JP6340621B2 - Niスパッタリングターゲット及びその製造方法 - Google Patents
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Description
従来のNi又はNi合金スパッタリングターゲットにおいて、使用初期に成膜される薄膜は、膜厚の面内ばらつきが大きく、使用開始から成膜時間が経過すると、膜厚の面内ばらつきも小さくなってくる。
これは、使用初期はターゲットが比較的厚く、漏れ磁束密度(PTF:Pass Through Flux)が小さいため、スパッタレートが遅くなり、一方において、成膜時間が経過するとターゲットはエロージョンによって薄くなり、PTFが大きくなるため、スパッタレートが速くなる傾向がある。その結果、成膜初期はターゲット面内のPTFばらつきが膜厚に大きく影響するのに対し、成膜時間が経過するとターゲット面内のPTFばらつきの膜厚への影響が小さくなるためと考えられる。
また、ターゲットの硬度によって、PTFは変化することが分かっており、エロージョンが進行した部分と進行しない部分とでPTFのばらつきが生じてしまうという知見が得られた。
本発明は、かかる知見の下、以下の解決手段とした。
表面部のビッカース硬さは、中心部のビッカース硬さとの差が8%を超えると、表面から厚さ方向の硬度分布が大きくなることから、表面部によって成膜される使用初期の膜厚の面内ばらつきも大きくなるので、好ましくない。
また、ビッカース硬さは115Hv以上155Hv以下であることから、スパッタリングターゲット全体の硬度が大きいので、スパッタレート(成膜速度)が大きくなり、生産性を向上させることができる。
表面粗さがこの範囲内であると、表面状態が均一になり、成膜初期の膜厚のばらつきの発生をさらに抑制することができる。
平面研磨は、寸法精度、表面粗さを精密に仕上げることができ、平面研磨した後のスパッタリングターゲットは表面粗さが小さく、表面状態が均一で、成膜初期の膜厚のばらつきの発生をさらに抑制することができる。
Ni又はNi合金としては、高純度Ni又はFe、Vなどを含むNi合金である。スパッタリングターゲットの平面形状及び板厚は、特に限定されるものではないが、平面形状としては、矩形、円形等、スパッタリング装置の取り付け部位に応じた形状とされ、板厚は1mm以上15mm以下とされる。
このビッカース硬さは、スパッタリングターゲットを厚さ方向に切断し、その切断面をビッカース硬度計にて測定した値である。表面部については、スパッタリングターゲットの表面から厚さ方向に60μmの深さの位置を測定する。
中心に対する表面部のビッカース硬さの差が8%を超えると、表面から厚さ方向の硬度分布が大きくなることから、表面部によって成膜された膜厚の面内ばらつきも大きくなるので、好ましくない。
また、スパッタリングターゲットの全体としては、ビッカース硬さが110Hv以上160Hv以下とされる。スパッタリングターゲット全体の硬度が大きいことにより、スパッタレート(成膜速度)が大きくなり、生産性を向上させることができる。
Ni又はNi合金の塊を真空溶解して鋳造し、鋳造したインゴットを400℃以上1200℃以下に1時間加熱した後、これを前述した板厚まで熱間圧延する。加熱温度はNiの再結晶温度以上とするのが好ましい。この熱間圧延において、1パス当たりの圧下率が30%以上となる圧延を少なくとも1回は含むものとする。複数回の圧延を行う場合は、複数回のうちの1回の圧延において圧下率30%以上とすればよく、圧下率30%以上となるパスを最初にするか、最後にするか、中間で実施するかはいずれでもよいが、最初にした方が、高い圧下率のパスとすることが容易である。
この圧下率30%以上のパスを有しない場合、複数回圧延したとしても、表面部のみが集中して加工されて、中心部まで圧延の影響が到達しにくいため、得られたスパッタリングターゲットの厚さ方向の硬度分布を均一にすることが難しい。
この表面の研磨は、平面研磨による方法が採用される。平面研磨は、XYテーブル上にターゲット素材を載せて、回転砥石で表面を研磨するものである。平面研磨には、砥石の回転軸を研磨面と平行に配置して砥石の側面で研磨する横軸型と、砥石の回転軸を研磨面に垂直に配置して砥石の端面で研磨する縦軸型との二通りの方法があり、いずれを採用してもよいが、横軸型の方が、表面粗さがより面内均一に仕上げられるため好ましい。
この場合、研磨は、ターゲット素材の表面を磨く程度の加工であり、表面部を削り取るまでの研削加工とすると、発生する熱の影響で表面が変質するおそれがあるので好ましくない。
なお、熱間圧延の後、反り等の矯正の目的で、圧下率10%以下の範囲の仕上げ圧延を冷間で施してもよい。また、熱間圧延の後に200℃以上750℃以下の熱処理を施してもよい。
熱間圧延後のターゲット素材を冷却し、直径125mmの円板状に成形し、表面を平面研磨加工により研磨して、スパッタリングターゲットとした。また、熱間圧延後に冷却しただけで、平面研磨加工を施さなかったものも作製した。
比較例として、従来の方法により熱間圧延後に冷間圧延し、焼鈍することにより作製したスパッタリングターゲットも評価した。
各評価項目の具体的測定方法は以下の通りである。
スパッタリングターゲットを厚さ方向に切断し、その表面から60μmの深さ位置(表面部)、及び厚さ方向の中心(表面から3mmの深さ位置)について、ビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さの測定には、ビッカース硬度計(MVK−G13)を用いて、SPEEDダイヤル:3、荷重100gにて、各測定点につき5回測定し、その測定値の平均値を測定結果とした。そして、中心位置のビッカース硬さを基準として、表面部のビッカース硬さとの差(比率)を求めた。
各実施例及び比較例についての測定結果は表2に示す。
表面粗さ測定装置として「Mitutoyo Surf Test SV−3000」を用い、測定長さを10mmとして、算術平均粗さRa及び十点平均粗さRz測定した。スパッタリングターゲット表面を平面研磨したものは、研磨による加工筋と測定方向が垂直になるようにして測定した。測定箇所は、図1に示すように、表面の中心部A、外周部C、及びこれらの中間位置Bの3ヶ所とした。
各実施例及び比較例について、このようにして測定したRa及びRzの平均値を求め、表2に示す。また、表1は実施例1の個々の測定箇所における測定結果を示している。
PTFの測定は、ASTMF2086−01に基づいて実施した。図2に、PTFの測定装置の概略図を示す。
この測定装置は、非磁性体の材質(例えば、アルミニウム)で形成されスパッタリングターゲットTを載置するテーブル1と、その下に配置する磁石を固定するための固定治具2と、ホールプローブ3をスパッタリングターゲットTの上方に保持し、かつ上下方向あるいは支柱を中心とした円弧方向に移動させることのできる支柱4と、から構成されている。なお、磁束を発生させるための磁石5には、馬蹄形磁石(Dexter社製アルニコ磁石5K215)を用いた。
スパッタリングターゲットTを載置せずに、テーブル1上でホールプローブ3を若干円弧方向に左右に振りながら、テーブル1に水平な磁束密度を測定し、磁束密度が最大となるところでホールプローブ3を固定した。
この位置で測定されたテーブル1面に水平な方向の磁束密度を、ASTMで定義されているSource Fieldとし、これが90±5mTの範囲にあることを確認した。
つぎに、ホールプローブ3の先端を、測定するスパッタリングターゲットTの厚み+0.5mmの高さまで上昇させ、ホールプローブ3を若干円弧方向に左右に振りながら、テーブル1面に水平な方向の磁束密度を測定し、磁束密度が最大となるところでホールプローブ3を固定した。
この位置で測定された磁場をASTMで定義されるReferennce fieldとして記録した。
次に、均一に磁化されるように、スパッタリングターゲットTを反時計回りに5回転させたのち、図3に示す測定ポイントを測定した。これら測定ポイントは、スパッタリングターゲット表面における17点(中心点と、中心から放射状に延びる45°間隔の線上の各々にある2点との合計)について磁束密度を測定し、これらの値をReferennce fieldの値で割って100を掛けた値をPTFとし、その平均及びばらつきを測定した。ばらつきは、外周部と内周部それぞれのばらつきを測定し平均して求めた。外周部と内周部のバラツキは、PTFのばらつき(%)=(平均値から最も離れた測定値―平均値)÷平均値×100により求めた。
各実施例、比較例についてのPTFの測定結果を表2に示す。
また、図4は、実施例1と比較例1について、各測定ポイントでのPTFを比較したものである。
また、表面粗さがRaで0.1μm以上3.2μm以下、Rzで0.4μm以上20μm以下であると、PTFのばらつきがさらに小さくなり、膜厚のばらつきの発生をさらに抑制することができることがわかる。
図5は実施例1の断面写真であり、左が表面部、右が厚さ方向中心部を示す。図6は比較例2の同様の断面写真である。これらを比較してわかるように、表面部と中心部とで結晶粒の差はあまり認められないが、実施例1は比較例1よりも結晶粒径が大きくなっている。これは、正確なことはわからないが、ビッカース硬さが110Hv〜160Hvであることから、結晶粒に歪みが残っており再結晶していないことが原因と考えられる。
Claims (4)
- Niからなるスパッタリングターゲットであって、表面から厚さ方向に60μmの深さにおけるビッカース硬さは、厚さ方向の中心におけるビッカース硬さを基準として、この中心のビッカース硬さとの差が±8%の範囲内であり、前記ビッカース硬さは115Hv以上155Hv以下であり、漏れ磁束密度のばらつきが12.98%以上14.99%以下であることを特徴とするNiスパッタリングターゲット。
- 表面粗さがRaで0.1μm以上3.2μm以下、Rzで0.4μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1記載のNiスパッタリングターゲット。
- Niからなる素材に熱間圧延加工を施した後にこれを冷却してNiスパッタリングターゲットを製造する方法であって、前記熱間圧延加工は、圧延開始時の素材温度が400℃以上1200℃以下で、1パス当たりの圧下率が30%以上となる圧延を含むことを特徴とするNiスパッタリングターゲットの製造方法。
- 前記熱間圧延加工の後に、表面を平面研磨することを特徴とする請求項3記載のNiスパッタリングターゲットの製造方法。
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