JP6271275B2 - リチウム一次電池用非水系有機電解液、およびリチウム一次電池 - Google Patents

リチウム一次電池用非水系有機電解液、およびリチウム一次電池 Download PDF

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Description

本発明はリチウム一次電池用の非水系有機電解液、およびリチウム一次電池に関する。具体的には二酸化マンガンを正極活物質とし、リチウム金属またはリチウム合金を負極活物質としたリチウム一次電池を構成する非水系有機電解液の改良技術に関する。
リチウム一次電池は、リチウム金属やリチウム合金を負極活物質とし、二酸化マンガンや酸化銅などを正極活物質としている。リチウム一次電池は、電池缶内に正極活物質を含む正極材料と負極活物質を含む負極材料とをセパレータを介して配置しつつ、非水系の有機電解液を充填して密閉した構造を有している。
リチウム一次電池において、とくに二酸化マンガンを正極活物質としたものは、高エネルギー密度を有するとともに、長期間に亘る放電が可能で、放電末期まで電圧降下が少なという特性を有している。そのため、定置型のガスメーターや水道メーターの電源など、長期に亘って機器に電力を供給し続ける用途に広く用いられている。また、未使用の状態で長期間保存できるという特性も有している。なお、リチウム一次電池には電池缶の形状や、電池缶内部における正極材料と負極材料の配置関係などが異なる幾つかの種類があり、以下の非特許文献1には各種リチウム一次電池についての構造などが記載されている。
FDK株式会社、"リチウム電池"、[online]、[平成25年9月7日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/battery/lithium/index.html>
リチウム一次電池には、高温環境下で保存すると電解液の分解に伴ってガスが発生するという問題がある。発生したガスは電池内の圧力を上昇させ、場合によっては漏液に至る。また、二酸化マンガンを正極活物質としたリチウム一次電池では、放電深度が深い状態で保存すると内部抵抗が上昇するという問題もある。具体的に説明すると、リチウム一次電池を使用して長期間に亘って動作する機器(ガスメータや水道メーターなど)では、長期間の使用によってそのリチウム一次電池の容量が徐々に無くなるものの、放電末期まで電圧降下が少ないという特性から、機器は自身に内蔵されているリチウム一次電池の容量が無くなるまでほとんど問題なく動作する。すなわち、電池容量を使い切った「電池切れ」の時点で突然機器が動作しなくなることになる。そのため、リチウム一次電池を電源として長期間に亘って動作する機器では、電池切れになる前に余裕を持って電池を交換することが必要となる。一般的には、機器が電池切れで停止する前に定期的に電池を交換することになる。
しかしながら、何らかの理由(転居、長期の不在など)により、電池の交換時期より前に機器を停止させ、その停止状態で機器を長期間放置する場合もあり得る。このような場合、長期間休止した後にその機器を再起動させることができない、という不都合が生じることがある。リチウム一次電池は、未使用の状態での長期保存性については優れているが 、一度放電させた後で長期間に亘って保存しておくと内部抵抗が上昇するという問題があり、そのため放電末期に近い時点(放電深度が深い)時点で機器を休止させた場合では機器を再起動させるための起電力を発生させることができず、機器が動作しなくなる。
そこで本発明は、高温環境下での保存に優れ、かつ放電末期の状態でも長期に亘って保存が可能なリチウム一次電池を提供することを主な目的としている。
上記目的を達成するための本発明は、二酸化マンガンを正極活物質とし、リチウム金属またはリチウム合金を負極活物質としたリチウム一次電池用の非水系有機電解液であって、有機溶媒および支持塩からなる基本電解液に添加剤としてヒドロキシフタルイミドまたはヒドロキシフタルイミド誘導体が添加されており、当該添加剤の添加量は、前記基本電解液に対して0.1wt%以上、5.0wt%以下であることを特徴とするリチウム一次電池用非水系有機電解液である。より好ましくは、前記添加剤の添加量を前記基本電解液に対して0.1wt%以上、1.0wt%以下とすることである。
また本発明は、二酸化マンガンを正極活物質とし、リチウム金属またはリチウム合金を負極活物質としたリチウム一次電池にも及んでおり、当該リチウム一次電池は、上記非水系有機電解液を備えたことを特徴としている。
本発明によれば、高温環境下での保存に優れ、かつ放電末期の状態でも長期に亘って保存しても内部抵抗が上昇することがないリチウム一次電池を提供することができる。
スパイラル型リチウム一次電池の構造を示す図である。 ヒドロキシフタルイミドの添加量が異なる各種有機電解液を用いたスパイラル型リチウム一次電池に対し、設計容量の90%放電させた状態で40℃の環境下に置いたときの内部抵抗特性を示す図である。 ヒドロキシフタルイミドの添加量が異なる各種有機電解液を用いたスパイラル型リチウム一次電池に対し、設計容量の90%を放電させた状態で40℃の環境下に置いたときの電池電圧特性を示す図である。 ラミネート型リチウム一次電池の構造を示す図である。 ヒドロキシフタルイミドの添加量が異なる各種有機電解液を用いたラミネート型リチウム一次電池を80℃の温度環境下に置いたときの電池の厚さ変化を示す図である。 ヒドロキシフタルイミドとヒドロキシフタルイミド誘導体の構造を説明するための図である。 ヒドロキシフタルイミド誘導体であるN−メチルフタルイミドの添加量が異なる各種有機電解液を用いたスパイラル型リチウム一次電池に対し、設計容量の100%を放電させた状態で80℃の環境下に置いたときの内部抵抗特性を示す図である。
===本発明に想到する過程===
上述したように、リチウム一次電池には、高温環境下では電解液の分解に起因してガスが発生するという問題と、一度使用した後に長期間保存すると内部抵抗が上昇するという問題がある。そしてこれら二つの問題のうち、前者については電解液に含まれる有機溶媒の揮発や熱分解などが原因とされている。しかし後者の問題についてはその原因が判明されていなかった。そこで、本発明者は当該問題の原因について考察したところ、以下のメカニズムによって説明できると考えた。
まず、二酸化マンガンを正極活物質としたリチウム一次電池は、機器に組み込まれて使用されると、正極活物質の組成中に含まれるマンガン(Mn)のイオンが溶出する。リチウム一次電池の使用を途中で休止して長期間放置すると、溶出したMnイオンが負極表面で徐々に還元されて金属としてのMnが析出する。析出した金属Mnは負極上を覆う被膜となって負極の界面抵抗を上昇させ、結果として電池の内部抵抗を増大させる。
つぎに本発明者は、上記のメカニズムを仮定した場合、正極活物質と負極活物質にイオン導電性のある被膜を形成し、リチウムイオン(Liイオン)を選択的に通す被膜を形成すれば、正極からのMnイオン溶出と、負極におけるMnの析出を防止することができると考えた。そして、正極と負極の双方活物質に接する非水系有機電解液(以下、電解液)を改質して電解液に上述した被膜を形成するための性質を付与すれば、その被膜が双方の電極の活物質に速やかに形成されると考えた。
もちろん、電解液を改質することで電解液としての基本的なイオン伝導性が大きく劣化してしまっては本末転倒である。改質された電解液をコストアップを伴わずに安定して製造できるようにすることも重要な条件となる。そして、以上の条件などを勘案すれば、一般的、あるいは代表的な従来のリチウム一次電池用の電界液に、その被膜の起源となる物質(添加剤)を添加することで電解液を改質するのが現実的である。
しかしながら、本発明者による研究開発過程で知見した従来技術には、リチウム一次電池の電解液用として、電気伝導性のある被膜の形成が可能な添加剤についての前例が全く無かった。そこで、上記考察や研究開発の過程で得たさまざまな実験結果などを検証しながら鋭意研究を重ねた結果、非水有機電解液に従来のリチウム一次電池では全く使用されていなかったヒドロキシフタルイミド(以下、HPI)やその誘導体(以下、HPI誘導体)を添加剤として用いるとともに、その添加量を最適化することで、リチウム一次電池における高温環境下および放電末期での長期保存性を向上させることができるということを知見した。
===添加剤===
本発明者は、リチウム一次電池に特有の上記二つの問題を一挙に解決することを目的とした研究開発の過程で、上記添加剤としてHPIとその誘導体が有用であることを知見した。このHPIやHPI誘導体自体は周知の化合物であり、電池への適用例としては、例えば、特許第3416016号公報や特許第4259043号公報などに記載されている。しかし、これら二つの特許文献に記載されている発明は、充放電が可能なリチウム二次電池に関するものであり、ともに二次電池にのみ特有のサイクル特性を向上させるために、添加剤としてHPIを電解質や正極材料に添加している。そして、リチウム二次電池では、正極にリチウム(Li)を組成として含む金属酸化物が用いられ、負極には一般的に炭素材料が用いられている。
一方、本発明が対象とするリチウム一次電池は、正極活物質として組成にLiを含まない二酸化マンガンを含む正極を備えるとともに、負極活物質であるリチウム金属やリチウム合金(便宜上、総称して「負極リチウム」とも称する)そのものを負極としている。そして、リチウム一次電池における負極リチウムは同じ電池内の正極、あるいはリチウム二次電池における正負両極間の大きさの差と比べると表面積が相対的に小さい。そのため放電や保存時のわずかな副生成物との反応に大きく影響する。すなわち、リチウム一次電池では、負極での反応が負極自身の抵抗上昇、引いては電池の内部抵抗の上昇として顕在化し易いという特性を有している。この特性に鑑みれば、リチウム一次電池においては、放電末期の状態で保存したときの内部抵抗の上昇や高温環境下でのガス発生を抑制することは、負極リチウムの劣化を抑えることを意味する。
すなわち、リチウム一次電池においてHPIやその誘導体を電解液に添加することによる効果は、リチウム二次電池においてHPIを電解液や正極に添加した場合における効果とは異なるメカニズムで起こっている。言い換えれば、リチウム二次電池に適用されている技術の延長線上ではリチウム一次電池に特有の問題に対するHPIやその誘導体による有効性を知見することは困難であった。とくに放電末期での保存性能が劣化する上記メカニズムを仮定しない限りリチウム一次電池におけるHPIの有効性を見出すことは極めて困難であった。
事実、上記の特許文献に記載の発明では、HPIを電解質に含ませても正極材料に含ませても同様にサイクル特性が向上しており、リチウム二次電池においてはHPIが同様のメカニズムでサイクル特性に作用していると考えられる。しかし、Liを組成として含まないリチウム一次電池の正極材料にHPIを添加した場合に電圧が低下することは当業者であれば容易に予想でき、リチウム一次電池に特有の問題を解決するために、リチウム二次電池のサイクル特性を向上させるためのHPIやその誘導体をリチウム一次電池に適用すること自体が想定外であったと言える。
===サンプル===
本発明の実施例として、HPIが適量添加された電解液を用いたリチウム一次電池を挙げる。そして本実施例に係るリチウム一次電池の特性を評価するために、HPIの添加量が異なる複数種類のリチウム一次電池をサンプルとして作製し、これらサンプルに対して放電末期での保存試験(以下、大深度放電後保存試験)と高温環境下での保存試験(以下、高温保存試験)の二つの試験を行った。なお、サンプルとして作製したリチウム一次電池は、二つの試験のそれぞれについての結果が容易に判定できるように、二つの試験ごとに構造が異なっている。
===大深度放電後保存試験===
<サンプルの構造>
まず、本実施例に係るリチウム一次電池の放電末期での長期保存性能を評価するために、サンプルとしてスパイラル型のリチウム一次電池を作製した。図1にそのリチウム一次電池1の概略構造を示した。大深度放電後保存試験用に作製したリチウム一次電池1は、外径17mm、高さ45mmの円筒状であり、図1では円筒軸50の延長方向を上下(縦)方向としたときのリチウム一次電池1の縦断面図を示している。リチウム一次電池1は、負極缶となる有底円筒状の金属製電池缶2内に、正極3、負極4、セパレータ5、および電解液20が発電要素として収納されているとともに、電池缶2の開口が封口板6、正極端子7、金属製ワッシャ8、封口ガスケット9を含んで構成される封口体10によって封止された基本構造を有する。
具体的には、発電要素を構成する正極3は、スラリー状の正極材料をステンレス製ラス板に塗布したものを所定の大きさに切断した後に乾燥させたものである。ここでは正極材料として、正極活物質となる電解二酸化マンガン(EMD)と導電材となる黒鉛をバインダー(フッ素系バインダーなど)とともに所定の割合(例えば、EMD:黒鉛:バインダー=93wt%:3wt%:4wt%)で混合したものを用いることができる。そして、この正極材料を純水によりスラリー状にしてステンレス製ラス板に塗布している。
負極4は板状の負極リチウムであり、ここではリチウム金属を使用している。そして、この負極4と正極3がポリオレフィン製微多孔膜からなるセパレータ5を介して対向配置された上で巻回された状態で電池缶2内に挿入されている。
封口体10を構成する封口板6は中央に開口を有する円盤状で、電池缶2の開口端側を上方とすると、その円盤の縁が上方に向かって屈曲している。封口板6の中央開口には金属製の正極端子7と金属製ワッシャ8とが樹脂製の封口ガスケット9を介してかしめられている。そして封口板6の縁端と電池缶2の上部縁端とが(図中、符号30の位置で)レーザー溶接されている。それによって電池缶2の開口が封口され、電池缶2内が密封されている。また、正極3(のラス板)と正極端子7の下面、および負極4と電池缶の2内面が、それぞれリードタブ(11、12)を介して接続されている。そして密封された電池缶2内には、サンプルに応じてHPIの添加量が異なる電解液20が充填されている。
なお電解液20は、溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、および1,2−ジメトキシエタン(DME)が、体積比でそれぞれ20vol%、20vol%、および60vol%の割合となる周知の3成分系の非水溶液を用い、この溶媒中に支持塩としてリチウムトリフレート(LiCF3SO3)を0.8mol/lの濃度となるように溶解させたものを基本としている。この基本となる電解液(基本電解液)は一般的なリチウム一次電池用電解液として利用されている。そして、この基本電解液に対してHPIがサンプルに応じた量だけ添加されている。
以下の表1に各サンプルの電解液におけるHPIの添加量を示した。
Figure 0006271275
表1に示したように、サンプルa1の電解液にはHPIが添加されておらず、サンプルa1は従来のスパイラル型リチウム一次電池1に対応している。そして、サンプルa2〜a6の電解液には、HPIがそれぞれ0.1wt%、0.6wt%、0.8wt%、1.0wt%、5.0wt%の割合で添加されている。
<試験方法>
表1に示した各サンプルa1〜a6について、作製後に200Ωの負荷を掛けて設計容量に対して90%放電させた。すなわち放電深度を90%とし、残存容量が設計容量の10%となるようにして放電末期の状態を再現した。そして、その放電後のサンプルa1〜a6を40℃の環境下で保存し、保存期間中の内部抵抗および電池電圧の推移を観察することで本実施例に係るリチウム一次電池の放電末期での保存特性を評価した。ここでは、内部抵抗および電池電圧のそれぞれを測定するために、同じ条件で作製した1種類のサンプルについて、内部抵抗と電池電圧のそれぞれの測定用に複数個(例えば100個)ずつ個体を作製した。そして、同じ種類のサンプルに属する全個体の内部抵抗あるいは電池電圧を測定し、その平均値を試験結果として採用した。
<内部抵抗特性>
図2に大深度放電後保存試験における各サンプルの内部抵抗の特性を示した。図2(A)および(B)は、それぞれ40℃の温度下に置いてから23日経過したとき(23日目)および43日経過したとき(43日目)の内部抵抗を示している。ここでは、サンプルa1〜a6のそれぞれについて、保存開始時点(0日目)での内部抵抗値R1、所定日数保存後の内部抵抗値R2としたときの上昇率R(=R2/R1×100(%))を示した。図2(A)に示したように、保存後23日目ではHPIを添加したサンプルa2〜a6は、HPIを添加していないサンプルa1に比べ、内部抵抗値の上昇率Rを1/5〜1/10程度にまで抑えることができた。また図2(B)に示したように、保存後43日目では、サンプルa2〜a6は、サンプルa1に対して内部抵抗値の上昇率Rを1/4〜1/10程度にまで抑えることができた。
<電池電圧特性>
図3は大深度放電後保存試験における各サンプルの電池電圧特性を示しており、図3(A)および図3(B)は、それぞれ放電深度90%の状態で40℃の温度下に置いてから23日目および43日目の電池電圧特性を示している。具体的には各サンプルa1〜a6の電池電圧特性は、所謂「パルス特性」であり、40℃の温度下に置いてから23日、および43日が経過した時点でサンプルを室温に戻してから50Ωの負荷を0.29秒間与え、負荷を与えているときの閉回路電圧V1と負荷を掛ける前の開路電圧V2を測定し、その閉回路電圧V1と開回路電圧V2との電圧差ΔV(=V2−V1)である。
図3(A)に示したように、サンプルa2〜a6は23日目ではサンプルa1に対して1/3〜2/3程度の電圧差ΔVであった。とくにサンプルa2〜a5ではサンプルa1の電圧差ΔVの1/3程度であり優れた特性を示した。また図3(B)に示したように、43日目の特性を見ると、サンプルa2〜サンプルa5では23日目と同様の特性を維持したものの、HPIを5.0wt%添加したサンプルa6では従来例となるサンプルa1と同等の特性であった。
以上より、リチウム一次電池では、基本電解液に対してHPIを0.1wt%以上、5.0wt%以下の割合で添加することで、放電末期での保存特性として内部抵抗の上昇を抑制する効果を確認できた。さらに、放電末期の状態でも23日目までであれば、電池電圧の特性を向上させることができた。そして、0.1wt%以上、1.0wt%以下の割合とすれば、保存後43日目であっても優れた電池電圧特性を維持できることが確認できた。なお、サンプルa6がサンプルa2〜a5に対して電池電圧特性が劣っていた原因としては、HPIの添加量が多すぎたため、正負極での被膜の形成が過剰に起き、被膜による電池電圧特性の向上効果に対してイオン導電性の劣化が優勢になってしまったためと考えることができる。
以上の二つの試験結果より、リチウム一次電池における放電末期での保存性能を向上させるためには、基本電解液に対してHPIを0.1wt%以上、5.0wt%以下の割合で添加した電解液を用いればよく、0.1wt%以上、1.0wt%以下の添加量とすれば、イオン導電性を劣化させることなく電池電圧特性も向上させることができ、より好ましい。
===高温保存試験===
<サンプルの構造>
高温保存試験にはラミネート型のリチウム一次電池をサンプルとして用いた。図4にサンプルとなるラミネート型のリチウム一次電池100の構造を示した。図4(A)はその外観を示す図である。(B)は内部構造を示す図であり、(A)におけるa−a矢視断面を模式的に示している。ここに例示したリチウム一次電池100は、図4(A)に示したように、矩形平面形状を有するラミネートフィルムの外装体111内に、後述する正極、負極および電解液からなる発電要素が封入されているとともに、外装体111の外側に、内部の正極と負極のそれぞれに接続されて外部の負荷に電力を供給するための正極端子板112と負極端子板113を導出させた構造を有している。
図4(B)に示したように、外装体111内には、シート状の正極120とシート状の負極130がセパレータ140を介して対向配置させてなる電極体110が収納されている。正極120は、大深度放電後保存試験に用いたスパイラル型リチウム一次電池(図1:符号1)と同じスラリー状の正極材料122をステンレス製のエキスパンドメタルからなるシート状の正極集電体121に塗布したものである。負極130はシート状の銅箔からなるシート状の負極集電体131の一主面(おもて面とする)133にリチウム金属132を貼着したものである。そして、負極130のリチウム金属132側がセパレータ140を介して正極120と対向配置されて電極体110が構成されている。正極120と負極130のそれぞれの集電体(121、131)には端子板(112、113)が接続されており、その端子板(112、113)が外装体111の外側に導出されている。密封された外装体111内には、上記の基本電解液に対しサンプルに応じた量のHPIが添加されている電解液150が充填されている。なお、作製直後のサンプルのサイズは、厚さt=0.4mm、長さL=27mm、幅w=22mmである。
以下の表2に各サンプルの電解液におけるHPIの添加量を示した。
Figure 0006271275
<試験方法>
表2に示した各サンプルb1〜b6を80℃の温環境下で27日間保存し、その27日目における各サンプルの厚さt’を測定した。そして、当初の厚さt=0.4mmからの変化率t’/tの値を求めた。図5にサンプルb1〜b6における当該高温保存試験の結果を示した。図5に示したように、HPIを添加していないサンプルb1は当初の厚みtに対して1.55倍の厚さとなり、HPIを0.01wt%添加したサンプルb2もb1と同程度で1.49倍であった。一方、HPIを0.1wt%以上添加したサンプルb3では厚さの変化率t’/tが激減し1.2倍未満であった。そして、HPIの添加量がこのサンプルb3からb4、b5,b6と順次多くなるのに従って厚さの変化率t’/tが減少していった。したがって、HPIの添加量が基本電解液に対して0.1wt%以上であれば高温環境下での保存特性が向上することが確認でき、HPIの添加量の下限を0.1wt%とすることが妥当であることがわかった。
===ヒドロキシフタルイミド誘導体===
上記の試験結果から、HPIが適量添加されている電解液を用いたリチウム一次電池では、放電末期での保存性能と高温環境下での保存特性がともに向上することがわかった。ところで、ヒドロキシフタルイミドには誘導体が存在する。周知のごとく、誘導体は有機化合物に対して構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物である。したがって、添加物をHPIからHPI誘導体に置換しても、同様の効果が得られることは明らかであるものの、参考までにHPI誘導体を添加物としたリチウム一次電池の特性を評価してみた。具体的には、HPI誘導体が添加されている電解液を使用したスパイラル型リチウム一次電池と、添加剤を含まない基本電解液を使用した従来のスパイラル型リチウム一次電池をサンプルとして作製した。そして各サンプルの特性を評価した。以下に、作製したサンプルや特性評価方法などについて具体的に説明する。
図6はHPIやその誘導体の構造を示す図であり、図6(A)はHPIの構造を示している。(B)はその誘導体の構造を説明するための図である。HPI誘導体は(A)に示したHPIの構造に対し、(B)に示したヒドロキシル基の水素(X)、および4、5、6、7位の炭素上の水素(R1、R2、R3、R4)のそれぞれを適宜な官能基に置換したものである。官能基としては、例えば、アルキル基、ハロゲノ基、メチル基などがある。ここでは、ヒドロキシル基の水素(X)をメチル基に置換したN−メチルフタルイミド(以下、MPI)を添加剤としてサンプルを作製した。
以下の表3にサンプルの作製条件を示した。
Figure 0006271275
表3に示したように、サンプルc1は、MPIが添加されていない電解液を用いている。サンプルc2では、MPIが基本電解液に対して1.0wt%の割合で添加された電界液を用いている。そして、サンプルc1とc2に対し、放電末期の状態で、かつ高温環境下で保存する試験を行った。ここでは、放電深度が100%、すなわち設計容量の全てを放電させた状態のサンプルを80℃の温度下で保存する試験を行った。
図7に当該試験の結果を示した。図7(A)と(B)は、それぞれ保存開始後20日後と69日後の内部抵抗の上昇率R(%)を示している。図7(A)に示したように、保存後20日目では、サンプルc1では内部抵抗が14%程度上昇したのに対し、サンプルc2では内部抵抗の上昇率Rは1%未満であった。そして(B)に示したように保存後69日目ではサンプルc1の上昇率Rが15%以上であったのに対しサンプルc2では1%程度であった。以上より、HPI誘導体を添加した電解液を用いたリチウム一次電池は、HPIを添加した電解液を用いたリチウム一次電池と同様に放電末期での保存特性や高温環境下での保存特性が向上していることが確認できた。
===その他の実施例===
本発明は一般に使用されている様々なリチウム一次用電解液にHPIやその誘導体が適量添加されていることに特徴がある。したがって本発明は、その要旨を越えない限り、上記実施例に限定されるものではない。例えば、リチウム一次電池の構造はスパイラル型やラミネート型に限らず、周知のインサイドアウト型(ボビン型とも言う)やコイン型などであってもよい。
基本電解液については、例えば、溶媒における上記の3成分(DME、PC、EC)の割合が異なっていてもよい。もちろん3成分系でなくてもよい。成分としては、ブチレンカーボネート(BC)、ジオキソラン(DOXL)、ガンマ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラヒドロフラン(THF)など、Li一次電池に一般的に使用されている電解液であればどのようなものであってもよい。
支持塩についても同様であり、例えば、上記実施例にて用いたLiCF3SO3以外のフッ素含有酸イミドのリチウム塩であるLiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)、(C49SO2)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、フッ素含有酸メチドのリチウム塩LiC(CF3SO23、塩素含有酸のリチウム塩LiClO4などが使用できる。
1 スパイラル型リチウム一次電池、2 電池缶、3,120 正極、4,130 負極、5,140 セパレータ、6 封口体、7 正極端子、8 ワッシャ、
9 封口ガスケット、20 非水系有機電解液、
100 ラミネート型リチウム一次電池、111 外装体、122 正極集電体、
131 負極集電体

Claims (3)

  1. 二酸化マンガンを正極活物質とし、リチウム金属またはリチウム合金を負極活物質としたリチウム一次電池用の非水系有機電解液であって、有機溶媒および支持塩からなる基本電解液に添加剤としてヒドロキシフタルイミドまたはヒドロキシフタルイミド誘導体が添加されており、当該添加剤の添加量は、前記基本電解液に対して0.1wt%以上、5.0wt%以下であることを特徴とするリチウム一次電池用非水系有機電解液。
  2. 請求項1において、前記添加剤の添加量は、前記基本電解液に対して0.1wt%以上、1.0wt%以下であることを特徴とするリチウム一次電池用非水系有機電解液。
  3. 二酸化マンガンを正極活物質とし、リチウム金属またはリチウム合金を負極活物質としたリチウム一次電池であって、請求項1または2に記載の前記リチウム一次電池用非水系有機電解液を備えたことを特徴とするリチウム一次電池。
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