以下、本発明に一実施形態について説明する。
図5は、セパレータ20を備える固体高分子型燃料電池の単セル構造の一例を示す。2枚のセパレータ20,20の間に、固体高分子電解質膜などの電解質4とガス拡散電極(燃料電極31と酸化剤電極32)などからなる膜−電極複合体(MEA)5が介在することで、単電池(単位セル)が構成されている。セパレータ20と膜−電極複合体5の電解質4との間には、ガスケット12が介在している。この単位セルを数十個〜数百個並設されることで電池本体(セルスタック)が構成される。
セパレータ20には、燃料である水素ガス等と、酸化剤である酸素ガス等の流路であるガス供給排出用の溝2が形成される。
セパレータ20は、片面のみにガス供給排出用の溝2を有するアノード側セパレータと、前記アノード側セパレータとは反対側の片面のみにガス供給排出用の溝2を有するカソード側セパレータとで構成されてもよい。このアノード側セパレータとカソード側セパレータとが重ねられることで、図5に示すような両面にガス供給排出用の溝2を有するセパレータ20が構成される。アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間には冷却水が流通する流路が形成されてもよい。この場合、アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間にはガスケットが介在することが好ましい。
セパレータ20の、ガス供給排出用の溝2が形成されている領域を取り囲む外周部分には、六個のマニホールド13(二つの燃料用マニホールド131、二つの酸化剤用マニホールド132、及び二つの冷却用マニホールド133)が形成されている。燃料用マニホールド131,131は二つ形成されており、各燃料用マニホールド131,131はセパレータ20の燃料電極31と重なる面におけるガス供給排出用の溝2の両端にそれぞれ連通する。酸化剤用マニホールド132,132も二つ形成されており、各酸化剤用マニホールド132,132はセパレータ20の酸化剤電極32と重なる面におけるガス供給排出用の溝2の両端にそれぞれ連通する。この外周部分には、二つの冷却用マニホールド133も形成されている。セパレータ20がアノード側セパレータとカソード側セパレータとで構成される場合、アノード側セパレータとカソード側セパレータの間にある冷却水が流通する流路に、冷却用マニホールド133が連通する。
本実施形態では、図5に示されるように、セパレータ20にはストレートタイプのガス供給排出用の溝2が形成されている。一般に、セパレータ20におけるガス供給排出用の溝2としては、屈曲を有するサーペンタインタイプの溝と屈曲を有さないストレートタイプの溝とがある。勿論、図5に示されるセパレータ20において、このセパレータ20にサーペンタインタイプのガス供給排出用の溝2が形成されてもよい。
セパレータ20の寸法は適宜設定されるが、小型のセパレータ20を得る観点からは厚みが0.8〜3.0mm範囲であることが好ましく、0.8〜2.5mmであれば更に好ましい。またセパレータ20の平面視寸法は15〜250cm2の範囲であることが好ましい。セパレータ20のガス供給排出用の溝2の幅は例えば0.5〜1.5mm、深さは例えば0.5〜1.5mmの範囲に形成される。マニホールド13の開口面積は例えば0.5〜5.0cm2の範囲に形成される。
ガスケット12は、セパレータ20の外周部分に、シーリングのために積層される。このガスケット12はその略中央部に膜−電極複合体5における燃料電極31や酸化剤電極32を収容するための開口15を有し、この開口15においてセパレータ20のガス供給排出用の溝2が露出する。ガスケット12には、開口15の外周側の、前記セパレータ20の燃料用マニホールド131と合致する位置に燃料用貫通孔141が、酸化剤用マニホールド132に合致する位置に酸化剤用貫通孔142が、冷却用マニホールド133と合致する位置に冷却用貫通孔143が、それぞれ形成されている。
膜−電極複合体5における電解質4にも、その外周部分の、前記セパレータ20の燃料用マニホールド131と合致する位置に燃料用貫通孔161が、酸化剤用マニホールド132と合致する位置に酸化剤用貫通孔162が、冷却用マニホールド133と合致する位置に冷却用貫通孔163が、それぞれ形成されている。
この単セル構造では、セパレータ20の燃料用マニホールド131、ガスケット12の燃料用貫通孔141、及び電解質4の燃料用貫通孔161が連通することで、燃料電極への燃料の供給及び排出のための燃料用流路が構成される。また、セパレータ20の酸化剤用マニホールド132、ガスケット12の酸化剤用貫通孔142、及び電解質4の酸化剤用貫通孔162が連通することで、酸化剤電極への酸化剤の供給及び排出のための酸化剤用流路が構成される。また、セパレータ20の冷却用マニホールド133、ガスケット12の冷却用貫通孔143、及び電解質4の冷却用貫通孔163が連通することで、冷却水等が流通する冷却用流路が構成される。
燃料電極31と酸化剤電極32、並びに電解質4は、燃料電池のタイプに応じた公知の材料で形成される。固体高分子型燃料電池の場合、燃料電極31及び酸化剤電極32は例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の基材が触媒を担持することで構成される。燃料電極31における触媒としては例えば白金触媒、白金・ルテニウム触媒、コバルト触媒等が挙げられ、酸化剤電極32における触媒としては白金触媒、銀触媒等が挙げられる。また、固体高分子型燃料電池の場合、電解質4は例えばプロトン伝導性の高分子膜から形成され、特にメタノール直接型燃料電池の場合は例えばプロトン伝導性が高く、電子導電性やメタノール透過性を殆ど示さないフッ素系樹脂等から形成される。
ガスケット12は、例えば天然ゴム、シリコーンゴム、SIS共重合体、SBS共重合体、SEBS、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素系ゴム等などから選択されるゴム材料から形成される。このゴム材料には粘着付与剤が配合されてもよい。
セパレータ20にガスケット12を積層するにあたっては、例えば予めシート状又は板状に形成されたガスケット12がセパレータ20に接着や融着されるなどして接合される。セパレータ20の表面上でガスケット12を形成するための材料が成形されることによって、セパレータ20にガスケット12が積層されてもよい。例えば未加硫のゴム材料がスクリーン印刷等によりセパレータ20の表面上の所定位置に塗布され、このゴム材料の塗膜を加硫されることで、セパレータ20の表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12が形成される。前記加硫にあたっては、加熱、電子線などの放射線の照射、或いはその他適宜の加硫方法が採用される。この場合、薄型のセパレータ20に対してもガスケット12が容易に積層される。また、セパレータ20が金型内にセットされ、このセパレータ20の表面上の所定位置に未加硫のゴム材料が射出されると共にこのゴム材料が加熱されるなどして加硫されることで、セパレータ20の表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12が形成されてもよい。このように金型成形によりガスケット12が形成されるにあたっては、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形等の成形法が採用され得る。
セパレータ20は、樹脂成分と黒鉛粒子とを含有する成形用材料の硬化物から形成される。
成形用材料は、第一アミン及び第二アミンを含有しないことが好ましい。すなわち、この成形用材料が、置換基−NH及び−NH2を有する化合物を含有しないことが好ましい。更に成形用材料は第三アミンを含有しないことが好ましい。このように成形用材料がアミンを含有しないと、成形用材料から形成されるセパレータ20が燃料電池中の白金触媒を被毒することがなく、燃料電池が長時間使用される場合の起電力の低下が抑制される。
成形用組成物が含有する樹脂成分は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれでもよい。
熱可塑性樹脂としては、たとえばポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂が使用される場合、熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂は良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
熱硬化性樹脂全量に対するエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂のみ、熱硬化性フェノール樹脂のみ、或いはエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のみを含むのであれば特に好ましい。
エポキシ樹脂は固形状であることが好ましく、特に融点が70〜90℃の範囲であることが好ましい。これにより、材料の変化が少なくなり、成形時の成形用材料の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用材料中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。また、エポキシ樹脂として溶融粘度が低粘度の樹脂が選択されれば、成形用材料の良好な成形性が維持されつつ、成形用材料及びセパレータ20中に黒鉛粒子が高充填され得る。尚、前記作用が発揮される範囲内でエポキシ樹脂の一部が液状であってもよい。
エポキシ樹脂としては、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が用いられることが好ましい。このオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂は、良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
特にエポキシ樹脂が、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のみからなり、或いはオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種からなる成分(第一成分という)を含むことが好ましい。オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が必須の成分であると、成形用材料の成形性が向上すると共に、セパレータ20の耐熱性が向上する。更に、製造コストが低減され得る。第一成分中のオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の割合は、前記成形性の向上、セパレータ20の耐熱性の向上、製造コストの低減の観点から、50〜100質量%の範囲であることが好ましく、特に50〜70質量%の範囲であることが好ましい。
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と共に、ビスフェノール型エポキシ樹脂やビフェニル型エポキシ樹脂やビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂が併用されることも好ましい。この場合、成形用材料の溶融粘度が更に低減し、更に薄型のセパレータ20が作製される場合にはその靱性が向上し得る。
特にビスフェノールF型エポキシ樹脂が使用されると、成形用材料の粘度が低減し、成形用材料の成形性が特に高くなる。この場合の第一成分中におけるビスフェノールF型エポキシ樹脂の含有量は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
ビフェニル型エポキシ樹脂が使用されると、このビフェニル型樹脂は溶融粘度が低いため、成形用材料の流動性が著しく向上し、成形用材料の薄型成形性が特に向上する。この場合の第一成分中におけるビフェニル型エポキシ樹脂の含有量は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂が使用されると、セパレータ20の強度及び靱性が向上し、更にセパレータ20の吸湿性が低減し得る。このため、セパレータ20の機械的特性、導電性、並びに長期使用時の特性の安定性が向上する。この場合の第一成分中におけるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の割合は、30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
成形用材料中の熱硬化性樹脂全量に対する第一成分の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。
前記第一成分は熱硬化性樹脂中のエポキシ樹脂の少なくとも一部として成形用材料中に含有される。すなわち、この第一成分以外の他の熱硬化性樹脂として、例えば前記第一成分以外のエポキシ樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられてもよい。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解するおそれがあるため、使用されないことが望ましい。また、熱硬化性樹脂として、セパレータ20の耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂も適している。ポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などが用いられることも好ましく、例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが用いられることが好ましい。4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが用いられると、セパレータ20の耐熱性が更に向上する。
熱硬化性フェノール樹脂が用いられる場合には、特に開環重合により重合反応が進行するフェノール樹脂が用いられることが好ましい。このようなフェノール樹脂としては、例えばベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。この場合は、成形用材料の成形工程で脱水によるガスが発生しないので成形品中にボイドが発生せず、このためセパレータ20のガス透過性の低下が抑制される。また、レゾール型フェノール樹脂が用いられることも好ましく、例えば13C−NMR分析で、オルト−オルト25〜35%、オルト−パラ60〜70%、パラ−パラ5〜10%の構造を有するレゾール型フェノール樹脂が用いられることが好ましい。レゾール樹脂は通常液状であるが、レゾール型フェノール樹脂の軟化点は容易に調整され得るため、融点が70〜90℃のレゾール型フェノール樹脂が容易に得られる。融点が70〜90℃のレゾール型フェノール樹脂が使用されることで、成形用材料の変質が抑制され、成形時の成形用材料の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用材料中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。
エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂以外の他の樹脂が併用されてもよい。例えばポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられてもよい。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解する恐れがあるため、使用されないことが望ましい。
熱硬化性樹脂として、セパレータ20の耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂も適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂なども好ましく、その具体例として例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。このような樹脂が併用されることで、セパレータ20の耐熱性が更に向上され得る。
エポキシ樹脂が使用される場合、樹脂成分は硬化剤を含有することが好ましく、この硬化剤はフェノール系化合物を含有することが好ましい。このフェノール系化合物としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、多官能フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂等が挙げられる。
硬化剤全量に対するフェノール系化合物の含有量は、エポキシ樹脂の使用量に依存して決定される。また、硬化剤がフェノール系化合物のみであれば特に好ましい。
フェノール系化合物以外の硬化剤が使用される場合、硬化剤として非アミン系の化合物が用いられることが好ましい。この場合、セパレータ20の電気伝導度が高い状態に維持されると共に、燃料電池の触媒の被毒が抑制される。硬化剤として酸無水物系の化合物が用いられないことも好ましい。酸無水物系の化合物が使用される場合は硬化物が硫酸酸性環境下等の酸性環境下で加水分解して、セパレータ20の電気伝導度の低下が引き起こされたり、セパレータ20からの不純物の溶出が増大してしまうおそれがある。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる場合は、熱硬化性樹脂におけるエポキシ樹脂と硬化剤におけるフェノール系化合物とは、前記フェノール系化合物に対する前記エポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲となるように配合されることが好ましい。
炭素質粒子は、セパレータ20の電気比抵抗を低減して、セパレータ20の導電性を向上させるために使用される。炭素質粒子は黒鉛粒子であることが好ましい。黒鉛粒子としては、高い導電性を示すものであれば制限なく用いられ、例えば、メソカーボンマイクロビーズなどの炭素質を黒鉛化したもの、石炭系コークスや石油系コークスを黒鉛化したものの他、黒鉛電極や特殊炭素材料の加工粉、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛等のような、適宜のものが用いられる。このような黒鉛粒子は、一種のみが用いられるほか、複数種が併用される。
黒鉛粒子は、人造黒鉛粉、天然黒鉛粉のいずれでもよい。天然黒鉛粉は導電性が高いという利点を有し、また人造黒鉛粉は天然黒鉛粉に比べて導電性は多少劣るものの、異方性が少ないという利点がある。
黒鉛粒子は、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉のいずれの場合であっても、精製されていることが好ましく、この場合は、灰分やイオン性不純物が低いため、成形品であるセパレータ20からの不純物の溶出が抑制される。
黒鉛粒子は、精製されていることが好ましい。この場合は、黒鉛粒子中の灰分やイオン性不純物が低いため、セパレータ20からの不純物の溶出が抑制される。黒鉛粒子における不純物である灰分は0.05質量%以下であることが好ましく、灰分が0.05質量%を超えると、セパレータ20を備える燃料電池の特性が低下するおそれがある。
黒鉛粒子の平均粒径は15〜100μmの範囲であることが好ましい。この平均粒径が10μm以上であることで成形用材料の成形性が向上し、平均粒径が100μm以下となることでセパレータ20の表面平滑性が向上する。成形性の向上のためには、特に前記平均粒径が30μm以上であることが好ましく、またセパレータ20の表面平滑性が特に向上して後述するようにセパレータ20の表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)が0.4〜1.6μmの範囲、特に1.0μm未満となるためには前記平均粒径が70μm以下であることが好ましい。特に前記平均粒径が30〜70μmの範囲であることが好ましい。
特に薄型のセパレータ20が作製される場合には、黒鉛粒子は100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有することが好ましい。この黒鉛粒子中に100メッシュ篩を通過しない粒子が含まれていると、成形用材料中に粒径の大きい黒鉛粒子が混入してしまい、特に成形用材料が薄型のシート状に成形される際の成形性が低下してしまう。
黒鉛粒子のアスペクト比は10以下であることが好ましく、この場合、セパレータ20に異方性が生じることが抑制される共に反りなどの変形も抑制される。
尚、セパレータ20の異方性の低減に関しては、セパレータ20における成形時の成形用材料の流動方向(セパレータ20の厚み方向と直交する方向)と、この流動方向と直交する方向(セパレータ20の厚み方向)との間での接触抵抗の比が、2以下となることが好ましい。
黒鉛粒子全体は、特に2種以上の粒度分布を有すること、すなわち黒鉛粒子全体が平均粒径の異なる2種以上の粒子群の混合物であることも好ましい。この明細書において、粒子群とは、黒鉛粒子全体のうちの少なくとも一部を構成する複数の粒子の集合を意味する。黒鉛粒子全体が、特に平均粒径1〜50μmの範囲の粒子群と、平均粒径30〜100μmの粒子群との混合物であることが好ましい。このような粒度分布を有する黒鉛粒子が用いられると、粒径の大きい粒子は表面積が小さいため、樹脂成分の含有量が少量であっても成形用材料の混練が可能になることが期待される。更に粒径の小さい粒子によって粒子同士の接触性が向上すると共に、セパレータ20の強度向上も期待され、これにより、セパレータ20の密度の向上、導電性の向上、ガス不透過性の向上、強度の向上等といった、性能の向上が図られる。平均粒径1〜50μmの粒子群と平均粒径30〜100μmの粒子群との混合比は、適宜調整されるが、特に前者対後者の混合質量比が40:60〜90:10、特に65:35〜85:15であることが好ましい。
尚、黒鉛粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
成形用材料中の黒鉛粒子の割合は、成形用材料中の固形分全体に対して70〜80質量%の範囲であることが好ましい。すなわち、板体6中の黒鉛粒子の割合は板体6全体に対して70〜80質量%の範囲であると共にそれに伴って板体6中の熱硬化性樹脂硬化物の含有量が20〜30質量%の範囲であることが好ましい。このように黒鉛粒子の割合が70質量%以上であると、セパレータ20に充分に優れた導電性が付与されと共に、セパレータ20の機械的強度が充分に向上する。またこの割合が80質量%以下であると、成形用材料に充分に優れた成形性が付与されると共にセパレータ20に充分に優れたガス透過性が付与される。黒鉛粒子の割合が75質量%以上であると共にそれに伴って熱硬化性樹脂硬化物の割合が25質量%以下であれば更に好ましい。
成形用材料は、必要に応じて硬化触媒、ワックス(離型剤)、カップリング剤等の添加剤を含有してもよい。
硬化触媒(硬化促進剤)としては、特に制限されないが、成形用材料が第一アミン及び第二アミンを含有しないためには、非アミン系の化合物が用いられることが好ましい。例えば、アミン系のジアミノジフェニルメタンなどは残存物が燃料電池の触媒を被毒する恐れがあり、好ましくない。また、イミダゾール類は硬化後、塩素イオンを放出しやすくなるので不純物溶出の恐れがあり、あまり好ましくない。
但し、測定開始温度30℃、昇温速度10℃/分、保持温度120℃、保持温度での保持時間30分の条件で加熱された場合の重量減少が5%以下であり、且つ2位に炭化水素基を有する置換イミダゾールが用いられることは、成形用材料の保存安定性が向上する点で好ましい。更に、特に薄型のセパレータ20が作製される場合には、ワニス状に調製された成形用材料からシート状のセパレータ20が形成される際の溶剤の揮発性、セパレータ20の平滑性などが良好となる。この置換イミダゾールとして、特に2位の炭化水素基の炭素数が6〜17の置換イミダゾールが使用されることが好ましく、その具体例としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。このうち、2−ウンデシルイミダゾール及び2−ヘプタデシルイミダゾールが好適である。これらの化合物は一種単独で用いられ、或いは二種以上が併用される。このような置換イミダゾールの含有量は適宜調整され、それにより成形硬化時間が調整され得る。この置換イミダゾールの含有量は好ましくは成形用材料中の熱硬化性樹脂と硬化剤の合計量に対して、0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。
また、硬化触媒として、好ましくはリン系化合物が用いられる。リン系化合物と前記置換イミダゾールとが併用されてもよい。リン系化合物の一例として、トリフェニルホスフィンが挙げられる。このようなリン系化合物が用いられると、セパレータ20からの塩素イオンの溶出が抑制される。
成形用材料は、硬化促進剤として、次の[化1]で示される化合物を含有することも好ましい。この場合、セパレータ20の耐湿性が向上する。しかも、この構造式(1)で示される化合物は、セパレータ20のガラス転移温度の低下や、熱時剛性の低下や、連続成形性の悪化などを引き起こすことがない。むしろこの構造式[化1]で示される化合物が使用されることにより、セパレータ20のガラス転移温度が上昇し、熱時剛性が向上し、更に成形用組成物の成形時の離型性が向上して連続成形性が向上し得る。
更に、この構造式[化1]で示される化合物からは、イオン性不純物の溶出が生じにくい。このため、構造式[化1]で示される化合物が使用されることで、セパレータ20からのイオン性不純物の溶出が抑制され、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下が抑制される。構造式[化1]で示される化合物からイオン性不純物の溶出が生じにくいのは、この化合物の酸解離定数(pKa)が小さいためであると推察される。
構造式[化1]で示される化合物の、硬化促進剤全量に対する割合は、20〜100質量%の範囲であることが好ましい。この割合が20質量%未満であると、セパレータ20のガラス転移温度(Tg)の上昇が充分ではないおそれがある。
このような硬化触媒の含有量は適宜調整されるが、好ましくは成形用材料中のエポキシ樹脂に対して0.5〜3質量部の範囲とする。
カップリング剤としては、特に制限されないが、成形用材料が第一アミン及び第二アミンを含有しないためには、アミノシランが用いられないことが好ましい。アミノシランが用いられると、燃料電池の触媒が被毒される恐れがあり好ましくない。カップリング剤としてメルカプトシランが用いられないことも好ましい。このメルカプトシランが用いられる場合も、同様に燃料電池の触媒が被毒される恐れがある。
カップリング剤の例としては、シリコン系のシラン化合物、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤が挙げられる。例えばシリコン系のカップリング剤としては、エポキシシランが適している。
エポキシシランカップリング剤が使用される場合の使用量は、成形用材料の固形分中の含有量が0.5〜1.5質量%となる範囲であることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータ20の表面にブリードすることを充分に抑制することができる。
カップリング剤は黒鉛粒子の表面に予め噴霧等により付着されていてもよい。その場合の添加量は、黒鉛粒子の比表面積と、カップリング剤の単位質量当たりの被覆可能面積(カップリング剤によって被覆され得る面積)とを考慮して適宜設定される。カップリング剤の添加量は、特にカップリング剤の被覆可能面積の総量が黒鉛粒子の表面積の総量の0.5〜2倍の範囲となるように調整されることが好ましい。この範囲において、セパレータ20の表面におけるカップリング剤のブリードが充分に抑制され、これにより金型表面の汚染が抑制される。
ワックス(内部離型剤)としては、特に制限されないが、120〜190℃で成形用材料中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と相溶せずに相分離する内部離型剤が用いられることが好ましい。このような内部離型剤として、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、及び長鎖脂肪酸系のワックスから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。このような内部離型剤が成形用材料の成形過程で熱硬化性樹脂及び硬化剤と相分離することで、セパレータ20の離型性が向上する。
内部離型剤の含有量は、板体6の形状の複雑さ、溝深さ、抜き勾配など金型面との離形性の容易さなどに応じて適宜設定されるが、成形用材料中の固形分全量に対して0.1〜2.5質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が0.1質量%以上であることで金型成形時にセパレータ20が十分な離型性を発揮し、またこの含有量が2.5質量%以下であることでセパレータ20の親水性が充分に高く維持される。このワックスの含有量は0.1〜1質量%の範囲であれば更に好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲であれば特に好ましい。
セパレータ20中のイオン性不純物の含有量は、成形用材料全量に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下とであることが好ましい。そのためには成形用材料のイオン性不純物の含有量が、成形用材料全量に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下であることが好ましい。この場合、セパレータ20からのイオン性不純物の溶出が抑制され、このため不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下が抑制される。
セパレータ20及び成形用材料のイオン性不純物の含有量が上記のように低減するためには、成形用材料を構成する熱硬化性樹脂、硬化剤、黒鉛、その他添加剤等の各成分のそれぞれのイオン性不純物の含有量が、各成分に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下であることが好ましい。
イオン性不純物の含有量は、対象物(成形用材料、熱硬化性樹脂など)から溶出したイオン性不純物を含む抽出水中の、イオン性不純物の量に基づいて導出される。抽出水は、イオン交換水中に対象物が対象物10gに対してイオン交換水100mlの割合となるように投入された状態で、このイオン交換水及び対象物が90℃で50時間加熱されることで、得られる。抽出水中のイオン性不純物は、イオンクロマトグラフィで評価される。この抽出水中のイオン性不純物量が対象物に対する質量比に換算されることで、対象物中のイオン性不純物の量が導出される。
成形用材料は、この組成物から形成されるセパレータ20のTOC(total organic carbon)が100ppm以下となるように調製されることが好ましい。
TOCは、イオン交換水中にセパレータ20が、セパレータ20の質量10gに対してイオン交換水100mlの割合で投入され、このイオン交換水及びセパレータ20が90℃で50時間加熱されることで得られる溶液から測定される数値である。このようなTOCは、例えばJIS K0102に準拠して島津製全有機炭素分析装置「TOC−50」などで測定され得る。測定にあたっては、サンプルの燃焼により発生したCO2濃度が非分散型赤外線ガス分析法で測定され、これによりサンプル中の炭素濃度が定量される。炭素濃度が測定されることによって、間接的にセパレータ20が含有する有機物質濃度が測定される。サンプル中の無機炭素(IC)、全炭素(TC)が測定されると、全炭素と無機炭素の差(TC−IC)から全有機炭素(TOC)が導出される。
上記のTOCが100ppm以下であると、燃料電池の特性低下が更に抑制される。
TOCの値は、成形用材料を構成する各成分として高純度の成分が選択されたり、樹脂の当量比が調整されたり、成形時に後硬化処理が施されたりすることによって、低減され得る。
原料成分中には不純物として金属成分が混入している可能性があり、成形用材料及びセパレータ20には不純物として原料成分に由来する金属成分、製造時に混入する金属成分などが混入している可能性がある。セパレータ20に金属成分が混入していると、セパレータ20の表面に金属酸化物(錆)が生じ、この金属酸化物から金属イオンが脱離する殊で、電解質4のプロトン伝導性の低下や電解質4の分解が引き起こされるおそれがある。また、この金属成分によりセパレータ20の腐食電流が増大してしまう。そこで、セパレータ20が製造されるにあたり、原料成分、成形用材料、及びセパレータ20のうち少なくともいずれかに対し、金属成分の含有量を低減するための処理を施すことが好ましい。この場合、セパレータ20の金属成分の含有量が低減する。特に、少なくとも成形用材料に対し、金属成分の含有量を低減するための処理施すことが好ましい。
原料成分に対する、金属成分の含有量を低減するための処理の一例として、原料成分中の金属成分を磁石を用いて吸引する処理が挙げられる。原料成分のうち、特に黒鉛粒子に対する、金属成分の含有量を低減するための処理としては、黒鉛粒子を、pH2以下の強酸性溶液を用いて洗浄する処理も挙げられる。強酸性溶液としては、例えば濃度69質量%の濃硝酸と濃度36質量%の濃塩酸とを体積比で1:3の割合で混合して得られる王水、濃度15質量%以上の塩酸水、濃度15質量%以上の硫酸水、及び濃度15質量%以上の硝酸水から選ばれる少なくとも一種を使用することができる。この場合、黒鉛粒子中の金属成分の含有量が容易に低減される。前記塩酸水、硫酸水及び硝酸水の濃度は、操作性の観点から30質量%以下であることが好ましい。
成形用材料に対する、金属成分の含有量を低減するための処理としては、原料成分に対する金属成分の含有量を低減するための処理と同様に、成形用材料中の金属成分を磁石を用いて吸引する処理などが挙げられる。
前記のような原料成分が配合されることで成形用材料が調製され、この成形用材料が成形されることでセパレータ20が得られる。成形用材料は、粒状、シート状等の適宜の形状に形成される。
成形用材料が粒状である場合には、上記のような原料成分が例えば攪拌混合機などで攪拌混合され、或いは更に整粒機などで整粒されることで、成形用材料が得られる。
成形用材料はシート状であってもよい。特に薄型のセパレータ20が作製される場合には、シート状の成形用材料が使用されることが好ましい。シート状の成形用材料が使用されると、例えば0.2〜1.0mmの厚みの薄型のセパレータ20が容易に得られ、しかもこのセパレータ20の厚み精度が高くなる。
シート状の成形用材料の調製のためには、まず上記のような原料成分を含有する液状の組成物が調製される。液状の組成物は必要に応じて溶媒を含有する。溶媒としては、たとえばメチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が好ましい。溶媒は一種のみが用いられても二種以上が併用されてもよい。溶媒の使用量は成形性等を考慮して適宜設定されるが、好ましくは液状の組成物の粘度が1000〜5000cpsの範囲となるように調整される。尚、前記の通り溶媒は必要に応じて使用されていればよく、原料成分中の熱硬化性樹脂が液状樹脂である場合などには、溶媒が使用されなくてもよい。
この液状の組成物がシート状に成形されることで、シート状の成形用材料が得られる。液状の組成物が、例えばキャスティング(展進)成形によりシート状に成形されると共に、キャスティングにともなって加熱されることで乾燥され、或いは半硬化することにより、シート状の成形用材料が得られる。このシート状の成形用材料は、必要に応じて所定の平面寸法にカット(切断)もしくは打ち抜かれることで適当な寸法に形成される。
キャスティング法によりシート状の成形用材料が形成される際には、複数種の膜厚調節手段が適用され得る。このような複数種の膜厚調節手段が用いられるキャスティング法は、例えばすでに実用化されているマルチコータを用が用いられることで実現される。キャスティングのための膜厚調節手段としては、スリットダイとともに、ドクターナイフおよびワイヤーバーの少なくともいずれか、すなわちいずれか一方もしくは両方を用いることが好ましい。このシート状の成形用材料の厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であれば更に好ましい。また、この厚みは0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であれば更に好ましい。このようにシート状の成形用材料の厚みが0.5mm以下であると、セパレータ20の薄型化や軽量化、並びにそれによる低コスト化が達成され、特に厚みが0.3mm以下であれば溶媒を使用する場合のシート状の成形用材料内部の溶媒の残存が効果的に抑制される。またこの厚みが0.05mm未満の場合にはセパレータ20の製造にあたっての有利さが充分に発揮されなくなり、特に成形性を考慮するとこの厚みは0.1mm以上であることが好ましい。
成形用材料のディスクフローは80mm以上であることが好ましい。この場合、圧縮成形時の成形用材料の流動性が高くなり、このため成形時間の短縮化及び未充填の抑制が図れる。このディスクフローの上限は特に制限されないが、圧縮成形時の金型からの成形用材料の過度の流出を抑制する観点からは100mm以下であることが好ましい。ディスクフローは、平面上の一箇所に3gの成形用材料を密集させて配置し、これを温度170℃、圧力5MPaの条件で30秒間圧縮した場合に形成される成形体の、長径(最も長い径)の測定値である。成形用材料のディスクフローは、成形用材料の組成を変更することで適宜調整し得る。例えば、成形用材料中の黒鉛含有量が減少すればディスクフローは増大し、黒鉛含有量が増大すればディスクフローは減少する。成形用材料中の硬化促進剤の含有量が減少すればディスクフローは増大し、成形用材料中の硬化促進剤の含有量が増大すればディスクフローは低減する。更に成形用材料中の成分の種類が適宜変更されると、それに応じてディスクフローが増減する。
成形用材料が成形されることで、セパレータ20が得られる。成形法としては、圧縮成形が採用される。
図1に、セパレータ20を製造するために用いられる圧縮成形金型3の例を示す。この圧縮成形金型3は、互いに対向する第一の型板301と第二の型板302とを備える。第一の型板301には、成形用材料が供給される複数の凹部303が形成され、この凹部303の各々の底面には、セパレータ20に形成されるガス供給排出用の溝2に対応する突条304が形成されている。更に第一の型板301には複数の凹部303の各々の底面で開口する複数の通孔305が形成されている。本実施形態では、一つの第一の型板301に四個の凹部303が形成されている。第一の型板301において四個の凹部303は二行二列に配列されている。
圧縮成形金型3は、エジェクタピン306及びエジェクタプレート307も備える。第一の型板301における複数の通孔の各々にはエジェクタピン306が挿入されている。複数のエジェクタピン306はエジェクタプレート307に連結されている。
第二の型板302には、第一の型板301における複数の凹部303の各々と対向する領域に、セパレータ20に形成されるガス供給排出用の溝2に対応する突条304が形成されている。更に、前記の領域の各々には、セパレータ20の複数の各マニホールド13に対応する複数の凸部308が形成されている。
このように第一の型板301と第二の型板302の双方に突条304が形成されていると、圧縮成形により両面にガス供給排出用の溝2が形成されているセパレータ20が得られる。尚、片面のみにガス供給排出用の溝2が形成されているセパレータ20を得る場合には、第一の型板301と第二の型板302のうち一方のみに突条304が形成される。
第一の型板301と第二の型板302とが型締めされると、第一の型板301と第二の型板302との間には、セパレータ20の形状と合致する複数の空間(成形空間309)が形成される。成形空間309は凹部303の内側に形成される。成形空間309の各々と、これと隣接する別の成形空間309とは、連通空間310により連通している。連通空間310は隣り合う成形空間309の間の隙間を埋めるように形成され、且つ全ての成形空間309に連通するように形成されている。このため、圧縮成形金型3が型締めされると、第一の型板301と第二の型板302との間には、複数の成形空間309とこれらの成形空間309に連通する連通空間310とを備える一つの空洞311が形成される。
成形空間309は、セパレータ20の形状に合致した形状を有する。成形空間309の形状及び寸法は、所望の形状及び寸法を有するセパレータ20が得られるように適宜設定されるが、小型のセパレータ20を得る観点からは、厚みが0.8〜3.0mm範囲であることが好ましく、0.8〜2.5mmであれば更に好ましい。また成形空間309の平面視寸法は15〜250cm2の範囲であることが好ましい。
連通空間310の厚みは成形空間309の厚みと比較して小さいことが好ましい。具体的には連通空間310の厚みは0.3mm〜1.0mmの範囲であることが好ましく、0.3〜0.8mmの範囲であれば更に好ましい。また、連通空間310の幅(すなわち、隣り合う成形空間309の間の間隔)は、特に制限されないが、0.3〜0.5mmの範囲であることが好ましい。
圧縮成形金型3内に形成される成形空間309の数は特に制限されないが、セパレータ20の生産性向上のためには本実施形態のように四個或いはそれ以上であることが好ましい。例えば圧縮成形金型3内に、六個、八個、九個、或いはそれ以上の複数の成形空間309と、これら複数の成形空間309を互いに接続する連通空間310とが形成されてもよい。
圧縮成形によるセパレータ20の製造にあたっては、適宜の量の成形用材料が、第一の型板301上の空洞311が形成される領域に供給される。シート状の成形用材料が使用される場合には、セパレータ20の厚み等に応じて1枚のシート状の成形用材料が使用され、或いは第一の型板301上に複数枚のシート状の成形用材料が重ねられる。本実施形態では一つの空洞311内で複数のセパレータ20が形成されるため、成形用材料は空洞311が形成される領域に配置されていれば、個々のセパレータ20ごとに小分けして配置されるような必要はない。このため圧縮成形金型3への成形材料の供給が容易である。
第一の型板301及び第二の型板302は、成形可能な温度に保持される。第一の型板301及び第二の型板302が型締めされることで、成形用材料が圧縮成形される(図1(a))。これにより、空洞311内で成形体21が形成される。成形条件は、成形用材料の組成に応じて適宜調整されるが、例えば成形温度120〜190℃、成形圧力1〜40MPa、成形時間1〜10分間の条件に調整される。
このようにして圧縮成形金型3内で成形体21が形成されたら、必要に応じて第一の型板301及び第二の型板302が冷却され、更に第一の型板301及び第二の型板302が型開きされる。これにより、成形体21は第一の型板301上に残存する。続いて、エジェクタプレート307が駆動されることでエジェクタピン306が凹部303の底面から突出し、これにより成形体21が第一の型板301から取り外される。
成形体21は、図2に示すように、成形空間309内で形成された複数(四個)の部位(セパレータ部位22)と、連通空間310内で形成された部位(連結部位23)とを備える。成形体21は複数のセパレータ部位22と連結部位23とが連結した形状を有する。
成形体21に切断処理が施されることで、成形体21から複数(本実施形態では四個)のセパレータ20が切り出される。切断処理は、レーザー加工、打ち抜き加工、カッターの使用、ルーター加工など適宜の手法でおこなわれる。特に切断処理はウォータージェット加工により施されることが好ましく、この場合、成形体21が効率良く切断されると共に、切断面の平滑性が高くなる。更に、ウォータージェット加工時には粉塵が飛散しにくくなり、このためセパレータ20への粉塵の付着によるセパレータ20表面の親水性の低下が抑制される。
切断処理にあたっては、セパレータ部位22と連結部位23とが切り離される。連結部位23の幅寸法が小さい場合(例えばこの幅寸法が0.3〜0.5mmの範囲の場合)には成形体21が連結部位23で切断されてもよく、この場合は隣り合うセパレータ部位22間で連結部位23が取り除かれることで隣り合うセパレータ部位22同士が切り離される。これにより、成形体21からセパレータ20が切り出される。
セパレータ20には、ブラスト処理が施されるなどして、表層のスキン層が除去されると共にこのセパレータ20の表面粗さが調整されることが好ましい。
ブラスト処理が、切断処理が施される前の成形体21に対して施されることも好ましい。すなわち、成形体21にブラスト処理が施されてから、この成形体21が切断されることでセパレータ20が得られてもよい。特に小型のセパレータ20に対してブラスト処理が施される場合には重量の小さいセパレータ20を安定して保持しながらこのセパレータ20に対して砥粒などを噴射することが難しくなる。またセパレータ20のサイズに応じて特殊な搬送設備が必要となる場合もある。これに対して、成形体21にブラスト処理を施せば、成形体21を安定して保持した状態でブラスト処理を施すことが可能となり、また特殊な搬送設備を用意する必要性も低くなる。
セパレータ20の表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)は、0.4〜1.6μmの範囲に調整されることが好ましい。この場合、セパレータ20の腐食電流が小さくなり、セパレータ20の耐食性が向上する。更に、セパレータ20とガスケット12との接合部でのガスリークが抑制される。このためウエットブラスト処理時にセパレータ20におけるガスケット12と接合する部位をマスクする必要がなくなり、セパレータ20の生産効率が向上する。尚、前記算術平均高さRaが0.4μm未満となることは困難であり、またこの値が1.6μmより大きいと前記ガスリークが充分に抑制されなくなるおそれがある。このセパレータ20の表面の算術平均高さRaは特に1.2μm以下であることが好ましい。更にこのセパレータ20の表面の算術平均高さRaが1.0μm未満であると、前記ガスリークが特に抑制され、セパレータ20の薄型化に伴ってセルスタック作製時の締結力が低くなっても、前記ガスリークが充分に抑制される。セパレータ20の表面の算術平均高さRaは前記のとおり0.4μm以上であることが好ましく、0.6μm以上であれば更に好ましい。
セパレータ20の表面の接触抵抗は15mΩcm2以下であることが好ましい。この場合、燃料電池で発電された電気エネルギーを外部へ伝達するというセパレータ20の機能が高いレベルで維持される。
前記ブラスト処理時には、セパレータ20或いは成形体21にウエットブラスト処理が施されると共に、この処理においてアルミナ粒子等の砥粒を含むスラリーから磁石で金属成分が吸引されることが好ましい。ブラスト処理に用いられる砥粒には不純物として金属成分が混入している可能性があり、またブラスト処理時に砥粒を含むスラリーに金属成分が混入することがある。このような金属成分を含むスラリー用いてブラスト処理が施されると、セパレータ20或いは成形体21の表面に砥粒から金属成分が打ち込まれてしまう。しかし、前記のようにスラリーから磁石により金属成分が吸引されながら、この砥粒によりウエットブラスト処理が施されると、ブラスト処理時にセパレータ20或いは成形体21に金属成分が付着しにくくなる。すなわち、ウエットブラスト処理によってスキン層の除去や表面粗さの調整などがされつつ、このウエットブラスト処理時に、スラリー中の砥粒に含まれる金属異物などの金属成分がセパレータ20或いは成形体21へ打ち込まれにくくなる。また、このウエットブラスト処理において、スラリーが循環されながら繰り返し使用されると共に、このスラリーの循環時にスラリーから金属成分が磁石などで吸引されると、スラリー中の砥粒から磁石により金属成分が吸引されながら、この砥粒によってウエットブラスト処理が施される。
更に、黒鉛粒子の金属成分の含有量を低減するための処理と同様に、セパレータ20或いは成形体21から金属成分が磁石によって吸引されてもよい。この場合、例えばセパレータ20或いは成形体21が一対の磁石の間に配置されることで、セパレータ20或いは成形体21から金属成分が吸引される。尚、磁石を用いた吸引以外の適宜の方法でセパレータ20或いは成形体21から金属成分が除去されてもよい。但し、強酸性溶液によって洗浄する方法ではセパレータ20或いは成形体21を構成する樹脂が溶解してしまうおそれがあり、また超音波洗浄ではセパレータ20或いは成形体21から黒鉛粒子が脱離してしまうおそれがあるため、好ましくない。
ウエットブラスト処理後のセパレータ20或いは成形体21はイオン交換水等で洗浄されてもよい。
以上のようにして得られるセパレータ20における、金属成分の付着の程度は、このセパレータ20を90℃の温水で1時間洗浄した後、90℃の温度で1時間加熱乾燥する処理を施した後に、このセパレータ20の表面を観察することで確認される。セパレータ20に金属成分が付着していると、前記処理によりセパレータ20の表面に金属酸化物(錆)が生成する。前記処理後のセパレータ20の表面が目視で観察されても前記金属酸化物(錆)の存在が確認されないことが好ましい。特に、前記処理後のセパレータ20の表面に、直径100μmより大きい金属酸化物が存在しないことが好ましく、直径50μmより大きい金属酸化物が存在しなければ更に好ましい。また、直径30μmより大きい金属酸化物が存在しなければ特に好ましい。
また、このセパレータ20の表面に表出しているFe、Co、及びNiの総量が0.01μg/cm2以下となっていることが好ましい。更に、このセパレータ20の表面に表出しているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnの総量が0.01μg/cm2以下となっていることが好ましい。
セパレータ20或いは成形体21には、ウエットブラスト処理に続いて大気圧プラズマ処理が施されることも好ましい。このようにセパレータ20或いは成形体21における水酸基が分布する表面に対してウエットブラスト処理と大気圧プラズマ処理とが施されると、セパレータ20或いは成形体21の表面の親水性が向上すると共に、この高い親水性が長期に亘って維持されるようになる。この親水化のメカニズムの詳細は不明であるが、セパレータ20或いは成形体21の表面に水酸基が分布することでこの表面に水分が吸着して官能基が生成しやすくなり、更に大気圧プラズマ処理により、セパレータ20或いは成形体21の表面から汚染物質が除去されて活性の高い状態となると共にこの活性化された表面に水酸基等の親水性の官能基が導入されて、セパレータ20或いは成形体21の表面に親水性の官能基が多く形成し、このことが親水性向上に寄与していると考えられる。
成形体21に対してウエットブラスト処理が施される場合には、この成形体21に切断処理が施されることでセパレータ20が得られた後、このセパレータ20に対して大気圧プラズマ処理が施されてもよいが、成形体21に対して大気圧プラズマ処理が施される方が好ましい。成形体21に対して大気圧プラズマ処理が施されると、小型のセパレータを取り扱う場合と比べて、搬送などの手間が削減される。
ウエットブラスト処理後のセパレータ20或いは成形体21には、大気圧プラズマ処理に先立って乾燥処理が施されることが好ましい。この場合、水分子によってセパレータ20或いは成形体21への大気圧プラズマ処理が阻害されることが抑制され、大気圧プラズマ処理の効率が向上する。この乾燥処理では、セパレータ20或いは成形体21がエアブローなどにより風乾されることが好ましい。風乾にあたっては、例えば必要に応じて常温若しくは温風によるエアブローがおこなわれ、或いは常温でのエアブローの後に温風によるエアブローが追加的に施される。また、乾燥処理にあたっては、セパレータ20或いは成形体21がシリカゲル等の乾燥剤を入れたデシケータ中に静置される方法、セパレータ20或いは成形体21が室温以上(例えば50℃)の温度の乾燥機中に静置される方法、真空乾燥機によってセパレータ20或いは成形体21から水分が除去される方法等が採用されてもよい。この乾燥処理により、セパレータ20或いは成形体21が、吸湿率0.1%以下になるまで乾燥されることが好ましい。
セパレータ20或いは成形体21への大気圧プラズマ処理は、リモート方式での大気圧プラズマ処理であることが好ましい。リモート方式での大気圧プラズマ処理では、例えば図3に示されるような、吹き出し口9を有する放電空間10と、この放電空間10に電界を発生させるための放電用電極6,6とを備えるプラズマ処理装置が用いられる。このプラズマ処理装置では、放電空間10にプラズマ生成用ガス7が供給されると共にこの放電空間10内の圧力が大気圧近傍に維持され、更に放電用電極6,6間に電圧が印加されて放電空間10に放電が発生すると、放電空間10内でプラズマが生成する。このプラズマを含むガス流8を吹き出し口9から吹き出してセパレータ20或いは成形体21に吹き付けられることによって、プラズマ処理がおこなわれる。このようなプラズマ処理装置としては、例えば積水化学工業株式会社製のAPTシリーズが挙げられるが、パナソニック電工株式会社、ヤマトマテリアル株式会社などから提供されている適宜のプラズマ処理装置が用いられてもよい。
このようなリモート方式のプラズマ処理が採用することで、セパレータ20或いは成形体21の表面に向けてプラズマが吹き付けられ、このためセパレータ20或いは成形体21のガス供給排出用溝2の内面まで充分に処理がなされる。またプラズマ処理時にセパレータ20或いは成形体21が放電に直接曝されなくなり、このためセパレータ20或いは成形体21がプラズマ処理時に損傷しにくくなる。
尚、大気圧プラズマ処理として、処理対象11の周囲にプラズマ生成用ガス7を供給すると共にこの処理対象11の周囲で放電用電極6,6により放電を生じさせてプラズマを生成するダイレクト方式(図4参照)が採用されてもよい。但し、放電によるセパレータ20或いは成形体21の損傷を抑制する観点、並びに処理効率を向上する観点からは、リモート方式が採用される方が好ましい。
リモート方式での大気圧プラズマ処理は、セパレータ20或いは成形体21の表面に所望の親水性を付与できるように適宜設定された条件でおこなうことができる。この大気圧プラズマ処理におけるプラズマ生成用ガス7は、窒素ガスであることが好ましく、特にこの窒素ガス中の酸素含有量が2000ppm以下であることが好ましい。この場合、大気圧プラズマ処理によってセパレータ20或いは成形体21に特に高い親水性が付与される。
また、この大気圧プラズマ処理は、セパレータ20或いは成形体21の表面に結露が生じないようにセパレータ20或いは成形体21の温度及び雰囲気温度が調整された条件下で行われることが好ましい。この場合、セパレータ20或いは成形体21の表面に付着した水滴によりプラズマが消費されてしまうことを防止して、処理効率を向上することができる。セパレータ20或いは成形体21の温度は、前記のとおりこのセパレータ20或いは成形体21の表面に結露が生じない温度(露点温度)以上であることが好ましく、安定した大気圧プラズマ処理のためには70℃以下であることが好ましい。大気圧プラズマ処理の安定のためには、セパレータ20或いは成形体21の温度及び雰囲気温度が一定に保たれることも重要である。雰囲気温度の調節にあたっては、通常、プラズマ処理装置のプラズマユニット部分の温度が調節され、プラズマ処理装置の構成によってはプラズマ処理時にセパレータ20或いは成形体21を支える台の温度が調節される。
大気圧プラズマ処理後のセパレータ20或いは成形体21は、そのまま大気中に放置してもよいが、イオン交換水などの水に浸漬するなどして、このセパレータ20或いは成形体21の表面と水とを接触させることが好ましい。この場合、セパレータ20或いは成形体21の表面の親水性が更に向上する。その詳細なメカニズムは明らかではないが、大気圧プラズマ処理によって活性化されたセパレータ20或いは成形体21の表面に水分子が吸着することに起因してセパレータ20或いは成形体21の表面の親水性が向上すると考えられる。
セパレータ20或いは成形体21にウエットブラスト処理及び大気圧プラズマ処理が施される場合には、ガス供給排出用溝2の幅Aと深さBとの比A/Bが1以上であることが好ましい。この場合、ウエットブラスト処理時のスラリーや、大気圧プラズマ処理時のプラズマを含むガス流8がガス供給排出用溝2の内部に行き渡りやすくなる。これにより表面処理の均一性が更に高くなってガス供給排出用溝2の内面が充分に親水化される。前記比A/Bの値の上限は特に制限されないが、ガス供給排出用溝2を高密度に形成するためには、実用上、10以下であることが好ましい。
表面処理により、処理後のセパレータ20或いは成形体21の表面の水との静的接触角が0°〜50°の範囲となるようにすることが好ましい。この静的接触角は特に0°〜10°の範囲であることが好ましく、0°〜5°の範囲であれば更に好ましい。この水との静的接触角は、表面処理条件を適宜設定することにより調整することができる。これにより、セパレータ20或いは成形体21の表面に充分に高い親水性を付与することができる。
表面処理により、セパレータ20或いは成形体21の前記表面処理された面の接触抵抗が15mΩcm2以下となるようにすることが好ましい。この接触抵抗も、表面処理条件を適宜設定することにより調整することができる。これにより、燃料電池で発電した電気エネルギーを外部へ伝達するというセパレータ20の機能を高いレベルで維持することができる。
図6は複数の単セルからなる燃料電池40(セルスタック)の一例を示す。この燃料電池40は、燃料用流路に連通する燃料の供給口171及び排出口172と、酸化剤用流路に連通する酸化剤の供給口181及び排出口182と、冷却用流路に連通する冷却水の供給口191及び排出口192とを有する。
この燃料電池40の燃料の供給口171から水素ガス等の燃料が、酸化剤の供給口181から酸素ガス等の酸化剤が、それぞれ供給されることにより、燃料電池40が作動する。燃料電池40が作動する間、燃料電池に冷却水の供給口191から冷却水が供給され、このため、燃料電池の温度が運転のための適正な温度に調節される。冷却水としては、純水が使用されることが好ましい。
各実施例につき、表1に示す原料成分を用意し、これらの原料成分を表に1示す割合で攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)に入れて攪拌混合し、得られた混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕した。これにより、成形用材料を得た。
図1に示す構造を有する圧縮成形金型3を用意した。この圧縮成形金型3内には2行2列に配列する四個の成形空間309が形成される。各成形空間309の寸法は、平面視100mm×100mm、厚み2mmであり、連通空間310の寸法は幅0.3mm、厚み0.8mmである。
この圧縮成形金型3に成形用材料を供給し、金型温度170℃、成形圧力35.3MPa、成形時間2分の条件で圧縮成形した。これにより成形体21を得た。
この成形体21の表面に、マコー株式会社製のウエットブラスト処理装置(形式PFE−300T/N)を用い、砥粒としてアルミナ粒子を含むスラリー用いてブラスト処理を施した後、イオン交換水で洗浄し、更に温風乾燥した。この処理後の成形体21の表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)を測定した結果を表1に示す。
続いて、成形体21に対してリモート方式での大気圧プラズマ処理を施した。プラズマ処理装置としては積水化学工業株式会社製のAP−Tシリーズを使用した。処理条件は、処理幅300mm、プラズマユニット数1、サンプル−電極間距離3mm、プラズマ生成用ガス種は窒素、ガス中の酸素含有量1000ppm、ガス流量150L/分、搬送速度0.25m/分、処理時温度(成形体21の温度)25℃とした。大気圧プラズマ処理後、成形体21をイオン交換水中に浸漬した。
続いて、この成形体21に切断処理を施すことで、四個のセパレータ20を得た。切断処理にあたっては、各実施例において表1に示す方法を採用した。表1において、ウォータジェット加工はイオン交換水を用い、加工幅0.3mm、水圧300MPa、搬送速度100mm/sの条件で実施した。ルーター加工は、ドリル径0.3mm、回転速度24000rpm、搬送速度20mm/sの条件で実施した。
以上により、平面視100mm×100mm、厚み2.0mmの寸法を有するセパレータ20を得た。セパレータ20の一面には圧縮成形時に長さ50mm、幅1.0mm、深さ1.0mmのガス供給排出用の溝を形成した
[ディスクフロー評価]
各実施例において用いられた成形用材料のディスクフローを、上述の方法で測定した。その結果を表1に示す。
[充填性評価]
各実施例で得られたセパレータ20の外観を目視で観察することで、未充填の有無を確認した。各実施例で10個のサンプルにつき評価をおこない、未充填の認められた不良数で評価した。その結果を表1に示す。
[寸法精度評価]
各実施例で得られたセパレータ20の四隅の位置及び中央の位置の合計5点の厚みをマイクロメーターで測定し、測定値の最大値と最小値との差で評価した。その結果を表1に示す。
[切断面評価]
各実施例で得られたセパレータ20の切断面を観察し、外観について目視により異常の有無について評価行ったその結果を表1に示す。
[静的接触角評価]
各実施例で得られたセパレータ20を水平に配置し、このセパレータ20の凸部(リブ)1aの上にスポイトでイオン交換水を垂らし、協和界面科学株式会社製の測定器(品番「CA−W150」)を用いて、水との静的接触角を測定した。
表中の各成分の詳細は次の通りである。
・熱硬化性樹脂A:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製「EOCN−1020−75」、エポキシ当量199、融点75℃)
・硬化剤A:ノボラック型フェノール樹脂(群栄化学社製「PSM6200」、OH当量105)
・硬化剤B:多官能フェノール樹脂(明和化成株式会社製「MEH−7500」、OH当量100)
・硬化促進剤A:トリフェニルホスフィン(北興化学社製「TPP」)
・硬化促進剤B:構造式(1)で示される化合物。
・黒鉛粒子A:平均粒子径50μm、天然黒鉛。
・黒鉛粒子B:平均粒子径50μm、人造黒鉛。
・カップリング剤:エポキシシラン(日本ユニカー社製「A187」)
・ワックス:天然カルナバワックス(大日化学社製「H1−100」、融点83℃)