以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。更に、化学式中の「−OMe」、「−OEt」及び「−OBt」は、各々、メトキシ基、エトキシ基及びn−ブトキシ基を意味する。
<第一実施形態:正帯電単層型電子写真感光体>
第一実施形態は、正帯電単層型電子写真感光体(以下、「感光体」と記載する場合がある)1に関する。以下、図1を参照して、本実施形態の感光体1について説明する。図1は、感光体1の構造を示す概略断面図である。
感光体1は感光層3を備える。感光層3は、電荷発生剤、正孔輸送剤、及びバインダー樹脂を少なくとも含有する。感光層3には、正孔輸送剤として、一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と記載する場合がある)が含有される。感光層3には、バインダー樹脂として、下記一般式(2)で表される樹脂(以下、樹脂(2)と記載する場合がある)が含有される。感光体1は、転写メモリーの発生を抑制することができる。その理由は、以下のように推測される。
便宜上、はじめに転写メモリーについて説明する。電子写真方式の画像形成では、例えば、以下の工程(1)〜(4)を含む画像形成プロセスが実施される。
工程(1):像担持体(感光体に相当)の表面を帯電する帯電工程、
工程(2):帯電された像担持体の表面を露光して、像担持体の表面に静電潜像を形成する露光工程、
工程(3):静電潜像をトナー像として現像する現像工程、及び
工程(4):形成されたトナー像を、像担持体から被転写体へ転写する転写工程。
しかし、このような画像形成プロセスでは、像担持体を回転させて使用するため、転写工程に起因する転写メモリーが発生する場合がある。具体的には、以下の通りである。帯電工程において、像担持体の表面は、一様に一定の正極性の電位まで帯電される。続いて、露光工程及び現像工程を経て、転写工程において、帯電とは逆極性(負極性)の転写バイアスが、被転写体を介して像担持体に印加される。印加された逆極性の転写バイアスの影響により、像担持体表面の非露光領域(非画像領域)の電位が大きく低下し、低下した状態が保持されることがある。この電位低下の影響を受け、非露光領域は、次の周の帯電工程において、所望の正極性の電位まで帯電され難くなる。一方、転写バイアスが印加された状態であっても、露光領域にトナーが付着しているため感光体表面に転写バイアスが直接印加され難いことから、露光領域(画像領域)の電位は低下し難い。このため、露光領域は、次の周の帯電工程において、所望の正極性の電位まで帯電され易い。その結果、露光領域と非露光領域とで帯電電位が異なり、像担持体の表面を一様に一定の正極性の電位まで帯電させることが困難となる場合がある。このように、感光体の前周の作像工程(画像形成プロセス)における転写の影響を引きずって非露光領域の帯電能が低下してしまい、帯電電位に電位差が生じる現象を、転写メモリーという。
しかし、既に述べたように、感光体1の感光層3は、正孔輸送剤として、化合物(1)を含有し、バインダー樹脂として樹脂(2)を含有する。化合物(1)は、フェニル基のオルト位に炭素原子数2以上4以下のアルコキシ基(OR1基)を有する。更に、OR1基を有するフェニル基は、OR1基以外にアルコキシ基を有していない。樹脂(2)も既に述べたように所定の構造を有する。このような構造を有する化合物(1)、及び樹脂(2)は、感光層3を製造する場合に使用される溶剤に溶解し易い傾向がある。更に、感光層3を形成する際に、化合物(1)と樹脂(2)で表される樹脂との相溶性が向上する傾向がある。その結果、化合物(1)が均一に分散した感光層3が得られると考えられる。正孔輸送剤である化合物(1)が均一に分散している感光層3は、正孔輸送能が優れる傾向がある。加えて、このような感光層3は、電子輸送剤による電子輸送を阻害し難く電子輸送能にも優れる傾向がある。その結果、逆極性の転写バイアスが感光体1に印加した状態であっても、感光層3中の電子は速やかに移動し、感光層3中に電子が残留し難い。従って、感光体1は、転写メモリーの発生を抑制できると考えられる。
引き続き、感光体1について説明する。感光層3は、導電性基体2上に直接又は間接に設けられる。例えば、図1(a)に示すように、導電性基体2上に感光層3を直接設けてもよい。あるいは、例えば、図1(b)に示すように、導電性基体2と感光層3との間に中間層4が設けられてもよい。また、図1(a)及び図1(b)に示すように、感光層3が最外層として露出してもよい。あるいは、図1(c)に示すように、感光層3上に保護層5が備えられてもよい。
感光層3の厚さは、感光層として充分に作用できる限り、特に限定されない。感光層3の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
以下、導電性基体2、及び感光層3について説明する。更に、中間層4、及び感光体1の製造方法について説明する。
<1.導電性基体>
導電性基体2は、感光体1の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体2は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で形成されていればよい。導電性基体2としては、例えば、導電性を有する材料で形成される導電性基体;又は導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、又は真鍮が挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて(例えば、合金として)用いてもよい。これらの導電性を有する材料のなかでも、感光層3から導電性基体2への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
導電性基体2の形状は、第二実施形態で後述する画像形成装置6(図2及び図3参照)の構造に合わせて適宜選択される。例えば、導電性基体2としては、シート状の導電性基体、又はドラム状の導電性基体が挙げられる。また、導電性基体2の厚みは、導電性基体2の形状に応じて、適宜選択される。
<2.感光層>
以下、感光層3に含有される、電荷発生剤、正孔輸送剤、及びバインダー樹脂について説明する。また、感光層3に必要に応じて含有されてもよい、電子輸送剤、及び添加剤について説明する。
<2−1.電荷発生剤>
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(例えば、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、又はアモルファスシリコン)の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、又はキナクリドン系顔料が挙げられる。
フタロシアニン系顔料としては、例えば、化学式(CG−1)で表される無金属フタロシアニン、又は金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(CG−2)で表されるチタニルフタロシアニン、又は酸化チタン以外の金属が配位したフタロシアニン(例えば、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン)が挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型、又はY型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下「X型無金属フタロシアニン」と記載する場合がある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶、又はY型結晶が挙げられる。以下、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶、及びY型結晶を、各々、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、及びY型チタニルフタロシアニンと記載する場合がある。波長領域700nm以上で高い量子収率を有することから、チタニルフタロシアニンのなかでもY型チタニルフタロシアニンが好ましい。
Y型チタニルフタロシアニンは、例えば、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。CuKα特性X線回折スペクトルにおける主ピークとは、ブラッグ角(2θ±0.2°)が3°以上40°以下である範囲において、1番目又は2番目に大きな強度を有するピークである。
(CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法)
CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法の一例について説明する。試料(チタニルフタロシアニン)をX線回折装置(例えば、株式会社リガク製「RINT(登録商標)1100」)のサンプルホルダーに充填して、X線管球Cu、管電圧40kV、管電流30mA、かつCuKα特性X線の波長1.542Åの条件で、X線回折スペクトルを測定する。測定範囲(2θ)は、例えば3°以上40°以下(スタート角:3°、ストップ角:40°)であり、走査速度は、例えば10°/分である。
このようなY型チタニルフタロシアニンは、示差走査熱量分析(DSC)スペクトルにおける熱特性(詳しくは、次に示す熱特性(A)〜(C))の違いによって3種類に分類される。
熱特性(A):DSCによる熱特性において、吸着水の気化に伴うピーク以外に50℃以上270℃以下の範囲に1つのピークを有する。
熱特性(B):DSCによる熱特性において、吸着水の気化に伴うピーク以外に50℃以上400℃以下の範囲にピークを有しない。
熱特性(C):DSCによる熱特性において、吸着水の気化に伴うピーク以外に50℃以上270℃以下の範囲にピークを有せず、270℃以上400℃以下の範囲に1つのピークを有する。
(示差走査熱量分析の測定方法)
示差走査熱量分析スペクトルの測定方法の一例について説明する。サンプルパンにチタニルフタロシアニン結晶粉末の評価用試料を載せて、示差走査熱量計(例えば、株式会社リガク製「TAS−200型 DSC8230D」)を用いて示差走査熱量分析スペクトルを測定する。測定範囲は、例えば40℃以上400℃以下であり、昇温速度は、例えば20℃/分である。
結晶安定性に優れていること、有機溶媒中で結晶転移を起こし難いこと、及び感光層3中に分散させ易いことから、熱特性(B)及び(C)を有するY型チタニルフタロシアニンが好ましい。
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。更に、例えば、デジタル光学式の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用したレーザービームプリンター、又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体1を用いることが好ましい。そのため、例えば、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましい。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
短波長レーザー光源(例えば、350nm以上550nm以下程度の波長を有するレーザー光源)を用いた画像形成装置に適用される感光体1には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料、又はペリレン系顔料が好適に用いられる。
電荷発生剤の含有量は、感光層3においてバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
<2−2.正孔輸送剤>
感光層3には、正孔輸送剤として、化合物(1)が含有される。化合物(1)は、一般式(1)で表される。
一般式(1)中、R1は、炭素原子数2以上4以下のアルキル基を表す。R2、R3、R4、R5及びR6は、各々独立して、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。Ar1及びAr2は、各々独立して、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素原子数6以上20以下のアリール基を表す。Ar1及びAr2のうちの1つ以上は、置換基を有してもよい炭素原子数6以上20以下のアリール基を表す。つまり、Ar1及びAr2の両方が水素原子となることはない。
一般式(1)中、R1が表す炭素原子数2以上4以下のアルキル基の例としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、s−ブチル基、n−ブチル基、又はt−ブチル基が挙げられる。転写メモリーの発生を一層抑制するための好適な例としては、炭素原子数2又は3のアルキル基が挙げられる。転写メモリーの発生を一層抑制するための好適な別の例としては、炭素原子数3又は4のアルキル基が挙げられる。
一般式(1)中、R2、R3、R4、R5及びR6が表す炭素原子数1以上4以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、s−ブチル基、n−ブチル基、又はt−ブチル基が挙げられる。転写メモリーの発生を抑制し易いことから、炭素原子数1以上4以下のアルキル基として好ましくは、メチル基である。
一般式(1)中、Ar1及びAr2が表わす炭素原子数6以上20以下のアリール基の例としては、炭素原子数6以上20以下の単環のアリール基、又は炭素原子数6以上20以下の縮合環(二環又は三環)のアリール基が挙げられる。炭素原子数6以上20以下の単環のアリール基の例としては、フェニル基が挙げられる。炭素原子数6以上20以下の縮合環の二環のアリール基の例としては、ナフチル基が挙げられる。炭素原子数6以上20以下の縮合環の三環のアリール基の例としては、アントリル基、又はフェナントリル基が挙げられる。転写メモリーの発生を抑制し易いことから、炭素原子数6以上20以下のアリール基としては、炭素原子数6以上14以下のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
一般式(1)中、Ar1及びAr2が表わす炭素原子数6以上20以下のアリール基は置換基を有してもよい。置換基としては、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、又は炭素原子数6以上20以下のアリール基が挙げられる。置換基としての炭素原子数1以上4以下のアルキル基の例は、R2、R3、R4、R5及びR6が表す炭素原子数1以上4以下のアルキル基の例と同様である。置換基としての炭素原子数6以上20以下のアリール基の例は、Ar1及びAr2が表わす炭素原子数6以上20以下のアリール基の例と同様である。Ar1及びAr2が置換基を有する炭素原子数6以上20以下のアリール基を表す場合、置換基を有する炭素原子数6以上20以下のアリール基の例としては、トリル基、キシリル基、又はメシチル基が挙げられる。
転写メモリーの発生を抑制するための好適な例としては、一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、Ar1及びAr2が以下の基を表す化合物が挙げられる。R1は、炭素原子数2以上4以下のアルキル基を表す。R3、R5及びR6は、各々、水素原子を表す。R2及びR4は、各々独立して、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。Ar1は、炭素原子数6以上20以下のアリール基を表す。Ar2は、水素原子を表す。
転写メモリーの発生を一層抑制するための好適な例としては、一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、Ar1及びAr2が以下の基を表す化合物が挙げられる。R1は、炭素原子数2又は3のアルキル基を表す。R2、R3、R5及びR6は、各々、水素原子を表す。R4は、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。Ar1は、炭素原子数6以上14以下のアリール基を表す。Ar2は、水素原子を表す。
転写メモリーの発生を抑制し、且つ感光体1の感度特性を向上させるための好適な例としては、一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、Ar1及びAr2が以下の基を表す化合物が挙げられる。R1は、炭素原子数2又は3のアルキル基を表す。R2は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。R3、R4、R5及びR6は、各々、水素原子を表す。Ar1は、炭素原子数6以上14以下のアリール基を表す。Ar2は、水素原子を表す。
転写メモリーの発生を抑制し、且つ感光体1の感度特性を向上させるための好適な別の例としては、一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、Ar1及びAr2が以下の基を表す化合物が挙げられる。R1は、炭素原子数3又は4のアルキル基を表す。R2、R3、R4、R5及びR6は、各々、水素原子を表す。Ar1は、炭素原子数6以上14以下のアリール基を表す。Ar2は、水素原子を表す。
化合物(1)の具体例としては、化学式(HT−1)〜(HT−4)で表される化合物が挙げられる。以下、化学式(HT−1)〜(HT−4)で表される化合物を、各々、化合物(HT−1)〜(HT−4)と記載する場合がある。
化合物(1)に加えて、化合物(1)以外の別の正孔輸送剤を組み合わせて用いてもよい。別の正孔輸送剤は、公知の正孔輸送剤から適宜選択される。
正孔輸送剤の合計含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、30質量部以上70質量部以下であることが特に好ましい。
正孔輸送剤中の化合物(1)の含有率は、正孔輸送剤の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
<2−3.電子輸送剤>
感光層3は、電子輸送剤を含有してもよい。電子輸送剤の例としては、キノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの電子輸送剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電子輸送剤の具体例としては、一般式(3)〜(10)で表される化合物が挙げられる。以下、一般式(3)〜(10)で表される化合物を、各々、化合物(3)〜(10)と記載する場合がある。
一般式(3)〜(10)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R73、R74、R81、R91、R92、R101、R102及びR103は、各々独立して、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。一般式(6)中、R63は、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。
一般式(3)〜(10)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61、R62、R63、R71、R72、R73、R74、R81、R91、R92、R101、R102及びR103において、アルキル基としては、例えば、炭素原子数1以上10以下のアルキル基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、s−ブチル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、又はデシル基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルキル基のなかでも、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上5以下のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、又は1,1−ジメチルプロピル基が特に好ましく、メチル基、tert−ブチル基、又は1,1−ジメチルプロピル基が最も好ましい。アルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、又はこれらを組み合わせたアルキル基であってもよい。アルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
一般式(3)〜(10)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61、R62、R63、R71、R72、R73、R74、R81、R91、R92、R101、R102及びR103において、アルケニル基としては、例えば、炭素原子数2以上10以下のアルケニル基が挙げられ、炭素原子数2以上6以下のアルケニル基が好ましく、炭素原子数2以上4以下のアルケニル基がより好ましい。アルケニル基は、直鎖状アルケニル基、分岐鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、又はこれらを組み合わせたアルケニル基であってもよい。アルケニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
一般式(3)〜(10)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61、R62、R63、R71、R72、R73、R74、R81、R91、R92、R101、R102及びR103において、アルコキシ基としては、例えば、炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基が挙げられ、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基は、直鎖状アルコキシ基、分岐鎖状アルコキシ基、環状アルコキシ基、又はこれらを組み合わせたアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
一般式(3)〜(10)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61、R62、R63、R71、R72、R73、R74、R81、R91、R92、R101、R102及びR103において、アラルキル基としては、例えば、炭素原子数7以上15以下のアラルキル基が挙げられ、炭素原子数7以上13以下のアラルキル基が好ましく、炭素原子数7以上12以下のアラルキル基がより好ましい。アラルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
一般式(3)〜(10)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61、R62、R63、R71、R72、R73、R74、R81、R91、R92、R101、R102及びR103において、アリール基としては、例えば、フェニル基、2個又は3個のベンゼン環が縮合されることにより形成される基、又は2個若しくは3個のベンゼン環が単結合により連結されることにより形成される基が挙げられる。アリール基に含まれるベンゼン環の数は、例えば、1以上3以下であり、1又は2であることが好ましい。アリール基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
一般式(3)〜(10)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61、R62、R63、R71、R72、R73、R74、R81、R91、R92、R101、R102及びR103において、複素環基としては、例えば、N、S、及びOからなる群より選択される1以上のヘテロ原子を含む5員又は6員の単環の複素環基;このような単環同士が縮合した複素環基;又は、このような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基が挙げられる。複素環基が縮合環である場合、縮合環に含まれる環の数は3以下であることが好ましい。複素環基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
一般式(6)中のR63において、ハロゲン原子としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、又はヨード基が挙げられ、クロロ基が好ましい。
転写メモリーの発生を抑制し易いことから、化合物(3)〜(10)のなかでも、化合物(3)、(4)、(5)、(6)、(8)、(9)、又は(10)が好ましい。転写メモリーの発生を抑制することに加えて、感光体1の感度特性を向上させるためには、化合物(3)〜(10)のなかでも、化合物(3)、(4)、(5)、又は(6)がより好ましい。
転写メモリーの発生を抑制し易いことから、一般式(3)、(4)、(5)及び(6)中、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R51、R52、R61及びR62は、各々独立して、炭素原子数1以上5以下のアルキル基を表すことが好ましい。R63は、ハロゲン原子を表すことが好ましい。
化合物(3)〜(10)の具体例としては、化学式(ET−1)〜(ET−8)で表される化合物が挙げられる。以下、化学式(ET−1)〜(ET−8)で表される化合物を、各々、化合物(ET−1)〜(ET−8)と記載する場合がある。
化合物(ET−1)〜(ET−8)のなかでも、転写メモリーの発生を抑制し易いことから、化合物(ET−1)、(ET−2)、(ET−3)、(ET−4)、(ET−6)、(ET−7)又は(ET−8)が好ましい。転写メモリーの発生を抑制することに加えて、感光体1の感度特性を向上させるためには、化合物(ET−1)〜(ET−8)のなかでも、化合物(ET−1)、(ET−2)、(ET−3)又は(ET−4)がより好ましい。
電子輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
<2−4.バインダー樹脂>
感光層3は、バインダー樹脂として、一般式(2)で表される樹脂(2)を含有する。
一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24は、各々独立して、水素原子又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。
一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24が表す炭素原子数1以上3以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はイソプロピル基が挙げられる。なかでも、転写メモリーの発生を抑制し易いことから、メチル基が好ましい。
転写メモリーの発生を抑制し易いことから、R21及びR22は、各々独立して、水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことが好ましい。R23及びR24は、各々独立して、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことが好ましい。
一般式(2)中、m+n=1.00であり、0.40≦m≦0.85であり、0.15≦n≦0.60である。樹脂(2)は、一般式(2a)で表される繰り返し単位(以下「繰り返し単位(2a)」と記載する場合がある)と、一般式(2b)で表される繰り返し単位(以下「繰り返し単位(2b)」と記載する場合がある)とから形成される。mは、樹脂(2)における、繰り返し単位(2a)のモル数と繰り返し単位(2b)のモル数との合計モル数に対する、繰り返し単位(2a)のモル数の比率を表す。nは、樹脂(2)における、繰り返し単位(2a)のモル数と繰り返し単位(2b)のモル数との合計モル数に対する、繰り返し単位(2b)のモル数の比率を表す。転写メモリーの発生を抑制し易いことから、0.50≦m≦0.70であり、0.30≦n≦0.50であることが好ましく、0.55≦m≦0.65であり、0.35≦n≦0.45であることがより好ましい。
一般式(2a)及び(2b)中、R21、R22、R23及びR24は、各々、一般式(2)中のR21、R22、R23及びR24と同義である。
m及びnは、樹脂(2)を、核磁気共鳴(NMR)分光装置を用いて測定することにより算出される。例えば、NMRスペクトルに現れる繰り返し単位(2a)に特徴的なピークと、繰り返し単位(2b)に特徴的なピークとの比率を算出することにより、m及びnが求められる。
樹脂(2)としては、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、又はブロック共重合体が挙げられる。ランダム共重合体は、繰返し単位(2a)と、繰返し単位(2b)とがランダムに配列した共重合体である。交互共重合体は、繰返し単位(2a)と繰り返し単位(2b)とが交互に配列した共重合体である。周期的共重合体は、1つ又は複数の繰返し単位(2a)と、1つ又は複数の繰返し単位(2b)とが周期的に配列した共重合体である。ブロック共重合体は、複数の繰返し単位(2a)からなるブロックと、複数の繰返し単位(2b)からなるブロックとが配列した共重合体である。
転写メモリーの発生が特に抑制される好適な例としては、一般式(2)中のR21、R22、R23、R24、m及びnが以下の基を表す化合物が挙げられる。R21及びR22は、各々独立して、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。R23及びR24は、各々水素原子を表す。m+n=1.00であり、0.55≦m≦0.65であり、0.35≦n≦0.45である。
転写メモリーの発生が特に抑制される好適な例としては、一般式(2)中のR21、R22、R23、R24、m及びnが以下の基を表す化合物が挙げられる。R21及びR22は、各々独立して、水素原子、又は炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。R23及びR24は、各々独立して、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。m+n=1.00であり、0.55≦m≦0.65であり、0.35≦n≦0.45である。
樹脂(2)の具体例としては、化学式(Resine−1)〜(Resine−6)で表される樹脂が挙げられる。なお、化学式(Resine−1)〜(Resine−6)中、繰り返し単位の添え字は、一般式(2)中のm及びnが表す数に対応する。
以下、樹脂(2)の製造方法を説明する。樹脂(2)の製造方法の一例として、樹脂(2)の繰返し単位を形成するためのジオール化合物とジハロゲン化カルボニルとを界面縮重合させる方法(いわゆるホスゲン法)が挙げられる。樹脂(2)の製造方法の別の例として、ジオール化合物とジフェニルカーボネートとをエステル交換反応させる方法が挙げられる。なお、樹脂(2)の製造方法は、特に限定されない。樹脂(2)は、ホスゲン法、エステル交換法、又は他の公知の方法を適宜選択することにより製造される。
以下、ホスゲン法を用いて樹脂(2)を製造する場合を、例に挙げて説明する。樹脂(2)は、一般式(2am)で表される化合物と、一般式(2bm)で表される化合物とを、界面重縮合させることにより製造される。以下、一般式(2am)で表される化合物と、一般式(2bm)で表される化合物とを各々、化合物(2am)、及び化合物(2bm)と記載する場合がある。化合物(2am)の添加量は、化合物(2am)のモル数と化合物(2bm)のモル数との合計モル数に対して、0.40mol%(m=0.40)以上0.85mol%(m=0.85)以下であることが好ましい。化合物(2bm)の添加量は、化合物(2am)のモル数と化合物(2bm)のモル数との合計モル数に対して、0.15mol%(n=0.15)以上0.60mol%(n=0.60)以下であることが好ましい。
一般式(2am)及び(2bm)中、R21、R22、R23及びR24は、各々、一般式(2)中のR21、R22、R23及びR24と同義である。
樹脂(2)の分子量は、粘度平均分子量で40000以上であることが好ましく、40000以上52500以下であることがより好ましい。樹脂(2)の粘度平均分子量が40000以上であると、樹脂(2)の耐摩耗性を高め易くなり、感光層3が摩耗し難くなる。また、樹脂(2)の分子量が52500以下であると、感光層3の形成時に樹脂(2)が溶剤に溶解し易くなり、感光層用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、感光層3を形成し易くなる。
感光層3は、バインダー樹脂として樹脂(2)以外の別のバインダー樹脂を更に含有してもよい。別のバインダー樹脂の例としては、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、又はポリエステル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂の例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、又はその他の架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂の例としては、エポキシアクリル酸樹脂、又はウレタン−アクリル酸共重合体が挙げられる。
<2−5.添加剤>
感光体1の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、感光層3は各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項消光剤、又は紫外線吸収剤)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤、又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物、又は有機燐化合物が挙げられる。
<3.中間層>
感光体1において、中間層4(特に、下引き層)は、例えば、導電性基体2と感光層3との間に位置する。中間層4は、例えば、無機粒子、及び中間層4に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層4が存在することにより、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体1を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇が抑えられると考えられる。
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄、又は銅)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛)の粒子、又は非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間層用樹脂としては、中間層4を形成する樹脂として用いることができる樹脂である限り、特に限定されない。
中間層4は、感光体1の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層3の添加剤と同様である。
<4.感光体の製造方法>
次に、感光体1の製造方法の一例について説明する。感光体1の製造方法は、感光層形成工程を有する。感光層形成工程では、感光層用塗布液を、導電性基体2上に塗布し、塗布した感光層用塗布液に含まれる溶剤を除去して感光層3を形成する。感光層用塗布液は、電荷発生剤と、正孔輸送剤としての化合物(1)と、バインダー樹脂としての樹脂(2)と、溶剤とを少なくとも含有する。感光層用塗布液は、電荷発生剤、化合物(1)、及び樹脂(2)を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。感光層用塗布液は、必要に応じて、電子輸送剤、及び各種添加剤を更に含有してもよい。
感光層用塗布液に含有される溶剤は、感光層用塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はブタノール)、脂肪族系炭化水素(例えば、n−ヘキサン、オクタン、又はシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、又はキシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、又はクロロベンゼン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、又はジエチレングリコールジメチルエーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン)、エステル類(例えば、酢酸エチル、又は酢酸メチル)、ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶剤のうち、感光体1の製造時の作業性を向上させるためには、ハロゲン化炭化水素以外の溶剤が好ましい。
感光層用塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散器を用いられる。
感光層用塗布液は、各成分の分散性、又は形成される各々の層の表面平滑性を向上させるために、例えば、界面活性剤又はレベリング剤を含有してもよい。
感光層用塗布液を塗布する方法としては、例えば、導電性基体2上に均一に感光層用塗布液を塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、又はバーコート法が挙げられる。
感光層用塗布液に含まれる溶剤を除去する方法は、感光層用塗布液中の溶剤を蒸発させ得る方法である限り、特に限定されない。溶剤を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、又は加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機、又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
なお、感光体1の製造方法は、必要に応じて、中間層4を形成する工程、及び保護層5を形成する工程の一方又は両方を更に含んでいてもよい。中間層4を形成する工程、及び保護層5を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
感光体1は、例えば、像担持体と接触して像担持体に直流電圧を印加する帯電部27を備える画像形成装置6において、像担持体として使用されてもよい。なお、画像形成装置6は第二実施形態で後述する。
以上、図1を参照して、第一実施形態に係る感光体1を説明した。第一実施形態に係る感光体1によれば、転写メモリーの発生を抑制することができる。
<第二実施形態:画像形成装置>
第二実施形態は、画像形成装置6に関する。以下、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る画像形成装置6について説明する。
画像形成装置6は、像担持体としての感光体1を備える。このため、画像形成装置6は、転写メモリーの発生に起因する画像不良(例えば、画像ゴースト)の発生を抑制することができる。その理由は、以下のように推測される。
まず、便宜上、転写メモリーに起因する画像不良について説明する。既に述べたように、転写メモリーが発生すると、感光体1の表面における次の周の帯電工程で所望の電位が得られない領域は、次の周の帯電工程で所望の電位が得られる領域に比べ、電位が低下する傾向がある。具体的には、感光体1の表面における前周回の非露光領域は、前周回の露光領域に比べ、電位が低下する傾向がある。このため、前周回の非露光領域は、前周回の露光領域に比べ、電位が低下し易い。このため、前周回の非露光領域は、正帯電トナーを引き付け易くなる。その結果、前周回の非露光領域(非画像部)を反映した画像が次周回において形成され易い。このような前周回の非画像部を反映した画像が形成される画像不良が、転写メモリーの発生に起因する画像不良である。
既に述べたように、第一実施形態に係る感光体1は、化合物(1)が樹脂(2)中に均一に分散した感光層3を有すると考えられる。正孔輸送剤である化合物(1)が均一に分散している感光層3は、正孔輸送能が優れる傾向がある。加えて、このような感光層3は、電子輸送剤による電子輸送を阻害し難く電子輸送能にも優れる傾向がある。その結果、逆極性の転写バイアスが感光体1に印加した状態であっても、感光層3中の電子は速やかに移動し、感光層3中に電子が残留し難い。従って、画像形成装置6は、第一実施形態に係る感光体1を備えることにより、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制することができる。
以下、図2を参照して、画像形成装置6が中間転写方式を採用する場合を、例に挙げて説明する。なお、画像形成装置6が直接転写方式を採用する場合については後述する。図2は、画像形成装置6の一態様の構成を示す概略図である。
画像形成装置6は、像担持体としての感光体1と、帯電部27と、露光部28と、現像部29と、転写部とを備える。感光体1は、第一実施形態で述べた感光体1である。帯電部27は感光体1の表面を帯電する。帯電部27の帯電極性は、正極性である。露光部28は、帯電された感光体1の表面を露光して、感光体1の表面に静電潜像を形成する。現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部は、感光体1から被転写体へトナー像を転写する。画像形成装置6が中間転写方式を採用する場合、転写部は、一次転写ローラー33、及び二次転写ローラー21に相当する。被転写体は、中間転写ベルト20、及び記録媒体(例えば、用紙P)に相当する。
画像形成装置6は、電子写真方式の画像形成装置である限り、特に限定されない。画像形成装置6は、例えば、モノクロ画像形成装置であってもよいし、カラー画像形成装置であってもよい。異なる色のトナーによる各色のトナー像を形成するために、画像形成装置6は、タンデム方式のカラー画像形成装置であってもよい。
以下、タンデム方式のカラー画像形成装置を例に挙げて、画像形成装置6を説明する。画像形成装置6は、所定方向に並設された複数の感光体1と、複数の現像部29とを備える。複数の現像部29は、各々、感光体1に対向して配置される。複数の現像部29は、各々、現像ローラーを備える。現像ローラーは、トナーを担持して搬送し、対応する感光体1の表面にトナーを供給する。
図2に示すように、画像形成装置6は、箱型の機器筺体7を更に備える。機器筺体7内には、給紙部8、画像形成部9、及び定着部10が設けられる。給紙部8は、用紙Pを給紙する。画像形成部9は、給紙部8から給紙された用紙Pを搬送しながら、用紙Pに画像データに基づくトナー像を転写する。定着部10は、画像形成部9で用紙P上に転写された未定着のトナー像を、用紙Pに定着させる。更に、機器筺体7の上面には、排紙部11が設けられる。排紙部11は、定着部10で定着処理された用紙Pを排紙する。
給紙部8には、給紙カセット12、第一ピックアップローラー13、給紙ローラー14、15、及び16、並びにレジストローラー対17が備えられる。給紙カセット12は、機器筺体7から挿脱可能に設けられる。給紙カセット12には、各種サイズの用紙Pが貯留される。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12の左上方位置に設けられる。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー14、15、及び16は、第一ピックアップローラー13によって取り出された用紙Pを搬送する。レジストローラー対17は、給紙ローラー14、15、及び16によって搬送された用紙Pを、一時待機させた後に、所定のタイミングで画像形成部9に供給する。
また、給紙部8は、手差しトレイ(不図示)と、第二ピックアップローラー18とを更に備えている。手差しトレイは、機器筺体7の左側面に取り付けられる。第二ピックアップローラー18は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。第二ピックアップローラー18によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー14、15及び16によって搬送され、レジストローラー対17によって、所定のタイミングで画像形成部9に供給される。
画像形成部9には、画像形成ユニット19、中間転写ベルト20、及び二次転写ローラー21が備えられる。中間転写ベルト20には、画像形成ユニット19によって、中間転写ベルト20の表面(一次転写ローラー33との接触面)に、トナー像が一次転写される。なお、一次転写されるトナー像は、コンピューターのような上位装置から伝送された画像データに基づいて形成される。二次転写ローラー21は、中間転写ベルト20上のトナー像を、給紙カセット12から送り込まれた用紙Pに二次転写する。
画像形成ユニット19には、イエロートナー供給用ユニット25を基準として中間転写ベルト20の回転方向の上流側(図2では右側)から下流側に向けて、イエロートナー供給用ユニット25、マゼンタトナー供給用ユニット24、シアントナー供給用ユニット23、及びブラックトナー供給用ユニット22が順次配設されている。ユニット22、23、24、及び25には、各ユニットの中央位置に、感光体1が配設されている。感光体1は、矢符(時計回り)方向に回転可能に配設されている。なお、ユニット22、23、24、及び25は、画像形成装置6本体に対して脱着される後述のプロセスカートリッジであってもよい。
そして、各感光体1の周囲には、帯電部27、露光部28、現像部29が、帯電部27を基準として各感光体1の回転方向の上流側から順に配置されている。
感光体1の回転方向における帯電部27の上流側には、除電器(不図示)、及びクリーニング装置(不図示)が設けられてもよい。除電器は、中間転写ベルト20へのトナー像の一次転写が終了した後、感光体1の周面を除電する。クリーニング装置及び除電器によって清掃及び除電された感光体1の周面は、帯電部27へ送られ、新たに帯電処理される。画像形成装置6がクリーニング装置及び/又は除電器を備える場合、各感光体1の回転方向の上流側から帯電部27を基準として、帯電部27、露光部28、現像部29、一次転写ローラー33、クリーニング装置、及び除電器の順で配置される。
既に述べたように、帯電部27は、感光体1の表面を帯電する。具体的には、帯電部27は、矢符方向に回転されている感光体1の周面を均一に正極性に帯電する。帯電部27は、非接触方式であってもよいし、接触方式であってもよい。非接触方式の帯電部27は、感光体1と接触することなく電圧を印加する。非接触方式の帯電部27としては、例えば、コロナ放電式の帯電装置が挙げられ、より具体的には、コロトロン帯電器、又はスコロトロン帯電器が挙げられる。接触方式の帯電部27は、感光体1と接触して電圧を印加する。接触方式の帯電部27としては、例えば、接触(近接)放電式の帯電器が挙げられ、より具体的には、帯電ローラー又は帯電ブラシが挙げられる。
帯電ローラーとしては、例えば、感光体1と接触したまま、感光体1の回転に従動して回転する帯電ローラーが挙げられる。帯電ローラーは、例えば、少なくとも表面部が樹脂で形成される。具体的には、帯電ローラーは、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備える。このような帯電ローラーを備えた帯電部27は、電圧印加部が芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体1の表面を帯電させる。
帯電ローラーの樹脂層を形成する樹脂は、感光体1の表面(周面)を良好に帯電できる限り特に限定されない。樹脂層を形成する樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、又はシリコーン変性樹脂が挙げられる。樹脂層には、無機充填材を含有させてもよい。
接触方式の帯電部27を備える画像形成装置6では、非接触方式の帯電部27を備える画像形成装置6と比較して、感光体1の表面が、空隙放電により生じた運動エネルギーの高いイオンに曝され易い傾向がある。しかし、既に述べたように、第一実施形態の感光体1は、化合物(1)が樹脂(2)中に均一に分散した感光層3を有すると考えられる。正孔輸送剤である化合物(1)が均一に分散している感光層3は、正孔輸送能が優れる傾向がある。これにより、感光体1が空隙放電により生じた運動エネルギーの高いイオンに曝された場合であっても、次周回の帯電工程において、感光体1を所望の正極性の電位まで帯電させ易くなる。その結果、感光体1は、転写メモリーの発生を抑制し、感光体1を備える画像形成装置6は、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制すると考えられる。
また、画像形成装置6が接触方式の帯電部27を備えることにより、帯電部27から発生する活性ガス(例えば、オゾン、又は窒素酸化物)の排出を抑えることができると考えられる。その結果、活性ガスによる感光層3の劣化が抑制されるとともに、オフィス環境に配慮した設計が達成できると考えられる。
帯電部27が印加する電圧は、特に限定されない。帯電部27が印加する電圧の例としては、交流電圧、直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧、又は直流電圧が挙げられる。なかでも、帯電部27は直流電圧のみを印加することが好ましい。直流電圧のみを印加する帯電部27は、交流電圧を印加する帯電部27、又は直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を印加する帯電部27と比較して、以下に示す優位性がある。帯電部27が直流電圧のみを印加すると、感光体1に印加される電圧値が一定であるため、感光体1の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部27が直流電圧のみを印加すると、感光層3の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができると考えられる。
帯電部27が感光体1に印加する電圧は、1000V以上2000V以下であることが好ましく、1200V以上1800V以下であることがより好ましく、1400V以上1600V以下であることが特に好ましい。
露光部28としては、例えば、露光装置が挙げられ、より具体的には、レーザー走査ユニットが挙げられる。露光部28は、帯電された感光体1の表面を露光して、感光体1の表面に静電潜像を形成する。具体的には、露光部28は、帯電部27によって均一に帯電された感光体1の周面に、パーソナルコンピューターのような上位装置から入力された画像データに基づくレーザー光を照射する。これにより、感光体1の周面に、画像データに基づく静電潜像が形成される。
現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。具体的には、現像部29は、静電潜像が形成された感光体1の周面にトナーを供給し、画像データに基づくトナー像を形成する。現像部29としては、例えば、現像装置が挙げられる。
転写部(一次転写ローラー33、及び二次転写ローラー21に相当)は、感光体1の表面に形成されたトナー像を被転写体(中間転写ベルト20、及び用紙Pに相当)に転写する。中間転写ベルト20は、無端状のベルト回転体である。中間転写ベルト20は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の一次転写ローラー33に架け渡されている。複数の感光体1の周面が、各々、中間転写ベルト20の表面(接触面)に当接するように、中間転写ベルト20は配置されている。
また、中間転写ベルト20は、各感光体1に対向して配置される一次転写ローラー33によって、感光体1に押圧される。押圧された状態で、中間転写ベルト20は、複数の駆動ローラー30によって矢符(反時計回り)方向に無端回転する。駆動ローラー30は、ステッピングモーターなどの駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト20を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の一次転写ローラー33は、回転自在に設けられる。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び一次転写ローラー33は、駆動ローラー30による中間転写ベルト20の無端回転に伴って、従動回転する。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び一次転写ローラー33は、駆動ローラー30の主動回転に応じて中間転写ベルト20を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト20を支持する。
一次転写ローラー33は、一次転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を中間転写ベルト20に印加する。その結果、各感光体1上に形成されたトナー像は、各感光体1と一次転写ローラー33との間で、周回する中間転写ベルト20に対して、順次転写(一次転写)される。なお、トナーの帯電極性は正極性である。
二次転写ローラー21は、二次転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を用紙Pに印加する。その結果、中間転写ベルト20上に一次転写されたトナー像は、二次転写ローラー21とバックアップローラー32との間で用紙Pに転写される。これにより、未定着のトナー像が用紙Pに転写される。
定着部10は、画像形成部9で用紙Pに転写された未定着トナー像を定着させる。定着部10は、加熱ローラー34と、加圧ローラー35とを備えている。加熱ローラー34は、通電発熱体により加熱される。加圧ローラー35は、加熱ローラー34に対向配置され、加圧ローラー35の周面が加熱ローラー34の周面に押圧される。
画像形成部9で二次転写ローラー21により用紙Pに転写された転写画像は、用紙Pが加熱ローラー34と加圧ローラー35との間を通過する際の加熱による定着処理により用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部11へ排紙される。また、定着部10と排紙部11との間の適所に、複数の搬送ローラー36が配設されている。
排紙部11は、機器筺体7の頂部が凹没されることによって形成される。凹没した凹部の底部に、排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ37が設けられる。以上、図2を参照して、本実施形態の一態様の画像形成装置6について説明した。
以下、図3を参照して、本実施形態の別の態様の画像形成装置6について説明する。図3は、画像形成装置6の別の態様の構成を示す概略図である。図3に示す画像形成装置6は、直接転写方式を採用する。図3に示す画像形成装置6において、転写部は、転写ローラー41に相当する。被転写体は、記録媒体(例えば、用紙P)に相当する。なお、図3において、図2に対応する要素には同一の符号を使用し、重複する説明は省略する。
図3に示すように、転写ベルト40は、無端状でベルト状の回転体である。転写ベルト40は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41に架け渡されている。各感光体1の周面が転写ベルト40の表面(接触面)に当接するように、転写ベルト40は配置される。転写ベルト40は、各感光体1に対向して配置される各転写ローラー41によって、感光体1に押圧される。押圧された状態で、転写ベルト40は、複数のローラー30、31、32、及び41によって無端回転する。駆動ローラー30は、ステッピングモーターのような駆動源によって回転駆動し、転写ベルト40を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び転写ローラー41は、回転自在に設けられる。駆動ローラー30による転写ベルト40の無端回転に伴って、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41は従動回転する。これらのローラー31、32、41は、従動回転するとともに、転写ベルト40を支持する。レジストローラー対17から供給された用紙Pは、吸着ローラー42によって転写ベルト40上に吸着される。転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、転写ベルト40の回転に伴い、各感光体1と対応する転写ローラー41との間を通過する。
転写ローラー41は、感光体1から用紙Pへトナー像を転写する。トナー像を転写するときに、感光体1は用紙Pと接触している。具体的には、各転写ローラー41は、転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を、転写ベルト40上に吸着された用紙Pに印加する。これにより、感光体1上に形成されたトナー像は、各感光体1と対応する転写ローラー41との間で、用紙Pに転写される。転写ベルト40は、駆動ローラー30の駆動により矢符(時計回り)方向に周回する。これに伴い、転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、各感光体1と対応する転写ローラー41との間を順次通過する。通過する際に、各感光体1上に形成された対応する色のトナー像が、重ね塗り状態で順次用紙Pに転写される。この後、各感光体1は更に回転し、次のプロセスに移行する。以上、図3を参照して、本実施形態の別の態様に係る直接転写方式を採用する画像形成装置6について説明した。
図2及び図3を参照して説明したように、本実施形態に係る画像形成装置6は、第一実施形態に係る感光体1を備えている。感光体1は転写メモリーの発生を抑制することができる。そのため、このような感光体1を備えることで、本実施形態に係る画像形成装置6は、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制することができる。
<第三実施形態:プロセスカートリッジ>
第三実施形態は、プロセスカートリッジに関する。本実施形態に係るプロセスカートリッジは、例えば、ユニット化された第一実施形態に係る感光体1を備える。プロセスカートリッジは、第二実施形態に係る画像形成装置6に対して着脱自在に設計されてもよい。プロセスカートリッジには、例えば、感光体1以外に、第二実施形態で述べた、帯電部27、露光部28、現像部29、転写部、クリーニング装置、及び除電器からなる群より選択される少なくとも1つをユニット化した構成が採用される。
以上、本実施形態に係るプロセスカートリッジについて説明した。本実施形態に係るプロセスカートリッジは、第一実施形態に係る感光体1を備えている。感光体1は転写メモリーの発生を抑制することができる。そのため、本実施形態に係るプロセスカートリッジは、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制することができる。更に、このようなプロセスカートリッジは取り扱いが容易であるため、感光体1の感度特性等が劣化した場合に、感光体1を含めて、容易かつ迅速に交換することができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
<1.感光体の材料>
感光体の感光層を形成するための材料として、以下の電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を準備した。
(電荷発生剤)
電荷発生剤として、電荷発生剤(X−H2Pc)及び(TiOPc)を準備した。電荷発生剤(X−H2PC)は、実施形態で述べた化学式(CG−1)で表される無金属フタロシアニンであった。また、電荷発生剤(X−H2Pc)の結晶構造はX型であった。
電荷発生剤(TiOPc)は、実施形態で述べた化学式(CG−2)で表されるチタニルフタロシアニンであった。また、電荷発生剤(TiOPc)の結晶構造はY型であった。更に、電荷発生剤(TiOPc)は、DSCスペクトルにおいて熱特性(C)を有していた。詳しくは、電荷発生剤(TiOPC)は、DSCスペクトルにおける熱特性において、吸着水の気化に伴うピーク以外に50℃以上270℃以下の範囲にピークを有せず、270℃以上400℃以下の範囲に1つのピークを有していた。
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤として、実施形態で述べた化合物(HT−1)〜(HT−4)を準備した。また、化学式(HT−13)〜(HT−16)で表される化合物も準備した。以下、化学式(HT−13)〜(HT−16)で表される化合物を、各々、化合物(HT−13)〜(HT−16)と記載する場合がある。
(電子輸送剤)
電子輸送剤として、実施形態で述べた化合物(ET−1)〜(ET−4)及び(ET−6)〜(ET−8)を準備した。
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂として、バインダー樹脂(Resine−1a)〜(Resine−6a)を準備した。
バインダー樹脂(Resine−1a)〜(Resine−6a)は、各々、実施形態で述べた化学式(Resine−1)〜(Resine−6)で表される樹脂であった。また、バインダー樹脂(Resine−1a)〜(Resine−6a)の粘度平均分子量は、各々、50000であった。
更に、バインダー樹脂として、バインダー樹脂(Resine−7a)〜(Resine−9a)を準備した。バインダー樹脂(Resine−7a)〜(Resine−9a)は、各々、化学式(Resine−7)〜(Resine−9)で表される樹脂であった。なお、化学式(Resine−7)〜(Resine−9)中の繰り返し単位の添え字は、バインダー樹脂(Resine−7a)〜(Resine−9a)の各々における、繰り返し単位のモル比率を表す。バインダー樹脂(Resine−7a)〜(Resine−9a)の粘度平均分子量は、各々、50000であった。
<2.感光体の製造>
準備した感光体の感光層を形成するための材料を用いて、感光体(A−1)〜(A−16)、及び(B−1)〜(B−7)を製造した。
(感光体(A−1)の製造)
容器内に、電荷発生剤(X−H2Pc)5質量部と、正孔輸送剤としての化合物(HT−1)50質量部と、電子輸送剤としての化合物(ET−1)35質量部と、バインダー樹脂(Resine−1a)100質量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン800質量部とを投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて50時間混合して分散し、感光層用塗布液を調製した。
ディップコート法を用いて、導電性基体上に感光層用塗布液を塗布し、導電性基体上に塗布膜を形成した。続いて、100℃で40分間乾燥させ、塗布膜中からテトラヒドロフランを除去した。これにより、感光体(A−1)を得た。感光体(A−1)の感光層の厚さは30μmであった。
(感光体(A−2)〜(A−16)及び(B−1)〜(B−7)の製造)
以下の点を変更した以外は、感光体(A−1)の製造と同様の方法で、感光体(A−2)〜(A−16)、及び(B−1)〜(B−7)を製造した。感光体(A−1)の製造に用いた電荷発生剤(X−H2Pc)、正孔輸送剤としての化合物(HT−1)、電子輸送剤としての化合物(ET−1)、及びバインダー樹脂(Resine−1a)に代えて、各々、表1及び表2に示す種類の電荷発生剤(CGM)、正孔輸送剤(HTM)、電子輸送剤(ETM)、及びバインダー樹脂を用いた。
<3.評価>
製造した各感光体について、感度特性(残留電位VL)の測定、転写メモリー電位の測定、及び画像評価を行った。感度特性(残留電位VL)の測定、転写メモリー電位の測定、及び画像評価には、以下の評価機及び用紙を使用した。詳しくは、評価機として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」を使用した。この評価機は、直流電圧を印加する接触方式の帯電部を備えていた。帯電部として、帯電性スリーブを感光体に接触させて感光体表面を帯電する帯電ローラーを用いた。帯電性スリーブは、エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させた帯電性ゴムから形成されていた。用紙として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社販売「京セラドキュメントソリューションズブランド紙VM−A4(A4サイズ)」を使用した。この評価機は、中間転写方式を採用していた。測定環境の温度は23℃であり、湿度は50%RHであった。
(感度特性(残留電位VL))
感光体を評価機に搭載した。ドラム感度試験機(ジェンテック社製)を用いて、感光体の周速100rpmで、感光体を帯電させた。帯電部が感光体に印加する帯電電圧を調整することにより、感光体の表面電位(初期電位V0)が+570Vになるように調整した。次いで、バンドパスフィルターを用いて、ハロゲンランプの光から単色光(波長780nm、半値幅20nm、露光量0.5μJ/cm2)を取り出した。取り出された単色光を感光体1周分の表面に照射(露光)した。単色光の照射後50m秒経過した時の感光体の表面電位(残留電位VL)を測定した。なお、残留電位VLの値が小さいほど、感度特性に優れていることを示す。測定された残留電位VLを、表1及び表2に示す。
(転写メモリー電位)
感光体を評価機に搭載した。帯電部が感光体に印加する帯電電圧を調整することにより、感光体の表面電位(初期電位V0)が+570Vになるように調整した。次いで、感光体に転写バイアスを印加しない場合の感光体の非露光部の表面電位(VOFF)を測定した。次いで、感光体に転写バイアスを印加した場合の感光体の非露光部の表面電位(VON)を測定した。なお、−2KVの転写バイアスを感光体に印加した。
測定した表面電位(VOFF及びVON)から、表面電位の差(VON−VOFF)を算出した。算出した表面電位の差を転写メモリー電位とした。算出された転写メモリー電位を、表1及び表2に示す。なお、転写メモリー電位の絶対値が小さいほど、転写メモリーの発生が抑制されていることを示す。転写メモリー電位の評価については、転写メモリー電位が−40Vより大きい(転写メモリー電位の絶対値が40未満である)感光体を合格とした。
(画像評価)
感光体を評価機に搭載した。評価機の感光体の動作を安定化させるために、アルファベットの画像を1時間印刷した。続いて、画像Aを1枚印刷した。画像Aは、ドーナツ型の白抜きパターンから構成される画像であった。ドーナツ型の白抜きパターンは、2つの同心円1組から構成されていた。画像Aの画像部(ドーナツ型の白抜きパターン以外の部分)の画像濃度は100%であった。画像Aは感光体1周分に相当していた。続いて、全面ハーフトーンの画像B(画像濃度12.5%)を1枚印刷し、画像ゴーストの評価用サンプルとした。画像Bは感光体2周目に相当していた。
得られた評価用サンプルを目視で観察し、画像Aに由来する画像ゴーストの有無を確認した。ここで、目視による観察とは、肉眼での観察(肉眼観察)又はルーペ(倍率10倍、TRUSCO社製、TL−SL10K)を介した観察(ルーペ観察)である。画像ゴーストの発生の有無は、下記の基準に基づいて評価した。画像評価の評価結果を、表1及び表2に示す。なお、画像評価については、評価A、B及びCを合格とした。
(画像評価の評価基準)
評価A:画像ゴーストは、肉眼観察でもルーペ観察でも全く確認されなかった。
評価B:画像ゴーストは、肉眼観察では確認されないが、ルーペ観察ではわずかに確認された。
評価C:画像ゴーストは、肉眼観察でわずかに観察された。
評価D:画像ゴーストは、肉眼観察で明確に確認された。
(総合評価)
得られた転写メモリー電位の評価、画像評価、及び測定された残留電位VLから、下記の基準に基づいて感光体を総合評価した。総合評価の評価結果を、表1及び表2に示す。
(総合評価の評価基準)
◎(特に良好):転写メモリー電位の評価が合格であった。画像評価も合格であった。更に、残留電位VLが120V未満であった。
○(良好):転写メモリー電位の評価が合格であった。画像評価も合格であった。残留電位VLが120V以上であった。
×(不良):転写メモリー電位の評価、及び画像評価の一方又は両方が合格ではなかった。残留電位VLが120V以上であった。
表1及び表2中、CGM、HTM、ETM、及びVLは、各々、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び残留電位を示す。
表1に示すように、感光体(A−1)〜(A−16)では、転写メモリー電位の絶対値が小さかった。このことから、感光体(A−1)〜(A−16)は転写メモリーの発生を抑制することが示された。また、感光体(A−1)〜(A−16)は、画像評価の結果が優れていた。このことから、これらの感光体を備える画像形成装置は、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制することが示された。
表1に示すように、感光体(A−1)〜(A−16)のなかでも、感光体(A−1)〜(A−13)では、転写メモリー電位の絶対値が特に小さかった。このことから、感光体(A−1)〜(A−13)は転写メモリーの発生を特に抑制することが示された。また、感光体(A−1)〜(A−13)は、残留電位VLが120V未満であった。このことから、感光体(A−1)〜(A−13)は、転写メモリーの発生を特に抑制することに加えて、感度特性にも優れることが示された。更に、感光体(A−1)〜(A−13)は、画像評価の結果が特に優れていた。このことから、感光体(A−1)〜(A−13)を備える画像形成装置は、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を特に抑制することが示された。
表2に示すように、感光体(B−1)〜(B−4)の感光層は、化合物(1)を含有していなかった。感光体(B−5)〜(B−7)の感光層は、樹脂(2)を含有していなかった。そのため、これらの感光体では、転写メモリー電位の絶対値が大きかった。このことから、これらの感光体には転写メモリーが発生していた。更に、これらの感光体は、画像評価の結果も劣っていた。
以上から、本発明に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することが明らかとなった。また、このような感光体を備える画像形成装置は、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制することが明らかとなった。