以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
以下、ハロゲン原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基及び炭素原子数6以上14以下のアリール基について説明する。
ハロゲン原子は、例えば、フッ素(フルオロ基)、塩素(クロロ基)又は臭素(ブロモ基)である。
炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基又はヘキシル基が挙げられる。
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基である。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基又はヘキシルオキシ基が挙げられる。
炭素原子数6以上14以下のアリール基は、例えば、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族単環炭化水素基、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合二環炭化水素基又は素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合三環炭化水素基である。炭素原子数6以上14以下のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基又はフェナントリル基が挙げられる。
<第一実施形態:電子写真感光体>
第一実施形態は、電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)に関する。本実施形態に係る感光体は、単層型感光体であってもよく、積層型感光体であってもよい。
本実施形態の感光体によれば、フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制することができる。ここで、フィルミングは、感光体を備えた画像形成装置とトナーとを用いて記録媒体に画像を形成する場合に、感光体1の表面に付着した成分(以下、付着成分と記載することがある)が、感光体の表面で固化する現象である。付着成分としては、例えば、トナー成分(具体的には、トナー又はトナーから脱離した外添剤等)又は非トナー成分(具体的には、記録媒体に由来する紙粉等)が挙げられる。また、オイルクラックは、感光体の表面(例えば、感光層)に指の油又はその他の油が付着した場合に、感光体の表面に割れ(クラック)が発生する現象である。本実施形態の感光体がフィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制できる理由は、以下のように推測される。
第一に、感光層に一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂(以下、樹脂(1)と記載することがある)が含有されると、通常、感光層にオイルクラックが発生し易いという問題がある。しかし、本実施形態の感光体の感光層には、バインダー樹脂としての樹脂(1)に加えて、正孔輸送剤としての化合物(2)が含有されている。化合物(2)はジアミン構造を有する。更に、化合物(2)が有するR8〜R19は、各々独立して、水素原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基又は炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を表す。化合物(2)が有するR8〜R19は、アルケニル基又はアリール基のような共役基ではない。更に、化合物(2)の分子量は比較的小さい。このような化学構造を有する化合物(2)が樹脂(1)と組み合わされて感光層に含有されることにより、感光層のオイルクラックの発生を好適に抑制することができる。
第二に、本実施形態の感光体の感光層には、既に述べたようにバインダー樹脂としての樹脂(1)及び正孔輸送剤としての化合物(2)が含有されている。樹脂(1)と化合物(2)とが感光層に含有されることにより、感光層のビッカース硬度を向上させることができる。感光層のビッカース硬度が向上すると、感光体の表面と付着成分との接触面積が減少する傾向がある。感光体の表面と付着成分との接触面積が減少すると、付着成分を感光体の表面からクリーニング(除去)し易くなる。その結果、フィルミングの発生を抑制することができる。
第三に、本実施形態の感光体の感光層において、正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量は、バインダー樹脂としての樹脂(1)100質量部に対して、40質量部以上100質量部以下である。正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量がこのような範囲内であると、感光層のビッカース硬度を更に向上させることができる。これにより、感光体の表面と付着成分との接触面積を更に減少させることができ、付着成分を感光体の表面からクリーニング(除去)し易くなる。その結果、フィルミングの発生を好適に抑制することができる。
<1.単層型感光体>
以下、図1を参照して、感光体1が単層型感光体である場合について説明する。図1は、本実施形態に係る感光体1の一例である単層型感光体を示す概略断面図である。
図1(a)に示すように、感光体1としての単層型感光体は、例えば、導電性基体2と、感光層3とを備える。感光体1が単層型感光体である場合、感光層3は単層型感光層3cである。図1(a)に示すように、導電性基体2上に、単層型感光層3cが直接設けられてもよい。
また、図1(b)に示すように、感光体1としての単層型感光体は、導電性基体2と、単層型感光層3cと、中間層(下引き層)4とを備えていてもよい。中間層4は、例えば、導電性基体2と単層型感光層3cとの間に設けられる。なお、単層型感光層3c上に保護層(不図示)が設けられてもよい。
単層型感光層3cの厚さは、単層型感光層としての機能を十分に発現できる限り、特に限定されない。単層型感光層3cの厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
感光層3が単層型感光層3cである場合、単層型感光層3cは、バインダー樹脂としての樹脂(1)と正孔輸送剤としての化合物(2)とを含有する。単層型感光層3cは、バインダー樹脂及び正孔輸送剤に加えて、電荷発生剤及び電子輸送剤を更に含有してもよい。単層型感光層3cは、必要に応じて、各種添加剤を更に含有してもよい。バインダー樹脂、正孔輸送剤、電荷発生剤、電子輸送剤及び各種添加剤については後述する。
<2.積層型感光体>
以下、図2を参照して、感光体1が積層型感光体である場合について説明する。図2は、本実施形態に係る感光体1の別の例である積層型感光体を示す概略断面図である。
図2(a)に示すように、感光体1としての積層型感光体は、導電性基体2と、感光層3とを備える。感光体1としての積層型感光体には、感光層3として、電荷発生層3aと電荷輸送層3bとが備えられる。
図2(a)に示すように、導電性基体2上に、感光層3が直接設けられてもよい。或いは、図2(b)に示すように、導電性基体2と感光層3との間に中間層(下引き層)4が設けられてもよい。なお、感光層3上に保護層(不図示)が設けられていてもよい。
電荷発生層3a及び電荷輸送層3bの厚さは、それぞれの層としての機能を十分に発現できる限り、特に限定されない。電荷発生層3aの厚さは、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましい。電荷輸送層3bの厚さは、2μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。
感光層3として、電荷発生層3a及び電荷輸送層3bが備えられる場合、電荷輸送層3bは、バインダー樹脂としての樹脂(1)と正孔輸送剤としての化合物(2)とを含有する。電荷輸送層3bは、電子アクセプター化合物を含有してもよい。電荷輸送層3bは、必要に応じて、各種添加剤を更に含有してもよい。バインダー樹脂、正孔輸送剤、電子アクセプター化合物及び各種添加剤については後述する。
感光層3のうちの電荷発生層3aは、例えば、電荷発生剤を含有する。電荷発生層3aは、電荷発生層3a用バインダー樹脂(以下「ベース樹脂」と記載することがある)を含有してもよい。電荷発生層3aは、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。電荷発生剤、ベース樹脂及び各種添加剤については後述する。
フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制するためには、樹脂(1)及び化合物(2)が含有される感光層(例えば、単層型感光層又は電荷輸送層)は、感光体の最表面層として配置されることが好ましい。
以上、図1及び図2を参照して、感光体である単層型感光体及び積層型感光体の構造について説明した。次に、感光体である単層型感光体及び積層型感光体に共通する要素について説明する。
<3.導電性基体>
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で形成されていればよい。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料で形成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼又は真鍮が挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて(例えば、合金として)用いてもよい。これらの導電性を有する材料のなかでも、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
導電性基体の形状は、第二実施形態で後述する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体の形状としては、例えば、シート状又はドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚さは、導電性基体の形状に応じて適宜選択される。
<4.感光層>
本実施形態の感光体は、感光層を備える。感光層のビッカース硬度は、20.0HV以上であることが好ましく、21.0HV以上であることがより好ましい。感光層のビッカース硬度は、25.0HV以下であることが好ましく、22.9V以下であることがより好ましい。感光層のビッカース硬度がこのような範囲内であると、フィルミングの発生を抑制し易くなる。
感光体が単層型感光体である場合、感光層としての単層型感光層のビッカース硬度が20.0HV以上であることが好ましく、21.0HV以上であることがより好ましい。感光体が単層型感光体である場合、感光層としての単層型感光層のビッカース硬度が25.0HV以下であることが好ましく、22.9V以下であることがより好ましい。
感光体が積層型感光体である場合、感光層のうちの電荷輸送層のビッカース硬度が20.0HV以上であることが好ましく、21.0HV以上であることがより好ましい。感光体が積層型感光体である場合、感光層のうちの電荷輸送層のビッカース硬度が25.0HV以下であることが好ましく、22.9V以下であることがより好ましい。
感光層のビッカース硬度は、例えば以下の方法で測定される。測定試料(感光層)のビッカース硬度を、日本工業規格(JIS)Z2244に準拠する方法で測定する。ビッカース硬度の測定には、硬度計(例えば、株式会社マツザワ(旧 松沢精機株式会社)製「マイクロビッカース硬度計 DMH−1型」)が使用される。ビッカース硬度の測定は、例えば、温度23℃、ダイヤモンド圧子の荷重(試験力)10gf、試験力に到達するまでの所要時間5秒、ダイヤモンド圧子の接近速度2mm/秒、及び試験力の保持時間1秒の条件で行うことができる。
次に、感光層に含有される成分について説明する。
<4−1.バインダー樹脂>
感光体が単層型感光体である場合、単層型感光層は、バインダー樹脂として樹脂(1)を含有する。感光体が積層型感光体である場合、電荷輸送層は、バインダー樹脂として樹脂(1)を含有する。バインダー樹脂(1)と後述する化合物(2)とが感光層(単層型感光層又は電荷輸送層)に含有されることにより、既に述べたように、フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制することができる。
樹脂(1)は、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。
一般式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7は、各々独立して、水素原子又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。
R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7が表わす炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上3以下のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
一般式(1)中、R1、R3、R5、R6及びR7は各々、水素原子を表し、R2及びR4は、各々独立して、水素原子又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことが好ましい。このような樹脂(1)と化合物(2)とを組み合わせることにより、感光体のフィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制できるからである。
より好適な一態様では、一般式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7は各々、水素原子を表す。このような樹脂(1)と化合物(2)とを組み合わせることにより、感光体のオイルクラックの発生を一層抑制できるからである。
より好適な別の態様では、一般式(1)中、R1、R3、R5、R6及びR7は各々水素原子を表し、R2及びR4は各々炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。更に、一般式(1)中、R1、R3、R5、R6及びR7は各々水素原子を表し、R2及びR4は各々メチル基を表すことが特に好ましい。このような樹脂(1)と化合物(2)とを組み合わせることにより、感光層のビッカース硬度を一層向上させることができ、感光体のフィルミングの発生を一層抑制できるからである。
樹脂(1)における一般式(1)で表される繰り返し単位のモル比率は、樹脂(1)中の全ての繰り返し単位のモル数に対して、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
樹脂(1)の製造方法は、特に限定されない。樹脂(1)の製造方法の一例として、樹脂(1)の繰返し単位を形成するためのジオール化合物とホスゲンとを界面縮重合させる方法(いわゆるホスゲン法)が挙げられる。樹脂(1)の製造方法の別の例として、樹脂(1)の繰返し単位を形成するためのジオール化合物とジフェニルカーボネートとをエステル交換反応させる方法が挙げられる。樹脂(1)の繰返し単位を形成するためのジオール化合物は、例えば一般式(1−1)で表される。
一般式(1−1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7は各々、一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7と同義である。
樹脂(2)の具体例としては、化学式(R−1)で表される繰り返し単位を有する樹脂、又は化学式(R−2)で表される繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。以下、化学式(R−1)で表される繰り返し単位を有する樹脂、及び化学式(R−2)で表される繰り返し単位を有する樹脂を各々、樹脂(R−1)及び(R−2)と記載することがある。
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、20,000以上であることが好ましく、20,000以上52,500以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が20,000以上であると、感光体の耐摩耗性を向上させ易い。バインダー樹脂の粘度平均分子量が52,500以下であると、感光層の形成時にバインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、単層型感光層用塗布液又は電荷輸送層用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、単層型感光層又は電荷輸送層を形成し易くなる。
バインダー樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。感光層(単層型感光層又は電荷輸送層)は、バインダー樹脂として、樹脂(1)に加えて、樹脂(1)以外の別の樹脂を更に含有してもよい。別の樹脂は、例えば、公知のバインダー樹脂から適宜選択される。
<4−2.正孔輸送剤>
感光体が単層型感光体である場合、単層型感光層は、正孔輸送剤として化合物(2)を含有する。感光体が積層型感光体である場合、電荷輸送層は、正孔輸送剤として化合物(2)を含有する。バインダー樹脂(1)と化合物(2)とが感光層(例えば、単層型感光層又は電荷輸送層)に含有されることにより、既に述べたように、フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制することができる。
化合物(2)は、一般式(2)で表される。
一般式(2)中、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18及びR19は、各々独立して、水素原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基又は炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を表す。
R8〜R19が表わす炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上3以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18及びR19が表わす炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
オイルクラックの発生及びフィルミングの発生を抑制するためには、一般式(2)中、R8〜R19は、各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基を表すことが好ましい。
オイルクラックの発生及びフィルミングの発生を抑制するためには、一般式(2)中、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18及びR19は、各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基を表すことが好ましい。
オイルクラックの発生及びフィルミングの発生を抑制するためには、一般式(2)中、R8とR11とは同じ基であることが好ましい。R9とR12とは同じ基であることが好ましい。R10とR13とは同じ基であることが好ましい。
オイルクラックの発生及びフィルミングの発生を抑制するためには、一般式(2)中、R14、R15、R16、R17、R18及びR19は各々、水素原子を表すことが好ましい。
化合物(2)の具体例としては、化学式(H−1)〜(H−4)で表される化合物が挙げられる。以下、化学式(H−1)〜(H−4)で表される化合物を各々、化合物(H−1)〜(H−4)と記載することがある。
感光体が単層型感光体である場合、単層型感光層に含有される正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量は、単層型感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、40質量部以上100質量部以下である。感光体が積層型感光体である場合、正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、40質量部以上100質量部以下である。正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量がこのような範囲内であると、単層型感光層又は電荷輸送層のビッカース硬度を向上させることができる。その結果、既に述べたように、フィルミングの発生を抑制することができる。
感光体が単層型感光体である場合、正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量は、単層型感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、50質量部以上80質量部以下であることが好ましく、60質量部以上75質量部以下であることがより好ましい。感光体が積層型感光体である場合、正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、50質量部以上80質量部以下であることが好ましく、60質量部以上75質量部以下であることがより好ましい。正孔輸送剤としての化合物(2)の含有量がこのような範囲内であると、単層型感光層又は電荷輸送層のビッカース硬度を一層向上させることができる。その結果、フィルミングの発生を一層抑制することができる。
正孔輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。感光層(単層型感光層又は電荷輸送層)は、正孔輸送剤として、化合物(2)に加えて、化合物(2)以外の別の正孔輸送剤を更に含有してもよい。別の正孔輸送剤は、例えば、公知の正孔輸送剤から適宜選択される。
<4−3.電荷発生剤>
感光体が単層型感光体である場合、単層型感光層は、例えば電荷発生剤を含有する。感光体が積層型感光体である場合、電荷発生層は、例えば電荷発生剤を含有する。
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(例えば、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム又はアモルファスシリコン)の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料又はキナクリドン系顔料が挙げられる。
フタロシアニン系顔料としては、例えば、化学式(C−1)で表される無金属フタロシアニン又は金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(C−2)で表されるチタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン又はクロロガリウムフタロシアニンが挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型、Y型、V型又はII型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下「X型無金属フタロシアニン」と記載することがある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型、β型又はY型結晶(以下「α型、β型又はY型チタニルフタロシアニン」と記載することがある)が挙げられる。ヒドロキシガリウムフタロシアニンの結晶としては、ヒドロキシガリウムフタロシアニンのV型結晶が挙げられる。クロロガリウムフタロシアニンの結晶としては、クロロガリウムフタロシアニンのII型結晶が挙げられる。波長領域700nm以上で高い量子収率を有することから、X型無金属フタロシアニン又はY型チタニルフタロシアニンが好ましく、X型無金属フタロシアニンがより好ましい。
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。更に、例えば、デジタル光学式の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用したレーザービームプリンター又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。そのため、例えば、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましく、X型無金属フタロシアニンが特に好ましい。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
短波長レーザー光源(例えば、350nm以上550nm以下程度の波長を有するレーザー光源)を用いた画像形成装置に適用される感光体には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料が好適に用いられる。
感光体が積層型感光体である場合、電荷発生剤の含有量は、電荷発生層に含有されるベース樹脂100質量部に対して、5質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、30質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。
感光体が単層型感光体である場合、電荷発生剤の含有量は、単層型感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
<4−4.電子輸送剤及び電子アクセプター化合物>
感光体が積層型感光体である場合、電荷輸送層は、必要に応じて、電子アクセプター化合物を含有してもよい。これにより、正孔輸送剤の正孔輸送能を向上させ易くなる。一方、感光体が単層型感光体である場合、単層型感光層は、必要に応じて、電子輸送剤を含有してもよい。これにより、単層型感光層は電子を輸送することができ、単層型感光層にバイポーラー(両極性)の特性を付与し易くなる。
電子輸送剤又は電子アクセプター化合物の例としては、キノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。電子輸送剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。電子アクセプター化合物も、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電子輸送剤の具体例としては、一般式(3)、(4)、(5)又は(6)で表される化合物が挙げられる。
一般式(3)中、R21及びR22は、各々独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又は置換基を有してもよいアリール基を表す。R21及びR22が置換基を有するアルキル基である場合、置換基は、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択される。R21及びR22が置換基を有するアルコキシ基である場合、置換基は、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択される。R21及びR22が置換基を有するアリール基である場合、置換基は、アルキル基、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択される。
R21及びR22は、各々独立して、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
R21及びR22がアルキル基である場合、アルキル基としては、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上4以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上2以下のアルキル基がより好ましい。
R21とR22とは互いに異なっていることが好ましい。例えば、R21がアルキル基であり、R22がアルコキシ基であってもよい。例えば、R21とR22とが何れもアルキル基である場合、R21がメチル基であり、R22がエチル基であってもよい。
一般式(3)中、R23、R24及びR25は、各々独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又は置換基を有してもよいアリール基を表す。R23、R24及びR25が置換基を有するアルキル基である場合、置換基は、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択される。R23、R24及びR25が置換基を有するアルコキシ基である場合、置換基は、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択される。R23、R24及びR25が置換基を有するアリール基である場合、置換基は、アルキル基、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択される。R23、R24及びR25は、水素原子を表すことが好ましい。
R26及びR27は、各々独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。R26及びR27は、水素原子を表すことが好ましい。
一般式(4)、(5)及び(6)中、R28〜R35は、各々独立して、水素原子、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよい複素環基を表す。一般式(5)中、R36は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよい複素環基を表す。
一般式(4)、(5)及び(6)中、R28〜R36で表されるアルキル基としては、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上5以下のアルキル基が好ましく、メチル基、1,1−ジメチルプロピル基又はtert−ブチル基がより好ましい。アルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、置換基を更に有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。置換基としての炭素原子数6以上14以下のアリール基が更に有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上7以下のアルカノイル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルキル基が結合した基)、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基)又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
一般式(4)、(5)及び(6)中、R28〜R36で表されるアルケニル基は、例えば、直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数2以上6以下のアルケニル基である。炭素原子数2以上6以下のアルケニル基は、例えば、1個以上3個以下の二重結合を有する。炭素原子数2以上6以下のアルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ペンタジエニル基、ヘキセニル基又はヘキサジエニル基が挙げられる。アルケニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(4)、(5)及び(6)中、R28〜R36で表されるアルコキシ基は、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。アルコキシ基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基として好ましくは、フェニル基である。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
一般式(4)、(5)及び(6)中、R28〜R36で表されるアルコキシカルボニル基は、例えば、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基である。炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基は、カルボニル基に直鎖状又は分枝鎖状で非置換の炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基である。アルコキシカルボニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(4)、(5)及び(6)中、R28〜R36で表されるアリール基は、例えば、炭素原子数6以上14以下のアリール基である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、フェニル基が好ましい。アリール基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上7以下のアルカノイル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルキル基が結合した基)、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基)、フェノキシカルボニル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基又はビフェニル基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(4)、(5)及び(6)中、R28〜R36で表される複素環基は、例えば、N、S及びOからなる群より選択される1以上のヘテロ原子を含む5員又は6員の単環の複素環基;このような単環同士が縮合した複素環基;又は、このような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基である。複素環基が縮合環である場合、縮合環に含まれる環の数は3以下であることが好ましい。複素環基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上7以下のアルカノイル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルキル基が結合した基)、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数2以上7以下のアルコキシカルボニル基(カルボニル基に炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が結合した基)又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3個以下であることが好ましい。
一般式(3)〜(6)で表される化合物の具体例としては、化学式(E−1)〜(E−4)で表される化合物が挙げられる。以下、化学式(E−1)〜(E−4)で表される化合物を各々、化合物(E−1)〜(E−4)と記載することがある。
感光体が積層型感光体である場合、電子アクセプター化合物の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
感光体が単層型感光体である場合、電子輸送剤の含有量は、単層型感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
<4−5.ベース樹脂>
感光体が積層型感光体である場合、電荷発生層は、ベース樹脂を含有する。ベース樹脂は、感光体に適用できるベース樹脂である限り、特に制限されない。ベース樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル酸重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂又はポリエステル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂又はその他架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリレート(エポキシ化合物のアクリル酸付加物)又はウレタン−アクリレート(ウレタン化合物のアクリル酸付加物)が挙げられる。ベース樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
電荷発生層に含有されるベース樹脂は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂とは異なることが好ましい。積層型感光体の製造では、例えば、導電性基体上に電荷発生層が形成され、電荷発生層上に電荷輸送層が形成される。その際に、電荷発生層上に、電荷輸送層用塗布液が塗布される。そのため、電荷発生層は、電荷輸送層用塗布液の溶剤に溶解しないことが好ましいからである。
<4−6.添加剤>
感光体の感光層(電荷発生層、電荷輸送層又は単層型感光層)は、必要に応じて、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項消光剤又は紫外線吸収剤)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール(例えば、ジ(tert−ブチル)p−クレゾール)、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物又は有機燐化合物が挙げられる。
<5.中間層>
中間層(下引き層)は、例えば、無機粒子及び中間層に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層が存在することにより、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇が抑えられると考えられる。
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄又は銅)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ又は酸化亜鉛)の粒子又は非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いることができる限り、特に限定されない。中間層は、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層の添加剤と同様である。
<6.感光体の製造方法>
感光体が積層型感光体である場合、積層型感光体は、例えば、以下のように製造される。まず、電荷発生層用塗布液及び電荷輸送層用塗布液を調製する。電荷発生層用塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、電荷発生層を形成する。続いて、電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に塗布し、乾燥することによって、電荷輸送層を形成する。これにより、積層型感光体が製造される。
電荷発生層用塗布液は、電荷発生剤及び必要に応じて添加される成分(例えば、ベース樹脂及び各種添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。電荷輸送層用塗布液は、バインダー樹脂としての樹脂(1)、正孔輸送剤としての化合物(2)及び必要に応じて添加される成分(例えば、電子アクセプター化合物及び各種添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。
次に、感光体が単層型感光体である場合、単層型感光体は、例えば、以下のように製造される。単層型感光体は、単層型感光層用塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥することによって製造される。単層型感光層用塗布液は、バインダー樹脂としての樹脂(1)、正孔輸送剤としての化合物(2)及び必要に応じて添加される成分(例えば、電荷発生剤、電子輸送剤及び各種添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより製造される。
塗布液(電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液又は単層型感光層用塗布液)に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はブタノール)、脂肪族炭化水素(例えば、n−ヘキサン、オクタン又はシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン又はキシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素又はクロロベンゼン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン又はシクロヘキサノン)、エステル類(例えば、酢酸エチル又は酢酸メチル)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。感光体の製造時の作業性を向上させるためには、溶剤として非ハロゲン溶剤(ハロゲン化炭化水素以外の溶剤)を用いることが好ましい。
塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー又は超音波分散機を用いることができる。
塗布液(電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液又は単層型感光層用塗布液)は、各成分の分散性を向上させるために、例えば、界面活性剤を含有してもよい。
塗布液(電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液又は単層型感光層用塗布液)を塗布する方法としては、塗布液を導電性基体上に均一に塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法又はバーコート法が挙げられる。
塗布液(電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液又は単層型感光層用塗布液)を乾燥する方法としては、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る限り、特に限定されない。例えば、高温乾燥機又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
なお、感光体の製造方法は、必要に応じて、中間層を形成する工程及び/又は保護層を形成する工程を更に含んでもよい。中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
以上、本実施形態に係る感光体について説明した。本実施形態の感光体によれば、フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制することができる。
<第二実施形態:画像形成装置>
第二実施形態は、画像形成装置に関する。以下、図3を参照して、本実施形態に係る画像形成装置6について説明する。図3は、画像形成装置6の構成の一例を示す概略図である。
画像形成装置6は、第一実施形態で述べた感光体1と、帯電部27と、露光部28と、現像部29と、転写部26とを備える。帯電部27は感光体1の表面を帯電する。露光部28は、帯電された感光体1の表面を露光して、感光体1の表面に静電潜像を形成する。現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部26(例えば、転写ローラー41)は、感光体1から被転写体38としての記録媒体(用紙に相当)Pへトナー像を転写する。
画像形成装置6は、電子写真方式の画像形成装置である限り、特に限定されない。画像形成装置6は、例えば、モノクロ画像形成装置であってもよいし、カラー画像形成装置であってもよい。異なる色のトナーによる各色のトナー像を形成するために、画像形成装置6は、タンデム方式のカラー画像形成装置であってもよい。
以下、タンデム方式のカラー画像形成装置を例に挙げて、画像形成装置6を説明する。画像形成装置6は、所定方向に並設された複数の感光体1と、複数の現像部29とを備える。複数の現像部29は各々、感光体1に対向して配置される。現像部29は、トナーを担持して搬送し、対応する感光体1の表面にトナーを供給する。
図3に示すように、画像形成装置6は、箱型の機器筺体7を更に備える。機器筺体7内には、給紙部8、画像形成部9及び定着部10が設けられる。給紙部8は、用紙Pを給紙する。画像形成部9は、給紙部8から給紙された用紙Pを搬送しながら、用紙Pに画像データに基づくトナー像を転写する。定着部10は、画像形成部9で用紙P上に転写された未定着のトナー像を、用紙Pに定着させる。更に、機器筺体7の上面には、排紙部11が設けられる。排紙部11は、定着部10で定着処理された用紙Pを排紙する。
給紙部8には、給紙カセット12、第一ピックアップローラー13、複数の給紙ローラー14及びレジストローラー対17が備えられる。給紙カセット12は、機器筺体7から挿脱可能に設けられる。給紙カセット12には、各種サイズの用紙Pが貯留される。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12の左上方位置に設けられる。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。複数の給紙ローラー14は、第一ピックアップローラー13によって取り出された用紙Pを搬送する。レジストローラー対17は、複数の給紙ローラー14によって搬送された用紙Pを、一時待機させた後に、所定のタイミングで画像形成部9に供給する。
また、給紙部8は、手差しトレイ(不図示)と、第二ピックアップローラー(不図示)とを更に備えてもよい。手差しトレイは、機器筺体7の左側面に取り付けられる。第二ピックアップローラーは、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。第二ピックアップローラーによって取り出された用紙Pは、複数の給紙ローラー14によって搬送され、レジストローラー対17によって、所定のタイミングで画像形成部9に供給される。
画像形成部9には、画像形成ユニット19及び転写ベルト40が備えられる。画像形成ユニット19には、ブラックトナー供給用ユニット22を基準として転写ベルト40の回転方向の上流側(図3では左側)から下流側に向けて、ブラックトナー供給用ユニット22、シアントナー供給用ユニット23、マゼンタトナー供給用ユニット24及びイエロートナー供給用ユニット25が順に配設されている。各ユニット22、23、24及び25の中央位置に、感光体1が配設されている。感光体1は、矢符(反時計回り)方向に回転可能に配設されている。そして、各感光体1の周囲には、帯電部27、露光部28、現像部29及び転写部26が、帯電部27を基準として各感光体1の回転方向の上流側から順に配置されている。
感光体1の回転方向における帯電部27の上流側には、クリーニング装置(不図示)及び除電器(不図示)の一方又は両方が設けられてもよい。クリーニング装置及び除電器は各々、用紙Pへのトナー像の転写が終了した後、感光体1の周面を清掃及び除電する。クリーニング装置及び除電器によって清掃及び除電された感光体1の周面は、帯電部27へ送られ、新たに帯電処理される。画像形成装置6がクリーニング装置及び除電器を備える場合、各感光体1の回転方向の上流側から帯電部27を基準として、帯電部27、露光部28、現像部29、転写部26、クリーニング装置及び除電器の順で配置される。
既に述べたように、帯電部27は、感光体1の表面(周面)を帯電する。帯電部27の帯電極性は、特に限定されない。感光体1が単層型感光層3c(図1参照)を備える単層型感光体である場合、感度特性を向上させるためには、帯電部27は感光体1の表面を正極性に帯電させることが好ましい。感光体1が積層型感光体である場合、感度特性を向上させるためには、帯電部27は感光体1の表面を負極性に帯電させることが好ましい。
帯電部27は、非接触方式であってもよいし、接触方式であってもよい。非接触方式の帯電部27は、感光体1と接触することなく電圧を印加する。非接触方式の帯電部27としては、例えば、コロナ放電式の帯電装置が挙げられ、より具体的には、コロトロン帯電器又はスコロトロン帯電器が挙げられる。接触方式の帯電部27は、感光体1と接触して電圧を印加する。接触方式の帯電部27としては、例えば、接触(近接)放電式の帯電器が挙げられ、より具体的には、帯電ローラー又は帯電ブラシが挙げられる。帯電部27としては、帯電ローラーが好ましい。
帯電ローラーとしては、例えば、感光体1と接触したまま、感光体1の回転に従動して回転する帯電ローラーが挙げられる。帯電ローラーは、例えば、少なくとも表面部が樹脂で形成される。具体的には、帯電ローラーは、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備える。このような帯電ローラーを備えた帯電部27は、電圧印加部が芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体1の表面を帯電させる。
帯電ローラーの樹脂層を形成する樹脂は、感光体1の表面を良好に帯電できる限り特に限定されない。樹脂層を形成する樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂又はシリコーン変性樹脂が挙げられる。樹脂層には、無機充填材を含有させてもよい。
画像形成装置6が接触方式の帯電部27を備える場合、帯電部27から発生する活性ガス(例えば、オゾン又は窒素酸化物)の排出を抑えることができると考えられる。その結果、活性ガスによる感光層3の劣化が抑制されるとともに、オフィス環境に配慮した設計が達成できると考えられる。
帯電部27が印加する電圧は、特に限定されない。帯電部27が印加する電圧の例としては、交流電圧、直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧又は直流電圧が挙げられる。なかでも、帯電部27は直流電圧のみを印加することが好ましい。直流電圧のみを印加する帯電部27は、交流電圧を印加する帯電部27又は直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を印加する帯電部27と比較して、以下に示す優位性がある。帯電部27が直流電圧のみを印加すると、感光体1に印加される電圧値が一定であるため、感光体1の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部27が直流電圧のみを印加すると、感光層3の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができると考えられる。
帯電部27が感光体1に印加する電圧は、1000V以上2000V以下であることが好ましく、1200V以上1800V以下であることがより好ましく、1400V以上1600V以下であることが特に好ましい。
露光部28としては、例えば、露光装置が挙げられ、より具体的には、レーザー走査ユニットが挙げられる。露光部28は、帯電された感光体1の表面を露光して、感光体1の表面に静電潜像を形成する。具体的には、露光部28は、帯電部27によって均一に帯電された感光体1の周面に、パーソナルコンピューターのような上位装置から入力された画像データに基づくレーザー光を照射する。これにより、感光体1の周面に、画像データに基づく静電潜像が形成される。
現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。具体的には、現像部29は、静電潜像が形成された感光体1の周面にトナーを供給し、画像データに基づくトナー像を形成する。現像部29としては、例えば、現像装置が挙げられる。
現像部29は、感光体1と接触しながら静電潜像をトナー像として現像することができる。すなわち、本実施形態に係る画像形成装置6は、いわゆる接触現像方式を採用できる。
現像部29は、感光体1の表面を清掃することができる。すなわち、本実施形態に係る画像形成装置6は、いわゆるクリーナーレス方式を採用できる。現像部29は、感光体1の表面の付着成分を除去することができる。
このような接触現像方式及びクリーナーレス方式の一方又は両方を採用する画像形成装置6は、通常、現像時に現像部29(例えば、現像ローラー)と感光体1との周速差によって付着成分を除去するため、フィルミングが発生し易い。しかし、本実施形態の画像形成装置6は、上述のようにフィルミングの発生を抑制可能な感光体1を備える。このため、本実施形態に係る画像形成装置6は、接触現像方式及びクリーナーレス方式の一方又は両方を採用したとしても、感光体1のフィルミングに起因する画像不良の発生を抑制することができる。
現像部29が感光体1の表面を効率的に清掃するためには、下記条件(1)を満たすことが好ましい。現像部29が感光体1の表面を効率的に清掃するためには、条件(1)に加えて、下記条件(2)を満たすことが好ましい。
条件(1):接触現像方式を採用し、感光体1と現像部29との間に周速差が設けられる。
条件(2):感光体1の表面電位の絶対値と、現像バイアスの電位の絶対値との差が以下の数式(2−1)及び数式(2−2)を満たす。
0(V)<現像バイアスの電位の絶対値(V)<感光体1の未露光領域の表面電位の絶対値(V)・・・(2−1)
現像バイアスの電位の絶対値(V)>感光体1の露光領域の表面電位の絶対値(V)>0(V)・・・(2−2)
条件(1)に示す接触現像方式を採用し、感光体1と現像部29との間に周速差が設けられていると、感光体1の表面は現像部29と接触し、感光体1の表面の付着成分が現像部29との摩擦により除去される。
感光体1の回転速度(周速)VPは、120mm/秒以上350mm/秒以下であることが好ましい。現像部29の回転速度(周速)VDは、133mm/秒以上700mm/秒以下であることが好ましい。また、感光体1の回転速度VPと現像部29の回転速度VDとの比率は、数式(1−1)を満たすことが好ましい。なお、この比率VP/VDが1以外である場合、感光体1と現像部29との間に周速差が設けられていることを示す。
0.5≦VP/VD≦0.8・・・(1−1)
条件(2)に関し、感光体1が単層型感光体である場合、例えばトナーの帯電極性は正帯電性であり、現像方式は反転現像方式である。感光体1が積層型感光体である場合、例えばトナーの帯電極性は負帯電性であり、現像方式は反転現像方式である。条件(2)に示す現像バイアスの電位の絶対値と、感光体1の表面電位の絶対値との間に差を設けると、未露光領域では、感光体1の表面電位(帯電電位)の絶対値と現像バイアスの電位の絶対値とが数式(2−1)を満たすため、残留したトナー(以下、残留トナーと記載することがある)と感光体1の未露光領域との間に作用する静電的斥力が、残留トナーと現像部29との間に作用する静電的斥力に比べ大きくなる。このため、感光体1の未露光領域の残留トナーは、感光体1の表面から現像部29へと移動し、回収される。
条件(2)の数式(2−1)は、露光部28により露光されなかった感光体1の未露光領域の表面電位に関する。条件(2)の数式(2−2)は、露光部28により露光された感光体1の露光領域の表面電位に関する。なお、感光体1の未露光領域の表面電位及び露光領域の表面電位は、転写部26がトナー像を感光体1から被転写体38へ転写した後、帯電部27が次周回の感光体1の表面を帯電する前に測定される。また、感光体1が単層型感光体である場合、現像バイアスの電位、感光体1の未露光領域の表面電位、及び感光体1の露光領域の表面電位は何れも、例えば正の値とすることができる。感光体1が積層型感光体である場合、現像バイアスの電位、感光体1の未露光領域の表面電位、及び感光体1の露光領域の表面電位は何れも、例えば負の値とすることができる。
条件(2)に示す現像バイアスの電位の絶対値と感光体1の表面電位の絶対値との間に差を設けると、露光領域では、感光体1の表面電位(感度電位)の絶対値と現像バイアスの電位の絶対値とが数式(2−2)を満たすため、残留トナーと感光体1の露光領域との間に作用する静電的斥力がトナーと現像部29との間に作用する静電的斥力に比べ小さくなる。このため、感光体1の露光領域の残留トナーは、感光体1の表面に保持される。感光体1の露光領域に保持されたトナーは、そのまま画像形成に使用される。
現像バイアスの電位の絶対値は、例えば、250V以上400V以下である。感光体1の帯電電位の絶対値は、例えば、450V以上900V以下である。感光体1の感度電位の絶対値は、例えば、50V以上200V以下である。現像バイアスの電位の絶対値と、感光体1の帯電電位の絶対値との差は、例えば、100V以上700V以下である。現像バイアスの電位の絶対値と、感光体1の感度電位の絶対値との差は、例えば、150V以上300V以下である。ここで、電位差は、差の絶対値を示す。感光体1が単層型感光体である場合、このような電位差を設けるための条件としては、例えば、現像バイアスの電位を+330Vに、感光体1の帯電電位を+600Vに、感光体1の感度電位を+100Vに設定することが挙げられる。
転写部26(例えば、転写ローラー41)は、感光体1の表面に形成されたトナー像を、感光体1から被転写体38(例えば記録媒体、具体的には用紙P)へ転写する。トナー像を転写するときに、感光体1は用紙Pと接触している。すなわち、本実施形態に係る画像形成装置6は、いわゆる直接転写方式を採用している。通常、直接転写方式を採用する画像形成装置は、転写時に感光体1と用紙Pとが接触することから、紙粉のような付着成分によってフィルミングが発生し易い。しかし、本実施形態の画像形成装置6は、フィルミングの発生を抑制できる感光体1を備えている。このため、本実施形態に係る画像形成装置6は、直接転写方式を採用したとしても、感光体1のフィルミングに起因する画像不良の発生を抑制することができる。
転写ベルト40は、無端状でベルト状の回転体である。転写ベルト40は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32及び複数の転写ローラー41に架け渡されている。各感光体1の周面が転写ベルト40の表面(接触面)に当接するように、転写ベルト40は配置される。転写ベルト40は、各感光体1に対向して配置される各転写ローラー41によって、感光体1に押圧される。押圧された状態で、転写ベルト40は、複数のローラー30、31、32及び41によって無端回転する。駆動ローラー30は、ステッピングモーターのような駆動源によって回転駆動し、転写ベルト40を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー31、バックアップローラー32及び転写ローラー41は、回転自在に設けられる。駆動ローラー30による転写ベルト40の無端回転に伴って、従動ローラー31、バックアップローラー32及び複数の転写ローラー41は従動回転する。これらのローラー31、32、41は、従動回転するとともに、転写ベルト40を支持する。レジストローラー対17から供給された用紙Pは、吸着ローラー42によって転写ベルト40上に吸着される。転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、転写ベルト40の回転に伴い、各感光体1と対応する転写ローラー41との間を通過する。
具体的には、各転写ローラー41は、転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を、転写ベルト40上に吸着された用紙Pに印加する。これにより、感光体1上に形成されたトナー像は、各感光体1と対応する転写ローラー41との間で、用紙Pに転写される。トナー像が転写されるときに、既に述べたように、感光体1は用紙Pと接触している。転写ベルト40は、駆動ローラー30の駆動により矢符(時計回り)方向に周回する。これに伴い、転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、各感光体1と対応する転写ローラー41との間を順次通過する。通過する際に、各感光体1上に形成された対応する色のトナー像が、重ね塗り状態で順次用紙Pに転写される。
定着部10は、用紙Pに転写された未定着トナー像を定着させる。定着部10は、加熱ローラー34と、加圧ローラー35とを備えている。加熱ローラー34は、通電発熱体により加熱される。加圧ローラー35は、加熱ローラー34に対向配置され、加圧ローラー35の周面が加熱ローラー34の周面に押圧される。
トナー像が定着された用紙Pは、複数の搬送ローラー36によって搬送され、排紙部11から排出される。排紙部11は、機器筺体7の頂部が凹没されることによって形成される。凹没した凹部の底部に、排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ37が設けられる。
以上、図3を参照して本実施形態に係る画像形成装置6を説明した。本実施形態に係る画像形成装置6は、第一実施形態に係る感光体1を備えている。感光体1は、第一実施形態で述べたように、フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制することができる。そのため、本実施形態に係る画像形成装置6によれば、感光体1のフィルミング及びオイルクラックに起因する画像不良の発生を抑制することができる。
<第三実施形態:プロセスカートリッジ>
第三実施形態は、プロセスカートリッジに関する。以下、図3を引き続き参照して、本実施形態のプロセスカートリッジを説明する。本実施形態に係るプロセスカートリッジは、例えば、ユニット化された第一実施形態に係る感光体1を備える。プロセスカートリッジは、第二実施形態に係る画像形成装置6に対して着脱自在に設計されてもよい。プロセスカートリッジには、例えば、感光体1に加えて、第二実施形態で述べた、帯電部27、露光部28、現像部29及び転写部26からなる群より選択される少なくとも1つをユニット化した構成が採用される。プロセスカートリッジは、クリーニング装置(不図示)及び除電器(不図示)の一方又は両方を更に備えていてもよい。
以上、図3を参照して、本実施形態に係るプロセスカートリッジについて説明した。本実施形態に係るプロセスカートリッジは、第一実施形態に係る感光体1を備えている。感光体1は、第一実施形態で述べたように、フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制することができる。そのため、本実施形態に係るプロセスカートリッジによれば、感光体1のフィルミング及びオイルクラックに起因する画像不良の発生を抑制することができる。更に、このようなプロセスカートリッジは取り扱いが容易であるため、感光体1の感度特性等が劣化した場合に、感光体1を含めて、容易かつ迅速に交換することができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
<1.単層型感光体の材料>
単層型感光体の単層型感光層を形成するための材料として、以下の電荷発生剤、正孔輸送剤、バインダー樹脂及び電子輸送剤を準備した。
(電荷発生剤)
電荷発生剤として、化合物(C−1X)を準備した。化合物(C−1X)は、実施形態で述べた化学式(C−1)で表される無金属フタロシアニンであった。また、化合物(C−1X)の結晶構造はX型であった。
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤として、実施形態で述べた化合物(H−1)〜(H−4)を準備した。また、化学式(H−5)〜(H−8)で表される化合物も準備した。以下、化学式(H−5)〜(H−8)で表される化合物を、各々、化合物(H−5)〜(H−8)と記載することがある。
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂として、樹脂(R−1a)を準備した。樹脂(R−1a)は、実施形態で述べた化学式(R−1)で表される繰り返し単位を有する樹脂であった。樹脂(R−1a)において、化学式(R−1)で表される繰り返し単位のモル比率は100モル%であった。樹脂(R−1a)の粘度平均分子量は、30000であった。
バインダー樹脂として、樹脂(R−2a)を準備した。樹脂(R−2a)は、実施形態で述べた化学式(R−2)で表される繰り返し単位を有する樹脂であった。樹脂(R−2a)において、化学式(R−2)で表される繰り返し単位のモル比率は100モル%であった。樹脂(R−2a)の粘度平均分子量は、30000であった。
(電子輸送剤)
電子輸送剤として、実施形態で述べた化合物(E−1)を準備した。
<2.単層型感光体の製造>
準備した感光層を形成するための材料を用いて、単層型感光体(P−1)〜(P−54)を製造した。
<2−1.単層型感光体(P−2)の製造>
容器内に、電荷発生剤としての化合物(C−1X)2質量部と、正孔輸送剤としての化合物(H−1)40質量部と、電子輸送剤としての化合物(E−1)30質量部と、バインダー樹脂としての樹脂(R−1a)100質量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン600質量部とを投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて12時間混合して、溶剤に材料を分散させた。これにより、単層型感光層用塗布液を得た。単層型感光層用塗布液を、導電性基体(アルミニウム素管)上に、ディップコート法を用いて塗布した。塗布した単層型感光層用塗布液を、120℃で80分間熱風乾燥させた。これにより、導電性基体上に、単層型感光層(膜厚30μm)を形成した。その結果、単層型感光体(P−2)を得た。
<2−2.単層型感光体(P−1)及び(P−3)〜(P−54)の製造>
以下の点を変更した以外は、単層型感光体(P−2)の製造と同様の方法で、単層型感光体(P−1)及び(P−3)〜(P−54)を製造した。単層型感光体(P−2)の製造に用いた化合物(H−1)を、表1〜表3に示す種類の正孔輸送剤に変更した。単層型感光体(P−2)の製造における正孔輸送剤の含有量(添加量)40質量部を、表1〜表3に示す含有量に変更した。なお、正孔輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対する含有量である。単層型感光体(P−2)の製造に用いた樹脂(R−1a)を、表1〜表3に示す種類のバインダー樹脂に変更した。
<3.ビッカース硬度の測定>
得られた単層型感光体(P−1)〜(P−54)の各々に対して、感光層(単層型感光層)のビッカース硬度を測定した。感光層のビッカース硬度は、日本工業規格(JIS)Z2244に準拠する方法で測定した。ビッカース硬度の測定には、硬度計(株式会社マツザワ(旧 松沢精機株式会社)製「マイクロビッカース硬度計 DMH−1型」)を用いた。ビッカース硬度の測定は、温度23℃、ダイヤモンド圧子の荷重(試験力)10gf、試験力に到達するまでの所要時間5秒、ダイヤモンド圧子の接近速度2mm/秒及び試験力の保持時間1秒の条件で行った。測定されたビッカース硬度を、表1〜表3に示す。
<4.耐フィルミング性の評価>
得られた単層型感光体(P−1)〜(P−54)の各々に対して、耐フィルミング性を評価した。耐フィルミング性の評価は、温度10℃、湿度15%RHの環境下で行った。評価機として、画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「モノクロプリンターFS−1300D」の改造機)を用いた。この画像形成装置は、接触現像方式、直接転写方式及びクリーナーレス方式を採用する。この画像形成装置では、現像部が感光体上に残留しているトナーを清掃する。この画像形成装置では、帯電部として帯電ローラーが備えられている。用紙として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社販売「京セラドキュメントソリューションズブランド紙VM−A4」(A4サイズ)を使用した。評価機による評価には、一成分現像剤(試作品)を使用した。
評価機を用いて、単層型感光体の回転速度168mm/秒の条件で、12000枚の用紙に画像I(印字率1%の画像)を連続して印刷した。続いて、単層型感光体の回転速度168mm/秒の条件で、3枚の用紙に画像II(ハーフトーン画像)を連続して印刷した。画像IIが形成された3枚の用紙を肉眼で観察し、形成画像における画像不良の有無を観察した。画像不良として具体的には、感光体の回転周期毎に濃度が濃くなる濃度ムラが発生したか否かを確認した。なお、感光体にフィルミングが発生すると、形成される画像において、感光体の回転周期毎に濃度が濃くなる濃度ムラが発生する傾向がある。
観察結果から、下記基準に従って、単層型感光体の耐フィルミング性を評価した。耐フィルミング性の評価結果を、表1〜表3に示す。評価がA又はBである単層型感光体を、耐フィルミング性が良好であると評価した。
(耐フィルミング性の評価基準)
評価A:3枚の用紙の全てについて、画像不良が確認されなかった。又は、少なくとも1枚の用紙について、画像IIの一端に濃度ムラが確認された。
評価B:少なくとも1枚の用紙について、画像IIの両端に濃度ムラが確認された。
評価C:少なくとも1枚の用紙について、画像IIの全体に濃度ムラが確認された。
<5.耐オイルクラック性の評価>
得られた単層型感光体(P−1)〜(P−54)の各々に対して、耐オイルクラック性を評価した。詳しくは、単層型感光体の表面(10個の測定箇所)に、油脂(オレイン酸トリグリセリド)を付着させて、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下で2日間放置した。その後、感光体の表面を肉眼で観察し、各測定箇所についてクラックの有無を確認した。確認結果から、下記基準に従って、単層型感光体の耐オイルクラック性を評価した。耐オイルクラック性の評価結果を、表1〜表3に示す。評価がA〜Cである単層型感光体を、耐オイルクラック性が良好であると評価した。
(耐オイルクラック性の評価基準)
評価A:クラック発生個数が0個であった。
評価B:クラック発生個数が1個以上3個以下であった。
評価C:クラック発生個数が4個以上10個以下であった。
評価D:クラック発生個数が11個以上であった。
単層型感光体(P−2)〜(P−6)、(P−8)〜(P−12)、(P−14)〜(P−18)、(P−20)〜(P−24)及び(P−50)〜(P−54)の単層型感光層は、バインダー樹脂としての樹脂(1)及び正孔輸送剤としての化合物(2)を含有していた。正孔輸送剤の含有量は、100質量部のバインダー樹脂に対して、40質量部以上100質量部以下であった。そのため、表1から明らかなように、これらの単層型感光体は、耐フィルミング性及び耐オイルクラック性に優れていた。
単層型感光体(P−1)、(P−7)、(P−13)及び(P−19)の単層型感光層は、バインダー樹脂としての樹脂(1)及び正孔輸送剤としての化合物(2)を含有していた。しかし、正孔輸送剤の含有量が100質量部のバインダー樹脂に対して40質量部未満であった。そのため、表2から明らかなように、これらの単層型感光体では、耐フィルミング性が劣っていた。
単層型感光体(P−25)〜(P−49)の単層型感光層は、正孔輸送剤としての化合物(2)を含有していなかった。更に、単層型感光体(P−25)、(P−31)、(P−37)、(P−43)及び(P−49)の単層型感光層では、正孔輸送剤の含有量が100質量部のバインダー樹脂に対して40質量部未満であった。そのため、表2及び表3から明らかなように、これらの単層型感光体では、耐フィルミング性及び耐オイルクラック性が劣っていた。
以上のことから、本発明の感光体によれば、フィルミングの発生及びオイルクラックの発生を抑制できることが示された。また、本発明のプロセスカートリッジ及び画像形成装置によれば、感光体のフィルミング及びオイルクラックに起因する画像不良の発生を抑制できることが示された。