JP4357548B2 - Cu−Ti系銅合金板材およびその製造法 - Google Patents

Cu−Ti系銅合金板材およびその製造法 Download PDF

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本発明は、コネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの電気・電子部品に適したCu−Ti系銅合金板材であって、特に高強度を維持しながら、優れた曲げ加工性と耐応力緩和性を呈する銅合金板材、およびその製造法に関する。
電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの部品に使用される材料には、電気・電子機器の組立時や作動時に付与される応力に耐え得る高い「強度」が要求される。また、電気・電子部品は一般に曲げ加工により成形されることから優れた「曲げ加工性」が要求される。さらに、電気・電子部品間の接触信頼性を確保するために、接触圧力が時間とともに低下する現象(応力緩和)に対する耐久性、すなわち「耐応力緩和性」に優れることも要求される。
特に近年、電気・電子部品は高集積化、小型化および軽量化が進む傾向にあり、それに伴って素材である銅および銅合金には薄肉化の要求が高まっている。そのため、素材に要求される「強度」のレベルは一層厳しいものとなっている。具体的には引張強さ800MPa以上、好ましくは900MPa以上、さらに好ましくは1000MPa以上の強度レベルが望まれる。
また、電気・電子部品の小型化、形状の複雑化に対応するには曲げ加工品の形状・寸法精度を向上させることが強く求められる。「曲げ加工性」に対する要求は曲げ部に割れが生じないだけではなく、曲げ加工品の形状・寸法精度を確保できることも重要である。曲げ加工において多かれ少なかれ現れる面倒な問題としてスプリングバックが挙げられる。スプリングバックは、材料を加工後に金型から取り出したときに弾性的な変形の回復が起こり、金型の中で加工されていたときの形状とは一致しなくなる現象である。
素材に要求される強度レベルが一層厳しくなるに伴い、スプリングバックの問題は顕在化しやすくなる。例えば、箱形曲げ加工部を有するコネクター端子では、スプリングバックにより端子の形状と寸法が狂って使えなくなる場合もある。そのために最近では、素材の曲げ加工を施す部位にノッチを付ける加工(ノッチング)を施し、その後、そのノッチに沿って曲げ加工を行う加工法(以下「ノッチング後の曲げ加工法」という)を適用することが多くなっている。しかし、この加工法は、ノッチングによってノッチ部近傍が加工硬化することから、その後の曲げ加工において割れを生じやすい。したがって、「ノッチング後の曲げ加工法」は材料にとって非常に厳しい曲げ加工であると言える。
さらに、電気・電子部品が過酷な環境で使用される用途の増加に伴い「耐応力緩和性」に対する要求も厳しくなっている。例えば、自動車用コネクターのように高温に曝される環境下で使用される場合は「耐応力緩和性」が特に重要となる。応力緩和とは、電気・電子部品を構成する素材のばね部の接触圧力が、常温では一定の状態に維持されても、比較的高温(例えば100〜200℃)の環境下では時間とともに低下するという、一種のクリープ現象である。すなわち、金属材料に応力が付与されている状態において、マトリックスを構成する原子の自己拡散や固溶原子の拡散によって転位が移動して、塑性変形が生じることにより、付与されている応力が緩和される現象である。
しかしながら、「強度」と「曲げ加工性」、あるいは「曲げ加工性」と「耐応力緩和性」の間にはトレードオフの関係がある。従来、このような通電部品には、用途に応じて「強度」、「曲げ加工性」あるいは「耐応力緩和性」の良好な材料が適宜選択されて使用されている。
Cu−Ti系銅合金は、銅合金中でCu−Be系合金に次ぐ高強度を有し、Cu−Be系合金を凌ぐ耐応力緩和性を有する。また、コストと環境負荷の視点からCu−Be系合金より有利である。このためCu−Ti系銅合金は、Cu−Be系合金の代替材としてコネクター材などにされている。しかし、Cu−Ti系合金はCu−Be系合金と同様に「強度」と「曲げ加工性」の両立が難しい合金系であることが一般に知られている。
したがって、Cu−Ti系合金板材は時効処理前の比較的軟質な状態で出荷し、曲げ・プレス成形した後に時効処理を施して硬化させることも多い。しかし、曲げ・プレス成形後に時効処理を行う手法は、油の付着による変色が生じやすく、専用熱処理炉が必要になる場合が多いことなどから、生産性向上とコスト低減には不利である。そのため、Cu−Ti系銅合金の板材としては、曲げ・プレス成形後に時効処理を必要としない亜時効処理材(いわゆる、ミルハードン材)の市場ニーズが近年増えている。このミルハードン材は、最大硬度には届かないレベルの時効処理を施した板材であり、これを用いると、最高強度レベルまでは要求されない多くの用途において部品加工後の時効処理を省略できるメリットがある。しかしながら、前記の時効処理は比較的軽度であるものの、成形性の低下が生じていることは否めない。
また、「曲げ加工性」を改善するためには一般的に結晶粒を微細化する手法が有効であり、Cu−Ti系銅合金でも同様である。しかし、結晶粒径が小さいほど単位体積当たりに存在する結晶粒界の面積が大きくなる。このため、結晶粒微細化はクリープ現象の一種である応力緩和を助長する要因となってしまう。比較的高温環境で使用される用途では、原子の粒界に沿う拡散速度が粒内より著しく速いので、結晶粒微細化による「耐応力緩和性」の低下は重大な問題となる。
さらに、Cu−Ti系銅合金では、「析出物」が主に結晶粒内の変調構造(スピノーダル構造)の形態で存在し、再結晶粒の成長をピンニングさせる作用の第2相粒子とする「析出物」が比較的少なく、溶体化処理過程中で結晶粒の微細化を達成することが容易ではない。
近年、Cu−Ti系合金の特性改善には、結晶粒の微細化や結晶方位(集合組織)を制御することが提案されている(特許文献1〜4)。
特開2006−265611号公報 特開2006−241573号公報 特開2006−274289号公報 特開2006−249565号公報
銅合金板材の曲げ加工性の改善には、結晶粒の微細化と結晶方位(集合組織)の制御が有効であることはよく知られている。Cu−Ti系銅合金の結晶方位(集合組織)の制御について、通常の製造工程をとる場合、板表面(圧延面)からのX線回折パターンは一般に{111}、{200}、{220}、{311}の4つの結晶面の回折ピークで構成され、他の結晶面からのX線回折強度はこれらの結晶面からのものに比べ非常に小さい。通常、溶体化(再結晶)処理後に{200}面と{311}面の回折強度は大きくなる。その後の冷間圧延によってこれらの面の回折強度は減少するとともに、{220}面のX線回折強度が相対的に増大する。{111}面のX線回折強度は冷間圧延によって通常はあまり変化しない。
特許文献1では、結晶粒を微細化させるために、溶体化処理前の冷間圧延率を89%以上と規定している。このような高い圧延率で導入される歪が再結晶の核として機能し2〜10μm程度な微細結晶粒が得られる。しかし、このような結晶粒の微細化は「耐応力緩和性」の低下を伴うことが多い。また熱間圧延温度が850℃と高いことから、発明者らの検討によれば曲げ加工性を十分に改善することができない。
特許文献2では、強度と導電率を向上させるために{220}面と{111}面のX線回折強度比をI{220}/I{111}>4に規定している。このような{220}面を主方位成分とする集合組織に調整することは強度と導電率の向上に有効であるが、発明者らの検討によると、曲げ加工性の低下を伴う。現に特許文献2には曲げ加工性についての言及がない。
特許文献3では、曲げ加工性を改善するために、{111}正極点図上において、{110}<115>、{110}<114>、{110}<113>を含む4つの領域内でX線回折強度の極大値が5.0〜15.0(但し、ランダム方位に対する比)となる集合組織を提案している。また、このような集合組織を得るために、溶体化前の冷間圧延率を85〜97%に規定している。このような集合組織は典型的な合金型圧延集合組織({110}<112>〜{110}<100>)であり、その{111}正極点図が70/30黄銅の{111}正極点図に類似している(例えば「金属データブック」改定3版、361頁参照)。このように従来一般的な集合組織をベースに結晶方位分布を調整する手法では、曲げ加工性の大幅な改善は困難である。現に特許文献3での曲げ加工性R/tは1.6に止まっている。
特許文献4では、I{311}/I{111}≧0.5を満たす集合組織を提案している。しかし発明者らの検討によれば、このような集合組織において曲げ加工性を安定して顕著に改善することは困難である。
また、銅合金板材において前述の「ノッチング後の曲げ加工法」を採用することは、曲げ加工品の形状・寸法精度の向上に効果的である。しかしながら、特許文献1〜4のように集合組織を制御したCu−Ti系合金では、「ノッチング後の曲げ加工法」による割れ発生を防止することまでは考慮されていない。発明者らの検討によれば、ノッチング後の曲げ加工性は十分に改善されないことがわかった。
Cu−Ti系合金板材はミルハードン材として供給されることが多いが、ミルハードン材ではスプリングバックにより曲げ加工品の形状・寸法精度を確保しにくいという問題がある。スプリングバックの低減には前述の「ノッチング後の曲げ加工法」が有効であるが、この加工法は、ノッチングによってノッチ部近傍が加工硬化することから、その後の曲げ加工において割れを生じやすい。Cu−Ti系合金のミルハードン材については「ノッチング後の曲げ加工法」を工業的に採用するには至っていないのが現状である。
さらに、上述のように結晶粒微細化は曲げ加工性の向上にはある程度有効である反面、クリープ現象の一種である応力緩和の克服にはマイナス要因となる。このようなことから、「曲げ加工性」だけをとってみても、その高度な改善は難しい状況下で、さらに「耐応力緩和性」を改善することは、公知の組織制御技術を利用しても実現されない。
本発明はこのような現状において、「高強度」を維持しながら、「ノッチング後の曲げ加工法」において要求されるような厳しい「曲げ加工性」と、車載用コネクター等の過酷な使用環境での信頼性を担う「耐応力緩和性」とを同時に改善し、かつ「スプリングバック」についても改善できるCu−Ti系銅合金板材を提供することを目的とする。
発明者らは詳細な検討の結果、圧延板の板面に対して垂直な方向をNDと表すとき、NDに変形しやすく、かつ、板面内で互いに直交する2つの方向にも変形しやすいような方位関係を持つ結晶方位が存在することを見出した。そして、このような特有の方位関係にある結晶粒を主体とした集合組織を得ることのできる合金組成範囲と製造条件を特定するに至った。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明では、質量%で、Ti:1.0〜5.0%を含有し、必要に応じてさらに、Fe:0.5%以下、Co:1.0%以下およびNi:1.5%以下の1種以上を含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、下記(1)式を満たし、好ましくはさらに下記(2)式を満たす結晶配向を有する銅合金板材が提供される。平均結晶粒径は10〜60μm、好ましくは10超え〜60μmに調整されている。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)
この板材は下記(A)、(B)のいずれかによって特定される特性を備えている。
(A)下記に示す「ノッチング後の曲げ加工性試験」を施したとき、曲げ加工部の表面および断面の光学顕微鏡観察において割れが認められない曲げ加工性。
〔ノッチング後の曲げ加工性試験〕
当該銅合金板材から長手方向がLD(圧延方向)の短冊形試料(幅10mm)を採取し、図2に示す断面形状のノッチ形成治具(凸部先端のフラット面の幅0.1mm、両側面角度45°)を用いて、図3に示すように20kNの荷重を付与することにより試料幅いっぱいにノッチを形成する。ノッチの方向(すなわち溝に対して平行な方向)は、試料の長手方向に対して直角方向である。このノッチ付き試料について、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験により曲げ試験を行う。このとき、下型の中央突起部先端のRを0mmとした治具を用い、前記ノッチ付き試料を、ノッチ形成面が下向きになり、前記下型の中央突起部先端がノッチ部分に合致するようにセットして90°W曲げ試験を行う。
(B)LDの引張強さが800MPa以上の高強度と、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比R/tの値がLD、TD(圧延方向と板厚方向に対し直角方向)とも1.0以下であり、上記R/tの値を得たときの曲げ試験片における曲げ加工部(3箇所のうち中央部)の実際の曲げ変形角度をθ(°)とするとき、スプリングバック量を示すθ−90°の値がLD、TDとも3°以下となる曲げ加工性。
本明細書では、このJIS H3110に準拠した90°W曲げ試験で評価される曲げ加工性を「通常の曲げ加工性」と呼び、上記の「ノッチング後の曲げ加工性」とは区別している。
ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。同様に、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I0{220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。I{420}とI0{420}は同一測定条件で測定され、I{220}とI0{220}も同一測定条件で測定される。平均結晶粒径は、板面(圧延面)を研磨したのちエッチングし、その面を顕微鏡観察して、JIS H0501の切断法にて求めることができる。
上記組成において、さらに、Sn:1.2%以下、Zn:2.0%以下、Mg:1.0%以下、Zr:1.0%以下、Al:1.0%以下、Si:1.0%以下、P:0.1%以下、B:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mn:1.0%以下、V:1.0%以下の1種以上を合計3質量%以下の範囲で含有する組成を有するものが提供される。
上記の銅合金板材の製造法として、950〜500℃での熱間圧延、圧延率80%以上の冷間圧延、700〜900℃での溶体化処理、圧延率0〜65%の仕上冷間圧延、300〜550℃の時効処理を順次施す工程で銅合金板材を製造するに際し、
熱間圧延工程において、950℃〜700℃の温度域で最初の圧延パスを実施するとともに同温度域での圧延率を60%以上とし、かつ700℃未満〜500℃の温度域で圧延率30%以上の圧延を行い、
溶体化処理工程において、溶体化処理後の平均結晶粒径が10〜60μmとなるように、700〜900℃域の保持時間および到達温度を設定して熱処理を実施し、
時効処理工程において、当該合金組成で最大硬度が得られる時効温度をT M (℃)、その最大硬度をH M (HV)とするとき、時効温度を300〜550℃の範囲内かつT M ±10℃の温度とし、時効時間を時効後の硬さが0.85H M 〜0.95H M の範囲となる時間とする、銅合金板材の製造法が提供される
上記仕上冷間圧延の「圧延率0%」は、当該圧延を行わない場合を意味する。すなわち、冷間圧延を省略することができる。ある温度域での圧延率ε(%)は、当該温度域で行う連続する圧延パスのうち、最初の圧延パスに供する前の板厚をt0(mm)、最後の圧延パス終了後の板厚をt1(mm)とするとき、下記(3)式によって定まる。
ε=(t0−t1)/t0×100 ……(3)
本発明によれば、コネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの電気・電子部品に必要な基本特性を具備するCu−Ti系銅合金の板材において、引張強さ800MPa以上、あるいは更に900MPa以上の高強度を有し、かつ優れた成形性(特に曲げ加工性)と耐応力緩和性を同時に有するものが提供された。このような高強度レベルを維持しながら曲げ加工性と耐応力緩和性を安定して顕著に向上させることは、従来のCu−Ti系銅合金製造技術では困難であった。それに加え、加工時の「スプリングバック」も顕著に軽減された。このため、Cu−Ti系銅合金板材からの加工部品において、寸法精度を向上させることが容易となった。本発明は、今後ますます進展が予想される電気・電子部品の小型化、薄肉化のニーズに対応し得るものである。
本発明では、主として銅合金板材の組織状態を、ある特異な結晶配向をもつ集合組織にコントロールすることによって、「強度」、「曲げ加工性」、「耐応力緩和性」の同時改善および「スプリングバック」の軽減を可能にしたものである。以下、本発明を特定するための事項について説明する。
《集合組織》
Cu−Ti系銅合金の板面(圧延面)からのX線回折パターンは、一般に{111}、{200}、{220}、{311}の4つの結晶面の回折ピークで構成され、他の結晶面からのX線回折強度はこれらの結晶面からのものに比べ非常に小さい。{420}面の回折強度についても、通常の製造工程で得られたCu−Ti系銅合金の板材では無視される程度に弱くなる。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、後述する製造条件に従うと{420}を主方位成分とする集合組織を持つCu−Ti系銅合金板材が得られることがわかった。そして発明者らは、この集合組織が強く発達しているほど、曲げ加工性の改善に有利となることを見出した。その曲げ加工性改善のメカニズムについて、現時点では以下のように考えている。
結晶のある方向に外力が加えられたときの塑性変形(すべり)の生じやすさを示す指標としてシュミット因子がある。結晶に加えられる外力の方向と、すべり面の法線とのなす角度をφ、結晶に加えられる外力の方向と、すべり方向とのなす角度をλとするとき、シュミット因子はcosφ・cosλで表され、その値は0.5以下の範囲をとる。シュミット因子が大きいほど(すなわち0.5に近いほど)すべり方向へのせん断応力が大きいことを意味する。したがって、ある結晶にある方向から外力を付与したとき、シュミット因子が大きいほど(すなわち0.5に近いほど)、その結晶は変形しやすいことになる。Cu−Ti系銅合金の結晶構造は面心立方(fcc)である。面心立方晶のすべり系は、すべり面{111}、すべり方向<110>であり、実際の結晶においてもシュミット因子が大きいほど変形しやすく加工硬化も小さくなることが知られている。
図1に、面心立方晶のシュミット因子の分布を表した標準逆極点図を示す。<120>方向のシュミット因子は0.490であり、0.5に近い。すなわち、<120>方向に外力が付与された場合、面心立方晶は非常に変形しやすい。その他の方向のシュミット因子は、<100>方向が0.408、<113>方向が0.445、<110>方向が0.408、<112>方向が0.408、<111>方向が0.272である。
{420}を主方位成分とする集合組織は、{420}面すなわち{210}面が板面(圧延面)とほぼ平行である結晶の存在割合が多い集合組織を意味する。主方位面が{210}面である結晶では、板面に垂直な方向(ND)が<120>方向であり、そのシュミット因子は0.5に近いから、NDへの変形は非常に容易であり加工硬化も小さい。一方、Cu−Ti系合金の一般的な圧延集合組織は{220}を主方位成分とするものであり、この場合、{220}面すなわち{110}面が板面(圧延面)とほぼ平行である結晶の存在割合が多い。主方位面が{110}面である結晶は、NDが<110>方向であり、そのシュミット因子は0.4程度であるから、主方位面が{210}面である結晶と比較してNDへの変形に伴う加工硬化が大きくなる。また、Cu−Ti系合金の一般的な再結晶集合組織は{311}を主方位成分とするものである。主方位面が{311}面である結晶は、NDが<113>方向であり、そのシュミット因子は0.45程度であるから、主方位面が{210}面である結晶と比較するとやはりNDへの変形に伴う加工硬化が大きくなる。
「ノッチング後の曲げ加工法」においては、板面に垂直な方向(ND)への変形に際しての加工硬化の程度が極めて重要である。ノッチングはまさにNDへの変形であり、ノッチングによって板厚が減少した部分の加工硬化の程度が、その後、ノッチに沿って曲げた場合の曲げ加工性を大きく支配するからである。(1)式を満たすような{420}を主方位成分とする集合組織の場合、従来のCu−Ti系合金の圧延集合組織あるいは再結晶集合組織と比べて、ノッチングによる加工硬化が小さくなり、これが「ノッチング後の曲げ加工法」における曲げ加工性を顕著に向上させる要因となっていると考えられる。
さらに、(1)式を満たすような{420}を主方位成分とする集合組織の場合、主方位面が{210}面である結晶において、板面内つまり{210}面内に、別の<120>方向と<100>方向があり、これらは互いに直交する。実際には、圧延方向(LD)が<100>方向、圧延方向に対して直角方向(TD)が<120>方向であることが確かめられている。具体的な結晶方向で例示すると、例えば主方位面が(120)面である結晶では、LDが[001]方向、TDが[−2,1,0]方向である。このような結晶のシュミット因子は、LDが0.408、TDが0.490である。これに対し、Cu−Ti系合金の一般的な圧延集合組織では主方位面が{110}面、LDが<112>方向、TDが<111>方向であり、板面内のシュミット因子は、LDが0.408、TDが0.272となる。また、Cu−Ti系合金の一般的な再結晶集合組織では主方位面が{113}面、LDが<112>方向、TDが<110>方向であり、板面内のシュミット因子は、LDが0.408、TDが0.408となる。このように、LDおよびTDのシュミット因子を見ると、{420}を主方位成分とする集合組織の場合、従来のCu−Ti系合金の圧延集合組織あるいは再結晶集合組織と比べて、板面内における変形が容易であると言える。この点も、ノッチング後の曲げ加工における割れを防止する上で有利に作用していると考えられる。
金属板の曲げ加工においては、各結晶粒の結晶方位は異なるので、一様に変形するのではなく、曲げ加工時に変形しやすい結晶粒と変形しにくい結晶粒が存在する。曲げ加工の程度が増大するに伴って、変形しやすい結晶粒がますます優先的に変形し、板の曲げ部表面には結晶粒間での変形不均一に起因してミクロ的な凹凸が生じ、これがしわに発展し、場合によっては割れ(破壊)に至る。上述のように(1)式を満たすような集合組織を持つ金属板は、従来のものと比べ、各結晶粒がNDに変形しやすく、かつ板面内にも変形しやすくなっている。このことが、結晶粒を特段に微細化しなくても、ノッチング後の曲げ加工性および通常の曲げ加工性の顕著な向上をもたらしているものと推察される。
発明者らの検討によれば、このような結晶配向は下記(1)式によって特定できる。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。面心立方晶のX線回折パターンでは{420}面の反射は生じるが{210}面の反射は生じないので、{210}面の結晶配向は{420}面の反射によって評価される。下記(1)’式を満たすものが一層好ましい。
I{420}/I0{420}>1.5 ……(1)’
{420}を主方位成分とする集合組織は後述の溶体化処理による再結晶集合組織として形成される。ただし、銅合金板材を高強度化するためには、溶体化処理後に冷間圧延することが極めて有効である。この冷間圧延率が増加するに伴い{220}を主方位成分とする圧延集合組織が発達していく。{220}方位密度の増大に伴い{420}方位密度は減少するが、前記(1)式好ましくは(1)’式が維持されるように圧延率を調整すればよい。ただし、あまり{220}を主方位成分とする集合組織が発達しすぎると加工性低下を招く場合があるので、下記(2)式を満たすことが好ましい。また、「強度」と「曲げ加工性」を高いレベルでバランス良く両立させる意味では、下記(2)’式を満たすことが一層好ましい。
I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)
0.5≦I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)’
ここで、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I0{220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。
後述の実施例で示すように、このような特異な結晶配向を有する板材においては、当該合金に特有な「高強度」が維持される。また、このような結晶配向によって「熱変形」や「スプリングバック」も改善される。さらに、曲げ加工性の改善のために結晶粒を極度に微細化する必要がなくなり、Beの添加等による「耐応力緩和性」の向上作用を十分に発揮させることが可能になった。
《平均結晶粒径》
前述のように、平均結晶粒径が小さいほど曲げ加工性の向上に有利であるが、小さすぎると耐応力緩和性が悪くなりやすい。種々検討の結果、最終的に平均結晶粒径が10μm以上の値、好ましくは10μmを超える値であれば、車載用コネクターの用途でも満足できるレベルの耐応力緩和性を確保しやすく、好適である。15μm以上であることがより好ましい。ただし、あまり平均結晶粒径が大きくなりすぎると曲げ部表面の肌荒を起こりやすく、曲げ加工性の低下を招く場合があるので、60μm以下の範囲とすることが望ましく、40μm以下、あるいは30μm以下の範囲に調整することがより好ましい。最終的な平均結晶粒径は、溶体化処理後の段階における結晶粒径によってほぼ決まってくる。したがって、平均結晶粒径のコントロールは後述の溶体化処理条件によって行うことができる。
《合金組成》
本発明ではCu−Tiの2元系基本成分に、必要に応じてFe、Co、Ni等、あるいはその他の合金元素を配合したCu−Ti系銅合金を採用する。
Tiは、Cuマトリックスにおいて時効硬化作用が高い元素で、強度上昇および耐応力緩和性向上に寄与する。Cu−Ti系銅合金では溶体化処理によって過飽和固溶体を生成させ、より低温で時効を行うと、準安定相である変調構造(スピノーダル構造)が発達し、さらに時効を続けると安定相(TiCu3)が生成する。変調構造とは、通常の核生成・成長による析出物とは異なり、核生成を必要とせず、溶質原子濃度の連続的なゆらぎによって生成し、かつ母相と完全な整合性を保ちながら生成する構造である。その発達階段で材料は著しく硬化し、かつ延性の損失が少ない。一方、安定相(TiCu3)は通常の結晶粒内と粒界に点在する析出物であり、粗大化しやすく、準安定相である変調構造より硬化作用が小さいにも関わらず、延性の損失が大きい。
したがって、できるだけ準安定相によって高強度化を図り、安定相(TiCu3)の生成を抑制することがCu−Ti系銅合金の強化手段として望ましい。Ti含有量が1.0質量%未満では、準安定相による強化作用を十分に引き出すことが難しい。一方、Ti含有量が過剰になると安定相(TiCu3)が生成しやすく、また、溶体化処理が可能な温度域が狭くなり良好な特性を引き出すことが困難になる。種々検討の結果、Ti含有量は5.0質量%以下とする必要がある。したがって、Ti含有量は1.0〜5.0質量%に規定される。Ti含有量は2.0〜4.0質量%とすることがより好ましく、2.5〜3.5質量%の範囲に調整することが一層好ましい。
Fe、Co、Niは、Tiとの金属間化合物を形成して強度の向上に寄与する元素であり、必要に応じてこれらの1種以上を添加することができる。特に、Cu−Ti系銅合金の溶体化処理においては、これらの金属間化合物が結晶粒の粗大化を抑制するので、より高温域での溶体化処理が可能になり、Tiを十分に固溶させる上で有利となる。ただし、Fe、Co、Niを過剰に含有させると、それらの金属間化合物の生成によって消費されるTiの量が多くなるので、固溶するTiの量が必然的に少なくなる。この場合、逆に強度低下を招きやすい。したがってFe、Co、Niを添加する場合は、Fe:0.5質量%以下、Co:1.0質量%以下、Ni:1.5質量%以下の範囲とする。上記作用を十分に発揮させるには、Fe:0.05〜0.5質量%、Co:0.05〜1.0質量%、Ni:0.05〜1.5質量%の含有量範囲でこれらの1種以上を添加することが効果的である。Fe:0.1〜0.3質量%、Co:0.1〜0.5質量%、Ni:0.1〜1.0質量%の範囲でこれらの1種以上を含有させることがより好ましい。
Snは、固溶強化作用と耐応力緩和性の向上作用を有する。これらの作用を十分に発揮させるには、0.1質量%以上のSn含有量が好ましい。ただし、Sn含有量が1.0質量%を超えると鋳造性と導電率が著しく低下してしまう。このため、Snを含有させる場合は1.0質量%以下の含有量とする必要がある。Sn含有量は0.1〜1.0質量%とすることがより好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲に調整することが一層好ましい。
Znは、はんだ付け性および強度を向上させる作用を有する他、鋳造性を改善させる作用もある。さらに、Znを含有させる場合に安価な黄銅スクラップが使用できるメリットがある。ただし、2.0質量%を超えるZn含有は導電性や耐応力腐食割れ性の低下要因となりやすい。このため、Znを含有させる場合は2.0質量%以下の含有量範囲とする。上記の作用を十分に得るには0.1質量%以上のZn含有量を確保することが望ましく、特に0.3〜1.0質量%の範囲に調整することが一層好ましい。
Mgは、耐応力緩和性の向上作用と脱S作用を有する。これらの作用を十分に発揮させるには、0.01質量%以上のMg含有量を確保することが好ましい。ただし、Mgは酸化されやすい元素であり、1.0質量%を超えると鋳造性が著しく低下してしまう。このため、Mgを含有させる場合は1.0質量%以下の含有量とする必要がある。Mg含有量は0.01〜1.0質量%とすることがより好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲に調整することが一層好ましい。
その他の元素として、Zr:1.0%以下、Al:1.0%以下、Si:1.0%以下、P:0.1%以下、B:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mn:1.0%以下、V:1.0%以下の1種以上を含有させることができる。例えば、ZrとAlはTiとの金属間化合物を形成することができ、SiはTiとの析出物を生成できる。Cr、Zr、Mn、Vは不可避的不純物として存在するS、Pbなどと高融点化合物を形成しやすく、また、Cr、B、P、Zrは鋳造組織の微細化効果を有し、熱間加工性の改善に寄与しうる。
Zr、Al、Si、P、B、Cr、Mn、Vの1種以上を含有させる場合は、各元素の作用を十分に得るためにこれらの総量が0.01質量%以上となるように含有させることが効果的である。ただし、多量に含有させると、熱間または冷間加工性に悪影響を与え、かつコスト的にも不利となる。したがって、前述のSn、Zn、Mgと、Zr、Al、Si、P、B、Cr、Mn、Vの合計含有量は、3質量%以下に抑えることが望ましく、2質量%以下あるいは1質量%以下の範囲に規制することができ、0.5質量%以下の範囲に規制しても構わない。
《特性》
Cu−Ti系銅合金を用いて電気・電子部品の更なる小型化、薄肉化に対応するには、引張強さ800MPa以上、好ましくは900MPa以上、さらに好ましくは1000MPa以上の板材を供給することが望ましい。上記化学組成を満たす合金に後述の製造条件を適用することによってこの強度特性を具備させることが可能である。
「通常の曲げ加工性」(前述)については、LD、TDいずれにおいても90°W曲げ試験における最小曲げ半径Rと板厚tの比R/tが1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。また、曲げ加工品の形状・寸法精度を向上させるうえで、後述する「ノッチング後の曲げ加工性」についてはR/tが0であること、つまり、後述のLDのノッチング曲げ加工性評価方法において割れが認められない特性を有していることが望ましい。なお、「LDの曲げ加工性」とはLDが長手方向となるように切り出した曲げ加工試験片で評価される曲げ加工性(ノッチング後の曲げ加工性においても同じ)であり、その試験における曲げ軸はTDとなる。同様に「TDの曲げ加工性」とはTDが長手方向となるように切り出した曲げ加工試験片で評価される曲げ加工性であり、その試験における曲げ軸はLDとなる。
「ノッチング後の曲げ加工性」については、前述の〔ノッチング後の曲げ加工性試験〕を行ったとき、曲げ加工部の表面および断面の光学顕微鏡観察において割れが認められない曲げ加工性を有していることが好ましい。
耐応力緩和性は、車載用コネクターなどの用途ではTDの値が特に重要であるため、長手方向がTDである試験片を用いた応力緩和率で応力緩和性を評価することが望ましい。後述の応力緩和特性の評価方法において、200℃で1000時間保持した場合の応力緩和率が5%以下であることが好ましく、3%以下であることが一層好ましい。
曲げ加工時の「スプリングバック」については、ミルハードン材において特に重要となる。「通常の曲げ加工性」の評価試験を行った後のW曲げ試験片のうち、R/tが1.0以下となった試験片(具体的には割れが発生しない最小曲げ半径Rが得られた試験片)における曲げ加工部(3箇所のうち中央部)の実際の曲げ変形角度をθ(°)とするとき、スプリングバック量を示すθ−90°の値がLD、TDとも3°以下であれば、その材料はCu−Ti系合金として非常に良好な耐「スプリングバック」特性を有していると評価される。また、後述の「ノッチング曲げ加工性」の評価試験を施したLDの試験片については、上記と同様のθ−90°の値が2°以内であることが望ましい。
《製造法》
以上のような本発明の銅合金板材は、例えば以下のような製造工程により作ることができる。
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→溶体化処理→仕上冷間圧延→時効処理」
ただし、後述のようにいくつかの工程での製造条件を工夫することが重要である。なお、上記工程中には記載していないが、熱間圧延後には必要に応じて面削が行われ、各熱処理後には必要に応じて酸洗、研磨、あるいはさらに脱脂が行われる。以下、各工程について説明する。
〔溶解・鋳造〕
連続鋳造、半連続鋳造等により鋳片を製造すればよい。Tiの酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気または真空溶解炉で行うのがよい。
〔熱間圧延〕
通常、Cu−Ti系銅合金の熱間圧延は、圧延途中に析出物を生成させないようにするため、700℃以上、あるいは750℃以上の高温域で圧延し、圧延終了後に急冷する手法で行われる。しかしながら、このような常識的な熱間圧延条件では本発明の特異な集合組織を有する銅合金板材を製造することは困難である。すなわち、発明者らの調査によると、このような熱間圧延条件を採用した場合は、後工程の条件を広範囲に変化させても{420}を主方位方向に持つ銅合金板材を再現性良く製造できる条件を見つけることはできなかった。そこで発明者らは更なる詳細な検討を行った。その結果、950℃〜700℃の温度域で最初の圧延パスを実施し、かつ700℃未満〜500℃の温度域で圧延率30%以上の圧延を行うという熱間圧延条件を見出すに至った。
鋳片を熱間圧延する際、再結晶が発生しやすい700℃以上の高温域で最初の圧延パスを実施することによって、鋳造組織が破壊され、成分と組織の均一化を図ることができる。ただし950℃を超えると、合金成分の偏析箇所など、融点が低下している箇所で割れが生じない温度域とする必要がある。熱間圧延工程中における完全再結晶の発生を確実に行うためには、950℃〜700℃の温度域で圧延率60%以上の圧延を行うことが極めて有効である。これによって組織の均一化が一層促進される。ただし、1パスで60%を得るためには大きな圧延荷重が必要であるため、多パスに分けてトータル60%以上の圧延率を確保しても良い。また、本発明では圧延歪が生じやすい700℃未満〜500℃の温度域で30%以上の圧延率を確保することが重要である。これにより、一部の析出物を生成させ、後工程の「冷間圧延+溶体化処理」の組み合わせによって、{420}を主方位成分とする再結晶集合組織が形成されやすくなる。この際も、700℃未満〜500℃の温度域で複数パスの圧延を行うことができる。この温度域で40%以上の圧延率とすることがより好ましい。熱間圧延の最終パス温度は600℃以下とすることがより効果的である。熱間圧延でのトータル圧延率は概ね80〜97%とすればよい。
ここで、それぞれの温度域での圧延率ε(%)は(3)式によって算出される。
ε=(t0−t1)/t0×100 ……(3)
例えば最初の圧延パスに供する鋳片の板厚が120mmであり、700℃以上の温度域で圧延を実施して(途中、炉に戻して再加熱しても構わない)、700℃以上の温度で実施された最後の圧延パス終了時に板厚が30mmになっており、引き続いて圧延を継続して、熱間圧延の最終パスを700℃未満〜400℃の範囲で行い、最終的に板厚10mmの熱間圧延材を得たとする。この場合、700℃以上の温度域で行われた圧延の圧延率は(3)式により、(120−30)/120×100=75(%)である。また、700℃未満〜400℃の温度域での圧延率は同じく(3)式により、(30−10)/30×100=66.7(%)である。
〔冷間圧延〕
上記熱延板を圧延するに際し、溶体化処理前に行う冷間圧延では圧延率を80%以上とすることが重要であり、90%以上とすることがより好ましい。このような高い圧延率で加工された材料に対し、次工程で溶体化処理を施すことにより、{420}を主方位成分とする再結晶集合組織の形成が可能になる。特に再結晶集合組織は再結晶前の冷間圧延率に大きく依存する。具体的には、{420}を主方位成分とする結晶配向は、冷間圧延率が60%以下ではほとんど生成せず、約60〜80%の領域では冷間圧延率の増加に伴って漸増し、冷間圧延率が約80%を超えると急激な増加に転じる。{420}方位が十分に優勢な結晶配向を得るには80%以上の冷間圧延率を確保する必要があり、更に90%以上が望ましい。なお、冷間圧延率の上限はミルパワー等により必然的に制約を受けるので、特に規定する必要はないが、エッジ割れなどを防止する観点から概ね99%以下で良好な結果が得られやすい。
なお、本発明では、熱間圧延後、溶体化処理前に、中間焼鈍を挟んで1回ないし複数回の冷間圧延を実施する工程は採用できるが、溶体化処理直前の冷間圧延において80%以上の圧延率を確保する必要がある。溶体化処理直前の冷間圧延率が80%未満になると、溶体化処理によって形成される{420}を主方位成分とする再結晶集合組織が著しく弱化してしまう。
〔溶体化処理〕
従来の溶体化処理は「溶質元素のマトリックス中への再固溶」と「再結晶化」を主目的とするが、本発明では更に「{420}を主方位成分とする再結晶集合組織の形成」をも重要な目的とする。この溶体化処理は、700〜900℃の炉温で行うことが望ましい。温度が低すぎると再結晶が不完全で溶質元素の固溶も不十分となる。温度が高すぎると結晶粒が粗大化してしまう。これらいずれの場合も、最終的に曲げ加工性の優れた高強度材を得ることが困難となる。
また、この溶体化処理は、再結晶粒の平均粒径(双晶境界を結晶粒界とみなさない)が10〜60μmあるいは特に10超え〜60μmとなるように700〜900℃域の保持時間および到達温度を設定して熱処理を実施することが望ましく、15〜40μmとなるように調整することが一層好ましい。再結晶粒径が微細になりすぎると、{420}を主方位成分とする再結晶集合組織が弱くなる。また、耐応力緩和性を向上させる上でも不利となる。再結晶粒径が粗大になりすぎると、曲げ加工部の表面肌荒が発生し易い。再結晶粒径は、溶体化処理前の冷間圧延率や化学組成によって変動するが、予め実験によりそれぞれの合金について溶体化処理ヒートパターンと平均結晶粒径との関係を求めておくことにより、700〜900℃域の保持時間および到達温度を設定することができる。具体的には、本発明で規定する化学組成の合金では、700〜900℃の温度で10sec〜10min保持する加熱条件において適正条件を設定できる。
〔仕上冷間圧延〕
続いて65%以下の圧延率で仕上冷間圧延を行うことができる。この段階での冷間圧延はその後の時効処理中の析出を促進する効果があり、これにより必要な特性(導電率、硬さ)を引き出すための時効温度を低下させ、または時効時間を短くすることができる。これにより、時効過程中の熱変形を低減する効果がある。
この仕上冷間圧延によって{220}を主方位成分とする集合組織が発達していくが、65%以下の冷間圧延率の範囲では、まだ十分に{420}面が板面に平行な結晶粒も残存する。この段階の仕上冷間圧延は圧延率65%以下で行う必要があり、0〜50%とすることがより好ましい。圧延率が高すぎると前記(1)式を満たすような理想的な結晶配向が得られにくくなる。圧延率がゼロである場合は、溶体化処理後に仕上冷間圧延を行わず、直接時効処理に供することを意味する。本発明では、生産性を向上するために、仕上冷間圧延工程を省略しても構わない。
〔時効処理〕
時効処理では、当該合金の導電性と強度の向上に有効な条件の中で、あまり温度を上げすぎないようにする。時効処理温度が高くなりすぎると溶体化処理によって発達させた{420}を優先方位とする結晶配向が弱められ、結果的に十分な曲げ加工性改善効果が得られない場合がある。具体的には材温が300〜550℃となる温度で行うことが望ましく、350〜500℃の範囲が一層好ましい。時効処理時間は概ね60〜600min程度の範囲に設定できる。時効処理中に表面酸化膜を極力抑制する場合には、水素、窒素またはアルゴン雰囲気を使うことができる。
ただし、Cu−Ti系銅合金では前述の安定相の生成を極力回避することが重要である。そのためには、当該合金組成で最大硬度が得られる時効温度をTM(℃)、その最大硬さをHM(HV)とするとき、時効処理工程において、時効温度を300〜550℃の範囲内かつTM±10℃の温度とし、時効時間を時効後の硬さが0.85HM〜0.95HMの範囲となる時間とする条件を採用することが効果的である。最大硬度が得られる時効温度TM(℃)、およびその最大硬さHM(HV)は、予備実験により把握しておくことができる。本発明で規定される組成範囲であれば、通常、24h以内の時効時間の範囲で最大硬度に到達する。
表1に示す銅合金を溶製し、縦型半連続鋳造機を用いて鋳造した。得られた鋳片(厚さ60mm)を950℃に加熱したのち抽出して、熱間圧延を開始した。その際、一部の比較例を除き、700℃以上の温度域での圧延率が60%以上となり、かつ700℃未満の温度域でも圧延が行われるようにパススケジュールを設定した。熱間圧延の最終パス温度は一部の比較例を除き600℃〜500℃の間にある。鋳片からのトータルの熱間圧延率は約95%である。熱間圧延後、表層の酸化層を機械研磨により除去(面削)した。次いで、種々の圧延率で冷間圧延を行った後、溶体化処理に供した。溶体化処理においては、一部の比較例を除いて、溶体化処理後の平均結晶粒径(双晶境界を結晶粒界とみなさない)が10超え〜40μmとなるように到達温度を合金組成に応じて700〜900℃の範囲内で調整し、700〜900℃の温度域での保持時間を10sec〜10mimの範囲で調整した。続いて、上記溶体化処理後の板材に対して、0〜70%の種々の圧延率で仕上冷間圧延を施した。なお、必要に応じて途中で面削を行い、板厚は0.2mmに揃えた。
このようにして得られた板厚0.2mm板材について、予備実験として300〜550℃の温度範囲で最大24hまでの時効処理実験を行い、合金組成に応じて最大硬さとなる時効処理条件(その時効温度をTM(℃)、時効時間をtM(min)、最大硬さをHM(HV)とする)を把握した。そして、時効温度をTM±10℃の範囲内の温度に設定し、時効時間をtMより短い時間であって、時効後の硬さが0.85HM〜0.95HMの範囲となる時間に設定して、上記板厚0.2mm板材に時効処理を施し、供試材とした。ただし、一部の比較例については最大硬度HMとなる時効処理条件を採用した。
Figure 0004357548
時効処理後の各供試材から試験片を採取して平均結晶粒径、集合組織、導電率、引張強さ、応力緩和特性、通常の曲げ加工性およびノッチング曲げ加工性を調べた。また、曲げ加工時のスプリングバックについて、上記通常の曲げ加工性およびノッチング曲げ加工性の評価を行った試験片の形状を測定することによって求めた。なお、表1中のNo.32およびNo.33は、それぞれ市販のCu−Ti系銅合金C199−1/2HおよびC199−EH(いずれもミルハードン材、板厚0.2mm)を入手して供試材としたものである。
組織、特性の調査は以下の方法で行った。
〔平均結晶粒径〕
供試材の板面(圧延面)を研磨したのちエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察し、平均結晶粒径をJIS H0501の切断法で測定した。
〔集合組織〕
供試材の板面(圧延面)を#1500耐水ペーパーで研磨仕上げとした試料を準備し、X線回折装置(XRD)を用いて、Mo−Kα線、管電圧20kV、管電流2mAの条件で、前記研磨仕上げ面について{420}面および{220}面の反射回折面強度を測定した。一方、上記と同じX線回折装置を用いて、上記と同じ測定条件で純銅標準粉末の{420}面および{220}面のX線回折強度を測定した。これらの測定値を用いて前記(1)式中に示されるX線回折強度比I{420}/I0{420}と、(2)式中に示されるX線回折強度比I{220}/I0{220}を求めた。
〔導電率〕
JIS H0505に従って各供試材の導電率を測定した。
〔引張強さ〕
各供試材からLDの引張試験片(JIS 5号)を採取し、n=3でJIS Z2241に準拠した引張試験行い、n=3の平均値によって引張強さを求めた。
〔応力緩和特性〕
各供試材から長手方向がTDの曲げ試験片(幅10mm)を採取し、試験片の長手方向における中央部の表面応力が0.2%耐力の80%の大きさとなるようにアーチ曲げした状態で固定した。上記表面応力は次式により定まる。
表面応力(MPa)=6Etδ/L0 2
ただし、
E:弾性係数(MPa)
t:試料の厚さ(mm)
δ:試料のたわみ高さ(mm)
この状態の試験片を大気中200℃の温度で1000時間保持した後の曲げ癖から次式を用いて応力緩和率を算出した。
応力緩和率(%)=(L1−L2)/(L1−L0)×100
ただし、
0:治具の長さ、すなわち試験中に固定されている試料端間の水平距離(mm)
1:試験開始時の試料長さ(mm)
2:試験後の試料端間の水平距離(mm)
この応力緩和率が5%以下のものは、車載用コネクターとして高い耐久性を有すると評価され、合格と判定した。
〔通常の曲げ加工性〕
供試材の板材から長手方向がLDの曲げ試験片およびTDの曲げ試験片(いずれも幅10mm)を採取し、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験を行った。試験後の試験片について曲げ加工部の表面および断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、割れが発生しない最小曲げ半径Rを求め、これを供試材の板厚tで除することによりLD、TDそれぞれのR/t値を求めた。各供試材のLD、TDともn=3で実施し、n=3のうち最も悪い結果となった試験片の成績を採用してR/t値を表示した。
〔ノッチング後の曲げ加工性〕
供試材の板材から長手方向がLDの短冊形試料(幅10mm)を採取し、図2に示す断面形状のノッチ形成治具(凸部先端のフラット面の幅0.1mm、両側面角度45°)を用いて、図3に示すように20kNの荷重を付与することにより試料幅いっぱいにノッチを形成した。ノッチの方向(すなわち溝に対して平行な方向)は、試料の長手方向に対して直角方向である。このようにして準備したノッチ付き曲げ試験片のノッチ深さを実測したところ、図4に模式的に示すノッチ深さδは板厚tの1/4〜1/6程度であった。
このノッチ付き曲げ試験片について、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験により曲げ試験を実施した。このとき、下型の中央突起部先端のRを0mmとした治具を用い、前記ノッチ付き曲げ試験片を、ノッチ形成面が下向きになり、前記下型の中央突起部先端がノッチ部分に合致するようにセットして90°W曲げ試験を行った。
試験後の試験片について曲げ加工部の表面および断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、割れの有無を判断し、割れが認められないものを「〇」、割れが認められたものを「×」と表示した。なお、曲げ加工部で破断したものは「破」と表示した。各供試材のn=3で実施し、n=3のうち最も悪い結果となった試験片の成績を採用して「○」、「×」、「破」の評価を行い、これが○評価のものを合格と判定した。
〔スプリングバック〕
最小曲げ半径で「通常の曲げ加工法」による曲げ加工を行った試験片、および「ノッチング後の曲げ加工法」による曲げ加工を行って割れが認められなかった試験片について、曲げ加工部(3箇所のうち中央部)の曲げ軸に垂直な断面を光学顕微鏡付きのデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製のVH−8000型)にて倍率150倍で観察して、曲げ角度θを測定した。図5に、90°W曲げ加工を受けた後の試験片について、曲げ加工部(3箇所のうち中央部)近傍の曲げ軸に垂直な断面の形状を模式的に示す。スプリングバックが生じると曲げ角度θは90°より大きくなる(図5では説明のためにθの大きさを現実より誇張して描いてある)。この実際の曲げ角度θが、金型(W曲げ試験治具)の90°に対して、どの程度ずれるかをスプリングバックの指標とした。すなわち、[実際の曲げ角度θ]−90°の値を各供試材につきn=3で測定し、その平均値をスプリングバック量とした。
これらの結果を表2に示す。表2中に記載されるLDおよびTDは試験片の長手方向を意味する。
Figure 0004357548
表2からわかるように、本発明例の銅合金板材はいずれも(1)式を満たす結晶配向を有し、引張強さは800MPa以上であり、R/t値がLD、TDとも1.0以下という優れた曲げ加工性を有する。また実用的に重要なLDのノッチング後の曲げ加工性は、90°W曲げ試験にてR/t=0での厳しい曲げを行ったにもかかわらず、割れが生じなかった。加工時のスプリングバックも小さく、さらに、車載用コネクター等の用途において重要となるTDの応力緩和率が5%以下という優れた耐応力緩和性を兼ね備えている。
これに対し、比較例No.21〜25は本発明例No.1〜5と同じ組成の合金について、通常の工程で製造したもの(熱間圧延最終パス温度を700℃以上としたものや、熱間圧延後、溶体化処理前に中間焼鈍工程を入れたもの、溶体化処理前の冷間圧延率を80%未満としたものなど)である。これらはいずれも{420}結晶面のX線回折強度が弱く、強度と曲げ加工性、あるいは曲げ加工性と耐応力緩和性の間にトレードオフの関係が見られた。特に、ノッチング後の曲げ加工が不可能であり、最小曲げ半径を大きくせざるを得ないことからスプリングバックも大きくなった。
比較例No.26、27はTiの含有量が規定範囲外であることにより、良好な特性が得られなかった例である。No.26はTiの含有量が低すぎたことにより析出物の生成が少なかったので、最大硬さになる条件で時効処理したにも関わらず強度レベルが低い。溶体化前の冷間圧延率を95%以上に高くしても{420}を主方位成分とする結晶配向が弱くなり、強度レベルが低かったにも関わらず、ノッチング後の曲げ加工性が改善されなかった。No.27はTiの含有量が高すぎたので、適正な溶体化条件を取れず、製造途中に割れが発生し、評価できる板材を作れなかった。
比較例No.28〜30は溶体化処理条件や時効条件が規定範囲外であったことにより、良好な特性が得られなかった例である。No.28は溶体化処理温度が970℃と高すぎたので結晶粒が粗大化し、良好な曲げ加工性が得られなかった。No.29は逆に溶体化処理温度が650℃と低すぎたので再結晶自体が十分進行せずに混粒組織となり、引張強さ、曲げ加工性、耐応力緩和性全てが悪い結果となった。No.30は強度の向上を図るべく時効処理時間が最大硬さになる時間で時効処理した例である。この場合、引張強さは約50MPa程度向上したものの、安定相(TiCu3)が生成したために曲げ加工性と耐応力緩和性は悪化してしまった。
比較例No.31は仕上げ圧延率が規定する上限を超えたので、{420}を主方位成分とする結晶配向が弱くなり、強度は高いものの曲げ加工性が著しく悪くなった。
比較例No.32と33はCu−Ti系銅合金を代表するC199−1/2HとC199−EHの市販品である。これらはいずれも{420}を主方位成分とする結晶配向が弱く、ほぼ同様の組成を有する本発明例No.4と比較して、曲げ加工性と耐応力緩和性がともに劣る。
面心立方晶のシュミット因子の分布を表した標準逆極点図。 ノッチ形成治具の断面形状を示した図。 ノッチングの方法を模式的に示した図。 ノッチ付き曲げ試験片のノッチ形成部付近の断面形状を模式的に示した図。 90°W曲げ加工を受けた後の試験片について、曲げ加工部(3箇所のうち中央部)近傍の曲げ軸に垂直な断面の形状を模式的に示した図。

Claims (6)

  1. 質量%で、Ti:1.0〜5.0%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、下記(1)式を満たす結晶配向を有し、平均結晶粒径が10〜60μmであり、下記に示す「ノッチング後の曲げ加工性試験」を施したとき、曲げ加工部の表面および断面の光学顕微鏡観察において割れが認められない曲げ加工性を備えた銅合金板材。
    I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
    ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。
    〔ノッチング後の曲げ加工性試験〕
    当該銅合金板材から長手方向がLD(圧延方向)の短冊形試料(幅10mm)を採取し、図2に示す断面形状のノッチ形成治具(凸部先端のフラット面の幅0.1mm、両側面角度45°)を用いて、図3に示すように20kNの荷重を付与することにより試料幅いっぱいにノッチを形成する。ノッチの方向(すなわち溝に対して平行な方向)は、試料の長手方向に対して直角方向である。このノッチ付き試料について、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験により曲げ試験を行う。このとき、下型の中央突起部先端のRを0mmとした治具を用い、前記ノッチ付き試料を、ノッチ形成面が下向きになり、前記下型の中央突起部先端がノッチ部分に合致するようにセットして90°W曲げ試験を行う。
  2. 質量%で、Ti:1.0〜5.0%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、下記(1)式を満たす結晶配向を有し、平均結晶粒径が10〜60μmであり、LD(圧延方向)の引張強さが800MPa以上の高強度と、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験において割れが発生しない最小曲げ半径Rと板厚tとの比R/tの値がLD、TD(圧延方向と板厚方向に対し直角方向)とも1.0以下であり、上記R/tの値を得たときの曲げ試験片における曲げ加工部(3箇所のうち中央部)の実際の曲げ変形角度をθ(°)とするとき、スプリングバック量を示すθ−90°の値がLD、TDとも3°以下となる曲げ加工性を備えた銅合金板材。
    I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
    ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。
  3. さらに、Fe:0.5%以下、Co:1.0%以下およびNi:1.5%以下の1種以上を含有する組成を有する請求項1または2に記載の銅合金板材。
  4. さらに、Sn:1.2%以下、Zn:2.0%以下、Mg:1.0%以下、Zr:1.0%以下、Al:1.0%以下、Si:1.0%以下、P:0.1%以下、B:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mn:1.0%以下、V:1.0%以下の1種以上を合計3質量%以下の範囲で含有する組成を有する請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金板材。
  5. さらに下記(2)式を満たす結晶配向を有する請求項1〜のいずれかに記載の銅合金板材。
    I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)
    ここで、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I0{220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。
  6. 950〜500℃での熱間圧延、圧延率80%以上の冷間圧延、700〜900℃での溶体化処理、圧延率0〜65%の仕上冷間圧延、300〜550℃の時効処理を順次施す工程で銅合金板材を製造するに際し、
    熱間圧延工程において、950℃〜700℃の温度域で最初の圧延パスを実施するとともに同温度域での圧延率を60%以上とし、かつ700℃未満〜500℃の温度域で圧延率30%以上の圧延を行い、
    溶体化処理工程において、溶体化処理後の平均結晶粒径が10〜60μmとなるように、700〜900℃域の保持時間および到達温度を設定して熱処理を実施し、
    時効処理工程において、当該合金組成で最大硬度が得られる時効温度をT M (℃)、その最大硬度をH M (HV)とするとき、時効温度を300〜550℃の範囲内かつT M ±10℃の温度とし、時効時間を時効後の硬さが0.85H M 〜0.95H M の範囲となる時間とする、
    請求項1〜5のいずれかに記載の銅合金板材の製造法。
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