以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料モデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある)は、高分子材料をモデル化した高分子材料モデルを、コンピュータを用いて作成するための方法である。
図1は、本発明の作成方法を実行するコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態の作成方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、本実施形態の高分子材料の概略的な部分拡大断面図である。高分子材料2のマトリックス部分(以下、単に「マトリックス部分」ということがある。)4としては、例えば、ゴム、樹脂、又は、エラストマー等が含まれる。本実施形態の高分子材料2は、cis-1,4ポリブタジエン(以下、単に「ポリブタジエン」ということがある。)が例示される。このポリブタジエンを構成する高分子鎖は、メチレン基(−CH2−)とメチン基(−CH−)とからなるモノマー{−[CH2−CH=CH−CH2]−}が、重合度nで連結されて構成されている。なお、高分子材料には、ポリブタジエン以外の高分子材料が用いられてもよい。
図2に示されるように、高分子材料2は、充填剤3を含有している。充填剤3としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、又は、アルミナ等が含まれる。
図3は、本実施形態の作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の作成方法では、先ず、高分子材料2(図2に示す)の電子線透過画像(図示省略)が取得される(工程S1)。本実施形態の工程S1では、例えば、上記特許文献1に記載の走査型透過電子顕微鏡(図示省略)を用いて、高分子材料2が撮像される。これにより、高分子材料2の電子線透過画像が取得される。高分子材料2の撮像手順は、例えば、上記特許文献1に記載の撮像手順に従って行うことができる。
また、本実施形態の工程S1では、上記特許文献1の記載の手順に従って、高分子材料2(図2に示す)で形成された試料(図示省略)を傾斜(回転)させ、走査型透過電子顕微鏡装置の電子線の光軸(図示省略)に対する角度を異ならせた複数の角度状態で撮像される。これにより、工程S1では、回転シリーズ像(複数の電子線透過画像)が得られる。回転シリーズ像は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法は、コンピュータ1が、電子線透過画像(図示省略)から、充填剤3及びマトリックス部分4をともに含む微小領域が特定される(特定工程S2)。図4は、特定工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の特定工程S2では、先ず、電子線透過画像(図示省略)に基づいて、高分子材料2の3次元画像が構築される(工程S21)。図5は、3次元画像16の一例を示す斜視図である。工程S21では、角度ごとに取得された複数の電子線透過画像を、トモグラフィー法を用いて、高分子材料2の3次元画像(以下、単に「3次元画像」ということがある。)16が構築される。このような3次元画像16により、高分子材料2中の充填剤3の分散状態が、3次元で明確に示される。3次元画像16は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の特定工程S2では、3次元画像16に基づいて、充填剤3及びマトリックス部分4が識別された高分子材料の3次元構造(以下、単に「3次元構造」ということがある。)17が構築される(工程S22)。工程S22では、先ず、3次元画像16に断面の位置を指定して、2次元のスライス画像が複数個取得される。次に、各スライス画像を画像処理することにより、少なくとも充填剤3と、マトリックス部分4との2つに区分される。
画像処理では、先ず、予め画像の明度や輝度などの情報に対して閾値が設定される。次に、コンピュータ1が、設定された閾値に基づいて、スライス画像から、充填剤3及びマトリックス部分4を自動的に識別する。そして、識別された複数のスライス画像に基づいて、充填剤3及びマトリックス部分4が識別された3次元構造17が構築される。このような3次元構造17は、充填剤3及びマトリックス部分4の座標値等の情報を有する画像データであり、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の特定工程S2では、3次元構造17に基づいて、充填剤3及びマトリックス部分4をともに含む微小領域8が特定される(工程S23)。微小領域8は、高分子材料2の一部分に対応し、かつ、後述のユニットセル6(図7に示す)と同一の大きさを有する領域である。なお、微小領域8は、3次元構造17の任意の位置において区分することができるが、上記特許文献1に記載のように、3次元構造17での充填剤3の体積分率に基づいて、微小領域8が区分されてもよい。微小領域8は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法は、コンピュータ1が、高分子材料モデルのユニットセルを定義する(ユニットセル定義工程S3)。図6は、高分子材料モデル5の一例を示す概念図である。ユニットセル6は、高分子材料モデル5の周期パターンを構成するものである。即ち、高分子材料モデル5は、ユニットセル(基本セル)6と、ユニットセル6が周期配列されたイメージセル7とによって定義される。高分子材料モデル5を用いたシミュレーションにおいて、実際に計算対象となるのは、ユニットセル6のみである。これにより、計算時間を短縮しうる。
図7は、ユニットセル6の一例を示す斜視図である。図8は、図7の正面図である。本実施形態のユニットセル6は、充填剤3をモデル化した充填剤モデル13を含んで構成されている。充填剤モデル13は、微小領域8(図5に示す)に基づいた仮想空間であるセル11に配置される。図9は、本実施形態のユニットセル定義工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のユニットセル定義工程S3では、先ず、図7に示されるように、コンピュータ1に、セル11が定義される(工程S31)。セル11は、微小領域8(図5に示す)に基づいて定義される。本実施形態のセル11は、微小領域8と同一の大きさに設定される。このようなセル11は、高分子材料2(図5に示す)の少なくとも一部の領域を定義することができる。
セル11は、互いに向き合う三対の平面11a、11bを有する直方体として定義されている。各平面11a、11bは、セル11、11間(即ち、図6に示したユニットセル6とイメージセル7との間)の境界部15であり、周期境界条件が定義されている。このようなセル11は、図7に示されるように、例えば、一方の平面11aから出て行った充填剤モデル13の一部、又は、後述のマトリックスモデル14(図14に示す)の一部が、反対側の平面11bから入ってくるように計算することができる。従って、一方の平面11aと、反対側の平面11bとが連続している(繋がっている)ものとして取り扱うことができる。
図7に示されるように、セル11の一辺の長さL1については、適宜設定することができる。本実施形態の長さL1は、後述のマトリックスモデル14(図14に示す)の慣性半径(図示省略)の3倍以上に設定されるのが望ましい。慣性半径は、マトリックスモデル14の拡がりを示す量である。このようなセル11では、分子動力学計算において、周期境界条件による自己のイメージとの衝突が起こりにくいため、マトリックスモデル14の空間的拡がりを適切に計算することができる。さらに、セル11の大きさは、例えば1気圧で安定な体積に設定される。
次に、本実施形態のユニットセル定義工程S3は、コンピュータ1に、充填剤モデル13が定義される(工程S32)。本実施形態の充填剤モデル13は、少なくとも一つのフィラーモデル21によって構成されている。
本実施形態の工程S32では、先ず、図7に示されるように、コンピュータ1において、セル11に、図5に示した微小領域8の画像データ(3次元構造17)が重ね合わされる。次に、セル11に表された充填剤3(図5に示す)の領域内に、フィラーモデル21が配置される。これにより、工程S32では、実際の高分子材料2の充填剤3の形状に基づいて、充填剤モデル13を定義することができる。
本実施形態の工程S32では、セル11に表された充填剤3(図5に示す)が、セル11の境界部15(各平面11a、11b)を跨る場合、図7及び図8に示されるように、セル11の内部に表された充填剤3の領域だけでなく、セル11の外側に表された充填剤3の領域も一体として、充填剤モデル13が定義される。これにより、充填剤モデル13は、境界部15で切断されることなく、充填剤3(図5に示す)の全体がモデル化されるため、充填剤3の形状を精度よく定義することができる。
図10は、フィラーモデル21の一例を示す概念図である。図11は、フィラー粒子モデル22及び結合鎖モデル23を示す概念図である。フィラーモデル21は、複数のフィラー粒子モデル22と、隣接するフィラー粒子モデル22間を結合する結合鎖モデル23とを含んで構成されている。
図11に示されるように、フィラー粒子モデル22は、例えば、面心立方格子、体心立方格子又は単純格子等の結晶格子状に配置される。これにより、フィラーモデル21は、フィラー粒子モデル22の動きを強固に拘束することができる。フィラー粒子モデル22は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、フィラー粒子モデル22には、質量、直径、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。
結合鎖モデル23は、ボンド関数に基づいて定義される。即ち、結合鎖モデル23は、例えば、上記特許文献1と同様に、LJポテンシャルULJ(rij)と、結合ポテンシャルUFENEとの和で示されるポテンシャルP1で定義される。LJポテンシャルULJ(rij)及び結合ポテンシャルUFENEの各定数及び各変数の値については、上記特許文献1に基づいて設定されうる。このような結合鎖モデル23により、フィラーモデル21の剛性を、充填剤3(図2に示す)に近似させることができる。これにより、図7及び図8に示されるように、充填剤モデル13を含むユニットセル6が定義される。ユニットセル6は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法は、コンピュータ1が、図6に示されるように、ユニットセル6(図7に示す)を周期配列する(工程S33)。図12は、ユニットセル6が周期配列された状態の一部を示す正面図である。
図7及び図8に示されるように、本実施形態のユニットセル6は、セル11の境界部15を跨る充填剤モデル13を含んでいる。このようなユニットセル6が周期配列されると、図12に示されるように、セル11、11間の境界部15に、2つの充填剤モデル13が重なって定義される場合がある。このような重なり部27を有する充填剤モデル13の形状は、実際の充填剤3(図5に示す)の形状とは異なる。このため、充填剤モデル13の形状を精度よく定義することが難しい。さらに、重なり部27では、重なって配置されるフィラー粒子モデル22、22間にLJポテンシャルULJ(rij)を定義すると、大きな斥力ポテンシャルが作用するため、高分子材料モデル5(図6に示す)を用いたシミュレーションにおいて、計算が不安定になりやすい。
図12に示した2つの充填剤モデル13、13の重なり(重なり部27)を防ぐために、本実施形態の作成方法は、ユニットセル6が周期配列される際に、セル11、11間の境界部15に、2つの充填剤モデル13、13が重なって配置される場合に、2つの充填剤モデル13、13の一方を削除している(第1削除工程S34)。本実施形態の第1削除工程S34では、2つの充填剤モデル13、13のうち小さい充填剤モデル13を削除している。図13は、第1削除工程S34の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1削除工程S34は、先ず、図7に示されるように、コンピュータ1が、セル11の境界部15を跨る全ての充填剤モデル13から、一つの充填剤モデル13を選択する(工程S41)。工程S41では、充填剤モデル13をランダムに選択している。
次に、本実施形態の第1削除工程S34は、図12に示されるように、コンピュータ1が、ユニットセル6が周期配列される際に、セル11、11間の境界部15に、2つの充填剤モデル13が重なって配置されるか否かについて判断する(工程S42)。工程S42では、工程S41で選択された充填剤モデル13について、他の充填剤モデル13と境界部15で重なって配置されているか否かが判断される。2つの充填剤モデル13の重なりは、充填剤モデル13を構成するフィラー粒子モデル22(図10に示す)の座標値等に基づいて判断される。
工程S42において、2つの充填剤モデル13が重なって配置されると判断された場合(工程S42で、「Y」)、2つの充填剤モデル13のうち小さい充填剤モデル13が削除される(工程S43)。本実施形態において、2つの充填剤モデル13についての大小の比較は、各充填剤モデル13の体積に基づいて判断される。図14は、第1削除工程S34で充填剤モデル13が削除されたユニットセル6の一例を示す正面図である。この例では、図8に示したユニットセル6において、図において右側に配置されていた充填剤モデル13が削除されている。他方、2つの充填剤モデル13が重なって配置されていないと判断された場合(工程S42で、「N」)、次の工程S44が実施される。
このように、本実施形態の作成方法は、図14に示されるように、境界部15で重なる2つの充填剤モデル13、13(図8に示す)のうち、いずれか一方の充填剤モデル13が削除される。これにより、図12に示した充填剤モデル13、13の重なり(重なり部27)を防ぐことができるため、充填剤モデル13の形状を精度よく定義しうる。しかも、本実施形態の作成方法は、境界部15で重なる2つの充填剤モデル13、13のうち、大きい充填剤モデル13が採用されている(即ち、小さい充填剤モデル13が削除される)。これにより、ユニットセル6に対する充填剤モデル13の体積分率を、実際の高分子材料2の全体に対する充填剤3の体積分率に近似させることができるため、高分子材料モデル5を精度よく定義することができる。
次に、本実施形態の第1削除工程S34は、コンピュータ1が、セル11の境界部15を跨る全ての充填剤モデル13(図7に示す)が選択されたか否かを判断する(工程S44)。工程S44において、境界部15を跨る全ての充填剤モデル13が選択されたと判断された場合(工程S44で、「Y」)、次の工程S35が実施される。他方、境界部15を跨る全ての充填剤モデル13が選択されていないと判断された場合(工程S44で、「N」)、境界部15を跨る充填剤モデル13のうち、未だ選択されていない充填剤モデル13を選択して(工程S45)、工程S42〜44が実施される。これにより、本実施形態の第1削除工程S34は、境界部15で重なる充填剤モデル13、13を確実に防ぐことができるため、高分子材料モデル5を精度よく定義することができる。
次に、本実施形態のユニットセル定義工程S3は、コンピュータ1に、マトリックスモデル14が定義される(工程S35)。マトリックスモデル14は、図2に示した高分子材料2の分子鎖をモデル化したものである。
本実施形態の工程S35では、図14に示されるように、前記ユニットセル6内の領域のうち、充填剤モデル13が配置されていない領域に、少なくとも一つ(例えば、10個〜1,000,000個)のマトリックスモデル14が配置される。これにより、工程S35では、充填剤モデル13との重なりを回避しながら、マトリックスモデル14を定義することができる。
図15は、マトリックスモデル14の一例を示す概念図である。本実施形態のマトリックスモデル14は、粗視化モデルとして定義されている。なお、マトリックスモデル14は、原子モデルとして定義されてもよい。本実施形態のマトリックスモデル14は、粗視化モデルとして定義される場合、複数の粗視化粒子モデル24と、隣接する粗視化粒子モデル24、24間を結合する結合鎖モデル25とを含んで構成されている。
粗視化粒子モデル24は、高分子材料2(図2に示す)のモノマー又はモノマーの一部分をなす構造単位を置換したものである。高分子材料2の高分子鎖がポリブタジエンである場合には、上記特許文献1と同様に、例えば1.55個分のモノマーが、1個の粗視化粒子モデル24に置換される。これにより、マトリックスモデル14には、複数個(例えば、10〜5000個)の粗視化粒子モデル24が設定される。
粗視化粒子モデル24は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、粗視化粒子モデル24には、例えば、質量、直径又は電荷などのパラメータが定義される。
図16は、フィラーモデル21及びマトリックスモデル14を拡大して示す概念図である。結合鎖モデル25は、粗視化粒子モデル24、24間が、伸びきり長が設定されたポテンシャルP2によって定義される。本実施形態のポテンシャルP2は、上記特許文献1と同様に、LJポテンシャルULJ(rij)と、結合ポテンシャルUFENEとの和で設定される。LJポテンシャルULJ(rij)及び結合ポテンシャルUFENEの各定数及び各変数の値については、上記特許文献1に基づいて設定されうる。これにより、粗視化粒子モデル24が伸縮自在に拘束された直鎖状のマトリックスモデル14を定義することができる。
次に、本実施形態のユニットセル定義工程S3では、充填剤モデル13及びマトリックスモデル14に、ポテンシャルが定義される(工程S36)。工程S36では、隣接するマトリックスモデル14、14の粗視化粒子モデル24、24間に、ポテンシャルP3が定義される。ポテンシャルP3は、上記特許文献1の手順に従い、LJポテンシャルULJ(rij)を用いて定義することができる。さらに、工程S36では、隣接するフィラーモデル21のフィラー粒子モデル22、22間、及び、粗視化粒子モデル24とフィラー粒子モデル22との間に、ポテンシャルP4が定義される。ポテンシャルP4は、上記特許文献1の手順に従い、LJポテンシャルULJ(rij)を用いて定義することができる。本実施形態では、ポテンシャルP3のカットオフ距離rc(上記特許文献1参照)として21/2σよりも大きな値を設定することにより、粒子間の距離rij(上記特許文献1参照)が21/2σよりも大かつカットオフ距離rc未満の粗視化粒子モデル24、24間に引力を定義することができる。
このように、ユニットセル定義工程S3では、セル11、充填剤モデル13、マトリックスモデル14及びポテンシャルが定義されることにより、高分子材料モデル5の周期パターンを構成するユニットセル6が定義される。ユニットセル6は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の作成方法は、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、図14に示したユニットセル6の構造緩和を計算する(工程S4)。本実施形態の分子動力学計算では、例えば、セル11について所定の時間、充填剤モデル13及びマトリックスモデル14が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での充填剤モデル13及びマトリックスモデル14の動きが、単位時間ごとに追跡される。
本実施形態の構造緩和の計算は、セル11において、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S4では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、充填剤モデル13及びマトリックスモデル14の初期配置を精度よく緩和することができる。このような構造緩和の計算は、例えば(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J−OCTA)に含まれるCOGNAC、又は、VSOPを用いて処理することができる。
本実施形態の工程S4では、ユニットセル6の構造緩和が計算される。このユニットセル6の構造緩和の計算により、ユニットセル6内のフィラー粒子モデル22及び粗視化粒子モデル24の座標の変化が、イメージセル7にも反映される。従って、工程S4では、イメージセル7の構造緩和も、実質的に計算されうる。
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1が、充填剤モデル13及びマトリックスモデル14の初期配置を精度よく緩和できたか否かを判断する(工程S5)。工程S5では、充填剤モデル13及びマトリックスモデル14の初期配置を十分に緩和できたと判断された場合(工程S5で、「Y」)、本実施形態の作成方法の一連の処理が終了する。
工程S5において、充填剤モデル13及びマトリックスモデル14の初期配置を十分に緩和できていないと判断された場合(工程S5で、「N」)は、単位時間を一つ進めて(工程S6)、工程S4及び工程S5が再度実施される。これにより、本実施形態では、充填剤モデル13及びマトリックスモデル14の平衡状態(構造が緩和した状態)を、確実に計算することができる。
本実施形態の作成方法で作成された高分子材料モデル5は、例えば、一般的に行われている単軸引張り試験に基づいて、一方向に(例えば、y軸方向に0%〜20%)伸長させる変形シミュレーション等に用いることができる。従って、本実施形態の作成方法は、高分子材料の開発に役立つ。しかも、本実施形態の作成方法は、高分子材料モデル5を精度よく定義できるため、シミュレーション精度を大幅に向上させることができる。
図17は、本発明の他の実施形態のユニットセル6を示す正面図である。図18は、図17に示したユニットセル6が周期配列された状態を示す正面図である。図18に示されるように、この実施形態のユニットセル6が周期配列されると、境界部15を跨る充填剤モデル(以下、単に「第1充填剤モデル」ということがある。)13aと、境界部15を跨らない充填剤モデル(以下、単に「第2充填剤モデル」ということがある。)13bとが重なって配置される場合がある。このような重なり部27を有する充填剤モデル13の形状は、実際の充填剤3の形状とは異なるため、充填剤モデル13の形状を精度よく定義することが難しい。さらに、重なり部27では、充填剤モデル13の結合鎖モデル23が重なって配置されるため、高分子材料モデル5を用いたシミュレーションにおいて、計算が不安定になりやすい。図19は、本発明の他の実施形態のユニットセル定義工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図18に示した充填剤モデル13a、13bの重なりを防ぐために、この実施形態の作成方法では、ユニットセル6が周期配列される際に、第1充填剤モデル13aと、第2充填剤モデル13bとが重なって配置される場合に、第1充填剤モデル13aを削除している(第2削除工程S37)。図20は、第2削除工程S37の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この実施形態の第2削除工程S37では、先ず、図17に示されるように、コンピュータ1が、全ての第1充填剤モデル13aから、一つの第1充填剤モデル13aを選択する(工程S51)。工程S51では、第1充填剤モデル13aをランダムに選択している。
次に、この実施形態の第2削除工程S37は、図18に示されるように、コンピュータ1が、ユニットセル6が周期配列される際に、第1充填剤モデル13a及び第2充填剤モデル13bが重なって配置されるか否かについて判断する(工程S52)。工程S52では、選択された第1充填剤モデル13aについて、第2充填剤モデル13bと重なって配置されているか否かが判断される。2つの充填剤モデル13a、13bの重なりは、充填剤モデル13a、13bを構成するフィラー粒子モデル22の座標値等に基づいて判断される。
工程S52において、第1充填剤モデル13a及び第2充填剤モデル13bが重なって配置されると判断された場合(工程S52で、「Y」)、第1充填剤モデル13aが削除される(工程S53)。図21は、第2削除工程S37で第1充填剤モデル13aが削除されたユニットセル6の一例を示す正面図である。この例では、図17に示したユニットセル6において、図において右側に配置されていた第1充填剤モデル13aが削除されている。他方、第1充填剤モデル13a及び第2充填剤モデル13bが重なって配置されていない場合(工程S52で、「N」)、次の工程S54が実施される。
このように、第2削除工程S37では、図21に示されるように、第1充填剤モデル13a及び第2充填剤モデル13bの重なり(図18に示す)を防ぐことができるため、充填剤モデル13(第2充填剤モデル13b)の形状を精度よく定義することができる。さらに、第1充填剤モデル13a及び第2充填剤モデル13bのうち、境界部15を跨らない(即ち、セル11内に配置される)第2充填剤モデル13bが優先的に採用されるため、ユニットセル6に対する充填剤モデル13の体積分率を、実際の高分子材料2の全体に対する充填剤3の体積分率に近似させることができる。
次に、本実施形態の第2削除工程S37は、コンピュータ1が、全ての第1充填剤モデル13a(図17に示す)が選択されたか否かを判断する(工程S54)。工程S54において、全ての第1充填剤モデル13aが選択されたと判断された場合(工程S54で、「Y」)、次の第1削除工程S34(図19に示す)が実施される。他方、全ての第1充填剤モデル13aが選択されていないと判断された場合(工程S54で、「N」)、未だ選択されていない第1充填剤モデル13aを選択して(工程S55)、工程S52〜S54が実施される。これにより、本実施形態の第2削除工程S37は、第1充填剤モデル13aと第2充填剤モデル13bとの重なりを確実に防ぐことができるため、高分子材料モデル5を精度よく定義することができる。
図19に示されるように、この実施形態の第2削除工程S37は、第1削除工程S34に先立って実施されている。これにより、例えば、境界部15で重なる第1充填剤モデル13a、13aのうち、大きい第1充填剤モデル13aが第2充填剤モデル13bに重なり、かつ、小さい第1充填剤モデル13aが第2充填剤モデル13bに重ならない場合、大きい第1充填剤モデル13aのみが削除され、小さい第1充填剤モデル13a及び第2充填剤モデル13bが採用される。他方、第1削除工程S34の後に第2削除工程S37が実施された場合、大きい第1充填剤モデル13a、及び、小さい第1充填剤モデル13aの双方が削除されてしまう。このように、この実施形態では、第1削除工程S34では、第2充填剤モデル13bに重ならない第1充填剤モデル13aのみを対象とすることができるため、例えば、第1削除工程S34の後に第2削除工程S37が実施される場合に比べて、第1充填剤モデル13aの削除数を最小限に抑えることができる。従って、この実施形態では、ユニットセル6に対する充填剤モデル13の体積分率を、実際の高分子材料2の全体に対する充填剤3の体積分率に近似させることができる。
これまでの実施形態では、第1削除工程S34又は第2削除工程S37の後に、マトリックスモデル14が定義されたが(工程S35)、このような態様に限定されない。例えば、マトリックスモデル14は、第1削除工程S34及び第2削除工程S37の前に実施されてもよい。なお、セル11内の充填剤モデル13が配置されていない領域に、マトリックスモデル14を万遍なく配置するためには、本実施形態のように、第1削除工程S34又は第2削除工程S37の後に、マトリックスモデル14が定義されるのが望ましい。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。なお、本実施形態では、高分子材料モデル5及びユニットセル6等が、3次元モデルとして定義されたが、2次元モデルとして定義されてもよい。
下記の配合を含む高分子材料が製造され、下記のミクロトームを用いて、厚さ500nmの試料が作成された(実験例)。
走査型透過電子顕微鏡で撮像された電子線透過画像に基づく高分子材料の3次元構造を構築し、この3次元構造に基づいて高分子材料モデルが作成された(実施例及び比較例)。
実施例及び比較例では、図4に示した処理手順に従って、電子線透過画像から、充填剤及び高分子材料のマトリックス部分をともに含む微小領域が特定された。図9に示した処理手順に従って、微小領域に基づいて、充填剤モデルを含む高分子材料モデルの周期パターンを構成するユニットセルが定義された。
実施例では、図13に示した処理手順に従って、ユニットセルが周期配列される際に、セル間の境界部に、2つの充填剤モデルが重なって配置されると判断した場合に、2つの充填剤モデルのうち小さい充填剤モデルが削除された。さらに、実施例では、図20に示した処理手順に従って、境界部を跨る充填剤モデル(第1充填剤モデル)と、境界部を跨らない充填剤モデル(第2充填剤モデル)とが重なって配置されると判断した場合に、境界部を跨る充填剤モデル(第1充填剤モデル)が削除された。そして、充填材モデルが配置されていない領域に、マトリックス部分をモデル化したマトリックスモデルが配置された。
比較例では、ユニットセルが周期配列される際に、セル間の境界部に、2つの充填剤モデルが重なって配置された場合、2つの充填剤モデルが削除された。
そして、実施例及び比較例のユニットセルに対する充填剤モデルの体積分率が計算された。実験例の充填剤の体積分率、並びに、実施例の充填剤モデルの体積分率を表1に示す。
高分子材料の配合:
スチレンブタジエンゴム(SBR):100質量部
シリカ:50質量部
硫黄:1.5質量部
加硫促進剤CZ:1質量部
加硫促進剤DPG:1質量部
各配合の詳細:
スチレンブタジエンゴム(SBR):旭化成ケミカルズ(株)製のE15
シリカ:デグサ(株)製のUltrasil VN3
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
走査型透過電子顕微鏡:JEM2100F(加速電圧200kV)
ミクロトーム:LEICA社製のウルトラミクロトームEM VC6
セル(立方体):
一辺の長さL1:350nm
テストの結果、実施例の高分子材料モデルは、比較例の高分子材料モデルに比べて、ユニットセルに対する充填剤モデルの体積分率を、実際の充填剤の体積分率に近似させつつ、充填剤モデルの形状を精度よく定義することができた。さらに、実施例は、第2充填剤モデルに重なる第1充填剤モデルが削除されるため、比較例に比べて、充填剤モデルの形状を精度よく定義することができた。