本発明の実施形態は、減酸素装置、それを用いた減酸素室、これらを有する冷蔵庫に関するものである。
従来より、CA(Controlled Atmosphere)貯蔵方法には、食品業界で多く用いられているガス置換方法、減圧することで酸素を低減する真空方法、高分子電解質膜を用いてCA貯蔵室の酸素を減少させる高分子電解質方法、酸素吸着剤を用いる吸着方法などがある。
ガス置換方法は、窒素や炭酸ガスに代表されるガスを空気に置き換えて貯蔵するもので、食品や野菜の流通過程での鮮度維持のために広く用いられている。
真空方法は、食品の酸化を防ぐために酸素を減らす方法として減圧する方法であり、性能が真空度と相関するため貯蔵容器の強度や真空ポンプの能力が必要であり、比較的大きな装置となる。
酸素吸着剤を用いた方法もガス置換方法と同様に菓子類などの流通過程で広く用いられているが、吸着剤が吸着破過すると効果が無くなり寿命が短い。
高分子電解質膜方法は、アノードで水を電気分解して水素イオンを作り、その水素イオンが高分子電解質膜内を移動してカソードに到達し、貯蔵容器内の酸素と反応して水を生成することで、酸素を消費する。そのため、圧力変化が少なく貯蔵容器の強度が余り必要ないというメリットがある。
特開2004−218924号公報
特開平9−287869号公報
特開平6−184237号公報
しかし、高分子電解質膜方法においては、アノードの水の供給を液体状の水で供給すると、水が高分子電解質膜を移動してカソードに到達してしまい、カソードでの水素イオンと酸素の反応を阻害してしまう、いわゆる「フラッディング現象」を引き起こすため、減酸素反応の性能を低下させるという問題点がある。
そこで、本発明の実施形態は、フラッディング現象の発生を防止し、安定した性能のCA貯蔵を行なうことができる減酸素装置、減酸素室及び冷蔵庫を提供することを目的とする。
本実施形態は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の一方の側に設けられたアノードと、前記高分子電解質膜の他方の側に設けられ、減酸素空間へ通じるカソードと、前記アノードに通電するアノード集電体と、前記カソードに通電するカソード集電体と、前記アノード側に設けられた水の給水体と、前記アノードと前記給水体との間に設けられ、前記給水体から前記アノードへ移動する水の移動量を抑制するアノード水調整部と、を有し、前記アノード水調整部は、水蒸気のみ移動し、液体状の水を移動させない、減酸素装置である。
実施形態1の冷蔵庫の側面からの縦断面図である。
同じく冷蔵庫の正面からの縦断面図である。
実施形態1の減酸素装置の拡大縦断面図である。
減酸素ユニットの分解斜視図である。
減酸素装置の正面図である。
減酸素装置の背面図である。
減酸素装置の縦断面図である。
冷蔵室下部と野菜室の縦断面図であって、野菜室の扉を閉めた状態である。
同じく野菜室の扉を引き出した状態である。
同じく野菜室の扉及び減酸素容器を引き出した状態である。
冷蔵庫の冷凍サイクルである。
冷蔵庫のブロック図である。
実施形態1の変更例1の減酸素装置の拡大縦断面図である。
実施形態1の変更例2の減酸素装置の拡大縦断面図である。
実施形態2の減酸素装置の縦断面図である。
減酸素ユニットの分解斜視図である。
減酸素装置の分解斜視図である。
前ケースの斜視図である。
後ケースの半縦断面斜視図である。
給水装置の縦断面図である。
試験結果を表した表の図である。
実施形態2の変更例1の前ケースの斜視図である。
実施形態2の変更例2の前ケースの斜視図である。
実施形態2の変更例3の前ケースの斜視図である。
実施形態2の変更例4の前ケースの斜視図である。
実施形態3の冷蔵庫の一部を示す概略断面図である。
実施形態3の冷蔵庫に用いられる減酸素装置の構成を概略的に示す断面図である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第1の表である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第2の表である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第3の表である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第4の表である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第5の表である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第6の表である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第7の表である。
実施形態3の冷蔵庫における測定結果の第8の表である。
実施形態の効果の説明図である。
発明の実施の形態
以下、一実施形態の冷蔵庫の減酸素装置について図面に基づいて説明する。
実施形態1
実施形態1の冷蔵庫10の減酸素装置102について図1〜図12に基づいて説明する。本実施形態の冷蔵庫10は減酸素室100を有し、減酸素室100は減酸素装置102を有している。
(1)冷蔵庫10の構造
冷蔵庫10の構造について図1と図2に基づいて説明する。図1は冷蔵庫10の全体の側面から見た縦断面図であり、図2は同じく正面から見た縦断面図である。
冷蔵庫10のキャビネット12は断熱箱体であって、内箱と外箱とより形成され、その間に断熱材が充填されている。このキャビネット12内部は、上から順番に冷蔵室14、野菜室16、小型冷凍室18及び冷凍室20を有し、小型冷凍室18の横には製氷室19が設けられている。野菜室16と小型冷凍室18及び製氷室19の間には断熱仕切体36が設けられている。冷蔵室14と野菜室16とは水平な仕切体38によって仕切られている。冷蔵室14の前面には、観音開き式の扉扉14aが設けられ、野菜室16、小型冷凍室18、冷凍室20及び製氷室19にはそれぞれ引出し式の扉16a,18a,20aが設けられている。
キャビネット12の背面底部には、機械室22が設けられ、冷凍サイクルを構成する圧縮機24などが載置されている。この機械室22背面上部には、制御板26が設けられている。
冷蔵室14の背面下部から野菜室16の背面において、冷蔵用蒸発器(以下、「Rエバ」という)28が設けられ、その下方には冷蔵用送風機(以下、「Rファン」という)30が設けられている。Rエバ28とRファン30とは、エバカバー15で形成されたRエバ室17に配されている。小型冷凍室18の背面から冷凍室20の背面にかけて冷凍用蒸発器(以下、「Fエバ」という)32が設けられ、その上方には冷凍用送風機(以下、「Fファン」という)34が設けられている。Rエバ28で冷却された冷気は、Rファン30によって冷蔵室14及び野菜室16に送風される。Fエバ32で冷却された冷気は、Fファン34によって小型冷凍室18、製氷室19、冷凍室20に送風される。
冷蔵室14の背面には、冷蔵室14の庫内温度を検出する冷蔵室用センサ(以下、「Rセンサ」という)が設けられ、冷凍室20の背面には、冷凍室20の庫内温度を検出する冷凍用センサ(以下、「Fセンサ」という)35が設けられている。
(2)冷蔵室14と野菜室16
次に、冷蔵室14と野菜室16の構造について説明する。
図1に示すように、冷蔵室14には、複数の棚40が設けられ、下部には引出し式のチルド容器42を有するチルド室44が設けられている。このチルド室44は低温室であって、肉や魚を収納する。冷蔵室14の扉14aの背面には複数のドアポケット46が設けられている。
図8〜図10に示すように、野菜室16には、引出し式の野菜容器48が設けられ、野菜室16の扉16aの背面から後方に突出した左右一対の移動レール50,50に支持され、左右一対の移動レール50,50は、野菜室16の右内壁と左内壁にそれぞれ設けられた固定レール52,52上を水平方向に移動する。
野菜室16の天井部に当たる仕切体38の後部には、減酸素室100が設けられている。この減酸素室100の後部には、減酸素装置102が設けられている。この減酸素室100と減酸素装置102については後から詳しく説明する。
なお、減酸素室100は、チルド室44に設けてもよい。この理由は、チルド室44に収納される肉に含まれる油脂の酸化を防止し、肉などの保存に適するからである。
(3)減酸素室100
次に、減酸素室100の構造について図1、図8〜図10に基づいて説明する。
図1に示すように、減酸素室100は、仕切体38に吊り下げられた状態の容器収納部104、この容器収納部104から前方に引出し可能な減酸素容器106、減酸素装置100を有する。
図8〜図10に示すように、容器収納部104は仕切体36に吊り下げられ、容器収納部104の天井面は仕切体36によって構成され、前面は開口し、背面、両側面、底面を有してる。
図8〜図10に示すように、減酸素容器106は、開口した容器収納部104の前面から引出し可能であり、減酸素容器106の前面が扉108を兼ねている。この扉108の背面の四周には、額縁状のガスケット110が設けられ、減酸素容器106を容器収納部104に収納したときに減酸素室100を密閉状態にする。
図8〜図10に示すように、食品収納検出手段であるCO2センサ72が、容器収納部104の背面前側に設けられている。このCO2センサ72は、減酸素室100に野菜などの食品58が収納され、その野菜が呼吸を行なってCO2を排出すると、その排出したCO2を検出して信号を出力する。これにより、減酸素室100内部に食品58が収納されたことを検出できる。なお、食品収納検出手段としては、重量センサ、赤外線センサなどを用いてもよい。
図8〜図10に示すように、容器収納部104の背面後側には、通気孔112が開口し、この通気孔112の位置に減酸素装置102が取り付けられている。
(4)減酸素装置102
次に、減酸素装置102の構造について図3〜図7に基づいて説明する。
高分子電解質膜方法を利用した減酸素装置102は、断熱性を有する箱型のケース114の内部に、減酸素ユニット115が設けられている。
(4−1)減酸素ユニット115
まず、減酸素ユニット115について、図3及び図4に基づいて説明する。図3は、減酸素装置102の縦断面図であり、図4は減酸素ユニット115の分解斜視図である。なお、図3及び図4において、各部材の厚みは薄いものであるが、説明を判り易くするために、その厚みを拡大して記載している。
高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」という)116が縦方向に設けられ、電解質膜116の後部にはアノード118が設けられ、電解質膜116の前部にはカソード120が設けられている。カソード120は、カーボン触媒とカーボンペーパーを積層したものである。また、アノード118とカソード120には白金の触媒がそれぞれ担持されている。電解質膜116、アノード118及びカソード120がホットプレスなどを用いて一体に接合されている。アノード118の後方にはプラス側のアノード集電体122が設けられ、カソード120の前方にはマイナス側のカソード集電体124が設けられている。両集電体122,124は、表面に白金メッキを行なったメッシュ状のチタン膜であり、アノード集電体122はアノード118にプラス通電を行い、カソード集電体124はカソード120にマイナス通電を行う。両集電体122,124は電線158,160から通電される。また、両集電体122,124が接触しないようにするために、絶縁体125が両集電体122,124の間に設けられている。この絶縁体125は額縁状であって、電解質膜116とアノード118とカソード120がその内部に収納されている。
アノード集電体122の後方には、撥水層126が設けられている。この撥水層126は、額縁状のガスケット126内部に設けられている。また、カソード集電体124の前方にも撥水層130が設けられ、この撥水層130も額縁状のガスケット131内部に設けられている。撥水層126,130としては、高分子フィルムを用いる。多くの高分子フィルムは撥水性であるが、水蒸気を透過させる必要があるため、材料によっては厚さの調整が必要であり、液体状の水を透過せずに気体状の水である水蒸気を透過させる性質としては、PTFEフィルム、PFAなどのフッ素系の樹脂フィルム、撥水性の樹脂を用いた不織布などが好ましい。
撥水層126の後方には、シート状の給水体128が配されている。この給水体128としては例えば、不織布などである。
以上により、本実施形態では、アノード水調整部が撥水層126であり、カソード水調整部が撥水層130となる。
上記のようにして順番に積層した減酸素セルを、前後一対の固定部材132と固定部材134によって挟持して固定する。アノード側に配される後方の固定部材132は直方体形状を成し、下部に断面長方形の排気口136を有する。この排気口136は、図3に示すように、前後方向に貫通している。一方、カソード側に取り付ける前方の固定部材134も直方体形状を成し、中央部に開口部138を有する。この開口部138は、縦方向の貫通したスリット状の孔が複数並んだ短冊状を成している。この開口部138が、容器収納部104の通気孔112の位置に対応する。
以上の部材により、減酸素ユニット115が構成されている。固定部材132と固定部材134とは、不図示の数本のネジによって固定されている。そして、固定部材132と固定部材134は、挟んだ各部材の反りかえりを防止するため、剛性が必要な例えばABS樹脂によって形成されている。
また、減酸素ユニット115において、図3に示すように、撥水層130を有したガスケット131とカソード集電体124とカソード120の側面が、樹脂によってシールされパッキングされている。
固定部材132と固定部材134の前後方向の厚さは例えば10mmであり、給水体128の厚みは例えば0.2mm、撥水層126と撥水層130の厚みは例えば0.2mm、ガスケット127とガスケット131の厚みはそれぞれ例えば0.2mm、アノード118の厚みは例えば0.25mm、電解質膜116の厚みが例えば0.2mm、カソード120の厚みが例えば0.25mm、絶縁体126の厚みが例えば0.7mm、アノード集電体122とカソード集電体124の厚みはそれぞれ例えば0.5mmである。
(4−2)ケース114
上記で説明した減酸素ユニット115が、箱型のケース114内部に収納されている。このケース114について図5〜図7に基づいて説明する。図5は、ケース114の正面図、図6は背面図、図7は縦断面図である。
ケース114は、断熱性部材によって形成され。例えば厚さとしては5mmである。ケース114は、減酸素ユニット115を収納するためのユニット収納部140と、ユニット収納部140の側方に設けられた水通過部142とより構成されている。筒型の水通過部142は、その内部にイオン交換樹脂よりなる浄水部144が設けられている。Rエバ28で発生した結露水が、ホース56を経て、ポンプ146によって給水パイプ152から水通過部142の上面に供給される。イオン交換樹脂の浄水部144で浄水された水は、水通過部142の底面からユニット収納部140の下部に流れ込む。ユニット収納部140の下部は、図7に示すように、中央部ほど下方に傾斜した水保持部148を有し、この水保持部148に浄水部144から流れ出た水が溜まる。
ケース114の背面には、図6に示すように、減酸素ユニット115によって発生した酸素を拡散させる拡散口150と、水保持部148から溢れ出た水を外に流すための排水パイプ154が接続されている。この排水パイプ154からの水は、例えば蒸発皿などに排水される。
水保持部148に溜まった水には、減酸素ユニット115から垂れ下がった給水体128が浸されている。なお、水保持部148がスポンジなどの保水部材に水を保水させて給水体128を兼ねてもよい。水の供給方法は、上から水を滴下したり、空気中の湿気を潮解性物質で坦時することで保水してもよい。
減酸素ユニット115の固定部材134は容器収納部104の背面に固定され、ケース114も容器収納部104に固定されている。
(5)冷凍サイクル
次に、冷凍サイクルの構造について、図11に基づいて説明する。
冷凍サイクルは、圧縮機24の吐出側から順番に凝縮器60、三方弁62が接続されている。三方弁62の一方の出口には冷蔵用キャピラリーチューブ64とRエバ28が接続されている。三方弁62の他方の出口には冷凍用キャピラリーチューブ66とFエバ32が接続されている。その後に冷媒流路は一つになりサクションパイプ68を経て圧縮機24の吸入側に至る。冷媒は圧縮機24で圧縮されて、高温高圧の気体状の冷媒に変化し、凝縮器60で放熱しながら液体状となる。液体状の冷媒は、三方弁62によって冷蔵用キャピラリーチューブ64又は冷凍用キャピラリーチューブ66に送られ、ここで気化し易いように減圧され、その後にRエバ28又はFエバ32で気化し、周囲から熱を奪うことにより冷気が発生する。
(6)冷蔵庫10の電気的構成
次に、冷蔵庫10の電気的構成について、図12のブロック図に基づいて説明する。
制御板26には、マイクロコンピュータよりなる制御部70が設けられている。この制御部70には、圧縮機24、三方弁62、Rファン30、Fファン34、減酸素装置102、ポンプ103、Rセンサ31、Fセンサ35及びCO2センサ72が接続されている。
この制御部70は、圧縮機24のインバータモータと三方弁62を用いて上記で説明した冷凍サイクルを制御し、冷蔵室14を2℃〜4℃、野菜室を5℃〜7℃及びチルド室44を0℃〜1℃に制御し、小型冷凍室18、製氷室19、冷凍室20を−20℃〜−25℃に制御する。
(7)減酸素装置102の動作状態
減酸素装置102の動作状態について図3〜図10に基づいて説明する。
まず、図8に示すように、野菜室16を冷却する場合には、野菜室16の扉16aが閉じられ、減酸素室100に関しては、減酸素容器106が容器収納部104に収納されている。減酸素容器106が容器収納部104に収納されていると、シール手段であるガスケット110によって減酸素室100内部は密閉空間となる。
次に、図7に示すように、ポンプ146が、Rエバ28で発生した除霜水をホース56、給水パイプ152を介して水通過部142の上部に供給する。供給された水は、水通過部142内部の浄水部144を通って水通過部142の底部から流れ出て水保持部148に溜まる。水保持部148の水に浸けられている給水体128が、溜まった水を吸い上げる。
次に、図8に示すように、減酸素室100に食品58を収納すると、食品58が呼吸を行なってCO2を排出する。すると、食品収納検出手段であるCO2センサ72がそのCO2を検出し、制御部70が、両集電体122,124に対し通電を開始するか、又は、通電している電流値を大きくする。さらに、この減酸素室100の庫内温度が、チルド室44の庫内温度1℃より高くなっている。すなわち、減酸素室100は、野菜室16内部に設けられているため、野菜室16の庫内温度と同じになり、例えば5℃〜7℃になる。これにより収納した野菜などの食品58は、庫内温度が低過ぎることによる低温障害を防止できる。
次に、図3、図4に示すように、減酸素容器106の空気が、減酸素室100の通気孔112、固定部材134の開口部138を経て供給され、両集電体122,124が通電されているので、流入した空気から減酸素が行われ、減酸素室100がCA貯蔵室となる。アノード118とカソード120では次の式(1)と式(2)のような減酸素反応が行なわれる。
アノード・・・2H2O→O2+4H++4e− ・・・(1)
カソード・・・O2+4H++4e−→2H2O ・・・(2)
この減酸素反応式を説明すると、給水体128から撥水層126を通過した水蒸気をアノード118で電気分解して水素イオンを作り、その水素イオンが電解質膜116内を移動してカソード120に到達し、減酸素室100内部の酸素と反応して水を生成し、酸素を消費する。これにより、減酸素容器106内部において減酸素が行われ、食品58をCA貯蔵できる。
次に、図3、図6、図7に示すように、減酸素ユニット115のアノード118で発生した酸素が、まず固定部材132の排気口136を通過し、その後に拡散口150から拡散される。
ここで、撥水層126は、給水体128からアノード118に移動する水の移動量を抑制して移動させず、気体状の水蒸気のみ透過させる。これにより、アノード118への液体の水の浸入を防ぎ、フラッディング現象を防止できる。
また、カソード120の前方にも撥水層130を設けることにより、減酸素室100を減酸素した場合にカソード120に水が発生するが、この水は化学反応によって作られた純水である。この生成された水はカソード120に溜まり、アノード118よりも水が多くなるので、この水は電解質膜116を通ってアノード118へ戻る現象(バックディフュージョン現象)が起こる。そのため、純水をアノード118側へ供給でき、給水体128への供給量を減少させることができる。
なお、制御部70は、減酸素装置102による酸素濃度を下げる場合に10%以下にしないように制御している。これは、野菜などの食品58の保存には10%の酸素濃度でも充分な効果があり、10%以下にするには大きな電力消費が必要であり、また、減酸素された空気をユーザが万が一呼吸してしまった場合に人体への影響が好ましくないからである。
次に、図9に示すように、野菜室16の扉16aを前方に引き出すと、野菜容器48も前方に移動する。しかし、減酸素室100の減酸素容器106は、容器収納部104に収納された状態であるため、減酸素状態を維持する。
次に、図10に示すように、減酸素室100の減酸素容器106を前方に引き出すと、減酸素状態が解除され、減酸素容器106に収納されている食品58を取り出すことができる。
(8)効果
本実施形態によれば、減酸素装置102のケース114が断熱性を有するため、減酸素ユニット115で電気分解が行なわれ、それによって発生した熱が、野菜室16に伝わることがない。そのため、野菜室16の庫内温度を上げることがない。
また、拡散口150はケース114の背面下部に設けられているため、電気反応により発生した熱はユニット収納部140の上部に溜まり、下部にある拡散口150から熱が外に伝わることがない。また、酸素は分子量32の分子であり、空気よりも重く下方向に拡散することが予測されるため、排気口136と拡散口150を減酸素装置102の下部に設けることが効率的となる。
また、断熱性を有するケース114に減酸素ユニット115が囲まれているため、ケース114内部は電気分解の熱によって暖かく、給水体128で吸い上げられた水が蒸発し易く、安定的な水素イオンの供給が可能となる。
また、ケース114内部に水保持部148を有しているため、水を溜めるための特別な部品やスペースが不要である。
また、カソード120の側面が樹脂156によって密閉されているため、減酸素容器106における空気を通気孔112、開口部138を経て供給され、その空気の中から酸素のみを水に変換できる。
また、固定部材132と固定部材134によって電解質膜116、アノード118、カソード120、両集電体122,124、撥水層126,130を挟持しているため、これら部材を一体に固定できる。各部材は薄い層であるが、両側から固定部材132,134によって挟持しているため、反りかえりが起こることがなく各部材の均一な接触を確保できる。特に、固定部材132と固定部材134とは、各部材に当たる部分の剛性が強く、各部材の反りかえりの防止ができる。そのため、接触面積を均一に確保できる。
また、カソード120側の固定部材134の開口部138は短冊状であるため、カソード124を押圧する強度はそのまま保持でき、かつ、酸素が通過する開口面積を確保できる。
また、水通過部142内部にイオン交換樹脂の浄水部144を設けているので、給水体128に供給する水は、除霜水の水質による影響を取り除くことができ、減酸素装置102の劣化を防止できる。
また、減酸素室100の庫内温度が、チルド室44の庫内温度以上になるように、減酸素室100は野菜室16内部に設けられている。そのため、その庫内温度は5℃〜7℃になり、減酸素室100に収納された野菜などの食品58が低温障害をを起こすことがない。一方、チルド室44は、通常1℃程度に庫内温度が制御され、肉や魚を冷凍せずに長期保存できる。
また、減酸素室100に食品58を収納すると、食品58が呼吸を行なってCO2を排出ので、CO2センサ72がそのCO2を検出し、制御部70が、両集電体122,124に対し通電を開始するか、又は、通電している電流値を大きくする。これにより食品58を収納するまでは節電できる。
また、撥水層126を設けることにより、給水体128からアノード118への水の浸入を防ぎ、水蒸気のみ透過させることができるため、フラッディング現象を防止できる。
また、撥水層126として高分子フィルムを用いているため、供給する水にミネラルなどの不純物が有ったとしても遮断し、電解質膜116を劣化させる現象も防止できる。さらに、高分子フィルムであると、撥水性能に劣化が無く長寿命を得ることができる。
また、撥水層130を設けることにより、カソード120で発生した水がアノード118に流れることにより、純水をアノード118へ供給することができ、給水体128からの供給量を減少させることができる。さらに、カソード120で発生した水が減酸素室100内に戻ることがないため、減酸素室100内部で冷却されて結露して、食品58の腐食を促進することを防止できる。
また、Rエバ28から発生した除霜水を用いているため、ユーザが一定の周期で給水体128に水を入れることが不要であり、ユーザが水を入れ忘れたりして、減酸素装置102の劣化を促進させることがない。すなわち、減酸素装置102の劣化を考えると、供給する液体は純水に近い方が良く、どの家庭でも入手できる水道水では塩素やミネラルが劣化を促進させる。これに対し、除霜水は水蒸気が冷却されてできた水であり、Rエバ28上で若干の金属成分の溶解があるものの、水道水に比べて不純物がかなり低減されているので、減酸素装置102の劣化を防止できる。また、除霜水を減酸素装置102に供給することで、機械室22に設けられている蒸発皿に導かれて熱で水蒸気になり、放出される量を低減できる。
また、減酸素室100が野菜室16内部に固定され、この固定された減酸素室100の背面に減酸素装置102が固定されている。そのため、野菜室16の扉16aが開いても減酸素室100は固定されたままである。そして、減酸素保存された食品58を取り出すときには扉108を開放することによって減酸素容器106内の食品58を取り出すことができる。このような構造にすることによって、減酸素装置102の両集電体122,124に接続する電気配線、給水パイプ152、排水パイプ154を移動させる必要がなく、また、減酸素装置102と減酸素室100の気密シール構造を簡素化でき、設計の自由度が増す。
(9)変更例1
実施形態1の変更例1について図13に基づいて説明する。
実施形態1では、カソード120側のみ樹脂156によって覆っていたが、本変更例では、固定部材132と固定部材134との間の部品と側面を全て樹脂156によって密閉する。
これによって、他の部分からの酸素の流入がなく、より確実に減酸素ユニット115によって、減酸素容器106内部の酸素を減らすことができる。
(10)変更例2
次に、実施形態1の変更例2について図14に基づいて説明する。
上記実施形態では、アノード集電体122の突片とカソード集電体124の突片に接続した電線158,160は、ケース114を貫通していたが、この部分からは気体の出入りをできないようになっていた。
しかし、本変更例ではアノード集電体122に接続された電線158とカソード集電体124に接続された電線160が貫通する部分に通気口162,164を設け、この通気口162,164を電線158,160の外径よりも大きくして、この通気口162,164からも酸素が拡散できるようにしてもよい。
実施形態2
次に、実施形態2の冷蔵庫10の減酸素装置200について、図15〜図21に基づいて説明する。本実施形態と実施形態1の異なる点は、減酸素装置200と、その減酸素装置200に水を供給する給水装置300にある。以下、順番に説明する。
(1)減酸素装置200
減酸素装置200には、断熱性を有するケース204の内部に、減酸素ユニット202が収納されている。この減酸素ユニット202について、図15〜図17に基づいて説明する。図15は減酸素装置200の縦断面図、図16は減酸素ユニット202の分解斜視図、図17は減酸素装置200の分解斜視図である。なお、図15〜図17において、各部材の厚みは薄いものであるが、説明を判り易くするために、その厚みは拡大して記載している。また、実施形態1と同様の部材については説明を省略している。
電解質膜206が縦方向に設けられ、電解質膜206の後部にはアノード208が設けられ、電解質膜206の前部にはカソード210が設けられている。カソード210は、カーボン触媒とカーボンペーパーを積層したものである。また、アノード208とカソード210には白金の触媒がそれぞれ担持されている。電解質膜206、アノード208及びカソード210がホットプレスなどを用いて一体に接合されている。アノード208の後方には。プラス側のアノード集電体212が設けられ、カソード210の前方にはカソード集電体214が設けられている。両集電体212、214は、それぞれ気体が通過するためのスリット状の開口部216,218を有している。そして、アノード集電体212はアノード208にプラス通電を行い、カソード集電体214はカソード210にマイナス通電を行う。両集電体212,214は、不図示の電線からそれぞれ通電される。また、両集電体212,214が接触しないようにするために、絶縁体220が両集電体212,214の間に設けられている。この絶縁体220は額縁状であって、電解質膜206とアノード208とカソード210がその内部に収納されている。
アノード208側のアノード集電体212の後方には、シート状の給水体222が配されている。この給水体222としては、例えば不織布などである。また、この給水体222は、水の表面張力により吸い上げるシート状である。
集電体212と、給水体222の間には、板状のスペーサ211が配されている。このスペーサ211には、スリット状の開口部213が複数開口している。スペーサ211の厚みは1mmであり、集電体212と給水体222との間に一定の空間Aを形成する。
上記のようにして順番に積層した減酸素セルを、前後一対の後固定部材224と前固定部材226によって挟持して固定する。アノード側に配される後固定部材224は積層した部材を収納するための収納凹部228を有し、上部には両集電体212,214の突片が突出する溝230が設けられている。また、後固定部材224の中央には、気体が通過するためのスリット状の開口部232が開口している。
カソード側に取り付けられる前固定部材226は板状を成し、中央部に気体が通過するためのスリット状の開口部234を有している。図15に示すように、スリット状の開口部234に関して、前側の断面積と後側の断面積とは異なり、後にいくほど狭くなるように傾斜している。これは、カソード集電体214に空気を送り易くするためである。
後固定部材224と前固定部材226とは、不図示のネジによってネジ止めされる。これら部材が一体となったものを、実施形態2では「減酸素ユニット202」と呼ぶ。なお、減酸素ユニット202の上部からは両集電体212、214の突片がそれぞれ突出し、下部からは給水体222が垂れ下がっている。
(2)ケース204
上記で説明した減酸素ユニット202が、箱型の断熱性を有するケース204内部に収納される。このケース204について図15と図17に基づいて説明する。
ケース204は、直方体状の前ケース236、後ケース238、前ケース236及び後ケース238の間に挟まれた額縁状の中ケース240とより構成されている。減酸素ユニット202のカソード側に前ケース236が配され、アノード側に後ケース238が配され、減酸素ユニット202を収納した状態で前ケース236、後ケース238、中ケース240が不図示のネジによってネジ止めされる。
前ケース236について図17と図18に基づいて説明する。断熱性を有する前ケース236の後面の中央部には、正方形状の反応凹部244が設けられている。また、この反応凹部244の上面から前ケース236の上面に向かって溝状の上流路246が設けられ、前ケース236の上面に上通気孔248が開口している。また、反応凹部244の下面から下方に向かって溝状の下流路250が設けられ、前ケース236の下面に下通気孔252が開口している。そして、図15に示すように、反応凹部244によってカソード側のカソード集電体214と前ケース236の前壁との間に直方体状の空間が生じる。以下、この空間を「反応空間B」と呼ぶ。
次に、図15と図17に基づいて中ケース240について説明する。額縁状の中ケース240の中央部242には、減酸素ユニット202の前固定部材226が収納される。
次に、図17と図19に基づいて後ケース238について説明する。後ケース238の前面中央部には、減酸素ユニット202の後固定部材224が収納できる収納凹部254が設けられ、この収納凹部254から後ケース238の上面に向かって両集電体212,214の突片がそれぞれ突出する溝256,258が設けられている。収納凹部254の後面には、さらに排気凹部260が設けられ、この排気凹部260の下面は互いに近づくように傾斜面を有し、排気口262に通じている。排気口262は、後ケース238の下面に開口している。
減酸素ユニット202を収納したケース204は、減酸素室100の容器収納部104の後面に取り付けられる。この取り付け方法について図15に基づいて説明する。
容器収納部104の後面中央部には、収納側に向かって立方体状の収納保持部264が突出している。この収納保持部264は、後方からケース204の前ケース236が収納される。そのため、前ケース236の上面及び下面に開口している上通気孔248と下通気孔252に対応する位置に上孔266と下孔268が開口している。
ケース204が、容器収納部104の後面から突出した状態となっているため、この突出部分を覆うようにカバー270を被せる。このカバー270は、合成樹脂製であって、ケース204の後ケース238を全て覆う形状に形成されている。なお、このカバー270には、両集電体212,214が突出するための集電体開口部278,278が設けられている。また、後ケース238の排気口262と通じた排気口280が開口している。
なお、容器収納部104に減酸素容器106を収納する構造に代えて、容器収納部104自身が食品を収納する減酸素容器で構成してもよい。
(3)給水装置300
次に、給水装置300について、図15と図19に基づいて説明する。
給水装置300は、給水本体302を有し、この給水本体302は、横長の直方体の箱体である。給水本体302は、その内部において区画壁304によって上下に区画され、上部が浄水区画306、下部が吸い上げ区画308を構成している。給水本体302の左端部上面、すなわち浄水区画306の上面には、給水パイプ152が接続されている。この給水パイプ152は、ポンプ146によって冷蔵庫10のRエバ28から発生した除霜水が送り込まれる。
区画壁304は、図19に示すように給水パイプ152が接続されている部分から下方に向かって傾斜し、右端部において吸い上げ区画308に通じる給水孔310が形成されている。浄水区画306内部には、イオン交換樹脂よりなる浄水部312が設けられている。この浄水部312を設けることにより、Rエバ28から供給された除霜水の水質による影響を取り除くことができ、減酸素ユニット115の劣化を防止できる。すなわち、除霜水は、Rエバ28に付着した霜であり、またドレンパンに集められているため、金属イオンが含まれている。そのため、給水体222を構成する合成樹脂繊維の加水分解を助長する可能性があるため、この浄水部312を設けることにより、除霜水の水質による影響を取り除くことができる。
吸い上げ区画308は、給水孔310から供給された水を溜めるための貯水部314を有している。また、吸い上げ区画308の左端部には排水パイプ154が設けられている。この排水パイプ154と貯水部314との間には、仕切り壁316が設けられている。給水孔310から給水された除霜水は、貯水部314に溜まる。この貯水部314は中央が凹み、上記で説明した減酸素ユニット202の給水体222の下部が浸され、給水体222はこの溜まった水を吸い上げる。貯水部314の水の量が多くなり仕切り壁316を超えると、排水パイプ154から不図示の蒸発皿に水が排水される。なお、横長の直方体である給水本体302において、吸い上げ区画308は、浄水区画306よりも前方に突出し、この吸い上げ区画308の前方に突出した天井面から給水体222が突出している。
(4)減酸素装置200の動作状態
減酸素装置200の動作状態について、図15〜図21に基づいて説明する。
減酸素装置200は、実施形態1の減酸素装置102と同様に給水装置300から給水体222に供給され、この給水体222に供給された水によって、式(1)と式(2)で表された減酸素反応によって減酸素室100内部が減酸素状態となる。
ところで、給水体222とアノードが直接接触していると、供給する水の中のCa(カルシウム)などのイオンコンタミ成分が電解質膜206の中で反応を起こし、電解質膜206の性能を劣化させることがある。このため、水の供給は純水、又は、イオン交換水が好適である。このような純水、又は、イオン交換水をアノード側の集電体212に供給する方法として、水を一度気化させて水蒸気として供給する方法がある。しかし、気化させるためにヒーターなどで加熱すると消費電力が大きくなり適切でない。また、実施形態1のように、水蒸気を通過し、液体の水を通過させないPTFEフィルムなどの撥水性の撥水層126を給水体222と集電体216の間に挿入する方法も考えられるが、撥水層126の劣化の可能性もある。
そこで、本実施形態では、給水体222とアノード側の集電体212との間に空間を設けることで液体の水が集電体212に接触しないようにしている。この方法では、減酸素ユニット202の発熱によって温められた水が水蒸気となり、減酸素セルに接触して反応できる。反応速度を上げるために減酸素セルにかける電圧を大きくすると、減酸素セル自身の温度が上がるために水蒸気量が増えるなど、減酸素セルの影響を直接受けることでより効果が現れる。
本実施形態では、給水体222とアノード側の集電体212との間に空間を形成するために、撥水性及び絶縁性のあるスペーサ211を配している。減酸素セルの動作には、アノード208とアノード側の集電体212との接触が重要であり、接触不良によって抵抗が大きくなると減酸素セルの動作が十分でなくなる。このため、単に空間を設けるよりもスペーサ211によって締め付け圧を伝えることで、より安定した減酸素セルの動作を確保できる。この場合に、給水体222とアノード側の集電体の空間は、スペーサ211に開口したスリット状の開口部213によって形成されている。なお、この開口部213は、空間を形成できればよく、スリット状に限らず、格子状であってもよい。そして、スペーサ211は撥水性であるため、給水体222から液体の浸入を防止できる。さらに、集電体212と密着するスペーサ211が絶縁性であるため、集電体212による抵抗が増加することなく、アノード側の集電体212からアノード208に正しく電気エネルギーが伝わる。
ところで、このスペーサ211の厚さは、給水体222と集電体212の空間の大きさを直接決定する要因となる。そこで、本出願人が、このスペーサ211の厚みを変えて給水体222から減酸素セルへの水が浸入したか否かの試験を行なった結果を図21の表に示す。
図21の表に示すように、スペーサ211の厚さが1.0mm未満であると、水の浸入があり、1.0mm以上であると水の浸入がなかった。したがって、スペーサ211の厚みとしては、1.0mm以上が好適である。但し、あまり厚くすると、減酸素ユニット202の厚みが大きくなるため、3.0mm以下が好適である。
本実施形態では、このスペーサ211が、アノード水調整部となる。
また、減酸素反応は、発熱があり、温度が高いほうが触媒の効率が向上し、より低い電圧で反応する。一方、減酸素装置を全て断熱材で覆ってしまうと、空気との接触がなくなり、減酸素反応が停止する。また、空気が移動しない構造ではカソードで発生する水がその近辺に溜まり、空気との接触を妨害するフラディング現象を起こしてしまう。
そこで第1に、本実施形態では、減酸素ユニット202を断熱性のケース204で覆い、減酸素反応によって発熱した温度を保持して触媒の効率を向上させ、より低い電圧で反応する。特に、カソード210の部分は前ケース236の前壁によって全て覆われるため、より断熱を保持できる。
第2に、本実施形態では、上記のような断熱を保持していても、カソード210側は反応凹部244による反応空間Bが形成され、この反応空間Bには前ケース236の上通気孔248と下通気孔252から空気が供給される。すなわち、酸素を含んだ空気が下孔268から下通気孔252、下流路250を通って反応凹部244によって形成される反応空間Bに供給され、式(1)と式(2)で表した減酸素反応を促進できる。
第3に、本実施形態では、この減酸素反応によって発生した水は、その発熱によって水蒸気となり反応空間Bから上流路246、上通気孔248、上孔266を通って減酸素容器106内部に排出される。したがって、フラッディング現象も発生しない。特に、減酸素ユニット202の発熱によって周辺の空気が温められるため、上通気孔248に空気が上から抜け易く、減酸素反応で発生した水蒸気も抜け易い。
第4に、本実施形態では、反応空間Bの上下に通気孔248,252を設けることにより、下から上への空気の流れがスムーズになり、下から空気が入って減酸素ユニット202が温められ、ここで生成された水蒸気を含んだ空気が上に排出されるという上昇気流を作り出すことができる。
また、液体状の水が生成された場合、前固定部材226の開口部234は重力方向に傾斜しており、孔252から排水し易く液体状の水が溜まらない。なお、前固定部材226は撥水性を備えていてもよい。
(5)効果
本実施形態によれば、アノード側の集電体212と給水体222との間にスペーサ211を配し、このスペーサ211に開口部213を設けることにより、給水体222と集電体212との間に空間が形成される。そのため、給水体222からの液体の水が集電体212に接触せず、また、減酸素セルの発熱によって温められた水が水蒸気となり、減酸素セルに接触して反応できる。この反応速度を上げるためには減酸素セルの両集電体212,214にかける電圧を大きくすることにより減酸素セル自身の温度が上がるために水蒸気量が増えるなど、減酸素セルの直接の影響を受け、より効果が現れやすい。
また、フラッディング現象とはカソード側で水が液化し反応ガスを遮断する現象であって、そのうちの一つが、アノードの水の供給を液体状の水で供給すると、水が電解質膜を移動してカソードに到達してしまい、カソードでの水素イオンと酸素の反応を阻害してしまう現象である。しかし、本実施形態のようにアノード208の水の供給を水蒸気で行なうことにより、液体状の水が電解質膜206を移動してカソード210に到達し、カソード210での水素イオンと酸素の反応を阻害することがなく、フラッディング現象が発生することがなく、減酸素セルの性能を維持できる。
また、スペーサ211によって集電体212からアノード208への締め付け圧が伝わり、アノード208と集電体212とを完全に接触させることにより、接触不良による抵抗が大きくなることがなく、より安定した減酸素セルの動作が確保できる。また、スペーサ211は撥水性であるため、液体の水の浸入を防止できる。さらに、スペーサ211が絶縁性であるため、集電体212による抵抗が増えることを防止し、減酸素セルに正しく電気エネルギーが伝わる。
また、スペーサ211の厚みを1mm以上にすることにより、液体の水が給水体222から減酸素セルに浸入することが防止できる。
また、スペーサ211は、スリット状又は格子状の開口部213によって空間が形成され、かつ、その開口部213の縁部分において集電体212に圧力を伝えることができる。そのため、一つの大きな空間を作るよりも、小さな開口部213を複数設けて小さな空間を多く形成する方が、圧力を伝えることができ、かつ、空間を形成できる。
また、給水体222は、水の表面張力及び毛細管現象を用いて吸い上げるシートであるため、集電体222と減酸素セルの間の接触を考えると、給水体222はできるだけ薄い方が、圧力を集電体212に伝え易く、安定した減酸素セルの動作を引き出すことができる。また、給水体222が薄いことは、減酸素ユニットと202の厚さも薄くでき、設置場所を選ばないというメリットがある。
また、減酸素ユニット202が断熱性のケース204によって覆われているため、減酸素ユニット202の減酸素反応による発熱によって温度を上げることができ、より触媒の働きを上げることができる。また、カソード210の前方が前ケース236によって覆われ、かつ、反応凹部244によって反応空間Bが形成されるため、カソード210は空気と接触できると共に、覆われていることによる断熱によって触媒の効率を上げることができる。
また、前ケース236には上通気孔248と下通気孔252が開口し、反応空間Bと連通していることにより、空気の流れがスムーズとなり、酸素を有する空気がカソード210に供給され易い。特に、通気孔236,238が複数設けられているため、空気の流通を確実にできる。
また、上通気孔248と下通気孔252は減酸素室100内部に通じているため、確実に減酸素室100内部の空気を供給できる。
また、上通気孔248、下通気孔252の断面積が、前固定部材226に開口した複数開口部234の面積よりも小さいため、空気の流通を確実に行なうことができ、カソード210に空気を供給できる。
また、減酸素ユニット202の前固定部材226の左右方向の幅が、反応凹部244よりも広いため、空気を供給し易い。さらに、反応凹部244の幅が、上流路246と下流路250の幅よりも広いため、反応凹部244内部で空気が拡散し易い。
また、前固定部材226の短冊状の開口部234に関して、前側の断面積と後側の断面積とは異なり、後にいくほど狭くなるように傾斜しているので、カソード集電体214に空気を送り易い。
また、前ケース236内部にある上流路246では、上昇気流によって上に排出される水蒸気は減酸素ユニット202から離れるにしたがい、温度が低下するために、前ケース236内部で水滴となり結露してしまうことがある。しかし、このような結露があっても上流路246と下流路250とが、一直線状に形成されているため、減酸素ユニット202の反応凹部244に溜まることなく、下通気孔252から流れて排出される。
(6)変更例1
実施形態2の変更例1について説明する。
上記実施形態では、スペーサ211の厚みは均一であったが、本変更例では、スペーサ211にある4つの開口部213の上下左右の縁部のみを他の部分(例えば、スペーサ211の周囲部分の厚み)よりそれぞれ厚くして、額縁状に形成する。この理由は次の通りである。前固定部材226と後固定部材224とをネジ止めして、集電体212にスペーサ211を押しつける必要がある。しかし、給水体222は液体状の水を確保する必要があるので、給水体222によって集電体212に圧力を伝えることは難しい。それは給水体222の材料は水を吸収するために膨潤し、柔らかくなってしまうからである。しかし、この変更例1のように、4つの開口部213の縁部の厚さをそれぞれ額縁状にそれぞれ厚くしておくことで、この額縁状の部分で圧力を伝えることができる。
また、この変更例1のさらに変更例としては、四角形のスペーサ211の4つの縁部を他の部分より厚くして額縁状に形成してもよい。
(7)変更例2
実施形態2の変更例2について説明する。
本変更例では、給水体222に供給する水に潮解性物質を配合することで空気中の水分を集めて供給する。
すなわち、上記実施形態では、給水装置300から水を供給していたが、本変更例では、給水体222に潮解性物質を配合することで周りの空気中の水分を集めて水として供給する。潮解性の物質としては、クエン酸(C6H8O7)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸カリウム(K2CO3)、塩化マグネシウム(NgCL2、塩化カルシウム(CaCL2)がある。なお、潮解性の物質は、水に溶解するために通常では水の不純物になり、減酸素反応には適さないが、上記実施形態のように水蒸気による供給ができる場合には、水に不純物が含んでいても減酸素反応には関わらず、この潮解性物質を適応できる。
(8)変更例3
実施形態2の変更例3について説明する。
上記実施形態では、除霜水を用いて給水体222に水を供給したが、本変更例では、水道から水を供給して給水体222に供給する。水道水であれば、減酸素装置200の設置位置の自由度が増し、設計がし易いという効果がある。
(9)変更例4
実施形態2の変更例4について図22に基づいて説明する。
本変更例では、図22に示すように収納凹部244から下流路250に続く下面を傾斜面としている。これによって、上流路246や反応凹部244に発生した結露による水滴が、より確実に下流路250に流れ出る。
(10)変更例5
実施形態2の変更例5について図23に基づいて説明する。
本変更例では、図23に示すように、減酸素ユニット202と接触している前ケース236の前面236aと後面236bとの間、すなわち、上面236cの中央部に上流路246と下流路250を設ける。これにより、より確実に減酸素ユニット202を断熱性のある前ケース236で覆うことができ、断熱効果を高めることができる。そのため、さらに触媒の効率を上げることができる。
(11)変更例6
実施形態2の変更例6について図24に基づいて説明する。
本変更例では、図24に示すように、前ケース236に設けた下流路250に複数の乱流発生手段であるリブ282を設ける。このリブ282は、これらリブ282は、段違いになって傾斜して設けられ、下通気孔252から入った空気が、これらリブ282によって気流の乱れ(乱流)が生じ、反応凹部244の位置で全体に広がることができ、空気によってより効率よく触媒の反応を行なうことができる。
(12)変更例7
実施形態2の変更例7について図25に基づいて説明する。
本変更例では、図25に示すように、上流路246と下流路250を一直線状にならないような位置にずらして配置して乱流を生成している。このような配置であると、気流の乱れ(乱流)が生じ、減酸素ユニット202全体に空気を行き渡らせることができる。
(13)変更例8
実施形態2では、反応空間Bに連通する通気孔を上下に設けたが、これに限らず、左右、斜め、又は、上下左右斜めに設けてもよい。
実施形態3
以下、実施形態3に係る減酸素装置421及びこの減酸素装置421を備えた冷蔵庫401について、図26〜図35に基づいて説明する。
まず、図26を参照して冷蔵庫401を説明する。冷蔵庫401は断熱箱からなる冷蔵庫本体402を備えている。冷蔵庫本体402はその図示しない上部に冷蔵室を有し、冷蔵庫本体402の上下方向中間部に減酸素室403を有している。
減酸素室403は、その内部に収容される野菜等の保存対象物品を、低温かつ低酸素環境で長期保存するために設けられている。減酸素室403は、冷蔵庫本体402の壁の一部をなして外面が断熱材で覆われた容器収納部404によって区画されていて、冷蔵室等には連通されていない。容器収納部404は冷蔵庫本体402の前面に開口されている。この開口は扉405によって開閉される。
容器収納部404の外面に図示しない冷媒配管が設けられている。この冷媒配管を流通する冷媒によって容器収納部404が食品の冷蔵に適した温度に冷やされる。それにより、容器収納部404の内部空間からなる減酸素室403に収容された食品等を冷蔵することが可能である。
扉405は、内部に断熱材が充填された構成であって、例えば上面が開放された減酸素容器406の前壁を兼ねている。減酸素容器406は減酸素室403に対して前後方向に移動可能である。減酸素容器406が前側に引出された状態で、その開放された上面を通して野菜等を出し入れできる。
減酸素容器406を円滑に移動させるために、レール407と、固定ローラ408と、可動ローラ409が用いられている。レール407は、減酸素室403内にこの減酸素室403の幅方向の左右二箇所に配置されていて、前後方向に延びている。減酸素容器406に下側から接する固定ローラ408は各レール407の前端部に固定されている。可動ローラ409は減酸素容器406の後端部下面に固定されていて、レール407にガイドされる。
したがって、減酸素容器406は、その下側から固定ローラ408と可動ローラ409で支持された状態で、これらローラの回転を伴って前後方向に円滑に移動できる。
扉405の周部に環状のシールパッキン410が取付けられている。扉405が容器収納部404の前面開口を閉じた状態で、シールパッキン410は冷蔵庫本体402の前面に密接されて、減酸素室403を密閉状態に保持する。なお、扉405は、冷蔵庫本体402の前面にヒンジにより回動可能に取付けられた断熱扉とすることも可能である。このため、減酸素容器406は枢着してもよい。
例えば上下三段に区分けされた冷凍室413が、冷蔵庫本体402の最下部に減酸素室403から独立して形成されている。冷凍室413の前面開口は断熱性の開閉扉14で開閉される。冷蔵庫本体402の背面側でかつ下端部に機械室415が形成されている。この機械室415に圧縮機416が設置されている。冷蔵庫本体402内に、圧縮機416によって冷媒が供給される冷却器417とファン418が配設されていると共に、これらを前側から覆うカバー419が配設されている。冷却器417とファン418によって生成される冷気は冷凍室413に循環される。
冷却器417から流出された冷媒は、容器収納部404の外面に取付けられた図示しない前記冷媒配管を経由して、圧縮機416に吸込まれる。冷蔵庫本体402に、その一側面例えば背面に開放する凹部420が形成されている。凹部420は減酸素室403の後側に設けられている。凹部420と減酸素室403とは、これらを仕切る壁に開けた通孔402aを経由して連通されている。
次に、図27を参照して減酸素装置421を説明する。減酸素装置421は、減酸素ユニット422と、電源424と、ケース425と、電圧検出手段である電圧計427と、制御部429等を具備している。
減酸素ユニット422は、このユニットのエレメントである減酸素セル423、電極接合体436、及びカソード集電体429を備えている。この減酸素ユニット422は一個に限らず複数個設けることも可能である。
減酸素セル423は、減酸素ユニット422のエレメントであるアノード430と、カソード431と、電解質膜435を備えている。
電解質膜435には高分子電解質膜を好適に用いることができる。この電解質膜435の一側面にアノード430の一側面が接合されている。電解質膜435の他側面に後述するカソード触媒層432を接触させてカソード431が接合されている。したがって、電解質膜435はアノード430とカソード431とで挟まれている。
アノード430の他側面、すなわち、電解質膜435に接していない側面に、電極接合体436が接合されている。したがって、電極接合体436は電解質膜435との間にアノード430を挟んで配設されている。
電極接合体436は、減酸素ユニット422のエレメントであるアノード集電体437及び気化層438を備えている。電極接合体436のアノード集電体437は、減酸素ユニット422の一方の電極をなしている。このアノード集電体437はアノード430の側面に接合されている。電極接合体436の気化層438は、アノード集電体437を境にアノード430とは反対側でアノード集電体437に接合されている。したがって、気化層438はアノード430との間にアノード集電体437を挟んで配設されている。そして、本実施形態では、この気化層438が、アノード水調整部となる。
なお、電極接合体436は、その気化層438を、本実施形態とは逆にアノード集電体437のアノード側の側面に接合して形成されていても良い。又、電極接合体436は、その気化層438を、アノード集電体437の両側面に夫々接合して形成されていてもよい。
これらの電極接合体436を用いる場合、アノード集電体437のアノード側の側面に接合された気化層とアノード430との間に、液体状の水を透過せず水蒸気のみ透過する水蒸気透過性を有する電気絶縁層を介在させて、電極接合体436を電解質膜435との間にアノード430を挟んで配設すれば良い。これにより、アノード430に気化層438を接合させて電極接合体436が配設された構成と比較して、減酸素セル423と電極接合体436とが腐食するおそれを回避できる。したがって、減酸素装置421の耐久性を確保することが可能である。こうした絶縁措置を要しない本実施形態の減酸素装置421は、その部品点数が少ないにも拘らず、前記腐食の問題がなく耐久性に優れる点で好ましい。
前記カソード431の外側面、すなわち、後述する多孔質層433に接していない後述のガス拡散層434の側面に、減酸素ユニット422のエレメントであるカソード集電体429が接合されている。カソード集電体429は減酸素ユニット422の他方の電極をなしている。このカソード集電体429とアノード集電体437は電源424に電気的に接続されている。
ケース425は前記構成の減酸素ユニット422を内蔵している。このケース425は、電気絶縁材製の第1ケース部材441と第2ケース部材445とを連結して形成されている。これら第1ケース部材441と第2ケース部材445によって、減酸素セル423の電解質膜435が挟持されている。これと共に、これら第1ケース部材441と第2ケース部材445は、減酸素ユニット422をその厚み方向に沿って締め付けている。それにより、各接合面での密接性が確保されている。
第1ケース部材441とアノード430を覆った電極接合体436との間にアノード室442が形成されている。第2ケース部材445とカソード431を覆ったカソード集電体429との間にカソード室446が形成されている。
第1ケース部材441は、アノード室442と連通する水取入れ口443及び酸素出口444を有している。水取入れ口443は第1ケース部材441の下端部に設けられている。この水取入れ口443に接続された図示しない給水タンク等の給水手段からアノード室442に電解用水例えば水(液体)が導入される。アノード室442に供給される水(液体)は酸性水溶液等であってもよい。
酸素出口444は第1ケース部材441の上部に設けられていて、アノード430での水の酸化反応(電気分解反応)により発生する酸素をアノード室442から外部に導出する。
第2ケース部材445は、カソード室446と連通する空気取入れ口447及び排水口448を有している。空気取入れ口447は、第2ケース部材445のカソード431と対向した側壁部に複数設けられていて、減酸素反応に利用される空気(酸素)をカソード室446に導入する。排水口448は第2ケース部材445の下端部に設けられていて、減酸素反応で生成された水をカソード室446から外部に導出する。
次に、減酸素セル423を有した減酸素ユニットなす各エレメントをさらに詳細に説明する。
まず、アノード430について説明する。アノード430には、水蒸気を酸化する能力を有した触媒(アノード触媒)が含有されている。アノード触媒は基材に担持されていることが好ましい。
アノード触媒として、例えば導電性金属酸化物とマトリックス酸化物との複合酸化物を用いることができる。導電性金属酸化物として、例えば酸化ルテニウム(RuO2)、酸化イリジウム(IrO2)等を挙げることができる。マトリックス酸化物との複合酸化物として、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化錫(SnO2)、酸化タンタル(Ta2O)等を挙げることができる。
アノード触媒は、その活性、耐久性、コスト等を勘案して選択すればよい。この触媒をなす複合酸化物として、前記の他、例えば、RuO2−Ta2O、RuO2−IrO2、RuO2−IrO2−TO2、RuO2−SnO2、RuO2−Ta2O、IrO2−Ta2O等を挙げることができる。
アノード触媒を担持する基材は、メッシュ構造であり、導電性、電気化学的な安定性、アノード触媒との密着性等を考慮して選択される。例えば、電解工業の分野で利用実績があるチタン等のエキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチングメタル等を、基材として用いることが可能である。このようなチタンからなる基材の表面を前記複合酸化物で被覆した電極は、寸法安定性(DSA:Dimensionally Stable Anode)電極と呼ばれている。
アノード430は、例えば、塗布法、浸漬法、スプレー法等の手法で製造できる。例えば、浸漬法によるアノード430の製造方法を以下に説明する。基材として、厚さ100μm、開口率30%のチタン製エキスパンドメタルを用意する。
まず、この基材を、80℃に保持した10%のシュウ酸水溶液に、1時間浸漬した後に洗浄する。これにより、基材の表面を粗面化し、活性化させる。次に、この基材に対して、さらに浸漬工程、乾燥工程、及び焼成工程を、この記載順に複数回繰り返す。浸漬工程では、基材を、モル比でTa:I=0.3:0.7の酸化タンタルと塩化イリジウムを溶解したブタノール溶液に浸漬する。乾燥工程では、浸漬された基材を、60℃の空気中で10分間乾燥する。焼成工程では、乾燥された基材を45℃の空気中で10分間焼成する。このような各工程を経てアノード430が製造される。この場合、メッシュ構造の基材の表面に被覆された触媒担持量が、例えば酸化イリジウム(IrO2)−酸化タンタル(Ta2O)の複合酸化物が0.01mg/cm2となるように製造される。なお、この調整において触媒担持量は、製造されるアノードの質量変化から求めることができる。
カソード431について説明する。カソード431は、カソード触媒層432と、導電性の多孔質層(MPL:Micro Porous Layer)433と、ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)434とにより構成されることが好ましい。
カソード触媒層432は、シート状に形成されていて、多孔質層433の一面に接合されている。ガス拡散層434は通気性ないしは通液性を有する導電性の材料からシート状に形成されている。ガス拡散層434は、導電性の多孔質層433の他面に接合されて、この多孔質層433をカソード触媒層432との間に挟んでいる。
カソード触媒層432には、酸素を還元する能力を有した触媒(カソード触媒)が含有されている。カソード触媒層432は、カソード触媒とプロトン伝導性バインダーとで形成された多孔質層であることが好ましい。カソード触媒は、貴金属粒子と貴金属合金粒子の少なくとも一方が導電性担体に担持された形態が好ましい。
前記貴金属粒子としては、白金Pt、ルテニウムRu、ロジウムRh、パラジウムPd、イリジウムIrよりなる群から選択される少なくとも一緒の貴金属からなるものが好ましい。しかし、これには制限されない。
カソード触媒として貴金属合金粒子を用いると、カソード触媒の耐溶解性と活性等を向上させることが可能である。こうした貴金属合金粒子として、以下の記載に特に制限されないが、二種以上の貴金属元素のみからなる合金、貴金属元素とその他の金属元素とを含む合金等が挙げられる。
貴金属合金粒子は、高い触媒活性効果を得ることができる。このため、白金Ptを基体とした貴金属合金粒子を用いるとよく、具体的には、一種以上の貴金属元素と白金Ptとの合金が好ましい。前記一種以上の貴金属元素は、ルテニウムRu、ロジウムRh、パラジウムPd、イリジウムIr等の白金Pt以外の貴金属、例えばチタンTi,バナジウムV、クロムCr、マンガンMn、鉄Fe,コバルトCo、ニッケルNiからなる群から選らばれる。
前記貴金属合金粒子の合金組成は、合金化する金属元素の種類にもよるが、白金(Pt)を30原子%〜95原子%、合金化する金属元素を5原子%〜70原子%とすることが好ましい。なお、ここで、「合金」とは、複数の金属元素、或いは金属元素と非金属元素から形成された金属的性質を有しているものの総称である。合金には、完全に溶け込んでいる固溶体、成分の金属元素が結晶レベルでは夫々独立している共晶、原子のレベルにおいて一定割合で結合した金属間化合物等があるが、本実施形態においてはいずれの状態の合金であってもよい。
カソード触媒層432の導電性担体は、貴金属粒子及び/又は貴金属合金粒子(すなわち、これら粒子のうちの少なくとも一方)を担持する。この導電性担体は、電子伝導性、ガス拡散性、カソード触媒との密着性等を考慮して選択される。例えば、カーボンブラック、活性炭、黒鉛などを用いることができると共に、ナノカーボン材料を用いることも可能である。カーボンブラックとして、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、バルカン(登録商標;キャボット社)、ケッチェンブラック等を挙げることができる。ナノカーボン材料は、例えば、ファイバー状、チューブ状、コイル状、シート状のいずれであってもよい。
前記導電性担体の比表面積は、カソード触媒を高分散担持するのに十分であればよく、具体的には、50m2/g〜1400m2/gである。比表面積が50m2/g未満であると、導電性担体へのカソード触媒の分散性が低下して、十分な触媒作用を得られないおそれがある。この逆に、比表面積が1400m2/gを超えると、カソード触媒の有効利用率が低下して、十分な触媒性能を得られないおそれがある。したがって、導電性担体の比表面積は前記範囲であればよく、好ましい比表面積は80m2/g〜1200m2/gであり、さらに好ましい比表面積は100m2/g〜1000m2/gである。
導電性担体にカソード触媒を担持させたカソード触媒層432において、カソード触媒として貴金属粒子又は貴金属合金粒子を用いる場合、貴金属粒子又は貴金属合金粒子は、導電性担体をなす同じ導電性材料に担持させても、或いは導電性担体をなす異なる導電性材料に担持させても差し支えない。同様に、導電性担体にカソード触媒を担持させたカソード触媒層432において、カソード触媒として貴金属粒子及び貴金属合金粒子の両方を用いる場合、貴金属粒子及び貴金属合金粒子は、導電性担体をなす同じ導電性材料に担持させても、或いは導電性担体をなす異なる導電性材料に担持させても差し支えない。
導電性担体にカソード触媒として貴金属粒子又は貴金属合金粒子のうちの少なくとも一方を担持させて形成されるカソード触媒層432において、カソード触媒の担持量は、カソード触媒層432の総質量に対して、10wt%〜90wt%であることが好ましい。
カソード触媒の担持量が10wt%未満であると、単位質量あたりの触媒活性が低下して所望の触媒性能が低下する。これにより、所望の触媒性能を得るためにカソード触媒を多量に必要とするので、好ましくない。しかも、カソード触媒層432における反応特性の拡散性が低下する点でも好ましくない。
この逆に、カソード触媒の担持量が90wt%を超えると、導電性担体上でのカソード触媒の分散度が低下する。これにより、カソード触媒の担持量が増える割には触媒性能が十分に向上せず、カソード触媒層432のコスト高になるので好ましくない。
したがって、カソード触媒の担持量は前記範囲であればよく、好ましい担持量は20wt%〜80wt%であり、さらに好ましい担持量は30wt%〜70wt%である。
カソード触媒の触媒粒子がナノ微粒子であると、最も高い活性が得られる。触媒粒子の平均粒径は10nm以下であることが望ましい。触媒粒子の平均粒径が10nmを超えると、触媒の活性効率が著しく低下するおそれがある。さらに好ましい触媒粒子の平均粒径の範囲は、0.5nm〜10nmである。触媒粒子の平均粒径を0.5nm未満にすると、触媒合成プロセスの制御が困難で、触媒製造コストが高くなる。なお、触媒粒子には、平均粒径が10nm以下の微粒子を単独で使用しても良いが、この微粒子からなる一次粒子の凝集体(二次粒子)を使用しても良い。
カソード触媒は、含浸法、沈殿法、コロイド法などの溶液法、又はスパッタリング法などの乾式法を利用して製造することが可能である。カソード触媒を製造する手法の具体例は以下の通りである。
まず、塩化白金酸を溶解した水溶液にアセチレンブラックを分散させ、そこに炭酸水素ナトリウムを滴下して、溶液のpHを7〜8にする。これにより、アセチレンブラックにPtの酸化物を担持した。次に、溶液から固体分をろ過により分離し、硫酸水溶液で洗浄した後、60℃(大気中)で乾燥した。この後、得られた固体を粉砕し、水素ガスで還元処理をしてアセチレンブラック上にPtを担持した。Ptの担持量は10wt%であった。
なお、カソード触媒の結晶構造は、X線回折分析(XRD:X-ray Diffraction)における回折ピークを帰属することで確認できる。例えば、X線回折分析(XRD)装置にRigaku製、RINT1200を使用できる。
試料は、合成された触媒や減酸素セルのカソードに使用されている触媒層の一部を削り出した粉末試料でも評価が可能である。なお、試料から触媒を取り出す際には、製品の表面の最大面積を有する面の実質的に中央部の断面部位を、試料として用いる。分析試料はメノウ乳鉢で粉砕し、45μmのフルイを通過した粉末を用いた。
測定は、ガラス製の試料板(試料部の大きさ;縦20mm×横20mm×深さ0.2mm)にガラス板を用いて分析試料が試料板表面と平滑になるように充填した。
測定条件は以下の通りである。その他の測定手法に関する詳細は理学電気(株)発行「X線回折の手引(改訂第三版)」を参考にして行っている。
管球:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
発散スリット:1deg
散乱スリット:1deg
受光スリット:0.30mm
サンプリング角度:0.020deg
スキャンスピード:2deg/分
カソード触媒の平均粒径は、X線回折分析(XRD)における触媒の最強回折ピークの半値幅から求められる結晶子径より算出できる。算出に用いたのはScherrerの式である。
なお、カソード触媒層432に含まれる貴金属触媒の組成分析は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP:Inductively Coupled Plasma)により評価できる。
分析試料は、電極触媒や減酸素セルのカソードに使用されている触媒層の一部を削り出した粉末試料でも評価が可能である。分析試料の前処理(溶液化)方法には、いくつかの手法があり、それらを触媒に使用している元素に応じて適宜、組み合わせて使用できる。例えば、酸溶解法であれば、多くの元素と錯体を形成し溶解を助ける濃塩酸、強い酸化力を有する硝酸、高温加熱分解が可能な熱濃硫酸などを用いることができる。また、単一の酸での溶解が困難な場合、これらの酸を組み合わせた混酸を用いてもよい。酸分解が困難な場合、高温溶融により溶解力が強力なアルカリ融解法で前処理をできる。この溶解法において、分解剤には炭酸ナトリウム(Na2CO3)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、水酸化ナトリウムと硝酸ナトリウムの混合物(NaOH+NaNO3)がなどを用いることができる。
カソード431におけるカソード触媒層432は、カソード触媒とプロトン伝導性バインダーとで形成された多孔質層である。プロトン伝導性バインダーは、カソード触媒を固定化するために用いられ、パーフルオロスルホン酸ポリマー(例えば、デュポン社製、商品名:ナフィオン)が選択される。
カソード触媒層432は、プロトン伝導性、導電性を高く維持しつつ、物質拡散が容易な多孔性を保持した触媒層構造であることが望ましい。このため、触媒担持物とプロトン伝導性バインダーの配合比は、触媒層全質量(C)に対してプロトン伝導性バインダー(P)の質量比(P/C)が0.05〜0.5の範囲であることが望ましい。質量比P/Cが0.5よりも大きいと、触媒担持カーボンの連続性が低下して導電度が低くなるおそれがある。
カソード触媒層432は、ガス拡散層(GDL)434に接合された導電性の多孔質層(MPL)433の直上に形成されたものである。MPL付きGDLは、市販されているものを適宜、選択して用いることができる。
ガス拡散層434は、撥水剤により適度に撥水性が付与されたカーボンペーパーやカーボンクロス、カーボンフェルト等の通気性あるいは通液性を有する材料から形成されたシートであり、導電性を有する。導電性の多孔質層(MPL)433は撥水剤とカーボン粒子からなる多孔質層である。
ガス拡散層434及び導電性の多孔質層433に用いられる撥水剤はフッ素樹脂が選択される。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)などを利用できる。
導電性の多孔質層433に用いられるカーボン粒子は前述の導電性担体と同様のものを利用できる。
カソード触媒層432は例えば以下の手法で作製できる。まず、カソード触媒とプロトン伝導性バインダーを水やアルコールなどの有機溶媒に混合、分散して触媒スラリーとする。次に、このスラリーをガス拡散層434に塗布し、乾燥する。これにより、カソード触媒層432を形成する。分散方法は、特に限定されるものではなく、ディソルバー、ボールミル、ホモジナイザーなどが挙げられる。
カソード431の具体的な製造方法として、たとえば、前述で得られたPt/C1gに対し、水5g、1−プロパノール8g、2−プロパノール8g、エチレングリコール2gを秤量・混合し、ジルコニアボールを用いたボールミルで1時間、混合した。得られた触媒スラリーをMPL付きGDLのMPL面に塗布し、大気中において60℃で乾燥したのち、1%過酸化水素水で1時間洗浄をして、カソード431を作製した。触媒スラリーの組成及びMPL付きGDLの重量変化から求めたPtの触媒量は1mg/cm2であった。
高分子の電解質膜435について説明する、この電解質膜435は、プロトン伝導性の高さからパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーからなる薄膜が好ましい。電解質膜435として、例えば、ナフィオン(登録商標:デュポン社製)、フレミオン(登録商標:旭化成株式会社製)、アシプレックス(登録商標:旭硝子株式会社製)などのスルホン酸基を持つフッ素樹脂などを挙げることができる。しかし、これらに限定されるものではなく、電解質膜435は、スルホン酸基を有する有機高分子材料からなる薄膜であればよい。なお、高分子の電解質膜435の膜厚は、膜抵抗を考慮すれば、10μm〜150μmとすることが好ましい。より好ましい膜厚は30μm〜100μmである。
電極接合体436の気化層438について説明する。気化層438は、アノードへの水の移動量を抑制するアノード水調整部であって、多孔材料で形成されていて、アノード室442から供給された水(液体)を水蒸気にして、この水蒸気をアノード430に供給するために設けられている。したがって、気化層438は気液分離層である。この気化層438は、熱伝導性に優れた材料、言い換えれば、熱応答性が高い材料、例えばカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素製多孔質体で形成されている。
気化層438に撥水機能を付与する撥水剤が含有されている。この気化層438の撥水機能で、アノード室442に供給された水(液体)がアノード430に直接接することを妨げている。撥水剤には、フッ素樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレンー六フッ化エチレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルービニルエーテル共重合樹脂(PFA)等を、好適に用いることができる。
炭素製多孔質体への撥水剤(フッ素樹脂)の処理は必ずしも均一になされる保証がない。このため、フッ素樹脂の含有量が5wt(質量)%未満になると、気化層438での撥水機能が不十分となり、アノード室442内の水(液体)が気化層438を通ってアノード430に達するおそれがある。又、フッ素樹脂の含有量が50wt(質量)%を超えると、撥水剤(フッ素樹脂)が炭素性多孔質体の細孔に充填されて、細孔容積を低下させる。これにより、気化層438からアノード430への水蒸気の供給量が低下して、減酸素運転に必要な電流密度を十分に得ることが難しくなるので、減酸素の速度が遅くなるおそれがある。
したがって、炭素製多孔質体の撥水剤(フッ素樹脂)の含有量は、5wt%〜50wt%であると良く、さらに、8wt%〜40wtであることが好ましく、10wt%〜35wt%であることがより好ましい。
気化層438は、減酸素セル423の運転に必要な水(水蒸気)を過不足なくアノード430に供給するために、気化層438が有する細孔径、気孔率、層厚みは、以下のように設定されている。
気化層438の細孔径を横軸とすると共に、気化層438の細孔容積を縦軸とした細孔分布において、細孔のメディアン径が15μm未満であると、気化層438からアノード430への水蒸気の供給量が適正量を下回り、減酸素運転に必要な電流密度を十分に得ることが難しくなって、減酸素の速度が遅くなるおそれがある。また、炭素製多孔質体への撥水剤の処理は必ずしも均一に行われないため、処理が不十分の場合、細孔のメディアン径が60μmを超えることが考えられる。このようになると、アノード室442内の水(液体)が水蒸気とならずに気化層438を通ってアノード430に達するおそれがある。
したがって、細孔径は、そのメディアン径が、15μm〜60μmであると良く、さらに、20μm〜55μmであることが好ましく、25μm〜50μmであることがより好ましくい。
気化層438は、その気孔率が40%未満であると、気化層438からアノード430への水蒸気の供給量が適正量を下回り、減酸素運転に必要な電流密度を十分に得ることが難しくなって、減酸素の速度が遅くなるおそれがある。又、気孔率が90%を超えると、気化層438の強度が不足するので、それへの撥水処理等の工程管理に不具合がでるおそれがある。
したがって、気孔率は、40%〜90%であるとよく、さらに、45%〜85%であることが好ましく、50%〜80%であることがより好ましい。
気化層438は、炭素性多孔質体の厚さが100μm未満では、気化層438の強度が不足して撥水処理等の工程管理に不具合ができるおそれがある。又、多孔質体の厚さが500μmを超えると、気化層438からアノード430への水蒸気の供給量が適正量を下回って、減酸素運転に必要な電流密度を十分に得ることが難しくなるので、減酸素の速度が遅くなるおそれがある。したがって、気化層438の厚さは、100μm〜500μmであると良く、さらに110μm〜450μmであることが好ましく、130μm〜400μmであることがより好ましい。なお、気化層438の厚さは、気化層438の面積を16の領域に分割し、各領域の中心位置の厚さを測定して、測定された値の平均値としたものを使用する。
なお、実施形態での気化層438の細孔径、気孔率は、水銀ポロシオメーターを使用して評価できる。水銀ポロシオメーターとは、水銀注入法によって多孔材料における細孔の大きさを評価するための装置である。この評価装置には、島津製作所製の「オートポア9520形」を使用できる。
水銀ポロシオメーターで測定される気化層の試料は、数時間、室温で減圧乾燥した後、約1.2×2.5cmの短冊片に切断し、0.07g〜0.13gを標準セルに採る。この試料を用いて、初期圧約5kPa(約0.7psia、細孔直径約250μm相当)の各条件で、細孔径と気孔率を測定する。このときの、水銀パラメータは、水銀接触角130degrees、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。測定の過程での圧力と圧入された水銀量を静電容量検出器で検知し細孔容積を測定する。そして、細孔を円筒形にモデル化することで、最高径、かさ密度、見かけ密度、気孔率、及び細孔分布を求めることができる。なお、圧力と、その圧力で水銀が侵入可能な細孔径の関係は、Washburnの式で表される。
本実施形態で用いられる気化層438の具体的な製造方法の一例を説明する。まず、所定濃度に調整したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)分散水溶液に、カーボンペーパーを1分間浸漬させて、これを室温で一晩乾燥させる。次に、こうして乾燥されたカーボンペーパーをアルゴン雰囲気中において、380℃で10分間焼成する。これにより、撥水処理がされたカーボンペーパー製の気化層438が作成される。なお、この気化層438の製法は特に限定されない。
製造された気化層438の撥水剤(フッ素樹脂)の含有量は、燃焼による重量の減少を測定することで評価できる。或いは、示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)によって、カーボンやフッ素樹脂の燃焼による重量減少を測定することで、気化層438のフッ素樹脂含有量を評価することもできる。
気化層438に、通気性あるいは通液性を有す多孔質炭素粒子層(MPL)が積層された構造を選択することで、アノード430に対する通気性や通液性の均一化を図ることができる。アノード430への通気性や通液性が均一になることで、アノード触媒上での水の酸化反応が円滑に進行し、電解電圧が増加するのを抑制できる。したがって、多孔質炭素粒子層はアノード430側に配置されていることが望ましい。
一方、多孔質炭素粒子層がアノード430の裏面側に配置されたとしても、液体の水が多孔質炭素粒子層を介して気化層438に均一に物質拡散することが可能になる。これにより、アノード430への通気性や通液性がより一層促進される。したがって、気化層438の両面に多孔質炭素粒子層を配置することが可能であるが、多孔質炭素粒子層の配置は、要求されるコストや減酸素セル423の性能、寿命を勘案して適宜選択すればよい。
多孔質炭素粒子層は撥水剤とカーボン粒子からなる多孔質層である。撥水材にはフッ素樹脂が選択され、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)等を利用できる。カーボン粒子は前述の導電性担体と同様のものを利用できる。
多孔質炭素粒子層は通気性や通液性の均一化に必要な撥水機能が付与されるために、適度にフッ素樹脂が含有されている。フッ素樹脂の含有率が5wt%よりも少ないと、撥水機能が不十分となり、液体の水が多孔質炭素粒子層内部で停滞し細孔を閉塞するおそれがある。フッ素樹脂の含有率が50wt%よりも多くなると、フッ素樹脂が多孔質炭素粒子層の細孔に充填され細孔容積を低下させる。これにより、アノード430への水蒸気の供給量が少なくなり、減酸素運転に必要な電流密度が十分に得られないため、減酸素速度が遅くなるおそれがある。したがって、フッ素樹脂含有量は、5wt%乃至50wt%であることが望ましく、好ましくは8wt%乃至40wt%であり、より好ましくは10wt%乃至35wt%である。
多孔質炭素粒子層は、通気性や通液性の均一化のため適度な厚さがある。多孔質炭素粒子層の厚さが10μmよりも少ないと、基材である気化層438の凹凸の影響で均一な多孔質炭素粒子層を得ることが困難で、通気性や通液性の均一化が難しくなる。一方、多孔質炭素粒子層の厚さ100μmよりも大きいと、アノード430への水蒸気の供給量が少なくなって減酸素運転に必要な電流密度が十分に得られないため、減酸素速度が遅くなるおそれがある。したがって、多孔質炭素粒子層の厚さ10μm乃至100μmであることが望ましく、好ましくは15μm乃至80μmであり、より好ましくは20乃μm至50μmである。
多孔質炭素粒子層の厚さは、気化層438の断面を走査型電子顕微鏡にて観察し、少なくとも5箇所を観測した平均値とした。なお、測定条件は以下とした。
装置:日本電子(株)製JXA−8100
SEM観察条件:加速電圧:15kV、倍率:400倍
実施形態に用いられる多孔質炭素粒子層が積層された気化層438の具体的な製造方法の例としては公知の手法を用いることができる。
例えば、まず、カーボン粒子とPTFE分散水溶液を、水やアルコールなどの有機溶媒に所定の濃度と組成に調整して混合すると共に分散させて、スラリーとする。次に、このスラリーを予め作製した気化層に塗布すると共に乾燥し、これをアルゴン雰囲気中、380℃で10分間、焼成することで、多孔質炭素粒子層が積層された気化層438を製造する。この製法での分散方法は、特に限定されるものではなく、ディソルバー、ボールミル、ホモジナイザーなどを用いることができる。同製法での塗布方法も、特に限定されるものではなく、キャスト法、スプレー法などで行なうことが可能である。要求されるコストや素子の性能、寿命を勘案して市販の多孔質炭素粒子層が積層された気化層438を適宜選択することもできる。
以上説明した減酸素ユニット422は、例えば、次の方法で製造できる。
まず、減酸素セル423のアノード430、カソード431、及び電解質膜435とを、加熱及び加圧ができる装置を用いて接合(熱圧着)する。一般的には、ホットプレス機により接合が行なわれる。その際のプレス温度は、電極と電解質膜435の結着性が得られるプロトン伝導性高分子のガラス転移温度以上であればよく、一般には100℃〜400℃である。プレス圧は使用する電極の硬さに依存するが、通常、5kg/cm2〜200kg/cm2である。次に、得られた減酸素セル423を、電極を担うカソード集電体429と、電極接合体436の気化層438及び電極をなすアノード集電体437と組合せる。これにより、減酸素ユニット422を得ることができる。
減酸素装置421は、その減酸素セル423が減酸素室403内の酸素と反応できるように冷蔵庫本体402に配設されている。具体例として減酸素装置421は、図26に示すように第2ケース部材445に形成された空気取入れ口447を冷蔵庫本体402の通孔402aに臨ませて、冷蔵庫本体402の凹部420に収容されている。これにより、カソード室446と減酸素室403とが通孔402aを経由して連通されていて、減酸素セル423のカソード431は減酸素室403内の酸素と反応することが可能である。
図27に示すように電源424の正極に減酸素セル423のアノード集電体437が電気的に接続されていると共に、電源424の負極に減酸素セル423のカソード集電体429が電気的に接続されている。電源424は、電圧又は電流を減酸素セル423のアノード430とカソード431との間に印加する。なお、図27中符号29は検知器を示している。この検知器29は減酸素セル423に印加される電圧又は電流を検知するもので、例えば電圧計である。
冷蔵庫401の扉405が開かれるたびに、減酸素室403の酸素濃度は大気中の酸素濃度と同じとなる。このため、扉405が閉じられるたびに、減酸素装置421は、減酸素室403が目標とする低い酸素濃度となるように運転される。次に、減酸素装置421の運転により減酸素室403内の酸素が減らされる反応(減酸素反応)を説明する。
水取入れ口443からアノード室442に水(液体)を供給した状態において、制御部429による制御で、電源424から直流電圧を減酸素セル423のアノード430とカソード431との間に印加して、減酸素セル423を運転する。なお、アノード430とアノード室442との間は電極接合体436が有した気化層438が撥水処理されているので、アノード室442内の水(液体)が減酸素セル423のアノード430に直接接触することはない。
減酸素セル423の運転に伴い、アノード430の表面で水(H2O)が電気分解(酸化)されると共に、カソード431の表面で水(液体)が生成される。
すなわち、アノード430での水の電気分解反応により、酸素(O2)と、プロトン(H+)と、電子(e−)が生成される。この反応は、実施形態1で示した式(1)で表される。こうした水の酸化により生成された酸素(O2)は、酸素出口444を通ってアノード室442外に排出される。
この一方で、生成されたプロトン(H+)が、アノード430から電解質膜435を通ってカソード431に移動する。これと共に、生成された電子(e−)は電源424等を含んだ外部回路を通ってカソード431に移動する。
減酸素室403内の空気(酸素と窒素)はカソード室446に空気取入れ口447を経て供給されている。このため、カソード431で、減酸素室403内の酸素(O2)とカソード431に供給されたプロトン(H+)及び電子(e−)とが反応して水(液体)が生成される。この反応は、実施形態1で示した式(2)で表される。このようにカソード431での酸素の還元反応で、空気中の酸素が水になることで、減酸素室403内の酸素濃度が減少する。これにより、庫外より低い温度に保持される減酸素室403内に収容された保存対象物、例えば野菜を、長時間にわたり鮮度を保って保存することが可能である。
以上説明した減酸素反応は発熱反応であるため、減酸素セル423及びこのセルに熱伝導可能に接合されているセル周辺部材の温度は、減酸素反応に伴って上昇する。減酸素反応のために減酸素セル423に流される電流の密度に応じて、減酸素セル423の発熱量は異なるが、減酸素セル423はその運転により約30℃上昇することが確かめられた。これに伴い、減酸素セル423に対して高い熱応答性を有している気化層438の温度は、減酸素セル423の温度に近似して上昇する。
このため、前記減酸素反応では、アノード室442からアノード集電体437を通過して気化層438に供給された水(液体)が、この気化層438で加熱され、水蒸気となってアノード430に供給される。
アノード430に供給される水蒸気の圧力は、飽和水蒸気圧によって規定される。これにより、水分子が、アノード430から電解質膜435を透過してカソード431にプロトン(H+)と共に移動することが抑制される。
このように上記の式(2)での反応により水(液体)を生成するカソード431に、余分な水がアノード430からカソード431に移動されることが抑制される。そのため、カソード431で水(液体)が過剰に停滞することを抑制可能である。これと共に、アノード室442内の水(液体)が、余分な水としてアノード430からカソード431に移動されることが抑制されるので、アノード430での反応に必要な水が、アノード430に対して供給不足となるおそれもない。
カソード431での水(液体)の停滞が抑制されるに伴い、カソードフラッディング現象が起こり難くなる。このため、水(液体)がカソード触媒層432の細孔を閉塞して、カソード触媒層432への減酸素室403内の酸素の供給を妨げられることが抑制される。したがって、減酸素反応に要する電圧が過大とならないようにできるので、減酸素装置421の性能の低下を抑制できる。
前記減酸素運転において、アノード室442に供給される水(液体)が金属イオン等の不純物イオンを含んでいることがある。この場合、既述のようにアノード室442の水は、アノード430に達する前に気化層438で加熱され水蒸気となってアノード430に供給される。このように気化層438が水を蒸留することで、気化層438はイオントラップ性能を発揮する。
これにより、金属イオン等の不純物イオンが電解質膜435に蓄積されることが防止されるので、この電解質膜435でのプロトン(H+)の伝導性が低下することが抑制される。その結果、減酸素セル423の電気的抵抗が増加し、減酸素反応に要する電圧が過大に増えることが抑制されるので、減酸素装置の性能の低下を抑制できる。
さらに、減酸素装置421の運転においては、既述のように気化層438によりアノード430に水蒸気を供給することに伴い、アノード430からカソード431への余分な水分子の移動を抑制できる。これにより、減酸素運転中に電解質膜435が水分子で膨潤された状態となることが抑制される。一方、減酸素装置421の停止運転に伴い、電解質膜435は減酸素セル423の余熱によって加熱される。それにも拘らず、電解質膜435の膨潤と乾燥を原因として、電解質膜435の寸法が変化することが抑制される。したがって、減酸素セル423の電解質膜435とアノード430との接合面で剥離を起こすことが抑制されて、減酸素装置421の耐久性の低下を抑制することが可能である。
前記減酸素装置421において、アノード430に供給される水蒸気量は、気化層438によって影響を受ける。このため、減酸素ユニット422の外側、具体的にはケース425に電気ヒータを取付けて、このヒータの発熱で減酸素セル423を有した減酸素ユニット422の温度を制御しても良い。これにより、アノード430に供給される水蒸気量を安定的に制御することが可能となる。
以下、減酸素装置421の実施例を説明する。
(実施例1)
実施例1では気化層438を以下の製法で得る。まず、厚さ180μmのカーボンペーパーを、PTFE分散水溶液に1分間浸漬させた後、室温で一晩乾燥させる、次に、こうして乾燥されたカーボンペーパーを、アルゴン雰囲気中において、380℃で10分間焼成する。これにより、フッ素樹脂であるPTFEの含有量が5wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は70%であった。
実施例1での減酸素ユニット422を以下の製法で得た。既述の製法により作られ、かつ、大きさを20cm2としたアノード430を用意する。既述の製法により作られ、かつ、大きさを12cm2としたカソード431を用意する。これと共に、厚さ50μmで大きさが30cm2の電解質膜(登録商標;ナフィオン、デュポン社製)35を用意する。そして、アノード430、カソード431、及び電解質膜435とは、ホットプレス機により加熱及び加圧して接合(熱圧着)することで減酸素セル423を得た。ホットプレスは、温度が160℃、圧力が20kg/cm2、加圧時間が3分間の条件で行なった。そして、これら減酸素セル423のエレメントと、他のエレメント、すなわち、前記気化層438と、アノード集電体437とカソード集電体429を用意し、組合せることで減酸素ユニット422を得る。
実施例1での評価は以下の通りである。
減酸素ユニット422を第1ケース部材441と第2ケース部材445とで挟んで、これらを連結してケース425を作成した。これによって、減酸素装置421が作成される。この装置のアノード集電体437とカソード集電体429を電源424に接続した。減酸素装置421の評価において、アノード430が収められた第1ケース部材441のアノード室442には水(液体)を充満させ、カソード431が収められた第2ケース部材445のカソード室446には空気を自発呼吸で供給した。
こうした状態で、電源424により減酸素セル423に電圧を印加し、反応電流が定電流となるように制御した。この定電流制御は、例えば電圧検知手段である電圧計427(図27参照)で、減酸素セル423に印加される電圧を検知し、その検知情報に基づいて制御部429が電源424の出力電圧を制御することで行なった。この定電流制御により、例えば0.2A/cm2の一定電流を減酸素セル423に印加して減酸素反応を行なわせ、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図28の表に示す。
(実施例2)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図28の表〜図31の表に示す。
(実施例3)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が30wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は60%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図28の表に示す。
(実施例4)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が50wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は55%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図28の表に示す。
(実施例5)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が1wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は75%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図28の表に示す。
(実施例6)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が60wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は45%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図28の表に示す。
(比較例1)
気化層がない減酸素装置を作成した。そのため、比較例1の減酸素装置では、アノードにアノード集電体が直接接合されている。この比較例1の減酸素装置を用いて、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図28の表に示す。
図28の表で示すようにフッ素樹脂含有量が5wt%以上50wt%未満である気化層を備えた実施例1〜実施例4の減酸素装置は、フッ素樹脂含有量が1wt%の気化層を備えた実施例5の減酸素装置、フッ素樹脂含有量が60wt%の気化層を備えた実施例6の減酸素装置、及び気化層を備えない比較例1の減酸素装置と比べて、1000時間後の電解電圧を低く維持できることが確かめられた。すなわち、気化層438のフッ素含有量が5wt%〜50wt%の範囲であれば、気化層438からアノード430への供給される水蒸気量は適当である。
これによって、長時間の電解を行なってもカソード431に透過する水量が少なく制限されるため、電解で生成された水がカソード431から円滑に排出され、1000時間後でも電解電圧を低い状態を維持できる。このことから、減酸素セル423の運転に必要な水蒸気量をアノード430に過不足なく供給可能な気化層438のフッ素含有量は、5wt%〜50wt%であると良いことが分り、この範囲を外れた減酸素装置及び気化層がない減酸素装置は長時間運転には適さないことが明らかとなった。
(実施例7)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は60μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図29の表に示す。
(実施例8)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は45μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図29の表に示す。
(実施例9)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は15μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図29の表に示す。
(実施例10)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は100μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図29の表に示す。
(実施例11)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は10μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図29の表に示す。
図29の表で示すように細孔のメディアン径が15μm以上60μmである気化層を備えた実施例2の減酸素装置、及び実施例7〜実施例9の気化層を備えた減酸素装置は、メディアン径が100μmである気化層を備えた実施例10の減酸素装置、及びメディアン径が10μmである気化層を備えた実施例10の減酸素装置と比べて、1000時間後の電解電圧を低く維持できることが確かめられた。すなわち、気化層438のメディアン径が15μm〜60μmの範囲であれば、気化層438からアノード430への供給される水蒸気量が適当である。
これによって、長時間の電解を行なってもカソード431に透過する水量が少なく制限されるため、電解で生成された水がカソード431から円滑に排出され、1000時間後でも電解電圧を低い状態を維持できる。このことから、減酸素セル423の運転に必要な水蒸気量をアノード430に過不足なく供給可能な気化層438の細孔の径は、メディアン径が、15μm〜60μmであると良いことが分り、この範囲を外れた減酸素装置及び気化層がない減酸素装置は長時間運転には適さないことが明らかとなった。
(実施例12)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は90%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図30の表に示す。
(実施例13)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は75%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図30の表に示す。
(実施例14)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は40%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図30の表に示す。
(実施例15)
実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は30%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図30の表に示す。
図30の表で示すように気孔率が40%以上90%未満である気化層438を備えた実施例2の減酸素装置及び実施例12〜実施例14の減酸素装置は、気孔率が30%である気化層を備えた実施例15の減酸素装置と比べて、1000時間後の電解電圧を低く維持できることが確かめられた。すなわち、気化層438の気孔率が40%〜90%の範囲であれば、気化層438からアノード430への供給される水蒸気量が適当である。
これによって、長時間の電解を行なってもカソード431に透過する水量が少なく制限されるため、電解で生成された水がカソード431から円滑に排出され、1000時間後でも電解電圧を低い状態を維持できる。このことから、減酸素セル423の運転に必要な水蒸気量をアノード430に過不足なく供給可能な気化層438の気孔率は、40%〜90%であると良いことが分り、この範囲を外れた減酸素装置及び気化層がない減酸素装置は長時間運転には適さないことが明らかとなった。
(実施例16)
実施例1と同様にして、厚さが110μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図31の表に示す。
(実施例17)
実施例1と同様にして、厚さが270μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図31の表に示す。
(実施例18)
実施例1と同様にして、厚さが360μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図31の表に示す。
(実施例19)
実施例1と同様にして、厚さが600μmで、PTFEの含有量が10wt%のカーボンペーパーからなる気化層438を製造して得た。この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成し、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図31の表に示す。
図31の表で示すように厚さが100μm以上500μm未満である気化層438を備えた実施例2の減酸素装置及び実施例16〜実施例18の減酸素装置は、厚さが600μmである気化層を備えた実施例19の減酸素装置と比べて、1000時間後の電解電圧を低く維持できることが確かめられた。すなわち、気化層438の厚さが100μm〜500μmの範囲であれば、気化層438からアノード430への供給される水蒸気量が適当である。
これによって、長時間の電解を行なってもカソード431に透過する水量が少なく制限されるため、電解で生成された水がカソード431から円滑に排出され、1000時間後でも電解電圧を低い状態を維持できる。このことから、減酸素セル423の運転に必要な水蒸気量をアノード430に過不足なく供給可能な気化層438の厚さは、100μm〜500μmであると良いことが分り、この範囲を外れた減酸素装置及び気化層がない減酸素装置は長時間運転には適さない。
(実施例20)
アノード430に供給する水がNa、Ca、Al、Fe、Ni、Cu、Zn等の金属の不純物イオンを500ppm含むように調整し、これを実施例2と同様の減酸素装置に供給して評価した。その結果を図32の表に示す。
(比較例2)
実施例20で調整した不純物イオンを含む水を、比較例1と同様の減酸素装置に供給して評価した。その結果を図32の表に示す。
図32の表で示すように実施例2の減酸素装置は、実施例20に示すように不純物イオンを含む水(液体)を供給しても、減酸素装置の能力に変化はなかった。これに対して、比較例2に示すように、気化層がない比較例1の減酸素装置に不純物イオンを含む水を供給すると、即座に電解電圧が増大し、減酸素装置の性能が低下することが確かめられた。
すなわち、比較例2の減酸素装置において、アノードに供給される水に金属イオン等の不純物イオンが含まれていると、それが高分子の電解質膜に蓄積して、水素イオンの伝導性が低下してしまう。これに対して、実施例2の減酸素装置と実施例20の減酸素装置は、それが備えた気化層438によってアノード430に供給する水を蒸留し、水蒸気をアノード430に供給する。このため、不純物イオンが減酸素セル423の電解質膜435に蓄積されることがなくなる。したがって、1000時間後の電解電圧を低い状態に維持できる。
(実施例21)
多孔質炭素粒子層を積層した気化層438の製造について説明する。カーボン粉末とPTFE分散水溶液を、イソプロピルアルコール水溶液に混合すると共に撹拌して、カーボンスラリーを調整した。実施例1と同様にして、厚さが180μmで、PTFEの含有率が5wt%のカーボンペーパーからなる気化層を製造した。この気化層にスラリーをスプレー法にて塗布し、80℃で一晩乾燥した。これをアルゴン雰囲気中において380℃で10分間焼成し、5%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が20μmの厚みで積層された気化層438を得た。
この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は70%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成した。但し、気化層438は多孔質炭素粒子層が減酸素セル側に配向するように設置した。この減酸素装置を用いて、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図33の表及び図35の表に示す。
(実施例22)
実施例21と同様にして、20%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が20μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例21と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図33の表に示す。
(実施例23)
実施例21と同様にして、50%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が20μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例21と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図33の表に示す。
(実施例24)
実施例21と同様にして、1%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が20μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例21と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図33の表に示す。
(実施例25)
実施例21と同様にして、60%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が20μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例21と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図33の表に示す。
図33の表に示すように、多孔質炭素粒子層に含まれるフッ素樹脂含有量が5wt%至50wt%の気化層を配置した実施例21〜実施例23の減酸素装置は、多孔質炭素粒子層のフッ素樹脂含有量が1wt%の気化層を配置した実施例24の減酸素装置、又は、多孔質炭素粒子層のフッ素樹脂含有量が60wt%の気化層を配置した実施例25の減酸素装置、或いは、気化層に多孔質炭素粒子層を持たない実施例1(図28の表参照)の減酸素装置と比べて、反応開始から1時間後あるいは1000時間後の電解電圧が低いことが確かめられた。
すなわち、実施例21〜実施例23の減酸素装置によれば、気化層438からアノード430に供給される水蒸気量が適当であると共に、アノード430への通気性や通液性が均一である。これにより、アノード触媒上での水の酸化反応が円滑に進行して、電解電圧の増加が抑制される。
(実施例26)
多孔質炭素粒子層を積層した気化層の製造について説明する。カーボン粉末とPTFE分散水溶液を、イソプロピルアルコール水溶液に混合すると共に撹拌して、カーボンスラリーを調整した。このスラリーを、実施例17で製造した気化層にスプレー法にて塗布し、80℃で一晩乾燥した。これをアルゴン雰囲気中において380℃で10分間焼成し、25%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が10μmの厚みで積層された気化層438を得た。
この気化層438を細孔分布測定により評価した結果、気化層438のメディアン径は35μm、気孔率は65%であった。この気化層438を有する減酸素装置を、実施例1と同様の操作を行なって作成した。但し、気化層438は多孔質炭素粒子層が減殺磯セル側に配向するように設置した。この減酸素装置を用いて、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図34の表に示す。
(実施例27)
実施例26と同様にして、25%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が100μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例26と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図34の表に示す。
(実施例28)
実施例26と同様にして、25%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が80μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例26と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図34の表に示す。
(実施例29)
実施例26と同様にして、25%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が5μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例26と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図34の表に示す。
(実施例30)
実施例26と同様にして、25%PTFEを含む多孔質炭素粒子層が200μmの厚みで積層された気化層438を製造した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例26と同様の操作で減酸素装置を評価した。その結果を図34の表に示す。
図34の表に示すように、多孔質炭素粒子層の厚さが10乃至100μmの気化層を配置した実施例26〜実施例28の減酸素装置は、多孔質炭素粒子層の厚さが5μmの気化層を配置した実施例29の減酸素装置、又は多孔質炭素粒子層の厚さが200μmの気化層を配置した実施例30の減酸素装置、或いは気化層に多孔質炭素粒子層を持たない実施例17(図4参照)の減酸素装置と比べて、反応開始から1時間後あるいは1000時間後の電解電圧が低いことが確かめられた。
すなわち、実施例26〜実施例28の減酸素装置によれば、気化層438からアノード430に供給される水蒸気量が適当であると共に、アノード430への通気性や通液性が均一である。これにより、アノード触媒上での水の酸化反応が円滑に進行して、電解電圧の増加が抑制される。
(実施例31)
実施例21と同様にして減酸素装置を作製し評価した。但し、気化層438は多孔質炭素粒子層が減酸素セル側と反対の面に配向するように設置した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例21と同様の操作で実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図35の表に示す。
(実施例32)
多孔質炭素粒子層を積層した気化層の製造について説明する。カーボン粉末とPTFE分散水溶液を、イソプロピルアルコール水溶液に混合すると共に撹拌して、カーボンスラリーを調整した。このカーボンスラリーを、実施例1で製造した気化層の両面にスプレー法にて塗布し、80℃で一晩乾燥した。これをアルゴン雰囲気中において380℃で10分間焼成し、25%PTFEを含む多孔質炭素粒子層を25μmの厚みで気化層の両面に形成した。この気化層438を有する減酸素装置を用いて、実施例1と同様の操作で減酸素反応を行なわせて、反応開始から1時間後と1000時間後の電解電圧を測定した。その結果を図35の表に示す。
図35の表に示すように、気化層438に積層された多孔質炭素粒子層とアノード430の配置関係が変化した実施例21、又は実施例31、或いは気化層438の両面に多孔質炭素粒子層が形成された実施例32は、気化層438に多孔質炭素粒子層を持たない実施例1に比べて反応開始から1時間後あるいは1000時間後の電解電圧が低いことが確かめられた。
すなわち、実施例21、又は実施例31、或いは実施例32の減酸素装置によれば、気化層438からアノード430に供給される水蒸気量が適当であると共に、アノード430への通気性や通液性が均一である。これにより、アノード触媒上での水の酸化反応が円滑に進行して、電解電圧の増加が抑制される。
実施形態の効果
上記の「発明が解決しようとする課題」の欄において、本願発明の解決課題について説明したが、その課題の内容を3つに分類して図36に基づいて詳しく説明し、上記で記載した実施形態1〜3の効果について説明する。図36は、減酸素セル500を説明したものであり、減酸素セル500は、アノード502、高分子電解質膜504、カソード506から形成され、カソード506は、カソード触媒層508、MPL(導電性の多孔質層)510、GDL(ガス拡散層)512から形成されている。なお、カソード506側が減酸素室内部になる。
(1)第1の課題
第1の課題は、減酸素反応前の課題である。この課題は、式(1)と式(2)に示すように、アノード502側とカソード506側においてそれぞれ反応が行われるが、水素イオン(プロトン)H+と水がアノード502側からカソード506側に移動する場合に、図36に示すように、プロトンと一緒に移動する液体状の同伴水が発生し、カソード触媒層508の触媒の白金(Pt)がこの液体状の水に覆われて空気中の酸素と反応できなくなる現象(フラッディング現象)が発生する。すなわち、酸素が触媒の白金に到達しないために反応ができなくなるという課題である。
(2)第2の課題
第2の課題は、減酸素反応後の課題である。この課題は、図36に示すように、カソード506内において、触媒の白金上でプロトンと空気中の酸素が反応して、触媒の白金が液体状の水で覆われ、次の反応が起こらないという課題である。
(3)第3の課題
第3の課題も減酸素反応後の課題である。冷蔵庫10内部は冷却されているため、気体である水蒸気が結露してカソード506表面に液体状の結露水が溜まることとなる。すなわち、図36に示すように、その液体状の水は逆流してカソード506に滞留し、この滞留した水により空気(酸素)のカソード506への流入に際して拡散抵抗を増やし、空気がカソード506に到達しにくい。また、この課題は、減酸素反応を冷蔵庫内部で行うための特有の課題である。
実施形態1〜3が、上記3つの課題をどのように解決して効果を得るかを順番に説明する。
(4)第1の課題の解決方法
第1の課題の解決方法について説明する。その解決方法は、アノード水調整部によって、アノード502に液体状の水をできるだけ接触させないようにすることで、プロトンと一緒に移動する液体状の同伴水を減少させる。これにより、第1の課題であるフラッディング現象を防止できる効果がある。
まず、アノード水調整部が、撥水層、空間、気化層などのように、水蒸気のみを移動させ、液体状の水を移動させない場合には、アノード502表面に付着するのは水分子となるため、液体状の同伴水を減少させることができ、プロトンだけが高分子電解質膜504を通過しやすくなる。
すなわち、実施形態1で記載したようにアノード水調整部が、フィルム、不織布、多孔質膜、フィルターなどの撥水層126の場合には、アノード502表面が撥水性となって親水性がなくなり、撥水層126を通過してアノード502表面に到達する液体状の水を少なくでき、液体状の同伴水が減少する効果がある。
実施形態2で記載したようにアノード水調整部が空間Aの場合には、液体状の水とアノード502表面との接触が全くなくなるため、液体状の同伴水がなくなる。
実施形態3で記載したようにアノード水調整部が気化層438の場合には、水蒸気のみが気化層438を通過し、アノード502表面に到達する液体状の水を少なくでき、液体状の同伴水が減少する効果がある。
(5)第2の課題の解決方法
次に、第2の課題の解決方法について説明する。
減酸素反応後では反応熱により、触媒の白金で酸素と水素が反応した後の液体状の水が蒸気となり、触媒の白金が水に覆われないので次の反応が可能となるが、この蒸発だけでは、触媒の白金が液体状の水に覆われる可能性がまだある。
そこで、実施形態1〜3で記載したようにアノード水調整部によってアノード502表面に液体状の水が触れていないため、液体状の水の濃度差によってカソード506内の液体状の水が高分子電解質膜504を逆流してアノード502に移動するいわゆるバックディフュージョンが起こり、カソード506内の液体状の水を減らすことができるので、触媒の白金が液体状の水で覆われない効果がある。また、その液体状の水はアノード502側の給水としても利用できる効果もある。
カソード506側のMPL510又はMPL付きGDL512に撥水性能がある場合には、液体状の水が表面に付きにくいので空間が形成され水蒸気が逃げ易い効果もある。なお、MPL510は水蒸気のみ透過するので、液体状の水がカソード506内に留まってしまう可能性もあるが、第3の課題を解決するためにも水蒸気の透過があった方がよい。これについては、以下で説明する。
第2の課題を解決する他の方法としては次の方法がある。
まず、実施形態2で記載した反応空間B内に空気を吹き込んでもよい。これにより液体状の水の濃度差で、液体状の水がカソード506からアノード502へ移動しやすくなる。
また、実施形態1〜3で記載した減酸素ユニットに掛かる直流電圧の電圧値を減酸素中の電圧に比べ所定時間高くする。これにより減酸素反応で水以外の気体が生成されて、触媒の白金の周囲の液体状の水を除去できる。
また、アノード502とカソード506の間に掛ける直流電圧に関して、所定時間内だけプラスとマイナスを逆にする。これによりカソード506内の液体状の水が減酸素反応し、水素がアノード502側に移動してカソード506内の水がなくなるので、触媒の白金が液体状の水で覆われない。
(6)第3の課題の解決方法
次に、第3の課題の解決方法について説明する。その解決方法は、実施形態1で記載したように、カソード水調整部(撥水層130)を設けることで解決できる。すなわち、カソード506表面に結露水が溜まり、液体状の水がカソード506内に浸入しないようにカソード水調整部を設けて、触媒の白金が液体状の水に覆われるのを防止できる効果がある。また、カソード水調整部が撥水層130のように撥水性能を有する場合には、液体状の水が表面張力によってその表面に纏わり付かないので、その表面に隙間が形成され、酸素がカソード506に移動しやすいという効果がある。
また、カソード水調整部の変更例としては、この結露水をなくすために、減酸素ユニットに加熱手段を設けてカソード506表面を温め、飽和水蒸気量を増やして結露させないようにしてもよい。
また、カソード水調整部の他の変更例としては、カソード506表面に空気の流路を作り、送風手段や自然対流などによって新しい空気を送り、結露水をなくしてもよい。
変更例
上記各実施形態では、減酸素ユニットを冷蔵庫10内部に設けたが、これ以外の装置や保管庫内部に設けてもよい。すなわち、野菜、食品等を高品位な状態を保って長期保存することが可能な業務用及び家庭用の冷蔵庫に適用できると共に、酸素濃度に敏感な薬品、医療用材料、化学物質等の保存を行う冷蔵庫等に適用できる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
10・・・冷蔵庫、16・・・野菜室、100・・・減酸素室、102・・・減酸素装置、104・・・容器収納部、106・・・減酸素容器、114・・・ケース、115・・・減酸素ユニット、116・・・電解質膜、118・・・アノード、120・・・カソード、122・・・アノード集電体、124・・・カソード集電体、126・・・撥水層、128・・・給水体、130・・・撥水層、132・・・固定部材、134・・・固定部材、136・・・排気口、138・・・開口部、140・・・ユニット収納部、162・・・通気口、164・・・通気口、211・・・スペーサ、213・・・開口部、438・・・気化層