以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係るトナーは、静電荷像の現像に用いることができる。本実施形態のトナーは、多数の粒子(以下、トナー粒子と記載する)から構成される粉体である。本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)で用いることができる。
電子写真装置では、トナーを含む現像剤を用いて静電荷像を現像する。これにより、感光体上に形成された静電潜像に、帯電したトナーが付着する。そして、付着したトナーを転写ベルトに転写した後、さらに転写ベルト上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、トナーを加熱して、記録媒体にトナーを定着させる。これにより、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、コア(トナーコア)と、トナーコアの表面に形成されたシェル層(カプセル層)とを有する。シェル層の表面に外添剤が付着していてもよい。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されてもよい。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。以下、外添剤が付着する前のトナー粒子を、トナー母粒子と記載する。
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(1)及び(2)を有する。
(1)シェル層が、窒素元素を含有する熱硬化性樹脂を含む。
(2)トナーに含まれるトナー粒子のうち80個数%以上のトナー粒子の各々は、トナー粒子の断面におけるトナー粒子の表層部を周方向に分割した領域から無作為に選ばれた100箇所の領域(それぞれ、トナー粒子の周方向の長さ50nmの辺と周方向に直交するトナー粒子の深さ方向の長さ10nmの辺とを有する長方形領域)の各々をEELS(電子エネルギー損失分光法)分析した場合に、100箇所の領域の各々について得られた、窒素元素に由来する吸収強度の測定値の、平均値に対する標準偏差の比率(以下、EELS変動係数と記載する)が0.1以下である。なお、トナー粒子の周方向は、シェル層が形成されている部分ではシェル層の表面に沿った方向に相当し、シェル層が形成されていない部分ではトナーコアの表面に沿った方向に相当する。以下、EELS変動係数が0.1以下であるトナー粒子を、適合粒子と記載する。
構成(1)は、トナーの耐熱保存性を向上させるために有益である。トナーの耐熱保存性を向上させるためには、トナーコアに含まれる樹脂のうち、80質量%以上の樹脂が熱硬化性樹脂であることが好ましく、90質量%以上の樹脂が熱硬化性樹脂であることがより好ましく、100質量%の樹脂が熱硬化性樹脂であることがさらに好ましい。
以下、図1〜図3を参照して、構成(2)におけるEELS変動係数の測定方法の一例について説明する。図1には、トナーコア11と、トナーコア11の表面に形成されたシェル層12とを有するトナー粒子が示されている。図2には、図1に示すトナー粒子の1箇所の表層部(領域R)が拡大されて示されている。なお、図1に示されるトナー粒子では、トナーコア11の表面全域がシェル層12で覆われている。しかしこれに限られず、トナーコア11の一部又は複数の部分がシェル層12で覆われず露出していてもよい。
まず、トナー粒子の断面におけるトナー粒子の表層部を周方向に分割した領域から、無作為に100箇所の領域を選んで、選ばれた領域の各々を測定領域として設定する。例えば図2に示すような領域1、2、3を含む100箇所の領域が、測定領域として設定される。100箇所の測定領域はそれぞれ、トナー粒子の周方向の長さ50nmの辺(以下、周方向の辺と記載する)と、トナー粒子の周方向に直交するトナー粒子の深さ方向の長さ10nmの辺(以下、深さ方向の辺と記載する)とによって区画される10nm×50nmの長方形領域である。周方向の辺は、トナー粒子の表面に略沿った線分である。深さ方向の辺は、トナー粒子の表面からトナー粒子の内部に向かう線分である。例えば、図2に示す領域1は、周方向の辺D1と、深さ方向の辺D2とによって区画されている。
続けて、電子エネルギー損失分光法(EELS)検出器(例えば、ガタン社製「GIF TRIDIEM(登録商標)」)を用いて、各測定領域について窒素元素に由来するN−K殻吸収端のEELS強度(以下、N−EELS強度と記載する)を測定する。続けて、トナー粒子の上記100箇所の領域(それぞれ測定領域)の各々について、N−EELS強度を求める。そして、得られた100個のN−EELS強度の、個数平均値(以下、EELS平均値と記載する)と標準偏差(以下、EELS標準偏差と記載する)とを求める。また、式「EELS変動係数=EELS標準偏差/EELS平均値」に基づいて、トナー粒子のEELS変動係数を求める。上記のようにして、トナーに含まれる所定の数(例えば、100個)のトナー粒子(以下、測定対象のトナー粒子と記載する)の各々について、EELS変動係数を求める。
次に、測定対象のトナー粒子(例えば、100個のトナー粒子)のうち、EELS変動係数が0.1以下であるトナー粒子(適合粒子)の割合(個数%)を求める。詳しくは、例えば図3に示すように、測定対象のトナー粒子の各々について、EELS変動係数が0.1以下であるか否かを判定し、適合粒子(EELS変動係数が0.1以下であるトナー粒子)の数を求める。そして、式「適合粒子の割合(個数%)=100×適合粒子の数/測定対象のトナー粒子の数」で示される適合粒子の割合が80個数%以上であるトナーは、構成(2)を有することになる。
トナーが、構成(1)に加えて構成(2)も有することで、トナーの耐熱保存性と低温定着性との両立が可能になる。
詳しくは、トナーコアの表面にシェル層が均一に形成されない場合には、トナーの耐熱保存性と低温定着性との両立が困難であることを、発明者が見出した。例えば、シェル層の形成に先立ち、水系媒体中の分散剤、又はトナーコア中の結着樹脂(例えば、ポリエステル樹脂)もしくは離型剤(例えば、ワックス)が、トナーコアの表面で熱可塑性樹脂のドメインを形成した場合には、トナーコアの表面にシェル層(特に、熱硬化性樹脂を含むシェル層)が均一に形成されにくい。そして、トナーコアの表面がシェル層によって十分覆われない場合、耐熱保存性に優れるトナーが得られにくくなる。また、熱可塑性樹脂のドメインが存在するトナーコアの表面をシェル層で完全に覆うために、厚すぎるシェル層でトナーコアの表面を覆った場合には、低温定着性に優れるトナーが得られにくくなる。
EELS変動係数(=標準偏差/平均値)が小さくなるほどシェル層の厚さの均一性が高くなる傾向がある。構成(1)及び(2)を有するトナーでは、トナーコアの表面にシェル層が均一に形成されていることを、EELS分析により確認できる。また、トナーにおける適合粒子(トナーコアの表面にシェル層が均一に形成されたトナー粒子)の割合が80個数%以上になることで、薄いシェル層でトナーの耐熱保存性を十分に確保することが可能になり、トナーの耐熱保存性と低温定着性との両立が可能になる。例えば、分散剤の使用量を低減し、又はシェル層形成時におけるトナーコアの表面状態を改善することで、構成(1)及び(2)を有するトナーを製造できる。
本実施形態に係るトナーにおいて、トナーコアがアニオン性を有し、シェル層の材料(以下、シェル材料と記載する)がカチオン性を有する場合には、シェル層の形成時にカチオン性のシェル材料をトナーコアの表面に引き付けることが可能になる。詳しくは、例えば水系媒体中で負に帯電するトナーコアに、水系媒体中で正に帯電するシェル材料が電気的に引き寄せられ、例えばin−situ重合によりトナーコアの表面にシェル層が形成されると考えられる。シェル材料がトナーコアに引き寄せられることで、分散剤を用いずとも、トナーコアの表面に均一なシェル層を形成し易くなると考えられる。
以下、トナーコア(結着樹脂及び内添剤)、シェル層、及び外添剤について、順に説明する。なお、トナーの用途に応じて必要のない成分(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、又は磁性粉)を割愛してもよい。
[トナーコア]
トナーコアは結着樹脂を含む。また、トナーコアは、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉)を含んでもよい。
(トナーコアの結着樹脂)
トナーコアにおいては、トナーコア成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占めることが多い。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。例えば、結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基、アミン、又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。結着樹脂が強いアニオン性を有するためには、結着樹脂の水酸基価(OHV値)及び酸価(AV値)がそれぞれ10mgKOH/g以上であることが好ましく、20mgKOH/g以上であることがより好ましい。トナーコアが強いアニオン性を有するためには、トナーコアが窒素元素を含有しないことが好ましい。
結着樹脂としては、エステル基、水酸基、エーテル基、酸基、メチル基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基を有する樹脂が好ましく、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂がより好ましい。このような官能基を有する結着樹脂は、シェル材料(例えば、メチロールメラミン)と反応して化学的に結合し易い。こうした化学的な結合が生じると、トナーコアとシェル層との結合が強固になる。また、結着樹脂としては、活性水素を含む官能基を分子中に有する樹脂も好ましい。
結着樹脂のガラス転移点(Tg)は、シェル材料の硬化開始温度以下であることが好ましい。こうしたTgを有する結着樹脂を用いる場合には、高速定着時においてもトナーの定着性が低下しにくいと考えられる。
結着樹脂のTgは、例えば示差走査熱量計を用いて測定できる。より具体的には、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて試料(結着樹脂)の吸熱曲線を測定することで、得られた吸熱曲線における比熱の変化点から結着樹脂のTgを求めることができる。
結着樹脂の軟化点(Tm)は100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましい。結着樹脂のTmが100℃以下(より好ましくは95℃以下)であることで、高速定着時においてもトナーの定着性が低下しにくくなる。また、結着樹脂のTmが100℃以下(より好ましくは95℃以下)である場合には、水系媒体中でトナーコアの表面にシェル層を形成する際に、シェル層の硬化反応中にトナーコアが部分的に軟化し易くなるため、トナーコアが表面張力により丸みを帯び易くなる。なお、異なるTmを有する複数の樹脂を組み合わせることで、結着樹脂のTmを調整することができる。
結着樹脂のTmは、例えば高化式フローテスターを用いて測定できる。より具体的には、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)に試料(結着樹脂)をセットし、所定の条件で結着樹脂を溶融流出させる。そして、結着樹脂のS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)を測定する。得られたS字カーブから結着樹脂のTmを読み取ることができる。得られたS字カーブにおいて、ストロークの最大値(mm)をS1とし、低温側のベースラインのストローク値(mm)をS2とすると、S字カーブ中のストロークの値が「(S1+S2)/2」となる温度(℃)が、測定試料(結着樹脂)のTmに相当する。
結着樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。結着樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂)、ビニル系樹脂(より具体的には、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ビニルエーテル樹脂、又はN−ビニル樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレンアクリル系樹脂、又はスチレンブタジエン系樹脂のような熱可塑性樹脂を好適に使用できる。中でも、スチレンアクリル系樹脂及びポリエステル樹脂はそれぞれ、トナー中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、及び記録媒体に対するトナーの定着性に優れる。
以下、結着樹脂として用いることのできるスチレンアクリル系樹脂について説明する。なお、スチレンアクリル系樹脂は、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合体である。
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、又はp−エチルスチレンを好適に使用できる。
アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを好適に使用できる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルを好適に使用できる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシプロピルを好適に使用できる。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、水酸基を有するモノマー(例えば、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル)を用いることで、スチレンアクリル系樹脂に水酸基を導入できる。また、水酸基を有するモノマーの使用量を調整することで、得られるスチレンアクリル系樹脂の水酸基価を調整できる。
スチレンアクリル系樹脂を調製する際に、(メタ)アクリル酸(モノマー)を用いることで、スチレンアクリル系樹脂にカルボキシル基を導入できる。また、(メタ)アクリル酸の使用量を調整することで、得られるスチレンアクリル系樹脂の酸価を調整することができる。
結着樹脂がスチレンアクリル系樹脂である場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、スチレンアクリル系樹脂の数平均分子量(Mn)が2000以上3000以下であることが好ましい。スチレンアクリル系樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は10以上20以下であることが好ましい。スチレンアクリル系樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
以下、結着樹脂として用いることのできるポリエステル樹脂について説明する。なお、ポリエステル樹脂は、2価又は3価以上のアルコールと2価又は3価以上のカルボン酸とを縮重合又は共縮重合することで得られる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価アルコールとしては、ジオール類又はビスフェノール類が好ましい。
ジオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールを好適に使用できる。
ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、又はポリオキシプロピレン化ビスフェノールAを好適に使用できる。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる3価以上のアルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが好ましい。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる2価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸)、又はアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸)が好ましい。
ポリエステル樹脂を調製するために用いることができる3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が好ましい。
上記2価又は3価以上のカルボン酸は、エステル形成性の誘導体(例えば、酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステル)として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1〜6のアルキル基を意味する。
ポリエステル樹脂を調製する際に、アルコールの使用量とカルボン酸の使用量とをそれぞれ変更することで、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価を調整することができる。ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は9以上21以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
(トナーコアの着色剤)
トナーコアは、着色剤を含んでいてもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。着色剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、3質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、又はアリルアミド化合物が好ましい。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ネフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、又はペリレン化合物が好ましい。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、又は塩基染料レーキ化合物が好ましい。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
(トナーコアの離型剤)
トナーコアは、離型剤を含有していてもよい。離型剤は、例えばトナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーコアのアニオン性を強めるためには、アニオン性を有するワックスを用いてトナーコアを作製することが好ましい。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックス又は酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物系ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物系ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。
なお、結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
(トナーコアの電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含んでいてもよい。電荷制御剤は、例えばトナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。また、トナーコアに負帯電性の電荷制御剤を含ませることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
(トナーコアの磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含んでいてもよい。磁性粉としては、例えば、鉄(より具体的には、フェライト又はマグネタイト)、強磁性金属(より具体的には、コバルト又はニッケル)、鉄及び/又は強磁性金属を含む化合物(より具体的には、合金)、強磁性化処理(例えば、熱処理)が施された強磁性合金、又は二酸化クロムを好適に使用できる。
磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するため、磁性粉を表面処理することが好ましい。酸性条件下でトナーコアの表面にシェル層を形成する場合に、トナーコアの表面に金属イオンが溶出すると、トナーコア同士が固着し易くなる。磁性粉からの金属イオンの溶出を抑制することで、トナーコア同士の固着を抑制することができる。
[シェル層]
シェル層は、実質的に熱硬化性樹脂からなってもよいし、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含有していてもよい。
シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合、熱硬化性樹脂に窒素元素を含有させることが好ましい。熱硬化性樹脂に窒素元素を含ませることで、熱硬化性樹脂の硬化機能を向上させることができる。また、シェル層がトナーコアよりも強いカチオン性を有するためには、シェル層がトナーコアよりも窒素元素を多く含有していることが好ましい。
シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合、熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、スルホンアミド樹脂、グリオキザール樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、ポリイミド樹脂、又はこれら各樹脂の誘導体を好適に使用できる。ポリイミド樹脂は、窒素元素を分子骨格に有する。このため、ポリイミド樹脂を含むシェル層は、強いカチオン性を有し易い。ポリイミド樹脂としては、マレイミド系重合体、又はビスマレイミド系重合体(より具体的には、アミノビスマレイミド重合体又はビスマレイミドトリアジン重合体)を好適に使用できる。
シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合、熱硬化性樹脂としては、アミノ基を含む化合物とアルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)との重縮合によって生成される樹脂が特に好ましい。なお、メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂は、尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂は、グリオキザールと尿素との反応生成物と、ホルムアルデヒドとの重縮合物である。
熱硬化性樹脂の調製には、メチロールメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、スピログアナミン、及びジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)からなる群より選択される1種以上のモノマーを使用できる。
シェル層が熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含む場合には、シェル層において熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂で架橋されてもよい。こうしたシェル層は、熱可塑性樹脂に基づく適度な柔軟性と、熱硬化性樹脂が形成する三次元の架橋構造に基づく適度な機械的強度との両方を兼ね備えると考えられる。
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との割合は任意である。熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との割合の例としては、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、2:1、3:1、4:1、又は5:1(それぞれ質量比で、熱可塑性樹脂:熱硬化性樹脂)が挙げられる。
熱硬化性樹脂として好適な樹脂は、シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合の熱硬化性樹脂と同様(前述したメラミン樹脂等)である。シェル層を形成する際に、例えば、前述した熱硬化性樹脂を調製するためのモノマーを添加することで、シェル層に熱硬化性樹脂を導入できる。熱硬化性樹脂に窒素元素を含ませることで、熱硬化性樹脂の架橋硬化機能を向上させることができる。熱硬化性樹脂の反応性を高めるためには、メラミン樹脂では40質量%以上55質量%以下に、尿素樹脂では40質量%程度に、グリオキザール樹脂では15質量%程度に、窒素元素の含有量を調整することが好ましい。
熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂の官能基(例えば、メチロール基又はアミノ基)と反応し易い官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、又はグリシジル基)を有することが好ましい。アミノ基は、カルバモイル基(−CONH2)として熱可塑性樹脂中に含まれてもよい。
熱可塑性樹脂としては、水溶性を有する樹脂が好ましく、極性官能基を有するモノマー(例えば、グリコール、カルボン酸、又はマレイン酸)を含む水溶性の樹脂が特に好ましい。極性官能基を有する熱可塑性樹脂は、高い反応性を有する。水溶性を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース(又はその誘導体)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、又はポリエチレンオキサイドが好ましい。
熱可塑性樹脂はアクリル成分を含むことが好ましく、反応性アクリレートを含むことがより好ましい。アクリル成分を含む熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂と反応し易いため、シェル層の膜質を向上させることができると考えられる。熱可塑性樹脂は、2HEMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)を含むことが特に好ましい。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体樹脂、シリコーン−(メタ)アクリル系グラフト共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、又はエチレンビニルアルコール共重合体が好ましい。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体樹脂、又はシリコーン−(メタ)アクリル系グラフト共重合体が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。
シェル層へ熱可塑性樹脂を導入するためのアクリル系モノマーとしては、アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、又は(メタ)アクリル酸n−ブチルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニルのような(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルのような(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸のエチレンオキシド付加物;(メタ)アクリル酸エステルのエチレンオキシド付加物のアルキルエーテル(より具体的には、メチルエーテル、エチルエーテル、n−プロピルエーテル、又はn−ブチルエーテル)を好適に使用できる。一種のアクリル系モノマーを単独で使用してもよいし、複数種のアクリル系モノマーを併用してもよい。
シェル層の厚さは、1nm以上20nm以下であることが好ましく、1nm以上10nm以下であることがより好ましい。シェル層の厚さが20nm以下であると、シェル層が破壊され易くなり、低温でトナーを記録媒体に定着させることが可能になると考えられる。また、シェル層の厚さが20nm以下であると、シェル層の帯電性が過剰に強くなることが抑制され、画像が適正に形成され易くなると考えられる。一方、シェル層の厚さが1nm以上であると、シェル層が十分な強度を有すると考えられる。このため、トナーに衝撃(例えば、輸送時の衝撃)が加わった場合にシェル層が破壊されにくくなり、トナーの保存性が向上すると考えられる。なお、シェル層の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてトナー粒子の断面のTEM撮影像を解析することによって計測できる。
シェル層は、破壊箇所(機械的強度の弱い部位)を有していてもよい。破壊箇所は、シェル層に局所的に欠陥等を生じさせることにより形成することができる。シェル層に破壊箇所を設けることで、シェル層が容易に破壊されるようになる。その結果、低い温度でトナーを記録媒体に定着させることが可能になる。破壊箇所の数は任意である。
[外添剤]
トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。外添剤は、例えばトナーの流動性又は取扱性を向上させるために使用される。トナーの流動性又は取扱性を向上させるためには、外添剤の使用量は、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。また、トナーの流動性又は取扱性を向上させるためには、外添剤の粒子径は0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
外添剤としては、例えば、シリカ、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム)を好適に使用できる。
次に、本実施形態に係るトナーの製造方法の一例について説明する。
まず、トナーコアを準備する。トナーコアは、例えば、溶融混練法又は凝集法により作製できる。
以下、溶融混練法によるトナーコアの作製の一例について説明する。まず、結着樹脂と内添剤とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕及び分級する。これにより、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。前述の構成(2)を有するトナーを製造するためには、溶融混練の条件(特に、溶融混練時の回転速度及び温度)を調整して、離型剤の取込率及び分散粒子径を制御することが好ましい。離型剤の分散粒子径が大きくなるほど離型剤の取込率が小さくなる傾向がある(後述する表2を参照)。離型剤の分散粒子径が大きくなるほどシェル層の厚さの均一性が高くなる傾向がある。このため、溶融混練時の回転速度及び温度を調整することにより、トナーコアの表面に形成されるシェル層の厚さの均一性を制御することができる。離型剤の分散粒子径が大きくなるほどトナーにおける適合粒子の割合が大きくなる傾向がある(後述する表2を参照)。また、離型剤としてカルナバワックスを使用してシェル層形成時におけるトナーコアの表面状態を改善することで、前述の構成(2)を有するトナーを製造し易くなる。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させつつ、シェル層形成時におけるトナーコアの表面状態を改善するためには、カルナバワックスと合成ワックス(例えば、エステルワックス)とを併用することが好ましい。
また、pHが調整された液(例えば、酸性のイオン交換水)に、シェル材料を溶解させることで、シェル材料の溶液を調製する。シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合には、シェル材料として、熱硬化性樹脂を形成するための材料(例えば、メチロールメラミン)を添加する。シェル層が実質的に複合樹脂(熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂)から構成される場合には、シェル材料として、熱可塑性樹脂を形成するための材料と、熱硬化性樹脂を形成するための材料とを添加する。シェル材料の適切な添加量は、トナーコアの比表面積に基づいて算出できる。
シェル層の形成時におけるトナーコア(結着樹脂等)の溶解又は溶出を抑制するためには、シェル層の形成は水系媒体中で行われることが好ましい。このため、シェル材料は水溶性を有していることが好ましい。シェル材料として、水溶性の熱硬化性樹脂と水溶性の熱可塑性樹脂とを水系媒体中に添加することで、前述の構成(2)を有するトナーを製造し易くなる。
続けて、得られたシェル材料の溶液にトナーコアを添加して、溶液を攪拌しながら溶液の温度を上昇させる。例えば1℃/分の速度で30分かけて70℃まで液温を上昇させる。これにより、トナーコアの表面にシェル材料が付着し、付着した材料が重合反応して硬化する。その結果、トナー母粒子の分散液が得られる。
シェル層硬化時におけるシェル材料の溶液の温度がトナーコアのガラス転移点(Tg)以上になると、トナーコアが変形し易い。例えば、トナーコアの結着樹脂のTgが45℃であり、シェル層に含まれる熱硬化性樹脂がメラミン樹脂である場合には、溶液の温度が50℃付近まで上昇すると、急速にシェル材料(特に、熱硬化性樹脂を形成するための材料)の硬化反応が促進され、トナーコアが変形する傾向がある。高温でシェル材料を反応させると、シェル層が硬くなり易い。シェル層硬化時の液温を高くすると、トナーコアの変形が促進され、トナー母粒子の形状が真球に近づく傾向がある。トナー母粒子が所望の形状になるようにシェル層硬化時の液温を調整することが望ましい。なお、シェル層硬化時の液温に基づいて、シェル層の分子量を制御することもできる。
上記のようにしてシェル層を硬化させた後、例えば水酸化ナトリウムを用いてトナー母粒子の分散液を中和する。続けて、液を冷却する。続けて、液をろ過する。これにより、トナー母粒子が液から分離(固液分離)される。続けて、得られたトナー母粒子を洗浄する。続けて、洗浄されたトナー母粒子を乾燥させる。その後、必要に応じて、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。これにより、トナー粒子を多数有するトナーが完成する。なお、上記トナーの製造方法は、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば溶媒にシェル層の材料を溶解させる工程よりも前に溶媒中にコアを添加する工程を行うようにしてもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。トナー母粒子の表面に外添剤を付着させない(外添工程を割愛する)場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。
本発明の実施例について説明する。表1に、実施例又は比較例に係るトナーA−1〜A−4、B、及びC(それぞれ静電潜像現像用トナー)を示す。
以下、トナーA−1〜A−4、B、及びCの製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、粉体(例えば、トナーコア又はトナー)に関する評価結果(形状及び物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の平均である。
[トナーA−1の製造方法]
(トナーコアの作製)
トナーA−1の製造方法では、以下の手順でトナーコアを作製した。まず、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、低粘度ポリエステル樹脂(Tg:38℃、Tm:65℃)750gと、中粘度ポリエステル樹脂(Tg:53℃、Tm:84℃)100gと、高粘度ポリエステル樹脂(Tg:71℃、Tm:120℃)150gと、離型剤55gと、着色剤40gとを、回転速度2400rpmで混合した。
着色剤としては、DIC株式会社製の「KET Blue111」(フタロシアニンブルー)を用いた。離型剤としては、エステルワックス(日油株式会社製「WEP−3」)を用いた。
続けて、得られた混合物を、材料投入量5kg/時、軸回転速度160rpm、かつ設定温度(材料が通る部分の温度)150℃の条件で、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて溶融混練した。その後、得られた溶融混練物(以下、コア混練物と記載する)を冷却した。
続けて、機械式粉砕機(株式会社東亜機械製作所製「ロートプレックス16/8型」)を用いてコア混練物を粗粉砕した。さらに、得られた粗粉砕物を、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製「超音波ジェットミルI型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、体積中位径(D50)6.0μmのトナーコアが得られた。粒子径の測定には、ベックマン・コールター株式会社製の「コールターカウンターマルチサイザー3」を用いた。
(シェル層の形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコを準備し、フラスコをウォーターバスにセットした。そして、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、フラスコ内に、イオン交換水300mLを入れた。続けて、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の水系媒体(イオン交換水)のpHを4.0に調整した。
続けて、水溶性メチロールメラミン(日本カーバイド工業株式会社製「ニカレヂン(登録商標)S−260」)1.8gをフラスコ内に添加し、フラスコ内容物を攪拌してメチロールメラミンを水系媒体に溶解させた。なお、形成されるシェル層の厚さは、シェル材料の添加量に応じて変化する。トナーA−1の製造方法では、厚さ6nmのシェル層が形成されるように水溶性メチロールメラミン(シェル材料)の添加量を調整した。
続けて、フラスコ内(シェル材料が溶解した酸性水溶液中)に、前述の手順で作製したトナーコア300gを添加し、回転速度200rpmかつ温度40℃の条件で、フラスコ内容物を1時間攪拌した。続けて、フラスコ内にイオン交換水300mLを追加し、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながら1℃/分の速度でフラスコ内の温度を70℃まで上げて、温度70℃かつ回転速度100rpmの条件でフラスコ内容物を2時間攪拌した。これにより、トナーコアの表面にシェル層が形成された。その結果、トナー母粒子を含む分散液が得られた。その後、トナー母粒子の分散液を常温まで冷却し、水酸化ナトリウムを用いてトナー母粒子の分散液のpHを7に調整(中和)した。
(トナー母粒子の洗浄及び乾燥)
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液をろ過(固液分離)して、トナー母粒子を得た。その後、得られたトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。続けて、トナー母粒子を乾燥した。
(外添)
上記乾燥後、トナー母粒子に外添を行った。トナー母粒子100質量部と乾式シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製「REA90」)1.5質量部とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子)を付着させた。これにより、多数のトナー粒子を含むトナーA−1が製造された。
[トナーA−2の製造方法]
トナーA−2の製造方法は、トナーコアの作製における混練条件を、軸回転速度160rpm、温度150℃から軸回転速度165rpm、温度145℃に変更した以外は、トナーA−1の製造方法と同じである。
[トナーA−3の製造方法]
トナーA−3の製造方法は、トナーコアの作製における混練条件を、軸回転速度160rpm、温度150℃から軸回転速度170rpm、温度130℃に変更した以外は、トナーA−1の製造方法と同じである。
[トナーA−4の製造方法]
トナーA−4の製造方法は、トナーコア作製における混練条件を、軸回転速度160rpm、温度150℃から軸回転速度180rpm、温度120℃に変更した以外は、トナーA−1の製造方法と同じである。
[トナーBの製造方法]
トナーBの製造方法は、シェル材料として、水溶性メチロールメラミン(日本カーバイド工業株式会社製「ニカレヂン(登録商標)S−260」)1.8gに加えてPHEMA(シグマアルドリッチ社製のポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、質量平均分子量20000)1gを使用した以外は、トナーA−4の製造方法と同じである。PHEMAは、水溶性高分子であり、且つ、熱可塑性樹脂である。
[トナーCの製造方法]
トナーCの製造方法は、トナーコア作製に使用される離型剤をエステルワックス(日油株式会社製「WEP−3」)55gからエステルワックス(日油株式会社製「WEP−3」)33g及びカルナバワックス(株式会社加藤洋行製「カルナウバワックス1号」)33gに変更した以外は、トナーA−4の製造方法と同じである。
[評価方法]
各試料(トナーA−1〜A−4、B、及びC)の評価方法は、以下の通りである。なお、トナーコア(試料に含まれるトナーコア)の評価は、カプセル化(シェル層の形成)前に行った。
(離型剤の取込率)
試料(トナー)のコア混練物(粉砕前)及びトナーコア(カプセル化前)の各々について吸熱曲線を測定し、試料(トナー)の離型剤の取込率を求めた。詳しくは、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて、常温常圧下、測定試料(コア混練物又はトナーコア)10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲30〜170℃、昇温速度10℃/分の条件で、測定試料(コア混練物又はトナーコア)の吸熱曲線を測定した。続けて、得られた測定試料(コア混練物又はトナーコア)の吸熱曲線に基づいて、離型剤(ワックス)の吸熱に起因する面積(以下、離型剤吸熱面積と記載する)を求めた。そして、得られたトナーコア及びコア混練物の各々の離型剤吸熱面積に基づいて、式「離型剤取込率=100×トナーコアの離型剤吸熱面積/コア混練物の離型剤吸熱面積」で示される試料(トナー)の離型剤取込率(%)を求めた。
(離型剤分散粒子径、EELS変動係数)
試料(トナー)を常温硬化性のエポキシ樹脂中に分散させて、40℃の雰囲気で2日間静置した。これにより、トナーの樹脂硬化物が得られた。続けて、得られた硬化物を、四酸化オスミウムを用いて染色した。続けて、ウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ株式会社製「EM UC6」)を用いて、染色された硬化物から、厚さ200nmの薄片試料を切り出した。そして、得られた薄片試料の断面を、電界放出形透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製「JEM−2100F」)を用いて加速電圧200kVの条件で観察した。また、薄片試料の断面(トナー粒子の断面)のTEM写真を撮影した。そして、TEM撮影像から無作為に選んだ100個のトナー粒子を評価対象とした。ただし、TEM撮影されたトナー粒子の断面において、トナー粒子の直径(断面が円形でない場合には、最も長い径)が3μm未満であるトナー粒子は、評価対象から除外した。
上述のようにして決められた評価対象(100個のトナー粒子)を用いて、試料(トナー)のワックス分散粒子径及びEELS変動係数を評価した。
試料(トナー)の離型剤分散粒子径を評価する場合には、TEM撮影されたトナー粒子の断面において、トナーコア中に分散した離型剤(ワックス)の粒子(写真で確認できる全ての粒子)の各々の直径(断面が円形でない場合には、最も長い径)を測定した。そして、1つのトナー粒子について測定された全ての離型剤分散粒子径の平均値を、そのトナー粒子の評価値とした。評価対象(100個のトナー粒子)の各々について離型剤分散粒子径(評価値)を求め、得られた100個の離型剤分散粒子径の平均値を、試料(トナー)の評価値とした。
試料(トナー)のEELS変動係数を評価する場合には、評価対象(100個のトナー粒子)の各々について、トナー粒子の断面におけるトナー粒子の表層部を周方向に無作為に分割した領域から無作為に選ばれた100箇所の領域を、測定領域として設定した。100箇所の測定領域はそれぞれ、トナー粒子の周方向の長さ50nmの辺(周方向の辺)と、トナー粒子の周方向に直交するトナー粒子の深さ方向の長さ10nmの辺(深さ方向の辺)とによって区画される10nm×50nmの長方形領域であった。
エネルギー分解能1.0eV、ビーム径1.0nmの電子エネルギー損失分光法(EELS)検出器(ガタン社製「GIF TRIDIEM(登録商標)」)と、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF 5.5.0」)とを用いて、各測定領域について窒素元素に由来するN−K殻吸収端のEELS強度(以下、N−EELS強度と記載する)を測定した。詳しくは、画像(TEM撮影像)上の1ピクセルのサイズは5nm角であった。各測定領域は20ピクセルを含んでいた。1つの測定領域に含まれる20ピクセルの各々についてN−EELS強度を測定し、測定された20個のN−EELS強度の平均値を、その測定領域の評価値とした。
続けて、トナー粒子の上記100箇所の領域(それぞれ測定領域)の各々について、N−EELS強度(評価値)を求めた。そして、得られた100個のN−EELS強度(評価値)の、個数平均値(以下、EELS平均値と記載する)と標準偏差(以下、EELS標準偏差と記載する)とを求めた。また、式「EELS変動係数=EELS標準偏差/EELS平均値」に基づいて、トナー粒子のEELS変動係数を求めた。上記のようにして、評価対象(100個のトナー粒子)の各々について、EELS変動係数を求めた。
次に、評価対象(100個のトナー粒子)のうち、EELS変動係数が0.1以下であるトナー粒子(適合粒子)の割合(個数%)を求めた。詳しくは、評価対象(100個のトナー粒子)の各々について、EELS変動係数が0.1以下であるか否かを判定した。そして、EELS変動係数が0.1以下であるトナー粒子(評価対象)の数を求めた。
(耐熱保存性)
試料(トナー)5gを容量50mLのポリエチレン製容器に入れて密閉し、密閉された容器を、58℃に設定された恒温槽(ヤマト科学株式会社製「DKN302」)内に2時間静置した。その後、恒温槽から取り出したトナーを室温まで冷却して、評価用トナーを得た。
続けて、得られた評価用トナーを、質量既知の200メッシュの篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り2の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。篩別後、篩を通過しなかったトナー(篩上に残留したトナー)の質量を測定した。そして、篩別前のトナーの質量と、篩を通過しなかったトナーの質量とに基づいて、次の式に従ってトナー通過率(質量%)を求めた。
トナー残留率(質量%)=100×篩を通過しなかったトナーの質量/篩別前のトナーの質量
トナー残留率が50質量%以下であれば○(良い)と評価し、トナー残留率が50質量%超であれば×(悪い)と評価した。
また、試料(トナー)に代えて試料(トナー)のトナーコアを用いた以外は上記と同様の方法によって、試料(トナー)のトナーコアの耐熱保存性も評価した。
(低温定着性)
現像剤用キャリア(FS−C5250DN用キャリア)100質量部と、試料(トナー)5質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、2成分現像剤を調製した。
上述のようにして調製した2成分現像剤を用いて画像を形成して、低温定着性を評価した。評価機としては、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着器を有するカラープリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」を改造して定着温度を変更可能にした評価機)を用いた。上述のようにして調製した2成分現像剤を評価機の現像器に投入し、試料(トナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。
試料(トナー)の低温定着性を評価する場合には、上記評価機を用いて、90g/m2の紙(A4サイズの評価用紙)に、トナー載り量1.0mg/cm2の条件で、大きさ25mm×25mmのソリッド画像を形成した。続けて、画像が形成された紙を定着器に通した。定着温度の設定範囲は100℃以上160℃以下であった。詳しくは、定着器の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、トナー(ソリッド画像)を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。
定着できたか否かは、以下に示すような折擦り試験で確認した。詳しくは、まず、ソリッド画像が形成された部分の画像濃度(摩擦前の画像濃度)を測定した。続けて、画像を形成した面が内側となるように紙を半分に折り曲げ、布帛で覆った500gの分銅を用いて、分銅の自重のみで折り目上の画像を押圧して5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)の画像濃度(摩擦後の画像濃度)を測定した。そして、式「定着率=100×摩擦後の画像濃度/摩擦前の画像濃度」で示される定着率が90%以上となり、且つ、コールドオフセットが生じない(定着ローラーにトナーが付着しない)定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。画像濃度の測定には、反射濃度計(サカタインクスエンジニアリング株式会社製「SpectroEyeLT」)を用いた。
最低定着温度が150℃以下であれば○(良い)と評価し、最低定着温度が150℃超であれば×(悪い)と評価した。
また、試料(トナー)に代えて試料(トナー)のトナーコアを用いた以外は上記と同様の方法によって、試料(トナー)のトナーコアの低温定着性も評価した。
[評価結果]
表2に、トナーA−1〜A−4、B、及びCの各々についての評価結果を示す。
トナーA−1、A−2、B、及びC(実施例1〜4に係るトナー)はそれぞれ、前述の構成(1)及び(2)を有していた。詳しくは、実施例1〜4に係るトナーではそれぞれ、シェル層が、窒素元素を含有する熱硬化性樹脂を含んでいた。実施例1〜3に係るトナーではそれぞれ、シェル層が、熱硬化性樹脂から実質的に構成されていた。実施例4に係るトナーでは、シェル層が、窒素元素を含有する熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂とから実質的に構成されていた。トナーに含まれる前記トナー粒子のうち80個数%以上のトナー粒子の各々が、トナー粒子の断面におけるトナー粒子の表層部を周方向に分割した領域から無作為に選ばれた100箇所の領域(それぞれ、長さ50nmの周方向の辺と長さ10nmの深さ方向の辺とを有する長方形領域)の各々をEELS分析した場合に、100箇所の領域の各々について得られた、窒素元素に由来する吸収強度の測定値の、平均値に対する標準偏差の比率が0.1以下であった。表2に示されるように、実施例1〜4に係るトナーは、耐熱保存性と低温定着性との両方に優れていた。
実施例3に係るトナーでは、熱硬化性樹脂(メチロールメラミン縮合体)の架橋構造を緩やかにする熱可塑性樹脂(PHEMA)の効果によって、シェル層が実質的に熱硬化性樹脂から構成される場合よりも、シェル層の厚さが均一になったと考えられる。