以下に、添付図面を参照して、本発明に係る圧下レベリング制御装置および圧下レベリング制御方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態では、本発明を適用する圧延装置の一例として、熱間圧延ラインの粗圧延装置を例示するが、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
(圧下レベリング制御装置)
まず、本発明の実施の形態に係る圧下レベリング制御装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る圧下レベリング制御装置の一構成例を示す図である。本実施の形態に係る圧下レベリング制御装置1は、例えば熱間圧延ラインにおいて複数の被圧延材に対し複数パス圧延を順次行う粗圧延装置10の各圧延パスの圧下レベリング量を制御するものであり、図1に示すように、キャンバー量測定部2a〜2eと、温度偏差測定部3と、記憶部4と、演算処理部5と、制御部6とを備える。
キャンバー量測定部2a〜2eは、制御対象の圧延装置によって複数パス圧延が行われた被圧延材の各圧延パス出側でのキャンバー量を測定する複数のキャンバー量測定部の一例である。本実施の形態において、キャンバー量測定部2a〜2eは、各々、撮像装置等を用いて構成され、図1に示すように、粗圧延装置10を構成する圧延機11〜15の各圧延パス出側に配置される。
具体的には、図1に示すように、キャンバー量測定部2aは、粗圧延装置10のうち第1スタンド(最上流)の圧延機11の圧延パス出側に配置される。キャンバー量測定部2aは、当材19に先行して粗圧延装置10が先行材18に対し行った複数パス圧延のうち、圧延機11が先行材18に対し行った圧延パスの圧延による先行材18のキャンバーの発生方向および発生量を、撮像装置等によって光学的に検出する。キャンバー量測定部2aは、この圧延機11での圧延パスの圧延による先行材18のキャンバーの検出結果に対して所定の画像処理等を行う。これにより、キャンバー量測定部2aは、この圧延機11の圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量を測定する。
キャンバー量測定部2bは、粗圧延装置10のうち最上流の圧延機11の下流側に位置する第2スタンドの圧延機12の圧延パス出側に配置される。キャンバー量測定部2bは、粗圧延装置10の先行材18に対する複数パス圧延のうち、圧延機12が先行材18に対し行った圧延パスの圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量を、上述したキャンバー量測定部2aと同様の手法によって測定する。キャンバー量測定部2cは、粗圧延装置10のうち第2スタンドの圧延機12の下流側に位置する第3スタンドの圧延機13の圧延パス出側に配置される。キャンバー量測定部2cは、粗圧延装置10の先行材18に対する複数パス圧延のうち、圧延機13が先行材18に対し行った圧延パスの圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量を、上述したキャンバー量測定部2aと同様の手法によって測定する。
キャンバー量測定部2dは、粗圧延装置10のうち第3スタンドの圧延機13の下流側に位置する第4スタンドの圧延機14の圧延パス出側に配置される。キャンバー量測定部2dは、粗圧延装置10の先行材18に対する複数パス圧延のうち、圧延機14が先行材18に対し行った圧延パスの圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量を、上述したキャンバー量測定部2aと同様の手法によって測定する。キャンバー量測定部2eは、粗圧延装置10のうち第4スタンドの圧延機14の下流側に位置する第5スタンド(最下流)の圧延機15の圧延パス出側に配置される。キャンバー量測定部2eは、粗圧延装置10の先行材18に対する複数パス圧延のうち、圧延機15が先行材18に対し行った圧延パスの圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量を、上述したキャンバー量測定部2aと同様の手法によって測定する。
上述したキャンバー量測定部2a〜2eは、各々、先行材18の各圧延パス出側でのキャンバーの発生方向を、先行材18のキャンバー量(測定値)の正負の符号によって区別する。また、キャンバー量測定部2a〜2eは、上述したように先行材18の各圧延パス出側でのキャンバー量を測定する都度、測定したキャンバー量を演算処理部5に各々送信する。
本実施の形態において、当材19は、熱間圧延ラインの搬送経路16に沿って順次搬送される複数の被圧延材のうち、粗圧延装置10によって複数パス圧延が今回行われる被圧延材である。先行材18は、これら複数の被圧延材のうち、当材19に先行して粗圧延装置10により複数パス圧延が行われた被圧延材である。これらの先行材18および当材19として、例えば、熱間圧延ラインの加熱炉(図示せず)によって加熱され、さらに幅圧下装置(図示せず)によって幅圧下された後のスラブ等の鉄鋼材が挙げられる。
温度偏差測定部3は、制御対象の圧延装置の入側における被圧延材の幅方向温度偏差を測定するものである。本実施の形態において、温度偏差測定部3は、非接触式温度センサ等を用いて構成され、図1に示すように、粗圧延装置10の入側、すなわち、第1スタンドの圧延機11の入側に配置される。温度偏差測定部3は、搬送経路16に沿って粗圧延装置10の入側に搬送された当材19の幅方向両端部の各温度を測定する。温度偏差測定部3は、測定した幅方向両端部の各温度の差を算出し、得られた温度差を、この当材19の幅方向温度偏差として測定(取得)する。温度偏差測定部3は、このように当材19の幅方向温度偏差を測定する都度、測定した幅方向温度偏差を演算処理部5に送信する。
記憶部4は、各圧延パスの圧下レベリング量の制御に必要な各種情報を記憶するものである。本実施の形態において、記憶部4は、図1に示すように、影響係数テーブル4aおよび平行剛性値テーブル4bを記憶する。影響係数テーブル4aは、本発明の圧下レベリング制御の演算処理に用いられる影響係数Aijを含むデータテーブルである。平行剛性値テーブル4bは、本発明の圧下レベリング制御の演算処理に用いられる平行剛性値Kliを含むデータテーブルである。記憶部4は、粗圧延装置10に対する各圧延パスの圧下レベリング制御用として、影響係数テーブル4aおよび平行剛性値テーブル4bを保持、管理し、演算処理部5からの要求に応じて演算処理に必要な影響係数Aijおよび平行剛性値Kliを演算処理部5に提供する。
本実施の形態において、影響係数Aijは、粗圧延装置10の各圧延パスの圧下レベリング操作が粗圧延装置10の複数パス圧延による当材19の各圧延パス出側でのキャンバー量の変化に影響する度合いを示す係数である。ここで、被圧延材に対する複数パス圧延の総圧延パス数N(Nは2以上の整数)において、圧延パス数jの圧延パス(j番目圧延パス)が、圧延パス数iの圧延パス(i番目圧延パス)より前(1≦j<i≦N)であるとする。この場合、影響係数Aijは、j番目圧延パスの圧下レベリング操作の影響を受けた被圧延材のi番目圧延パス出側でのキャンバー量の変化と、このj番目圧延パスの圧下レベリング操作による圧下レベリング量の変化との比(∂Cami/∂Lvj)、すなわち、次式(3)によって表される。
式(3)において、圧下レベリング量Lvjは、j番目圧延パスの圧下レベリング操作前の圧下レベリング量である。圧下レベリング操作量dLvは、j番目圧延パスの圧下レベリング操作による圧下レベリング変化量である。キャンバー量Cami(Lvj)は、j番目圧延パスの圧下レベリング量がLvjである際の被圧延材のi番目圧延パス出側でのキャンバー量である。キャンバー量Cami(Lvj+dLv)は、j番目圧延パスの圧下レベリング量が(Lvj+dLv)である際の被圧延材のi番目圧延パス出側でのキャンバー量である。
上述したような影響係数Aijは、次のように取得することができる。例えば、粗圧延装置10が被圧延材に対して総圧延パス数Nの複数パス圧延を行っている際、圧延機11〜15のうちの上流側の圧延機(例えば圧延機11)を実際に圧下レベリング操作し、この圧下レベリング操作の前後において、下流側の圧延機(例えば圧延機12)による圧延後の被圧延材の圧延パス出側での各キャンバー量を測定する。このようにして得られた圧下レベリング操作前後での各キャンバー量と、そのときの圧下レベリング操作前の圧下レベリング量および圧下レベリング操作量とを式(3)に代入する。これにより、影響係数Aijは、式(3)から同定(算出)することができる。
このようにして得られる複数の影響係数Aijは、粗圧延装置10の圧延機毎、被圧延材の圧延前の幅方向温度偏差毎、被圧延材の圧延条件毎に設定される。上述した影響係数テーブル4aには、粗圧延装置10の圧延機、被圧延材の圧延前の幅方向温度偏差、および被圧延材の圧延条件と対応付けた複数の影響係数Aijが含まれる。本実施の形態において、影響係数Aijと対応付ける被圧延材の圧延条件は、例えば、被圧延材に対し設定される圧延前後の目標とする板厚および板幅、圧延機に設定される圧延荷重および圧下率、被圧延材の材料強度等である。
一方、平行剛性値Kliは、粗圧延装置10の圧延機11〜15のうちi番目圧延パスの圧延を被圧延材に対して行う圧延機の平行剛性値、すなわち、i番目圧延パスの平行剛性値である。本実施の形態において、平行剛性値Kliは、被圧延材に対するi番目圧延パスの圧延において圧下レベリング操作が行われる前後での差荷重の変化と、このi番目圧延パスの圧下レベリング操作による圧下レベリング量の変化との比、すなわち、次式(4)によって表される。なお、差荷重は、被圧延材の幅方向の一端部における圧延荷重と他端部における圧延荷重との差である。
式(4)において、圧下レベリング量Lviは、i番目圧延パスの圧下レベリング操作前の圧下レベリング量である。圧下レベリング操作量dLvは、i番目圧延パスの圧下レベリング操作による圧下レベリング変化量である。差荷重Pdfi(Lvi)は、被圧延材に対するi番目圧延パスの圧延において圧下レベリング量がLviである際の差荷重である。差荷重Pdfi(Lvi+dLv)は、被圧延材に対するi番目圧延パスの圧延において圧下レベリング量が(Lvi+dLv)である際の差荷重である。
上述したような平行剛性値Kliは、次のように取得することができる。例えば、粗圧延装置10が被圧延材に対して総圧延パス数Nの複数パス圧延を行っている際、圧延機11〜15のうちi番目圧延パスの圧延を被圧延材に対して行う圧延機(例えば圧延機11)を実際に圧下レベリング操作し、この圧下レベリング操作の前後においてi番目圧延パスの圧延時における各差荷重を測定する。このようにして得られた圧下レベリング操作前後での各差荷重と、そのときの圧下レベリング操作前の圧下レベリング量および圧下レベリング操作量とを式(4)に代入する。これにより、平行剛性値Kliは、式(4)から同定(算出)することができる。
このようにして得られる複数の平行剛性値Kliは、粗圧延装置10の圧延機毎および被圧延材の圧延条件毎に設定される。上述した平行剛性値テーブル4bには、粗圧延装置10の圧延機および被圧延材の圧延条件と対応付けた複数の平行剛性値Kliが含まれる。本実施の形態において、平行剛性値Kliと対応付ける被圧延材の圧延条件は、例えば、被圧延材に対し設定される圧延前後の目標とする板厚および板幅、圧延機に設定される圧延荷重および圧下率、被圧延材の材料強度等である。
演算処理部5は、被圧延材に対して複数パス圧延を行う粗圧延装置10の各圧延パスの圧下レベリング制御に必要な各種演算処理を実行するものである。本実施の形態において、演算処理部5は、キャンバー量測定部2a〜2eによって各々測定された先行材18の各圧延パス出側でのキャンバー量Camiと、上述した影響係数Aijと、各圧延パスの圧下レベリング変更量候補とをもとに、粗圧延装置10の複数パス圧延による当材19の各圧延パス出側でのキャンバー予測量(Cami+ΔCami)を設定する。且つ、演算処理部5は、各圧延パスにおける当材19の圧延条件と各圧延パスの圧下レベリング変更量候補とをもとに、粗圧延装置10の複数パス圧延による当材19の各圧延パス出側でのウェッジ予測量である出側ウェッジ予測量hdiを設定する。
ここで、影響係数Aijは、被圧延材の複数パス圧延前の幅方向温度偏差および圧延パス毎の圧延条件と対応付けられた状態で、記憶部4の影響係数テーブル4a内に格納されている。演算処理部5は、この影響係数テーブル4aを参照しつつ、粗圧延装置10の入側における当材19の幅方向温度偏差と各圧延パスにおける当材19の圧延条件とに応じて、当材19に対応する影響係数Aijを設定する。本実施の形態において、当材19の幅方向温度偏差は、温度偏差測定部3によって測定されたものである。各圧延パスにおける当材19の圧延条件は、当材19に対し圧延パス毎に設定される圧延前後の目標とする板厚および板幅、当材19に対応して圧延機11〜15に設定される圧延荷重および圧下率、当材19の材料強度等であり、例えば、熱間圧延ラインを管理するプロセスコンピュータ(図示せず)または圧下レベリング制御装置1に設けた入力部(図示せず)から演算処理部5に入力される。
また、各圧延パスの圧下レベリング変更量候補は、粗圧延装置10による先行材18の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量から粗圧延装置10による当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量への圧下レベリング変更量ΔLviの候補である。圧下レベリング変更量ΔLviは、当材19の複数パス圧延によるキャンバー発生を可能な限り抑制するための圧下レベリング制御に用いる目標の圧下レベリング変更量である。
演算処理部5は、上述したように当材19について設定したキャンバー予測量(Cami+ΔCami)と出側ウェッジ予測量hdiとの和の全圧延パスにおける合計値が最小となる際の圧下レベリング変更量候補を、当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviとして算出する。
詳細には、圧下レベリング変更量ΔLviの演算処理において、演算処理部5は、まず、粗圧延装置10(具体的には圧延機11〜15)の圧下レベリング量の設定可能範囲内で、上述した圧下レベリング変更量候補を複数仮定する。ついで、演算処理部5は、当材19のキャンバー予測量(Cami+ΔCami)および出側ウェッジ予測量hdiと、重み係数αi,βiとを用い、次式(5)に基づき、複数の圧下レベリング変更量候補について評価関数Jを複数算出する。
式(5)において、評価関数Jは、粗圧延装置10の複数パス圧延による当材19の各圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量を評価する関数である。重み係数αi,βiは、粗圧延装置10の複数パス圧延による当材19のキャンバー予測量(Cami+ΔCami)および出側ウェッジ予測量hdiの圧延パス別の重み付けを行うためのパラメータである。すなわち、重み係数αiは、粗圧延装置10の圧延機11〜15のうち、何れの圧延機における何れの圧延パスでの被圧延材のキャンバー抑制を重視するかを決定するパラメータである。重み係数βiは、粗圧延装置10の圧延機11〜15のうち、何れの圧延機における何れの圧延パスでの被圧延材のウェッジ抑制を重視するかを決定するパラメータである。これらの重み係数αi,βiは、粗圧延装置10による被圧延材の複数パス圧延の過去実績や実験データ等に基づいて、被圧延材の各圧延パス出側(特に最終の圧延パス出側)でのキャンバー量(絶対値)およびウェッジ量(絶対値)が双方とも低減するように設定される。その際、被圧延材の最終の圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量が、粗圧延装置10の後段の設備(仕上圧延機等)における通板トラブルや圧延トラブルに直結するため、重み係数αi,βiは、圧延機11〜15のうち下流側の圧延機ほど大きな値に設定することが望ましい。
ここで、当材19のキャンバー予測量(Cami+ΔCami)は、粗圧延装置10の圧延機11〜15における先行材18の各圧延パス出側でのキャンバー量Camiと、キャンバー変化量ΔCamiとの和によって表される。キャンバー変化量ΔCamiは、圧延機11〜15のうちのj番目圧延パスの圧延を被圧延材に行う圧延機に対して圧下レベリング操作を行ったときの同被圧延材のi番目圧延パス出側でのキャンバー量の変化量である。このようなキャンバー変化量ΔCamiは、上述した式(3)によって表される影響係数Aijと、先行材18の複数パス圧延時から当材19の複数パス圧延時へのj番目圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLvjとを用い、次式(6)によって表される。
上述した式(5)と式(6)とに基づいて、評価関数Jは、次式(7)によって表される。式(7)において、上述したように、i,jは圧延パス数であり、Nは粗圧延装置10による複数パス圧延の総圧延パス数であり、(∂Cami/∂Lvj)は影響係数Aijである。
また、式(5),(7)に含まれる出側ウェッジ予測量hdiは、粗圧延装置10の圧延機11〜15における当材19の各圧延パス出側でのウェッジ予測量である。本実施の形態において、当材19の出側ウェッジ予測量hdiは、板幅bと、圧下スクリュー間距離Liと、入側ウェッジ予測量Hdiと、平行塑性定数Mliと、上述した圧下レベリング量Lvi、圧下レベリング変更量ΔLvi、および平行剛性値Kliと、を用い、次式(8)によって表される。
式(8)において、板幅bは、粗圧延装置10の圧延機11〜15による複数パス圧延の各圧延パスにおける当材19の目標とする板幅である。圧下スクリュー間距離Liは、i番目圧延パスの圧延を行う圧延機の圧下スクリュー間距離であり、当該圧延機の仕様によって定まる。入側ウェッジ予測量Hdiは、粗圧延装置10の複数パス圧延による当材19のi番目圧延パス入側でのウェッジ予測量である。平行塑性定数Mliは、i番目圧延パスの圧延時における当材19の平行塑性定数、すなわち、i番目圧延パスの平行塑性定数である。本実施の形態において、平行塑性定数Mliは、圧延荷重Piと、入側板厚Hiと、出側板厚hiと、上述した板幅bおよび圧下スクリュー間距離Liと、を用い、次式(9)によって表される。
式(9)において、圧延荷重Piは、i番目圧延パスの圧延時における当材19の幅方向の一端部における圧延荷重と他端部における圧延荷重との和である。入側板厚Hiは、i番目圧延パスの入側における当材19の目標とする板厚である。出側板厚hiは、i番目圧延パスの出側における当材19の目標とする板厚である。
本実施の形態において、上述した板幅b、圧下スクリュー間距離Li、平行剛性値Kli、平行塑性定数Mli、圧下レベリング量Lvi、入側ウェッジ予測量Hdi、圧延荷重Pi、入側板厚Hi、出側板厚hiは、圧延条件の一例である。これらのうち、板幅b、圧下スクリュー間距離Li、平行剛性値Kli、平行塑性定数Mli、圧下レベリング量Lvi、および入側ウェッジ予測量Hdiは、上述した式(8)に示されるように、当材19の出側ウェッジ予測量hdiの設定(算出)に用いられる。
なお、板幅b、圧下スクリュー間距離Li、圧延荷重Pi、入側板厚Hi、および出側板厚hiは、プロセスコンピュータ等から演算処理部5に適宜入力される。平行塑性定数Mliは、上述した式(9)に基づき、演算処理部5によって算出される。圧下レベリング量Lviは、先行材18の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量に相当し、先行材18に対する複数パス圧延の完了後に、制御部6またはプロセスコンピュータ等から演算処理部5に入力される。
入側ウェッジ予測量Hdiは、当材19の(i−1)番目圧延パスの出側ウェッジ予測量hdiに相当し、当材19の1番目圧延パスの入側ウェッジ予測量Hd1を所定の値に初期設定することにより、式(8)に基づいて決まる。本実施の形態において、入側ウェッジ予測量Hd1は、例えば、零値に初期設定される。
平行剛性値Kliは、粗圧延装置10の圧延機11〜15および被圧延材の圧延条件と対応付けられた状態で、記憶部4の平行剛性値テーブル4b内に格納されている。演算処理部5は、この平行剛性値テーブル4bを参照しつつ、粗圧延装置10の圧延機11〜15の各圧延パスと当材19の圧延条件とに応じて、当材19に対応する平行剛性値Kliを読み出して設定する。各圧延パスにおける当材19の圧延条件は、当材19に対し圧延パス毎に設定される圧延前後の目標とする板厚および板幅、当材19に対応して圧延機11〜15に設定される圧延荷重および圧下率、当材19の材料強度等である。これらの圧延条件は、例えば、プロセスコンピュータや圧下レベリング制御装置1の入力部から演算処理部5に入力される。
演算処理部5は、当材19の各圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量を評価する評価関数Jを、当材19の各圧延パス出側でのキャンバー予測量(Cami+ΔCami)および出側ウェッジ予測量hdi(上述した式(8)に基づくhdi)と、各圧延パスの重み係数αi,βiとを用い、上述した式(7)に基づいて、複数の圧下レベリング変更量候補について複数算出する。その後、演算処理部5は、式(7)に基づいて算出した複数の評価関数J同士を比較し、これにより、これら複数の評価関数Jのうち最小の評価関数Jを特定する。演算処理部5は、上述したように仮定した複数の圧下レベリング変更量候補のうち、評価関数Jが最小となる際の圧下レベリング変更量候補、すなわち、上記特定した最小の評価関数Jに対応する圧下レベリング変更量候補を、当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviとして算出する。演算処理部5は、このように当材19についての各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviを算出する都度、得られた各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviを制御部6に送信する。
制御部6は、被圧延材に対して複数パス圧延を行う粗圧延装置10の各圧延パスの圧下レベリング制御を実行するものである。本実施の形態において、制御部6は、演算処理部5によって算出された各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviをもとに、圧延機11〜15の圧下装置11a〜15aを制御する。制御部6は、これらの圧下装置11a〜15aの制御を通して、粗圧延装置10による当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量を制御する。
一方、搬送経路16は、熱間圧延ラインにおいて複数の被圧延材を順次搬送するためのものである。この搬送経路16は、複数の搬送ロール(図示せず)を用いて構成される。粗圧延装置10は、本発明における制御対象の圧延装置の一例であり、先行材18および当材19に例示される被圧延材に対して複数パス圧延を行う。粗圧延装置10による複数パス圧延は、複数の圧延パスの粗圧延である。粗圧延装置10は、例えば図1に示すように、総圧延パス数Nの複数パス圧延を分担して行う5つの圧延機11〜15によって構成される。
圧延機11〜15は、各々、搬送経路16を挟んで被圧延材の厚さ方向D1に対向する一対の圧延ロールを有する。図1には、一対の圧延ロールと一対のバックアップロールを有する4段型の圧延機11〜15が例示されているが、本発明において、圧延機11〜15の各ロール段数は、4段に限定されず、所望の段数であってもよい。圧延機11〜15は、この順に、搬送経路16に沿って被圧延材の搬送方向に並設される。なお、図1に示すように、被圧延材の搬送方向は、被圧延材の長手方向D2と同じ方向である。
また、図1に示すように、圧延機11〜15は、圧下装置11a〜15aを各々有する。圧下装置11aは、圧延機11の圧下レベリング量を調整する。圧下装置12aは、圧延機12の圧下レベリング量を調整する。圧下装置13aは、圧延機13の圧下レベリング量を調整する。圧下装置14aは、圧延機14の圧下レベリング量を調整する。圧下装置15aは、圧延機15の圧下レベリング量を調整する。図2は、圧延機の圧下レベリング量を説明する図である。本実施の形態において、圧下レベリング量Lviは、図2に示すように、被圧延材17を圧延する圧延ロール11b,11cのロール軸方向の両端部間での圧下量(圧下レベル)の差として定義される。この圧下レベリング量Lviの定義は、圧延機11〜15について同様である。
なお、特に図1には図示していないが、粗圧延装置10よりも搬送経路16の上流側には、幅圧下装置や加熱炉等の設備が配置され、粗圧延装置10よりも搬送経路16の下流側には仕上圧延装置等の設備が配置されている。すなわち、加熱炉から抽出された被圧延材は、搬送経路16に沿って順次搬送され、幅圧下装置等を通り、その後、粗圧延装置10の圧延機11〜15によって複数パス圧延が行われる。複数パス圧延(粗圧延)後の被圧延材は、仕上圧延装置等の熱間圧延ラインの各種設備を通り、その後、コイラーによってコイル状に巻かれる。
(被圧延材のキャンバー量)
つぎに、本発明の実施の形態における被圧延材のキャンバー量について説明する。図3は、本発明の実施の形態における被圧延材のキャンバー量を説明する図である。図3に示すように、被圧延材17(図1に示した先行材18および当材19等)のキャンバー量Camiは、複数パス圧延の各圧延パス出側における被圧延材17の長手方向D2に対する幅方向D3の正側または負側(図3では正側)の曲がり量として定義される。具体的には、本実施の形態において、キャンバー量Camiは、i番目圧延パス出側における被圧延材17の幅方向中心位置S1と被圧延材17の基準位置S2との距離の最大値として定義される。
なお、基準位置S2は、図3に示すように、被圧延材17の先端部17aにおける幅方向中心位置Waと尾端部17bにおける幅方向中心位置Wbとを通る直線(基準線)によって表される。図3に示す例では、キャンバー量Camiは、被圧延材17の長手方向D2の中心位置における幅方向中心位置S1と基準位置S2との距離になる。
また、キャンバー量Camiの正負の符号(キャンバーの発生方向)は、被圧延材17の基準位置S2に対する幅方向中心位置S1の位置ズレの方向と幅方向D3との関係によって決定される。図3に示す例では、幅方向中心位置S1は、基準位置S2に対して幅方向D3の正側に位置ズレしているため、キャンバー量Camiは、正の値になる。特に図示しないが、幅方向中心位置S1が基準位置S2に対して幅方向D3の負側に位置ズレしている場合、キャンバー量Camiは、負の値になる。
(被圧延材のウェッジ量)
つぎに、本発明の実施の形態における被圧延材のウェッジ量について説明する。図4は、本発明の実施の形態における被圧延材のウェッジ量を説明する図である。図4には、被圧延材17を、その厚さ方向D1および幅方向D3に対して垂直な方向(図1,3に示す長手方向D2)から見たものが図示されている。
図4に示す被圧延材17のウェッジ量は、被圧延材17の幅方向D3の板厚偏差である。例えば、被圧延材17のウェッジ量は、図4に示す被圧延材17の幅方向D3の一端部(駆動側の端部)における板厚h1と他端部(作業側の端部)における板厚h2との差(h1−h2)として定義される。また、ウェッジ量の正負の符号は、被圧延材17の幅方向D3の両端部間における板厚の大小関係によって決定される。図4に示す例では、被圧延材17における駆動側の端部の板厚h1が作業側の端部の板厚h2に比して大きいため、被圧延材17のウェッジ量は、正の値になる。特に図示しないが、被圧延材17における駆動側の端部の板厚h1が作業側の端部の板厚h2に比して小さい場合、被圧延材17のウェッジ量は、負の値になる。
上述したウェッジ量の定義は、本発明の実施の形態における入側ウェッジ予測量Hdiおよび出側ウェッジ予測量hdiについても同様である。また、ウェッジ量の正負の符号と被圧延材17の板厚h1,h2との関係において、上述の駆動側と作業側とは逆であってもよい。
なお、本実施の形態において、厚さ方向D1は、先行材18および当材19に例示される被圧延材17の材厚(板厚)の方向である。この厚さ方向D1は、被圧延材17の下面(裏面)側から上面(表面)側に向かう方向を正の方向とする。長手方向D2は、被圧延材17の長手方向であり、搬送経路16に沿った先行材18および当材19の搬送方向と同じである。この長手方向D2は、被圧延材17の先端側を正(順方向)とし、尾端側を負(逆方向)とする。幅方向D3は、先行材18および当材19等の被圧延材17の材幅(板幅)の方向であり、搬送経路16を構成する搬送ロールのロール軸方向および圧延機11〜15の各圧延ロールのロール軸方向と同じである。この幅方向D3は、例えば図3に示すように、長手方向D2の正側に向かって左側(作業側)を正とし、右側(駆動側)を負とする。これらの厚さ方向D1、長手方向D2、および幅方向D3は、互いに垂直な方向である。また、これらの厚さ方向D1、長手方向D2、および幅方向D3の各々における正負は、本実施の形態を説明する上で便宜上設定したものであり、本発明を限定するものではない。
(圧下レベリング制御方法)
つぎに、本発明の実施の形態に係る圧下レベリング制御方法について説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る圧下レベリング制御方法の一例を示すフローチャートである。本発明の実施の形態に係る圧下レベリング制御方法において、圧下レベリング制御装置1(図1参照)は、図5に示すステップS101〜S104を順次実行する。
すなわち、図5に示すように、圧下レベリング制御装置1は、まず、粗圧延装置10の総圧延パス数Nの複数パス圧延による先行材18の各圧延パス出側でのキャンバー量Camiを測定する(ステップS101)。
ステップS101において、キャンバー量測定部2aは、上述した総圧延パス数Nの複数パス圧延、すなわち、1〜N番目圧延パスの各圧延のうち、圧延機11が行った圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量Camiを測定する。キャンバー量測定部2bは、1〜N番目圧延パスの各圧延のうち、圧延機12が行った圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量Camiを測定する。キャンバー量測定部2cは、1〜N番目圧延パスの各圧延のうち、圧延機13が行った圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量Camiを測定する。キャンバー量測定部2dは、1〜N番目圧延パスの各圧延のうち、圧延機14が行った圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量Camiを測定する。キャンバー量測定部2eは、1〜N番目圧延パスの各圧延のうち、圧延機15が行った圧延による先行材18の圧延パス出側でのキャンバー量Camiを測定する。キャンバー量測定部2a〜2eは、測定した先行材18の各圧延パス出側でのキャンバー量Camiを演算処理部5に各々送信する。
ステップS101を実行後、圧下レベリング制御装置1は、粗圧延装置10による複数パス圧延が行われる前の当材19の幅方向温度偏差を測定する(ステップS102)。ステップS102において、温度偏差測定部3は、粗圧延装置10の入側(具体的には、粗圧延装置10のうち最上流の圧延機11の入側)における当材19の幅方向温度偏差を測定する。温度偏差測定部3は、測定した当材19の幅方向温度偏差を演算処理部5に送信する。
ステップS102を実行後、圧下レベリング制御装置1は、粗圧延装置10による当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviを算出する(ステップS103)。
ステップS103において、演算処理部5は、温度偏差測定部3によって測定された当材19の幅方向温度偏差と、プロセスコンピュータ等によって入力された当材19の圧延条件(各圧延パスの圧延前後における目標板厚および目標板幅、圧延パス毎の圧下率、材料強度等)とに応じて、当材19に対応する影響係数Aijを設定する。この際、演算処理部5は、記憶部4内の影響係数テーブル4aを参照し、この影響係数テーブル4aの中から、当材19の幅方向温度偏差および圧延条件と対応付けられた影響係数を抽出し、この抽出した影響係数を、当材19に対応する影響係数Aijとして設定する。
また、演算処理部5は、粗圧延装置10の圧下レベリング量の設定可能範囲内で、圧下レベリング変更量候補を複数仮定する。本実施の形態において、粗圧延装置10の圧下レベリング量の設定可能範囲は、圧延機11〜15の各圧下レベリング量の設定可能範囲(以下、「圧下レベリング量の設定可能範囲」と適宜略記する)に相当する。一般に、圧延機11〜15の各圧下レベリング量は、例えば0.1[mm]または0.01[mm]等、所定の単位量で操作される。このような圧下レベリング操作によって設定し得る圧延機11〜15の各圧下レベリング量のパターンは有限である。すなわち、圧延機11〜15の各圧下レベリング量には、圧延機毎の構造(設備仕様)等に基づいて設定可能な上限値および下限値が存在し、圧延機11〜15の各々に設定し得る圧下レベリング量の上限値以下、下限値以上の有限な範囲が、圧下レベリング量の設定可能範囲になる。演算処理部5は、このような圧下レベリング量の設定可能範囲内において実行可能な圧下レベリング操作量を、圧下レベリング変更量候補として複数仮定する。
上述したように影響係数Aijの設定と複数の圧下レベリング変更量候補の仮定とを実行後、演算処理部5は、測定された先行材18の各圧延パス出側でのキャンバー量Camiと、当材19に対応する影響係数Aijと、仮定した複数の圧下レベリング変更量候補とをもとに、粗圧延装置10の総圧延パス数Nの複数パス圧延による当材19の各圧延パス出側でのキャンバー予測量(Cami+ΔCami)を設定する。且つ、演算処理部5は、当材19の圧延条件と、これら複数の圧下レベリング変更量候補とをもとに、粗圧延装置10の総圧延パス数Nの複数パス圧延による当材19の各圧延パス出側での出側ウェッジ予測量hdiを設定する。ついで、演算処理部5は、仮定した複数の圧下レベリング変更量候補のうち、設定したキャンバー予測量(Cami+ΔCami)と出側ウェッジ予測量hdiとの和の全圧延パスにおける合計値が最小となる際の圧下レベリング変更量候補を、粗圧延装置10による当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviとして算出する。
詳細には、ウェッジ予測量hdiの設定処理において、演算処理部5は、プロセスコンピュータ等によって入力された当材19の圧延機毎の圧延条件(各圧延パスの圧延前後の目標板厚および目標板幅、圧延パス毎の圧延荷重および圧下率、材料強度等)に応じて、当材19に対応する平行剛性値Kliを設定する。この際、演算処理部5は、記憶部4内の平行剛性値テーブル4bを参照し、この平行剛性値テーブル4bの中から、当材19の圧延機毎の圧延条件と対応付けられた平行剛性値を抽出し、この抽出した平行剛性値を、当材19に対応する平行剛性値Kliとして設定する。ついで、演算処理部5は、このように設定した平行剛性値Kliと、上述した式(9)に基づく平行塑性定数Mliおよび事前に初期設定した入側ウェッジ予測量Hdi等の当材19の圧延条件と、圧下レベリング変更量ΔLviの候補としての複数の圧下レベリング変更量候補とを用い、上述した式(8)に基づいて、当材19の各圧延パスにおける出側ウェッジ予測量hdiを設定する。
さらに、上述の圧下レベリング変更量ΔLviの演算処理において、演算処理部5は、上述のように設定した当材19のキャンバー予測量(Cami+ΔCami)および出側ウェッジ予測量hdiと、これらのキャンバー予測量(Cami+ΔCami)および出側ウェッジ予測量hdiについて圧延パス毎に事前設定した重み係数αi,βiとを用い、上述した式(7)に基づいて、当材19に対応するキャンバー量およびウェッジ量の評価関数Jを、仮定した複数の圧下レベリング変更量候補について複数算出する。ついで、演算処理部5は、算出した複数の評価関数J同士を比較する。この比較処理の結果に基づき、演算処理部5は、これら複数の圧下レベリング変更量候補のうち、評価関数Jが最小となる際の圧下レベリング変更量候補を、粗圧延装置10による当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviとして算出する。
ステップS103を実行後、圧下レベリング制御装置1は、粗圧延装置10による当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量を制御し(ステップS104)、本処理を終了する。
ステップS104において、制御部6は、ステップS103で演算処理部5によって算出された各圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLviをもとに、粗圧延装置10による当材19の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量Lviを制御する。この際、制御部6は、先行材18を複数パス圧延した際の1〜N番目圧延パスの各圧下レベリング量を、圧延パス別に圧下レベリング変更量ΔLviだけ変更するよう圧延機11〜15の圧下装置11a〜15aを制御する。制御部6は、このような圧下装置11a〜15aの制御を通して、当材19にi番目圧延パスの圧延が行われる際の圧下レベリング量Lviを圧延機11〜15の圧延パス毎に制御する。
粗圧延装置10による複数パス圧延(複数の圧延パスの粗圧延)が完了した当材19は、これから粗圧延装置10によって複数パス圧延される後続の被圧延材にとっては先行材に該当する。このような当材19は、搬送経路16に沿って順次搬送されながら、圧延機11〜15によって圧延パス毎に粗圧延され、キャンバー量測定部2a〜2eによって各圧延パス出側でのキャンバー量Camiを測定され、その後、仕上圧延等の熱間圧延ラインにおける必要な処理を施される。圧下レベリング制御装置1は、上述したステップS101〜S104の各処理を、粗圧延装置10による被圧延材の複数パス圧延が完了する都度、繰り返し行う。
(実施例1)
つぎに、本発明の実施例1について説明する。実施例1では、本発明の効果を検証するために本発明例1を行った。本発明例1の条件として、調査対象の被圧延材は、材長(長手方向D2の長さ)が8000〜10000[mm]であり、材厚(厚さ方向D1の長さ)が235[mm]であり、材幅(幅方向D3の長さ)が1200〜1400[mm]である軟鋼のスラブとした。この被圧延材の複数パス圧延による目標の板厚(設定値)は、35〜40[mm]とした。
制御対象の圧延装置は、一対の圧延ロールと一対のバックアップロールとを備えた4段型の圧延機を5つ有する熱間圧延ラインの粗圧延装置(図1に示した粗圧延装置10)とした。この粗圧延装置を構成する5つの圧延機は、各々、被圧延材の搬送方向と同じ正方向(順方向)に粗圧延するものとした。すなわち、この粗圧延装置による総圧延パス数N(=5)の複数パス圧延のうち、1番目圧延パスの圧延は、1スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、2番目圧延パスの圧延は、2スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、3番目圧延パスの圧延は、3スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、4番目圧延パスの圧延は、4スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、5番目圧延パスの圧延は、5スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とした。
また、本発明例1において、圧下レベリング制御装置は、図1に示した圧下レベリング制御装置1と同様の構成のものとし、上述の粗圧延装置が被圧延材に対して複数パス圧延を行う都度、図5に示したステップS101〜S104を繰り返し実行して、1〜5スタンドの各圧延機における1〜5番目圧延パスの圧下レベリング量Lv1〜Lv5を制御した。本発明例1の圧下レベリング制御において、圧延機に対する圧下レベリング操作が被圧延材のキャンバー量の変化に影響する度合いを示す影響係数Aijは、上述した式(3)に基づいて事前に同定した値を用いた。また、圧延パス毎の平行剛性値Kliは、上述した式(4)に基づいて事前に同定した値を用いた。1〜4番目圧延パスでのキャンバーに対する重み係数α1〜α4は「1.0」とし、5番目圧延パスでのキャンバーに対する重み係数α5は「2.0」とした。1〜4番目圧延パスでのウェッジに対する重み係数β1〜β4は「100」とし、5番目圧延パスでのウェッジに対する重み係数β5は「200」とした。
一方、実施例1では、上述した本発明例1と比較する比較例1を行った。比較例1では、上述した粗圧延装置に従来の圧下レベリング制御装置を適用した。この従来の圧下レベリング制御装置は、圧延開始前に無負荷時の圧延ロールのロールギャップがロール軸方向に均等となるよう設定した圧下レベリング量を初期値とし、被圧延材の複数パス圧延中、1〜5スタンドの各圧延機の圧下レベリング量Lv1〜Lv5を一定(すなわち初期値)に保つよう制御した。比較例1において、その他の条件は、本発明例1と同じにした。
上述した本発明例1および比較例1の各々において、調査対象のスラブの数は200本とし、これらのスラブを上述の粗圧延装置によって順次複数パス圧延した際におけるスラブの各圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量を、1〜5スタンドの各圧延機の圧延パス出側に設置した各キャンバー計および各ウェッジ計が各々順次測定した。実施例1では、本発明例1および比較例1の各々について、複数パス圧延によるスラブの各圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量の各度数分布を調査した。
図6は、実施例1における本発明例1の調査結果を示す図である。図6には、本発明例1での1〜5スタンドの各圧延機による複数パス圧延が完了した後のスラブのキャンバー量、すなわち、5番目圧延パス(最終圧延パス)の出側におけるスラブのキャンバー量の度数分布が図示されている。図6に示すように、本発明例1では、スラブの複数パス圧延によるキャンバー量の度数分布は、−80[mm]以上、100[mm]以下の範囲内に収まった。また、この度数分布の標準偏差σは、32[mm]であった。
一方、図7は、実施例1における比較例1の調査結果を示す図である。図7には、比較例1での5番目圧延パス(最終圧延パス)の出側におけるスラブのキャンバー量の度数分布が図示されている。図7に示すように、比較例1では、スラブの複数パス圧延によるキャンバー量の度数分布は、−80[mm]以上、100[mm]以下の範囲(本発明例1でのキャンバー量の範囲)を超えて、ばらついていた。このキャンバー量のばらつきを示す標準偏差σは、66[mm]であった。
図6,7を比較して分かるように、本発明例1では、スラブの複数パス圧延によるキャンバー量を比較例1よりも低減することができ、さらには、このキャンバー量のばらつきを、比較例1のばらつきの約52[%]程度、低減することができた。また、図6,7には示されていないが、本発明例1では、1〜4番目圧延パスの各出側におけるスラブのキャンバー量およびその標準偏差σ(ばらつき)を、5番目圧延パスの場合と同様に、比較例1よりも低減することができた。
さらに、図6,7には示されていないが、本発明例1では、1〜5番目圧延パスの各出側におけるスラブ(詳細には粗圧延後のスラブである粗シートバー)のウェッジ量およびその標準偏差σ(ばらつき)を、比較例1よりも低減することができた。特に、5番目圧延パスの出側におけるスラブのウェッジ量の平均測定値は、比較例1において0.23[mm]であったのに対し、本発明例1において0.1[mm]であった。
以上の比較結果から、本発明例1では、比較例1よりも、複数パス圧延によるスラブの各圧延パス出側でのキャンバー量の低減(キャンバー抑制)およびウェッジ量の低減(ウェッジ抑制)の双方に効果があることが分かった。また、本発明例1では、スラブ(粗シートバー)のキャンバーおよびウェッジの少なくとも一方に起因する通板トラブルおよび圧延トラブルは、発生しなかった。
(実施例2)
つぎに、本発明の実施例2について説明する。実施例2では、本発明の効果を検証するために本発明例2を行った。本発明例2の条件として、調査対象の被圧延材は、材長が6000〜9000[mm]であり、材厚が250[mm]であり、材幅が800〜1000[mm]である軟鋼のスラブとした。この被圧延材の複数パス圧延による目標の板厚(設定値)は、30〜35[mm]とした。
制御対象の圧延装置は、一対の圧延ロールと一対のバックアップロールとを備えた4段型の圧延機を5つ有する熱間圧延ラインの粗圧延装置とした。この粗圧延装置を構成する5つの圧延機のうち、1スタンド(最上流)の圧延機は、被圧延材の搬送方向と同じ正方向に圧延する順方向の圧延とその逆の方向(搬送方向の負方向)に圧延する逆方向の圧延とを順次行う可逆式の圧延機とした。残り2〜5スタンドの圧延機は、各々、順方向の粗圧延を行うものとした。すなわち、この粗圧延装置による総圧延パス数N(=7)の複数パス圧延のうち、1番目圧延パスの圧延は、1スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、2番目圧延パスの圧延は、1スタンドの圧延機による逆方向の粗圧延とし、3番目圧延パスの圧延は、1スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とした。また、4番目圧延パスの圧延は、2スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、5番目圧延パスの圧延は、3スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、6番目圧延パスの圧延は、4スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とし、7番目圧延パスの圧延は、5スタンドの圧延機による順方向の粗圧延とした。
また、本発明例2において、圧下レベリング制御装置は、図1に示した圧下レベリング制御装置1に、1スタンドの圧延機による逆方向の圧延の出側におけるキャンバー量を測定するキャンバー量測定部を追加した構成のものとした。この圧下レベリング制御装置は、上述の粗圧延装置が被圧延材に対して複数パス圧延(逆方向の圧延を含む)を行う都度、図5に示したステップS101〜S104を繰り返し実行して、1〜5スタンドの各圧延機における1〜7番目圧延パスの圧下レベリング量Lv1〜Lv7を制御した。本発明例2の圧下レベリング制御において、影響係数Aijおよび平行剛性値Kliは、上述した本発明例1と同様に設定した。1〜3番目圧延パスでのキャンバーに対する重み係数α1〜α3は「1.0」とし、4〜6番目圧延パスでのキャンバーに対する重み係数α4〜α6は「2.0」とし、7番目圧延パスでのキャンバーに対する重み係数α7は「3.0」とした。1〜3番目圧延パスでのウェッジに対する重み係数β1〜β3は「100」とし、4〜6番目圧延パスでのウェッジに対する重み係数β4〜β6は「200」とし、7番目圧延パスでのウェッジに対する重み係数β7は「300」とした。
一方、実施例2では、上述した本発明例2と比較する比較例2を行った。比較例2では、上述した粗圧延装置に従来の圧下レベリング制御装置を適用した。この従来の圧下レベリング制御装置は、圧延開始前に無負荷時の圧延ロールのロールギャップがロール軸方向に均等となるよう設定した圧下レベリング量を初期値とし、被圧延材の複数パス圧延中、1〜5スタンドの各圧延機の圧下レベリング量Lv1〜Lv7を一定(すなわち初期値)に保つよう制御した。比較例2において、その他の条件は、本発明例2と同じにした。
上述した本発明例2および比較例2の各々において、調査対象のスラブの数は300本とし、これらのスラブを上述の粗圧延装置によって順次複数パス圧延した際におけるスラブの各圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量を、1〜5スタンドの各圧延機の圧延パス出側に設置した各キャンバー計および各ウェッジ計が各々順次測定した。実施例2では、本発明例2および比較例2の各々について、複数パス圧延によるスラブの各圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量の各度数分布を調査した。
図8は、実施例2における本発明例2の調査結果を示す図である。図8には、本発明例2での1〜5スタンドの各圧延機による複数パス圧延が完了した後のスラブのキャンバー量、すなわち、7番目圧延パス(最終圧延パス)の出側におけるスラブのキャンバー量の度数分布が図示されている。図8に示すように、本発明例2では、スラブの複数パス圧延によるキャンバー量の度数分布は、−80[mm]以上、80[mm]以下の範囲内に収まった。また、この度数分布の標準偏差σは、34[mm]であった。
一方、図9は、実施例2における比較例2の調査結果を示す図である。図9には、比較例2での7番目圧延パス(最終圧延パス)の出側におけるスラブのキャンバー量の度数分布が図示されている。図9に示すように、比較例2では、スラブの複数パス圧延によるキャンバー量の度数分布は、−80[mm]以上、80[mm]以下の範囲(本発明例2でのキャンバー量の範囲)を超えて、ばらついていた。このキャンバー量のばらつきを示す標準偏差σは、61[mm]であった。
図8,9を比較して分かるように、本発明例2では、スラブの複数パス圧延によるキャンバー量を比較例2よりも低減することができ、さらには、このキャンバー量のばらつきを、比較例2のばらつきの約45[%]程度、低減することができた。また、図8,9には示されていないが、本発明例2では、1〜6番目圧延パスの各出側におけるスラブのキャンバー量およびその標準偏差σ(ばらつき)を、7番目圧延パスの場合と同様に、比較例2よりも低減することができた。
さらに、図8,9には示されていないが、本発明例2では、1〜7番目圧延パスの各出側におけるスラブ(詳細には粗圧延後のスラブである粗シートバー)のウェッジ量およびその標準偏差σ(ばらつき)を、比較例2よりも低減することができた。特に、7番目圧延パスの出側におけるスラブのウェッジ量の平均測定値は、比較例2において0.18[mm]であったのに対し、本発明例2において0.08[mm]であった。
以上の比較結果から、本発明例2では、比較例2よりも、複数パス圧延によるスラブの各圧延パス出側でのキャンバー量の低減(キャンバー抑制)およびウェッジ量の低減(ウェッジ抑制)の双方に効果があることが分かった。また、本発明例2では、スラブ(粗シートバー)のキャンバーおよびウェッジの少なくとも一方に起因する通板トラブルおよび圧延トラブルは、発生しなかった。
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、制御対象の圧延装置によって複数パス圧延が今回行われようとしている当材に先行して複数パス圧延が行われた先行材の各圧延パス出側でのキャンバー量を測定し、測定した先行材の各圧延パス出側でのキャンバー量と、当材の各圧延パス出側でのキャンバー量の変化に対する各圧延パスの圧下レベリング操作の影響度合いを示す影響係数と、先行材の複数パス圧延時から当材の複数パス圧延時への各圧延パスの圧下レベリング量の変更量候補(圧下レベリング変更量候補)とをもとに、複数パス圧延による当材の各圧延パス出側でのキャンバー予測量を設定し、且つ、当材の圧延条件と圧下レベリング変更量候補とをもとに、複数パス圧延による当材の各圧延パス出側でのウェッジ予測量(出側ウェッジ予測量)を設定し、設定したキャンバー予測量と出側ウェッジ予測量との和の全圧延パスにおける合計値が最小となる際の圧下レベリング変更量候補を、当材の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング変更量として算出し、算出した各圧延パスの圧下レベリング変更量をもとに、当材の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量を制御している。
このため、総圧延パス数Nの複数パス圧延における1〜N番目圧延パスのうち、j番目圧延パスの圧延時における圧下レベリング操作が、これより後の圧延パスであるi番目圧延パスの出側における被圧延材のキャンバー量の変化に及ぼす影響と、この圧下レベリング操作による被圧延材のキャンバー矯正に伴うウェッジ量の変化とを圧延パス毎に考慮して、先行材の複数パス圧延時の圧下レベリング量から当材の複数パス圧延時の圧下レベリング量への圧下レベリング変更量を、1〜N番目圧延パスの各々について設定することができる。このように設定した1〜N番目圧延パスの圧下レベリング変更量ΔLv1〜ΔLvNをもとに、当材の複数パス圧延時における1〜N番目圧延パスの圧下レベリング量Lv1〜LvNを制御することにより、1〜N番目圧延パスの各圧延時に、当材のキャンバーを助長または再発させることなく矯正するとともに当材のウェッジを矯正することができる。この結果、N番目圧延パス(最終圧延パス)のみならず、1〜N番目圧延パスの全てについて当材の圧延パス出側でのキャンバー量およびウェッジ量を可能な限り低減できることから、複数パス圧延による被圧延材のキャンバーおよびウェッジの発生を双方とも抑制することができる。
なお、上述した実施の形態では、本発明の圧下レベリング制御が行われる制御対象の圧延装置として粗圧延装置を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。制御対象の圧延装置は、仕上圧延装置等、粗圧延装置以外の圧延装置であってもよい。
また、上述した実施の形態では、制御対象の圧延装置(粗圧延装置10)が5つの圧延機11〜15を備える場合を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。制御対象の圧延装置を構成する圧延機の数(スタンド数)は、被圧延材に対して複数パス圧延が行えるのであれば、1つであってもよいし、複数であってもよい。すなわち、本発明において、制御対象の圧延装置を構成する圧延機のスタンド数は特に問われない。また、圧延機のロール段数および複数パス圧延の総圧延パス数も特に問われない。
さらに、上述した実施の形態では、制御対象の圧延装置を構成する圧延機として、被圧延材に対し順方向の圧延を行う圧延機(すなわち非可逆式の圧延機)を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。制御対象の圧延装置を構成する圧延機として、順方向の圧延と逆方向の圧延とを被圧延材に行う可逆式の圧延機が用いられてもよい。すなわち、本発明において、制御対象の圧延装置は、複数の非可逆式の圧延機を備えるものであってもよいし、1つ以上の非可逆式の圧延機と1つ以上の可逆式の圧延機とを備えるものであってもよいし、1つ以上の可逆式の圧延機を備えるものであってもよい。また、可逆式の圧延機による順方向の圧延および逆方向の圧延は、被圧延材に対する複数パス圧延の何れの圧延パスで行ってもよい。
また、上述した実施の形態では、非可逆式の圧延機の出側にキャンバー量測定部を設けていたが、本発明は、これに限定されるものではない。制御対象の圧延装置に可逆式の圧延機が含まれる場合、可逆式の圧延機には、順方向の圧延の出側と逆方向の圧延の出側との双方にキャンバー量測定部が設けられればよい。この場合、上述した影響係数は、順方向の圧延による被圧延材の圧延パス出側でのキャンバー量と、逆方向の圧延による被圧延材の圧延パス出側でのキャンバー量とを各々測定し、これら順方向および逆方向の各圧延の圧延パスについて個別に同定してもよい。このことは、上述した平行剛性値についても同様である。
さらに、上述した実施の形態では、作業側に曲がる被圧延材のキャンバー量を正の値とし、駆動側に曲がる被圧延材のキャンバー量を負の値としていたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、キャンバー量の正負の定義(すなわちキャンバーの発生方向の定義)は、上述したものと逆(作業側が負、駆動側が正)であってもよい。
また、上述した実施の形態では、当材19の1番目圧延パスの入側におけるウェッジ予測量(入側ウェッジ予測量Hd1)を零値(Hd1=0)に初期設定していたが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明において、入側ウェッジ予測量Hd1は、圧延装置入側において過去に測定した被圧延材のウェッジ量の実績値(過去の測定結果の最大値や平均値等の実績値)、被圧延材のウェッジ量の実験結果から得られた実験値、あるいはシミュレーション結果から得られたウェッジ量の予測値等に基づいて、零値以外の所定値に初期設定されてもよい。
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。