JP5427260B2 - 高分子材料のシミュレーション方法 - Google Patents

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Description

本発明は、フィラーの分散性を評価乃至改善するのに役立つとともに、シミュレーション精度を向上しうる高分子材料のシミュレーション方法に関する。
ゴム等の高分子材料には、カーボンブラックやシリカといったフィラーが配合されている。これらのフィラーの分散性は、ゴムの強度に大きな影響を与えることが明らかになっている。
近年、高分子材料中に配合されたフィラーの分散性を、コンピュータを用いて評価するためのシミュレーション方法(数値計算)が種々提案されている。図13(a)に示されるように、この種のシミュレーション方法では、例えば、一つの粒子a1からなるフィラーモデルaと、複数の粒子b1からなるポリマーモデルbを設定し、フィラーモデルaとポリマーモデルbとを予め定めた仮想空間に配置して分子動力学( Molecular Dynamics : MD)計算が行われる。関連する技術としては、次のものがある。
特開2006−64658号公報
しかしながら、図13(b)に示されるように、従来のシミュレーション方法では、フィラーモデルaが一つの粒子a1のみからなるため、該粒子a1にポリマーモデルbの粒子b1が結合すると、ポリマーモデルbのフィラーモデルaに対する位置が一意に定まらない。このため、ポリマーモデルbがフィラーモデルaの表面上で滑り運動(回転運動)し、精度の高いシミュレーション結果を得ることが難しいという問題があった。
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、各フィラーモデルのフィラー粒子を、一つの中心粒子と、該中心粒子を中心とする単一球の表面上に中心を有する少なくとも4つの表面粒子とで構成し、かつポリマー粒子を、表面粒子のみに結合させることを基本として、フィラーの分散性を評価乃至改善するのに役立つ高分子材料のシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
本発明のうち請求項1記載の発明は、高分子材料中に配合されたフィラーの分散性を、コンピュータを用いて評価するためのシミュレーション方法であって、前記コンピュータに、前記フィラーを複数のフィラー粒子でモデル化したフィラーモデルを設定するフィラー設定工程と、前記コンピュータに、前記高分子材料を、少なくとも一つのポリマー粒子でモデル化したポリマーモデルを設定するポリマー設定工程と、前記コンピュータに、シミュレーション条件を設定する条件設定工程と、前記コンピュータが、前記ポリマーモデルと前記フィラーモデルとを予め定めた仮想空間に配置して分子動力学計算を行なうシミュレーション工程と、前記コンピュータが、前記シミュレーション工程の結果から、前記フィラーモデルの分散状態を評価する評価工程とを含み、前記シミュレーション工程は、予め定めた粒子間距離以下に接近した前記フィラー粒子と前記ポリマー粒子とを結合させる結合工程を含み、前記フィラーモデルの前記フィラー粒子は、一つの中心粒子と、該中心粒子を中心とする単一球の表面上に中心を有する少なくとも4つの表面粒子とを含み、前記中心粒子と前記表面粒子との間、及び、各表面粒子の間には、それぞれ平衡長が定義され、前記ポリマー粒子は、前記表面粒子のみに結合することを特徴とする。
また、請求項2記載の発明は、前記フィラー粒子と前記ポリマー粒子との間には、粒子間の距離が、予め定められたカットオフ距離以下になったとき相互作用が生じるポテンシャルが定義され、前記中心粒子が関連するカットオフ距離は、前記表面粒子が関連するカットオフ距離と前記単一球の半径との和よりも大きい請求項1に記載の高分子材料のシミュレーション方法である。
また、請求項3記載の発明は、前記評価工程は、前記フィラーモデルの前記中心粒子を対象とした動径分布関数を計算する工程を含む請求項1又は2に記載の高分子材料のシミュレーション方法である。
また、請求項4記載の発明は、前記仮想空間は、立方体からなり、前記動径分布関数の距離範囲は、その最小値が0であり、かつ最大値が前記仮想空間の一辺の長さの半分に設定され、前記動径分布関数の取得間隔は、前記最大値を5で除した距離以下である請求項3に記載の高分子材料のシミュレーション方法である。
また、請求項5記載の発明は、前記条件設定工程は、前記仮想空間に、複数の前記フィラーモデル、及び複数の前記ポリマーモデルを配置する初期配置工程と、少なくとも2つのフィラーモデルを、互いに前記相互作用が生じる距離に配置してフィラーモデルの凝集塊を形成する凝集塊設定工程とをさらに含む請求項2に記載の高分子材料のシミュレーション方法である。
また、請求項6記載の発明は、前記シミュレーション工程は、前記フィラーモデルの前記フィラー粒子の動きを拘束するフィラー拘束工程、前記ポリマーモデルのみを対象として前記分子動力学計算を行うポリマー計算工程、前記フィラーモデルの前記フィラー粒子の拘束を解除する解除工程、及び、前記フィラーモデル及び前記ポリマーモデルをともに対象として分子動力学計算を行うフィラー・ポリマー計算工程をさらに含む請求項1乃至5のいずれかに記載の高分子材料のシミュレーション方法である。
また、請求項7記載の発明は、前記ポリマー計算工程は、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数が、100ステップ以上である請求項6に記載の高分子材料のシミュレーション方法である。
また、請求項8記載の発明は、前記フィラー・ポリマー計算工程は、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数が、1000ステップ以上である請求項6又は7に記載の高分子材料のシミュレーション方法である。
本発明では、コンピュータを用いて高分子材料中に配合されたフィラーの分散性を評価するためのシミュレーション方法として、コンピュータに、フィラーを複数のフィラー粒子でモデル化したフィラーモデルを設定するフィラー設定工程と、コンピュータに、前記高分子材料を、少なくとも一つのポリマー粒子でモデル化したポリマーモデルを設定するポリマー設定工程と、前記コンピュータに、シミュレーション条件を設定する条件設定工程と、コンピュータが、ポリマーモデルとフィラーモデルとを予め定めた仮想空間に配置して分子動力学計算を行なうシミュレーション工程と、コンピュータが、シミュレーション工程の結果から、フィラーモデルの分散状態を評価する評価工程とを含む。さらに、シミュレーション工程は、予め定めた粒子間距離以下に接近したフィラー粒子とポリマー粒子とを結合させる結合工程を含む。これにより、ポリマーモデルに対するフィラーモデルの分散状態を調べることができる。
本発明では、フィラーモデルのフィラー粒子が、一つの中心粒子と、該中心粒子を中心とする単一球の表面上に中心を有する少なくとも4つの表面粒子とを含む。また、中心粒子と表面粒子との間、及び、各表面粒子の間には、それぞれ平衡長が定義される。これにより、フィラーモデルは、中心粒子と表面粒子とが相対位置を保って連結された多面体状に形成できる。従って、ポリマー粒子が表面粒子のみに結合することにより、ポリマーモデルのフィラーモデルに対する位置が一意に定まるため、該ポリマーモデルの滑り運動防ぐことができ、シミュレーション精度を向上しうる。
本実施形態の処理を行なうコンピュータ装置の斜視図である。 本実施形態のシミュレーション方法のフローチャートである。 フィラーモデルの概念図である。 ポリマーモデルの概念図である。 本実施形態の条件設定工程を示すフローチャートである。 フィラー粒子とポリマー粒子とのポテンシャルを説明する概念図である。 フィラー粒子のカットオフ距離を説明する概念図である。 シミュレーションモデルの仮想空間の概念斜視図である。 本実施形態のシミュレーション工程を示すフローチャートである。 (a)、(b)は、結合工程を説明する概念図である。 フィラー・ポリマー計算工程後のシミュレーションモデルの概念斜視図である。 動径分布関数のグラフである。 (a)は従来のフィラーモデル及びポリマーモデルの概念図、(b)はポリマーモデルの滑り運動を説明する概念図である。
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある)は、高分子材料中に配合されたフィラーの分散性を、コンピュータ1を用いて評価するためのものである。この高分子材料としては、少なくともゴム、樹脂又はエラストマーが含まれる。また、フィラーは、これらの高分子材料中に配合される充填剤であり、代表的なものとしては、カーボンブラック、シリカ又はアルミナ等が含まれる。
図1に示されるように、前記コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられる。なお、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶される。
図2には、本実施形態のシミュレーション方法の具体的な処理手順が示されている。このシミュレーション方法は、フィラーをモデル化したフィラーモデル3を設定するフィラー設定工程S1と、高分子材料をモデル化したポリマーモデル5を設定するポリマー設定工程S2と、シミュレーション条件を設定する条件設定工程S3と、分子動力学( Molecular Dynamics : MD)計算を行なうシミュレーション工程S4と、フィラーモデル3の分散状態を評価する評価工程S5とを含む。
前記フィラー設定工程S1では、図3に示されるように、フィラーを複数のフィラー粒子4でモデル化したフィラーモデル3を設定する。このフィラーモデル3は、フィラーを分子動力学で取り扱うための数値データ(フィラー粒子4の質量、体積、直径及び初期座標などを含む)であり、これらの数値データがコンピュータ1に入力される。
前記フィラー粒子4は、一つの中心粒子4cと、該中心粒子4cを中心とする単一球Bの表面上に中心4scを有する少なくとも4つ、本実施形態では8つの表面粒子4sとを含む。これらの粒子4c、4sは、いずれも径を持った球で表現される。さらに、中心粒子4cと表面粒子4sとの間、及び、各表面粒子4s、4sの間には、それぞれ平衡長が定義された結合鎖4jが配される。
ここで、「平衡長」とは、単一球Bにおいて、各表面粒子4sの相対位置が安定して保たれる中心粒子4cと表面粒子4sとの間、及び、各表面粒子4s、4sの間の結合距離である。さらに、中心粒子4c及び3つ以上の表面粒子4sが、同一平面上に位置しないように配置される。これにより、フィラーモデル3は、中心粒子4cと表面粒子4sとが相対位置を保って連結された三次元の多面体状に形成される。
前記ポリマー設定工程S2では、図4に示されるように、高分子材料を、少なくとも一つのポリマー粒子6でモデル化したポリマーモデル5を設定する。このポリマーモデル5も、高分子材料を分子動力学で取り扱うための数値データであり、これらの数値データがコンピュータ1に入力される。
本実施形態のポリマー粒子6は、それぞれ異なるポテンシャル(後述する)が定義される未変性粒子6a、及び変性基粒子6bを含む。これらの粒子6a、6bは、いずれも径を持った球で表現される。また、粒子6a、6b間には、それらを拘束する結合鎖6jが配置され、直鎖状の三次元構造をなしている。
図5には、本実施形態の条件設定工程S3の具体的な処理手順が示されている。
この条件設定工程S3では、図6に示されるように、先ず、各フィラー粒子4c、4sと各ポリマー粒子6a、6bとの粒子間に、粒子間の距離の関数であるポテンシャルを定義するポテンシャル設定工程S3aが行われる。
前記ポテンシャルは、数値データとしてコンピュータ1に入力され、2つの粒子の間に作用する力を計算する際に用いられる。このポテンシャルは、下記の式(1)で定義される。
Figure 0005427260
上記式(1)において、aijは粒子間ごとに定義されるポテンシャルの強度、rijは粒子間の距離、rcはカットオフ距離を表している。なお、距離rij、カットオフ距離rcは、各粒子の中心間の距離として定義される。
上記式(1)では、2つの粒子間の距離が、予め定められたカットオフ距離rc以下になったときに相互作用(本実施形態では、斥力)が生じるポテンシャルが定義される。なお、粒子間の距離rijが予め定めたカットオフ距離rcよりも大きい場合には、ポテンシャルUはゼロとなり、粒子間に斥力は生じない。
また、本実施形態では、次の2つの粒子の組合せについて、それぞれポテンシャルU1乃至U10が定義される。
粒子4c−6a:ポテンシャルU1
粒子4c−6b:ポテンシャルU2
粒子4c−4s:ポテンシャルU3
粒子4s−6a:ポテンシャルU4
粒子4s−6b:ポテンシャルU5
粒子6a−6b:ポテンシャルU6
粒子4c−4c:ポテンシャルU7
粒子4s−4s:ポテンシャルU8
粒子6a−6a:ポテンシャルU9
粒子6b−6b:ポテンシャルU10
ポテンシャルの強度aijとしては、論文(J. Chem Phys. 107(11) 4423-4435 (1997))において、同種粒子間の強度aijを25とすることが提唱されている。しかし、その後、多くの研究がなされ、同種粒子間ではaij=50、異種粒子間ではaij=72とするものが出てきた(例えば、Macromolcule vol.39 6744(2006))。本実施形態では、上記パラメータを参考として、各ポテンシャルU1乃至U10の強度aijを次のように設定している。
ポテンシャルU1:aij=72
ポテンシャルU2:aij=25
ポテンシャルU3:aij=50
ポテンシャルU4:aij=72
ポテンシャルU5:aij=25
ポテンシャルU6:aij=72
ポテンシャルU7:aij=50
ポテンシャルU8:aij=50
ポテンシャルU9:aij=50
ポテンシャルU10:aij=50
上記のように、ポリマーモデル5の変性基粒子6bとフィラーモデル3の各フィラー粒子4c、4sとの間のポテンシャルU2、U5の強度aij(=25)は、ポリマー粒子6の未変性粒子6aと各フィラー粒子4c、4sとの間のポテンシャルU1、U4の強度aij(=72)よりも小さく設定される。これにより、変性基粒子6bは、未変性粒子6aに比べて斥力が小さくなる。このような変性基粒子6bは、各フィラー粒子4c、4sとの親和性が高くなり、実際の高分子材料に配合される変性剤として再現される。従って、ポリマーモデル5に変性基粒子6bを含ませる(変性ポリマー化する)ことにより、実際の高分子材料と同様に、ポリマーモデル5中のフィラーモデル3の分散状態を変化させることができ、シミュレーション精度を向上しうる。
さらに、これらのポテンシャルU1乃至U10は、前記式(1)のカットオフ距離rcが次のように設定される。
ポテンシャルU1:rc=3
ポテンシャルU2:rc=3
ポテンシャルU3:rc=3
ポテンシャルU4:rc=1
ポテンシャルU5:rc=1
ポテンシャルU6:rc=1
ポテンシャルU7:rc=5
ポテンシャルU8:rc=1
ポテンシャルU9:rc=1
ポテンシャルU10:rc=1
図7に示されるように、フィラーモデル3の中心粒子4cが関連するポテンシャル(例えばU1)の各カットオフ距離rcは、フィラーモデル3の表面粒子4sが関連するポテンシャル(例えば、U4)の各カットオフ距離rcよりも大に設定される。
上記のように、カットオフ距離rcを定義することにより、フィラーモデル3は、中心粒子4cのが関連するポテンシャルU1〜U3及びU7(図6に示す)を、表面粒子4sが関連するポテンシャルU4、U5、及びU8よりも優先的に作用させることができる。しかも、中心粒子4cは、径を持った球で表現されるため、前記ポテンシャルU1〜U3及びU7が放射状に作用するように定義することができる。従って、コンピュータ1は、分子動力学計算において、フィラーモデル3を、実際のフィラーと近似する球として扱えるため、シミュレーション精度を向上しうる。
さらに、コンピュータ1は、表面粒子4sのカットオフ距離rc内にまで浸入する粒子を除いて、実質的に中心粒子4cのみの各ポテンシャルU1〜U3及びU7で、フィラーモデル3を分子動力学計算することができ、計算効率を向上しうる。
図8に示されるように、本実施形態の条件設定工程S3では、コンピュータ1内で予め定められた体積を持つ仮想空間Vの中に、複数のフィラーモデル3及びポリマーモデル5(図示省略)を配置する初期配置工程S3bが行われる。
前記仮想空間Vは、解析対象のゴムポリマーの微小構造部分に相当し、本実施形態では、1辺の長さL1が、例えば30[δ]の立方体として定義される。この仮想空間Vには、例えば、フィラーモデル3が100個、及びポリマーモデル5が1500本が、ランダムに初期配置される。
次に、本実施形態では、少なくとも2つのフィラーモデル3を、互いに前記相互作用が生じる距離(即ち、カットオフ距離rc内)に配置してフィラーモデルの凝集塊を形成する凝集塊設定工程S3cが行われる。これにより、仮想空間Vには、解析対象のゴムポリマー内に形成されがちなフィラーの凝集塊を再現でき、現実に近いシミュレーションを行うことができる。
図9には、本実施形態のシミュレーション工程S4の具体的な処理手順が示されている。このシミュレーション工程S4では、先ず、各フィラー粒子4c、4sの動きを拘束するフィラー拘束工程S4aが行われる。具体的には、フィラーモデル3は、前記仮想空間V内におけるフィラー粒子4の座標の位置がコンピュータ1で固定され、次のポリマー計算工程S4bにおいて移動不能に拘束される。
次に、ポリマーモデル5のみを対象として、コンピュータ1が前記分子動力学計算を行うポリマー計算工程S4bが行われる。この工程S4bにおける分子動力学計算では、例えば、設定された仮想空間Vについて所定の時間、拘束されたフィラーモデル3を除いた全てのポリマーモデル5が、古典力学に従うものとしてニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻における各ポリマー粒子6a、6bの動きが追跡される。なお、分子動力学計算では、各フィラー粒子4c、4s、及び各ポリマー粒子6a、6bの数、仮想空間Vの体積、及び仮想空間の温度等の諸条件が一定に保たれる。
このように、ポリマー計算工程S4bでは、フィラーモデル3に先立ち、ポリマーモデル5のみが仮想空間V内で分散されるため、フィラーモデルの凝集塊が保たれた上で、ポリマーモデル5の安定配置を求めることができる。
このような作用を効果的に発揮させるために、ポリマー計算工程S4bにおいて、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、100ステップ以上が望ましい。なお、ステップ数が100未満であると、計算時間が短く、ポリマーモデル5を十分に分散させることができず、上記作用を十分に発揮させることができないおそれがある。逆に、ステップ数が100万ステップを超えると、計算コストの増加分に対して十分な分散結果を得ることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、より好ましくは1000ステップ以上が望ましく、また、より好ましくは100万ステップ以下が望ましい。
次に、ポリマーモデル5の分散結果が十分かを判断する第1判定ステップS4cが行われる。本実施形態では、コンピュータ1が、ポリマーモデル5の分散が十分であると判断した場合、次のフィラー粒子4の拘束を解除する解除工程S4dに移行する。一方、コンピュータ1がポリマーモデル5の分散が十分でないと判断した場合は、ポリマー計算工程S4bにおいて、さらにステップ数を増やしてポリマーモデル5の分散処理が行われる。
次に、フィラーモデル3の各フィラー粒子4の拘束を解除する解除工程S4dが行われる。具体的には、仮想空間V内におけるフィラー粒子4の座標の位置の固定がコンピュータ1によって解除され、後述する結合工程S4e、及びフィラー・ポリマー計算工程S4fにおいて、フィラーモデル3を仮想空間V内で自由に移動させることができる。
さらに、図10(a)、(b)に示されるように、予め定めた粒子間距離L2以下に接近したフィラー粒子4とポリマー粒子6とを連結鎖10で結合させる結合工程S4eが行われる。これにより、フィラーとポリマーとの化学結合がシミュレーション工程中で再現される。
本実施形態では、各ポリマー粒子6a、6bが、フィラーモデル3の表面粒子4sのみに結合する。前述のように、表面粒子4sは、中心粒子4cに相対位置を保って連結されるため、ポリマーモデル5のフィラーモデル3に対する位置を一意に定めることができる。従って、ポリマーモデル5は、従来のように滑り運動するのを防ぐことができ、シミュレーション精度を確実に向上しうる。また、粒子間距離L2は、表面粒子4sが関連するポテンシャルの各カットオフ距離rc(図7に示す)の10〜200%が望ましい。
次に、フィラーモデル3及びポリマーモデル5をともに対象として、コンピュータ1が分子動力学計算を行うフィラー・ポリマー計算工程S4fが行われる。この工程S4fにおける分子動力学計算では、ポリマー計算工程S4bと同様に、ニュートンの運動方程式が適用される。
そして、各時刻におけるフィラーモデル3の各フィラー粒子4c、4s、及びポリマーモデル5の各ポリマー粒子6a、6bの動きが追跡される。なお、分子動力学計算では、各フィラー粒子4c、4sの数、各ポリマー粒子6a、6bの数、仮想空間Vの体積、及び仮想空間Vの温度等の諸条件が一定に保たれる。これにより、図11に示されるように、フィラー・ポリマー計算工程S4fでは、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を、仮想空間V内でそれぞれ分散させることができる。
さらに、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を効果的に分散させるために、フィラー・ポリマー計算工程S4fにおいて、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、1000ステップ以上が望ましい。なお、ステップ数が1000未満であると、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を十分に分散できないおそれがある。逆に、ステップ数が100万ステップを超えると、計算コストの増加分に対して十分な分散効果を得ることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、より好ましくは5000ステップ以上が望ましく、また、より好ましくは100万ステップ以下が望ましい。
次に、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の分散が十分かを判断する第2判定ステップS4gが行われる。本実施形態では、コンピュータ1が、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の分散が十分であると判断した場合、次の評価工程S5(図2に示す)に移行する。一方、コンピュータ1が、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の分散が十分でないと判断した場合は、フィラー・ポリマー計算工程S4fにおいて、さらにステップ数を増やして、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の分散処理が行われる。
図2に示されるように、前記評価工程S5では、先ず、フィラーモデル3の中心粒子4cを対象とした動径分布関数g(r)を計算する工程S5aが行われる。この動径分布関数g(r)とは、ある中心粒子4c(図3に示す)から距離r離れた位置において、他の中心粒子4cが存在する確率密度を表す関数であり、下記の式(2)で定義される。
Figure 0005427260
上記式(2)において、n(r)は、粒子間距離rとr+Δr間に存在する粒子の数、〈 〉は粒子および時刻についての平均、ρは計算系全体の数密度を表す。
図12には、本実施形態の中心粒子4c、4c間の動径分布が示される。
この動径分布より、動径分布関数g(r)がピークとなるrp付近から最大値となるrmにかけて、万遍なく分布されていることが確認できる。これは、フィラーモデル3が、仮想空間Vの中で、万遍なく分散されていることを示している。このように、本実施形態では、中心粒子4cのみを対象に動径分布関数g(r)を求めることより、フィラーモデル3の分散状態を確認することができるため、計算コストの増大を抑制することができる。
なお、前記動径分布関数の距離rの範囲は、その最小値rsが0に設定されるとともに、かつ最大値rmが仮想空間Vの一辺の長さL1(図8に示す)の半分に設定されるのが望ましい。これにより、動径分布関数g(r)を求める距離rの範囲が、仮想空間V内に限定されるため、計算コストの増大を抑制しつつ、正確な評価を行いうる。なお、仮想空間Vの一辺の長さL1がそれぞれ同一でない場合、前記最大値rmは、全ての辺の最小の長さの半分に設定されるのが望ましい。
また、前記動径分布関数g(r)の取得間隔rdは、好ましくは、前記最大値rmを5で除した距離以下、さらに好ましくは、前記最大値rmを10で除した距離以下に設定されるのが望ましい。これにより、動径分布関数g(r)の精度を高めることかでき、正確な評価を行うことができる。なお、取得間隔rdが小さすぎても、計算コストが増大するおそれがある。このような観点より、取得間隔rdは、好ましくは、前記最大値rmを5で除した距離以下が望ましく、また前記最大値rmを100で除した距離以上に設定されるのが望ましい。なお、図12に示される動径分布において、前記取得間隔rdは、前記最大値rmを155で除した距離である。
次に、評価工程S5では、フィラーモデル3の分散状態が良好かを判断する判定ステップS5bが行われる。この判定ステップS5bでは、動径分布関数g(r)の結果をもとに、コンピュータ1が予め設定された許容範囲内であるか否かを判定する。
本実施形態では、コンピュータ1がフィラーモデル3の分散状態が良好と判断した場合、シミュレーションを終了する一方、コンピュータ1がフィラーモデル3の分散状態が良好でないと判断した場合は、動径分布関数g(r)の結果をもとに、例えば、フィラーモデル3や、ポリマーモデル5の設定条件を変更して、再度シミュレーションが行われる。これにより、フィラーモデル3を確実に分散させる条件等を、的確に解析することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
3 フィラーモデル
4 フィラー粒子
4c 中心粒子
4s 表面粒子
6 ポリマーモデル

Claims (8)

  1. 高分子材料中に配合されたフィラーの分散性を、コンピュータを用いて評価するためのシミュレーション方法であって、
    前記コンピュータに、前記フィラーを複数のフィラー粒子でモデル化したフィラーモデルを設定するフィラー設定工程と、
    前記コンピュータに、前記高分子材料を、少なくとも一つのポリマー粒子でモデル化したポリマーモデルを設定するポリマー設定工程と、
    前記コンピュータに、シミュレーション条件を設定する条件設定工程と、
    前記コンピュータが、前記ポリマーモデルと前記フィラーモデルとを予め定めた仮想空間に配置して分子動力学計算を行なうシミュレーション工程と、
    前記コンピュータが、前記シミュレーション工程の結果から、前記フィラーモデルの分散状態を評価する評価工程とを含み、
    前記シミュレーション工程は、予め定めた粒子間距離以下に接近した前記フィラー粒子と前記ポリマー粒子とを結合させる結合工程を含み、
    前記フィラーモデルの前記フィラー粒子は、一つの中心粒子と、該中心粒子を中心とする単一球の表面上に中心を有する少なくとも4つの表面粒子とを含み、
    前記中心粒子と前記表面粒子との間、及び、各表面粒子の間には、それぞれ平衡長が定義され、
    前記ポリマー粒子は、前記表面粒子のみに結合することを特徴とする高分子材料のシミュレーション方法。
  2. 前記フィラー粒子と前記ポリマー粒子との間には、粒子間の距離が、予め定められたカットオフ距離以下になったとき相互作用が生じるポテンシャルが定義され、
    前記中心粒子が関連するカットオフ距離は、前記表面粒子が関連するカットオフ距離と前記単一球の半径との和よりも大きい請求項1に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  3. 前記評価工程は、前記フィラーモデルの前記中心粒子を対象とした動径分布関数を計算する工程を含む請求項1又は2に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  4. 前記仮想空間は、立方体からなり、
    前記動径分布関数の距離範囲は、その最小値が0であり、かつ最大値が前記仮想空間の一辺の長さの半分に設定され、
    前記動径分布関数の取得間隔は、前記最大値を5で除した距離以下である請求項3に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  5. 前記条件設定工程は、前記仮想空間に、複数の前記フィラーモデル、及び複数の前記ポリマーモデルを配置する初期配置工程と、
    少なくとも2つのフィラーモデルを、互いに前記相互作用が生じる距離に配置してフィラーモデルの凝集塊を形成する凝集塊設定工程とをさらに含む請求項2に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  6. 前記シミュレーション工程は、前記フィラーモデルの前記フィラー粒子の動きを拘束するフィラー拘束工程、
    前記ポリマーモデルのみを対象として前記分子動力学計算を行うポリマー計算工程、
    前記フィラーモデルの前記フィラー粒子の拘束を解除する解除工程、及び、
    前記フィラーモデル及び前記ポリマーモデルをともに対象として分子動力学計算を行うフィラー・ポリマー計算工程をさらに含む請求項1乃至5のいずれかに記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  7. 前記ポリマー計算工程は、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数が、100ステップ以上である請求項6に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  8. 前記フィラー・ポリマー計算工程は、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数が、1000ステップ以上である請求項6又は7に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
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