以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある)は、高分子材料中に配合されたフィラーの分散性を、コンピュータを用いて評価するための方法である。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ又はアルミナ等が含まれる。高分子材料としては、例えば、ゴム、樹脂又はエラストマー等が含まれる。
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するコンピュータの斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。
図2は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、フィラーをモデル化したフィラーモデルが設定される(工程S1)。図3は、本実施形態のフィラーモデルの概念図である。
本実施形態のフィラーモデル3は、複数のフィラー粒子モデル4を用いて、フィラーがモデル化される。フィラー粒子モデル4は、予め定められた多面体13に基づいて配置されている。本実施形態の多面体13は、立方体として設定されている。
フィラー粒子モデル4は、多面体13の重心に配置される1個の中心粒子モデル4cと、多面体13の表面に配置される複数の表面粒子モデル4sとを含んでいる。本実施形態の表面粒子モデル4sは、多面体13の頂点13aに配置される頂点粒子モデル7と、頂点粒子モデル7、7間に配置される中間粒子モデル8とを含んで構成されている。
中心粒子モデル4c及び表面粒子モデル4sは、いずれも径を持った球で表現されている。さらに、中心粒子モデル4cと表面粒子モデル4s(頂点粒子モデル7)との間、及び、各表面粒子モデル4s、4s(頂点粒子モデル7及び中間粒子モデル8)の間には、それぞれ平衡長が定義された結合鎖4jが設けられている。このようなフィラーモデル3は、コンピュータ1で取り扱い可能な数値データであり、コンピュータ1に入力される。数値データには、例えば、フィラー粒子モデル4の質量、体積、直径及び初期座標などが含まれる。
ここで、「平衡長」とは、多面体13での各表面粒子モデル4sの相対位置を安定して保ちうる中心粒子モデル4cと表面粒子モデル4sとの間、及び、各表面粒子モデル4s、4sの間の結合距離である。これにより、フィラーモデル3は、中心粒子モデル4c及び表面粒子モデル4sの配置を、多面体13の形状に安定して維持することができる。
次に、図2に示されるように、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料をモデル化したポリマーモデルが設定される(工程S2)。図4は、本実施形態のポリマーモデル5の概念図である。
ポリマーモデル5は、複数のポリマー粒子モデル6を用いて、高分子材料がモデル化される。本実施形態のポリマー粒子モデル6は、それぞれ異なるポテンシャルが定義される未変性粒子モデル6a、及び、変性基粒子モデル6bを含んでいる。これらのポリマー粒子モデル6a、6bは、いずれも径を持った球で表現されている。
未変性粒子モデル6a、6a間、及び、未変性粒子モデル6aと変性基粒子モデル6bとの間には、平衡長が定義された結合鎖6jが定義されている。これにより、ポリマーモデル5は、直鎖状の三次元構造に形成される。このようなポリマーモデル5は、コンピュータ1で取り扱い可能な数値データであり、コンピュータ1に入力される。数値データには、例えば、ポリマー粒子モデル6の質量、体積、直径及び初期座標などが含まれる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、シミュレーション条件が設定される(条件設定工程S3)。図5は、本実施形態の条件設定工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この条件設定工程S3では、先ず、各フィラー粒子モデル4c、4sと各ポリマー粒子モデル6a、6bとの間に、粒子間の距離の関数であるポテンシャルが定義される(工程S31)。図6は、フィラー粒子モデル4とポリマー粒子モデル6とのポテンシャルを説明する概念図である。ポテンシャルは、2つの粒子モデルの間に作用する力を計算する際に用いられるものである。このポテンシャルは、下記の式(1)で定義される。
上記式(1)において、aijは、粒子モデル間ごとに定義されるポテンシャルの強度を示している。rijは、粒子間の距離を示している。rcは、カットオフ距離を示している。なお、距離rij、及び、カットオフ距離rcは、各粒子モデルの中心間の距離として定義される。
上記式(1)では、2つの粒子間の距離が、予め定められたカットオフ距離rc以下になったときに、相互作用(本実施形態では、斥力)が生じるポテンシャルが定義される。なお、粒子間の距離rijが予め定めたカットオフ距離rcよりも大きい場合には、ポテンシャルUがゼロとなり、粒子モデル間に斥力は生じない。
本実施形態では、次の2つの粒子モデルの組合せについて、それぞれポテンシャルU1乃至ポテンシャルU10が定義される。
ポテンシャルU1:中心粒子モデル4c−未変性粒子モデル6a
ポテンシャルU2:中心粒子モデル4c−変性基粒子モデル6b
ポテンシャルU3:中心粒子モデル4c−表面粒子モデル4s
ポテンシャルU4:表面粒子モデル4s−未変性粒子モデル6a
ポテンシャルU5:表面粒子モデル4s−変性基粒子モデル6b
ポテンシャルU6:未変性粒子モデル6a−変性基粒子モデル6b
ポテンシャルU7:中心粒子モデル4c−中心粒子モデル4c
ポテンシャルU8:表面粒子モデル4s−表面粒子モデル4s
ポテンシャルU9:未変性粒子モデル6a−未変性粒子モデル6a
ポテンシャルU10:変性基粒子モデル6b−変性基粒子モデル6b
ポテンシャルの強度aijとしては、論文(J. Chem Phys. 107(11) 4423-4435 (1997) )において、同種粒子間の強度aijを25とすることが提唱されている。しかし、その後、多くの研究がなされ、同種粒子間ではaij=50、異種粒子間ではaij=72とするものが出てきた(例えば、論文(Macromolcule vol.39 6744(2006)))。本実施形態では、上記パラメータを参考として、ポテンシャルU1乃至ポテンシャルU10の各強度aijは、次のように設定される。
ポテンシャルU1:aij=72
ポテンシャルU2:aij=25
ポテンシャルU3:aij=50
ポテンシャルU4:aij=72
ポテンシャルU5:aij=25
ポテンシャルU6:aij=72
ポテンシャルU7:aij=50
ポテンシャルU8:aij=50
ポテンシャルU9:aij=50
ポテンシャルU10:aij=50
上記のように、変性基粒子モデル6bと中心粒子モデル4cとの間のポテンシャルU2、及び、変性基粒子モデル6bと表面粒子モデル4sとの間のポテンシャルU5の強度aij(=25)は、未変性粒子モデル6aと中心粒子モデル4cとの間のポテンシャルU1、及び、未変性粒子モデル6aと表面粒子モデル4sとの間のポテンシャルU4の強度aij(=72)よりも小さく設定される。これにより、変性基粒子モデル6bは、未変性粒子モデル6aに比べて斥力が小さくなる。
このような変性基粒子モデル6bは、各フィラー粒子モデル4c、4sとの親和性を高く表現できるため、実際の高分子材料に配合される変性剤として再現される。これにより、ポリマーモデル5に変性基粒子モデル6bを含ませる(変性ポリマー化する)ことにより、実際の高分子材料と同様に、ポリマーモデル5中のフィラーモデル3の分散状態を変化させることができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、シミュレーション精度を向上しうる。
さらに、これらのポテンシャルU1乃至ポテンシャルU10は、前記式(1)のカットオフ距離rcが次のように設定される。
ポテンシャルU1:rc=3
ポテンシャルU2:rc=3
ポテンシャルU3:rc=3
ポテンシャルU4:rc=1
ポテンシャルU5:rc=1
ポテンシャルU6:rc=1
ポテンシャルU7:rc=5
ポテンシャルU8:rc=1
ポテンシャルU9:rc=1
ポテンシャルU10:rc=1
図7は、フィラー粒子モデルのカットオフ距離を説明する概念図である。フィラーモデル3の中心粒子モデル4cが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU1)の各カットオフ距離rcは、フィラーモデル3の表面粒子モデル4sが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU4)の各カットオフ距離rcよりも大に設定されている。さらに、本実施形態の中心粒子モデル4cが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU1)の各カットオフ距離rcは、表面粒子モデル4sが関連するポテンシャル(例えば、ポテンシャルU4)の各カットオフ距離rc、及び、表面粒子モデル4sと中心粒子モデル4cとの粒子間距離Lcの和(rc+Lc)よりも大に設定されている。
上記のように、カットオフ距離rcを定義することにより、フィラーモデル3は、中心粒子モデル4cが関連するポテンシャルU1〜ポテンシャルU3、及び、ポテンシャルU7(図5に示す)を、表面粒子モデル4sが関連するポテンシャルU4、ポテンシャルU5、及び、ポテンシャルU8よりも優先的に作用させることができる。しかも、中心粒子モデル4cは、径を持った球で表現されるため、ポテンシャルU1〜ポテンシャルU3、及び、ポテンシャルU7が放射状に作用する。従って、コンピュータ1は、分子動力学計算において、フィラーモデル3を、実際のフィラーと近似する球として扱えるため、シミュレーション精度を向上しうる。
さらに、コンピュータ1は、表面粒子モデル4sのカットオフ距離rc内にまで浸入する粒子を除いて、実質的に中心粒子モデル4cのみの各ポテンシャルU1〜ポテンシャルU3、及び、ポテンシャルU7で、フィラーモデル3を分子動力学計算することができる。従って、本発明のシミュレーション方法では、計算効率を向上させることができる。このようなポテンシャルUは、数値データとしてコンピュータ1に入力される。
次に、コンピュータ1内で予め定められた体積を持つ仮想空間の中に、複数のフィラーモデル3及びポリマーモデル5が配置される(工程S32)。図8は、シミュレーションモデルの仮想空間9の概念斜視図である。
仮想空間9は、解析対象のゴムポリマーの微小構造部分に相当するものである。本実施形態の仮想空間9は、1辺の長さL1が、例えば30[σ]の立方体として定義されている。この仮想空間9には、例えば、100個のフィラーモデル3、及び、2000本のポリマーモデル5が、ランダムに配置される。
次に、フィラーモデル3の凝集塊が形成される(工程S33)。この工程S33では、少なくとも2つのフィラーモデル3を、相互作用が互いに生じる距離(即ち、カットオフ距離rc内)に配置して、フィラーモデル3の凝集塊が形成される。これにより、仮想空間9には、解析対象のゴムポリマー内に形成されがちなフィラーの凝集塊を再現でき、現実に近いシミュレーションを行うことができる。
次に、図2に示されるように、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、仮想空間9に配置されたフィラーモデル3とポリマーモデル5とを用いて、分子動力学( Molecular Dynamics : MD)計算を実施する(シミュレーション工程S4)。図9は、本実施形態のシミュレーション工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8及び図9に示されるように、シミュレーション工程S4では、先ず、各フィラー粒子モデル4c、4sの動きが拘束される(フィラー拘束工程S41)。このフィラー拘束工程S41では、コンピュータ1によって、仮想空間9でのフィラー粒子モデル4の座標が固定され、フィラー粒子モデル4が移動不能に拘束される。
次に、シミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、ポリマーモデル5のみを対象として、分子動力学計算が実施される(工程S42)。工程S42での分子動力学計算では、例えば、設定された仮想空間9について所定の時間、拘束されたフィラーモデル3を除いた全てのポリマーモデル5が、古典力学に従うものとしてニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻における各ポリマー粒子モデル6a、6bの動きが追跡される。なお、分子動力学計算では、各フィラー粒子モデル4c、4sの数、各ポリマー粒子モデル6a、6bの数、仮想空間9の体積、及び、仮想空間の温度等の諸条件が一定に保たれる。
このように、本実施形態の工程S42では、ポリマーモデル5のみが仮想空間9内で分散されるため、フィラーモデル3の凝集塊が保たれた上で、ポリマーモデル5の安定配置を求めることができる。
次に、シミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、ポリマーモデル5が十分に分散したか否かを判断する(工程S43)。本実施形態では、ポリマーモデル5が十分に分散したと判断された場合(工程S43で「Y」)、次の工程S44が実施される。一方、ポリマーモデル5が十分に分散していないと判断された場合(工程S43で「N」)は、単位ステップを進めて(工程S45)、工程S42が再度実施される。従って、本実施形態のシミュレーション工程S4では、ポリマーモデル5を効果的に分散させることができる。
工程S42においてポリマーモデル5の安定配置を求めるために、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、100ステップ以上が望ましい。なお、ステップ数が100ステップ未満であると、計算時間が短くなり、ポリマーモデル5を十分に分散させることができない。このため、上記作用を十分に発揮させることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、より好ましくは1000ステップ以上である。一方、ステップ数が多すぎても、計算コストの増加分に対して十分な分散結果を得ることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、好ましくは100万ステップ以下である。
次に、シミュレーション工程S4では、フィラーモデル3の各フィラー粒子モデル4の拘束が解除される(工程S44)。この工程S44では、コンピュータ1によって、フィラー粒子モデル4の座標の固定が解除される。これにより、シミュレーション工程S4では、後述する工程S47において、フィラーモデル3を、仮想空間9内で自由に移動させることができる。
次に、シミュレーション工程S4では、フィラー粒子モデル4とポリマー粒子モデル6とが結合される(結合工程S46)。この結合工程S46では、複数のフィラー粒子モデル4から予め定められた結合対象フィラー粒子モデル15に、複数のポリマー粒子モデル6から予め定められた結合対象ポリマー粒子モデル16が、連結鎖で結合される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、フィラーとポリマーとの化学結合を再現することができる。
図3に示されるように、結合対象フィラー粒子モデル15としては、フィラーモデル3を構成する複数のフィラー粒子モデル4から、任意のフィラー粒子モデル4を選択することができる。本実施形態の結合対象フィラー粒子モデル15は、多面体13の頂点13aに配置されたフィラー粒子モデル4(頂点粒子モデル7)の8個から構成される。
図4に示されるように、結合対象ポリマー粒子モデル16としては、ポリマーモデル5を構成する複数のポリマー粒子モデル6から、任意のポリマー粒子モデル6を選択することができる。本実施形態では、直鎖状に配置される複数のポリマー粒子モデル6のうち、中央に配置されるポリマー粒子モデル6が1個選択される。
図10は、本実施形態の結合工程S46の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の結合工程S46では、先ず、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16の数(以下、単に「結合数」ということがある。)Saの上限値Suが設定される(工程S11)。上限値Suは、例えば、結合対象フィラー粒子モデル15の数、及び、結合対象ポリマー粒子モデル16の数に応じて、適宜設定することができる。本実施形態の上限値Suは、下記式(2)の関係を満たすように定義される。
Na/Nb−1≦Su≦Na/Nb+1 …(2)
ここで、各パラメータは、次のとおりである。
Na:結合対象ポリマー粒子モデルの総数
Nb:結合対象フィラー粒子モデルの総数
総数Naは、仮想空間9(図8に示す)内に配置された結合対象ポリマー粒子モデル16の総数である。図4に示したように、本実施形態の各ポリマーモデル5には、結合対象ポリマー粒子モデル16が1個含まれている。従って、総数Naは、仮想空間9内に配置されたポリマーモデル5の総数(例えば、2000)と同一である。
総数Nbは、仮想空間9内に配置された結合対象フィラー粒子モデル15の総数である。図3に示したように、本実施形態の各フィラーモデル3には、結合対象フィラー粒子モデル15が複数(本実施形態では、8個)含まれている。従って、総数Nbは、仮想空間9内に配置されたフィラーモデル3の総数(例えば100)と、各フィラーモデル3に含まれる結合対象フィラー粒子モデル15の数(例えば、8)を乗じた値である。
従って、Na/Nbは、各結合対象フィラー粒子モデル15に、結合対象ポリマー粒子モデル16が均等に結合された場合の個数を示している。例えば、結合対象ポリマー粒子モデルの総数Naが2000、かつ、結合対象フィラー粒子モデルの総数Nbが800である場合、Na/Nbは、2.5となる。Na/Nbが2.5の場合、上記式(2)の関係に基づくと、上限値Suは、1.5以上かつ3.5以下に限定される。結合数Saは、正の整数に限定される。このため、上限値Suは、2又は3に設定される。
次に、結合工程S46では、コンピュータ1が、結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16を特定する(特定工程S12)。図11は、本実施形態の特定工程S12の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の特定工程S12は、先ず、各結合対象ポリマー粒子モデル16が、夫々粒子間距離Lpが最も小さい結合対象フィラー粒子モデル15に関連付けられる(第1工程S21)。図12は、結合対象ポリマー粒子モデル16を関連付ける工程を説明する概念図である。
第1工程S21では、先ず、仮想空間9(図8に示す)において、各結合対象ポリマー粒子モデル16から粒子間距離Lpが最も小さい結合対象フィラー粒子モデル15が探索される。なお、粒子間距離Lpは、各粒子モデル15、16の中心間の距離として定義される。
次に、第1工程S21では、各結合対象ポリマー粒子モデル16と、それぞれ探索された結合対象フィラー粒子モデル15とが関連付けられる。この関連付けに関する情報は、コンピュータ1に記憶される。なお「関連付けに関する情報」には、例えば、結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象フィラー粒子モデル15の識別番号や、仮想空間9での各座標値が含まれる。
図12に示される例では、結合対象フィラー粒子モデル15として、第1結合対象フィラー粒子モデル15a、及び、第2結合対象フィラー粒子モデル15bが配置されている。第1結合対象フィラー粒子モデル15aには、3個の結合対象ポリマー粒子モデル16が関連付けられている。本例では、3個の結合対象ポリマー粒子モデル16が、結合対象フィラー粒子モデル15からの粒子間距離Lpが小さい順に、第1結合対象ポリマー粒子モデル16a、第2結合対象ポリマー粒子モデル16b及び第3結合対象ポリマー粒子モデル16cとして区別される。
一方、第2結合対象フィラー粒子モデル15bには、1個の結合対象ポリマー粒子モデル16が関連付けられている。本例では、1個の結合対象ポリマー粒子モデル16が、第4結合対象ポリマー粒子モデル16dとして区別される。図12において、結合対象フィラー粒子モデル15と、結合対象ポリマー粒子モデル16との関連付けが、二点鎖線で示されている。
次に、本実施形態の特定工程S12は、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16が、関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16の集団(以下、単に「結合対象ポリマー粒子モデル群」ということがある。)から特定される(第2工程S22)。この第2工程S2では、前記結合数Saが上限値Su以下を満たすように、結合対象ポリマー粒子モデル16を、結合対象ポリマー粒子モデル群から粒子間距離Lpが小さい順に特定している。
図13は、結合対象ポリマー粒子モデル16を特定する工程を説明する概念図である。本例での上限値Suには、「2」が設定されている。
図12に示したように、第1結合対象フィラー粒子モデル15aには、上限値Su(本例では、2個)よりも多い3個の結合対象ポリマー粒子モデル16(結合対象ポリマー粒子モデル群)が関連付けられている。このため、本例では、第1結合対象フィラー粒子モデル15aに関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル群のうち、粒子間距離Lpが小さい順に、上限値Su(本例では、2個)分の結合対象ポリマー粒子モデル16a、16bが選択される。
図13に示されるように、選択された第1結合対象ポリマー粒子モデル16a及び第2結合対象ポリマー粒子モデル16bは、第1結合対象フィラー粒子モデル15aに結合されるものとして特定される。なお、図13において、結合対象フィラー粒子モデル15と結合対象ポリマー粒子モデル16との特定は、実線で示されている。
一方、結合対象ポリマー粒子モデル群のうち、粒子間距離Lpが最も大きい第3結合対象ポリマー粒子モデル16cは、第1結合対象フィラー粒子モデル15aに結合されるものとして特定されない。
第2結合対象フィラー粒子モデル15bには、上限値Su(本例では、2個)よりも小さい1個の結合対象ポリマー粒子モデル16(第4結合対象ポリマー粒子モデル16d)が関連付けられている。このため、第4結合対象ポリマー粒子モデル16dが、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに結合されるものとして特定される。
このように、第2工程S22では、結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16の結合数Saが上限値Su以下となるように、結合対象ポリマー粒子モデル16が特定される。なお、結合対象ポリマー粒子モデル16を特定する情報は、例えば、結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象フィラー粒子モデル15の識別番号や、仮想空間9での各座標値が含まれる。結合対象ポリマー粒子モデル16を特定する情報は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の特定工程S12は、第2工程S22で特定されなかった各結合対象ポリマー粒子モデル16が、新たな結合対象フィラー粒子モデル15に関連付けられる(第3工程S23)。図14は、特定されなかった結合対象ポリマー粒子モデル16の関連付けを説明する概念図である。
第3工程S23では、先ず、仮想空間9(図9に示す)において、第2工程S22で特定されなかった各結合対象ポリマー粒子モデル16から、第1工程S21で関連付けられた結合対象フィラー粒子モデル15の次に粒子間距離Lpが小さい結合対象フィラー粒子モデル15が探索される。そして、各結合対象ポリマー粒子モデル16と、探索された結合対象フィラー粒子モデル15とが関連付けられる。関連付けに関する情報は、コンピュータ1に記憶される。
図14に示される例において、第2工程S22で特定されなかった結合対象ポリマー粒子モデル16は、第3結合対象ポリマー粒子モデル16cである。第3工程S23では、第3結合対象ポリマー粒子モデル16cとの粒子間距離Lpが、第1結合対象フィラー粒子モデル15aの次に小さい結合対象フィラー粒子モデル15(本例では、第2結合対象フィラー粒子モデル15b)が探索される。そして、第3結合対象ポリマー粒子モデル16cと、第2結合対象フィラー粒子モデル15bとが関連付けられる。
次に、本実施形態の特定工程S12は、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16が、第3工程S23で関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル群から特定される(第4工程S24)。第4工程S24では、第2工程S22と同様に、結合対象ポリマー粒子モデル16を、前記結合数Saが上限値Su以下を満たすように、第3工程S23で関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル群から粒子間距離Lpが小さい順に特定している。
図15は、第3工程S23で関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16を特定する工程を説明する概念図である。第2結合対象フィラー粒子モデル15bには、第3結合対象ポリマー粒子モデル16cのみが関連付けられている。第2結合対象フィラー粒子モデル15bは、1個の結合対象ポリマー粒子モデル16(第4結合対象ポリマー粒子モデル16d)が既に特定されている。このため、第2結合対象フィラー粒子モデル15bでは、結合数Saが上限値Su以下を満たすために、関連付けられた1個の結合対象ポリマー粒子モデル16のみを特定することができる。従って、第3結合対象ポリマー粒子モデル16cは、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに結合されるものとして特定される。
なお、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに、2個以上の結合対象ポリマー粒子モデル16が関連付けられている場合は、結合数Saが上限値Su以下を満たすように、結合対象ポリマー粒子モデル群から粒子間距離Lpが小さい順に特定される。従って、粒子間距離Lpが2番目以降に小さい結合対象ポリマー粒子モデル16(図示省略)は、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに結合されるものとして特定されない。
このように、第4工程S24では、結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16を、結合数Saが上限値Su以下を満たすように、第3工程S23で関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16から特定することができる。結合対象ポリマー粒子モデル16を特定する情報は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の特定工程S12では、全ての結合対象ポリマー粒子モデル16が、結合対象フィラー粒子モデル15に特定されたか否かが判断される(工程S25)。この工程S25では、全ての結合対象ポリマー粒子モデル16が、結合対象フィラー粒子モデル15に特定されたと判断された場合、次の工程S13が実施される。一方、各結合対象フィラー粒子モデル15に特定されていない結合対象ポリマー粒子モデル16が存在すると判断された場合は、特定されていない結合対象ポリマー粒子モデル16を対象に、第3工程S23及び第4工程S24が実施される。これにより、特定工程S12では、全ての結合対象ポリマー粒子モデル16を、結合対象フィラー粒子モデル15に特定することができる。なお、本実施形態では、結合対象ポリマー粒子モデル16が特定されていない結合対象フィラー粒子モデル15の存在が許容されている。
次に、結合工程S46では、特定工程S12で特定された結合対象フィラー粒子モデル15と結合対象ポリマー粒子モデル16とが結合される(工程S13)。図16は、結合対象フィラー粒子モデル15と結合対象ポリマー粒子モデル16とを結合する工程を説明する概念図である。工程S13では、特定された結合対象フィラー粒子モデル15と結合対象ポリマー粒子モデル16とを連結鎖10で結合させている。これにより、フィラーモデル3及びポリマーモデル5は、フィラーとポリマーとの化学結合を再現することができる。
次に、シミュレーション工程S4では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を対象に分子動力学計算が行われる(工程S47)。図17は、分子動力学計算後のシミュレーションモデルの概念斜視図である。図17では、ポリマーモデル5が省略されている。
工程S47での分子動力学計算は、ポリマー計算工程S42と同様に、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻におけるフィラーモデル3の各フィラー粒子モデル4c、4s(図3に示す)、及び、ポリマーモデル5の各ポリマー粒子モデル6a、6b(図4に示す)の動きが追跡される。なお、分子動力学計算では、ポリマー計算工程S42と同様に、各フィラー粒子モデル4c、4sの数、各ポリマー粒子モデル6a、6bの数、仮想空間9の体積、及び、仮想空間9の温度等の諸条件が一定に保たれる。これにより、図17に示されるように、工程S47では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5(図示省略)を、仮想空間9内でそれぞれ分散させることができる。
本実施形態のシミュレーション工程S4では、結合工程S46において、結合対象フィラー粒子モデルに結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16の結合数Saが、予め定められた上限値Su以下に設定されている。このため、フィラー粒子モデル4に結合されるポリマー粒子モデル6の数に大きな偏りが生じるのを防ぐことができる。これにより、本実施形態のシミュレーション工程S4では、分子動力学計算において、結合対象フィラー粒子モデル15に作用する結合対象ポリマー粒子モデル16の力の総和が大きくなるのを防ぐことができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法は、計算落ちが発生するのを防ぐことができ、分子動力学計算を安定して実行することができる。
また、本実施形態の上限値Suは、各結合対象フィラー粒子モデル15に、結合対象ポリマー粒子モデル16が均等に結合された場合の個数に基づいて、上記式(2)の関係を満たすように設定される。このため、結合対象フィラー粒子モデル15に、結合対象ポリマー粒子モデル16を均一に(満遍なく)結合させることができるため、結合対象フィラー粒子モデル15に作用する結合対象ポリマー粒子モデル16の力の総和が大きくなるのを確実に防ぐことができる。
さらに、本実施形態の結合対象フィラー粒子モデル15は、多面体13の頂点13aに配置された頂点粒子モデル7に限定されるため、隣接する結合対象フィラー粒子モデル15、15にそれぞれ結合される結合対象ポリマー粒子モデル16を離間させることができる。これにより、結合対象ポリマー粒子モデル16、16間に作用する相互作用が大きくなるのを防ぐことができるため、分子動力学計算を安定して実行することができる。
次に、コンピュータ1が、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の十分に分散したか否かを判断する(工程S48)。本実施形態の工程S48では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5が十分に分散したと判断された場合(工程S48で「Y」)、次の評価工程S5(図2に示す)が実施される。一方、フィラーモデル3及びポリマーモデル5が十分に分散していないと判断された場合(工程S48で「N」)は、単位ステップを進めて(工程S49)、工程S47が再度実施される。従って、本実施形態のシミュレーション工程S4では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を効果的に分散させることができ、構造緩和された高分子材料モデル11を設定することができる。
なお、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を効果的に分散させるために、工程S47において、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、1000ステップ以上が望ましい。なお、ステップ数が1000ステップ未満であると、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を十分に分散できないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、より好ましくは5000ステップ以上である。一方、ステップ数が多すぎても、計算コストの増加分に対して十分な分散効果を得ることができないおそれがある。このような観点より、ステップ数は、好ましくは100万ステップ以下である。
次に、図2に示されるように、本実施形態のシミュレーション方法では、フィラーモデル3の分散状態が良好か否か判断される(評価工程S5)。この評価工程S5では、上記特許文献1と同様に、フィラーモデル3の中心粒子モデル4cを対象とした動径分布関数が計算される。動径分布関数とは、ある中心粒子モデル4c(図3に示す)から距離r離れた位置において、他の中心粒子モデル4cが存在する確率密度を表す関数である。距離rは、中心粒子モデル4cの中心間の距離として定義される。
このように、本実施形態では、中心粒子モデル4cのみを対象に動径分布関数を求めることより、フィラーモデル3の分散状態を確認することができるため、計算コストの増大を抑制することができる。
そして、評価工程S5では、動径分布関数の結果をもとに、コンピュータ1が予め設定された許容範囲内であるか否かが判断される。評価工程S5では、フィラーモデル3の分散状態が良好であると判断された場合、高分子材料モデル11に基づいて、高分子材料が製造される(工程S6)。一方、フィラーモデル3の分散状態が良好でないと判断された場合は、動径分布関数の結果に基づいて、例えば、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の設定条件を変更して(工程S7)、工程S1〜工程S5が実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル11(図17に示す)の構造を、効果的に緩和することができ、実際の高分子材料の構造に、確実に近似させることができる。
また、本実施形態のシミュレーション方法では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の構造やポテンシャルを任意に設定することができるため、現実には存在しない未知の高分子材料をモデル化した高分子材料モデル11を評価することができる。
本実施形態のシミュレーション方法では、仮想空間9に配置されたフィラーモデル3とポリマーモデル5を用いて、高分子材料中に配合されたフィラーの分散性が評価されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、本発明のシミュレーション方法は、フィラーと、フィラーをポリマーに結合させるためのカップリング剤とが配合された高分子材料について、フィラーの分散性が評価されるものでもよい。
図18は、本発明の他の実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、本明細書において、前実施形態と同一処理が実施される工程、及び、同一のモデル等については、前実施形態と同一の符号を付して、説明を省略することがある。
この実施形態のシミュレーション方法では、先ず、前実施形態と同様に、フィラーをモデル化したフィラーモデル3を設定する工程S1、及び、高分子材料をモデル化したポリマーモデル5を設定する工程S2が実施される。
次に、この実施形態のシミュレーション方法では、カップリング剤をモデル化したカップリングモデルが設定される(工程S8)。図19は、カップリングモデル17の概念図である。
カップリングモデル17は、少なくとも一つ、本実施形態では、複数のカップリング粒子モデル18を用いて、カップリング剤がモデル化される。カップリング粒子モデル18は、径を持った球で表現されている。カップリング粒子モデル18の個数は、ポリマー粒子モデル6の個数よりも小に設定される。これにより、カップリングモデル17は、高分子材料の分子鎖よりも分子量が小さい実際のカップリング剤が表現されうる。
カップリング粒子モデル18、18間には、平衡長が定義された結合鎖21が定義されている。これにより、本実施形態のカップリングモデル17は、ポリマーモデル5(図4に示す)と同様に、直鎖状の三次元構造に形成される。なお、一つのカップリング粒子モデル18で構成されるカップリングモデル17には、結合鎖21が定義されない。
本実施形態のカップリングモデル17は、同一個数のカップリング粒子モデル18によってモデル化されているが、これに限定されるわけではない。例えば、カップリング剤の鎖長の差異によって生じるフィラーの分散性の影響を評価する場合は、カップリング粒子モデル18の個数が異なる複数種類のカップリングモデル17が定義されても良い。
カップリングモデル17は、コンピュータ1で取り扱い可能な数値データであり、コンピュータ1に入力される。数値データには、例えば、カップリング粒子モデル18の質量、体積、直径、及び、初期座標などが含まれる。
次に、この実施形態のシミュレーション方法では、シミュレーション条件が設定される(条件設定工程S3)。図20は、本発明の他の実施形態の条件設定工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態の条件設定工程S3では、先ず、前実施形態と同様に、各フィラー粒子モデル4c、4sと各ポリマー粒子モデル6a、6bとの間に、ポテンシャルが定義される(工程S31)。図6に示したように、フィラー粒子モデル4c、4sと、各ポリマー粒子モデル6a、6bとの間に定義されるポテンシャルU1乃至ポテンシャルU10については、前実施形態のポテンシャルと同一である。
次に、この実施形態の条件設定工程S3では、各カップリング粒子モデル18と、各フィラー粒子モデル4c、4sとの間、及び、各カップリング粒子モデル18と各ポリマー粒子モデル6a、6bとの間に、ポテンシャルが定義される(工程S34)。ポテンシャルは、上記式(1)で定義される。図21は、カップリング粒子モデル18のポテンシャルを説明する概念図である。
本実施形態では、カップリング粒子モデル18と各フィラー粒子モデル4c、4sとの間、及び、カップリング粒子モデル18と各ポリマー粒子モデル6a、6bとの間に、下記のポテンシャルU11乃至ポテンシャルU14が定義される。
ポテンシャルU11:カップリング粒子モデル18−中心粒子モデル4c
ポテンシャルU12:カップリング粒子モデル18−表面粒子モデル4s
ポテンシャルU13:カップリング粒子モデル18−未変性粒子モデル6a
ポテンシャルU14:カップリング粒子モデル18−変性基粒子モデル6b
本実施形態のポテンシャルU11乃至ポテンシャルU14の各強度aijは、上記論文のパラメータを参考として、次のように設定される。
ポテンシャルU11:aij=50
ポテンシャルU12:aij=50
ポテンシャルU13:aij=50
ポテンシャルU14:aij=50
ポテンシャルU11〜ポテンシャルU14では、同一の強度aijが設定されている。これにより、フィラーモデル3に対するカップリングモデル17の斥力と、ポリマーモデル5に対するカップリングモデル17の斥力とが同一に設定されている。従って、ポテンシャルU11〜ポテンシャルU14は、フィラーに対する親和性と、ポリマーに対する親和性が同一であるカップリング剤を再現することができる。
本実施形態のポテンシャルU11〜ポテンシャルU14は、同一の強度aijが定義されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、下記のように、異なる強度aijが設定されても良い。これにより、フィラーに対する親和性と、ポリマーに対する親和性とを異ならせたカップリング剤が再現されうる。
ポテンシャルU11:aij=10
ポテンシャルU12:aij=10
ポテンシャルU13:aij=100
ポテンシャルU14:aij=100
上記のように、フィラーモデル3の各粒子モデル4c、4sが関連するポテンシャルU11及びポテンシャルU12の強度aij(=10)は、ポリマーモデル5の各粒子モデル6a、6bが関連するポテンシャルU13及びポテンシャルU14の強度aij(=100)よりも小に設定される。これにより、フィラーモデル3とカップリングモデル17との斥力は、ポリマーモデル5とカップリングモデル17との斥力に比べて小さくなる。このようなカップリングモデル17は、フィラーモデル3との親和性を、ポリマーモデルとの親和性よりも高く設定することができるため、例えば、カップリング剤の相互作用の差異によって生じるフィラーの分散性の影響を評価することができる。
さらに、ポテンシャルU11乃至ポテンシャルU14は、上記式(1)のカットオフ距離rcが次のように設定される。
ポテンシャルU11:rc=3
ポテンシャルU12:rc=1
ポテンシャルU13:rc=1
ポテンシャルU14:rc=1
フィラーモデル3の中心粒子モデル4cが関連するポテンシャルU11のカットオフ距離rcは、フィラーモデル3の表面粒子モデル4sが関連するポテンシャルU12のカットオフ距離rcよりも大に設定されている。さらに、ポテンシャルU11のカットオフ距離rcは、ポテンシャルU12のカットオフ距離rc、及び、図7に示した表面粒子モデル4sと中心粒子モデル4cとの粒子間距離Lcの和(rc+Lc)よりも大に設定されている。
このようなカットオフ距離rcが定義されることにより、フィラーモデル3は、中心粒子モデル4cが関連するポテンシャルU11(図21に示す)を、表面粒子モデル4sが関連するポテンシャルU12よりも優先的に作用させることができる。しかも、中心粒子モデル4cは、径を持った球で表現されるため、ポテンシャルU11を放射状に作用させることができる。従って、シミュレーション工程S4では、フィラーモデル3を、実際のフィラーと近似する球として扱えるため、シミュレーション精度を向上しうる。
次に、この実施形態の条件設定工程S3では、予め定められた仮想空間9の中に、複数のフィラーモデル3、ポリマーモデル5、及び、カップリングモデル17が配置され(工程S32)、フィラーモデル3の凝集塊が形成される(工程S33)。図22は、本発明の他の実施形態のシミュレーションモデルの仮想空間9の概念斜視図である。
仮想空間9は、前実施形態の仮想空間(図8に示す)と同一のものが用いられる。この仮想空間9には、例えば、100個のフィラーモデル3、1000本のポリマーモデル5、及び、1000個のカップリングモデル17が、ランダムに配置される。また、フィラーモデル3の凝集塊の形成方法については、前実施形態と同一の方法が採用される。
次に、この実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、仮想空間9に配置されたフィラーモデル3とポリマーモデル5とを用いて、分子動力学( Molecular Dynamics : MD)計算を実施する(シミュレーション工程S4)。図23は、本発明の他の実施形態のシミュレーション工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態のシミュレーション工程S4では、先ず、前実施形態と同様に、各フィラー粒子モデル4c、4s(図22に示す)の動きが拘束される(フィラー拘束工程S41)。次に、この実施形態のシミュレーション工程S4では、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17を対象として、分子動力学計算が実施される(工程S51)。
工程S51での分子動力学計算では、例えば、設定された仮想空間9について所定の時間、拘束されたフィラーモデル3を除いた全てのポリマーモデル5、及び、カップリングモデル17が、古典力学に従うものとしてニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻における各ポリマー粒子モデル6a、6b及びカップリング粒子モデル18の動きが追跡される。なお、分子動力学計算では、各フィラー粒子モデル4c、4sの数、各ポリマー粒子モデル6a、6bの数、カップリング粒子モデル18の数、仮想空間9の体積、及び、仮想空間の温度等の諸条件が一定に保たれる。
このように、本実施形態の工程S51では、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17のみが、仮想空間9内で分散されるため、フィラーモデル3の凝集塊が保たれた上で、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17の安定配置を求めることができる。
次に、この実施形態のシミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17が十分に分散したか否かを判断する(工程S52)。本実施形態では、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17が十分に分散したと判断された場合(工程S52で「Y」)、次の工程S44が実施される。一方、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17が十分に分散していないと判断された場合(工程S52で「N」)は、単位ステップを進めて(工程S45)、工程S51が再度実施される。従って、本実施形態のシミュレーション工程S4では、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17を効果的に分散させることができる。なお、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17の安定配置を求めるために、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、前実施形態のポリマー計算工程S42と同一範囲が望ましい。
次に、この実施形態のシミュレーション工程S4では、フィラーモデル3の各フィラー粒子モデル4の拘束が解除される(工程S44)。フィラー粒子モデル4の拘束の解除方法については、前実施形態と同一である。
次に、この実施形態のシミュレーション工程S4は、ポリマー粒子モデル6とカップリング粒子モデル18とが結合される(工程S53)。図24(a)は、ポリマー粒子モデル6とカップリング粒子モデル18とが結合される前の状態を示す概念図、図24(b)は、ポリマー粒子モデル6とカップリング粒子モデル18とが結合された状態を示す概念図である。
本実施形態の工程S53では、予め定められた粒子間距離L3以下に接近したポリマー粒子モデル6及びカップリング粒子モデル18が、連結鎖20で結合される。これにより、ポリマーとカップリング剤との化学結合が、シミュレーション工程S4において、再現することができる。粒子間距離L3は、カップリング粒子モデル18が関連するポテンシャルの各カットオフ距離rc(図7に示す)の0%〜200%が望ましい。
各カップリングモデル17において、粒子間距離L3以下に接近したポリマー粒子モデル6が複数存在する場合は、粒子間距離Lpが最も小さいポリマー粒子モデル6のみと結合される。これにより、各カップリングモデル17には、複数のポリマーモデル5が結合されるのを防ぐことができるため、カップリング粒子モデル18に作用するポリマー粒子モデル6の力の総和が大きくなるのを防ぐことができるため、計算落ちが発生するのを防ぐことができる。
次に、この実施形態のシミュレーション工程S4は、フィラー粒子モデル4に、ポリマー粒子モデル6又はカップリング粒子モデルが結合される(結合工程S54)。この実施形態の結合工程S54では、複数のフィラー粒子モデル4から予め定められた結合対象フィラー粒子モデル15に、複数のポリマー粒子モデル6から予め定められた結合対象ポリマー粒子モデル16、又は、複数のカップリング粒子モデル18から予め定められた結合対象カップリング粒子モデル19が、連結鎖で結合される。これにより、この実施形態のシミュレーション工程S4では、フィラー、ポリマー及びカップリング剤の化学結合を再現することができる。
図3に示されるように、結合対象フィラー粒子モデル15としては、任意のフィラー粒子モデル4から選択することができる。この実施形態の結合対象フィラー粒子モデル15は、前実施形態と同様に、フィラー粒子モデル4(頂点粒子モデル7)の8個から構成される。
図4に示されるように、結合対象ポリマー粒子モデル16としては、任意のポリマー粒子モデル6を選択することができる。この実施形態の結合対象ポリマー粒子モデル16は、前実施形態と同様に、直鎖状に配置される複数のポリマー粒子モデル6のうち、中央に配置されるポリマー粒子モデル6が1個選択される。
図19に示されるように、この実施形態の結合対象カップリング粒子モデル19は、直鎖状に配置される複数のカップリング粒子モデル18のうち、一端に配置されるカップリング粒子モデル18が1個選択される。
図25は、本発明の他の実施形態の結合工程S54の処理手順の一例を示すフローチャートである。結合工程S54では、先ず、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16の数(以下、単に「結合数」ということがある。)Saと、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象カップリング粒子モデル19の数(以下、単に「結合数」ということがある。)Sbとの和(Sa+Sb)の上限値Nsが設定される(工程S61)。上限値Nsは、例えば、結合対象フィラー粒子モデル15の数、結合対象ポリマー粒子モデル16の数、及び、結合対象カップリング粒子モデル19の数に応じて、適宜設定することができる。本実施形態の上限値Nsは、下記式(3)の関係を満たすように定義される。
Ns=[(Na+Nc)/Nb+1] …(3)
ここで、各パラメータは、次のとおりである。
Na:結合対象ポリマー粒子モデルの総数
Nb:結合対象フィラー粒子モデルの総数
Nc:結合対象カップリング粒子モデルの総数
総数Naは、前実施形態の上限値Suを示した上記式(2)と同様に、仮想空間9(図22に示す)内に配置された結合対象ポリマー粒子モデル16(図4に示す)の総数である。従って、総数Naは、仮想空間9内に配置されたポリマーモデル5の総数(例えば、1000)と同一である。
総数Nbは、上記式(2)と同様に、仮想空間9(図22に示す)内に配置された結合対象フィラー粒子モデル15(図3に示す)の総数である。従って、総数Nbは、フィラーモデル3の総数(例えば100)と、各フィラーモデル3に含まれる結合対象フィラー粒子モデル15の数(例えば、8)を乗じた値である。
総数Ncは、仮想空間9(図22に示す)内に配置された結合対象カップリング粒子モデル19の総数である。図19に示したように、本実施形態の各カップリングモデル17には、結合対象カップリング粒子モデル19が1個含まれている。従って、総数Ncは、仮想空間9内に配置されたカップリングモデル17の総数(例えば、1000)と同一である。
従って、上記式(3)において、(Na+Nc)/Nbは、各結合対象フィラー粒子モデル15に、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が均等に結合された場合の個数を示している。また、上記式(3)において、[(Na+Nc)/Nb+1]は、(Na+Nc)/Nbを切り上げた整数を示している。例えば、結合対象ポリマー粒子モデルの総数Naが1000、結合対象フィラー粒子モデルの総数Nbが800、及び、結合対象カップリング粒子モデルの総数Ncが1000である場合、Na+Nc)/Nbは、2.5である。また、上記式(3)において、[(Na+Nc)/Nb+1]では、2.5が切り上げられ、3となる。従って、上限値Nsは、3が設定される。
次に、この実施形態の結合工程S54では、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16、又は、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象カップリング粒子モデル19が特定される(特定工程S62)。図26は、本発明の実施形態の特定工程S62の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の特定工程S62は、先ず、各結合対象ポリマー粒子モデル16及び各結合対象カップリング粒子モデル19が、夫々粒子間距離Lpが最も小さい結合対象フィラー粒子モデル15に関連付けられる(第1工程S71)。図27は、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19を関連付ける工程を説明する概念図である。図27及び後述する図28〜図31では、カップリングモデル17に結合されたポリマーモデル5を省略して表示している。
第1工程S71では、先ず、仮想空間9(図22に示す)において、各結合対象ポリマー粒子モデル16から粒子間距離Lpが最も小さい結合対象フィラー粒子モデル15が探索される。そして、第1工程S71では、結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19が、それぞれ探索された結合対象フィラー粒子モデル15に関連付けられる。
次に、第1工程S71では、仮想空間9(図22に示す)において、各結合対象カップリング粒子モデル19から粒子間距離Lpが最も小さい結合対象フィラー粒子モデル15が探索される。そして、第1工程S71では、各結合対象カップリング粒子モデル19と、それぞれ探索された結合対象フィラー粒子モデル15とが関連付けられる。なお、粒子間距離Lpは、結合対象フィラー粒子モデル15、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19の中心間の距離として定義される。また、「関連付けに関する情報」には、前実施形態と同一の情報が含まれる。
図27に示される例では、結合対象フィラー粒子モデル15として、第1結合対象フィラー粒子モデル15a、及び、第2結合対象フィラー粒子モデル15bが配置されている。
第1結合対象フィラー粒子モデル15aには、3個の結合対象ポリマー粒子モデル16及び2個の結合対象カップリング粒子モデル19が関連付けられている。3個の結合対象ポリマー粒子モデル16は、結合対象フィラー粒子モデル15からの粒子間距離Lpが小さい順に、第1結合対象ポリマー粒子モデル16a、第2結合対象ポリマー粒子モデル16b、及び、第3結合対象ポリマー粒子モデル16cとして区別される。また、2個の結合対象カップリング粒子モデル19は、結合対象フィラー粒子モデル15からの粒子間距離Lpが小さい順に、第1結合対象カップリング粒子モデル19a、及び、第2結合対象カップリング粒子モデル19bとして区分される。
第2結合対象フィラー粒子モデル15bには、1個の結合対象ポリマー粒子モデル16が関連付けられている。1個の結合対象ポリマー粒子モデル16は、第4結合対象ポリマー粒子モデル16dとして区別される。図27において、結合対象フィラー粒子モデル15と、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19との関連付けが、二点鎖線で示されている。
次に、本実施形態の特定工程S62は、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が、関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19から特定される(第2工程S72)。
この第2工程S72では、結合対象ポリマー粒子モデル16の結合数Saと、結合対象カップリング粒子モデル19の結合数Sbとの和(Sa+Sb)が上限値Ns以下を満たすように、関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19から粒子間距離Lpが小さい順に特定される。図28は、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19を特定する工程を説明する概念図である。本例での上限値Nsには、「3」が設定されている。
図27に示したように、第1結合対象フィラー粒子モデル15aに関連付けられている結合対象ポリマー粒子モデル16の数と、結合対象カップリング粒子モデル19の数との和(本例では、5個)は、上限値Ns(本例では、3個)よりも大きい。このため、第1結合対象フィラー粒子モデル15aに関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19のうち、粒子間距離Lpが小さい順に、上限値Ns(本例では、3個)分の結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が選択される。本例では、第1結合対象ポリマー粒子モデル16a、第2結合対象ポリマー粒子モデル16b、及び、第1結合対象カップリング粒子モデル19aが選択される。
図28に示されるように、選択された第1結合対象ポリマー粒子モデル16a、第2結合対象ポリマー粒子モデル16b及び第1結合対象カップリング粒子モデル19aは、第1結合対象フィラー粒子モデル15aに結合されるものとして特定される。なお、図28において、結合対象フィラー粒子モデル15に結合されるものとして特定された結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19は、実線で示されている。
一方、選択されなかった第3結合対象ポリマー粒子モデル16c及び第2結合対象カップリング粒子モデル19bは、第1結合対象フィラー粒子モデル15aに結合されるものとして特定されない。
図27に示したように、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに関連付けられている第4結合対象ポリマー粒子モデル16dの数(本例では、1個)は、上限値Ns(本例では、3個)よりも小さい。このため、図28に示されるように、第4結合対象ポリマー粒子モデル16dは、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに結合されるものとして特定される。
このように、第2工程S72では、結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16の数と、結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象カップリング粒子モデル19の数との和が、上限値Ns以下となるように、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が特定される。なお、結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19を特定する情報は、例えば、結合対象ポリマー粒子モデル16、結合対象カップリング粒子モデル19及び結合対象フィラー粒子モデル15の識別番号や、仮想空間9での各座標値が含まれる。これらの結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19を特定する情報は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の特定工程S62は、第2工程S72で特定されなかった各結合対象ポリマー粒子モデル16又は各結合対象カップリング粒子モデル19を、新たな結合対象フィラー粒子モデル15に関連付けられる(第3工程S73)。図29は、特定されなかった結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19の関連付けを説明する概念図である。
第3工程S73では、先ず、仮想空間9(図22に示す)において、第2工程S72で特定されなかった各結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19から、第1工程S71で関連付けられた結合対象フィラー粒子モデル15の次に粒子間距離Lpが小さい結合対象フィラー粒子モデル15が探索される。そして、各結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19が、探索された結合対象フィラー粒子モデル15に関連付けられる。関連付けに関する情報は、コンピュータ1に記憶される。
図28に示した例において、第2工程S72で特定されなかった結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19は、第3結合対象ポリマー粒子モデル16c及び第2結合対象カップリング粒子モデル19bである。第3工程S73では、図29に示されるように、第3結合対象ポリマー粒子モデル16c及び第2結合対象カップリング粒子モデル19bから、第1結合対象フィラー粒子モデル15aの次に粒子間距離Lpが小さい結合対象フィラー粒子モデル15(本例では、第2結合対象フィラー粒子モデル15b)が探索される。そして、第3結合対象ポリマー粒子モデル16c及び第2結合対象カップリング粒子モデル19が、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに関連付けられる。
次に、本実施形態の特定工程S62では、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が、第3工程S73で関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19から特定される(第4工程S74)。第4工程S74では、第2工程S72と同様に、結合対象ポリマー粒子モデル16の結合数Saと、結合対象カップリング粒子モデル19の結合数Sbとの和(Sa+Sb)が上限値Ns以下を満たすように、関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19から粒子間距離Lpが小さい順に特定される。
図30は、第3工程S73で関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19を特定する工程を説明する概念図である。図29に示されるように、第2結合対象フィラー粒子モデル15bには、第3結合対象ポリマー粒子モデル16c及び第2結合対象カップリング粒子モデル19bが関連付けられている。第2結合対象フィラー粒子モデル15bは、1個の結合対象ポリマー粒子モデル16(第4結合対象ポリマー粒子モデル16d)が既に特定されている。このため、第2結合対象フィラー粒子モデル15bでは、第3結合対象ポリマー粒子モデル16c及び第2結合対象カップリング粒子モデル19bを含めた結合数の和(Sa+Sb)が、上限値Ns(本例では、3個)以下を満たす。このため、図30に示されるように、第3結合対象ポリマー粒子モデル16c及び第2結合対象カップリング粒子モデル19bは、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに結合されるものとして特定される。
なお、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに、新たに3個以上の結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が関連付けられる場合は、結合数の和(Sa+Sb)が上限値Ns(本例では、3個)以下を満たすように、関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19から粒子間距離Lpが小さい順に特定される。従って、粒子間距離Lpが3番目以降に小さい結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19は、第2結合対象フィラー粒子モデル15bに結合されるものとして特定されない。
このように、第4工程S74では、結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16、及び、結合対象カップリング粒子モデル19を、結合数の和(Sa+Sb)が上限値Ns以下を満たすように、第3工程S73で関連付けられた結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19から特定することができる。結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19を特定する情報は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の特定工程S62では、全ての結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が、結合対象フィラー粒子モデル15に特定されたか否かが判断される(工程S75)。工程S75では、全ての結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が、結合対象フィラー粒子モデル15に特定されたと判断された場合、次の工程S63が実施される。一方、各結合対象フィラー粒子モデル15に特定されていない結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が存在すると判断された場合は、特定されていない結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19を対象に、第3工程S73及び第4工程S74が実施される。これにより、特定工程S62では、全ての結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19を、結合対象フィラー粒子モデル15に特定することができる。なお、本実施形態では、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が特定されていない結合対象フィラー粒子モデル15の存在が許容されている。
次に、結合工程S46では、特定された結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が、結合対象フィラー粒子モデル15に結合される(工程S63)。図31は、特定された結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19を、結合対象フィラー粒子モデル15に結合する工程を説明する概念図である。工程S63では、特定された結合対象ポリマー粒子モデル16と、結合対象フィラー粒子モデル15とを連結鎖22で結合させている。これにより、フィラーモデル3及びポリマーモデル5は、フィラーとポリマーとの化学結合を再現することができる。さらに、工程S63では、特定された結合対象カップリング粒子モデル19と、結合対象フィラー粒子モデル15とを、連結鎖22で結合させている。これにより、フィラーモデル3及びカップリングモデル17は、フィラーとカップリング剤との化学結合を再現することができる。
次に、シミュレーション工程S4では、フィラーモデル3、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17を対象に分子動力学計算が実施される(工程S55)。工程S55は、前実施形態の工程S47と同様に、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻におけるフィラーモデル3の各フィラー粒子モデル4c、4s(図3に示す)、ポリマーモデル5の各ポリマー粒子モデル6a、6b(図4に示す)、及び、カップリングモデル17のカップリング粒子モデル18の動きが追跡される。これにより、図17に示されるように、工程S55では、フィラーモデル3、ポリマーモデル5、及び、カップリングモデル17を、仮想空間9内でそれぞれ分散させることができる。
本実施形態のシミュレーション工程S4では、結合工程S46において、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象ポリマー粒子モデル16の数Saと、各結合対象フィラー粒子モデル15に結合させる結合対象カップリング粒子モデル19の数Sbとの和(Sa+Sb)は、予め定められた上限値Ns以下に設定されている。このため、フィラー粒子モデル4に結合されるポリマー粒子モデル6及びカップリング粒子モデル18の数に大きな偏りが生じるのを防ぐことができる。これにより、本実施形態のシミュレーション工程S4では、分子動力学計算において、結合対象フィラー粒子モデル15に作用する結合対象ポリマー粒子モデル16及び結合対象カップリング粒子モデル19の力の総和が大きくなるのを防ぐことができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法は、計算落ちが発生するのを防ぐことができ、分子動力学計算を安定して実行することができる。
また、本実施形態の上限値Nsは、各結合対象フィラー粒子モデル15に、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19が均等に結合された場合の個数に基づいて、上記式(3)の関係を満たすように設定される。このため、結合対象フィラー粒子モデル15に、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19を均一に(満遍なく)結合させることができるため、結合対象フィラー粒子モデル15に作用する結合対象ポリマー粒子モデル16の力の総和が大きくなるのを確実に防ぐことができる。
さらに、本実施形態の結合対象フィラー粒子モデル15は、多面体13の頂点13a(図3に示す)に配置された頂点粒子モデル7に限定されるため、隣接する結合対象フィラー粒子モデル15、15にそれぞれ結合される結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19を離間させることができる。これにより、結合対象ポリマー粒子モデル16又は結合対象カップリング粒子モデル19に作用する相互作用が大きくなるのを防ぐことができるため、分子動力学計算を安定して実行することができる。
次に、シミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、フィラーモデル3、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17の十分に分散したか否かを判断する(工程S56)。本実施形態の工程S56では、フィラーモデル3、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17が十分に分散したと判断された場合(工程S56で「Y」)、次の評価工程S5(図2に示す)が実施される。一方、フィラーモデル3、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17が十分に分散していないと判断された場合(工程S56で「N」)は、単位ステップを進めて(工程S49)、工程S55が再度実施される。従って、本実施形態のシミュレーション工程S4では、フィラーモデル3及びポリマーモデル5を効果的に分散させることができ、構造緩和された高分子材料モデル11を設定することができる。なお、フィラーモデル3、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17を効果的に分散させるために、工程S55において、1ステップあたりの分子動力学計算の時間幅を0.05[τ]したときのステップ数は、前実施形態の工程S47と同一範囲が望ましい。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図2に示されるように、フィラーモデル3の分散状態が良好か否か判断される(評価工程S5)。評価工程S5では、前実施形態の評価工程S5と同様に、フィラーモデル3の中心粒子モデル4cを対象とした動径分布関数が計算される。そして、評価工程S5では、動径分布関数の結果をもとに、コンピュータ1が予め設定された許容範囲内であるか否かが判断される。
評価工程S5では、フィラーモデル3の分散状態が良好であると判断された場合、高分子材料モデル11に基づいて、高分子材料が製造される(工程S6)。一方、フィラーモデル3の分散状態が良好でないと判断された場合は、動径分布関数の結果に基づいて、例えば、フィラーモデル3及びポリマーモデル5の設定条件を変更して(工程S7)、工程S1〜工程S5が実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル11(図17に示す)の構造を、効果的に緩和することができ、実際の高分子材料の構造に、確実に近似させることができる。
また、本実施形態のシミュレーション方法では、フィラーモデル3、ポリマーモデル5及びカップリングモデル17の構造やポテンシャルを任意に設定することができるため、現実には存在しない未知の高分子材料をモデル化した高分子材料モデル11を評価することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
[実施例A]
図2、図9、図10及び図11に示す手順に従って、予め定められた上限値Su以下で、各結合対象フィラー粒子モデルに結合対象ポリマー粒子モデルを結合させて、分子動力学計算が実施された(実施例1)。
比較のために、上限値Suを設定することなく、各結合対象フィラー粒子モデルに、結合対象ポリマー粒子モデルをランダムに結合させて、分子動力学計算が実施された(比較例1)。
実施例1及び比較例1の各シミュレーション方法がそれぞれ30回実施され、分子動力学計算に計算落ちが発生するか否かが確認された。各パラメータは、明細書中の記載通りであり、共通仕様は次のとおりである。
フィラーモデル:
合計個数:100個
各フィラーモデルの結合対象フィラー粒子モデルの個数:8個
ポリマーモデル:
合計個数:2000個
各ポリマーモデルの結合対象ポリマー粒子モデルの個数:1個
結合対象ポリマー粒子モデルの総数Na:2000
結合対象フィラー粒子モデルの総数Nb:800
Na/Nb:2.5
上限値Su:2
テストの結果、実施例1では、全ての計算において計算落ちが発生しなかった。一方、比較例1では、分子動力学計算に計算落ちが15回発生した。従って、実施例のシミュレーション方法では、分子動力学計算を安定して実行できることが確認できた。
[実施例B]
図18、図23、図25及び図26に示す手順に従って、予め定められた上限値Ns以下で、各結合対象フィラー粒子モデルに、結合対象ポリマー粒子モデル又は結合対象カップリング粒子モデルを結合させて、分子動力学計算が実施された(実施例2〜実施例4)。
実施例2〜実施例4のカップリング粒子モデルの個数、及び、ポテンシャルU11〜U14の強度aijは、次のとおりである。実施例3は、実施例2に比べて、カップリング粒子モデルの個数が小に設定されている。実施例4は、カップリング粒子モデルのフィラー粒子モデルへの親和性が、ポリマー粒子モデルへの親和性よりも高く設定されている。
実施例2:
カップリング粒子モデルの個数:5個
ポテンシャルU11〜U14の強度aij:50
実施例3:
カップリング粒子モデルの個数:1個
ポテンシャルU11〜U14の強度aij:50
実施例4:
カップリング粒子モデルの個数:5個
ポテンシャルU11の強度aij:10
ポテンシャルU12の強度aij:10
ポテンシャルU13の強度aij:100
ポテンシャルU14の強度aij:100
比較のために、上限値Nsを設定することなく、各結合対象フィラー粒子モデルに、結合対象ポリマー粒子モデル又は結合対象カップリング粒子モデルをランダムに結合させて、分子動力学計算が実施された(比較例2)。
実施例2〜実施例4及び比較例2の各シミュレーション方法がそれぞれ30回実施され、分子動力学計算に計算落ちが発生するか否かが確認された。各パラメータは、上記したカップリング粒子モデルの仕様を除き、明細書中の記載通りであり、共通仕様は次のとおりである。図32には、実施例2及び実施例3の動径分布関数が示される。また、図33には、実施例2及び実施例4の動径分布関数が示される。
結合対象ポリマー粒子モデルの総数Na:1000
結合対象フィラー粒子モデルの総数Nb:800
結合対象カップリング粒子モデルの総数Nc:2500
(Na+Nc)/Nb+1:5.375
上限値Ns:6
テストの結果、実施例2〜4では、全ての計算において計算落ちが発生しなかった。一方、比較例2では、分子動力学計算に計算落ちが50回発生した。従って、実施例のシミュレーション方法では、分子動力学計算を安定して実行できることが確認できた。
図32に示されるように、実施例2の動径分布関数は、実施例3の動径分布関数よりも小さくなっている。これは、実施例2のフィラーモデルが、実施例3のフィラーモデルよりも良好に分散していることを示している。一般に、カップリング剤の鎖長が大きいほど、フィラーの分散性が高くなることが知られている。従って、本発明のシミュレーション方法では、カップリング剤の鎖長の差異によって生じるフィラーの分散性の影響を、正確に評価できることが確認できた。
図33に示されるように、実施例2の動径分布関数は、実施例4の動径分布関数よりも小さくなっている。これは、実施例2のフィラーモデルが、実施例4のフィラーモデルよりも良好に分散していることを示している。一般に、フィラーに対する親和性とポリマーに対する親和性が同一のカップリング剤は、フィラーの分散性が高くなることが知られている。従って、本発明のシミュレーション方法では、カップリング剤の相互作用の差異によって生じるフィラーの分散性の影響を評価することができることが確認できた。