を有する第1樹脂層62が配置される。これにより、繊維集合体20は、周面10Sからさらに剥離され易くなる。なかでも、加熱層60Aの全面(金属材料の全表面)が、第1樹脂層62により覆われることが好ましい。
第1樹脂層62は、例えば図2Aに示すように、加熱層60Aに対応するように帯状に配置されてもよい。この場合、周面10Sには、加熱層60Aおよび第1樹脂層62による凹凸が形成される。これにより、繊維集合体20の剥離は、さらに容易になる。
加熱層60Aを備え、周面10Sに形成される凹凸の高さは特に限定されない。なかでも、繊維21の弛みを抑制し、一方向への配列を維持し易い点で、上記凹凸の高さは過度に高くないことが好ましい。上記凹凸の高さは、例えば、100〜5000μmである。上記凹凸の高さは、巻取回転体10の周面10Sの法線方向における平均値である。加熱層60A、断熱層61および第1樹脂層62の厚みについても同様である。
第1樹脂層62の短手方向の長さ(幅W)は、加熱層60Aを巻取回転体10の周面10Sの法線方向から見たとき、加熱層60Aの短手方向の長さ(幅WH1)よりも大きいことが好ましい。幅Wと幅WH1との比:W/WH1は、1より大きく、2以下であってもよい。
通常、繊維21の第1樹脂層62のエッジ62Eに接触する部分にはテンションがかかり易く、また、エッジ62Eには、加熱層60Aで発生した熱が集中し易い。しかし、第1樹脂層62の上記幅Wを、加熱層60Aの上記幅WH1よりも大きくすることにより、少なくとも一方のエッジ62E近傍は加熱され難くなる。そのため、繊維21の損傷、さらには断糸が抑制され易くなる。
あるいは、第1樹脂層62は、図2Bに示すように、周面10Sの全面を覆うように配置されてもよい。この場合、断熱層61は、周面10Sの全面を覆うように配置されてもよいし、加熱層60Aに対応する領域に帯状に配置されてもよい。
第1樹脂層62の材質は、剥離性を有する樹脂材料(第1樹脂)である限り、特に限定されない。なかでも、第1樹脂としては、シリコーンゴムが好ましく例示される。これにより、繊維集合体20の周面10Sからの剥離性がさらに向上する。一方、シリコーンゴムは適度な粘着性を備えるため、転写工程の前に繊維集合体20が周面10Sから剥離することが抑制される。
シリコーンゴムとは、主鎖がケイ素−酸素結合(シロキサン結合)により形成される、熱硬化性の化合物である。シリコーンゴムとしては、例えば、メチルシリコーンゴム、ビニル−メチルシリコーンゴム、フェニル−メチルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられる。
第1樹脂層62の厚みは特に限定されず、周面10Sに上記凹凸が形成される場合は、その高さ、加熱層60Aおよび断熱層61の厚みを考慮して、適宜設定すればよい。第1樹脂層62の厚みは、例えば、10〜2000μmである。
[第2実施形態]
本実施形態では、加熱層60Bが導電性を有する樹脂組成物により形成されている。また、加熱層60Bは、第1実施形態と同様、断熱層61を備える。本実施形態では、周面10Sには、加熱層60Bおよび断熱層61を含む凹凸が形成されている。
(加熱層)
加熱層60Bを形成する樹脂組成物は、例えば、導電性フィラーと各種樹脂材料(第2樹脂)との混合物である。
導電性フィラーの種類は特に限定されず、例えば、銅、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、炭素材料等が挙げられる。第2樹脂に対する導電性フィラーの配合量も特に限定されず、所望の発熱温度に応じて適宜設定すればよい。第2樹脂100質量部に対する導電性フィラーの配合量は、例えば、20〜200質量部である。
第2樹脂の種類も特に限定されない。なかでも、剥離性を有する樹脂材料が好ましい。この場合、加熱層60Bを覆う第1樹脂層62を配置することが省略できる。第2樹脂としては、第1樹脂と同様のシリコーンゴムが好ましく例示できる。
加熱層60Bの厚みも特に限定されず、所望の発熱温度に応じて適宜設定すればよい。ただし、周面10Sに上記凹凸が形成される場合は、その高さが100〜5000μmとなるように、加熱層60Bの厚みを設定することが好ましい。加熱層60Bの厚みは、例えば、80〜3000μmである。加熱層60Bの短手方向の長さ(幅WH2)は、断熱層61の幅Wと同じか、それよりも小さいことが好ましい。
[製造方法および製造装置]
本実施形態に係る培養用足場の製造方法は、繊維21の原料液をノズルから吐出して、繊維21を生成させるとともに、繊維21を、巻取回転体10の周面10Sに周回するように堆積させて、繊維集合体20を形成する堆積工程と、巻取回転体10の周面10Sに堆積された繊維集合体20を加熱する加熱工程と、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材30に転写する転写工程と、を具備する。このとき、巻取回転体10の周面10Sに、巻取回転体10の回転軸Aに沿う方向に延伸する複数の帯状の加熱層60が配置されている。そして、加熱工程では、加熱層60により繊維集合体20が加熱される。
上記の製造方法は、繊維21の原料液をノズルから吐出して、繊維21を生成させるとともに、繊維21を、巻取回転体10の周面10Sに周回するように堆積させて、繊維集合体20を形成する堆積部と、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材に転写する転写部と、を備える装置により製造される。このとき、巻取回転体10は、その周面10Sに複数の帯状の加熱層60を備える。転写部では、加熱層60により加熱された繊維集合体20が基材30に転写される。
以下、本実施形態に係る培養用足場の製造方法および製造装置について、図面を参照しながら、詳細に説明する。図3(a)および(b)は、本実施形態の各工程における巻取回転体10および/または基材30等を模式的に示す側面図である。本実施形態において、培養用足場100は、繊維集合体20と基材30とを備える。
(1)堆積工程(図3(a))
本工程では、原料液22から繊維21を生成させるとともに、繊維21を巻取回転体10の周面10Sを1周以上、周回させながら堆積させる。これにより、巻取回転体10の周面10Sには、繊維集合体20が形成される。
原料液22から繊維21を生成する方法(紡糸法)は特に限定されず、生成させる繊維21の種類等に応じて適宜選択すればよい。紡糸法としては、例えば、溶液紡糸法、溶融紡糸法および電界紡糸法等が挙げられる。
溶液紡糸法は、繊維21の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を、原料液22として用いる方法である。溶媒を用いる溶液紡糸法には、いわゆる湿式紡糸法および乾式紡糸法がある。なかでも、繊維21を一方向に配列させた状態で堆積させ易い点で、乾式紡糸法が好ましい。乾式紡糸法では、原料液22を空気中に吐出した後、加熱等により溶媒を除去することにより、繊維21が形成される。
溶融紡糸法は、繊維21の原料を加熱して溶融させた溶融液を、原料液22として用いる方法である。得られた原料液22は、空気中に吐出された後、冷却されることにより、繊維状に固化する。この場合、通常、繊維21の原料を溶解するための溶媒は使用しない。よって、溶融紡糸法は、溶媒の除去作業が省略できる点で好ましい。
電界紡糸法は、繊維21の原料を溶媒に溶解して得られた溶液を原料液22として用いる点で、溶液紡糸法と共通する。しかし、電界紡糸法では、原料液22に高電圧を印加しながら空気中に吐出する。原料液22に含まれる溶媒は、巻取回転体10の周面10Sに到達するまでの過程において揮発する。
電界紡糸法では、原料液22に高電圧を印加するため、原料液22をプラスあるいはマイナスに帯電させる。このとき、巻取回転体10をグランドさせるか、あるいは、原料液22とは逆の極性に帯電させることにより、空気中に吐出された原料液22の吐出端は巻取回転体10に引き寄せられて、その周面10Sに付着する。そして、原料液22を吐出しながら巻取回転体10を回転させることにより、溶液紡糸法および溶融紡糸法と同様に、繊維21は、巻取回転体10の周面10Sに周回しながら堆積し、巻取回転体10の周面10Sの少なくとも一部を覆い、配列方向D21に配列する繊維21を備える繊維集合体20が形成される。
(巻取回転体)
巻取回転体10の構成は、回転可能である限り特に限定されず、ドラム状であってもよいし、複数のロールで張架されたベルトであってもよい。後者の場合、少なくとも1本のロールを回転駆動させて、ベルトを回転させる。巻取回転体10の材質としては、例えば、金属材料、各種樹脂、各種ゴム、セラミックスおよびこれらの組み合わせが挙げられる。巻取回転体10がベルトである場合、ベルトは、金属ベルトであってもよいし、樹脂ベルトであってもよい。電界紡糸法により繊維21が紡糸される場合、樹脂ベルトは導電性を備えることが好ましい。巻取回転体10の外形は、例えば、円柱または角柱であってもよい。
繊維21は、巻取回転体10の周面10Sを周回する方向(以下、配列方向D21)に配列しながら、巻取回転体10の周面10Sに堆積される。配列方向D21は、例えば、巻取回転体10の回転方向(すなわち、巻取回転体10の回転軸Aに垂直な方向)に沿う方向である。配列方向D21と回転軸Aとのなす角度θ21(ただし、θ21≦90°)は、例えば、60°以上、90°以下でもよい。なお、配列方向D21は、繊維21を巻取回転体10の周面10Sの法線方向から見たときの、繊維21の長手方向である(図2(b)参照)。繊維21の長手方向は、巻取回転体10の周面10Sの法線方向から見たときの繊維21の近似直線をとって、求めてもよい。角度θ21は、複数の繊維21の配列方向D21と回転軸Aとのなす角度の平均値である。巻取回転体10に堆積する複数の繊維21の配列方向D21は、上記範囲内で互いに異なっていてもよい。
取扱い性の観点から、加熱層60は、巻取回転体10に着脱可能な状態で配置されることが好ましい。例えば、図4に示すように、支持シート121と、支持シート121の表面に帯状に配置された加熱層60とを備える加熱シート12を準備し、この加熱シート12を回転基体11の周囲に捲回してもよい。この構成により、加熱層60の配設が容易となるとともに、加熱層60が劣化した場合の交換も容易となる。加熱シート12には、加熱層60とともに、所望の形状の断熱層61および/または第1樹脂層が配置されてもよい。
支持シート121の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリイミド等が挙げられる。繊維21が電界紡糸法により生成される場合、支持シート121は導電性を備えることが好ましい。支持シート121の厚みも特に限定されず、支持シート121の材質等に応じて適宜設定すればよい。
(原料液)
溶液紡糸法や電界紡糸法で利用する原料液22は、繊維21の原料と溶媒とを含む。溶融紡糸法で利用する原料液22は、溶融した繊維21の原料を含む。溶融紡糸法では、原料の溶媒への溶解性を考慮する必要がないため、原料の選択肢が広がる。
繊維21の原料としては、生物組織や微生物の培養用足場として用いることができる限り特に限定されない。なかでも、生物組織や微生物に対する親和性が高く、培養する際、生物組織や微生物にストレスを与え難い点で、繊維21の原料は、ポリスチレンブロックおよびポリブタジエンブロックを含むブロックポリマーと、当該ブロックポリマーとは異なるスチレン樹脂と、を含むことが好ましい。
ブロックポリマーは、例えば、ポリブタジエン(PB)ブロックとポリスチレン(PS)ブロックとが連結したジブロック体であってもよいが、PBブロックとPSブロックとが交互に連結したトリブロック体以上のポリブロック体が好ましい。ブロックポリマーは、スチレン樹脂との親和性を確保する観点から、少なくとも末端にPSブロックを含むことが好ましい。PBブロックは、得られる繊維21の柔軟性や伸度を高める。
ブロックポリマー中のPBブロックの含有量は、例えば、10〜30質量%であり、15〜30質量%であることが好ましく、20〜30質量%または20〜25質量%であることがさらに好ましい。PBブロックの含有量がこのような範囲である場合、スチレン樹脂との親和性が高くなって、均質な繊維21が生成され易くなる。また、得られる繊維21は高い柔軟性および伸度を備える。さらに、繊維21を電界紡糸法により生成させる場合、高い曳糸性が確保される。
スチレン樹脂としては、上記のブロックポリマーとは異なるポリマーが使用される。スチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン(スチレンホモポリマー)、スチレンと他の共重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせてもよい。
溶液紡糸法あるいは電界紡糸法の場合、繊維21の柔軟性と形成し易さとを両立させる観点から、ブロックポリマーとスチレン樹脂との質量比(=ブロックポリマー:スチレン樹脂)は、例えば、2:1〜1:5であり、好ましくは1:1〜1:4である。特に、溶液を用いる電界紡糸法により繊維集合体20を形成する場合には、質量比がこのような範囲であると、ブロックポリマーおよびスチレン樹脂を溶媒に溶解し易く、高い紡糸性を確保することもできる。
溶媒としては、繊維21の原料を溶解し、揮発などにより除去可能なものであれば特に制限されず、原料の種類や製造条件に応じて、水および有機溶媒から適宜選択して使用できる。溶媒としては、非プロトン性の極性有機溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド(鎖状または環状アミドなど);ジメチルスルホキシドなどのスルホキシドなどが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
原料液22の固形分濃度は、溶媒の種類などに応じて調節できるが、例えば、5〜50質量%であり、10〜30質量%であってもよい。原料液22は、必要に応じてさらに添加剤を含んでもよい。
溶融紡糸法の場合、ブロックポリマー(好ましくは、ジブロック体)とスチレン樹脂との質量比(=ブロックポリマー:スチレン樹脂)は、例えば、5:1〜1:1であってもよく、4:1〜2:1であってもよい。
(繊維)
上記原料液22から生成される繊維21は、上記ブロックポリマーおよびスチレン樹脂、さらには、必要に応じて添加剤を含む。繊維21の平均繊維径は、例えば、0.5μm〜20が好ましく、1〜8μmがより好ましく、1.5〜4μmが特に好ましい。
なお、平均繊維径とは、繊維21の直径の平均値である。繊維21の直径とは、繊維21の長さ方向に対して垂直な断面の直径である。そのような断面が円形でない場合には、最大径を直径と見なしてよい。また、繊維集合体20の1つの主面の法線方向から見たときの、繊維21の長さ方向に対して垂直な方向の幅を、繊維の直径と見なしてもよい。平均繊維径は、例えば、繊維集合体20に含まれる任意の10本の繊維の任意の箇所の直径の平均値である。
(繊維集合体)
繊維集合体20は、複数の繊維21の集合体である。繊維集合体20において、複数の繊維21は一方向に配列している。複数の繊維21が一方向に配列しているとは、繊維集合体20において、繊維21同士が交差していないか、繊維21同士が交わる平均的な角度が、0°を超え60°以下であることをいう。このように、複数の繊維21が配列した状態である場合、その繊維21の配列方向に沿って繊維21が伸び易いため、生物組織や微生物へのストレスも低減できる。よって、繊維21の配列方向に沿って生物組織や微生物が成長し易くなる。
ここで、繊維21同士が交わる平均的な角度は、繊維21の平均的な長さ方向の交わりから決定できる。繊維21の平均的な長さ方向は、例えば、繊維集合体20をその法線方向から見たときのSEM写真に基づいて決定することができる。図5は、繊維の配列を説明するための繊維集合体の概略上面図である。図5では、繊維集合体20を法線方向から撮影したSEM写真における繊維集合体20の状態を模している。複数の繊維21で構成される繊維集合体20を法線方向から見て、所定のサイズ(例えば、100μm×100μm)の正方形の領域Rを設定する。このとき、領域Rは、領域R内に8本以上の繊維21が入り、かつ領域R内に位置する繊維21の50%以上が領域Rの対向する2辺と交差するように決定する。この領域Rにおいて、ある繊維21が、上記の対向する2辺と交差する2点間を結んだ直線(図5では点線)の方向を、その繊維21の平均的な長さ方向とする。
繊維21同士が交わる平均的な角度は、例えば、上記領域Rにおいて、任意に選択した複数(例えば、12本)の繊維21から、さらに任意に2本の繊維21を選択し、各繊維21の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図5のθ1)を求める。別の2本の繊維21を選択し、各繊維21の平均的な長さ方向が交わる角度(例えば、図5のθ2)を求める。このような作業を、選択した残りの繊維21(例えば、8本)について行う。そして、それぞれの角度の平均を算出し、繊維21同士が交わる平均的な角度とする。
繊維集合体20の単位面積に占める繊維21の面積の割合は10〜90%から選択できる。例えば、心筋細胞の培養や電位測定装置に利用する場合には、繊維集合体20はごく薄く、単位面積当たりに占める繊維21の割合は20〜50%であり、30〜40%で均一に分散して堆積していることが好ましい。なお、繊維21の面積の割合は、繊維集合体20の一方の主面(例えば、上面)において、繊維集合体20における所定の面積(例えば、短軸3mm×長軸6mmの楕円形)の領域において、光沢度計により光沢度を測定し、繊維21と繊維21以外の領域との光沢度の違いに基づき、繊維21が占める面積を算出し、単位面積当たりの面積比率(%)に換算することにより求めることができる。
(2)加熱工程
本工程では、巻取回転体10の周面10Sに堆積された繊維集合体20を加熱する。繊維集合体20の加熱は、巻取回転体10の周面10Sに配置された加熱層60により行われる。
加熱層60は、例えば、通電により発熱する。発熱温度は、繊維21の軟化点あるいは融点等を考慮して、適宜設定すればよい。発熱温度は、例えば、繊維21が80〜140℃になるように調整する。
(3)転写工程(図3(b))
本工程では、巻取回転体10を回転させながら、繊維集合体20を基材30に転写する。これにより、繊維集合体20および基材30を備える培養用足場100が得られる。
転写工程に先立って、繊維集合体20は、巻取回転体10に捲回された状態で切断予定箇所Cにおいて切断される。切断予定箇所Cは、例えば、基材30の形状に沿って設定される。繊維集合体20は、例えば、回転軸Aに沿う方向に切断される。この切断部をきっかけにして、繊維集合体20は基材30に転写される。切断装置としては特に限定されず、例えば、長尺カッター等が挙げられる。
基材30は、XZステージ52に支持された架台53に載置されて、搬送される。このとき、基材30は、巻取回転体10の周面10Sの移動速度(周速)よりも相対的に速い速度で、X軸方向に搬送されることが好ましい。これにより、弛みがさらに抑制された状態で、繊維集合体20は基材30に転写される。XZステージ52は、架台53、ひいては架台53に載置される基材30を、回転軸Aに垂直な方向(X軸方向)および上下方向(Z軸方向)に搬送することができる。
一方、転写工程では、基材30を、巻取回転体10の回転により搬送させてもよい。すなわち、基材30を所定の位置にまで搬送した後、架台53を上昇して基材30を巻取回転体10に押し付ける。次いで、巻取回転体10を回転させて、周面10Sと基材30との間に生じる摩擦力により基材30を搬送させてもよい。これにより、基材30の相対的な搬送速度が巻取回転体10の周速と同じになり、繊維集合体20の弛みが抑制される。また、基材30の位置合わせが容易となるため、繊維集合体20の転写ずれが抑制される。繊維集合体20が転写された後、速やかに架台53を降下して、基材30を巻取回転体10から離間させる。
(基材)
基材30は、主に、繊維集合体20を支持するために用いられる。
基材30は特に限定されず、従来の培養用足場に利用されるものを用いることができる。基材30としては、培養する生物組織や微生物の種類などに応じて、樹脂フィルム、不織布などの多孔質基材、ガラス製あるいは樹脂材料製の基板、あるいは、これらの組み合わせが挙げられる。
転写工程の前に、基材30に接着剤40を付与してもよい。これにより、繊維集合体20と基材30との接着性がさらに高まる。接着剤40の種類は特に限定されず、例えば、シリコーン樹脂、ホットメルト樹脂または紫外線硬化樹脂等が挙げられる。
接着剤40は、基材30の加熱層60に対応する位置に付与されることが好ましい。この場合、繊維集合体20および基材30は、接着剤40を介在させた状態で、加熱層60とXZステージ52に支持された架台53とで押圧される。よって、繊維集合体20と基材30との接着性が向上する。
接着剤40は、例えばディスペンサー55により、基材30の所定の位置に帯状に配置される。シリコーン樹脂等の感圧接着剤は、帯状のフィルムに成形された後、基材30に配置されてもよい。接着剤40の付与量は、特に限定されない。なかでも、繊維集合体20と基材30との接着性を確保しながら生物組織や微生物の培養を阻害しないようにする観点から、接着剤40の付与量は、0.5〜100mg/cmであることが好ましい。
本発明により得られる培養用足場および繊維集合体は、一方向に配列した繊維を備えるため、特に、成長に方向性がある生物組織または微生物を培養するための培養用足場として有用である。
10:巻取回転体
10S:周面
11:回転基体
12:加熱シート
121:支持シート
20:繊維集合体
21:繊維
22:原料液
30:基材
40:接着剤
51:ノズル
52:XZステージ
53:架台
60、60A、60B:加熱層
61:断熱層
62:第1樹脂層
62E:第1樹脂層のエッジ
100:培養用足場

Claims (8)

  1. 細胞、生物組織または微生物の培養に用いる培養用足場の製造方法であって、
    繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させるとともに、前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積工程と、
    前記巻取回転体の周面に堆積された前記繊維集合体を加熱する加熱工程と、
    前記巻取回転体を回転させながら、加熱された前記繊維集合体を基材に転写する転写工程と、を備え、
    前記繊維集合体は、一方向に配列した複数の繊維の集合体であり、
    前記巻取回転体の前記周面に、前記巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する複数の帯状の加熱層が配置されており、
    前記加熱工程では、前記加熱層により前記繊維集合体が加熱される、培養用足場の製造方法。
  2. 前記加熱層と前記巻取回転体の前記周面との間に、断熱層が配置されている、請求項1に記載の培養用足場の製造方法。
  3. 前記加熱層が金属材料により形成されており、
    前記巻取回転体の前記周面に、さらに、前記加熱層の少なくとも一部を覆うとともに、剥離性を有する第1樹脂を含む樹脂層が配置されている、請求項1または2に記載の培養用足場の製造方法。
  4. 前記加熱層を前記巻取回転体の前記周面の法線方向から見たとき、
    前記加熱層の延伸方向と直交する方向において、前記樹脂層の幅が、前記加熱層の幅よりも大きい、請求項3に記載の培養用足場の製造方法。
  5. 前記樹脂層が、シリコーンゴムにより形成される、請求項3または4に記載の培養用足場の製造方法。
  6. 前記加熱層が、導電性を有する樹脂組成物により形成される、請求項1または2に記載の培養用足場の製造方法。
  7. 前記樹脂組成物が、シリコーンゴムと導電性フィラーとを含む、請求項6に記載の培養用足場の製造方法。
  8. 細胞、生物組織または微生物の培養に用いる培養用足場の製造装置であって、
    繊維の原料液をノズルから吐出して、前記繊維を生成させるとともに、前記繊維を、巻取回転体の周面に周回するように堆積させて、繊維集合体を形成する堆積部と、
    前記巻取回転体を回転させながら、前記繊維集合体を基材に転写する転写部と、を備え、
    前記繊維集合体は、一方向に配列した複数の繊維の集合体であり、
    前記巻取回転体が、その周面に、前記巻取回転体の回転軸に沿う方向に延伸する複数の帯状の加熱層を備え、
    前記転写部では、前記加熱層により加熱された前記繊維集合体が前記基材に転写される、培養用足場の製造装置。
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