以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの構成を詳細に説明する。
本発明における歯車装置のシリーズには、第1歯車装置と第2歯車装置が、その構成要素として含まれている。
図1は、本発明の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置の構成を示す断面図、図2は、同、第2歯車装置の構成を示す断面図、図3(A)は、図1の要部拡大断面図、図3(B)は、図2の要部拡大断面図である。
第1歯車装置と第2歯車装置は、内歯歯車の外ピン近傍の構造が異なるほかは、共通の構成を有している。ここでは先ず、第1歯車装置に着目して全体構成を説明し、次いで、第1歯車装置と第2歯車装置の相違に着目して説明する。便宜上、第1歯車装置の各部材については、「第1」の区別語を付すと共に100番台の符号を付し、第2歯車装置の各部材については、「第2」の区別語を付すと共に第1歯車装置の部材と対応する部材に、下2桁が同一の200番台の符号を付することとする。
図1および図3(A)を参照して、第1歯車装置100は、偏心揺動型と称される歯車装置である。第1歯車装置100は、第1内歯歯車112と、該第1内歯歯車112に内接噛合する第1外歯歯車114とを備える。
第1歯車装置100の第1入力軸122は、第1内歯歯車112の中心c112に配置され、モータM1のモータ軸M1aと一体化されている。第1入力軸122には、第1キー128を介して第1偏心体軸130が連結されている。第1偏心体軸130には、2つの第1偏心体132が一体的に形成されている。各々の第1偏心体132の外周には、第1偏心体軸受134を介して2枚の前記第1外歯歯車114が、それぞれ揺動可能に組み込まれている。
第1外歯歯車114を2枚軸方向に並列に備えているのは、必要な伝達容量の確保および偏心位相をずらす(本実施形態では180°)ことで回転バランス性の確保を意図したためである。第1外歯歯車114同士の軸方向間隔は、第1差し輪115によって規制されている。
第1外歯歯車114の外歯の歯形は、トロコイド歯形、第1内歯歯車112の内歯の歯形は、円弧歯形である。第1内歯歯車112の内歯は、第1外ピン140によって構成されている。なお、本実施形態に係る歯車装置のシリーズにおいては、第1歯車装置100の第1外ピン140と第2歯車装置200の第2外ピン240は、若干構成が異なっている(後に詳述)。
第1内歯歯車112の内歯の数(第1外ピン140の数)は、第1外歯歯車114の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
第1外歯歯車114は、中心c114からオフセットした位置において、該第1外歯歯車114を貫通する第1貫通孔114Aを備える。第1貫通孔114Aには、第1内ピン116が貫通(遊嵌)している。第1内ピン116の外周には、摺動促進部材として第1内ローラ118が外嵌されている。第1内ローラ118と、前記第1貫通孔114Aとの間には、第1偏心体132の偏心量の2倍相当の隙間が確保されている。
第1外歯歯車114の軸方向側部には、第1内ピン116と一体化された第1フランジ体150が配置されている。第1フランジ体150は、第1出力軸152と一体化されている。
この実施形態に係る第1歯車装置100の第1ケーシング154は、第1内歯歯車112の後述する第1内歯歯車本体138と一体化された第1メインケーシング体156、該第1メインケーシング体156の負荷側(反モータ側)に連結された第1サブケーシング体158、および第1メインケーシング体156の反負荷側(モータ側)に連結された第1カバーケーシング体160を備えている。
ここで、第1歯車装置100の減速作用を簡単に説明する。この減速作用は、基本的に第2歯車装置200でも同一である。
モータM1のモータ軸M1aの回転によって該モータ軸M1aと一体化されている第1入力軸122が回転すると、第1キー128を介して第1偏心体軸130が回転する。第1偏心体軸130が回転すると、第1偏心体132が回転し、第1偏心体軸受134を介して第1外歯歯車114が揺動回転する。この結果、第1外歯歯車114と第1内歯歯車112の噛合位置が順次ずれてゆく現象が発生し、第1入力軸122が1回回転する毎に第1外歯歯車114は、第1内歯歯車112との歯数差分、即ち「1歯分」だけ、第1内歯歯車112に対して相対回転する。この相対回転成分が、第1内ローラ118および第1内ピン116を介して第1フランジ体150に伝達され、第1フランジ体150と一体化されている第1出力軸152が回転する。この結果、(第1内歯歯車112と第1外歯歯車114の歯数差)/(第1外歯歯車114の歯数)に相当する減速比の減速を実現することができる。
次に、図3を主に参照して、本実施形態の歯車装置のシリーズにおける第1歯車装置100と第2歯車装置200を、より詳細に説明する。
第1歯車装置100の第1内歯歯車112は、第1ケーシング154の第1メインケーシング体156と一体化された第1内歯歯車本体138と、該第1内歯歯車本体138に組み込まれた第1外ピン140とを備えている。既に述べているように、第1外ピン140は、第1内歯歯車112の内歯を構成している。具体的には、第1内歯歯車本体138には円弧溝138Aが形成されており、第1外ピン140は、該円弧溝138Aに回転自在に配置された単品のピン部材で構成されている。
一方、第2歯車装置200の第2内歯歯車212も、第2ケーシング254の第2メインケーシング体256と一体化された第2内歯歯車本体238と、該第2内歯歯車本体238に組み込まれ、第2内歯歯車212の内歯を構成する第2外ピン240とを備えている。ただし、第2歯車装置200の第2外ピン240は、第2内歯歯車本体238に形成された円弧溝238Aに配置されたピン部材240Aと、該ピン部材240Aに回転自在に外嵌されたローラ部材240Bとで構成されている。ローラ部材240Bの部分が第2外歯歯車214と噛合している。第2内歯歯車本体238を兼ねる第1メインケーシング体256には、該ローラ部材240Bを収容するための2つの溝部256Dが形成されている。
このように、本発明における「外ピンによって内歯が構成される内歯歯車」には、例えば本実施形態での第1歯車装置100の第1内歯歯車112のように、「単品のピン部材のみの外ピンによって内歯が構成される内歯歯車」と、例えば本実施形態での第2歯車装置200の第2内歯歯車212のように、「ピン部材および該ピン部材に外嵌されたローラ部材の組み合わせによる外ピンによって内歯が構成される内歯歯車」との双方が含まれる。
本実施形態に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置100と第2歯車装置200は、減速比が異なっている。つまり、第2歯車装置200の方が、第1歯車装置100より低減速比である。高減速比の第1歯車装置100は、第1内歯歯車112の内歯の歯数(第1外ピン140の数)が多く、かつ、歯丈(第1外ピン140の径d140)が小さい。一方、低減速比の第2歯車装置200は、第1歯車装置100と比較して、第2内歯歯車212の内歯の歯数(第2外ピン240の数)が少なく、かつ、歯丈(第2外ピン240のローラ部材240Bの径d240B)が大きい(d140<d240B)。
そして、(後述する規制部材A10が配置される軸方向位置における)第1内歯歯車112の中心c112から第1外ピン140までの最短距離を第1距離r140、同じく第2内歯歯車212の中心c212から第2外ピン240のピン部材240Aまでの最短距離を第2距離r240Aとすると、第2距離r240Aは、第1距離r140よりも小さい(r140>r240A)。なお、ピン部材240Aの径はd240Aである。第1外ピン140および第2外ピン240の規制部材A10が当接する部分を「被規制部」とすると、第1距離r140は、第1内歯歯車112の中心c112から被規制部までの距離であり、第2距離r240Aは、第2内歯歯車212の中心c212から被規制部までの距離である。
換言するならば、第1歯車装置100には、規制部材A10が配置される軸方向位置における第1内歯歯車112の中心c112からの最短距離が第1距離r140の第1外ピン140が組み込まれており、第2歯車装置200には、規制部材A10が配置される軸方向位置における第2内歯歯車212の中心c212からの最短距離が第1距離r140よりも小さい第2距離r240Aの第2外ピン240が組み込まれている。
第1外ピン140の軸方向長さは、第2外ピン240の軸方向長さよりも、これから説明する規制部材A10の第1規制部A11の軸方向長さLA11の2倍(2・LA11)に相当する分だけ長い。
本歯車装置のシリーズにおいては、同一の規制部材A10が第1歯車装置100および第2歯車装置200の双方に共用され、規制部材A10によって第1外ピン140および第2外ピン240の径方向移動を規制している。
規制部材A10は、該第1外ピン140あるいは第2外ピン240の軸方向反負荷側の端部に配置されている。便宜上、以降、この軸方向反負荷側の端部に配置された規制部材A10を反負荷側規制部材A10と称する。
反負荷側規制部材A10は、全体がリング形状に形成され、軸と平行な面と、軸と直角な面とを一体的に有している。
軸と平行な面として、反負荷側規制部材A10は、第1歯車装置100の第1外ピン140に当接して径方向移動を規制する第1規制部A11と、第2歯車装置200の第2外ピン240に当接して径方向移動を規制する第2規制部A12と、を一体的に有している。
軸と直角な面として、反負荷側規制部材A10は、第1内ローラ118あるいは第2内ローラ218の軸方向移動を規制する内ローラ端面規制部A13と、第1外歯歯車114あるいは第2外歯歯車214の軸方向移動を規制する外歯歯車端面規制部A14と、第2外ピン240の軸方向移動を規制する第2外ピン端面規制部A15と、反負荷側規制部材A10自体の軸方向位置を規定する位置決め用当接部A16と、を一体的に備えている。
以下、各部A11〜A16の構成についてより詳細に説明する。
反負荷側規制部材A10の第1規制部A11は、該反負荷側規制部材A10の軸方向反負荷側の端部において軸と平行な面で形成されている。反負荷側規制部材A10の中心cA10から第1規制部A11までの距離rA11は、(規制部材A10が配置される軸方向位置における)第1歯車装置100の第1内歯歯車112の中心c112から第1外ピン140までの最短距離(つまり、前記第1距離r140)と同一に設定されている(rA11=r140)。この設定により、反負荷側規制部材A10が第1歯車装置100に組み込まれたときに、該反負荷側規制部材A10の第1規制部A11は、第1外ピン140(の被規制部)に当接し、該第1外ピン140の径方向移動を軸方向反負荷側の端部において規制可能である。
反負荷側規制部材A10の第2規制部A12は、第1規制部A11と軸方向に並んで軸と平行な面で形成されている。反負荷側規制部材A10の中心cA10から第2規制部A12までの距離rA12は、(規制部材A10が配置される軸方向位置における)第2歯車装置200の第2内歯歯車212の中心c212から第2外ピン240までの最短距離(つまり、前記第2距離r240A)と同一に設定されている(rA12=r240A)。この設定により、第2規制部A12は、第2歯車装置200に組み込まれたときに第2外ピン240(の被規制部)に当接し、該第2外ピン240の径方向移動を軸方向負荷側の端部において規制可能である。
なお、この実施形態では、第1規制部A11の軸方向長さは、LA11である。したがって、第1規制部A11の面積sA11は、2・π・rA11・LA11である。又、第2規制部A12の軸方向長さは、LA12である。したがって、第2規制部A12の面積sA12は、2・π・rA12・LA12である。
つまり、本実施形態に係る反負荷側規制部材A10は、第1規制部A11の面積sA11と、第2規制部A12の面積sA12が異なっている(sA11≠sA12)。具体的には、第2規制部A12の面積sA12の方が第1規制部A11の面積sA11よりも大きい(sA11<sA12)。
反負荷側規制部材A10の内ローラ端面規制部A13は、反負荷側規制部材A10の径方向内側端部において軸と直角な面で形成されている。内ローラ端面規制部A13は、第1内ローラ118あるいは第2内ローラ218の軸方向端面全体に当接し、第1内ローラ118あるいは第2内ローラ218の軸方向反負荷側への移動を規制している。
反負荷側規制部材A10の外歯歯車端面規制部A14は、内ローラ端面規制部A13の径方向外側において軸と直角な面で形成されている。外歯歯車端面規制部A14は、(2枚の第1外歯歯車114のうち)反負荷側の第1外歯歯車114の反負荷側端面あるいは第2外歯歯車214の反負荷側端面に当接し、該第1外歯歯車114、あるいは第2外歯歯車214の軸方向反負荷側への移動を規制している。
反負荷側規制部材A10の第2外ピン端面規制部A15は、第1規制部A11と第2規制部A12との間の段差部において、軸と直角な面で形成されている。第2歯車装置200の第2外ピン240の反負荷側の軸方向端面240E1は、この第2外ピン端面規制部A15と当接している。そして、当該第2外ピン240の軸方向端面240E1と第2外ピン端面規制部A15との当接により、第2外ピン240の軸方向反負荷側への移動が規制されている。
なお、第2外ピン240の軸方向負荷側の移動規制は、第2外ピン240の負荷側の軸方向端面240E2と第2サブケーシング体258の押え面258Aの当接によって行われている。因みに、本実施形態では、第1外ピン140の軸方向移動の規制は、第1外ピン140の反負荷側の軸方向端面140E1が第1カバーケーシング体160の押え面160Aに当接すると共に、負荷側の軸方向端面140E2が第1サブケーシング体158の押え面158Bに当接することによって行われている。
反負荷側規制部材A10の位置決め用当接部A16は、第1規制部A11の軸方向端部において、軸と直角な面で形成されている。反負荷側規制部材A10は、第1カバーケーシング体160の第1突部160P、または第2カバーケーシング体260の第2突部260Pに外嵌される。位置決め用当接部A16は、このときに、第1カバーケーシング体160の押え面160Aあるいは第2カバーケーシング体260の押え面260Aと当接して反負荷側規制部材A10自体の軸方向反負荷側への移動を規制する。これにより、該反負荷側規制部材A10の第1歯車装置100あるいは第2歯車装置200への組み込み位置が規定される。
なお、反負荷側規制部材A10自体の軸方向負荷側への移動規制は、前記内ローラ端面規制部A13と第1内ローラ118あるいは第2内ローラ218との当接、あるいは、前記外歯歯車端面規制部A14と第1外歯歯車114あるいは第2外歯歯車214との当接によって行われる。
一方、本実施形態に係る歯車装置のシリーズにあっては、第1、第2歯車装置100、200とも、反負荷側規制部材A10のほか、第1外ピン140の径方向移動を規制する支持部材B10を備えると共に、第2外ピン240の径方向移動を規制する前記支持部材B10とは異なる支持部材(他の支持部材)B20を備えている。
具体的には、本実施形態では、支持部材B10として、第1外ピン140の反負荷側の軸方向端部において、第1、第2サブケーシング体158、258の軸方向端面に(第1、第2サブケーシング体158、258と一体化された)円環状の溝(支持部)158C、258Cが形成されている。また、他の支持部材B20として、第1、第2外ピン140、240の反負荷側の軸方向端部において、第1、第2メインケーシング体156、256に貫通孔156C、256Cが形成されている。なお、第2サブケーシング体258側に形成された支持部材B10(円環状の溝258C)は、第2歯車装置200の第2外ピン240の支持には寄与していない。また、第1サブケーシング体158側に形成された他の支持部材B20(貫通孔156C)は、第1歯車装置100の第1外ピン140の支持には寄与していない。
次に、本実施形態に係る歯車装置のシリーズの作用を説明する。
本実施形態に係る歯車装置のシリーズにおいては、反負荷側規制部材A10は、第1外ピン140に当接して径方向移動を規制する第1規制部A11と、第2外ピン240に当接して径方向移動を規制する第2規制部A12と、を有している。そのため、第1歯車装置100の第1外ピン140の反負荷側の軸方向端部は、反負荷側規制部材A10の第1規制部A11によって径方向移動が規制され、一方、第2歯車装置200の第2外ピン240の反負荷側の軸方向端部も、反負荷側規制部材A10の第2規制部A12によって径方向移動が規制される。したがって、反負荷側規制部材A10は、第1外ピン140の反負荷側の軸方向端部の径方向移動の規制、および第2外ピン240の反負荷側の軸方向端部の径方向移動を規制の双方に関して、第1歯車装置100と第2歯車装置200に共用することができる。
つまり、(規制部材A10が配置される軸方向位置における)第1歯車装置100の第1外ピン140の第1距離r140と、第2歯車装置200の第2外ピン240の第2距離r240Aが異なっているにも拘わらず、単一の反負荷側規制部材A10を製造・準備するだけで、第1歯車装置100の第1外ピン140の径方向移動を規制すると共に、第2歯車装置200の第2外ピン240の径方向移動も規制することができる。
したがって、第1歯車装置100と第2歯車装置200とで異なる種類の(反負荷側)規制部材をそれぞれ製造・準備する必要がなく、シリーズ全体として規制部材の種類数を半減させることができ、製造コストおよび在庫コストを低減できる。
そして、本実施形態では、さらに、以下のような作用も得られる。
既に説明したように、本シリーズに係る第1、第2歯車装置100、200は、第1内ローラ118、あるいは第2内ローラ218を備えるが、反負荷側規制部材A10は、該第1、第2内ローラ118、218の軸方向移動を規制する内ローラ端面規制部A13を一体的に備えている。そのため、第1、第2内ピン116、216の軸方向移動を規制する部材を別途設ける必要がなく、部品点数を一層低減することができる。また、第1、第2規制部A11、A12は、軸と平行な面で構成されるが、当該内ローラ端面規制部A13は、軸と直角の面で構成されている。そのため、反負荷側規制部材A10は、軸と平行な面と軸と直角の面とを一体的に備えることになり、形状的に高い剛性を確保することができ、第1、第2規制部A11、A12での規制機能をより向上させることができる。
また、この反負荷側規制部材A10は、第1、第2規制部A11、A12および内ローラ端面規制部A13を一体的に備えるだけでなく、さらに、第1外歯歯車114、あるいは第2外歯歯車214の軸方向移動を規制する外歯歯車端面規制部A14、および、第2外ピン240の軸方向反負荷側への移動を規制する第2外ピン端面規制部A15を、一体的に備えている。このため、1個の部材で、非常に多くの機能を兼用しており、歯車装置全体での部品点数をより低減している。
また、本実施形態では、反負荷側規制部材A10の、第1規制部A11の面積sA11と第2規制部A12の面積sA12が異なっている。そのため、第1歯車装置100の第1外ピン140の近傍と第2歯車装置200の第2外ピン240の近傍の具体的な構成に応じて、より合理的な移動規制の設計を柔軟に行うことができる。
例えば、本実施形態では、第2規制部A12の面積sA12の方が、第1規制部A11の面積sA11よりも大きく設定してある。前述したように、本実施形態では、第1外ピン140は、単品部材のピン部材によって内歯を構成している。第2外ピン240は、ピン部材240Aおよび該ピン部材240Aに回転自在に外嵌されたローラ部材240Bによって内歯を構成している。そのため、第2外ピン240は、ピン部材240Aが安定した状態で組付けられていないと、ピン部材240Aの動きおよびローラ部材240Bの動きに干渉や異常音が発生する虞がある。本実施形態では、第2規制部A12の面積sA12の方が、第1規制部A11の面積sA11よりも大きく設定してあるため、第2外ピン240の規制をより安定させることができ、第2外ピン240において、このような異常音が発生する虞をより低減させることができる。
また、本実施形態では、反負荷側規制部材A10のほかに、第1外ピン140の径方向移動を規制する支持部材B10(円環状の溝158C)、および第2外ピン240の径方向移動を規制する他の支持部材B20(貫通孔256C)を備えている。
そのため、第1歯車装置100の第1外ピン140は、反負荷側の軸方向端部が、反負荷側規制部材A10の第1規制部A11によって径方向移動が規制されると共に、負荷側の軸方向端部が、第1サブケーシング体158と一体的に形成された支持部材B10(円環状の溝158C)によって径方向移動が規制される。したがって、第1外ピン140は、規制部材A10と、支持部材B10とにより、軸方向両端部において、極めて安定した状態で径方向移動を規制することができる。
また、第2歯車装置200の第2外ピン240は、反負荷側の軸方向端部が、反負荷側規制部材A10の第2規制部A12によって径方向移動が規制されると共に、負荷側の軸方向端部が、第2メインケーシング体256に形成された他の支持部材B20(貫通孔256C)に挿入されることによって径方向移動が規制される。したがって、第2外ピン240も、規制部材A10と、他の支持部材B20とにより、軸方向両端部において、極めて安定した状態で径方向移動を規制することができる。
結局、第1歯車装置100の第1外ピン140も、また、第2歯車装置200の第2外ピン240も、共通の反負荷側規制部材A10を1個用意するだけで、それぞれの軸方向の両端部で径方向移動を安定して規制することができる。
そして、特に、第2外ピン240は、軸方向反負荷側においては、反負荷側規制部材A10の第2規制部A12の面積sA12が第1規制部A11の面積sA11よりも大きく確保され、かつ、軸方向負荷側においては、ピン部材240Aの全周を覆う他の支持部材(貫通孔)B20によって周方向にも支持されている。このことから、特に、(減速比が小さく)速い速度で回転する第2外ピン240のローラ部材240Bを安定して回転させることができる。
図4は、本発明の他の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置の構成を示す断面図、図5は、同、第2歯車装置の構成を示す断面図、図6(A)は図4の要部拡大断面図、図6(B)は図5の要部拡大断面図である。なお、以降の他の実施形態の説明においては、先の実施形態と対応する部材には適宜同一の符号を付し、重複説明は省略する。
この図4〜図6の実施形態では、歯車装置は、既述の反負荷側規制部材A10のほか、第1、第2外ピン140、240の径方向移動を軸方向負荷側の端部において規制する負荷側規制部材(第2の規制部材)A20を備えている。
より具体的に説明すると、反負荷側規制部材A10については、先の図1〜図3の反負荷側規制部材A10と同一の構成とされている。一方、負荷側規制部材A20は、当該反負荷側規制部材A10と同一の構成の第1、第2規制部A21、A22、第2外ピン端面規制部A25、および位置決め用当接部A26を備えている。ただし、この負荷側規制部材A20は、外歯歯車端面規制部A24については、該負荷側規制部材A20の軸方向端部に形成されているものの、内ローラ端面規制部は備えていない。負荷側規制部材A20は、反負荷側規制部材A10と組み込み方向を逆にして、(第2規制部A22が第1規制部A21の軸方向内側に位置するように)対称に組み込まれている。
この図4〜図6の実施形態に係る歯車装置のシリーズにおいては、先の実施形態での反負荷側規制部材A10と同様の作用を、第1歯車装置100の第1外ピン140および第2歯車装置200の第2外ピン240の軸方向両側において、対称に得ることができる。
この図4〜図6の実施形態においては、(支持部材B10や他の支持部材B20を形成するに当たって、第1、第2ケーシング154、254の加工を必要としないため)製造コストをより低減できるという作用効果が得られる。
その他の構成については、先の図1〜図3の実施形態と同様であるため、図中で対応する部位に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
図7は、本発明のさらに他の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置の構成を示す断面図、図8は、同、第2歯車装置の構成を示す断面図、図9(A)は図7の要部拡大断面図、図9(B)は図8の要部拡大断面図である。
この図7〜図9の実施形態は、図4〜図6の実施形態において、第1、第2外ピン140、240の軸方向負荷側に配置されていた負荷側規制部材A20を、軸方向反負荷側における反負荷側規制部材A30としても活用するようにしたものである。つまり、この実施形態においては、反負荷側規制部材A30と、負荷側規制部材A20は、同一の部材である(A20=A30)。
要するならば、この図7〜図9の実施形態においては、図1〜図3の規制部材A10が一体的に備えていた内ローラ端面規制部A13の機能を、専用の内ローラ端面押え部材C10にて得るようにしている。また、図1〜図3の規制部材A10が一体的に備えていた外歯歯車端面規制部A14の機能は、第1、第2カバーケーシング体160、260の第1、第2突起部160Q、260Qに受け持たせ、該第1、第2突起部160Q、260Qによって第1、第2外歯歯車114、214の軸方向反負荷側への移動を規制している。このように、本発明に係る規制部材は、内ローラ端面規制部や外歯歯車端面規制部を、必ずしも一体的に備えていなくてもよい。
この図7〜図9の実施形態によれば、反負荷側規制部材A30と負荷側規制部材A20の構成が同一であるため、規制部材の種類数を更に低減することができる。また、内ローラ端面の軸方向規制が、第1、第2外ピン140、240の径方向移動を規制する規制部材A20、A30とは別の内ローラ端面押え部材C10で行われているため、形状が簡単になり、製作コストを低減できる。
その他の構成については、先の図4〜図6の実施形態と同様であるため、図中で対応する部位に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
図10は、本発明のさらに他の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置100の構成を示す断面図、図11は、同、第2歯車装置の構成を示す断面図、図12(A)は図10の要部拡大断面図、図12(B)は図11の要部拡大断面図である。
この図10〜図12の実施形態は、図1〜図3の実施形態の変形例として捉えることができる。
すなわち、図10〜図12の実施形態に係る歯車装置のシリーズにおいても、図1〜図3の実施形態と同様に、第1歯車装置100は、反負荷側規制部材A10のほか、第1外ピン140の径方向移動を規制する支持部材B10を備える。また、第2歯車装置200は、反負荷側規制部材A10のほか、第2外ピン240の径方向移動を規制する支持部材B10とは異なる他の支持部材B30を備えている。
図10〜図12の実施形態では、この他の支持部材B30の具体的構成が、先の図1〜図3の実施形態での他の支持部材B20と異なる。つまり、この図10〜図12の実施形態では、他の支持部材B30が、第2差し輪(間隔規制部材)217によって構成されている。
より具体的に説明すると、これまでの実施形態(図1〜図9までの実施形態)では、第1外歯歯車114の軸方向間隔については、第1外ピン140と接触しない第1差し輪115によって、第2外歯歯車214の軸方向間隔については、第2外ピン240と接触しない第2差し輪215によって、それぞれ規制されていた。
しかし、この図10〜図12の実施形態においては、特に、第2差し輪215を第2差し輪217に変更し、該第2差し輪217の外周の半径r217を、第2外ピン240の第2距離r240Aに一致させている(r217=r240A)。これにより、第2差し輪217を、第2外ピン240の径方向移動を規制する「他の規制部材B30」として兼用することができる。このため、図10〜図12の実施形態における第1、第2歯車装置100、200の第1、第2メインケーシング体156、256には、他の規制部材(B20)を構成するための貫通孔は形成されていない。
図10〜図12の実施形態おいては、第2差し輪217を「他の支持部材」として兼用させることにより、第1、第2メインケーシング体156、256における他の支持部材(貫通孔)の形成を省略し、その分、コスト低減を図っている。
その他の構成については、先の図1〜図3の実施形態と同様であるため、図中で対応する部位に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
図13は、本発明のさらに他の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置の構成を示す断面図、図14は、同、第2歯車装置の構成を示す断面図、図15(A)は図13の要部拡大断面図、図15(B)は図14の要部拡大断面図である。
この図13〜図15の実施形態は、図7〜図9の実施形態の変形例として捉えることができる。
すなわち、本実施形態に係る歯車装置のシリーズにあっては、図7〜図9の実施形態における第1、第2外ピン140、240の軸方向反負荷側に配置される反負荷側規制部材A30を、第1、第2カバーケーシング体160、260と一体化した反負荷側規制部材A40に変更している。つまり、図13〜図15の実施形態における(反負荷側規制部材A40を含む)第1、第2カバーケーシング体160、260は、図7〜図9の実施形態の反負荷側規制部材A30の第1規制部A31に相当する第1規制部A41として、第1段差部160M、260Mを一体的に有している。さらに、第1、第2カバーケーシング体160、260は、反負荷側規制部材A30の第2規制部A32に相当する第2規制部A42として、第2段差部160N、260Nを一体的に有している。
このように、本発明では、規制部材は、必ずしも独立した(単独の)部材で構成する必要はなく、ケーシング体等と一体化されていてもよい。図13〜図15の実施形態によれば、例えば、第1、第2外ピン140、240の軸方向反負荷側においては、独立した規制部材を完全に省略することができるようになる。
その他の構成については、先の図7〜図9の実施形態と同様であるため、図中で対応する部位に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
なお、上記実施形態では、いずれも第2歯車装置の第2外ピンのみが、ピン部材とローラ部材とからなる構成とされていた。しかしながら、既に説明したように、本発明に係る内歯歯車の外ピンは、第1歯車装置の第1外ピンおよび第2歯車装置の第2外ピンの双方とも、ピン部材のみで構成されていてもよい。逆に、第1外ピンおよび第2外ピンの双方とも、ピン部材およびローラ部材とで構成されていてもよい。なお、外ピンがピン部材およびローラ部材とで構成されている場合には、上述した実施形態のように、規制部材は、(ローラ部材ではなく)回転量が小さいピン部材の径方向移動を規制するようにするとよい。
また、上記実施形態では、いずれも第1外ピンを有する第1歯車装置と、第2外ピンを有する第2歯車装置との2種類の歯車装置のみを構成要素として備えた歯車装置のシリーズが例示されていたが、本発明に係る歯車装置のシリーズは、当然に、これよりも多い種類の歯車装置を構成要素として備えたシリーズにも適用可能である。例えば、上記構成に係るような、第1外ピンに当接して径方向移動を規制する第1規制部と、第2外ピンに当接して径方向移動を規制する第2規制部と、を有する規制部材を、「3種類」設けることにより、合計6種類の外ピンの径方向移動を規制することができる。また、規制部材の規制部を第1規制部および第2規制部の2つ(2段)のみとせず、例えば、階段状に、さらに第3規制部、第4規制部、…を形成することにより、1個の規制部材でより多種類の外ピンに対応させることも可能である。
また、上記実施形態では、第1規制部の面積と第2規制部の面積を異ならせていたが、第1規制部の面積と第2規制部の面積は、同一に設定されていてもよい。異ならせる場合でも、例えば、上記実施形態とは逆に、第1規制部の面積の方が、第2規制部の面積よりも大きくなるように設定してもよい。例えば、上記実施形態のように第2外ピンのみがピン部材とローラ部材とで構成され、該第2外ピンのピン部材の負荷側端部が、例えばサブケーシング体に圧入されることによって、もともと高い剛性で組付けられている場合などでは、回転する必要のある第1規制部の面積の方を、むしろ大きく設定してもよい。
また、上記実施形態では、反負荷側の規制部材に対して、負荷側の規制部材(第2の規制部材)、支持部材、あるいは他の支持部材等を、「併用部材」として適宜配置していたが、本発明においては、これらの併用部材は、必ずしも設ける必要はない。また、規制部材は、必ず外ピンの反負荷側に配置しなければならないものでもなく、例えば、外ピンの負荷側にのみ規制部材が設けられている構成であってもよい。支持部材に関しては、上記円環状の溝、貫通孔、差し輪の例でも示されているように、第1外ピンおよび第2外ピンのうちの一方のみに対してだけ設けられたものであってもよい。したがって、例えば、本発明に係る規制部材のほかに、従来と同様の一方の外ピンに対してだけ機能する構成の「ピン押え部材」を、支持部材として併用する構成を採用してもよい。
また、上記歯車装置のシリーズにおいては、該歯車装置の径方向中央に外歯歯車を偏心揺動させる偏心体軸を有するセンタクランク型の偏心揺動型の減速機構を有する歯車装置が採用されていたが、本発明に係る歯車装置のシリーズの減速機構は、この構成に限定されない。例えば、外歯歯車を揺動させる偏心体を有する偏心体軸を、歯車装置の径方向中央からオフセットした位置に複数備え、各偏心体軸を同期して回転させることによって外歯歯車を揺動させる、いわゆる振り分け型と称される偏心揺動型の歯車装置に適用することもできる。さらには、偏心揺動型の歯車装置でなくても、内歯歯車が、外ピン(円弧歯形)で構成される種々の歯車装置に適用することができる。
また、上記歯車装置のシリーズにおいては、外歯歯車の外歯と内歯歯車の内歯の歯数差が、「1」の例が示されていたが、外歯歯車と内歯歯車の歯数差は、例えば2以上であってもよい。一般に、歯数差が同一の場合には、減速比が小さいほど、内歯歯車の中心からの最短距離は小さくなる傾向となるが、歯数差が異なる場合には、減速比と内歯歯車の中心からの最短距離との関係は必ずしもこの傾向とはならないことがある。本発明に係る歯車装置のシリーズにおいては、(減速比の如何に関わらず)第1内歯歯車の中心から被規制部までの距離が第1距離の第1外ピンが組み込まれた歯車装置が第1歯車装置と定義され、第2内歯歯車の中心から被規制部までの距離が第1距離よりも小さい第2距離の第2外ピンが組み込まれた歯車装置が第2歯車装置と定義される。