JP2007319074A - ナノファイバーを含む新規スキャフォールドおよびその用途 - Google Patents
ナノファイバーを含む新規スキャフォールドおよびその用途 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】細胞を生体内の環境に近づけた状態で培養することができ、かつ多様な細胞種に適応可能であるスキャフォールドの提供
【解決手段】ナノファイバーを含むスキャフォールド;該スキャフォールドの作製方法;該スキャフォールドを用いた細胞および組織の培養方法;該スキャフォールドを用いた細胞および組織の培養装置などを提供する。
【選択図】なし
【解決手段】ナノファイバーを含むスキャフォールド;該スキャフォールドの作製方法;該スキャフォールドを用いた細胞および組織の培養方法;該スキャフォールドを用いた細胞および組織の培養装置などを提供する。
【選択図】なし
Description
本発明は、細胞を生体内の環境に近づけた状態で培養することができる新規スキャフォールドおよびその用途に関する。より詳細には、本発明は、ナノファイバーを含むスキャフォールド、該スキャフォールドの作製方法、該スキャフォールドを用いた細胞および組織の培養方法などに関する。
三次元培養技術は、細胞自身が持つ医療用タンパク質などの物質生産能力、人工臓器や再生医療のための組織形成・修復能力などの機能を飛躍的に向上させることができる特徴を持つことが知られているため、医薬品開発(人工臓器および再生医療技術、医療用タンパク質の生産)、機能性食品開発、環境への影響調査(環境ホルモンの検出など)などを行うためのバイオ支援ツールとして非常に注目されている(非特許文献1〜4)。しかしながら、ターゲットとする細胞は、その由来により性質が異なるという特徴を持つため、三次元培養技術はいまだ克服されていない多くの問題を抱えている(非特許文献5〜7)。その中で、望ましい細胞培養の環境をサポートするためには、細胞自身が組織体(細胞が凝集すること)を形成し、本来の生体内環境と類似した形状を取ることが可能となる培養担体(細胞が立体的に生育可能な環境を支えるための骨格基質:スキャフォールド)の開発が強く望まれている。
三次元培養による組織形成の誘導は、基礎研究から先端医療分野まで非常に注目されている(非特許文献8)。例えば、ハイブリッド型人工肝臓用培養担体として開発されたポリウレタン発泡体ブロック(東洋紡社)、ポリエチレン中空糸(旭メディカル)、骨再生・吸収に適した培養担体(3Dリン酸カルシウムスキャフォールド、OPLAスキャフォールド、3Dコラーゲン複合体;BD Biosciences社)などの開発が行われている。また、医療用タンパク質の大量生産のための培養担体(セルロース Cytopore、デキストラン Cytodex、シリカ Cytoline;Amersham Biosciences社)も開発されている。しかしながら、これらの製品は、細胞との親和性(接着性)にターゲットを絞った製品であり、細胞の本来あるべき姿である、生体内での環境に類似した細胞の組織形成能は保有していないことから、正常組織由来の細胞(生体から取り出したばかりの細胞など)への利用は困難であることが考えられる。つまり、細胞と培養担体との親和性もさることながら、生体外でも生体内での培養環境を整えることができる新しい培養担体の開発が強く望まれている。
数ナノメートルから数ミクロンの直径の繊維は、非常に大きい表面積-体積比および非常に小さい孔径の高い空隙率のような驚くべき特性を有する。従って、これらの繊維は、再生医療、酵素固定および薬物放出材料などの多くの生物工学的応用の材料として期待されている(非特許文献9)。エレクトロスピニング法(エレクトロスプレーデポジション法や電界紡糸ともいう)は、このような極細繊維を製造するのに効果的な技術である。エレクトロスピニング法は、静電気力を用いて繊維を作製することができる既知の方法である(特許文献1)。エレクトロスピニング法は、ナノファイバーを作製する方法としてよく知られており、該方法により製造されたナノファイバーが、医療分野などで活用されている(例えば、生体材料(特許文献2)、細胞培養基材(特許文献3)など)。しかし、既存のナノファイバーは、本来再生医療に必要不可欠である生体内構造の模倣まで至っておらず、生体内構造に類似した形状で細胞を培養可能な培養担体の開発が必要とされる。
米国特許第1,975,504号
特開2005-290610号公報
特開2004-290133号公報
Strain AJら、Science、295(5557)、p.1005-9、Feb 8、2002年
Fuchs Eら、Cell、116(6)、p.769-78、Mar 19、2004年
Ball P、Nature、391(6663)、p.128、Jan 8、1998年
Boskey JB、Nature、315(6016)、p.176、May 16-22、1985年
Saito Nら、Nat Biotechnol.、19(4)、p.332-5、Apr、2001年
Hoffman RM、Stem Cells、11(2)、p.105-11、Mar、1993年
Lagasse Eら、Immunity、14(4)、p.425-36、Apr、2001年
Dunn J.C.Yら、FASEBJ、3、p.174-177、1989年
Venugopal, Jら、Appl. Biochem. Biotechnol.、125、p.147-158、2005年
本発明は、細胞を生体内の環境に近づけた状態で培養することができるスキャフォールドおよびその製造方法などを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、エレクトロスピニング法により作製されたナノファイバーからなるスキャフォールドを用いれば、細胞の配向性の保持や細胞の組織化など、細胞を生体内の環境に近づけた状態で培養することができることを見出した。また、本発明者らはこれらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下のものを提供する:
〔1〕ナノファイバーを含むスキャフォールド。
〔2〕ナノファイバーがエレクトロスピニング法により作製される、上記〔1〕記載のスキャフォールド。
〔3〕ナノファイバーが金属アルコキシドを含む溶液から作製される、上記〔1〕または〔2〕記載のスキャフォールド。
〔4〕ナノファイバーがゾルゲル法により作製される、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔5〕ナノファイバーがシリカナノファイバーである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔6〕ナノファイバーが焼成された形態である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔7〕ナノファイバーが表面修飾されている、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔8〕ナノファイバーが細胞接着因子により表面修飾されている、上記〔7〕記載のスキャフォールド。
〔9〕ナノファイバーがリン酸カルシウムにより表面修飾されている、上記〔7〕記載のスキャフォールド。
〔10〕ナノファイバーを加工しスキャフォールドを得ることを含む、スキャフォールドの作製方法。
〔11〕エレクトロスピニング法によりナノファイバーを作製することを含む、上記〔10〕記載の方法。
〔12〕ナノファイバーを焼成することをさらに含む、上記〔10〕または〔11〕記載の方法。
〔13〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを用いることを含む、細胞または組織の培養方法。
〔14〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを含む培養装置。
〔15〕以下の工程を含む、細胞機能を向上し得る物質のスクリーニング方法;
(a)被験物質を結合させた上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)上記工程(a)におけるスキャフォールドに結合した細胞の機能を測定し、被験物質を結合させていない上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドに結合した細胞の機能と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、細胞機能を向上し得る物質を選択する工程。
〔16〕以下の工程を含む、試料から特定の細胞を回収する方法;
(a)特定の細胞と結合する上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)該スキャフォールドと該試料を分離する工程、および
(c)該スキャフォールドに結合した細胞を回収する工程。
〔1〕ナノファイバーを含むスキャフォールド。
〔2〕ナノファイバーがエレクトロスピニング法により作製される、上記〔1〕記載のスキャフォールド。
〔3〕ナノファイバーが金属アルコキシドを含む溶液から作製される、上記〔1〕または〔2〕記載のスキャフォールド。
〔4〕ナノファイバーがゾルゲル法により作製される、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔5〕ナノファイバーがシリカナノファイバーである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔6〕ナノファイバーが焼成された形態である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔7〕ナノファイバーが表面修飾されている、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のスキャフォールド。
〔8〕ナノファイバーが細胞接着因子により表面修飾されている、上記〔7〕記載のスキャフォールド。
〔9〕ナノファイバーがリン酸カルシウムにより表面修飾されている、上記〔7〕記載のスキャフォールド。
〔10〕ナノファイバーを加工しスキャフォールドを得ることを含む、スキャフォールドの作製方法。
〔11〕エレクトロスピニング法によりナノファイバーを作製することを含む、上記〔10〕記載の方法。
〔12〕ナノファイバーを焼成することをさらに含む、上記〔10〕または〔11〕記載の方法。
〔13〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを用いることを含む、細胞または組織の培養方法。
〔14〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを含む培養装置。
〔15〕以下の工程を含む、細胞機能を向上し得る物質のスクリーニング方法;
(a)被験物質を結合させた上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)上記工程(a)におけるスキャフォールドに結合した細胞の機能を測定し、被験物質を結合させていない上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドに結合した細胞の機能と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、細胞機能を向上し得る物質を選択する工程。
〔16〕以下の工程を含む、試料から特定の細胞を回収する方法;
(a)特定の細胞と結合する上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)該スキャフォールドと該試料を分離する工程、および
(c)該スキャフォールドに結合した細胞を回収する工程。
本発明のスキャフォールドは、細胞の配向性を保持するので、生体内に近い状態で細胞を組織培養することができる。本発明のスキャフォールドは、細胞を組織化するので、生体内に近い状態で細胞を組織培養することができる。本発明のスキャフォールドは、ナノファイバーを含むので、高密度で細胞を培養することができる。本発明のスキャフォールドは、その細胞接着性を操作することができるので、多様な細胞種に適応することができる。
本発明のスキャフォールドは、ナノファイバーを含む。
本明細書において「スキャフォールド」とは、細胞を付着もしくは保持させその生育を可能とする、細胞や組織の足場となる材料のことをいう。スキャフォールドを用いて培養することにより、細胞同士の接触が増加し、細胞間相互作用を高めることができる。スキャフォールドを用いることにより、細胞は立体的な3次元構造で、つまりin vivoの組織環境に近い条件で培養され得る。
本明細書において「ナノファイバー」とは、平均径1nm〜3000nm、アスペクト比が100以上の繊維をいう。本発明に用いるナノファイバーの平均直径は、用途等に応じ適宜選択することが可能であり、例えば平均径50nm〜3000nmの繊維などが挙げられる。
ナノファイバーの材料としては、特に限定されず、具体的には、シリカ、アルミナ、Y2O3、ZrO2、チタニアなどのゾルゲル法を利用できる無機材料、キチン・キトサン、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸(PGA)などの生体分解性材料・有機材料などが挙げられ、特に制限されないが、シリカ、ポリビニルアルコール(PVA)およびその誘導体、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル、ポリエステル、ポリエチレンおよびその誘導体、ポリアクリロニトリル(PEN)、キチン、ポリグリコール酸(PGA)、ゼラチンおよびその誘導体、コラーゲンおよびその誘導体などが好ましい。これらの材料は、より安定性が高い成分であることが望ましいとの観点から、金属有機化合物の一種である金属アルコキシド(例えば、オルトケイ酸テトラエチル、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムエトキシドなど)を含む溶液から作製したものが好ましい。なお、これらナノファイバーの材料は、それぞれ単独で用いても、適宜混合して用いてもよい。
ナノファイバーは、自体公知の方法を用いて製造することが可能である。例えば、エレクトロスピニング法、分散法、析出法、DNAテンプレート法、LB法、テンプレート重合法、ディップペンナノリソグラフィー法などを用いることができる。好ましくは、本発明においてナノファイバーはエレクトロスピニング法により作製される。
エレクトロスピニング法とは、各種生体高分子やポリマーなどの溶液に高電圧を印加し、繊維を作製する方法である(米国特許第1,975,504号、高橋卓己ら,工業材料,51,34,2003年)。エレクトロスピニング法は、ナノレベルの繊維径の紡糸が可能であり、均一な径の繊維が形成されやすい特徴を有する。また、作製方法が簡便であること、材料の選択肢が多いこと、装置や材料のコストが低いことから、本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーの作製に適している。
本発明の方法の一実施態様において、ナノファイバーの材料は、好ましくはゾルゲル法により合成される。ゾルゲル法による合成において、該ナノファイバーの材料は、好ましくは一定温度(例えば、シリカナノファイバーの場合、70℃〜80℃など)雰囲気下で一定時間(例えば、シリカナノファイバーの場合、30分〜1時間など)乾燥される。
本発明の方法の一実施態様において、ナノファイバーの材料をシリンジなどに充填した後、注射針などのキャピラリーに電圧(例えば、10〜30kV)が印加される。その後、ナノファイバーの材料は、シリンジポンプなどを用いてシリンジから一定の速度で射出され、電圧によりナノオーダーの繊維が作製される。
射出された繊維を円筒(回転ドラム、巻き取り機など)を用いて巻き取ることにより、ナノファイバーシートが作製される。また、射出された繊維の巻き取り回転数を変化させることにより、ナノファイバーの繊維密度を変化させることができる。例えば、径10cmの円筒を用いて用途に応じた最適な回転数で巻き取られたナノファイバーを含む本発明のスキャフォールドは、後述の実施例で示されるように、肝細胞の培養に適している。本発明では、ナノファイバーの繊維密度を変化させることが可能であるため、各細胞種により異なる最適繊維密度に対応可能である。なお、本発明では、射出口は一つに限らず、異なる電極が2つ、例えば同電圧もしくは異なる電圧(例えば15KVと20KV)を印加させた射出口から紡糸させてもよく、3つの電極を用いる場合も含まれ、または3本を越える数の電極を使う場合も含まれる。
本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーは、焼成されていてもよい。ナノファイバーを焼成することにより、その表面の親水性を減少させ、逆に疎水性を上げることが可能である。例えば、シリカナノファイバーは、一般的にはゾルゲル法を応用して作製されているため、作製された未焼成のナノファイバーの表面にはSi-OH基が存在している。従って、未焼成のシリカファイバーの表面は親水性を呈する。ナノファイバーを焼成させることにより、表面のSi-OH基をSi-O-Siとし、表面を疎水性にすることが可能である。焼成の温度は、ナノファイバーの種類により異なるが、例えば、シリカナノファイバーを用いる場合、焼成の温度は50〜2000℃、好ましくは300〜1000℃の範囲とすることができる。また、焼成の時間は、通常30分以上、例えば1時間〜6時間の範囲とすることができる。例えば、約500℃で約3時間焼成したシリカナノファイバーを含むスキャフォールドは、表面が疎水性となり細胞の接着性が高くなる。ナノファイバー表面の親水度を変化させることにより、本発明のスキャフォールドの細胞接着率を操作することが可能となる。
また、本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーは、様々な細胞有用物質により表面修飾されていてもよい。ここで、表面修飾とは、基質であるナノファイバー表面上の細胞有用物質を物理的もしくは化学的に付着結合させることをいう。細胞有用物質とは、細胞・組織の本発明のスキャフォールドへの親和性向上に有用な物質、細胞機能の向上に有用な物質、細胞の分化に有用な物質、細胞への遺伝子導入に有用な物質などであり、例えば、プロネクチンF、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス、コラーゲン、ポリ−D-リジン、ポリ−L−リジンなどの細胞接着因子、リン酸カルシウム、リン石灰などの生体内分子、ペプチド、タンパク質などの生体分子、細胞膜上に発現しているタンパク質や糖脂質などに対する抗体、生理活性物質などが挙げられる。これらの細胞有用物質を表面修飾することにより、本発明のスキャフォールドの細胞接着率を操作することが可能となる。
本発明のスキャフォールドは、上述のように作製されたナノファイバーを適宜加工することで得ることができる。
本発明のスキャフォールドの形状としては、特に限定されないが、例えば、シート状、ブロック状、円筒状などが挙げられる。
本発明のスキャフォールドの大きさは、その上で細胞が培養可能な大きさであれば特に制限されず、その形状により異なるが、例えば、形状がシート状である場合、0.01cm2〜100cm2、好ましくは0.25cm2〜100cm2、より好ましくは0.25cm2〜10cm2である。厚みは1nm〜10cmであり、好ましくは1mm〜1cm、より好ましくは1mm〜0.5cmである。
本発明のスキャフォールドは、滅菌されていてもよい。また、滅菌した状態で細菌遮断性包材に封入するなどにより、無菌状態を保持した形態をとることもできる。なお、滅菌法はオートクレーブ、乾熱滅菌、エタノール滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、二酸化塩素ガス滅菌、放射線(γ線)滅菌、高周波滅菌、紫外線滅菌を用いるのが好ましい。例えば、スキャフォールドを細菌遮断性包材に封入するなどにより、無菌状態を保持し得る形態とした後、オートクレーブなどの滅菌処理を施すことにより、本発明のスキャフォールドを流通に供することができる。
上述のように、本発明のスキャフォールドは、細胞接着率を操作することが可能である。なお、「細胞接着率を操作」とは、細胞と本発明のスキャフォールドの接着性を向上または低下させることである。例えば、本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーの、表面の疎水性を上げる(親水性を下げる)または表面を細胞接着因子で修飾すると、スキャフォールドは細胞接着性が高くなり、また、表面の親水性を上げる(疎水性を下げる)と、スキャフォールドは細胞接着性が低くなる。本発明のスキャフォールドは培養する細胞種に合わせた細胞接着率の操作が可能なので、多種多様な細胞の培養に適応可能である。例えば、in vivoの組織環境に配向性の必要な細胞(例えば、骨芽細胞、線維芽細胞など)を培養する場合は、細胞接着性の高いスキャフォールドが適しており、また、in vivoの組織環境に自身のスフェロイド形成が必要な細胞(例えば、肝細胞など)を培養する場合は、細胞接着性の低いスキャフォールドが適している。
また、本発明のスキャフォールドに含まれるナノファイバーがシリカナノファイバーの場合、シリカはリン石灰形成能力を有するので、シリカナノファイバーを、少なくとも燐酸イオンとカルシウムイオンを含む溶液(例えば、人工体液)中でインキュベーションすることによりナノファイバー表面にリン石灰を析出させることができる。このようなシリカナノファイバーの硬骨結合形成能力により、本発明のスキャフォールドは人工骨用細胞担体としても有用である。
本発明のスキャフォールドは、細胞の配向性を保持することが可能であり、また、細胞を生体外で組織化させるので、生体内に近い状態で細胞を培養することができる。
従って本発明では、本発明のスキャフォールドを用いることを含む、細胞または組織の培養方法(以下、本発明の培養方法)が提供される。
本発明の培養方法において、本発明のスキャフォールドは、該スキャフォールド中のナノファイバー上またはナノファイバー空隙間で細胞または組織を培養するのに用いられる。
本発明のスキャフォールドで培養可能な細胞の種類は、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシなど)、鳥類(ニワトリ、ダチョウなど)、両生類(カエルなど)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカなど)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエなど)などの非脊椎動物、植物、酵母などの微生物などの細胞が挙げられる。より好ましくは、本発明で対象とされる細胞は、動物もしくは植物細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。
当該細胞は、例えば、MG63細胞、HepG2細胞などの癌細胞を含む培養細胞株であっても、線維芽細胞などの個体や組織より単離された細胞、あるいは組織もしくは組織片の細胞であってもよい。特に限定されないが、本発明の培養方法は、平面的培養では細胞が有する機能が低下あるいは消失する細胞の培養に特に好適である。
本発明の培養方法において、細胞の播種は、例えば、本発明のスキャフォールドがシート状である場合、該スキャフォールドを設置した培養器内に培養液を添加し、さらに細胞を該培養器内に添加することにより行われ得る。
また、本発明の培養方法において、播種される細胞の密度は、細胞の種類などにより異なるが、例えば約1×103細胞/ml〜約1×109細胞/ml、より好ましくは約1×104細胞/ml〜約1×107細胞/mlである。
本発明の培養方法の一実施態様において、in vivoの組織環境に配向性の必要な細胞(例えば、骨芽細胞、線維芽細胞など)を培養する場合、細胞接着性の高いスキャフォールドが用いられ、細胞はスキャフォールドに含まれるナノファイバーの表面に接着し、培養される。
本発明の培養方法の別の一実施態様において、in vivoの組織環境に自身のスフェロイド形成が必要な細胞(例えば、肝細胞など)を培養する場合、細胞接着性の低いスキャフォールドが用いられ、細胞はスキャフォールドに含まれるナノファイバーの表面に接着せず、ナノファイバー空隙で培養される。
本発明の培養方法に用いられる培養器は、特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、デッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用デッシュ、マルチデッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルなどが挙げられる。
本発明の培養方法に用いられる培養培地の基礎培地は、例えば、DMEM、EMEM、RPMI-1640、α-MEM、F-12、F-10、M-199、HAM、ERDF、L-15、ウイリアムズEなどの自体公知の基礎培地を挙げることができる。また、上記基礎培地の混合培地を用いてもよい。基礎培地は、培養する細胞により適宜選択される。
培養培地には、血清、増殖因子、添加物などが含まれ得る。血清、増殖因子、添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
培養条件は、培養する細胞種により異なり、通常当分野で実施される条件で実施することができる。特に限定されないが、例えば、哺乳類の細胞は5%CO2雰囲気下37℃で1日間以上培養される。
本発明の培養方法において、培養される細胞の密度は、細胞の種類などにより異なるが、例えば約1×103細胞/cm3〜約1×1010細胞/cm3である。本発明のスキャフォールドは、ナノファイバーを含むため、その表面積は従来品に比べ飛躍的に増大している。従って、本発明の培養方法では、極めて高密度な(例えば、約2×108cells/cm3)細胞の培養が可能となる。
本発明のスキャフォールドおよび本発明の培養方法によれば、細胞はin vivoの組織環境に近い条件で培養され得るため、生体内の細胞が有する機能を生体外で維持することが可能である。
また、本発明のスキャフォールドは、還流式およびバッチ式バイオリアクター装置内の培養層、マイクロおよびミリリアクター装置内のマイクロチャネル培養層、医療用または研究用のバイオデバイス装置内の培養層などにも用いることができる。従って本発明では、本発明のスキャフォールドを含む培養装置も提供される。
本発明では、以下の工程を含む、細胞機能を向上し得る物質のスクリーニング方法(以下、本発明のスクリーニング方法I)が提供される。
(a)被験物質を結合させた本発明のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)上記工程(a)におけるスキャフォールドに結合した細胞の機能を測定し、被験物質を結合させていない本発明のスキャフォールドに結合した細胞の機能と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、細胞機能を向上し得る物質を選択する工程。
(a)被験物質を結合させた本発明のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)上記工程(a)におけるスキャフォールドに結合した細胞の機能を測定し、被験物質を結合させていない本発明のスキャフォールドに結合した細胞の機能と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、細胞機能を向上し得る物質を選択する工程。
本発明において、「細胞機能を向上」とは、特定の細胞種への分化促進、機能物質の分泌増加、増殖能の活性化、未分化能の維持、細胞内代謝の活性化などをいう。
スクリーニング方法Iに供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、核酸、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物など由来の天然成分などが挙げられる。被験物質は、特に限定されないが、タンパク質、ペプチドなどの生体分子が好ましい。
スクリーニング方法Iに使用される細胞としては、特に限定されず、本発明のスキャフォールドで培養可能な細胞と同様のものが挙げられる。
上記工程(a)では、被験物質を結合させた本発明のスキャフォールドが、細胞と接触条件下におかれる。該接触は、培養培地中で行われ得る。なお、被験物質とスキャフォールドの結合は、自体公知の方法が用いられ、被験物質の種類により適宜選択されるが、例えば被験物質がタンパク質やペプチドなどの生体分子の場合、該タンパク質またはペプチドを含む水溶液中でスキャフォールドを適当な時間(10分程度)インキュベートすることによりなされる。
上記工程(b)では、先ず、被験物質を結合させたスキャフォールドに結合した細胞の機能が測定される。細胞の機能の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ、例えば、抗体染色法、ELISA法などが挙げられる。
次いで、被験物質を結合させたスキャフォールドに結合した細胞の機能が、被験物質を結合させていないスキャフォールドに結合した細胞の機能と比較される。細胞の機能の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を結合させていないスキャフォールドに結合した細胞の機能は被験物質を結合させたスキャフォールドに結合した細胞の機能の測定に対し、事前に測定した細胞の機能であっても、同時に測定した細胞の機能であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した細胞の機能であることが好ましい。
上記工程(c)では、細胞機能を向上し得る物質が選択される。このように選択された物質は、特定の細胞種への分化促進、機能物質の分泌増加などに有用であり得る。
また、本発明では、以下の工程を含む、試料から特定の細胞を回収する方法(以下、本発明の回収方法)が提供される。
(a)特定の細胞と結合する本発明のスキャフォールドを、試料と接触させる工程、
(b)該スキャフォールドと該試料を分離する工程、および
(c)該スキャフォールドに結合した細胞を回収する工程。
(a)特定の細胞と結合する本発明のスキャフォールドを、試料と接触させる工程、
(b)該スキャフォールドと該試料を分離する工程、および
(c)該スキャフォールドに結合した細胞を回収する工程。
上記工程(a)では、被験物質とスキャフォールドが結合する。該結合は、上記と同様の方法にて行われる。
特定の細胞と結合するスキャフォールドとは、特定の細胞との親和性が高いスキャフォールドである。該スキャフォールドは、本発明の回収方法に用いられる細胞種に応じ、当業者であれば適宜設定することができ、例えば、特定の細胞に対する抗体で表面修飾されているスキャフォールドなどが挙げられる。
試料とは、各種臓器、組織、細胞、組織標本、培養細胞、細胞混合液、血液や尿などの体液などが挙げられ、細胞が含まれるものであれば、特に限定されない。
上記工程(b)では、該スキャフォールドと該試料が分離される。該分離は、自体公知の方法により行われ、例えば、潅流などにより行われ得る。
上記工程(c)では、スキャフォールドに結合した細胞が回収される。該回収は、自体公知の方法により行われ、例えば、トリプシンなどの酵素処理、ピペッティングやタッピングによる物理的処理などの方法により行われ得る。
本発明の回収方法は、複数の細胞種などの混在する試料から、目的の細胞種を特異的に回収することができるため有用であり得る。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されない。
(実施例1)細胞組織培養用ナノファイバーの作製
一例として、シリカゲルを用いたナノファイバー実施例について述べる。
テトラエトキシシラン(オルトケイ酸テトラエチル:TEOS)、エタノール、蒸留水、塩化水素(HCl)を、1:2:2:0.01のモル比になるよう、混合した。具体的には、TEOSおよびエタノールを先に混合し、蒸留水およびHClの混合液をスターラーで攪拌させたTEOSエタノール混合液にゆっくり添加することでゾルゲル反応を開始させた。その後、ゾルゲル反応を進行させるため、80℃の雰囲気下で30分乾燥させた。この乾燥は、70℃であると1時間、75℃であると45分の条件で乾燥させることもできる。その後、ゾルゲル反応の進行を一時停止させるため、−20℃の雰囲気下にさらした。
上記溶液を図1に示す装置において、エレクトロスピニング法を用いて紡糸した。
シリンジ内に上記溶液を入れ、20Gのステンレス注射針に高電圧発生装置を用いて発生させた10〜15kVの電圧を印加させた。その後、シリンジポンプを用いてシリンジから溶液を一定速度で射出した。射出した溶液は電圧によりナノオーダー(50〜800nm)のシリカを主成分とした繊維が作製された(図2)。
射出された繊維は、シリンジ針から10cmの距離を離した場所に設置した、銅板製の径10cmの円筒を用いて、350rpmの回転数で巻き取り、ナノファイバーシートを作製した。この巻き取り回転数を変化させると、ナノファイバー培養担体内の繊維密度を変化させることが可能となり、各細胞にとって最適な密度が存在する。
本方法で作製されたシリカナノファイバーはゾルゲル法を応用して作製しているため、作製されたファイバーの表面にはSi-OH基が存在している。この-OH基はファイバーを焼成させることにより、Si-O-Siの疎水性表面にすることが可能である。そこで、300〜1000℃の各条件において焼成を行い、培養担体として評価を行った。その結果、500℃焼成条件において、細胞が繊維上に極めて有効に付着することを発見した。これは、細胞の分泌する各種タンパク質が疎水性表面に付着しやすく、細胞と担体の接着性が向上するためと考えられる。
また、水を溶媒として、同様な方法を用いて、ポリビニルアルコール(PVA)からナノファイバーを主成分としたシート(平均径50〜300nm)も作製した(図3)。
一例として、シリカゲルを用いたナノファイバー実施例について述べる。
テトラエトキシシラン(オルトケイ酸テトラエチル:TEOS)、エタノール、蒸留水、塩化水素(HCl)を、1:2:2:0.01のモル比になるよう、混合した。具体的には、TEOSおよびエタノールを先に混合し、蒸留水およびHClの混合液をスターラーで攪拌させたTEOSエタノール混合液にゆっくり添加することでゾルゲル反応を開始させた。その後、ゾルゲル反応を進行させるため、80℃の雰囲気下で30分乾燥させた。この乾燥は、70℃であると1時間、75℃であると45分の条件で乾燥させることもできる。その後、ゾルゲル反応の進行を一時停止させるため、−20℃の雰囲気下にさらした。
上記溶液を図1に示す装置において、エレクトロスピニング法を用いて紡糸した。
シリンジ内に上記溶液を入れ、20Gのステンレス注射針に高電圧発生装置を用いて発生させた10〜15kVの電圧を印加させた。その後、シリンジポンプを用いてシリンジから溶液を一定速度で射出した。射出した溶液は電圧によりナノオーダー(50〜800nm)のシリカを主成分とした繊維が作製された(図2)。
射出された繊維は、シリンジ針から10cmの距離を離した場所に設置した、銅板製の径10cmの円筒を用いて、350rpmの回転数で巻き取り、ナノファイバーシートを作製した。この巻き取り回転数を変化させると、ナノファイバー培養担体内の繊維密度を変化させることが可能となり、各細胞にとって最適な密度が存在する。
本方法で作製されたシリカナノファイバーはゾルゲル法を応用して作製しているため、作製されたファイバーの表面にはSi-OH基が存在している。この-OH基はファイバーを焼成させることにより、Si-O-Siの疎水性表面にすることが可能である。そこで、300〜1000℃の各条件において焼成を行い、培養担体として評価を行った。その結果、500℃焼成条件において、細胞が繊維上に極めて有効に付着することを発見した。これは、細胞の分泌する各種タンパク質が疎水性表面に付着しやすく、細胞と担体の接着性が向上するためと考えられる。
また、水を溶媒として、同様な方法を用いて、ポリビニルアルコール(PVA)からナノファイバーを主成分としたシート(平均径50〜300nm)も作製した(図3)。
(実施例2)骨芽細胞を用いた細胞培養担体評価
実施例1で作製したシリカナノファイバー(未焼成)を0.25cm2になるよう細切し、滅菌のためオートクレーブ処理を行った。滅菌後のナノファイバーを24ウェルプレート中に静置し、培養培地を注入した。その上に、MG63骨芽細胞を2×105cells/mlで播種し、培養した。
培養培地組成はMEM培地に10%FBS、1%非必須アミノ酸、75μg/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを添加した培地を用いた。
培養1日目および5日目において、細胞形態について、ヘキスト・ローダミン染色を用いて観察した(図4)。細胞は、各繊維につたって増殖しており、繊維の配向方向に沿って培養されていた。
本観察結果、ナノオーダーの繊維上で骨芽細胞を培養すると、その比表面積の広さから、高密度でかつ配向性を維持したまま細胞が増殖した。人工骨その他再生医療分野において、その前駆細胞を、配向性を保持したまま生体内環境類似状態で培養することが非常に重要である。本方法においては、ナノファイバー上に細胞を絡みつかせて培養することで、細胞の配向性を保持したままの状態での培養が可能となった。これは、ナノファイバーを含むスキャフォールドが骨芽細胞に限らず、配向性の必要な細胞、例えば筋などの線維芽細胞、血管構成細胞の培養にも有効であると考えられる。
実施例1で作製したシリカナノファイバー(未焼成)を0.25cm2になるよう細切し、滅菌のためオートクレーブ処理を行った。滅菌後のナノファイバーを24ウェルプレート中に静置し、培養培地を注入した。その上に、MG63骨芽細胞を2×105cells/mlで播種し、培養した。
培養培地組成はMEM培地に10%FBS、1%非必須アミノ酸、75μg/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを添加した培地を用いた。
培養1日目および5日目において、細胞形態について、ヘキスト・ローダミン染色を用いて観察した(図4)。細胞は、各繊維につたって増殖しており、繊維の配向方向に沿って培養されていた。
本観察結果、ナノオーダーの繊維上で骨芽細胞を培養すると、その比表面積の広さから、高密度でかつ配向性を維持したまま細胞が増殖した。人工骨その他再生医療分野において、その前駆細胞を、配向性を保持したまま生体内環境類似状態で培養することが非常に重要である。本方法においては、ナノファイバー上に細胞を絡みつかせて培養することで、細胞の配向性を保持したままの状態での培養が可能となった。これは、ナノファイバーを含むスキャフォールドが骨芽細胞に限らず、配向性の必要な細胞、例えば筋などの線維芽細胞、血管構成細胞の培養にも有効であると考えられる。
(実施例3)シリカナノファイバーの人工骨としての有用性
本実施例では、シリカという特性を生かしてナノファイバー表面に骨の主成分を析出させることで、その有用性を評価した。
硬骨細胞工学において、シリカ上のシラノール基が生体血漿成分と反応し、リン石灰形成を誘導する能力を持っていることが知られている。そこで、実施例1で作製したシリカファイバー(未焼成)を人工体液(溶液の組成:142mM Na+、103.0mM Cl-、10.0mM HCO3 -、5.0mM K+、1.5mM Mg2+、2.5mM Ca2+、1.0mM HPO4 2-、0.5mM SO4 2-と純水からなる溶液)に1週間37℃でインキュベーションした。その結果は、SEMを用いて観察を行い(図5)、また成分はX線回折装置を用いて評価した(図6)。
X線回析の結果、ピークはリン石灰を示した。これは、エレクトロスピニング法で作製されたシリカナノファイバーが人工骨作製にとって必要不可欠な硬骨結合形成能力を持っていることを示している。その結果、シリカナノファイバーを用いることで、今までは不可能とされてきた配向性を保持した細胞培養担体の作製および人工骨用細胞担体としての有用性が示される。
本実施例では、シリカという特性を生かしてナノファイバー表面に骨の主成分を析出させることで、その有用性を評価した。
硬骨細胞工学において、シリカ上のシラノール基が生体血漿成分と反応し、リン石灰形成を誘導する能力を持っていることが知られている。そこで、実施例1で作製したシリカファイバー(未焼成)を人工体液(溶液の組成:142mM Na+、103.0mM Cl-、10.0mM HCO3 -、5.0mM K+、1.5mM Mg2+、2.5mM Ca2+、1.0mM HPO4 2-、0.5mM SO4 2-と純水からなる溶液)に1週間37℃でインキュベーションした。その結果は、SEMを用いて観察を行い(図5)、また成分はX線回折装置を用いて評価した(図6)。
X線回析の結果、ピークはリン石灰を示した。これは、エレクトロスピニング法で作製されたシリカナノファイバーが人工骨作製にとって必要不可欠な硬骨結合形成能力を持っていることを示している。その結果、シリカナノファイバーを用いることで、今までは不可能とされてきた配向性を保持した細胞培養担体の作製および人工骨用細胞担体としての有用性が示される。
(実施例4)肝細胞を用いた再生医療用細胞培養担体としての評価
細胞と生体親和性材料とを用いたハイブリッド型の細胞培養担体を用いれば従来型の治療法と比較してより的確な治療法を提供できると言われている。そこで、本発明で作製したナノファイバーの再生医療用細胞培養担体としての評価を行った。
実施例1で作製したナノファイバーからなる不織布を1cm2となるように細切し、オートクレーブ滅菌を行った。その後、不織布内部の気泡を抜くため70%エタノールに浸し、PBS溶液で洗浄後、培養培地に置換した。その不織布に肝芽腫由来細胞HepG2を5×104cells/ml濃度で播種した。
本実施例で用いた培養培地はウィリアムズE培地であり、10%FBS、75μg/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、1mM濃度のNH4Clを添加した培地を用いた。培養は2週間行い、形態観察(図7、図10−12)、アンモニア濃度評価(肝細胞が組織化し、本来失った機能を回復するかの指標)(図8)、細胞数変化(図9)を測定し、細胞培養担体としての有用性を評価した。
シリカナノファイバーは、無機材料としての特徴を併せ持つため、ファイバー表面の親水度を変化させることが可能である。そのため、親水化ナノファイバー(未焼成ナノファイバー)および疎水化ナノファイバー(親水化ナノファイバーを500℃で焼成)の2条件を加え、評価を行った。また、コントロールとして、アパタイトシート(従来の培養担体)またはアパタイト不織布(市販培養担体)を用いた。なお、HepG2細胞は単層培養では、培養器底面に付着、伸展して増殖する(図13)。
その結果、未焼成ナノファイバーでは、培養3日目に肝細胞培養に必要な、細胞の組織体(肝細胞スフェロイド)の形成が確認された(直径50μm)(図7)。その後、培養時間の経過とともにスフェロイドの直径が増加し、シリカ繊維内に多数の組織体が形成された(図10)。培養7日目のスフェロイドの直径は100μm前後で均一であり、スフェロイド直径の制御が困難であった従来型の培養方法より有用性がある。これは実施例1で作製されたシリカナノファイバーがシラノール基による親水性表面を保持すること、紡糸時に350rpmで巻き取ることにより作製された空隙率が細胞にとって適当であったためと考えられる。また、500℃で焼成した条件では細胞の組織化が見られず、繊維および空間内全体に細胞が増殖した(図11)。さらに、アパタイト不織布では細胞の組織化が見られず、繊維上に細胞が付着、伸展して増殖しているのが観察された(図12)。細胞種によって、足場依存の度合いが異なるため、本方法によってファイバー表面組成の操作が可能であることは、数多くの細胞にとって有効な細胞培養担体である。
また、アンモニア濃度評価においては、本発明の未焼成および焼成シリカナノファイバー上で培養された肝細胞スフェロイドは、既存品であるアパタイトシートやアパタイト不織布上で培養された肝細胞と比し、単位体積あたりそれぞれ10倍以上および5倍以上のアンモニア除去能を示した(図8)。また、本発明の未焼成シリカナノファイバー上で培養された肝細胞スフェロイドは、焼成シリカナノファイバー上で培養された肝細胞と比し、単位体積あたり2倍以上のアンモニア除去能を示した(図8)。従って、本発明のスキャフォールドを用いれば再生医療に必要不可欠な細胞の組織化によって細胞本来の機能を高いレベルで発揮させることができることが示された。
細胞数評価においても、本発明の未焼成および焼成シリカナノファイバーは、単位体積あたりでは、既存品であるアパタイトシートやアパタイト不織布のそれぞれ15倍以上および10倍以上の高密度培養を達成した(図9)。さらに、本発明の未焼成シリカナノファイバーは、培養14日目には静地培養系では最高レベルの約2×108cells/cm3の高密度培養を達成した(図9)。本発明のスキャフォールドは、既存品の培養担体と比較して10倍以上の高密度培養を達成し、細胞培養担体としてのすぐれた性能を有していることが示された。
細胞と生体親和性材料とを用いたハイブリッド型の細胞培養担体を用いれば従来型の治療法と比較してより的確な治療法を提供できると言われている。そこで、本発明で作製したナノファイバーの再生医療用細胞培養担体としての評価を行った。
実施例1で作製したナノファイバーからなる不織布を1cm2となるように細切し、オートクレーブ滅菌を行った。その後、不織布内部の気泡を抜くため70%エタノールに浸し、PBS溶液で洗浄後、培養培地に置換した。その不織布に肝芽腫由来細胞HepG2を5×104cells/ml濃度で播種した。
本実施例で用いた培養培地はウィリアムズE培地であり、10%FBS、75μg/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、1mM濃度のNH4Clを添加した培地を用いた。培養は2週間行い、形態観察(図7、図10−12)、アンモニア濃度評価(肝細胞が組織化し、本来失った機能を回復するかの指標)(図8)、細胞数変化(図9)を測定し、細胞培養担体としての有用性を評価した。
シリカナノファイバーは、無機材料としての特徴を併せ持つため、ファイバー表面の親水度を変化させることが可能である。そのため、親水化ナノファイバー(未焼成ナノファイバー)および疎水化ナノファイバー(親水化ナノファイバーを500℃で焼成)の2条件を加え、評価を行った。また、コントロールとして、アパタイトシート(従来の培養担体)またはアパタイト不織布(市販培養担体)を用いた。なお、HepG2細胞は単層培養では、培養器底面に付着、伸展して増殖する(図13)。
その結果、未焼成ナノファイバーでは、培養3日目に肝細胞培養に必要な、細胞の組織体(肝細胞スフェロイド)の形成が確認された(直径50μm)(図7)。その後、培養時間の経過とともにスフェロイドの直径が増加し、シリカ繊維内に多数の組織体が形成された(図10)。培養7日目のスフェロイドの直径は100μm前後で均一であり、スフェロイド直径の制御が困難であった従来型の培養方法より有用性がある。これは実施例1で作製されたシリカナノファイバーがシラノール基による親水性表面を保持すること、紡糸時に350rpmで巻き取ることにより作製された空隙率が細胞にとって適当であったためと考えられる。また、500℃で焼成した条件では細胞の組織化が見られず、繊維および空間内全体に細胞が増殖した(図11)。さらに、アパタイト不織布では細胞の組織化が見られず、繊維上に細胞が付着、伸展して増殖しているのが観察された(図12)。細胞種によって、足場依存の度合いが異なるため、本方法によってファイバー表面組成の操作が可能であることは、数多くの細胞にとって有効な細胞培養担体である。
また、アンモニア濃度評価においては、本発明の未焼成および焼成シリカナノファイバー上で培養された肝細胞スフェロイドは、既存品であるアパタイトシートやアパタイト不織布上で培養された肝細胞と比し、単位体積あたりそれぞれ10倍以上および5倍以上のアンモニア除去能を示した(図8)。また、本発明の未焼成シリカナノファイバー上で培養された肝細胞スフェロイドは、焼成シリカナノファイバー上で培養された肝細胞と比し、単位体積あたり2倍以上のアンモニア除去能を示した(図8)。従って、本発明のスキャフォールドを用いれば再生医療に必要不可欠な細胞の組織化によって細胞本来の機能を高いレベルで発揮させることができることが示された。
細胞数評価においても、本発明の未焼成および焼成シリカナノファイバーは、単位体積あたりでは、既存品であるアパタイトシートやアパタイト不織布のそれぞれ15倍以上および10倍以上の高密度培養を達成した(図9)。さらに、本発明の未焼成シリカナノファイバーは、培養14日目には静地培養系では最高レベルの約2×108cells/cm3の高密度培養を達成した(図9)。本発明のスキャフォールドは、既存品の培養担体と比較して10倍以上の高密度培養を達成し、細胞培養担体としてのすぐれた性能を有していることが示された。
本発明のスキャフォールド、本発明のスキャフォールドの製造方法、該スキャフォールドを用いた細胞または組織の培養方法は、細胞の組織培養をするための製品、再生医療用材料、本発明のスキャフォールド製品を含んだ医療用または研究用の還流式およびバッチ式バイオリアクターやマイクロ/ミリリアクター装置、バイオデバイス装置、細胞や組織を分離回収するための製品、タンパク質やペプチドなどの生体親和性分子と細胞・組織間の相互作用の評価するための製品、細胞へ遺伝子を導入するための製品などの開発を可能とする。
Claims (16)
- ナノファイバーを含むスキャフォールド。
- ナノファイバーがエレクトロスピニング法により作製される、請求項1記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーが金属アルコキシドを含む溶液から作製される、請求項1または2記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーがゾルゲル法により作製される、請求項1〜3のいずれかに記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーがシリカナノファイバーである、請求項1〜4のいずれかに記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーが焼成された形態である、請求項1〜5のいずれかに記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーが表面修飾されている、請求項1〜5のいずれかに記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーが細胞接着因子により表面修飾されている、請求項7記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーがリン酸カルシウムにより表面修飾されている、請求項7記載のスキャフォールド。
- ナノファイバーを加工しスキャフォールドを得ることを含む、スキャフォールドの作製方法。
- エレクトロスピニング法によりナノファイバーを作製することを含む、請求項10記載の方法。
- ナノファイバーを焼成することをさらに含む、請求項10または11記載の方法。
- 請求項1〜9のいずれかに記載のスキャフォールドを用いることを含む、細胞または組織の培養方法。
- 請求項1〜9のいずれかに記載のスキャフォールドを含む培養装置。
- 以下の工程を含む、細胞機能を向上し得る物質のスクリーニング方法;
(a)被験物質を結合させた請求項1〜9のいずれかに記載のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)上記工程(a)におけるスキャフォールドに結合した細胞の機能を測定し、被験物質を結合させていない請求項1〜9のいずれかに記載のスキャフォールドに結合した細胞の機能と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、細胞機能を向上し得る物質を選択する工程。 - 以下の工程を含む、試料から特定の細胞を回収する方法;
(a)特定の細胞と結合する請求項1〜9のいずれかに記載のスキャフォールドを、細胞と接触させる工程、
(b)該スキャフォールドと該試料を分離する工程、および
(c)該スキャフォールドに結合した細胞を回収する工程。
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