JP6003911B2 - リン酸質肥料原料、リン酸質肥料およびその製造方法 - Google Patents
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しかし、高炉から出銑される溶銑中のリン濃度は0.1質量%程度であるため、従来の一般的な溶銑の予備脱燐処理や溶銑の脱炭精錬で生成される製鋼スラグ中のリン酸(P2O5)濃度は、高々1〜2質量%、多くても5質量%程度と低く留まっている。このままでは、製鋼スラグをリン酸資源、例えばリン酸質肥料原料として利用できる見込みはほとんどない。そのため、これらの製鋼スラグは、路盤材などの土木用材料として使用されているのが現状であり、スラグ中のリンは有効に利用されていない。なお、ここでいう「予備脱燐処理」とは、溶銑を転炉などで脱炭精錬する前に、予め溶銑中のリンを除去する処理をいう。
例えば、製鋼スラグの活用法として、リンを含む製鋼スラグを回収して、リン酸質肥料原料として有効利用する方法がある。スラグを原料とするリン酸質肥料としては、トーマス燐肥が広く知られている。このトーマス燐肥は、高リン鉄鉱石を原料として製造されるトーマス溶銑(通常、[P]:1.8〜2.0質量%程度)をトーマス転炉を用いて精錬し、この際に生成するスラグを原料とするものであり、リン酸濃度は16〜22質量%と高いことが特徴である。しかし、この技術は、トーマス転炉を用いる必要があることや、高リン鉄鉱石を原料とする必要があることなどの制約や、脱リン後の溶銑のリン濃度が高いこと、生成するスラグ量が多いこと等の問題があり、現在はほとんど実施されていない。
なお、肥料効果は、リン酸の溶解性(リン酸溶解性)を示す「ク溶性リン酸」あるいは「可溶性リン酸」で評価されることが多いが、「可溶性リン酸」で評価するほうが、「ク溶性リン酸」で評価するよりも、作物生育促進との相関が強いと言われている。
このように、製鋼スラグから従来の技術で製造された高リン含有スラグは、製造単位(ロット)ごとに、肥料効果が変動して、リン酸質肥料として安定して使用できないという問題があった。
まず、得られた各種リン含有スラグについて、X線回折を用いて、スラグ中に含まれる結晶物質(化合物)を同定した。その結果、得られたリン含有スラグ中には、α−Ca3(PO4)2、β−Ca3(PO4)2、Ca4O(PO4)2、Ca5(PO4)3(OH)などのCaO−P2O5系結晶物質が含まれていた。そこで、試薬または化学合成により得られたこれらCaO−P2O5系結晶物質の可溶性リン酸量を調査し、リン酸可溶率を求めた。
なお、可溶性リン酸量は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法 1992年度版)に準拠して、所定量のスラグを容器にとり、所定量のクエン酸二アンモニウム溶液(pH:7.0)を加え、振り混ぜながら、所定温度で所定時間作用させたのち、水を加えて冷却し直ちに乾燥ろ紙でろ過し、液中のリン酸量を測定して、求めた。
従来、リン酸質肥料としてリン含有スラグを利用する際にはCa3(PO4)2が含有することを目標としていたが、α型が生成している場合には、リン酸可溶率が大きくなり肥料効果が大きくなるが、β型が生成している場合には、リン酸可溶率が低く肥料効果が低くなる。このため、従来のリン含有スラグで大きく肥料効果が変動した理由は、形成されるCa3(PO4)2の型が変動したことによることが大きいことを突き止めた。
さらに、本発明者らは、脱リンスラグ中に、α−Ca3(PO4)2を生成させるためには、CaO−P2O5−SiO2三元系の組成を調整することに加えて、脱リン処理後に、生成したスラグを1050℃〜700℃の温度域を急冷する加速冷却を行う必要があることを見出した。反応容器中での放冷では、β−Ca3(PO4)2の生成が優先し、肥料効果に優れたα−Ca3(PO4)2が生成しないことを知見した。
(1)製鋼精錬プロセスで発生したリンを含む製鋼スラグを処理して得られる脱リンスラグを素材とするリン酸質肥料原料であって、前記脱リンスラグが、少なくともCaO、P2O5およびSiO2を含み、スラグ全量に対するmass%で、前記CaO、P2O5およびSiO2の合計量が50%以上、P2O5:15%以上で、かつ前記CaO、P2O5、SiO2の三元系での合計量全量に対するmass%で、CaO:50〜65%、P2O5:15%以上を含み、SiO2:10%未満である組成を有し、かつ可溶性リン酸をスラグ全量に対するmass%で、4.5%以上含むスラグであることを特徴とするリン酸質肥料原料。
(2)(1)において、前記脱リンスラグが、α−リン酸三カルシウム(α−Ca3(PO4)2)、および/または、リン酸四カルシウム(Ca4O(PO4)2)の結晶構造を有するCaO−P2O5系結晶を含むことを特徴とするリン酸質肥料原料。
(3)一部または全部が、(1)または(2)に記載のリン酸質肥料原料からなることを特徴とするリン酸質肥料。
(4)製鋼精錬プロセスで発生したリンを含む製鋼スラグに還元処理を施して得られるリン含有溶銑に脱リン処理を施し、生成する脱リンスラグをリン酸質肥料原料とするリン酸質肥料原料の製造方法であって、生成する前記脱リンスラグが、CaO含有量とSiO2含有量の比、[%CaO]/[%SiO2]で定義される塩基度が1.5以上、かつ、スラグ全量に対するmass%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計量が50%以上、P2O5:15%以上で、かつ前記CaO、P2O5およびSiO2の三元系での合計量全量に対するmass%で、CaO:50〜65%、P2O5:15%以上を含み、SiO2:10%未満となる組成を有するように、前記脱リン処理を、酸素ガス量および酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整する処理とし、前記脱リン処理後、生成した前記脱リンスラグに、1050〜700℃の温度域を平均冷却速度で5℃/min以上の加速冷却を施す、ことを特徴とするリン酸質肥料原料の製造方法。
(5)(4)において、前記還元処理が、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて行う処理であることを特徴とするリン酸質肥料原料の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記CaO源が、粒径が1mmアンダーの粉末であることを特徴とするリン酸質肥料原料の製造方法。
(7)(4)ないし(6)のいずれかにおいて、前記加速冷却前に、前記生成した脱リンスラグに、加熱し均一化する処理を施し、しかる後に前記加速冷却を施すことを特徴とするリン酸質肥料原料の製造方法。
(8)(4)ないし(7)のいずれかにおいて、前記加速冷却後の脱リンスラグが、α−リン酸三カルシウム(α−Ca3(PO4)2)、および/または、リン酸四カルシウム(Ca4O(PO4)2)の結晶構造を有するCaO−P2O5系結晶を含むことを特徴とするリン酸質肥料原料の製造方法。
本発明リン酸質肥料原料は、CaO、P2O5およびSiO2を含み、あるいはさらにAl2O3、MgO、MnO、FetO等を含有するスラグで、スラグ全量に対するmass%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計量が50%以上、P2O5:15%以上で、かつCaO、P2O5、SiO2の三元系での合計全量に対するmass%で、CaO:50〜65%、P2O5:15%以上を含み、SiO2:10%未満である組成を有する。なお、ここでいう「CaO」、「P2O5」、「SiO2」は、スラグ中のCa、P、Siがそれぞれの酸化物(CaO、P2O5、SiO2)で存在すると考えた際の、それら酸化物の質量組成である。
また、スラグ全量に対する質量%で、P2O5が15%未満では、リン酸含有量が少なすぎて、肥料効果が低下し、所望の肥料効果を確保することができなくなる。このため、P2O5はスラグ全量に対する質量%で、15%以上に限定した。
CaO、P2O5、SiO2の合計量全量に対して、リン酸(P2O5)含有量が、15%未満では、ク溶性リン酸量が15%未満となり、リン酸質肥料としては不適となる。このようなことから、リン酸(P2O5)は、CaO、P2O5、SiO2の三元系で15%以上に限定した。好ましくは30%以上である。なお、スラグ全量に対するmass%で、P2O5:15%以上であれば、三元系でもP2O5:15%以上を確保できる。
つぎに、上記した本発明リン酸質肥料原料の好ましい製造方法について説明する。
まず、リンを含む製鋼スラグに還元処理を施して、高リン銑鉄を得る。
製鋼スラグには、CaO、SiO2を主成分とし、リンがP2O5なる酸化物として含まれ、また鉄がFeOやFe2O3等の形態で酸化物として含有されている。このようなリン含有製鋼スラグに、還元剤を使用して還元処理を施す。なお、使用する還元剤は、炭素、珪素、アルミニウム等のうちの1種以上とすることが好ましい。
このような還元処理に使用できる反応容器としては、例えば、バーナー等の加熱手段を備えたロータリーキルン炉、アーク加熱方式の電気炉や、バーナー或いは酸素による加熱装置を有する転炉や鍋型の処理容器、誘導加熱炉、RHF形式の処理容器などが挙げられる。
なお、生成した溶融鉄の融点が低いほど、溶融鉄とスラグとの分離が促進されるため、生成した溶融鉄に、炭素を溶解させ、溶銑とすることが好ましい。溶融鉄に炭素を溶解させるには、還元剤として炭素を使用することが好ましい。また、還元剤として珪素やアルミニウムを使用する場合には、炭素と製鋼スラグと共存させることにより、還元より生成した溶融鉄に浸炭させて、高リン含有溶銑とすることができる。
本発明における高リン含有溶銑の脱リン処理には、反応容器として、転炉方式、鍋方式、トピード方式等の、通常の脱リン処理設備がいずれも利用可能である。
脱リン処理では、得られた高リン含有溶銑7を反応容器1に装入し、上吹きランス2から酸素ガスを吹付けると同時に、この酸素ガスを搬送ガスとして、貯蔵タンク6に貯蔵されたCaO源4を吹付ける。なお、上吹きランス2からCaO源4(CaO系脱リン剤)を溶銑7に吹付けることを「投射」ともいう。また、インジェクションランス3を利用して、窒素ガスを搬送ガスとして貯蔵タンク5に貯蔵されたCaO源(CaO系脱リン剤)、酸素源等を溶銑7中に吹き込んでも良い。また、ホッパー11に貯蔵されたCaO源(CaO系脱リン剤)、酸素源等を溶銑7に上添加してもよい。
得られるスラグの塩基度が1.5未満では、リン酸含有量を、安定して所望値以上とすることができない。ここでいう「所望値」とは、スラグ全量に対する質量%で、P2O5:15%以上である。スラグ中のP2O5含有量が15%以上確保できれば、リン酸質肥料として所望の肥料効果を期待できる。
以下、さらに実施例に基づき、本発明について説明する。
なお、得られた高リン還元鉄のリン含有量は1.0〜4.0質量%であった。そこで、得られた高リン還元鉄を、高炉から出銑された溶銑と混合し、リン含有量を0.5〜1.3質量%の範囲内の値に調整し、高リン溶銑200tonとした。脱リン処理前の溶銑成分を表2に示す。
なお、脱リン処理は、溶銑中のリン濃度が0.13質量%以下となるまで実施した。
脱リン処理後の溶銑成分を測定し、表2に示す。
得られたスラグについて、組成を調査し、表2に示す。
また、得られたスラグに含有する鉱物相(化合物)を調査した。含有する鉱物相(化合物)の調査は、X線回折法を用いて行った。また、得られたスラグについて、可溶性リン酸を測定し、リン酸可溶率を求めた。得られた結果を表3に示す。
クエン酸二アンモニウム(NH4)2HC6H5O720gを水に溶かして1000mlとして、クエン酸二アンモニウム液を調整した。得られたスラグ1gを、250mlのメスフラスコに正確にとり、上記クエン酸二アンモニウム液150mlを加え、密栓をして振り混ぜ、65℃の水浴中で15minごとに振り混ぜながら1h作用させたのち、水を加えて冷却し、更に標線まで水を加えて直ちに、乾燥ろ紙でろ過した。ろ液中のリン酸量を定量し、スラグ1gに対する質量割合を可溶性リン酸量(mass%)とした。得られた可溶性リン酸量をスラグ1g中含まれる全リン酸量で除して、リン酸可溶率(%)を算出した。
ついで、得られたスラグをリン酸質肥料原料として、ヒロシマナを用いて栽培試験を実施した。栽培試験はつぎのとおりとした。
炭酸カルシウムと酸化マグネシウムでpH(H20)6.5に矯正した多腐植質黒ボク土1kgと、リン酸質肥料原料としてのスラグ0.5gを装入した1/5000aワグネルポットに、ヒロシマナを植え、ガラス温室内で所定期間(60日間)栽培し、生育状況を観察した。なお、すべてのポットには、窒素(N)として0.5g/ポット、カリウム(K20)として0.5g/ポットとなるように、硝酸カリウムと塩化カリウムを施用した。ヒロシマナの生育状況は、リン酸質肥料として対照肥料である過リン酸石灰をP2O5量としてスラグと同量施用したポットでの生育状況と比較し、同等もしくは優れている場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」として評価した。
2 上吹きランス
3 インジェクションランス
4 CaO源(CaO系脱リン剤)
5 貯蔵タンク
6 貯蔵タンク
7 溶銑
11 ホッパー
12 生成スラグ
Claims (8)
- 製鋼精錬プロセスで発生したリンを含む製鋼スラグを処理して得られる脱リンスラグを素材とするリン酸質肥料原料であって、
前記脱リンスラグが、少なくともCaO、P2O5およびSiO2を含み、スラグ全量に対するmass%で、前記CaO、P2O5およびSiO2の合計量が50%以上、P2O5:15%以上で、かつ前記CaO、P2O5、SiO2の三元系での合計量全量に対するmass%で、CaO:50〜65%、P2O5:15%以上を含み、SiO2:10%未満である組成を有し、かつ可溶性リン酸をスラグ全量に対するmass%で、4.5%以上含むスラグであることを特徴とするリン酸質肥料原料。 - 前記脱リンスラグが、α−リン酸三カルシウム(α−Ca3(PO4)2)、および/または、リン酸四カルシウム(Ca4O(PO4)2)の結晶構造を有するCaO−P2O5系結晶を含むことを特徴とする請求項1に記載のリン酸質肥料原料。
- 一部または全部が、請求項1または2に記載のリン酸質肥料原料からなることを特徴とするリン酸質肥料。
- 製鋼精錬プロセスで発生したリンを含む製鋼スラグに還元処理を施して得られたリン含有溶銑に脱リン処理を施し、生成する脱リンスラグをリン酸質肥料原料とするリン酸質肥料原料の製造方法であって、
生成する前記脱リンスラグが、CaO含有量とSiO2含有量の比、[%CaO]/[%SiO2]で定義される塩基度が1.5以上、かつ、スラグ全量に対するmass%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計量が50%以上、P2O5:15%以上で、かつ前記CaO、P2O5およびSiO2の三元系での合計量全量に対するmass%で、CaO:50〜65%、P2O5:15%以上を含み、SiO2:10%未満となる組成を有するように、前記脱リン処理を、酸素ガス量および酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整する処理とし、
前記脱リン処理後、生成した前記脱リンスラグに、1050〜700℃の温度域を平均冷却速度で5℃/min以上の加速冷却を施す、
ことを特徴とするリン酸質肥料原料の製造方法。 - 前記還元処理が、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて行う処理であることを特徴とする請求項4に記載のリン酸質肥料原料の製造方法。
- 前記CaO源が、粒径が1mmアンダーの粉末であることを特徴とする請求項4または5に記載のリン酸質肥料原料の製造方法。
- 前記加速冷却前に、前記生成した脱リンスラグに、加熱し均一化する処理を施し、しかる後に前記加速冷却を施すことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載のリン酸質肥料原料の製造方法。
- 前記加速冷却後の脱リンスラグが、α−リン酸三カルシウム(α−Ca3(PO4)2)、および/または、リン酸四カルシウム(Ca4O(PO4)2)の結晶構造を有するCaO−P2O5系結晶を含むことを特徴とする請求項4ないし7のいずれかに記載のリン酸質肥料原料の製造方法。
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