JP2015102972A - 粒子集団の座標を定義する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】分子シミュレーションで用いられる粒子の位置を少ない情報量で定義する。
【解決手段】予め定められた仮想空間2において、相互に関連付けられた複数の粒子13から構成された粒子集団14の座標を定義するための方法である。この座標定義方法では、複数の粒子13から選択された少なくとも一つの基準粒子16を、仮想空間2での絶対座標で定義する第1座標定義工程S31と、基準粒子16を除く少なくとも一つの粒子13を、基準粒子16に対する相対座標で定義する第2座標定義工程S32とを含む。
【選択図】図8
【解決手段】予め定められた仮想空間2において、相互に関連付けられた複数の粒子13から構成された粒子集団14の座標を定義するための方法である。この座標定義方法では、複数の粒子13から選択された少なくとも一つの基準粒子16を、仮想空間2での絶対座標で定義する第1座標定義工程S31と、基準粒子16を除く少なくとも一つの粒子13を、基準粒子16に対する相対座標で定義する第2座標定義工程S32とを含む。
【選択図】図8
Description
本発明は、例えば、分子シミュレーションで用いられる粒子の位置を少ない情報量で定義するための方法に関する。
近年、原子又は分子等の物理現象を、コンピュータを用いて計算する分子シミュレーションが実施されている。この種の分子シミュレーションでは、先ず、原子又は分子等が、運動方程式の質点として取扱い可能な粒子としてモデル化される。各粒子は、相互に関連付けられており、これらは1つの粒子集団を構成する。次に、予め定められた仮想空間に、粒子集団が配置される。そして、粒子集団に運動方程式が適用され、各粒子の動きが追跡される。
上記のような分子シミュレーションでは、各粒子の位置が、仮想空間での絶対座標で定義されていた。このため、粒子集団を特定するための情報量、即ち、各粒子の座標の桁数が、仮想空間が大きくなるほど大きくなり、分子シミュレーションで使用されるコンピュータの作業用メモリや、磁気ディスクの容量を圧迫するという問題があった。
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、基準粒子を除く少なくとも一つの粒子を、基準粒子に対する相対座標で定義することを基本として、粒子集団を特定するための情報量を少なくすることができる粒子集団の座標を定義する方法を提供することを主たる目的としている。
本発明は、予め定められた仮想空間において、相互に関連付けられた複数の粒子から構成された粒子集団の座標を、コンピュータに定義するための方法であって、前記コンピュータが、前記複数の粒子から選択された少なくとも一つの基準粒子を、前記仮想空間での絶対座標で定義する第1座標定義工程と、前記コンピュータが、前記基準粒子を除く少なくとも一つの粒子を、前記基準粒子に対する相対座標で定義する第2座標定義工程とを含むことを特徴とする。
本発明に係る前記粒子集団の座標を定義するための方法において、前記基準粒子は、前記粒子集団の一端に配置された一つの粒子であるのが望ましい。
本発明に係る前記粒子集団の座標を定義するための方法において、前記第2座標定義工程は、前記基準粒子を除く残り全ての粒子の前記相対座標を定義するのが望ましい。
本発明に係る前記粒子集団の座標を定義するための方法において、前記絶対座標は、直交座標系で定義され、前記相対座標は、球座標系で定義されるのが望ましい。
本発明に係る前記粒子集団の座標を定義するための方法において、前記粒子集団は、高分子材料をモデル化したポリマーモデルであり、前記各粒子は、前記ポリマーモデルを構成するポリマー粒子であり、前記各粒子は、平衡長が設定されたポテンシャルによって連結されているのが望ましい。
本発明の粒子集団の座標を定義する方法は、コンピュータが、複数の粒子から選択された少なくとも一つの基準粒子を、予め定められた仮想空間での絶対座標で定義する第1座標定義工程と、コンピュータが、基準粒子を除く少なくとも一つの粒子を、基準粒子に対する相対座標で定義する第2座標定義工程とを含んでいる。
このように、基準粒子を除く少なくとも一つの粒子が、基準粒子からの相対座標で定義されるため、該粒子の座標の桁数を小さくすることができる。従って、本発明では、各粒子が仮想空間での絶対座標で定義されていた従来の方法に比べて、粒子集団を特定するための情報量を少なくすることができる。
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の粒子集団の座標を定義する方法(以下、単に「座標定義方法」ということがある。)は、例えば、分子シミュレーションで用いられる粒子の位置を、少ない情報量でコンピュータに定義(記憶)するための方法である。
本実施形態の粒子集団の座標を定義する方法(以下、単に「座標定義方法」ということがある。)は、例えば、分子シミュレーションで用いられる粒子の位置を、少ない情報量でコンピュータに定義(記憶)するための方法である。
図1は、分子シミュレーションを実施するためのコンピュータの斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態の座標定義方法、及び、分子シミュレーションを実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶される。
本実施形態の分子シミュレーションでは、コンピュータ1を用いて、高分子材料とフィラーとの反応が解析される。この分子シミュレーションでは、先ず、予め定められた仮想空間に、フィラーをモデル化したフィラーモデルと、高分子材料をモデル化したポリマーモデルとが設定される。次に、仮想空間に配置されたフィラーモデル及びポリマーモデルを用いて、分子動力学( Molecular Dynamics : MD )計算による緩和計算が実施され、構造緩和された高分子材料モデルが設定される。そして、構造緩和された高分子材料モデルに基づいて、高分子材料とフィラーとの反応が解析される。
高分子材料としては、例えば、ゴム、樹脂、又は、エラストマー等が含まれる。図2は、ポリブタジエンの構造式である。本実施形態の高分子材料は、cis-1,4ポリブタジエン(以下、単に「ポリブタジエン」ということがある。)が例示される。このポリブタジエンを構成する高分子鎖は、メチレン基(−CH2−)とメチン基(−CH−)とからなるモノマー{−[CH2−CH=CH−CH2]−}が、重合度nで連結されて構成されている。なお、高分子材料には、ポリブタジエン以外の高分子材料が用いられてもよい。また、フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、又は、アルミナ等が含まれる。
図3は、分子シミュレーションの処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の分子シミュレーション方法では、先ず、予め定められた体積をもつ仮想空間2が設定される(工程S1)。図4は、仮想空間2を概念的に示す斜視図である。仮想空間2は、互いに向き合う少なくとも一対、本実施形態では3対の面4、4を有する立方体として定義される。仮想空間2の内部には、後述するポリマーモデル12、及び、フィラーモデル23が複数個配置される。
一対の面4、4の間隔(即ち、1辺の長さL1)については、適宜設定することができる。本実施形態の長さL1は、ポリマーモデル12を構成するポリマー粒子8(図6に示す)の仮想空間2での数密度、及び、ポリマー粒子8の個数に基づいて定義される。例えば、数密度が0.85σ−3であり、かつ、ポリマー粒子8の個数が1000000個である場合は、(1000000/0.85)1/3の計算に基づいて、94.7σに設定されるのが望ましい。このような仮想空間2では、分子動力学計算において、ポリマーモデル12の回転運動をスムーズに計算することができる。
次に、高分子材料をモデル化したポリマーモデルが設定される(ポリマーモデル設定工程S2)。本実施形態のポリマーモデル設定工程S2では、仮想空間2に配置される複数個(例えば、100個〜5000個)のポリマーモデル12が設定される。図5は、ポリマーモデル設定工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。図6は、ポリマーモデル12の概念図である。図7は、図6のポリマーモデル12を拡大して示す概念図である。
本実施形態のポリマーモデル設定工程S2では、先ず、高分子材料のモノマー又はモノマーの一部分をなす構造単位が、少なくとも一つのポリマー粒子8に置換される(工程S21)。図2及び図6に示されるように、高分子材料の高分子鎖がポリブタジエンである場合には、例えば1.55個分のモノマーを構造単位10として、該構造単位10を1個のポリマー粒子8に置換される。これにより、各ポリマーモデル12には、複数(例えば、10〜5000個)のポリマー粒子8が設定される。
なお、1.55個分のモノマーを構造単位10としたのは、論文1(L.J.Fetters, D.J.Lohse and R.H.Colby 著、「Chain Dimension and Entanglement Spacings 」Physical Properties of Polymers Handbook Second Edition P448」)、及び、論文2( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著 「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990)の記載に基づくものである。また、高分子鎖がポリブタジエン以外の場合でも、例えば、上記論文1及び2に基づいて、構造単位を設定することができる。
図7に示されるように、ポリマー粒子8は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、ポリマー粒子8には、例えば、質量、体積、直径、又は、電荷などのパラメータが定義される。
次に、図7に示されるように、ポリマー粒子8、8間が、平衡長が設定されたポテンシャルP1によって連結される(工程S22)。本実施形態のポテンシャルP1は、下記式(1)で定義されるポテンシャル(以下、「LJポテンシャルULJ(rij)」ということがある。)と、下記式(2)で定義される結合ポテンシャルUFENEとの和で定義される。
ここで、各定数及び変数は、Lennard-Jones及びFENEの各ポテンシャルのパラメータであり、次のとおりである。
rij:粒子間の距離
rc:カットオフ距離
k:粒子間のばね定数
ε:粒子間に定義されるLJポテンシャルの強度
σ:粒子の直径に相当
R0:伸びきり長
なお、距離rij、カットオフ距離rc、及び、伸びきり長R0は、各ポリマー粒子8の中心8c間の距離として定義される。
上記式(1)において、ポリマー粒子8、8間の距離rijが小さくなると、斥力が作用するLJポテンシャルULJ(rij)が大きくなる。一方、上記式(2)において、ポリマー粒子8、8間の距離rijが大きくなると、引力が作用する結合ポテンシャルUFENEが大きくなる。従って、ポテンシャルP1は、距離rijを、LJポテンシャルULJ(rij)と結合ポテンシャルUFENEとが互いに釣り合う位置に戻そうとする復元力が定義される。
また、上記式(1)では、ポリマー粒子8、8間の距離rijが小さくなるほど、LJポテンシャルULJ(rij)が無限に大きくなる。一方、上記式(2)では、距離rijが伸びきり長R0以上となる場合に、結合ポテンシャルUFENEが∞に設定される。従って、ポテンシャルP1は、伸びきり長R0以上の距離rijを許容しない。
このようなポテンシャルP1は、ポリマー粒子8、8間を、平衡長を設定して連結するボンド11として定義される。これにより、複数のポリマー粒子8(粒子13)が、ボンド11によって伸縮自在に拘束された(即ち、相互に関連付けられた)直鎖状のポリマーモデル12(粒子集団14)を設定することができる。なお、この工程S23では、各ポリマー粒子8の仮想空間2での座標が定義されていないため、図7で示されるような仮想空間2でのポリマーモデル12の具体的な鎖形状は特定されない。
このようなポリマーモデル12は、分子動力学計算において、高分子材料の分子運動に近似させることができる。なお、LJポテンシャルULJ(rij)及び結合ポテンシャルUFENEの各定数及び各変数の値としては、適宜設定することができる。本実施形態では、上記論文2に基づいて、次の値が設定される。このようなポテンシャルP1は、全てのポリマーモデル12に対して設定され、コンピュータ1に記憶される。
ばね定数k:30
伸びきり長R0:1.5
定数ε:1.0
定数σ:1.0
カットオフ距離rc:21/6σ
ばね定数k:30
伸びきり長R0:1.5
定数ε:1.0
定数σ:1.0
カットオフ距離rc:21/6σ
次に、本実施形態の座標定義方法に基づいて、仮想空間2での各ポリマーモデル12の座標が定義される(座標定義工程S23)。図8は、本実施形態の座標定義工程S23の処理手順の一例を示すフローチャートである。図9は、ポリマーモデル12を拡大して示す概念図である。
本実施形態の座標定義工程S23では、先ず、コンピュータ1が、各ポリマーモデル12において、複数の粒子13(ポリマー粒子8)から選択された少なくとも一つの基準粒子16を、仮想空間2(図4に示す)での絶対座標で定義する(第1座標定義工程S31)。本実施形態の基準粒子16としては、各ポリマーモデル12(粒子集団14)の一端に配置された一つのポリマー粒子8(第1ポリマー粒子8A)が選択される。この第1ポリマー粒子8Aのみが、絶対座標で定義される。
本実施形態の絶対座標が定義される座標系は、直交座標系(デカルト座標系)である。即ち、本実施形態の基準粒子16は、図4に示した仮想空間2の原点17を基準として、x軸、y軸及びz軸での座標値x1、y1、z1によって、仮想空間2の全領域での位置が一意に決定される。なお、仮想空間2の原点17は、仮想空間2の全ての頂点18から選択された一つの頂点18である。また、基準粒子16の座標は、基準粒子16の中心16cの座標で定義される。
各座標値x1、y1、z1の桁数(ビット(固定小数))については、分子動力学計算で求められる精度に基づいて設定されるのが望ましい。例えば、求められる精度が0.001σであり、かつ、仮想空間2の1辺の長さL1が94.7σである場合は、log2(94.7/0.001)の計算に基づいて、18ビットに設定されるのが望ましい。
第1座標定義工程S31では、コンピュータ1によって、各ポリマーモデル12の基準粒子16の各座標値x1、y1、z1がランダムに決定される。これにより、仮想空間2(図4に示す)において、各ポリマーモデル12の基準粒子16の初期の座標(x1、y1、z1)が定義される。そして、各ポリマーモデル12の基準粒子16の位置は、コンピュータ1に記憶される。なお、本実施形態の絶対座標としては、直交座標系である場合が例示されたが、これに限定されるわけではなく、例えば、極座標系、又は、円筒座標系でもよい。
次に、コンピュータ1が、各ポリマーモデル12(粒子集団14)において、基準粒子16を除く少なくとも一つのポリマー粒子8(粒子13)を、基準粒子16に対する相対座標で定義する(第2座標定義工程S32)。本実施形態の第2座標定義工程S32では、基準粒子16を除く残り全ての粒子13、即ち、各ポリマーモデル12の一端から2個目の第2ポリマー粒子8Bから、ポリマーモデル12の他端に配置されるN個目の第Nポリマー粒子8Nまでの相対座標が定義される。図10は、第2座標定義工程S32の処理手順の一例を示すフローチャートである。
第2座標定義工程S32では、先ず、初期条件として、変数Mに2が設定される(工程S321)。この変数Mは、コンピュータ1に記憶される。
次に、ポリマーモデル12の一端からM個目(例えば、2個目)の第Mポリマー粒子(例えば、第2ポリマー粒子8B)の相対座標が定義される(工程S322)。図11は、第2ポリマー粒子8Bの相対座標を説明する概念図である。この工程S322では、ポリマーモデル12の一端からM−1番目(例えば、1個目)の第M−1ポリマー粒子(例えば、第1ポリマー粒子8A)に対して、第Mポリマー粒子(例えば、第2ポリマー粒子8B)の相対座標が定義される。
本実施形態の相対座標は、球座標系である。即ち、本実施形態の第Mポリマー粒子(例えば、第2ポリマー粒子8B)は、第M−1ポリマー粒子(例えば、第1ポリマー粒子8A)を原点20として、第M−1ポリマー粒子からの距離である動径成分rM、z軸からの角度φM、及び、x、y平面でのx軸からの角度θMによって、第M−1ポリマー粒子に対する相対位置が、一意に定義される。なお、原点20の座標、及び、第Mポリマー粒子の座標は、ポリマー粒子8の中心8cに基づいて定義される。
第Mポリマー粒子8(例えば、第2ポリマー粒子8B)は、第M−1ポリマー粒子(例えば、第1ポリマー粒子8A)にボンド11(図9に示す)を介して連結されている。このため、第Mポリマー粒子8が存在しうる範囲は、第M−1ポリマー粒子(例えば、第1ポリマー粒子8A)に対して、ボンド11が伸縮する範囲に限定される。これにより、第M−1ポリマー粒子からの距離である動径成分rMの桁数を、小さくすることができる。従って、第Mポリマー粒子8の位置(球座標系での座標値)を特定するための情報量は、仮想空間2(図4に示す)での絶対座標で定義される場合に比べて少なくすることができる。
また、動径成分rM、角度φM及び角度θMの各桁数(ビット)については、分子動力学計算で求められる精度に基づいて設定されるのが望ましい。例えば、求められる精度が0.001σであり、かつ、ボンド11が伸縮する範囲が0.8σ〜1.2σである場合、動径成分rMのビット数は、log2((1.2−0.8)/0.001)の計算に基づいて、9ビットに設定されるのが望ましい。また、角度φMの範囲は、πrad(即ち、180°)である。このため、角度φMのビット数は、求められる精度が0.001σであり、かつ、ボンド11が伸縮する範囲の最小値が0.8σである場合、log2(π/sin−1(0.001/0.8))の計算に基づいて、12ビットに設定されるのが望ましい。角度θMの範囲は、2πrad(即ち、360°)である。このため、角度θMのビット数は、24ビットに設定されるのが望ましい。
第2座標定義工程S32では、第M−1ポリマー粒子(例えば、第1ポリマー粒子8A)の仮想空間2での位置、及び、平衡長に基づいて、第Mポリマー粒子(例えば、第2ポリマー粒子8B)の動径成分rM、角度φM及び角度θMが、コンピュータ1によってランダムに決定される。第Mポリマー粒子8の位置は、コンピュータ1に記憶される。なお、本実施形態の相対座標としては、球座標系である場合が例示されたが、これに限定されるわけではなく、例えば、デカルト座標系、又は、円筒座標系でもよい。
次に、第2ポリマー粒子8Bから第Nポリマー粒子8Nまでの相対座標が定義されたか否か(変数MがNであるか否か)が判断される(工程S323)。この工程S323では、第2ポリマー粒子8Bから第Nポリマー粒子8Nまでの相対座標が定義されたと判断された場合、次の工程S24が実施される。
一方、第2ポリマー粒子8Bから第Nポリマー粒子8Nまでの相対座標が定義されていないと判断された場合、変数Mに1を加算して(工程S324)、工程S322及び工程S323が再度実施される。これにより、第2座標定義工程S32では、基準粒子16を除く残り全ての粒子13、即ち、第2ポリマー粒子8Bから第Nポリマー粒子8Nまでの相対座標を定義することができる。
図9に示されるように、第2ポリマー粒子8Bは、基準粒子16の絶対座標(x1、y1、z1)、及び、第2ポリマー粒子8Bの相対座標(r2、φ2、θ2)に基づいて、仮想空間2(図4に示す)での位置が一意に定義される。第3ポリマー粒子8Cは、第2ポリマー粒子8Bの仮想空間2での位置(即ち、基準粒子16の絶対座標(x1、y1、z1)、及び、第2ポリマー粒子8Bの相対座標(r2、φ2、θ2))、及び、第3ポリマー粒子8Cの相対座標(r3、φ3、θ3)に基づいて、仮想空間2での位置が一意に定義される。
このように、基準粒子16を除く各ポリマー粒子8(第2ポリマー粒子8Bから第Nポリマー粒子8N)の仮想空間2(図4に示す)での位置は、基準粒子16の絶対座標、及び、各ポリマー粒子8の相対座標に基づいて、第2ポリマー粒子8Bから順番に定義される。これにより、第2座標定義工程S32では、基準粒子16を除く残り全てのポリマー粒子8を、基準粒子16に対する相対座標で定義することができる。従って、ポリマーモデル12の各ポリマー粒子8の位置が定義され、ポリマーモデル12の仮想空間2での位置を特定することができる。このような座標定義工程S23の一連の処理は、全てのポリマーモデル12を対象に実施される。
本実施形態の座標定義方法では、基準粒子16を除く各ポリマー粒子8を、絶対座標よりも情報量が少ない相対座標で定義することができるため、全てのポリマー粒子8が絶対座標で定義されていた従来の方法に比べて、ポリマーモデル12を特定する情報量を大幅に少なくすることができる。従って、本実施形態の座標定義方法は、コンピュータ1の作業用メモリや、磁気ディスクの容量が圧迫するのを防ぐのに役立つ。
また、各ポリマーモデル12の各ポリマー粒子8の各座標値は、例えば、汎用的なデータ圧縮アルゴリズム(ZIP等)に基づいて、圧縮されるのが望ましい。これにより、各ポリマーモデル12の情報量をさらに少なくすることができる。
次に、図7に示されるように、隣接するポリマーモデル12、12のポリマー粒子8、8間に、ポテンシャルP2が定義される(工程S24)。このポテンシャルP2は、上記式(1)のLJポテンシャルULJ(rij)によって定義される。なお、ポテンシャルP2の強度ε及び定数σも、適宜設定することができるが、上記式(1)で設定された数値と同一範囲が望ましい。ポテンシャルP2は、コンピュータ1に記憶される。
次に、図4に示されるように、フィラーをモデル化したフィラーモデル23が設定される(工程S3)。この工程S3では、仮想空間2に配置される複数個(例えば、1個〜10000個)のフィラーモデル23が設定される。各フィラーモデル23は、例えば、一つのフィラー粒子24でモデル化される。各フィラー粒子24は、ポリマー粒子8(図7に示す)と同様に、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、各フィラー粒子24には、例えば、質量、体積、直径、又は、電荷などのパラメータが定義される。
また、工程S3では、各フィラー粒子24の仮想空間2での絶対座標が定義される。本実施形態の絶対座標も、図9に示したポリマーモデル12の基準粒子16と同様に、x軸、y軸及びz軸の座標値(x、y、z)に基づいて、仮想空間2での位置が決定される直交座標系(デカルト座標系)で定義される。また、各座標値x、y、zの桁数(ビット)については、基準粒子16と同様に、18ビットに設定されるのが望ましい。工程S3では、コンピュータ1によって、各フィラー粒子24の各座標値x、y、zがランダムに決定される。また、各フィラー粒子24の各座標値も、汎用的なデータ圧縮アルゴリズム(ZIP等)に基づいて、圧縮されるのが望ましい。
次に、図7に示されるように、フィラー粒子24、24間、及び、ポリマー粒子8とフィラー粒子24との間には、ポテンシャルP3が設定される(工程S4)。ポテンシャルP3は、上記式(1)のLJポテンシャルULJ(rij)によって定義される。また、ポテンシャルP3の各定数及び各変数の値としては、適宜設定することができるが、上記論文2に基づいて設定されるのが望ましい。ポテンシャルP3は、コンピュータ1に記憶される。
次に、図4に示されるように、コンピュータ1が、仮想空間2に配置されたフィラーモデル23及びポリマーモデル12を用いて、分子動力学( Molecular Dynamics : MD )計算による緩和計算が実施される(工程S5)。本実施形態の分子動力学計算では、例えば、仮想空間2について所定の時間、ポリマーモデル12及びフィラーモデル23が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻でのポリマー粒子8及びフィラー粒子24の動きが、単位時間毎に追跡される。
本実施形態の構造緩和の計算は、仮想空間2において、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S5では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、ポリマーモデル12及びフィラーモデル23の初期配置を精度よく緩和することができ、高分子材料モデル26が設定される。このような構造緩和の計算は、例えば(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J−OCTA)に含まれるCOGNACを用いて処理することができる。
本実施形態では、ポリマーモデル12を特定するための情報量を少なくすることができるため、分子動力学計算中に、コンピュータ1の作業用メモリや、磁気ディスクの容量が圧迫するのを防ぐことができる。なお、工程S5では、各ポリマーモデル12の第2ポリマー粒子8Bから第Nポリマー粒子8Nの相対座標が、デカルト座標に変換されて、分子動力学計算が実施される。
次に、コンピュータ1が、ポリマーモデル12及びフィラーモデル23の初期配置を十分に緩和できたか否かを判断する(工程S6)。この工程S6では、ポリマーモデル12及びフィラーモデル23の初期配置を十分に緩和できたと判断された場合、構造緩和された高分子材料モデル26に基づいて、高分子材料とフィラーとの反応が解析される(工程S7)。一方、ポリマーモデル12及びフィラーモデル23の初期配置を十分に緩和できていないと判断された場合は、単位時間を進めて(工程S8)、工程S5及び工程S6が再度実施される。これにより、本実施形態では、ポリマーモデル12及びフィラーモデル23の平衡状態(構造が緩和した状態)が、確実に計算することができる。
本実施形態では、基準粒子16を除く各ポリマー粒子8の相対座標が、第2ポリマー粒子8Bから順番に定義されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、基準粒子16を除く各ポリマー粒子8の相対座標が、基準粒子16を基準として直接定義されてもよい。これにより、第2ポリマー粒子8Bから第Nポリマー粒子8Nまで順番に辿って、各ポリマー粒子8の相対座標をデカルト座標に変換することなく、各ポリマー粒子8の位置を迅速に特定することができるため、処理時間を短縮することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図5、図8及び図10に示した手順に従って、分子シミュレーションで用いられるポリマーモデルが設定された(実施例1、実施例2)。実施例1及び実施例2のポリマーモデルでは、基準粒子が仮想空間での絶対座標で定義された。また、実施例1及び実施例2のポリマーモデルでは、基準粒子を除く全てのポリマー粒子が、相対座標で定義された。実施例1及び実施例2の各座標は、バイナリ形式で記憶された。さらに、実施例2の各ポリマーモデルの座標は、汎用的なデータ圧縮アルゴリズム(ZIP)に基づいて圧縮された。
また、比較のために、全てのポリマー粒子が、仮想空間での絶対座標で定義された(比較例)。比較例の座標も、バイナリ形式で保存された。そして、実施例1、実施例2及び比較例において、全てのポリマーモデルの情報量、即ち、全てのポリマー粒子の座標を定義するのに必要な情報量が計算された。なお、実施例1、実施例2及び比較例において、絶対座標及び相対座標の各座標値の桁数は、明細書中のとおりであり、共通仕様は次のとおりである。
仮想空間に配置されるポリマーモデルの個数:1000個
各ポリマーモデルのポリマー粒子の個数:1000個
仮想空間に配置されるポリマーモデルの個数:1000個
各ポリマーモデルのポリマー粒子の個数:1000個
実施例1、実施例2及び比較例において、各ポリマーモデルの情報量は、下記のとおりである。従って、実施例1及び実施例2は、比較例に比べて、分子シミュレーションで用いられるポリマー粒子の位置を少ない情報量で定義できた。また、実施例2では、各ポリマーモデルの座標が、汎用的なデータ圧縮アルゴリズム(ZIP)に基づいて圧縮されているため、ポリマー粒子の位置をより少ない情報量で定義できた。
比較例:6961727bytes
実施例1:5002000bytes
実施例2:4697743bytes
比較例:6961727bytes
実施例1:5002000bytes
実施例2:4697743bytes
2 仮想空間
13 粒子
14 粒子集団
16 基準粒子
13 粒子
14 粒子集団
16 基準粒子
Claims (5)
- 予め定められた仮想空間において、相互に関連付けられた複数の粒子から構成された粒子集団の座標を、コンピュータに定義するための方法であって、
前記コンピュータが、前記複数の粒子から選択された少なくとも一つの基準粒子を、前記仮想空間での絶対座標で定義する第1座標定義工程と、
前記コンピュータが、前記基準粒子を除く少なくとも一つの粒子を、前記基準粒子に対する相対座標で定義する第2座標定義工程とを含むことを特徴とする粒子集団の座標を定義する方法。 - 前記基準粒子は、前記粒子集団の一端に配置された一つの粒子である請求項1記載の粒子集団の座標を定義する方法。
- 前記第2座標定義工程は、前記基準粒子を除く残り全ての粒子の前記相対座標を定義する請求項1又は2に記載の粒子集団の座標を定義する方法。
- 前記絶対座標は、直交座標系で定義され、
前記相対座標は、球座標系で定義される請求項1乃至3のいずれかに記載の粒子集団の座標を定義する方法。 - 前記粒子集団は、高分子材料をモデル化したポリマーモデルであり、
前記各粒子は、前記ポリマーモデルを構成するポリマー粒子であり、
前記各粒子は、平衡長が設定されたポテンシャルによって連結されている請求項1乃至4にいずれかに記載の粒子集団の座標を定義する方法。
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