JP2016138335A - 電子部品用チタン銅 - Google Patents
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Abstract
【課題】粒界反応相の制御によってチタン銅に対する強度と延性の優れたバランスを得る。【解決手段】Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第三元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択された1種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる電子部品用チタン銅であって、圧延方向に平行な断面の組織観察において、各結晶粒中で粒界反応相の占める最大の面積率が5〜30%であるチタン銅。【選択図】図1
Description
本発明はコネクタ等の電子部品用部材として好適なチタン銅に関する。
近年では携帯端末などに代表される電子機器の小型化が益々進み、従ってそれに使用されるコネクタは狭ピッチ化、低背化及び狭幅化の傾向が著しい。小型のコネクタほどピン幅が狭く、小さく折り畳んだ加工形状となるため、使用する部材には、必要なバネ性を得るための高い強度が求められる。この点、チタンを含有する銅合金(以下、「チタン銅」と称する。)は、比較的強度が高く、応力緩和特性にあっては銅合金中最も優れているため、特に強度が要求される信号系端子用部材として、古くから使用されてきた。
チタン銅は時効硬化型の銅合金である。溶体化処理によって溶質原子であるTiの過飽和固溶体を形成させ、その状態から低温で比較的長時間の熱処理を施すと、スピノーダル分解によって、母相中にTi濃度の周期的変動である変調構造が発達し、強度が向上する。
チタン銅の結晶組織を観察すると、結晶粒界に沿って「粒界反応相」と呼ばれる連続的に析出した析出物粒子の集団で構成される母相とは異なる相が現出することが知られている。粒界反応相では母相である銅相とCu4Ti相が交互に縞状に析出したラメラ組織が形成されていると考えられる。図1に粒界反応相の例を示す。
粒界反応相がチタン銅の特性に与える影響について着目し、粒界反応相を制御した技術としては、特許文献1〜3が挙げられる。特許文献1及び特許文献2では溶体化処理後に、冷間圧延することなく高温で時効するとともに、冷却速度を速くし過ぎないことで粒界反応相を大きくすることで、強度や曲げ加工性の劣化を抑制し、高導電化を図っている。また、粒界反応相の延性は安定相(Cu3Ti又はCu4Ti)よりも高いことから、粗大化しても強度及び曲げ加工性に悪影響を及ぼしにくいことも記載されている。特許文献3では粒界反応相を積極的に析出させつつ、その形状や大きさについて制御することが記載されている。特許文献3に記載のチタン銅においても、溶体化処理後に高温時効を行っている。
特許文献1〜3に記載されているように、従来、粒界反応相は特性に好影響を与える析出物であり、積極的に析出させるべきものであるという認識が強かった。また、粒界反応相は不連続に析出する安定相に比べると延性が高いとの認識がなされていた。しかしながら、本発明者の検討結果によれば、粒界に存在している以上、粒界反応相は延性を低下させる要因になっていることを見出した。また、粒界反応相を析出させると、溶体化処理で固溶したTiが強化に寄与するスピノーダル分解ではなく、粒界反応相に使用されていることも、特性向上を妨げていると考えられる。
そこで、本発明は粒界反応相の制御によってチタン銅に対する強度と延性の優れたバランスを得ることを目的とする。
粒界反応相の生成を抑制しようとすれば、熱量の小さい熱処理を行うことが有効である。しかしながら、熱量の小さな熱処理ではチタン銅の強化機構であるスピノーダル分解が十分に生じないという問題が生じる。本発明者は、特許文献1〜3に記載の最終溶体化処理→高温時効→冷間圧延というチタン銅の製造手順に対して、最終溶体化処理後、歪みのない状態で、時効処理に先立って低温での予備時効を行うことで、粒界反応相(連続的析出物)の生成を抑制しながらも、チタン銅の強化機構であるスピノーダル分解が促進されることを発見し、強度及び延性のバランスが一層向上したチタン銅の開発に成功した。本発明は以上の知見を背景として完成したものであり、以下によって特定される。
本発明は一側面において、Tiを2.0〜4.0質量%含有し、第三元素としてFe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択された1種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる電子部品用チタン銅であって、圧延方向に平行な断面の組織観察において、各結晶粒中で粒界反応相の占める最大の面積率が5〜30%であるチタン銅である。
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、圧延方向に平行な断面の組織観察において、粒界反応相を含有する結晶粒の個数割合が30〜80%である。
本発明に係るチタン銅の別の一実施形態においては、圧延方向と平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:El≧−0.058×YS+65を満たす。
本発明に係るチタン銅の更に別の一実施形態においては、圧延方向に平行な断面の組織観察における平均結晶粒径が2〜30μmである。
本発明は別の一側面において、本発明に係るチタン銅を備えた伸銅品である。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るチタン銅を備えた電子部品である。
本発明に係るチタン銅は従来に比べて強度と延性のバランスに優れている。そのため、本発明に係るチタン銅は小型電子機器に好適であり、また、曲げ加工や深絞り加工にも適している。
(1)Ti濃度
本発明に係るチタン銅においては、Ti濃度を2.0〜4.0質量%とする。チタン銅は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を上昇させる。
Ti濃度が2.0質量%未満になると、Ti濃度の幅が生じないか又は小さくなると共に析出物の析出が不充分となり所望の強度が得られない。Ti濃度が4.0質量%を超えると、延性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。強度及び延性のバランスを考慮すると、好ましいTi濃度は2.5〜3.5質量%である。
本発明に係るチタン銅においては、Ti濃度を2.0〜4.0質量%とする。チタン銅は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を上昇させる。
Ti濃度が2.0質量%未満になると、Ti濃度の幅が生じないか又は小さくなると共に析出物の析出が不充分となり所望の強度が得られない。Ti濃度が4.0質量%を超えると、延性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。強度及び延性のバランスを考慮すると、好ましいTi濃度は2.5〜3.5質量%である。
(2)第三元素
本発明に係るチタン銅においては、Fe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択される第三元素の1種以上を含有させることにより、強度を更に向上させることができる。但し、第三元素の合計濃度が0.5質量%を超えると、延性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。そこで、これら第三元素は合計で0〜0.5質量%含有することができ、強度及び延性のバランスを考慮すると、上記元素の1種以上を総量で0.1〜0.4質量%含有させることが好ましい。
本発明に係るチタン銅においては、Fe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択される第三元素の1種以上を含有させることにより、強度を更に向上させることができる。但し、第三元素の合計濃度が0.5質量%を超えると、延性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。そこで、これら第三元素は合計で0〜0.5質量%含有することができ、強度及び延性のバランスを考慮すると、上記元素の1種以上を総量で0.1〜0.4質量%含有させることが好ましい。
(3)最大侵食率
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、圧延方向に平行な断面の組織観察において、各結晶粒中で粒界反応相の占める最大の面積率(“最大侵食率”という)を規定している。最大侵食率が高くなると延性、更には強度にも悪影響を与えることから、これを抑制することが望ましい。本発明に係るチタン銅は例えば、最大侵食率を30%以下とすることができ、25%以下とすることができ、更には20%以下とすることができる。一方で、最大侵食率を低下させようとして熱量が過度に低い熱処理を行うと、スピノーダル分解の発達が不十分になる、又は、安定相の析出が生じて、実用性に優れた強度や延性を確保できなくなる。本発明に係るチタン銅は例えば、最大侵食率を5%以上とすることができ、10%以上とすることができ、更には15%以上とすることができる。
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、圧延方向に平行な断面の組織観察において、各結晶粒中で粒界反応相の占める最大の面積率(“最大侵食率”という)を規定している。最大侵食率が高くなると延性、更には強度にも悪影響を与えることから、これを抑制することが望ましい。本発明に係るチタン銅は例えば、最大侵食率を30%以下とすることができ、25%以下とすることができ、更には20%以下とすることができる。一方で、最大侵食率を低下させようとして熱量が過度に低い熱処理を行うと、スピノーダル分解の発達が不十分になる、又は、安定相の析出が生じて、実用性に優れた強度や延性を確保できなくなる。本発明に係るチタン銅は例えば、最大侵食率を5%以上とすることができ、10%以上とすることができ、更には15%以上とすることができる。
強度と延性の優れたバランスを考えると、最大侵食率は8〜28%が好ましく、10〜25%がより好ましい。
(4)析出粒率
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、圧延方向に平行な断面の組織観察において、粒界反応相を含有する結晶粒の個数割合(“析出粒率”という。)を規定している。析出粒率が高くなると延性、更には強度にも悪影響を与えることから、これを抑制することが望ましい。本発明に係るチタン銅は例えば、析出粒率を80%以下とすることができ、70%以下とすることができ、60%以下とすることができ、50%以下とすることができ、更には40%以下とすることができる。
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、圧延方向に平行な断面の組織観察において、粒界反応相を含有する結晶粒の個数割合(“析出粒率”という。)を規定している。析出粒率が高くなると延性、更には強度にも悪影響を与えることから、これを抑制することが望ましい。本発明に係るチタン銅は例えば、析出粒率を80%以下とすることができ、70%以下とすることができ、60%以下とすることができ、50%以下とすることができ、更には40%以下とすることができる。
一方で、析出粒率を抑制しようとして熱量が過度に低い熱処理を行うと、スピノーダル分解の発達が不十分になる、又は、安定相の析出が生じて、実用性に優れた強度や延性を確保できなくなる。本発明に係るチタン銅は例えば、析出粒率を30%以上とすることができ、40%以上とすることができ、50%以上とすることができ、60%以上とすることができ、更には70%以上とすることができる。
強度と延性の優れたバランスを考えると、析出粒率は40〜70%が好ましく、45〜65%がより好ましい。
(5)0.2%耐力(YS)及び伸び(El)
本発明に係るチタン銅は0.2%耐力と伸びを高い次元で両立することができる。
本発明に係るチタン銅は一実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに、圧延方向に平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:El≧−0.058×YS+65を満たす。
本発明に係るチタン銅は0.2%耐力と伸びを高い次元で両立することができる。
本発明に係るチタン銅は一実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに、圧延方向に平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:El≧−0.058×YS+65を満たす。
本発明に係るチタン銅は好ましい実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに、圧延方向に平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:El≧−0.058×YS+66を満たす。
本発明に係るチタン銅はより好ましい実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに、圧延方向に平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:El≧−0.058×YS+67を満たす。
本発明に係るチタン銅は典型的な実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに、圧延方向に平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:−0.058×YS+72≧Elを満たす。
本発明に係るチタン銅はより典型的な実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに、圧延方向に平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:−0.058×YS+71≧Elを満たす。
本発明に係るチタン銅は更により典型的な実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに、圧延方向に平行な方向の0.2%耐力(YS;MPa)と伸び(El;%)の関係が次式:−0.058×YS+70≧Elを満たす。
本発明に係るチタン銅は一実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに圧延方向に平行な方向での0.2%耐力が900MPa以上とすることができ、950MPa以上とすることができ、1000MPa以上とすることができ、更には1050MPa以上とすることができる。
本発明に係るチタン銅における0.2%耐力の上限値は、本発明が目的とする強度の点からは特に規制されないが、手間及び費用がかかる上、高強度を得るためにTi濃度を高めると熱間圧延時に割れる危険性があるため、本発明に係るチタン銅の0.2%耐力は一般には1400MPa以下であり、典型的には1300MPa以下であり、より典型的には1200MPa以下であり、更により典型的には1150MPa以下である。
本発明に係るチタン銅は一実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに圧延方向に平行な方向での伸び(El)を4.5%以上とすることができ、5.0%以上とすることができ、6.0%以上とすることができ、7.0%以上とすることができ、8.0%以上とすることができ、9.0%以上とすることができ、更には10.0%以上とすることができる。本発明に係るチタン銅は一実施形態において、JIS−Z2241に従う引張試験を行ったときに圧延方向に平行な方向での伸び(El)を17.0%以下とすることができ、16.0%以下とすることができ、15.0%以下とすることができ、14.0%以下とすることができ、更には13.0%以下とすることができる。
(6)結晶粒径
チタン銅の強度や延性を向上させるためには、結晶粒が小さいほどよい。そこで、好ましい平均結晶粒径は30μm以下、より好ましくは20μm以下、更により好ましくは10μm以下である。下限については特に制限はないが、結晶粒径の判別が困難となるほど微細化しようとすると未再結晶粒が存在する混粒となるために延性が悪化しやすい。そこで、平均結晶粒径は2μm以上が好ましい。本発明において、平均結晶粒径は光学顕微鏡か電子顕微鏡による観察で圧延方向に平行な断面の組織観察における円相当径で表す。
チタン銅の強度や延性を向上させるためには、結晶粒が小さいほどよい。そこで、好ましい平均結晶粒径は30μm以下、より好ましくは20μm以下、更により好ましくは10μm以下である。下限については特に制限はないが、結晶粒径の判別が困難となるほど微細化しようとすると未再結晶粒が存在する混粒となるために延性が悪化しやすい。そこで、平均結晶粒径は2μm以上が好ましい。本発明において、平均結晶粒径は光学顕微鏡か電子顕微鏡による観察で圧延方向に平行な断面の組織観察における円相当径で表す。
(7)チタン銅の板厚
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、板厚を0.5mm以下とすることができ、典型的な実施形態においては厚みを0.03〜0.3mmとすることができ、より典型的な実施形態においては厚みを0.08〜0.2mmとすることができる。
本発明に係るチタン銅の一実施形態においては、板厚を0.5mm以下とすることができ、典型的な実施形態においては厚みを0.03〜0.3mmとすることができ、より典型的な実施形態においては厚みを0.08〜0.2mmとすることができる。
(8)用途
本発明に係るチタン銅は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線に加工することができる。本発明に係るチタン銅は、限定的ではないが、コネクタ、スイッチ、オートフォーカスカメラモジュール、ジャック、端子(例えばバッテリー端子)、リレー等の電子部品の材料として好適に使用することができる。
本発明に係るチタン銅は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線に加工することができる。本発明に係るチタン銅は、限定的ではないが、コネクタ、スイッチ、オートフォーカスカメラモジュール、ジャック、端子(例えばバッテリー端子)、リレー等の電子部品の材料として好適に使用することができる。
(9)製造方法
本発明に係るチタン銅は、特に最終の溶体化処理及びそれ以降の工程で適切な熱処理及び冷間圧延を実施することにより製造可能である。以下に、好適な製造例を工程毎に順次説明する。
本発明に係るチタン銅は、特に最終の溶体化処理及びそれ以降の工程で適切な熱処理及び冷間圧延を実施することにより製造可能である。以下に、好適な製造例を工程毎に順次説明する。
<インゴット製造>
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第三元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第三元素の溶解後に添加すればよい。従って、Cuに、Fe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.5質量%含有するように添加し、次いでTiを2.0〜4.0質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第三元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第三元素の溶解後に添加すればよい。従って、Cuに、Fe、Co、Mg、Si、Ni、Cr、Zr、Mo、V、Nb、Mn、B、及びPからなる群から選択される1種又は2種以上を合計で0〜0.5質量%含有するように添加し、次いでTiを2.0〜4.0質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。
<均質化焼鈍及び熱間圧延>
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化焼鈍でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。具体的には、インゴット製造工程後には、900〜970℃に加熱して3〜24時間均質化焼鈍を行った後に、熱間圧延を実施するのが好ましい。液体金属脆性を防止するために、熱延前及び熱延中は960℃以下とし、且つ、元厚から全体の圧下率が90%までのパスは900℃以上とするのが好ましい。
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化焼鈍でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。具体的には、インゴット製造工程後には、900〜970℃に加熱して3〜24時間均質化焼鈍を行った後に、熱間圧延を実施するのが好ましい。液体金属脆性を防止するために、熱延前及び熱延中は960℃以下とし、且つ、元厚から全体の圧下率が90%までのパスは900℃以上とするのが好ましい。
<第一溶体化処理>
その後、冷延と焼鈍を適宜繰り返してから第一溶体化処理を行うのが好ましい。ここで予め溶体化を行っておく理由は、最終の溶体化処理での負担を軽減させるためである。すなわち、最終の溶体化処理では、第二相粒子を固溶させるための熱処理ではなく、既に溶体化されてあるのだから、その状態を維持しつつ再結晶のみ起こさせればよいので、軽めの熱処理で済む。具体的には、第一溶体化処理は加熱温度を850〜900℃とし、2〜10分間行えばよい。そのときの昇温速度及び冷却速度においても極力速くし、ここでは第二相粒子が析出しないようにするのが好ましい。なお、第一溶体化処理は行わなくても良い。
その後、冷延と焼鈍を適宜繰り返してから第一溶体化処理を行うのが好ましい。ここで予め溶体化を行っておく理由は、最終の溶体化処理での負担を軽減させるためである。すなわち、最終の溶体化処理では、第二相粒子を固溶させるための熱処理ではなく、既に溶体化されてあるのだから、その状態を維持しつつ再結晶のみ起こさせればよいので、軽めの熱処理で済む。具体的には、第一溶体化処理は加熱温度を850〜900℃とし、2〜10分間行えばよい。そのときの昇温速度及び冷却速度においても極力速くし、ここでは第二相粒子が析出しないようにするのが好ましい。なお、第一溶体化処理は行わなくても良い。
<中間圧延>
最終の溶体化処理前の中間圧延における圧下率を高くするほど、最終の溶体化処理における再結晶粒を均一かつ微細に制御できる。従って、中間圧延の圧下率は好ましくは70〜99%である。圧下率は{((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100%}で定義される。
最終の溶体化処理前の中間圧延における圧下率を高くするほど、最終の溶体化処理における再結晶粒を均一かつ微細に制御できる。従って、中間圧延の圧下率は好ましくは70〜99%である。圧下率は{((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100%}で定義される。
<最終の溶体化処理>
最終の溶体化処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化しやすいので、加熱温度は第二相粒子組成の固溶限付近の温度とする(Tiの添加量が2.0〜4.0質量%の範囲でTiの固溶限が添加量と等しくなる温度は730〜840℃程度であり、例えばTiの添加量が3.0質量%では800℃程度)。そしてこの温度まで急速に加熱し、水冷等によって冷却速度も速くすれば粗大な第二相粒子の発生が抑制される。従って、典型的には、730〜840℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に対して−20℃〜+50℃の温度に加熱し、より典型的には730〜840℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に比べて0〜30℃高い温度、好ましくは0〜20℃高い温度に加熱する。
最終の溶体化処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化しやすいので、加熱温度は第二相粒子組成の固溶限付近の温度とする(Tiの添加量が2.0〜4.0質量%の範囲でTiの固溶限が添加量と等しくなる温度は730〜840℃程度であり、例えばTiの添加量が3.0質量%では800℃程度)。そしてこの温度まで急速に加熱し、水冷等によって冷却速度も速くすれば粗大な第二相粒子の発生が抑制される。従って、典型的には、730〜840℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に対して−20℃〜+50℃の温度に加熱し、より典型的には730〜840℃のTiの固溶限が添加量と同じになる温度に比べて0〜30℃高い温度、好ましくは0〜20℃高い温度に加熱する。
また、最終の溶体化処理での加熱時間は短いほうが結晶粒の粗大化を抑制できる。加熱時間は例えば30秒〜10分とすることができ、典型的には1分〜8分とすることができる。この時点で第二相粒子が発生しても微細かつ均一に分散していれば、強度と延性に対してほとんど無害である。しかし粗大なものは最終の時効処理で更に成長する傾向にあるので、この時点での第二相粒子は生成してもなるべく少なく、小さくしなければならない。
<予備時効>
最終の溶体化処理に引き続いて、予備時効処理を行う。従来は最終の溶体化処理の後は冷間圧延を行うことが通例であったが、本発明に係るチタン銅を得る上では最終の溶体化処理の後、冷間圧延を行わずに直ちに予備時効処理を行うことが重要である。予備時効処理は次工程の時効処理よりも低温で行われる熱処理であり、予備時効処理及び後述する時効処理を連続して行うことによりチタン銅の母相中のスピノーダル分解を飛躍的に促進することが可能となる。予備時効処理は表面酸化皮膜の発生を抑制するためにAr、N2、H2等の不活性雰囲気で行うことが好ましい。
最終の溶体化処理に引き続いて、予備時効処理を行う。従来は最終の溶体化処理の後は冷間圧延を行うことが通例であったが、本発明に係るチタン銅を得る上では最終の溶体化処理の後、冷間圧延を行わずに直ちに予備時効処理を行うことが重要である。予備時効処理は次工程の時効処理よりも低温で行われる熱処理であり、予備時効処理及び後述する時効処理を連続して行うことによりチタン銅の母相中のスピノーダル分解を飛躍的に促進することが可能となる。予備時効処理は表面酸化皮膜の発生を抑制するためにAr、N2、H2等の不活性雰囲気で行うことが好ましい。
予備時効処理における加熱温度が低すぎても高すぎても上記利点を得るのは困難である。本発明者による検討結果によれば、材料温度150〜250℃で10〜20時間加熱することが好ましく、材料温度160〜230℃で10〜18時間加熱することがより好ましく、170〜200℃で12〜16時間加熱することが更により好ましい。
<時効処理>
予備時効処理に引き続いて、時効処理を行う。予備時効処理後、いったん室温まで冷却してもよい。製造効率を考えると、予備時効処理の後、冷却せずに時効処理温度まで昇温して、連続して時効処理を実施することが望ましい。何れの方法であっても得られるチタン銅の特性に違いはない。但し、予備時効はその後の時効処理で均一に第二相粒子を析出させることを目的としているため、予備時効処理と時効処理の間には冷間圧延は実施するべきではない。
予備時効処理に引き続いて、時効処理を行う。予備時効処理後、いったん室温まで冷却してもよい。製造効率を考えると、予備時効処理の後、冷却せずに時効処理温度まで昇温して、連続して時効処理を実施することが望ましい。何れの方法であっても得られるチタン銅の特性に違いはない。但し、予備時効はその後の時効処理で均一に第二相粒子を析出させることを目的としているため、予備時効処理と時効処理の間には冷間圧延は実施するべきではない。
予備時効処理によって溶体化処理で固溶させたチタンが少し析出していることから、時効処理は慣例の時効処理よりもやや低温で実施するべきであり、材料温度300〜450℃で0.5〜20時間加熱することが好ましく、材料温度350〜440℃で2〜18時間加熱することがより好ましく、材料温度375〜430℃で3〜15時間加熱することが更により好ましい。時効処理は予備時効処理と同様の理由により、Ar、N2、H2等の不活性雰囲気で行うことが好ましい。
<最終の冷間圧延>
上記時効処理後、最終の冷間圧延を行う。最終の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができるが、本発明が意図するような強度と延性の良好なバランスを得るためには圧下率を10〜50%、好ましくは20〜40%とすることが望ましい。
上記時効処理後、最終の冷間圧延を行う。最終の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができるが、本発明が意図するような強度と延性の良好なバランスを得るためには圧下率を10〜50%、好ましくは20〜40%とすることが望ましい。
<歪取焼鈍>
高温暴露時の耐へたり性を向上する観点からは、最終の冷間圧延後に歪取焼鈍を実施することが望まれる。歪取焼鈍を行うことで転位が再配列するからである。歪取焼鈍の条件は慣用の条件でよいが、過度の歪取焼鈍を行うと粗大粒子が析出して強度が低下するため好ましくない。歪取焼鈍は材料温度200〜600℃で10〜600秒行うことが好ましく、250〜550℃で10〜400秒行うことがより好ましく、300〜500℃で10〜200秒行うことが更により好ましい。
高温暴露時の耐へたり性を向上する観点からは、最終の冷間圧延後に歪取焼鈍を実施することが望まれる。歪取焼鈍を行うことで転位が再配列するからである。歪取焼鈍の条件は慣用の条件でよいが、過度の歪取焼鈍を行うと粗大粒子が析出して強度が低下するため好ましくない。歪取焼鈍は材料温度200〜600℃で10〜600秒行うことが好ましく、250〜550℃で10〜400秒行うことがより好ましく、300〜500℃で10〜200秒行うことが更により好ましい。
なお、当業者であれば、上記各工程の合間に適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗等の工程を行なうことができることは理解できるだろう。
以下に本発明の実施例(発明例)を比較例と共に示すが、これらは本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
表1(表1−1および1−2)に示す合金成分を含有し残部が銅及び不可避的不純物からなるチタン銅の試験片を種々の製造条件で作製し、組織観察及び特性評価を行った。
まず、真空溶解炉にて電気銅2.5kgを溶解し、第三元素を表1に示す配合割合でそれぞれ添加した後、同表に示す配合割合のTiを添加した。添加元素の溶け残りがないよう添加後の保持時間にも十分に配慮した後に、これらをAr雰囲気で鋳型に注入して、それぞれ約2kgのインゴットを製造した。
上記インゴットに対して950℃で3時間加熱する均質化焼鈍の後、900〜950℃で熱間圧延を行い、板厚15mmの熱延板を得た。面削による脱スケール後、冷間圧延して素条の板厚(2mm)とし、素条での第一次溶体化処理を行った。第一次溶体化処理の条件は850℃で10分間加熱とし、その後、水冷した。次いで、表1に記載の最終冷間圧延における圧下率及び製品板厚の条件に応じて、圧下率を調整して中間の冷間圧延を行った後、急速加熱が可能な焼鈍炉に挿入して最終の溶体化処理を行い、その後、水冷した。このときの加熱条件は材料温度がTiの固溶限が添加量と同じになる温度(Ti濃度3.0質量%で約800℃、Ti濃度2.0質量%で約730℃、Ti濃度4.0質量%で約840℃)を基準として表1に記載の通りとした。次いで、Ar雰囲気中で表1に記載の条件で予備時効処理及び時効処理を連続して行った。ここでは予備時効処理の後に冷却を行なわなかった。酸洗による脱スケール後、表1に記載の条件で最終冷間圧延を行い、最後に表1に記載の各加熱条件で歪取焼鈍を行って発明例及び比較例の試験片とした。試験片によっては予備時効処理、時効処理又は歪取焼鈍を省略した。
作製した製品試料について、次の評価を行った。
(イ)0.2%耐力(YS)
JIS13B号試験片を作製し、この試験片に対してJIS−Z2241に従って引張試験機を用いて圧延方向と平行な方向の0.2%耐力を測定した。
(ロ)伸び(El)
0.2%耐力の測定と同一条件で引張試験を行い、破断点における伸び(%)を測定した。
(ハ)平均結晶粒径
各製品試料の平均結晶粒径の測定は、圧延面をFIBにて切断することで、圧延方向に平行な断面を露出した後、断面を電子顕微鏡(Philips社製 XL30 SFEG)を用いて倍率1000倍で観察し、単位面積当たりの結晶粒の数をカウントして、結晶粒の平均の円相当径を求めた。具体的には、100μm×100μmの枠を作成し、この枠の中に存在する結晶粒の数をカウントした。なお、枠を横切っている結晶粒については、すべて1/2個としてカウントした。枠の面積10000μm2をその合計で除したものが結晶粒1個当たりの面積の平均値である。その面積を持つ真円の直径が円相当径であるので、任意の5箇所の観察視野についての円相当径の平均値を求め、これを平均結晶粒径とした。
(ニ)析出粒率
平均結晶粒径と同様の方法で、圧延方向に平行な断面から任意の200個の結晶粒を観察し、粒界反応相が明確に確認できる結晶粒(具体的には粒界の接線に対して直角な方向の最大幅が0.5μm以上に成長した粒界反応相をもつもの)の割合を算出した。
(ホ)最大侵食率
平均結晶粒径と同様の方法で、圧延方向に平行な断面から任意の200個の結晶粒を観察し、粒界反応相が明確に確認できる結晶粒について粒界反応相の占める面積率をそれぞれ算出し、その最大値を最大侵食率とした。結晶粒について粒界反応相の占める面積率の算出は、粒界反応相を含む個々の結晶粒を選択し、画像解析によって、その全体の面積と粒界反応相のみの面積(一つの結晶粒中に複数の粒界反応相が存在する場合はその合計面積)をそれぞれ算出して行った。
(イ)0.2%耐力(YS)
JIS13B号試験片を作製し、この試験片に対してJIS−Z2241に従って引張試験機を用いて圧延方向と平行な方向の0.2%耐力を測定した。
(ロ)伸び(El)
0.2%耐力の測定と同一条件で引張試験を行い、破断点における伸び(%)を測定した。
(ハ)平均結晶粒径
各製品試料の平均結晶粒径の測定は、圧延面をFIBにて切断することで、圧延方向に平行な断面を露出した後、断面を電子顕微鏡(Philips社製 XL30 SFEG)を用いて倍率1000倍で観察し、単位面積当たりの結晶粒の数をカウントして、結晶粒の平均の円相当径を求めた。具体的には、100μm×100μmの枠を作成し、この枠の中に存在する結晶粒の数をカウントした。なお、枠を横切っている結晶粒については、すべて1/2個としてカウントした。枠の面積10000μm2をその合計で除したものが結晶粒1個当たりの面積の平均値である。その面積を持つ真円の直径が円相当径であるので、任意の5箇所の観察視野についての円相当径の平均値を求め、これを平均結晶粒径とした。
(ニ)析出粒率
平均結晶粒径と同様の方法で、圧延方向に平行な断面から任意の200個の結晶粒を観察し、粒界反応相が明確に確認できる結晶粒(具体的には粒界の接線に対して直角な方向の最大幅が0.5μm以上に成長した粒界反応相をもつもの)の割合を算出した。
(ホ)最大侵食率
平均結晶粒径と同様の方法で、圧延方向に平行な断面から任意の200個の結晶粒を観察し、粒界反応相が明確に確認できる結晶粒について粒界反応相の占める面積率をそれぞれ算出し、その最大値を最大侵食率とした。結晶粒について粒界反応相の占める面積率の算出は、粒界反応相を含む個々の結晶粒を選択し、画像解析によって、その全体の面積と粒界反応相のみの面積(一つの結晶粒中に複数の粒界反応相が存在する場合はその合計面積)をそれぞれ算出して行った。
(考察)
表1(表1−1および1−2)に試験結果を示す。発明例1では最終溶体化処理、予備時効、時効、最終冷間圧延の条件がそれぞれ適切であったことから、粒界反応相の発達が抑制されながらも、スピノーダル分解が促進され、0.2%耐力及び延性の高い次元での両立が達成されていることが分かる。
発明例2は予備時効の加熱温度を発明例1よりも低くしたことでスピノーダル分解及び粒界反応相が抑制されたものの、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例3は予備時効の加熱温度を発明例1よりも高くしたことでスピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例4は時効の加熱温度を発明例1よりも低くしたことでスピノーダル分解及び粒界反応相が抑制されたものの、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例5は時効の加熱温度を発明例1よりも高くしたことでスピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例6は最終冷間圧延における圧下率を発明例1よりも小さくしたことでスピノーダル分解及び粒界反応相が抑制されたものの、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例7は最終冷間圧延における圧下率を発明例1よりも高くしたことでスピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例8では発明例1に対して歪取焼鈍を省略したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例9では発明例1に対して歪取焼鈍における加熱温度を高くしたが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例10は発明例1に対して、予備時効、時効、歪取焼鈍における加熱温度をそれぞれ高温側にシフトさせた例である。発明例1に比べて0.2%耐力が低下したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例11は発明例1に対してチタン銅中のTi濃度を下限まで低くした例である。スピノーダル分解が抑制され、強度に低下が見られたが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例12は発明例1に対してチタン銅中のTi濃度を上限まで高くした例である。スピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例13〜18は発明例1に対して第三元素を種々添加した例であるが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
比較例1は最終の溶体化処理温度が低すぎたことで未再結晶領域と再結晶領域が混在する混粒化が起きた。また、粒界反応相の観察はできなかった。
比較例2では予備時効処理を行わなかったことから、粒界反応相が過度に発達し、延性が悪かった。
比較例3は、特開2012−207254号公報に記載の発明例1のチタン銅に概ね相当する。予備時効処理を行わず、また、時効処理を高温で行ったことから、粒界反応相が過度に発達し、延性が悪かった。
比較例4は、特開2012−207254号公報に記載の発明例17のチタン銅に概ね相当する。予備時効処理を行わず、時効処理を高温で行い、更には歪取焼鈍も行ったことから、粒界反応相が過度に発達し、強度と延性のバランスが悪かった。
比較例5は、特開2012−207254号公報に記載の比較例6のチタン銅に概ね相当する。予備時効処理を行わず、時効処理を高温で行ったところ、延性は高いが強度が顕著に低い結果となった。
比較例6は、国際公開第2011/065152号に記載の比較例3のチタン銅に概ね相当する。溶体化処理を高温で行っているが、予備時効処理は行っていないため、粒界反応相が過度に発達し、延性が悪かった。
比較例7は、国際公開第2011/065152号に記載の比較例4のチタン銅に概ね相当する。溶体化処理を低温で行い、予備時効処理を省略したことで、溶体化不足によって回復が不十分となり、延性が不足した。
比較例8は予備時効処理を行ったものの加熱温度が低すぎたことから粒界反応相の抑制効果が不十分となり、延性が悪かった。
比較例9は予備時効における加熱温度が高すぎたために、過時効となって強度が低下し、更には粒界反応相が発達し、延性が悪かった。
比較例10は予備時効後、時効処理を行わなかったことから安定相が多く析出した。そのため、発明例1に対して0.2%耐力が低下した。
比較例11は最終溶体化処理→冷間圧延→時効処理を行ったと評価できるケースである。安定相が発達して0.2%耐力が低下した。
比較例12は時効の加熱温度が低すぎたことから、安定相が多く析出し、発明例1に対して0.2%耐力が低下した。
比較例13は時効の加熱温度が高すぎたために、過時効となって、粒界反応相が過剰に発達した。そのため、発明例1に対して0.2%耐力が低下した。
比較例14は第三元素の添加量が多すぎたことで熱間圧延で割れが発生したため、試験片の製造ができなかった。
比較例15はTi濃度が低すぎたことでスピノーダル分解が不十分となり、発明例1に対して強度不足となった。
比較例16はTi濃度が高すぎたことで熱間圧延で割れが発生したため、試験片の製造ができなかった。
表1(表1−1および1−2)に試験結果を示す。発明例1では最終溶体化処理、予備時効、時効、最終冷間圧延の条件がそれぞれ適切であったことから、粒界反応相の発達が抑制されながらも、スピノーダル分解が促進され、0.2%耐力及び延性の高い次元での両立が達成されていることが分かる。
発明例2は予備時効の加熱温度を発明例1よりも低くしたことでスピノーダル分解及び粒界反応相が抑制されたものの、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例3は予備時効の加熱温度を発明例1よりも高くしたことでスピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例4は時効の加熱温度を発明例1よりも低くしたことでスピノーダル分解及び粒界反応相が抑制されたものの、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例5は時効の加熱温度を発明例1よりも高くしたことでスピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例6は最終冷間圧延における圧下率を発明例1よりも小さくしたことでスピノーダル分解及び粒界反応相が抑制されたものの、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例7は最終冷間圧延における圧下率を発明例1よりも高くしたことでスピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例8では発明例1に対して歪取焼鈍を省略したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例9では発明例1に対して歪取焼鈍における加熱温度を高くしたが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例10は発明例1に対して、予備時効、時効、歪取焼鈍における加熱温度をそれぞれ高温側にシフトさせた例である。発明例1に比べて0.2%耐力が低下したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例11は発明例1に対してチタン銅中のTi濃度を下限まで低くした例である。スピノーダル分解が抑制され、強度に低下が見られたが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例12は発明例1に対してチタン銅中のTi濃度を上限まで高くした例である。スピノーダル分解が更に促進され、粒界反応相も発達したが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
発明例13〜18は発明例1に対して第三元素を種々添加した例であるが、依然として良好な0.2%耐力及び延性を確保できた。
比較例1は最終の溶体化処理温度が低すぎたことで未再結晶領域と再結晶領域が混在する混粒化が起きた。また、粒界反応相の観察はできなかった。
比較例2では予備時効処理を行わなかったことから、粒界反応相が過度に発達し、延性が悪かった。
比較例3は、特開2012−207254号公報に記載の発明例1のチタン銅に概ね相当する。予備時効処理を行わず、また、時効処理を高温で行ったことから、粒界反応相が過度に発達し、延性が悪かった。
比較例4は、特開2012−207254号公報に記載の発明例17のチタン銅に概ね相当する。予備時効処理を行わず、時効処理を高温で行い、更には歪取焼鈍も行ったことから、粒界反応相が過度に発達し、強度と延性のバランスが悪かった。
比較例5は、特開2012−207254号公報に記載の比較例6のチタン銅に概ね相当する。予備時効処理を行わず、時効処理を高温で行ったところ、延性は高いが強度が顕著に低い結果となった。
比較例6は、国際公開第2011/065152号に記載の比較例3のチタン銅に概ね相当する。溶体化処理を高温で行っているが、予備時効処理は行っていないため、粒界反応相が過度に発達し、延性が悪かった。
比較例7は、国際公開第2011/065152号に記載の比較例4のチタン銅に概ね相当する。溶体化処理を低温で行い、予備時効処理を省略したことで、溶体化不足によって回復が不十分となり、延性が不足した。
比較例8は予備時効処理を行ったものの加熱温度が低すぎたことから粒界反応相の抑制効果が不十分となり、延性が悪かった。
比較例9は予備時効における加熱温度が高すぎたために、過時効となって強度が低下し、更には粒界反応相が発達し、延性が悪かった。
比較例10は予備時効後、時効処理を行わなかったことから安定相が多く析出した。そのため、発明例1に対して0.2%耐力が低下した。
比較例11は最終溶体化処理→冷間圧延→時効処理を行ったと評価できるケースである。安定相が発達して0.2%耐力が低下した。
比較例12は時効の加熱温度が低すぎたことから、安定相が多く析出し、発明例1に対して0.2%耐力が低下した。
比較例13は時効の加熱温度が高すぎたために、過時効となって、粒界反応相が過剰に発達した。そのため、発明例1に対して0.2%耐力が低下した。
比較例14は第三元素の添加量が多すぎたことで熱間圧延で割れが発生したため、試験片の製造ができなかった。
比較例15はTi濃度が低すぎたことでスピノーダル分解が不十分となり、発明例1に対して強度不足となった。
比較例16はTi濃度が高すぎたことで熱間圧延で割れが発生したため、試験片の製造ができなかった。
Claims (1)
- 本明細書に記載の発明。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2016051580A JP2016138335A (ja) | 2016-03-15 | 2016-03-15 | 電子部品用チタン銅 |
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Publication Number | Publication Date |
---|---|
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Family
ID=56559909
Family Applications (1)
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---|---|---|---|
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