本発明者らは、ピストンおよびコンロッドのバネマスモデルについて鋭意研究を重ね、その結果、以下のようなことが判明した。
ピストンおよびコンロッドのバネマスモデルにおいて、ピストン、ピストンピン、およびコンロッドの小端部が全体として、質点(質量をM(単位kg)とする)に相当し、コンロッドにおける小端部と大端部とを連結する連結部が、上記質点を該大端部に対して支持するバネ(バネ定数をK(単位N/m)とする)に相当する。これにより、ピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体であるとすると、これらが一体でコンロッドの大端部に対して(1/2π)・(K/M)1/2Hzの共振周波数(例えば、3kHz〜4kHz)で共振することになる。この共振は、上記非特許文献1で云うところのコンロッドの伸縮共振に相当する。
ところで、ピストンピンとコンロッドのピン挿通孔との間には、潤滑油膜が形成される。この潤滑油膜は、ピストンピンとコンロッドの小端部とを連結するバネに相当する。また、ピストンピンをボス部およびコンロッドの小端部の双方に対して回動可能とするフルフロート式の組付方式が採用された場合には、ピストンピンとコンロッドのピン挿通孔との間に加えて、ピストンピンとピストンのボス部のピン支持孔との間にも、潤滑油膜が形成される。この潤滑油膜は、ピストンピンとピストンとを連結するバネに相当する。
ピストンピンとコンロッドのピン挿通孔との間の潤滑油膜(フルフロート式では、該潤滑油膜、および、ピストンピンとピストンのボス部のピン支持孔との間の潤滑油膜)が存在すれば、ピストンは、コンロッドの小端部に対してバネを介して支持されることとなり、ピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体でコンロッドの大端部に対して共振するようなことはない。燃焼行程(膨張行程)以外では、ピストンが大きな力で押圧されないため、上記潤滑油膜が存在し、よって、上記共振は生じない。
一方、燃焼行程では、ピストンが大きな力で押圧されるため、上記潤滑油膜が無くなり、この結果、ピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体となってコンロッドの大端部に対して共振することになる。
以上の観点から、燃焼行程でピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体となるので、その共振を抑制する(共振周波数における振動を低減する)ために、動吸振器を利用することが考えられる。しかし、動吸振器を単純に設けるだけでは、燃焼行程で上記共振による騒音を低減できても、ピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体とならない他の行程で、動吸振器の振動により騒音が増大してしまう。
そこで、ピストンピンの内部に動吸振器を設けて、全行程におけるピストンおよびコンロッドの共振周波数での振動を抑制することが考えられる。
しかしながら、ピストンおよびコンロッドの共振周波数での振動を抑制する動吸振器を、ピストンピンの内部に設けた場合、狙いの共振を抑制することができる利点がある反面、クランクシャフトやシリンダブロックの共振が相対的に大きくなってしまう問題点がある。
この発明は上記課題を解決するために成されたものであり、燃焼行程においてピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体でコンロッドの大端部に対して共振するのを抑制すると共に、他の行程において騒音が増大するのを抑制することができ、しかも、クランクシャフト、シリンダブロックの共振が相対的に大きくなってしまうことを抑制し、ピストンおよびコンロッドの共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができるエンジンのピストン構造の提供を目的とする。
この発明によるエンジンのピストン構造は、シリンダ内で往復動するピストンと、小端部が上記ピストンに連結され、かつ大端部がクランクシャフトに連結されるコンロッドと、上記ピストンと上記コンロッドの小端部とを連結する断面中空のピストンピンと、上記ピストンピンの内部に設けられた動吸振器と、を備えたエンジンのピストン構造であって、上記動吸振器が2つ設けられ、一方の動吸振器をピストンおよびコンロッドの共振周波数での振動を抑制するように設定し、他方の動吸振器を少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数での振動を抑制するように設定したものである。
上記構成によれば、燃焼行程で、ピストンピンとコンロッドとの間の潤滑油膜(フルフロート式では、該潤滑油膜、および、ピストンピンとピストンとの間の潤滑油膜)が無くなって、ピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体となった場合、動吸振器により、それらが一体で共振するのを抑制することができる。また、動吸振器がピストンピン内部に設けられているので、ピストンピンとコンロッドとの間に潤滑油膜が存在する場合、つまり吸気行程、圧縮行程および排気行程では、この潤滑油膜(バネ)により、動吸振器の振動がコンロッドに伝わることはなく、その振動により騒音が増大するようなことはない。また、ピストンピンの内部に動吸振器を設けることで、スペースを有効に利用することができ、ピストンが大きくならずに済む。
しかも、一方の動吸振器でピストンおよびコンロッドの共振周波数での振動を抑制し、他方の動吸振器で少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数での振動を抑制するので、クランクシャフト、シリンダブロックの共振が相対的に大きくなってしまうことを抑制し、ピストンおよびコンロッドの共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる。
この発明の一実施態様においては、上記2つの動吸振器の互いの質量を異ならせて所期の共振周波数を得るように構成すると共に、上記2つの動吸振器のモーメントを略同等に設定したものである。
上記構成によれば、2つの動吸振器のモーメントを略同等に設定したので、各動吸振器に対してピストンピン軸方向への力が作用することを抑制し、2つの動吸振器の左右のバランスを取ることができる。
因に、2つの動吸振器間にモーメントの差がある場合には、モーメントの大きい方の動吸振器に対して、当該動吸振器をピストンピン軸方向の外方へ移動させようとする力が作用するが、本実施態様では、斯る力が作用することを抑制することができる。
この発明の一実施態様においては、上記動吸振器がピストンピンに固定される固定部と、ピストンピンの軸方向に延びる可動部と、該可動部を上記固定部に対して揺動可能に支持する支持部と、を備えたものである。
上記構成によれば、動吸振器を一体で構成することができる。
この発明の一実施態様においては、上記動吸振器は、上記ピストンピンの内部において、上記ピストンピンに固定される上記動吸振器の一部である固定部を挟むようにして2つ設けられ、上記2つの動吸振器のうち一方の動吸振器が、上記ピストンピンに固定される上記固定部と、上記固定部に支持部を介してピストンピンの軸方向に延びる軸部と、該軸部の外周に固定されたキャップ部と、を備え、上記軸部と上記キャップ部とで可動部を構成し、上記支持部は、上記可動部を上記固定部に対して揺動可能に支持したものである。
またこの発明の一実施態様においては、上記2つの動吸振器のうち一方の動吸振器が、上記ピストンピンに固定される固定部と、該固定部に支持部を介してピストンピンの軸方向に延びる軸部と、該軸部の外周に固定されたキャップ部と、を備え、上記軸部と上記キャップ部とで可動部を構成し、上記支持部は、上記可動部を上記固定部に対して揺動可能に支持し、上記2つの動吸振器のうち、他方の動吸振器が、上記ピストンピンに固定される固定部と、ピストンピンの軸方向に延びる可動部と、該可動部を上記固定部に対して揺動可能に支持する支持部とで一体形成されたものである。
上記構成によれば、軸部の外周に固定されるキャップ部により、周波数のチューニング(調整)を容易に行なうことができる。
この発明の一実施態様においては、上記2つの動吸振器が、上記ピストンピンに固定される固定部と、該固定部に支持部を介してピストンピンの軸方向に延びる軸部と、該軸部の外周に固定されたキャップ部と、を備え、上記軸部と上記キャップ部とで可動部を構成し、上記支持部は、上記可動部を上記固定部に対して揺動可能に支持したものである。
上記構成によれば、2つの動吸振器は、それぞれ軸部と、該軸部外周に固定されたキャップ部とを備えているので、2つの動吸振器毎の周波数のチューニングを容易に行なうことができる。
この発明の一実施態様においては、上記動吸振器はピストンピンに固定される固定部を有し、該固定部が上記ピストンピンの軸方向中央からずれたオフセット位置に固定されたものである。
上記構成によれば、固定部とマス(mass、質量)を形成する可動部の長さとを考慮して、動吸振器をピストンピン内部に配設することができる。
この発明によれば、燃焼行程においてピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体でコンロッドの大端部に対して共振するのを抑制すると共に、他の行程において騒音が増大するのを抑制することができ、しかも、クランクシャフト、シリンダブロックの共振が相対的に大きくなってしまうことを抑制し、ピストンおよびコンロッドの共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる効果がある。
燃焼行程においてピストン、ピストンピンおよびコンロッドの小端部が一体でコンロッドの大端部に対して共振するのを抑制すると共に、他の行程において騒音が増大するのを抑制することができ、しかも、クランクシャフト、シリンダブロックの共振が相対的に大きくなってしまうことを抑制し、ピストンおよびコンロッドの共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図るという目的を、シリンダ内で往復動するピストンと、小端部が上記ピストンに連結され、かつ大端部がクランクシャフトに連結されるコンロッドと、上記ピストンと上記コンロッドの小端部とを連結する断面中空のピストンピンと、上記ピストンピンの内部に設けられた動吸振器と、を備えたエンジンのピストン構造であって、上記動吸振器が2つ設けられ、一方の動吸振器をピストンおよびコンロッドの共振周波数での振動を抑制するように設定し、他方の動吸振器を少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数での振動を抑制するように設定する構成にて実現した。
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面はディーゼルエンジンのピストン構造を示し、図1はエンジンのピストンおよびコンロッドを示す図、図3は図1のB−B線矢視断面図、図4は図2の要部拡大断面図である。
図1〜図3において、ピストン1は、気筒サイクル(吸気行程、圧縮行程、燃焼行程(膨張行程)および排気行程)を繰返すことで、シリンダ(気筒)内でシリンダ軸心方向(図1、図2の上下方向)に往復動するように構成されている。
上記ピストン1は、ピストンピン2を介して、コンロッド10の一端部である小端部10a(いわゆるスモールエンド)と連結されている。このコンロッド10の他端部である大端部10b(いわゆるラージエンド)は、クランクシャフト(図示せず)と連結されている。コンロッド10の小端部10aと大端部10bとは、連結部10cによって連結されている。上記ピストン1の往復動は、コンロッド10を介して上記クランクシャフトに伝達されて該クランクシャフトが回転する。ピストンピン2の中心軸方向(図2の左右方向)は、上記クランクシャフトの軸方向と一致している。
コンロッド10の小端部10aには、ピストンピン2が挿通されるピン挿通孔10dが形成され、コンロッド10の大端部10bには、上記クランクシャフトが挿通されるシャフト挿通孔10eが形成されている。なお、図1では図示省略しているが、コンロッド10の大端部10bは、連結部10cの長手方向において、シャフト挿通孔10eの中央で2分割構成とされている。
図2,図3に示すように、コンロッド10の小端部10aにおけるピン挿通孔10dにピストンピン2が挿通されており、コンロッド10の小端部10aは、ピストンピン2の中心軸方向の中央部に位置している。また、コンロッド10の小端部10aは、ピストンピン2の中心軸方向において、ピストン1の中央に位置している。
ピストンピン2は、コンロッド10のピン挿通孔10dに対して回動可能に挿通されている。なお、コンロッド10のピン挿通孔10dの内周面には、ブッシュ11が固定されており、厳密には、このブッシュ11に対してピストンピン2が回動可能に挿通されていることになる。
ピストンピン2とコンロッド10のピン挿通孔10d(詳しくはブッシュ11)との間には、上記エンジンにおいて循環されている潤滑油が供給されることによって、潤滑油膜が形成され、この潤滑油膜と上記ブッシュ11とによって、ピストンピン2が、コンロッド10のピン挿通孔10dに対してスムーズに回動することになる。
ピストン1の頂面(ピストンヘッド)には、図2に示すように、キャビティ1aが形成され、ピストン1のランド部にはトップリング溝1b、セカンドリング溝1c、オイルリング溝1dが形成されると共に、ピストン1の内部にはクーリングチャンネル1eが形成されている。
そして上述の各リング溝1b、1c、1dには、図1に示すように、トップリング12、セカンドリング13、オイルリング14がそれぞれ装着されている。
ピストン1の裏面(頂面とは反対側の面、つまり反燃焼室側)におけるピストンピン2中心軸方向の両端部には、2つのボス部1fがコンロッド10の小端部10aを両側から挟むように上記クランクシャフト側に膨出形成されている。これら2つのボス部1fには、ピストンピン2の中心軸方向に延びるピン支持孔1gがそれぞれ形成されている。2つのボス部1fのピン支持孔1gに、ピストンピン2の中心軸方向の両端部がそれぞれ挿入されて支持されている。
この実施例では、ピストンピン2の組付方式としてフルフロート式が採用されている。すなわち、ピストンピン2は、コンロッド10のピン挿通孔10dに対して回動可能であると共に、ピストン1のボス部1fのピン支持孔1gに対しても回動可能とされている。
ピストンピン2とコンロッド10のピン挿通孔10dとの間と同様に、ピストンピン2とピストン1のボス部1fのピン支持孔1gとの間にも潤滑油膜が形成され、この潤滑油膜によって、ピストンピン2が、ピストン1のボス部1fのピン支持孔1gに対してスムーズに回動することになる。
2つのボス部1fのピン支持孔1gにおけるピストン1外周面側の端部には、サークリップ15がそれぞれ挿入固定されており、これら2つのサークリップ15が、ピストンピン2の中心軸方向の両外端面にそれぞれ当接するように位置して、ピストンピン2の中心軸方向の移動を規制している。
上記ピストンピン2は断面中空であり、ピストンピン2の径方向中心部に、該ピストンピン2の中心軸方向に延びる貫通孔2aが形成されている。この貫通孔2aの内周面におけるピストンピン2の中心軸方向の中央部(つまりピストンピン2の長手方向中央部)には、後述する動吸振器20X,20Yの固定部20aが圧入される圧入部2bが設けられている。圧入部2bにおける貫通孔2aの内径は、他の部分における貫通孔2aの内径よりも小さく設定されている。
詳しくは、貫通孔2aは、ピストンピン2の中心軸方向の中央部に位置し、小径の円筒状に形成された圧入部2bと、圧入部2bの両側に連なって、ピストンピン2の中心軸方向の両端部に位置し、大径の円筒状に形成された収容部2cとを有している。
圧入部2bと収容部2cとの間には、段差によってピストンピン2の中心軸方向に面する段差面2dが形成されている。圧入部2bを小径にすることで、ピストンピン2の剛性を向上させることができる。
上記ピストンピン2の内部(貫通孔2a内)には、燃焼行程においてピストン1、ピストンピン2およびコンロッド10の小端部10aが一体でコンロッド10の大端部10bに対して共振するのを抑制する2つの動吸振器20X,20Y(いわゆるダイナミックダンパのことで、以下単にダンパと略記する)が配設されている。これら2つのダンパ20X,20Yは、図4にも示すように、ピストンピン2の中心軸方向の中央を通り、かつ、ピストンピン2の中心軸に対して垂直な面を挟んで両側にそれぞれ位置している。
ここで、ピストン1およびコンロッド10のバネマスモデルは、図5のようになる。すなわち、ピストン1、ピストンピン2およびコンロッド10の小端部10aが全体として、質点(質量をM(単位kg)とする)に相当し、コンロッド10の連結部10cが、上記質点をコンロッド10の大端部10bに対して支持するバネ(バネ定数をK(単位N/m)とする)に相当する。
ピストンピン2とコンロッド10のピン挿通孔10dとの間の潤滑油膜は、ピストンピン2とコンロッド10の小端部10aとを連結するバネに相当し、ピストンピン2とピストン1のボス部1fのピン支持孔1gとの間の潤滑油膜は、ピストンピン2とピストン1(ボス部1f)とを連結するバネに相当する。
燃焼行程では、ピストン1が大きな力で押圧されるため、ピストンピン2とコンロッド10のピン挿通孔10dとの間の潤滑油膜(ピストンピン2とコンロッド10の小端部10aとを連結するバネ)、および、ピストンピン2とピストン1のボス部1fのピン支持孔1gとの間の潤滑油膜(ピストンピン2とピストン1とを連結するバネ)は共に無くなり、この結果、ピストン1、ピストンピン2およびコンロッド10の小端部10aが一体となる。これにより、ピストン1、ピストンピン2およびコンロッド10の小端部10aが一体でコンロッド10の大端部10bに対して、(1/2π)・(K/M)1/2Hzの共振周波数で共振することになる。 この共振、並びに、少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振を抑制する(共振周波数における振動を低減する)ために、上記2つのダンパ20X,20Yがピストンピン2の内部(貫通孔2a内)に設けられている。
図2〜図4に示すように、各ダンパ20X,20Yは、ピストンピン2の貫通孔2aの内周面に設けられた圧入部2bに固定される固定部20aと、ピストンピン2の内部において該ピストンピン2の中心軸方向に延びる可動部20bと、該可動部20bを上記固定部20aに対してピストンピン2の径方向に振動可能に支持する支持部20cとを有している。
この実施例では、部品点数の削減等の観点から、2つのダンパ20X,20Yが一体に形成されている。そして、図示左側のダンパ20Xは、固定部20a、可動部20b、および支持部20cが一体に形成されており(一体型ダンパ)、図示右側のダンパ20Yは、複数の部材を組み付けて形成される組付型のダンパとなっている(組付型ダンパ)。
ダンパ20Xおよびダンパ20Yは、それぞれの固定部20aで一体に連結されている。一体化された固定部20aは、圧入部2bに圧入されて固定されている。それにより、図示左側のダンパ20Xの可動部20bは、一方の収容部2cの内部に収容され、図示右側のダンパ20Yの可動部20bは、他方の収容部2cの内部に収容されている。
可動部20bは、略円柱状に形成されており、その外径は、可動部20bが振動しても収容部2cの内周面に接触しないように、収容部2cの内径よりも小さい外径に寸法設計されている。そうして、可動部20bの外周面が収容部2cの内周面との間に僅かな隙間を隔てて対向するように、可動部20bは収容部2cの内部に配置されている。
さらに、上述の各ダンパ20,20はその軸方向移動を機械的に規制する規制手段を備えている。
すなわち、図4において図示左側のダンパ20Xは、ピストンピン2の段差面2dの最小径部の内径D4に対して、可動部20bの支持部20c側の外径D5を大きく形成(D5>D4)し、これにより規制手段30を構成して、ダンパ20Xの抜止めを図っている。
図4において図示右側のダンパ20Yは支持部20cに当該支持部20cからピストンピン軸方向に延びる軸部20dを一体形成し、この軸部20dの外周には質量調整部材としてのキャップ部40を固定して、上述の軸部20dと該キャップ部40とで可動部20bを形成している。
また、上述の軸部20dは支持部20c側から外端側に向けて、外径がD3の第1軸部21と、外径がD1の第2軸部22と、外径がD2の第3軸部23と、外径がDOの第4軸部24とをこの順に一体形成し、DO<D1<D2<D3の関係式が成立するように各軸部21〜24の外径寸法を設定している。
そして、第4軸部24の支持部20c側の端部には、段差面25を形成すると共に、この段差面25の径方向外端と第3軸部23との間には、内側が大径で外側が小径となるテーパ部26を形成している。
上述のキャップ部40は、圧入方向先端側に位置する圧入部41と、第4軸部24の外周に遊嵌されるネック部42とを一体形成した2段円筒形状に形成されており、圧入部41の内外径と同一内外径の円筒部43と、ネック部42との間にはストッパ部44を形成し、キャップ部40の圧入時に、該ストッパ部44が段差面25に当接することで、圧入を完了すべく構成している。
また、キャップ部40の円筒部43の内径部と、軸部20dにおける第3軸部23の外径部との間にはミクロン単位のクリアランスが形成されている。
而して、ピストンピン2の段差面2dの最小径部の内径D4に対して、キャップ部40の外径D6(可動部20bの外径)を大きく形成(D6>D4)し、これにより規制手段31を構成して、ダンパ20Yの抜止めを図っている。
ところで、支持部20cは、略円柱状に形成されており、可動部20bと固定部20aとの間に介在している。支持部20cの外径は可動部20bの外径および圧入部2bの内径よりも小さく、圧入部2bに挿通可能となっている。
そうして、支持部20cの外周面が圧入部2bの内周面との間に充分な隙間を隔てて対向するように、支持部20cは圧入部2bの内部に配置されている。それにより、支持部20cは、可動部20bを固定部20aに対してピストンピン2の径方向に振動可能に支持するものである。
固定部20aもまた、円柱状に形成されている。固定部20aの外径は、可動部20bの外径よりも小さいが、圧入部2bの内径よりも僅かに大きい。それにより、固定部20aは、圧入部2bに圧入可能となっている。固定部20a、可動部20b、および支持部20cは、中心軸を一致させた状態で直列に連なっている。
ダンパ20Xの中心軸およびダンパ20Yの中心軸は、ピストンピン2の中心軸と一致するように配置されている。また、2つのダンパ20X,20Yにおける可動部20bの重心位置が、ピストンピン2の中心軸上に位置しているとともに、ピストンピン2の中心軸方向の中央を通る面(該中央を通りかつピストンピン2の中心軸に対して垂直な面)に対して互いに対称な位置に位置している。
図6は、横軸に周波数をとり、縦軸に音圧をとって、少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の振動(共振周波数をf1,f2とする)と、ピストン1およびコンロッド10の振動(共振周波数をf3とする)とを示す特性図であって、ピストン1およびコンロッド10が振動する周波数f3が相対的に高く、クランクシャフト、シリンダブロックが振動する周波数f1,f2が相対的に低いことがわかる。
そこで、この実施例では、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定している。
共振周波数は、可動部20bの質量に反比例するので、ダンパ20Xの質量を、ダンパ20Yの質量に対して相対的に小さく設定すればよい。換言すれば、ダンパ20Yの質量を、ダンパ20Xの質量に対して相対的に大きく設定すればよい。
一方のダンパ20Xと、他方のダンパ20Yにおける固定部20a、支持部20c、軸部20dとが一体形成された部材の材質を、例えば、炭素鋼(炭素の含有量により差異はあるものの、その比重は概ね7.812〜7.85)とし、キャップ部40の材質を、炭素鋼よりも比重が大きい材質(例えば、比重が11.4の鉛または比重が約8.9の銅合金)とし、2つのダンパ20X,20Yの互いの質量を異ならせて所期の共振周波数f1,f2,f3を得るように構成している。
各ダンパ20X,20Yの支持部20cは、可動部20b(可動部20bの質量をm(単位kg)とする)を支持するバネに相当し、そのバネ定数をk(単位N/m)とすると、上記共振を抑制するためには、基本的には、k/mの値をK/Mと略同じになるように構成すればよい。このようなk/mの値が得られるように、可動部20bの長さ、および径、並びに、支持部20cの長さ、および径を設定する。厳密には、支持部20cの質量も考慮する必要があるが、支持部20cの質量は可動部20bの質量に比較してかなり小さいので、支持部20cの質量を無視することができる。
上記のように、燃焼行程では、ピストンピン2とコンロッド10のピン挿通孔10dとの間の潤滑油膜(ピストンピン2とコンロッド10の小端部10aとを連結するバネ)、および、ピストンピン2とピストン1のボス部1fのピン支持孔1gとの間の潤滑油膜(ピストンピン2とピストン1とを連結するバネ)は共に無くなり、この結果、ピストン1、ピストンピン2および、コンロッド10の小端部10dが一体となって大端部10bに対して共振しようとする。しかし、この実施例では、ピストンピン2に設けられたダンパ20Xにより、その共振が抑制され、共振による騒音を低減することができる。
一方、吸気行程、圧縮行程および排気行程では、ピストンピン2とコンロッド10のピン挿通孔10dとの間、および、ピストンピン2とピストン1のボス部1fのピン支持孔1gとの間に、それぞれ潤滑油膜が存在する。この結果、上記燃焼行程で生じるような共振は生じない。仮に、ダンパがコンロッドの小端部に設けられていたとすると、燃焼行程では上記共振を抑制することができるものの、共振が生じない吸気行程、圧縮行程および排気行程においても、ダンパが振動する。このため、吸気行程、圧縮行程および排気行程では、ダンパの振動により、却って騒音が大きくなってしまう。しかし、この実施例では、ダンパ20Xがピストンピン2に設けられているので、吸気行程、圧縮行程および排気行程では、ピストンピン2とコンロッド10のピン挿通孔10dとの間の潤滑油膜(ピストンピン2とコンロッド10の小端部10aとを連結するバネ)により、ダンパ20Xの振動がコンロッド10に伝わることはなく、その振動により騒音が増大するようなことはない。また、ピストンピン2の内部にダンパ20Xおよびダンパ20Yを設けることで、スペースを有効に利用することができ、ピストン1が大きくならずに済む。
このように、図1〜図5で示した実施例1のエンジンのピストン構造は、シリンダ内で往復動するピストン1と、小端部10aが上記ピストン1に連結され、かつ大端部10bがクランクシャフトに連結されるコンロッド10と、上記ピストン1と上記コンロッド10の小端部10aとを連結する断面中空のピストンピン2と、上記ピストンピン2の内部に設けられたダンパ20X,20Yと、を備えたエンジンのピストン構造であって、上記ダンパ20X,20Yが2つ設けられ、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定したものである(図1,図2,図4参照)。
この構成によれば、燃焼行程で、ピストンピン2とコンロッド10との間の潤滑油膜(フルフロート式では、該潤滑油膜、および、ピストンピン2とピストン1との間の潤滑油膜)が無くなって、ピストン1、ピストンピン2およびコンロッド10の小端部10aが一体となった場合、ダンパ20Xにより、それらが一体で共振するのを抑制することができる。また、ダンパ20Xがピストンピン内部に設けられているので、ピストンピン2とコンロッド10との間に潤滑油膜が存在する場合、つまり吸気行程、圧縮行程および排気行程では、この潤滑油膜(バネ)により、ダンパ20Xの振動がコンロッド10に伝わることはなく、その振動により騒音が増大するようなことはない。また、ピストンピン2の内部に各ダンパ20X,20Yを設けることで、スペースを有効に利用することができ、ピストン1が大きくならずに済む。
しかも、一方のダンパ20Xでピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制し、他方のダンパ20Yで少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するので、クランクシャフト、シリンダブロックの共振が相対的に大きくなってしまうことを抑制し、ピストン1およびコンロッド10の共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる。
この発明の一実施形態においては、上記ダンパ20Xがピストンピン2に固定される固定部20aと、ピストンピン2の軸方向に延びる可動部20bと、該可動部20bを上記固定部20aに対して揺動可能に支持する支持部20cと、を備えたものである(図4参照)。
この構成によれば、ダンパ20Xを一体で構成することができる。
この発明の一実施形態においては、上記2つのダンパ20X,20Yのうち一方のダンパ20Yが、上記ピストンピン2に固定される固定部20aと、該固定部20aに支持部20cを介してピストンピン2の軸方向に延びる軸部20dと、該軸部20dの外周に固定されたキャップ部40と、を備え、上記軸部20dと上記キャップ部40とで可動部20bを構成し、上記支持部20cは、上記可動部20bを上記固定部20aに対して揺動可能に支持したものである(図4参照)。
この構成によれば、軸部20dの外周に固定されるキャップ部40により、周波数のチューニング(調整)を容易に行なうことができる。
図7はエンジンのピストン構造の他の実施例を示す要部拡大断面図であって、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定する場合、図示左側のダンパ20Xの可動部20bの外径を、図示右側のダンパ20Yの外径D6より小さい外径D3と同等、または、それ以下に設定したものである。
また、この実施例2においては、各ダンパ20X,20Yおよび図示右側のダンパ20Yにおけるキャップ部40の材質を同一(例えば、共に比重が概ね7.812〜7.85の炭素鋼)に設定している。
このように構成しても、先の実施例1と同様に、ピストン1およびコンロッド10の共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる。
図7で示したこの実施例2においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図7において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
図8はエンジンのピストン構造のさらに他の実施例を示す要部拡大断面図である。
この実施例3においては、ピストンピン2の圧入部2bを図示右側にずれた位置に形成すると共に、2つのダンパ20X,20Yの固定部20aを、ピストンピン2の軸方向中央CL1から図示右側にずれたオフセット位置に固定している。
すなわち、上記固定部20aの軸方向中央をCL2とすると、この軸方向中央CL2はピストンピン2の軸方向中央CL1に対して、オフセット量OSだけ図示右側にずれている。そして、この固定部20aは、ピストンピン2の圧入部2bに圧入固定されている。
しかも、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定する場合、この実施例3では、2つのダンパ20X,20Yの互いの質量、詳しくは円柱状の可動部20b,20bの質量を互いに異ならせて所期の共振周波数f1,f2,f3を得るように構成している。
ここで、ダンパ20Xとダンパ20Yとのそれぞれの可動部20b,20bの直径(外径)を同一または略同一に設定すると共に、ダンパ20Xの可動部20bの軸方向長さWXを、ダンパ20Yの可動部20bの軸方向長さWYに対して短く設定(WX<WY)し、ダンパ20Xの可動部20bの質量mXを、ダンパ20Yの可動部20bの質量mYに対して小さく設定(mX<mY)している。
さらに、2つのダンパ20X,20Yのモーメントを略同等に設定している。
すなわち、ダンパ20Xの可動部20bの重心をGXとし、ダンパ20Yの可動部20bの重心をGYとし、固定部20aの軸方向中央CL2からそれぞれの重心GX,GYまでの離間距離をL2,L1とする時、ダンパ20X側の離間距離L2を、ダンパ20Y側の離間距離L1に対して長く設定(L2>L1)し、ダンパ20X側のモーメントである質量mXと離間距離L2との乗算値(mX・L2)と、ダンパ20Y側のモーメントである質量mYと離間距離L1との乗算値(mY・L1)とが略同等になるように構成したものである。
また、ダンパ20X側の円柱状の支持部20cの外径Dxを、ダンパ20Y側の円柱状の支持部20cの外径Dyに対して大きく設定(Dx>Dy)し、ダンパ20X側のバネ定数kをダンパ20Y側のバネ定数kに対して大きく設定している。そして、(1/2π)・(K/M)1/2[Hz]で示される周波数により、ダンパ20Xでピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制し、ダンパ20Yで少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制すべく構成したものである。
このように、図8で示した実施例3においては、上記2つのダンパ20X,20Yの互いの質量mX,mYを異ならせて所期の共振周波数を得るように構成すると共に、上記2つのダンパ20X,20Yのモーメントを略同等に設定(mX・L2≒mY・L1)したものである(図8参照)。
この構成によれば、2つのダンパ20X,20Yのモーメントを略同等に設定したので、各ダンパ20X,20Yに対してピストンピン軸方向への力が作用することを抑制し、2つのダンパ20X,20Yの左右のバランスを取ることができる。
因に、2つのダンパ間にモーメントの差がある場合には、モーメントの大きい方のダンパに対して、当該ダンパをピストンピン軸方向の外方へ移動させようとする力が作用するが、この実施例3では、斯る力が作用することを抑制することができる。
また、上記ダンパ20X,20Yはピストンピン2に固定される固定部20aを有し、該固定部20aが上記ピストンピン2の軸方向中央CL1からずれたオフセット位置(CL2参照)に固定されたものである(図8参照)。
この構成によれば、固定部20aとマス(mass、質量)を形成する可動部20bの長さ(L1,L2参照)とを考慮して、ダンパ20X,20Yをピストンピン2内部に配設することができる。
図8で示したこの実施例3においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図8において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
図9はエンジンのピストン構造のさらに他の実施例を示す要部拡大断面図である。
図9に示す実施例4においては、2つのダンパ20X,20Yを設け、図示右側のダンパ20Yの支持部20cには、当該支持部20cからピストンピン軸方向に延びる軸部20dを一体形成し、該軸部20d外周にはキャップ部40を固定して、軸部20dとキャップ部40とで可動部20bを形成すると共に、規制手段30,35を、固定部20aを固定するピストンピン2小径部の段差面2dと、可動部20bの大径部(右側においてはキャップ部40の外径部)にて構成している。
上述のキャップ部40は圧入方向先端側と圧入方向後端側とに圧入部44,45を有する円筒形状に形成されており、これらの各圧入部44,45間における軸部20dはキャップ部40の内径に対して小径に形成されており、この小径に形成された部分と圧入部44,45間のキャップ部40内周面との間には隙間46が形成されている。
また、上述のキャップ部40の軸方向外端は、軸部20dの対応位置に装着したC形クリップ等の係止リング36で抜け止め固定している。
そして、ピストンピン2の小径部における段差面2dと可動部20bの大径部(右側においてはキャップ部40の外径部)との両者(つまり規制手段30,35)により、ダンパ20X,20Yの抜止めを達成すると共に、上記キャップ部40により質量調整が容易になるように構成している。
しかも、この実施例4においても、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定している。
この実施例4では、一方のダンパ20Xと、他方のダンパ20Yにおける固定部20a、支持部20c、軸部20dを、比重が概ね7.812〜7.85の炭素鋼で形成し、キャップ部40を炭素鋼よりも比重が大きい材質(例えば、比重が11.4の鉛または比重が約8.9の銅合金)として、2つのダンパ20X,20Yの互いの質量を異ならせて所期の共振周波数f1,f2,f3を得るように構成している。
この実施例4においても、ピストン1およびコンロッド10の共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる。図9で示したこの実施例4においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図9において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
図10はエンジンのピストン構造のさらに他の実施例を示す要部拡大断面図である。
図9で示した実施例4においては、固定部20aを隔てた図示右側を組付型のダンパ20Yとし、固定部20aを隔てた図示左側を一体型のダンパ20Xとしたが、図10で示すこの実施例5においては、固定部20aを隔てた図示の左右両側をそれぞれ図9の図示右側の構成と同等の組付型のダンパ20X,20Yとしたものである。
つまり、図10で示すこの実施例5においては、2つのダンパ20X,20Yを設け、2つの各ダンパ20X,20Yの支持部20cには当該支持部20cからピストンピン2の軸方向に延びる軸部20dが設けられ、上記軸部20d外周にはキャップ部40を固定し、上記軸部20dと該キャップ部40とで上記可動部20bを形成すると共に、上記規制手段35を、上記固定部20aを固定するピストンピン2の小径部(段差面2d参照)と、上記可動部20bの大径部(キャップ部40の外径部参照)にて構成している。
しかも、この実施例5においても、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定している。
この実施例では、一方のダンパ20X側のキャップ部40を、比重が概ね7.812〜7.85の炭素鋼で形成し、他方のダンパ20Y側のキャップ部40を炭素鋼よりも比重が大きい材質(例えば、比重が11.4の鉛または比重が約8.9の銅合金)とし、さらにキャップ部40,40以外の各ダンパ20X,20Yの固定部20a、支持部20c、軸部20dについては同一材質にて一体形成することで、2つのダンパ20X,20Yの互いの質量を異ならせて所期の共振周波数f1,f2,f3を得るように構成している。
この実施例5においても、ピストン1およびコンロッド10の共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる。
さらに、この実施例5においては、上記2つのダンパ20X,20Yが、上記ピストンピン2に固定される固定部20aと、該固定部20aに支持部20cを介してピストンピン2の軸方向に延びる軸部20dと、該軸部20dの外周に固定されたキャップ部40と、を備え、上記軸部20dと上記キャップ部40とで可動部20bを構成し、上記支持部20cは、上記可動部20bを上記固定部20aに対して揺動可能に支持したものである(図10参照)。
この構成によれば、2つのダンパ20X,20Yは、それぞれ軸部20dと、該軸部20d外周に固定されたキャップ部40とを備えているので、2つのダンパ20X,20Y毎の周波数のチューニングを容易に行なうことができる。
図10で示したこの実施例5においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図10において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
図11はエンジンのピストン構造のさらに他の実施例を示す要部拡大断面図である。
図11においては、図示左側のダンパ20Xを一体型とし、該ダンパ20Xは、ピストンピン2の段差面2dの最小径部の内径D9に対して、可動部20bの支持部20c側の外径D11を大きく形成(D11>D9)し、これにより規制手段30を構成している。
図11において図示右側のダンパ20Yを組付型とし、該ダンパ20Yは支持部20cに当該支持部20cからピストンピン軸方向に延びる軸部20dを一体形成し、この軸部20dの外周には質量調整部材としてのキャップ部40を固定して、上述の軸部20dとキャップ部40とで可動部20bを形成している。
また、上述の軸部20dは支持部20c側から外端側に向けて、外径がD8の第1軸部27と、外径がD7の第2軸部28とをこの順に一体形成し、D8>D7の関係式が成立するように各軸部27,28の外径寸法を設定している。
そして、第2軸部28の支持部20c側の端部には、段差面25を形成すると共に、この段差面25の径方向外端と第1軸部27との間には、内側が大径で外側が小径となるテーパ部26を形成している。
上述のキャップ部40は、第1軸部27の軸方向の略全長にわたる圧入部41と、第2軸部28の外周に遊嵌されるネック部42とを一体形成した2段円筒形状に形成されており、圧入部41の内外径と同一内外径の円筒部43と、ネック部42との間にはストッパ部44を形成し、キャップ部40の圧入時に、該ストッパ部44が段差面25に当接することで、圧入を完了すべく構成している。
而して、ピストンピン2の段差面2dの最小径部の内径D9に対して、キャップ部40の外径D10(可動部20bの外径)を大きく形成(D10>D9)し、これにより規制手段31を構成している。
そして、上記各規制手段30,31により、ピストンピン2内部のダンパ20X,20Yの固定が外れて抜けることを規制し、ダンパ20X,20Yの抜止め機能を確保している。
しかも、この実施例6においても、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定している。
この実施例6では、一方のダンパ20Xと、他方のダンパ20Yにおける固定部20a、支持部20c、軸部20dを、比重が概ね7.812〜7.85の炭素鋼で形成し、キャップ部40を炭素鋼よりも比重が大きい材質(例えば、比重が11.4の鉛または比重が約8.9の銅合金)として、2つのダンパ20X,20Yの互いの質量を異ならせて所期の共振周波数f1,f2,f3を得るように構成している。
この実施例6においても、ピストン1およびコンロッド10の共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる。図11で示したこの実施例6においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図11において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
図12はエンジンのピストン構造のさらに他の実施例を示す要部拡大断面図である。
図11で示した実施例6においては、固定部20aを隔てた図示右側を組付型のダンパ20Yとし、固定部20aを隔てた図示左側を一体型のダンパ20Xとしたが、図12に示すこの実施例7においては、固定部20aを隔てた図示の左右両側をそれぞれ図11の図示右側の構成と同等の組付型のダンパ20X,20Yとしたものであり、上記各規制手段31,31により、ピストンピン2内部のダンパ20X,20Yの固定が外れて抜けることを規制し、ダンパ20X,20Yの抜止め機能を確保するように構成している。
しかも、この実施例7においても、一方のダンパ20Xをピストン1およびコンロッド10の共振周波数f3での振動を抑制するように設定し、他方のダンパ20Yを少なくともクランクシャフトおよびシリンダブロックの何れか一方の共振周波数f1,f2での振動を抑制するように設定している。
この実施例では、一方のダンパ20X側のキャップ部40を、比重が概ね7.812〜7.85の炭素鋼で形成し、他方のダンパ20Y側のキャップ部40を、比重が大きい材質(例えば、比重が11.4の鉛または比重が約8.9の銅合金)とし、さらにキャップ部40,40以外の各ダンパ20X,20Yの固定部20a、支持部20c、軸部20dについては同一材質にて一体形成することで、2つのダンパ20X,20Yの互いの質量を異ならせて所期の共振周波数f1,f2,f3を得るように構成している。
この実施例7においても、ピストン1およびコンロッド10の共振抑制と、クランクシャフトやシリンダブロックの共振抑制との両立を図ることができる。
図12で示した実施例7においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図12において、前図と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の動吸振器は、実施例のダンパ20X,20Yに対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記各実施例においては、ピストンピン2の組付方式としてフルフロート式を採用したが、これに限定されるものではなく、ピストンピン2が、コンロッド10のピン挿通孔10dに対して回動可能であり、かつ、ピストン1のボス部1fのピン支持孔1gに固定されたセミフロート式であってもよい。
また、図示実施例においては、ディーゼルエンジン用のピストン1を例示したが、本発明はガソリンエンジン用のピストンにも適用することができる。