以下に、本発明に係る実施の形態(以下、実施形態という)について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
また、以下においては、電動車両として走行用動力源としてエンジンおよびモータジェネレータを搭載したハイブリッド自動車を例に説明するが、本発明はモータジェネレータのみを走行用動力源として搭載する電気自動車に適用されてもよいし、二次電池からなるバッテリに加えて燃料電池を搭載した燃料電池車に適用されてもよい。
図1は、ハイブリッド自動車10の車両前部に位置するエンジンコンパートメント内の構成を平面視で概略的に示す図である。図1において、左側が車両前方、右側が車両後方、上側が車両右側、下側が車両左側に相当する。
また、図2は、エンジンコンパートメント内の構成を衝突実験用バリアBと共に側面視で概略的に示す図である。図2において、左側が車両前方、右側が車両後方、上側が車両上側、下側が車両下側に相当する。また、図2(図4,5においても同様)に示される衝突実験用バリアBは、例えば、コンクリートブロック、鉄塊等によって構成される。さらに、図2では、バリアBが地面Gから所定の高さに設けられている例を示す。これは、地面Gから車台までの高さが乗用車に比べて高いトラック等との衝突を想定しているためである。
図1および図2に示すように、ハイブリッド自動車10は、車両の前部にエンジンコンパートメント12を備える。エンジンコンパートメント12は、後述するエンジンおよびモータジェネレータを含む駆動部を収容する駆動部収容室である。エンジンコンパートメント12の上方はフードパネル13によって覆われており、エンジンコンパートメント12の後方は隔壁15によって車室内と仕切られている。
また、ハイブリッド自動車10は、車両の左右両側において車両前後方向に延伸するサイドメンバー14L,14Rを備える。車両前部においてサイドメンバー14L,14R間には、ラジエータ16が上下方向に沿った姿勢で支持されている。
エンジンコンパートメント12内には、内燃機関であるエンジンユニット20が搭載されている。エンジンユニット20は、図示しないブラケットによってサイドメンバー14L,14R等を含む車台に固定されている。エンジンユニット20の出力軸であるクランクシャフト(図示せず)は、後述するトランスアクスルに接続されている。
また、エンジンコンパートメント12内には、トランスアクスル22がエンジンユニット20に隣接して搭載されている。トランスアクスル22には、2つのモータジェネレータMG1,MG2とこれらの出力軸に連結されるギヤ列とが含まれる。トランスアクスル22は、例えばアルミダイカスト製のトランスアクスルハウジング23内にモータジェネレータMG1,MG2等を収容して一体的に構成されている。
トランスアクスル22の出力軸は、図示しない車軸等を介して車輪18に接続されている。これにより、トランスアクスル22は、エンジンユニット20およびモータジェネレータMG1,MG2の動力を車輪18に伝達して走行することができ、他方、減速時等には車輪18からモータジェネレータMG1,MG2の少なくとも一方に動力が入力されて回生発電が行われるようになっている。
なお、本実施形態ではトランスアクスルに2つのモータジェネレータが含まれる例について説明するが、これに限定されるものではない。例えば、トランスアクスルに1つのモータジェネレータが含まれてもよい。また、トランスアクスルのギヤ列には、モータジェネレータと車軸との間、および/または、エンジンユニットとモータジェネレータとの間の連結を断続するためのクラッチ機構が設けられてもよい。
トランスアクスル22を構成するトランスアクスルハウジング23の上部には、例えばアルミ合金製などの金属製筐体であるPCUケース24が固定されている。PCUケース24は、図示しないブラケットをよってトランスアクスル22に取り付けられている。また、図2に示すように、PCUケース24は、上面が前方に下がるように傾斜した姿勢で配置されている。この場合、PCUケース24の前端縁、すなわち、PCUケース24の前方上側角部25の位置がトランスアクスル22の前方縁部よりも車両後方側となるように配置されている。このようにすることで、車両が前面衝突したときにラジエータ16等が後方へ移動してきても、トランスアクスル22によって受け止められるので、車両前面衝突時の衝突荷重がPCUケース24に作用するのを抑制でき、その結果、PCUケース24が破損しにくくなって高圧安全性が向上する。
PCUケース24には、直流電圧と交流電圧との間で双方向に変換可能なインバータが収容されている。この意味でPCUケース24はインバータケースとも呼ばれる。また、PCUケース24は、ハイブリッド自動車10における電力制御全般を司るパワーコントロールユニット(PCU)を収容していてもよく、この意味でケース24はPCUケースとも呼ばれる。さらに、PCUケース24には、インバータのほかに、車載バッテリ(図示せず)から供給される直流電圧を昇圧してインバータに供給する一方、回生時にインバータから供給される直流電圧を降圧して車載バッテリに充電するための昇降圧コンバータが収容されてもよい。
PCUケース24から各モータジェネレータMG1,MG2には、それぞれ3本、計6本の電力ケーブルP1,P2が延びている。この場合、モータジェネレータMG1,MG2は、それぞれ、三相交流回転電機である。これらの電力ケーブルP1,P2を介してインバータとモータジェネレータMG1,MG2との間で電力の授受が行われる。
なお、図1ではエンジンコンパートメント12内のエンジンユニット20およびトランスアクスル22の周囲は空白となっているが、これらのスペースには駆動系、冷却系、空調系等の様々な補機類が略びっしりと配置されている。
また、エンジンコンパートメント12内においてPCUケース24の前方には、剛性が高い部品を極力配置しないこととして空間としておくのが好ましい。これは、車両の前面衝突時に上記部品が後方に移動することでPCUケース24に衝突するのを避けてPCUケース24の破損を抑制するためである。他方、狭いエンジンコンパートメント12内にこのような空間を設けるとスペース効率が悪くなる。したがって、PCUケース24の前方であってラジエータ16との間に、例えば冷却液リザーブタンク、エアダクト等の比較的つぶれやすい部品を配置してもよい。このように比較的つぶれやすい部品であれば、車両の前面衝突時の衝突エネルギーを吸収・緩和する機能を果たし、PCUケース24の破損を抑制するうえで役に立つし、かつ、エンジンコンパートメント12のスペース効率も良くなる。
図3は、本実施形態におけるPCUケース24と、これをトランスアクスル22のハウジング23に取り付けるための前ブラケット(第1ブラケット)30および後ブラケット(第2ブラケット)32とを示す斜視図である。また、図4は、前ブラケット30の1つの実施形態を示す、前方から見た斜視図である。さらに、図5は、後ブラケット32の1つの実施形態を示す、後方から見た斜視図である。
図3に示すように、PCUケース24は、金属製の筐体であって、上端開口部および下端開口部を有するケース本体26と、ケース本体26の上端開口部を閉じる上ケースカバー28Uと、ケース本体26の下ケースカバー28Lとから構成される。ケース本体26は、矩形筒状をなし、例えばアルミダイカスト等により好適に形成される。
上ケースカバー28Uおよび下ケースカバー28Lは、周縁部においてケース本体26にボルトにより締結固定されている。これらのケースカバー28U,28Lは、ケース本体26よりも伸び率が大きい金属材料により形成されている。具体的には、ケースカバー28U,28Lは、例えば鉄板をプレス加工したものが好適に用いられる。
なお、本実施形態におけるPCUケース24は、上ケースカバー28Uと下ケースカバー28Lとを有するものとして説明するが、有底筐体状のケース本体と上ケースカバーとでケースが構成されてもよい。
ケース本体26の前側面および後側面の下部には、それぞれ2つずつの取付部34が突出して形成されている。図3中には、このうち3つの取付部34が示されている。各取付部34には、ボルト挿通孔36がそれぞれ貫通形成されている。これらの取付部34を介して、PCUケース24は、前ブラケット30および後ブラケット32の各上部に締結固定されている。
図3および4に示すように、前ブラケット30は、ケース固定部である上部30aと、ハウジング固定部である下部30cと、上部30aおよび下部30cに連設される連設部30bとを備える。前ブラケット30は、例えば鉄板等の金属板を側面視で略Z形状に曲げ加工して形成されている。ブラケット30の上部30aおよび下部30cには各2つのボルト挿通孔38,39がそれぞれ貫通形成されている。前ブラケット30の下部30cのボルト挿通孔39に挿通されたボルトがトランスアクスルハウジング23に形成されている雌ねじ穴に螺合されることにより、PCUケース24の前端部が前ブラケット30を介してトランスアクスルハウジング23に固定される。
また、前ブラケット30の連設部30bの幅方向両側の縁部には、例えば略三角形状の切欠部40が形成されている。そして、両側の切欠部40間をつなぐ破線41が折れ曲がり予定線として規定されている。切欠部40は、後述するように、車両の前面衝突時に前ブラケット30が切欠部40の位置で折れ曲がり変形する折曲起点部となるものである。
ここで、前ブラケット30の連設部30bにおける切欠部40の形成位置は、連設部30bと下部30cとの境界部に近い位置とすることが好ましい。このようにすることで、PCUケース24に衝突荷重が作用したときに前ブラケット30の連設部30bの折れ曲がり変形量を大きくすることができ、衝突エネルギーの吸収をより効果的に行うことができる。
図3および図5を参照すると、後ブラケット32もまた、前ブラケット30と同様に構成される。すなわち、後ブラケット32は、ケース固定部である上部32aと、ハウジング固定部である下部32cと、上部32aおよび下部32cに連設される連設部32bとを備える。後ブラケット32は、例えば鉄板等の金属板を側面視で略Z形状に曲げ加工して形成されている。後ブラケット32の上部32aおよび下部32cには各2つのボルト挿通孔38,39がそれぞれ貫通形成されている。後ブラケット32の下部32cのボルト挿通孔39に挿通されたボルトがトランスアクスルハウジング23に形成されている雌ねじ穴に螺合されることにより、PCUケース24の後端部が後ブラケット32を介してトランスアクスルハウジング23に固定される。
また、後ブラケット32の連設部32bの幅方向両側の縁部には、例えば略三角形状の切欠部42が形成されている。そして、両側の切欠部42間をつなぐ破線43が折れ曲がり予定線として規定されている。切欠部42は、後述するように、車両の前面衝突時に後ブラケット32が切欠部42の位置で折れ曲がり変形する折曲起点部となるものである。なお、後ブラケット32の連設部32bにおける切欠部42の形成位置も、前ブラケット30の場合と同様に、連設部32bと下部32cとの境界部に近い位置とすることが好ましい。
図6は、電動車両10が前面衝突したときに、エンジンコンパートメント12内のPCUケース24に向かって進入してきたバリアB等がPCUケースにぶつかるときの様子を示す側面図である。図7は、衝突荷重を受けて前ブラケットおよび後ブラケットが変形してPCUケースが略円弧状の軌道で後退移動する様子を示す図である。
上述したように、PCUケース24とモータジェネレータMG1,MG2との間には、それぞれ3本、計6本の電力ケーブルP1,P2が電気接続されている。本実施形態ではPCUケース24がトランスアクスルハウジング23(すなわちトランスアクスル22)の直上に搭載されていることで、電力ケーブルP1,P2の余裕長を短くすることができ、コスト低減を図れる利点がある。
車両の前面衝突時にエンジンコンパートメント12内に進入してきたバリアBがPCUケースに直にぶつかるか、または、後退移動したフードパネル13やラジエータ16がぶつかることにより、PCUケース24に車両後方側への荷重が作用する。このとき、図7に示すように、PCUケース24に荷重が加わることによって前ブラケット30の連設部30bが切欠部40の位置で後方へ折れ曲がる。これにより、PCUケース24は、図7中の矢印44で示すように、破線で示す当初の搭載位置から車両後方側で且つ斜め下方へと略円弧状の軌道で後退移動することになる。
このように前ブラケット30が変形してPCUケース24が後方へ移動するとき、後ブラケット32の連設部32bもまた切欠部42の位置で折れ曲がり変形する。つまり、後ブラケット32は、前ブラケット30の折れ曲がり変形によるPCUケース24の略円弧状軌道での後退移動を許容するように変形する。
このように前ブラケット30および後ブラケット32の折れ曲がり変形することによってPCUケース24が略円弧状軌道で後退移動することにより、車両の前面衝突時にPCUケース24に作用する衝突エネルギーを吸収することができ、その結果、PCUケース24の破損を効果的に抑制して車両の高圧安全性を向上させることができる。
また、本実施形態では、前後ブラケット30,32に切欠部40,42を形成するという簡易な構成で、車両の前面衝突時におけるPCUケース24の略円弧状軌道での制御された後退移動を実現することが可能である。したがって、衝突荷重を受けたときにPCUケースが回動可能となるような支持構造または固定構造を採用する必要がなく、部品数の増加や組付けの煩雑化を招くことがない。
さらに、本実施形態では、上記のようにPCUケース24が略円弧状軌道で後退移動したとき、PCUケース24とモータジェネレータMG1,MG2との間の電力ケーブルP1,P2による接続距離がPCUケース24の略円弧状軌道による移動によっても衝突前以下の状態に保持されるように構成されている。
詳しくは、側面視上において、電力ケーブルP1,P2のPCUケース24に接続する各上端部とモータジェネレータMG1,MG2に接続する各下端部との間の距離が、衝突の前衝後で等しいか又はより小さくなるように構成されている。
さらに詳しくは、前ブラケット30は、車両前後方向に関して、PCUケース24およびモータジェネレータMG1,MG2との接続点である電力ケーブルP1,P2の上端部および下端部より前方に位置するとともに、前ブラケット30の切欠部40が、上下方向に関して電力ケーブルP1,P2の上端部および下端部の間に位置している。
これにより、PCUケース24が車両の前面衝突によって車両後方側へ略円弧状の軌道で後退移動するとき、電力ケーブルP1,P2の上端部位置がその下端部を中心とする略円弧状の軌道で車両後方側へ移動することになる。その結果、電力ケーブルP1,P2が引っ張られるのを抑えることができ、電力ケーブルP1,P2が破断しにくくなる。したがって、高電圧が印加される電力ケーブルP1,P2の芯線が露出することがなく、これによっても電動車両の高圧安全性が向上する。
次に、図8,9を参照して、前ブラケット30の変形例について説明する。図8に示すように、前ブラケット30の幅方向両側に補強用のリブ31が形成されている場合、連設部30bに対応する位置でリブ31に切欠部40を形成して、折曲起点部としてもよい。また、図9に示すように、車両前方側へ凸状をなして連設部30bに幅方向に延びる湾極部またはビード部40aを形成しておき、この湾極部40を折曲起点部としてもよい。さらに、前ブラケット30の折曲起点部は、薄肉部等の他の構造によって実現されてもよい。
続いて、図10,11を参照して、後ブラケット32の変形例について説明する。上記においては後ブラケット32も前ブラケット30と同様に、連設部32bにおいて折れ曲がり変形するものとして説明したが、後ブラケット32は前ブラケット30によって実現されるPCUケース24の略円弧状軌道での後退移動を阻害しなければよく、したがって図10に示すように後ブラケット32がトランスアクスルハウジング23に取り付けられるボルト挿通孔39aを車両前後方向に延びる長穴として形成しておき、車両衝突時の衝突荷重がPCUケース24に作用することによって後ブラケット32がトランスアクスルハウジング23に対して車両後方側へずれて移動するようにしてもよい。
また、図11に示すように、後ブラケット32の下部32cに形成されるボルト挿通孔39aを図10と同様に長穴とするとともに、連設部32bにボルト頭部が通り抜けることが可能な貫通孔44を上記ボルト挿通孔39aに連通して形成してもよい。このようにすれば、車両衝突時の衝突荷重がPCUケース24に作用したとき、後ブラケット32がトランスアクスルハウジング23に対して車両後方側へずれて移動して、トランスアクスルハウジング23から離脱することができ、これによっても車両衝突時のPCUケース24に対する衝突エネルギーの吸収・緩和を効果的に行うことができる。
なお、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載される事項の範囲内で種々の変更が可能である。
例えば、上記においてはPCUケース24がトランスアクスル22上に前下がり姿勢で搭載されるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ケースは、水平姿勢でトランスアクスル上に搭載されてもよいし、あるいは、後下がりの姿勢でトランスアクスル上に搭載されてもよい。
また、上記においては、インバータ等の電力変換装置を収容したPCUケース24がモータMG1,MG2を収容するトランスアクスルハウジング23上に取り付けられる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、PCUケース24がブラケット等によって車両ボディに固定されてもよい。
さらに、上記においてはPCUケース24の前方にラジエータの上部が位置するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、ラジエータの上部位置が低くてケースの前方がフードパネルとなっている構成であってもよい。