従来の電磁誘導加熱方式の定着装置は、ウォームアップ時間を短縮するために、加熱回転体の導電層を薄くする事で、熱容量を小さく設計する方向にある。その結果、ウォームアップ時間は短くなるものの、記録材が加熱回転体の有する熱を奪った際の、加熱回転体の温度低下も大きくなる。この温度低下は、短時間で回復されるように設計はされているが、加熱回転体1周目と2周目といった極短時間での領域においては、十分に回復することは困難である。
その結果、同じ1枚の記録材でも、加熱回転体1周目と2周目との定着範囲において、微小な温度差が生じ、これが、光沢度の不均一化につながる可能性がある。特にグラフィック用途で使用されるような画質・質感をより重視されるような状況においては問題となりうる場合がある。
そこで我々は、電磁誘導加熱方式の定着装置において、加熱回転体の微小な温度低下が起こり難い定着装置構成とした。また、前記定着装置と、温度による損失弾性率G”の変化をできるだけ小さくしたトナーとを組み合わせることで、光沢度の均一性に優れた画像を提供できることを見出した。
以下本発明に関して、詳細を説明する。
定着装置は、導電層を有する筒状の回転体と、前記回転体の内部に配置され、螺旋軸が前記回転体の母線方向と略平行である螺旋形状部とを有する。更に、前記定着装置は、前記導電層を電磁誘導発熱させる交番磁界を形成するためのコイルと、前記螺旋形状部の中に配置され、前記交番磁界の磁力線を誘導するためのコアと、を備える。前記定着装置において、前記母線方向に関し記録材上の画像の最大通過領域の一端から他端までの区間において、前記コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下であることを特徴とする。
以下、図面に基づき本発明について説明する。
(1)画像形成装置
図2は本実施例に係る画像形成装置100の概略構成図である。本実施例の画像形成装置100は、電子写真プロセス利用したレーザービームプリンタである。101は像担持体としての回転ドラム型の電写真感光体(以下、感光体ドラムと記す)であり、所定の周速度にて回転駆動される。
感光体ドラム101は回転する過程において帯電ローラ102により所定の極性、所定の位、に一様に帯電処理される。103は露光手段としてのレーザービームスキャナである。スキャナ103は、不図示のイメージスキャナやコンピュータ等の外部機器から入力される画像情報に応じて変調したレーザー光Lを出力して、感光体ドラム101の帯電処理した面を走査露光する。この走査露光により感光体ドラム101表面の電荷が除電され感光体ドラム101の表面に画像情報に応じた静電潜像が形成される。104は現像装置であり、現像ローラ104aから感光体ドラム101表面にトナーが供給されて静電潜像がトナー像として現像される。105は、記録材Pが積載して収納される給紙カセットである。給紙開始信号に基づいて給紙ローラ106が駆動されて給紙カセット105内の記録材Pが一枚ずつ分離して給紙される。その記録材Pは、レジストレーションローラ17を介して、感光体ドラム101と転写ローラ108とで形成された転写部位108T所定のタイミングで導入される。すなわち、感光体ドラム101上のトナー像の先端部が転写部位108Tに到達するタイミングで、記録材Pの先端部が転写部位108Tに到達するようにレジストレーションローラ107で記録材Pの搬送が制御される。転写部位108Tに導入された記録材Pは、この転写部位108Tで搬送され、その間、転写ローラ108は不図示の転写バイアス印加電源によって転写バイアス電圧が印加される。転写ローラ108はトナーと逆極性の転写バイアス電圧が印加されることで転写部位108Tにおいて感光体ドラム101の表面側のトナー像が記録材Pの表面に転写される。転写部位108Tにおいてトナー像が転写された記録材Pは感光体ドラム101の表面から分離されて搬送ガイド109を経由し定着装置Aで定着処理される。定着装置Aについては後述する。一方、記録材が感光体ドラム101から分離した後の感光体ドラム101の表面はクリーニング装置110でクリーニングされ、繰り返し画像形成動作に供される。定着装置Aを通った記録材Pは、排紙口111から排紙トレイ112上に排出される。
(2)定着装置
2−1)概略構成
図3は定着装置1の概略断面図である。定着装置1は、加熱部材と加圧部材とを有する加熱加圧手段により、記録材上のトナーによって形成された画像を加熱加圧定着する定着装置である。具体的構成としては、筒状の加熱回転体しての定着フィルム1(加熱部材)と、定着フィルム1の内面と接触するニップ部形成部材としてのフィルムガイド9(ベルトガイド)と、対向部材としての加圧ローラ7(加圧部材)と、を有する。加圧ローラ7は、定着フィルム1を介してニップ部形成部材と共にニップ部Nを形成する。トナー像Tを担持した記録材Pをニップ部Nを通過させることによって、トナー像Tを加熱し、記録材Pに定着する。
ニップ部形成部材9は、不図示の軸受け手段及び付勢手段により総圧約50〜100N(約5kgf〜約10kgf)の押圧力で加圧ローラ7に対して定着フィルム1を挟んで押圧されている。そして、加圧ローラ7は、不図示の駆動源によって矢印方向に回転駆動され、ニップ部Nにおける摩擦力で定着フィルム1に回転力が作用し、定着フィルム1は加圧ローラ7に従動して回転する。ニップ部形成部材9は、定着フィルム1の内面をガイドするフィルムガイドとしての機能もあり、耐熱性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)等で構成されている。
定着フィルム1(定着ベルト)は、直径(外径)が10〜100mmの金属製の導電層1a(基層)と、導電層1aの外側に形成した弾性層1bと、弾性層1bの外側に形成した表層1c(離型層)と、を有する。以後、導電層1aを「円筒形回転体」又は「円筒体」と記す。定着フィルム1は、可撓性を有する。
実施例1に用いた定着装置1においては、円筒形回転体1aは、比透磁率が1.0で、厚さが20μmのアルミニウムを用いる。円筒形回転体1aの材質としては、非磁性材料であるアルミニウム、銅(Cu)、Ag(銀)及び、オーステナイト系ステンレス(SUS)のうち、少なくとも一つで形成されている事が好ましい。
本定着装置の特徴の一つとして、円筒形回転体1aに使用できる材質の選択肢が広いこと挙げられる。これにより、加工性に優れた材質やコストの安い材質を使うことが出来るというメリットがある。
円筒形回転体1aの厚みは75μm以下、好ましくは50μm以下が良い。なぜなら、円筒形回転体1aに適度な可撓性を持たせ且つ熱容量を小さくしたいためである。直径が小さい方が、熱容量を小さくするのに有利である。
以上の理由により、熱容量の極小化を実現するためには、導電層1aの厚みを50μm以下で使いこなすことが重要である。本発明の定着装置は、後述するが、電磁誘導加熱方式の定着装置においても、導電層1aの厚みを50μm以下に出来るというメリットがある。
弾性層1bは、硬度が20度(JIS−A、1kg加重)のシリコーンゴムで形成され、厚みが0.1〜0.3mmである。そして、弾性層1b上に表層1c(離型層)として厚みが10〜50μmのフッ素樹脂チューブを被覆している。磁性コア2は、定着フィルム1の中空部に、定着フィルム1の母線方向に挿通されている。その磁性コア2の外周に励磁コイル3が巻かれている。
2−2)磁性コア
図1は円筒形回転体1a(導電層)と、磁性コア2と、励磁コイル3の斜視図である。
磁性コア2は、円柱形状をしており、不図示の固定手段で定着フィルム1のほぼ中央に配置させている。磁性コア2は、励磁コイル3にて生成された交番磁界の磁力線(磁束)を円筒形回転体1aの内部(円筒形回転体1aと磁性コア2の間の領域)に誘導し、磁力線の通路(磁路)を形成する役割がある。この磁性コア2の材質は、ヒステリシス損が小さく比透磁率の高い材料、例えば、焼成フェライト、フェライト樹脂、非晶質合金(アモルファス合金)、やパーマロイ等の高透磁率の酸化物や合金材質で構成される強磁性体が好ましい。特に21kHz〜100kHz帯の高周波交流を励磁コイルに流す場合、高周波電流において損失の小さな焼成フェライトが好ましい。磁性コア2は、円筒形回転体1aの中空部に収納可能な範囲で、断面積をできるだけ大きくすることが好ましい。本実施例では磁性コアの直径は5mm〜40mmとし、長手方向の長さ230〜300mmとする。尚、磁性コア2の形状は円柱形状に限定されず、角柱形状などでも良い。また、磁性コアを長手方向に複数分割し、各コア間にギャップ(空隙)を設けても良いが、その際は後述する理由により分割した磁性コア同士のギャップを極力小さく構成することが好ましい。
2−3)励磁コイル
励磁コイル3は、耐熱性のポリアミドイミドで被覆した直径1〜2mmの銅線材(単一導線)を、磁性コア2に約10巻〜100巻で螺旋状に巻いて形成する。本実施例では励磁コイル3の巻き数は18回とする。励磁コイル3は、磁性コア2に定着フィルム1の母線方向に交差する方向に巻回されているため、この励磁コイルに高周波電流を流すと、定着フィルム1の母線方向に平行な方向に交番磁界を発生させることができる。
尚、励磁コイル3は、必ず磁性コア2に巻きつけられている必要はない。励磁コイル3は螺旋形状部を有し、その螺旋形状部の螺旋軸が円筒形回転体の母線方向と平行になるように螺旋形状部が円筒形回転体の内部に配置され、磁性コアが螺旋形状部の中に配置されていれば良い。例えば、円筒形回転体の内部に励磁コイル3が螺旋状に巻かれたボビンを有し、磁性コア2がそのボビンの内部に配置されている構成でも良い。
また、発熱原理的に螺旋軸と円筒形回転体の母線方向が平行である時に、発熱効率は最も高くなる。しかしながら、螺旋軸の円筒形回転体の母線方向に対する平行度がずれた場合、「回路を平行に貫く磁束の量」がわずかに減少し、その分発熱効率が減少するものの、数度程度傾くだけであれば、実用上全く問題はない。
2−4)温度制御手段
図1における温度検知部材4は、定着フィルム1中央部の表面温度を検知するために設けられる。本実施例では、温度検知部材4として非当接型サーミスタを用いている。高周波コンバータ5は、励磁コイル3に、給電接点部3a,3bを介して高周波電流を供給する。なお、日本国内では電波法施行規則により電磁誘導加熱の利用周波数は20.05kHzから100kHzの範囲に定められている。また、電源の部品コスト上、周波数は低いことが好ましいため、利用周波数帯の下限付近21kHz〜40kHzの領域において周波数変調制御を行う。以下周波数変調制御について説明する。共振回路を用いて誘導発熱を行う電磁誘導方式においては図4のグラフのように、駆動周波数により出力電力が変化する。これは、駆動周波数が共振周波数と一致するときに電力は最大となり、駆動周波数が共振周波数から遠ざかると電力が下がるという性質を利用したものである。すなわち、目標温度と検温素子9の温度差に応じて、駆動周波数を21kHz〜100kHzまで変化させることにより、出力電力を調整するという方法である。制御回路6は、温度検知部材4によって検出された温度を基に高周波コンバータ5を制御する。これにより、定着フィルム1は電磁誘導加熱されて表面の温度が所定の目標温度(約150℃〜200℃)になるように電力が制御される。
(3)発熱原理
3−1)磁力線の形状と誘導起電力
図5(a)は、同形状のソレノイドコイル3の中心に磁性コア2を挿通して磁路を形成した場合の、コイル形状と磁界の対応図である。本磁力線の向きは、矢印Iの向きに電流が増加している瞬間である。磁性コア2は、ソレノイドコイル3にて生成された磁力線を内部に誘導し、磁路を形成する部材として機能する。定着装置1の磁性コア2は、環状になっているものではなく、長手方向にそれぞれ端部を有するものである。そのため、磁力線は、大多数がソレノイドコイル中央の磁路に集中して通って、磁性コア2の長手方向の端部において拡散する形状の開磁路となる。そのため、コイルの隙間Δdにおける磁力線の漏えいも少なく、両極から出た磁力線は、外周の遥か遠くで繋がる形状の開磁路となる(図の表記上は端部で途切れている)。図5(b)は、ソレノイド中心軸Xにおける磁束密度の分布を示す。磁束密度は、グラフ上の曲線B2に示すように、B1と比較してソレノイドコイル3の端部での磁束密度の減衰が少なくなっており、台形に近い形状となる。
3−2)誘導起電力
発熱原理はファラデーの法則に従う。ファラデーの法則とは、「回路の中の磁界を変化させると、その回路の中に電流を流そうとする誘導起電力が生じ、誘導起電力は回路を垂直に貫く磁束の時間変化に比例する」というものである。図6(a)に示すソレノイドコイル3の磁性コア2の端部近傍に、コイルと磁性コアより直径の大きな回路Sを置き、コイル3には高周波交流を流す場合を考える。高周波交流を流した場合、ソレノイドコイル周辺には交番磁界(時間と共に大きさと方向が変化を繰り返す磁界)が形成される。その時、回路Sに発生する誘導起電力は、以下の式(1)に従い、ファラデーの法則より回路Sの中を垂直に貫く磁束の時間変化に比例する。
V:誘導起電力
N:コイル巻き数
ΔΦ/Δt:微小時間Δtでの回路を垂直に貫く磁束の変化
すなわち、励磁コイルに直流電流を流して静磁界を形成した状態において、回路Sの中を磁力線の垂直成分がより多く通過していると、高周波の交流電流を流して交番磁界を発生させた時の際の磁力線の垂直成分の時間変化も大きくなる。その結果、発生する誘導起電力も大きくなり、その磁束の変化を打ち消す方向に電流が流れる。すなわち、交番磁界を発生させた結果、電流が流れると、磁束の変化は打消されて静磁界を形成した際とは異なる磁力線形状となる。また、この誘導起電力Vは、交流電流の周波数が高い(すなわちΔtが小さい)ほど大きくなる傾向がある。したがって、50〜60Hzの低周波数の交流電流を励磁コイルに流した場合と、21kHz〜100kHzの高周波数の交流電流を励磁コイルに流した場合では、所定の磁束の量で発生させることのできる起電力は大きく異なる。交流電流の周波数を高周波数にすると、少ない磁束でも高い起電力を発生させることが出来るのである。従って、交流電流の周波数を高周波数することは、断面積の小さな磁性コアで大きい熱量を発生させることができるため、小さな定着装置に大きな熱量を発生させたい場合に非常に有効である。これは、交流電流の周波数を大きくすることによって、トランスを小型化できる事と似ている。例えば、低周波数帯(50〜60Hz)で用いられるトランスは、Δtが大きい分だけ磁束Φを大きくする必要があり、磁性コアの断面積を大きくする必要がある。これに対して高周波数帯(kHz)で用いられるトランスは、Δtが小さい分だけ磁束Φを小さくすることが可能であり、磁性コアの断面積を小さく設計することができる。
以上述べたことから、交流電流の周波数を21kHz〜100kHzの高周波数帯で用いることで、磁性コアの断面積を小さくして画像形成装置の小型化を実現することができる。
交番磁界によって高効率で回路Sに誘導起電力を発生させるためには、回路Sの中を磁力線の垂直成分がより多く通過している状態を設計する必要がある。しかし、交番磁界においては、コイルに誘導起電力が発生した際の反磁界の影響等も考慮する必要があり、現象が複雑となってしまう。本発明の定着装置については後述するが、本発明の定着装置を設計するためには、誘導起電力の発生していない静磁界の状態の磁力線の形によって議論を進めることによって、より簡単な物理モデルで設計を進めることが出来る。すなわち静磁界における磁力線形状を最適化することによって、交番磁界において高効率に誘導起電力を発生させる定着装置が設計できる。
図6(b)は、ソレノイド中心軸Xにおける磁束密度の分布を示す。コイルに直流電流を流して静磁界(時間的に変動しない磁界)を形成した場合を考えると、回路Sを位置X1に置いたときの磁束に対して、位置X2に置いたときに、回路Sを垂直に貫く磁束はB2に示すように増加する。そして位置X2において、磁性コア2に束縛された磁力線がほぼ全て回路Sの中に納まり、位置X2よりもX軸正方向の安定領域Mにおいては、回路を垂直に貫く磁束は飽和し、常に最大となる。同様のことは反対側端部にも言え、図7(b)の磁束密度の分布に示すように位置X2から、反対側端部のX3までの安定領域Mは、回路Sの中を垂直に貫く磁束密度は飽和し、安定している。図7(a)に示すように、この安定領域Mは、磁性コア2のある領域内に存在する。
図8(a)に示すように、本発明における磁力線構成としては、静磁界を形成した場合において円筒形回転体1aを、X2からX3の領域で覆せる。そして磁性コア2の一端(磁極NP)から他端(磁極SP)まで、円筒形回転体の外部を磁束が通る磁力線の形状を設計する。そして、安定領域Mを用いて記録材の画像を加熱する。従って、定着装置1においては、少なくとも磁路を形成するための磁性コア2の長手方向の長さは、記録材Pの最大の画像加熱領域ZLよりも長い構成とする必要がある。更に好ましい構成としては、磁性コア2と励磁コイル3の両方の長手方向の長さを最大の画像加熱領域ZLよりも長い構成とすると良い。そうすることによって、記録材P上のトナー像を端部まで均一に加熱する事が可能となるからである。また、円筒形回転体1aの長手方向の長さは、最大の画像加熱領域ZLより長く構成することが必要である。本定着装置において、図8(a)に示すソレノイド磁場を形成した際に、2つの磁極NPとSPが最大の画像加熱領域ZLよりも外側に出ていることが重要である。そうすることによって、ZLの範囲に均一な熱を発生させることができる。
尚、最大の画像加熱領域の代わりに記録材の最大搬送領域を用いても良い。
本定着装置では、磁性コア2の長手方向の両端部がそれぞれ、定着フィルム1の母線方向の端面から外側に突出している。これによって、定着フィルム1の母線方向全域の発熱量を安定させることができる。
従来の電磁誘導加熱方式の定着装置は、円筒形回転体の材料内部に磁力線を注入するという技術思想で設計されている。これに対して、本定着装置の電磁誘導加熱方式は回路Sを垂直に貫く磁束が最大となる状態で、円筒形回転体の全域を発熱させる、つまり、円筒形回転体の外部を磁束が通るようにするという技術思想で設計されていることが特徴である。よって、円筒形回転体の全域を発熱させるという設計が従来の電磁誘導加熱方式の定着装置とは異なり、記録材が通過しても、温度低下の非常に小さい定着装置構成となっているのである。
以下に、本発明の目的に沿わない磁力線形状の例を3つ示す。図9(a)は、磁力線が円筒形回転体の内側(円筒形回転体と磁性コアの間の領域)を通っている例を示す。この場合、円筒形回転体の内側を通る磁束は、図中で左方向に向かう磁束と右方向に向かう磁束とが混在するため、両者は打ち消し合ってファラデーの法則上、Φの積分値は減少してしまい、発熱効率が減少するため好ましくない。このような磁力線形状は、磁性コアの断面積が小さい場合、磁性コアの比透磁率が小さい場合、磁性コアが長手方向に分割して大きなギャップを形成している場合、円筒形回転体の直径が大きい場合に生じる。
図9(b)は、磁力線が円筒形回転体の材料内部を通っている例を示す。このような状態は、円筒形回転体の材質がニッケルや鉄などの比透磁率の高い材質である場合に生じやすい。
以上述べたことから、本発明の目的に沿わない磁力線形状は、下記の(I)〜(V)の場合に形成され、これは円筒形回転体の材料内部に発生する渦電流損によるジュール熱で発熱する従来の定着装置である。
(I)円筒形回転体の材質の比透磁率が大きい
(II)円筒形回転体の断面積が大きい
(III)磁性コアの断面積が小さい
(IV)磁性コアの比透磁率が小さい
(V)磁性コアが長手方向に分割して大きなギャップを形成している
図9(c)は、磁性コアが長手方向に複数に分割されていて磁性コアの両端部NP、SP部分以外の箇所MPにおいても磁極ができている場合である。本発明の目的を達成するためには、NPとSPの2つのみを磁極とするよう磁路を形成するのが好ましく、磁性コアを長手方向で複数に分割して磁極MPを作ることは好ましくない。3−3にて後述する理由により、磁性コア全体の磁気抵抗を上昇させてしまい、磁路を形成しにくくなる事、磁極MP部分の付近において発熱量が減少して、均一な画像加熱しにくい場合がある。
分割する場合は、磁性コアが十分磁路として働くよう、磁気抵抗を小さく、パーミアンスを大きく保てる範囲に限られる。
3−3)磁気回路とパーミアンス
次に、3−2に説明した発熱原理を達成するための、具体的な設計指針について説明する。そのためには、定着装置の各構成部品の円筒形回転体の母線方向への磁気の通りやすさを、形状係数によって表現する必要がある。その形状係数は、「静磁界における磁気回路モデル」の「パーミアンス」を用いる。まず、一般的な磁気回路の考え方について説明する。磁束が主として通る磁路の閉回路を、電気回路に対して磁気回路という。磁気回路において磁束を計算する際、電気回路の電流の計算に準じて行うことが出来るものである。磁気回路の基礎計算式は、電気回路に関するオームの法則と同一であり、全磁束をΦ、起磁力をV、磁気抵抗をRとすると、この3つの要素は
全磁束Φ=起磁力V/磁気抵抗R・・・・・(2)
の関係にある(従って、電気回路における電流は磁気回路における全磁束Φと対応し、電気回路における起電力は磁気回路における起磁力Vと対応し、電気回路における電気抵抗は磁気回路における磁気抵抗と対応する)。しかし、ここでは原理をより理解しやすく説明するために磁気抵抗Rの逆数であるパーミアンスPを用いて説明する。従って上記(2)は
全磁束Φ=起磁力V×パーミアンスP・・・・・(3)
で置き換えられる。このパーミアンスPは、磁路の長さをB、磁路の断面積をS、磁路の透磁率をμとした時、
パーミアンスP=透磁率μ×磁路断面積S/磁路長B・・・・・(4)
で表される。パーミアンスPは、磁路長Bが短く、磁路断面積S及び透磁率μが大きい程大きくなることを示し、パーミアンスPが大きい部分に磁束Φがより多く形成される。
図8(a)に示すように、静磁界において磁性コアの長手方向の一端から出る磁力線の大部分が円筒形回転体の外部を通って磁性コアの他端まで戻るように設計する。その設計の際は、定着装置を磁気回路に見立て、「磁性コア2のパーミアンスは十分大きく、かつ円筒形回転体と円筒形回転体の内側のパーミアンスが十分小さい状態」にすれば良い。
図10において、円筒形回転体(導電層)を円筒体と記す。図10(a)は、円筒体1a内部に、半径:a1[m]、長さ:B[m]、比透磁率:μ1の磁性コア2に、巻き数:N[回]の励磁コイル3を巻いた有限長ソレノイドを配置した構造体である。ここで、円筒体は、長さ:B[m]、円筒内側半径:a2[m]、円筒外側半径:a3[m]、比透磁率:μ2の導体である。円筒体内側および外側の真空の透磁率:μ0[H/m]とする。ソレノイドコイルに電流:I[A]を流したときに、磁性コアの任意の位置の単位長さ当たりに発生する磁束8をφc(x)とした。
図10(b)は、磁性コア2の長手方向に垂直な断面を拡大した図である。図中の矢印は、ソレノイドコイルに電流:Iを流したときに、磁性コアの内部、円筒体内外の空気、及び、円筒内を通る磁性コアの長手方向に平行な磁束を表している。磁性コア中を通る磁束をφc(=φc(x))、円筒体の内側の空気中を通る磁束をφa_in、円筒体内を通る磁束をφcy、円筒体外側の空気中を通る磁束をφa_outとしている。
図11(a)に、図10(b)に示した単位長さ当たりのコア・コイル・円筒体を含む空間の磁気等価回路を示す。磁性コアを通る磁束φcにより生じる起磁力をVm、磁性コアのパーミアンスをPc、円筒体の内側の空気中のパーミアンスをPa_in、円筒体内のパーミアンスをPcy、円筒体外側の空気のパーミアンスをPa_outとしている。
円筒体内部または円筒体のパーミアンスPa_in、Pcyに比べて磁性コアのパーミアンスPcが十分大きい時、以下の関係が成り立つ。
φc=φa_in+φcy+φa_out ・・・・・(5)
すなわち、磁性コアの内部を通過した磁束は、φa_in、φcy、φa_outの何れかを必ず通過して磁性コアに戻ってくることを意味する。
φc=Pc・Vm ・・・・・(6)
φa_in=Pa_in・Vm ・・・・・(7)
φcy=Pcy・Vm ・・・・・(8)
φa_out=Pa_out・Vm ・・・・・(9)
よって、(5)に(6)〜(9)を代入すると下記ようになる。
Pc・Vm=Pa_in・Vm+Pcy・Vm+Pa_out・Vm
=(Pa_in+Pcy+Pa_out)・Vm
Pc−Pa_in−Pcy−Pa_out=0 ・・・・・(10)
図10(b)より、磁気コイルの断面積:Sc、円筒体内側空気の断面積:Sa_in、円筒体の断面積:Scyとすると、各領域の単位長さ当たりのパーミアンスは以下のように、「透磁率×断面積」で表すことができ、単位は[H・m]である。
Pc=μ1・Sc=μ1・π(a1)2 ・・・・・(11)
Pa_in=μ0・Sa_in=μ0・π・((a2)2−(a1)2) ・・・(12)
Pcy=μ2・Scy=μ2・π・((a3)2−(a2)2) ・・・・(13)
更に、Pc−Pa_in−Pcy−Pa_out=0であるから、円筒体外側空気中のパーミアンスは次のように表すことができる。
Pa_out=Pc−Pa_in−Pcy
=μ1・Sc−μ0・Sa_in−μ2・Scy
=π・μ1・(a1)2
−π・μ0・((a2)2−(a1)2)
−π・μ2・((a3)2−(a2)2) ・・・・・(14)
各領域を通る磁束は、式(5)〜式(10)に示すように、各領域のパーミアンスに比例する。式(5)〜(10)を用いれば、後述する表1のように各領域を通る磁束の比率を算出することができる。尚、円筒体の中空部に、空気以外の材質が存在していた場合も、その断面積と透磁率から、円筒体内の空気と同じ方法でパーミアンスを求めることが出来る。この場合のパーミアンスの計算の仕方は後述する。
本発明においては、「円筒形回転体長軸方向への磁気の通りやすさを表現する形状係数」として、上記した「単位長さ当たりのパーミアンス」を利用する。まず、式(5)〜(10)を用いて磁性コア、フィルムガイド(ニップ部形成部材)、円筒体内空気、円筒体に対して、断面積と透磁率から単位長さ当たりのパーミアンスを計算する。そして、式(14)を用いて円筒体外空気のパーミアンスを計算する。本計算は、「円筒体に内包し、磁路になり得る部材」は全て考慮する。そして磁性コアのパーミアンスの値を100%として、各部分のパーミアンスの割合が何%になるかを示している。これによれば、どの部分において最も磁路が形成されやすいか、磁束がどの部分を通過するかについて磁気回路を用いて数値化することが出来る。
パーミアンスの代わりに磁気抵抗R(パーミアンスPの逆数)を用いても良い。なお、
磁気抵抗を用いて議論する場合、磁気抵抗は単純にパーミアンスの逆数であるので、単位長さ当たりの磁気抵抗Rは「1/(透磁率×断面積)」で表すことが出来、単位は「1/(H・m)」である。
次に、「磁束の比率」について、磁気等価回路を図11(b)を用いて説明する。
本発明において、静磁界における磁気回路モデル上で、磁性コア内部を通って磁性コアの一端から出た磁束100%が通る経路は次のような内訳である。磁性コアを通過して磁性コアの一端を出た磁束100%のうち0.0%がフィルムガイドを、0.1%が円筒体内の空気を、0.0%が円筒体を、99.9%が円筒体外の空気を通る。以後この状態を、「円筒体外部磁束の比率:99.9%」と表現する。なお、理由は後述するが本発明の目的を達成するためには「静磁界における磁気回路モデル上、円筒体外部を通る磁束の比率」の値が100%に近い程良い。
「円筒体外部を通る磁束の比率」は、励磁コイルに直流電流を流し静磁界を形成した際に磁性コアの内部をフィルムの母線方向に通過して磁性コアの長手方向の一端から出た磁束のうち円筒形回転体の外側を通って磁性コアの他端に戻る磁束の割合である。
式(5)〜(10)に記載したパラメータで表すと、「円筒体外部を通る磁束の比率」
は、Pcに対するPa_outの比率(=Pa_out/Pc)である。
そして、「円筒体外部磁束の比率」の高い構成を作るためには、具体的には下記のような設計手段が望ましい。
手段1)磁性コアのパーミアンスを大きくする。(磁性コア断面積大、材質の比透磁率大)
手段2)円筒体内のパーミアンスを小さくする。(空気部分の断面積小)
手段3)円筒体内に鉄等のパーミアンスの大きい部材を配置しない。
手段4)円筒体のパーミアンスを小さくする。(円筒体の断面積小、円筒体に用いる材質の比透磁率小)
手段4より、円筒体は比透磁率μの低い材質が好ましい。円筒体として比透磁率μの高い材質を用いる際は、円筒体の断面積をより小さくする必要がある。これは、円筒体の断面積が大きい程、円筒体を貫く磁束が多くなり発熱効率が高くなる従来の定着装置とは反対である。また、円筒体内にはパーミアンスの大きい部材を配置しないことが望ましいものの、やむを得ず鉄等を配置しなければならない場合は、断面積を小さくする等によって、「円筒体外部を通る磁束の比率」をコントロールする必要がある。
尚、磁性コアを長手方向で複数に分割し、分割した各磁性コア同士の間に空隙(ギャップ)を設ける場合もある。その場合、この空隙が空気又は比透磁率が1.0とみなせるもの等の磁性コアの比透磁率よりも小さいもので満たされている場合、磁性コア全体の磁気抵抗は大きくなり磁路形成能力を減少させることになる。よって、本発明の定着装置を達成するためには、磁性コアのギャップを厳しく管理する必要がある。磁性コアのパーミアンスの計算方法は複雑になる。以下に、磁性コアを複数分割し、空隙またはシート状非磁性体を挟んで等間隔に並べた場合の磁性コア全体のパーミアンスの計算方法について説明する。この場合長手全体の磁気抵抗を導出し、それを全体長さで割って単位長さ当たりの磁気抵抗を求め、その逆数を取って単位長さ当たりのパーミアンスを求める必要がある。
まず、磁性コアの長手構成図を図12に示す。磁性コアc1〜c10は、断面積:Sc、透磁率:μc、分割された磁性コア1個当たりの長手寸法:Lcとなっており、ギャップg1〜g9は、断面積:Sg、透磁率:μg、1ギャップ当たりの長手寸法:Lgとなっている。その時長手全体の磁気抵抗Rm_allは、以下の式で与えられる。
Rm_all=(Rm_c1+Rm_c2+・・・・・+Rm_c10)+
(Rm_g1+Rm_g2+・・・・・+Rm_g9)・・・(15)
本構成の場合は、磁性コアの形状と材質、ギャップ幅は一様であるので、Rm_cの足し合わせた合計をΣRm_c、Rm_gの足し合わせた合計をΣRm_gとすると、次のようになる。
Rm_all=(ΣRm_c)+(ΣRm_g)・・・・・(16)
磁性コアの長手:Lc、透磁率:μc、断面積:Sc、ギャップの長手:Lg、透磁率:
μg、断面積:Sgとすると、
Rm_c=Lc/(μc・Sc)・・・・・(17)
Rm_g=Lg/(μg・Sg)・・・・・(18)
(16)式に代入して、長手全体の磁気抵抗Rm_allは
Rm_all=(ΣRm_c)+(ΣRm_g)
=(Lg/(μc・Sc))×10+(Lg/(μg・Sg))×9・・(19)
となる。単位長さ当たりの磁気抵抗Rmは、Lcの足し合わせた合計をΣLc、Lgの足し合わせた合計をΣLgとすると、
Rm=Rm_all/(ΣLc+ΣLg)
=Rm_all/(L×10+Lg×9)・・・・・(20)
となり、単位長さあたりのパーミアンスPmは、以下のように求められる。
Pm=1/Rm=(ΣLc+ΣLg)/Rm_all=(ΣLc+ΣLg)/[{ΣLc/(μc+Sc)}+{ΣLg/(μg+Sg)}]・・(21)
ΣLc:分割された磁性コアの長さの合計
μc:磁性コアの透磁率
Sc:磁性コアの断面積
ΣLg:ギャップの長さの合計
μg:ギャップの透磁率
Sg:ギャップの断面積
式(21)より、ギャップLgを大きくすることは、磁性コアの磁気抵抗の増加(パーミアンスの低下)につながる。本定着装置を構成する上で、発熱原理上、磁性コアの磁気抵抗が小さく(パーミアンスが大きく)なるように設計することが望ましいため、ギャップを設けることはあまり望ましくない。しかし、磁性コアを割れにくくするために磁性コアを複数に分割してギャップを設ける場合がある。この場合ギャップLgは極力小さく(好ましくは50μm以下程度)構成し、後述するパーミアンス又は磁気抵抗の設計条件から外れないように設計することで、本発明の目的を達成することができる。
3−4)円筒形回転体内部の周回電流
図8(a)において、中心から磁性コア2、励磁コイル3、円筒形回転体(導電層1a)が同心円状に配置されており、励磁コイル3の中に矢印I方向に電流が増加している時は、概念図においては8本の磁力線が磁性コア2の中を通過している。
図13(a)は、図8(a)の位置Oにおける断面構成の概念図を示したものである。
磁路の中を通過する磁力線Binを、図中奥行き方向に向かう矢印(×印8個)で示す。そして図中手前方向に向かう矢印Bout(●印8個)は、静磁界を形成した時に磁路の外から戻ってくる磁力線を表している。これによると、円筒形回転体1aの中を紙面奥方向に向かう磁力線Binは8本であり、円筒形回転体1aの外を紙面手前方向に戻ってくる磁力線Boutも8本である。励磁コイル3の中に電流が矢印Iの向きに電流が増加している瞬間は、磁路の中に図中奥行き方向に向かう矢印(○の中に×印)のように磁力線が形成される。実際に交番磁界を形成した時には、このように形成されようとする磁力線を打ち消すように、円筒形回転体1aの周方向全域に誘導起電力がかかり、電流は矢印Jの方向に流れる。この、円筒形回転体1aに電流が流れると、円筒形回転体1aは金属なので電気抵抗によりジュール発熱する。
この電流Jが円筒形回転体1aを周回方向に流れることは、本発明の重要な特徴である。本発明の構成は、静磁界において磁性コアの内部を通過する磁力線Binが円筒形回転体1aの中空部を通過し、磁路コアの一端から出て磁性コアの他端に戻ってくる磁力線Boutが円筒形回転体1aの外部を通過する。これは、交番磁界において、円筒形回転体1a内部において周回電流が支配的となり、図14で示すような磁束が導電層の材料内部を貫いて発生する渦電流E//は発生しにくい。尚、以後、一般に誘導加熱の説明で使用される「渦電流」と区別するため本実施例の構成で円筒形回転体を矢印Jの方向(またはその逆方向)に一様に流れる電流を「周回電流」と呼ぶ。
ファラデーの法則に従う誘導起電力は、円筒形回転体1aの周回方向に生じているので、この周回電流Jは円筒形回転体1a内部を一様に流れる。そして磁力線は、高周波電流により生成消滅と方向反転を繰り返すため、周回電流Jは高周波電流と同期して生成消滅と方向反転を繰り返し、円筒形回転体の材料の厚み方向全域の抵抗値によってジュール発熱する。図13(b)は、磁性コアの磁路の中を通過する磁力線Binと、磁路の外から戻ってくる磁力線Boutと、円筒形回転体1a内部を流れる周回電流Jの方向を示す長手斜視図である。
周回電流による発熱は、定着装置として以下1)、2)のメリットを有する。
1)円筒形回転体の熱を奪い、大きく温度低下したとしても、図3のA→Bに至る回転中に発熱し、失われた熱を補給する時間が十分にある。従って、B点における温度低下は小さい。
2)また、(1)式によって誘起される誘導電流は、円筒形回転体の周回方向に、全周にわたって均一な熱を発生させる。従って、円筒形回転体の温度差が起き難い。
このように、本発明の定着装置は、周回電流によって、円筒形回転体全体を発熱させるために、定着温度が非常に安定する構成となっている。
3−5)電力の変換効率
定着フィルムの円筒形回転体(導電層)を発熱させる際は、励磁コイルに高周波交流電流を流し、交番磁界を形成する。その交番磁界は円筒形回転体に電流を誘導する。物理モデルとしては、トランスの磁気結合と良く似ている。そのため、電力の変換効率を考える際には、トランスの磁気結合の等価回路を用いることが出来る。その交番磁界によって励磁コイルと円筒形回転体が磁気結合して、励磁コイルに投入した電力が円筒形回転体に伝達される。ここで述べる「電力の変換効率」は、磁界発生手段である励磁コイルに投入する電力と、円筒形回転体により消費される電力の比率である。本実施例の場合、図1に示す励磁コイル3に対して高周波コンバータ5に投入した電力と、円筒形回転体1aで発生した熱として消費される電力の比率である。この電力の変換効率は以下の式で表すことができる。
電力の変換効率=円筒回転体で熱として消費される電力/励磁コイルに投入した電力
励磁コイルに投入して円筒回転体以外で消費される電力は、励磁コイルの抵抗による損失、磁性コア材料の磁気特性による損失などがある。
図20に回路の効率に関する説明図を示す。図20(a)において1aは円筒形回転体、2は磁性コア、3は励磁コイルであり、円筒形回転体1aに周回電流Jが流れる。図20(b)は、図20(a)に示した定着装置の等価回路である。
R1は励磁コイルおよび磁性コアの損失分、L1は磁性コアに周回した励磁コイルのインダクタンス、Mは巻き線と円筒形回転体との相互インダクタンス、L2は円筒形回転体のインダクタンス、R2は円筒回転体の抵抗である。円筒回転体を取り外した時の等価回路を図21のうち(a)に示す。インピーダンスアナライザやLCRメータといった装置により、励磁コイル両端からの直列等価抵抗はR1、等価インダクタンスL1を測定すると、励磁コイル両端から見たインピーダンスZAは
ZA=R1+jωL1 ・・・・・(22)
とあらわされる。この回路に流れる電流は、R1により損失する。即ちR1はコイル及び磁性コアによる損失を表している。
円筒回転体を装荷したときの等価回路を図21のうち(b)に示す。この時の直列等価抵抗Rx及びLxを測定しておけば、図21のうち(c)のように等価変換することで以下のような関係式を得ることが出来る。
・・・・・(23)
・・・・(24)
Mは励磁コイルと円筒形回転体の相互インダクタンスを表す。
図21のうち(c)に示すように、R1に流れる電流をI1、R2に流れる電流をI2とおくと
・・・・(25)
が成り立つため、
・・・・・(26)
となる。
効率は抵抗R2の消費電力/(抵抗R1の消費電力+抵抗R2の消費電力)で表される為、
・・・・・(27)
となり、円筒形回転体を装荷する前の直列等価抵抗R1と、円筒形回転体を装荷した後の直列等価抵抗Rxを測定すると、励磁コイルに投入した電力のうち、どれだけの電力が円筒回転体で発生する熱として消費されるかを示す電力の変換効率を求めることができる。なお、実施例1の構成においては、電力の変換効率の測定には、Agilent Technologies社製のインピーダンスアナライザ4294Aを用いた。まず、円筒形回転体の無い状態において巻線両端からの直列等価抵抗R1を測定し、次に円筒形回転体に磁性コアを挿入した状態において巻線両端からの直列等価抵抗Rxを測定した。R1=103mΩ、Rx=2.2Ωとなり、この時電力の変換効率は式(27)により、95.3%と求めることが出来る。以後この電力の変換効率を用いて、電磁誘導加熱方式の定着装置の性能を評価する。
3−6)「円筒体外部磁束の比率」に求められる条件
本実施例の定着装置においては、静磁界において円筒体外部を通る磁束の比率と、交番磁界において励磁コイルに投入した電力が円筒回転体に伝達される電力の変換効率(電力の変換効率)とは、相関がある。円筒体外部を通る磁束の比率が増加するほど電力の変換効率は高くなる。その理由は、トランスの場合に、漏れ磁束が十分少なく、トランスの1次巻線と2次巻線の中を通過する磁束の数が等しいと電力の変換効率は高くなることと同じ原理である。つまり、磁性コアの内部を通過する磁束と、円筒形回転体の外部を通過する磁束の数が近い程、周回電流への電力の変換効率は高くなる。これは、磁性コアの長手方向の一端から出て他端に戻る磁束(磁性コアの内部を通過する磁束と向きが反対の磁束)が、円筒形回転体の中空部を通過し磁性コアの内部を通過する磁束をキャンセルする割合が少ないということである。つまり、図11(b)の磁気等価回路に示すように、磁性コアの長手方向の一端から出て他端に戻る磁束が円筒形回転体の外(円筒体外空気)を通過するということある。故に本実施例の骨子は、円筒体外部磁束の比率を高くすることによって、励磁コイルに流した高周波電流を円筒形回転体内部の周回電流として効率よく誘導することである。具体的にはフィルムガイド、円筒体内空気、円筒体を通る磁束を減らすことである。
図22は、電力の変換効率の測定実験に用いる実験装置の図である。金属シート1Sは、面積230mm×600mm、厚み20μmのアルミニウムシートであり、磁性コア2と励磁コイル3を囲むように円筒上に丸め、太線1ST部分において導通することによって円筒形回転体と同じ導電経路を形成している。磁性コア2は、比透磁率が1800、飽和磁束密度が500mTのフェライトであり、断面積26mm2、長さB=230mmの円柱形状をしている。磁性コア2は不図示の固定手段でアルミニウムシート1Sの円筒のほぼ中央に配置させており、長さB=230mmの円筒の中空部を貫通して、円筒の内部に磁路を形成する。励磁コイル3は円筒の中空部において、磁性コア2に巻数25回で螺旋状に巻き回して形成される。
ここで、金属シート1Sの端部を矢印1SZ方向に引くと、円筒の直径1SDを小さく出来る。この実験装置を用いて、円筒の直径1SDを191mmから18mmまで変化させながら、電力の変換効率を測定した。なお、1SD=191mmの時の円筒体外部磁束の比率の計算結果を下記の表1に示し、1SD=18mmの時の円筒体外部磁束の比率の計算結果を下記の表2に示す。
電力の変換効率の測定は、まず、円筒形回転体の無い状態において巻線両端からの直列等価抵抗R1を測定する。その次に、円筒形回転体の中空部に磁性コアを挿入した状態において巻線両端からの直列等価抵抗Rxを測定し、式(27)に従って電力の変換効率を測定する。図23は、円筒の直径に対応する円筒体外部磁束の比率[%]を横軸にとり、21kHzの周波数における電力の変換効率を縦軸にとったものである。プロットは、グラフ中のP1以降に電力の変換効率が急上昇して70%を超え、矢印で示す領域R1の範囲で電力の変換効率70%以上を維持している。P3付近において電力の変換効率は再度急上昇し、領域R2において80%以上となっている。P4以降の領域R3においては電力の変換効率が94%以上と高い値を維持している。この、電力の変換効率が急上昇し始めたことは、円筒体の内部に効率的に周回電流が流れ始めるようになったことに起因する。
電磁誘導加熱方式の定着装置を設計する上で、この電力の変換効率は極めて重要なパラメータである。例えば電力の変換効率80%であった場合、残り20%の電力は、円筒形回転体以外の箇所に熱エネルギーとして発生する。発生する箇所は、主に励磁コイル、磁性コア、円筒形回転体内部に磁性体等の部材を配置した場合はその部材に発生する。つまり電力の変換効率が低ければ、励磁コイルや磁性コアに発生する熱のための対策を講じなければならない。そしてその対策の程度は、発明者らの検討によると、電力の変換効率70%、80%を境界として大きく変化する。従って領域R1,R2,R3の構成において、定着装置としての構成が大きく異なる。設計条件R1,R2,R3の3種類と、いずれにも属さない定着装置の構成について説明する。以下に定着装置を設計する上で、必要な電力の変換効率について詳細を説明する。
下記の表3は、図23のP1〜P4に該当する構成を、実際に定着装置として設計し、評価した結果である。
(定着装置P1)
本構成は、磁性コアの断面積が5.75mm×4.5mmであり、円筒体(導電層)の直径が143.2mmの場合である。この時インピーダンスアナライザによって求められる電力の変換効率は54.4%であった。電力の変換効率は定着装置に投入した電力のうち、円筒(導電層)の発熱に寄与した分を示すパラメータである。従って最大1000W出力可能な定着装置として設計しても約450Wが損失となってしまい、その損失はコイル及び磁性コアの発熱となる。本構成の場合、立ち上げ時数秒間1000Wを投入しただけでもコイル温度は200℃を超える場合がある。コイルの絶縁体の耐熱温度が200℃後半であること、フェライトの磁性コアのキュリー点は通常200℃〜250℃程度であることを考えると、損失45%では励磁コイル等の部材を耐熱温度以下に保つことは難しくなる。また、磁性コアの温度がキュリー点を超えるとコイルのインダクタンスが急激に低下し、負荷変動となる。
定着装置に供給した電力の約45%が無駄になるので、円筒体に900W(1000Wの90%を想定)の電力を供給するためには約1636Wの電力供給する必要がある。これは100V入力時、16.36Aを消費する電源という事になる。商用交流のアタッチメントプラグから投入できる許容電流は15Aという制限がある場合、許容電流をオーバーする可能性がある。よって、円筒体外部磁束の比率64%、電力の変換効率54.4%の定着装置P1は、定着装置に供給する電力が不足する可能性がある。
(定着装置P2)
本構成は、磁性コアの断面積が5.75mm×4.5mmであり、円筒体の直径が127.3mmの場合である。この時インピーダンスアナライザによって求められる電力の変換効率は70.8%であった。この時、定着装置の印字動作によっては、励磁コイル等に定常的に大きな熱量が発生し、励磁コイルユニット、特に磁性コアの昇温が課題となる場合がある。本構成の定着装置を60枚/分の印字動作ができる高スペックな装置にすると、円筒形回転体の回転速度は330mm/secとなる。よって、円筒形回転体の表面温度を180℃に維持するケースがある。そうすると、磁性コアの温度は20秒間で240℃を超え、円筒体(導電層)の温度より高くなる場合が考えられる。磁性コアとして用いるフェライトのキュリー温度は通常200℃〜250℃程度であり、フェライトがキュリー温度を超えた場合、透磁率は急激に減少する。透磁率が急激に減少すると、磁性コアの中に磁路を形成することができない。磁路を形成することができなくなると、本実施例においては、周回電流を誘導して発熱することが難しくなる場合がある。
従って、設計条件R1の定着装置を、前述した高スペックの装置にすると、フェライトコアの温度を下げるために冷却手段を設けることが望ましい。冷却手段としては、空冷ファン、水冷、放熱板、放熱フィン、ヒートパイプ、または、ベルチェ素子などを用いることができる。もちろん、本構成においてそこまでの高スペックを要求しない場合は、冷却手段は不要である。
(定着装置P3)
本構成は、磁性コアの断面積が5.75mm×4.5mmであり、円筒体の直径が63.7mmの場合である。この時インピーダンスアナライザによって求められる電力の変換効率は83.9%であった。この時、励磁コイル等には定常的に熱量が発生したものの、熱伝達と自然冷却で放熱出来る熱量を大きく上回ることはなかった。本構成の定着装置を60枚/分の印字動作ができる高スペックな装置にすると、円筒体の回転速度は330mm/secとなる。従って、円筒体の表面温度を180℃に維持するケースであっても、フェライトの磁性コアの温度は220℃以上に上昇することはなかった。そのため本構成においては、定着装置を前述した高スペックする場合、キュリー温度220℃以上のフェライトを用いることが望ましい。設計条件R2の構成の定着装置を高スペックな定着装置として使用する場合は、フェライト等の耐熱設計を最適化することが望ましい。本構成に、前述した高スペックを要求しない場合は、そこまでの耐熱設計は不要である。
(定着装置P4)
本構成は、磁性コアの断面積が5.75mm×4.5mmであり、円筒体の直径が47.7mmの場合である。この時インピーダンスアナライザによって求められる電力の変換効率は94.7%であった。本構成の定着装置を60枚/分の印字動作ができる高スペックな装置にすると、円筒体の回転速度は330mm/secとなり、円筒体の表面温度を180℃に維持するケースにおいて励磁コイル等は、180℃以上に上昇することはなかった。これは、励磁コイルがほとんど発熱しないことを示す。円筒体外部磁束の比率94.7%、電力の変換効率94.7%(設計条件R3)は、電力の変換効率が十分高いため、更なる高スペックの定着装置として用いても、冷却手段は必要ない。
また、電力の変換効率が高い値で安定しているこの領域においては、円筒形回転体と磁性コアの位置関係が変動しても、電力の変換効率が変動しない。電力の変換効率が変動しない場合、円筒形回転体から常に安定した熱量を供給することができる。よって、可撓性を有する定着フィルムを用いる定着装置において、この電力の変換効率が変動しない領域R3を用いることは、大きなメリットがある。
以上、円筒形回転体に対してその軸方向に磁界を発生させ、円筒形回転体を電磁誘導発熱させる定着装置において、円筒体外部磁束の比率に求められる設計条件は、図23中矢印R1、R2、R3に領域分けすることが出来る。
R1:円筒体外部磁束の比率70%以上90%未満
R2:円筒体外部磁束の比率90%以上94%未満
R3:円筒体外部磁束の比率94%以上
3−7)「周回電流」による発熱の特徴
3−4で説明した「周回電流」は、図6の回路S内に生じる誘導起電力によって生じるものである。そのため、回路Sに内包する磁束と、回路Sの抵抗値に依存する。後述する「渦電流E//」とは異なり、材料内部の磁束密度とは関係しない。そのため、磁路とならない薄い磁性金属製の円筒形回転体でも、非磁性金属製の円筒回転体でも高い効率で発熱することが可能である。また、抵抗値が大きく変わらない範囲においては、材料の厚みにも依存しない。図16(a)は、厚さ20μmのアルミニウムの円筒形回転体における電力の変換効率の周波数依存性である。20kHz〜100kHzの周波数帯域において、電力の変換効率は90%以上を維持している。特に、21〜40kHzの周波数帯域を発熱に利用する場合において、高い電力の変換効率を持っている。次に図16(b)は、同形状の円筒形回転体における、周波数21kHzでの電力の変換効率の厚み依存性である。黒丸―実線はニッケル、白丸―点線はアルミニウムの実験結果を示している。両者は厚み20μm〜300μmの領域において、電力の変換効率は90%以上を維持しており、両者とも厚みに寄らず、定着装置用発熱材料として使用可能である。
よって、「周回電流による発熱」は、従来の渦電流損による発熱より、円筒形回転体の材質や厚み、そして、交流電流の周波数に対する設計自由度を広げることができる。
尚、磁性コアの長手方向の一端を出た磁束のうち円筒形回転体の外部を通って磁性コアの他端に戻る割合が70%以上であることが本定着装置の特徴である。磁性コアの長手方向の一端を出た磁束のうち円筒形回転体の外部を通って磁性コアの他端に戻る割合が70%以上であることは、円筒体のパーミアンスと円筒体内部(円筒体と磁性コアの間の領域)のパーミアンスとの和が磁性コアのパーミアンスの30%以下であることと等価である。従って、本発明の特徴的な構成の一つは、磁性コアのパーミアンスをPc、円筒体内部のパーミアンスをPa、円筒体のパーミアンスPsとした時に、0.30×Pc≧Ps+Paの関係を満足する構成である。
また、パーミアンスの関係式を磁気抵抗に置き換えて表現すると下記のようなる。
・・・・・(28)
ただし、RsとRaの合成磁気抵抗Rsaは以下のように計算する。
・・・・・(29)
Rc:磁性コアの磁気抵抗
Rs:導電層の磁気抵抗
Ra:導電層と磁性コアとの間の領域の磁気抵抗
Rsa:RsとRaの合成磁気抵抗
上記の関係式を、定着装置の記録材の最大搬送領域全域で、円筒形回転体の母線方向に直交する方向の断面において満足するのが好ましい。
この合成磁気抵抗の値が低い程、(1)式によって誘起される誘導電流による発熱の割合は高くなり、合成磁気抵抗が0%の構成では、ほぼ100%、(1)式の周回電流による発熱が起きていることになる。よって、合成磁気抵抗の値が低ければ低い程、先述したメリット1)、2)を出すことができる。
このように、上述したような定着装置構成とし、さらに、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下にすることで、前述したメリット1)、2)を出すことができる。具体的には、温度低下が非常に少なく、均一加熱できる定着装置構成が得られる。
この定着装置に、さらに、下記に記載するトナーを組み合わせることで、トナーの溶融速度差がさらに小さくなり、均一な光沢度につながる。
トナーとしては、多少定着温度が変化したとしても、トナーの溶融状態が変化し難い事が求められる。我々は、トナーの損失弾性率G”に着目し、温度によってトナーの損失弾性率G”の変化が小さいトナーが、光沢度の均一性向上につながることを見出した。
つまり、前記加熱回転体の表面温度をT℃としたときに、トナーの(T−10)℃における損失弾性率G”(T−10)と、(T+10)℃における損失弾性率G”(T+10)が下記式(A)を満たすことが特徴である。
1.0<G”(T−10)/G”(T+10)≦100.0 ・・・式(A)
この比は、1.0よりも大きく20.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.0よりも大きく10.0以下である。
トナーの損失弾性率G”は、トナーの粘性を示す指標として有用である。温度が多少変化しても、本発明のトナーの粘性は、大きく変わらないことをこの式は表している。
従って、この比が100.0よりも大きい場合は、温度による粘性の変化が大きいということを示しており、光沢度の不均一化につながる。
トナーの損失弾性率G”を制御するために、種々の方法が考えられるが、温度による溶融速度差を出さないという観点から、トナー全体がシャープメルトする構成が好ましい。また、同じ観点から、トナーの分子量分布は一定の範囲に制御することで、トナー間での溶融速度差が出難くなるため好ましい。具体的には、トナーのMw/Mnの値が、10以上60以下であることが好ましい。
なお表面温度Tは、2−4)温度制御手段の項で説明した温度検知部材4により測定される定着フィルム1の表面温度を表している。また、その表面温度Tは、装置のウォームアップ後、加熱部材と加圧部材とで形成されるニップ部Nに、記録材が突入する直前の定着部材1の表面温度を指す。
また、損失弾性率G”は以下の方法で算出した。
測定装置としては、回転平板型レオメーター「ARES」(TA INSTRUMENTS社製)を用いる。測定試料としては、25℃の環境下で錠剤成型器を用いて、トナーを直径7.9mm、厚さ2.0±0.3mmの円板状に加圧成型した試料を用いる。該試料をパラレルプレートに装着し、室温(25℃)から100℃に15分間で昇温して、試料の形を整えた後、粘弾性の測定開始温度まで冷却し、測定を開始する。この際、初期のノーマルフォースが0になるようにサンプルをセットすることが重要である。また、以下に述べるように、その後の測定においては、自動テンション調整(Auto Tension Adjustment ON)にすることで、ノーマルフォースの影響をキャンセルできる。
測定は、以下の条件で行う。
(1)直径7.9mmのパラレルプレートを用いる。
(2)周波数(Frequency)は6.28rad/sec(1.0Hz)とする。
(3)印加歪初期値(Strain)を0.1%に設定する。
(4)30℃から200℃までの間を、昇温速度(Ramp Rate)2.0℃/minで測定を行う。尚、測定においては、自動歪み調整モード(Auto Strain)で測定を行う。
(5)最大歪(Max Applied Strain)を20.0%に設定する。
(6)最大トルク(Max Allowed Torque)200.0g・cmとし、最低トルク(Min Allowed Torque)0.2g・cmと設定する。
(7)歪み調整(Strain Adjustment)を20.0% of Current Strainと設定する。測定においては、自動テンション調整モード(Auto Tension)を採用する。
(8)自動テンションディレクション(Auto Tension Direction)をコンプレッション(Compression)と設定する。
(9)初期スタティックフォース(Initial Static Force)を10.0g、自動テンションセンシティビティ(Auto Tension Sensitivity)を40.0gと設定する。
このように、温度によるトナーの損失弾性率G”を制御したトナーを用いる事で、同じ記録材内における光沢度の不均一化が一層緩和される。
本発明に用いられる損失弾性率G”を制御したトナーを得るための具体的方法を以下に記述するが、これに限定されるものではない。
本発明のトナー粒子は、少なくとも結着樹脂、着色剤を含有する。
本発明のトナーに使用される結着樹脂としては、以下のものが挙げられる。
ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂等である。中でも好ましく用いられる樹脂として、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂である。
本発明に用いられるポリエステル樹脂の成分は以下の通りである。
2価の酸成分としては、以下のジカルボン酸又はその誘導体が上げられる。フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸の如きベンゼンジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きアルキルジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル;n−ドデセニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸の如きアルケニルコハク酸類もしくはアルキルコハク酸類、又はその無水物又はその低級アルキルエステル;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル。
2価のアルコール成分としては、以下のものが挙げられる。エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、水素化ビスフェノールA、式(1)で表されるビスフェノール及びその誘導体:
(式中、Rはエチレンまたはプロピレン基であり、x、yはそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0乃至10である。)
本発明で使用される、ポリエステル樹脂は、上述の2価のカルボン酸化合物および2価のアルコール化合物以外に、1価のカルボン酸化合物、1価のアルコール化合物、3価以上のカルボン酸化合物、3価以上のアルコール化合物を構成成分として含有してもよい。
1価のカルボン酸化合物としては、安息香酸、p−メチル安息香酸等の炭素数30以下の芳香族カルボン酸や、ステアリン酸、ベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸等が挙げられる。
また、1価のアルコール化合物としては、ベンジルアルコール等の炭素数30以下の芳香族アルコールや、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベへニルアルコール等の炭素数30以下の脂肪族アルコール等が挙げられる。
3価以上のカルボン酸化合物としては、特に制限されないが、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
また、3価以上のアルコール化合物としては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。
本発明のポリエステル樹脂の製造方法については、特に制限されるもではなく、公知の方法を用いることができる。
上記ビニル系樹脂に用いられるモノマーは、次のものが挙げられる。
スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレンの如きスチレン誘導体;エチレン、プロピレンの如き不飽和モノオレフィン類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルの如きα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルの如きアクリル酸エステル類等が挙げられる。
さらに、マレイン酸、フマル酸の如き不飽和二塩基酸;マレイン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物の如き不飽和二塩基酸無水物等が挙げられる。
結着樹脂にビニル系樹脂を使用する場合は、上記アクリル酸エステル類や不飽和二塩基酸などの酸価を有するモノマーを添加し、酸価を1mgKOH/g以上40mgKOH/g以下に適宜調整する必要がある。
上記ビニル系樹脂のビニル系重合体ユニットの重合に用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、等が挙げられる。
結着樹脂は、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布において、以下の分子量分布を有することが好ましい。
結着樹脂の重量平均分子量(Mwa)は5,000以上50,0000以下であることが好ましい。また、結着樹脂の溶融速度を制御するという観点から、結着樹脂の分子量分布の広がりの指標であるMwa/Mnaは、5以上60以下であることが好ましい。
さらに、結着樹脂の酸価は、2mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることが、トナーの良好な帯電特性の観点から好ましい。
トナーの損失弾性率G”を制御するために、定着時の溶融速度差を出さないという観点から、トナー全体がシャープメルトする構成が好ましい。一般的に結着樹脂をシャープメルトさせる材料として、種々の可塑剤が挙げられるが、その中でも、結晶性ポリエステルが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の原料モノマーに用いられるアルコール成分としては、結晶性を高める観点から、炭素数6以上18以下の脂肪族ジオールを用いることが好ましい。これらの中でも、定着性及び耐熱安定性の観点から、炭素数6以上、12以下の脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールとしては、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。上記脂肪族ジオールの含有量は、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性をより高める観点から、アルコール成分中に80.0モル%以上100.0モル%以下含有されることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂を得るためのアルコール成分としては、上記の脂肪族ジオール以外の多価アルコール成分を含有していても良い。例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等を含む上記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコールが挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂の原料モノマーに用いられるカルボン酸成分としては、炭素数6以上、18以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を用いることが好ましい。これらの中でも、トナーの定着性及び耐熱安定性の観点から、炭素数6以上、12以下の脂肪族ジカルボン酸化合物が好ましい。脂肪族ジカルボン酸化合物としては、1,8−オクタン二酸、1,9−ノナン二酸、1,10−デカン二酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸等が挙げられる。炭素数6以上、18以下の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中に80.0モル%以上、100.0モル%以下含有されることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂を得るためのカルボン酸成分としては、上記脂肪族ジカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分を含有していても良い。例えば、芳香族ジカルボン酸化合物、3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。芳香族ジカルボン酸化合物には、芳香族ジカルボン酸誘導体も含まれる。芳香族ジカルボン酸化合物の具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸及びこれらの酸の無水物、並びにそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステルが好ましく挙げられる。該アルキルエステル中のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。3価以上の多価カルボン酸化合物としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸、及びこれらの酸無水物、アルキル(炭素数1以上3以下)エステル等の誘導体が挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂の原料モノマーであるアルコール成分とカルボン酸成分とのモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、0.80以上1.20以下であることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwcは、低温定着性と耐熱保存性の観点から、8000以上100,000以下、好ましくは12,000以上45,000以下であることが好ましい。
本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂は、示差走査熱量計(DSC)測定において昇温時に観測される吸熱ピークの面積から求められる融解熱量(ΔH)が100J/g以上140J/g以下であることが好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、トナーの光沢度均一性の観点から、60℃以上120℃以下であることが好ましく、65℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、2mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることが、トナーの良好な帯電特性の観点から好ましい。
さらに、トナー光沢度の均一性をさらに高めるために、融点が60℃以上110℃以下であるワックスを含有することが好ましい。
ワックスとしては、トナー中での分散のしやすさ、離型性の高さの観点から、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスの如き炭化水素系ワックスが好ましい。必要に応じて、二種以上のワックスを併用してもかまわない。
ワックスとしては、具体的には以下のものが挙げられる。ビスコール(登録商標)330−P、550−P、660−P、TS−200(三洋化成工業社)、ハイワックス400P、200P、100P、410P、420P、320P、220P、210P、110P(三井化学社)、サゾールH1、H2、C80、C105、C77(シューマン・サゾール社)、HNP−1、HNP−3、HNP−9、HNP−10、HNP−11、HNP−12、HNP−51(日本精鑞株式会社)、ユニリン(登録商標)350、425、550、700、ユニシッド(登録商標)、ユニシッド(登録商標)350、425、550、700(東洋アドレ株式会社)、木ろう、蜜ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス(株式会社セラリカNODAにて入手可能)。
ワックスは、結着樹脂100.0質量部に対して1.0質量部以上20.0質量部以下のワックスを含有することが好ましい。
本発明のトナーは、磁性トナーであっても非磁性トナーであっても良い。磁性トナーとして用いる場合は、磁性体として磁性酸化鉄を用いることが好ましい。磁性酸化鉄としては、マグネタイト,マグヘマタイト,フェライト等の酸化鉄が用いられる。トナーに含有される磁性酸化鉄の量は、結着樹脂100.0質量部に対して、25.0質量部以上150.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30.0質量部以上95.0質量部以下である。
本発明のトナーを非磁性トナーとして用いる場合には、着色剤としてカーボンブラックやその他、公知の顔料や染料を用いることができる。また、顔料や染料は一種のみ使用しても良いし、二種以上を併用することもできる。トナーに含有される着色剤は、結着樹脂100.0質量部に対して、0.1質量部以上60.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上50.0質量部以下である。
トナーには、無機微粉体等の流動性向上剤を使用することができる。流動性向上剤としては、以下のものが挙げられる。フッ化ビニリデン微粒子、ポリテトラフルオロエチレン微粒子の如きフッ素系樹脂微粒子;湿式製法シリカ、乾式製法シリカの如き微粒子シリカ、それらシリカをシランカップリング剤、チタンカップリング剤、又はシリコーンオイル等により表面処理を施した処理シリカ。好ましい流動性向上剤としては、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された微粒子であり、乾式法シリカ又はヒュームドシリカとである。
その中でも、ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粒子に疎水化処理した処理シリカ微粒子が好ましく用いられる。処理シリカ微粒子は、メタノール滴定試験によって滴定された疎水化度が30以上98以下であることが好ましい。
シリカ微粒子の疎水化方法としては、シリカ微粒子と反応あるいは物理吸着する有機ケイ素化合物で化学的に処理する方法が挙げられる。好ましい方法としては、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成されたシリカ微粒子を有機ケイ素化合物で処理する方法である。有機ケイ素化合物としては、以下のものが挙げられる。ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフエニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、1−ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサンおよび1分子当り2から12個のシロキサン単位を有し末端に位置する単位にそれぞれ1個当りのSiに結合した水酸基を含有するジメチルポリシロキサン。これらは1種あるいは2種以上の混合物で用いられる。
シリカ微粒子は、シリコーンオイルによって処理されても良く、また、シリコーンオイルと上記有機ケイ素化合物とを併用して処理されていても良い。シリコーンオイルとしては、25℃における粘度が30mm2/s以上1000mm2/s以下であるものが好ましい。例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルが挙げられる。
シリコーンオイルによるシリカ微粒子の疎水化処理の方法としては、以下の方法が挙げられる。シランカップリング剤で処理されたシリカ微粒子とシリコーンオイルとをヘンシェルミキサーの如き混合機を用いて直接混合する方法;ベースとなるシリカ微粒子にシリコーンオイルを噴霧する方法。あるいは適当な溶剤にシリコーンオイルを溶解あるいは分散せしめた後、シリカ微粒子を加え混合し溶剤を除去する方法。シリコーンオイル処理シリカは、シリコーンオイルの処理後にシリカを不活性ガス中で温度200℃以上(より好ましくは250℃以上)で加熱し、表面のコートを安定化させたものがより好ましい。
無機微粉体は、トナー粒子100.0質量部に対して0.1質量部以上8.0質量部以下用いることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上4.0質量部以下である。
トナーには、必要に応じて他の外部添加剤を添加しても良い。例えば、帯電補助剤、導電性付与剤、ケーキング防止剤、熱ローラー定着時の離型剤、滑剤、研磨剤の働きをする樹脂微粒子や無機微粉体である。
滑剤としては、ポリフッ化エチレン微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子、ポリフッ化ビニリデン微粒子が挙げられる。中でもポリフッ化ビニリデン微粒子が好ましい。研磨剤としては、酸化セリウム微粒子、炭化ケイ素微粒子、チタン酸ストロンチウム微粒子が挙げられる。
本発明のトナーは、一成分系現像剤としても使用できるが、磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として用いることも可能である。磁性キャリアとしては、フェライトキャリアや、結着樹脂中に磁性体を分散させた磁性体分散樹脂キャリア(いわゆる樹脂キャリア)等、公知のものを使用できる。トナーを磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として使用する場合、現像剤中のトナー濃度が2質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
本発明のトナーの製造方法は、特に限定されるものではない。以下、粉砕法及び懸濁重合法によって本発明のトナーを得るための方法を説明する。
まず、粉砕法に関して説明する。
原料混合工程では、トナー粒子を構成する材料として、結着樹脂、着色剤、その他の添加剤等を、所定量秤量して配合し、混合する。混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、メカノハイブリッド(日本コークス工業株式会社製)などが挙げられる。
次に、混合した材料を溶融混練して、結着樹脂中に着色剤等を分散させる。溶融混練工程では、加圧ニーダー、バンバリィミキサーの如きバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができる。連続生産できる優位性から、1軸又は2軸押出機が主流となっている。例えば、KTK型2軸押出機(神戸製鋼所社製)、TEM型2軸押出機(東芝機械社製)、PCM混練機(池貝鉄工製)、2軸押出機(ケイ・シー・ケイ社製)、コ・ニーダー(ブス社製)、ニーデックス(日本コークス工業株式会社製)などが挙げられる。更に、溶融混練することによって得られる樹脂組成物は、2本ロール等で圧延され、冷却工程で水などによって冷却してもよい。
ついで、樹脂組成物の冷却物は、粉砕工程で所望の粒径にまで粉砕される。粉砕工程では、例えば、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミルの如き粉砕機で粗粉砕した後、更に、例えば、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)、ターボ・ミル(ターボ工業製)やエアージェット方式による微粉砕機で微粉砕する。その後、必要に応じて慣性分級方式のエルボージェット(日鉄鉱業社製)、遠心力分級方式のターボプレックス(ホソカワミクロン社製)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製)、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)の如き分級機や篩分機を用いて分級し、トナー粒子を得る。
必要に応じて、粉砕後に、ハイブリタイゼーションシステム(奈良機械製作所製)、メカノフージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)、メテオレインボー MR Type(日本ニューマチック社製)を用いて、球形化処理の如きトナー粒子の表面処理を行うこともできる。
更に必要に応じて所望の添加剤をヘンシェルミキサー等の混合機により十分混合することができる。
次に、水系媒体中で重合性単量体組成物の造粒を行い、得られた液滴中の重合性単量体を重合することによってトナー粒子を得る懸濁重合法について説明する。
重合性単量体としては、ラジカル重合が可能なビニル系モノマーが用いられる。前記ビニル系モノマーとしては、単官能性モノマー或いは多官能性モノマーを使用することができる。
単官能性モノマーとしては、スチレン;α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ο−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレンのようなスチレン誘導体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、iso−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、ジブチルフォスフェートエチルアクリレート、2−ベンゾイルオキシエチルアクリレートのようなアクリル系重合性単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ジブチルフォスフェートエチルメタクリレートのようなメタクリル系重合性単量体;メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロピルケトンのようなビニルケトンが挙げられる。
本発明に用いる重合性単量体は、上記の中でも、スチレン又はスチレン誘導体を含むことが好ましい。
多官能性モノマーとしては、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル等が挙げられる。
本発明においては、前記した単官能性モノマーを単独で或いは2種以上組み合わせて、又は前記した単官能性モノマーと多官能性モノマーを組み合わせて使用する。多官能性モノマーは架橋剤として使用することも可能である。
本発明に用いられる重合開始剤としては、油溶性開始剤及び/又は水溶性開始剤が用いられる。好ましくは、重合反応時の反応温度における半減期が0.5時間以上30時間以下の重合開始剤である。また、重合性単量体100質量部に対し、重合開始剤を0.5質量部以上20質量部以下用いて重合反応を行うことが好ましい。
重合開始剤としては、以下の、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル如きのアゾ系またはジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド如きの過酸化物系重合開始剤等が例示できる。
本発明においては、重合性単量体の重合度を制御する為に、公知の連鎖移動剤、重合禁止剤等を更に添加し用いることも可能である。
懸濁重合法のトナー粒子の製造方法において、上述した融点が60以上、110℃以下であるワックスを含有する事が好ましい。
また、それ以外に、上述した着色剤、結晶性ポリエステル樹脂、非晶質ポリエステル樹脂、帯電制御剤等を添加しても良い。
懸濁重合トナー粒子は、これら添加材を、均一に溶解または分散せしめて重合性単量体組成物とする。その後この重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に適当な撹拌機を用いて分散させ、そして必要に応じて、芳香族溶剤及び重合開始剤を添加して重合反応を行わせ、所望の粒径を有するトナー粒子を得るものである。
上記トナー粒子に対し重合終了後、公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥を行い、必要により流動性向上剤を混合し表面に付着させることで、本発明のトナーを得ることができる。
結着樹脂、ワックス及びトナー等に係る物性の測定方法は以下に示す通りである。後述の実施例においてもこれらの方法に基づいて物性値を測定している。
<GPCによる重量平均分子量及び分子量分布の測定>
40℃のヒートチャンバー中でカラムを安定化させ、この温度におけるカラムに溶媒としてTHFを毎分1mLの流速で流し、THF試料溶液を約100μL注入して測定する。試料の分子量測定にあたっては試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント値との関係から算出する。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては例えば、東ソー社製あるいは昭和電工社製の分子量が102〜107程度のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適当である。又、検出器はRI(屈折率)検出器を用いる。尚、カラムとしては市販のポリスチレンジェルカラムを複数本組み合わせるのが良く、例えば昭和電工社製のshodex GPC KF−801,802,803,804,805,806,807,800Pの組み合せや、東ソー社製のTSKgel G1000H(HXL)、G2000H(HXL)、G3000H(HXL)、G4000H(HXL)、G5000H(HXL)、G6000H(HXL)、G7000H(HXL)、TSKgurd columnの組み合せを挙げることができる。
また、THF試料溶液は以下のようにして作製する。
分子量の測定を行う試料をTHF中に入れ、25℃で数時間放置した後、十分振とうし、THFとよく混ぜ(試料の合一体が無くなるまで)、更に12時間以上静置する。その時、THF中への放置時間が24時間となるようにする。その後、サンプル処理フィルター(ポアサイズ0.2μm以上0.5μm以下、例えばマイショリディスクH−25−2(東ソー社製)など使用できる。)を通過させたものをTHF試料溶液とする。又、試料濃度は、樹脂成分が0.5mg/mL以上5.0mg/mL以下となるように調整する。
<結着樹脂の軟化点の測定>
結着樹脂の軟化点の測定は、定荷重押し出し方式の細管式レオメータ「流動特性評価装置 フローテスターCFT−500D」(島津製作所社製)を用い、装置付属のマニュアルに従って行なう。本装置では、測定試料の上部からピストンによって一定荷重を加えつつ、シリンダに充填した測定試料を昇温させて溶融し、シリンダ底部のダイから溶融された測定試料を押し出し、この際のピストン降下量と温度との関係を示す流動曲線を得ることができる。
「流動特性評価装置 フローテスターCFT−500D」に付属のマニュアルに記載の「1/2法における溶融温度」を軟化点とする。尚、1/2法における溶融温度とは、次のようにして算出されたものである。まず、流出が終了した時点におけるピストンの降下量Smaxと、流出が開始した時点におけるピストンの降下量Sminとの差の1/2を求める(これをXとする。X=(Smax−Smin)/2)。そして、流動曲線においてピストンの降下量がXとSminの和となるときの流動曲線の温度が、1/2法における溶融温度である。
測定試料は、約1.0gの試料を、25℃の環境下で、錠剤成型圧縮機(例えば、NT−100H、エヌピーエーシステム社製)を用いて約10MPaで、約60秒間圧縮成型し、直径約8mmの円柱状としたものを用いる。
CFT−500Dの測定条件は、以下の通りである。
試験モード:昇温法
昇温速度:4℃/min
開始温度:50℃
到達温度:200℃
<結晶性ポリエステル樹脂及びワックスの融点及び融解熱量の測定>
結晶性ポリエステル樹脂及びワックスの融点は、示差走査熱量分析装置「Q2000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定したDSC曲線において、最大吸熱ピークのピーク温度を融点とし、ピークの面積から求められる熱量を融解熱量とする。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。具体的には、試料約2mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30〜200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。尚、測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程での温度30〜200℃の範囲におけるDSC曲線の最大の吸熱ピーク温度を、融点、ピークの面積から求められる熱量を融解熱量とする。
<結着樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂の酸価の測定>
酸価は試料1gに含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウムのmg数である。ポリエステル樹脂の酸価はJIS K 0070−1992に準じて測定されるが、具体的には、以下の手順に従って測定する。
(1)試薬の準備
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95vol%)90mlに溶かし、イオン交換水を加えて100mLとし、フェノールフタレイン溶液を得る。
特級水酸化カリウム7gを5mLの水に溶かし、エチルアルコール(95vol%)を加えて1Lとする。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、ろ過して、水酸化カリウム溶液を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。前記水酸化カリウム溶液のファクターは、0.1モル/L塩酸25mLを三角フラスコに取り、前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した前記水酸化カリウム溶液の量から求める。前記0.1モル/L塩酸は、JIS K 8001−1998に準じて作成されたものを用いる。
(2)操作
(A)本試験
粉砕したポリエステル樹脂の試料2.0gを200mLの三角フラスコに精秤し、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液100mLを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。尚、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときとする。
(B)空試験
試料を用いない(すなわちトルエン/エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)以外は、上記操作と同様の滴定を行う。
(3)得られた結果を下記式に代入して、酸価を算出する。
A=[(C−B)×f×5.61]/S
ここで、A:酸価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料(g)である。
<重量平均粒径(D4)の測定方法>
トナーの重量平均粒径(D4)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行ない、算出した。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
尚、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行った。
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
1.Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
2.ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液約30mLを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
3.発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2mL添加する。
4.前記2.のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
5.前記4.のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
6.サンプルスタンド内に設置した前記1.の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記5.の電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
7.側定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
以上、本発明の基本的な構成と特色について述べたが、以下実施例にもとづいて具体的に本発明について説明する。しかしながら、これによって本発明の実施の態様がなんら限定されるものではない。
<定着装置1>
図3は本発明の定着装置の概略断面図であり、加圧ローラ7は、例えばφ14のアルミあるいは鉄製芯金の外側にシリコーンのソリッドあるいはスポンジゴム等の厚み3mmの弾性層と、PFA等の離型層を厚み30μmで積層している。そして、不図示の軸受け手段・付勢手段により総圧約200N〜100N(約20kgf〜約10kgf)の押圧力をもってフィルムガイド9との間に定着フィルムを挟ませて圧接させてある。そして、不図示の定着器回転制御手段は、加圧ローラ7を矢印方向に回転駆動し、5〜10mm程度の幅のニップ部Nにおける摩擦力で定着スリーブ1に回転力が作用し、従動回転状態になる。フィルムガイド9は、耐熱性樹脂PPS等で構成されている。定着フィルム1は、直径50〜10mmの、基層となる導電性部材でできた発熱層1aと、その外面に積層した弾性層1bと、その外面に積層した離型層1cの複合構造の円筒形回転体である。発熱層1aは、本装置では、厚さ20μmの比透磁率1、断面積1.5×10−6 m2、直径は24mmのアルミの円筒形状部材である。弾性層1bは、硬度が20度(JIS−A、1kg加重)のシリコーンゴムを0.3〜0.1mm成形している。そして、弾性層1b上に表層1c(離型層)として50〜10μmの厚さのフッ素樹脂チューブを被覆している。円筒形状部材である定着フィルム1の内部にて、この回転軸線方向に磁性コア2が挿通されている。その磁性コア2の周囲に励磁コイル3が巻き回されている。
磁性コア2は、分割されていない一体部品で円柱形状をしている。磁性コア2は、不図示の固定手段で定着フィルム1内に配置させており、励磁コイル3にて生成された交流磁界による磁力線(磁束)を定着フィルム1内部に誘導し、磁力線の通路(磁路)を形成する部材として機能する。この磁性コア2は、比透磁率が1800のフェライトであり、直径14mm、断面積1.5×10−4 m2、長さB=230mmである。
フィルムガイド9は、比透磁率1のポリフェニレンサルファイド(PPS)であり、断面積1.0×10−4[m2]である。詳細は表4に記載する。
定着フィルムの弾性層1b、定着フィルムの表層1cは、発熱層である円筒形回転体(導電層)1aより外側にあり、かつ発熱に寄与していない。従って、パーミアンス(または磁気抵抗)を計算する必要はなく、本磁気回路モデルにおいては「円筒体外空気」に含めて扱うことができる。
上記寸法と比透磁率から計算した定着装置1の各構成物の「単位長さ当たりのパーミアンスと磁気抵抗」を下記の表4にまとめる。
「単位長さ当たりのパーミアンス」に関して、図11(a)の磁気等価回路図と実機上の数値の対応関係について説明する。磁性コアの単位長さ当たりのパーミアンスPcは、次のように表される。
Pc=3.5×10−7[H・m]
導電層と磁性コアとの間の領域の単位長さ当たりのパーミアンスPa_inは、フィルムガイドの単位長あたりのパーミアンスと円筒体内の空気の単位長さ当たりのパーミアンスとの合成であるから次のように表される。
Pa_in=1.3×10−10+2.5×10−10[H・m]
導電層の単位長さ当たりのパーミアンスPcyは、表4に記載の円筒体であり、次のように表される。
Pcy=1.9×10−12[H・m]
Pa_outは、表4に記載された円筒体外空気であり、次のように表せる。
Pa_out=Pc−Pa_in−Pcy=3.5×10−7[H・m]
よって、定着装置1は下記のパーミアンスの関係式を満たしている。
Pcy+Pa_in≦0.30×Pc
次に、パーミアンスの逆数である、磁気抵抗を用いた場合について説明する。
磁性コアの単位長さ当たりの磁気抵抗は次のようになる。
Rc=2.9×106[1/(H・m)]
導電層と磁性コアとの間の領域の磁気抵抗は、フィルムガイドの抵抗Rfと円筒体内空気の抵抗Raの合成抵抗となるから、下記の式を用いて計算すると、
Ra=2.7×109[1/(H・m)]となる。
Rcyに該当するのは、表1に記載の円筒体であり、Rcy=Rs=5.3×1011[1/(H・m)]となっているから、RsとRaとの合成磁気抵抗Rsaは以下の式で計算できて、Rsa=2.7×109[1/(H・m)]となる。
なお、円筒体と磁性コアの間の領域のうち空気の断面積は、直径24[mm]の円筒体の中空部の断面積から磁性コアの断面積とフィルムガイドの断面積を差し引いて計算した。
従って、定着装置1は下記の磁気抵抗の式を満たしており、前記コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下である。
<定着装置2>
比較例として用いる定着装置2は、定着装置1の定着装置の構成に対して磁性コアの断面積と円筒形回転体の材質及び断面積が異なり、「コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下」を満たしていない構成について説明する。特に、円筒形回転体が主磁路になっている構成について説明する。図17は定着装置2の定着装置の断面図であり、電磁誘導発熱回転体は定着フィルムではなく定着ローラ11を用いる。定着ローラ11と加圧ローラ7の押圧力をもってニップNを形成し、像担持体Pとトナー像Tを挟ませて矢印方向に回転する構成である。
定着ローラ11の円筒体(円筒形回転体)11aは比透磁率600、厚み100μm、直径は48mmのニッケル(Ni)を用いる。尚、円筒体の材質がニッケルに限られるわけではなく、鉄(Fe),コバルト(Co)等の比透磁率の高い磁性金属を用いても良い。定着装置1の円筒体(円筒形回転体)が、非磁性材料であるアルミニウムであるのに対し、定着装置2では、磁性材料であるニッケルを用いている。
磁性コア2は、分割されていない一体部品で円柱形状をしている。磁性コア2は、不図示の固定手段で定着ローラ11内に配置させており、励磁コイル3にて生成された交流磁界による磁力線(磁束)を定着ローラ11内部に誘導し、磁力線の通路(磁路)を形成する部材として機能する。この磁性コア2は、比透磁率が1800、飽和磁束密度が500mTのフェライトであり、直径5mm、長さB=230mmである。
その他の構成は定着装置1と同一である。発熱の模式図(図18)に示すように、本構成では円筒体を磁路として通る磁力線が存在する。円筒体の内部を通る磁力線は、図中E//に示すように渦電流を流して発熱に寄与する。この磁力線の通り道は、スリーブとコアが近傍に位置している部分に集中し、図のようにコアに最も近い所に発熱集中を起こす。
定着装置2の各構成物のパーミアンスと磁気抵抗の計算結果を表5にまとめる。
また、定着装置2の各構成物のパーミアンスは下記のようなる。
磁性コアのパーミアンスPc=4.4×10−8[H・m]
円筒体内部のパーミアンスPa=1.3×10−10+2.1×10−9[H・m]
円筒体のパーミアンスPs=1.1×10−8 [H・m]
よって、定着装置2は下記のパーミアンスの関係式を満たしていない。
Ps+Pa≦0.30×Pc
これを磁気抵抗に置き換えると、
磁性コアの磁気抵抗Rc=2.3×107[1/(H・m)]
円筒体内部の磁気抵抗はフィルムガイドRfと円筒体内空気Rairの磁気抵抗の合成抵抗であるから、下記の式を用いて計算すると、Ra=4.5×108[1/(H・m)]となる。
円筒体の磁気抵抗Rs=8.8×107[1/(H・m)]であるから、RsとRaの合成磁気抵抗Rsaは以下のように求められ、Rsa=7.4×107[1/(H・m)]となる。
よって、定着装置2は下記の磁気抵抗の式を満たさず、定着装置2は、「前記コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下」ではない。
この場合、アルミニウムの円筒形回転体内部には、一部周回電流と、一部図15に示す方向の渦電流E⊥が流れ、両者が発熱に寄与していると考えられる。この渦電流E⊥について説明する。E⊥は材料の表面に近い程大きく、材料の内部に行くにつれて指数関数的に小さくなるという性質がある。その深さを浸透深さδと言い、以下の式で表される。
δ=503×(ρ/fμ)1/2 ・・・・・式(30)
δ:浸透深さ〔m〕
f:励磁回路の周波数〔Hz〕
μ:透磁率〔H/m〕
ρ:抵抗率〔Ωm〕
浸透深さδは電磁波の吸収の深さを示しており、これより深いところでは電磁波の強度は1/e以下になるというものである。
<定着装置3>
本定着装置3は先に説明をした定着装置1に関する他の例であり、円筒形回転体(導電層)としてオーステナイト系のステンレス(SUS304)を用いた点が定着装置1と異なる。以下は参考として各種金属における抵抗率と比透磁率について纏め、式(30)に従い21kHz,40kHz,100kHzにおける浸透深さδを計算した結果である。
表6によると、SUS304は抵抗値が高く、比透磁率が低いため、浸透深さδが大きい。すなわち電磁波は透過しやすいため誘導加熱の発熱体として好適に用いられることは少ない。よって従来の電磁誘導加熱方式の定着装置においては、高い電力の変換効率を実現することが困難であった。しかし、本定着装置においては、高い電力の変換効率を実現することが可能であることを示す。
なお、定着装置3の構成は、円筒形回転体の材質としてSUS304を用いている以外は定着装置1の構成と同じである。定着装置の横断面形状も定着装置1と同様である。発熱層は、比透磁率1.0のSUS304を用い、膜厚30μm、直径Φ24mmとした。弾性層、表層は定着装置1と同様である。磁性コア、励磁コイル、温度検知部材、温度制御は定着装置1と同様である。
本定着装置3の各構成物のパーミアンスと磁気抵抗を下記の表7に示す。
表7から定着装置3の各構成物のパーミアンスは下記のようになる。
コアのパーミアンスPc=3.5×10−7[H・m]
円筒体内部のパーミアンスPa=1.3×10−10+2.5×10−10[H・m]
円筒体のパーミアンスPs=2.8×10−12[H・m]
よって、定着装置3は下記のパーミアンスの関係式を満たしている。
Ps+Pa≦0.30×Pc
これを磁気抵抗に置き換えると、
磁性コアの磁気抵抗Rc=2.9×106[1/(H・m)]
円筒体内部の磁気抵抗はフィルムガイドRfと円筒体内空気Rairの磁気抵抗の合成抵抗であるから、下記の式を用いて計算すると、Ra=2.7×109[1/(H・m)]となる。
円筒体の磁気抵抗Rsは、Rs=3.5×1011[1/(H・m)]となっているから
、RsとRaとの合成磁気抵抗Rsaは以下の式で計算できて、
Rsa=2.7×109[1/(H・m)]となる。
以上から定着装置3の定着装置は、下記の磁気抵抗の式を満たしており、前記コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下である。
<定着装置4>
本定着装置4は、円筒形回転体として比透磁率の高い金属を用いる構成について解説する。本定着装置のように主に周回電流によって円筒形回転体を発熱させる構成は、円筒形回転体として必ずしも比透磁率の低い金属を用いなければならないものではなく、比透磁率の高い金属でも使用することができる。
従来の電磁誘導加熱方式の定着装置においては、円筒形回転体として比透磁率の高いニッケル等を用いた場合であっても、円筒形回転体の厚みを薄くすると、電力の変換効率が小さくなるという課題があった。そこで、本実施例において、ニッケルの厚みが薄い場合であっても円筒形回転体を高効率で発熱させることが可能であることを示す。円筒形回転体の厚みを薄くすることによって、繰り返し屈曲に対する耐久性向上や熱容量削減によるクイックスタート性向上などのメリットがある。
尚、円筒形回転体にニッケルを用いることを除いて、画像形成装置の構成は定着装置1と同じである。定着装置4においては、円筒形回転体として比透磁率が600のニッケルを用いる。円筒形回転体の厚みは75μmで、直径がΦ24mmとした。弾性層、表層は定着装置1と同じであるので説明を省略する。また、励磁コイル、温度検知部材、温度制御についても定着装置1と同様である。この磁性コア2は、比透磁率が1800、飽和磁束密度が500mTのフェライトであり、直径14mm、長さB=230mmである。
定着装置4の各構成物のパーミアンスと磁気抵抗の割合を下記の表8に示す。
表8から定着装置4の各構成物のパーミアンスは下記のようになる。
磁性コアのパーミアンス:Pc=3.5×10−7[H・m]
円筒体内部のパーミアンス:Pa=1.3×10−10+2.4×10−10[H・m]
円筒体のパーミアンス:Ps=4.2×10−9[H・m]
よって、下記のパーミアンスの関係式を満たす。
Ps+Pa≦0.30×Pc
ここで、上記のパーミアンスの関係式を磁気抵抗の関係式に置き換えると、下記のようになる。
磁性コアの磁気抵抗:Rc=2.9×106[1/(H・m)]
円筒体と磁性コアの間の領域の磁気抵抗:Ra=2.7×109[1/(H・m)]
円筒体の磁気抵抗:Rs=2.4×108[1/(H・m)]
RsとRaの合成磁気抵抗:Rsa=2.2×108[1/(H・m)]
よって、定着装置4は、下記の磁気抵抗の式を満たしており、前記コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下である。
<定着装置5>
本定着装置は定着装置4の変形例であり、磁性コアを長手方向で複数に分割し、分割した各コア間に空隙(ギャップ)を設けた点のみが定着装置4の構成と異なっている。
つまり、磁性コアを長手方向で複数に分割し、その分割した磁性コアの間に空隙を設けて、磁性コアのパーミアンスを小さく(磁気抵抗を高く)した構成である。磁性コアを分割することで、磁性コアを分割せずに一体部品で構成した時よりも磁性コアは外部の衝撃に対して破損しにくくなるというメリットがある。
例えば、磁性コアの長手方向に対して直交する方向に磁性コアに衝撃が加えられた時に、磁性コアが一体部品の場合割れやすいが、複数に分割されていると割れにくい。その他の構成は定着装置4と同じであるので省略する。
本定着装置の構成のうち、円筒形回転体1a、磁性コア3、及び、コイル2を有し、磁性コア3が10分割されている構成を、図19に示す。定着装置5においては分割コア同士のギャップの長さが20μmある。ギャップに比透磁率1、厚みG=20μmのポリイミド等の絶縁シート部材を挟んでいる。このように、その磁性コア同士の間に薄い絶縁シートを挟むことで分割された磁性コアのギャップを保証することができる。磁性コア全体の磁気抵抗の増加を極力抑えるために、分割コア同士のギャップを極力小さく設計している。この構成において、磁性コア3の単位長さ当たりのパーミアンスを求めると、下記の表9のようになる。
磁性コアの単位長さ当たりのパーミアンスは、式(15)〜(21)に表9に示した各パラメータを代入して算出した。
また、上記計算より磁性コアの単位長さ当たりのパーミアンスを1.9×10−7[H・m]として、各領域を通る磁束の比率を算出すると、下記の表10のようになる。
また、表10から定着装置5の各構成物のパーミアンスは下記のようになっている。
磁性コアのパーミアンス:Pc=1.9×10−7[H・m]
円筒体内部のパーミアンス:Pa=1.3×10−10+1.8×10−10[H・m]
円筒体のパーミアンス:Ps=4.3×10−9[H・m]
よって、定着装置5は、下記のパーミアンスの関係式を満たす。
Ps+Pa≦0.30×Pc
これを磁気抵抗に置き換えると、
磁性コアの磁気抵抗:Rc=5.2×106[1/(H・m)]
円筒体内部の磁気抵抗:Ra=3.2×109[1/(H・m)]
円筒体の磁気抵抗:Rs=2.4×108[1/(H・m)]
RsとRaの合成磁気抵抗:Rsa=2.2×108[1/(H・m)]
よって、定着装置5は、下記の磁気抵抗の式を満たしており、前記コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下である。
<定着装置6>
定着装置6として、定着装置1の構成に対して磁性コア2の断面積と円筒形回転体の材質及び断面積が異な構成について説明する。本構成は「コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下」を満たしているものの円筒形回転体が一部、磁路になっている構成である。
図17は定着装置2の定着装置の断面図であり、電磁誘導発熱回転体は厚み200μmのニッケル製の定着フィルムを用いる。定着ローラ11と加圧ローラ7の押圧力をもってニップNを形成し、像担持体Pとトナー像Tを挟ませて矢印方向に回転する構成である。
定着ローラ11の円筒体(円筒形回転体)11aは比透磁率600、厚み0.2mm、直径は48mmのニッケル(Ni)を用いる。尚、円筒体の材質がニッケルに限られるわけではなく、鉄(Fe),コバルト(Co)等の比透磁率の高い磁性金属を用いても良い。
磁性コア2は、分割されていない一体部品で円柱形状をしている。磁性コア2は、不図示の固定手段で定着ローラ11内に配置させており、励磁コイル3にて生成された交流磁界による磁力線(磁束)を定着ローラ11内部に誘導し、磁力線の通路(磁路)を形成する部材として機能する。この磁性コア2は、比透磁率が1800、飽和磁束密度が500mTのフェライトであり、直径12mm、長さB=230mmである。その他の構成は定着装置1と同一である。発熱の模式図に示すように、本構成では円筒体を磁路として通る磁力線が存在する。円筒体の内部を通る磁力線は、図中E//に示すように渦電流を流して発熱に寄与する。この磁力線の通り道は、スリーブとコアが近傍に位置している部分に一部集中し、図のようにコアに最も近い所は発熱量が約10%程度多くなる。
定着装置6の定着装置の各構成物のパーミアンスと磁気抵抗の計算結果を表11にまとめる。
表11から定着装置6の各構成物のパーミアンスは下記のようになっている。
磁性コアのパーミアンス:Pc=2.6×10−7[H・m]
円筒体内部のパーミアンス:Pa=1.3×10−10+2.0×10−9[H・m]
円筒体のパーミアンス:Ps=2.3×10−8[H・m]
よって、定着装置6は、下記のパーミアンスの関係式を満たす。
Ps+Pa≦0.30×Pc
これを磁気抵抗に置き換えると、
磁性コアの磁気抵抗:Rc=3.9×106[1/(H・m)]
円筒体内部の磁気抵抗:Ra=4.8×108[1/(H・m)]
円筒体の磁気抵抗:Rs=4.4×107[1/(H・m)]
RsとRaの合成磁気抵抗:Rsa=4.0×107[1/(H・m)]
よって、定着装置6は、下記の磁気抵抗の式を満たしており、前記コアの磁気抵抗は、前記導電層の磁気抵抗と、前記導電層と前記コアとの間の領域の磁気抵抗と、の合成磁気抵抗の30%以下である。
次にトナーに関して説明する。
以下の実施例において、部数は質量に基づく部数「質量部」である。
<非晶性ポリエステル樹脂1の製造>
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、表9に示す使用量のモノマーを入れた後、触媒としてジブチル錫をモノマー総量100質量部に対して1.5質量部添加した。次いで、窒素雰囲気下にて常圧で180℃まで素早く昇温した後、180℃から210℃まで10℃/時間の速度で加熱しながら水を留去して重縮合を行った。210℃に到達してから反応槽内を5kPa以下まで減圧し、210℃、5kPa以下の条件下にて重縮合を行い、非晶性ポリエステル樹脂1を得た。その際、得られる樹脂の軟化点が表13の値となるように重合時間を調整した。
非晶性ポリエステル樹脂1の物性を表13に示す。
<非晶性ポリエステル樹脂2乃至6の製造>
モノマー及び使用量を表12に記載の様に変更し、それ以外は、非晶性ポリエステル樹脂1と同様にして非晶性ポリエステル樹脂2乃至6を得た。
これらの非晶性ポリエステル樹脂物性を表13に示す。
<結晶性ポリエステル樹脂1の製造>
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した反応槽中に、アルコールモノマーとして1,10−デカンジオール、及びカルボン酸モノマーとして1,10−デカン二酸を表14に示す量を投入した。そして、触媒としてジオクチル酸錫をモノマー総量100質量部に対して1質量部添加し、窒素雰囲気下で140℃に加熱して常圧下で水を留去しながら6時間反応させた。次いで、200℃まで10℃/時間で昇温しつつ反応させ、200℃に到達してから2時間反応させた後、反応槽内を5kPa以下に減圧して200℃で3時間反応させた。
その後、反応槽内の圧力を序々に開放して常圧へ戻した後、表14に示したn−オクタデカン酸を加え、常圧下にて200℃で2時間反応させた。その後、再び反応槽内を5kPa以下に減圧して200℃で3時間反応させることにより結晶性ポリエステル樹脂1を得た。
得られた結晶性ポリエステル樹脂1のMALDI−TOFMSのマススペクトルには、結晶性ポリエステル樹脂の分子末端にn−オクタデカン酸が結合した組成のピークが確認された。それによって、結晶性ポリエステル樹脂の分子末端とn−オクタデカン酸とが結合していることが確認された。結晶性ポリエステル樹脂1の物性を表15に示す。
<結晶性ポリエステル樹脂2及び3の製造>
モノマーの使用量を表14に記載の様に変更し、それ以外は、結晶性ポリエステル樹脂1と同様にして結晶性ポリエステル樹脂2及び3を得た。
また得られた結晶性ポリエステル樹脂2及び3のMALDI−TOFMSのマススペクトルにおいて、分子末端にn−オクタデカン酸が結合した組成のピークが確認された。結晶性ポリエステル樹脂2及び3の物性を表15に示す。
<トナー製造例1>
・非晶性ポリエステル樹脂1 90.0質量部
・結晶性ポリエステル樹脂1 10.0質量部
・カーボンブラック 5.0質量部
・ワックス1 5.0質量部
(フィッシャートロプシュワックス、DSCピーク温度:78℃)
・3,5−ジ−t−ブチルサリチル酸アルミニウム化合物 0.5質量部
上記材料をヘンシェルミキサー(FM−75型、三井三池化工機(株)製)で混合した後、二軸混練機(池貝鉄工(株)製PCM−30型))にて回転数3.3s−1、混練温度130℃の条件で混練した。得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(ターボ工業(株)製T−250)にて微粉砕した。さらに、得られた微粉砕粉末をコアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径7.0μmの負摩擦帯電性のトナー粒子を得た。
得られたトナー粒子100.0質量部に、ヘキサメチルジシラザン20.0質量%で表面処理した一次平均粒子径16nmの疎水性シリカ微粒子1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株)製FM−75型)で混合して、トナー1を得た。
トナー1の物性を表16に示す。
<トナー製造例2〜7及び14>
トナー処方を表16に記載の様に変更した以外は、トナー1と同様にして作成した。トナー2〜7及び14の物性を表16に示す。
<トナー製造例8>
60℃に加温したイオン交換水900質量部にリン酸三カルシウム2.3質量部を添加し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて10,000rpmにて攪拌し、水系媒体を得た。また、下記の材料をプロペラ式攪拌装置にて100r/minで均一に溶解混合して樹脂含有単量体を調製した。
・スチレン 50.0質量部
・n−ブチルアクリレート 30.0質量部
・結晶性ポリエステル樹脂1 10.0質量部
・非晶性ポリエステル樹脂1 5.0質量部
また、下記の材料をアトライターで分散し、微粒状着色剤含有単量体を得た。
・スチレン 30.0質量部
・C.I.ピグメントブルー15:3 7.4質量部
・帯電制御剤ボントロンE−88(オリエント化学社製) 5.0質量部
・ワックス1 10.0質量部
(フィッシャートロプシュワックス、DSCピーク温度:78℃)
次に、該微粒状着色剤含有単量体と該樹脂含有単量体を均一に混合して重合性単量体組成物を得た後、該重合性単量体組成物を60℃に加温した。次いで、該重合性単量体組成物を上記水系媒体中に投入して、重合性単量体組成物を造粒して該重合性単量体組成物の粒子を形成した。
そして、これに重合開始剤tert−ブチルパーオキシピバレート10.0質量部及びトルエン3質量部を加えて10分間造粒を継続させた。
その後、プロペラ式攪拌装置に移して100r/minで攪拌しつつ、75℃で5時間反応させた後、85℃まで昇温し、更に5時間反応を行い、重合反応を行った。重合反応終了後、該粒子を含むスラリーを室温(25℃)まで冷却し、該懸濁液に塩酸を加えて燐酸カルシウム塩を溶解し、濾過・水洗を行い、湿潤着色粒子を得た。そして、上記着色粒子を温度40℃にて12時間乾燥しトナー粒子8を得た。
得られたトナー粒子100.0質量部に、ヘキサメチルジシラザン20.0質量%で表面処理した、一次粒子の個数平均粒子径16nmである疎水性シリカ微粒子1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株)製FM−75型)で混合して、トナー8を得た。トナー8の物性を表16に示す。
<トナー製造例9〜13>
トナー処方を表13に記載の様に変更した以外は、トナー製造例8と同様の方法によりトナー9〜13を得た。得られたトナーの諸物性を表13に示す。
<実施例1>
市販のカラーレーザープリンタColor Laser Jet CP4525(HP社製)の定着装置を取り外し、未定着画像を出力できるように改造を施した。
そして、市販のブラックカートリッジからトナーを抜き取り、エアーブローにて内部を清掃した後、トナー1を150g充填した。なお、マゼンタ、イエロー、シアンの各ステーションからは、それぞれトナーを抜き取り、トナー残量検知機構を無効としたマゼンタ、イエロー、およびシアンカートリッジを挿入した。また、記録材としては、レターサイズのHPレーザージェット紙(HP社製、90g/m2)を使用した。
温度23℃、相対湿度50%の環境下で、トナー載り量0.6mg/cm2となるように未定着画像を出力した。なお画像は、べた黒画像で、左右のそれぞれ80mm、上下それぞれ10mmの余白となるように調整した。
次に、上記未定着画像を、定着装置1に通紙し、通紙画像を評価した。
まず、前記した温度制御手段に基づき、定着器の投入電力を長手中央部のターゲット温度に合わせて制御し、ターゲット温度が120〜200℃まで10℃刻みで評価できる様に調整し、定着最低温度を評価した。なお加圧ローラの回転速度250mm/secとした。
定着最低温度は、得られたベタ黒画像を約100gの荷重をかけたシルボン紙で5往復摺擦し、摺擦前後の画像濃度の濃度低下率が15%以下になる点を定着最低温度とした。トナー1では定着最低温度が140℃となった。
<光沢度の面内均一性>
上記定着試験において、最低定着温度となった温度で、再度、上記未定着画像を定着し、加熱回転体1周目と2周目となる箇所の光沢度(%)を測定した。
光沢度の測定は、ハンディ型グロスメーターPG−1(日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。測定としては、投光角度、受光角度をそれぞれ75°に合わせた。
光沢度の面内均一性は、下記式を用い、評価を行った。評価基準を以下に示す。また、評価結果を表17に示す。
光沢度の維持率=100×(2周目の光沢度)/(1周目の光沢度)
A(非常によい):維持率が85.0%以上である。
B(やや良い):維持率が75.0%以上85.0%未満である。
C(良い):維持率が70.0%以上75.0%未満である。
D(普通):維持率が65.0%以上70.0%未満である。
E(劣る):維持率が65.0%未満である。
<実施例2〜17、比較例1〜5>
トナー及び定着装置を表14に記載の様に変更した以外は、実施例1と同様にして、評価を行った。評価結果を表17に示す。