JP2009035775A - コネクタ端子 - Google Patents

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Abstract

【課題】小型・軽量化しても寸法精度が高く電気的接触信頼性も高いコネクタ端子を提供する。
【解決手段】下記(1)式を満たす結晶配向を有し、平均結晶粒径が5〜60μmである銅合金板材を加工してなるコネクタ端子。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。Cu−Ni−Si系(コルソン合金)、Cu−Ni−Sn−P系、Cu−Be系(ベリ銅)、Cu−Ti系(チタン銅)などの成分系の銅合金が適用できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、電気接続部品、主として電気信号の伝達に使用する小型コネクタ端子に関する。
自動車業界において自動車の高度電装化が進められている。これは安全性能、環境性能、快適性を向上させるために、数多くの電子装置、電装品を搭載する必要があるためである。このことは相互結線する回路数が増大することを意味しており、それに見合ってコネクタ、ワイヤーハーネスの数も増大する。しかしながら、これら電装品の増大は自動車重量の増加につながり、燃費を悪化させるために、搭載される電装品にはますますの小型、軽量化が求められている。
同様に、民生の分野においても携帯電話、パソコン、AV機器やゲーム機などの電子製品では、高性能化・小型軽量化が進展し、それに用いられる電子部品、コネクタにも同様に小型・軽量化が求められている。
電子部品・コネクタの小型、軽量化のためには材料となる銅合金の板材を薄くする必要があり、それにより低下する端子強度およびバネ性を補うため、材料とする銅合金には高強度でバネ性の強い銅合金を適用する必要がある。そのような銅合金として、Cu−Ni−Si系、Cu−Ni−Sn−P系、Cu−Be系、Cu−Ti系などが知られている。
特開2006−16629号公報 特開2002−294368号公報 特開2000−160312号公報 特開2006−274289号公報
ところが高強度である銅合金は成形性に乏しく、小型コネクタ端子、さらには次世代の小型コネクタ端子のような微細かつ複雑形状に加工することは極めて困難であった。とりわけ雄型コネクタ端子のタブ部や雌型コネクタ端子の箱部コーナーの成形の際には、プレス成形後のスプリングバックを抑制して形状・寸法精度を得るために、材料の曲げ加工を施す部位にノッチを付ける加工(ノッチング)を施し、その後、そのノッチに沿って曲げ加工を行う加工法(以下「ノッチング後曲げ加工法」という)を適用することが必須となっている。しかし、この加工法は、ノッチングによってノッチ部近傍が加工硬化することから、その後の曲げ加工において割れを生じ易いという問題があった。この問題を回避するため、結晶粒が微細で曲げ加工性が良好な合金を用いるという常套手段があるが、そのような結晶粒が微細な合金は、端子バネ部の信頼性の指標となる耐応力緩和特性において劣っており、よってそれにより得られたコネクタ端子は長期に渡って高い電気的信頼性を得難いという欠点があった。従って電気的信頼性の高いコネクタ端子の小型、軽量化は困難を極めていた。
本発明は上記した点に着目してなされたものであり、特殊な結晶配向を持つ銅合金を材料として使用することにより、小型・軽量化しても寸法精度が高く電気的接触信頼性も高いコネクタ端子を提供することを目的とする。
上記目的は、コネクタ端子の材料に、下記(1)式を満たし、好ましくはさらに下記(2)式を満たす結晶配向を有する銅合金板材を使用することにより達成される。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)
ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。同様に、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I0{220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。
上記の銅合金板材は、平均結晶粒径が5〜60μmである。10〜60μmであることが好ましく、15〜40μmであることがより好ましい。ここで、平均結晶粒径は、板面(圧延面)を研磨したのちエッチングし、その面を顕微鏡観察して、JIS H0501の切断法にて求めることができる。本発明で加工素材に使用する銅合金板材は、好ましくはリフローSnめっき等の表面処理を施したものである。
また上記の銅合金としては、Cu−Ni−Si系(いわゆるコルソン合金)、Cu−Ni−Sn−P系、Cu−Be系(いわゆるベリ銅)、Cu−Ti系(いわゆるチタン銅)などの成分系のものが使用できる。具体的には以下の組成の銅合金が挙げられる。
〔Cu−Ni−Si系〕
質量%で、Ni:0.7〜4.2%、Si:0.2〜1%、あるいはさらにFe、Zn、Mg、Sn、Co、Cr、Be、Zr、Ti、Mn、V、Ag、P、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有し、残部実質的にCuの組成を有する銅合金
〔Cu−Ni−Sn−P系〕
質量%で、Ni:0.1〜5%、Sn:0.1〜5%、P:0.01〜0.5%、あるいはさらにFe、Zn、Mg、Si、Co、Cr、Be、Zr、Ti、Mn、V、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有し、残部実質的にCuの組成を有する銅合金
〔Cu−Be系〕
質量%で、Be:0.1〜5%、Ni:0.1〜2.5%、あるいはさらにFe、Zn、Mg、Co、Cr、Be、Zr、Sn、Ti、Mn、V、P、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有し、残部実質的にCuの組成を有する銅合金
〔Cu−Ti系〕
質量%で、Ti:0.1〜5%、あるいはさらにAl、Ni、Si、Fe、Zn、Sn、Co、Cr、Be、Zr、Mn、V、P、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有し、残部実質的にCuの組成を有する銅合金
上記において「残部実質的にCu」とは、本発明の効果を阻害しない範囲で上記以外の元素の混入が許容されることを意味し、「残部がCuおよび不可避的不純物」である場合が含まれる。
本発明によれば、コネクタ端子のタブ部や箱部の成形に適した特殊な結晶配向をもつ銅合金板材を加工素材に使用しているため、小型・軽量化による厳しい加工を経たコネクタ端子において加工部に割れがなく、かつ寸法精度に優れたものが提供される。すなわち、従来のコネクタ端子には使用できなかった高強度材の薄板をコネクタ端子の材料として使用することが可能となり、これまでにない小型で軽量なコネクタ端子が実現できる。また上記の結晶配向をもつ銅合金は優れた曲げ加工性を有するため、結晶粒サイズを5〜60μm程度まで大きくすることができ、これにより雌型コネクタ端子では、バネ部の信頼性の指標となる材料の耐応力緩和特性を大きく改善したものが提供される。したがって本発明のコネクタ端子は、電気・電子機器の小型・軽量化、設計自由度の向上および電気的信頼性の向上に寄与しうる。
《集合組織》
本発明では、コネクタ端子の加工素材として、特異な結晶配向の集合組織に調整されたる銅合金板材を使用する。
銅合金板材の板面(圧延面)からのX線回折パターンは、一般に{111}、{200}、{220}、{311}の4つの結晶面の回折ピークで構成され、他の結晶面からのX線回折強度はこれらの結晶面からのものに比べ非常に小さい。しかしながら発明者らは、{420}を主方位成分とする集合組織を持つ銅合金板材が得られること見出し、特願2007−032623、特願2007−071550、特願2007−147465および特願2007−157935(以下、これらを「先願」ということがある)においてその詳細な製造方法を明らかにした。発明者らの詳細な検討によれば、この{420}を主方位成分とする集合組織が強く発達しているほど、コネクタ端子のタブ部や箱部の成形には都合が良く、そのメカニズムについては以下のように考えている。
結晶のある方向に外力が加えられたときの塑性変形(すべり)の生じやすさを示す指標としてシュミット因子がある。結晶に加えられる外力の方向と、すべり面の法線とのなす角度をφ、結晶に加えられる外力の方向と、すべり方向とのなす角度をλとするとき、シュミット因子はcosφ・cosλで表され、その値は0.5以下の範囲をとる。シュミット因子が大きいほど(すなわち0.5に近いほど)すべり方向へのせん断応力が大きいことを意味する。したがって、ある結晶にある方向から外力を付与したとき、シュミット因子が大きいほど(すなわち0.5に近いほど)、その結晶は変形しやすいことになる。本発明で対象としている銅合金の結晶構造は面心立方(fcc)である。面心立方晶のすべり系は、すべり面{111}、すべり方向<110>であり、実際の結晶においてもシュミット因子が大きいほど変形しやすく加工硬化も小さくなることが知られている。
図3に、面心立方晶のシュミット因子の分布を表した標準逆極点図を示す。<120>方向のシュミット因子は0.490であり、0.5に近い。すなわち、<120>方向に外力が付与された場合、面心立方晶は非常に変形しやすい。その他の方向のシュミット因子は、<100>方向が0.408、<113>方向が0.445、<110>方向が0.408、<112>方向が0.408、<111>方向が0.272である。
{420}を主方位成分とする集合組織は、{420}面すなわち{210}面が板面(圧延面)とほぼ平行である結晶の存在割合が多い集合組織を意味する。主方位面が{210}面である結晶では、板面に垂直な方向(ND)が<120>方向であり、そのシュミット因子は0.5に近いから、NDへの変形は非常に容易であり加工硬化も小さい。一方、従来からコネクタ端子に使用されている各系の銅合金の一般的な圧延集合組織は{220}を主方位成分とするものであり、この場合、{220}面すなわち{110}面が板面(圧延面)とほぼ平行である結晶の存在割合が多い。主方位面が{110}面である結晶は、NDが<110>方向であり、そのシュミット因子は0.4程度であるから、主方位面が{210}面である結晶と比較してNDへの変形に伴う加工硬化が大きくなる。また、従来からコネクタ端子に使用されている各系の銅合金の一般的な再結晶集合組織は{311}を主方位成分とするものである。主方位面が{311}面である結晶は、NDが<113>方向であり、そのシュミット因子は0.45程度であるから、主方位面が{210}面である結晶と比較するとやはりNDへの変形に伴う加工硬化が大きくなる。
「ノッチング後曲げ加工法」においては、板面に垂直な方向(ND)への変形に際しての加工硬化の程度が極めて重要である。ノッチングはまさにNDへの変形であり、ノッチングによって板厚が減少した部分の加工硬化の程度が、その後、ノッチに沿って曲げた場合の曲げ加工性を大きく支配するからである。(1)式を満たすような{420}を主方位成分とする集合組織の場合、従来の銅合金の圧延集合組織あるいは再結晶集合組織と比べて、ノッチングによる加工硬化が小さくなり、これが「ノッチング後曲げ加工法」における曲げ加工性を顕著に向上させる要因となっていると考えられる。
さらに、(1)式を満たすような{420}を主方位成分とする集合組織の場合、主方位面が{210}面である結晶において、板面内つまり{210}面内に、別の<120>方向と<100>方向があり、これらは互いに直交する。実際には、圧延方向(LD)が<100>方向、圧延方向に対して直角方向(TD)が<120>方向であることが確かめられている。具体的な結晶方向で例示すると、例えば主方位面が(120)面である結晶では、LDが[001]方向、TDが[−2,1,0]方向である。このような結晶のシュミット因子は、LDが0.408、TDが0.490である。これに対し、従来一般的な銅合金の圧延集合組織のように主方位面が{110}面である結晶の場合、LDが<112>方向、TDが<111>方向であり、そのシュミット因子は、LDが0.408、TDが0.272である。また、従来一般的な銅合金の再結晶集合組織のように主方位面が{113}面である結晶の場合、LDが<112>方向、TDが<110>方向であり、そのシュミット因子は、LDが0.408、TDが0.408である。このように、LDおよびTDのシュミット因子を見ると、{420}を主方位成分とする集合組織の場合、従来の銅合金の圧延集合組織あるいは再結晶集合組織と比べて、板面内における変形が容易であると言える。この点も、ノッチング後の曲げ加工における割れを防止する上で有利に作用していると考えられる。
金属板の曲げ加工においては、各結晶粒の結晶方位は異なるので、一様に変形するのではなく、曲げ加工時に変形しやすい結晶粒と変形しにくい結晶粒が存在する。曲げ加工の程度が増大するに伴って、変形しやすい結晶粒がますます優先的に変形し、板の曲げ部表面には結晶粒間での変形不均一に起因してミクロ的な凹凸が生じ、これがしわに発展し、場合によっては割れ(破壊)に至る。上述のように(1)式を満たすような集合組織を持つ金属板は、従来のものと比べ、各結晶粒がNDに変形しやすく、かつ板面内にも変形しやすくなっている。このことが、結晶粒を特段に微細化しなくても、ノッチング後の曲げ加工性および通常の曲げ加工性の顕著な向上をもたらしているものと推察される。
発明者らの検討によれば、このような結晶配向は下記(1)式によって特定できる。
I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。面心立方晶のX線回折パターンでは{420}面の反射は生じるが{210}面の反射は生じないので、{210}面の結晶配向は{420}面の反射によって評価される。下記(1)’式を満たすものが一層好ましい。
I{420}/I0{420}>1.5 ……(1)’
{420}を主方位成分とする集合組織は前記の先願に開示したように溶体化処理による再結晶集合組織として形成される。ただし、銅合金板材を高強度化するためには、溶体化処理後に冷間圧延することが極めて有効である。この冷間圧延としては中間冷間圧延と仕上げ冷間圧延が適用されるが、これらの冷間圧延率が増加するに伴い{220}を主方位成分とする圧延集合組織が発達していく。{220}方位密度の増大に伴い{420}方位密度は減少するが、前記(1)式好ましくは(1)’式が維持されるように圧延率を調整すればよい。ただし、あまり{220}を主方位成分とする集合組織が発達しすぎると加工性低下を招く場合があるので、下記(2)式を満たすことが好ましい。また、「強度」と「曲げ加工性」を高いレベルでバランス良く両立させる意味では、下記(2)’式を満たすことが一層好ましい。
I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)
0.5≦I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)’
ここで、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I0{220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。
《平均結晶粒径》
平均結晶粒径は小さいほど曲げ加工性の向上に有利であるが、小さすぎると耐応力緩和特性が悪くなりやすい。種々検討の結果、最終的に平均結晶粒径が5μm以上の値、好ましくは10μmを超える値であれば、車載用コネクターの用途でも満足できるレベルの耐応力緩和特性を確保しやすく、好適である。ただし、あまり平均結晶粒径が大きくなりすぎると曲げ部表面の肌荒を起こりやすく、曲げ加工性の低下を招く場合があるので、60μm以下の範囲とすることが望ましい。15〜40μmの範囲にあることがより好ましい。
《組成》
本発明のコネクタ端子には、Cu−Ni−Si系(いわゆるコルソン合金)、Cu−Ni−Sn−P系、Cu−Be系(いわゆるベリ銅)、Cu−Ti系(いわゆるチタン銅)などの成分系のものが使用できるが、(1)式を満たす結晶配向を有するfcc型銅合金であれば、上記に限らず使用できる。各成分元素の含有量範囲は前述のとおりであり、その詳細は前記の先願に開示されている。
《銅合金板材の製造》
本発明のコネクタ端子に適用できる前記の特異な結晶配向を有する銅合金板材は、例えば以下のような製造工程で製造することができる。
・Cu−Ni−Si系
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→溶体化処理→中間冷間圧延→時効処理→仕上げ冷間圧延→低温焼鈍」
・Cu−Ni−Sn−P系
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→再結晶焼鈍→(時効処理)→仕上げ冷間圧延→(低温焼鈍)」
・Cu−Be系
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→溶体化処理→仕上げ冷間圧延→(時効処理)」
・Cu−Ti系
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→溶体化処理→仕上げ冷間圧延→時効処理」
各工程のうち、特に熱間圧延、溶体化処理前の冷間圧延(Cu−Ni−Sn−P系では再結晶焼鈍前の冷間圧延)、溶体化処理(Cu−Ni−Sn−P系では再結晶焼鈍)、および溶体化処理後の冷間圧延(Cu−Ni−Sn−P系では再結晶焼鈍後の冷間圧延)の工程に工夫を加えることによって前記特異な結晶配向をもつ板材を作り分けることができる。それ以外の工程は常法に従えばよい。具体的な製造方法は上記の先願に詳しく開示されているが、特徴的な工程についてまとめると以下のとおりである。
〔熱間圧延〕
通常、前記各系の銅合金の熱間圧延は、圧延途中に析出物を生成させないようにするため、700℃以上、あるいは750℃以上の高温域で圧延し、圧延終了後に急冷する手法で行われる。しかしながら、このような常識的な熱間圧延条件では本発明で適用可能な特異な集合組織を有する銅合金板材を製造することは困難である。すなわち、このような熱間圧延条件を採用した場合は、後工程の条件を広範囲に変化させても{420}を主方位方向に持つ銅合金板材を再現性良く製造することができない。発明者の詳細な検討の結果、700℃以上の温度域で最初の圧延パスを実施し、かつ700℃未満〜400℃の温度域(Cu−Ti系では700℃未満〜500℃)の温度域で圧延率40%以上(Cu−Ti系では30%以上)の圧延を行うという熱間圧延条件を採用することが重要である。
鋳片を熱間圧延する際、再結晶が発生しやすい700℃より高温域で最初の圧延パスを実施することによって、鋳造組織が破壊され、成分と組織の均一化を図ることができる。ただし、あまり高温で圧延を行うと、合金成分の偏析箇所など、融点が低下している箇所で割れを生じる恐れがあるので好ましくない。熱間圧延工程中における完全再結晶の発生を確実に行うためには、固相線温度より30℃以上低い温度域で最初の圧延パスを行う。そして、700℃以上の温度域で圧延率60%以上の圧延を行うことが極めて有効である。これによって組織の均一化が一層促進される。ただし、1パスで60%を得るためには大きな圧延荷重が必要であるため、多パスに分けてトータル60%以上の圧延率を確保しても良い。また、本発明では圧延歪が生じやすい700℃未満〜400℃の温度域(Cu−Ti系では700℃未満〜500℃)で40%以上(Cu−Ti系では30%以上)の圧延率を確保することが重要である。これにより、一部の析出物を生成させ、後工程の「冷間圧延+溶体化処理」の組み合わせによって、{420}を主方位成分とする再結晶集合組織が形成されやすくなる。この際も、700℃未満の上記温度域で数パスの圧延を行うことができる。熱間圧延の最終パス温度は600℃以下とすることがより効果的である。熱間圧延でのトータル圧延率は概ね80〜97%程度とすればよい。
ここで、それぞれの温度域での圧延率ε(%)は(3)式によって算出される。
ε=(t0−t1)/t0×100 ……(3)
例えば950〜700℃の間で行う最初の圧延パスに供する鋳片の板厚が120mmであり、700℃以上の温度域で圧延を実施して(途中、炉に戻して再加熱しても構わない)、700℃以上の温度で実施された最後の圧延パス終了時に板厚が30mmになっており、引き続いて圧延を継続して、熱間圧延の最終パスを700℃未満〜400℃の範囲で行い、最終的に板厚10mmの熱間圧延材を得たとする。この場合、950℃〜700℃の温度域で行われた圧延の圧延率は(3)式により、(120−30)/120×100=75(%)である。また、700℃未満〜400℃の温度域での圧延率は同じく(3)式により、(30−10)/30×100=66.7(%)である。
〔溶体化処理前の冷間圧延(Cu−Ni−Sn−P系では再結晶焼鈍前の冷間圧延)〕
上記熱延板を圧延するに際し、この段階で行う冷間圧延では圧延率を85%以上(Cu−Be系、Cu−Ti系では80%以上)とすることが重要であり、90%以上とすることがより好ましい。このような高い圧延率で加工された材料に対し、次工程で溶体化処理または再結晶焼鈍を施すことにより、{420}を主方位成分とする再結晶集合組織の形成が可能になる。特に再結晶集合組織は再結晶前の冷間圧延率に大きく依存する。具体的には、{420}を主方位成分とする結晶配向は、この工程の冷間圧延率が60%以下ではほとんど生成せず、約60〜80%の領域では冷間圧延率の増加に伴って漸増し、冷間圧延率が約80%を超えると急激な増加に転じる。{420}方位が十分に優勢な結晶配向を得るには上記の高い冷間圧延率を確保する必要がある。なお、冷間圧延率の上限はミルパワー等により必然的に制約を受けるので、特に規定する必要はないが、エッジ割れなどを防止する観点から概ね98%以下で良好な結果が得られやすい。
なお、熱間圧延後、溶体化処理または再結晶焼鈍前に、中間焼鈍を挟んで1回ないし複数回の冷間圧延を実施する工程は採用しない。熱間圧延後、溶体化処理前に中間焼鈍が行われると、溶体化処理によって形成される{420}を主方位成分とする再結晶集合組織が著しく弱化してしまう。
〔溶体化処理(Cu−Ni−Sn−P系では再結晶焼鈍)〕
従来の溶体化処理は「溶質元素のマトリックス中への再固溶」と「再結晶化」を主目的とし、従来の再結晶焼鈍は「再結晶化」を主目的とするが、本発明の場合は更に「{420}を主方位成分とする再結晶集合組織の形成」をも重要な目的とする。この熱処理は、700〜850℃(Cu−Ni−Sn−P系では600〜750℃、Cu−Be系では700〜900℃)の炉温で行うことが望ましい。温度が低すぎると再結晶が不完全で溶体化処理の場合は溶質元素の固溶も不十分となる。温度が高すぎると結晶粒が粗大化してしまう。これらいずれの場合も、最終的に曲げ加工性の優れた高強度材を得ることが困難となる。
また、この溶体化処理は、再結晶粒の平均粒径(双晶境界を結晶粒界とみなさない)が5〜60μmとなるように熱処理温度・時間を設定して熱処理を実施することが望ましく、10〜60μmとなるように調整することがより好ましく、15〜40μmとすることが一層好ましい。再結晶粒径が微細になりすぎると、{420}を主方位成分とする再結晶集合組織が弱くなる。また、耐応力緩和特性を向上させる上でも不利となる。再結晶粒径が粗大になりすぎると、曲げ加工部の表面肌荒が発生し易い。再結晶粒径は、溶体化処理前の冷間圧延率や化学組成によって変動するが、予め実験によりそれぞれの合金について溶体化処理ヒートパターンと平均結晶粒径との関係を求めておくことにより、熱処理条件を設定することができる。具体的には、上記温度範囲に保持する時間は、溶体化処理の場合は10秒〜10分程度、再結晶焼鈍の場合は数秒〜数時間の範囲で最適な条件を見つけることができる。
〔溶体化処理後の冷間圧延(Cu−Ni−Sn−P系では再結晶焼鈍後の冷間圧延)〕
この段階での冷間圧延によって、強度レベルの向上を図る。ただし、冷間圧延率の増大に伴い{220}を主方位成分とする圧延集合組織が発達していく。圧延率が高すぎると{220}方位の圧延集合組織が相対的に優勢となりすぎ、強度と曲げ加工性が高レベルで両立された結晶配向が実現できない。発明者らの詳細な研究の結果、この段階での冷間圧延は圧延率0〜50%の範囲(Cu−Ni−Sn−P系では30〜80%、Cu−Be系では0〜65%)で行うことが重要である。それによって、前記(1)式を満たす結晶配向を維持することができる。なお、ここで「圧延率0%」は、圧延を行わない場合を意味する。
《コネクタ端子への加工》
本発明のコネクタ端子は、上述の特異な結晶配向を有する銅合金板材(リフローSnめっき等の表面処理を施したものであっても構わない)を被加工材に用いて、例えば連続プレス成形により製造される。プレスとは、一般に上下一対の金型を用い、金型間に被加工材を挟んで成形加工する加工法である。連続プレス成形とは、複数台の独立したプレスを連続して配置しその間に被加工材を搬送する送り装置を配置したタンデムプレスや、複数台のプレスと送り装置を一体化したトランスファプレスを用いて、型抜き、ノッチング、曲げといった複数工程の加工を連続して行い、端子を成形する方法である。
図1に、銅合金板材の条を連続プレス成形することによりコネクタ端子部分を形成した段階の中間製品の形状を模式的に示す。各々のコネクタ端子部分10はまだパイロット部11でつながっている。このコネクタ端子は雌型であり、各端子は箱部21と圧着部22を有している。箱部21は箱曲げ部31の部分で折り曲げられることによって形成され、箱部21の内部にはバネ部32がある。コネクタ端子を連続プレス成形する場合、この図に示されるように、コネクタ端子の長手方向が被加工材である銅合金板材の条の長手方向(LD)に対して直角方向(TD)になるように配置されることが多い(いわゆる「横連鎖方式」)。このほか、コネクタ端子の長手方向がLDに一致するような配置で連続プレス成形を行うこともある(いわゆる「縦連鎖方式」)。
雄型コネクタ端子のタブ部や雌型コネクタ端子の箱部を成形する場合には、その曲げ加工に「ノッチング後曲げ加工法」を適用する。横連鎖方式でコネクタ端子を成形する場合、端子のタブ部や箱部を形成するための曲げ加工に必要なノッチの方向(すなわち溝に対して平行な方向)はTDとなり、被加工材の強度にもよるが、板厚に対して1/7〜1/2の深さのノッチを入れることにより、端子のタブ部や箱部を寸法精度良く成形することができる。
上述の特異な結晶配向に調整された銅合金板材を被加工材として使用すれば、例えば板厚0.08〜0.30mmといった薄い板材を用いて割れを発生させることなくコネクタ端子のタブ部や箱部を成形することが可能であり、従来の銅合金板材では安定して健全な部品に成形できなかったような小型のコネクタ端子を得ることができる。
表1、表2示す組成を有する板厚0.15mmの銅合金板材を、前記「銅合金板材の製造」で述べた条件を満たす手法(本発明例)、およびその条件を外れる手法により製造した。表1、表2中に記載の元素の残部はCuである。これら板材の特性は以下の通り評価を行い求めた。なお、表2中、引張強さ、曲げ加工性および応力緩和率の欄において、LDおよびTDは試験片の長手方向を意味する。
Figure 2009035775
Figure 2009035775
〔結晶粒組織〕
供試材の板面(圧延面)を研磨したのちエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察し、平均結晶粒径をJIS H0501の切断法で測定した。
〔X線回折強度〕
供試材の板面(圧延面)を#1500耐水ペーパーで研磨仕上げとした試料を準備し、X線回折装置(XRD)を用いて、Mo−Kα線、管電圧20kV、管電流2mAの条件で、前記研磨仕上げ面について{420}面の反射回折面強度を測定した。一方、上記と同じX線回折装置を用いて、上記と同じ測定条件で純銅標準粉末の{420}面のX線回折強度を測定した。これらの測定値を用いて前記(1)式中に示されるX線回折強度比I{420}/I0{420}と、(2)式中に示されるX線回折強度比I{220}/I0{220}を求めた。
〔導電率〕
JIS H0505に従って導電率を測定した。
〔引張強さ〕
各板材からLDの引張試験片(JIS 5号)を採取し、試験数n=3でJIS Z2241に準拠した引張試験を行い、n=3の平均値によって引張強さを求めた。
〔応力緩和特性〕
各供試材から長手方向がTDの曲げ試験片(幅10mm)を採取し、試験片の長手方向における中央部の表面応力が0.2%耐力の80%の大きさとなるようにアーチ曲げした状態で固定した。上記表面応力は次式により定まる。
表面応力(MPa)=6Etδ/L0 2
ただし、
E:弾性係数(MPa)
t:試料の厚さ(mm)
δ:試料のたわみ高さ(mm)
この状態の試験片を大気中150℃の温度で1000時間保持した後の曲げ癖から次式を用いて応力緩和率を算出した。
応力緩和率(%)=(L1−L2)/(L1−L0)×100
ただし、
0:治具の長さ、すなわち試験中に固定されている試料端間の水平距離(mm)
1:試験開始時の試料長さ(mm)
2:試験後の試料端間の水平距離(mm)
この応力緩和率が5%以下のものは、車載用コネクターとして高い耐久性を有すると評価される。
〔曲げ加工性〕
各供試材から長手方向がLDの曲げ試験片およびTDの曲げ試験片(いずれも幅10mm)を採取し、JIS H3110に準拠した90°W曲げ試験を行った。試験後の試験片について曲げ加工部の表面および断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、割れが発生しない最小曲げ半径Rを求め、これを供試材の板厚tで除することによりLD、TDそれぞれのR/t値を求めた。各供試材のLD、TDともn=3で実施し、n=3のうち最も悪い結果となった試験片の成績を採用してR/t値を表示した。
各銅合金板材にリフローSnめっき(めっき厚1.0μm,Cu下地層厚さ0.7μm)を施したものから、図1に示す形状の雌型コネクタ端子(口径0.64mm)を連続プレスにて横連鎖方式で作製した。ただし、雌型コネクタ端子の箱曲げ部では、曲げ加工前に図2に示す断面形状で深さ30μmのノッチング(溝付け)を行った後、曲げ加工を実施した。また、この雌型コネクタ端子に雄型コネクタ端子を挿入した際のバネ荷重が4Nとなるように、バネ部と箱部との間を調整した。なお、このリフローSnめっき後の銅合金板材については、金属組織(X線回折強度比および平均結晶粒径)がリフローSnめっき前と変わらないことを確認している。
〔コネクタ端子の成形性〕
得られた雌型コネクタ端子の箱曲げ部の表面および断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、割れの有無を判断し、割れが認められないものを「〇」、割れが認められたものを「×」と表示した。なお、箱曲げ部で破断したものは「破」と表示した。調査はn=3で実施し、n=3のうち最も悪い結果となったコネクタ端子の成績を採用して「○」、「×」、「破」の評価を行い、これが○評価のものを合格と判定した。
〔複合環境試験〕
コネクタ端子の電気的信頼性を評価するため、複合環境試験を実施した。板厚0.15mmのC2600リフローSnめっき材(めっき厚1.0μm、Cu下地層厚さ0.7μm)で作製した雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子を嵌合し、「80℃×30分保持→−40℃×30分保持」を1サイクルとし、前記2水準のそれぞれの保持温度において加速度3G、掃引周波数50Hzで振動を与える複合環境試験を1000サイクル実施した。この試験終了後端子嵌合部の接触抵抗を測定した。その結果を表3、表4に示す。ただし、端子加工時に箱曲げ部で破断し、端子形状に成形できなかったものについては、本試験を実施しておらず、表には未実施と記入した。
これらの結果を表3、表4に示す。
Figure 2009035775
Figure 2009035775
表3からわかるように、本発明例は(1)式を満たす結晶配向を有し、引張強さが600MPa以上という高強度を呈する銅合金板材を被加工材として採用したものであり、雌型コネクタ端子の箱曲げ部での割れは確認されない。さらに、車載用コネクタ等の用途において重要となるTDの応力緩和率が5%以下という優れた特性を兼ね備えた銅合金板材を使用しているため、得られたコネクタ端子は複合環境試験後も1mΩ以下の低い接触抵抗を示し、長期に渡って高い電気的信頼性を有するものである。
これに対し、表4に示されるように、比較例は平均結晶粒径または(1)式の規定を外れる銅合金板材を被加工材として採用したものであり、全ての比較例の雌型コネクタ端子箱曲げ部において割れが確認され、さらに一部の比較例では箱曲げ部が破断して端子形状を保てないものもあった。更に複合環境試験後の接触抵抗は、箱曲げ部の割れのために箱部が試験終了時点で開きかけたため、また応力緩和率が5%以上と高いために、全ての端子において4mΩを超えており、満足できる電気的信頼性は得られなかった。
銅合金板材の条を連続プレス成形することによりコネクタ端子部分を形成した段階の中間製品の形状を模式的に示す図。 実施例において箱曲げ加工を行う部位に形成したノッチの断面形状を示す図。 面心立方晶のシュミット因子の分布を表す標準逆極点図。
符号の説明
10 コネクタ端子部分
11 パイロット部
21 箱部
22 圧着部
31 箱曲げ部
32 バネ部

Claims (10)

  1. 下記(1)式を満たす結晶配向を有し、平均結晶粒径が5〜60μmである銅合金板材を加工してなるコネクタ端子。
    I{420}/I0{420}>1.0 ……(1)
    ここで、I{420}は当該銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度、I0{420}は純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度である。
  2. 前記銅合金板材は、さらに下記(2)式を満たす結晶配向を有するものである請求項1に記載のコネクタ端子。
    I{220}/I0{220}≦3.0 ……(2)
    ここで、I{220}は当該銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度、I0{220}は純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度である。
  3. 前記銅合金板材が質量%で、Ni:0.7〜4.2%、Si:0.2〜1%、残部実質的にCuの組成を有する銅合金からなるものである請求項1または2に記載のコネクタ端子。
  4. 前記銅合金は、さらにFe、Zn、Mg、Sn、Co、Cr、Be、Zr、Ti、Mn、V、Ag、P、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有する請求項3に記載のコネクタ端子。
  5. 前記銅合金板材が質量%で、Ni:0.1〜5%、Sn:0.1〜5%、P:0.01〜0.5%、残部実質的にCuの組成を有する銅合金からなるものである請求項1または2に記載のコネクタ端子。
  6. 前記銅合金は、さらにFe、Zn、Mg、Si、Co、Cr、Be、Zr、Ti、Mn、V、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有する請求項5に記載のコネクタ端子。
  7. 前記銅合金板材が質量%で、Be:0.1〜5%、Ni:0.1〜2.5%、残部実質的にCuの組成を有する銅合金からなるものである請求項1または2に記載のコネクタ端子。
  8. 前記銅合金は、さらにFe、Zn、Mg、Co、Cr、Be、Zr、Sn、Ti、Mn、V、P、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有する請求項7に記載のコネクタ端子。
  9. 前記銅合金板材が質量%で、Ti:0.1〜5%、残部実質的にCuの組成を有する銅合金からなるものである請求項1または2に記載のコネクタ端子。
  10. 前記銅合金は、さらにAl、Ni、Si、Fe、Zn、Sn、Co、Cr、Be、Zr、Mn、V、P、Bの1種以上を合計3%以下の範囲で含有する請求項9に記載のコネクタ端子。
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