以下、本発明の実施の形態1について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の打撃工具を示す斜視図を、図2は図1の打撃工具の部分断面図を、図3は実施の形態1の打撃機構の分解斜視図を、図4(a)はハンマの斜視図,(b)は貫通孔の展開図を、図5はハンマの後退動作を説明する拡大断面図を、図6(a),(b)は図3の打撃機構を軸方向から見た動作説明図をそれぞれ示している。
図1および図2に示すように、打撃工具としてのインパクトドライバ10は、充電および放電が可能な電池セルを収容した電池パック11と、電池パック11から電力が供給されて駆動される電動モータ12とを備えている。電動モータ12は、電気エネルギを運動エネルギに変換する駆動源である。インパクトドライバ10は、プラスチック等よりなるケーシング13を備え、電動モータ12はケーシング13(ハウジング)の内部に設けられている。
電動モータ12は、軸線Aを中心に回転する回転軸14を備えている。回転軸14は、トリガスイッチ15を操作することで正方向または逆方向に回転される。つまり、トリガスイッチ15を操作することで、電池パック11から電動モータ12に電力が供給される。なお、回転軸14の回転方向は、トリガスイッチ15の近傍に設けられた正逆切替レバー16を操作することで切り替えられる。
インパクトドライバ10は、その先端側(前方側)でドライバビット等の先端工具17を支持するアンビル(出力部材)18を備えている。アンビル18は、ケーシング13(ハンマケース)の内側に装着されたスリーブ19によって回転自在に支持されている。なお、スリーブ19の内側には、アンビル18の回転をスムーズにするグリス(図示せず)が塗布されている。そして、アンビル18は軸線Aを中心に回転し、アンビル18の先端部分には、着脱機構20を介して先端工具17が着脱自在に設けられている。
ケーシング13(ハンマケース)の内部で、かつ軸線Aに沿う方向の電動モータ12とアンビル18との間には、減速機21が設けられている。減速機21は、電動モータ12の回転力をアンビル18に伝達する動力伝達装置であり、減速機21は、所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。減速機21は、回転軸14と同軸に配置されたサンギヤ22と、サンギヤ22の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ23と、サンギヤ22およびリングギヤ23の双方に噛み合わされた複数のプラネタリギヤ24と、各プラネタリギヤ24を自転可能かつ公転可能に支持するキャリヤ25とを有している。そして、リングギヤ23はケーシング13(ハンマケース)に固定され、回転不能となっている。
キャリヤ25には、当該キャリヤ25とともに軸線Aを中心に回転するスピンドル(回転部材)26が一体に設けられている。つまり、電動モータ12の回転軸14,減速機21,スピンドル26,アンビル18は、軸線Aを中心にそれぞれ配置されている。スピンドル26は、軸線Aに沿う方向のアンビル18と減速機21との間に設けられ、スピンドル26におけるアンビル18側の先端部分には、軸線Aに沿う方向に突出された軸部26aが形成されている。
ケーシング13(ハウジング)の内部で、かつ軸線Aに沿う方向の電動モータ12と減速機21との間には、略椀状に形成されたホルダ部材27が設けられている。ホルダ部材27の中心部分には軸受28が装着され、軸受28はスピンドル26における電動モータ12側の基端部分を回転自在に支持している。また、スピンドル26におけるアンビル18側の外周部分には、一対の(2つの)溝状のスピンドルカム26b1,26b2が設けられている。スピンドルカム26b1,26b2の内部には、スチールボール(鋼球)29の略半分がそれぞれ入り込んでいる。なお、スピンドルカム26b1,26b2にも、スチールボール29の転動をスムーズにするグリス(図示せず)が塗布されている。すなわち、後述するハンマ30を収容するケーシング13(ハンマケースとホルダ部材27で形成される空間)には潤滑剤としてのグリスが充填されている。
アンビル18におけるスピンドル26側の基端部分には、軸線Aと同軸の保持孔18aが設けられている。保持孔18aには、スピンドル26の軸部26aが回転自在に挿入されている。つまり、アンビル18とスピンドル26とは、軸線Aを中心に相対回転可能となっている。なお、軸部26aと保持孔18aとの間にも、両者の相対回転をスムーズにするグリス(図示せず)が塗布されている。また、アンビル18には軸線Aと同軸に取付孔18bが設けられている。取付孔18bは、ケーシング13(ハンマケース)の外部に向けて開口され、先端工具17の基端部分を着脱するために設けられている。
スピンドル26の周囲には、略環状に形成されたハンマ(打撃部材)30が設けられている。ハンマ30は、軸線Aに沿う方向の減速機21とアンビル18との間(アンビル18の後方側)に配置されている。ハンマ30は、スピンドル26に対して相対回転可能であり、かつ軸線Aに沿う方向に相対移動可能となっている。なお、図2はハンマ30が最も前方側(アンビル18側)に移動した状態を示している。この時、後述するスチールボール29は、後述するハンマカム30a1,30a2の軸線Aに沿う方向における最も後方側(反アンビル18側)の底部に位置している。ハンマ30の内周部分には、軸線Aに沿う方向に延ばされた一対の(2つの)溝状のハンマカム(カム溝)30a1,30a2が形成されている。ハンマカム30a1,30a2の内部には、スチールボール29の略半分がそれぞれ入り込んでいる。なお、ハンマカム30a1,30a2にも、スチールボール29の転動をスムーズにするグリス(図示せず)が塗布されている。
このようにして、スピンドルカム26b1とハンマカム30a1とを1組として、一方のスチールボール29が保持されている。また、スピンドルカム26b2とハンマカム30a2とを1組として、他方のスチールボール29が保持されている。ここで、スチールボール29は金属製の転動体で構成されている。そのため、ハンマ30は、スピンドル26に対して、スチールボール29が転動可能な範囲で軸線Aに沿う方向に移動可能となっている。また、ハンマ30は、スピンドル26に対して、スチールボール29が転動可能な範囲で軸線Aを中心として円周方向に移動可能となっている。
スピンドル26の周囲であって、かつ軸線Aに沿う方向の減速機21とハンマ30との間には、鋼板よりなる環状プレート31が設けられている。また、軸線Aに沿う方向の環状プレート31とハンマ30との間には、コイルばね32が圧縮された状態で設けられている。キャリヤ25は、軸受28およびホルダ部材27に接触することで、軸線Aに沿う方向への移動が規制されており、コイルばね32の押圧力はハンマ30に加えられている。これによりハンマ30は、コイルばね32の押圧力により、軸線Aに沿う方向でアンビル18に向けて押されている。
スピンドル26の周囲であって、かつ環状プレート31の径方向内側には、環状のストッパ33が設けられている。ストッパ33は、ゴム等の弾性体により形成され、スピンドル26に取り付けられている。そして、ストッパ33は、ハンマ30の軸線Aに沿う減速機21側への移動量を規制するようになっている。
ここで、先端工具17に打撃力を与える打撃機構SMは、スピンドル26,ハンマ30,アンビル18,スチールボール29およびコイルばね32により形成されている。そして、アンビル18の回転方向への負荷が大きくなると、ハンマ30の第2爪30e1,30e2(ハンマ爪)とアンビル18の第1爪18d1,18d2(アンビル爪)(何れも図3参照)とが、開放および係合を高速で繰り返して、これにより先端工具17に打撃力が発生する。ここで、ハンマ30の重量はアンビル18の重量よりも大きく設定されており、ハンマ30は、スピンドル26の回転力をアンビル18に伝達するとともに、スピンドル26の回転力をアンビル18の回転方向の打撃力に変換する。ただし、ハンマ30の重量をアンビル18の重量よりも小さく設定しても良い。
次に、ハンマ30とアンビル18との係合構造について、図3ないし図5を用いて詳細に説明する。
ハンマ30は、略円筒形状に形成された本体部30bを備えている。本体部30bの径方向内側には、軸線Aに沿う方向に延び、スピンドル26が回動自在に貫通する貫通孔30cが設けられている。本体部30bのアンビル18側は先細り形状となっている。つまり、本体部30bのスピンドル26側は大径とされ、本体部30bのアンビル18側は小径とされている。ここで、本体部30bのスピンドル26側(大径側)の直径寸法は、約40mmに設定されている。
本体部30bのアンビル18側にはアンビル18と対向する対向平面30dが設けられている。対向平面30dには、軸線Aに沿う方向でかつアンビル18側に突出された2つの第2爪30e1,30e2が一体に設けられている。これらの第2爪30e1,30e2は、対向平面30dの周方向に沿って180度間隔で配置され、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略扇形となっている。そして、第2爪30e1,30e2の先細りとなった先端側、つまり扇形の径方向内側は、ハンマ30の径方向内側、つまり貫通孔30cに向けられている。
第2爪30e1,30e2のハンマ30の周方向に沿う一方側には、第1接触平面SF1が設けられている。また、第2爪30e1,30e2のハンマ30の周方向に沿う他方側には、第2接触平面SF2が設けられている。そして、第1接触平面SF1には、後述するアンビル18の第1爪18d1,18d2の第4接触平面SF4が略全面で接触し、第2接触平面SF2には、アンビル18の第1爪18d1,18d2の第3接触平面SF3が略全面で接触するようになっている。
また、ハンマ30の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第2爪30e1,30e2の幅寸法は約15mmに設定されている。これにより、ハンマ30の周方向に沿って隣り合う第2爪30e1,30e2の間には、アンビル18の第1爪18d1,18d2が余裕を持って入り込めるようになっている。
ハンマ30の内周部分、つまり貫通孔30cには、当該貫通孔30cを中心に対向するようにして一対のハンマカム(カム溝)30a1,30a2が設けられている。ハンマカム30a1,30a2は、貫通孔30cに対して径方向外側に窪んで設けられ、ハンマカム30a1,30a2の径方向に沿う深さ寸法は、スチールボール29の半径寸法に略等しい寸法となっている。ハンマカム30a1,30a2を貫通孔30cの径方向内側から見ると、図4(b)に示すように略U字形状に形成されている。
ハンマカム30a1,30a2は何れも同じ形状に形成され、貫通孔30cの周方向に沿うハンマカム30a1,30a2の中央部CPには円弧部40aがそれぞれ設けられている。円弧部40aの周方向中心(カム溝の底部であってハンマカム頂部)の位置は中央部CPの位置と略一致している。すなわち、ハンマカム30a1,30a2の周方向に沿う中央部CPは貫通孔30cの軸方向においてハンマカム30a1,30a2の最も後端(図4(b)のハンマカムの内、最も下側に位置する部分)と略一致している。円弧部40aは、ハンマ30の軸方向に沿う減速機21側(図中下側)に配置されている。また、貫通孔30cの周方向に沿う円弧部40aの両側には、ハンマ30の軸方向に沿うアンビル18側(図中上側)に向けて延びる傾斜部分40bがそれぞれ設けられている。さらに、各傾斜部分40bの円弧部40a側とは反対側には、ハンマ30(貫通孔30c)の軸方向に延びる直線部40cがそれぞれ設けられている。ここで、インパクトドライバ10の作動中において、各ハンマカム30a1,30a2をスチールボール29が移動し、第1爪18d1,18d2と第2爪30e1、30e2が係合するときには各円弧部40aの部分にスチールボール29がそれぞれ位置するようになっている。
貫通孔30cの周方向に沿うハンマカム30a1,30a2の間で、かつ直線部40cに対応する部分には、貫通孔30cの軸方向に沿う寸法が大きい、すなわち貫通孔30cに対して径方向外側に窪んでいない壁部30c1が設けられている。壁部30c1は貫通孔30cの周方向に略180度ずれた位置に2か所設けられており、2つのハンマカム30a1,30a2を仕切る機能を有する。また、貫通孔30cの周方向に沿うハンマカム30a1,30a2の中央部CP(ハンマカム頂部)がある部分で、かつ円弧部40aに対応する部分には、貫通孔30cの軸方向に沿う寸法が小さい底部30c2が設けられている。底部30c2は貫通孔30cの周方向に略180度ずれた位置に2か所設けられている。
ここで、貫通孔30cの軸方向に沿う底部30c2の寸法は、貫通孔30cの軸方向に沿う壁部30c1の寸法の略1/7の寸法に設定されている。一方、貫通孔30cの周方向に沿う底部30c2の幅寸法は、貫通孔30cの軸方向一端側(減速機21側)で、かつ貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1の幅寸法と略同じ寸法に設定されている。また、貫通孔30cの軸方向他端側(アンビル18側)で、かつ貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1の幅寸法は、貫通孔30cの周方向に沿う底部30c2の幅寸法の略1/4の寸法に設定されている。ここで、図4(b)の符号BPは、貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1の中央部を示している。
貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1と底部30c2との間で壁部30c1と底部30c2を繋ぎ、かつ傾斜部分40bに対応する部分には略台形形状に形成された傾斜部(台形形状部)50(図中網掛部)が設けられている。傾斜部50は、貫通孔30cの周方向においてハンマカム30a1,30a2のそれぞれの中央部CP(ハンマカム頂部)に対して対称に2か所(計4か所)設けられている。すなわち、貫通孔30cの周方向に沿って壁部30c1、傾斜部50、底部30c2、傾斜部50、壁部30c1が並んで形成されてハンマカム30a1,30a2を構成している。言い換えると、ハンマカム30a1,30a2の中央部CP(ハンマカム頂部)に対して対称に中央部CP側から順に底部30c2、傾斜部50、壁部30c1が設けられている。また、傾斜部50は、アンビル18の第1爪18d1,18d2と、ハンマ30の第2爪30e1,30e2とが係合(衝突)したときに、スピンドル26の外周部分が押し付けられる押付部(図中網掛部)として機能する。言い換えると、傾斜部50には、第1爪18d1,18d2の何れか一方と第2爪30e1,30e2の何れか一方とが片当たり状態で係合する場合に、スピンドル26が押し付けられるようになっている。貫通孔30cの軸方向に沿う傾斜部50の寸法は、貫通孔30cの軸方向に沿う壁部30c1の寸法よりも小さく、貫通孔30cの軸方向に沿う底部30c2の寸法よりも大きくされている。ここで、底部30c2の表面積と傾斜部50の表面積とを比較すると、傾斜部50の表面積の方が大きく設定されている。これは、傾斜部50の方が底部30c2よりもスピンドル26から受ける荷重を分散できることを意味している。つまり、傾斜部50の方が底部30c2よりも単位面積当たりの面圧を小さくできる。
これに対して、壁部30c1の表面積と傾斜部50の表面積とを比較すると、傾斜部50の表面積の方が小さく設定されているが、壁部30c1には、貫通孔30cの軸方向に沿う直線部40cが設けられている。直線部40cは、スピンドル26のハンマ30に対する回転方向と直交しており、直線部40cはスピンドル26が線接触し得る角部として機能する。つまり、インパクトドライバ10に抉り力が作用して、直線部40cとスピンドル26とが線接触すると、当該部分における面圧が大きくなり、当該角部に強い荷重が生じ、よってカジリ現象が発生する虞がある。
したがって、スピンドル26とハンマ30とのカジリ現象の発生を抑制するためにも、インパクトドライバ10に抉り力が作用した場合に、スピンドル26の外周部分を傾斜部50(接触面積が大きい部分)に押し付けられるようにするのが望ましい。そこで、本発明においては、ハンマ30の周方向に沿う第2爪30e1,30e2の位置と、貫通孔30cの周方向に沿うハンマカム30a1,30a2の位置とを、スピンドル26の外周部分が傾斜部50に押し付けられる位置関係、すなわちハンマ30とスピンドル26が傾斜部50で接触可能な位置関係に設定している。
具体的には、ハンマ30の対向平面30dに設けた第2爪30e1,30e2の頂部SPが貫通孔30cの周方向に沿う傾斜部(押付部)50の範囲内(図中網掛範囲内)に入るように、第2爪30e1,30e2をハンマ30の周方向に沿う壁部30c1および底部30c2からずれた位置に設けている。すなわち、ハンマカム30a1を考えると、貫通孔30cの周方向において一方の傾斜部50の範囲内に第2爪30e1の頂部SPが入るようにした場合、他方の傾斜部50でスピンドル26を受けるように構成されている。第2爪30e1の頂部SPから貫通孔30cの周方向で略90度の位置に傾斜部50(スピンドル26が当たる部分)を設けた。ハンマカム30a2についても同様である。なお、第2爪30e1,30e2の頂部SPは、第2爪30e1,30e2の先細りとなった先端側で、かつハンマ30の周方向に沿う中央部に設けられている。
ここで、ハンマ30の対向平面30d側、つまりアンビル18側には、図4(a)に示すように、ハンマ30の貫通孔30cに形成したハンマカム30a1,30a2が開口(開口部OP1,OP2)している。ハンマカム30a1,30a2の開口部OP1,OP2の対向平面30dにおける開口形状は、横断面が略円弧形状に形成されている。ハンマカム30a1,30a2の開口部分(開口部OP1,OP2)には、スチールボール29をハンマカム30a1,30a2に組み込み易くするための窪み部Uがそれぞれ設けられている。
図3に示すように、アンビル18は、略円筒形状に形成された本体部18cを備えている。本体部18cの軸方向に沿うハンマ30側には、径方向外側に突出された2つの第1爪18d1,18d2が一体に設けられている。これらの第1爪18d1,18d2は、本体部18cの周方向に沿って180度間隔で配置され、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略長方形となっている。
第1爪18d1,18d2のアンビル18の周方向に沿う一方側には、第3接触平面SF3が設けられている。また、第1爪18d1,18d2のアンビル18の周方向に沿う他方側には、第4接触平面SF4が設けられている。そして、第3接触平面SF3には、ハンマ30の第2爪30e1,30e2の第2接触平面SF2が略全面で接触し、第4接触平面SF4には、ハンマ30の第2爪30e1,30e2の第1接触平面SF1が略全面で接触するようになっている。
また、アンビル18の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第1爪18d1,18d2の幅寸法は約15mmに設定されている。つまり、ハンマ30の第2爪30e1,30e2と略同じ幅寸法に設定されている。これにより、アンビル18の周方向に沿って隣り合う第1爪18d1,18d2の間には、ハンマ30の第2爪30e1,30e2が余裕を持って入り込めるようになっている。
次に、インパクトドライバ10の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
電動モータ12が停止している場合には、コイルばね32に押圧されているハンマ30は、アンビル18に接触して停止している。電動モータ12に電力が供給されて回転軸14が回転すると、回転軸14の回転力は減速機21のサンギヤ22に伝達される。サンギヤ22に回転力が伝達されると、リングギヤ23が反力要素となって、キャリヤ25が出力要素となる。すなわち、サンギヤ22の回転力がキャリヤ25に伝達され、サンギヤ22の回転速度に対してキャリヤ25の回転速度が低速となり、回転力が増幅される。
キャリヤ25に回転力が伝達されると、スピンドル26がキャリヤ25とともに一体回転する。スピンドル26の回転力は、スチールボール29を介してハンマ30に伝達される。ハンマ30の回転力は、第2爪30e1,30e2と第1爪18d1,18d2との係合によりアンビル18に伝達され、これによりアンビル18が回転される。アンビル18に伝達された回転力は、先端工具17を介してねじ(図示せず)に伝達され、当該ねじが、例えば木材等の対象物にねじ込まれる。
先端工具17を回転させるのに必要となる回転力が低い状態、すなわち低負荷状態においては、第2爪30e1,30e2の第1接触平面SF1と第1爪18d1,18d2の第4接触平面SF4とが接触された状態となる。その後、ねじが木材にねじ込まれて、木材とねじとの摩擦抵抗が増加する等して、先端工具17を回転させるのに必要となる回転力が高くなると、アンビル18は停止する。これにより、スチールボール29が、ハンマカム30a1,30a2およびスピンドルカム26b1,26b2の内部を転動し、ひいては図5の矢印Mに示すように、ハンマ30がアンビル18から離れるよう軸線Aに沿って移動する。
ここで、スピンドルカム26b1,26b2は、図5に示すように略V字形状に形成され、かつV字形状の開口側が減速機21側(図中左側)に向けられている。よって、スピンドル26とハンマ30との相対回転に伴い、スチールボール29はスピンドルカム26b1,26b2の減速機21側に転動して、ひいてはハンマ30がコイルばね32のばね力に抗して減速機21側に移動する。
これにより、第2爪30e1,30e2と第1爪18d1,18d2との係合が外れて互いに解放され、ハンマ30の回転力がアンビル18に伝達されなくなる。なお、ハンマ30が後退(アンビル18から離れる)し過ぎた場合にはハンマ30の電動モータ12側(減速機21側)の端部がストッパ33に衝突するため、ストッパ33によってハンマ30の運動エネルギを吸収することができる。
その後さらに、ハンマ30の回転が継続されて、第2爪30e1,30e2が第1爪18d1,18d2を乗り越えると、コイルばね32のハンマ30を押圧する力により、スチールボール29が、ハンマカム30a1,30a2およびスピンドルカム26b1,26b2の内部を転動して、ハンマ30はアンビル18に対して相対回転しつつ、近接するように移動される。
その後、回転しているハンマ30の第2爪30e1,30e2が、停止しているアンビル18の第1爪18d1,18d2に衝突して、アンビル18および先端工具17の回転方向に打撃力が加えられ、ねじを締め付けることができる。ここで、正逆切替レバー16を操作することで、電動モータ12の回転方向を逆転させると、上述した動作とは逆方向に打撃力を加えることができる。これにより、締め付けられたねじを緩めることができる。
ここで、ハンマ30がアンビル18に打撃力を与えているとき、つまり打撃機構SMが動作しているときに、インパクトドライバ10の回転軸とねじの回転軸とが一致していないと、インパクトドライバ10の回転軸には抉り力が作用する。すると、図6(a)に示すように、ハンマ30の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとがずれて、第2爪30e2の第1接触平面SF1のみが第1爪18d2の第4接触平面SF4に衝突(片当たり)して打撃力F1が発生する。この瞬間は、ハンマ30の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとのずれにより、ハンマ30とスピンドル26との間には隙間S1が、第2爪30e1と第1爪18d1との間には隙間S2がそれぞれ形成され、第2爪30e1の第1接触平面SF1と第1爪18d1の第4接触平面SF4とは衝突しない。そして、その隙間S1,S2を無くすために打撃力F1の反対方向に作用する反力F2がスピンドル26に作用して、スピンドル26が、ハンマカム30a2側にある、貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1と底部30c2との間の傾斜部(押付部)50(図4(b)の網掛部参照)に強く押し付けられる。打撃力F1と反力F2は貫通孔30cの周方向に略90度ずれた位置に作用する。
また、インパクトドライバ10の使い方によっては、インパクトドライバ10の回転軸に、図6(b)に示すように抉り力が作用することもある。この場合には、第2爪30e1の第1接触平面SF1のみが第1爪18d1の第4接触平面SF4に衝突(片当たり)して打撃力F1が発生する。この瞬間は、ハンマ30の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとのずれにより、ハンマ30とスピンドル26との間には隙間S3が、第2爪30e2と第1爪18d2との間には隙間S4がそれぞれ形成され、第2爪30e2の第1接触平面SF1と第1爪18d2の第4接触平面SF4とは衝突しない。そして、打撃力F1の反対方向に作用する反力F2がスピンドル26に作用して、スピンドル26が、ハンマカム30a1側にある、貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1と底部30c2との間の傾斜部(押付部)50(図4(b)の網掛部参照)に強く押し付けられる。
以上詳述したように、本実施の形態に係るインパクトドライバ10によれば、貫通孔30cの周方向に沿う一対のハンマカム30a1,30a2の間に設けられる壁部30c1と、貫通孔30cの周方向に沿うハンマカム30a1,30a2の中央部に設けられる底部30c2との間に、壁部30c1よりも貫通孔30cの軸方向に沿う寸法が小さくかつ底部30c2よりも貫通孔30cの軸方向に沿う寸法が大きく、第1爪18d1(18d2)と第2爪30e1(30e2)とが係合したときにスピンドル26が押し付けられる傾斜部50を設けた。すなわち、スピンドル26が一方のハンマカムの一方の傾斜部50に接触するように、ハンマ30の周方向に沿う第2爪30e1,30e2の位置を他方の傾斜部50の領域内に配置した。一方の傾斜部50の領域内に第2爪を配置し、第2爪の頂部SPからハンマ30の周方向で略90度の位置にスピンドル26の当接部(他方の傾斜部)を配置した。
これにより、インパクトドライバ10に抉り力が作用しても、表面積(接触面積)が最も小さい底部30c2や、角部として機能する直線部40cを備えた壁部30c1に、スピンドル26が押し付けられることが無いため、ハンマ30とスピンドル26とのカジリ現象を抑制して、インパクトドライバ10の長期に亘る安定動作を実現できる。
次に、本発明の実施の形態2について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態1と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
図7は実施の形態2の打撃機構を示す図3に対応した図を、図8(a),(b),(c)は図7の打撃機構を軸方向から見た動作説明図をそれぞれ示している。
図7および図8に示すように、実施の形態2においては、実施の形態1に比して、打撃機構SMの構造のみが異なっている。実施の形態2の打撃機構SMのハンマ(打撃部材)130には、3つの第2爪130e1,130e2,130e3が設けられている。これらの第2爪130e1,130e2,130e3は、対向平面30dの周方向に沿って120度間隔で配置され、実施の形態1と同様に、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略扇形となっている。
第2爪130e1,130e2,130e3のハンマ130の周方向に沿う一方側には、第1接触平面SF1が設けられている。また、第2爪130e1,130e2,130e3のハンマ130の周方向に沿う他方側には、第2接触平面SF2が設けられている。そして、第1接触平面SF1には、後述のアンビル(出力部材)118の第1爪118d1,118d2,118d3の第4接触平面SF4が略全面で接触し、第2接触平面SF2には、アンビル118の第1爪118d1,118d2,118d3の第3接触平面SF3が略全面で接触するようになっている。
また、ハンマ130の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第2爪130e1,130e2,130e3の幅寸法は約10mmに設定されている。これにより、ハンマ130の周方向に沿って隣り合う第2爪130e1,130e2,130e3の間には、アンビル118の第1爪118d1,118d2,118d3が余裕を持って入り込めるようになっている。
アンビル118の本体部18cの軸方向に沿うハンマ130側には、径方向外側に突出された3つの第1爪118d1,118d2,118d3が一体に設けられている。第1爪118d1,118d2,118d3は、本体部18cの周方向に沿って120度間隔で配置され、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略長方形となっている。
第1爪118d1,118d2,118d3のアンビル118の周方向に沿う一方側には、第3接触平面SF3が設けられている。また、第1爪118d1,118d2,118d3のアンビル118の周方向に沿う他方側には、第4接触平面SF4が設けられている。そして、第3接触平面SF3には、ハンマ130の第2爪130e1,130e2,130e3の第2接触平面SF2が略全面で接触し、第4接触平面SF4には、ハンマ130の第2爪130e1,130e2,130e3の第1接触平面SF1が略全面で接触するようになっている。
また、アンビル118の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第1爪118d1,118d2,118d3の幅寸法は約10mmに設定されている。つまり、ハンマ130の第2爪130e1,130e2,130e3と略同じ幅寸法に設定されている。これにより、アンビル118の周方向に沿って隣り合う第1爪118d1,118d2,118d3の間には、ハンマ130の第2爪130e1,130e2,130e3が余裕を持って入り込めるようになっている。
ここで、ハンマ130に設けた2つのハンマカム30a1,30a2の位置と、ハンマ130に設けた3つの第2爪130e1,130e2,130e3の位置とは、以下に示すような位置関係に設定されている。つまり、3つの第2爪130e1,130e2,130e3のうちの2つの第2爪130e1,130e3は、ハンマ130の周方向に沿う壁部30c1および底部30c2(図4(b)参照)からずれた位置に設けられている。つまり、第2爪130e1,130e3の頂部SPは、貫通孔30cの周方向に沿う傾斜部50の範囲内(図4(b)の網掛部参照)に入っている。これに対して、3つの第2爪130e1,130e2,130e3のうちの1つの第2爪130e2は、ハンマ130の周方向に沿う壁部30c1がある位置に設けられている。
そして、インパクトドライバ10の回転軸に抉り力が作用すると、図8(a)に示すように、ハンマ130の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとがずれて、第2爪130e1の第1接触平面SF1のみが第1爪118d1の第4接触平面SF4に衝突(片当たり)して打撃力F1が発生する。この瞬間は、ハンマ130の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとのずれにより、ハンマ130とスピンドル26との間には隙間S5が、第2爪130e2と第1爪118d2との間には隙間S6が、第2爪130e3と第1爪118d3との間には隙間S7がそれぞれ形成される。そして、打撃力F1の反対方向に作用する反力F2がスピンドル26に作用して、スピンドル26が、ハンマカム30a2側にある、貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1と底部30c2との間の傾斜部50(図4(b)の網掛部参照)に強く押し付けられる。
図8(b)は、ハンマ130の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとがずれて、第2爪130e2の第1接触平面SF1のみが第1爪118d2の第4接触平面SF4に衝突(片当たり)して打撃力F1が発生した場合を示している。この瞬間は、ハンマ130の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとのずれにより、ハンマ130とスピンドル26との間には隙間S8が、第2爪130e3と第1爪118d3との間には隙間S9が、第2爪130e1と第1爪118d1との間には隙間S10がそれぞれ形成される。そして、打撃力F1の反対方向に作用する反力F2がスピンドル26に作用して、スピンドル26が、ハンマカム30a1側にある、貫通孔30cの周方向に沿う底部30c2(図4(b)参照)に強く押し付けられる。
ここで、図8(b)の場合においては、スピンドル26は底部30c2に押し付けられるが、当該パターンは図8(a),(b),(c)の3通りのパターンのうちの1つのパターンであり、2つのパターンは傾斜部50に押し付けられる構成となっている。したがって、従前に比して十分にカジリ現象を抑制することができる。
図8(c)は、ハンマ130の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとがずれて、第2爪130e3の第1接触平面SF1のみが第1爪118d3の第4接触平面SF4に衝突(片当たり)して打撃力F1が発生した場合を示している。この瞬間は、ハンマ130の軸心HCとスピンドル26の軸心SCとのずれにより、ハンマ130とスピンドル26との間には隙間S11が、第2爪130e1と第1爪118d1との間には隙間S12が、第2爪130e2と第1爪118d2との間には隙間S13がそれぞれ形成される。そして、打撃力F1の反対方向に作用する反力F2がスピンドル26に作用して、スピンドル26が、ハンマカム30a2側にある、貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1と底部30c2との間の傾斜部50(図4(b)の網掛部参照)に強く押し付けられる。
以上のように形成した実施の形態2においても、上述した実施の形態1と同様の作用効果を奏することができる。これに加えて、実施の形態2においては、第1爪および第2爪をそれぞれ3つずつ設けたので、打撃効率を向上させることができ、ひいては作業時間の短縮等を図ることが可能となる。
次に、本発明の実施の形態3について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態2と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
図9(a),(b),(c)は実施の形態3の打撃機構を軸方向から見た動作説明図を示している。
図9に示すように、実施の形態3においては、実施の形態2に比して、ハンマ(打撃部材)230に設けた2つのハンマカム30a1,30a2の位置と、ハンマ230に設けた3つの第2爪130e1,130e2,130e3の位置との関係が若干異なっている。具体的には、3つの第2爪130e1,130e2,130e3の全てを、それぞれハンマ230の周方向に沿う壁部30c1および底部30c2(図4参照)からずれた位置に設けている。
そして、実施の形態3においても、スピンドル26がハンマ230に対して押し付けられるパターンは、図9(a),(b),(c)に示す3通りとなっている。ここで、図9(a),(b)に示す2つのパターンが、スピンドル26が貫通孔30cの周方向に沿う壁部30c1と底部30c2との間の傾斜部50(図4(b)の網掛部参照)にそれぞれ強く押し付けられるパターンとなっている。一方、図9(c)に示すパターンが、スピンドル26が貫通孔30cの周方向に沿うハンマカム30a1,30a2の間にある壁部30c1(図4(b)参照)に強く押し付けられるパターンとなっている。このように、図9(a),(b),(c)に示す3通りのパターンのうち、図9(c)に示すパターンのみが好ましくないパターンとなっているが、当該パターンは図9(a),(b),(c)の3通りのパターンのうちの2つのパターンが傾斜部50に押し付けられる構成となっている。
以上のように形成した実施の形態3においても、上述した実施の形態2と同様の作用効果を奏することができる。
次に、本発明の実施の形態4について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態1ないし3と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。また、各部の形状や寸法も上述した実施の形態と同じであるため説明を省略する。
図10はハンマの貫通孔の展開図を示す図4(b)に対応した図を、図11(a),(b)は図3の打撃機構に図10のハンマを適用した打撃機構を軸方向から見た動作説明図をそれぞれ示している。
図10に示すハンマ30は、2つのハンマカム30a1,30a2の中央部CPに対する第2爪30e1,30e2の位置、及びスチールボール29が追加されている点が図4(b)と異なっており、その他の構造及び機能は図4(b)と同一である。具体的には、図10に示すように、ハンマ30の第2爪30e1,30e2は中央部CPに対して図中右側に位置している。また、2つのハンマカム30a1,30a2の円弧部40aにはそれぞれスチールボール29が配置されている。なお、図4(b)ではスチールボール29を省略している。
図3に示すように、アンビル18は、略円筒形状に形成された本体部18cを備えている。本体部18cの軸方向に沿うハンマ30側には、略円板状に形成された重複部18eが一体に設けられている。重複部18eの直径寸法d1は、一対の開口部OP1,OP2の径方向外側を結んだ距離d2(図11(a)参照)よりも若干小さい寸法に設定されている(d1<d2)。これにより、ハンマ30とアンビル18とを組み付けた状態のもとで、重複部18eは、スピンドル26の軸方向から各開口部OP1,OP2の半分以上と重なり、かつスチールボール29と重なるようになっている。これにより、図11の網掛部分に示すように、従来と比較し各開口部OP1,OP2の開口面積S1を小さくすることができる。
重複部18eには、本体部18cを中心に対向するようにして、2つの第1爪18d1,18d2が一体に設けられている。第1爪18d1,18d2は、重複部18eの径方向外側に突出して設けられ、重複部18eの周方向に沿って180度間隔で配置されている。第1爪18d1,18d2の軸線Aと交差する方向に沿う断面形状は、略長方形となっている。ここで、図11においては、重複部18eと第1爪18d1,18d2との境界部分に一点鎖線を記載している。
ここで、図11(a)に示すように、正回転時に第1爪18d1,18d2と第2爪30e1,30e2が係合(接触)した状態おいて、スピンドル26の軸方向から見て第1爪18d1,18d2がハンマカム30a1,30a2の中央部CPと重なった位置に位置している。すなわち、重複部18eはスピンドル26の軸方向から見て各開口部OP1,OP2の半分以上と重なっているだけでなく、第1爪18d1,18d2によって各開口部OP1,OP2を塞いでいる。更に、第1爪18d1,18d2はスピンドル26の軸方向から見てスチールボール29とも重なっている。これにより、各開口部OP1,OP2の開口面積S1をより一層小さくすることができるため、開口部OP1,OP2からのグリス漏れを抑制することができ、また、スチールボール29が開口部OP1,OP2から脱落することも抑制することができる。
すなわち、インパクトドライバ10でねじ締め作業を行っているとき、スチールボール29には、ハンマカム30a1,30a2およびスピンドルカム26b1,26b2の内部の転動に伴って多くのグリスが付着する。そして、グリスが付着したスチールボール29は、スピンドルカム26b1,26b2の内部をアンビル18側に向けて勢い良く移動する。また、スチールボール29は、壁部30c1側からハンマカム30a1,30a2の底部30c2に向けて勢い良く移動する。これにより、スチールボール29がハンマカム30a1,30a2の底部30c2に溜まっているグリスをOP1,OP2に押し出すと共に、スチールボール29に付着したグリスがハンマカム30a1,30a2の開口部OP1,OP2に到達して、その後ハンマ30の外部に漏れ出ようとする。
しかしながら本実施の形態においては、図11(a)に示すように、開口部OP1,OP2の半分以上が、アンビル18に設けた重複部18eと重なっている。さらに、ねじ締め作業等を行う場合の「正回転」の時には、第1爪18d1,18d2と第2爪30e1,30e2とが係合した状態のもとで、第1爪18d1,18d2は、スピンドル26(アンビル18)の軸方向から見てスチールボール29と重なっている。更には、ハンマカム30a1,30a2の中央部CP(ハンマカム30a1,30a2の底部30c2の頂部)と重なっている。これにより、スチールボール29に付着したグリス又はスチールボール29によって押し出されたグリスがハンマカム30a1,30a2の開口部OP1,OP2からハンマ30の外部に漏出するのが抑制される。また、スチールボール29が開口部OP1,OP2から脱落することも抑制できる。
なお、正逆切替レバー16を操作することで、電動モータ12の回転方向を逆転させると、上述した動作とは逆方向に打撃力を加えることができる。これにより、締め付けられたねじを緩めることができる。この場合においては、図11(b)に示すように、第2爪30e2の第2接触平面SF2と第1爪18d1の第3接触平面SF3とが接触された状態となり、第2爪30e1の第2接触平面SF2と第1爪18d2の第3接触平面SF3とが接触された状態となる。ねじ緩め作業等を行う場合の「逆回転」の時には、第1爪18d1,18d2は、スピンドル26の軸方向からスチールボール29と重ならないが、開口部OP1,OP2の半分以上が重複部18eと重なっている。よって、ねじ締め作業等を行う場合の「正回転」の時と略同様に、スチールボール29に付着したグリスのハンマ30の外部への漏出を抑制できる。
ここで、ねじ緩め作業等を行う場合の「逆回転」の時は、ねじ締め作業等を行う場合の「正回転」の時に比して、開口部OP1,OP2を覆う部分が小さくなる。つまり、開口面積S2が若干大きくなる(S2>S1)。しかしながら、インパクトドライバ10の使い方としては、ねじ緩め作業時の打撃動作の方がねじ締め作業等の打撃動作に比して遙かに少ない。よって、「正回転」の時と「逆回転」の時とで生じる開口部OP1,OP2の開口面積の差は、本実施の形態においては殆ど問題とならない。
以上詳述したように、本実施の形態に係るインパクトドライバ10によれば、アンビル18のハンマ30側に、スピンドル26の軸方向からハンマカム30a1,30a2の開口部OP1,OP2と重なる重複部18eを設けたので、第1爪18d1,18d2と第2爪30e1,30e2とが係合して打撃動作をした場合において、スチールボール29に付着したグリスの外部への漏出を抑制することができる。これにより、インパクトドライバ10の長期に亘る安定動作を実現できる。
また、本実施の形態に係るインパクトドライバ10によれば、ねじ締め作業等を行う場合の「正回転」の時に、第1爪18d1,18d2と第2爪30e1,30e2とが係合した状態のもとで、第1爪18d1,18d2は、スピンドル26の軸方向から見てハンマカム30a1,30a2の中央部CPと重なっており、言い換えると、スチールボール29と重なる。したがって、インパクトドライバ10として最も多い使い方の「ねじ締め作業等」において、スチールボール29に付着したグリスがハンマカム30a1,30a2の開口部OP1,OP2からハンマ30の外部に漏出するのを、効果的に抑制することができる。また、開口部OP1,OP2からのスチールボール29の脱落を一層抑制することができる。
次に、本発明の実施の形態5について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態1ないし4と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
図12(a),(b)は実施の形態5の打撃機構を示す図11の対応図を示している。
図12に示すように、実施の形態5においては、実施の形態1に比して、打撃機構SMを形成するハンマ(打撃部材)130およびアンビル(出力部材)118の構造のみが異なっている。具体的には、アンビル118に設けた重複部118aの直径寸法d3が、一対の開口部OP1,OP2の径方向外側を結んだ距離d2よりも若干大きい寸法に設定されている(d3>d2)。また、重複部118aの直径寸法d3の大径化に伴い、ハンマ130に設ける第2爪130e1,130e2の径方向寸法(重複部118aから径方向外側への突出寸法)tを、実施の形態4(図11参照)に比して薄くしている。つまり、実施の形態2においては、重複部118aが、スピンドル26(アンビル118)の軸方向から各開口部OP1,OP2の全体と重なっている。
以上のように形成した実施の形態5においても、上述した実施の形態4と略同様の作用効果を奏することができる。これに加えて、実施の形態5においては、重複部118aが各開口部OP1,OP2の全体と重なるため、スチールボール29に付着したグリスの外部への漏出をより確実に抑制することができる。ただし、第2爪130e1,130e2の十分な剛性を確保するために、実施の形態4に比して、ハンマ130の剛性を高めるのが望ましい。また、実施の形態5の重複部118aは実施の形態4の重複部18eに比して大きく(重く)なっているため、電動モータ12を起動したときの電動モータ12の目標回転速度までの立ち上がり速度は遅くなってしまう。しかしながら、慣性が大きいため、電動モータ12を停止した後も慣性力で回転し続けることができ、結果として実施の形態4と同程度のねじ締めを行うことができる。
次に、本発明の実施の形態6について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態4と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
図13は実施の形態6の打撃機構の分解斜視図を、図14(a),(b)は図13の打撃機構を軸方向から見た動作説明図をそれぞれ示している。なお、図13の打撃機構は図7の打撃機構と同様の機能(構造)を有していが、便宜上、ハンマに異なる記号を付している。
図13および図14に示すように、実施の形態6においては、実施の形態4に比して、打撃機構SMを形成するハンマ(打撃部材)230およびアンビル(出力部材)218の構造のみが異なっている。具体的には、ハンマ230には、3つの第2爪230e1,230e2,230e3が設けられている。これらの第2爪230e1,230e2,230e3は、対向平面30dの周方向に沿って120度間隔で配置されている。
第2爪230e1,230e2,230e3のハンマ230の周方向に沿う一方側には、第1接触平面SF1が設けられている。また、第2爪230e1,230e2,230e3のハンマ230の周方向に沿う他方側には、第2接触平面SF2が設けられている。そして、第1接触平面SF1には、アンビル218の第1爪218d1,218d2,218d3の第4接触平面SF4が略全面で接触し、第2接触平面SF2には、アンビル218の第1爪218d1,218d2,218d3の第3接触平面SF3が略全面で接触するようになっている。
また、ハンマ230の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第2爪230e1,230e2,230e3の幅寸法は約10mmに設定されている。これにより、ハンマ230の周方向に沿って隣り合う第2爪230e1,230e2,230e3の間には、アンビル218の第1爪218d1,218d2,218d3が余裕を持って入り込めるようになっている。
アンビル218の重複部18eには、径方向外側に突出された3つの第1爪218d1,218d2,218d3が一体に設けられている。第1爪218d1,218d2,218d3は、重複部18eの周方向に沿って120度間隔で配置されている。
第1爪218d1,218d2,218d3のアンビル218の周方向に沿う一方側には、第3接触平面SF3が設けられている。また、第1爪218d1,218d2,218d3のアンビル218の周方向に沿う他方側には、第4接触平面SF4が設けられている。そして、第3接触平面SF3には、ハンマ230の第2爪230e1,230e2,230e3の第2接触平面SF2が略全面で接触し、第4接触平面SF4には、ハンマ230の第2爪230e1,230e2,230e3の第1接触平面SF1が略全面で接触するようになっている。
また、アンビル218の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第1爪218d1,218d2,218d3の幅寸法は約10mmに設定されている。つまり、ハンマ230の第2爪230e1,230e2,230e3と略同じ幅寸法に設定されている。これにより、アンビル218の周方向に沿って隣り合う第1爪218d1,218d2,218d3の間には、ハンマ230の第2爪230e1,230e2,230e3が余裕を持って入り込めるようになっている。
ここで、ハンマ230に設けた2つのハンマカム30a1,30a2の位置と、ハンマ230に設けた3つの第2爪230e1,230e2,230e3の位置とは、以下に示すような位置関係に設定されている。つまり、3つの第2爪230e1,230e2,230e3のうちの2つの第2爪230e1,230e3は、ハンマ230の周方向に沿う壁部30c1および底部30c2(図10参照)からずれた位置に設けられている。つまり、第2爪230e1,230e3の頂部SPは、貫通孔30cの周方向に沿う傾斜部50の範囲内(図10参照)に入っている。これに対して、3つの第2爪230e1,230e2,230e3のうちの1つの第2爪230e2は、ハンマ130の周方向に沿う壁部30c1がある位置に設けられている。
そして、図14(a)に示すように、ねじ締め作業等を行う場合の「正回転」の時には、第1爪218d1,218d2,218d3と、第2爪230e1,230e2,230e3とが係合した状態のもとで、第1爪218d1は、スピンドル26(アンビル218)の軸方向からスチールボール29と重なっている。これにより、スチールボール29に付着したグリスがハンマカム30a1の開口部OP1からハンマ230の外部に漏出するのが抑制される。このときの開口部OP1,OP2の合計の開口面積(図中網掛部分)はS3となっている。
また、ねじ緩め作業等を行う場合の「逆回転」の時には、第1爪218d1,218d2,218d3と、第2爪230e1,230e2,230e3とが係合した状態のもとで、第1爪218d2は、スピンドル26の軸方向からスチールボール29と重なっている。これにより、スチールボール29に付着したグリスがハンマカム30a2の開口部OP2からハンマ230の外部に漏出するのが抑制される。このときの開口部OP1,OP2の合計の開口面積についても「正回転」の時と同様にS3となっている。
以上のように形成した実施の形態6においても、上述した実施の形態4と略同様の作用効果を奏することができる。これに加えて、実施の形態6においては、ねじ締め作業等を行う場合の「正回転」の時と、ねじ緩め作業等を行う場合の「逆回転」の時とで、開口部OP1,OP2の合計の開口面積を同じS3にすることができる。したがって、「正回転」,「逆回転」に依らず、スチールボール29に付着したグリスの外部への漏出を効果的に抑制することができる。また、実施の形態6においては、第1爪および第2爪をそれぞれ3つずつ設けたので、打撃効率を向上させることができ、ひいては作業時間の短縮等を図ることが可能となる。
次に、本発明の実施の形態7について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態6と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
図15(a),(b)は実施の形態7の打撃機構を示す図11の対応図である。
図15に示すように、実施の形態7においては、実施の形態6に比して、打撃機構SMを形成するハンマ(打撃部材)330およびアンビル(出力部材)318の構造のみが異なっている。具体的には、アンビル318に設けた重複部318aの直径寸法d4が、一対の開口部OP1,OP2の径方向外側を結んだ距離d2よりも若干大きい寸法に設定されている(d4>d2)。また、重複部318aの直径寸法d4の大径化に伴い、ハンマ330に設ける第2爪330e1,330e2,330e3の径方向寸法(厚み寸法)Tを、実施の形態6(図14参照)に比して薄くしている。つまり、実施の形態7においては、重複部318aが、スピンドル26(アンビル318)の軸方向から各開口部OP1,OP2の全体と重なっている。
以上のように形成した実施の形態7においても、上述した実施の形態6と略同様の作用効果を奏することができる。これに加えて、実施の形態7においては、重複部318aが各開口部OP1,OP2の全体と重なるため、スチールボール29に付着したグリスの外部への漏出をより確実に抑制することができる。ただし、第2爪330e1,330e2,330e3の十分な剛性を確保するために、実施の形態3に比して、ハンマ330の剛性を高めるのが望ましい。
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、本発明の打撃工具は、上述したインパクトドライバ10の他に、インパクトレンチ等を包含する。また、本発明の打撃工具は、交流電源の電力を、電池パック11を介さずに電動モータ12に供給し得る構造を包含する。さらに、本発明の打撃工具は、電池パック11の電力、交流電源の電力を切り替えて電動モータ12に供給可能な構造を包含する。
さらに、本発明の駆動源は、上述した電動モータ12の他に、エンジン,空気圧モータ,油圧モータ等を包含する。エンジンは、燃料を燃焼させて発生した熱エネルギを運動エネルギに変換する動力源であって、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン,さらには液化石油ガスエンジンを包含する。電動モータ12は、ブラシ付きモータやブラシレスモータ等を包含する。さらに、本発明の打撃工具は、アンビル18,118,218,318に先端工具17が直接取り付けられる構造に加えて、アンビルにソケットやアダプタ等を介して先端工具が取り付けられる構造も包含する。