JP4961049B2 - 電子部品用チタン銅 - Google Patents

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Description

本発明はコネクタ等の電子部品用部材として好適なチタン銅に関する。
近年では携帯端末などに代表される電子機器の小型化が益々進み、従ってそれに使用されるコネクタは狭ピッチ化及び低背化の傾向が著しい。小型のコネクタほどピン幅が狭く、小さく折り畳んだ加工形状となるため、使用する部材には、必要なバネ性を得るための高い強度と、過酷な曲げ加工に耐えることのできる優れた曲げ加工性が求められる。この点、チタンを含有する銅合金(以下、「チタン銅」と称する。)は、比較的強度が高く、応力緩和特性にあっては銅合金中最も優れているため、特に強度が要求される信号系端子用部材として、古くから使用されてきた。
チタン銅は時効硬化型の銅合金である。溶体化処理によって溶質原子であるTiの過飽和固溶体を形成させ、その状態から低温で比較的長時間の熱処理を施すと、スピノーダル分解によって、母相中にTi濃度の周期的変動である変調構造が発達し、強度が向上する。この際、問題となるのは、強度と曲げ加工性が相反する特性である点である。すなわち、強度を向上させると曲げ加工性が損なわれ、逆に、曲げ加工性を重視すると所望の強度が得られないということである。一般に、冷間圧延の圧下率を高くするほど、導入される転位量が多くなって転位密度が高くなるため、析出に寄与する核生成サイトが増え、時効処理後の強度を高くすることができるが、圧下率を高くしすぎると曲げ加工性が悪化する。このため、強度及び曲げ加工性の両立を図ることが課題とされてきた。
そこで、Fe、Co、Ni、Siなどの第三元素を添加する(特許文献1)、母相中に固溶する不純物元素群の濃度を規制し、これらを第二相粒子(Cu−Ti−X系粒子)として所定の分布形態で析出させて変調構造の規則性を高くする(特許文献2)、結晶粒を微細化させるのに有効な微量添加元素と第二相粒子の密度を規定する(特許文献3)、結晶粒を微細化する(特許文献4)などの観点から、チタン銅の強度と曲げ加工性の両立を図ろうとする技術が提案されている。
チタン銅の場合、母相であるα相に対して整合性の悪いβ相(TiCu3)と、整合性の良いβ’相(TiCu4)が存在し、β相は曲げ加工性に悪影響を与える一方で、β’相を均一かつ微細に分散させることが強度と曲げ加工性の両立に寄与するとして、β相を抑制しつつβ’相を微細分散させたチタン銅も提案されている(特許文献5)。
結晶方位に着目し、I{420}/I0{420}>1.0及びI{220}/I0{220}≦3.0を満たすように結晶配向を制御することで、強度、曲げ加工性及び耐応力緩和性を改善した技術も提案されている(特許文献6)。
特開2004−231985号公報 特開2004−176163号公報 特開2005−97638号公報 特開2006−265611号公報 特開2006−283142号公報 特開2008−308734号公報
このように、これまでチタン銅の強度及び曲げ加工性の改善のために各種の手法が研究されてきているが、未だその改善の余地は残されている。そこで、本発明の課題の一つは、これまでとは別の観点からチタン銅の特性改善を試み、優れた強度及び曲げ加工性を有するチタン銅を提供することである。
従来のチタン銅の製造方法は、インゴットの溶解鋳造→均質化焼鈍→熱間圧延→(焼鈍及び冷間圧延の繰り返し)→最終溶体化処理→冷間圧延→時効処理の順序で構成するのを基本としていた。背景技術に記載のチタン銅も同様の順序で製造されている。
本発明者は上記課題を解決するための検討過程において、最終溶体化処理の後に行う冷間圧延及び時効処理の順序を従来とは逆に行う、すなわち、時効処理→冷間圧延の順番に代えた上で、最後に歪取焼鈍を適切な条件で実施すると曲げ加工性が有意に向上することを見出した。すなわち、従来の手順で製造したチタン銅と本発明のチタン銅を比べると、同一の強度の場合に本発明のチタン銅の方が曲げ加工性が優れているということである。本発明者はその原因を調査するため、本発明に係るチタン銅の組織を調査したところ、転位密度と結晶粒の形態に特徴点を見出した。具体的には、同一の圧下率で冷間圧延を行ったときに、冷間圧延→時効処理の順序としたときよりも時効処理→冷間圧延の順序としたときの方が、得られるチタン銅の転位密度が上昇することが分かった。換言すれば、同一の転位密度を得るのに必要な冷間圧延時の圧下率を小さくできるということである。圧下率が小さいと、冷間圧延時に結晶粒が圧延方向に延伸するのを抑制することができるため、曲げ加工性が改善する。
転位密度は直接測定することが困難である。それは変調構造や析出粒子の分布によって、転位の分布が不均一になるためである。間接的に評価を試みる場合には圧延面における{220}結晶面のX線回線強度ピークの半価幅と相関がある。半価幅は回折強度曲線のピーク強度の1/2の強度における回折強度曲線の幅(β)であって2θで表わされる。半価幅は冷間圧延の圧下率の上昇に伴って転位密度と共に大きくなる。そこで、本発明ではこの半価幅を指標として転位密度の状態を間接的に規定することとする。
上記知見に基づいて完成した本発明は第一の側面において、Tiを2.0〜4.0質量%、第3元素群としてMn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる電子部品用銅合金であって、
圧延面の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ{220}が、純銅標準粉末の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ0{220}と次式:
3.0≦β{220}/β0{220}≦6.0
を満たし、
圧延方向に平行な断面の組織観察において、平均結晶粒径が円相当径で表して30μm以下であり、且つ、
圧延平行方向の0.2%耐力が880〜1050MPaである銅合金である。
本発明に係る銅合金の一実施形態においては、圧延方向に平行な断面の組織観察において、圧延方向に直角な方向の平均結晶粒径(T)に対する圧延方向に平行な方向の平均結晶粒径(L)の比(L/T)が1〜4である。
本発明に係る銅合金の別の一実施形態においては、ばね限界値が600〜1000MPaである。
本発明に係る銅合金の更に別の一実施形態においては、ばね限界値が300〜600MPaである。
本発明は別の一側面において、本発明に係る銅合金からなる伸銅品である。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅合金を備えた電子部品である。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅合金を備えたコネクタである。
本発明によれば、強度及び曲げ加工性に優れたチタン銅が得られる。
<Ti含有量>
Tiが2.0質量%未満ではチタン銅本来の変調構造の形成による強化機構を充分に得ることができないことから十分な強度が得られず、逆に4.0質量%を超えると粗大なTiCu3が析出し易くなり、強度及び曲げ加工性が劣化する傾向にある。従って、本発明に係る銅合金中のTiの含有量は2.0〜4.0質量%であり、好ましくは2.7〜3.5質量%である。このようにTiの含有量を適正化することで、電子部品用に適した強度及び曲げ加工性を共に実現することができる。
<第3元素>
所定の第3元素をチタン銅に添加すると、Tiが十分に固溶する高い温度で溶体化処理をしても結晶粒が容易に微細化し、強度を向上させる効果がある。また、所定の第3元素は変調構造の形成を促進する。更に、Ti−Cu系の安定相の急激な粗大化を抑制する効果もある。そのため、チタン銅本来の時効硬化能が得られるようになる。
チタン銅において上記効果が最も高いのがFeである。そして、Mn、Mg、Co、Ni、Si、Cr、V、Nb、Mo、Zr、B及びPにおいてもFeに準じた効果が期待でき、単独の添加でも効果が見られるが、2種以上を複合添加してもよい。
これらの元素は、合計で0.05質量%以上含有するとその効果が現れだすが、合計で0.5質量%を超えると強度と曲げ加工性のバランスが劣化する傾向にある。従って、第3元素群としてMn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.5質量%含有することができ、合計で0.05〜0.5質量%含有するのが好ましい。
<結晶粒径>
チタン銅の強度及び曲げ加工性を向上させるためには、結晶粒が小さいほどよい。そこで、好ましい平均結晶粒径は30μm以下、より好ましくは20μm以下、更により好ましくは10μm以下である。下限については特に制限はないが、結晶粒径の判別が困難となるため、そのような状況を1μm未満(<1μm)とし、そのような小さな粒径も本発明の範囲に含める。ただし、極端に小さくなると応力緩和特性が低下してしまうので、応力緩和特性が必要な場合には、1μm以上が好ましい。本発明において、平均結晶粒径は光学顕微鏡か電子顕微鏡による観察で圧延方向に平行な断面の組織観察における円相当径で表す。
一般に、結晶粒は最終の冷間圧延における圧下率に応じて圧延方向に延伸した楕円形状を呈するが、曲げ加工性を向上させるには、できるだけ真円に近くし、結晶粒の形状に異方性のないことが望ましい。本発明では冷間圧延における圧下率を小さくすることができるので、圧延方向への延伸が少ない結晶粒を得ることができる。ただし、結晶粒の形状を真円に近づけようとして最終の冷間圧延の圧下率を低くし過ぎると強度不足となる。そこで、本発明に係るチタン銅の一実施形態では、電子顕微鏡による圧延方向に平行な断面の組織観察において、圧延方向に直角な方向の平均結晶粒径(T)に対する圧延方向に平行な方向の平均結晶粒径(L)の比(L/T)(以下、「結晶粒アスペクト比」という。)が1〜4であり、好ましくは1.5〜3.5であり、より好ましくは2〜3である。
<半価幅>
本発明では転位密度の指標として圧延面における{220}結晶面のX線回線強度ピークの半価幅を用いる。これは、上記の理由による。そして、本発明に係るチタン銅は、圧延面の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ{220}が、純銅標準粉末の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ0{220}と次式:
3.0≦β{220}/β0{220}≦6.0
を満たす。β{220}及びβ0{220}は同一測定条件で測定する。純銅標準粉末は325メッシュ(JIS Z8801)の純度99.5%の銅粉末で定義される。
β{220}/β0{220}は転位密度が低くなるにつれて低下し、逆に、転位密度が高くなるにつれて上昇する。β{220}/β0{220}が小さくなると、曲げ加工性は向上するが強度が低下する。逆に、β{220}/β0{220}は大きくなると、強度は向上するが曲げ加工性が低下する。強度と曲げ加工性の両立を図る上では、3.0≦β{220}/β0{220}≦6.0であることが必要であり、3.5≦β{220}/β0{220}≦5.0であることが好ましい。従来のように、最終溶体化処理後に冷間圧延→時効処理の順で行う製法では、β{220}/β0{220}を3.0程度にするために圧下率50%近くの冷間圧延を行う必要があったが、本発明の製法では圧下率10%程度で達成できる。そのため、転位密度(強度)を高めながら結晶粒アスペクト比を小さく、すなわち曲げ加工性を損なわないことができる。
<ばね限界値>
本発明に係る銅合金では、後述するように最終工程において歪取焼鈍を実施するか否かでばね限界値を調節することができる。そのため、上述した半価幅や結晶粒の条件を維持しながら求められるばね限界値を作り込むことができる。例えば、本発明に係る銅合金は一実施形態において、300〜1000MPaのばね限界値を有することができ、高いばね限界値を有する実施形態では600〜1000MPaとすることができ、好ましくは800〜1000MPaとすることができ、低いばね限界値を有する実施形態では300〜600MPaとすることができ、好ましくは400〜600MPaとすることができる。
<用途>
本発明に係る銅合金は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線として提供されることができる。本発明に係るチタン銅は、限定的ではないが、スイッチ、コネクタ、ジャック、端子、リレー等の電子部品の材料として好適に使用することができる。
<製法>
本発明に係るチタン銅は、特に最終の溶体化処理及びそれ以降の工程で適切な熱処理及び冷間圧延を実施することにより製造可能である。以下に、好適な製造例を工程毎に順次説明する。
1)インゴット製造
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第3元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第3元素の溶解後に添加すればよい。従って、Cuに、Mn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.50質量%含有するように添加し、次いでTiを2.0〜4.0質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。
2)均質化焼鈍及び熱間圧延
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化焼鈍でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。
具体的には、インゴット製造工程後には、900〜970℃に加熱して3〜24時間均質化焼鈍を行った後に、熱間圧延を実施するのが好ましい。液体金属脆性を防止するために、熱延前及び熱延中は960℃以下とし、且つ、元厚から全体の圧下率が90%までのパスは900℃以上とするのが好ましい。そして、パス毎に適度な再結晶を起こしてTiの偏析を効果的に低減するために、パスごとの圧下量を10〜20mmで実施するとよい。
3)第一溶体化処理
その後、冷延と焼鈍を適宜繰り返してから溶体化処理を行うのが好ましい。ここで予め溶体化を行っておく理由は、最終の溶体化処理での負担を軽減させるためである。すなわち、最終の溶体化処理では、第二相粒子を固溶させるための熱処理ではなく、既に溶体化されてあるのだから、その状態を維持しつつ再結晶のみ起こさせればよいので、軽めの熱処理で済む。具体的には、第一溶体化処理は加熱温度を850〜900℃とし、2〜10分間行えばよい。そのときの昇温速度及び冷却速度においても極力速くし、ここでは第二相粒子が析出しないようにするのが好ましい。なお、第一溶体化処理は行わなくても良い。
4)中間圧延
最終の溶体化処理前の中間圧延における圧下率を高くするほど、最終の溶体化処理における再結晶粒を均一かつ微細に制御できる。従って、中間圧延の圧下率は好ましくは70〜99%である。圧下率は{((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100%}で定義される。
5)最終の溶体化処理
最終の溶体化処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化しやすいので、加熱温度は第二相粒子組成の固溶限付近の温度とする(Tiの添加量が2.0〜4.0質量%の範囲でTiの固溶限が添加量と等しくなる温度は730〜840℃程度であり、例えばTiの添加量が3.0質量%では800℃程度)。そしてこの温度まで急速に加熱し、冷却速度も速くすれば粗大な第二相粒子の発生が抑制される。従って、典型的には、730〜880℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度以上に加熱し、より典型的には730〜880℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に比べて0〜20℃高い温度、好ましくは0〜10℃高い温度に加熱する。
また、最終の溶体化処理での加熱時間は短いほうが結晶粒の粗大化を抑制できる。加熱時間は例えば30〜90秒とすることができ、典型的には30〜60秒とすることができる。この時点で第2相粒子が発生しても微細かつ均一に分散していれば、強度と曲げ加工性に対してほとんど無害である。しかし粗大なものは最終の時効処理で更に成長する傾向にあるので、この時点での第2相粒子は生成してもなるべく少なく、小さくしなければならない。
6)時効処理
最終の溶体化処理に引き続いて、時効処理を行う。従来は最終の溶体化処理の後は冷間圧延を行うことが通例であったが、本発明に係るチタン銅を得る上では最終の溶体化処理の後、冷間圧延を行わずに直ちに時効処理を行うことが重要である。時効処理の前に冷間圧延を行う場合に比べて同一の圧下率であっても転位密度を高くすることができるからである。理論によって本発明が限定される事を意図しないが、これは結晶粒内の結晶性と剪断帯の発生に相関があると考えている。一般的に圧延を行うと転位が導入されるので結晶が歪み、半価幅が大きくなる。半価幅が小さいと結晶性が高く、半価幅が大きいと結晶性が低い。結晶性の高い状態で時効処理を行って、曲げ加工を行うと剪断帯が発達しやすく、曲げ割れの原因となりやすい。溶体化後に時効を行った場合には結晶粒内で析出反応が均一に進行し、変調構造や微細な第2相粒子が均一に発達しやすい。時効でこのような組織に制御した後に冷間圧延を行うと、時効していない場合よりも結晶が歪みやすく、剪断帯が発達しにくい。ただし加工度が高くなると転位密度が過剰に増加して曲げ加工性を損なう。よって低い加工度であっても剪断帯の発達を抑制しながら高強度が得られる。時効処理は溶体化処理後に時効処理を行うので析出の駆動力となる歪が少ないことから、慣例の時効条件よりもやや高温で行うとよい。具体的には、材料温度400〜500℃で0.1〜20時間加熱することが好ましく、材料温度400〜480℃で1〜16時間加熱することがより好ましい。
7)最終の冷間圧延
上記時効処理後、最終の冷間圧延を行う。最終の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができる。この冷間圧延は実施しなくてもよいが、高い強度を得ることを目的とする場合は圧下率を5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上とする。但し、圧下率が高すぎると結晶粒アスペクト比が大きくなり過ぎて曲げ加工性の向上効果が小さくなることから、圧下率を40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下とする。
8)歪取焼鈍
電子部品の構造に応じて、異なる形状加工が要求される。一般に曲げ加工やノッチ加工などの塑性変形を施された部位は加工硬化し、素材の強度はより上昇する。このような曲げ加工部で接圧を担保する構造では塑性変形しにくいので、高いばね限界値は不要である。そのため、このような用途では歪取焼鈍は行わなくても良い。
一方、プレス打ち抜き後の形状加工時に塑性変形を受けない部位で接圧を担保する構造(例:端子の接点部から曲げ加工部までの直線部分(アーム)の距離が長い構造、またはフォーク型端子のようにノッチ加工や曲げ加工が施されない構造であって、曲げ応力がアームにかかるような構造)では、曲げたわみに対する抵抗が必要となるので高いばね限界値が重要となる。
従って、特にばね限界値が重要となる用途では最終の冷間圧延の後、歪取焼鈍を行う。特に最終の冷間圧延の圧下率が3%以上の場合には、ばね限界値が重要となる用途では歪取焼鈍を行うことが好ましい。また、最終の冷間圧延の圧下率が10%以上の場合には、ばね限界値が重要となる用途では歪取焼鈍を行うことが特に好ましい。歪取焼鈍の条件は慣用の条件でよいが、冷間圧延で導入された転位は不均一に分布している。歪取焼鈍を行うことで転位が再配列し、これにより更に強度上昇を図ることもできる。ただし、過度の歪取焼鈍を行うと転位が消滅して強度が低下するため好ましくない。そこで、例えば材料温度100℃以上350℃未満として0.001時間以上40時間以下、材料温度350℃以上550℃未満で0.0001時間以上20時間以下、又は材料温度550℃以上700℃以下で0.0001時間以上0.003時間以下の加熱を行えばよく、材料温度200℃以上400℃未満で0.001〜20時間加熱の条件で行うのが好ましく、材料温度350℃以上550℃未満で0.001〜0.5時間加熱の条件で行うのがより好ましく、低温であれば長時間(例えば材料温度200〜300℃で10〜20時間加熱)、高温であれば短時間(例えば材料温度550〜700℃以下で0.001〜0.003時間加熱)の条件で行うのがより好ましい。
なお、当業者であれば、上記各工程の合間に適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗等の工程を行なうことができることは理解できるだろう。
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
本発明例の銅合金を製造するに際しては、活性金属であるTiが第2成分として添加されるから、溶製には真空溶解炉を用いた。また、本発明で規定した元素以外の不純物元素の混入による予想外の副作用が生じることを未然に防ぐため、原料は比較的純度の高いものを厳選して使用した。
まず、Cuに、Mn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPを表1に示す組成でそれぞれ添加した後、同表に示す組成のTiをそれぞれ添加した。添加元素の溶け残りがないよう添加後の保持時間にも十分に配慮した後に、これらをAr雰囲気で鋳型に注入して、それぞれ約2kgのインゴットを製造した。
Figure 0004961049
上記インゴットに対して950℃で3時間加熱する均質化焼鈍の後、900〜950℃で熱間圧延を行い、板厚10mmの熱延板を得た。面削による脱スケール後、冷間圧延して素条の板厚(2.0mm)とし、素条での第1次溶体化処理を行った。第1次溶体化処理の条件は850℃で10分間加熱とした。なお、一部の実施例では第1溶体化処理を行わなかった。次いで、中間の冷間圧延では最終板厚が0.10mmとなるように中間の板厚を調整して冷間圧延した後、急速加熱が可能な焼鈍炉に挿入して最終の溶体化処理を行い、その後、水冷した。このときの加熱条件は材料温度がTiの固溶限が添加量と同じになる温度(Ti濃度3.0質量%で約800℃、Ti濃度2.0質量%で約730℃、Ti濃度4.0質量%で約840℃)を基準として表2に記載の加熱条件で各々1分間保持とした。次いで、Ar雰囲気中で表2に記載の条件で時効処理を行った。酸洗による脱スケール後、表2に記載の条件で冷間圧延し、最後に表2に記載の各加熱条件で焼鈍を行って発明例及び比較例の試験片とした。試験片によっては溶体化処理直後の時効処理を省略した。
Figure 0004961049
得られた各試験片について、以下の条件で特性評価を行った。結果を表3に示す。
<強度>
引張方向が圧延方向と平行になるように、プレス機を用いてJIS13B号試験片を作製した。JIS−Z2241に従ってこの試験片の引張試験を行ない、圧延平行方向の0.2%耐力(YS)を測定した。
<曲げ加工性>
A:W曲げ
JIS H 3130に従って、Badway(曲げ軸が圧延方向と同一方向)のW曲げ試験を板厚の2倍となる曲げ半径の金型で実施して、割れが発生しない場合を○、割れが発生した場合を×とした。
B:180°曲げ
所定のコーナー半径(R)を有するブロックの角に試験片を押し当てて90°曲げを行い、90°曲げ加工部の内側に当該コーナー半径の2倍の厚さ(2R)の板(コーナー半径R)を挟んで板の端面に沿って180°折りたたむ。180°曲げ加工後の外側曲げ表面にクラックを生じない最小曲げ半径(R)を板厚(t)で除した値(R/t)を曲げ加工性の指標とした。
コーナー半径は0.01mmずつ変化させた。
<導電率>
JIS H 0505に準拠し、4端子法で導電率(EC:%IACS)を測定した。
<平均結晶粒径>
平均結晶粒径の測定は、圧延方向に平行な断面をFIBにて切断することで、断面を露出した後、断面をSIM観察し、単位面積当たりの結晶粒の数をカウントして、結晶粒の平均の円相当径を求めた。具体的には、100μm×100μmの枠を作成し、この枠の中に存在する結晶粒の数をカウントした。なお、枠を横切っている結晶粒については、すべて1/2個としてカウントした。枠の面積10000μm2をその合計で除したものが結晶粒1個当たりの面積の平均値である。その面積を持つ真円の直径が円相当径であるので、これを平均結晶粒径とした。
<結晶粒径アスペクト比>
圧延方向に平行な断面の組織を、電解研磨により現出させた後、電子顕微鏡(Philips社製 XL30 SFEG)で観察視野100μm×100μmを撮影した。JISH0501に基づき、切断法で圧延方向に直角な方向の平均結晶粒径及び圧延方向に平行な方向の平均結晶粒径を求め、アスペクト比を算出した。
<半価幅>
各試験片について、理学電機社製型式rint Ultima2000のX線回折装置を用いて、以下の測定条件で圧延面の回折強度曲線を取得し、{220}結晶面のX線回線強度ピークの半価幅β{220}を測定した。同様の測定条件で、純銅粉標準試料についても、半価幅β0{220}を求めた。銅粉標準試料では{220}面のピークは2θが74°付近に表れた。
・ターゲット:Cu管球
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・走査速度:5°/min
・サンプリング幅:0.02°
・測定範囲(2θ):60°〜80°
<ばね限界値(Kb)>
ばね限界値(Kb)は、JIS H3130(合金番号C1990)に準拠して、繰り返し式たわみ試験を実施し、永久歪が残留する曲げモーメントから表面最大応力を測定した。
Figure 0004961049
<考察>
発明例No.1〜26は強度と曲げ加工性がバランス良く向上していることが分かる。発明例13〜26は製造工程に変化を与えた変形例である。発明例13では2回目の溶体化処理温度を高めに設定し、上限の平均結晶粒径を得た。参考例14は最終冷間圧延の圧下率が低いのでβが請求範囲の下限になり、アスペクト比も低くなり、強度が発明例よりは劣った。発明例17及び18は発明例No.2及び発明例No.4の工程の歪取焼鈍をそれぞれ省略した例であり、歪取焼鈍を省略した場合でもβの値が本発明の規定の範囲内となり、強度と曲げ加工性がバランスよく向上することが分かる。発明例17及び18に対して、発明例19、20及び21では歪取焼鈍を行ったことで、強度及びKb値が上昇した。発明例22〜25は1回目の溶体化処理を省略した例であり、更に、No.24及び25は歪取焼鈍を行わなかった例であるが、1回目の溶体化処理を省略し、そして、歪取焼鈍を行わなくても、βの値が本発明の規定の範囲内であり、強度と曲げ加工性がバランス良く向上していることがわかる。発明例26は歪取焼鈍を低温短時間で行った例である。
一方で、比較例No.1〜3では、溶体化処理後に時効処理を行わずに冷間圧延を行っていることから半価幅が小さく、強度と曲げ加工性のバランスが発明例に比べて劣っている。また、比較例No.4〜5では溶体化処理後に時効処理を行ったが、比較例No.4では冷間圧延における圧下率が高くなり、半価幅が大きくなりすぎたために、強度と曲げ加工性のバランスが発明例に比べて劣っている。比較例No.5では溶体化処理における加熱温度が高すぎたために結晶粒径が大きくなった。最終の冷間圧延の圧下率が高いため比較的高い強度が得られたが、曲げ加工性が劣った。比較例No.6、7、9及び10では、溶体化温度が高すぎたので結晶粒径が上限を超え、曲げ加工性が劣化した。また、比較例7及び8では溶体化処理後に時効処理を行わずに冷間圧延を行っていることから半価幅が小さく、強度と曲げ加工性のバランスが悪かった。比較例No.11では高温で歪取焼鈍したので再結晶が始まって転位密度が低減してβが低くなり、再固溶も始まったので強度と導電率が下がった。

Claims (7)

  1. Tiを2.0〜4.0質量%、第3元素群としてMn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる電子部品用銅合金であって、
    圧延面の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ{220}が、純銅標準粉末の{220}結晶面からのX線回折強度ピークの半価幅であるβ0{220}と次式:
    3.0≦β{220}/β0{220}≦6.0
    を満たし、
    圧延方向に平行な断面の組織観察において、平均結晶粒径が円相当径で表して30μm以下であり、且つ、
    圧延平行方向の0.2%耐力が880〜1050MPaである銅合金。
  2. 圧延方向に平行な断面の組織観察において、圧延方向に直角な方向の平均結晶粒径(T)に対する圧延方向に平行な方向の平均結晶粒径(L)の比(L/T)が1〜4である請求項1に記載の銅合金。
  3. ばね限界値が600〜1000MPaである請求項1又は2に記載の銅合金。
  4. ばね限界値が300〜600MPaである請求項1又は2に記載の銅合金。
  5. 請求項1〜の何れか一項記載の銅合金からなる伸銅品。
  6. 請求項1〜の何れか一項記載の銅合金を備えた電子部品。
  7. 請求項1〜の何れか一項記載の銅合金を備えたコネクタ。
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