JP6390710B2 - チタン材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、チタン材の製造方法に関する。
チタン材は、耐食性に優れた金属材料であることから、海水を用いる熱交換器や各種の化学プラントなどに用いられている。また、密度が炭素鋼に比べて小さく、比強度(単位重量あたりの強度)に優れることから、航空機の機体にも多く使用されている。また、自動車などの陸上輸送機器にチタン材を使用することにより、機器自体が軽量となり、燃費向上が期待されている。
しかし、チタン材は、鋼材に比べて複雑で非常に多くの工程によって製造されている。代表的な工程は、以下のものがある。
製錬工程:原料である酸化チタンを塩素化して四塩化チタンとした後、マグネシウムあるいはナトリウムで還元することにより、塊状でスポンジ状の金属チタン(以下、スポンジチタン)を製造する工程
溶解工程:スポンジチタンをプレス成形して電極として、真空アーク溶解炉で溶解して鋳塊を製造する工程
鍛造工程:鋳塊を熱間で鍛造してスラブ(熱間圧延素材)やビレット(熱間押出しや熱間圧延などの素材)などを製造する工程
熱間加工工程:スラブやビレットを加熱して熱間で圧延や押出し加工して板や丸棒などを製造する工程
冷間加工工程:板や丸棒をさらに冷間で圧延加工して薄板や丸棒、線などを製造する工程
このように多くの工程により製造されているため、チタン材は非常に高価である。このため、自動車などの陸上輸送機器への適用はほとんどない。チタン材の利用を促進するためには、その製造プロセスの生産性向上が必要となる。この課題に対処する技術として、チタン材の製造工程を省略する取り組みがなされている。
特許文献1では、チタン粉、結着剤、可塑剤、溶剤を含む組成物を薄板状に成形、乾燥、焼結、圧密及び再焼結してチタン薄板を製造する方法が提案されている。この方法では、通常の溶解、鍛造、熱間及び冷間圧延工程を省略できる。
特許文献2では、チタン合金粉に銅粉、クロム粉又は鉄粉を添加して、炭素鋼製のカプセルに封入して、加熱して熱間で押出ししてチタン合金丸棒を製造する方法が提案されている。この方法では、通常の溶解、鍛造工程を省略することができるため、製造コストを下げることができる。
特許文献3では、スポンジチタン粉を銅製カプセルに充填して、700℃以下に加熱して温間押出し加工を施して、丸棒を製造する方法が提案されている。この方法では、通常の溶解、鍛造工程を省略することができるため、製造コストを下げることができる。
また、従来から知られているパック圧延は、加工性の悪いチタン合金などのコア材を加工性の良い安価な炭素鋼などのカバー材で被覆して、熱間圧延する方法である。例えば、コア材表面に剥離剤を塗布後、少なくともその上下2面をカバー材で被覆、あるいは上下面の他に4周面もカバー材で被覆して、合わせ目を溶接して密閉被覆箱を製作して、内部を真空に引いて密閉して、熱間圧延するものである。
特許文献4では、密閉被覆箱の組立方法、特許文献5では、10−3torr(約0.133Pa)以上の真空度にしてカバー材を密封(パック)して密閉被覆箱を製造する方法、特許文献6では、炭素鋼(カバー材)で覆って、10−2torr(約1.33Pa)以下の真空下で高エネルギー密度溶接によって密封(パック)して、密閉被覆箱を製造する方法が提示されている。
これらのパック圧延では、被圧延材であるコア材をカバー材で覆って熱間圧延するので、コア材表面は冷えた媒体(大気やロール)に直接触れることがなく、コア材の温度低下を抑制できるため、加工性の悪いコア材でも薄板の製造が可能になる。
カバー材として、コア材と異なる材質で、加工性が良く安価な炭素鋼などを用いている。熱間圧延後、カバー材は不要になるため、コア材から分離しやすくするために、コア材の表面には剥離剤を塗布している。
特開2011−042828号公報 特開2014−019945号公報 特開2001−131609号公報 特開昭63−207401号公報 特開平09−136102号公報 特開平11−057810号公報
引用文献1に記載の方法では、高価なチタン粉(平均粒子径が4〜200μm)を原料として用いることや、焼結や圧密などの多くの工程が必要であるため、得られたチタン薄板は非常に高価であり、チタン材の利用促進には至っていない。
引用文献2に記載の方法では、高価なチタン粉合金を原料として使用するため、得られたチタン合金丸棒は高価であり、チタン材の利用促進には至っていない。しかし、加熱した際にスポンジチタン粉が酸化されるため、得られた丸棒は表層や内部に酸化チタンを含み、通常工程で製造した丸棒に比べて、外観が変色、引張特性が劣るなどの問題があった。
引用文献3に記載の方法では、加熱した際にスポンジチタン粉が酸化されるため、得られる丸棒は表層および内部に酸化チタンを含み、通常工程で製造した丸棒に比べて、外観が変色、引張特性が劣るなどの問題があった。
引用文献4〜6に記載の方法は、パック圧延のように圧延後にカバー材を剥がして廃却したりするため、製造コストが通常の工程よりも高くなり、得られたチタン材は、高コストであることに変わりがない。
このため、チタン材が自動車などの陸上輸送機器に適用されるまでには、至っていない。
本発明は、このような実情に鑑み、チタン板や丸棒などのチタン材を低コストで製造することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、溶解工程と鍛造工程を省略することができるチタン素材を着想した。
使用する原料として、高価なチタン粉やスポンジチタン粉のような粉末ではなく、不定形で塊状のスポンジチタンに着目した。塊状のスポンジチタンは、従来の工程で製造されているため、比較的安価に入手することができる。また、製錬工程において、主な不純物が除去されているため、スポンジチタンから、直接、チタン材を製造しても成分上の問題はない。スポンジチタンを圧縮成形することによってブリケット形状としたもの(以下、「チタンブリケット」という。)、または、製品にはならない端材等のチタン材(以下、「チタンスクラップ」という。)は、比較的安価に入手することができる。ただし、これらの材料は不定形であるため、直接加工することはできない。
そこで、本発明者らは、純チタン材を用いて作製した容器(以下、「梱包材」という。)に、スポンジチタンなどの充填材を収容し、密閉したチタン内包構造体(以下、「チタン素材」という。)を見出した。このような構成のチタン材であれば、熱間加工した際に、表面割れやヘゲ状等の表面欠陥の発生を抑制できる。特に、充填材の化学組成を純チタン材と同種のものにすることによって、従来のパック圧延のように圧延後にカバー材をはがして廃却するのではなく、梱包材は、加工後もそのままチタン材(製品)の一部とできる。さらに、熱間加工前に加熱した際に、スポンジチタンなどの充填材が酸化しないように、また、熱間加工時に充填材間や充填材と梱包材の間にある空隙が減少しやすいように、梱包材の内圧を極力減圧しておくことが重要であることも見出した。
本発明は、下記のチタン材の製造方法を要旨とする。
(1)純チタン材で形成された梱包材と、
前記梱包材の内部に充填された充填材とを備え、
前記梱包材の内圧が、絶対圧で10Pa以下であり、
前記充填材が、スポンジチタン、チタンブリケットおよびチタンスクラップから選択される一種以上で構成され、且つ前記純チタン材と同種の化学組成を有する、チタン素材を熱間加工して、JIS1種から4種に属する化学組成を有し、内部の空隙率が、0%を超えて30%以下である、チタン材を製造する、チタン材の製造方法。
(2)前記梱包材および前記充填材が、JIS1種から4種に規定されている化学組成を有する、上記(1)のチタン材の製造方法
本発明のチタン素材を用いることにより、従来の溶解工程と鍛造工程を省略して、加工を行い、チタン材を製造することができる。このため、これらの製造に要するエネルギー(電力やガスなど)を削減できる。さらに、鋳塊の表層や底面に多い欠陥部の切削除去や、鍛造後の表面割れや形状の悪い先後端部(クロップ)の除去など、多量のチタン素材を切削除去や切断除去することなく製造できるため、製造歩留が大幅に向上する。このため、製造コストを大幅に低減することができる。
さらに、本発明で得られたチタン素材を適正な条件で加工することで、空隙の少ない、従来材と同等の引張特性を有するチタン材や、内部に空隙の多い軽量のチタン材を得ることができる。従来材は、溶解工程を経て製造されるために、空隙は存在しない。
図1は、本発明のチタン素材の構成を模式的に示す図である。 図2は、本発明のチタン材(板材)の構成を模式的に示す図である。 図3は、本発明のチタン材(棒材)の構成を模式的に示す図である。
以下、本発明のチタン素材およびチタン材について、順次説明する。
図1に示すように、本発明のチタン素材10は、純チタン材1aで形成された梱包材1と、梱包材1の内部に充填された充填材2とを備えるチタン材であって、梱包材1の内圧が、10Pa以下であり、充填材2が、スポンジチタン、チタンブリケットおよびチタンスクラップから選択される一種以上で構成され、且つ前記純チタン材と同種の化学組成を有する、加工用素材である。
まず、充填材2について説明する。
[大きさ]
充填材2としてスポンジチタンを用いる場合には、従来のクロール法などの製錬工程で製造されるものを用いることができる。この製錬工程で得られたスポンジチタンは、通常数tonもある大きな塊であるため、従来工程と同様に、破砕して平均粒径で30mm以下の粒にしたものを用いるのがよい。
充填材2の粒の大きさは、梱包材1の内部空間の大きさよりも小さくしなければならない。また、充填材2は、そのまま梱包材1に充填してもよいが、より効率的にするため、または、より多く充填するために、あらかじめスポンジチタンを圧縮成形した成形体(チタンブリケット)としてもよい。特に、空隙率の小さいチタン材を得る場合は、チタンブリケットを充填材2として梱包材1の内部に充填するのが望ましい。
充填材2の大きさは、平均粒径で1mm以上30mm以下が望ましい。1mm未満では、破砕するのに時間がかかり、微細な粉塵の発生も多く飛散するため、製造効率が悪くなる。30mmより大きいと、搬送する際に取り扱いにくい、梱包材1に入れにくいなど、作業効率が悪くなる。
[成分]
充填材2は、梱包材1、すなわち純チタン材と同種の化学組成であることが必要である。例えば、JIS1種、2種、3種または4種に相当する化学成分である。ここで、同種の化学組成であることとは、具体的には、JISの同じ規格に属することを意味する。例えば、梱包材1の化学組成がJIS1種に属する場合には、充填材2もJIS1種に属する化学組成とする。このように、充填材2の化学組成を、純チタン材と同種の化学組成とすることにより、加工後のチタン材の表層と内部とを同等の化学組成とすることができ、そのまま工業用純チタンとして扱うことができる。
なお、JIS1種とは、酸素0.15質量%以下、鉄0.20質量%以下、窒素0.03質量%以下、炭素0.08質量%以下、水素0.013質量%以下であり、JIS2種とは、酸素0.20質量%以下、鉄0.25質量%以下、窒素0.03質量%以下、炭素0.08質量%以下、水素0.013質量%以下であり、JIS3種とは、酸素0.30質量%以下、鉄0.30質量%以下、窒素0.05質量%以下、炭素0.08質量%以下、水素0.013質量%以下であり、JIS4種とは、酸素0.40質量%以下、鉄0.50質量%以下、窒素0.05質量%以下、炭素0.08質量%以下、水素0.013質量%以下である。
次に、充填材2として用いることができるチタンスクラップについて説明する。
チタンスクラップとは、工業用純チタン材の製造工程で発生する製品にならない端材や、工業用純チタン素材を製品形状とするために切削、研削した際に発生するチタン切粉、製品として使用した後の不要になった工業用純チタン材等である。
チタンスクラップの大きさが大きすぎて、搬送しにくい、梱包材1に入れにくい等、作業効率が悪い場合は、適宜切断するのが望ましい。
チタンスクラップは、そのままの状態で梱包材1に充填してもよいが、かさ比重の小さいチタン切粉等は、より効率的に、又はより多く充填するために、あらかじめスポンジチタンと混合した後で圧縮成形したり、チタンスクラップだけで圧縮成形した成形体として、梱包材1に充填してもよい。
次に、梱包材1を形成する純チタン材について説明する。
純チタン材としては、例えば、チタン展伸材が挙げられる。チタン展伸材は、圧延、押出し、引抜き、鍛造などの熱間又は冷間の塑性加工によって造られたチタン板やチタン管である。工業用純チタン展伸材は、塑性加工されているため、表面が平滑で組織が細かい(結晶粒が小さい)という利点がある。
[厚さ]
梱包材1が直方体の場合、純チタン材の厚さは、作製する梱包材1の大きさによって異なるが、0.5mm以上50mm以下が望ましい。梱包材1が大きいほど、強度や剛性が必要であるため、より厚い純チタン材を用いる。0.5mm未満では熱間加工前の加熱時に梱包材1が変形したり、熱間加工初期に破断したりする可能性があるので好ましくない。50mmより厚いと、チタン素材10の厚さに占める純チタン材の割合が大きくなり、充填材2の充填量が少なくなるため、充填材2を加工する量が少なく、製造効率が劣り好ましくない。
さらに、純チタン材の厚さは、チタン素材10の厚さの3%以上25%以下が望ましい。純チタン材の厚さが、チタン素材10の厚さの3%より薄いと、充填材2を保持しにくくなり、熱間加工前の加熱時に大きく変形したり、梱包材1の溶接部分が破断したりする。純チタン材の厚さが、チタン素材10の厚さの25%より厚いと、製造上の問題は特にないものの、チタン素材10の厚さに占める純チタン材の割合が大きくなり、充填材2の充填量が少なくなるため、充填材2を加工する量が少なく、製造効率が劣り好ましくない。
梱包材1が管の場合も同様で、作製する梱包材1の大きさによって純チタン材の厚さは異なるが、0.5mm以上50mm以下が望ましい。さらに、直方体の場合と同様、純チタン材の厚さは、チタン素材10の直径の3%以上25%以下が望ましい。
[成分]
梱包材1は、充填材2と同種の化学組成であることが必要である点は、上述のとおりである。
[結晶粒の大きさ]
純チタン材は、適度な塑性加工を施して熱処理することにより、その結晶粒を調整することができる。梱包材1に用いる純チタン材の平均結晶粒は、円相当直径で500μm以下にする。これにより、チタン素材10を熱間加工した場合に発生する粗大な結晶の結晶方位の違いによって発生する表面疵を抑制することができる。その下限は特に定めるものではないが、工業用純チタンで結晶粒径を極端に小さくするためには、塑性加工時の加工割合を大きくすることが必要であり、梱包材1として使用できる純チタン材の厚さが限られるため、10μm以上、さらには15μmより大きいのが好ましい。ここで対象とする結晶粒は、工業用純チタンで大半を占めるα相の結晶粒である。
なお、平均結晶粒は、次のようにして算出される。すなわち、純チタン材の断面の組織を光学顕微鏡で観察して写真撮影を行い、その組織写真から、JIS G 0551(2005)に準拠した切断法により、純チタン材表層の平均結晶粒を求める。
次に、チタン素材10について説明する。
[形状]
チタン素材10の形状は、制限されるものではないが、製造されるチタン材の形状によって決められる。チタン薄板や厚板を製造する場合は、チタン素材10は直方体形状(スラブ)とする。チタン素材10の厚さ、幅および長さは、製品の厚さ、幅および長さ、製造量(重量)などにより決められる。
チタン丸棒、線材又は押出し形材を製造する場合は、チタン素材10は円柱形や八角柱などの多角柱形状(ビレット)である。その大きさ(直径、長さ)は、製品の大きさ厚さ、幅および長さ、製造量(重量)などにより決められる。
[内部]
チタン素材10の内部には、スポンジチタンなどの充填材2が充填されている。充填材2は、塊状の粒であるため、粒と粒の間には空隙3がある。この空隙3に空気があると、熱間加工前の加熱した際に、充填材2が、酸化や窒化してしまい、その後に加工し得られたチタン材が脆くなって、必要な材料特性が得られなくなる。また、Arガスなどの不活性ガスを充填すると、スポンジチタンの酸化または窒化を抑制することができる。しかし、加熱時にArガスが熱膨張し、梱包材1を押し広げ、チタン素材10が変形してしまい、熱間加工ができなくなる。
以上のことから、充填材2の粒間の空隙3は、極力減圧にしなければならない。具体的には、10Pa以下とする。好ましくは1Pa以下である。梱包材1の内圧が10Paより大きいと、残留している空気により、充填材2が酸化や窒化してしまう。下限は、特に限定されないが、内圧を極端に小さくするためには、装置の気密性を向上させたり、真空排気機器を増強させたりするなどの製造コストが上がるため、下限は1×10−3Paとするのが好ましい。
次に、梱包材1の内部を減圧して真空に保つ方法について説明する。
梱包材1は、充填材2を充填した後、所定の内圧以下になるように減圧して密閉されたものである。あるいは、純チタン材同士を部分的に接合してから、減圧し、密閉してもよい。密閉することで、空気が侵入することなく、熱間加工前の加熱時に内部の充填材2が酸化されることがない。
密閉方法は、特に限定されないが、純チタン材同士を溶接して密閉するのが好ましい。この場合、溶接位置は、純チタン材の継ぎ目のすべてを溶接、すなわち全周溶接を行う。純チタン材を溶接する方法は、ティグ溶接やミグ溶接などのアーク溶接、電子ビーム溶接やレーザー溶接など、特に限定はされない。
溶接する雰囲気は、充填材2および梱包材1の内面が、酸化または窒化されないように、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気で溶接を行う。純チタン材のつなぎ目を最後に溶接する場合は、梱包材1を真空雰囲気の容器(チャンバー)に入れて溶接を行い、梱包材1内部を真空に保つのが望ましい。
その他、予め、梱包材1の一部に配管を設けて、不活性ガス雰囲気で全周を溶接した後、その配管を通じて所定の内圧にまで減圧にして、配管を圧着などにより封じることにより、梱包材1内部を真空にしてもよい。なお、この場合、配管は、後工程の熱間加工の際に不具合にならない位置、例えば、後端面に施工する。
次に、チタン材について説明する。
本発明のチタン材は、JIS1種から4種に属する化学組成を有し、内部の空隙率が、0%を超えて30%以下である。具体的には、チタン素材10を加熱した後、熱間加工し、またはさらに冷間加工することによって得られる工業用純チタンである。
チタン材は、加工前のチタン素材10において、梱包材1であった外層と充填材2であった内層の2つの構造からなる。以下、チタン材の内部とは、この内層のことを指す。梱包材1と充填材2の化学組成は同種であるため、チタン材の化学組成は、外層および内層が同種の化学組成である。具体的には、JIS1種から4種に属する化学組成を有する。
[空隙率]
チタン素材10の内部に存在している空隙3は、チタン素材10を熱間加工、またはさらに冷間加工に伴い減少するものの、完全には除去されず(空隙率は0%にはならず)、一部が残存する。すなわち、空隙率は、0%を超える。この空隙3が多いと、チタン材のかさ比重が小さくなり軽量化できる。しかし、空隙3が多すぎると、製品によってはチタン材の強度や延性が低くなりすぎて、所望の性能が発揮できない場合がある。よって、空隙率の上限を30%以下とすることによってチタン材の強度や延性が必要な製品においては特性を確保することができる。すなわち、製品として使用できる強度や延性が確保でき、かつ軽量なチタン材を得るために、チタン材内部は体積率で0%超30%以下の空隙3を有することが好ましい。
チタン材の内部に残存する空隙の割合(空隙率)は、次のように算出される。チタン材の内部の断面が観察できるようにチタン材を切断して、その断面の観察面を研磨して、平均表面粗さRaを0.2μm以下の鏡面化仕上げを行い、観察用試料を作製する。研磨の際には、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液等を用いる。
この鏡面化仕上げを行った観察用試料は、光学顕微鏡で異なる位置の20か所の中心部を写真撮影する。ここで、中心部は、チタン材が板の場合は板厚中心を、丸棒の場合は円断面の中心である。その光学顕微鏡写真にて観察される空隙の面積割合を測定して、20枚の写真の空隙率の値を平均した結果を空隙率として算出する。なお、光学顕微鏡で写真を撮影する際には、チタン材の空隙の大きさや空隙率に応じて適正な倍率を選択する。例えば、空隙率が1%以下の場合は、空隙が小さいので、500倍程度の高倍率で観察して、写真撮影を行う。空隙率が10%以上の場合は、大きな空隙が多くなるので、20倍程度の低倍率で観察を行い写真撮影するのが望ましい。
また、空隙が小さくなる空隙率が1%以下の場合、偏光観察が可能な微分干渉顕微鏡を用いることで、通常の光学顕微鏡よりもより明瞭に観察できるため、使用することが望ましい。
チタン材の内部に空隙が発生する原因は2つある。1つは、充填材のスポンジチタン粒やチタンスクラップ片の間に形成される空隙や、充填材と梱包材の間に形成される空隙である。これらのチタン素材に形成される空隙は、熱間加工やその後の冷間加工により小さくなり、一部または大半は圧着して消滅する。熱間加工や冷間加工の加工率を大きくすることにより、チタン材の空隙率を減らすことができる。また、スポンジチタンやチタンスクラップをあらかじめ圧縮成形してチタンブリケットとすることにより、チタン材の空隙率を減らすこともできる。しかし、円相当直径で数百μm以下に小さくなった空隙は、加工率を大きくしても容易には圧着しないため、チタン材に残る。すべての空隙を完全に圧着する、すなわち空隙率をゼロにするためには非常に大きな加工率が必要であり、このためには非常に大きなチタン素材が必要となり、工業的にチタン材を製造するうえで現実的ではない。
もう1つの空隙の原因はスポンジチタンに含まれる塩化物である。代表的なスポンジチタンの製造方法であるクロール法で製造したスポンジチタンには、不可避的不純物として、塩化マグネシウム等の塩化物が含まれている。この塩化物は、スポンジチタンを用いたチタン素材の内部にわずかに存在している。このようなチタン素材を加熱して熱間加工を施しても、密閉構造であるため、得られたチタン材の内部には塩化物がわずかに残存する。得られたチタン材の空隙率を調べるために、上記の観察試料を作製する際に、塩化物は、脱落または水に溶けてなくなり、その跡が残る。このような試料を観察すると、塩化物があった跡が空隙として観察される。
[熱間加工の方法]
チタン材(製品)は、チタン素材10に熱間加工を施して形成される。熱間加工の方法は、チタン材の形状によって異なる。チタン板を製造する場合は、直方体形状(スラブ)のチタン素材10を加熱して、熱間圧延を行いチタン板とする。必要に応じて、従来工程と同様に、酸化層を酸洗などで除去した後、冷間圧延を行い、さらに薄く加工してもよい。
チタン丸棒や線材を製造する場合は、円柱や多角柱形状のチタン素材10を加熱して、熱間鍛造、熱間圧延や熱間押出しを行い、チタン丸棒や線材とする。また、必要に応じて、従来工程と同様に、酸化層を酸洗などで除去した後、冷間圧延等を行い、さらに細く加工してもよい。チタン押出し型材を製造する場合は、円柱や多角柱形状のチタン素材10を加熱して、熱間押出しを行い、種々の断面形状のチタン形材とする。
[加熱温度]
熱間加工前の加熱温度は、チタン素材10の大きさや熱間加工の加工率によって異なるが、600℃以上、1200℃以下である。600℃未満では、チタン素材10の高温強度が高く、十分な加工率を付与することができない。加熱温度が1200℃より高くなると、得られたチタン材の組織が粗くなり、十分な材料特性が得られないことや、チタン素材10の外表面が酸化されて、厚いスケールが生成し、チタン素材10が薄肉化、場合によっては穴明きが生じるため好ましくない。
[加工率]
熱間加工や冷間加工の際の加工の度合い、すなわち加工率(加工前の断面積と加工後のチタン材の断面積の差を、加工前の断面積で除した割合)は、必要なチタン材の特性に応じて調整する。チタン素材10の加工率によって、チタン材の内部(充填材2由来の部分)の空隙割合を調整することができる。大きな加工(チタン素材10の断面積を大きく減少させる加工)を付与すると空隙はほとんどなくなり、通常の製法で製造したチタン材と同程度の引張特性を付与することができる。一方、小さい加工では、チタン材内部に多くの空隙を残し、その分軽量なチタン材を得ることができる。
チタン材に強度や延性が必要な場合は、加工率を大きくして(例えば90%以上)、内部の充填材2を十分に圧着させて、チタン材内部の空隙率を少なくする。軽量なチタン材が求められる場合は、加工率を小さくして、チタン材内部の空隙率を大きくする。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
充填材として、表1に示す、クロール法により製造したスポンジチタンおよび/またはチタンスクラップと、梱包材として、表1に示す、純チタン材(工業用純チタン展伸材)を酸洗した厚板6枚を用いて、厚さ75mm、幅100mm、長さ120mmの直方体のチタン素材の製作を試みた。
なお、スポンジチタンは、篩分けした平均粒径が8mm(粒度が0.25〜19mm)であり、化学組成がJIS1種から4種相当のものを使用した。チタンスクラップは、製造工程で発生したJIS1種のチタン薄板(TP270C、厚さ0.5mm)の端材を約10mm角に切断したものを使用した。純チタン材は、JIS1種(TP270H)、2種(TP340H)、3種(TP480H)、4種(TP550H)の酸洗した厚板(厚さ5〜10mm)を用いた。事前に、これらの厚板の断面の組織を光学顕微鏡で観察して写真撮影を行った。結晶粒径は、JIS G 0551(2005)に準拠した切断法により、厚板表層のα相の平均結晶粒を求めた。その結果を表1に併記した。
純チタン材の5枚を仮組みし、ここにスポンジチタンを充填して残りの純チタン材で蓋をした。この状態で、真空チャンバー内に入れて、所定の圧力になるまで減圧(真空)した後、梱包材の継ぎ目を全周電子ビームで溶接した。この時のチャンバー内の圧力は、8.8×10−3〜7.8×10−2Paとした。
一部のチタン素材(表1のNo.2〜4)では、板中央に穴をあけて内径6mmのチタン管をティグ溶接した純チタン材1枚を準備して、この純チタン材が圧延時に後端面になるように、梱包材の仮組立を行った。Arガス雰囲気中で、梱包材の継ぎ目を全周ティグ溶接行った。その後、チタン管を通して、梱包材の内部を所定の圧力(1.7×10−1〜150Pa)になるまで減圧し、減圧後にチタン管を圧着して、梱包材の内部の圧力を保った。
また、比較として、大気(空気)中やArガス雰囲気で、梱包材の継ぎ目を全周ティグ溶接した梱包体も製作した(表1のNo.22、23)。
さらに、梱包材に換えて、スポンジチタンを圧縮成形したブロック表面全体を電子ビームで溶融してチタン鋳塊を作製した。チタン鋳塊の一部の断面表層を観察した結果、溶融厚さは8mmであり、その部分の平均結晶粒径は0.85mmであった(No.24)。
以上のようにして、内部にスポンジチタンやチタンスクラップを充填し、雰囲気が真空(真空度8.8×10−3〜150Pa)、大気及びArガスであるチタン素材を用意した。
作製したチタン素材は、大気雰囲気で850℃に加熱した後、加工率20〜93%で熱間圧延を行い、チタン材を製作した。得られたチタン材は、725℃で焼鈍を行った後、引張試験片を採取した。チタン材の厚さが10mmまではそのままの厚さで、10mmを超えた場合は、チタン材の厚さ中央より厚さ5mmの引張試験片を採取した。引張試験片は、平行部の幅が12.5mm、長さが60mm、標点間50mmとなるJIS13号Bサイズで作製した。チタン材の圧延方向と平行な方向の引張強度と全伸びを評価した。表1に、実施例1のチタン素材と熱間圧延の加工率、チタン材の引張強度と全伸びを示す。
Figure 0006390710
表1に示すように、内部の真空度を10Pa以下としたチタン素材を、加工率82%以上で熱間圧延して得られたNo.1〜9のチタン材は、空隙率が1%未満で少なく、引張強度や全伸びは良好であった。
加工率を30%または50%と低くした場合は、チタン材の空隙が多くなり、引張強度と全伸びが上記の場合に比べて劣る結果になったものの、嵩比重が小さく軽量化が図れた(No.10,11)。ただ、加工率20%では、チタン材の空隙率が40%と軽量にできたものの、表層と内層の境界部(チタン素材での梱包材と充填材の境界部に相当)で剥離して板を製造することができなかった(No.25)。
チタンスクラップを一部あるいは全部用いた場合も、加工率91%の熱間加工を施すことで、空隙が1%未満で、従来と同等の引張強度、全伸びであるチタン材が得られた(No.12,13、16)。
また、JIS2種から4種相当の化学成分のスポンジチタンと、JIS2種から4種の純チタン材を用いた場合も、加工率91%の熱間圧延を施すことにより、従来と同様の引張強度や全伸びであるチタン材が得られた(No.14,17,19)。加工率が72%の場合は、空隙率の増加に従い、引張強度や全伸びがやや低下したものの、嵩比重が小さくすることができ、軽量化が図られた(No.15,18、20)。
内部の真空度が150Paのチタン梱包体を、加工率91%で熱間圧延して得られたNo.21は、同じ加工率のNo.1〜4のチタン材と比較して、空隙率は同等で小さいものの、引張強度や全伸びが低くなった。これは、スポンジチタン表面が酸化されたために、スポンジチタン同士が十分に圧着しなかったためであり、軽量化もできないため、引張強度や全伸びが悪くなるため、好ましくない。No.22及び23は、梱包体内部が大気(空気)やArガスの場合であり、加熱した際、梱包体が膨らみ、熱間圧延する前に変形したため、圧延することができなかった。
表面を溶融して製作したチタン鋳塊は、熱間圧延を施して後のチタン材表面には多数のヘゲ状の表面欠陥が発生した。鋳塊表面を溶融して凝固させているため、表層は1000℃以上の高温にさらされ、表層の結晶粒が急速に成長して粗大化している。結晶方位が異なる結晶粒単位で変形量が異なるため、熱間圧延初期に、表層の粗大な結晶粒の部分は凹みや被さりとなり、熱間圧延が進むにつれてヘゲ状の表面欠陥になった。このため、これらの欠陥部を手入れして除去しなければならなかった(No.24)。
以上のことから、内部の真空度が10Pa以下のスポンジチタンを充填したチタン素材を加工率90%以上で熱間圧延して得られたチタン材は、溶解や鍛造工程がある通常の工程で得られたチタン材と同等の全伸びが得られる。
(実施例2)
充填材として、表2に示す、クロール法により製造したスポンジチタンまたはチタンスクラップと、表2に示す、梱包材とを用いて、直径150mm、長さ250mmの円柱形のチタン素材を製作した。
なお、スポンジチタンは、篩分けした平均粒径が6mm(粒度が0.25〜12mm)であり、化学組成がJIS1種から4種相当のものを使用した。チタンスクラップは、製造工程で発生したJIS1種のチタン薄板(TP270C、厚さ0.5mm)の端材を約10mm角に切断したものを使用した。純チタン材(工業用純チタン展伸材)は、JIS1種(TP270H)、2種(TP340H)、3種(TP480H)、4種(TP550H)の酸洗した厚板(厚さ10mm)を用いた。事前に、これらの厚板の断面の組織を光学顕微鏡で観察して写真撮影を行った。結晶粒径は、JIS G 0551(2005)に準拠した切断法により、厚板表層のα相の平均結晶粒を求めた。その結果を表2に併記した。
梱包材1枚を丸めて円筒形にして、端面同士を電子ビーム溶接で溶接し、直径150mmの円形の梱包材を底面として、仮組みし、ここにあらかじめ円柱形状に圧縮成形したスポンジチタンを充填して、円形のチタン梱包材で蓋をした。仮組みされた梱包材は、真空チャンバー内にいれて、所定の圧力になるまで減圧(真空)にした後、梱包材の継ぎ目を全周電子ビームで溶接した。この時のチャンバー内の圧力は、9.5×10−3〜8.8×10−2Paであった。
比較として、スポンジチタンを円柱状に圧縮成形した後、その表面全体を電子ビームで溶融してチタン鋳塊を作製した。チタン鋳塊の一部の断面表層を観察した結果、溶融厚さは6mmであり、その部分の平均結晶粒径は0.85mmであった(No.13)。
作製した円柱形のチタン素材は、大気雰囲気で950℃に加熱した後、熱間鍛造を行い、直径32〜125mmの丸棒を製作した。得られた丸棒は、725℃で焼鈍した後、径の中心部から引張試験片を切り出して、JIS4号試験片(平行部直径14mm、長さ60mm)を製作し、引張強度と全伸びを求めた。表2に、実施例2のチタン素材と熱間鍛造の加工率、チタン材の引張強度と全伸びを示す。
Figure 0006390710
表2に示すように、チタン素材を加工率90%以上で熱間鍛造して得られた丸棒は、内部の空隙率が1%未満と少なく、引張強度や全伸びは従来材と同様であり、良好であった(No.1、2、6、9、11)。
チタン素材を加工率56、84%で熱間鍛造して得られた丸棒は、引張強度や全伸びは従来材よりもやや劣るものの、内部の空隙率が3%から12%あり、その分軽量化を図ることができた(No.3、4、7、10、12)。
しかし、加工率が36%と少ないNo.14では、得られたチタン丸棒の内部の空隙率が39%と大きいため、軽量化が図られたが、表層と内層の境界部(チタン素材での梱包材と充填材の境界部に相当)で剥離して丸棒を製造することができなかった。
スポンジチタンの一部をチタンスクラップ(切粉)に換えて、チタン素材を製作して、熱間鍛造を行って得られた丸棒は、内部の空隙率が1%未満と少なく、引張強度や全伸びは従来材と同様であり、良好であった(No.5、8)。表面を溶融して製作したチタン鋳塊は、熱間鍛造を施しているときに、表面割れが多数発生した。鋳塊表面を溶融して凝固させているため、表層は1000℃以上の高温にさらされ、表層の結晶粒が急速に成長して粗大化している。熱間鍛造初期に、表層の粗大な結晶粒の境界部で小さい割れが発生して、熱間鍛造が進むにつれてその割れが進展して大きな表面割れになった。一部には深さが15mmにも達する大きな割れが発生したため、所定の大きさまで鍛造を進めることができなかった(No.13)。
本発明によれば、従来の溶解工程と鍛造工程を省略して、熱間加工を行い、チタン材を製造することができるため、製造に要するエネルギーを削減できる。さらに、鋳塊の表層や底面に多い欠陥部の切削除去や、鍛造後の表面割れや形状の悪い先後端部(クロップ)の除去など、多量のチタン素材を切削除去や切断除去することなく製造できるため、製造歩留が大幅に向上し、製造コストを大幅に低減することができる。さらに、従来材と同等の引張特性を有するチタン材を得ることができる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。
1 梱包材
1a 純チタン材
2 充填材
3 空隙
4 溶接部
10 チタン素材
20a、20b チタン材
21a、21b 外層
22a、22b 内層
23a、23b 空隙

Claims (2)

  1. チタン材で形成された梱包材と、
    前記梱包材の内部に充填された充填材とを備え、
    前記梱包材の内圧が、絶対圧で10Pa以下であり、
    前記充填材が、スポンジチタン、チタンブリケットおよびチタンスクラップから選択される一種以上で構成され、且つ前記純チタン材と同種の化学組成を有する、チタン素材を熱間加工して、JIS1種から4種に属する化学組成を有し、内部の空隙率が、0%を超えて30%以下である、チタン材を製造する、
    チタン材の製造方法。
  2. 前記梱包材および前記充填材が、JIS1種から4種に規定されている化学組成を有する、請求項1に記載のチタン材の製造方法
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