以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる被圧延材の形状制御装置および形状制御方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下では、被圧延材の一例として粗圧延後の鋼板を例示し、この鋼板を仕上圧延する連続式熱間圧延機に適用される形状制御装置および形状制御方法を説明するが、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
(実施の形態)
まず、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御装置の一構成例を示すブロック図である。なお、図1には、熱間圧延ラインのうち、本実施の形態にかかる形状制御装置1が適用される連続式熱間圧延機10を設置した部分が模式的に図示されている。図1に示すように、形状制御装置1は、鋼板7を連続的に圧延する連続式熱間圧延機10の各圧延ロール状態を操作する複数のベンダー2a〜2gと、鋼板7の形状制御等に必要な各種情報を入力する入力部3と、連続式熱間圧延機10の出側における鋼板7の板厚を計測するための形状計4と、鋼板7の形状制御に必要な各種演算処理を行う計算機5と、形状制御装置1の各構成部を制御する制御部6とを備える。
ベンダー2a〜2gは、連続式熱間圧延機10を構成する複数の圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態を操作し、これら各圧延ロール状態の操作を通じて、鋼板7の形状制御を圧延機毎に行う複数のロール状態操作部として機能する。具体的には、ベンダー2a〜2gは、圧延機F1〜F2に各々配置され、圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態として、各圧延ロール曲げ量を操作する。より具体的には、ベンダー2aは、圧延機F1の圧延ロール11a,11bに対し、油圧式等によって圧力を加え、これによって、圧延機F1における鋼板7の板クラウンを低減する方向(例えば鋼板7の板厚方向)に圧延ロール11a,11bを曲げる。また、ベンダー2b〜2gの各々は、ベンダー2aと同様に構成される。ベンダー2b〜2gは、圧延ロール11a,11bに対するベンダー2aの作用と同様に、圧延機F2〜F7の各圧延ロール12a,12b,13a,13b,14a,14b,15a,15b,16a,16b,17a,17bを、鋼板7の板クラウンを低減する方向に曲げる。ベンダー2a〜2gは、このような圧延機F1〜F7の各圧延ロール曲げ操作を通じて、鋼板7の形状制御を圧延機毎に行う。
入力部3は、キーボードおよびマウス等の入力デバイスを用いて実現される。入力部3は、操作者の入力操作に対応して、鋼板7の形状制御に必要な各種評価関数の因子等の関数情報を計算機5に入力する。
形状計4は、連続式熱間圧延機10の出側、すなわち、連続式熱間圧延機10における最後段の圧延機F7の出側に配置される。形状計4は、圧延機F7による圧延後の鋼板7の表面形状に基づいて、この鋼板7の板厚および板クラウン等を示す板厚プロフィルを計測する。形状計4は、計測した鋼板7の板厚プロフィルを計算機5に送信する。
計算機5は、入力部3によって入力された関数情報と、プロセスコンピュータ19によって入力された鋼板7の諸元とをもとに、各種演算処理を行って、鋼板7の形状制御を評価する評価関数Jを設定する。評価関数Jは、少なくとも複数の圧延機F1〜F7の各々における鋼板7のクラウン変化率の目標値からの偏差を加味して、鋼板7の形状制御を評価する形状制御評価関数である。なお、この評価関数Jの詳細については、後述する。計算機5は、このような評価関数Jを用い、評価関数Jを最小化する演算処理を行って、圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態の操作量を算出する。本実施の形態において、計算機5は、これら各圧延ロール状態の操作量として、上述したベンダー2a〜2gに設定される圧延機F1〜F7の各圧延ロール曲げ量を算出する。また、計算機5は、形状計4から鋼板7の板厚プロフィルの実測値を取得し、取得した実測値をもとに、評価関数Jを適宜補正し、その都度、評価関数Jを補正後のものに更新する。上述した各圧延ロール曲げ量の算出処理は、このような更新後の評価関数Jを用いて行われる。
なお、上述した鋼板7の諸元は、要求された鉄鋼製品を仕上圧延するために必要な情報であり、例えば、鋼板7の組成、鋼種、強度、温度、板幅、板厚、板長、重量、圧延条件、圧延後の目標寸法(板幅、板厚、板長)等が挙げられる。
制御部6は、形状制御装置1の機能を実現するためのプログラム等を記憶するメモリおよびこのメモリ内のプログラムを実行するCPU等を用いて実現される。制御部6は、ベンダー2a〜2gおよび計算機5の各動作を制御し、且つ、これら各構成部との電気信号の入出力を制御する。特に、制御部6は、計算機5による操作量の算出値に基づいて圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態(各圧延ロール曲げ量)を操作するように、ベンダー2a〜2gを制御する。
一方、連続式熱間圧延機10は、本実施の形態にかかる形状制御装置1が適用される圧延装置の一例であり、図1に示すように、圧延対象の鋼板7をその搬送経路18に沿って連続的に圧延する7つの圧延機F1〜F7を備える。圧延機F1は、鋼板7の搬送経路18を挟んで板厚方向に対向する一対の圧延ロール11a,11bと、この一対の圧延ロール11a,11bによる圧延作用を補強するバックアップロール11c,11dとを用いて構成される。また、この圧延機F1と同様に、圧延機F2は、一対の圧延ロール12a,12bとバックアップロール12c,12dとを用いて構成され、圧延機F3は、一対の圧延ロール13a,13bとバックアップロール13c,13dとを用いて構成され、圧延機F4は、一対の圧延ロール14a,14bとバックアップロール14c,14dとを用いて構成される。同様に、圧延機F5は、一対の圧延ロール15a,15bとバックアップロール15c,15dとを用いて構成され、圧延機F6は、一対の圧延ロール16a,16bとバックアップロール16c,16dとを用いて構成され、圧延機F7は、一対の圧延ロール17a,17bとバックアップロール17c,17dとを用いて構成される。これら7つの圧延機F1〜F7は、搬送経路18に沿って直列的に配置され、連続式熱間圧延機10の入側から出側に向かう順に、スタンド番号1〜7を割り振られる。例えば、圧延機F1は、連続式熱間圧延機10における最前段の圧延機であり、そのスタンド番号iは「1」である。圧延機F7は、連続式熱間圧延機10における最後段の圧延機であり、そのスタンド番号iは「7」である。
上述したような7つ(7スタンド)の圧延機F1〜F7を有する連続式熱間圧延機10は、被圧延材の一例である鋼板7を所望の板厚の鋼帯(圧延製品)に加工する仕上圧延工程を担う。このような連続式熱間圧延機10の前段には粗圧延機(図示せず)が配置される。すなわち、鋼板7は、予め粗圧延された後、連続式熱間圧延機10によって仕上圧延される。
なお、図1に示すように、連続式熱間圧延機10に対して3軸(x軸、y軸、z軸)の直交座標系を設定した場合、連続式熱間圧延機10による鋼板7の圧延方向がx軸方向と平行であれば、鋼板7の板幅方向はy軸方向と平行であり、鋼板7の板厚方向はz軸方向と平行である。この場合、連続式熱間圧延10による圧延時の鋼板7の通板方向は、圧延方向と同様にx軸方向と平行である。
プロセスコンピュータ19は、熱間圧延ラインによって製造される鉄鋼製品の製造条件等を管理、設定するものである。例えば、プロセスコンピュータ19は、鉄鋼製品のオーダー情報を受け付け、受け付けたオーダー情報をもとに被圧延材毎の製造条件等を設定する。このようなプロセスコンピュータ19は、連続式熱間圧延機10の入側に鋼板7が搬送される都度、この鋼板7の諸元を計算機5に提供するとともに、この鋼板7に対する各圧延機F1〜F7の圧下量等の圧延条件を設定して、各圧延機F1〜F7を制御する。
つぎに、本実施の形態における被圧延材の形状制御に用いられる評価関数Jについて説明する。評価関数Jは、上述したように、少なくとも各圧延機F1〜F7における鋼板7のクラウン変化率の目標値からの偏差を加味して、鋼板7の形状制御を評価する形状制御評価関数である。このような評価関数Jは、例えば次式(1)に示すように、計算機5によって導出される3つの評価関数J1,J2,J3と、各評価関数J1,J2,J3の重み付けを決定する重み係数α,β,γとを用いて構成される。
J=αJ1+βJ2+γJ3 ・・・(1)
以下、式(1)の評価関数Jを構成する各要素である評価関数J1,J2,J3について順次説明する。
まず、評価関数J1は、圧延機F1〜F7の各々における鋼板7のクラウン変化率の目標値からの偏差を評価する変化率評価関数である。このような評価関数J1は、例えば、圧延機F1〜F7のうちのスタンド番号iの圧延機(以下、第iスタンドの圧延機という)におけるクラウン変化率ΔS(i)および目標クラウン変化率ΔO(i)を用いて、次式(2)に示すように構成される。なお、本実施の形態において、最終スタンド番号nは「7」である。
式(2)において、影響係数ai(i=1〜7)は、評価関数J1における第iスタンドの圧延機の影響度を示す係数である。すなわち、圧延機F1〜F7のうち、評価関数J1における影響度が高い圧延機の影響係数aiは、影響度が低い他の圧延機に比して大きく設定される。
ここで、クラウン変化率ΔS(i)は、第iスタンドの圧延機出側の鋼板7の板クラウンと第iスタンドの圧延機入側の鋼板7の板クラウンとの差(以下、クラウン変化量という)を第iスタンドの圧延機出側の鋼板7の板厚によって除算した値として定義する。また、第iスタンドの圧延機出側の鋼板7の板クラウンS(i)は、例えば次式(3)に示すように、メカニカルクラウンM(i)とクラウンの転写率w1(i)との乗算項と、クラウンの遺伝係数w2(i)と前段の圧延機出側の板クラウンS(i−1)との乗算項とを加算して算出される。なお、板クラウンS(i)の算出式は、式(3)のものに限定されず、圧延機毎の被圧延材のクラウンを算出可能なものであればよい。
S(i)=w1(i)M(i)+w2(i)S(i−1) ・・・(3)
式(3)において、メカニカルクラウンM(i)は、第iスタンドの圧延機の圧延ロールに対して鋼板7の板幅方向に均一な荷重がバックアップロールから作用した際に、鋼板7に生じる板クラウンである。このようなメカニカルクラウンM(i)は、第iスタンドの圧延機における圧延荷重と、第iスタンドにおけるベンダー(図1に示したベンダー2a〜2gのうちのいずれか)の操作量と、圧延ロールのイニシャルクラウンと、圧延ロール摩耗量と、圧延ロールのサーマルクラウンとを用いて算出した圧延ロール変形量をもとに、求めることができる。なお、圧延条件をもとに圧延ロール変形に及ぼす影響量を予め求めておき、この影響量を用いてメカニカルクラウンM(i)を算出してもよい。
また、式(3)において、転写率w1(i)は、第iスタンドの圧延機の圧延ロールから鋼板7への形状の伝達度合いを示す係数である。遺伝係数w2(i)は、第(i−1)スタンドの圧延機から第iスタンドの圧延機へ遺伝する鋼板7の板クラウンの程度を示す係数である。なお、板クラウンS(i−1)は、第iスタンドの圧延機の前段における鋼板7の板クラウンである。すなわち、圧延機F2〜F7において、板クラウンS(i−1)は、第(i−1)スタンドの圧延機における鋼板7の板クラウンである。一方、板クラウンS(0)は、圧延機F1の前段の圧延機(例えば連続式熱間圧延機10の前段の粗圧延機)における鋼板7の板クラウンである。
一方、上式(2)における目標クラウン変化率ΔO(i)は、第iスタンドの圧延機において目標とする鋼板7のクラウン変化量と板厚との率である。このような目標クラウン変化率ΔO(i)は、圧延機F1〜F7の各々について、固定値として設定することができる。また、過去の圧延実績等をもとに、被圧延材の材質、製品寸法、各圧延機F1〜F7の圧下量、圧延機出側における被圧延材の目標温度等の製品の圧延諸元をその項目毎の区分に分けて保存し、この保存した区分毎に設定したクラウン変化率の目標値を目標クラウン変化率ΔO(i)として用いてもよい。
つぎに、評価関数J2は、複数の圧延機F1〜F7のうちの最後段の圧延機F7における鋼板7の板クラウンの目標値からの偏差を評価する最終クラウン評価関数である。このような評価関数J2は、連続式熱間圧延機10の出側における鋼板7の板クラウンS(n)と、連続式熱間圧延機10の出側において目標とする鋼板7の板クラウン(以下、目標板クラウンO(n)という)とを用いて、次式(4)に示すように構成される。
J2=(S(n)−O(n))2 ・・・(4)
なお、本実施の形態において、連続式熱間圧延機10の出側における鋼板7の板クラウンS(n)は、第7スタンドの圧延機F7における板クラウンS(7)である。板クラウンS(7)は、上述した式(3)に基づいて算出される。一方、連続式熱間圧延機10の出側における目標板クラウンO(n)は、第7スタンドの圧延機F7における目標板クラウンO(7)である。この目標板クラウンO(7)は、圧延機F7について固定値として設定してもよいし、製品の圧延諸元をもとに設定した仕上圧延後の最終的な板クラウンの目標値を用いて設定してもよい。
つぎに、評価関数J3は、連続式熱間圧延機10による圧延前の鋼板7と鋼板7に先行して圧延された先行の鋼板(以下、先行板という)との間における、圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態の操作量の変更量を評価する操作変更量評価関数である。このような評価関数J3は、第iスタンドの圧延機に配置されたベンダー(図1に示したベンダー2a〜2gのうちのいずれか)の設定値変更量ΔB(i)を用いて、次式(5)のように構成される。なお、本実施の形態において、最終スタンド番号nは、上述したように「7」である。
式(5)において、影響係数bi(i=1〜7)は、評価関数J3における第iスタンドの圧延機の影響度を示す係数である。すなわち、圧延機F1〜F7のうち、評価関数J3における影響度が高い圧延機の影響係数biは、影響度が低い他の圧延機に比して大きく設定される。
本実施の形態にかかる形状制御装置1の計算機5(図1参照)は、上述した式(2),(4),(5)に基づく各評価関数J1,J2,J3と、その重み係数α,β,γとを設定する。その後、計算機5、上述した式(1)に示すように、重み係数αと評価関数J1との乗算項と、重み係数βと評価関数J2との乗算項と、重み係数γと評価関数J3との乗算項とを加算して、鋼板7の形状制御の評価関数Jを導出し、設定する。
つぎに、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御方法について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる被圧延材の形状制御方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態にかかる被圧延材の形状制御方法では、被圧延材の一例である鋼板7が粗圧延されてから連続式熱間圧延機10(図1参照)によって仕上圧延される前に、形状制御装置1が、図2に示すステップS101〜S103の処理ステップを順次行って、連続式熱間圧延機10の圧延機毎に鋼板7の形状制御を行う。
すなわち、図2に示すように、形状制御装置1は、まず、被圧延材の形状制御に必要な各種評価関数を設定する(ステップS101)。ステップS101において、計算機5は、入力部3によって入力された評価関数の因子等の入力情報を取得し、且つ、鋼板7の諸元および鋼板7に関する圧延諸元等の情報をプロセスコンピュータ19から取得する。計算機5は、取得した各種情報を用い、上述した式(3)に基づいて、連続式熱間圧延機10の各圧延機F1〜F7における板クラウンS(i)を算出する。この演算処理において、計算機5は、プロセスコンピュータ19からの情報等をもとにクラウンの転写率w1と遺伝係数w2とを圧延機毎に算出する。また、計算機5は、鋼板7に関する圧延諸元等の情報をもとに、圧延機毎の圧延荷重、圧延ロール状態(曲げ状態)の操作量、圧延ロール摩耗量、サーマルクラウン等を算出し、且つ、入力部3からの入力情報をもとに圧延ロール毎のイニシャルクラウンを設定する。計算機5は、このようにして得られた各要素を用いて、各圧延機F1〜F7のメカニカルクラウンM(i)を算出する。計算機5は、これら転写率w1、遺伝係数w2、およびメカニカルクラウンM(i)等の各要素を式(3)の演算処理に用いる。
また、計算機5は、入力部3またはプロセスコンピュータ19から得られた情報をもとに、各圧延機F1〜F7のクラウン変化率ΔS(i)を算出し、且つ、各圧延機F1〜F7の目標クラウン変化率ΔO(i)を設定する。計算機5は、入力部3からの入力情報に基づいて圧延機毎に影響係数aiを設定した上、上述した式(2)に基づいて、クラウン変化率ΔS(i)と目標クラウン変化率ΔO(i)との差の2乗値に影響係数aiを乗算して得られる各圧延機F1〜F7の要素項を加算する。この結果、計算機5は、圧延機毎のクラウン変化率の目標偏差に関する評価関数J1を算出して、設定する。また、計算機5は、この評価関数J1の各要素の重み付けを影響係数aiによって圧延機毎に設定する。
さらに、計算機5は、上述した式(3)に基づいて最後段の圧延機F7の出側における板クラウンS(7)を算出し、且つ、入力部3またはプロセスコンピュータ19から得られた情報をもとに、この圧延機7における目標板クラウンO(7)を設定する。計算機5は、上述した式(4)に基づいて、圧延機7における板クラウンS(7)と目標板クラウンO(7)との差の2乗値を算出し、この算出結果を、鋼板7の製品段階における板クラウンの目標偏差に関する評価関数J2として設定する。
また、計算機5は、プロセスコンピュータ19から得られた過去の圧延実績等の情報をもとに、圧延機F1〜F7に各々配置のベンダー2a〜2gの各設定値変更量ΔB(i)を算出する。計算機5は、入力部3からの入力情報に基づいて圧延機毎に影響係数biを設定した上、上述した式(5)に基づいて、設定値変更量ΔB(i)の2乗値に影響係数biを乗算して得られる各圧延機F1〜F7の要素項を加算する。この結果、計算機5は、先行材と現被圧延材(鋼板7)との間における圧延機毎のベンダー操作量(すなわち圧延ロール曲げ操作量)の差に関する評価関数J3を算出して、設定する。また、計算機5は、この評価関数J3の各要素の重み付けを影響係数biによって圧延機毎に設定する。
さらに、計算機5は、入力部3からの入力情報に基づいて重み係数α,β,γを設定し、これによって、鋼板7の形状制御の評価関数J(式(1)参照)を構成する各要素の重み付けを設定する。具体的には、計算機5は、重み係数αによって評価関数J1の重み付けを設定し、重み係数βによって評価関数J2の重み付けを設定し、重み係数γによって評価関数J3の重み付けを設定する。計算機5は、上述した式(1)に基づいて、重み係数αと評価関数J1との乗算項と、重み係数βと評価関数J2との乗算項と、重み係数γと評価関数J3との乗算項とを加算し、この加算結果を評価関数Jとして設定する。
上述したステップS101を実行後、形状制御装置1は、ステップS101によって設定した評価関数Jの最小化によって、各圧延機F1〜F7の圧延ロール状態の操作量を算出する(ステップS102)。ステップS102において、計算機5は、圧延機F1〜F7の各々における鋼板7のクラウン変化率の目標値からの偏差を少なくとも加味して鋼板7の形状制御を評価する評価関数Jを用い、この評価関数Jを最小化する演算処理を行って、圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態の操作量を算出する。
具体的には、計算機5は、所定の最小化演算手法を用いて、ステップS101による評価関数Jを最小化する。例えば、評価関数Jが式(1)に示したように凸関数である場合、計算機5は、最急降下法等によって評価関数Jを最小化する。この評価関数Jの最小化によって、計算機5は、各圧延機F1〜F7におけるクラウン変化率ΔS(i)を目標クラウン変化率ΔO(i)に近づけ、連続式熱間圧延機10の出側における板クラウンS(7)をその目標板クラウンO(7)に近づけ、各圧延機F1〜F7におけるベンダー2a〜2gの操作設定値の変更量を小さくする。計算機5は、このように評価関数Jが最小化する際の各ベンダー2a〜2gの操作設定値を、圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態の操作量として算出する。なお、本実施の形態において、各圧延ロール状態の操作量は、鋼板7の板クラウンを低減する方向への圧延機F1〜F7の各圧延ロール曲げ量であり、ベンダー2a〜2gの各操作設定値に依存する。
つぎに、形状制御装置1は、上述したステップS102による操作量の算出結果に基づいて各圧延ロール状態を操作し、これら各圧延ロール状態の操作を通じて、被圧延材の形状制御を圧延機毎に行う(ステップS103)。ステップS103において、制御部6は、最小化した評価関数Jに対応して算出された各ベンダー2a〜2gの操作設定値を計算機5から取得し、取得した各操作設定値(算出値)を各ベンダー2a〜2gに対して設定する。ついで、制御部6は、このような操作設定値に基づいて圧延機F1〜F7の各圧延ロール曲げ状態を操作するように、各ベンダー2a〜2gを制御する。例えば、圧延機F1の圧延ロール11a,11bは、制御部6の制御に基づくベンダー2aの操作によって、ベンダー2aの操作設定値に応じた曲げ量分、鋼板7の板クラウンの反対方向に曲げられる。制御部6は、このような各ベンダー2a〜2gの操作量の制御を通じて、各圧延機F1〜F7の出側における鋼板7の板クラウンおよび板形状を制御する。
ここで、形状制御装置1は、鋼板7に例示される粗圧延済みの被圧延材が連続式熱間圧延機10の入側へ搬送される都度、図2に示したステップS101〜S103の各処理ステップを繰り返し実行する。このようにして、形状制御装置1は、連続式熱間圧延機10の入側に位置する被圧延材毎に、上述したように各ベンダー2a〜2gの操作量を設定し、各ベンダー2a〜2gの操作を通じて被圧延材の板クラウンおよび板形状を圧延機毎に制御する。
つぎに、圧延機F1〜F7の各圧延ロール曲げ量を操作する各ベンダー2a〜2gの操作設定値として、各ベンダー2a〜2gのベンダー荷重設定値を例示し、鋼板7の形状制御における各ベンダー2a〜2gの操作を具体的に説明する。なお、ベンダー荷重設定値は、圧延機F1〜F7の各圧延ロール曲げ量を操作するために各ベンダー2a〜2gが圧延機F1〜F7の各圧延ロール11a,11b,12a,12b,13a,13b,14a,14b,15a,15b,16a,16b,17a,17bに対して各々印加する荷重の設定値である。
図3は、圧延機毎のクラウン変化率の一例を示す図である。図3において、線L1は、本実施の形態にかかる形状制御装置1による圧延機毎のクラウン変化率ΔS(i)を示し、線L2は、圧延機毎の目標クラウン変化率ΔO(i)を示す。線L3は、従来の鋼板形状制御において設定される圧延機毎の目標クラウン変化率を示す。線L4,L5は、圧延機毎の鋼板7の形状とクラウン変化率との相関を示すものである。具体的には、線L4は、鋼板7の形状が耳波形状になるか否かのクラウン変化率の境界を示す。すなわち、線L4を超過するクラウン変化率の領域(以下、耳波域という)では、鋼板7に耳波形状が生じる。一方、線L5は、鋼板7の形状が中伸形状になるか否かのクラウン変化率の境界を示す。すなわち、線L5を下回るクラウン変化率の領域(以下、中伸域という)では、鋼板7に中伸形状が生じる。
図3の線L2によって示されるように、目標クラウン変化率ΔO(i)は、圧延対象の鋼板7に耳波形状または中伸形状のいずれも発生させることなく、スタンド番号「7」の圧延機F7の出側における鋼板7の板クラウンおよび形状のいずれもが良品範囲のものになるように設定される。本実施の形態における各圧延機F1〜F7のクラウン変化率ΔS(i)は、図3の線L1に示されるように、スタンド番号「1」の圧延機F1からスタンド番号「7」の圧延機F7へのスタンド変化に伴い、上述した目標クラウン変化率ΔO(i)に追随するように変化する。すなわち、本実施の形態におけるクラウン変化率ΔS(i)は、圧延機F1〜F7の全スタンドに亘って、耳波形状または中伸形状のいずれも鋼板7に発生させることなく、圧延機毎に目標クラウン変化率ΔO(i)との差を所定の範囲内に抑制されている。
なお、従来の鋼板形状制御では、図3の線L3に示されるように、スタンド番号「1」の圧延機F1からスタンド番号「2」の圧延機F2にかけてクラウン変化率を急激に低くし、これ以降、スタンド番号「7」の圧延機F7に至るまで、クラウン変化率を略零値に設定している。このような従来のクラウン変化率と異なり、本実施の形態におけるクラウン変化率ΔS(i)は、図3の線L1,L3を比較して分かるように、急峻に変化することなく、圧延機F1〜F7に亘って徐々に変化する。
本発明における鋼板7の形状制御では、図3に示したように、各圧延機F1〜F7のクラウン変化率ΔS(i)が目標クラウン変化率ΔO(i)に近づくようにして、各ベンダー2a〜2gのベンダー荷重設定値が圧延機毎に決定される。各ベンダー2a〜2gは、圧延機毎のベンダー荷重設定値に基づいて、圧延機F1〜F7の各圧延ロール曲げ量を操作する。図4は、鋼板の形状制御におけるベンダー荷重設定値の一例を示す図である。図4において、線L11は、本実施の形態にかかる形状制御装置1による圧延機毎のベンダー荷重設定値を示す。線L12は、従来の鋼板形状制御における圧延機毎のベンダー荷重設定値を示す。また、ベンダー荷重設定値の上限値Bmaxは、各ベンダー2a〜2gの設備仕様によって決定される設定可能な荷重の上限値であり、下限値Bminは、同様に設備仕様によって決定される設定可能な荷重の下限値である。
図4の線L11に示されるように、本実施の形態におけるベンダー荷重設定値は、上限値Bmaxを超過することなく且つ下限値Bminを下回ることなく、各ベンダー2a〜2gに設定される。また、各ベンダー2a〜2gのベンダー荷重設定値は、この上限値Bmax以下、下限値Bmin以上の範囲内において、所定の荷重差の範囲内に安定している。
ここで、従来の鋼板形状制御では、図3の線L3に示すように、前段側の圧延機F1,F2において急峻にクラウン変化率を減少させ、その後、最後段の圧延機F7に至るまで、クラウン変化率を略零値に維持するように各圧延機F1〜F7の圧延ロール曲げ量を操作している。このような圧延ロール曲げ量の操作では、図4の線L12に示されるように、ベンダー2a〜2g間においてベンダー荷重設定値の変動量が大きくなって、ベンダー2a〜2gの各荷重設定が不安定になる。さらには、図4に示すように、スタンド番号「4」のベンダー2dのベンダー荷重設定値が上限値Bmaxを超過している。したがって、従来の鋼板形状制御では、各ベンダー2a〜2g(特に、上限値Bmaxを超過したベンダー2d)の負荷が過度に増大するのみならず、ベンダー2dのベンダー荷重設定値が上限値Bmaxを超過するため、ベンダー2dを設定値どおりに操作することができず、この結果、意図したとおりに鋼板7の形状制御を行うことができない。なお、この従来の鋼板形状制御の問題点は、ベンダー2dに限らず、ベンダー2a〜2gのうちのいずれであっても、ベンダー荷重設定値が上限値Bmaxを超過した場合に起こり得る。また、ベンダー荷重設定値が下限値Bminを下回る場合であっても、この従来の問題点は同様に起こり得る。
これに対し、本実施の形態における鋼板形状制御では、図3に示したように、鋼板7の板クラウンの変化と耳形状不良(耳波形状、中伸形状等)の防止を圧延機毎に考慮して適正に設定した目標クラウン変化率ΔO(i)と、各圧延機F1〜F7におけるクラウン変化率ΔS(i)との差を所定範囲内に収束するように、各圧延機F1〜F7の圧延ロール曲げ量を操作している。このような本実施の形態における圧延ロール曲げ量の操作では、図4に示したように、上限値Bmax以下、下限値Bmin以上の範囲内に各ベンダー2a〜2gのベンダー荷重設定値を調整しつつ、ベンダー2a〜2g間でのベンダー荷重設定値の変動量を小さく抑えて、各ベンダー2a〜2gの安定的な荷重設定を行っている。したがって、本実施の形態における鋼板形状制御では、各ベンダー2a〜2gの負荷を低減できるとともに、各ベンダー2a〜2gを設定値どおりに操作することができる。この結果、各ベンダー2a〜2gに無理なく各圧延機F1〜F7の圧延ロール曲げ量を意図したとおりに操作できることから、鋼板7の板クラウンおよび形状を適正に制御することができる。
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、鋼板をその搬送経路に沿って連続的に圧延する複数の圧延機の各々における鋼板のクラウン変化率の目標値からの偏差を評価する変化率評価関数と、これら複数の圧延機のうちの最後段の圧延機における板クラウンの目標値からの偏差を評価する最終クラウン評価関数と、圧延前の鋼板とその先行板との間における各圧延機の圧延ロール状態の操作変更量を評価する操作変更量評価関数とを加算して、鋼板の形状制御を評価する形状制御評価関数を設定し、この形状制御評価関数を最小化する演算処理を行って、各圧延機の圧延ロール状態の操作量を算出し、この操作量の算出結果に基づいて各圧延機の圧延ロール状態を操作し、これら各圧延ロール状態の操作を通じて、鋼板の形状制御を圧延機毎に行っている。
このため、鋼板に例示される被圧延材の圧延機毎の目標クラウン変化率に対するクラウン変化率の偏差を可能な限り小さくして、圧延ロール曲げ量等の圧延ロール状態の操作量を圧延機毎に設定できる。したがって、被圧延材の圧延機毎の適度なクラウン変化および適正な形状を考慮して目標クラウン変化率を設定することにより、圧延機毎の被圧延材のクラウン抑制および形状制御に好適な圧延ロール状態の操作量を導出でき、この操作量に基づいて、各圧延機における被圧延材のクラウン抑制および形状制御に要する装置を、その操作限度から外れず、無理なく操作できる。さらには、各圧延機の入側における被圧延材の形状によらず、各圧延機の出側における被圧延材のクラウンおよび形状を適正且つ容易に制御できる。この結果、耳波形状や中伸形状等の被圧延材の形状不良を防止して、二重折込み等の被圧延材の通板トラブルを抑制でき、これによって、連続式熱間圧延機の稼働率および製品歩留まりの低下を抑制でき、且つ、各圧延機の損傷等の圧延ラインにおける多大な損失を防止できる。
また、最終製品形状の被圧延材の目標クラウンに対するクラウン偏差を可能な限り小さくして、圧延機毎に圧延ロール状態の操作量を設定できる。このため、最後段の圧延機出側における被圧延材のクラウンを製品許容範囲に抑制しつつ、各圧延機の圧延ロール状態を無理なく適正に操作できる。
さらに、搬送順が前後する各被圧延材間において各圧延機の圧延ロール状態の操作変更量を可能な限り小さくしつつ、圧延機毎に圧延ロール状態の操作量を設定できる。このため、前回の圧延ロール状態の操作実績をもとに計算値と実績値との誤差を学習して、今回の圧延ロール状態の操作量を適正に補正できる。この結果、各圧延機の圧延ロール状態を一層適正に操作できる。
また、連続式熱間圧延機内の圧延機間に、形状計等の被圧延材の形状または厚さを測定する装置を配置する必要がなく、このため、圧延機間の設備配置に要する環境設計および設備メンテナンスを省くことができる。この結果、上述したように各圧延機の圧延ロール状態を操作可能な装置を簡易に構成できるとともに、装置のメンテナンスに要する手間および装置コストを低減できる。
さらに、本発明の実施の形態では、上述した形状制御評価関数を構成する各要素の重み付けを任意に設定できるように構成している。このため、これら各要素の優先度に応じて重み付けを設定することによって、圧延機毎のクラウン変化の偏差、最終製品形状の被圧延材のクラウンの程度等、所望の要素を重要視して各圧延機の圧延ロール状態を操作できる。この結果、被圧延材の諸元や製品要求等に応じて、各圧延機の圧延ロール状態の操作を細かく使い分けることができる。
なお、上述した実施の形態では、式(1)に示したように、圧延機毎のクラウン変化率に関する評価関数J1と、最後段の圧延機出側の板クラウンに関する評価関数J2と、圧延ロール状態の操作変更量に関する評価関数J3とを加算してトータルの評価関数Jを構成していたが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明における被圧延材の形状制御の評価関数Jは、少なくとも複数の圧延機の各々における被圧延材のクラウン変化率の目標値からの偏差を加味して被圧延材の形状制御を評価するものであれば、式(1)以外のものであってもよい。このような評価関数Jの要素は、ワークロールベンダー、ロールクロス、またはロールシフト等、被圧延材の形状制御手法に応じて設定すればよい。例えば、評価関数Jは、上述した評価関数J1を単一の関数項として含むものであってもよいし、評価関数J2,J3のうちの少なくとも1つと評価関数J1とを含むものであってもよいし、ロールクロスやロールシフトに関する評価関数を含むものであってもよいし、これらを適宜組み合わせたものであってもよい。この場合、ワークロールベンダーに関する項を固定値とし、ロールクロスまたはロールシフトに関する項を関数項として評価関数Jを構成してもよい。
また、上述した実施の形態では、圧延機F1〜F7にベンダー2a〜2gを各々配置していたが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明において、圧延機F1〜F7の各圧延ロール状態を操作する複数のロール状態操作部は、圧延ロール曲げ量を操作するベンダー2a〜2gに限らず、圧延機F1〜F7の各圧延ロールクロス量を操作するロールクロス装置であってもよいし、圧延機F1〜F7の各圧延ロールシフト量を操作するロールシフト装置であってもよい。
さらに、上述した実施の形態では、最急降下法を用いて被圧延材の形状制御の評価関数Jを最小化していたが、評価関数Jの最小化は、最急降下法によるものに限定されない。すなわち、本発明において、上述した評価関数Jを最小化する演算処理方法は、特に問われない。
また、上述した実施の形態では、7つの圧延機F1〜F7を有する連続式熱間圧延機10を本発明に適用していたが、これに限らず、本発明は、2つ以上の圧延機を有する連続式熱間圧延機に適用可能である。すなわち、本発明において、連続式熱間圧延機の圧延機数(スタンド数)は、複数であれば、その数量を特に問われない。
さらに、上述した実施の形態では、連続式熱間圧延機10は熱間圧延ラインの仕上圧延工程を担っていたが、これに限らず、連続式熱間圧延機10は、仕上圧延工程以外の圧延工程を担ってもよい。また、本発明が適用される複数の圧延機は、連続的に被圧延材を圧延するものであればよく、例えば、冷間圧延を行うものであってもよい。
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。例えば、被圧延材は、上述した鋼板7に例示されるように鉄鋼材であってもよいし、銅またはアルミニウム等の鉄鋼材以外の金属材であってもよい。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。