JP6411878B2 - 成膜用原料粉体およびセラミックス膜 - Google Patents

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Description

本発明は、成膜用原料粉体およびセラミックス膜に関し、特に、噴射によって基板上に堆積させて成膜するために用いられる成膜用原料粉体および当該成膜用原料粉体を用いて形成されるセラミックス膜に関するものである。
近年、新たな被膜形成方法の1つとして、金属やセラミックス等の微粒子を原料粉体とし、キャリアガスを導入して原料粉体をエアロゾル化した後、基板上に噴射して原料粉体を堆積させ緻密な膜を形成する成膜法(エアロゾルデポジション法、以下、適宜「AD法」と略す。)が知られている。AD法は、高速に噴射された粉体微粒子が、衝突する際のエネルギーによって基板や粉体との間で結合を生じさせるため、焼成を不要とし、低い温度条件(常温)でセラミックスの被膜を基板上に形成できる。また、スパッタリングなどの従来法に比べて高速で成膜できる上、原料の性質が保持され易い(変質し難い)という特徴を備えている。
ノズルから噴射されたエアロゾルは、ノズル先端から基板までの距離を飛行し、基板に到達するために、適正な粉体サイズ、適正な密度を有することが必要となる。粉体サイズや密度が小さすぎると、往々にして、噴射によって粉体は舞い上がってしまうだけとなり基板に到達できない。また、粉体サイズや密度は大きくなるにつれて重力の作用が大きくなるため、場合によっては、噴射された粉体は基板に向かう軌道を外れてしまい、基板に到達できなくなってしまうからである。このため、適用できる微粒子の範囲に制限があるものとなっている。
更には、複数の原料から構成される膜を得ようとした場合、原料粉体を混合して噴射することが行われているが、粉体サイズや密度の異なるものを噴射して均一に成膜することは容易でない。原料粉体のサイズや密度に依存して基板への到達能が異なることから、均一に噴射するには高度な技術が必要となり、複数成分で構成された複合膜を得ることは難易度が高い。また、得られた膜中の原料分布には偏りが生じ易く、均質な膜を得ることができない。
そこで、母材粒子の表面に、別の粒子を固着させた複合粒子を原料粉体としAD法による成膜を行う方法が提案されている(特許文献1,2参照)。つまり、母材粒子に異種材料を固着させた原料を用いることにより、成膜された膜中の原料分布を一様にすることが試みられている。
一般に、AD法では、セラミックス粒子を用いた被膜形成を行うことが多い。高温焼成が必要なセラミックスの成型においてこれを不要とし、室温で緻密なセラミックスの厚膜形成ができるという大きな利点があるためである。
従来から、誘電体のセラミックス粒子をAD法で成膜することが行われており、例えば、誘電体のセラミックス粒子を金属にて被覆したものを原料とし、AD法で成膜を行う方法が提案されている。これにより、得られるセラミックス膜の誘電特性を向上させることが開示されている(特許文献3参照)。
また、絶縁性のセラミックス粒子を金属にて被覆したものを原料としてAD法で成膜を行い、導電性のセラミックス膜を作製する技術が提案されている(特許文献4、5参照)。
特開2005−344171号公報 特開2008−170986号公報 特開2008−16578号公報 特開2004−277825号公報 特開2004−107757号公報
しかしながら、特許文献1、2に開示される技術では、母材粒子と母材粒子に固着させる子粒子(微粉末粒子)とを機械的に混合して作製した複合粒子を原料としているため、固着させる子粒子の量的な制御が困難であるという問題点があった。従って、子粒子による被覆量(付着量)にムラが生じやすい上、得られる粉体には、母材粒子のみ、子粒子のみ、複合粒子の3つの態様のものが混在していることが多い。通常、製造された粉体は、多数の粒子の集合体となるため、個別の粒子を状態に応じて選別することは極めて困難である。このため、AD法に用いられる原料は不均質なものとならざるを得ず、その結果、得られる膜構造体は不均質なものになってしまうという問題点があった。
特許文献3〜5に開示される技術では、機械的混合(ミリング等)による複合化に加え、母材粒子表面に、めっき、蒸着、スパッタリングといった手法で、導電性材料が固着またはコーティングされることが開示されている。しかしながら、かかる手法は大掛かりな装置が必要となる上、処理後の粉体回収作業が煩雑であり、高度な作業が要求され、高コストであるという問題点があった。また、かかる手法においても、母材粒子表面への導電性材料の付着量を制御することは難易度が高い。そこで、母材粒子に対し所望の範囲で子粒子等の被覆量が制御されたAD法用原料粉末の提供が待たれていた。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、噴射によって基板上に堆積させて成膜するために用いられ、複数の原料成分を含むと共にその偏在が抑制される成膜用原料粉体と、かかる成膜用原料粉体を用いて形成される複数成分が良好に分散した均質なセラミックス膜を提供することを目的としている。
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、次のような発明を完成するに至った。
請求項1記載の原料粉体は、噴射した原料を基板上に堆積させて成膜する成膜方法に用いられる原料粉体であって、セラミックス組成物からなる粒状体を母材とし、その母材表面上に静電吸着法によって前記母材とは異なる種類の微小固体が予め定めた被覆量の範囲で付着された複合体からなると共に、前記微小固体は、実質的に全量が前記母材に付着した状態にある。
請求項2記載の原料粉体は、請求項1記載の原料粉体において、前記母材は、絶縁性の酸化物系セラミックスであり、前記微小固体は、導電性材料微粒子または半導体材料微粒子である。
請求項3記載の原料粉体は、請求項2記載の原料粉体において、前記微小固体は、透明性の半導体材料微粒子である。
請求項4記載の原料粉体は、請求項3記載の原料粉体において、前記母材はアルミナであり、前記微小固体は、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛である。
請求項5記載のセラミックス膜は、請求項1〜4のいずれかに記載の原料粉体を噴射により基板上に堆積させて得られる膜構造物であって、前記セラミックス組成物のマトリックス中に、前記微小固体が実質的に均一に分布してなるものである。
請求項6記載のセラミックス膜は、請求項5記載のセラミックス膜において、前記微小固体は、錫ドープ酸化インジウムであり、膜中の前記微小固体の割合が8体積%以上で、面抵抗率10Ω/cm以下の導電性を発現させるものである。
請求項7記載のセラミックス膜は、請求項5記載のセラミックス膜において、前記母材がアルミナであり、前記微小固体が錫ドープ酸化インジウムである複合粒子を原料粉体として成膜され、アルミナマトリックス中に 13重量%以上の錫ドープ酸化インジウムが実質的に均一に分布し、膜厚3μmにおいて、400nm〜800nmの光を70%以上透過させ、1500nm〜2500nmの近赤外領域の光を90%以上吸収するものである。
請求項1に記載の原料粉体によれば、母材とは異なる種類の微小固体が付着された複合体は、静電吸着法によって、予め定めた被覆量の範囲で微小固体が母材表面に付着されたものとなっている。即ち、本原料粉体を用いて成膜すれば、母材のセラミックス中に、異種材料が予め調整された量で的確に導入された膜構造体を得ることができるという効果がある。ここで、異種材料の導入量に応じて膜特性が変化する場合、本原料粉体を用いれば、膜構造体中の異種材料の量を、所定の範囲において適正に制御できるので、所望の特性を有する膜構造体を容易に得られ易いという効果がある。また、本原料粉末は、静電吸着法によって作製されたものであるので、安価に製造できる上、得られる複合体はおおむね均質(同様の態様)であって、微小固体は実質的にその全量が母材に付着した状態で原料粉体中に存在している。よって、本原料粉体を用いて成膜した場合、微小固体の偏在化を抑制し、得られる膜構造体の均質性を向上させることができるという効果がある。
請求項2に記載の原料粉体によれば、請求項1記載の原料粉体の奏する効果に加え、母材は、絶縁性の酸化物系セラミックスであり、微小固体は、導電性材料微粒子または半導体材料微粒子であるので、かかる原料粉体にて成膜すれば、絶縁性の酸化物系セラミックスの膜構造体に導電性を付与することができるという効果がある。また、導電性材料微粒子または半導体材料微粒子が膜構造体中に良好に分散された状態となるので、少量の導電性材料微粒子または半導体材料微粒子の導入によって導電性のパスが形成される。従って、導電性材料微粒子または半導体材料微粒子の使用量を抑制しても、導電性を確保できるという効果がある。
請求項3に記載の原料粉体によれば、請求項2記載の原料粉体の奏する効果に加え、微小固体は、透明性の半導体材料微粒子であるので、母材のセラミックス組成物の種類を適切に選択することで透明導電性膜を作製することができるという効果がある。
請求項4に記載の原料粉体によれば、請求項3記載の原料粉体の奏する効果に加え、母材はアルミナであり、微小固体は、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、であるので、かかる原料粉体を用いることにより、透光性の良好な透明導電性膜を作製することができるという効果がある。
請求項5に記載のセラミックス膜によれば、請求項1〜4のいずれかに記載の原料粉体を噴射により基板上に堆積させて得られる膜構造物であって、セラミックス組成物のマトリックス中に、微小固体が実質的に均一に分布してなるので、均質なセラミックス膜を得ることができるという効果がある。
例えば、導入する微小固体によって膜の特性(物性)を変化させる場合、微小固体の分散程度が特性に影響を与えることがある。即ち、膜中での微小固体の分散が不良である(微小固体が偏在する)と、偏在箇所では微視的に特性変化が生じても、膜全体として巨視的な物性変化が生じ難くなるからである。
本セラミックス膜では、微小固体が膜内で良好に分散されているので、所望の特性を発現させるために必要な微小固体の導入量を抑制できるという効果がある。その結果、母材に起因する成膜性を維持しつつ、所望の特性を発現するセラミックス膜を提供できる。
請求項6記載のセラミックス膜によれば、請求項5記載のセラミックス膜の奏する効果に加え、微小固体の割合が8体積%以上で、面抵抗率10Ω/cm以下の導電性を発現させる膜構造物を提供できるという効果がある。また、微小固体は、錫ドープ酸化インジウムであるので、透明性を具有する上、かかる導電性を有するセラミックス膜を提供することができるという効果がある。
請求項7記載のセラミックス膜によれば、請求項5記載のセラミックス膜の奏する効果に加え、膜厚3μmにおいて、400nm〜800nmの光を70%以上透過させ、1500nm〜2500nmの近赤外領域の光を90%以上吸収するアルミナが主成分となるセラミックス膜を提供できるという効果がある。
本発明の原料粉体の製造方法の一例を説明するフロー図である。 本発明のセラミックス膜を成膜する成膜装置の概要図である。 本発明の実施例にかかる原料粉体を示した図である。 本発明の実施例にかかるセラミックス膜の元素分析結果を示した図である。 本発明の実施例にかかるセラミックス膜の元素分析結果を示した図である。 実施例のセラミックス膜の光学特性を示した図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、複数の物質が含まれる複合膜をAD法にて作製するために適した原料粉体に係るものである。AD法は、ガスと混合してエアロゾル化した微粒子(原料粉体)を、ノズルから基板に向けて噴射することで、ガス搬送により加速された微粒子の運動エネルギーを基板衝突時に開放し、基板と粒子間、粒子同士の結合を実現する(常温衝撃固化現象)とされる技術である。
このAD法にて複合膜を作製するため、本原料粉体は、母材の粒状体(母材粒子)の表面に母材粒子とは異なる異種材料の微小固体が固着された複合粒子で構成される。また、その異種材料の被覆量は任意に制御されたものとなっている。
具体的には、本発明の原料粉体は、AD法にて一般に用いられるセラミックス組成物を母材粒子に用いて形成される。かかるセラミックス組成物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化クロム、酸化ハフニウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化珪素などの酸化物、ダイヤモンド、炭化硼素、炭化珪素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化クロム、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化タンタルなどの炭化物、窒化硼素、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ニオブ、窒化タンタルなどの窒化物、硼素、硼化アルミニウム、硼化珪素、硼化チタン、硼化ジルコニウム、硼化バナジウム、硼化ニオブ、硼化タンタル、硼化クロム、硼化モリブデン、硼化タングステンなどの硼化物、あるいはこれらの混合物や多元系の固溶体、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸リチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸アルミニウム、PZT、PLZTなどの圧電性セラミックス、サイアロン、サーメットなどの高靭性セラミックス、水酸アパタイト、燐酸カルシウムなどの生体適合性セラミックスなどが例示できるがこの限りではない。
好適には、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化クロム、酸化ハフニウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化珪素などの酸化物系のセラミックスが用いられ、特に好適には、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウムが用いられ、特に好適には、酸化アルミニウム(アルミナ)が用いられる。
かかる母材粒子の幾何形状は、エアロゾル化してノズルより噴射できるものであれば、特に制限されず、球状、異形状、塊状等の粒状体であれば良く、また単一形状に限られるものでもない。更には一次粒子に限られず、二次粒子であっても良い。
母材粒子の平均粒径は、10μm未満とされる。微小固体と複合化した場合の平均粒径(複合粒子の円相当径、または球相当径における平均粒径)を10μm以下とするためである。尚、円相当径とは、複合粒子の投影面積と同じ面積になる円の直径、球相当径とは、複合粒子と同じ体積になる体積の球の直径)である。
複合粒子の相当径は、平均粒径で0.08μm〜10μmであり、好適には、0.1μm〜5μmであり、更に好適には0.3μm〜2μmである。また、実質的に10μm以上の粒子が含まれないものが望ましい。
複合粒子の粒径が0.08μmよりも小さいと、噴射時に粉体が舞い上がってしまい、基板に向けての噴射を良好に行うことができない。また、複合粒子の粒径が10μm以上になると重力の影響が大きくなるため、噴射された粉体は基板に到達せずに落下してしまうことや、形成された膜が脆弱になるといったことが生じてしまう。このため、その粒径(平均粒径)が、0.08μm〜10μmの範囲の粒子が複合粒子として好適に用いられるのである。
本発明の原料粉体において、母材粒子に固着される微小固体は、上述したように母材粒子とは異なる異種材料である。
かかる微小固体には、各種物質が適用できるが、好適には、導電性を有する物質(導電性材料微粒子)又は半導体性を有する物質(半導体材料微粒子)が選択される。
本実施形態においては、微小固体において、導電性材料微粒子は、10S/m程度以上の導電率を有するものを意味しており、半導体材料微粒子は、10−6S/m以上で10S/m程度以下の導電率を有するものを意味している。
かかる物質としては、銅、アルミニウム、金、銀、白金、タングステン、ニッケル、亜鉛、コバルトなどの金属材料やこれらの合金、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトなどの炭素材料、酸化亜鉛、酸化インジウム、二酸化スズ、一酸化スズなどの半導体材料が例示できる。更には、透明導電性材料(透明性の半導体微粒子)として、錫ドープ酸化インジウム(以下、適宜「ITO」と略す)、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛が例示できる。
この微小固体は、母材粒子に付着できる限りにおいて幾何形状に特に制限はなく、粒子状、扁平状、繊維状のものが適宜選択される。また、母材粒子に対し複数種類の微小固体を付着させても良い。更には、母材粒子に異なる微小固体を付着させた複数種類の複合粒子を作製し、それらの混合物を原料粉体としても良い。
微小固体は、上記した母材粒子よりも小さい固体である。即ち、母材粒子の平均粒径>微小固体の平均粒径(または平均厚さ)である。また、複合粒子の相当径を10μm以下とするため、(10μm−母材粒子平均粒径)/2=(微小固体平均粒径または微小固体平均厚さ)の関係にある。
ここで、微小固体が導電性または半導体性材料である場合には、平均粒子径または平均長は、1nm〜3μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径または平均長が1nmより小さいと、形成するセラミックス膜に付与したい特性の発現が微弱化する一因となる。一方、3μmより大きいと、母材粒子と複合化した際に10μm以下の複合粒子とすることが困難となるからである。
本発明の原料粉体は、母材粒子とは異なる異種材料を複合化した複合粒子であるので、これを用いて成膜した場合には、母材単独で形成される膜構造体とは異なる物性を有する膜構造体を作製することができる。また、本発明の原料粉体は静電吸着法によって形成されるので、母材粒子のみ、微小固体のみの状態の粉体がほぼ混在しない状態とすることができる。言い換えれば、原料粉体中に存在する粒子のほぼ全量が複合粒子となり、異種材料は実質的にその全量が母材粒子に担持された状態で原料粉体が構成されている。
また、簡便且つ容易に、母材粒子表面の微小固体の量が適正に調整され得ることから、微小固体の付着量のばらつきが抑制された一様な複合粒子の集合体で構成された原料粉体となっている。
一般に、複合材料において母材に添加した異種材料が偏在すると、往々にして、期待した特性が発現しないといった事態が生じる。異種材料の偏在によって特性変化が局所的にしか発現せず、巨視的には特性変化が現れないからである。このため、所望の特性を得るために異種材料を過剰に混合しなければならないことも多い。しかしながら、一般に、AD法において成膜性は母材に依存するため、異種材料の添加量が増大し相対的に母材の含有量が低下すると、成膜性が低下し、場合によっては成膜できなくなってしまう。
本発明の原料粉体は、一様な複合粒子の集合体からなるため、本原料粉体を用いAD法によって成膜を行えば、膜構造中の異種材料の分布状態を均一にすることができる。即ち、均質な特性を有する膜構造体を形成できる。従って、異種材料の添加量を抑制しても期待した所望の特性を得やすい。
また、従来法では、付着量を制御することが困難であるため、導入量に依存して膜特性が変化する場合に、所望の組成比を実現することが困難となって、線形的に膜特性を変化させることや、所望の特性を再現良く得ることが困難であった。しかし、本発明の原料粉体は、母材粒子への異種材料(微小固体)の付着量が的確に制御されたものであるので、これを用いて成膜すれば、膜中の母材と異種材料との組成比を所望の範囲とした膜構造体を得ることができ、標的とした特性を再現性良く得ることができる。特に、光学特性には、膜中の母材と異種材料との組成比が大きく影響するため、異種材料の導入量を適正な範囲とすることが重要なことも多い。本原料粉体を用いれば、両者の組成比を適正な範囲とすることができるので、形成される膜構造体に良好な光学特性を付与することができる。
次に、本発明の原料粉体の製造方法の一例を図1を参照して説明する。
図1は、原料粉体の製造方法の一例である原料粉体製造工程のフロー図である。本発明の原料粉体は、母材粒子と微小固体とを静電吸着法によって液中で複合化して製造される。
静電吸着法は、一方の物体と他方の物体とについて、表面電荷を反対の極性に調整し、互いに引き合う静電引力によって、一方の物体に他方の物体を吸着させて複合化する技術である。
この原料粉体製造工程は、母材粒子の電荷を調整する母材粒子電荷調整工程(S1)、母材粒子に固着させる微小固体の電荷を調整する微小固体電荷調整工程(S2)を備えており、それぞれの電荷調整工程の後に、両者を複合化する複合化工程(S30)、乾燥工程(S40)を経て、本原料粉体(AD用原料粉体)は製造される。
母材粒子電荷調整工程(S1)は、母材粒子の表面電荷を調整する工程である。この母材粒子電荷調整工程(S1)では、まず、pH4〜10に調整された蒸留水(溶媒)中に母材粒子を分散させて分散液を作製し、これに高分子電解質を加えて分散液中の母材粒子表面を高分子電解質で被覆する高分子電解質吸着工程を実施する(S11)。
母材粒子の分散は、撹拌子を用いた溶液撹拌や超音波ホモジナイザーを用いて行われる。母材粒子の溶媒分散液中の濃度は1〜30重量%が好ましく、より好ましくは2〜20重量%である。濃度が30重量%よりも高くなると分散状態が悪化しかねず、また、濃度が1重量%よりも低い場合には、最終的に得られる原料粉体の収量が少なくなって製造コストが上昇する。
尚、分散に供する溶媒としては、水に限られるものではなく、アルコール類、多価アルコール類等が挙げられ、より具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適且組み合わせて用いることができる。水以外を溶媒として用いる場合には、pH調整を省略しても良い。
母材粒子は、セラミックス組成物であり、通常の状態で表面電荷を有している。しかしながら、表面状態は不均一であるため、各微粒子の有する表面電荷にはばらつきがあるのが一般的である。高分子電解質吸着工程(S11)では、溶媒中で電荷を有する高分子電解質で母材粒子表面を被覆するため、本工程によって均一な表面電荷を有する母材粒子が作製される。
この高分子電解質吸着工程(S11)では、溶媒中で電離して電荷を有する高分子電解質が用いられる。高分子電解質としては、カチオン性高分子およびアニオン性高分子を用いることが望ましい。母材粒子の表面電荷は、材料によって異なるが、例えば、母材粒子が正の表面電荷を有するものであれば、アニオン性高分子を吸着させることで、表面電荷を負に反転させることができる。反対に、負の表面電荷を有する場合は、カチオン性高分子を吸着させることで正の表面電荷に反転させることができる。
カチオン性高分子としては、例えば、ポリ(ジアリルメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)を用いることができる。このカチオン性高分子は例えば水を溶媒として用いることができ、また、塩化ナトリウム水溶液を溶媒として用いることができる。また、本発明において用いることのできる他のカチオン性高分子としては、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリ(ビニルピロリドン・N,N−ジメチルアミノエチルアクリル酸)共重合などが上げられる。但し、これらは、カチオン性高分子としての一例であり、これに限るものではない。
アニオン性高分子としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることができる。本発明において用いることのできる他のアニオン性高分子としては、ポリビニル硫酸(PVS)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)などが上げられる。但し、これらは、アニオン性高分子としての一例であり、これに限るものではない。
この高分子電解質吸着工程(S11)においては、まず、本来の母材粒子が有する表面電荷とは反対の極性を有する高分子電解質(カチオン性高分子およびアニオン性高分子のいずれか一方)にて母材粒子表面が被覆される。具体的には、例えば、母材粒子濃度に応じて予め算出された高分子電解質の所定量が分散液中に導入される。これによって反対極性の母材と高分子電解質との間に静電引力が作用し、母材粒子表面に高分子電解質が吸着される。尚、所定濃度の高分子電解質溶液中に母材粒子を投入することで本工程を実施しても良い。
高分子電解質吸着工程(S11)の後は、洗浄・回収工程を実行し(S12)、洗浄操作によって余剰の高分子電解質を除去してから、液体と母材粒子とを分離する操作、即ち沈殿、遠心分離、ろ過などの作業を適宜行って母材粒子を回収する作業を行う。
尚、高分子電解質の滴下量をモニターしながら分散液に滴下し、母材粒子に対して高分子電解質が過不足なく吸着されたことを検出できる手段を設け、かかる状態で高分子電解質の滴下を停止するように高分子電解質吸着工程(S11)を構成した場合には、溶媒中に余剰の高分子電解質はなく洗浄を不要とできるので、この洗浄・回収工程(S12)を省略しても良い。
洗浄・回収工程(S12)の後は、所望の表面電荷が得られたかを判断し(S13)、所望の表面電荷が母材粒子に付与されている場合には(S13:Yes)、複合化工程(S30)を実施する。一方、母材粒子に所望の表面電荷が付与されていない場合には(S13:No)、微小固体との複合化を行うには不適切であるので、回収後の母材粒子を用いて(洗浄・回収工程(S12)が省略されている場合には、そのままの分散液を用いて)、再度、高分子電解質吸着工程(S11)を実行する。その際、前回の高分子電解質吸着工程(S11)とは、母材粒子の表面電荷の極性が反転しているので、先に用いた高分子電解質とは反対極性の高分子電解質が用いられる。そして、所望の表面電荷が得られるまで、高分子電解質吸着工程(S11)と洗浄・回収工程(S12)とを繰り返す。
ここで、所望の表面電荷は、極性と電荷強度との2つの要素で判断される。本原料粉体は、静電引力によって母材粒子に微小固体を吸着させて製造されるので、母材粒子電荷調整工程(S1)では、微小固体と反対極性となるように母材粒子の表面電荷が調整される必要がある。このため、高分子電解質吸着工程(S11)を経て得られる母材粒子の極性が所望の極性でない場合には、再度、高分子電解質吸着工程(S11)を実行して極性を反転させるのである。また、母材粒子の表面電荷は、高分子電解質層を複数設けることで、電荷強度を向上させ、均一で安定したものとできる。従って、得られた母材粒子の表面電荷が微弱であった場合には、複合化に十分な電荷強度が得られるまで、繰り返して高分子電解質吸着工程(S11)が実行される。
所望の表面電荷が得られたかは、母材粒子のゼータ電位を測定することで判断しても良く、カチオン性高分子、アニオン性高分子を交互に予め定めた回数で積層すれば所望の表面電荷が得られることが予めわかっている場合には、その回数に応じて、高分子電解質吸着工程(S11)が実施されたかで判断しても良い。
図1に示すように、上記のような母材粒子電荷調整工程(S1)を行う一方で、微小固体の電荷を調整する微小固体電荷調整工程(S2)を実施する。
この微小固体電荷調整工程(S2)は、母材粒子電荷調整工程(S1)と同様の処理を微小固体について行うものであり、母材粒子に複合化する微小固体の表面電荷を母材粒子とは反対の極性でかつ十分な強度に調整する工程である。このため、母材粒子電荷調整工程(S1)と同様の高分子電解質吸着工程(S21)、洗浄・回収工程(S22)が設けられ、所望の電荷が得られたか否かの判断に応じて(S23)、微小固体の回収作業と高分子電解質吸着作業とを繰り返し、所望の極性、所望の電荷強度を有する微小固体を得る。判断指標は、母材粒子電荷調整工程(S1)において母材粒子に対して行った指標と同じである。
尚、高分子電解質の滴下量をモニターしながら分散液に滴下し、微小固体に対して過不足なく吸着されたことを検出できる手段を設け、かかる状態で高分子電解質の滴下を停止するように高分子電解質吸着工程(S21)を構成した場合には、母材粒子電荷調整工程(S1)と同様、洗浄を不要とできるので、この洗浄・回収工程(S22)を省略しても良い。
尚、微小固体は、上記したように、母材粒子よりもサイズが小さいものが用いられる。特に100nm以下のナノサイズである場合には、回収作業が煩雑な作業となるので、好適には、洗浄・回収工程(S22)を省略した工程が採用される。また、100nm以下の微小固体に対しては、わざわざ高分子電解質を吸着させるよりも、pHを調整することで表面電荷を調整するほうが簡便である。故に、高分子電解質吸着工程(S21)に代えて、単に、pHを調整した溶媒中に微小固体を分散させる工程が採用される。その場合には、洗浄・回収工程(S22)も不要とされる。
加えて、母材粒子または微小固体が良好な表面電荷を有している場合、あるいは、母材粒子または微小固体が既に表面電荷が良好に調整された状態で得られる場合には、その良好な表面電荷を有しているものについては、電荷調整工程を省略し、他の必要な前処理を行うのみとしても良い。
複合化工程(S30)は、反対極性の表面電荷を有する母材粒子と微小固体とを液中で混合し、両者間の静電引力によって母材表面上に微小固体を付着させ、複合粒子とする工程である。混合方法は、母材粒子、微小固体をそれぞれ含有する液体(分散液)を混合させる場合のほか、いずれか一方を分散液で準備し、他方を固体状態で一方の分散液に投与する場合、または、母材粒子、微小固体のそれぞれを、液体に投入して混合する場合がある。混合を十分に行われることで、液中に分散する母材粒子の各々に微小固体が同程度の被覆量となるように付着する。
また、微小固体が100nm以下であって、pH調整のみによって表面電荷を微小固体に付与している場合、微小固体が分散した分散液に、母材粒子を投入することで複合化を実行する。
尚、母材粒子の投入を、該母材粒子が分散された分散液を添加して行う場合には、微小固体の分散液のpHと同じ値に、母材粒子の分散液のpHを調整した後、添加を行うこととしても良い。
この複合化工程において、母材粒子、微小固体の濃度、混合量を調整することで、母材粒子への微小固体の付着量を、極微量から最大付着量(母材粒子の全面被覆)とするまで調整することができる。
複合化工程(S30)によって作製された複合粒子は、公知の手法によって乾燥を行い(S40)、本原料粉体を得る。乾燥方法としては、溶液から複合粒子を分離回収した後、高温熱風乾燥、減圧乾燥等のほか、スプレードライといった手法が適宜選択される。
次に、本発明のセラミックス膜について、説明する。
本発明のセラミックス膜は、上述した本発明の原料粉体を用いてAD法にて成膜されたものである。上記したように、本セラミックス膜は、母材中に異種材料が分散した複合膜である。そして、その異種材料が実質的に均一に分散した態様にあり、均質で緻密な厚膜となるものである。
これにより、従来よりも、異種材料の添加量を抑制した状態で、異種材料に起因する特性(例えば、導電性、熱遮蔽性)を発現させることができ、成膜性を維持しつつ、所望の特性を有するセラミックス膜を提供できる。また、上記発明の原料粉体は異種材料の被覆量の調整が可能であるため、所定の範囲において、異種材料の導入量が適正に制御されたものが提供される。
図2は、本発明のセラミックス膜を成膜するため用いられる成膜装置(AD膜形成装置1)の概略構成図である。図2を参照するに、AD膜形成装置1は、大略、ガスボンベ2、微粒子(原料粉体)をエアロゾル化するエアロゾル発生器3と、エアロゾル化された微粒子を噴射して成膜するための成膜室4、成膜室4内を減圧するための減圧機構5などを備えて構成されており、配管7を介してガスボンベ2、エアロゾル発生器3、成膜室4は接続されている。
ガスボンベ2は、原料粉体をエアロゾル化すると共に成膜室4までエアロゾルを搬送して噴射するためのキャリアガスが高圧充填されている。このガスボンベ2は、配管7aを介してマスフローコントローラ6に接続されている。キャリアガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素の不活性ガスを用いることができる。なお、微粒子材料としてペロブスカイト構造を有する酸化物セラミックを用いる場合は、キャリアガスは酸化性のガス、例えば酸素や空気を用いてもよく、不活性ガスにこれらのガスを添加してもよい。
マスフローコントローラ6は、ガスボンベ2に充填された高圧のキャリアガスの流量を制御するものである。マスフローコントローラ6は、配管7aを介してガスボンベ2に接続されると共に、配管7bを介してエアロゾル発生器3に接続されている。ガスボンベ2に充填されるキャリアガスは、マスフローコントローラ6により制御された流量でエアロゾル発生器3に供給され、微粒子の発塵量や成膜室4におけるエアロゾルの噴射量が制御される。
エアロゾル発生器3は、容器3aと振動機3bとを有し、配管7bによってマスフローコントローラ6と接続されると共に、配管7cによって成膜室4と接続されている。容器3aは、原料粉体が収容される密閉型の容器である。配管7bは、容器3a内に貫入されており、配管7bの端部(開口)は、容器下方に貯留される原料粉体中に埋入されている。また、配管7cの一端は、容器3a内上方に挿入されている。
容器3aは、振動機3bに保持されている。振動機3bは、超音波振動や電磁振動、機械的振動により容器3aを加振する装置であり、容器3a内に貯留される微粒子(複合粒子)の凝集を解砕するための装置である。原料粉体の凝集が解砕されることにより、成膜して得られるセラミックス膜の緻密性が向上する。
成膜実行時には、ガスボンベ2から容器3a内にキャリアガスが導入すると共に、振動機3bにより加振して容器3a内の原料粉体をエアロゾル化する。例えば、ガスボンベ2から、圧力10Pa〜10Pa、流量1〜15L/minで不活性ガスをキャリアガスとして供給し、容器3a内の微粒子を振動機3bにより加振してエアロゾル化する。エアロゾル化された原料粉体は、キャリアガスによって配管7c内を通って成膜室4に圧送される。
成膜室4には、配管7cに接続されたノズル10が配設されている。ノズル10と対向して基板保持台11が設けられ、基板保持台11の表面(ノズル10の対向面側)には基板12が保持されている。成膜時には、減圧機構5により予め成膜室4は減圧されており、エアロゾル発生器3から圧送されたエアロゾルは、ノズル10から高速で基板12に噴射される。噴射されたエアロゾルの微粒子は、基板12または先に堆積した微粒子に衝突し、衝突の衝撃によって基板または微粒子と反応して結合し、固化、堆積する。
噴射速度は、ノズル10の形状、導入されるキャリアガスの圧力および容器3a内と成膜室4内との圧力差により制御することができ、150m/秒〜400m/秒(好ましくは200m/秒〜400m/秒)の範囲に設定される。この範囲に噴射速度を設定することにより、基板12等の下地との密着強度が高いセラミックス膜を形成することができる。なお、噴射速度が400m/秒より大となると基板12に損傷を与えるおそれがあり、150m/秒より小さいと十分な付着強度を確保することができない。
基板保持台11には、基板保持台11の位置を制御するXYZステージ13が連結されている。成膜時には、XYZステージ13が稼働して、ノズル10に対して基板12がXY方向(図2において矢印Xにて示す紙面に対し左右方向及び矢印Yにて示す紙面に対し前後方向)に移動する。これによって基板12上において面状にエアロゾルが堆積され、一定面積の膜が形成される。XYZステージ13は基板保持台11を定速・繰り返し駆動動作を行うものであってもよい。XYZステージ13の移動速度、繰り返し駆動動作数によって、膜厚、成膜速度が制御される。
また、成膜室4には、室内の圧力を低圧とするための減圧機構5が配管14を介して連結されている。減圧機構5は、メカニカルブースタ15と、メカニカルブースタ15のバックポンプとなるロータリポンプ16とで構成されている。ロータリポンプ16の前段にメカニカルブースタ15が設けられることで排気速度の増大が図られる。この減圧機構5により、容器3a内よりも成膜室4内の方が低圧となるように減圧が実行される。
このようなAD膜形成装置1を用い、本発明の原料粉体を使用して成膜を行うことで本発明のセラミックス膜を作製することができる。
次に、本発明について実施例を示して更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
(実施例1)原料粉体の作製
図1にて説明した原料粉体製造工程に基づいて、AD用原料粉体を作製した。母材粒子はアルミナ(住友化学社製、平均粒径0.3μm)を用い、微小固体にはITO(アルドリッチ社製、平均粒径0.05μm)を用いた。
具体的には、pH4.0に調整した蒸留水40ml中に、アルミナ2.5gを投入し、超音波ホモジナイザー(和研薬社製、型番S4000)と、マグネットスターラー(アズワン社製)を用いて撹拌、分散をさせて分散液を作製した。
アルミナに安定かつ十分な負の表面電荷を付与するため、アニオン性高分子電解質としてPSS(アルドリッチ社製、Mw=70000)の1質量%を分散液中に35ml滴下し混合した。これにより、アルミナ表面にPSSを吸着させ、アルミナの表面電荷を負とした。続いてアルミナを沈殿させ、上澄み液を除去した後に脱イオン水にて洗浄し、未吸着のPSSを取り除いた。
その後、先の操作で得られたPSS被覆アルミナを、カチオン性高分子電解質(PDDA)(アルドリッチ社製、Mw=100000〜200000)の1質量%溶液35ml中に投入し混合した。これにより、アルミナ表面にPDDAを吸着させ、アルミナの表面電荷を正とした。
そして、上記と同様、アルミナを回収、洗浄してから、再度、PSSを吸着させる処理を行い、アルミナの表面電荷を負としたものを母材粒子とした。
次いで、pH4.0に調整した蒸留水40ml中に、ITOを0.8g投入し、超音波ホモジナイザーと、マグネットスターラーを用いて撹拌、分散させて分散液を作製した。これによって、正の表面電荷に調整されたITOを得た。即ち、濃度2.0重量%のITO分散液40mlを得た。
続いて、このpH4のITOの分散液20ml(濃度2.0重量%であるので、表面電荷を正に調整したITOの0.4gが分散)に、上記操作で表面電荷を負に調整したアルミナ2.5gが分散したpH4の分散液(濃度11.1重量%)を20ml混合し、アルミナ表面にITOが静電引力によって吸着したアルミナ-ITO複合体を作製した。作製したアルミナ-ITO複合体(原料粉体)を図3(a)に示す。
(実施例2)
ITOの分散液の濃度を0.49重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の原料粉体の作製を行った。得られた原料粉体の電子顕微鏡撮影写真を図3(b)に示す。
(実施例3)
ITOの分散液の濃度を4.8重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の原料粉体の作製を行った。得られた原料粉体の電子顕微鏡撮影写真を図3(c)に示す。
図3は、実施例1から実施例3で作製した原料粉体であるアルミナ-ITO複合体の走査型電子顕微鏡観察写真である。電子顕微鏡には、FE-SEM(S4800、日立ハイテク社製)を用い、加速電圧15kVにて観察、写真撮影を行った。上記したように、上記各実施例では分散液中のアルミナ濃度を11.1重量%とし、ITO濃度を実施例1では2.0重量%、実施例2では0.49重量%、実施例3では4.8重量%としたので、各実施例におけるアルミナ表面のITO被覆率は、理論上13.4%、3.3%、33.4%となるものである。
図3(a)、図3(b)、図3(c)からも解るように、作製した原料粉体は、アルミナ粒子表面にまんべんなくITOが吸着していることが示されている。更に、作製した原料粉体は、おおむね、同じような態様の複合粒子から構成されており、観察視野内に、アルミナ、ITOがそれぞれ単独で存在しているものは認められなかった。また、電子顕微鏡観察結果から、それぞれ、微小固体の被覆率(付着率)が変化していることが認められた。
更に、撮影した電子顕微鏡写真に基づき、観察視野内のアルミナ1個に対し、付着するITO粒子の数をカウントし、アルミナの相当径、ITOの平均粒径に基づき、アルミナ表面のITO被覆率を算出した。その結果、被覆率は、実施例1が13.4%、実施例2が3.3%、実施例3が33.4%となり、各原料粉体は、想定した被覆率で微小固体が付着しているものであった。
即ち、本原料粉体の製造時において、母材粒子(アルミナ)および微小固体(ITO)を複合化する際に、両者の濃度等を調整すれば、任意の範囲で微小固体(ITO)の被覆率が制御された原料粉体が得られることが示された。
(実施例4)
実施例1で作製した原料粉体を用い、AD装置によって厚膜形成を行った。具体的には、原料粉体を図2に示す成膜装置のエアロゾル発生器に装填し、窒素ガスをキャリアガスに用いてガス流量5.5L/分で、エアロゾル化した原料粉体の噴射を行った。ノズルの往復回数は20回とした。これにより、ガラス基材(スライドガラス、松浪硝子工業社製)上に膜厚約3μm、形成面積10×10mmのセラミックス膜(複合膜)を形成させた。作製したセラミックス膜は、上記した電子顕微鏡にてEDX分析を行った。結果を図4、図5に示す。尚、EDXの分析条件は、加速電圧15kV、倍率22000倍である。
図4は、実施例4で作製したセラミックス膜のAlの元素分布状態を観察した結果である。白い領域がAlの存在を示すものとなっており、図4(b)は、図4(a)の白四角で囲んだ範囲の部分拡大図である。また、図5は、かかる膜のInの元素分布状態を観察した結果である。白い領域がInの存在を示すものとなっており、図5(b)は、図5(a)の白四角で囲んだ範囲の部分拡大図である。
図4、図5から、形成されたセラミックス膜は、アルミナとITOとが均一に分布した状態にあることが観察された。得られたセラミックス膜中のITO含有量は、8体積%(13重量%)であり、面抵抗率が10Ω/cmの導電性であった。
図6は、実施例4で形成されたセラミックス膜の概観と光学特性とを示した図である。図6(a)は、セラミックス膜の概観を示しており、白破線で囲んだ領域内に形成されたセラミックス膜が示されている。ガラス基板は透明であり、「TUT」の文字が印刷された紙面上に載置されている。下地の「TUT」の文字が明確に視認できることから、形成されたセラミックス膜(図6(a)において「M」で示す)は可視光を透過させる透明性を有していることが解る。尚、白色に見えるスポット状の点は、デポジション終了時の噴射速度の低下に起因して完全に固化しなかった原料粉体が最表面に残存したものであって除去可能なものである。つまり、実施例3で得られたセラミックス膜は、透明なアルミナ膜であって導電性を有するものであった。
図6(b)は、かかるセラミックス膜の光学特性を吸光光度分析によって行った結果を示すグラフである。測定は吸光光度計(日本分光社製、型番V−670)波長300nm〜2500nm、光源として重水素ランプ(190nm〜350nm)、ハロゲンランプ(330nm〜2700nm)、分解能±0.3%Tで、透過率を測定した。
図6(b)において、縦軸は透過率、横軸は波長を示しており、グラフ中に実線にて波長に対する吸光度変化を示している。これから解るように、実施例4で得たセラミックス膜の光学特性は、可視光領域400nm〜800nmにおいて透過率70%以上であることが観察された。また、近赤外領域(1500nm〜2500nm)において急激に透過率が低下しており、吸収率が90%以上であることが示されている。即ち、形成されたセラミックス膜が透明で赤外線吸収効果(熱線遮蔽効果)を有することが示された。
尚、図示を省略しているが、実施例2、3の原料粉体を用いた場合には、実施例1の原料粉体を用いた場合よりも、実施例2の場合には近赤外吸収効率が低下し、実施例3の場合には透過率が低くなった。これにより、適正な範囲で微小固体の付着量を制御することが、所望の光学特性の設計に重要であることが示された。
以上、実施の形態および実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。また、上記実施の形態および実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
1 成膜装置(AD膜形成装置)
2 ガスボンベ
3 エアロゾル発生器
4 成膜室
7 配管
15 メカニカルブースタ
16 ロータリポンプ

Claims (7)

  1. 噴射した原料を基板上に堆積させて成膜する成膜方法に用いられる原料粉体であって、
    セラミックス組成物からなる粒状体を母材とし、その母材とは異なる種類の微小固体が前記母材表面上において3.3%〜33.4%の被覆率範囲となる予め定めた被覆量付着た複合体からなると共に実質的に原料粉体の全量が前記複合体であることを特徴とする原料粉体。
  2. 前記母材は、絶縁性の酸化物系セラミックスであり、
    前記微小固体は、導電性材料微粒子または半導体材料微粒子であることを特徴とする請求項1記載の原料粉体。
  3. 前記微小固体は、透明性の半導体材料微粒子であることを特徴とする請求項2記載の原料粉体。
  4. 前記母材はアルミナであり、
    前記微小固体は、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛のいずれかであることを特徴とする請求項3記載の原料粉体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の原料粉体を噴射により基板上に堆積させて得られる膜構造物であって、前記セラミックス組成物のマトリックス中に、前記微小固体が実質的に均一に分布してなることを特徴とするセラミックス膜。
  6. 前記微小固体は、錫ドープ酸化インジウムであり、
    膜中の前記微小固体の割合が8体積%以上で、面抵抗率10Ω/cm以下の導電性を有することを特徴とする請求項5記載のセラミックス膜。
  7. 前記母材がアルミナであり、前記微小固体が錫ドープ酸化インジウムである複合粒子を原料粉体として成膜され、
    アルミナマトリックス中に13重量%以上の錫ドープ酸化インジウムが実質的に均一に分布し、膜厚3μmにおいて、400nm〜800nmの光を70%以上透過させ、1500nm〜2500nmの近赤外領域の光を90%以上吸収することを特徴とする請求項5記載のセラミックス膜。
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