JP6458449B2 - リン酸肥料原料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、リン酸肥料原料の製造方法に関するものである。
我が国は降水量が多いので、土壌からミネラル分が流出して、土壌が酸性化し易い。そのため、植物を生育させる際に使用するリン酸肥料には土壌中のリン酸濃度だけでなく、土壌pHも同時に増加させる塩基性リン酸肥料が広く使用されている。現在、塩基性リン酸肥料として、アルカリ分を多く含む溶成リン肥が利用されている。
非特許文献1に示すように、過去には、製鋼法の1つであるトーマス製鋼法で副産物として製造されるトーマスリン肥が、塩基性リン酸肥料としても利用されてきた。しかし、現在は、トーマス製鋼法が衰退したため、トーマスリン肥は使用されていない。
現在、高炉から出銑された溶銑は不純物として約0.1%のリンを含んでいるが、リンは、製鋼工程でフラックスを添加し酸素を吹き込むことで酸化除去されて、製鋼スラグとして排出されている。
特許文献1に示すように、製鋼スラグのリン酸濃度は1〜4質量%程度であり、リン酸肥料として十分な濃度ではないものの、製鋼スラグ中には、フラックス由来のCaO分や溶銑から酸化除去されたSiO2分が多量に含まれているので、ケイ酸リン酸肥料として利用されている。
しかし、現在でもリン酸肥料の原料であるリン鉱石の全量を輸入に依存している我が国では、製鋼スラグ中のリン酸分は有用なリン酸肥料資源として考えられており、特許文献2〜4に示すように、製鋼スラグ中のリン酸分を濃縮して高リン酸スラグを製造し、製鋼スラグからリン酸肥料を製造することが試みられている。
ところで、上記リン酸肥料を肥料として使用する際において肥料効果を高めるには、リン酸濃度だけではなく、リンの結晶状態や鉱物相を制御する必要がある。例えば、上記溶成リン肥は、燐鉱石と酸化マグネシウムを融解し混合して、ジェット水流で急冷して製造した肥料であり、リン含有鉱物相を、非晶質、即ち、ガラスにすることにより、肥料効果を高めている。
なお、本発明でのリン含有鉱物相とは、肥料中各鉱物相の中でリンが濃化した相を指すこととする。
非特許文献1に示すように、トーマスリン肥は、主成分がCaO、P25、及び、SiO2であるので、リン含有鉱物相が、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体相、5CaO・SiO2・P25相、又は、7CaO・2SiO2・P25相(以下、「固溶体相」と総称する場合がある。)である。固溶体相は、肥料効果の高い鉱物相である。
特許文献3には、組成を制御することにより、リン酸肥料中のリンの鉱物相を意図的にCa3(PO42相(以下「C3P相」と記載することがある。)を形成して肥料効果を高めることが開示されている。
このように、高リン酸スラグ中で肥料効果が高いリン含有鉱物相は、ガラス相、固溶体相、及び、C3P相であると考えられている。
特許第5105322号公報 特開平11−158526号公報 特開2009−132544号公報 特開2011−208277号公報
日本土壌肥料学雑誌、第13巻、p93
リン酸肥料の原料であるリン鉱石を海外から輸入している我が国では、溶銑中のリンは非常に魅力的な資源である。溶銑中のリンや製鋼スラグ中のリン酸分を原料として、リン酸肥料を製造する場合、リン酸肥料への酸化鉄の混入は不可避であるため、酸化鉄を含んで、リン酸濃度が高く、肥料効果が高いリン酸肥料を開発することが望まれている。
しかし、酸化鉄を含有するリン酸肥料原料、又は、製鋼スラグを原料とする肥料効果の高いリン酸肥料原料や、その製造方法は開発されていない。
例えば、溶成リン肥では、前述のようにガラス化して、肥料効果を高めているが、酸化鉄が混入すると結晶化が起き、そのときの肥料効果が不明である。
また、トーマスリン肥は、CaOとSiO2の重量比で表示する塩基度が5以上と非常に高い組成領域にあり、塩基度が一般的には5未満である製鋼スラグを原料とした場合、必ずしも固溶体が析出するとは限らず、肥料効果が不明である。
特許文献1には、溶銑予備処理工程で回収されるスラグをケイ酸リン酸肥料として使用することが開示されているが、意図的にリン酸濃度を濃縮する工程がないために、スラグのリン酸濃度が5%以下と低く、リン酸肥料としての肥料効果は低い。
特許文献2に開示された技術によっては、高リン酸スラグを製造することは可能であるが、冷却速度などが明示されておらず、リン酸含有鉱物相などを意図的に制御しておらず、肥料効果が不明である。
特許文献3に開示された技術によっては、高リン酸スラグを製造することは可能であるが、リン含有鉱物相を3CaO・P25相(C3P相)及び/又は4CaO・P25相であるために肥料効果が高くない。理由は後述する。
特許文献4に開示された技術も、リン酸肥料中のリン含有鉱物相を制御して、主にC3P相としているため肥料効果が高くない。理由は後述する。
そのため、本発明は、上記状況に鑑み、酸化鉄を含有するリン酸肥料原料、又は、溶銑中のリンを出発原料とした時のリン酸肥料原料の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成するため、成分組成及び製造条件の面で肥料効果の高いリン酸肥料原料について検討を重ねた結果、リン含有鉱物相を肥料効果の観点で整理すると序列があることを見出した。そして、成分組成及び冷却条件を制御することにより、肥料効果の高い鉱物相の析出を促進させ、肥料効果の低い鉱物相の析出を抑制し、かつ、酸化鉄を含有しても肥料効果の高いリン酸肥料を安定的に製造する方法を見出した。
なお、本発明では、リン酸肥料の肥料効果を評価する指標としては、一般的なク溶性リン酸を使用せずに、可溶性リン酸を使用する。ク溶性リン酸、可溶性リン酸とは、それぞれ、肥料中のリン酸の中で2%クエン酸水溶液に溶解するリン酸分、又は、より中性に近い2%クエン酸アンモニウム溶液に溶解するリン酸分のことを指す。
これは、植物が良く育つ土壌のpHは弱酸性から中性であることから、pH2程度の酸性溶液に溶解するク溶性リン酸よりも、より中性に近い溶液に溶解する可溶性リン酸で評価した方が妥当であるという考えによるものであり、最近では、可溶性リン酸の方が植物の生育に対応することが知られている。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
[1]リン含有鉱物相において、3CaO・P25相の析出を抑え、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体、5CaO・SiO2・P25、及び、7CaO・2SiO2・P25の1種又は2種以上の固溶体相の析出を促進することにより、可溶性リン酸濃度が高いリン酸肥料原料を製造するリン酸肥料原料の製造方法であって、
CaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄(Fe換算)を合計で60質量%以上含有し、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下であり、P25を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄をFe換算で5質量%以上25質量%以下含有する、リンを0.5〜4質量%含有する高P溶銑を脱リンすることにより製造される製鋼スラグで、1250〜1400℃の溶融製鋼スラグを、600℃に到達するまでの間の温度降下量を600℃に到達するまでの時間で除算した数値で、10℃/min以上になるように制御して冷却し、上記リン含有鉱物相における固溶体相の存在濃度を28質量%以上にする
ことを特徴とするリン酸肥料原料の製造方法。
本発明によれば、酸化鉄を含むが、リン酸濃度が高く、肥料効果の高いリン酸肥料原料の製造方法を提供することができる。
製鋼工程においてリン酸含有スラグを製造する工程の一例を示す図である。 可溶性リン酸率(可溶性リン酸濃度/全リン酸濃度)と結晶化度の関係を示す図である。 リン酸濃度及び塩基度とリン含有鉱物相との関係を示す図である。 結晶化度とt.Fe濃度の関係を示す図である。 固溶体相の存在濃度とt.Fe濃度の関係、及び、C3P相の存在濃度とt.Fe濃度の関係を示す図である。 固溶体相又はC3P相の存在濃度と冷却速度の関係を示す図である。
本発明のリン酸肥料原料の製造方法(以下「本発明製造方法」ということがある。)は、リン含有鉱物相において、3CaO・P25相の析出を抑え、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体、5CaO・SiO2・P25、及び、7CaO・2SiO2・P25の1種又は2種以上の固溶体相の析出を促進することにより、可溶性リン酸濃度が高いリン酸肥料原料を製造するリン酸肥料原料の製造方法であって、
CaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄(Fe換算)を合計で60質量%以上含有し、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下であり、P25を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄をFe換算で5質量%以上25質量%以下含有する、リンを0.5〜4質量%含有する高P溶銑を脱リンすることにより製造される製鋼スラグで、1250〜1400℃の溶融製鋼スラグを、600℃に到達するまでの間の温度降下量を600℃に到達するまでの時間で除算した数値で、10℃/min以上になるように制御して冷却し、上記リン含有鉱物相における固溶体相の存在濃度を28質量%以上にする
ことを特徴とする。
まず、植物生育用のリン酸肥料の原料(リン酸肥料原料)として使用可能なリン酸含有スラグの製造方法について説明する。図1に、製鋼工程において、リン酸含有スラグを製造する工程の一例を示す。
図1に示すように、製鋼工程においては、高炉で製造した溶銑であって、通常はリンを0.08〜0.15質量%含有する溶銑を転炉に移送し、溶銑の上にスラグを形成し、酸素源を吹き込んで、溶銑とスラグの反応で、溶銑の脱リン処理S01を行う。
脱リン処理S01によって生成した転炉脱リンスラグ41を転炉から排出し、その後、転炉内の溶銑の上に、再度、スラグを形成し、酸素源を吹き込んで、脱炭処理S02を行う。脱炭処理S02で得られた溶鋼に2次精錬S03を施した後、連続鋳造S04で鋼片を製造する。
脱リン処理S01の後、転炉から排出される転炉脱リンスラグ41には、溶銑中のリンが酸化したリン酸とともに、多量の鉄分を含んでいる。そこで、転炉脱リンスラグ41から鉄やリン等の有価元素を回収するために、転炉脱リンスラグ41に還元・改質処理S11を施す。
還元・改質処理S11においては、転炉脱リンスラグ41を溶融し、還元剤及び改質剤として、微粉炭、Al23源、SiO2源を添加して、リンを0.5〜4質量%と多く含有する高P溶銑42を製造する。
そして、高P溶銑42に、必要に応じ脱Cr処理S12を施した後、生石灰やSiO2などを原料としたフラックスを添加し、酸素を吹き込む脱リン処理S13を施して、植物生育用のリン酸肥料の原料(リン酸肥料原料)として使用可能なリン酸含有スラグ50を製造する。
なお、脱リン処理S13によって、リン含有濃度で0.1〜0.3質量%まで脱リンされた溶銑51は、高炉で生成された溶銑とともに転炉へ供給される。
リン酸含有スラグ50を製造する際、成分組成や冷却速度を制御して、リン酸含有スラグ中の可溶性リン酸の量を増大する必要がある。
本発明製造方法で製造したリン酸肥料原料(以下「本発明肥料原料」ということがある。)では、CaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄(Fe換算)の合計が60質量%以上で、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下で、P25が8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄がFe換算で5質量%以上25質量%以下であり、さらに、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体、5CaO・SiO2・P25、及び、7CaO・2SiO2・P25(以下、3つの鉱物相をまとめて「固溶体相」ということがある。)の1種又は2種以上の存在濃度の合計が28質量%以上である。
また、脱リン処理S13(図1、参照)を行う際には、その脱リン処理S13終了時の処理容器内の溶融スラグの塩基度αが1.5以上3.0以下で、P25が8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄がFe換算で5質量%以上25質量%以下になるように、脱リン処理条件を調整する。
その上で、上記のように調整した溶融スラグを、その処理終了時の温度である1200〜1450℃から600℃に到達するまでの間の温度降下量を、600℃に到達するまでの時間で除算した数値(以下、「600℃までの冷却速度」ということがある。)で、10℃/min以上になるように制御して、好ましくは30℃/min以上になるように制御して冷却する。
以下、リン酸含有スラグのリン含有鉱物相から固溶体相の析出を促進し、C3P相の析出を抑制する理由、成分組成を限定する理由、塩基度、P25濃度、酸化鉄濃度を限定する理由、また、脱リン処理を行ってリン酸含有スラグを製造する時、塩基度、リン酸濃度、冷却速度を限定する理由について説明する。
まず、固溶体相の析出を促進し、C3P相の析出を抑制する理由について説明する。
表1に示す成分組成のスラグ原料は、脱リン処理S13により生成されたものである。脱リン処理S13により生成されたスラグを、その処理終了時のスラグ温度である1200〜1450℃から600℃までの冷却速度が10℃/min以上になるように制御して冷却し、そのスラグの温度が25℃程度の常温になった後に、その試料中のリン含有鉱物相を、XRD、SEMなどで確認した。
一部のスラグ試料では、結晶相の他にガラス相が確認された。ガラス相は、リンを含有していることが確認された。一方、結晶相は、リン酸塩相、ケイ酸塩相、FeO相の三つの鉱物相に分類することが可能であった。リン酸塩相は、C3P相と固溶体相の二種類であった。
結果を表1にまとめて示す。
Figure 0006458449
リン酸肥料として重要な部分であるリンが存在する鉱物相(以下「リン含有鉱物相」ということがある。)は、ガラス相、C3P相、固溶体相であることが解った。表1中の○は主要な鉱物相であることを示し、△は主要でない鉱物相又は微量に存在する鉱物相を意味する。結晶相であるC3P相と固溶体相が同時に析出することはなく、また、C3P相、又は、固溶体相が析出する時、ガラス相が同時に析出する場合があった。
製造したスラグのリン含有鉱物相と肥料効果の関係を調査するため、表1に示すスラグ試料の結晶化度と可溶性リン酸率を測定した。結果を図2に示す。
可溶性リン酸率は、リン酸肥料原料中の全リン酸濃度に対する可溶性リン酸濃度の存在比である。リン酸肥料を使用する場合、リン酸量が一定となるように、リン酸肥料のリン酸濃度に応じて添加量を調整して土壌に添加するので、肥料効果は、可溶性リン酸濃度でなく、可溶性リン酸率で評価した。
図2から、C3P相が析出する場合は(図中「×」参照)、結晶化度の増加に伴い可溶性リン酸率が減少することが解る。また、固溶体が析出する場合は(図中「○」参照)、結晶化度は、ほぼ100%であり、可溶性リン酸率は、C3P相、ガラス相が存在する場合よりも高いことが解る。
これらの結果から、(a)C3P相、ガラス相、及び、固溶体相の可溶性リン酸率には序列があり、(b)C3P相<<ガラス相<固溶体相の順に可溶性リン酸率が大きくなり、(c)固溶体相が、可溶性リン酸率が最も高い相であり、C3P相が、可溶性リン酸率が最も低い相であることが解った。
このことから、スラグ中の肥料効果、つまり、可溶性リン酸濃度を高めるためには、C3P相の析出を可能な限り抑制して、固溶体相を積極的に析出させる必要があることが解る。
実際、後述するように、固溶体相を28.2質量%析出させた高リン酸スラグと、固溶体相を含まず、C3P相のみの高リン酸スラグとを使用して、ヒロシマ菜を育てて生育を確認した。結果を表2に示す。
Figure 0006458449
表2に示すように、固溶体相を析出させた高リン酸スラグを使用した場合(試料No.4)、ヒロシマ菜の生育が良いのに対し、固溶体相を含まず、C3P相のみの高リン酸スラグを使用した場合(試料No.9)、ヒロシマ菜の生育が悪いことを確認した。
即ち、本発明者らは、リン含有鉱物相において、C3P相の析出を抑え、固溶体相の析出を促進することにより、可溶性リン酸濃度が高い脱リンスラグ(リン酸肥料原料)を製造できることを確認した。
リン酸肥料原料は、主成分として、CaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄を含んでおり、各成分の合計を60質量%以上とする。各成分の合計が60質量%未満であると、上記成分以外の成分とリン酸が化合物を形成して、リン酸含有鉱物相の生成を制御することができなくなるので、上記各成分の合計は60質量%以上とする。好ましくは70質量%以上である。
ただし、酸化鉄の濃度は、試料中のFe濃度で表示することとし、以後、“t.Fe濃度”と表示する。
本発明者らは、固溶体相が最も安定的に析出する条件を検討した。図3に、t.Fe濃度を10質量%、MnO濃度を5質量%、MgO濃度を5質量%、Al23濃度を3質量%に固定し、溶融スラグを、脱リン処理S13(図1、参照)後の温度である1200〜1450℃から600℃までの冷却速度が、10℃/min以上になるように制御して冷却した際の、リン酸濃度及び塩基度とリン含有鉱物相との関係を示す。
即ち、図3は、リン含有鉱物相の塩基度依存性及びP25濃度依存性を示している。○は、固溶体相が析出した場合を示し、×は、C3P相が析出した場合を示す。塩基度α(=CaO/SiO2)が1.5以上3.0以下で、固溶体相が析出する。それ故、肥料効果を高めるには、塩基度αを1.5以上3.0以下にする必要がある。
塩基度αが1.5より小さいか、又は、3.0より大きい場合は、C3P相が析出して肥料効果が低下する。それ故、脱りん処理時には、添加する生石灰やSiO2などのフラックスの量を調整し、スラグの塩基度αを1.5以上3.0以下にする。塩基度αが1.5以上3.0以下のスラグにおける固溶体相の全スラグ質量に対する存在比をSEMで測定したところ、リン酸濃度が8質量%以上で固溶体相が28質量%以上存在することを確認できた。
一方、リン酸濃度の上限を、塩基度αの二次式で限定する理由について説明する。図3に示すように、塩基度αが1.5〜3.0の範囲内でも、リン酸濃度がある程度以上に増加すると、C3P相が析出し始める。そのC3P相が析出し始めるリン酸濃度は、塩基度αが増加すると二次曲線的に増加することを実験的に確認したため、二次曲線的に増加するリン酸濃度を(−4α2+23α−4)で近似した。
即ち、塩基度を一定にして、リン酸濃度を0質量%から増加させていくと、8質量%の条件から固溶体相が析出するようになり、リン酸濃度が(−4α2+23α−4)質量%以下の領域では、リン含有鉱物相は固溶体相であるが、(−4α2+23α−4)質量%を超えると、リン含有鉱物相はC3P相となる。
そこで、リン酸肥料原料のリン含有鉱物相がC3P相であると肥料効果が落ちるので、リン酸濃度は8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下とする。そのため、脱りん処理時、スラグに添加するフラックスの量を調整して、リン酸濃度を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下にする必要がある。
リン酸濃度が8質量%未満であると、リン酸濃度が低い上に固溶体相でなくC3P相である。その結果、リン酸肥料の使用量が多大になり、肥料としての商品価値が低下する。
t.Fe濃度は、5質量%以上25質量%とする。表1に示す試料の中で塩基度αが1.5以上3.0以下で、かつ、リン酸濃度が12質量%以上20質量%以下の試料における、結晶化度とt.Fe濃度の関係を図4に示す。
t.Fe濃度が5.0質量%より小さいと、スラグ中にガラス相が存在し、5質量%以上では、結晶化度が100%となり結晶相が存在した。酸化鉄は、FeOとして存在すると考えられており、塩基性酸化物であって、スラグの結晶化を促進する成分である。それ故、結晶相である固溶体相を析出させるためには5質量%以上の酸化鉄が必要であることが解る。
図5に、上記試料における固溶体相の存在濃度とt.Fe濃度の関係、及び、C3P相の存在濃度とt.Fe濃度の関係を示す。t.Fe濃度が5質量%以上25質量%以下の範囲では固溶体相が析出し、t.Fe濃度が25質量%を超えるとC3P相が析出した。
この結果から、固溶体相を析出させるためには、脱リン処理時に吹き込む酸素量を調整して、t.Fe濃度を5質量%以上25質量%以下にする必要があることが解る。
リン酸肥料原料を製造する際には、上記組成に調整した120〜140℃の溶融スラグを、600℃までの冷却速度が10℃/min以上になるように制御して冷却する必要がある。
溶融スラグの温度が120℃未満であると、スラグが完全に溶融しない場合があり、その場合、リン酸肥料としての肥料効果が発現しない。溶融スラグの温度を、140℃を超える温度とすることは、脱リン反応平衡から脱リンが進み難くなって、スラグ中のリン酸濃度が低下してしまう他、加熱コストが嵩むし、処理容器の耐火物の損耗も激しくなるので不適当である。
溶融スラグの塩基度、リン酸濃度、t.Fe濃度が上記範囲内にあるとしても、必ずしもC3P相の析出を抑制できるわけではない。C3P相の析出を抑制するためには、溶融スラグを冷却する冷却速度も重要な因子となる。
本発明者らは、塩基度α:1.6、Al23:3質量%、MgO:9質量%、P25:18質量%、t.Fe濃度:6質量%の溶融スラグ試料を、600℃までの冷却速度が1℃/min、5℃/min、10℃/min、30℃/min、及び、50℃/minになるよう制御して冷却し、試料中のリン含有鉱物相の存在濃度を調査した。
脱リン処理後の温度から600℃までの間の冷却速度を、600℃に到達するまでの間は所定の冷却速度以上になるように制御することとしたのは、スラグ中のリン含有鉱物相が、その温度範囲で定まり、600℃より下の温度領域では鉱物相に変化が生じないからである。調査結果を図6に示す。
図6に示すように、前記冷却速度が1℃/min、5℃/minでは、C3P相のみが析出し、10℃/min、30℃/min、50℃/minでは、固溶体相のみが析出した。
この結果から、固溶体相の存在濃度を28質量%以上にするには、水冷や溶融スラグを鉄板の板に流し込んで急冷する方法などを用いて、600℃に到達するまでの間の前記数値で、10℃/min以上になるように制御して冷却する必要があることが解る。好ましくは30℃/min以上である。
以上、リン酸含有スラグの製造方法及びリン酸含有スラグについて説明したが、本発明は、上記説明に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
なお、図1に示すリン酸含有スラグを製造する工程においては、転炉脱リンスラグから得た高リン溶銑を脱リン処理してリン酸含有スラグを製造すると説明したが、リン酸含有スラグを製造は、この説明に限定されることはない。
た、生石灰、SiO2、P25、酸化鉄などを出発原料として、上記組成範囲に入るように混合した後、溶融して、上記冷却速度で冷却してリン酸肥料原料を製造してもよい。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例)
脱リン処理S13(図1、参照)を、その処理後のスラグの組成がCaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄(Fe換算)を合計で60質量%以上含有し、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下であり、P25を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄をFe換算で5質量%以上25質量%以下になるように調整し、かつ、その処理後の温度を1250〜1400℃に制御して、行った。
その際に生成したスラグを、600℃までの間は、主として、前記数値で10℃/minの冷却速度になるよう制御して冷却し、スラグの固溶体相の存在比、可溶性リン酸率、及び、結晶化度を調査した。結果を表3に示す。
Figure 0006458449
可溶性リン酸率を、可溶性リン酸率0.6以上を◎、0.5未満を×として評価した。
冷却速度が10℃/minの実施例1〜9のスラグ試料においては、塩基度が1.5以上3.0以下、リン酸濃度が8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、t.Fe濃度が5質量%以上25質量%以下で、かつ、全スラグ質量に対する固溶体相の存在比が28質量%以上である。
比較例1〜8、のスラグ試料では、塩基度αが1.5未満と低く、リン酸濃度が(−4α2+23α−4)質量%を超えていたため、また、比較例9では、塩基度αが1.5未満と低く、t.Fe濃度が25質量%超と高いため、比較例10では、塩基度が3.0より高いため、固溶体相が析出しなかった。
比較例11では、りん酸濃度が8質量%より低く、比較例12では、(−4α2+23α−4)より高いため、固溶体相が析出しなかった。比較例13では、t.Fe濃度が5%より低く、ガラス相となり、また、比較例14と15では、t.Fe濃度が25%より高かったため、固溶体相が析出しなった。
比較例13のスラグ試料では、冷却速度が10℃/min未満であるので、固溶体が析出しなかった。
同じ組成で冷却速度が異なる実施例6及び10と、比較例16を比較すると、600℃までの冷却速度を10℃/min以上とした場合には、固溶体相が28質量%以上になっていて、600℃までの冷却速度を30℃/minに高めた例の方が固溶体相の濃度が高くなっていることを確認した。
前述したように、本発明によれば、酸化鉄を含むが、リン酸濃度が高く、肥料効果の高いリン酸肥料原料の製造方法を提供することができる。よって、本発明は、鉄鋼産業及び植物育成産業において利用可能性が高いものである。

Claims (1)

  1. リン含有鉱物相において、3CaO・P25相の析出を抑え、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体、5CaO・SiO2・P25、及び、7CaO・2SiO2・P25の1種又は2種以上の固溶体相の析出を促進することにより、可溶性リン酸濃度が高いリン酸肥料原料を製造するリン酸肥料原料の製造方法であって、
    CaO、SiO2、P25、及び、酸化鉄(Fe換算)を合計で60質量%以上含有し、CaOとSiO2の質量濃度比で表示する塩基度αが1.5以上3.0以下であり、P25を8質量%以上(−4α2+23α−4)質量%以下、酸化鉄をFe換算で5質量%以上25質量%以下含有する、リンを0.5〜4質量%含有する高P溶銑を脱リンすることにより製造される製鋼スラグで、1250〜1400℃の溶融製鋼スラグを、600℃に到達するまでの間の温度降下量を600℃に到達するまでの時間で除算した数値で、10℃/min以上になるように制御して冷却し、上記リン含有鉱物相における固溶体相の存在濃度を28質量%以上にする
    ことを特徴とするリン酸肥料原料の製造方法。
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