JP6425092B2 - ポリカーボネート組成物、及びそれを含有する成形体 - Google Patents

ポリカーボネート組成物、及びそれを含有する成形体 Download PDF

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Description

本発明は、ポリカーボネート組成物、及びそれを含有する成形体に関する。特に、低温環境での衝撃強度強化組成物、及びそれを含有する成形体に関する。
ポリカーボネート樹脂は、透明性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車用材料、電子機器材料、住宅材料、その他の分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。
そして、ポリカーボネート樹脂の物性を更に向上させるために、従来から異種の樹脂を混合して、各々の樹脂が単独で発揮できる特性を超える性質を得ようとする試みがなされている。
例えば、特定のポリカーボネートに他の樹脂をブレンドする技術が試みられている(例えば、特許文献1を参照)。
この技術では、ブレンドすることによって、伸長特性やガスバリア特性が予想外に改善されることが報告されている。そして、この技術は、食品の包装用途に好適に利用できることが開示されている。
ところで、一般的に低温環境では、樹脂は脆くなることが知られている。言い換えれば、低温環境では、樹脂の衝撃強度は低下することが知られている。低温環境で樹脂材料を使用するためには、低温での衝撃強度の向上は必須である。
しかしながら、現状では、低温での衝撃強度の向上は、技術的に困難であり、これによって、樹脂材料の用途の拡大が阻まれている。
特表2013−542290号公報
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、低温での衝撃強度が改善された新規なポリカーボネート組成物を提供することを目的とする。
また、この新規なポリカーボネート組成物を含有する成形体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記従来技術を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、新規なポリカーボネート組成物を開発した。
そして、この新規なポリカーボネート組成物は、従来のポリカーボネート組成物には見られない特異的な性質を有するという予想外の事実を見いだした。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち、請求項1に記載の発明は、
実質的にポリカーボネート(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、からなるポリカーボネート組成物であって、
相溶化成分を実質的に含有せず、
前記ポリカーボネート(A)は、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を用いた樹脂であり、
前記ポリオレフィン系樹脂(B)は、低密度ポリエチレン(LDPE)であり、
前記ポリカーボネート(A)が連続相をなすとともに、前記連続相には空隙が形成されており、
前記空隙の中に、前記ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子が存在しており、
前記空隙の内壁面と、前記粒子の外面との間には隙間があり、
前記空隙の径が0.3〜2.0μmであることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、
前記ポリカーボネート(A)と前記ポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量部とした場合に、前記オレフィン系樹脂(B)は、0.8〜20質量部である請求項1に記載のポリカーボネート組成物であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、
前記ポリカーボネート(A)と前記ポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量部とした場合に、前記オレフィン系樹脂(B)は、9〜13質量部であることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート組成物であることを要旨とする。
請求項に記載の発明は、
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリカーボネート組成物を含有する成形体であることを要旨とする。
請求項1のポリカーボネート組成物によれば、低温環境での衝撃強度を向上させることができる。
なお、一般的に樹脂材料中に空隙が存在することは、衝撃強度の低下を招くと考えられている。
本発明のポリカーボネート組成物では、空隙が存在するにも拘わらず、空隙の大きさを制御した特異的な構造を導入することにより、低温環境での衝撃強度の向上を達成している。
また、ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量部とした場合に、ポリオレフィン系樹脂(B)は、0.8〜20質量部であるときには、低温環境での衝撃強度を更に向上できる。
本発明のポリカーボネート組成物を含有する成形体によれば、低温環境での衝撃強度を向上させることができる。
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明する。
成形収縮率の測定方法を説明するための模式図である。 実験例1のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例2のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例3のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例4のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例5のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例6のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例7のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例8のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例9のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例10のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例11のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例12のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例13のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例14のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例15のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例16のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例17のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例18のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例19のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 実験例20のポリカーボネート組成物の断面を1万倍に拡大した画像である。 空隙の径と、シャルピー衝撃強度の関係を示すグラフである。 ポリオレフィン系樹脂(B)の配合比と、シャルピー衝撃強度の関係を示すグラフである。
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
以下、本発明を詳しく説明する。
〔1〕ポリカーボネート組成物
本発明のポリカーボネート組成物は、実質的にポリカーボネート(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、からなるポリカーボネート組成物である。
相溶化成分を実質的に含有せず、
ポリカーボネート(A)は、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を用いた樹脂であり、
前記ポリオレフィン系樹脂(B)は、低密度ポリエチレン(LDPE)であり、
ポリカーボネート(A)は連続相をなすとともに、連続相には空隙が形成されている。
空隙の中に、ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子が存在している。
そして、空隙の内壁面と、粒子の外面との間には隙間が存在している。
<ポリカーボネート(A)>
ポリカーボネート(A)は、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を用いた樹脂であり、カーボネート基(-O-(C=O)-O-)を有する。
本発明で用いるポリカーボネート(A)は、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を用いた樹脂である。また、本発明で用いるポリカーボネート(A)としては、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とを併用したポリカーボネートも挙げられる。なお、本発明では、ポリカーボネート(A)として、2種以上のポリカーボネートを併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂の分子量は、特に限定されない。例えば、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、10,000〜40,000であり、好ましくは14,000〜32,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られる。ポリカーボネート樹脂の最も好ましい分子量範囲は16,000〜30,000である。
ポリカーボネート(A)の製造方法は、特に限定されず、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、ホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)のいずれかの方法で製造したポリカーボネートも使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネートに、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネートを使用することもできる。
<ポリオレフィン系樹脂(B)>
本発明のポリオレフィン系樹脂(B)は、低密度ポリエチレン(LDPE)である。また、本発明のポリオレフィン系樹脂(B)は、本発明の樹脂組成物内において、ポリカーボネート(A)を連続相として、この樹脂内に分散されて存在する分散相をなす樹脂である。
また、オレフィン系重合体には、本発明の目的を害しない範囲で、オレフィンを除く単量体に由来する構成単位を含んでもよい。オレフィン以外の単量体としては、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等)、不飽和カルボン酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、フマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル等)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、オレフィン系重合体に含まれるオレフィン以外の単量体に由来する構成単位は、含まれるとしても全構成単位数のうち1%以下(通常0.001%以上)が好ましい。例えば、全構成単位数のうち0.001〜0.8%とすることができ、また0.005〜0.5%とすることができ、更には0.01〜0.1%とすることができる。
上記各種ポリオレフィン系重合体のなかでも、連続相を構成するポリカーボネート(A)との成形収縮率の差が大きく、空隙を形成し易いという観点から、低密度ポリエチレン(LDPE)が好ましい。低密度ポリエチレン(LDPE)は、通常、1.0%以上6.0%以下の成形収縮率を有する。また、この成形収縮率の好ましい範囲としては、1.4%以上2.0%以下である。
一方、ポリカーボネート(A)の成形収縮率は、通常、0.5%以上0.8%以下である。
なお、成形収縮率は後述のように測定される値である。
ポリオレフィン系樹脂の粘度平均分子量は、特に限定されない。例えば、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上、更に好ましくは30万以上であり、上限としては、好ましくは1000万以下、より好ましくは300万以下である。
なお、ポリオレフィン系樹脂の粘度平均分子量は、複数のポリオレフィン樹脂が用いられる場合には、各々のポリオレフィン樹脂について測定される値を意味する。
また、ポリオレフィン系樹脂として、粘度平均分子量の異なる数種のポリオレフィンを混合して用いてもよい。
<空隙>
本発明では、ポリカーボネート(A)が連続相をなしている。すなわち、ポリカーボネート(A)が母材となっている。
そして、ポリカーボネート(A)の連続相に空隙(cell)が形成されている。
空隙の径が、0.3〜2.0μmの範囲では、低温環境での衝撃強度を向上させる効果が得られる。空隙の径は、低温環境での衝撃強度の向上のためには、0.5〜2.0μmであることがより好ましく、0.8〜1.3μmであることが特に好ましい。
尚、空隙の径は、次のように算出される。まず、ポリカーボネート組成物の試料を液体窒素で冷却する。そして、試料を刃物で砕いて切断面を作製する。次に、切断面を電子顕微鏡(SEM 以下同じ)により1万倍に拡大して、100個の空隙の径(最大長)を実測する。そして、これらの径を平均して空隙の径とする。
<ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子>
本発明では、ポリカーボネート(A)の空隙1の中には、ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子3が存在している(図8参照)。そして、空隙の内壁面と、粒子の外面との間には隙間5を有する。
ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子の形状は、特に限定されない。例えば、略球形である。
本発明のポリカーボネート組成物は、隙間5を有することで、低温環境での衝撃強度を向上させることができるものと考えられる。なお、本発明における低温環境とは、例えば、10℃以下である。また、低温環境としては、0℃以下であってもよく、−10℃以下であってもよい。但し、下限値は、通常−273℃以上である。
ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子の径は、特に限定されない。粒子の径は、ポリカーボネート(A)の空隙の径を100%とした場合に、例えば、10〜99.9%であり、25〜95%が好ましく、30〜80%が特に好ましい。
尚、粒子の径は、次のように算出される。まず、ポリカーボネート組成物の試料を液体窒素で冷却する。そして、試料を刃物で砕いて切断面を作製する。次に、切断面を電子顕微鏡により1万倍に拡大して、100個の粒子の径(最大長)を実測する。そして、これらの径を平均して粒子の径とする。
<ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との混合比>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との混合比は、特に限定されない。
衝撃強度を向上させながら曲げ弾性率も向上させるためには、ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量部とした場合に、ポリオレフィン系樹脂(B)を、0.8〜20質量部とすることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(B)の割合は、衝撃強度及び曲げ弾性率の向上のためには、3〜19質量部であることがより好ましく、9〜13質量部であることが特に好ましい。
<他の成分>
本発明のポリカーボネート組成物は、空隙を効果的に得るために、連続相を構成するポリカーボネート(A)と、分散相を構成するポリオレフィン系樹脂(B)と、を相溶化させるための相溶化成分を実質的に含有しない。これらの樹脂同士を相溶化させる相溶化成分が含有されると、空隙が形成され難くなり、耐衝撃性を向上させる効果が得られにくくなるためである。このような相溶化成分としては、酸変性ポリオレフィンなどの各種相溶化剤、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、無水マレイン酸誘導体等が挙げられる。本発明のポリカーボネート組成物は、ここに列挙された相溶化成分を実質的に含有しない。
本発明のポリカーボネート組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、ポリカーボネート(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)以外の他の成分を含有できる。他の成分としては、他の熱可塑性樹脂、難燃剤、難燃助剤、充填剤、着色剤、抗菌剤、帯電防止剤等を配合できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネートなど)、芳香族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなど)等が挙げられる。
上述の難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤(ハロゲン化芳香族化合物)、リン系難燃剤(窒素含有リン酸塩化合物、リン酸エステル等)、窒素系難燃剤(グアニジン、トリアジン、メラミン、及びこれらの誘導体等)、無機系難燃剤(金属水酸化物等)、ホウ素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、硫黄系難燃剤、赤リン系難燃剤などが挙げられる。
上述の難燃助剤としては、各種アンチモン化合物、亜鉛を含む金属化合物、ビスマスを含む金属化合物、水酸化マグネシウム、粘土質珪酸塩等が挙げられる。
上述の充填剤としては、ガラス成分(ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク等)、シリカ、無機繊維(ガラス繊維、アルミナ繊維、カーボン繊維)、黒鉛、珪酸化合物(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等)、金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナ等)、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等の金属の炭酸塩及び硫酸塩、有機繊維(芳香族ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、ポリイミド繊維、植物性繊維等)が挙げられる。
上述の着色剤としては、顔料及び染料等が挙げられる。
〔2〕成形体
本発明の成形体は、上述のポリカーボネート組成物を含有する。成形体の形状、大きさ及び厚さ等は特に限定されない。また、その用途も特に限定されない。この成形体としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機等の外装材、内装材、構造材等として用いられる。このうち自動車用品としては、自動車用外装材、自動車用内装材等が挙げられる。具体的には、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、フェンダーパネル、ドアパネル、ルーフパネル等の外装材、インストルメントパネル、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ等の内装材が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材、構造材が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材、パーティション部材等が挙げられる。
また、成形体におけるポリカーボネート組成物の含有率も特に限定されない。例えば、成形体全体を100質量部とした場合に、ポリカーボネート組成物を、5〜100質量部含有することが好ましく、10〜100質量部含有することがより好ましく、20〜100質量部、含有することが特に好ましい。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
1.ポリカーボネート組成物の調製
<実験例1>
連続相を形成するためのポリカーボネート(A)としてユーピロン E−2000(三菱エンジニアリング プラスチックス(株)製)を用いた。なお、他の実験例でも同一のポリカーボネートを用いた。
分散相を形成するためのポリオレフィン系樹脂(B)としてLDPE(低密度ポリエチレン、low density polyethylene(SIGMA−ALDRICH社製))を用いた。なお、他の実験例でも同一のLDPEを用いた。
ポリカーボネート(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)の基本物性を下記表1に示す。
これらの樹脂を質量比で、
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.9:0.1となるように調整した。
表1中の成形収縮率(Shrinkage ratio)は、次のようにして求めた。すなわち、図1のようなステンレス鋼製の型枠に樹脂を充填し、ミニテストプレス(東洋精機製作所)を用いて加熱した後、プレスする。プレス後、水冷プレスを用いて冷却する。冷却後にサンプルを型枠から取り出し、サンプルの長さおよび幅を測定する。測定したサンプルの長さ及び幅と、型枠の長さ及び幅と、を比較し、サンプルの成形収縮率を求めた。
なお、型枠の長さ、及び幅は加熱温度と線熱膨張係数を用いて補正を行った。また、上記測定をポリカーボネートと低密度ポリエチレンについて、それぞれ5つのサンプルで行い、成形収縮率の平均値を算出し、各樹脂の成形収縮率とした。
式(1)に長さについての成形収縮率の計算式を示す。ここで、Lはそれぞれの長さ、Tpは加熱プレス時の温度、Trtは室温、αはステンレス鋼の線熱膨張係数である。

これらの樹脂をラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所、型式「4C150」)にて、相溶化剤を配合することなく、混練してポリカーボネート組成物を得た。なお、混練温度は240℃に設定し、スクリュー回転数を75回転/分に設定し、4分間混練を行った。
<実験例2>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.8:0.2
<実験例3>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.7:0.3
<実験例4>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.6:0.4
<実験例5>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.5:0.5
<実験例6>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.4:0.6
<実験例7>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.3:0.7
<実験例8>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.2:0.8
<実験例9>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99.1:0.9
<実験例10>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=99:1
<実験例11>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=98.5:1.5
<実験例12>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=98:2
<実験例13>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=96:4
<実験例14>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=94:6
<実験例15>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=92:8
<実験例16>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=90:10
<実験例17>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=88:12
<実験例18>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=86:14
<実験例19>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=84:16
<実験例20>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にしてポリカーボネート組成物を調製した。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=82:18
<参考例A>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にして調製した。すなわち、ポリカーボネート(A)のみを用いた。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=100:0
<参考例B>
ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との質量割合を下記のようにした以外は実験例1と同様にして調製した。すなわち、ポリオレフィン系樹脂(B)のみを用いた。
ポリカーボネート(A):ポリオレフィン系樹脂(B)=0:100
2.各種物性の試験方法
〔1〕シャルピー衝撃試験
(1.1)シャルピー衝撃試験用の試験片の調製
実験例1〜20の樹脂組成物、参考例A,Bの樹脂を、それぞれJIS K7111−1に準拠して、シャルピー衝撃試験用の試験片に成形した。
(1.2)シャルピー衝撃試験方法
上記(1.1)で得られた各試験片を用いて、JIS K7111−1に準拠してシャルピー衝撃試験を行った。
ただし、−80℃の冷凍庫で2日間保管したサンプルを用いて試験を実施した。試験時の温度は−45℃とした。
試験時の温度は、次のように測定した。試験片と同等のサンプルにK型熱電対を埋め込み、−80℃の冷凍庫で2日間保管した。そののち熱電対の一端をキーエンス社製高精度温度電圧測定ユニットNR−TH08を備えたマルチ入力データ収集システムNR−600に接続して計測した。
〔2〕空隙(cell)の径の測定
空隙の径は、次のように求めた。まず、各試料を液体窒素で冷却した。そして、試料を刃物で砕いて切断面を作製した。次に、切断面を電子顕微鏡(SEM)により1万倍に拡大して、100個の空隙の径(最大長)を実測した。そして、これらの径を平均して空隙の径とした。
3.試験結果
図2〜21に、実験例1〜20の電子顕微鏡観察の結果を示す。なお、低温環境での衝撃強度を向上させるという観点からは、実験例8〜20が実施例に相当し、実験例1〜7は参考例である。
実験例1〜20のいずれの場合においてもポリカーボネート(A)には空隙が形成されており、この空隙の中に、ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子が存在していることが確認された。また、実験例1〜20のいずれの場合においても空隙の内壁面と、粒子の外面との間には隙間があることも観察された。
なお、ポリカーボネート(A)のみの参考例A、及びポリオレフィン系樹脂(B)のみの参考例Bを電子顕微鏡にて観察したが、いずれの場合も空隙は観察されなかった。
空隙(cell)の径と、シャルピー衝撃強度(Charpy impact strength)の関係、を表2〜3及び図22に示す。これらの結果から、空隙の径が0.3〜2.0μmである場合には、低温環境での衝撃強度を向上させることができることが分かる。
ポリオレフィン系樹脂(B)の配合比と、シャルピー衝撃強度(Charpy impact strength)の関係を表2〜3及び図23に示す。ポリカーボネート(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量部とした場合に、オレフィン系樹脂(B)が0.8〜20質量部である場合には、低温環境での衝撃強度を向上させることができることが分かる。
<実施例の効果>
以上の結果より、本実施例のポリカーボネート組成物によれば、低温環境での衝撃強度を向上させることができる。
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
本発明は、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機等の外装材、内装材、構造材等に広く応用される。このうち自動車用品としては、自動車用外装材、自動車用内装材等が挙げられる。更に、建築物、家具等の内装材、外装材、構造材、電子機器材料等に幅広く応用される。
1;空隙
3;オレフィン系樹脂の粒子
5;隙間

Claims (4)

  1. 実質的にポリカーボネート(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、からなるポリカーボネート組成物であって、
    相溶化成分を実質的に含有せず、
    前記ポリカーボネート(A)は、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を用いた樹脂であり、
    前記ポリオレフィン系樹脂(B)は、低密度ポリエチレン(LDPE)であり、
    前記ポリカーボネート(A)が連続相をなすとともに、前記連続相には空隙が形成されており、
    前記空隙の中に、前記ポリオレフィン系樹脂(B)の粒子が存在しており、
    前記空隙の内壁面と、前記粒子の外面との間には隙間があり、
    前記空隙の径が0.3〜2.0μmであることを特徴とするポリカーボネート組成物。
  2. 前記ポリカーボネート(A)と前記ポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量部とした場合に、前記オレフィン系樹脂(B)は、0.8〜20質量部であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
  3. 前記ポリカーボネート(A)と前記ポリオレフィン系樹脂(B)との合計を100質量部とした場合に、前記オレフィン系樹脂(B)は、9〜13質量部であることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート組成物。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載のポリカーボネート組成物を含有することを特徴とする成形体。
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