JP6332082B2 - 静電潜像現像用トナー - Google Patents

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Description

本発明は、静電潜像現像用トナー(特にカプセルトナー)及びその製造方法に関する。
例えば、特許文献1にカプセルトナーが記載されている。特許文献1に記載されるトナーは、相転移物質と光発熱物質とを含む芯剤(トナーコア)と、熱硬化性樹脂を主成分とする殻剤(シェル層)とを有する。シェル層は、トナーコアを被覆する。
しかしながら、特許文献1に記載される技術だけでは、低温定着性と耐熱保存性との両方に優れ、長期使用時においても画像濃度の低下を抑制したトナーを提供することは困難である。
特開2005−115194号公報
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、低温定着性と耐熱保存性との両方に優れ、長期使用時においても画像濃度の低下を抑制したトナーの提供及びそのトナーの製造方法の提供を目的とする。
本発明に係るトナーは、トナー母粒子とトナー母粒子の表面に付着した外添剤とを含有する。前記トナー母粒子は、トナーコアと、前記トナーコアの表面に形成されたシェル層とを有する。前記シェル層の硬度が1.0N/m2以上3.0N/m2以下である。前記シェル層の外添剤に対する付着力が4nN以上10nN以下である。
本発明に係るトナーの製造方法は、トナー母粒子を作製するステップと、前記トナー母粒子の表面に外添剤を付着させるステップとを含有する。前記トナー母粒子を作製するステップは、トナーコアとシェル材料と水性媒体とを混合して混合液を調製し、前記混合液の温度を、シェル層形成の開始温度まで上昇させた後、連続的又は断続的に低下することによりトナーコアの表面にシェル層を形成するステップを含む。
本発明によれば、低温定着性と耐熱保存性との両方に優れ、長期使用時においても画像濃度の低下が抑制されたトナー及びそのトナーの製造方法を提供することが可能となる。
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係るトナーは、静電潜像の現像に用いることができる。本実施形態のトナーは、多数の粒子(以下、トナー粒子と記載する)から構成される粉体である。本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)で用いることができる。
電子写真装置では、トナーを含む現像剤を用いて静電潜像を現像する。これにより、感光体上に形成された静電潜像に、帯電したトナーが付着する。そして、付着したトナーを中間転写体(例えば、中間転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、トナーを加熱して、記録媒体にトナーを定着させる。これにより、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(1)、(2)、及び(3)を有する。
(1)トナー母粒子がトナーコアと、トナーコアの表面に形成されたシェル層とを有する。
(2)シェル層の硬度が1.0N/m2以上3.0N/m2以下である。
(3)シェル層の外添剤に対する付着力が4nN以上10nN以下である。
構成(1)は、トナーの低温定着性及び耐熱保存性の両立を図るために有益である。詳しくは、トナーコアの表面がシェル層で被覆されることで、トナーの耐熱保存性が向上すると考えられる。
構成(2)は、トナーの低温定着性の向上と画像濃度低下の抑制とに有益である。構成(2)のシェル層の硬度が1.0N/m2以上であると、外添剤がトナー母粒子のシェル層に埋没しにくい傾向にある。ここで、埋没とは、外添剤がトナー母粒子のシェル層に埋まっており、露出していない状態を意味する。一方、3.0N/m2以下であると、外添剤とトナー母粒子との接触面積が大きくなり、外添剤がトナー母粒子から脱離しにくい傾向にある。このように、シェル層の硬度が上記数値範囲に含まれる場合、外添剤が埋没及び脱離しにくいため、トナー母粒子の表面への外添剤の付着を維持すると考えられる、このため、外添剤がトナー母粒子間のスペーサーとして機能する。また、外添剤がトナー母粒子と現像ローラーとの間のスペーサーとして機能する。外添剤がスペーサーとして機能することで、トナーの流動性が向上し、転写効率が保持され、画像濃度の低下が抑制されると考えられる。また、外添剤がトナー母粒子への付着を維持することで、トナーの帯電性が維持され、画像濃度の低下が抑制されると考えられる。さらに、3.0N/m2以下であると、シェル層の破壊が不十分であることに起因する定着不良が起きにくく、低温定着性に優れると考えられる。よって、構成(2)を満たすことにより、トナーの低温定着性が向上し、画像濃度の低下が抑制されると考えられる。
シェル層の硬度は、外添剤の脱離及び埋没を防止する観点から、1.3N/m2以上2.7N/m2以下であることが好ましく、1.8N/m2以上2.2N/m2以下であることがより好ましい。シェル層の硬度は、次のようにして算出する。まず、測定試料を作製する。トナー粒子をダイヤモンドカッターで切断する。続いて、切断したトナー粒子のトナーコア成分を、テトラヒドロフラン(THF)を用いて溶解させて除去する。得られたシェル層の殻単体を乾燥し測定試料を作製する。続いて、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、測定試料のシェル層のトナーコア側からAFM針を押圧する。シェル層が破れた際の押圧力を測定する。得られた測定値をシェル層の硬度とする。そして、同様に、トナー粒子1個につき10箇所の押圧力を測定する。同様の測定を、トナーからランダムに選択したトナー粒子10個に対して行う。得られた硬度の平均値をシェル層の硬度とする。
構成(3)は、画像濃度低下の抑制に有益である。構成(3)のシェル層の外添剤に対する付着力が4nN以上であると、外添剤がトナー母粒子から脱離しにくい傾向にある。一方、10nN以下であると、付着力が大きすぎずトナーが画像形成装置の部材(例えば、感光体、中間転写体、又は現像ロール)へ付着しにくい傾向にある。このように、シェル層の外添剤に対する付着力が上記数値範囲内に含まれる場合、トナー母粒子の表面への外添剤の付着を維持すると考えられる。このため、外添剤がトナー母粒子間のスペーサーとして機能する。また、外添剤がトナー母粒子と画像形成装置の部材との間のスペーサーとして機能する。外添剤がスペーサーとして機能することで、トナーの流動性が向上し、転写効率が保持され画像濃度の低下が抑制されると考えられる。また、トナー母粒子の表面への外添剤の付着を維持するため、トナーの帯電性が維持され、画像濃度の低下が抑制されると考えられる。また、トナーの上記部材への付着に起因する、画像濃度の低下が抑制されると考えられる。よって、構成(3)を満たすことにより、画像濃度の低下が抑制されると考えられる。
シェル層の外添剤に対する付着力は、外添剤の脱離を防止し、画像形成装置の部材への付着を防止する観点から、5nN以上9nN以下が好ましく、6nN以上8nN以下がより好ましい。シェル層の外添剤に対する付着力は、次のようにして算出する。まず、測定試料(トナー)を準備する。測定箇所は、トナーのうちシェル層が露出した箇所である。このため、後述するAFM針がトナー粒子のシェル層に接触できないほど、外添剤がトナー粒子の表面に付着している場合は、外添剤を除去して、測定試料を調製してもよい。例えば、トナーを水中に分散し超音波をかけて、外添剤を除去することができる。また、外添剤を付着する前のトナー母粒子を測定試料としてもよい。
続いて、AFMを用いて、AFM針の先端をトナー粒子のシェル層に接触させる。この状態で、AFM針がシェル層から離れるまで引き離し、引き離れた際のAFM針のたわみ量を測定する。得られたたわみ量から付着力を算出する。そして、同様に、トナー粒子1個につき10箇所のたわみ量を測定し、得られたたわみ量から付着力を算出する。同様の測定を、トナーからランダムに選択したトナー粒子10個に対して行い、得られたたわみ量から付着力を算出する。得られた付着力の平均値をシェル層の外添剤に対する付着力とする。
本実施形態に係るトナーの製造方法は、次に示す構成(4)を満たす。
(4)トナーコアとシェル材料と水性媒体とを混合して混合液を調製し、前記混合液の温度をシェル層の形成開始温度まで上昇させた後、混合液の温度を連続的又は断続的に低下させることによりトナーコアの表面にシェル層を形成しトナー母粒子を作製するステップ(シェル層形成工程)を含有する。
構成(4)は、構成(1)、(2)、及び(3)を満たすトナーを製造するために有益である。本実施形態において、シェル層の形成開始温度とは、シェル材料が重合反応を開始する温度を意味する。連続的に温度を低下させるとは、中断せずに温度を低下させ続けることを意味する。断続的に温度を低下させるとは、一定の温度(T1)を一定時間維持し、温度をT1からT2へ低下させ、さらに低下させた温度(T2)を一定時間維持し、温度をT2から室温(例えば、25℃)へ低下させることのように、温度を低下させる操作を少なくとも2回は含むことを意味する。
本実施形態に係るトナーの製造方法は、混合液の温度をシェル層の形成開始温度から低下させて、シェル層を形成するための材料(以下、シェル材料と記載する)を重合反応させる。このため、重合反応の初期は、重合反応の末期に比べ重合反応が進行し易い傾向にある。また、形成されるシェル層において、トナーコア近傍部は最表面部に比べ、シェル層を形成する樹脂の架橋密度が高く分子量も大きくなると考えられる。このため、混合液の温度を連続的又は断続的に低下させることで、構成(2)及び(3)を満たすシェル層が形成されると考えられる。
[トナー]
以下、トナーについて説明する。本実施形態に係るトナーは、トナー母粒子と外添剤とを含む。外添剤は、トナー母粒子の表面に付着する。ここで、付着の態様としては、例えば、外添剤がトナー母粒子の表面に接触している状態、外添剤がトナー母粒子の表面に露出しつつ埋まっている状態(半埋没状態)が挙げられる。これらのうち、外添剤の脱離を防止する観点から、外添剤が半埋没状態でトナー母粒子に付着する状態が好ましい。また、外添剤は、外添剤としての機能(例えば、帯電性、流動性、又は転写性)を発現し易い観点から、トナー母粒子の表面に均一に付着することが好ましい。
(トナー母粒子)
トナー母粒子について説明する。トナー母粒子は、トナーコアとシェル層とを有し、コアシェル構造を有する。シェル層は、トナーコアの表面に形成される。シェル層は、トナーコアの表面を被覆して形成されることが好ましい。
〈トナーコア〉
トナーコアについて説明する。トナーコアは、例えば、結着樹脂、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉)を含むことができる。
−トナーコアの結着樹脂−
トナーコアにおいては、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占めることが多い。このため、結着樹脂の性質(例えば、極性)がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。例えば、結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基、アミン、又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。結着樹脂が強いアニオン性を有するためには、結着樹脂の水酸基価(OHV値)及び酸価(AV値)がそれぞれ10mgKOH/g以上であることが好ましく、20mgKOH/g以上であることがより好ましい。トナーコアが強いアニオン性を有するためには、トナーコアが窒素元素を含有しないことが好ましい。
結着樹脂としては、エステル基、水酸基、エーテル基、酸基、メチル基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基を有する樹脂が好ましく、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂がより好ましい。このような官能基を有する結着樹脂は、シェル材料(例えば、メチロールメラミン)と反応して化学的に結合し易い。こうした化学的な結合が生じると、トナーコアとシェル層との結合が強固になる。また、結着樹脂としては、活性水素を含む官能基を分子中に有する樹脂も好ましい。
結着樹脂のガラス転移点(Tg)は、30℃以上60℃以下であることが好ましく、35℃以上55℃以下であることがより好ましい。結着樹脂のガラス転移点(Tg)は、シェル材料の重合開始温度以下であることが好ましい。こうしたTgを有する結着樹脂を用いる場合には、高速定着時においてもトナーの低温定着性が劣化しにくいと考えられる。
結着樹脂のTgは、例えば示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。より具体的には、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて試料(結着樹脂)の吸熱曲線を測定することで、得られた吸熱曲線における比熱の変化点から結着樹脂のTgを求めることができる。
結着樹脂の軟化点(Tm)は、60℃以上150℃以下であることが好ましく、70℃以上140℃以下であることがより好ましい。なお、異なるTmを有する複数の樹脂を組み合わせることで、結着樹脂のTmを調整することができる。
結着樹脂のTmは、例えば高化式フローテスターを用いて測定できる。より具体的には、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)に試料(結着樹脂)をセットし、所定の条件で結着樹脂を溶融し、流出させる。そして、結着樹脂のS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)を測定する。得られたS字カーブから結着樹脂のTmを読み取ることができる。得られたS字カーブにおいて、ストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とすると、S字カーブ中のストロークの値が「(S1+S2)/2」となる温度(℃)が、測定試料(結着樹脂)のTmに相当する。
結着樹脂の溶解指数(SP値)は10以上30以下であることが好ましく、15以上25以下であることがより好ましい。結着樹脂のSP値が10以上30以下であると、水のSP値(23)に近づくので、結着樹脂の水性媒体への濡れ性が向上する。そのため、分散剤を用いなくても、トナーコアを均一に水性媒体に分散し易くなる。
結着樹脂としては、トナーの低温定着性の観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。結着樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂)、ビニル樹脂(より具体的には、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ビニルエーテル樹脂、又はN−ビニル樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、スチレン−アクリル酸系樹脂、又はスチレン−ブタジエン系樹脂のような熱可塑性樹脂を好適に使用できる。中でも、スチレン−アクリル酸系樹脂及びポリエステル樹脂はそれぞれ、トナー中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、及び記録媒体に対するトナーの低温定着性に優れる。なお、1つの化合物が上記材料の種類(スチレン系樹脂等)の二以上に属する場合がある。例えば、ポリスチレン樹脂は、スチレン系樹脂にもビニル樹脂にも属する。また、熱可塑性樹脂に熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を添加してもよい。なお、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
以下、結着樹脂として用いることのできるポリエステル樹脂について説明する。なお、ポリエステル樹脂は、2価又は3価以上のアルコールと2価又は3価以上のカルボン酸とを縮重合又は共縮重合させることで得られる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価アルコールとしては、ジオール類又はビスフェノール類が好ましい。
ジオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールを好適に使用できる。
ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレンビスフェノールA(例えば、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物)、又はポリオキシプロピレンビスフェノールAを好適に使用できる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる3価以上のアルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが好ましい。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸(パラフタル酸)、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸)、又はアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸)が好ましい。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が好ましい。
上記2価又は3価以上のカルボン酸は、エステル形成性の誘導体(例えば、酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステル)として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1〜6のアルキル基を意味する。
ポリエステル樹脂を調製する際に、アルコールの使用量とカルボン酸の使用量とをそれぞれ変更することで、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価を調整することができる。ポリエステル樹脂の分子量を増加させると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、トナーの低温定着性を向上させるためには、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であり、ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)が9以上21以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(例えば、東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)を用いることができる。
結着樹脂が結晶性ポリエステル樹脂である場合には、ポリエステル樹脂の結晶性指数が0.90以上1.10未満であることが好ましく、ポリエステル樹脂の結晶性指数が0.98以上1.05以下であることがより好ましい。なお、結晶性指数は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比(軟化点/吸熱の最高ピーク温度)に相当する。ポリエステル樹脂の結晶性指数が1.5を超えると、ポリエステル樹脂の大部分が非晶質になる傾向がある。ポリエステル樹脂の結晶性指数が0.6未満であると、結晶性が低い(非晶部分が多い)ポリエステル樹脂になる傾向がある。結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数は0.6以上1.5以下である。
ポリエステル樹脂の結晶化を促進するためには、ポリエステル樹脂のアルコール成分のうち、80モル%以上のアルコール成分が炭素数2以上10以下の脂肪族ジオールであることが好ましく、90モル%以上のアルコール成分が炭素数2以上10以下の脂肪族ジオールであることがより好ましい。また、ポリエステル樹脂の結晶化を促進するためには、ポリエステル樹脂のアルコール主成分(アルコール成分のうち、最も多い単一の化合物)の含有量が、アルコール成分全体の70モル%以上であることが好ましく、アルコール成分全体の90モル%以上であることがより好ましく、アルコール成分全体の100モル%であることがさらに好ましい。
ポリエステル樹脂の結晶化を促進するためには、ポリエステル樹脂のカルボン酸成分のうち、80モル%以上のカルボン酸成分が炭素数2以上16以下の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、90モル%以上のカルボン酸成分が炭素数2以上16以下である脂肪族ジカルボン酸であることがより好ましい。また、ポリエステル樹脂の結晶化を促進するためには、ポリエステル樹脂のカルボン酸主成分(カルボン酸成分のうち、最も多い単一の化合物)の含有量が、カルボン酸成分全体の70モル%以上であることが好ましく、カルボン酸成分全体の90モル%以上であることがより好ましく、カルボン酸成分全体の100モル%であることがさらに好ましい。
結着樹脂が結晶性ポリエステル樹脂である場合、トナーの低温定着性を向上させるためには、結晶性ポリエステル樹脂の融点が50℃以上100℃以下であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点は、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
トナーコアに含まれる樹脂のうち、70質量%以上の樹脂がポリエステル樹脂であることが好ましく、90質量%以上の樹脂がポリエステル樹脂であることがより好ましく、100質量%の樹脂がポリエステル樹脂であることがさらに好ましい。結着樹脂は、実質的に結晶性ポリエステル樹脂のみであってもよいし、実質的に非結晶性ポリエステル樹脂のみであってもよい。また、トナーコアは、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂との両方を、結着樹脂として含有することができる。非結晶性ポリエステル樹脂に対する結晶性ポリエステル樹脂の比率(結晶性ポリエステル樹脂の質量/非結晶性ポリエステル樹脂の質量)は、1以下であることが好ましい。
−トナーコアの着色剤−
トナーコアは、着色剤を含んでいてもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。着色剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
−トナーコアの離型剤−
トナーコアは、融点50℃以上100℃以下の離型剤を含むことができる。離型剤は、例えば、トナーの低温定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーコアのアニオン性を強めるためには、例えば、アニオン性を有するワックスを用いてトナーコアを作製することが好ましい。トナーの低温定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
離型剤としては、エステルワックス(より具体的には、合成エステルワックス又は天然エステルワックス)が好ましく、合成エステルワックスがより好ましい。離型剤として合成エステルワックスを使用することで、離型剤の融点を所望の範囲に調整し易くなる。合成エステルワックスは、例えば、酸触媒の存在下でアルコールとカルボン酸とを反応させることで、合成できる。また、合成エステルワックスは、例えば、カルボン酸ハライドとアルコールとを反応させることで、合成できる。合成エステルワックスの原料は、例えば、天然油脂から調製される長鎖脂肪酸のような、天然物に由来する物質であってもよいし、市販されている合成品であってもよい。天然エステルワックスとしては、例えば、カルナバワックス又はライスワックスが好ましい。
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックス又は酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;フッ素樹脂系ワックス;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物系ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物系ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。一種の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。なお、結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
−トナーコアの電荷制御剤−
トナーコアは、電荷制御剤を含んでいてもよい。電荷制御剤は、例えばトナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。また、トナーコアに負帯電性の電荷制御剤を含ませることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
正帯電させたトナーを用いて現像する場合には、正帯電性の電荷制御剤を使用することが好ましく、負帯電させたトナーを用いて現像する場合には、負帯電性の電荷制御剤を使用することが好ましい。正帯電性又は負帯電性の電荷制御剤の使用量は、トナー100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましく、1質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、電荷制御剤を使用しなくてもよい。例えば、シェル層中に帯電機能を有する成分が含まれる場合には、トナーコアに電荷制御剤を添加しなくてもよい。
−トナーコアの磁性粉−
トナーコアは、磁性粉を含んでいてもよい。磁性粉としては、例えば、鉄(より具体的には、フェライト又はマグネタイト)、強磁性金属(より具体的には、コバルト又はニッケル)、鉄及び/又は強磁性金属を含む合金、強磁性化処理(例えば、熱処理)が施された強磁性合金、又は二酸化クロムを好適に使用できる。一種の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
1成分現像剤においてトナーを使用する場合、磁性粉の使用量は、トナー100質量部に対して、35質量部以上60質量部以下であることが好ましく、40質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。2成分現像剤においてトナーを使用する場合、磁性粉の使用量は、トナー100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
〈シェル層〉
シェル層は上記構成(2)を満たす。さらに、シェル層の最表面部の硬度が、シェル層のトナーコア近傍部の硬度よりも小さい方が好ましい。シェル層がこのような硬度の関係を有すると、外添剤がトナー母粒子に埋没しにくく、トナー母粒子から脱離しにくい。このような硬度の関係は、例えば、シェル層の厚さ方向に対して、連続的に又は断続的にシェル層の硬度を変化させることで、実現できる。詳しくは、シェル層の硬度が、シェル層のトナーコア近傍部から最表面部へ向かって、連続的又は断続的に減少する態様である。例えば、シェル層を構成する樹脂の架橋密度又は分子量を、連続的若しくは断続的に変化させることができる。後述するように、重合条件(例えば、モノマー、又はプレポリマーのようなシェル材料の濃度若しくは種類、重合温度、又は重合時間)を連続的又は断続的に変化させることで、構成(2)を満たし易いシェル層を形成できる。一種のシェル材料を単独で使用してもよいし、複数種のシェル材料を使用してもよい。プレポリマーとしては、例えば、オリゴマーが挙げられる。ここで、断続的に変化する硬度は、例えば、複数の層を積層してシェル層を形成することで実現できる。
シェル層の最表面部及びトナーコア近傍部の硬度は、次のようにして算出する。まず、測定試料を作製する。トナー粒子をダイヤモンドカッターで切断し、切断したトナー粒子を固定する。AFMを用いて、切断面のシェル層のトナーコア近傍部及び最表面部の硬度を測定する。ここで、シェル層のトナーコア近傍部とは、シェル層の厚さ方向(トナーコアとシェル層との境界面からシェル層への方向)に1nm以内の領域をいう。また、シェル層の最表面部とは、シェル層の厚さ方向(トナー母粒子の最表面からシェル層への方向)に1nm以内の領域をいう。原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、測定試料のシェル層のトナーコア側からAFM針(探針)を押圧する。シェル層が破れた際の押圧力を測定する。この際の押圧力をシェル層のトナーコア近傍の硬度とする。測定試料のシェル層の最表面側からAFM針を押圧する。シェル層が破れた際の押圧力を測定する。この際の押圧力をシェル層の最表面部の硬度とする。同様に、トナー粒子1個につき10箇所のそれぞれの硬度を測定する。同様の測定を、トナーからランダムに選択したトナー粒子10個に対してそれぞれ行う。得られた硬度の平均値を、それぞれシェル層のトナーコア近傍部の硬度及びシェル層の最表面部の硬度とする。
本実施形態に係るトナーは、前述の構成(1)、(2)、及び(3)を有する。シェル層は、例えば、単層体、又は2層以上の層を積層して形成した積層体で構成することができる。単層体は、例えば、同一種の樹脂で構成することができる。単層体は、積層体の層間境界面を明確に判別できない、実質的に積層体であるシェル層も含む。積層体は、シェル層が2層の積層体で構成される場合、トナーコアの表面に形成された第1の層と、第1の層の表面に形成された第2の層とから構成される。積層体は、例えば、同一種の樹脂、又は異種の樹脂で形成することができる。積層体の層間結合を強固にする観点及びシェル層の形成を簡便にする観点から、同一種の樹脂が好ましい。シェル層が積層体である場合、積層体は、例えば、トナー粒子の断面のTEM撮影像により、観察することができる。
シェル層の厚さは、6nm以上20nm以下であることが好ましく、8nm以上16nm以下であることがより好ましく、9nm以上14nm以下であることがさらに好ましい。シェル層の厚さが6nm以上20nm以下であると、外添剤がトナー母粒子から脱離しにくく、外添剤がシェル層に埋没しにくい。また、シェル層が6nm以上20nm以下であると、シェル層が構成(2)及び(3)を満たし易い。
また、例えば、シェル層が2層の積層体で構成される場合、第1の層及び第2の層の厚さは、それぞれ3nm以上10nm以下であることが好ましい。特に、第2の層の厚さが3nm以上10nm以下であると、外添剤が脱離又は埋没を起こしにくい。なお、シェル層の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてトナー粒子の断面のTEM撮影像を解析することによって計測できる。
シェル層は、実質的に熱硬化性樹脂から構成されてもよいし、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含有していてもよい。シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合、熱硬化性樹脂に窒素元素を含有させることが好ましい。熱硬化性樹脂に窒素元素を含ませることで、熱硬化性樹脂の硬化機能を向上させることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、アミノ樹脂が挙げられる。アミノ樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、スルホンアミド樹脂、グリオキザール樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、又はこれら各樹脂の誘導体を好適に使用できる。ポリイミド樹脂は、窒素元素を分子骨格に有する。このため、ポリイミド樹脂を含むシェル層は、強いカチオン性を有し易い。ポリイミド樹脂としては、マレイミド系重合体、又はビスマレイミド系重合体(より具体的には、アミノビスマレイミド重合体又はビスマレイミドトリアジン重合体)を好適に使用できる。
シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合、熱硬化性樹脂としては、アミノ基を含む化合物とアルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)との重縮合によって生成される樹脂が特に好ましい。なお、メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂は、尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂は、グリオキサールと尿素との反応生成物と、ホルムアルデヒドとの重縮合物である。熱硬化性樹脂の調製には、メチロールメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、スピログアナミン、及びジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)からなる群より選択される1種以上のモノマーを使用できる。
シェル層が熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含む場合には、シェル層において熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂で架橋されてもよい。こうしたシェル層は、熱可塑性樹脂に基づく適度な柔軟性と、熱硬化性樹脂が形成する三次元の架橋構造に基づく適度な機械的強度との両方を兼ね備えると考えられる。
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との割合は任意である。熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との割合の例としては、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、2:1、3:1、4:1、又は5:1(それぞれ質量比で、熱可塑性樹脂:熱硬化性樹脂)が挙げられる。構成(2)又は(3)を満たすために、例えば、シェル層における上記割合は、シェル層の厚み方向に対して異なってもよい。
熱硬化性樹脂に窒素元素を含ませることで、熱硬化性樹脂の架橋硬化機能を向上させることができる。熱硬化性樹脂の反応性を高めるためには、メラミン樹脂では40質量%以上55質量%以下に、尿素樹脂では40質量%程度に、グリオキザール樹脂では15質量%程度に、窒素元素の含有量を調整することが好ましい。
熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂の官能基(例えば、メチロール基、又はアミノ基)と反応し易い官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、又はグリシジル基)を有することが好ましい。アミノ基は、カルバモイル基(−CONH2)として熱可塑性樹脂中に含まれてもよい。
熱可塑性樹脂としては、水溶性を有する樹脂が好ましく、極性官能基を有するモノマー(例えば、グリコール、カルボン酸、又はマレイン酸)を含む水溶性の樹脂が特に好ましい。極性官能基を有する熱可塑性樹脂は、高い反応性を有する。水溶性を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース(又はその誘導体)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、又はポリエチレンオキサイドが好ましい。
熱可塑性樹脂はアクリル成分を含むことが好ましく、反応性アクリレートを含むことがより好ましい。アクリル成分を含む熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂と反応し易いため、シェル層の膜質を向上させることができると考えられる。熱可塑性樹脂は、2HEMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)を含むことが特に好ましい。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、シリコーン−アクリル酸系グラフト共重合体、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、又はエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。熱可塑性樹脂としては、アクリル酸系樹脂、スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、又はシリコーン−アクリル酸系グラフト共重合体が好ましく、アクリル酸系樹脂がより好ましい。なお、(メタ)アクリルは、メタクリル及びアクリルの包括的な総称である。
シェル層へ熱可塑性樹脂を導入するためのアクリル酸系モノマーとしては、アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、又は(メタ)アクリル酸n−ブチルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニルのような(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルのような(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸のエチレンオキシド付加物;(メタ)アクリル酸エステルのエチレンオキシド付加物のアルキルエーテル(より具体的には、メチルエーテル、エチルエーテル、n−プロピルエーテル、又はn−ブチルエーテル)を好適に使用できる。一種のアクリル酸系モノマーを単独で使用してもよいし、複数種のアクリル酸系モノマーを併用してもよい。
(外添剤)
外添剤は、トナー母粒子の表面に付着している。外添剤は、主にトナーの流動性、転写性、帯電性を向上させるために使用される。特に、トナーの転写性及び帯電性を維持することで、長期的使用時においても画像濃度の低下を抑制できる。トナーの転写性又は帯電性を向上させるためには、外添剤の使用量は、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。また、トナーの転写性又は帯電性を向上させるためには、外添剤の粒子径は0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
外添剤としては、例えば、シリカ又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム)を好適に使用できる。一種の外添剤を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤を併用して使用してもよい。
[トナーの製造方法]
次に、本実施形態に係るトナーの製造方法の一例について説明する。本実施形態に係るトナーの製造方法は、トナー母粒子を作製するステップ(トナー母粒子作製工程)と、作製したトナー母粒子に外添剤を付着させるステップ(外添剤付着工程)とを含む。
(トナー母粒子作製工程)
まず、トナー母粒子作製工程について説明する。トナー母粒子の製造方法は、トナーコアの表面にシェル層を形成するステップ(シェル層形成工程)を含有する。シェル層形成工程は、トナーコアとシェル材料と水性媒体とを混合して混合液を調製し、混合液の温度をシェル層の形成開始温度まで上昇した後、混合液の温度を連続的又は断続的に低下させる。なお、トナー母粒子作製工程は、トナーコア作製工程を含有してもよい。
〈トナーコア作製工程〉
まず、トナーコアを準備する。本実施形態に係るトナーの製造方法は、トナーコア作製工程を含有してもよい。トナーコア作製工程は、溶融混練法又は凝集法を用いて、結着樹脂を含むトナーコアを作製する。溶融混練法では、まず、結着樹脂と、必要に応じて添加される内添剤とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。溶融混練時の条件(例えば、溶融混練時の回転速度、又は温度)を適宜調整してもよい。
凝集法では、結着樹脂と、必要に応じて添加される内添剤とを含む微粒子を水性媒体中で凝集させて凝集粒子を得る。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。これにより、トナーコアを含む分散液が得られる。その後、得られた分散液から不要な物質(分散剤等)を除去することで、トナーコアが得られる。
〈シェル層形成工程〉
シェル層は、次に示す(4−1)及び(4−2)の順で形成される。
(4−1)トナーコアとシェル材料と水性媒体とを混合して混合液を調製する。
(4−2)トナーコアの表面にシェル材料を付着させ、重合反応(表面重合)によりシェル層を形成する。
まず、(4−1)について説明する。トナーコアとシェル材料と水性媒体とを混合して混合液を調製する。その一例として、シェル材料の溶液を調製し、続いてトナーコアを添加して分散させた混合液を調製する。この場合、まず、シェル材料の溶液を調製する。トナーコアを構成する成分(例えば、結着樹脂)の溶解又は溶出を抑制する観点から、水性媒体中でシェル層を形成することが好ましい。このため、シェル材料の溶液の溶媒は、水性媒体(例えば、水)が好ましい。水性媒体のpHを、所定のpH(以下、シェル層形成時のpHと記載する)に調製してもよい。シェル層形成時のpHは、シェル層の形成を促進する観点から、3以上5以下(弱酸性)であることが好ましく、4であることが特に好ましい。
シェル材料は、媒体として水性媒体が好ましい観点から、水溶性であることが好ましい。シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合には、シェル材料として、熱硬化性樹脂を形成するための材料(例えば、水溶性メチロールメラミン)を添加する。シェル層が実質的に複合樹脂(熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂)から構成される場合には、シェル材料として、熱可塑性樹脂を形成するための材料と、熱硬化性樹脂を形成するための材料とを添加する。
続けて、得られたシェル材料の溶液にトナーコアを添加する。トナーコアの表面にシェル材料を均一に付着させるためには、シェル材料の溶液中にトナーコアを高度に分散させることが好ましい。シェル材料の溶液中にトナーコアを高度に分散させるために、シェル材料の溶液中に分散剤を含ませてもよいし、強力な攪拌装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスディスパーミックス」)を用いてもよい。これによりトナーコアが分散し、シェル材料が溶解した混合液を得る。
次に、(4−2)について説明する。得られた混合液を攪拌しながら混合液の温度を所定の速度でシェル層の所定の形成開始温度まで上昇させる。これにより、トナーコアの表面にシェル材料が付着し、重合反応が開始される。シェル層の形成開始温度まで上昇させる速度としては、例えば、0.1℃/分以上3℃/分以下から選ばれる速度が挙げられる。また、シェル層の形成開始温度としては、例えば、30℃以上100℃以下から選ばれる温度が挙げられる。
トナーコアの極性とシェル材料の極性とが逆極性であることが好ましい。逆極性であれば、トナーコアとシェル材料とが互いに電気的に引き付けあい、トナーコアの表面にシェル材料が付着し易いためである。また、逆極性であれば、分散剤を用いなくても、トナーコア表面に均一なシェル層を形成し易くなるからである。
逆極性の態様としては、例えば、トナーコアがアニオン性でありシェル材料がカチオン性である態様、又はトナーコアがカチオン性でありシェル材料がアニオン性である態様を挙げられる。トナーコアは、前述のように特定の官能基を有することにより、アニオン性又はカチオン性の極性を有することができる。また、トナーコアは、極性を有する内添剤(例えば、帯電制御剤、又は極性を有する離型剤)を含むことで極性を有することができる。シェル材料は、トナーコアと同様に特定の官能基を有することにより、アニオン性又はカチオン性の極性を有することができる。また、シェル材料は、例えば、前述のように分子骨格に窒素元素を有することによりカチオン性を有することができる。
アニオン性又はカチオン性の大きさを示す指標としては、ゼータ電位を用いることができる。例えば、pHが4に調整された25℃の水性媒体中で測定される粒子(例えば、トナーコア又はトナー粒子)のゼータ電位が負極性(0V未満)を示す場合には、その粒子はアニオン性を有する。なお、本実施形態において、pH4は、シェル層を形成する時(重合時)のトナーコア分散液(水性媒体)のpHに相当する。ゼータ電位は、例えば、電気泳動法、超音波法、又はESA(電気音響)法により好適に測定できる。
続けて、上昇させた混合液の温度を、混合液を攪拌しながらシェル層の形成開始温度に所定の時間、維持する。シェル層の形成開始温度を維持する時間としては、例えば、30分間以上2時間以下の時間が挙げられる。その後、混合液の温度を連続的又は断続的に低下させて、トナーコアの表面にシェル層を形成する。これによりトナー母粒子の分散液を得る。混合液の温度はシェル層の形成開始温度の範囲内である。シェル層の形成開始温度としては、例えば、30℃以上100℃以下の温度が挙げられる。シェル層の形成開始温度は、40℃以上95℃以下であることが好ましく、50℃以上80℃以下であることがより好ましい。連続的に重合温度を低下させることとしては、例えば、70℃から60℃へ低下させ続けることが挙げられる。断続的に重合温度を低下させることとしては、例えば、70℃を維持し10℃低下させ60℃を維持することが挙げられる。前述のように、このように構成(4)を満たし重合反応の進行を制御することにより、構成(1)を満たしつつ、構成(2)及び(3)を満たすトナーを製造させることができる。
さらに、シェル層が構成(2)及び(3)を満たし易くするために、重合温度以外の重合条件を変化させてもよい。重合温度以外の重合条件としては、例えば、シェル材料の濃度若しくは種類、又は重合時間が挙げられる。詳しくは、重合温度以外の重合条件を連続的又は断続的に変化させることができる。重合温度以外の重合条件としては、例えば、シェル材料の濃度若しくは種類、又は重合時間が挙げられる。
例えば、シェル材料の濃度では、重合温度を断続的に低下させる場合、温度T1でのシェル材料の濃度を、温度T2(T2<T1)でのシェル材料の濃度よりも高くすることが挙げられる。一方、重合温度を連続的に低下させる場合、例えば、シェル濃度を連続的に減少させることが挙げられる。
例えば、シェル材料の種類では、重合温度を断続的に低下させる場合、温度T1で形成される層の硬度が、温度T2で形成される層の硬度よりも高くするようなシェル材料の種類が挙げられる。一方、重合温度を連続的に低下させる場合、例えば、2種以上のシェル材料の比率を連続的に変化させることが挙げられる。より具体的には、熱可塑性樹脂のモノマーに対する熱硬化性樹脂のモノマーの割合を、連続的に減少させることが挙げられる。
例えば、重合時間では、重合温度を断続的に低下させる場合、温度T1に維持する時間を温度T2に維持する時間より長くすることができる。より具体的には、70℃を2時間維持し、60℃に低下させ、60℃を1時間維持し、室温(例えば、25℃)に低下することが挙げられる。
シェル層形成時における混合液の温度がトナーコアのガラス転移点(Tg)以上になると、トナーコアが変形し易い。例えば、トナーコアの結着樹脂のTgが45℃であり、シェル層に含まれる熱硬化性樹脂がメラミン樹脂である場合には、混合液の温度が50℃付近まで上昇すると、急速にシェル材料(特に、熱硬化性樹脂を形成するための材料)の硬化反応が促進され、トナーコアが変形する傾向がある。高温でシェル材料を反応させると、シェル層が硬くなり易い。シェル層形成時の液温を高くすると、トナーコアの変形が促進され、トナー母粒子の形状が真球に近づく傾向がある。トナー母粒子が所望の形状になるようにシェル層形成時の液温を調整することが望ましい。
上記のようにしてシェル層を形成した後、アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)を用いてトナー母粒子の分散液を中和することができる。続けて、中和した分散液を冷却する。続けて、冷却した分散液をろ過する。これにより、トナー母粒子が分散液から分離(固液分離)される。続けて、得られたトナー母粒子を水等で洗浄する。続けて、洗浄されたトナー母粒子を乾燥することができる。
(外添剤付着工程)
外添剤付着工程は、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。これによりトナーが得られる。トナー母粒子に外添剤を付着させる方法は、公知の方法を使用することができる。
〔実施例1〕
(トナーコアの作製)
ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物にパラフタル酸を添加し、加熱してポリエステル樹脂(PES)を作製した。得られたポリエステル樹脂の水酸基価(OHV)値は20mgKOH/g、酸価(AV)値は40mgKOH/g、Tmは100℃、及びTgは48℃であった。このポリエステル樹脂100gに対し、シアン顔料(山陽色素株式会社製、C.I.ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン))を5g、及び離型剤(日油株式会社製「エステルワックスWEP−3」)を5g配合し、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20」)を用いて、回転数2000rpmの条件で4分間混合した。得られた混合物を、2軸押出混練機(池貝鉄工株式会社製「PCM−30型」)を用いて、溶融混練温度(シリンダー温度)120℃、回転数150rpm、及び処理速度100g/分の条件で溶融混練した。得られた溶融混練物(チップ)を粉砕機(ホソカワケミクロン社株式会社製「ロートプレックス(登録商標)16/8型」)で粗粉砕した。得られた粗粉砕物を粉砕機(フロイントターボ株式会社製「ターボミルT250」)にて6μmに微粉砕した。その後、得られた微粉砕物を分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)にて分級し、平均粒径6μmのトナーコア1を得た。平均粒径の測定には、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製「コールカウンターマルチタイザー3」)を用いた。
トナーコア1の形状を測定したところ、円形度は0.93であった。トナーコア1のTgは49℃、Tmは90℃であった。このトナーコア1について帯電を測定すると−20μC/gであった。さらにpH4でのデータ電位の測定では−15mVであり、明らかなアニオン性を示した。
(シェル層の作製)
〈第1の層の形成〉
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを準備し、フラスコをウォーターバスにセットした。そして、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、フラスコ内にイオン交換水300mLを添加した。続けて、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水性媒体(イオン交換水)のpHを4に調整した。
続けて、フラスコ内に水溶性メチロールメラミン(昭和電工株式会社製「ミルベン(登録商標)レジンSM−607」、固形分濃度80質量%、固形分濃度80質量%)1.5mLを添加し、フラスコ内容物を攪拌して水溶性メチロールメラミンを水性媒体に溶解させた。これにより、シェル材料が溶解した酸性水溶液を調製した。
続けて、フラスコ内(シェル材料が溶解した酸性水溶液中)に、前述の手順で作製した300gのトナーコア1を添加し、回転速度200rpm及び温度40℃の条件で、フラスコ内容物を1時間攪拌した。続けて、フラスコ内にイオン交換水300mLを追加し、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながら1℃/分の速度でフラスコ内の温度を70℃(シェル層の形成開始温度)まで上げた。フラスコ内の温度をシェル層の形成開始温度(温度70℃)に保持し、回転速度100rpmでフラスコ内容物を2時間攪拌した。これにより、トナーコア1の表面に第1の層が形成され、第1の層が形成されたトナーコア分散液が得られた。
〈第2の層の形成〉
得られた第1の層が形成されたトナーコア分散液の温度を60℃まで冷却し、フラスコ内に水溶性メチロールメラミン2mLを添加し、温度60℃及び回転速度100rpmの条件でフラスコ内容物を1時間攪拌した。その後、トナー母粒子分散液を室温(25℃)まで冷却した。これにより、第1の層の表面に第2の層が形成され、第1の層及び第2の層をシェル層として有するトナー母粒子分散液が得られた。
(トナー母粒子の回収)
得られたトナー母粒子分散液に水酸化ナトリウムを添加し、トナー母粒子分散液のpHを7に調整した。pHが7であるトナー母粒子分散液をろ過(固液分離)して、トナー母粒子を含むウェットケーキを得た。ウェットケーキをイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを繰り返して、洗浄した。続けて、トナー母粒子を乾燥した。
(外添剤付着)
乾燥したトナー母粒子100gと乾式シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製「REA90」)0.5gとを混合することにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子)を付着させ、トナー1を得た。トナー1の作製条件について表1にまとめた。トナー1について、耐熱保存性(耐ブロッキング性)、低温定着性、及び画像濃度の評価を行い、その結果を表2にまとめた。
〔実施例2〕
第1の層を形成するための水溶性メチロールメラミン添加量を2mLに変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー2を得た。
〔実施例3〕
第1の層を形成するための水溶性メチロールメラミン添加量を3mLに変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー3を得た。
〔実施例4〕
第2の層を形成するための水溶性メチロールメラミン添加量を1mLに変更した以外は、実施例2と同様にしてトナー4を得た。
〔実施例5〕
第2の層を形成するための水溶性メチロールメラミン添加量を3mLに変更した以外は、実施例2と同様にしてトナー5を得た。
〔実施例6〕
第2の層の形成における攪拌時間を30分に変更した以外は、実施例2と同様にしてトナー6を得た。
〔実施例7〕
第2の層の形成における攪拌時間を80分に変更した以外は、実施例2と同様にしてトナー7を得た。
〔比較例1〕
第1の層を形成するための水溶性メチロールメラミン添加量を1mLに変更した以外は、実施例1と同様にしてトナーR1を得た。
〔比較例2〕
第1の層を形成するための水溶性メチロールメラミン添加量を4mLに変更した以外は、実施例1と同様にしてトナーR2を得た。
〔比較例3〕
シェル層形成工程を経ない以外は、実施例1と同様にしてトナーR3を得た。トナーR3ではシェル層が観察されなかった。
〔比較例4〕
「ポリエステル樹脂」を、「スチレンアクリル共重合体(StAc)」に変更し、「ポリエステル樹脂100gに対する、シアン顔料5g、及び離型剤5gの配合」を、「スチレンアクリル共重合体100gに対する、シアン顔料5g、離型剤(日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−9」PEワックス)5g、及び帯電制御剤(クラリアント社製「P51」)2gの配合」に変更した以外は、実施例2と同様にしてトナーR4を得た。なお、上記スチレンアクリル共重合体は、モル比80/20(スチレン/アクリル酸メチル)で溶液重合法を用いて作製した。スチレンアクリル共重合体のAV値は2mgKOH/g、Tmは100℃、及びTgは48℃であった。トナーコアの円形度は0.93であった。トナーコアについて帯電を測定すると+10μC/gであった。さらにpH4でのゼータ電位の測定では、トナーコアのゼータ電位は+20mVであり、弱カチオン性を示した。
〔比較例5〕
第2の層の形成における攪拌時間を20分に変更した以外は、実施例2と同様にしてトナーR5を得た。
〔比較例6〕
第2の層の形成における攪拌時間を100分に変更した以外は、実施例2と同様にしてトナーR6を得た。
[評価方法]
各試料の評価方法は以下の通りである。
(シェル層の外添剤に対する付着力)
前述の算出方法に基づいて、シェル層の外添剤に対する付着力を算出した。走査型プローブ顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製「S−image」)を用いて、以下に示す測定条件で押圧力を測定した。
・測定ユニット:100μm(Small Unit)
・測定探針:オリンパス株式会社製「OMCL−AC−240TS−C3」(バネ定数=2N/m)
・測定モード:SIS−DFM(共振モード)、AFM(フォースカーブ測定)
・測定範囲:1μm×1μm
・解像度:Xデータ=256、Yデータ=256
(シェル層の硬度)
前述の算出方法に基づいて、シェル層の硬度を算出した。走査型プローブ顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製「S−image」)を用いて、以下に示す測定条件で押圧力を測定した。
・測定ユニット:100μm(Small Unit)
・測定探針:オリンパス株式会社製「OMCL−AC−240TS−C3」(バネ定数=2N/m)
・測定モード:SIS−DFM(共振モード)、AFM(フォースカーブ測定)
・測定範囲:1μm×1μm
・解像度:Xデータ=256、Yデータ=256
(シェル層の膜厚)
まず、トナー及び樹脂(常温硬化性のエポキシ樹脂)を混合して、トナーが十分分散した混合物を調整した。得られた混合物を、トナーが十分分散した状態で40℃で2日間放置し、硬化させた。これによりトナーが樹脂に包埋した硬化物を得た。得られた硬化物を四酸化オスミウムで染色した。染色した硬化物から、ミクロトーム(ライカ株式会社製「EMUC6」)を用いて、薄片状試料を調製した。得られた薄片状試料について、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて、トナーの断面の画像を撮影し、シェル層の膜厚を算出した。
また、シェル層の膜厚が5nm以下である場合は、さらに、電子エネルギー損失分光(EELS)を組み合わせた方法(TEM−EELS)で、シェル層に含まれる元素を対象として、マッピングを行うことで膜厚を算出した。また、シェル層の膜厚が1nm以下である場合は、エネルギー分散型X線分光(EDX)を組み合わせた方法(TEM−EELS)で、シェル層に含まれる元素を対象として、マッピングを行うことで膜厚を算出した。本実施例及び比較例では、窒素元素のマッピングを行った。
(トナーコアの帯電量)
まず、測定試料を調製した。標準キャリア(日本画像学会提供「負帯電極性トナー用標準キャリアN−01」)100g、トナーコア7gを、混合装置(WAB社製「ターブラー(登録商標)ミキサー」)に投入し30分間混合した。得られた混合物を測定試料(現像剤)とした。続いて、トナーコアの摩擦帯電量を測定した。測定試料について、トナーコアと標準キャリアとを摩擦させた場合のトナーコアの摩擦帯電量を、Q/mメーター(トレック社製「MODEL 210HS−2A」)を用いて測定した。得られたトナーコアの帯電量から、トナーコアの帯電性を以下の基準で評価した。
アニオン性(負帯電性):帯電量が−10μC/g以下である場合
(トナーコアのゼータ電位)
トナーコアのゼータ電位の測定方法について説明する。まず、測定試料は以下の手順で作製した。ノニオン界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン120」)を水100gに溶解させ0.1質量%水溶液を調製した。この水溶液にトナーコア1gを加えた後、超音波処理を3分間行い、トナーコア粒子分散液を得た。このトナーコア粒子分散液に1N−塩酸、あるいは1N−水酸化ナトリウム水溶液を加えて所望のpHに調製したトナーコア粒子分散液を測定サンプルとして用いた。次に、測定試料のゼータ電位を測定した。レーザードップラー方式のゼータ電位計(大塚電子株式会社製「ELSZ−1000」)を使用した。1つの測定サンプルについて3回測定を行い、3回の平均値をその試料のゼータ電位とした。また、23℃でゼータ電位を測定した。
(トナーコアの円形度)
トナーコアの円形度は、フロー式粒子像分析装置(シスメックス株式会社製「FPIA(登録商標)−3000」)を用いて測定した。
(トナーの耐熱保存性(耐ブロッキング性))
20mLのポリエチレン製びんにトナー3gを入れ60℃で3時間放置した。続いて、放置したトナーを、振動ふるいにセットした金網(目開き200メッシュ)上に置いた。続いて、トナーが置かれた金網の質量を測定し、金網単体の質量を差し引いて、ふるう前のトナーの質量を算出した。続いて、30秒間ふるった後の金網の質量を測定し、金網単体の質量を差し引いて、ふるい上に残留したトナーの質量を算出した。当初ふるう前のトナーの質量に対する、ふるい上に残留したトナーの質量の割合(%)を算出した。得られた割合を用いて、以下の基準で、トナーの耐熱保存性を評価した。
◎:上記割合が15%以下であった。
○:上記割合が15%より大きく20%以下であった。
×:上記割合が20%より大きかった。
(画像濃度の変化)
実施例又は比較例で得たトナーを使用し、プリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)を用いて、記録媒体(白色紙)上にソリッド画像を形成した。得られた画像のうち、初期画像(1枚目の画像)及び100枚の印刷後に作成した画像(101枚目の画像)について、マクベス反射濃度計(サカタインクスエンジニアリング株式会社/RD914)を用いて、ソリッド画像の印字部の濃度(ID)を測定した。画像濃度は、以下の基準で評価した。
○:画像濃度が1.1以上であった。
×:画像濃度が1.1未満であった。
(トナーの低温定着性)
プリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)の定着ユニットを外部に取り出し、温度調節できるように改造した。続いて、実施例又は比較例で得たトナーを、上記プリンターにセットし、トナー量1.5mg/cm2を記録媒体(紙、CC90)に転写し、125℃で定着させた。その後、記録媒体上の定着部を二つ折りにし、この記録媒体の折った上から1kgの真鍮の重りで5回擦った。折り曲げたところのトナーのはがれ具合を観察した。トナーのはがれ部分の幅が1mm以上を「良くない」、1mm未満を「良い」と判断した。判断結果が「良くない」であった場合、定着温度をさらに5℃上げたこと以外は上記と同様の操作を行った。「良い」との判断結果が出るまで、上記と同様の操作を行った。判断結果が「良い」となった定着温度を最低定着温度とした。得られた最低定着温度に基づいて、以下の基準でトナーの低温定着性を評価した。
◎:最低定着温度が150℃以下であった。
○:最低定着温度が150℃より高く160℃以下であった。
×:最低定着温度が160℃より高かった。
実施例2〜7及び比較例1〜6で得たトナーの作製条件についても表1にまとめた。また、これらのトナーについても実施例1と同様に評価を行い、それらの結果を表2にまとめた。
Figure 0006332082
Figure 0006332082
実施例1〜3及び比較例1〜2に示す通り、第1の層の硬度が減少すると、最低定着温度が減少しトナーの耐熱保存性が低下するが、第1の層が4nN以上10nN以下の範囲において、トナーの低温定着性及び耐熱保存性がともに良好であった。
比較例3に示す通り、第1の層及び第2の層が観察されなかったトナーR3は、トナーの低温定着性は良好な結果を得られたが、トナーの耐熱保存性及び画像濃度の低下が確認された。比較例4に示す通り、トナーR4は、第1の層及び第2の層を形成しにくかった。トナーR3は、トナーコアは帯電制御剤によりプラスに帯電しカチオン性となり、シェル層を形成する樹脂のモノマーがカチオン性であることから、静電的斥力によりシェル層が形成されにくかったと考えられる。比較例3及び比較例4はともに初期の画像に比べ100枚印刷後の画像濃度が低下した。トナーR3及びR4のシェル層が外添剤を保持しにくく、流動性が低下したためと考えられる。
実施例4〜5に示す通り、第2の層の膜厚が増加すると、初期の画像濃度に比べ、100枚印刷後の画像濃度が低下することが分かった。100枚印刷後において、トナー4及び5では、第2の層の膜厚が比較的小さいトナー4が、第2の層の膜厚が比較的大きいトナー5に比べ、外添剤がシェル層に埋没しにくいことが観察された。実施例6〜7及び比較例7に示す通り、100枚印刷後においてシェル層の外添剤に対する付着力が減少すると、画像濃度が低下し、現像ローラーへ付着し易いことが分かった。
本発明に係るトナーは、例えば、静電潜像現像用トナーとして、画像を形成するために用いることができる。

Claims (4)

  1. トナーコアと、前記トナーコアの表面に形成されたシェル層とを有するトナー母粒子と、
    前記トナー母粒子の表面に付着した外添剤と
    を含有し、
    前記シェル層が積層体で構成され、
    前記積層体が、前記トナーコアの表面に形成された第1の層と、前記第1の層の表面に形成された第2の層とから構成され、
    前記第1の層及び前記第2の層は、熱硬化性樹脂からなり、
    前記シェル層の最表面部の硬度は、前記シェル層のトナーコア近傍部の硬度に比べ小さく
    前記第1の層の厚さが3nm以上10nm以下であり、前記第2の層の厚さが3nm以上10nm以下であり、
    前記シェル層の硬度が1.0N/m2以上3.0N/m2以下であり、
    前記シェル層の硬度は、前記シェル層の殻単体の前記トナーコア側から原子間力顕微鏡の探針を押圧し、前記シェル層の殻単体が破れた際の押圧力であり、
    前記シェル層の前記殻単体は、前記トナー母粒子をダイヤモンドカッターで切断し、テトラヒドロフランに溶解させて前記トナーコア成分を除去して得られ、
    前記シェル層の付着力が4nN以上10nN以下であり
    前記付着力は、たわみ量から算出され、
    前記たわみ量は、原子間力顕微鏡の探針の先端を前記シェル層に接触させた状態から前記探針の前記先端が前記シェル層から離れるまで引き離し、引き離された際の前記探針のたわみ量である、静電潜像現像用トナー。
  2. 前記シェル層の前記最表面部は、前記トナー母粒子の最表面から前記シェル層の厚さ方向に1nm以内の領域であり、
    前記シェル層の前記トナーコア近傍部は、前記トナーコアと前記シェル層との境界面から前記シェル層の厚さ方向に1nm以内の領域であり、
    前記シェル層の前記最表面部の硬度は、ダイヤモンドカッターで切断したトナー母粒子の前記シェル層の前記最表面側から原子間力顕微鏡の探針を押圧し、前記シェル層が破れた際の押圧力であり、
    前記シェル層の前記トナーコア近傍部の硬度は、ダイヤモンドカッターで切断したトナー母粒子の前記シェル層の前記トナーコア側から原子間力顕微鏡の探針を押圧し、前記シェル層が破れた際の押圧力である、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
  3. 前記熱硬化性樹脂は、メラミン樹脂である、請求項1又は2に記載の静電潜像現像用トナー。
  4. 前記トナーコアは、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含む、請求項1〜3の何れか一項に記載の静電潜像現像用トナー。
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