JP7107111B2 - 高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法、高分子材料モデルの作成方法、高分子材料のシミュレーション方法、及び、高分子材料の製造方法 - Google Patents
高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法、高分子材料モデルの作成方法、高分子材料のシミュレーション方法、及び、高分子材料の製造方法 Download PDFInfo
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Description
本発明は、高分子材料の粗視化モデルに定義される相互作用ポテンシャルを決定するための方法などに関する。
下記非特許文献1は、コンピュータを用いて、フィラーと分子鎖とを含む高分子材料のシミュレーション方法を提案している。この種の方法では、先ず、高分子材料に基づいて、粗視化された高分子材料モデルがコンピュータに設定される。
高分子材料モデルには、フィラーを複数のフィラー粒子でモデリングしたフィラーモデルと、分子鎖を複数のポリマー粒子でモデリングした分子鎖モデルとを含んでいる。フィラー粒子とポリマー粒子との間には、斥力又は引力を作用させるための相互作用ポテンシャルが定義される。この相互作用ポテンシャルに基づいて、フィラーモデル及び分子鎖モデルの構造緩和が計算される。
K.Hagita, H.Morita, H.Takano著、「Molecular dynamics simulation study of a fracture of filler-filled polymer nanocomposites」、Polymer、ELSEVIER、2016年9月2日、第99巻、p.368-375
相互作用ポテンシャルの強さは、相互作用パラメータを含んで定義されている。相互作用パラメータを小さくすると、相互作用ポテンシャルが弱くなり、フィラー粒子とポリマー粒子との間の物理吸着が弱くなる。一方、相互作用パラメータを大きくすると、相互作用ポテンシャルが強くなり、フィラー粒子とポリマー粒子との間の物理吸着が強くなる。
精度の高いシミュレーションを行うには、相互作用パラメータを適切に決定することが重要である。しかしながら、これまでのシミュレーションでは、この相互作用パラメータについて、十分に検討されていなかった。
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、相互作用パラメータと、全原子モデルの分子動力学計算で求められる相互作用エネルギーとの間に相関があり、相互作用エネルギーに基づいて、相互作用パラメータを決定することが有効であることを知見した。
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、精度の高いシミュレーションを行うことが可能な相互作用ポテンシャルを決定するための方法などを提供することを主たる目的としている。
本発明は、フィラーと分子鎖とを含む高分子材料について、前記フィラー及び前記分子鎖の粗視化モデルに定義される相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて決定するための方法であって、前記コンピュータに、前記フィラーを全原子モデルでモデリングした全原子フィラーモデルを設定する工程と、前記コンピュータに、前記全原子フィラーモデルと第1界面を介して隣り合うように、前記分子鎖を全原子モデルでモデリングした全原子ポリマーモデルを設定する工程と、前記コンピュータが、分子動力学計算に基づく前記全原子フィラーモデル及び前記全原子ポリマーモデルの構造緩和を計算して、前記第1界面での前記全原子フィラーモデルと前記全原子ポリマーモデルとの間の第1相互作用エネルギーを求める工程と、前記第1相互作用エネルギーに基づいて、前記フィラーと前記分子鎖との界面での前記相互作用ポテンシャルの強さを示す相互作用パラメータを決定する工程とを含むことを特徴とする。
本発明に係る前記高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法において、前記決定する工程は、前記第1界面での単位面積あたりの前記第1相互作用エネルギーに基づいて、前記相互作用パラメータを決定する工程を含んでもよい。
本発明に係る前記高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法において、前記コンピュータに、第2界面を介して隣り合う前記全原子ポリマーモデルを設定する工程と、前記コンピュータが、分子動力学計算に基づく前記全原子ポリマーモデルの構造緩和を計算して、前記第2界面での前記全原子ポリマーモデル間の第2相互作用エネルギーを求める工程とをさらに含み、前記決定する工程は、前記第1相互作用エネルギーと前記第2相互作用エネルギーとの比に基づいて、前記相互作用パラメータを決定する工程とを含んでもよい。
本発明に係る前記高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法において、前記決定する工程は、前記第2界面での単位面積あたりの前記第2相互作用エネルギーに基づいて、前記相互作用パラメータを決定する工程を含んでもよい。
本発明は、前記高分子材料の数値解析用の高分子材料モデルを、前記コンピュータを用いて作成するための方法であって、前記コンピュータに、前記フィラーを、複数の粗視化フィラー粒子を用いてモデリングした粗視化フィラーモデルを設定する工程と、前記コンピュータに、前記高分子材料の分子鎖を、複数の粗視化ポリマー粒子を用いてモデリングした粗視化ポリマーモデルを設定する工程と、前記粗視化フィラー粒子と前記粗視化ポリマー粒子との間に、請求項1乃至4のいずれかに記載の相互作用ポテンシャルを定義する工程とを含むことを特徴とする。
本発明は、前記コンピュータが、請求項5記載の前記高分子材料モデルの変形を計算する工程と、前記変形の計算結果に基づいて、前記高分子材料の性能を評価する工程とを含むことを特徴とする。
本発明は、請求項6記載の前記シミュレーション方法において、前記性能が良好であると評価された前記高分子材料モデルに基づいて、前記高分子材料を製造する工程を含むことを特徴とする。
本発明の高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法は、第1界面を介して隣り合う全原子フィラーモデル及び全原子ポリマーモデルについて、分子動力学計算に基づく構造緩和を計算して、前記第1界面での全原子フィラーモデルと前記全原子ポリマーモデルとの間の第1相互作用エネルギーを求める工程を含んでいる。そして、本発明の前記決定方法は、前記第1相互作用エネルギーに基づいて、フィラーと分子鎖との界面での前記相互作用ポテンシャルの強さを示す相互作用パラメータを決定する工程を含んでいる。
一般に、全原子モデルの分子動力学計算では、粗視化モデルの分子動力学計算に比べて、精度の高い力場が定義されている。本発明の前記決定方法では、全原子モデルの分子動力学計算によって求められた前記第1相互作用エネルギーに基づいて、前記相互作用パラメータを決定することができる。したがって、このパラメータは、粗視化モデルを用いた精度の高いシミュレーションを行うことを可能にする。
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法(以下、単に「決定方法」ということがある。)は、フィラーと分子鎖とを含む高分子材料について、フィラー及び分子鎖の粗視化モデルに定義される相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて決定するためのものである。
本実施形態の高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法(以下、単に「決定方法」ということがある。)は、フィラーと分子鎖とを含む高分子材料について、フィラー及び分子鎖の粗視化モデルに定義される相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて決定するためのものである。
図1は、高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法、高分子材料モデルの作成方法、高分子材料のシミュレーション方法、及び、高分子材料の製造方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c、及び、ディスプレイ装置1dを含んでいる。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の決定方法などを実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、分子鎖の一例を示す構造式である。高分子材料としては、例えば、ゴム、樹脂、又は、エラストマー等が含まれる。本実施形態の分子鎖2は、cis-1,4ポリイソプレン(以下、単に「ポリイソプレン」ということがある。)である場合が例示される。
ポリイソプレンを構成する分子鎖2は、メチン基等(例えば、-CH=、>C=)、メチレン基(-CH2-)、及び、メチル基(-CH3)によって構成されるイソプレンのモノマー(イソプレン分子)3が、重合度nで連結されて構成されている。
フィラーとしては、適宜選択することができる。本実施形態のフィラーは、シリカである場合が例示される。高分子材料には、フィラーに分子鎖2を結合させるためのカップリング剤がさらに含まれてもよい。カップリング剤としては、適宜選択することができる。カップリング剤は、シランカップリング剤(TESPD)であってもよい。
図3は、フィラー及び分子鎖の粗視化モデルの一例を示す概念図である。本実施形態では、高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセル4(以下、単に「第1セル」ということがある。)の内部に、フィラー及び分子鎖の粗視化モデルが定義されている。本実施形態の粗視化モデルとしては、分子鎖2をモデリングした粗視化ポリマーモデル6、及び、フィラーをモデリングした粗視化フィラーモデル7が含まれる。
第1セル4Aは、少なくとも互いに向き合う一対の面5、5、本実施形態では、互いに向き合う三対の面5、5を有している。第1セル4Aは、直方体又は立方体(本例では、直方体)として定義されている。各面5、5には、周期境界条件が定義されている。このような第1セル4Aを用いた分子動力学計算では、例えば、一方側の面5aから出て行った粗視化ポリマーモデル6の一部が、他方側の面5bから入ってくるように計算することができる。従って、第1セル4Aは、分子動力学計算において、一方側の面5aと、他方側の面5bとが連続している(繋がっている)ものとして定義される。
第1セル4Aの一辺の各長さL1、L2及びL3は、適宜設定することができる。本実施形態の長さL1、L2及びL3は、それぞれ粗視化ポリマーモデル6の拡がりを示す量である慣性半径(図示省略)の3倍以上に設定されるのが望ましい。これにより、第1セル4Aを用いた分子動力学計算では、周期境界条件による自己のイメージとの衝突の発生を防いで、粗視化ポリマーモデル6の空間的拡がりを適切に計算することができる。また、第1セル4Aの大きさは、例えば1気圧で安定な体積に設定される。これにより、第1セル4Aは、解析対象の高分子材料の少なくとも一部の体積を定義することができる。
図4は、粗視化ポリマーモデル6の一例を示す概念図である。粗視化ポリマーモデル6は、図2に示した分子鎖2の構造に基づいて、複数の粗視化ポリマー粒子8を用いてモデリングしたものである。隣接する粗視化ポリマー粒子8、8は、結合鎖モデル9で連結されている。
粗視化ポリマー粒子8は、図2に示した分子鎖2のモノマー又はモノマーの一部分をなす構造単位を置換したものである。分子鎖2がポリイソプレンである場合には、例えば、論文1( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著、「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990、p5057-5086)に基づいて、1.73個分のモノマー3(図2に示す)を構造単位として、1個の粗視化ポリマー粒子8に置換される。これにより、各粗視化ポリマーモデル6には、複数(例えば、10~5000個)の粗視化ポリマー粒子8が設定される。各粗視化ポリマー粒子8には、例えば、質量、直径、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。これにより、粗視化ポリマー粒子8は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。
図5は、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7の相互作用ポテンシャルの一例を説明する概念図である。結合鎖モデル9は、粗視化ポリマー粒子8、8間に伸びきり長が設定された結合ポテンシャルP1によって定義される。結合ポテンシャルP1については、適宜定義することができる。本実施形態の結合ポテンシャルP1は、従来と同様に、下記式(1)に示されるLennard-Jonesポテンシャル(以下、単に「LJポテンシャル」ということがある。)ULJ(rij)と、下記式(2)に示されるFENEポテンシャルUFENE(rij)との和で定義される。
ここで、各定数及び変数は、次のとおりである。
rij:各粒子間の距離
rc:カットオフ距離
R0:伸びきり長
k:ばね定数
ε:相互作用パラメータ(LJポテンシャルの強さ(強度))
σ:各粒子の直径に相当
なお、距離rij、カットオフ距離rc、及び、伸びきり長R0は、各粒子の中心間の距離として定義される。
LJポテンシャルULJ(rij)は、粒子間(この例では、粗視化ポリマー粒子8、8間)の距離rijがカットオフ距離rcよりも小さくなるほど、その値が大きくなる。一方、FENEポテンシャルUFENE(rij)は、距離rijがカットオフ距離rcよりも大きくなるほど、その値が大きくなる。従って、結合鎖モデル9には、距離rijを、LJポテンシャルULJ(rij)とFENEポテンシャルUFENE(rij)とが互いに釣り合う位置に戻そうとする復元力が定義される。
上記式(2)では、粒子間の距離rijが伸びきり長R0以上となる場合、FENEポテンシャルUFENE(rij)が∞に設定される。従って、結合鎖モデル9は、距離rijが、伸びきり長R0以上になることを許容しない。このような結合鎖モデル9は、分子動力学計算において、現実の分子鎖2(図2に示す)の挙動に効果的に近似させることができる。
相互作用パラメータε、伸びきり長R0、及び、粗視化の単位長さσについては、適宜設定することができる。これらの定数は、例えば、上記論文1に基づいて、適宜設定することができる。これにより、粗視化ポリマーモデル6が定義される。
図3及び図5に示されるように、粗視化フィラーモデル7は、複数の粗視化フィラー粒子11を用いてモデリングしたものである。図3に示されるように、本実施形態の粗視化フィラーモデル7は、第1セル4Aの少なくとも1枚の面5、本実施形態では、互いに向き合う一対の面(本例では、Z軸方向で互いに向き合う一対の面)5、5に沿って配置された複数の粗視化フィラー粒子11によって定義されている。なお、粗視化フィラーモデル7は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、実際の高分子材料の電子線透過画像のフィラーの位置に基づいて、粗視化フィラー粒子11が第1セル4A内に配置されてもよい。
粗視化フィラー粒子11には、質量、直径、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。これにより、粗視化フィラー粒子11は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。
本実施形態の粗視化フィラーモデル7には、隣接する粗視化フィラー粒子11、11間の相対位置を固定する拘束条件が定義されている。なお、粗視化フィラーモデル7には、隣接する粗視化フィラー粒子11、11間を拘束する結合鎖モデル(図示省略)が定義されても良い。このような結合鎖モデルは、例えば、従来と同様に、上記式(1)に示されるLJポテンシャルULJ(rij)と、上記式(2)に示されるFENEポテンシャルUFENE(rij)との和で設定された結合ポテンシャル(図示省略)で定義することができる。LJポテンシャルULJ(rij)及びFENEポテンシャルUFENE(rij)の各定数については、上記論文1に基づいて、適宜設定することができる。これにより、粗視化フィラーモデル7が定義される。
図5に示されるように、近接する粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7には、相互作用ポテンシャルが定義される。本実施形態では、図5に示されるように、粗視化ポリマーモデル6の粗視化ポリマー粒子8、及び、粗視化フィラーモデル7の粗視化フィラー粒子11には、下記の相互作用ポテンシャルQ1~Q3が定義される。
第1相互作用ポテンシャルQ1:
粗視化フィラー粒子11と粗視化ポリマー粒子8との界面
第2相互作用ポテンシャルQ2:
粗視化ポリマー粒子8と粗視化ポリマー粒子8との間
第3相互作用ポテンシャルQ3:
粗視化フィラー粒子11と粗視化フィラー粒子11との間
第1相互作用ポテンシャルQ1:
粗視化フィラー粒子11と粗視化ポリマー粒子8との界面
第2相互作用ポテンシャルQ2:
粗視化ポリマー粒子8と粗視化ポリマー粒子8との間
第3相互作用ポテンシャルQ3:
粗視化フィラー粒子11と粗視化フィラー粒子11との間
相互作用ポテンシャルQ1~Q3は、従来と同様に、上記式(1)に示されるLJポテンシャルULJ(rij)で定義することができる。相互作用ポテンシャルQ1~Q3の各定数については、上記論文1に基づいて、適宜設定することができる。
相互作用ポテンシャルQ1~Q3の強さは、上記式(1)のLJポテンシャルULJ(rij)の相互作用パラメータεによって改めて決定される。各相互作用ポテンシャルQ1~Q3の相互作用パラメータεは、相互作用ポテンシャルQ1~Q3から選択された相互作用ポテンシャル(本例では、第2相互作用ポテンシャルQ2)の相互作用パラメータεを基準とする相対値(比)として定義される。なお、基準となる相互作用ポテンシャルについては、適宜選択することができる。第2相互作用ポテンシャルQ2の相互作用パラメータε(以下、単に「第2相互作用パラメータε2」ということがある。)値については、適宜設定することができる。本実施形態の第2相互作用パラメータε2の値には、論文1と同様に1.0が設定される。
相互作用パラメータεを小さくすると、相互作用ポテンシャルQ1~Q3が弱くなり、粒子間(例えば、粗視化フィラー粒子11と粗視化ポリマー粒子8との界面)の物理吸着が弱くなる。一方、相互作用パラメータεを大きくすると、相互作用ポテンシャルQ1~Q3が強くなり、粒子間(例えば、粗視化フィラー粒子11と粗視化ポリマー粒子8との界面)の物理吸着が強くなる。
精度の高いシミュレーションを行うには、これらの相互作用ポテンシャルQ1~Q3の相互作用パラメータεを適切に決定することが重要である。しかしながら、これまでのシミュレーションでは、相互作用パラメータεについて、十分に検討されていなかった。
とりわけ、実際のフィラーと分子鎖との界面での物理吸着の強さは、フィラーの種類や、分子鎖2(図2に示す)の種類によって大きく異なる傾向がある。このため、第1相互作用ポテンシャルQ1の相互作用パラメータε(以下、単に「第1相互作用パラメータε1」ということがある。)が適切に決定されていないと、精度の高いシミュレーションを行うことは困難である。
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、相互作用パラメータεと、全原子モデルの分子動力学計算で求められる相互作用エネルギーとの間に相関があり、相互作用エネルギーに基づいて、相互作用パラメータεを決定することが有効であることを知見した。
本実施形態の決定方法では、全原子モデルの分子動力学計算で求められる相互作用エネルギーに基づいて、フィラーと分子鎖との界面での相互作用ポテンシャルの相互作用パラメータ(本実施形態では、第1相互作用ポテンシャルQ1の第1相互作用パラメータε1)を決定している。
第1相互作用パラメータε1は、フィラー及び分子鎖の間の全原子モデルの相互作用エネルギー(後述の第1相互作用エネルギーE1)と相関がある。一方、第2相互作用パラメータε2は、分子鎖間の全原子モデルの相互作用エネルギー(後述の第2相互作用エネルギーE2)と相関がある。このため、相互作用パラメータの比(ε1/ε2)は、相互作用エネルギーの比(E1/E2)と相関がある。したがって、決定工程では、相互作用エネルギーの比(E1/E2)に、第2相互作用パラメータε2が乗じられることで、第1相互作用パラメータε1が決定される。なお、本実施形態のように、第2相互作用パラメータε2が1.0である場合には、相互作用エネルギーの比(E1/E2)によって、第1相互作用パラメータε1を決定することができる。図6は、高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の決定方法では、先ず、コンピュータ1に、全原子フィラーモデルが設定される(工程S1)。図7は、セルの内部に配置された全原子フィラーモデル12及び全原子ポリマーモデル13及びの一例を示す概念図である。
全原子フィラーモデル12は、フィラーを全原子モデルでモデリングしたものである。本実施形態の全原子フィラーモデル12は、複数の全原子フィラー粒子14を含んで構成されている。本実施形態の全原子フィラーモデル12は、空間充填モデルとして定義されているが、例えば、球棒モデルとして定義されてもよい。
全原子フィラー粒子14は、フィラー(本実施形態では、シリカ)について、ケイ素原子をモデル化したケイ素粒子14si、及び、酸素原子をモデル化した酸素粒子14oを含んでいる。全原子フィラー粒子14には、質量、直径、電荷、又は、初期座標などのパラメータが定義される。これにより、全原子フィラー粒子14は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。
全原子フィラーモデル12には、結合長、結合角、及び、二面角が定義されている。結合長、結合角及び二面角を定義するためのポテンシャルの各定数については、論文2(Huai Sun等著、「COMPASS II: extended coverage for polymer and drug-like molecule databases」、J. Mol. Model. vol. 22、no. 2、article 47、2016年、pp.1-10)のCOMPASS II力場に基づいて設定される。COMPASS II 力場は、後述の工程S3で定義される力場に用いられるものである。
本実施形態の全原子フィラーモデル12は、仮想空間であるセル4(以下、単に「第2セル4B」ということがある。)の内部に定義される。第2セル4Bは、図3に示した第1セル4Aと同様に、高分子材料の一部に対応するように定義したものである。本実施形態の第2セル4Bは、Y軸方向の長さ及びZ軸方向の長さに比べて、X軸方向の長さが大きく設定されている。本実施形態の全原子フィラーモデル12は、X軸方向において、第2セル4Bの中央の空間に配置されている。全原子フィラーモデル12は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態の決定方法では、コンピュータ1に、全原子ポリマーモデル13が設定される(工程S2)。全原子ポリマーモデル13は、図2に示した分子鎖2を全原子モデルでモデリングしたものである。本実施形態の全原子ポリマーモデル13は、複数の全原子ポリマー粒子16を含んで構成されている。本実施形態の全原子ポリマーモデル13は、空間充填モデルとして定義されているが、例えば、球棒モデルとして定義されてもよい。
全原子ポリマー粒子16は、図2に示した分子鎖2(本実施形態では、ポリイソプレン)について、炭素原子をモデル化した炭素粒子16cと、水素原子をモデル化した水素粒子16hとを含んで構成されている。全原子ポリマー粒子16には、質量、直径、電荷、又は、初期座標などのパラメータが定義される。これにより、全原子ポリマー粒子16は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。
全原子ポリマーモデル13には、結合長、結合角、及び、二面角が定義されている。結合長、結合角及び二面角を定義するためのポテンシャルの各定数については、上記論文2のCOMPASS II力場に基づいて、適宜設定することができる。COMPASS II 力場は、後述の工程S3で定義される力場に用いられるものである。
全原子ポリマーモデル13は、全原子フィラーモデル12と同様に、第2セル4Bの内部に定義される。本実施形態の全原子ポリマーモデル13は、全原子フィラーモデル12と第1界面17を介して隣り合うように配置されている。本実施形態の全原子ポリマーモデル13は、X軸方向において、第2セル4Bの両側の空間(全原子フィラーモデル12に対して両側の空間)にそれぞれ複数配置されている。これにより、第2セル4Bには、全原子フィラーモデル12と全原子ポリマーモデル13との間に、一対の第1界面17、17が設定される。
一対の第1界面17、17は、全原子フィラーモデル12と全原子ポリマーモデル13との境界を示すものであり、本実施形態のような平らな形状に限定されない。第1界面17、17の形状は、全原子フィラーモデル12の全原子フィラー粒子14、及び、全原子ポリマーモデル13の全原子ポリマー粒子16の配置によって定められてもよい。全原子ポリマーモデル13は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態の決定方法では、近接する全原子フィラーモデル12及び全原子ポリマーモデル13に、力場が定義される(工程S3)。本実施形態の工程S3では、全原子フィラー粒子14、14間、全原子ポリマー粒子16と全原子フィラー粒子14との間、及び、全原子ポリマー粒子16、16間に、力場がそれぞれ定義される。これらの力場については、適宜定義することができる。本実施形態の力場は、COMPASS II 力場に基づいて設定される。このような力場は、粗視化モデルに設定される力場(例えば、図5に示した相互作用ポテンシャルQ1~Q3)に比べて精度が高いものである。力場は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の決定方法では、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、全原子フィラーモデル12、及び、全原子ポリマーモデル13の構造緩和を計算する(工程S4)。本実施形態の工程S4では、例えば、第2セル4Bについて所定の時間、全原子フィラーモデル12、及び、全原子ポリマーモデル13が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での全原子フィラーモデル12、及び、全原子ポリマーモデル13の動きが、シミュレーションの単位時間ごとに追跡される。
本実施形態の構造緩和の計算は、第2セル4Bにおいて、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S4では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、全原子フィラーモデル12、及び、全原子ポリマーモデル13の初期配置を精度よく緩和することができる。このような全原子モデルを用いた構造緩和の計算は、例えば、ダッソー・システムズ社製のシミュレーションソフトウエア(Materials Studio(Materials Studioは登録商標))に含まれる Forciteを用いて処理することができる。
工程S4では、全原子フィラーモデル12、及び、全原子ポリマーモデル13の初期配置が十分に緩和されるまで計算される。これにより、工程S4では、全原子フィラーモデル12、及び、全原子ポリマーモデル13の平衡状態(構造が緩和した状態)を、確実に計算することができる。なお、本実施形態では、全原子フィラーモデル12の全原子フィラー粒子14、14間が強固に連結されているため、全原子フィラーモデル12の内部に、全原子ポリマーモデル13が進入することができない。このため、工程S4では、上記のような構造緩和が計算されても、第1界面17、17が維持される。
次に、本実施形態の決定方法では、コンピュータ1が、第1界面17での全原子フィラーモデル12と全原子ポリマーモデル13との間の第1相互作用エネルギーE1を求める(工程S5)。本実施形態では、第1界面17での単位面積あたりの第1相互作用エネルギーE1が計算される。
工程S5では、先ず、第1界面17(本実施形態では、一対の第1界面17、17)において、全原子フィラーモデル12と全原子ポリマーモデル13との間の第1相互作用エネルギーE1の合計値が計算される。本実施形態の第1相互作用エネルギーE1は、図2に示したフィラーと分子鎖2との間の分子間力として計算される。このような第1相互作用エネルギーE1は、上記シミュレーションソフトウエアを用いて計算することができる。
次に、工程S5では、第1相互作用エネルギーE1の合計値が、第1界面17の面積(本実施形態では、一対の第1界面17、17の合計断面積)で除される。これにより、工程S5では、第1界面17での単位断面積あたりの第1相互作用エネルギーE1が計算される。なお、第1界面17、17が平面でない場合には、例えば、第1界面17での単位表面積あたりの第1相互作用エネルギーE1が計算されるのが望ましい。第1相互作用エネルギーE1は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の決定方法では、コンピュータ1に、第2界面18を介して隣り合う全原子ポリマーモデル13、13が設定される(工程S6)。図8は、第2界面18を介して隣り合う全原子ポリマーモデル13、13の一例を示す概念図である。
本実施形態では、仮想空間である第3セル4Cの内部において、複数の全原子ポリマーモデル13が、第2界面18に対して一方側の空間19、及び、第2界面18に対して他方側の空間20の双方に配置されている。第3セル4Cは、図7に示した第2セル4Bと同様に、高分子材料の一部に対応するように定義したものである。全原子ポリマーモデル13は、工程S1で設定された全原子ポリマーモデル13と同様に定義される。
第2界面18は、全原子ポリマーモデル13の境界を示すものであり、本実施形態のような平らな形状に限定されない。第2界面18の形状は、全原子ポリマーモデル13の全原子ポリマー粒子16の配置によって定められてもよい。全原子ポリマーモデル13は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の決定方法では、近接する全原子ポリマーモデル13、13に、力場が定義される(工程S7)。本実施形態の工程S7では、全原子ポリマー粒子16、16間に、力場が定義される。本実施形態の力場は、工程S3で説明した手順に基づいて定義することができる。力場は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の決定方法では、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、全原子ポリマーモデル13の構造緩和を計算する(工程S8)。本実施形態の工程S8では、例えば、第3セル4Cについて所定の時間、全原子ポリマーモデル13が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での全原子ポリマーモデル13の動きが、シミュレーションの単位時間ごとに追跡される。工程S8での構造緩和の計算は、工程S4の構造緩和の計算と同様の手順で行うことができる。なお、本実施形態では、低温の温度条件(例えば、1~100K)で緩和計算を実施することで、第2界面18は維持される。
次に、本実施形態の決定方法では、コンピュータ1が、第2界面18での全原子ポリマーモデル13、13間の第2相互作用エネルギーE2を求める(工程S9)。本実施形態では、第2界面18での単位面積あたりの第2相互作用エネルギーE2が計算される。
工程S9では、先ず、第2界面18(本実施形態では、一対の第2界面18、18)において、全原子ポリマーモデル13、13間の第2相互作用エネルギーE2の合計値が計算される。本実施形態の第2相互作用エネルギーE2は、近接する分子鎖2、2間の分子間力として計算される。このような第2相互作用エネルギーE2は、工程S5と同様に、上記シミュレーションソフトウエアを用いて計算することができる。
次に、工程S9では、第2相互作用エネルギーE2の合計値が、第2界面18の面積(本実施形態では、一対の第2界面18、18の合計断面積)で除される。これにより、工程S9では、第2界面18での単位断面積あたりの第2相互作用エネルギーE2が計算される。なお、第2界面18、18が平面でない場合には、例えば、第2界面18での単位表面積あたりの第2相互作用エネルギーE2が計算されるのが望ましい。第2相互作用エネルギーE2は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の決定方法では、コンピュータ1が、相互作用パラメータを決定する(工程S10)。工程S10では、第1相互作用エネルギーE1に基づいて、フィラーと分子鎖との界面での相互作用パラメータε(本実施形態では、第1相互作用パラメータε1)が決定される。
上述したように、本実施形態の決定方法では、相互作用エネルギーの比(E1/E2)に基づいて、第1相互作用パラメータε1が決定される。なお、第2相互作用パラメータε2が1.0以外である場合には、相互作用エネルギーの比(E1/E2)に、第2相互作用パラメータε2が乗じられることで、第1相互作用パラメータε1が決定される。第1相互作用パラメータε1は、コンピュータ1に記憶される。
このように、本実施形態の決定方法では、全原子モデル(本実施形態では、全原子フィラーモデル12及び全原子ポリマーモデル13)の分子動力学計算によって求められた相互作用エネルギーに基づいて、相互作用パラメータε(本実施形態では、第1相互作用パラメータε1)が決定されている。上述したように、全原子モデルの分子動力学計算では、粗視化モデルの分子動力学計算に比べて、精度の高い力場が定義されている。このような力場に基づく分子動力学計算によって決定された第1相互作用パラメータε1が、粗視化モデルに定義されることにより、実際のフィラーと分子鎖との界面での物理吸着の強さを再現することができ、粗視化モデルを用いた精度の高いシミュレーションが可能となる。
また、本実施形態では、第1相互作用パラメータε1が、第2相互作用パラメータε2の相対値として定義される。このため、それらの比(ε1/ε2)と相関のある第1相互作用エネルギーE1と第2相互作用エネルギーE2との比(E1/E2)に基づいて、第1相互作用パラメータε1を容易に決定することができる。
また、本実施形態の決定方法では、第1界面17での単位面積あたりの第1相互作用エネルギーE1、及び、第2界面18での単位面積あたりの第2相互作用エネルギーE2に基づいて、それらの比(E1/E2)が求められている。これにより、本実施形態の決定方法では、第1界面17の位置によってバラツキやすい第1相互作用エネルギーE1や、第2界面18の位置によってバラツキやすい第2相互作用エネルギーE2に影響されることなく、それらの比(E1/E2)を、同一尺度(即ち、第1界面17及び第2界面18の単位面積)で一意に求めることができる。
本実施形態の決定方法では、フィラーと分子鎖との界面での相互作用ポテンシャル(第1相互作用ポテンシャルQ1)の第1相互作用パラメータε1が決定される態様が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、フィラーに分子鎖2を結合させるためのカップリング剤(図示省略)が含まれる場合、近接するカップリング剤の間の相互作用ポテンシャル(図示しない第4相互作用ポテンシャルQ4)の相互作用パラメータε(以下、単に「第4相互作用パラメータ」ということがある。)が求められてもよい。第4相互作用パラメータε4は、第1相互作用パラメータε1と同様に、第2相互作用パラメータε2を基準とする相対値として定義される。
この実施形態の決定方法では、これまでの実施形態と同様の手順に基づいて、第4相互作用パラメータε4が決定される。この実施形態の決定方法では、先ず、界面を介して隣り合うカップリング剤の全原子モデルを設定して、その界面での相互作用エネルギー(以下、単に「第4相互作用エネルギー」ということがある。)E4を求める。次に、この実施形態の決定方法では、第4相互作用エネルギーE4と、第2相互作用エネルギーとの比(E4/E2)を求める。これにより、第4相互作用パラメータε4を決定することができる。なお、上述の第3相互作用ポテンシャルQ3、粗視化フィラー粒子11と粗視化カップリング粒子との間の相互作用ポテンシャル、及び、粗視化ポリマー粒子8と粗視化カップリング粒子との間の相互作用ポテンシャルの相互作用パラメータεについても、同様の手順で決定することができる。これにより、粗視化モデルを用いたより精度の高いシミュレーションを行うことを可能となる。
次に、高分子材料の数値解析用の高分子材料モデルを、コンピュータ1を用いて作成するための方法(以下、単に「作成方法」ということがある。)について説明する。本実施形態の高分子材料モデルは、粗視化モデルである場合が例示される。図9は、高分子材料モデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の作成方法では、先ず、コンピュータ1に、粗視化フィラーモデル7が設定される(工程S11)。図3に示されるように、粗視化フィラーモデル7は、フィラー(図示省略)を、複数の粗視化フィラー粒子11を用いてモデリングしたものである。工程S11では、粗視化フィラーモデル7を、第1セル4Aの内部に配置している。粗視化フィラーモデル7の設定手順については、上述のとおりである。粗視化フィラーモデル7は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1に、粗視化ポリマーモデル6が設定される(工程S12)。図4に示されるように、粗視化ポリマーモデル6は、高分子材料の分子鎖2(図2に示す)を、複数の粗視化ポリマー粒子8を用いてモデリングしたものである。図3に示されるように、工程S12では、粗視化ポリマーモデル6を、セル4(第1セル4A)の内部に配置している。粗視化ポリマーモデル6の設定手順については、上述のとおりである。粗視化ポリマーモデル6は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法では、図5に示されるように、近接する粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7に、相互作用ポテンシャルQ1~Q3が定義される(工程S13)。相互作用ポテンシャルQ1~Q3については、上述のとおりである。なお、相互作用ポテンシャルQ1~Q3の相互作用パラメータεは、第2相互作用ポテンシャルQ2の第2相互作用パラメータε2(本実施形態では、1.0)を基準とする相対値として、それぞれ定義される。
工程S13では、図6に示した決定方法の処理手順に基づいて、フィラーと分子鎖との界面での相互作用ポテンシャルの相互作用パラメータε(本実施形態では、第1相互作用ポテンシャルQ1の第1相互作用パラメータε1)が決定される。なお、相互作用ポテンシャルQ3の相互作用パラメータεについては、従来の手順に基づいて適宜定義されてもよいし、図6に示した決定方法の処理手順に基づいて決定されてもよい。相互作用ポテンシャルQ1~Q3は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、図3に示した第1セル4Aの構造緩和を計算する(工程S14)。本実施形態の分子動力学計算では、例えば、第1セル4Aについて所定の時間、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7の動きが、シミュレーションの単位時間ごとに追跡される。
本実施形態の構造緩和の計算は、第1セル4Aにおいて、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S14では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7の初期配置を精度よく緩和することができる。このような粗視化モデルを用いた構造緩和の計算は、例えば(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J-OCTA)に含まれるVSOP又はCOGNACを用いて処理することができる。
工程S14では、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7の初期配置が十分に緩和するまで計算される。これにより、工程S14では、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7の平衡状態(構造が緩和した状態)を、確実に計算することができる。
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、一対の粗視化ポリマーモデル6、6を互いに結合する(工程S15)。図10は、架橋点モデル21の一例を示す概念図である。本実施形態の工程S15では、予め定められた架橋密度に基づいて、一対の粗視化ポリマーモデル6、6をランダムに結合した架橋点モデル21が設定される。これにより、工程S15では、架橋反応を再現することができる。
架橋点モデル21は、結合ポテンシャルP2で定義される。結合ポテンシャルP2については、適宜定義することができる。結合ポテンシャルP2には、例えば、従来と同様に、上記式(1)のLJポテンシャルULJ(rij)と、上記式(2)のFENEポテンシャルUFENE(rij)との和で定義することができる。LJポテンシャルULJ(rij)及びFENEポテンシャルUFENE(rij)の各定数については、上記論文1に基づいて、適宜設定することができる。
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、セル4の構造緩和を再計算する(工程S16)。構造緩和の計算は、工程S14と同一の処理手順に基づいて、図10に示した架橋点モデル21で連結された粗視化ポリマーモデル6が十分に緩和できるまで計算される。これにより、分子鎖が架橋された粗視化ポリマーモデル6の平衡状態(構造が緩和した状態)を計算することができる。緩和計算後の高分子材料モデル10は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態の高分子材料モデル10は、粗視化ポリマー粒子8と粗視化フィラー粒子11との間に、図6に示した決定方法で決定された第1相互作用ポテンシャルQ1の第1相互作用パラメータε1が決定されるため、実際のフィラーと分子鎖との界面での物理吸着の強さを再現した精度の高いシミュレーションが可能となる。さらに、本実施形態の高分子材料モデル10は、架橋反応が再現されているため、より精度の高いシミュレーションが可能となる。
次に、本発明の作成方法で作成された高分子材料モデル10を用いた高分子材料のシミュレーション方法、及び、高分子材料の製造方法について説明する。図11は、高分子材料モデルのシミュレーション方法、及び、製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1が、高分子材料モデル10の変形を計算する(工程S21)。高分子材料モデル10の変形計算は、例えば、特開2016-081297号公報に記載された内容の手順に従って、高分子材料モデル10の一端(図5に示した一方の粗視化フィラーモデル7が配される面5)、及び、高分子材料モデル10の他端(図5に示した他方の粗視化フィラーモデル7が配される面5)が互いに離間するように、高分子材料モデル10の伸長が計算される。本例では、Z軸方向において、高分子材料モデル10の一端及び他端を離間させて、高分子材料モデル10の伸長が計算されている。
図12(a)は、変形計算前の高分子材料モデル10の一部を示す概念図である。図12(b)は、変形計算後の高分子材料モデル10の一部を示す概念図である。図12(a)及び図12(b)において、第1セル4Aの内部には、例えば、立方体状に区分された複数の小領域22が定義されている。高分子材料モデル10の変形計算前において、各小領域22には、上述した構造緩和計算により、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7の何れかが配置されている。
工程S21では、高分子材料モデル10の伸長計算により、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7の熱運動が計算される。このような熱運動は、高分子材料モデル10に与えられた歪み、図5及び図10に示した結合ポテンシャルP1、P2、相互作用ポテンシャルQ1~Q3、及び、運動方程式に基づいて計算される。これにより、第1セル4Aには、粗視化ポリマーモデル6、及び、粗視化フィラーモデル7が配置されない小領域22が形成される。このような小領域22は、高分子材料モデル10に形成された空孔(ボイド)42として定義される。このような空孔15により、高分子材料モデル10の破壊が再現される。図13は、変形計算後の高分子材料モデル10の一例を示す概念図である。
空孔15の大きさや個数は、相互作用ポテンシャルQ1~Q3の相互作用パラメータεに大きく影響される。本実施形態のシミュレーション方法では、全原子モデルの分子動力学計算によって求められた相互作用エネルギーに基づいて、粗視化ポリマー粒子8と粗視化フィラー粒子11との間の第1相互作用パラメータε1が決定されている。したがって、本実施形態のシミュレーション方法は、フィラーと分子鎖との界面での物理吸着の強さを考慮した高分子材料の破壊特性や粘弾性を評価することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル10の変形の計算結果に基づいて、高分子材料の性能が評価される(工程S22)。本実施形態の工程S22では、第1セル4Aに形成された全ての空孔15の合計体積を計算し、その合計体積が予め定められた閾値よりも小さい場合に、高分子材料モデル10の性能(耐破壊性、及び、耐摩耗性)が優れていると評価している。閾値については、高分子材料に求められる性能に応じて、適宜設定される。なお、高分子材料の性能評価の基準については、このような態様に限定されない。
工程S22において、高分子材料モデル10の性能が良好である評価された場合(工程S22において、「Y」)、高分子材料モデル10(例えば、高分子材料モデル10に設定された諸条件)に基づいて、高分子材料が製造される(工程S23)。
他方、工程S22において、高分子材料モデル10の性能が良好ではないと評価された場合(工程S22において、「N」)、高分子材料の諸条件(例えば、相互作用パラメータε、及び、架橋剤の分子構造等)の変更が行われる(工程S24)。そして、図6及び図9に示した手順に基づいて、高分子材料モデル10の再作成が行われ(工程S25)、工程S21~工程S22が再度実施される。
このように、本実施形態のシミュレーション方法、及び、製造方法では、高分子材料の性能が良好になるまで、高分子材料の諸条件が変更されるため、良好な性能を有する(耐破壊性、及び、耐摩耗性に優れる)高分子材料を、効率よく製造することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図6に示した処理手順に従って、フィラーと分子鎖とを含む高分子材料について、フィラー及び分子鎖の粗視化モデルに定義される相互作用ポテンシャルが決定された(実施例1及び実施例2)。実施例1及び実施例2のフィラーは、シリカ(α-石英)である。実施例1の分子鎖は、ポリイソプレンである一方、実施例2の分子鎖は、ジメチルポリシロキサンである。
実施例1及び実施例2では、図7に示されるように、第1界面を介して隣り合う全原子フィラーモデル及び全原子ポリマーモデルを第2セルの内部に定義して、第1界面での全原子フィラーモデルと全原子ポリマーモデルとの間の第1相互作用エネルギーが求められた。実施例1及び実施例2では、第1界面での単位面積あたりの第1相互作用エネルギーが求められた。
次に、実施例1及び実施例2では、図8に示されるように、第2界面を介して隣り合う全原子ポリマーモデルを第3セルの内部に定義して、第2界面での全原子ポリマーモデル間の第2相互作用エネルギーが求められた。実施例1及び実施例2では、第2界面での単位面積あたりの第2相互作用エネルギーが求められた。
そして、実施例1及び実施例2では、第1相互作用エネルギーと第2相互作用エネルギーとの比(E1/E2)に、第2相互作用パラメータε2(本例では、1.0)が乗じられることで、第1相互作用パラメータε1が決定された。
次に、実施例1及び実施例2では、図9に示す処理手順に従って、粗視化フィラーモデル及び粗視化ポリマーモデルを含む高分子材料モデルが作成された。そして、実施例1及び実施例2では、図11に示す処理手順に従って、高分子材料モデルの変形を計算して、高分子材料の性能が評価された。
また、比較のために、図7に示した基本構造を有し、かつ、実施例1のフィラー及び分子鎖を再現した全原子モデルが設定された(比較例1)。さらに、図7に示した基本構造を有し、かつ、実施例2のフィラー及び分子鎖を再現した全原子モデルが設定された(比較例2)。そして、比較例1及び比較例2について、第1界面と垂直に交わる方向(X軸方向)に伸長させる変形計算(歪:30%)が実施され、高分子材料の性能が評価された。共通仕様等については、次のとおりである。
第2セル(全原子ポリマーモデル及び全原子フィラーモデル):
全原子ポリマーモデル:
1本あたりのモノマー数:20
本数:5本
全原子フィラーモデルのサイズ:
断面:21.6208Å×19.6520Å
厚さ:16.3979Å
第1界面:2つ
第3セル(全原子ポリマーモデル及び全原子ポリマーモデル):
全原子ポリマーモデル:
1本あたりのモノマー数:20
本数:5本
第2界面:2つ
第2セル及び第3セルの緩和計算
温度:1K
体積:一定条件
時間刻み1fs
分子動力学計算の合計時間:100ps
第1セル:
サイズ:55.15432893[σ]×
55.15432893[σ]×
50.21603761[σ]
粗視化ポリマーモデル:
本数:100本
1本あたりのモノマー数:1000個
粗視化ポリマーモデルの密度:0.9(1/σ3)
粗視化ポリマーモデルの架橋密度:0.007245(1/σ3)
相互作用パラメータ:
第3相互作用パラメータε3:1.0
第1セルの変形計算:
第1セルに与えられる歪:30%
実施例1及び実施例2について、第1相互作用エネルギーE1、第2相互作用エネルギーE2、第1相互作用パラメータε1、及び、第2相互作用パラメータε2を表1に示す。
全原子ポリマーモデル:
1本あたりのモノマー数:20
本数:5本
全原子フィラーモデルのサイズ:
断面:21.6208Å×19.6520Å
厚さ:16.3979Å
第1界面:2つ
第3セル(全原子ポリマーモデル及び全原子ポリマーモデル):
全原子ポリマーモデル:
1本あたりのモノマー数:20
本数:5本
第2界面:2つ
第2セル及び第3セルの緩和計算
温度:1K
体積:一定条件
時間刻み1fs
分子動力学計算の合計時間:100ps
第1セル:
サイズ:55.15432893[σ]×
55.15432893[σ]×
50.21603761[σ]
粗視化ポリマーモデル:
本数:100本
1本あたりのモノマー数:1000個
粗視化ポリマーモデルの密度:0.9(1/σ3)
粗視化ポリマーモデルの架橋密度:0.007245(1/σ3)
相互作用パラメータ:
第3相互作用パラメータε3:1.0
第1セルの変形計算:
第1セルに与えられる歪:30%
実施例1及び実施例2について、第1相互作用エネルギーE1、第2相互作用エネルギーE2、第1相互作用パラメータε1、及び、第2相互作用パラメータε2を表1に示す。
図13は、実施例1の変形計算後の高分子材料モデルを示す概念図である。図14は、実施例2の変形計算後の高分子材料モデルを示す概念図である。図15は、比較例1の変形計算後の高分子材料モデルを示す概念図である。図16は、比較例2の変形計算後の高分子材料モデルを示す概念図である。
実施例2(図14に示す)は、実施例1(図13に示す)に比べて、粗視化ポリマーモデル6と粗視化フィラーモデル7との間の空孔(ボイド)42が小さく形成された。同様に、比較例2(図16に示す)は、比較例1(図15に示す)に比べて、全原子フィラーモデル12と全原子ポリマーモデル13との間(第1界面17)の空孔(ボイド)42が小さく形成された。このように、粗視化モデルを用いた実施例1及び実施例2の空孔15の傾向と、全原子モデルを用いた比較例1及び比較例2の空孔15の傾向とを一致させることができた。したがって、実施例1及び実施例2は、精度の高いシミュレーションを行うことが可能な相互作用ポテンシャルを決定することができた。
また、実施例1及び実施例2の計算時間は、比較例1及び比較例2の計算時間の約0.1倍であった。したがって、実施例1及び実施例2は、精度の高いシミュレーションを、短時間で行うことができた。
S1 全原子フィラーモデルを設定する工程
S2 全原子ポリマーモデルを設定する工程
S5 第1界面での第1相互作用エネルギーを求める工程
S10 相互作用パラメータを決定する工程
S2 全原子ポリマーモデルを設定する工程
S5 第1界面での第1相互作用エネルギーを求める工程
S10 相互作用パラメータを決定する工程
Claims (7)
- フィラーと分子鎖とを含む高分子材料について、前記フィラー及び前記分子鎖の粗視化モデルに定義される相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて決定するための方法であって、
前記コンピュータに、前記フィラーを全原子モデルでモデリングした全原子フィラーモデルを設定する工程と、
前記コンピュータに、前記全原子フィラーモデルと第1界面を介して隣り合うように、前記分子鎖を全原子モデルでモデリングした全原子ポリマーモデルを設定する工程と、
前記コンピュータが、分子動力学計算に基づく前記全原子フィラーモデル及び前記全原子ポリマーモデルの構造緩和を計算して、前記第1界面での前記全原子フィラーモデルと前記全原子ポリマーモデルとの間の第1相互作用エネルギーを求める工程と、
前記第1相互作用エネルギーに基づいて、前記フィラーと前記分子鎖との界面での前記相互作用ポテンシャルの強さを示す相互作用パラメータを決定する工程とを含む、
高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法。 - 前記決定する工程は、前記第1界面での単位面積あたりの前記第1相互作用エネルギーに基づいて、前記相互作用パラメータを決定する工程を含む、請求項1記載の高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法。
- 前記コンピュータに、第2界面を介して隣り合う前記全原子ポリマーモデルを設定する工程と、
前記コンピュータが、分子動力学計算に基づく前記全原子ポリマーモデルの構造緩和を計算して、前記第2界面での前記全原子ポリマーモデル間の第2相互作用エネルギーを求める工程とをさらに含み、
前記決定する工程は、前記第1相互作用エネルギーと前記第2相互作用エネルギーとの比に基づいて、前記相互作用パラメータを決定する工程とを含む、請求項1又は2記載の高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法。 - 前記決定する工程は、前記第2界面での単位面積あたりの前記第2相互作用エネルギーに基づいて、前記相互作用パラメータを決定する工程を含む、請求項3記載の高分子材料の相互作用ポテンシャルの決定方法。
- 前記高分子材料の数値解析用の高分子材料モデルを、前記コンピュータを用いて作成するための方法であって、
前記コンピュータに、前記フィラーを、複数の粗視化フィラー粒子を用いてモデリングした粗視化フィラーモデルを設定する工程と、
前記コンピュータに、前記高分子材料の分子鎖を、複数の粗視化ポリマー粒子を用いてモデリングした粗視化ポリマーモデルを設定する工程と、
前記粗視化フィラー粒子と前記粗視化ポリマー粒子との間に、請求項1乃至4のいずれかに記載の相互作用ポテンシャルを定義する工程とを含む、
高分子材料モデルの作成方法。 - 前記コンピュータが、請求項5記載の前記高分子材料モデルの変形を計算する工程と、
前記変形の計算結果に基づいて、前記高分子材料の性能を評価する工程とを含む、
高分子材料のシミュレーション方法。 - 請求項6記載の前記シミュレーション方法において、前記性能が良好であると評価された前記高分子材料モデルに基づいて、前記高分子材料を製造する工程を含む、
高分子材料の製造方法。
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Katsumi Hagita,Molecular dynamics simulation study of a fracture of filler-filled polymer nanocomposites,Polymer,2016年09月02日,Vol.99,pp.368-375 |
青柳 岳司,高分子材料シミュレーション,増補版,(株)化学工業日報社,2017年07月11日,p.17 |
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