(第1実施例)図面を参照して実施例の車載構造を説明する。実施例の車載構造2は、走行用にモータ3とエンジン98の双方を備えたハイブリッド車100に適用されている。実施例の車載構造2における搭載対象の電子機器は、モータ3に電力を供給するインバータ20である。また、インバータ20を搭載する設置対象部材は、トランスアクスル30である。以下では、「トランスアクスル30」を略して「TA30」と表す。
図1に、ハイブリッド車100のフロントコンパートメント90におけるデバイスの配置を示す。なお、図中の座標系は、F軸が車両前方を示しており、V軸が車両上方を示しており、H軸は車幅方向(車両の側方)を示している。座標系の記号の意味は、以降の図でも同じである。
フロントコンパートメント90には、エンジン98、インバータ20、TA30などが配置されている。フロントコンパートメント90には他にも様々なデバイスが配置されているが、それらの図示は省略する。図1ではTA30やエンジン98などは模式化して描かれていることに留意されたい。
モータ3は、TA30のハウジングに収容されている。TA30は、別言すれば、モータ3を収容するギアボックスである。TA30のハウジングは、例えば、アルミニウムのダイキャスト、あるいは、削り出しで作られる。TA30のハウジングには、さらに、エンジン98の出力トルクとモータ3の出力トルクを合成/分配する動力分配機構6が収容されている。デファレンシャルギア4もTA30のハウジングに収容されている。動力分配機構6は、状況に応じて、エンジン98の出力トルクを分割してデファレンシャルギア4とモータ3へ伝達する。この場合、ハイブリッド車100は、エンジントルクで走行しながらモータ3によって発電する。ハイブリッド車100は、また、制動時の車両の減速エネルギを使ってモータ3により発電する。発電で得た電力でバッテリを充電する。
エンジン98とTA30は、車幅方向で隣り合うように連結されている。エンジン98とTA30は、車両の構造強度を担保するサイドメンバ96に懸架されている。図1では1本のサイドメンバ96のみが描かれているが、図1においてエンジン98の左下にも別のサイドメンバが伸びている。エンジン98とTA30は、2本のサイドメンバの間に懸架されている。
インバータ20は、電力をモータ3へ供給する。より詳しくは、インバータ20は、不図示の高電圧バッテリの電力を昇圧した後、交流に変換してモータ3へ供給する。インバータ20は、また、モータ3が発電した交流電力を直流電力に変換し、さらに降圧する。降圧された電力によって高電圧バッテリが充電される。インバータ20は、車載の電子機器の一種である。詳しくは後述するが、インバータ20は、TA30の上面との間に隙間を有して支持されている。
インバータ20は、その前側がフロントブラケット10によって支持されており、後側がリアブラケット40によって支持されている。インバータ20のフロントブラケット10の上方には、ストッパ5が設けられている。
図1とともに図2を参照してTA30とインバータ20の関係を詳しく説明する。図2は、車載構造2の全体図である。また、図2は、TA30とインバータ20の側面図を示している。「側面」とは、車幅方向(図中のH軸方向)から見たときの図に相当する。
インバータ20とTA30は、6本のパワーケーブル21で繋がっている。パワーケーブル21は、インバータ20からモータ3へ電力を送るためのワイヤハーネスである。説明を省略したが、TA30には2個の3相交流モータが収容されており、6本のパワーケーブルは2組の3相交流を伝送する。符号31は、TA30に設けられているパワーケーブル端子を示している。
先に述べたように、TA30には、モータ3と動力分配機構6とデファレンシャルギア4が収容されている。TA30の内部では、モータ3の出力軸3aと動力分配機構6の主軸6aとデファレンシャルギア4の主軸4aが平行に並んでいる。それら3本の軸は車幅方向に伸びている。図2に示すように、3本の軸は、車幅方向からみて三角形をなすように配置されている。3本の軸の配置のため、TA30の上面30aは、前下がりに傾斜している。それゆえ、上面30aの上方に支持されるインバータ20も、前下がりに傾斜して配置される。なお、「インバータ20が前下がりである」とは、インバータ20の前端の地上高さが後端の地上高さよりも低いことを意味する。
インバータ20は、フロントブラケット10とリアブラケット40によりTA30の上方に支持されている。フロントブラケット10は、インバータ20の前方に配置され、リアブラケット40はインバータ20の後方に配置される。インバータ20とTA30の間には、隙間G1が確保されている。この隙間G1は、フロントブラケット10とリアブラケット40によって確保される。
インバータ20とフロントブラケット10の間には防振ブッシュ12が配置されており、インバータ20とリアブラケット40の間には防振ブッシュ42が配置されている。モータ3と動力分配機構6とデファレンシャルギア4は走行中に激しく振動する。防振ブッシュ12、42は、モータ3などの振動からインバータ20を保護するために取り付けられている。また、インバータ20がフロントブラケット10とリアブラケット40によってTA30の上方に隙間G1を有して支持されていることも、インバータ20をモータ3などの振動から隔離するためである。
フロントブラケット10の下部がボルト52によってTA30の上面30aに固定され、フロントブラケット10の上部がボルト51によってインバータ20の前面20aに連結される。フロントブラケット10の上部とインバータ20の前面20aとの間には防振ブッシュ12が挟まれている。図2では示されていないが、フロントブラケット10は、車幅方向に並んだ2個のボルト52によってTA30に固定される。また、フロントブラケット10は、車幅方向に並んだ2個のボルト51によってインバータ20に連結される。2個のボルト52が車幅方向に並んでいること、及び、2個のボルト51が車幅方向に並んでいることは、後述する図6を参照されたい。フロントブラケット10は、金属板(鋼板)のプレス加工で作られている。なお、図2は、フロントブラケット10の形状を簡略化して示している。フロントブラケット10の詳しい形状は、後に図6を用いて説明する。
詳しい説明は省略するが、リアブラケット40もフロントブラケット10と同様の構造を有している。リアブラケット40の下部がボルト54によってTA30の上面30aに固定されており、リアブラケット40の上部がボルト53によってインバータ20の後面に固定されている。リアブラケット40の上部とインバータ20の後面との間には防振ブッシュ42が挟まれている。
TA30の上面30aが前下がりに傾斜していることを考慮すると、フロントブラケット10は、傾斜面(上面30a)の傾斜に沿った方向においてインバータ20よりも下側に固定されているブラケットであり、リアブラケット40は、傾斜の上側に固定されているブラケットであると表現することができる。なお、本明細書では、インバータ20の上面と下面を除く面を側面と表現する。即ち、インバータ20の前面と後面も「側面」に含まれる。その意味では、フロントブラケット10の上部は、インバータ20の前方を向く側面に連結されており、リアブラケット40は、インバータ20の後方を向く側面に連結されている、と表現することができる。
インバータ20の前面20aには、ストッパ5が設けられている。ストッパ5は、フロントブラケット10の上方に設けられている。ストッパ5は、その下面5aが、フロントブラケット10の上端に対向するように配置されている。図2に示すように、ストッパ5は、ストッパ5とフロントブラケット10の上端との間の距離Haが、インバータ20の下面20bとTA30の上面30aとの間の距離Hbよりも短くなるように配置されている。なお、距離Haは、車両が衝突してフロントブラケット10が変形する前の長さを示す。ストッパ5は、車両が前方衝突(あるいは前方斜め衝突)した際に、インバータ20がTA30とぶつかるときの衝撃を緩和するために設けられている。
図2と図3を参照してストッパ5の機能を説明する。図2において、符号Wが示す矢印が、衝突荷重を示している。衝突荷重Wは、前方衝突を想定した場合の荷重であり、インバータ20の前端に加わる。図3は、インバータ20が衝突荷重Wを受けたときのフロントブラケット10とリアブラケット40の変形を示している。フロントブラケット10とインバータ20はボルト51で連結されており、フロントブラケット10とインバータ20の間には防振ブッシュ12が挟まれている。防振ブッシュ12は振動を吸収する弾性体で作られており、変形し易い。インバータ20が前方から衝突荷重Wを受けると、フロントブラケット10が後方に倒れるように変形するとともに、フロントブラケット10を固定しているボルト51と防振ブッシュ12が変形し、フロントブラケット10がストッパ5に近づく。先に述べたように、ストッパ5とフロントブラケット10の上端との間の距離Haは、インバータ20の下面20bとTA30の上面30aとの間の距離Hbよりも短い。それゆえ、衝突荷重Wによってフロントブラケット10が後方に倒れる際、インバータ20の下面20bがTA30の上面30aとぶつかるのに先立ってストッパ5がフロントブラケット10と当接する。そうして、インバータ20の下面20bがTA30の上面30aとぶつかるときの衝撃を緩和する。図3のポイントP1は、ストッパ5とフロントブラケット10の上端との当接箇所である。図3に示すように、ストッパ5とフロントブラケット10が接触したときには、まだ、インバータ20の下面20bとTA30の上面30aとの間に隙間G2が確保されている。
フロントブラケット10の詳細な形状は後述するが、フロントブラケット10の上端は、ストッパ5との衝突に対して良く耐え得るようにその形状が工夫されている。ただし、衝突荷重Wが大きいと、フロントブラケット10がストッパ5との衝突荷重に耐えられずにフロントブラケット10の上端が潰れてしまう場合がある。フロントブラケット10の上端が潰れると、インバータ20が更に下がってTA30と衝突することも考えられる。その場合でも、ストッパ5とフロントブラケット10との衝突が衝突荷重Wの一部を吸収するので、TA30の上面30aと衝突するときにインバータ20が受ける衝撃は緩和される。
図4と図5を参照して、前方衝突時にインバータ20が受ける衝突荷重の理論的解析を説明する。図4と図5では、フロントブラケット10の形状を簡略化して表すとともに、部品と部品(例えばフロントブラケット10とインバータ20)は一点で連結されているものとして扱う。
図4と図5は、インバータ20とフロントブラケット10とリアブラケット40を簡略化して描いた側面図である。図4は、フロントブラケット10が変形する前の各部品の位置関係を示しており、図5はフロントブラケット10が変形したときの各部品の位置関係を示している。インバータ20は、フロントブラケット10とリアブラケット40によって、TA30の上面30aとの間に隙間Gを隔てて支持されている。図4と図5に示した符号の意味は次の通りである。直線A1は、水平方向を示しており、直線A2はTA30の上面30aと平行な直線である。直線A1と直線A2の間の角度T1が、TA30の上面30aが水平方向となす角度を示している。
符号Wは先に述べたように衝突荷重を示しており、符号WLは、衝突荷重Wの上面30aに沿った方向の分力(平行分力荷重WL)を示しており、符号WHは、上面30aに垂直な方向の分力(垂直分力荷重WH)を示している。ポイントP2は、インバータ20の最前位置であり、衝突荷重Wが加わる位置(荷重点)である。ポイントP3は、フロントブラケット10とインバータ20との連結点である。ポイントP4は、フロントブラケット10とTA30との連結点である。ポイントP5は、リアブラケット40とインバータ20との連結点である。ポイントP6は、リアブラケット40とTA30との連結点である。
符号L1は、ポイントP2(荷重点)とポイントP6(リアブラケット40とインバータ20との連結点)の間の距離を示している。符号L2は、ポイントP2(荷重点)とポイントP3(フロントブラケット10とインバータ20との連結点)の間の距離を示している。符号L3は、ポイントP4(フロントブラケット10とTA30との連結点)とポイントP3(フロントブラケット10とインバータ20との連結点)の間の距離を示している。符号L4は、ポイントP5(リアブラケット40とインバータ20との連結点)とポイントP6(リアブラケット40とTA30との連結点)の間の距離を示している。符号H1は、ポイントP3とポイントP2(荷重点)との間の距離を示している。
太線矢印Raは、ポイントP3における、垂直分力荷重WHに対するフロントブラケット10の抗力を示している。符号Maは、フロントブラケット10に生じる曲げモーメントを示している。符号Mbは、リアブラケット40に生じる曲げモーメントを示している。
フロントブラケット10の抗力Raは、両端支持梁における力のつり合い方程式より、Ra=(L1/(L1+L2))・WHの式で求められる。ここで、L2がほぼゼロであることを考慮すると、Ra=WHとなる。即ち、垂直分力荷重WHが、そのまま、ポイントP3(フロントブラケット10とインバータ20との連結点)に集中する。平行分力荷重WLに起因してフロントブラケット10とリアブラケット40に生じる曲げモーメントは、WL・H1/2となる。フロントブラケット10には、垂直分力荷重WHに起因する曲げモーメント=WH・L3も加わる。以上から、Ma=WL・H1/2+WH・(L2+L3)>Mb=WL・H1/2−WH・(L1+L4)となる。なお、ここで、L2は、実際にはほぼゼロであり、無視することができる。また、フロントブラケット10とインバータ20との連結点(ポイントP3)のみが、垂直分力荷重WHを引き受ける。衝突荷重Wを受けると、リアブラケット40に生じる曲げモーメントMbよりも、フロントブラケット10に生じる曲げモーメントMaが大きくなる。従って、衝突荷重Wを受けると、フロントブラケット10の上部が後下方へ倒れ、インバータ20は、後部よりも前部が下がる。
図4、図5に示されているように、フロントブラケット10とインバータ20の連結点(ポイントP3)には、弾性体である防振ブッシュ12が位置している。そのため、ポイントP3が垂直分力荷重WHを受けると、防振ブッシュ12が変形し、ストッパ5がフロントブラケット10へ近づき、最終的にストッパ5とフロントブラケット10が当接する。符号P1が、ストッパ5とフロントブラケット10との接触点を示している。ストッパ5とフロントブラケット10が当接することで、ポイントP1に、垂直分力荷重WHに対する抗力Rcが生じる。その分、ポイントP3に加わっていた抗力Raが小さくなる。先に、垂直分力荷重WHに起因する曲げモーメントは、「WH・L3」であると述べた。垂直分力荷重WHに抗する箇所が、ポイントP3(フロントブラケット10とインバータ20との連結点)とポイントP1(フロントブラケット10とストッパ5との接触点)に分散する。ポイントP1は、ポイントP3よりもポイントP4(フロントブラケット10とTA30との連結点)に近い。このことは、垂直分力荷重WHに起因する曲げモーメントの腕がL3よりも小さくなることを意味する。即ち、フロントブラケット10とストッパ5が当接することにより、フロントブラケット10に生じる曲げモーメントMaが小さくなる。その結果、インバータ20の前側を下げる力が減少する。即ち、ストッパ5がフロントブラケット10と当接することによって、インバータ20の下面20bがTA30の上面30aとぶつかるときの衝撃が緩和される。
ストッパ5がフロントブラケット10と接触することで、垂直分力荷重WHに抗する箇所が、ポイントP3(フロントブラケット10とインバータ20との連結点)とポイントP1(フロントブラケット10とストッパ5との接触点)に分散する。このことは、防振ブッシュ12に加わる力(即ち、抗力Ra)が小さくなることを意味する。防振ブッシュ12に加わる力が小さくなるので、防振ブッシュ12が破断する可能性が小さくなる。
さらに、上記の考察より、次のことも言える。インバータ20の前部を下方に下げる力は、フロントブラケット10とインバータ20との連結点(ポイントP3)に作用する垂直分力荷重WHである。垂直分力荷重WHが生じるのは、インバータ20が、傾斜面(TA30の上面30a)の上方に支持されていることに起因する。即ち、ストッパ5が効果を奏するのは、インバータ20が車両のフロントコンパートメントにおいて前下がりの傾斜面(TA30の上面30a)の上方に支持されているという状況においてである。
なお、インバータがリアコンパートメントに搭載される場合には、後方衝突時にインバータの後端に衝突荷重が加わる。従って、インバータがリアコンパートメントに搭載される場合には、インバータが後ろ下がりの傾斜面の上方に支持されている状況であって、インバータのリアブラケットの上方にストッパを設けるとよい。ストッパは、リアブラケットの上部が前方(即ち傾斜面の上方)へ向かって倒れるように変形したときに、インバータの下面が傾斜面と当接する前にリアストッパの上端に当接するように配置される。インバータがリアコンパートメントに搭載される例は、第3実施例にて説明する。
フロントブラケット10の形状について説明する。図6にフロントブラケット10の斜視図を示す。なお、図6のFHV座標系には、TA30の上面30aと平行な直線A2を付加しており、車両前後方向に延びるF軸と直線A2がなす角度T1は、水平方向に対する上面30aの傾斜角を表している。フロントブラケット10は、TA30の上面30aに固定されるベースプレート14と、ベースプレートから立ち上がり、上部がインバータ20の前面20aと対向する一対の脚部15で構成されている。ベースプレート14には2箇所に切欠14aが設けられており、その切欠14aを通じてボルト52がベースプレート14をTA30に固定している。
脚部15を貫通するように防振ブッシュ12が配置されており、ボルト51が、防振ブッシュ12を通過し、フロントブラケット10をインバータ20の前面20aに連結している。
車両の正面から見たときに、各脚部15の上部の両側にはフランジ16a、16bが設けられている。フランジ16a、16bは、脚部の車幅方向の両縁から車両前方に向かって立ち上がるように設けられている。符号16aは、車両前方から見たときに外側に位置するフランジを示しており、符号16bは、一対の脚部15の内側に位置するフランジを示している。フランジ16a、16bは、防振ブッシュ12の両側に位置しており、防振ブッシュ12を支える脚部15の強度を高めている。フランジ16a、16bは、脚部15の上縁まで延びている。ストッパ5は、フランジ16aの上方に位置するように、インバータ20の前面20aに設けられている。ストッパ5は、フロントブラケット10が変形したときに、脚部15の上縁とフランジ16aの上縁の両方に当接するように配置されている。ストッパ5が脚部15の上縁とフランジ16aの上縁の両方と当接するので、フロントブラケット10は、大きい垂直分力荷重WHに対してもよく耐え得る。
図7と図8を参照してフロントブラケットの変形例を説明する。図7は、変形例のフロントブラケット10aの斜視図であり、図8は、フロントブラケット10aの側面図である。図7に示した座標系は、図6に示した座標系と同じである。フロントブラケット10aは、脚部15の上端にもフランジ17を有している、フランジ17は、フランジ16aの上端とフランジ16bの上端を繋げるように設けられている。図8に示すように、フランジ17は、ストッパ105の前下角に対向するように設けられている。図8に示すように、この変形例の場合も、ストッパ105とフランジ17(フロントブラケット10a)との間の距離Haは、インバータ20の下面20bとTA30の上面30aとの間の距離Hbよりも小さい。それゆえ、矢印線B1が示すように、フロントブラケット10aが変形した場合、インバータ20とTA30が当接する前にストッパ105がフランジ17(フロントブラケット10aの上端)と当接し、インバータ20とTA30との衝突の衝撃が緩和される。
この変形例では、フロントブラケット上端のフランジ17がストッパ105の前下角に対向するように設けられている。その構造により、フロントブラケット10aの脚部15が、矢印線B1が示す方向に変形すると、直ちにフランジ17がストッパ105と当接する。このことは、衝突時におけるフロントブラケット10の変形の初期からストッパ105がフランジ17と当接することを意味する。衝突の初期からストッパ105がインバータ20の下方への移動を妨げるので、インバータ20がTA30と衝突した際の衝撃がより一層緩和される。
また、この変形例では、フロントブラケット10の一対の脚部15のうち、一方にだけ、その上方にストッパ105が設けられている。このように、一対の脚部15の一方にだけ、その上方にストッパ105が設けられていてもよい。
図9を参照して、ストッパの変形例を説明する。図9は、変形例のストッパ205を含む、フロントブラケット周辺の斜視図である。図9のフロントブラケットは、図7、図8で説明したフロントブラケット10aと同じである。図9の変形例では、インバータ220の前面220aの下部に窪み204が設けられている。窪み204の天井がストッパ205に相当する。フロントブラケット10aの上端は、窪み204においてインバータ220に固定される。窪み204の天井、即ち、ストッパ205の下方にフロントブラケット10aの上端のフランジ17が位置している。別言すれば、フロントブラケット10aの上端のフランジ17の上方に窪み204の天井、即ち、ストッパ205が位置している。この変形例でも、衝突の衝撃でフロントブラケット10aが変形した場合、インバータ220とTA30が当接する前にストッパ205(窪み204の天井)がフランジ17(フロントブラケット10aの上端)と当接し、インバータ220とTA30との衝突の衝撃が緩和される。
(第2実施例)図10、図11を参照して第2実施例の車載構造202を説明する。この車載構造では、ブラケットが、防振ブッシュを介さずボルトでインバータに固定されている。この実施例は、第1実施例において防振ブッシュ12と42を除いたものである。図10に、ブラケット変形前の車載構造202の側面図を示す。図11に、ブラケット変形後の車載構造202の側面図を示す。インバータ20は、TA30の上面30aに、フロントブラケット210とリアブラケット240を介して固定されている。インバータ20は、フロントブラケット210とリアブラケット240によって、TA30の上面30aとの間に隙間Gを隔てて支持されている。
フロントブラケット210の上部がボルト218でインバータ20の前面20aに取り付けられている。リアブラケット240は、ボルト243でインバータ20の後面に取り付けられている。フロントブラケット210の上部とインバータ20の間には防振ブッシュは備えられておらず、フロントブラケット210の上部はインバータ20の前面20aに直接に接している。リアブラケット240の上部とインバータ20の間にも防振ブッシュは備えられておらず、リアブラケット240の上部はインバータ20の後面に直接に接している。インバータ20の前面20aには、フロントブラケット210の上方にストッパ5が設けられている。
図10に示すように、衝突前には、フロントブラケット210の上端とストッパ5の間には隙間が存在する。図11に示すように、車両前方から衝突荷重Wがインバータ20の前上角に加わると、フロントブラケット210とリアブラケット240とともに、ボルト218、243が塑性変形し、フロントブラケット210の上端がストッパ5に当接する。矢印Pxが、ボルト218、243の塑性変形した箇所を示している。フロントブラケット210とストッパ5が当接することで、インバータ20の下面とTA30の上面30aとの衝突の衝撃が緩和される。
(第3実施例)図12を参照して第3実施例の車載構造302を説明する。第3実施例は、リアコンパートメント(トランクルーム)に搭載される電子機器が対象である。図11に、車両300の後部側面図を示す。本実施例では、車載構造302の対象は、インバータ320である。なお、図12では、理解を助けるために、車両300と後輪301は仮想線で描いてある。
インバータ320は、後輪301を駆動するモータ331に電力を供給するデバイスである。モータ331は、モータケース330に収容されている。モータケース330は、車両のフレームを構成する不図示の後部クロスメンバに懸架されている。インバータ320の設置対象部材は、モータケース330である。モータケース330は、その上面330aが傾斜している。上面330aは、車両後方側が前方側よりも低くなるように傾斜している。インバータ320は、その前面がフロントブラケット310によって支持されており、後面がリアブラケット340によって支持されている。インバータ320は、フロントブラケット310とリアブラケット340によって、モータケース330との間に隙間を有して、後傾姿勢で支持されている。インバータ320の後面には、リアブラケット340の上方にストッパ305が設けられている。ストッパ305は、リアブラケット340の上部が前方(即ち傾斜面の上方)へ向かって倒れるように変形したときに、インバータ320の下面が上面330aと当接する前にリアブラケット340の上端に当接するように配置される。第3実施例の車載構造302は、後方から衝突荷重を受けた際、インバータ320がモータケース330にぶつかるときの衝撃を緩和する。
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。インバータ20、220、320が電子機器の一例に相当する。TA30の前下がりの上面30a、モータケース330の傾斜した上面330aが、傾斜面の一例に相当する。フロントブラケット10、10a、210が傾斜面に沿った方向において電子機器の下側に固定されている第1ブラケットの一例に相当し、リアブラケット40が上側に固定されている第2ブラケットの一例に相当する。第3実施例の場合は、リアブラケット340が、傾斜面(上面330a)に沿った方向において電子機器の下側に固定されている第1ブラケットの一例に相当する。フロントブラケット310が、傾斜面(上面330a)に沿った方向において電子機器の上側に固定されている第2ブラケットの一例に相当する。TA30とモータケース330は、走行用モータを収容したギアボックスの一例に相当する。
本明細書が開示する技術はインバータに限られるものではなく、また、インバータの設置位置が、TAやモータケースの上に限られるものでもない。本明細書が開示する車載構造の対象となる電子機器は、インバータのほか、例えば、エンジンコントロールユニットであってもよい。また、電子機器の設置対象部材は、例えば、トランクルーム内の傾斜したフロア面であってもよい。
本明細書が開示する技術は、電子機器の車載構造に関する技術であり、その主な特徴は次のように表現することができる。電子機器の車載位置は、車両に設けられた傾斜面の上方である。電子機器は、傾斜面の傾斜に沿った方向において電子機器より下側に固定されている第1ブラケットと上側に固定されている第2ブラケットによって傾斜面との間に隙間を有して支持されている。第1ブラケットの上部は、電子機器の側面に連結されている。その側面の第1ブラケットの上方に、第1ブラケットの上端に間隙を隔てて対向するストッパが設けられている。電子機器の第1ブラケットが連結している側に衝突荷重が加わった際、第1ブラケットが傾斜上方に向かって倒れるように変形したときに電子機器の下面が傾斜面に当接する前にストッパが第1ブラケットの上端に当接するように、ストッパが設けられている。なお、電子機器の第1ブラケットが連結している側に衝突荷重は、電子機器がフロントコンパートメントに配置されている場合は、前方から加わる衝突荷重を意味し、電子機器がリアコンパートメントに配置されている場合は後方から加わる衝突荷重を意味する。
衝突荷重は車両の中心に向かって作用する。それゆえ、ブラケットを介して電子機器が支持される面が、車両の中心に近い側から遠い側に向かって高さが低くなる傾斜面である場合に、本明細書が開示する技術は特に有効である。
ストッパ5、105は、インバータ20のケースの一部として形成されていてもよいし、ボルト等によってケースに取り付けられていてもよい。実施例のストッパ5、105は、TA30のケース(ハウジング)から突出した突起であったが、ストッパは、突起に限られるものではない。図9で示したストッパ205のように、ストッパは、TAの前下部に設けられた窪みの天井であってもよい。即ち、インバータの前下部に窪みが設けられており、その窪みにフロントブラケットの上部が連結される場合、衝突の衝撃でフロントブラケットの上部が傾斜上方に倒れるように変形した際に、フロントブラケットの上端と窪みの上面が当接するように窪みの形状を定めればよい。その場合、窪みの天井がストッパの機能を果たす。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。