以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある)は、コンピュータを用いて、フィラーが配合された高分子材料の変形を計算するための方法である。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、又は、アルミナ等が含まれる。また、高分子材料としては、例えば、ゴム、樹脂、又は、エラストマー等が含まれる。
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するコンピュータ装置の斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられる。また、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶される。
図2は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。このシミュレーション方法では、コンピュータ1が、構造緩和された高分子材料モデルを設定するシミュレーション工程S1と、高分子材料モデルに基づいてモデル化した有限要素モデルを設定するモデル化工程S2と、有限要素モデルの変形計算を行う変形工程S3とを含んでいる。
図3は、本実施形態のシミュレーション工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション工程S1では、先ず、フィラーをモデル化したフィラーモデルが設定される(工程S11)。
図4は、フィラーモデルの概念図である。本実施形態のフィラーモデル3は、フィラーを、複数のフィラー粒子4でモデル化される。フィラー粒子4は、一つの中心粒子4cと、該中心粒子4cを中心とする単一球Bの表面上に中心7を有する少なくとも4つ、本実施形態では8つの表面粒子4sとを含んでいる。
これらのフィラー粒子4c、4sは、いずれも径を持った球で表現される。さらに、中心粒子4cと表面粒子4sとの間、及び、各表面粒子4s、4sの間には、それぞれ平衡長が定義された結合鎖4jが配されている。このようなフィラーモデル3は、コンピュータ1で取り扱い可能な数値データ(フィラー粒子4の質量、体積、直径及び初期座標などを含む)であり、コンピュータ1に入力される。
ここで、「平衡長」とは、単一球Bにおいて、各表面粒子4sの相対位置が安定して保たれる中心粒子4cと表面粒子4sとの間、及び、各表面粒子4s、4sの間の結合距離である。さらに、中心粒子4c及び3つ以上の表面粒子4sが、同一平面上に位置しないように配置されている。これにより、フィラーモデル3は、中心粒子4cと表面粒子4sとが相対位置を保って連結された三次元の多面体状に形成される。
次に、高分子材料をモデル化したポリマーモデルが設定される(工程S12)。図5は、ポリマーモデル5の概念図である。ポリマーモデル5は、高分子材料を、少なくとも一つのポリマー粒子6でモデル化される。本実施形態のポリマー粒子6は、それぞれ異なるポテンシャルが定義される未変性粒子6a、及び、変性基粒子6bを含んでいる。これらのポリマー粒子6a、6bは、いずれも径を持った球で表現されている。
また、未変性粒子6a、6a間、及び、未変性粒子6aと変性基粒子6bとの間には、それらを拘束する結合鎖6jが定義されている。これにより、ポリマーモデル5は、直鎖状の三次元構造に構成される。このようなポリマーモデル5は、コンピュータ1で取り扱い可能な数値データ(ポリマー粒子6の質量、体積、直径及び初期座標などを含む)であり、コンピュータ1に入力される。
次に、シミュレーション条件が設定される(条件設定工程S13)。図6は、本実施形態の条件設定工程S13の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この条件設定工程S13では、先ず、各フィラー粒子4c、4sと各ポリマー粒子6a、6bとの粒子間に、粒子間の距離の関数であるポテンシャルが定義される(工程S131)。図7は、フィラー粒子とポリマー粒子とのポテンシャルを説明する概念図である。ポテンシャルは、2つの粒子の間に作用する力を計算する際に用いられるものである。このポテンシャルは、下記の式(1)で定義される。
上記式(1)において、aijは粒子間ごとに定義されるポテンシャルの強度、rijは粒子間の距離、rcはカットオフ距離を示している。なお、距離rij、カットオフ距離rcは、各粒子の中心間の距離として定義される。
上記式(1)では、2つの粒子間の距離が、予め定められたカットオフ距離rc以下になったときに相互作用(本実施形態では、斥力)が生じるポテンシャルが定義される。なお、粒子間の距離rijが予め定めたカットオフ距離rcよりも大きい場合には、ポテンシャルUはゼロとなり、粒子間に斥力は生じない。
また、本実施形態では、次の2つの粒子の組合せについて、それぞれポテンシャルU1乃至ポテンシャルU10が定義される。
粒子4c−6a:ポテンシャルU1
粒子4c−6b:ポテンシャルU2
粒子4c−4s:ポテンシャルU3
粒子4s−6a:ポテンシャルU4
粒子4s−6b:ポテンシャルU5
粒子6a−6b:ポテンシャルU6
粒子4c−4c:ポテンシャルU7
粒子4s−4s:ポテンシャルU8
粒子6a−6a:ポテンシャルU9
粒子6b−6b:ポテンシャルU10
ポテンシャルの強度aijとしては、論文(J. Chem Phys. 107(11) 4423-4435 (1997) )において、同種粒子間の強度aijを25とすることが提唱されている。しかし、その後、多くの研究がなされ、同種粒子間ではaij=50、異種粒子間ではaij=72とするものが出てきた(例えば、論文(Macromolcule vol.39 6744(2006)))。本実施形態では、上記パラメータを参考として、ポテンシャルU1乃至ポテンシャルU10の各強度aijは、次のように設定される。
ポテンシャルU1:aij=72
ポテンシャルU2:aij=25
ポテンシャルU3:aij=50
ポテンシャルU4:aij=72
ポテンシャルU5:aij=25
ポテンシャルU6:aij=72
ポテンシャルU7:aij=50
ポテンシャルU8:aij=50
ポテンシャルU9:aij=50
ポテンシャルU10:aij=50
上記のように、ポリマーモデル5の変性基粒子6bとフィラーモデル3の中心粒子4cとの間のポテンシャルU2、及び、変性基粒子6bと表面粒子4sとの間のポテンシャルU5の強度aij(=25)は、ポリマー粒子6の未変性粒子6aとフィラーモデル3の中心粒子4cとの間のポテンシャルU1、及び、未変性粒子6aと表面粒子4sとの間のポテンシャルU4の強度aij(=72)よりも小さく設定される。これにより、変性基粒子6bは、未変性粒子6aに比べて斥力が小さくなる。このような変性基粒子6bは、各フィラー粒子4c、4sとの親和性が高くなり、実際の高分子材料に配合される変性剤として再現される。これにより、ポリマーモデル5に変性基粒子6bを含ませる(変性ポリマー化する)ことにより、実際の高分子材料と同様に、ポリマーモデル5中のフィラーモデル3の分散状態を変化させることができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、シミュレーション精度を向上しうる。
さらに、これらのポテンシャルU1乃至ポテンシャルU10は、前記式(1)のカットオフ距離rcが次のように設定される。
ポテンシャルU1:rc=3
ポテンシャルU2:rc=3
ポテンシャルU3:rc=3
ポテンシャルU4:rc=1
ポテンシャルU5:rc=1
ポテンシャルU6:rc=1
ポテンシャルU7:rc=5
ポテンシャルU8:rc=1
ポテンシャルU9:rc=1
ポテンシャルU10:rc=1
図8は、フィラー粒子のカットオフ距離を説明する概念図である。フィラーモデル3の中心粒子4cが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU1)の各カットオフ距離rcは、フィラーモデル3の表面粒子4sが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU4)の各カットオフ距離rcよりも大に設定されている。さらに、本実施形態の中心粒子4cが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU1)の各カットオフ距離rcは、表面粒子4sが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU4)の各カットオフ距離rcと、単一球Bの半径Brとの和(rc+Br)よりも大に設定されている。
上記のように、カットオフ距離rcを定義することにより、フィラーモデル3は、中心粒子4cが関連するポテンシャルU1〜ポテンシャルU3、及び、ポテンシャルU7(図6に示す)を、表面粒子4sが関連するポテンシャルU4、ポテンシャルU5、及び、ポテンシャルU8よりも優先的に作用させることができる。しかも、中心粒子4cは、径を持った球で表現されるため、ポテンシャルU1〜ポテンシャルU3、及び、ポテンシャルU7が放射状に作用する。従って、コンピュータ1は、分子動力学計算において、フィラーモデル3を、実際のフィラーと近似する球として扱えるため、シミュレーション精度を向上しうる。
さらに、コンピュータ1は、表面粒子4sのカットオフ距離rc内にまで浸入する粒子を除いて、実質的に中心粒子4cのみの各ポテンシャルU1〜ポテンシャルU3、及び、ポテンシャルU7で、フィラーモデル3を分子動力学計算することができ、計算効率を向上しうる。このようなポテンシャルUは、数値データとしてコンピュータ1に入力される。
次に、コンピュータ1内で予め定められた体積を持つ仮想空間の中に、複数のフィラーモデル3及びポリマーモデル5が配置される(工程S132)。図9は、シミュレーションモデルの仮想空間8の概念斜視図である。
仮想空間8は、解析対象のゴムポリマーの微小構造部分に相当する。本実施形態の仮想空間8は、1辺の長さL1が、例えば30[δ]の立方体として定義される。この仮想空間8には、例えば、100個のフィラーモデル3、及び、1500本のポリマーモデル5が、ランダムに初期配置される。
次に、フィラーモデル3の凝集塊が形成される(工程S133)。この工程S133では、少なくとも2つのフィラーモデル3を、相互作用が互いに生じる距離(即ち、カットオフ距離rc内)に配置して、フィラーモデル3の凝集塊が形成される。これにより、仮想空間8には、解析対象のゴムポリマー内に形成されがちなフィラーの凝集塊を再現でき、現実に近いシミュレーションを行うことができる。
次に、分子動力学( Molecular Dynamics : MD)計算が実施される(緩和計算工程S14)。図10は、本実施形態の緩和計算工程S14の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9及び図10に示されるように、緩和計算工程S14では、先ず、各フィラー粒子4c、4sの動きが拘束される(フィラー拘束工程S141)。このフィラー拘束工程S141では、コンピュータ1によって、仮想空間8でのフィラー粒子4の座標が固定され、フィラー粒子4が移動不能に拘束される。
次に、コンピュータ1が、ポリマーモデル5のみを対象として、分子動力学計算が実施される(ポリマー計算工程S142)。このポリマー計算工程S142での分子動力学計算では、例えば、設定された仮想空間8について所定の時間、拘束されたフィラーモデル3を除いた全てのポリマーモデル5が、古典力学に従うものとしてニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻における各ポリマー粒子6a、6bの動きが追跡される。なお、分子動力学計算では、各フィラー粒子4c、4sの数、各ポリマー粒子6a、6bの数、仮想空間8の体積、及び、仮想空間の温度等の諸条件が一定に保たれる。
このように、本実施形態のポリマー計算工程S142では、ポリマーモデル5のみが仮想空間8内で分散されるため、フィラーモデル3の凝集塊が保たれた上で、ポリマーモデル5の安定配置を求めることができる。
次に、コンピュータ1が、ポリマーモデル5が十分に分散したか否かを判断する(工程S143)。本実施形態では、ポリマーモデル5が十分に分散したと判断された場合(工程S143で「Y」)、次の工程S144が実施される。一方、ポリマーモデル5が十分に分散していないと判断された場合(工程S143で「N」)は、単位ステップを進めて(工程S145)、ポリマー計算工程S142が再度実施される。従って、本実施形態の緩和計算工程S14では、ポリマーモデル5を効果的に分散させることができる。
なお、ポリマーモデル5の安定配置を求めるために、ポリマー計算工程S142において、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、100ステップ以上が望ましい。なお、ステップ数が100ステップ未満であると、計算時間が短く、ポリマーモデル5を十分に分散させることができず、上記作用を十分に発揮させることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、より好ましくは1000ステップ以上である。一方、ステップ数が多すぎても、計算コストの増加分に対して十分な分散結果を得ることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、好ましくは100万ステップ以下である。
次に、フィラーモデル3の各フィラー粒子4の拘束が解除される(工程S144)が行われる。この工程S144では、コンピュータ1によって、フィラー粒子4の座標の固定が解除される。これにより、緩和計算工程S14では、後述するフィラー・ポリマー計算工程S147において、フィラーモデル3を、仮想空間8内で自由に移動させることができる。
次に、フィラー粒子4とポリマー粒子6とが連結鎖で結合される(結合工程S146)。図11(a)、(b)は、結合工程S146を説明する概念図である。この結合工程S146では、予め定められた粒子間距離L2以下に接近したフィラー粒子4とポリマー粒子6とを、連結鎖10で結合させている。これにより、緩和計算工程S14では、フィラーとポリマーとの化学結合を再現することができる。
本実施形態の結合工程S146では、各ポリマー粒子6a、6bが、フィラーモデル3の表面粒子4sのみに結合させている。上述したように、表面粒子4sは、中心粒子4cに相対位置を保って連結されるため、フィラーモデル3に対するポリマーモデル5の位置を一意に定めることができる。従って、フィラーモデル3は、ポリマーモデル5が滑り運動するのを防ぐことができ、シミュレーション精度を確実に向上しうる。また、粒子間距離L2は、表面粒子4sが関連するポテンシャルの各カットオフ距離rc(図7に示す)の10%〜200%が望ましい。
次に、コンピュータ1が、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を対象に分子動力学計算を行う(フィラー・ポリマー計算工程S147)。図12は、フィラー・ポリマー計算工程後のシミュレーションモデルの概念斜視図である。
フィラー・ポリマー計算工程S147での分子動力学計算は、ポリマー計算工程S142と同様に、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻におけるフィラーモデル3の各フィラー粒子4c、4s、及び、ポリマーモデル5の各ポリマー粒子6a、6bの動きが追跡される。なお、分子動力学計算では、ポリマー計算工程S142と同様に、各フィラー粒子4c、4sの数、各ポリマー粒子6a、6bの数、仮想空間8の体積、及び、仮想空間8の温度等の諸条件が一定に保たれる。これにより、図12に示されるように、フィラー・ポリマー計算工程S147では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を、仮想空間8内でそれぞれ分散させることができる。
次に、コンピュータ1が、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の十分に分散したか否かを判断する(工程S148)。本実施形態の工程S148では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5が十分に分散したと判断された場合(工程S148で「Y」)、次の評価工程S15(図2に示す)が実施される。一方、フィラーモデル3及びポリマーモデル5が十分に分散していないと判断された場合(工程S148で「N」)は、単位ステップを進めて(工程S149)、フィラー・ポリマー計算工程S147が再度実施される。従って、本実施形態の緩和計算工程S14では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を効果的に分散させることができ、構造緩和された高分子材料モデル11を設定することができる。
なお、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を効果的に分散させるために、フィラー・ポリマー計算工程S147において、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、1000ステップ以上が望ましい。なお、ステップ数が1000ステップ未満であると、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を十分に分散できないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、より好ましくは5000ステップ以上である。一方、ステップ数が多すぎても、計算コストの増加分に対して十分な分散効果を得ることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、好ましくは100万ステップ以下である。
次に、フィラーモデル3の分散状態が良好か否か判断される(評価工程S15)。この評価工程S15では、先ず、フィラーモデル3の中心粒子4cを対象とした動径分布関数g(r)が計算される。動径分布関数g(r)とは、ある中心粒子4c(図3に示す)から距離r離れた位置において、他の中心粒子4cが存在する確率密度を表す関数であり、下記の式(2)で定義される。なお、距離rは、中心粒子4cの中心間の距離として定義される。
上記式(2)において、n(r)は、距離rと、距離r+Δrとの間に存在する粒子の数を示している。〈n(r)〉は、距離rと、距離r+Δrとの間に存在する粒子の数n(r)について、粒子平均および時刻平均をとったもの(アンサンブル平均したもの)を示している。ρは計算系全体の数密度を示している。
図13は、本実施形態の中心粒子4c、4c間の動径分布を示すグラフである。この動径分布では、動径分布関数g(r)がピークとなるrp付近から、距離rが最大値となるrmにかけて、万遍なく分布されていることが確認できる。これは、フィラーモデル3が、仮想空間8の中で、万遍なく分散されていることを示している。このように、本実施形態では、中心粒子4cのみを対象に動径分布関数g(r)を求めることより、フィラーモデル3の分散状態を確認することができるため、計算コストの増大を抑制することができる。
なお、動径分布関数の距離rの範囲は、その最小値rsが0に設定されるとともに、最大値rmが仮想空間8の一辺の長さL1(図9に示す)の半分に設定されるのが望ましい。これにより、動径分布関数g(r)を求める距離rの範囲が、仮想空間8内に限定されるため、計算コストの増大を抑制しつつ、正確な評価を行うことができる。なお、仮想空間8の一辺の長さL1がそれぞれ同一でない場合、前記最大値rmは、全ての辺の最小の長さの半分に設定されるのが望ましい。
また、動径分布関数g(r)の取得間隔rdは、好ましくは、前記最大値rmを5で除した距離以下、さらに好ましくは、前記最大値rmを10で除した距離以下に設定されるのが望ましい。これにより、動径分布関数g(r)の精度を高めることかでき、正確な評価を行うことができる。なお、取得間隔rdが小さすぎても、計算コストが増大するおそれがある。このような観点より、取得間隔rdは、最大値rmを1000で除した距離以上に設定されるのが望ましい。なお、図13に示される動径分布において、取得間隔rdは、最大値rmを155で除した距離である。
そして、評価工程S15では、動径分布関数g(r)の結果をもとに、コンピュータ1が予め設定された許容範囲内であるか否かが判断される。評価工程S15では、フィラーモデル3の分散状態が良好であると判断された場合、次のモデル化工程S2が実施される。一方、フィラーモデル3の分散状態が良好でないと判断された場合は、動径分布関数g(r)の結果に基づいて、例えば、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の設定条件を変更して(工程S16)、工程S11〜工程S15が実施される。これにより、シミュレーション工程S1では、高分子材料モデル11(図12に示す)の構造を、効果的に緩和することができ、実際の高分子材料の構造に、確実に近似させることができる。
また、シミュレーション工程S1では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の構造やポテンシャルを任意に設定することができるため、現実には存在しない未知の高分子材料をモデル化した高分子材料モデル11を設定することができる。
図14は、本実施形態のモデル化工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のモデル化工程S2では、高分子材料モデル11(図12に示す)に基づいて、有限個の要素でモデル化した二次元の有限要素モデルが作成される。
本実施形態のモデル化工程S2では、先ず、高分子材料モデル11(図12に示す)の二次元断面が取得される(工程S21)。図15は、高分子材料モデル11の二次元断面を示す部分断面図である。二次元断面12は、コンピュータ1に、三次元の高分子材料モデル11の断面の位置を指定することによって、任意の断面形状を取得することができる。このような二次元断面12では、高分子材料モデル11が所定の位置で切断されたフィラーモデル3及びポリマーモデル5が含まれている。
また、本実施形態の工程S21では、フィラーモデル3の輪郭3sが、フィラーモデル3の重心点を中心とする単一球Bの表面Bs(図12に示す)で設定されている。これにより、フィラーモデル3は、中心粒子4cと表面粒子4sとを含む多面体状(図12に示す)から、現実のフィラーの輪郭に近似させることができる。このような二次元断面12は、構造緩和された高分子材料モデル11に基づいて設定されるため、例えば、現実の高分子材料の電子線透過画像からトモグラフィー法によって得られた二次元断面に近似させることができる。しかも、工程S21では、電子線透過画像から作成される場合とは異なり、高分子材料部分と充填剤部分とを識別する画像処理が必要ないため、計算時間を短縮することができる。この二次元断面12でのフィラーモデル3の座標値、及び、ポリマーモデル5の座標値が、コンピュータ1に記憶される。
次に、コンピュータ1が、二次元断面12のフィラーモデル3及びポリマーモデル5をモデル化して、第1の有限要素モデル2A(図18に示す)を作成する(第1工程S22)。図16は、本実施形態の第1工程S22の処理手順の一例を示すフローチャートである。図17(a)は、二次元空間を示す平面図である。図17(b)は、(a)を拡大して示す平面図である。
図17に示されるように、第1工程S22では、先ず、複数の要素14で格子状に区分された二次元空間15に、図15に示したフィラーモデル3の輪郭3sの座標があてはめられる(工程S221)。
本実施形態の二次元空間15は、高分子材料モデル11の二次元断面12(図15に示す)と同一形状に設定されている。これにより、二次元断面12を二次元空間15に重ね合わせることにより、フィラーモデル3の輪郭3sを、二次元空間15に容易に定義することができる。なお、二次元空間15の形状は、高分子材料モデル11の二次元断面12の形状と異ならせてもよい。このような場合は、隣接するフィラーモデル3、3の間隔を維持したまま、任意のフィラーモデル3の輪郭3sが、二次元空間15にあてはめられる。これにより、フィラーモデル3の分散状態を維持したまま、フィラーモデル3の輪郭3sを、二次元空間15に定義することができる。二次元空間15は、例えば一辺の長さL3(図18に示す)が50nm〜150nm程度の正方形に設定されるのが望ましい。
本実施形態の要素14は、図17(b)に示されるように、4つの節点17と、各節点17、17間を直線でつなぐ4本の辺18とで形成される。また、要素14は、その一辺の長さL4が、0.1nm〜3.0nm程度の正方形に形成される。なお、要素14は、本実施形態のような正方形に限定されるわけではなく、例えば長方形ものでもよい。
次に、各要素14の中心14cが、フィラーモデル3の輪郭3sよりもフィラーモデル3の中心3c側に配されるか否かが判断される(工程S222)。なお、フィラーモデル3が非円形である場合、フィラーモデル3の中心3cは、図心として定義される。
この工程S222では、各要素14の中心14cが、フィラーモデル3の輪郭3sよりもフィラーモデル3の中心3c側に配されていると判断された場合(工程S222で「Y」)、該要素14が、フィラーモデル3をなすフィラーモデル部21の要素14として定義される(工程S223)。一方、各要素14の中心14cが、フィラーモデル3の輪郭3sよりもフィラーモデル3の中心3c側に配されていないと判断された場合(工程S222で「N」)は、該要素14が、ポリマーモデル5をなすポリマーモデル部22の要素14として定義される(工程S224)。そして、フィラーモデル部21及びポリマーモデル部22の各要素14の座標が、コンピュータ1に記憶される(工程S225)。
次に、全ての要素14がフィラーモデル部21又はポリマーモデル部22としてモデル化されたか否かが判断される(工程S226)。この工程S226では、全ての要素14が、フィラーモデル部21又はポリマーモデル部22として定義されたと判断された場合(工程S226で「Y」)、次の第2工程S23が実施される。一方、全ての要素14が、フィラーモデル部21又はポリマーモデル部22として定義されていないと判断される場合(工程S226で「N」)は、工程S222〜工程S226が再度実施される。
図18は、第1の有限要素モデルを示す平面図である。上記のような工程S221〜工程S226を経ることにより、二次元空間15には、図18に示されるように、フィラーモデル部21とポリマーモデル部22とを含む第1の有限要素モデル26Aが定義される。この例では、理解しやすいように、フィラーモデル部21が着色されて表示されている。このような第1の有限要素モデル26Aは、コンピュータ1に記憶される。
次に、フィラーモデル部21とポリマーモデル部22との境界の節点17aを含む要素14を変形させた第2の有限要素モデルが作成される(第2工程S23)。図19は、本実施形態の第2工程S23の処理手順の一例を示すフローチャートである。図20(a)は、要素を拡大して示す平面図である。図20(b)は、変形後の要素を示す平面図である。
本実施形態の第2工程S23では、先ず、図20(a)に示されるように、コンピュータ1が、フィラーモデル3の中心3c(図18に示す)と、境界の節点17aとを通る直線27が定義される(工程S231)。次に、直線27とフィラーモデル3の輪郭3sとの交点28が求められる(工程S232)。これらの直線27及び交点28は、コンピュータ1に記憶される。
次に、コンピュータ1が、境界の節点17aを、交点28に移動させる(工程S233)。本実施形態では、境界の節点17aを、直線27上で移動させている。この境界の節点17aの移動に伴い、図20(b)に示されるように、境界の節点17aを含む要素14のみを変形させることができる。そして、境界の節点17aを含む要素14の各座標が、コンピュータ1に記憶される(工程S234)。
次に、全ての境界の節点17aが、直線27の交点28に移動されたか否かが判断される(工程S235)。この工程S235では、全ての境界の節点17aが、直線27の交点28に移動されたと判断された場合(工程S225で「Y」)、次の変形工程S3が実施される。一方、全ての境界の節点17aが、直線27の交点28に移動されていないと判断された場合(工程S225で「N」)は、新たな境界の節点17aが選択され、工程S231〜工程S235が再度実施される。これにより、第2工程S23では、全ての境界の節点17a(図20(b)に示す)を、フィラーモデル部21の表面の凹凸29(図18に示す)が小さくなる向きに移動させることができる。
図21は、第2の有限要素モデルを示す平面図である。第2工程S23では、上記のような工程S231〜工程S234を経ることにより、境界の節点17aを含む要素14を変形させた第2の有限要素モデル26B(図21に示す)を作成することができる。
第2の有限要素モデル26Bでは、図20(b)に示されるように、境界の節点17a間をのびる辺18が滑らかに連なり、フィラーモデル部21の表面の凹凸29(図18に示す)が小に形成される。一方、境界の節点17aを含まない要素14は、変形されることなく、第1の有限要素モデル26A(図18に示す)のときと同じ形状(本実施形態では、正方形)が維持されるため、処理時間を大幅に短縮しうる。
また、第2の有限要素モデル26Bのフィラーモデル部21及びポリマーモデル部22の各要素14には、シミュレーションによる数値解析に必要な情報が定義される。この数値解析とは、例えば有限要素法等の数値解析法を意味する。また、解析に必要な情報としては、各要素14を構成する節点17の番号や座標値が少なくとも含まれる。
さらに、各要素14には、各々が代表する部分の材料特性(物性値)などが定義される。即ち、フィラーモデル部21及びポリマーモデル部22の各要素14には、高分子材料及びフィラーの物性に応じた材料定数が、それぞれ定義される。そして、これらの情報は、いずれもコンピュータ1に記憶される。
図22(a)は、他の要素を拡大して示す平面図、(b)は変形後の要素を示す平面図である。図23は、本発明の他の実施形態の第2工程S23の処理手順の一例を示すフローチャートである。図22(a)に示されるように、第1の有限要素モデル26Aの複数の境界の節点17a、17aが、同一の前記直線27上に位置する場合、各境界の節点17a、17aを、直線27とフィラーモデル3の輪郭3sとの交点28に移動させると、互いに重複する。このような重複は、その境界の節点17aを含む要素14が、例えば四辺形から三角形へと潰れてしまい、それらの剛性を計算できないおそれがある。
このような重複を抑制するために、第2工程S23では、図22(a)及び図23に示されるように、コンピュータ1が、境界の節点17aを交点28に移動させる工程S233の前に、同一の直線27上で複数の境界の節点17aが重複するか否かを確認する工程S236が実施されるのが望ましい。
工程S236では、同一の直線27上で複数の境界の節点17aが重複すると判断された場合(工程S236で「Y」)、重複する境界の節点17a、17aと交点28との距離L5、L5をそれぞれ計算して(工程S237)、該距離L5、L5に係数を乗じた修正距離で、境界の節点17a、17aを直線27に沿って交点28側へ移動させる(工程S238)のが望ましい。本実施形態の係数は、0よりも大かつ1よりも小の数値が設定される。これにより、図22(b)に示されるように、境界の節点17aの重複が抑制され、シミュレーション精度が向上する。
また、工程S236では、同一の直線27上で複数の境界の節点17aが重複しないと判断された場合(工程S236で「N」)、図19に示した第2工程S23のフローチャートと同様に、境界の節点17aを交点28に移動させる工程S233が実施される。このように、第2工程S23では、境界の節点17aの重複を防ぎつつ、フィラーモデル部21の表面に形成される凹凸29(図18に示す)を小さくすることができる。
図24には、図21に示した有限要素モデル26(第2の有限要素モデル26B)を、一方向(例えば、Y軸方向)に0%〜20%伸長させたときの応力及び伸びの計算結果が実線で示されている(実施例1)。さらに、図24には、高分子材料モデル11の構造に基づいて製造された高分子材料(加硫ゴム)を、0%〜20%伸長させたときの応力と伸びとの測定結果が破線で示されている(実験例)。
また、高分子材料にフィラーが規則的に分散されていると仮定し、二次元空間に任意の輪郭を設定して、実施例1と同様のモデル化工程S2を経て、有限要素モデルが作成された。そして、図24には、この有限要素モデルを、0%〜20%伸長させたときの応力と伸びとの計算結果が、一点鎖線で示されている(比較例)。なお、実施例1、比較例及び実験例の共通仕様は、次のとおりである。また、各パラメータは、明細書に記載しているとおりである。
シミュレーションソフト:有限要素解析アプリケーションソフト(LSTC社製のLS-DYNA)
実施例1及び比較例1の有限要素モデル:
要素の数:1600個
二次元空間の一辺の長さL3:100nm
要素の一辺の長さL4:2.5nm
これらの結果より、実施例1は、比較例1に比べて、実験例に近似していることが確認できる。これは、実施例1が、シミュレーション工程S1での構造緩和により、高分子材料モデル11を、実際の高分子材料の分散状態に近似させることができたことによるものと考えられる。従って、本実施形態のシミュレーション方法(実施例1)は、比較例1に比べて、シミュレーション精度を向上しうる。
しかも、本実施形態の第2工程S23では、フィラーモデル部21の表面に形成される凹凸29(図18に示す)を小さくして、滑らかな表面形状に形成できる。従って、本実施形態では、フィラーモデル部21に接触するポリマーモデル部22の剛性が大に見積られることを抑制できる。これにより、実施例1は、実験例に効果的に近似させることができ、シミュレーション精度を向上しうる。
次に、変形工程S3では、コンピュータ1が、有限要素モデル26(第2の有限要素モデル26B)の変形計算を行い、有限要素モデル26の物理量を計算する。本実施形態の変形工程S3では、上述のように、有限要素モデル26を、一方向に(例えば、Y軸方向に0%〜20%)伸長させて、有限要素モデル26の応力及び伸びが計算される。なお、有限要素モデル26を変形させる方法については、上記のような方法に限定されるわけではない。例えば、有限要素モデル26を10%初期伸張させた後に、周期的な歪を±1%与えて変形させる方法や、有限要素モデル26を圧縮又はせん断変形させる方法でもよい。
次に、有限要素モデル26(第2の有限要素モデル26B)の物理量が、予め設定された許容範囲内であるか否かが判断される(工程S4)。この工程S4では、第2の有限要素モデル26Bの物理量が、許容範囲内であると判断された場合(工程S4で「Y」)、高分子材料モデル11に基づいて、高分子材料が製造される(工程S5)。一方、第2の有限要素モデル26Bの物理量が、許容範囲内でないと判断された場合(工程S4で「N」)は、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の設定等を変更して(工程S6)、工程S1〜工程S4が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、許容範囲の物理量を有する高分子材料を製造することができる。
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル11(図12に示す)からモデル化された有限要素モデル26(図21に示す)を用いて、変形計算及びその評価をすることができるため、高分子材料を実際に作成する必要がない。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料を効率よく開発することができる。
しかも、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル11として、現実には存在しない未知の高分子材料をモデル化することができる。従って、本発明の高分子材料のシミュレーション方法は、未知の高分子材料の開発に役立つ。さらに、本実施形態の高分子材料モデルは、分子動力学計算に基づいて、効果的に構造緩和されるため、図24のグラフに示したように、シミュレーション精度が低下することもない。
本実施形態のモデル化工程S2では、高分子材料モデル11(図12に示す)から、二次元の有限要素モデル26が作成されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。モデル化工程S2では、例えば、高分子材料モデル11に基づいて、有限個の要素でモデル化した三次元の有限要素モデルが作成されてもよい。図25は、この実施形態のモデル化工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。図26は、図12に示した高分子材料モデル11の部分斜視図である。なお、この実施形態では、モデル化工程S2を除く他の工程S1〜工程S6が、前実施形態と同一である。
この実施形態のモデル化工程S2では、先ず、高分子材料モデル11のフィラーモデル3及びポリマーモデル5をモデル化して、第1の有限要素モデル31A(図30に示す)が作成される(第1工程S71)。図27は、この実施形態の第1工程S71の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図28は、三次元空間を示す断面斜視図である。図26及び図28に示されるように、第1工程S71では、先ず、複数の六面体要素33で区分された三次元空間34に、高分子材料モデル11のフィラーモデル3の輪郭3sの座標があてはめられる(工程S711)。
図26に示されるように、フィラーモデル3の輪郭3sは、前実施形態と同様に、高分子材料モデル11のフィラーモデル3の重心点を中心とする単一球Bの表面Bs(図12に示す)で設定されている。これにより、フィラーモデル3は、中心粒子4cと表面粒子4sとを含む多面体状(図12に示す)から、現実のフィラーの輪郭に近似させることができる。
図28に示されるように、本実施形態の三次元空間34は、高分子材料モデル11(図26に示す)と同一形状に設定されている。これにより、高分子材料モデル11を三次元空間34に重ね合わせることにより、フィラーモデル3の輪郭を、三次元空間34に容易に定義することができる。なお、三次元空間34の形状は、高分子材料モデル11の形状と異ならせてもよい。このような場合は、隣接するフィラーモデル3、3の間隔を維持したまま、任意のフィラーモデル3の輪郭3sが、三次元空間34にあてはめられる。これにより、フィラーモデル3の分散状態を維持したまま、フィラーモデル3の輪郭3sを、三次元空間34に定義することができる。三次元空間34は、例えば一辺の長さL6が50nm〜150nm程度の正方形に形成されるのが望ましい。
図29は、六面体要素を示す斜視図である。本実施形態の六面体要素33は、8つの節点35と、各節点35、35間を直線でつなぐ12本の辺36とで形成される。また、六面体要素33は、その一辺の長さL7が0.1nm〜3.0nm程度の立方体に形成される。なお、六面体要素33は、立方体に限定されるわけではなく、例えば、直方体でもよい。
次に、各六面体要素33の中心33cが、フィラーモデル3の輪郭3sよりもフィラーモデル3の中心3c(図28に示す)側に配されるか否かが判断される(工程S712)。なお、フィラーモデル3が非球形である場合、フィラーモデル3の中心3cは、図心として定義される。
この工程S712では、各六面体要素33の中心33cが、フィラーモデル3の輪郭3sよりもフィラーモデル3の中心3c(図28に示す)側に配されていると判断された場合(工程S712で「Y」)、該六面体要素33が、フィラーモデル3(図26に示す)をなすフィラーモデル部37の六面体要素33として定義される(工程S713)。一方、各六面体要素33の中心33cが、フィラーモデル3の輪郭3sよりもフィラーモデル3の中心3c側に配されていないと判断された場合(工程S712で「N」)は、該六面体要素33が、ポリマーモデル5(図26に示す)をなすポリマーモデル部38の六面体要素33として定義される(工程S714)。そして、フィラーモデル部37及びポリマーモデル部38の各六面体要素33の座標が、コンピュータ1に記憶される(工程S715)。
次に、全ての六面体要素33がフィラーモデル部37又はポリマーモデル部38として定義されたか否かが判断される(工程S716)。この工程S716では、全ての六面体要素33が、フィラーモデル部37又はポリマーモデル部38として定義されたと判断された場合(工程S716で「Y」)、次の第2工程S72が実施される。一方、全ての六面体要素33が、フィラーモデル部37又はポリマーモデル部38として定義されていないと判断される場合(工程S716で「N」)は、工程S712〜工程S716が再度実施される。
図30は、第1の有限要素モデルを示す断面斜視図である。上記のような工程S712〜工程716を経ることにより、三次元空間34には、フィラーモデル部37とポリマーモデル部38とを含む第1の有限要素モデル31Aが定義される。この例では、理解しやすいように、フィラーモデル部37が着色されて表示される。このような第1の有限要素モデル31Aは、コンピュータ1に記憶される。
次に、フィラーモデル部37とポリマーモデル部38との境界の節点35a(図29に示す)を含む六面体要素33を変形させた第2の有限要素モデルが作成される(第2工程S72)。図31は、この実施形態の第2工程S72の処理手順の一例を示すフローチャートである。図32(a)は、要素を拡大して示す平面図である。図32(b)は、変形後の要素を示す平面図である。
本実施形態の第2工程S72では、先ず、図32(a)に示されるように、コンピュータ1が、フィラーモデル3の中心3c(図30に示す)と、境界の節点35aとを通る直線40が定義される(工程S721)。次に、直線40とフィラーモデル3の輪郭3sとの交点41が求められる(工程S722)。これらの直線40及び交点41は、コンピュータ1に記憶される。
次に、コンピュータ1が、境界の節点35aを、交点41に移動させる(工程S723)。本実施形態では、直線40に沿って、境界の節点35aを交点41に移動させている。この境界の節点35aの移動に伴い、図32(b)に示されるように、境界の節点35aを含む六面体要素33のみを変形させることができる。そして、境界の節点35aを含む各六面体要素33の座標が、コンピュータ1に記憶される(工程S724)。
次に、全ての境界の節点35aが、直線40の交点41に移動されたか否かが判断される(工程S725)。この工程S725では、全ての境界の節点35aが、直線40の交点41に移動されたと判断された場合(工程S725で「Y」)、次の変形工程S3が実施される。一方、全ての境界の節点35aが、直線40の交点41に移動されていないと判断された場合(工程S725で「N」)は、新たな境界の節点35aが選択され、工程S721〜工程S724が再度実施される。これにより。第2工程S72では、全ての境界の節点35aを、フィラーモデル部37の表面の凹凸43(図30に示す)が小さくなる向きに移動させることができる。
図33は、第2の有限要素モデルを示す斜視図である。第2工程S72では、上記のような工程S721〜工程S724を経ることにより、境界の節点35aを含む六面体要素33のみを変形させた第2の有限要素モデル31B(図33に示す)が形成される。一方、境界の節点35aを含まない六面体要素33は、変形されることなく、第1の有限要素モデル31A(図30に示す)のときと同じ形状が維持されるため、処理時間を大幅に短縮しうる。
各六面体要素33には、該六面体要素33を構成する節点35の番号や、節点35の座標値等、シミュレーションによる数値解析に必要な情報や、高分子材料及びフィラーの物性に応じた材料定数が定義され、コンピュータ1に記憶される。
なお、第2工程S72において、複数の境界の節点35aが、同一の前記直線40上に位置する場合、前実施形態で説明したように、境界の節点35a、35aが重複するおそれがある。
このような重複を抑制するために、第2工程S72では、前実施形態と同様に、コンピュータ1が、境界の節点35a(図32(a)に示す)を交点41(図32(a)に示す)に移動させる工程S723の前に、同一の直線40(図32(a)に示す)上で複数の境界の節点35aが重複するか否かを確認する工程と、上記工程で重複すると判断された場合の境界の節点35aと交点41との距離(図示省略)を計算して、該距離に0よりも大かつ1よりも小の係数を乗じた修正距離で直線40に沿って移動させる工程が含まれるのが望ましい。これにより、第2工程S72では、境界の節点35aの重複を防ぎつつ、フィラーモデル部37の表面の凹凸43(図30に示す)を小さくすることができる。
図34には、前実施形態と同様に、図33に示した有限要素モデル31(第2の有限要素モデル31B)、一方向(例えば、Y軸方向)に0%〜20%伸長させて、有限要素モデル31の応力及び伸びの計算結果を示すグラフ(実線)が示されている(実施例2)。
また、図34には、高分子材料モデル11の構造に基づいて製造された高分子材料(加硫ゴム)を、0%〜20%伸長させたときの応力と伸びとの測定結果が破線で示されている(実験例)。さらに、高分子材料にフィラーが規則的に分散されていると仮定し、三次元空間に任意の輪郭を設定して、実施例1と同様のモデル化工程S2を経て、有限要素モデルが作成された。そして、図34には、この有限要素モデルを、0%〜20%伸長させたときの応力及び伸びの計算結果が、一点鎖線で示されている(比較例2)。なお、実施例2、比較例2及び実験例の共通仕様は、以下に記載される仕様を除いて、前実施形態と同一である。
実施例2及び比較例2の有限要素モデル:
要素の数:64000個
二次元空間の一辺の長さL6:100nm
要素の一辺の長さL7:2.5nm
これらの結果より、実施例2は、比較例2に比べて、実験例に近似しているため、シミュレーション精度を向上しうることが確認できる。これは、実施例2が、シミュレーション工程S1での構造緩和により、高分子材料モデル11を、実際の高分子材料の分散状態に近似させることができたことによるものと考えられる。従って、実施例2は、比較例2に比べて、シミュレーション精度を向上しうる。
さらに、この実施形態の有限要素モデル31は、高分子材料モデル11が三次元で構成されるため、二次元の有限要素モデル26(図21に示す)に比べてシミュレーション精度を向上しうる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。