以下本発明の実施の形態を説明する。
燃料電池セパレータA(以下、セパレータAという)を製造するための成形用組成物は、熱硬化性樹脂及び黒鉛粒子を、必須成分として含有する。
また、成形用組成物は、第一アミン及び第二アミンを含有しないことが好ましい。すなわち、この成形用組成物中には、置換基−NH及び−NH2を有する化合物は含有させないことが好ましい。また、更に成形用組成物には第三アミンを含有させないようにすることが好ましい。このため、この成形用組成物から形成されるセパレータAは、燃料電池中の白金触媒を被毒することがなくて、燃料電池を長時間使用した場合の起電力の低下を抑制することができる。
前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のうち少なくとも一方を必須成分とする。エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂は良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
熱硬化性樹脂全量に対するエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂のみ、熱硬化性フェノール樹脂のみ、或いはエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のみであれば特に好ましい。
エポキシ樹脂は固形状であることが好ましく、特にその融点が70〜90℃の範囲であることが好ましい。これにより、材料の変化が少なく成形時の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用組成物中で凝集が生じやすくなって、成形用組成物の取り扱い性が悪くなるおそれがある。また、エポキシ樹脂として溶融粘度が低粘度の樹脂を選択すれば、成形性用組成物の良好な成形性を維持しつつ、成形用組成物及びセパレータA中に黒鉛粒子を高充填することができる。尚、前記作用が発揮される範囲内でエポキシ樹脂の一部が液状であってもよい。
エポキシ樹脂としては、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等を用いることが好ましい。これらの樹脂は良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
また特にエポキシ樹脂がオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のみからなるエポキシ樹脂成分を含むことが好ましい。或いはエポキシ樹脂が、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種とからなるエポキシ樹脂成分を含むことが好ましい。オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を必須の成分とすると、成形用組成物が成形性に優れたものになると共に、セパレータAが耐熱性に優れたものとなる。また、製造コストの低減も可能になる。エポキシ樹脂成分中のオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の割合は、前記成形性の向上、セパレータAの耐熱性の向上、製造コストの低減の観点から、50〜100質量%の範囲であることが好ましく、特に50〜70質量%の範囲であることが好ましい。
また、溶融粘度の更なる低減や、薄型のセパレータAの靱性向上のために、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と共に、ビスフェノール型エポキシ樹脂やビフェニル型エポキシ樹脂やビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を併用することも好ましい。
特にビスフェノールF型エポキシ樹脂を使用すると、成形用組成物の粘度を低減し、成形性の特に高い成形用組成物を得ることができる。この場合のエポキシ樹脂成分中におけるビスフェノールF型エポキシ樹脂の含有量は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、ビフェニル型エポキシ樹脂を使用すると、このビフェニル型樹脂は溶融粘度が低く、成形用組成物の流動性を著しく向上することができて薄型成形性が特に向上する。この場合のエポキシ樹脂成分中におけるビフェニル型エポキシ樹脂の含有量は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を使用すると、セパレータAの強度及び靱性を向上することができ、更にセパレータAの吸湿性を低減することができる。このため、セパレータAの機械的特性、導電性、長期使用時の特性の安定性が優れたものとなる。この場合のエポキシ樹脂成分中におけるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の割合は、30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、成形用組成物中の熱硬化性樹脂全量に対するエポキシ樹脂成分の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。
前記エポキシ樹脂成分は熱硬化性樹脂中のエポキシ樹脂の少なくとも一部として成形用組成物中に含有される。すなわち、このエポキシ樹脂成分以外の他の熱硬化性樹脂として、例えば前記エポキシ樹脂成分以外のエポキシ樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂を用いてもよい。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解するおそれがあるため、使用しないことが望ましい。また、熱硬化性樹脂として、セパレータAの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂を用いることも適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などを用いることも好ましく、例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。これを併用することでセパレータAの耐熱性を更に高めることができる。
熱硬化性フェノール樹脂を用いる場合には、特に開環重合により重合反応が進行するフェノール樹脂を用いることが好ましい。このようなフェノール樹脂としては、例えばベンゾオキサジン樹脂等を挙げることができる。この場合は、成形工程で脱水によるガスが発生しないので成形品中にボイドが発生せず、ガス透過性の低下を抑制することができる。また、レゾール型フェノール樹脂を用いることも好ましく、例えば13C−NMR分析で、オルト−オルト25〜35%、オルト−パラ60〜70%、パラ−パラ5〜10%の構造を有するレゾール型フェノール樹脂を用いることが好ましい。レゾール樹脂は通常液状であるが、レゾール型フェノール樹脂は軟化点を容易に調整することができて、融点が70〜90℃のものを容易に得ることができる。これにより、材料の変化が少なくなり、成形時の成形用材料の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用組成物中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が悪くなるおそれがある。
またエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂以外の他の樹脂を併用してもよい。例えば前記他の樹脂として、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂を用いることができる。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解する恐れがあるため、使用しないことが望ましい。
熱硬化性樹脂としてポリイミド樹脂を用いることも、セパレータAの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などを用いることも好ましく、その具体例として例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。このような他の樹脂を併用することでセパレータAの耐熱性を更に高めることができる。
エポキシ樹脂を使用する場合、成形用組成物は硬化剤を必須成分とし、この硬化剤はフェノール系化合物を必須成分とする。このフェノール系化合物としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、多官能フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂等が挙げられる。
硬化剤全量に対するフェノール系化合物の含有量は、エポキシ樹脂の使用量に依存して決定される。硬化剤がフェノール系化合物のみであれば特に好ましい。
また、成形用組成物の固形分中の熱硬化性樹脂と硬化剤の含有量は、その合計量が14〜24.1質量%の範囲であることが好ましい。
フェノール系化合物以外の他の硬化剤を併用する場合、他の硬化剤は非アミン系の化合物であることが好ましい。この場合、セパレータAの電気伝導度を高い状態に維持することができると共に、燃料電池の触媒の被毒を抑制することができる。硬化剤として酸無水物系の化合物も用いないようにすることも好ましい。酸無水物系の化合物を使用した場合は硫酸酸性環境下等の酸性環境下で加水分解して、セパレータAの電気伝導度の低下を引き起こしたり、セパレータAからの不純物の溶出が増大してしまうおそれがある。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合は、熱硬化性樹脂と硬化剤とを配合するにあたり、熱硬化性樹脂におけるエポキシ樹脂と硬化剤におけるフェノール系化合物とは、前記フェノール系化合物に対する前記エポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲となるようにすることが好ましい。
黒鉛粒子は、セパレータAの電気比抵抗を低減して、セパレータAの導電性を向上させるために使用される。黒鉛粒子の含有量は、成形用組成物全量に対して75〜90質量%の範囲であることが好ましい。黒鉛粒子の含有量が75質量%以上となるとセパレータAに充分に優れた導電性が付与されるようになる。またこの含有量が90質量%以下となると成形用組成物に充分に優れた成形性が付与されると共にセパレータAに充分に優れたガス透過性が付与される。
黒鉛粒子としては、高い導電性を示すものであれば制限なく用いることができる。黒鉛粒子として、例えばメソカーボンマイクロビーズなどの炭素質を黒鉛化して得られる黒鉛粒子、石炭系コークスや石油系コークスを黒鉛化して得られる黒鉛粒子、黒鉛電極や特殊炭素材料の加工粉、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛など、適宜のものを用いることができる。このような黒鉛粒子は、一種のみを用いるほか、複数種を併用することもできる。
黒鉛粒子は、人造黒鉛粉、天然黒鉛粉のいずれでもよい。天然黒鉛粉は導電性が高いという利点を有し、また人造黒鉛粉は天然黒鉛粉に比べて導電性は多少劣るものの、異方性が少ないという利点がある。
黒鉛粒子は、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉のいずれの場合であっても、精製されたものであることが好ましい。この場合は、灰分やイオン性不純物が低いため、成形品であるセパレータAからの不純物の溶出を抑制することができる。
黒鉛粒子における灰分は0.05質量%以下であることが好ましい。灰分が0.05質量%を超えると、セパレータAを用いて作製される燃料電池の特性低下が引き起こされるおそれがある。
黒鉛粒子の平均粒径は15〜100μmの範囲であることが好ましい。この平均粒径が10μm以上であることで成形用組成物の成形性が優れたものとなり、この平均粒径が100μm以下であることで成形体1の表面平滑性を向上することができる。成形性を特に向上するためには前記平均粒径が30μm以上であることが好ましい。また成形体1の表面平滑性を特に向上して後述するように成形体1の表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)が0.4〜1.6μmの範囲となるようにするためには前記平均粒径が70μm以下であることが好ましい。
特に薄型のセパレータAを得る場合には、黒鉛粒子は100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有することが好ましい。この黒鉛粒子中に100メッシュ篩を通過しない粒子が含まれていると、成形用組成物中に粒径の大きい黒鉛粒子が混入してしまい、特に成形用組成物を薄型のシート状に成形する際の成形性が低下してしまう。
黒鉛粒子のアスペクト比が10以下であることが好ましい。この場合、成形体1に異方性が生じることを防止すると共にこの成形体1に反りなどの変形が生じることも防ぐことができる。
尚、成形体1の異方性の低減にあたっては、成形体1における成形時の成形用組成物の流動方向と、この流動方向と直交する方向との間での接触抵抗の比が、2以下となることが好ましい。
黒鉛粒子としては、特に2種以上の粒度分布を有する黒鉛粒子、すなわち平均粒径の異なる2種以上の粒子群を混合して得られる黒鉛粒子を用いることも好ましい。この場合、特に平均粒径1〜50μmの範囲の黒鉛粒子と、平均粒径30〜100μmの黒鉛粒子とを混合することが好ましい。このような粒度分布を有する黒鉛粒子を用いると、粒径の大きい粒子は表面積が小さいため、少量の樹脂量でも混練を可能とすることが期待され、更に粒径の小さい粒子によって、黒鉛粒子同士の接触性を高める一方、成形品の強度を高めることが期待される。これにより、セパレータAの嵩密度の向上、導電性の向上、ガス不透過性の向上、強度の向上等といった、性能の向上を図ることができる。平均粒径1〜50μmの粒子と平均粒径30〜100μmとの粒子の混合比は、適宜調整されるが、特に前者対後者の混合質量比が40:60〜90:10、特に65:35〜85:15であることが好ましい。
尚、黒鉛粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)を用いたレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
また、成形用組成物中には、必要に応じて硬化触媒(硬化促進剤)、ワックス(離型剤)、カップリング剤等の添加剤を含有させることができる。
硬化触媒としては、適宜のものを含有することができる。但し、成形用組成物に第一アミン及び第二アミンを含有させないようにするために、非アミン系の硬化触媒を用いることが好ましい。例えば、アミン系のジアミノジフェニルメタンなどは残存物が燃料電池の触媒を被毒する恐れがあり、好ましくない。また、イミダゾール類は硬化後、塩素イオンを放出しやすくなるので不純物溶出の恐れがあり、あまり好ましくない。
但し、測定開始温度30℃、昇温速度10℃/分、保持温度120℃、保持温度での保持時間30分の条件で加熱した場合の重量減少が5%以下であり、且つ2位に炭化水素基を有する置換イミダゾールを用いることは、成形用組成物の保存安定性を向上することができる点で好ましい。特に薄型のセパレータAを得る場合には、ワニス状に調製された成形用組成物からシート状の成形体1を形成する際の揮発性、前記成形体1の平滑性などが良好となる。この置換イミダゾールとして、特に2位の炭化水素基の炭素数が6〜17の置換イミダゾールを使用することが好ましい。その具体例としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。このうち、2−ウンデシルイミダゾール及び2−ヘプタデシルイミダゾールが好適である。これらの化合物は一種単独で用いられ、或いは二種以上が併用される。このような置換イミダゾールの含有量は適宜調整され、それにより成形硬化時間を調整することができる。この置換イミダゾールの含有量は好ましくは成形用組成物中の熱硬化性樹脂と硬化剤の合計量に対して、0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。
硬化触媒として、リン系化合物を用いることも好ましい。リン系化合物と前記置換イミダゾールとを併用してもよい。リン系化合物の一例としては、トリフェニルホスフィンを挙げることができる。このようなリン系化合物を成形用組成物に含有させると、成形品であるセパレータAからの塩素イオンの溶出を抑制することができる。
成形用組成物中の硬化触媒の含有量は適宜調整されるが、好ましくはエポキシ樹脂に対して0.5〜3質量部の範囲とする。
カップリング剤としては、適宜のものが用いられるが、成形用組成物中に第一アミン及び第二アミンを含有させないようにするために、アミノシランを用いないことが好ましい。アミノシランを用いる場合には、燃料電池の触媒を被毒する恐れがあり好ましくない。カップリング剤としてメルカプトシランも用いないことも好ましい。このメルカプトシランを用いた場合も、同様に燃料電池の触媒を被毒する恐れがある。
カップリング剤の例としては、シリコン系のシラン化合物、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤が挙げられる。シリコン系のカップリング剤としては、エポキシシランが適している。
エポキシシランカップリング剤を使用する場合の使用量は、成形用組成物の固形分中の含有量が0.5〜1.5質量%となる範囲であることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータAの表面にブリードすることを充分に抑制することができる。
カップリング剤は黒鉛粒子の表面に予め噴霧等により付着させておいてもよい。その場合の添加量は、黒鉛粒子の比表面積と、カップリング剤の単位質量当たりの被覆面積とを考慮して適宜設定されるが、好ましくは、カップリング剤の被覆面積の総量が、黒鉛粒子の表面積の総量に対して、0.5〜2倍の範囲となるようにする。この範囲において、カップリング剤が成形体1の表面にブリードすることを充分に抑制して、金型表面の汚染を抑制することができる。
ワックス(内部離型剤)としては適宜のものが用いられるが、特に120〜190℃において、成形用組成物中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と相溶せずに相分離する内部離型剤が好ましい。このような内部離型剤として、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、および長鎖脂肪酸系のワックスから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。このような内部離型剤は、成形用組成物の成形過程で熱硬化性樹脂及び硬化剤と相分離することで、離型性が良好に発揮される。
成形用組成物中の内部離型剤の含有量はセパレータAの形状の複雑さ、溝深さ、抜き勾配など金型面との離形性の容易さなどに応じて適宜設定されるが、成形用組成物全量に対して0.1〜2.5質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が0.1質量%以上であることで金型成形時に十分な離型性を発揮し、この含有量が2.5質量%以下であることでワックスによってセパレータAの親水性が阻害されることが十分に抑制される。このワックスの含有量は0.1〜1質量%の範囲であれば更に好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲であれば特に好ましい。
特に薄型のセパレータAを得る場合には、成形用組成物に溶媒を含有させることで、この成形用組成物を液状(ワニス状及びスラリー状を含む)に調製してもよい。溶媒としては、たとえばメチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒を用いることが好ましい。溶媒は一種のみを用いるほか、二種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、成形用組成物からシート状の成形体1を作製する際の成形性を考慮して適宜設定されるが、好ましくは成形用組成物の粘度が1000〜5000cpsの範囲となるように設定される。尚、溶媒は必要に応じて使用すればよく、熱硬化性樹脂として液状樹脂を使用することなどによって成形用組成物を液状に調製できるならば、溶媒を使用しなくてもよい。
成形用樹脂組成物から得られる成形体1中のイオン性不純物の含有量については、成形体1全量に対する質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下となるようにすることが好ましい。そのためには、成形用組成物中のイオン性不純物の含有量については、成形用組成物全量に対する質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下であることが好ましい。この場合、セパレータAからのイオン性不純物の溶出を抑制することができ、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下を抑制することができる。
成形体1及び成形用組成物のイオン性不純物の含有量を上記のように低減するためには、成形用組成物を構成する熱硬化性樹脂、硬化剤、黒鉛、その他添加剤等の各成分として、それぞれイオン性不純物の含有量が、各成分に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下である成分を用いることが好ましい。
前記イオン性不純物の含有量は、対象物の抽出水中のイオン性不純物の量に基づいて導出される。前記抽出水は、イオン交換水中に対象物を、対象物10gに対してイオン交換水が100mlとなる割合で投入し、90℃で50時間加熱することで得られる。抽出水中のイオン性不純物の含有量は、イオンクロマトグラフィにて評価される。これにより導出される抽出水中のイオン性不純物量に基づいて、対象物中のイオン性不純物の量を、対象物に対する質量比に換算して導出することができる。
成形用組成物は、この成形用組成物から形成される成形体1のTOC(total organic carbon)が100ppm以下となるように調製されることが好ましい。
TOCは、イオン交換水中に成形体を、成形体10gに対してイオン交換水が100mlとなる割合で投入し、90℃で50時間処理することで得られる水溶液を用いて測定される数値である。このTOCは、例えばJIS K0102に準拠して、島津製全有機炭素分析装置「TOC−50」などを用いて測定することができる。測定にあたっては、サンプルの燃焼により発生したCO2濃度を非分散型赤外線ガス分析法で測定して、サンプル中の炭素濃度を定量する。炭素濃度を測定することによって、間接的に含有している有機物質濃度を測定できる。サンプル中の無機炭素(IC)、全炭素(TC)を測定し、全炭素と無機炭素の差(TC−IC)から全有機炭素(TOC)を計測する。
上記のTOCを100ppm以下とすることで、燃料電池としての特性低下を更に抑制することができる。
TOCの値は、成形用組成物を構成する各成分として高純度の成分を選択したり、更に樹脂の当量比を調整したり、成形時に後硬化処理をおこなったりすることで低減することができる。
成形用組成物は、上記のような各成分を適宜の手法で混合し、必要に応じて混練・造粒等することで調製される。
この成形用組成物を成形して、セパレータAとなる成形体1を得ることができる。成形法としては、射出成形や圧縮成形など、適宜の手法を採用することができる。セパレータAには例えば図1に示すように、両面に複数個の凸部(リブ)1aを形成することで、隣り合う凸部1a同士の間に、燃料である水素ガスと、酸化剤である酸素ガスの流路であるガス供給排出用溝2を形成する。
尚、セパレータAは、片面のみにガス供給排出用溝2を有するアノード側セパレータと、前記アノード側セパレータとは反対側の片面のみにガス供給排出用溝2を有するカソード側セパレータとで構成されてもよい。このアノード側セパレータとカソード側セパレータとを重ねることで、図1に示すような両面にガス供給排出用溝2を有するセパレータAが構成される。アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間には冷却水が流通する流路が形成されてもよい。この場合、アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間にはガスケットを介在させることが好ましい。
液状に調製された成形用組成物から薄型のセパレータAを得る場合には、まず成形用組成物をシート状に成形して、燃料電池セパレータ成形用シート(成形用シート)を得る。成形用組成物は、例えばキャスティング(展進)成形によりシート状に成形される。この際には、複数種の膜厚調節手段を用いることができる。このような複数種の膜厚調節手段を用いるキャスティング法は、例えばすでに実用化されているマルチコータを用いることによって実現することができる。膜厚調節手段としては、スリットダイとともに、ドクターナイフおよびワイヤーバーの少なくともいずれか、すなわちいずれか一方もしくは両方を用いることが好ましい。この成形用シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であれば更に好ましい。この厚みは特に0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であれば更に好ましい。このように成形用シートの厚みを0.5mm以下とすることで、セパレータ1の薄型化や軽量化、並びにそれによる低コスト化を達成することができ、特に厚みが0.3mm以下であれば溶媒を使用する場合の成形用シート内部の溶媒の残存を効果的に抑制することができる。またこの厚みが0.05mm未満の場合にはセパレータAの製造にあたっての有利さが充分に発揮されなくなり、特に成形性を考慮するとこの厚みは0.1mm以上であることが好ましい。
この成形用シートを、キャスティングにともなう乾燥によって半硬化(Bステージ)状態とし、これを圧縮・熱硬化成形するなどして、両面に複数個の凸部(リブ)1aを形成すると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2を形成する。これにより成形体1を得ることができる。このとき、成形体1を波板状に形成することで、その一面側の凸部1aの裏側に他面側のガス供給排出用溝2を形成することができる。この場合薄型でありながら両面に複数個の凸部(リブ)1aを有すると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2を有する成形体1を得ることができる。
この成形用シートの圧縮・熱硬化成形時には、まず成形用シートを必要に応じて所定の平面寸法にカット(切断)し、もしくは打ち抜いた後、金型内において圧縮成形機で熱硬化させる。この圧縮・熱硬化成形の条件は、成形用組成物の組成、導電性基材の種類、成形厚みなどにもよるが、加熱温度を120〜190℃の範囲、圧縮圧力を1〜40MPaの範囲で設定することが好ましい。
成形体1の作製にあたっては、一枚の成形用シートを成形して成形体1を作製してもよく、また成形用シートを複数枚重ねて成形して成形体1を作製してもよい。
このように成形用シートを成形することで、薄型の成形体1、特に厚み0.2〜1.0mmの範囲のセパレータAを製造することができる。成形用シートを使用することで、薄型のセパレータAを製造する場合でも成形材料を薄く且つ均一に配置して成形することが容易となり、成形性や厚み精度が高くなる。
尚、成形体1の作製時には、成形用シートと適宜の導電性基材とを積層して成形してもよい。導電性基材を用いると、セパレータAの機械的強度を向上することができる。導電性基材を用いる場合には、導電性基材の両側にそれぞれ成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)を積層した状態で圧縮・熱硬化成形することができ、或いは成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)の両側にそれぞれ導電性基材を積層した状態で圧縮・熱硬化成形することができる。
前記導電性基材としては、たとえば、カーボンペーパー、カーボンプリプレグ、カーボンフェルト等を例示することができる。また、これらの導電性基材は、導電性を損なわない範囲で、ガラス、樹脂等の基材成分を含有してもよい。導電性基材の厚みは、0.03〜0.5mmの範囲が好ましく、0.05〜0.2mmの範囲がより好ましい。
このように形成される成形体1では、エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を用いると共にフェノール系化合物を含む硬化剤を用いる場合、硬化物中に生じる水酸基が成形体1の表面に分布することになる。特にフェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2となるようにすることで、後述するとおり成形体1に対する表面処理により成形体1の親水性が大きく向上すると共にこの親水性が長期間持続するようになる。この当量比が1.2より大きいと前記のような効果が得られないものであり、これは成形体1に分布する水酸基が不足してしまうためと考えられる。またこの当量比が0.8未満の場合も、理由は不分明ではあるが、前記のような効果が得られなくなってしまう。表面処理による効果を著しく発揮させるためには、特に前記当量比が0.8〜1.0の範囲であることが好ましい。この場合、水酸基の当量が過剰となって多くの水酸基を成形体1の表面に分布させることができるようになる。前記当量比が0.8〜0.9の範囲であれば更に好ましい。
また熱硬化性フェノール樹脂を含む熱硬化性樹脂を用いる場合も、成形体1中に熱硬化性フェノール樹脂に起因する水酸基が成形体1の表面に分布することになる。これにより、後述するとおり成形体1に対する表面処理による親水性向上の効果が向上する。 この成形体1の表面に対し、次に示すようなウエットブラスト処理とリモート方式での大気圧プラズマ処理とを含む表面処理を施す。この表面処理は、少なくとも成形体1におけるガス供給排出用溝2が形成されている面に施される。
ウエットブラスト処理では、水などの液体に砥粒を分散させて調製されたスラリーを、成形体1の表面へ噴射することで、成形体1の表層のスキン層を除去すると共にこの成形体1の表面粗さを調整する。ウエットブラスト処理では粉塵の飛散が生じないことから、処理面積を大きくすることが可能となって処理効率が高くなり、また微細な砥粒を使用した処理も可能である。このため、成形体1の表面粗さを所望の範囲に容易に調整することができる。
このウエットブラスト処理により、成形体1の表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)を0.4〜1.6μmの範囲とすることが好ましい。この場合、表面処理の均一性が更に高くなり、セパレータAの表面の親水性を更に向上することができる。また、この成形体1の表面粗さを前記範囲とすると、この成形体1から得られるセパレータAとガスケット12との接合部でのガスリークを抑制することもできる。このためウエットブラスト処理時に成形体1におけるガスケット12と接合する部位をマスクする必要がなくなり、セパレータAの生産効率が向上する。尚、前記算術平均高さRaを0.4μm未満にすることは困難であり、またこの値が1.6μmより大きいと前記ガスリークを充分に抑制することができなくなるおそれがある。この成形体1の表面の算術平均高さRaが特に1.2μm以下であればセパレータAの表面の親水性を更に向上することができる。更にこの成形体1の表面の算術平均高さRaが1.0μm未満であれば、前記ガスリークが特に抑制される。この場合、セパレータAの薄型化に伴ってセルスタック作製時の締結力を下げたとしても、前記ガスリークを充分に抑制することができるようになる。成形体1の表面の算術平均高さRaが特に0.6μm以上であれば、セパレータAの表面の親水性を更に向上することができる。
また必要に応じてウエットブラスト処理後の成形体1をイオン交換水等を用いて洗浄してもよい。
このウエットブラスト処理後の成形体1に、大気圧プラズマ処理に先立って乾燥処理を施すことが好ましい。この乾燥処理では、成形体1をエアブローなどにより風乾することが好ましい。この場合、必要に応じて常温若しくは温風によるエアブローをおこなうことができ、或いは常温でのエアブローの後に温風によるエアブローを追加的に施してもよい。また、乾燥処理にあたっては、成形体1をシリカゲル等の乾燥剤を入れたデシケータ中に静置する方法、成形体1を室温以上(例えば50℃)に温度をかけた乾燥機中に静置する方法、真空乾燥機を使用して成形体1から水分を除去する方法等を採用してもよい。この乾燥処理により、成形体1を、その吸湿率が0.1%以下になるまで乾燥することが好ましい。
次に、この成形体1の表面に、リモート方式で大気圧プラズマ処理を施す。このリモート方式での大気圧プラズマ処理では、例えば図5に示されるような、吹き出し口9を有する放電空間10と、この放電空間10に電界を発生させるための放電用電極6,6とを備えるプラズマ処理装置を用いる。このプラズマ処理装置では、前記放電空間10にプラズマ生成用ガス7を供給すると共にこの放電空間10内の圧力を大気圧近傍に維持し、更に前記放電用電極6,6に電圧を印加することで放電空間10に放電を発生させると、放電空間10内でプラズマが生成する。このプラズマを含むガス流8を吹き出し口9から吹き出して成形体1に吹き付けることによって、プラズマ処理を行うことができる。このようなプラズマ処理装置としては、例えば積水化学工業株式会社製のAPTシリーズが挙げられるが、パナソニック電工株式会社、ヤマトマテリアル株式会社などから提供されている適宜のプラズマ処理装置を用いることもできる。
このようなリモート方式を採用することで、成形体1の表面に向けてプラズマが吹き付けられ、このため成形体1のガス供給排出用溝2の内面まで充分に処理がなされる。またプラズマ処理時に成形体1が放電に曝されず、この成形体1がプラズマ処理時に損傷することを防止することができる。
尚、大気圧プラズマ処理には、リモート方式以外にも、図6に示されるような処理対象11の周囲にプラズマ生成用ガス7を供給すると共にこの処理対象11の周囲で放電用電極6,6により放電を生じさせてプラズマを生成するダイレクト方式もある。しかしダイレクト方式で成形体1を処理すると、成形体1が導電性を有することから放電により成形体1に微細な損傷が生じてしまい、またガス供給排出用溝2の内面まで充分に処理を施すことが困難であるため、好ましくない。
リモート方式での大気圧プラズマ処理は、成形体1の表面に所望の親水性を付与できるように適宜設定された条件でおこなうことができる。この大気圧プラズマ処理におけるプラズマ生成用ガス7は、窒素ガスであることが好ましく、特にこの窒素ガス中の酸素含有量が2000ppm以下であることが好ましい。この場合、大気圧プラズマ処理によってセパレータAに特に高い親水性が付与される。
また、この大気圧プラズマ処理は、成形体1の表面に結露が生じないように成形体1の温度及び雰囲気温度が調整された条件下で行われることが好ましい。この場合、成形体1の表面に付着した水滴によりプラズマが消費されてしまうことを防止して、処理効率を向上することができる。成形体1の温度は、前記のとおりこの成形体1の表面に結露が生じない温度(露点温度)以上であることが好ましく、安定した大気圧プラズマ処理のためには70℃以下であることが好ましい。大気圧プラズマ処理の安定のためには、成形体1の温度及び雰囲気温度が一定に保たれることも重要である。雰囲気温度の調節にあたっては、通常、プラズマ処理装置のプラズマユニット部分の温度が調節され、プラズマ処理装置の構成によってはプラズマ処理時に成形体1を支える台の温度が調節される。
大気圧プラズマ処理後の成形体1は、そのまま大気中に放置してもよいが、この成形体1をイオン交換水などの水に浸漬するなどして、この成形体1の表面と水と接触させる水接触処理を施すことが好ましい。
このようにして成形体1における水酸基が分布する表面に対してウエットブラスト処理とリモート方式での大気圧プラズマ処理とを含む表面処理を施すと、成形体1の表面の親水性が向上すると共に、この高い親水性が長期に亘って維持されるようになる。この親水化のメカニズムの詳細は不明であるが、成形体1の表面に水酸基が分布することでこの表面に水分が吸着して官能基が生成しやすくなり、更に大気圧プラズマ処理により、成形体1の表面から汚染物質が除去されて活性の高い状態となると共にこの活性化された表面に水酸基等の親水性の官能基が導入されて、成形体1の表面に親水性の官能基が多く形成し、これが親水性向上に寄与していると考えられる。
また、表面処理時において、成形体1に上記のような乾燥処理を施す場合には、水分子によって成形体1への大気圧プラズマ処理が阻害されることが抑制され、大気圧プラズマ処理の効率が向上する。
またこの表面処理において、大気圧プラズマ処理後の成形体1に上記のような水接触処理を施すと、成形体1の表面の親水性が更に向上する。その詳細なメカニズムは明らかではないが、大気圧プラズマ処理によって活性化された成形体1の表面に水分子が吸着することに起因して成形体1の表面の親水性が向上すると考えられる。
成形体1における表面処理が施される面に形成されているガス供給排出用溝2の幅Aと深さBとの比A/Bは、1以上であることが好ましい。この場合、表面処理時におけるウエットブラスト処理時のスラリーや、大気圧プラズマ処理時のプラズマを含むガス流8がガス供給排出用溝2の内部に行き渡りやすくなる。これにより表面処理の均一性が更に高くなってガス供給排出用溝2の内面が充分に親水化される。前記比A/Bの値の上限は特に制限されないが、ガス供給排出用溝2を高密度に形成するためには、実用上、10以下であることが好ましい。
表面処理により、処理後の成形体1の表面の水との静的接触角が0°〜50°の範囲となるようにすることが好ましい。この静的接触角は特に0°〜10°の範囲であることが好ましく、0°〜5°の範囲であれば更に好ましい。この水との静的接触角は、表面処理条件を適宜設定することにより調整することができる。これにより、成形体1の表面に充分に高い親水性を付与することができる。
表面処理により、成形体1の前記表面処理された面の接触抵抗が15mΩcm2以下となるようにすることが好ましい。この接触抵抗も、表面処理条件を適宜設定することにより調整することができる。これにより、燃料電池で発電した電気エネルギーを外部へ伝達するというセパレータAの機能を高いレベルで維持することができる。
以上のようにして製造されるセパレータAを用い、燃料電池を製造することができる。図1は固体高分子型燃料電池の一例を示すものであり、2枚のセパレータA,Aの間に、固体高分子電解質膜などの電解質4とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)などからなる膜−電極複合体(MEA)5を介在させて、単電池(単位セル)が構成されている。この単位セルを数十個〜数百個並設して電池本体(セルスタック)を構成することができる。
図2は、ガスケット12を使用して構成される太陽電池の単セルの構造の一例を示す。この単セルは、セパレータA,A、ガスケット12,12、膜−電極複合体5を重ねることで構成されている。セパレータAには、凸部1a及びガス供給排出用溝2が形成されている領域を取り囲む外周部分に、燃料用貫通孔13a,13aと酸化剤用貫通孔13b,13bとが形成されている。燃料用貫通孔13a,13aは二つ形成されており、各燃料用貫通孔13a,13aはセパレータAの燃料電極3aと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。酸化剤用貫通孔13b,13bも二つ形成されており、各酸化剤用貫通孔13b,13bはセパレータAの酸化剤電極3bと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。また、この外周部分には、冷却用貫通孔13cも形成されている。
セパレータAの外周部分に、シーリングのためのガスケット12が積層される。このガスケット12はその略中央部に膜−電極複合体5における燃料電極3aや酸化剤電極3bを収容するための開口15を有し、この開口15においてセパレータAのガス供給排出用溝2が露出する。この開口15の外周側には、前記セパレータの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔14a、酸化剤用貫通孔14b及び冷却用貫通孔14cがそれぞれ形成されている。
また、膜−電極複合体5における電解質4の外周部分にも、前記セパレータの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔16a、酸化剤用貫通孔16b及び冷却用貫通孔16cがそれぞれ形成されている。
この単セル構造では、セパレータA、ガスケット12、及び電解質4の各燃料用貫通孔13a.14a,16aが連通することで、燃料電極への燃料の供給及び排出のための燃料用流路が構成される。また、各酸化剤用貫通孔13b,14b,16bが連通することで、酸化剤電極への酸化剤の供給及び排出のための酸化剤用流路が構成される。また、各冷却用貫通孔13c,14c,16cが連通することで、冷却水等が流通する冷却用流路が構成される。
このような燃料電池の単セル構造において、燃料電極3aと酸化剤電極3b、並びに電解質4は、燃料電池のタイプに応じた公知の材料で形成される。固体高分子型燃料電池の場合、燃料電極3a及び酸化剤電極3bは例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の基材に、触媒を担持させて構成される。燃料電極3aにおける触媒としては例えば白金触媒、白金・ルテニウム触媒、コバルト触媒等が挙げられ、酸化剤電極3bにおける触媒としては白金触媒、銀触媒等が挙げられる。また、固体高分子型燃料電池の場合、電解質4は例えばプロトン伝導性の高分子膜から形成され、特にメタノール直接型燃料電池の場合は例えばプロトン伝導性が高く、電子導電性やメタノール透過性を殆ど示さないフッ素系樹脂等から形成される。
また、ガスケット12は、例えば天然ゴム、シリコーンゴム、SIS共重合体、SBS共重合体、SEBS、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素系ゴム等などから選択されるゴム材料から形成される。このゴム材料には粘着付与剤が配合されてもよい。
図4は複数の単セルからなる燃料電池C(セルスタック)の一例を示す。この燃料電池Cは、燃料用流路に連通する燃料の供給口17a及び排出口17bと、酸化剤用流路に連通する酸化剤の供給口18a及び排出口18bと、冷却用流路に連通する冷却水の供給口19a及び排出口19bとを有する。
このような燃料電池Cでは、セパレータAの表面に親水性が付与されていることで、セパレータAにおけるガス供給排出用溝2が水滴により閉塞されにくくなり、燃料電池の発電効率の低下を抑制することができる。また、このセパレータAの親水性を長期間維持することができることから、燃料電池の発電効率を長期に亘って高く維持することができるようになる。
ところで、本実施形態では、図2に示されるように、セパレータAにはストレートタイプのガス供給排出用溝2が形成されている。一般に、セパレータAにおけるガス供給排出用溝2としては、屈曲を有するサーペンタインタイプの溝と屈曲を有さないストレートタイプの溝とがある。セパレータAのガス供給排出用溝2の内部にガスを流通させる場合には、このガス供給排出用溝2の内部においてガス流量が不均一になることがある。サーペンタインタイプの溝の場合には、ガス供給排出用溝2の下流側で溝の数を減らすなどの設計によりガス流量の不均一を緩和することもできるが、ストレートタイプの場合にはガス流量の不均一を解消することは難しい。ガス流量の不均一によりガス供給排出用溝2内にガス流量が少ない部分が生じ、この部分に水滴が付着すると、この水滴をガス供給排出用溝2から排出することが難しくなる。しかし、このようにガス供給排出用溝2の内部でガス流量が不均一になる場合であっても、本実施形態ではセパレータAの表面の親水性が向上することで、ガス供給排出用溝2における水分の排出が促進され、ガス供給排出用溝が水滴により閉塞されることが防止される。勿論、図2に示されるセパレータAにサーペンタインタイプのガス供給排出用溝2を形成してもよい。
また、燃料電池を製造するにあたっては、セパレータAにガスケット12を積層した後、このセパレータAのガス供給排出用溝2が形成されている表面に、リモート方式での大気圧プラズマ処理を施することが好ましい。この場合、図3に示すようなガスケット付き燃料電池セパレータBが得られる。このガスケット付き燃料電池セパレータBを膜−電極複合体5と積層することで単セル構造を構成することができる。
例えば予めシート状又は板状に形成されたガスケット12をセパレータAに接着や融着するなどして接合することによって、セパレータAにガスケット12を積層することができる。セパレータAの表面上でガスケット12を形成するための材料を成形することによって、セパレータAにガスケット12を積層することもできる。ガスケット12の形成に用いられる材料としては未加硫のゴム材料が挙げられる。この未加硫のゴム材料をスクリーン印刷等によりセパレータAの表面上の所定位置に塗布し、このゴム材料の塗膜を加硫することで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12を形成することができる。前記加硫にあたっては、加熱、電子線などの放射線の照射、或いはその他適宜の加硫方法が採用される。この場合、薄型のセパレータAに対してもガスケット12を容易に積層することができる。また、セパレータAを金型内にセットし、このセパレータAの表面上の所定位置に未加硫のゴム材料を射出すると共にこのゴム材料を加熱するなどして加硫することで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12を形成することもできる。このように金型成形によりガスケット12を形成するにあたっては、トランスファー成形のほか、コンプレッション成形、インジェクション成形等が採用され得る。
またリモート方式での大気圧プラズマ処理は、上記成形体1への表面処理における大気圧プラズマ処理と同様にしておこなうことができる。この大気圧プラズマ処理後のガスケット付き燃料電池セパレータBを、必要に応じて加温されたイオン交換水で洗浄してもよい。
このようにガスケット付き燃料電池セパレータBを得ると、セパレータAへのガスケット12の積層時にガスケット12からの揮発分や疎水成分などがセパレータAの表面に付着しても、この揮発分や疎水成分などが大気圧プラズマ処理により効率よく除去される。セパレータAへのガスケット12の積層時には、ガスケット12からの揮発分や疎水成分などがセパレータAに付着して親水性の低下を招くおそれがある。しかし前記のようにガスケット12の積層後にリモート方式での大気圧プラズマ処理を施すと、セパレータAの高い親水性が回復する。このため、燃料電池に組み込まれたセパレータAの親水性を更に向上することができ、これにより燃料電池の長期耐久性を更に向上することができる。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
(実施例1〜19、比較例1〜4)
各実施例及び比較例につき、表1に示す成分を攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)に表1に示す組成となるように入れて攪拌混合し、得られた混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕した。
得られた粉砕物を、金型温度185℃、成形圧力35.3MPa、成形時間2分の条件で圧縮成形した。次に金型を閉じたまま除圧し、30秒間保持した後に金型を開き、成形体1を取り出した。
得られた成形体1の形状は、200mm×250mm、厚み1.5mmであった。成形体1の一面には長さ250mm、幅1mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を57本、他面には長さ250mm、幅0.5mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を58本形成した。
この成形体1の表面に、比較例1を除いて、市販のウエットブラスト用スラリーを用いたウエットブラスト処理を施した。
この成形体1の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)を測定した結果を表1に示す。
ウエットブラスト処理後、実施例4,5、15〜19については、成形体1に乾燥処理を施した。この乾燥処理にあたっては、成形体1の表面に60℃のエアを吹き付けるエアブロー処理を施すことで成形体1の表面上の水滴を除去した。
以上の処理後の成形体1の吸湿率を表1に示す。この吸湿率は、成形体1を90℃で1時間加熱した場合の成形体1の重量変化に基づいて導出した。
次に、成形体1に対して大気圧プラズマ処理を施した。大気圧プラズマ処理にあたり、比較例2以外ではリモート方式で処理し、比較例2ではダイレクト方式で処理した。プラズマ処理装置としては積水化学工業株式会社製のAP−Tシリーズを使用した。処理条件は表1に示すとおりである。尚、表1中の「処理時温度」は大気圧プラズマ処理時の成形体1の温度であり、60℃は露点以上の温度である。
大気圧プラズマ処理後、実施例4,5、15〜19では成形体1をイオン交換水中に浸漬して水接触処理を施した。
(曲げ強度評価)
各実施例及び比較例において、セパレータAを作製する場合と同じ方法で80mm×10mm×4mmの寸法の曲げ強度測定用の成形品を作製し、JIS K6911に準拠して曲げ強度を測定した。支点間距離は64mm、クロスヘッドスピードは2mm/分とした。
(接触抵抗評価1)
各実施例及び比較例において、セパレータAの厚みを2mmに形成し、このセパレータAの上下にカーボンペーパーを配置し、更にその上下に銅板を配置し、上下方向に面圧1.0MPaの圧力をかけた。次に、前記2枚のカーボンペーパー間の電圧を電圧計で測定すると共に2枚の銅板間の電流を電流計で測定し、その結果から抵抗(平均値)を計算した。尚、使用したカーボンペーパーは、東レ社製のTGP−H−Mシリーズ(090M:厚さ0.28mm、120M:厚さ0.38mm)である。
(接触抵抗評価2)
上記接触抵抗評価1において、測定時の上下方向の面圧を0.5MPに変更した。
(TOC評価)
JIS K0551−4.3に準拠し、まず各実施例及び比較例における成形体1をメタノールで1分間洗浄した後、イオン交換水にて1分間洗浄した。次いで、ガラス製容器中に成形体1とイオン交換水とを、成形体1の質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水中に燐酸を添加してpH2以下に調整した後、湿式酸化−赤外線式TOC測定法(東レエンジニアリング社製「東レアストロTOC自動分析計MODEL1800」を使用)にて、有機炭酸量を測定した。
(親水性評価)
各実施例及び比較例で得られたセパレータAの、幅0.5mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2内に、1μLのイオン交換水を垂らし、この水滴の、ガス供給排出用溝2の長手方向に沿った方向の広がり長さを測定した。
また、このセパレータAを90℃の温水中に投入して一定時間放置した後、乾燥した。放置時間は500時間、1000時間、1500時間及び2000時間とした。この処理後のセパレータAについて、前記と同様にガス供給排出用溝2内での水滴の広がり長さを測定した。
(静的接触角評価1)
各実施例及び比較例で得られたセパレータAを水平に配置し、このセパレータAの凸部(リブ)1aの上にスポイトでイオン交換水を垂らし、協和界面科学株式会社製の測定器(品番「CA−W150」)を用いて、水との静的接触角を測定した。
また、このセパレータAを90℃の温水中に投入して一定時間放置した後、乾燥した。放置時間は500時間、1000時間、1500時間及び2000時間とした。この処理後のセパレータAについて、前記と同様に水との静的接触角を測定した。
(静的接触角評価2)
各実施例及び比較例で得られたセパレータAを水平に配置し、このセパレータAの凸部(リブ)1aの上にスポイトでイオン交換水を垂らし、協和界面科学株式会社製の測定器(品番「CA−W150」)を用いて、水との静的接触角を測定した。
また、このセパレータAを100℃の温水中に投入して1時間放置した後、90℃で2時間加熱して乾燥することを1サイクルとする処理を繰り返した。処理サイクル数は、50回、100回、200回及び500回とした。この処理後のセパレータAについて、前記と同様に水との静的接触角を測定した。
(水溶性イオン分析)
各実施例及び比較例における成形体1をメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中に成形体1とイオン交換水とを、成形体1の質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)のNaイオン濃度及びClイオン濃度を、イオンクロマトグラフィ(島津製作所社製「CDD−6A」)で測定した。
(電気伝導度評価)
各実施例及び比較例における成形体1をメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中に成形体1とイオン交換水とを、成形体1の質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)を導電率計で測定した。
(燃料電池の起電圧変動評価)
各実施例及び比較例で得られたセパレータA上の外周部分にエチレン−プロピレン−ジエンゴムをスクリーン印刷により塗布した後、加熱加硫することでガスケット12を形成した。これによりガスケット付き燃料電池セパレータBを得た。更にこのガスケット付き燃料電池セパレータBの間に、電解質4とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)とからなる膜−電極複合体5を介在させて、財団法人日本自動車研究所標準単セル(電極面積25cm2)からなる燃料電池Cを作製した。この燃料電池Cに、外部回路を接続した状態で、燃料ガスとして空気を2.0NL/minの流量で、酸化剤ガスとして水素を0.5NL/minの流量でそれぞれ供給することで、燃料電池Cを1000時間連続的に動作させた。この燃料電池Cの作動時の起電圧(V)の経時的な変動の様子を調査した。その結果を、変動後の起電圧の、初期値に対する百分率((E1/E0)×100(%)の値で表示した。前記E1は変動後の起電圧、E0は初期の起電圧である。
また、実施例1〜19について、セパレータAにガスケット12を取り付けた後、このセパレータAに対して、実施例1における表面処理と同じ条件でリモート方式での大気圧プラズマ処理を施すことで、ガスケット付き燃料電池セパレータBを得た。このガスケット付き燃料電池セパレータBを用い、前記と同様にして、図4に示す構造の燃料電池を作製した。この燃料電池についても、前記と同じ方法で起電圧変動を測定した。 (限界酸素利用率評価)
各実施例及び比較例で得られたセパレータAを用い、前記燃料電池の起電圧変動評価の場合と同じ構成を有する燃料電池Cを作製した。
この燃料電池Cを、酸素利用率40%、電流密度0.15A/cm2の条件で、燃料利用率50%から5%ずつ燃料利用率を上げて行った。そうすると、当初700mV以上あったセル電圧がある燃料利用率で急激に低下した。そして、セル電圧が600mVを下回ったところで試験を中止した。5%毎の燃料利用率で5時間の運転試験を行い、セル電圧の振れがみられず安定的に運転できる最も高い燃料利用率を限界燃料利用率とした。
また、この燃料電池Cを、燃料利用率60%、電流密度0.3A/cm2の条件で酸素利用率30%から5%ずつ上げていき、セル電圧が600mVを下回ったところで試験を中止した。各酸素利用率で5時間の運転試験を行い、セル電圧の振れがみられず安定的に運転できる最も高い酸素利用率を限界酸素利用率とした。この限界酸素利用率が高い場合、セパレータAのガス供給排出用溝2が水滴の付着によって閉塞されることが抑制されることで、発電の安定性が高くなっているといえる。
表中の各成分の詳細は次の通りである
〈組成〉
・エポキシ樹脂A:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製「EOCN−1020−75」、エポキシ当量199、融点75℃)
・エポキシ樹脂B:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製「830CRP」、エポキシ当量171、25℃で液状)
・硬化剤A:ノボラック型フェノール樹脂(群栄化学社製「PSM6200」、OH当量105)
・硬化剤B:多官能フェノール樹脂(明和化成株式会社製「MEH−7500」、OH当量100)
・フェノール樹脂A:レゾール型フェノール樹脂(群栄化学社製「サンプルA」、融点75℃、13C−NMR分析によるオルト−オルト25〜35%、オルト−パラ60〜70%、パラ−パラ5〜10%)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学社製「TPP」)
・天然黒鉛(中越黒鉛工業所社製「WR50A」、平均粒径50μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン4ppm、塩化物イオン2ppm)
・人造黒鉛(エスイーシー社製「SGP100」、平均粒径100μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン3ppm、塩化物イオン1ppm)
・カップリング剤:エポキシシラン(日本ユニカー社製「A187」)
・ワックスA:天然カルナバワックス(大日化学社製「H1−100」、融点83℃)
・ワックスB:モンタン酸ビスアマイド(大日化学社製「J−900」、融点123℃)
(溝の深さ/幅評価)
実施例1−19において、ガス供給排出用溝2の深さBを1mmとすると共に幅Aと深さBとの比A/Bを0.8、1、5、10としたセパレータAをそれぞれ作製した。
この各セパレータAのガス供給排出用溝2の内面について静的接触角評価をおこなった。この結果、実施例1−19のいずれの場合においても、水との静的接触角は、A/Bが0.8の場合に25°となり、A/Bが1及び5及び10の場合は20°となった。