JP6192916B2 - 高強度チタン銅 - Google Patents

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Description

本発明は、FPCコネクタやオートフォーカスカメラモジュール等の電子部品用ばね材として好適な高強度チタン銅に関する。
近年では携帯端末などに代表される電子機器の小型化が益々進み、従ってそれに使用されるコネクタは狭ピッチ化及び低背化の傾向が著しい。小型のコネクタほどピン幅が狭く、小さく折り畳んだ加工形状となるため、使用する部材には、必要なバネ性を得るための高い強度が求められる。この点、チタンを含有する銅合金(以下、「チタン銅」と称する。)は、比較的強度が高く、応力緩和特性にあっては銅合金中最も優れているため、特に強度が要求される信号系端子用部材として、古くから使用されてきた。
チタン銅は時効硬化型の銅合金である。溶体化処理によって溶質原子であるTiの過飽和固溶体を形成させ、その状態から低温で比較的長時間の熱処理を施すと、スピノーダル分解によって、母相中にTi濃度の周期的変動である変調構造が発達し、強度が向上する。この際、問題となるのは、強度と曲げ加工性が相反する特性である点である。すなわち、強度を向上させると曲げ加工性が損なわれ、逆に、曲げ加工性を重視すると所望の強度が得られないということである。一般に、冷間圧延の圧下率を高くするほど、導入される転位量が多くなって転位密度が高くなるため、析出に寄与する核生成サイトが増え、時効処理後の強度を高くすることができるが、圧下率を高くしすぎると曲げ加工性が悪化する。このため、強度及び曲げ加工性の両立を図ることが課題とされてきた。
そこで、Fe、Co、Ni、Siなどの第三元素を添加する(特許文献1)、母相中に固溶する不純物元素群の濃度を規制し、これらを第二相粒子(Cu−Ti−X系粒子)として所定の分布形態で析出させて変調構造の規則性を高くする(特許文献2)、結晶粒を微細化させるのに有効な微量添加元素と第二相粒子の密度を規定する(特許文献3)、結晶粒を微細化する(特許文献4)などの観点から、チタン銅の強度と曲げ加工性の両立を図ろうとする技術が提案されている。
チタン銅の場合、母相であるα相に対して整合性の悪いβ相(TiCu3)と、整合性の良いβ’相(TiCu4)が存在し、β相は曲げ加工性に悪影響を与える一方で、β’相を均一かつ微細に分散させることが強度と曲げ加工性の両立に寄与するとして、β相を抑制しつつβ’相を微細分散させたチタン銅も提案されている(特許文献5)。
結晶方位に着目し、I{420}/I0{420}>1.0及びI{220}/I0{220}≦3.0を満たすように結晶配向を制御することで、強度、曲げ加工性及び耐応力緩和性を改善した技術も提案されている(特許文献6)。
しかしながら、上記先行文献に記載の何れのチタン銅においても、その製造方法は、インゴットの溶解鋳造→均質化焼鈍→熱間圧延→(焼鈍及び冷間圧延の繰り返し)→最終溶体化処理→冷間圧延→時効処理の順序で構成するのを基本としており、特性改善には限界があった。
このような事情の下、近年では、最終溶体化処理の後に行う冷間圧延及び時効処理の順序を従来とは逆に行う、すなわち、時効処理→冷間圧延の順番に代えた上で、最後に歪取焼鈍を実施し、曲げ加工性を向上させる試みも行われている(特許文献7)。当該文献によれば、このような製造方法を採用することで、得られるチタン銅の転位密度が上昇するとしている。そして、圧延面における{220}結晶面のX線回線強度ピークの半価幅によって間接的に転位密度を評価し、圧延面の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ{220}が、純銅標準粉末の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ0{220}と次式:3.0≦β{220}/β0{220}≦6.0を満たすことを規定している。
特開2004−231985号公報 特開2004−176163号公報 特開2005−97638号公報 特開2006−265611号公報 特開2006−283142号公報 特開2008−308734号公報 特開2012−062575号公報
このように、従来は強度及び曲げ加工性の両面から特性の改善を図る努力が多くなされてきたが、コネクタの中には曲げ加工性がほとんど要求されないものもある。例えば、FPCコネクタやオートフォーカスカメラモジュールは曲げ加工を行わないため、曲げ加工性を改善する要請はない。一方で、コネクタは使用時に高温環境下に曝されることも多いが、チタン銅を高温条件下に長時間暴露すると永久変形(へたり)が生じてしまい、ばね材としての機能が低下するという問題が存在する。これについては未だ十分な検討がなされていない。
そこで、本発明はFPCコネクタやカメラモジュール等の電子部品に使用される導電性ばね材として好適な高強度チタン銅を提供することを目的とする。
本発明者らはチタン銅の0.2%耐力とへたりの関係及び結晶方位とへたりの関係を鋭意調査した結果、0.2%耐力が高く、且つ、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction:電子後方散乱回折)測定における結晶方位解析において、KAM値が1.5〜3.0のときに、特に高温暴露時の耐へたり性が改善されることを見出した。本発明は以上の知見を背景として完成したものであり、以下によって特定される。
本発明は一側面において、Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第三元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択された1種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、EBSD測定における結晶方位解析において、KAM値が1.5〜3.0であるチタン銅である。
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、0.2%耐力が1100MPa以上である。

本発明は別の一側面において、本発明に係るチタン銅を備えた伸銅品である。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るチタン銅を備えた電子部品である。
本発明に係る電子部品は一実施形態において、オートフォーカスカメラモジュールである。
本発明は更に別の一側面において、レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備え、前記ばね部材が本発明に係るチタン銅であるオートフォーカスカメラモジュールである。
カメラモジュール等の電子部品に使用される導電性ばね材として好適な高強度チタン銅が得られる。
本発明に係るオートフォーカスカメラモジュールを示す断面図である。 図1のオートフォーカスカメラモジュールの分解斜視図である。 図1のオートフォーカスカメラモジュールの動作を示す断面図である。 へたり量を測定する方法を示す概略図である。
(1)Ti濃度
本発明に係るチタン銅においては、Ti濃度を2.0〜4.0質量%とする。チタン銅は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を上昇させる。
Ti濃度が2.0質量%未満になると、析出物の析出が不充分となり所望の強度が得られない。Ti濃度が4.0質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。強度及び加工性のバランスを考慮すると、好ましいTi濃度は2.5〜3.5質量%である。
(2)第三元素
本発明に係るチタン銅においては、Fe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択される第三元素の1種以上を含有させることにより、強度を更に向上させることができる。但し、第三元素の合計濃度が0.5質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。そこで、これら第三元素は合計で0〜0.5質量%含有することができ、強度及び加工性のバランスを考慮すると、上記元素の1種以上を総量で0.1〜0.4質量%含有させることが好ましい。
(3)0.2%耐力
本発明に係るチタン銅においては一実施形態において、圧延方向に平行な方向での0.2%耐力が1100MPa以上を達成することができる。本発明に係るチタン銅の0.2%耐力は好ましい実施形態において1200MPa以上であり、更に好ましい実施形態において1300MPa以上である。
0.2%耐力の上限値は、本発明が目的とする強度の点からは特に規制されないが、手間及び費用がかかる上、高強度を得るためにチタン濃度を高めると熱間圧延時に割れる危険性があるため、本発明に係るチタン銅の0.2%耐力は一般には2000MPa以下であり、典型的には1600MPa以下であり、より典型的には1500MPa以下である。
本発明においては、チタン銅の圧延方向に平行な方向での0.2%耐力は、JIS Z2241(金属材料引張試験方法)に準拠して測定する。
(4)KAM値
本発明に係るチタン銅は一実施形態において、KAM(Kerner Average Misorientation)値が1.5〜3.0である。このKAM値は、結晶粒内における隣接測定点間の方位差を表し、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction:電子後方散乱回折)測定における結晶方位解析により、EBSDに付属している解析ソフト(例:TSLソリューションズ社製のOIM Analysis)を用いることで結晶粒内の方位差を測定することで、算出可能である。本発明においては、測定結果の安定性のために、200μm×200μmの視野を5点測定し、その平均値を算出して測定値とする。
本発明においては、EBSD測定における測定条件として以下を採用する。
(a)SEM条件
・ビーム条件:加速電圧15kV、照射電流量5×10-8
・ワークディスタンス:25mm
・観察視野:200μm×200μm
・観察面:圧延面
・観察面の事前処理:リン酸67%+硫酸10%+水の溶液中で15V×60秒の条件で電解研磨して組織を現出
(b)EBSD条件
・測定プログラム:OIM Data Collection
・データ解析プログラム:OIM Analysis
・ステップ幅:0.5μm
KAM値は、転位密度を間接的に評価する指標である。KAM値は転位密度が低くなるにつれて下降し、逆に、転位密度が高くなるにつれて上昇する傾向にある。本発明者は鋭意研究の結果、KAM値が1.5〜3.0であるときに強度が高く高温暴露時の耐へたり性が良好な特性が得られることを見出した。KAM値が上限を上回ると高温暴露時の耐へたり性が悪化しやすく、また、下限を下回ると強度が低下しやすいため好ましくない。KAM値は好ましくは1.8〜3.0であり、より好ましくは2.1〜3.0である。
(5)チタン銅の厚み
一般に、金属材料の厚みが薄くなるにつれて耐へたり性は低下していくが、本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、厚みを1.0mm以下とすることができ、典型的な実施形態においては厚みを0.02〜0.8mmとすることができ、より典型的な実施形態においては厚みを0.05〜0.5mmとすることができる。
(6)用途
本発明に係るチタン銅は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線に加工することができる。本発明に係るチタン銅は、限定的ではないが、スイッチ、コネクタ(特に、過酷な曲げ加工性を必要としないフォーク型のFPCコネクタ)、オートフォーカスカメラモジュール、ジャック、端子、リレー等の電子部品の材料として好適に使用することができる。
オートフォーカスカメラモジュールは一実施形態において、レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備える。電磁駆動手段は例示的には、コの字形円筒形状のヨークと、ヨークの内周壁の内側に収容されるコイルと、コイルを囲繞すると共にヨークの外周壁の内側に収容されるマグネットを備えることができる。
図1は、本発明に係るオートフォーカスカメラモジュールの一例を示す断面図であり、図2は、図1のオートフォーカスカメラモジュールの分解斜視図であり、図3は、図1のオートフォーカスカメラモジュールの動作を示す断面図である。
オートフォーカスカメラモジュール1は、コの字形円筒形状のヨーク2と、ヨーク2の外壁に取付けられるマグネット4と、中央位置にレンズ3を備えるキャリア5と、キャリア5に装着されるコイル6と、ヨーク2が装着されるベース7と、ベース7を支えるフレーム8と、キャリア5を上下で支持する2個のばね部材9a、9bと、これらの上下を覆う2個のキャップ10a、10bとを備えている。2個のばね部材9a、9bは同一品であり、同一の位置関係でキャリア5を上下から挟んで支持すると共に、コイル6への給電経路として機能している。コイル6に電流を印加することによってキャリア5は上方に移動する。尚、本明細書においては、上及び下の文言を適宜、使用するが、図1における上下を指し、上はカメラから被写体に向う位置関係を表わす。
ヨーク2は軟鉄等の磁性体であり、上面部が閉じたコの字形の円筒形状を成し、円筒状の内壁2aと外壁2bを持つ。コの字形の外壁2bの内面には、リング状のマグネット4が装着(接着)される。
キャリア5は底面部を持った円筒形状構造の合成樹脂等による成形品であり、中央位置でレンズを支持し、底面外側上に予め成形されたコイル6が接着されて搭載される。矩形上樹脂成形品のベース7の内周部にヨーク2を嵌合させて組込み、更に樹脂成形品のフレーム8でヨーク2全体を固定する。
ばね部材9a、9bは、いずれも最外周部がそれぞれフレーム8とベース7に挟まれて固定され、内周部120°毎の切欠き溝部がキャリア5に嵌合し、熱カシメ等にて固定される。
ばね部材9bとベース7およびばね部材9aとフレーム8間は接着および熱カシメ等にて固定され更に、キャップ10bはベース7の底面に取付け、キャップ10aはフレーム8の上部に取付けられ、それぞればね部材9bをベース7とキャップ10b間に、ばね部材9aをフレーム8とキャップ10a間に挟み込み固着している。
コイル6の一方のリード線は、キャリア5の内周面に設けた溝内を通って上に伸ばし、ばね部材9aに半田付する。他方のリード線はキャリア5底面に設けた溝内を通って下方に伸ばし、ばね部材9bに半田付する。
ばね部材9a、9bは、本発明に係るチタン銅箔の板バネである。バネ性を持ち、レンズ3を光軸方向の初期位置に弾性付勢する。同時に、コイル6への給電経路としても作用する。ばね部材9a、9bの外周部の一箇所は外側に突出させて、給電端子として機能させている。
円筒状のマグネット4はラジアル(径)方向に磁化されており、コの字形状ヨーク2の内壁2a、上面部及び外壁2bを経路とした磁路を形成し、マグネット4と内壁2a間のギャップには、コイル6が配置される。
ばね部材9a、9bは同一形状であり、図1及び2に示すように同一の位置関係で取付けているので、キャリア5が上方へ移動したときの軸ズレを抑制することができる。コイル6は、巻線後に加圧成形して製作するので、仕上がり外径の精度が向上し、所定の狭いギャップに容易に配置することができる。キャリア5は、最下位置でベース7に突当り、最上位置でヨーク2に突当るので、上下方向に突当て機構を備えることとなり、脱落することを防いでいる。
図3は、コイル6に電流を印加して、オートフォーカス用にレンズ3を備えたキャリア5を上方に移動させた時の断面図を示している。ばね部材9a、9bの給電端子に電源が印加されると、コイル6に電流が流れてキャリア5には上方への電磁力が働く。一方、キャリア5には、連結された2個のばね部材9a、9bの復元力が下方に働く。従って、キャリア5の上方への移動距離は電磁力と復元力が釣合った位置となる。これによって、コイル6に印加する電流量によって、キャリア5の移動量を決定することができる。
上側ばね部材9aはキャリア5の上面を支持し、下側ばね部材9bはキャリア5の下面を支持しているので、復元力はキャリア5の上面及び下面で均等に下方に働くこととなり、レンズ3の軸ズレを小さく抑えることができる。
従って、キャリア5の上方への移動にあたって、リブ等によるガイドは必要なく、使っていない。ガイドによる摺動摩擦がないので、キャリア5の移動量は、純粋に電磁力と復元力の釣合いで支配されることとなり、円滑で精度良いレンズ3の移動を実現している。これによってレンズブレの少ないオートフォーカスを達成している。
なお、マグネット4は円筒形状として説明したが、これに拘わるものでなく、3乃至4分割してラジアル方向に磁化し、これをヨーク2の外壁2bの内面に貼付けて固着しても良い。
(7)製造方法
本発明に係るチタン銅は、特に最終の溶体化処理及びそれ以降の工程で適切な熱処理及び冷間圧延を実施することにより製造可能である。以下に、好適な製造例を工程毎に順次説明する。
<インゴット製造>
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第三元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第三元素の溶解後に添加すればよい。従って、Cuに、Fe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.5質量%含有するように添加し、次いでTiを2.0〜4.0質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。
<均質化焼鈍及び熱間圧延>
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化焼鈍でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。具体的には、インゴット製造工程後には、900〜970℃に加熱して3〜24時間均質化焼鈍を行った後に、熱間圧延を実施するのが好ましい。液体金属脆性を防止するために、熱延前及び熱延中は960℃以下とし、且つ、元厚から全体の圧下率が90%までのパスは900℃以上とするのが好ましい。
<第一溶体化処理>
その後、冷延と焼鈍を適宜繰り返してから第一溶体化処理を行うのが好ましい。ここで予め溶体化を行っておく理由は、最終の溶体化処理での負担を軽減させるためである。すなわち、最終の溶体化処理では、第二相粒子を固溶させるための熱処理ではなく、既に溶体化されてあるのだから、その状態を維持しつつ再結晶のみ起こさせればよいので、軽めの熱処理で済む。具体的には、第一溶体化処理は加熱温度を850〜900℃とし、2〜10分間行えばよい。そのときの昇温速度及び冷却速度においても極力速くし、ここでは第二相粒子が析出しないようにするのが好ましい。なお、第一溶体化処理は行わなくても良い。
<中間圧延>
最終の溶体化処理前の中間圧延における圧下率を高くするほど、最終の溶体化処理における再結晶粒を均一かつ微細に制御できる。従って、中間圧延の圧下率は好ましくは70〜99%である。圧下率は{((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100%}で定義される。
<最終の溶体化処理>
最終の溶体化処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化しやすいので、加熱温度は第二相粒子組成の固溶限付近の温度とする(Tiの添加量が2.0〜4.0質量%の範囲でTiの固溶限が添加量と等しくなる温度は730〜840℃程度であり、例えばTiの添加量が3.0質量%では800℃程度)。そしてこの温度まで急速に加熱し、水冷等によって冷却速度も速くすれば粗大な第二相粒子の発生が抑制される。従って、典型的には、730〜840℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に対して−20℃〜+50℃の温度に加熱し、より典型的には730〜880℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に比べて0〜30℃高い温度、好ましくは0〜20℃高い温度に加熱する。
また、最終の溶体化処理での加熱時間は短いほうが結晶粒の粗大化を抑制できる。加熱時間は例えば30秒〜10分とすることができ、典型的には1分〜8分とすることができる。この時点で第二相粒子が発生しても微細かつ均一に分散していれば、強度と曲げ加工性に対してほとんど無害である。しかし粗大なものは最終の時効処理で更に成長する傾向にあるので、この時点での第二相粒子は生成してもなるべく少なく、小さくしなければならない。
具体的には、最終の溶体化処理後における平均結晶粒径は2〜30μmの範囲に制御することが好ましく、2〜15μmの範囲に制御することがより好ましく、2〜10μmの範囲に制御することが更により好ましい。平均結晶粒径は、圧延方向に平行な断面の組織を、電解研磨により現出させた後、電子顕微鏡(SEM)で観察視野100μm×100μmを撮影する。そして、JISH0501に基づき、切断法で圧延方向に直角な方向の平均結晶粒径及び圧延方向に平行な方向の平均結晶粒径を求め、両者の平均値を平均結晶粒径とする。
<予備時効>
最終の溶体化処理に引き続いて、予備時効処理を行う。従来は最終の溶体化処理の後は冷間圧延を行うことが通例であったが、本発明に係るチタン銅を得る上では最終の溶体化処理の後、冷間圧延を行わずに直ちに予備時効処理を行うことが重要である。予備時効熱処理は次工程の時効処理よりも低温で行われる熱処理であり、予備時効熱処理及び後述する時効処理を連続して行うことによりチタン銅の強度と共に高温暴露時の耐へたり性が有意に向上するという利点が得られる。予備時効処理は表面酸化皮膜の発生を抑制するためにAr、N2、H2等の不活性雰囲気で行うことが好ましい。
予備時効処理における加熱温度が低すぎても高すぎても上記利点を得るのは困難である。本発明者による検討結果によれば、材料温度150〜250℃で10〜20時間加熱することが好ましく、材料温度160〜230℃で10〜18時間加熱することがより好ましく、170〜200℃で12〜16時間加熱することが更により好ましい。
<時効処理>
予備時効処理に引き続いて、時効処理を行う。予備時効処理後、いったん室温まで冷却してもよい。製造効率を考えると、予備時効処理の後、冷却せずに時効処理温度まで昇温して、連続して時効処理を実施することが望ましい。何れの方法であっても得られるチタン銅の特性に違いはない。但し、予備時効はその後の時効処理で均一に第二相粒子を析出させることを目的としているため、予備時効処理と時効処理の間には冷間圧延は実施するべきではない。
予備時効処理によって溶体化処理で固溶させたチタンが少し析出していることから、時効処理は慣例の時効処理よりもやや低温で実施するべきであり、材料温度300〜450℃で0.5〜20時間加熱することが好ましく、材料温度350〜440℃で2〜18時間加熱することがより好ましく、材料温度375〜430℃で3〜15時間加熱することが更により好ましい。時効処理は予備時効処理と同様の理由により、Ar、N2、H2等の不活性雰囲気で行うことが好ましい。
理論によって本発明が限定される事を意図しないが、予備時効熱処理及び時効処理を連続して行うことによりチタン銅の特性が有意に向上するのは、以下の理由によるものと考えられる。予備時効熱処理を加えることで微細な第二相粒子が均一に析出する。その後、冷間圧延することで転位密度が高まり従来よりも高強度になる。予備時効熱処理を加えない場合、第二相粒子が粗大化したり不均一になったりするため、冷間圧延しても十分な転位密度が得られず、強度は不十分となる。
<最終の冷間圧延>
上記時効処理後、最終の冷間圧延を行う。最終の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができる。本発明が意図するような高い強度を得るためには圧下率を55%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは90%以上とする。但し、圧下率が高すぎると製造性が低下することから、圧下率は99.9%以下とするのが好ましく、97%以下とするのがより好ましく、95%以下とするのが更により好ましい。
<歪取焼鈍>
高温暴露時の耐へたり性を向上する観点からは、最終の冷間圧延後に歪取焼鈍を実施することが望まれる。歪取焼鈍を行うことで転位が再配列するからである。歪取焼鈍の条件は慣用の条件でよいが、過度の歪取焼鈍を行うと粗大粒子が析出して強度が低下するため好ましくない。歪取焼鈍は材料温度200〜600℃で10〜600秒行うことが好ましく、250〜550℃で10〜400秒行うことがより好ましく、300〜500℃で10〜200秒行うことが更により好ましい。
なお、当業者であれば、上記各工程の合間に適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗等の工程を行なうことができることは理解できるだろう。
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらは本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
表1に示す合金成分を含有し残部が銅及び不可避的不純物からなる合金を実験材料とし、合金成分、KAM値及び製造条件が0.2%耐力及び高温暴露時のへたりに及ぼす影響を調査した。
まず、真空溶解炉にて電気銅2.5kgを溶解し、第三元素を表1に示す配合割合でそれぞれ添加した後、同表に示す配合割合のTiを添加した。添加元素の溶け残りがないよう添加後の保持時間にも十分に配慮した後に、これらをAr雰囲気で鋳型に注入して、それぞれ約2kgのインゴットを製造した。
上記インゴットに対して950℃で3時間加熱する均質化焼鈍の後、900〜950℃で熱間圧延を行い、板厚15mmの熱延板を得た。面削による脱スケール後、冷間圧延して素条の板厚(1〜8mm)とし、素条での第1次溶体化処理を行った。第1次溶体化処理の条件は850℃で10分間加熱とし、その後、水冷した。次いで、表1に記載の最終冷間圧延における圧下率及び製品板厚の条件に応じて圧下率を調整して中間の冷間圧延を行った後、急速加熱が可能な焼鈍炉に挿入して最終の溶体化処理を行い、その後、水冷した。このときの加熱条件は材料温度がTiの固溶限が添加量と同じになる温度(Ti濃度3.0質量%で約800℃、Ti濃度2.0質量%で約730℃、Ti濃度4.0質量%で約840℃)を基準として表1に記載の通りとした。次いで、Ar雰囲気中で表1に記載の条件で予備時効処理及び時効処理を連続して行った。すなわち、予備時効処理の後に冷却を行なわなかった。酸洗による脱スケール後、表1に記載の条件で最終冷間圧延を行い、最後に表1に記載の各加熱条件で歪取焼鈍を行って発明例及び比較例の試験片とした。試験片によっては予備時効処理、時効処理又は歪取焼鈍を省略した。
作製した製品試料について、次の評価を行った。
(イ)0.2%耐力
引張試験機を用いてJIS13B号試験片を作製し、上述した測定方法に従い圧延方向と平行な方向の0.2%耐力を測定した。
(ロ)KAM値
KAM値は、TSLソリューションズ社製のOIM−Analysisを用いて、上述した測定方法で求めた。
(ハ)高温暴露後のへたり(永久変形率)
幅10mmの短冊試料を長手方向が圧延平行方向となるように採取し、図4のように、試料の片端を固定し、この固定端から距離Lの位置に、先端をナイフエッジに加工したポンチを1mm/分の移動速度で押し当て、次式1により試料に1000MPa(≒102kg/mm2)の応力(σ0)に相当する初期たわみ(d)を与えた。
式1:d=2/3×L×σ0/(E・t)
d=初期たわみ(mm)
L=標点距離(mm)
σ0=応力(kg/mm2
E=ヤング率(kg/mm2
t=板厚(mm)
次いで、たわみを与えた状態で、250℃にて30分間加熱し、ポンチを初期の位置に戻し除荷した後、永久変形量(δ)を求め、永久変形率(=δ/d×100)を求めた。
また、最終溶体化処理後の中間品の平均結晶粒径を上述した測定方法により、電子顕微鏡(Philips社製 XL30 SFEG)を用いて測定した。
(考察)
表1に試験結果を示す。発明例1〜18では、0.2%耐力が1100MPa以上と高く、永久変形率は低く抑えられていることが分かる。
一方、比較例1は、最終の溶体化処理温度が高すぎたことで結晶粒が粗大化し、KAM値も本発明の範囲外となったことで、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例2は最終の溶体化処理温度が低すぎたことで未再結晶領域と再結晶領域が混在する混粒化が起き、KAM値が本発明の範囲外となった。そのため、永久変形率が発明例よりも劣っていた。
比較例3は特開2012−0625757号公報に記載の発明に想到する。予備時効処理を行わなかったことから強度向上が不十分となり、また、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例4は予備時効処理を行ったものの加熱温度が低すぎたことから強度向上が不十分となり、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例5は予備時効における加熱温度が高すぎたために、過時効となって粗大粒子が析出し、また、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例6は時効処理を行わなかったことからスピノーダル分解が不十分となって強度向上も不十分となり、また、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例7は時効処理を行ったが加熱温度が低すぎたことから強度向上が不十分となり、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例8は時効処理における加熱温度が高すぎたために、過時効となって粗大粒子が析出し、また、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例9は最終冷間圧延における圧下率が低すぎたことで、強度不足となり、また、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例10は歪取焼鈍を実施しなかったことからKAM値が本発明の範囲外となった。そのため、永久変形率が発明例よりも劣っていた。
比較例11は歪取焼鈍を実施したが加熱温度が低かったためにKAM値が本発明の範囲外となった。そのため、永久変形率が発明例よりも劣っていた。
比較例12は歪取焼鈍を実施したが加熱温度が高すぎたために、転位が消滅し、また、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例13は第三元素の添加量が多すぎたことで熱間圧延で割れが発生したため、試験片の製造ができなかった。
比較例14はTi濃度が低すぎたことで、強度不足となり、また、KAM値も本発明の範囲外となった。そのため、0.2%耐力及び永久変形率が共に発明例よりも劣っていた。
比較例15はTi濃度が高すぎたことで熱間圧延で割れが発生したため、試験片の製造ができなかった。
1 オートフォーカスカメラモジュール
2 ヨーク
3 レンズ
4 マグネット
5 キャリア
6 コイル
7 ベース
8 フレーム
9a 上側のばね部材
9b 下側のばね部材
10a,10b キャップ

Claims (5)

  1. Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第三元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択された1種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な方向により測定した0.2%耐力が1100MPa以上2000MPa以下であり、EBSD測定における結晶方位解析において、KAM値が1.5〜3.0であるチタン銅。
  2. 請求項1に記載のチタン銅を備えた伸銅品。
  3. 請求項1に記載のチタン銅を備えた電子部品。
  4. 子部品がオートフォーカスカメラモジュールである請求項に記載の電子部品。
  5. レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備え、前記ばね部材が請求項1に記載のチタン銅であるオートフォーカスカメラモジュール。
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