以下、本発明の、より具体的な実施形態を説明する。
図1は、本実施形態における燃料電池用のセパレータ20(以下、セパレータ20という)、及びセパレータ20を備える固体高分子型燃料電池の単位セルの構造の概略を示す。単位セルは、セパレータ20、ガスケット12、並びに膜−電極複合体5が重ねられることで構成されている。膜−電極複合体5は、酸化剤電極31、燃料電極32、及び電解質4から構成される。
セパレータ20には、燃料ガス、酸化剤ガス又は冷却水を流通させるための溝2が形成されている。本実施形態では、一つの単位セルは、セパレータ20として、カソード側セパレータ21とアノード側セパレータ22とを備える。カソード側セパレータ21とアノード側セパレータ22の各々は、その厚み方向の第一の面と、この第一の面とは反対側にある第二の面とを有する。
単位セル内においては、カソード側セパレータ21の第一の面は酸化剤電極31と重なるように配置され、アノード側セパレータ22の第一の面は燃料電極32と重なるように配置される。アノード側セパレータ22は、燃料ガスを流通させるための溝2(202)が形成されている領域と、この領域を取り囲む外周部分とを有する。溝202は、アノード側セパレータ22の第一の面に形成されている。また、カソード側セパレータ21は、酸化剤ガスを流通させるための溝が形成されている領域と、この領域を取り囲む外周部分とを有する。酸化剤ガスを流通させるための溝は、図示はされていないが、カソード側セパレータ21の第一の面に形成されている。また、カソード側セパレータ21の第二の面には、冷却水を流通させるための溝2(203)が形成されている。
二つの単位セルが重ねられる際には、一方の単位セルにおけるカソード側セパレータ21の第二の面と、他方の単位セルにおけるアノード側セパレータ22の第二の面とが、重ねられる。このカソード側セパレータ21と、アノード側セパレータ22との間には、溝203から構成される、冷却水を流通させるための流路が、形成される。
尚、本実施形態では、上記の通り冷却水を流通させるための溝203がカソード側セパレータ21の第二の面に形成されているが、冷却水を流通させるための溝がアノード側セパレータ22の第二の面に形成されていてもよい。また、カソード側セパレータ21の第二の面に冷却水を流通させるための溝が形成され、且つアノード側セパレータ22の第二の面にも冷却水を流通させるための溝が形成されていてもよい。
セパレータ20には、このセパレータ20を貫通する孔からなるマニホールド13が形成されている。本実施形態では、セパレータ20には、六個のマニホールド13が形成されている。これらのマニホールド13は、セパレータ20の第一の面と第二の面の各々の外周部分で開口している。六個のマニホールド13は、二つの燃料用マニホールド131、二つの酸化剤用マニホールド132、及び二つの冷却用マニホールド133を含んでいる。カソード側セパレータ21における二つの酸化剤用貫通孔131,131は、カソード側セパレータ21の第一の面における溝に連通する。アノード側セパレータ22における二つの燃料用貫通孔132,132は、アノード側セパレータ22の第一の面における溝202に連通する。また、カソード側セパレータ21における二つの冷却用マニホールド133は、カソード側セパレータ21の第二の面における溝203に連通する。
本実施形態では、図1に示されるように、セパレータ20にはストレートタイプの溝2が形成されている。一般に、セパレータ20における溝2としては、屈曲を有するサーペンタインタイプの溝と屈曲を有さないストレートタイプの溝とがある。勿論、図1に示されるセパレータ20において、このセパレータ20にサーペンタインタイプの溝が形成されてもよい。
セパレータ20の厚みは例えば0.5〜3.0mmの範囲に形成される。セパレータ20の溝2の幅は例えば1.0〜1.5mm、深さは例えば0.5〜1.5mmの範囲に形成される。また、溝2の幅(A)と深さ(B)との比(A/B)が1以上であることが好ましい。この場合、後述する親水化処理の効率が高くなる。また、マニホールド13の開口面積は例えば0.5〜5.0cm2の範囲に形成される。
ガスケット12は、カソード側セパレータ21の第一の面とアノード側セパレータ22の第一の面との各々における外周部分上に重ねられる。これにより、燃料ガス及び酸化剤ガスのガスリークが抑制される。ガスケット12には、その略中央部に、膜−電極複合体5における酸化剤電極31又は燃料電極32を収容するための開口15が形成されている。この開口15において、セパレータ20の溝2が露出する。また、ガスケット12には、セパレータ20の酸化剤用貫通孔131、燃料用貫通孔132及び冷却用貫通孔133と合致する位置に、貫通孔141,142,143が、それぞれ形成されている。
また、二つの単位セルが重ねられる場合の、一方の単位セルにおけるカソード側セパレータ21の第二の面と、他方の単位セルにおけるアノード側セパレータ22の第二の面との間にも、ガスケット12が介在する。このガスケット12によって、冷却水の漏出が抑制される。このガスケット12の略中央部にも、開口15が形成されている。この開口15において、セパレータ20の溝2が露出する。また、このガスケット12にも、セパレータ20の酸化剤用貫通孔131、燃料用貫通孔132及び冷却用貫通孔133と合致する位置に、貫通孔141,142,143が、それぞれ形成されている。
尚、カソード側セパレータ21の第二の面と、アノード側セパレータ22の第二の面との間は、接着剤で接着されてもよく、この場合はカソード側セパレータ21の第二の面と、アノード側セパレータ22の第二の面との間にガスケットが介在しなくても、冷却水の漏出が抑制される。接着剤としては、特に限定されないが、オレフィン系樹脂接着剤が用いられることが好ましい。この場合、接着剤からの不純物の溶出が抑制され、また、燃料電池の耐久性が高くなる。
膜−電極複合体5における電解質4の外周部分には、セパレータ20の酸化剤用貫通孔131、燃料用貫通孔132及び冷却用貫通孔133と合致する位置に、貫通孔161,162,163がそれぞれ形成されている。
図2は、セパレータ20と膜−電極複合体5とを備える複数の単位セルから構成される燃料電池40(セルスタック)の一例を示す。この燃料電池40は、セパレータ20の酸化剤用貫通孔131に連通する酸化剤の供給口171及び排出口172と、セパレータ20の燃料用貫通孔132に連通する燃料の供給口181及び排出口182と、セパレータ20の冷却用貫通孔133に連通する冷却水の供給口191及び排出口192とを有する。
以下、本実施形態に係るセパレータについて、更に詳しく説明する。セパレータは、熱硬化性樹脂成分の硬化物と黒鉛粒子とを含有する。セパレータ中の黒鉛粒子の割合は70〜85質量%である。また、黒鉛粒子が、天然黒鉛、人造黒鉛及び膨張黒鉛を含有する。更に、セパレータ中の膨張黒鉛の割合が5〜10質量%である。
本実施形態では、セパレータに天然黒鉛、人造黒鉛及び膨張黒鉛を含有させることで、セパレータ中の不純物の増大を抑制し、且つセパレータの良好な成形性を確保しながら、その導電性を向上することができる。このようにセパレータの導電性が向上した結果、セパレータの体積抵抗率が5mΩcm以下となることが好ましい。
このようにセパレータの導電性が向上することで、セパレータを備える燃料電池の発電効率が向上する。このため燃料電池におけるセルスタック数を低減して燃料電池の小型化、低コスト化を図りながら、燃料電池の高い発電効率を維持することが可能となる。また、セパレータ中の不純物量が抑制されることで、セパレータからの不純物の溶出が抑制される。このため、セパレータを備える燃料電池の耐久性が向上する。
セパレータが含有する黒鉛粒子について、更に詳しく説明する。黒鉛粒子は、セパレータの電気比抵抗を低減してセパレータの導電性を向上するために使用される。セパレータ中の黒鉛粒子の割合は、70〜85質量%の範囲である。黒鉛粒子の割合が70質量%以上であることでセパレータに充分に優れた導電性が付与されるようになり、この割合が85質量%以下であることでセパレータに充分に優れた成形性とガス透過性が付与される。
また、セパレータ中の膨張黒鉛の割合が5質量%以上であることで、セパレータの体積抵抗率が特に低減する。またこの割合が10質量%以下であることでセパレータの不純物含有量が低減する。
また、膨張黒鉛の平均粒径は、100〜400μmであることが好ましい。この平均粒径が100μm以上であるとセパレータの成形性が更に向上する。また、この平均粒径が400μm以下であるとセパレータの外観の悪化が抑制される。
また、セパレータが天然黒鉛を含有することで、セパレータの成形性が更に向上する。セパレータ中の天然黒鉛の割合は、5〜35質量%の範囲であることが好ましい。この割合が5質量%以上であることで成形性が更に向上する。またこの割合が35質量%以下であると、セパレータのTOCが特に低減する。
また、天然黒鉛の平均粒径は、15〜100μmであることが好ましい。この平均粒径が15μm以上であることで成形性が更に向上し、この平均粒径が100μm以下であることでセパレータの表面平滑性が更に向上する。成形性の更なる向上のためには、特に前記平均粒径が30μm以上であることが好ましい。
また、セパレータが人造黒鉛を含有することで、セパレータ中の不純物量が更に低減される。セパレータ中の人造黒鉛の割合は、30〜70質量%の範囲であることが好ましい。この割合が30質量%以上であることで、セパレータのTOCが特に低減する。また、この割合が70質量%以下であることで、セパレータの成形性が更に向上する。
また、人造黒鉛の平均粒径は、15〜100μmであることが好ましい。この平均粒径が15μm以上であることでセパレータの成形性が更に向上する。またこの平均粒径が100μm以下となることでセパレータの表面平滑性が特に向上する。成形性の更なる向上のためには、特に人造黒鉛の平均粒径が30μm以上であることが好ましい。
尚、黒鉛粒子の平均粒径は、レーザ回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザ回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
本実施形態によるセパレータは、黒鉛粒子及び熱硬化性樹脂成分を含有するセパレータ成形材料(以下、成形材料という)から形成される。
成形材料中の黒鉛粒子の種類及びその割合は、セパレータ中の黒鉛粒子の種類及びその割合と合致するように設定される。すなわち、成形材料中の黒鉛粒子は、天然黒鉛、人造黒鉛及び膨張黒鉛を含有する。成形材料中の黒鉛粒子の割合は、成形材料中の固形分全量に対して70〜85質量%の範囲である。膨張黒鉛の割合は、成形材料中の固形分全量に対して5〜10質量%である。また、膨張黒鉛の平均粒径は100〜400μmであることが好ましい。天然黒鉛の割合は、成形材料中の固形分全量に対して5〜35質量%の範囲であることが好ましい。また、この天然黒鉛の平均粒径は15〜100μmの範囲であることが好ましい。また人造黒鉛の割合は、成形材料中の固形分全量に対して30〜70質量%の範囲であることが好ましい。また人造黒鉛の平均粒径は15〜100μmの範囲であることが好ましい。
黒鉛粒子は、精製されていることが好ましい。この場合は、黒鉛粒子中の灰分やイオン性不純物の含有量が低くなるため、セパレータからの不純物の溶出が抑制される。天然黒鉛粒子中の灰分の含有量は特に0.05質量%以下であることが好ましい。この灰分が0.05質量%を超えると、セパレータを備える燃料電池の特性が経時的に低下するおそれがある。また、人造黒鉛粒子中の灰分の含有量は特に0.05質量%以下であることが好ましい。この灰分が0.05質量%を超えると、セパレータを備える燃料電池の特性が経時的に低下するおそれがある。また、膨張黒鉛粒子中の灰分の含有量は1%以下であることが好ましく、特に0.5質量%以下であることが好ましい。
熱硬化性樹脂成分には、エポキシ樹脂とフェノール樹脂のうち少なくとも一方を含む熱硬化性樹脂が含まれていることが好ましい。エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂は良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。この熱硬化性樹脂成分中には、必要に応じて使用される硬化剤及び触媒(硬化促進剤)も含まれる。成形材料中の熱硬化性樹脂成分の含有量は、成形材料中の固形分全量に対して15〜28質量%の範囲であることが好ましい。
熱硬化性樹脂成分中の熱硬化性樹脂全体に対するエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂の合計量の割合は、50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂のみ、熱硬化性フェノール樹脂のみ、或いはエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のみであれば、特に好ましい。
エポキシ樹脂は固形状であることが好ましく、特に融点が70〜90℃の範囲であることが好ましい。これにより、材料の変化が少なくなり、成形時の成形材料の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形材料中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。また、エポキシ樹脂の溶融粘度が低粘度であると、成形用組成物の良好な成形性が維持されつつ、成形材料及びセパレータ中に黒鉛粒子が高充填されることが可能となる。尚、このような作用が発揮される範囲内で、エポキシ樹脂の一部が液状であってもよい。
エポキシ樹脂としては、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が使用されることが好ましい。このオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂は、良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
特にエポキシ樹脂としてオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂からなる成分、或いはオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種とからなる成分が使用されることが好ましい。これらの成分の、成形材料中の熱硬化性樹脂全量に対する割合は、50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が必須の成分であると、成形材料が成形性に優れたものになると共に、セパレータが耐熱性に優れたものとなる。また、製造コストの低減も可能になる。エポキシ樹脂全体に対するオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の割合は、前記成形性の向上、セパレータの耐熱性の向上、製造コストの低減の観点から、50〜100質量%の範囲であることが好ましく、特に50〜70質量%の範囲であることが好ましい。
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と共に、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及びビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種が併用されることも好ましい。この場合、成形材料の溶融粘度が更に低減し、特に薄型のセパレータが作製される場合にはこのセパレータの靱性が向上する。特にビスフェノールF型エポキシ樹脂が使用されると、成形材料の粘度が低減し、成形性の特に高い成形材料が得られる。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビスフェノールF型エポキシ樹脂の割合は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。また、ビフェニル型エポキシ樹脂が使用されると、このビフェニル型樹脂は溶融粘度が低いため、成形材料の流動性が著しく向上し、薄型成形性が特に向上する。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビフェニル型エポキシ樹脂の割合は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。また、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂が使用されると、セパレータの強度及び靱性が更に向上し、更にセパレータの吸湿性が低減する。このため、セパレータの機械的特性、導電性、長期使用時の特性の安定性が優れたものとなる。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の割合は、30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
エポキシ樹脂として、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が用いられ、或いは更にビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種が用いられる場合に、更にこれら以外の熱硬化性樹脂が併用されてもよい。例えば前記列挙されたエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられてもよい。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解するおそれがあるため、使用されないことが望ましい。また、熱硬化性樹脂として、セパレータの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂が用いられることも適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などが好ましい。特に4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが用いられると、セパレータの耐熱性が更に向上する。
エポキシ樹脂が使用される場合、成形材料は、必要に応じてエポキシ樹脂の硬化剤を含有する。硬化剤は、成形材料が含有するエポキシ樹脂を硬化させる能力を有するのであれば特に限定されないが、フェノール系化合物を必須成分とすることが好ましい。このフェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等の各種多価フェノール樹脂が挙げられる。
硬化剤全量に対するフェノール系化合物の含有量は、エポキシ樹脂の使用量に依存して決定される。また、硬化剤がフェノール系化合物のみであれば特に好ましい。特に、フェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲となることが好ましい。
硬化剤として、フェノール系化合物と共に、非アミン系の化合物が使用されることも好ましい。この場合、セパレータの電気伝導度が高い状態に維持されると共に、燃料電池における電極触媒の被毒が抑制される。また硬化剤が酸無水物系の化合物を含有しないことが好ましい。
熱硬化性樹脂として熱硬化性フェノール樹脂が用いられる場合は、特に開環重合により重合反応が進行するフェノール樹脂が用いられることが好ましい。このようなフェノール樹脂としては、例えばベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。この場合は、成形工程で脱水によるガスが発生しないので成形品中にボイドが発生しにくくなり、セパレータのガス透過性の低下が抑制される。また、レゾール型フェノール樹脂が用いられることも好ましく、例えば13C−NMR分析の結果、オルト−オルト結合割合25〜35%、オルト−パラ結合割合60〜70%、パラ−パラ結合割合5〜10%である構造を有するレゾール型フェノール樹脂が用いられることが好ましい。レゾール樹脂は通常液状であるが、レゾール型フェノール樹脂は軟化点を容易に調整され、融点が70〜90℃のレゾール型フェノール樹脂も容易に得られる。これにより、成形材料の変化が少なくなり、成形時の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形材料中で成分の凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。
熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂以外の樹脂が併用されてもよい。例えばポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられる。但し、エステル結合を含む樹脂は、耐酸性環境下で加水分解する恐れがあるため、使用されないことが好ましい。
また、熱硬化性樹脂として、セパレータの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂も適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などが挙げられる。その具体例として例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。このような他の樹脂が併用されるとセパレータの耐熱性が更に高まる。
熱硬化性樹脂成分には上記のとおり必要に応じて触媒(硬化促進剤)が含まれる。硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリ−p−トリルホスフィン(TPTP)等の有機ホスフィン類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
特に熱硬化性樹脂成分が、硬化促進剤として、有機ホスフィン類を含有することが好ましい。この場合、有機ホスフィン類は塩化物イオン等の不純物の含有量が少ないため、セパレータ中のイオン性不純物の含有量が少なくなる。このため、セパレータからの不純物溶出量が少なくなり、これにより燃料電池の耐久性が向上する。更に、特に硬化促進剤として、トリ−p−トリルホスフィン(TPTP)が使用されると、成形材料が加熱硬化される際の硬化速度が充分に高くなり、且つ成形材料の硬化物であるセパレータのガラス転移点が充分に高くなる。このため、セパレータの生産効率が向上し、またセパレータの耐熱性も向上する。
成形材料中の硬化促進剤の含有量は適宜調整され、それにより成形材料の成形硬化時間が適宜調整される。特に成形材料中の硬化促進剤の含有量が、成形材料中の熱硬化性樹脂と硬化剤の合計量に対して0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。
成形材料は、更に内部離型剤を含有してもよい。内部離型剤としては適宜のものが用いられるが、特に120〜190℃において、成形材料中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と相溶せずに相分離する内部離型剤が好ましい。このような内部離型剤として、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、および長鎖脂肪酸系のワックスから選ばれる少なくとも一種が用いられることが好ましい。内部離型剤の割合は、成形材料全量に対して0.1〜2.5質量%の範囲であることが好ましい。
成形材料は、必要に応じてカップリング剤等の添加剤を含有してもよい。カップリング剤としては、シリコン系のシラン化合物、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤などが挙げられる。特にシリコン系のカップリング剤のうち、エポキシランカップリング剤が適している。カップリング剤は黒鉛粒子の表面に予め噴霧等により付着されていてもよい。エポキシランカップリング剤の使用量は、成形材料の固形分全体に対して、0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータ表面にブリードすることが、充分に抑制される。
成形材料は溶媒を含有してもよい。特に薄型のセパレータが作製される場合には、成形材料が溶媒を含有することで、この成形材料が液状(ワニス状及びスラリー状を含む)に調製されてもよい。溶媒としては、たとえばメチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が好ましい。溶媒は一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。溶媒の使用量は、成形材料からシート状のセパレータを作製する際の成形性を考慮して適宜設定される。特に、成形材料の粘度が1000〜5000cPの範囲となるように、溶媒の使用量が設定されることが好ましい。尚、溶媒は必要に応じて使用されればよく、熱硬化性樹脂として液状樹脂が使用されるなどにより成形材料が液状に調製されるならば、溶媒が使用されなくてもよい。
セパレータ中のイオン性不純物の含有量は少ないことが好ましく、特に質量比率でナトリウムイオン含量が5ppm以下、塩化物イオン含量が5ppm以下であることが好ましい。そのためには、成形材料中のイオン性不純物の含有量が低いことが好ましく、特に成形材料の固形分全量に対する質量比率で、ナトリウムイオン含量が5ppm以下、塩化物イオン含量が5ppm以下であることが好ましい。この場合、セパレータからのイオン性不純物の溶出が抑制され、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下が抑制される。
セパレータ及び成形材料のイオン性不純物の含有量が上記のように低減されるためには、成形材料を構成する熱硬化性樹脂、硬化剤、黒鉛、その他添加剤等の各成分それぞれのイオン性不純物の含有量が低いことが好ましく、特に各成分に対する質量比率で、ナトリウムイオン含量が5ppm以下、塩化物イオン含量が5ppm以下であることが好ましい。
尚、イオン性不純物の含有量は、対象物(セパレータ又は成形材料)の抽出水中のイオン性不純物の量に基づいて導出される。前記抽出水は、対象物10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中に対象物を投入し、90℃で50時間処理することで得られる。抽出水中のイオン性不純物は、イオンクロマトグラフィにて評価される。この抽出水中のイオン性不純物量に基づいて、対象物中のイオン性不純物の量が、対象物に対する質量比に換算して導出される。
本実施形態では、天然黒鉛、人造黒鉛及び膨張黒鉛を含有する黒鉛粒子を使用し、或いは更に硬化促進剤としてTPTP等の有機ホスフィン類を使用することで、上記のようにセパレータ中のイオン性不純物の量が容易に低減され得る。
成形材料は、この成形材料から形成されるセパレータのTOC(total organic carbon)が100ppm以下となるように調製されることが好ましい。TOCは、セパレータの質量10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中にセパレータが投入され、90℃で50時間処理された後の水溶液を用いて測定される数値である。TOCは、例えばJIS K0102に準拠して、株式会社島津製作所製の全有機炭素分析装置「TOC−50」などで測定される。測定にあたっては、サンプルの燃焼により発生するCO2濃度が非分散型赤外線ガス分析法で測定され、サンプル中の炭素濃度が定量される。この炭素濃度の測定によって、有機物質濃度が間接的に測定され、サンプル中の無機炭素(IC)、全炭素(TC)が測定され、全炭素と無機炭素の差(TC−IC)から全有機炭素(TOC)が計測される。セパレータのTOCが100ppm以下となると、燃料電池の特性低下が更に抑制される。TOCの値は、成形材料を構成する各成分として高純度の成分が選択されたり、更に樹脂の当量比が調整されたり、成形時に後硬化処理がおこなわれたりすることで、低減される。
本実施形態では、例えば純度の高い(例えば純度99.9%以上)天然黒鉛及び人造黒鉛を使用したり、天然黒鉛と膨張黒鉛の配合量を適宜調節したりすることで、セパレータのTOCが容易に低減され得る。
成形材料は、上記のような各成分が適宜の手法で混合され、必要に応じて混練・造粒等されることで調製される。この成形材料が成形されることで、セパレータが得られる。
ワニス状に調製された成形材料がシート状に成形されるなどして、セパレータ成形用シート(成形用シート)が形成され、この成形用シートが成形されることで薄型のセパレータが得られてもよい。この場合、成形材料は、例えばキャスティング(展進)成形によりシート状に成形される。成形用シートの厚みは、0.05〜0.5mmであることが好ましく、0.1〜0.3mmであれば更に好ましい。セパレータの作製にあたっては、1枚の成形用シートからセパレータが作製されてもよく、複数枚の成形用シートからセパレータが作製されてもよい。このように成形用シートが使用されることで、薄型のセパレータの製造が可能となり、特に厚み0.2〜1.0mmの範囲のセパレータの製造も可能となる。また、薄型のセパレータが製造される場合でも成形性及び厚み精度が高くなる。
尚、セパレータの作製時には、成形用シートと適宜の導電性基材とが積層されてもよい。導電性基材が用いられると、セパレータの機械的強度が向上する。導電性基材としては、たとえば、カーボンペーパー、カーボンプリプレグ、カーボンフェルト等が挙げられる。これらの導電性基材は、導電性を損なわない範囲で、ガラス、樹脂等の基材成分を含有してもよい。
ワニス状の成形材料は、成形用シートの作製を経て薄型のセパレータが製造される場合だけでなく、成形用シートの作製を経ることなくセパレータが製造される場合にも有用である。この場合、成形材料の保存安定性や成形性が優れたものになる。
成形材料(成形材料から形成された成形用シートを含む)からセパレータを得るためには、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形が採用されることが好ましい。上述のような組成を有する成形材料から、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形によりセパレータが作製されることで、密度ばらつきが少なく、且つ厚み精度の高いセパレータが得られる。
圧縮成形時の加熱温度及び圧縮圧力は、成形材料の組成、導電性基材の有無及び種類、成形厚みなどにもよるが、例えば加熱温度120〜190℃の範囲、圧縮圧力1〜40MPaの範囲で設定されることが好ましい。また、成形時間が15秒〜600秒の範囲で設定されることが好ましい。
特に、成形材料が硬化促進剤としてトリ−p−トリルホスフィン(TPTP)を含有する場合は、圧縮成形の成形時間が60秒以下であることが好ましい。この場合、TPTPによって成形材料の硬化速度が向上することから、成形時間が短時間であっても成形材料が充分に硬化する。更に、圧縮成形には成形金型が使用されるため、圧縮成形の工程はセパレータの製造工程全体におけるボトルネックとなり、このため、圧縮成形に要する時間が短縮化されることで、セパレータの製造効率が向上する。
圧縮成形により得られたセパレータに、更に加熱処理が施されてもよい。この加熱処理における加熱温度は150〜180℃の範囲であることが好ましく、加熱時間は30秒〜1時間の範囲であることが好ましい。
セパレータには、更にブラスト処理が施されることが好ましい。この場合、セパレータの表層のスキン層が除去されると共にセパレータの表面粗さが調整される。ブラスト処理によって、セパレータの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)が、0.4〜1.6μmの範囲に調整されることが好ましい。この場合、後述する親水化処理によって、セパレータの表面の親水性が特に向上する。また、セパレータにガスケットが重ねられる場合には、セパレータとガスケットとの間のリークが抑制される。
ブラスト処理として、ウエットブラスト処理が採用されることが好ましい。この場合、ブラスト処理の程度、並びにブラスト処理後のセパレータの表面の粗さに、ばらつきが生じにくくなる。このためセパレータの品質の安定性が高くなる。
ブラスト処理後のセパレータに、親水化処理が施されることが好ましい。また、ブラスト処理の後、親水化処理の前に、セパレータに洗浄処理が施され、或いは更に乾燥処理が施されることも、好ましい。洗浄処理では、例えばセパレータが、イオン交換水等により洗浄される。乾燥処理では、セパレータがエアブローなどにより風乾されることが好ましい。また、乾燥処理にあたっては、セパレータをシリカゲル等の乾燥剤を入れたデシケータ中に静置する方法、セパレータ及びガスケットを室温以上(例えば50℃)の温度の乾燥機中に静置する方法、真空乾燥機を使用してセパレータから水分を除去する方法等が採用されてもよい。
親水化処理は、セパレータの表面の親水性を向上させるための処理である。これによりセパレータの表面に高い親水性が付与されると、セパレータにおける溝が結露水で閉塞されにくくなる。このため燃料電池の高い発電効率が長期間維持される。
親水化処理としては、セパレータの表面の親水性を向上させることが可能な処理であれば、特に制限されない。親水化処理は、例えばセパレータをプラズマに曝露するプラズマ処理、セパレータをオゾンガスに曝露するオゾンガス処理、セパレータをSO3に曝露するSO3処理、セパレータをフッ素を含有するガスに曝露させるフッ素処理、ケイ素化合物又はアルミニウム化合物を含む改質剤化合物を含む気体を燃焼させながらセパレータに吹き付けるフレイム処理、並びにセパレータにオゾン水を接触させるオゾン水処理から、一種以上が選択される。
親水化処理として、特にプラズマ処理が採用されることが好ましい。プラズマ処理としては、大気圧プラズマ処理が施されることが好ましく、特にリモート方式でのプラズマ処理が施されることが好ましい。プラズマ処理後の成形体は、そのまま大気中に放置されてもよいが、成形体をイオン交換水などの水に浸漬させるなどしてこの成形体の表面と水と接触させる水接触処理が施されることが好ましく、この場合、セパレータの表面の親水性が更に向上する。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例には限定されない。
[実施例及び比較例]
各実施例及び比較例につき、エポキシ樹脂(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製、品番EOCN−1020−75、エポキシ当量199、融点75℃)と、フェノール系化合物(ノボラック型フェノール樹脂、群栄化学工業株式会社製、品番PSM6200、OH当量105)とを、フェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.9の範囲となるように配合し、更に表1に示す硬化促進剤、黒鉛粒子、カップリング剤、及びワックスを、表1に示す固形分比率で配合した。これにより得られた混合物を、攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)で攪拌混合した。続いて、この混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕することで、成形材料を得た。
この成形材料を用いて、次のようにしてセパレータを形成した。まず、真空チャンバー内で金型に成形材料を配置してから、5秒間経過した時点で、真空チャンバー内の減圧を開始し、10秒間かけて真空チャンバー内を97kPaの真空度まで到達させた。続いて、上型を下型に向けて降下させて型締めすることで、成形材料を圧縮成形した。圧縮成形条件は、金型温度170℃、成形圧力35.3MPa、成形時間3分間とした。次に金型を閉じたまま除圧し、30秒間保持した後に金型を開き、続いて金型からセパレータを取り出した。
得られたセパレータの形状は、平面視200mm×250mmの矩形状であり、厚みは最も厚い箇所で1.5mm、最も薄い箇所で0.5mmであった。また、圧縮成形によって、セパレータの片側の面(第一の面)には長さ250mm、幅1mm、深さ0.5mmの溝を25本形成し、第一の面とは反対側の面(第二の面;水路面)には長さ250mm、幅0.5mm、深さ0.5mmの溝を25本形成した。
続いて、セパレータの表面に、ウェットブラスト処理を施すことで、セパレータの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)を、1.0μmに調整した。ウェットブラスト処理にあたっては、マコー株式会社製のウエットブラスト処理装置(形式PFE−300T/N)を用い、砥粒としてアルミナ粒子を含むスラリー用いた。アルミナ粒子としては、昭和電工株式会社製のホワイトモランダム(登録商標)WAシリーズを用いた。続いて、セパレータをイオン交換水で洗浄し、更に温風乾燥した。続いて、セパレータに対して、リモート方式の大気圧プラズマ処理を施した。大気圧プラズマ処理にあたり、プラズマ処理装置としては積水化学工業株式会社製のAP−Tシリーズを使用した。処理条件は、処理幅:300mm、プラズマユニット数:1個、サンプル−電極間距離:3mm、プラズマ生成用ガス種:窒素、ガス中の酸素含有量:1000ppm、ガス流量:150L/分、サンプル搬送速度:0.25m/分、処理時温度:25℃とした。
[体積抵抗率]
各実施例及び比較例で得られたセパレータの体積抵抗率を、JIS K7194に従って評価した。その結果を後掲の表に示す。
[外観凹凸評価]
各実施例及び比較例で得られたセパレータの外観を観察してこのセパレータの表面の平滑性を確認し、セパレータの表面に凹凸が認められない場合を「無」、セパレータの表面に凹凸が認められる場合を「有」と評価した。その結果を後掲の表に示す。
[成形不良評価]
各実施例及び比較例において、50個のセパレータを作製し、これらのセパレータの未充填及びカスレの有無を確認した。その結果を、未充填又はカスレが生じているセパレータの個数で評価した。その結果を後掲の表に示す。
[水溶性イオン分析]
各実施例及び比較例におけるセパレータをメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中にセパレータとイオン交換水とを、セパレータの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)をイオンクロマトグラフィ(株式会社島津製作所製「CDD−6A」)で測定した。この結果に基づいて、セパレータ中のナトリウムイオン含有量及び塩化物イオン含有量を評価した。その結果を後掲の表に示す。
[TOC評価]
JIS K0551−4.3に準拠し、まず各実施例及び比較例のセパレータをメタノールで1分間洗浄した後、イオン交換水にて1分間洗浄した。次いで、ガラス製容器中にセパレータとイオン交換水とを、セパレータの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水中に燐酸を添加してpH2以下に調整した後、湿式酸化−赤外線式TOC測定法(東レエンジニアリング社製「東レアストロTOC自動分析計MODEL1800」を使用)にて、有機炭酸量を測定した。その結果を後掲の表に示す。
[硬化性評価]
実施例1及び実施例3の各々において、セパレータを得る際に、成形材料を圧縮成形する際の成形時間を3分間として、セパレータのサンプルを得た。
実施例1及び実施例3の各々において、セパレータを得る際に、成形材料を圧縮成形する際の成形時間を30秒とした場合についても、セパレータのサンプルを得た。
これらのサンプルの示差走査熱量測定をおこなった。このとき、測定装置としてパーキンエルマー社製のDiamond DSCを用い、サンプルを300℃まで昇温させた。
その結果、実施例1では、成形時の加熱時間を3分間とした場合には、サンプルが300℃まで昇温されるまで発熱ピークは現れず、このため、サンプルの硬化は完了していると判断される。また、成形時の加熱時間を30秒とした場合には、300℃まで昇温されるまでに発熱ピークが現れ、このため、サンプルの硬化は完了していないと判断される。
一方、実施例3では、成形時の加熱時間を3分間とした場合、及び成形時の加熱時間を30秒とした場合の、いずれにおいても、サンプルが300℃まで昇温されるまで発熱ピークは現れず、このため、いずれの場合もサンプルの硬化は完了していると判断される。
このため、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(TPP)が使用されている実施例1よりも、トリ−p−トリルホスフィン(TPTP)が使用されている実施例3の方が、成形材料の硬化性が高く、このため成形時間の短縮化が可能であり、圧縮成形時の加熱時間が30秒であっても充分に硬化可能であることが、確認された。
[発電評価]
各実施例及び比較例で得られたセパレータの外周部分に、エチレン−プロピレン−ジエンゴムをスクリーン印刷により塗布した後、これを加熱加硫することで、ガスケットを形成した。これによりガスケット付き燃料電池セパレータを得た。更に二つのガスケット付き燃料電池セパレータの間に、電解質とガス拡散電極(燃料電極と酸化剤電極)とからなる膜−電極複合体を介在させることで、財団法人日本自動車研究所標準単セル(電極面積25cm2)からなる燃料電池を作製した。この燃料電池に、外部回路を接続した状態で、燃料ガスとして空気を2.0NL/minの流量で、酸化剤ガスとして水素を0.5NL/minの流量でそれぞれ供給することで、燃料電池を1000時間連続的に動作させた。この燃料電池の作動時の起電圧(mV)の経時的な変動の様子を調査した。その結果を後掲の表に示す。
尚、比較例6については、成形不良が著しいために、安定して発電可能な燃料電池を得ることはできなかった。
尚、表中の成分の詳細は次の通りである。表中の配合割合は、全ての成分を固形分に換算した割合である。
・硬化促進剤A:トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製、TPP)。
・硬化促進剤B:トリ−p−トリルホスフィン(北興化学工業株式会社製、品番TPTP)。
・硬化促進剤C:4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、品番4MZ)。
・人造黒鉛:平均粒径50μm、灰分0.1%未満。
・天然黒鉛:鱗片状粒子、平均粒径50μm、灰分0.1%未満。
・膨張黒鉛A:平均粒径300μm、灰分1%未満、
・膨張黒鉛B:平均粒径50μm、灰分1%未満。
・膨張黒鉛C:平均粒径500μm、灰分1%未満。
・カップリング剤:エポキシシラン(日本ユニカー株式会社製、品番A187)。
・ワックス:天然カルナバワックス(大日化学工業株式会社製、品番H1−100、融点83℃)。