JP5319578B2 - 電子部品用チタン銅の製造方法 - Google Patents
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Tiが2.0質量%未満ではチタン銅本来の変調構造の形成による強化機構を充分に得ることができないことから十分な強度が得られず、逆に4.0質量%を超えると粗大なTiCu3が析出し易くなり、強度及び曲げ加工性のバランスが劣化する傾向にある。従って、本発明に係る銅合金中のTiの含有量は2.0〜4.0質量%であり、好ましくは2.7〜3.5質量%である。このようにTiの含有量を適正化することで、電子部品用に適した強度及び曲げ加工性を共に実現することができる。
第3元素は結晶粒の微細化に寄与するため、所定の第3元素を添加することができる。具体的には、Tiが十分に固溶する高い温度で溶体化処理をしても結晶粒が容易に微細化し、強度が向上しやすい。また、第3元素は変調構造の形成を促進する。更に、TiCu3の析出を抑制する効果もある。そのため、チタン銅本来の時効硬化能が得られるようになる。
本発明において、「第二相粒子」とは母相の成分組成とは異なる組成の粒子を指す。本発明で制御の対象としているのは、種々の熱処理中に析出して母相と境界を形成するCuとTiを主成分とした粒子であり、具体的にはTiCu3粒子、又は第3元素群の構成要素X(具体的にはMn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPの何れか)を含むCu−Ti−X系粒子として現れる。
本発明に係るチタン銅の興味深い特性の一つとして、所定の熱処理を施した後の強度低下が従来のチタン銅と比較して大きいということが挙げられる。これは、前述したように最終溶体化後、冷間圧延前に、予めスピノーダル分解を起こすことのできる所定の熱処理を施すことで従来のチタン銅よりも高いピーク強度が得られることに起因する。同一組成のチタン銅であれば、両者に対して所定の熱処理を加え第二相粒子の析出を発達させると強度が降下して同程度のボトム強度となる。このため、本発明に係るチタン銅は従来のチタン銅に比べて強度の低下が大きくなるのである。
チタン銅の強度及び曲げ加工性を向上させるためには、結晶粒が小さいほどよい。そこで、好ましい平均結晶粒径は30μm以下、より好ましくは20μm以下、更により好ましくは10μm以下である。下限については特に制限はないが、未再結晶領域がなく均一に再結晶するためには、3μm以上が好ましい。本発明において、平均結晶粒径は光学顕微鏡又は電子顕微鏡による観察で圧延方向に平行な断面の組織観察における円相当径で表す。
本発明に係る銅合金は一実施形態において、以下の特性を兼備することができる。
(A)圧延平行方向の0.2%耐力が950MPa以上1000MPa未満
(B)BadwayのW曲げ試験を行って割れの発生しない最小半径(MBR)の板厚(t)に対する比であるMBR/t値が0.8〜1.2
(A)圧延平行方向の0.2%耐力が1000MPa以上1050MPa未満
(B)BadwayのW曲げ試験を行って割れの発生しない最小半径(MBR)の板厚(t)に対する比であるMBR/t値が1.2〜1.7
(A)圧延平行方向の0.2%耐力が1050MPa以上1100MPa以下
(B)BadwayのW曲げ試験を行って割れの発生しない最小半径(MBR)の板厚(t)に対する比であるMBR/t値が1.7〜2.0
本発明に係る銅合金は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線として提供されることができる。本発明に係るチタン銅は、限定的ではないが、スイッチ、コネクター、ジャック、端子、リレー等の電子部品の材料として好適に使用することができる。
本発明に係るチタン銅は、特に最終の溶体化処理及びそれ以降の工程で適切な熱処理及び冷間圧延を実施することにより製造可能である。以下に、好適な製造例を工程毎に順次説明する。
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第3元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第3元素の溶解後に添加すればよい。従って、Cuに、Mn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B及びPよりなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.50質量%含有するように添加し、次いでTiを2.0〜4.0質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化焼鈍でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。
具体的には、インゴット製造工程後には、900〜970℃に加熱して3〜24時間均質化焼鈍を行った後に、熱間圧延を実施するのが好ましい。液体金属脆性を防止するために、熱延前及び熱延中は960℃以下とし、且つ、元厚から全体の圧下率が90%までのパスは900℃以上とするのが好ましい。そして、パス毎に適度な再結晶を起こしてTiの偏析を効果的に低減するために、パスごとの圧下量を10〜20mmで実施するとよい。
その後、冷延と焼鈍を適宜繰り返してから溶体化処理を行うのが好ましい。ここで予め溶体化を行っておく理由は、最終の溶体化処理での負担を軽減させるためである。すなわち、最終の溶体化処理では、第二相粒子を固溶させるための熱処理ではなく、既に溶体化されてあるのだから、その状態を維持しつつ再結晶のみ起こさせればよいので、軽めの熱処理で済む。具体的には、第一溶体化処理は加熱温度を850〜900℃とし、2〜10分間行えばよい。そのときの昇温速度及び冷却速度においても極力速くし、ここでは第二相粒子が析出しないようにするのが好ましい。
最終の溶体化処理前の中間圧延における圧下率を高くするほど、最終の溶体化処理における再結晶粒を均一かつ微細に制御できる。従って、中間圧延の圧下率は好ましくは70〜99%ある。圧下率は{((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100%}で定義される。
最終の溶体化処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化しやすいので、加熱温度は第二相粒子組成の固溶限付近の温度とする(Tiの添加量が2.0〜4.0質量%の範囲でTiの固溶限が添加量と等しくなる温度は730〜840℃程度であり、例えばTiの添加量が3.2質量%では800℃程度)。そしてこの温度まで急速に加熱し、冷却速度も速くすれば粗大な第二相粒子の発生が抑制される。従って、典型的には、730〜880℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度以上に加熱し、より典型的には730〜880℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に比べて0〜20℃高い温度、好ましくは0〜10℃高い温度に加熱する。
最終の溶体化処理に引き続いて、時効処理を行う。従来は最終の溶体化処理の後は冷間圧延を行うことが通例であったが、本発明に係るチタン銅を得る上では先述したように最終の溶体化処理の後、冷間圧延を行わずに直ちに時効処理を行うことが重要である。時効処理は溶体化処理直後に行うので析出の駆動力となる歪が少ないことから、また、ピーク強度が得られる熱処理の度合が従来に比べて大きい地点にあることから、慣例の時効条件よりもやや高温で行うとよい。具体的には、材料温度400〜500℃で0.5〜24時間加熱することが好ましく、3〜12時間加熱することがより好ましい。
上記時効処理後、最終の冷間圧延を行う。最終の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができる。具体的には圧下率を5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上とする。但し、圧下率が高くなると強度は上昇するものの曲げ性が劣化することから、圧下率を40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下とする。
最終の冷間圧延の後、更なる強度向上を目的として、焼鈍を行ってもよい。冷間圧延の後に焼鈍を行うことにより更に強度が向上するメカニズムは現状では十分に解明されていないが、スピノーダル分解のよる変調構造の発達が更に進行することが考えられる。ただし、あまり強度の焼鈍を行うと過時効となり、強度が低下し曲げ性が劣化するので比較的穏やかな加熱条件として行う。焼鈍の具体的な条件としては、材料温度250℃以上550℃以下で0.001〜0.5時間加熱の条件で行うのが好ましく、低温であれば長時間(例えば材料温度250〜300℃で0.01〜0.25時間加熱)、高温であれば短時間(例えば材料温度500〜550℃で0.005〜0.0075時間加熱)、両者の中間的な温度(材料温度300℃を超えて500℃未満の場合)であれば0.075〜0.3時間加熱の条件で行うのがより好ましい。
本発明例の銅合金を製造するに際しては、活性金属であるTiが第2成分として添加されるから、溶製には真空溶解炉を用いた。また、本発明で規定した元素以外の不純物元素の混入による予想外の副作用が生じることを未然に防ぐため、原料は比較的純度の高いものを厳選して使用した。
<強度>
引張方向が圧延方向と平行になるように、プレス機を用いてJIS13B号試験片を作製した。JIS−Z2241に従ってこの試験片の引張試験を行ない、圧延平行方向の0.2%耐力(YS)を測定した。
<曲げ加工性>
JIS H 3130に従って、Badway(曲げ軸が圧延方向と同一方向)のW曲げ試験を行って割れの発生しない最小半径(MBR)の板厚(t)に対する比であるMBR/t値を測定した。
<第二相粒子の個数密度>
圧延方向に平行な断面をFIBにて切断することで、断面を露出した後、断面をSIM観察し、観察視野30μm×30μmを撮影した。
個々の第二相粒子について、第二相粒子を取り囲む最小円の直径をそれぞれ写真上で測定し、粒径0.05μm以上1.0μm以下の第二相粒子と、粒径1.0μmを超える第二相粒子に分けて数え、それぞれの個数密度Y及びXを測定した。
<粒径0.05μm以上1.0μm以下の第二相粒子の面積率>
圧延方向に平行な断面をFIBにて切断することで、断面を露出した後、断面をSIM観察し、観察視野30μm×30μmを撮影した。観察視野において、粒径0.05μm以上1.0μm以下の第二相粒子をマークし、これが占める面積を画像解析装置により求め、5視野の平均値を算出し、粒径0.05μm以上1.0μm以下の第二相粒子の面積率を求めた。画像解析は粒径0.05μm以上1.0μm以下の第二相粒子のみを白色とし、それ以外の領域を黒色にして二値化することで行った。
<平均結晶粒径>
平均結晶粒径の測定は、圧延方向に平行な断面をFIBにて切断することで、断面を露出した後、断面をSIM観察し、単位面積当たりの結晶粒の数をカウントして、結晶粒の平均の円相当径を求めた。具体的には、100μm×100μmの枠を作成し、この枠の中に存在する結晶粒の数をカウントした。なお、枠を横切っている結晶粒については、すべて1/2個としてカウントした。枠の面積10000μm2をその合計で除したものが結晶粒1個当たりの面積の平均値である。その面積を持つ真円の直径が円相当径であるので、これを平均結晶粒径とした。
<熱処理による強度低下特性>
得られた試験片に対して、材料温度を550℃として5時間加熱する熱処理を行った後に上述した手順で0.2%耐力(YS)を測定し、熱処理前後のYSの低下度合いを求めた。
発明例No.3は、発明例No.1と比較して時効処理を高温長時間側で行った例であり、強度が上昇している。
発明例No.4は発明例No.1と比較して最終溶体化処理を高温長時間側で行った例であり、結晶粒径が大きくなった。その結果、本発明例は発明例No.1〜3と比較して強度及び曲げ加工性のバランスが劣っているが、本発明例における強度及びバランスが比較例に比べて優れていることは、結晶粒径が同程度である比較例No.5やNo.6との対比で理解できる。
発明例No.5は発明例であるが時効処理時間が短かったため、第二相粒子の析出度合が他の発明例に比べて低かった。
比較例No.1は従来例である。冷間圧延後に時効処理を行ったため、第二相粒子の析出度合が発明例に比べて低かった。また、ボトム強度は同じだが、製造条件の差によってピーク強度が低いため、熱処理によるYS低下量が小さかった。
比較例No.2も従来例である。比較例No.1よりも第二相粒子の析出度合を高くすべく時効処理を比較例No.1よりも高温長時間実施としたところ、過時効となってしまった。そのため、熱処理によるYS低下量が更に小さくなった。
比較例No.3は最終の溶体化処理直後に時効処理を行ったが、亜時効条件で行ったために第二相粒子が十分に析出せず、熱処理によるYS低下量も小さかった。
比較例No.4は最終の溶体化処理直後に時効処理を行ったが、過時効条件で行ったために第二相粒子が過剰に析出し、熱処理によるYS低下量が小さかった。
比較例No.5は比較例No.1よりも高温で溶体化処理を行ない、析出に寄与する固溶量の増加を狙ったが従来工程であるために、時効処理での第二相粒子の析出が不十分となった。そのため、熱処理によるYS低下量が小さかった。
比較例No.6は、比較例No.5に比べて第二相粒子の析出度合を高めるために時効処理を高温で行った。しかしながら、今度は過時効となってしまい、熱処理によるYS低下量が更に小さくなってしまった。
比較例No.7は、比較例No.5に対して溶体化処理温度を更に高くした例であり、第二相粒子の析出度合が低い上に、結晶粒径が成長し過ぎた。
比較例No.8は比較例No.1に対して溶体化処理温度を低く設定した例である。溶体化処理によって第二相粒子が十分に固溶せずに多量に残存したため、時効処理後の第二相粒子の析出度合が過剰になった。また、結晶粒径は1.0μm未満となった。
表3に記載の添加元素濃度を有するチタン銅となるように、Cuに所定の第三元素を添加した後、Tiを添加した。添加元素の溶け残りがないよう添加後の保持時間にも十分に配慮した後に、これらをAr雰囲気で鋳型に注入して、約2kgのインゴットを製造した。
Claims (8)
- Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第3添加元素としてMn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B、Pの中から1種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる銅合金であって、圧延方向に平行な断面の検鏡によって観察される粒径0.05μm以上1.0μm以下の第二相粒子の平均個数密度(Y)が10〜20個/μm2であり、材料温度550℃で5時間の熱処理を加えたときに0.2%耐力(YS)が400MPa以上低下する銅合金。
- 圧延方向に平行な断面の検鏡によって観察される粒径1.0μmを超える第二相粒子の平均個数密度(X)が0.15個/μm2以下である請求項1記載の銅合金。
- 圧延方向に平行な断面の検鏡によって観察される粒径0.05μm以上1.0μm以下の第二相粒子の面積率が4.0〜15.0%である請求項1又は2記載の銅合金。
- 平均結晶粒径が3〜30μmである請求項1〜3何れか一項記載の銅合金。
- Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第3添加元素としてMn、Fe、Mg、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Zr、Si、B、Pの中から1種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる銅合金の製造方法であって、材料を730〜880℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度以上として0.5〜3分間加熱する条件で実施する最終の溶体化処理の後、材料温度400〜500℃で0.5〜24時間加熱する条件で行う時効処理及び冷間圧延を順に実施する製造方法。
- 前記冷間圧延の後に材料温度250〜550℃で0.001〜0.5時間加熱する条件で焼鈍を更に実施する請求項5記載の製造方法。
- 請求項1〜4何れか一項記載の銅合金を備えた電子部品。
- コネクターである請求項7記載の電子部品。
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