JP5520104B2 - 燃料電池セパレータの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料電池セパレータの製造方法、前記方法により製造される燃料電池セパレータ、及び前記燃料電池セパレータを備える燃料電池に関する。
一般に燃料電池は複数の単位セルを数十〜数百個直列に重ねて構成されるセルスタックから成り、これにより所定の電圧を得ている。
単位セルの最も基本的な構造は、「セパレータ/燃料電極(アノード)/電解質/酸化剤電極(カソード)/セパレータ」という構成を有している。この単位セルにおいては、電解質を介して対向する一対の電極のうち燃料電極に燃料が、酸化剤電極に酸化剤が供給され、電気化学反応により燃料が酸化されることで、反応の化学エネルギーが直接電気化学エネルギーに変換される。
このような燃料電池は、電解質の種類によりいくつかのタイプに分類される。近年、高出力が得られる燃料電池として、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池が注目されている。
図1に固体高分子型燃料電池の一例を示す。厚み方向に面する両面に複数個の凸部(リブ)1aが形成されている2枚の燃料電池セパレータA,Aと、その間に介在する、電解質4(固体高分子電解質膜)とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)とから構成される膜−電極複合体(MEA)5とで、単電池(単位セル)が構成されている。この単位セルが数十個〜数百個並設されることで、電池本体(セルスタック)が構成されている。燃料電池セパレータAには、隣り合う凸部1a同士の間に、燃料である水素ガスと、酸化剤である酸素ガスの流路であるガス供給排出用溝2が形成される。
このようなセルスタックは、家庭用定置型の場合は例えば50〜100個の単位セルで構成され、自動車積載用の場合は例えば400〜500個の単位セルで構成され、ノートパソコン搭載用の場合は例えば10〜20個の単位セルで構成される。
固体高分子型燃料電池では、燃料電極に流体である水素ガスが、酸化剤電極に流体である酸素ガスが、それぞれ供給されることにより駆動する。この際、各電極においては下記式に示したような反応が生じている。
燃料電極反応 : H→2H+2e…(1)
酸化剤電極反応 : 2H++2e+1/2O→HO…(2)
全体反応 : H+1/2O→H
即ち、燃料電極上で水素(H)はプロトン(H)となり、このプロトンが固体高分子電解質膜4中を酸化剤電極上まで移動し、酸化剤電極上で酸素(O)と反応して水(HO)を生ずる。従って、固体高分子型燃料電池の運転には、反応ガスの供給と排出、電流の取り出しが必要となる。
また、固体高分子型燃料電池は、通常、室温〜120℃以下の範囲での湿潤雰囲気下での運転が想定されており、そのため水が液体状態で扱われることが多くなるので、燃料電極への液体状態の水の補給管理と酸化剤電極からの液体状態の水の排出が必要となる。
また、固体高分子型燃料電池の一種であるメタノール直接型燃料電池(DMFC)では、燃料として水素の代わりにメタノール水溶液が供給される。この場合、各電極においては下記式に示したような反応が生じている。空気極では酸素還元反応(水素を燃料とする場合と同じ反応)が起こっている。
燃料極反応 : CHOH+HO→CO+6H+6e…(1’)
空気極反応 : 3/2O+6H+6e→3HO…(2’)
全体反応 : CHOH+3/2O→CO+2H
メタノール直接型燃料電池(DMFC)と通常の固体高分子型燃料電池との全体反応同士を比較すると、メタノール直接型燃料電池では6倍の水が発生しているので、酸化剤電極からの液体状態の水の排出が更に重要となる。
このような燃料電池を構成する部品のうち、燃料電池セパレータAは、図1(a),(b)に示すように、薄肉の板状体の片面又は両面に複数個のガス供給排出用溝2を有する特異な形状を有しており、燃料電池内を流れる燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水が混合しないように分離する働きを有すると共に、燃料電池で発電した電気エネルギーを外部へ伝達したり、燃料電池で生じた熱を外部へ放熱するなどの、重要な役割を担っている。
従来、燃料電池セパレータの製造方法として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を含む熱硬化性樹脂と黒鉛とを主成分とする成形用組成物が、圧縮成形や射出成形、あるいはトランスファー成形等により成形される方法が知られている(たとえば特許文献1−2参照)。成形用組成物の流動性が低いことから、実際には圧縮成形が主流となっている。
また、成形用組成物がロール成形法や押し出成形法などでシート状に成形され、このシートに更に圧縮成形、熱圧モールド成形等が施されることで、燃料電池セパレータが作製されることも、試みられている。また、成形工法への工夫も検討されている。
例えば特許文献3では、射出圧縮成形法の採用が検討されている。また、特許文献4では、黒鉛及びフッ素系樹脂を含有する成形用組成物から燃料電池セパレータを得るにあたり、金型を真空状態として燃料電池セパレータを作製することが提案されている。
特開2001−216976号公報 特開2002−114572号公報 特開2005−297486号公報 特開2002−231263号公報
しかし、成形用材料は流動性が低いことから、特許文献3に開示されているような射出圧縮成形法の採用は実際には難しい。また、特許文献4における黒鉛及びフッ素系樹脂を含有する成形用組成物は流動性が低く、成形性が悪いため、燃料電池セパレータの薄型化や形状の複雑化には対応できない
また、本発明者は、燃料電池セパレータの薄型化や軽量化に伴って、従来の成形法では燃料電池セパレータの密度のばらつきが大きくなることにより生じる問題にも着目した。薄型の燃料電池セパレータにおいて密度のばらつきが生じると、密度の低い部分が起点となって割れが生じやすくなり、このため歩留まりの悪化を招くと共に、それによる生産コストの増大を招いてしまう。
また、燃料電池セパレータが薄型化すればするほど、燃料電池セパレータの全体厚みに対する厚み誤差の影響が大きくなる。例えば燃料電池セパレータの全体厚みが2mmの場合と0.5mmの場合とでは、厚み誤差が同じ±15μm程度であっても、後者の方が厚み誤差の影響が大きくなる。このため燃料電池セパレータの薄型化にあたっては実用上、厚み精度の更なる向上が求められる。また実用上、連続成形性が高いことも求められる。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、燃料電池セパレータの薄型化に伴う密度ばらつきの解消と、成形性の安定化とが可能となる燃料電池セパレータの製造方法、この方法により製造される燃料電池セパレータ、並びにこの燃料電池セパレータを備える燃料電池を提供することを目的とする。
第一の発明に係る燃料電池セパレータの製造方法では、固形分全量に対して、熱硬化性樹脂成分を15〜28質量%、黒鉛を72〜85質量%の割合で含有する成形用組成物を、減圧条件下又は真空条件下で圧縮成形し、密度のばらつき幅0.015g/cm以下、厚み2.0mm以下に形成する。
第一の発明においては、前記成形用組成物が、更に内部離型剤を固形分全量に対して0.1〜0.5質量%含有してもよい。
第一の発明において、前記成形用組成物が、更にカップリング剤を含有してもよい。
第一の発明において、密度のばらつき幅を0.01g/cm以下に形成してもよい。
第一の発明においては、前記成形用組成物が、前記熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、前記エポキシ樹脂の硬化剤及び触媒、並びにフェノール樹脂及び触媒のうち、少なくとも一方を含有してもよい。
第一の発明においては、燃料電池セパレータの最も厚み寸法の大きい箇所の厚み寸法を0.5〜2.0mmの範囲、最も厚み寸法の小さい箇所の厚み寸法を0.3〜0.7mmの範囲に形成してもよい。
第二の発明に係る燃料電池セパレータは、第一の発明に係る方法により製造される。
第三の発明に係る燃料電池は、第二の発明に係る燃料電池セパレータを備える。
本発明によれば、燃料電池セパレータの薄型化に伴う密度ばらつきの解消と、成形性の安定化とが可能となる。また、この燃料電池セパレータを用いて作製される燃料電池の発電特性の安定性の向上が可能となる。
(a)は燃料電池の単位セルを、(b)は前記単位セルにおける燃料電池セパレータをそれぞれ示す概略の斜視図である。 ガスケットを使用して構成される燃料電池の単位セルの一例を示す分解斜視図である。 ガスケットを備える燃料電池セパレータの一例を示す斜視図である。 燃料電池の一例を示す斜視図である。
成形用組成物は、黒鉛及び熱硬化性樹脂成分を含有する。
成形用組成物中の黒鉛粒子は、燃料電池セパレータA(以下、セパレータAという)の電気比抵抗の低減によるセパレータAの導電性向上のために使用される。成形用組成物中の黒鉛粒子の含有量は、成形用組成物中の固形分全量に対して72〜90質量%の範囲とされる。黒鉛粒子の割合が72質量%以上であることでセパレータAに充分に優れた導電性が付与されるようになり、この割合が90質量%以下であることで成形用組成物に充分に優れた成形性が付与されると共にセパレータAに充分に優れたガス透過性が付与される。
高い導電性を示すのであれば、各種の黒鉛粒子が制限なく用いられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズなどの炭素質を黒鉛化して得られる黒鉛粒子、石炭系コークスや石油系コークスを黒鉛化して得られる黒鉛粒子、黒鉛電極や特殊炭素材料の加工粉、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛等の、適宜の黒鉛粒子が用いられる。このような各種の黒鉛粒子は、一種単独で用いられ、或いは複数種が併用される。
黒鉛粒子は、人造黒鉛粉、天然黒鉛粉のいずれであってもよい。天然黒鉛粉には導電性が高いという利点があり、人造黒鉛粉には天然黒鉛粉に比べて導電性は多少劣るものの、異方性が少ないという利点がある。
黒鉛粒子は、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉のいずれの場合であっても、精製されていることが好ましい。この場合は、黒鉛粒子中の灰分やイオン性不純物の含有量が低くなるため、セパレータAからの不純物の溶出が抑制される。黒鉛粒子中の灰分の含有量は特に0.05質量%以下であることが好ましい。この灰分が0.05質量%を超えると、セパレータAを備える燃料電池の特性低下が引き起こされるおそれがある。
黒鉛粒子の平均粒径は15〜100μmの範囲であることが好ましい。この平均粒径が10μm以上であることで成形用組成物の成形性が優れたものとなり、この平均粒径が100μm以下となることでセパレータAの表面平滑性が更に向上する。成形用組成物の成形性が特に向上するためには前記平均粒径が30μm以上であることが好ましい。また、セパレータAの表面平滑性が特に向上して後述するようにセパレータAの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)が0.4〜1.6μmの範囲、特に1.0μm未満となるためには、前記平均粒径が70μm以下であることが好ましい。
特に薄型のセパレータAが得られる場合には、黒鉛粒子は100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有することが好ましい。この黒鉛粒子中に100メッシュ篩を通過しない粒子が含まれていると、成形用組成物中に粒径の大きい黒鉛粒子が混入してしまい、特に成形用組成物が薄型のシート状に成形される際の成形性が低下してしまう。
黒鉛粒子のアスペクト比は10以下であることが好ましい。この場合、セパレータAに異方性が生じることが抑制されると共に、セパレータAの反りなどの変形も抑制される。
尚、セパレータAの異方性の低減に関しては、セパレータAにおける、成形時の成形用組成物の流動方向と、この流動方向と直交する方向との間での接触抵抗の比が、2以下となることが好ましい。
黒鉛粒子は、特に2種以上の粒度分布を有することが好ましい。すなわち、黒鉛粒子が、平均粒径の異なる2種以上の粒子群を含んでいることが好ましい。この場合、特に黒鉛粒子平均粒径1〜50μmの範囲の粒子群と、平均粒径30〜100μmの粒子群とを含んでいることが好ましい。このような粒度分布を有する黒鉛粒子が用いられると、平均粒径の大きい粒子群は表面積が小さいため、この粒子群により、樹脂量が少量であっても成形用組成物の混練が可能となる。更に平均粒径の小さい粒子群によって、黒鉛粒子同士の接触性が高まると共に、成形品の強度が向上する。これにより、セパレータAの嵩密度の向上、導電性の向上、ガス不透過性の向上、強度の向上等といった、性能の向上が図られる。平均粒径1〜50μmの粒子群と平均粒径30〜100μmとの粒子群の混合比は、適宜調整されるが、特に前者対後者の混合質量比が40:60〜90:10、特に65:35〜85:15であることが好ましい。
尚、黒鉛粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
熱硬化性樹脂成分には、エポキシ樹脂とフェノール樹脂のうち少なくとも一方を含む熱硬化性樹脂が含まれていることが好ましい。エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂は良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。この熱硬化性樹脂成分中には、必要に応じて使用される硬化剤や触媒(硬化促進剤)も含まれる。成形用組成物中の熱硬化性樹脂成分の含有量は、固形分全量に対して15〜28質量%の範囲とされる。
熱硬化性樹脂成分中の熱硬化性樹脂全体に対するエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂のみ、熱硬化性フェノール樹脂のみ、或いはエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のみであれば特に好ましい。
エポキシ樹脂は固形状であることが好ましく、特に融点が70〜90℃の範囲であることが好ましい。これにより、材料の変化が少なくなり、成形時の成形用組成物の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用組成物中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。また、エポキシ樹脂として溶融粘度が低粘度の樹脂が選択されれば、成形性用組成物の良好な成形性が維持されつつ、成形用組成物及びセパレータA中に黒鉛粒子が高充填されることが可能となる。尚、前記作用が発揮される範囲内でエポキシ樹脂の一部が液状であってもよい。
エポキシ樹脂としては、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が使用されることが好ましい。このオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂は、良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
特にエポキシ樹脂としてオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂からなる成分、或いはオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種とからなる成分が使用されることが好ましい。これらの成分の、成形用組成物中の熱硬化性樹脂全量に対する割合は、50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が必須の成分であると、成形用組成物が成形性に優れたものになると共に、セパレータAが耐熱性に優れたものとなる。また、製造コストの低減も可能になる。エポキシ樹脂全体に対するオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の割合は、前記成形性の向上、セパレータAの耐熱性の向上、製造コストの低減の観点から、50〜100質量%の範囲であることが好ましく、特に50〜70質量%の範囲であることが好ましい。
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と共に、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及びビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種が併用されることも好ましい。この場合、成形用組成物の溶融粘度が更に低減し、特に薄型のセパレータAが作製される場合にはこのセパレータAの靱性が向上する。
特にビスフェノールF型エポキシ樹脂が使用されると、成形用組成物の粘度が低減し、成形性の特に高い成形用組成物が得られる。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビスフェノールF型エポキシ樹脂の割合は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、ビフェニル型エポキシ樹脂が使用されると、このビフェニル型樹脂は溶融粘度が低いため、成形用組成物の流動性が著しく向上し、薄型成形性が特に向上する。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビフェニル型エポキシ樹脂の割合は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂が使用されると、セパレータAの強度及び靱性が更に向上し、更にセパレータAの吸湿性が低減する。このため、セパレータAの機械的特性、導電性、長期使用時の特性の安定性が優れたものとなる。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の割合は、30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
エポキシ樹脂として、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が用いられ、或いは更にビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種が用いられる場合に、更にこれら以外の熱硬化性樹脂が併用されてもよい。例えば前記列挙されたエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられてもよい。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解するおそれがあるため、使用されないことが望ましい。また、熱硬化性樹脂として、セパレータAの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂が用いられることも適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などが好ましい。特に4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが用いられると、セパレータAの耐熱性が更に向上する。
エポキシ樹脂が使用される場合、成形用組成物はエポキシ樹脂の硬化剤を含有する。硬化剤は、成形用組成物が含有するエポキシ樹脂を硬化させる能力を有するのであれば特に限定されないが、フェノール系化合物を必須成分とすることが好ましい。このフェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等の各種多価フェノール樹脂が挙げられる。
硬化剤全量に対するフェノール系化合物の含有量は、エポキシ樹脂の使用量に依存して決定される。また、硬化剤がフェノール系化合物のみであれば特に好ましい。特に、フェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲となることが好ましい。
フェノール系化合物以外の他の硬化剤が併用される場合、他の硬化剤は非アミン系の化合物であることが好ましく、この場合、セパレータAの電気伝導度が高い状態に維持されると共に、燃料電池の触媒の被毒が抑制される。また硬化剤として酸無水物系の化合物も用いられないことが好ましい。酸無水物系の化合物が使用される場合は硫酸酸性環境下等の酸性環境下で加水分解して、セパレータAの電気伝導度の低下が引き起こされたり、セパレータAからの不純物の溶出が増大してしまうおそれがある。
熱硬化性樹脂として熱硬化性フェノール樹脂が用いられる場合は、特に開環重合により重合反応が進行するフェノール樹脂が用いられることが好ましい。このようなフェノール樹脂としては、例えばベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。この場合は、成形工程で脱水によるガスが発生しないので成形品中にボイドが発生しにくくなり、セパレータAのガス透過性の低下が抑制される。また、レゾール型フェノール樹脂が用いられることも好ましく、例えば13C−NMR分析で、オルト−オルト25〜35%、オルト−パラ60〜70%、パラ−パラ5〜10%の構造を有するレゾール型フェノール樹脂が用いられることが好ましい。レゾール樹脂は通常液状であるが、レゾール型フェノール樹脂は軟化点を容易に調整され、融点が70〜90℃のレゾール型フェノール樹脂はも容易に得られる。これにより、成形用組成物の変化が少なくなり、成形時の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形用組成物中で成分の凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。
熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂以外の他の樹脂が併用されてもよい。例えばポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられる。但し、エステル結合を含む樹脂は、耐酸性環境下で加水分解する恐れがあるため、使用されないことが好ましい。
また、熱硬化性樹脂として、セパレータAの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂も適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などが挙げられる。その具体例として例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。このような他の樹脂が併用されるとセパレータAの耐熱性が更に高まる。
熱硬化性樹脂成分には上記のとおり必要に応じて触媒(硬化促進剤)が含まれる。触媒としては、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
特に触媒として、測定開始温度30℃、昇温速度10℃/分、保持温度120℃、保持温度での保持時間30分の条件で加熱された場合の重量減少が5%以下である、2位に炭化水素基を有する置換イミダゾールが使用されることが好ましい。このような置換イミダゾールが使用されると、特に液状(ワニス状又はスラリー状)の成形用組成物の保存安定性、成形用組成物からシートが形成される際の揮発性、前記シートの平滑性などが良好となる。この置換イミダゾールとしては、特に2位の炭化水素基の炭素数が6〜17の置換イミダゾールが好ましい。
この置換イミダゾールの具体例としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。このうち、2−ウンデシルイミダゾール及び2−ヘプタデシルイミダゾールが好適である。これらの化合物は一種単独で用いられ、或いは二種以上が併用される。
触媒として、前記のような置換イミダゾールと共に、他の化合物が併用されてもよい。特にトリフェニルホスフィン等のリン系化合物(有機ホスフィン類)が併用されると、セパレータAからの塩素イオンの溶出が更に抑制される。
成形用組成物中の触媒の含有量は適宜調整され、それにより成形用組成物の成形硬化時間が適宜調整される。特に成形用組成物中の触媒の含有量が、成形用組成物中の熱硬化性樹脂と硬化剤の合計量に対して0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。
成形用組成物は、更に内部離型剤を含有してもよい。内部離型剤としては適宜のものが用いられるが、特に120〜190℃において、成形用組成物中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と相溶せずに相分離する内部離型剤が好ましい。このような内部離型剤として、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、および長鎖脂肪酸系のワックスから選ばれる少なくとも一種が用いられることが好ましい。このような内部離型剤が成形用組成物の成形過程で熱硬化性樹脂及び硬化剤と相分離することで、離型性向上作用が良好に発揮される。
内部離型剤の使用量は、セパレータAの形状の複雑さ、溝深さ、抜き勾配など金型面との離形性の容易さなどが考慮されて、適宜設定される。特に成形用組成物全量に対する内部離型剤の割合が0.1〜2.5質量%の範囲であることが好ましい。この割合が0.1質量%以上であると金型成形時に十分な離型性が発現し、この割合が2.5質量%以下であると内部離型剤によってセパレータAの表面の親水性が阻害されることが、十分に抑制される。この内部離型剤の割合は0.1〜1質量%の範囲であれば更に好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲であれば特に好ましい。
成形用組成物は、必要に応じてカップリング剤等の添加剤を含有してもよい。カップリング剤としては、シリコン系のシラン化合物、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤などが挙げられる。特にシリコン系のカップリング剤のうち、エポキシランカップリング剤が適している。カップリング剤は黒鉛粒子の表面に予め噴霧等により付着されていてもよい。エポキシランカップリング剤の使用量は、成形用組成物の固形分全体に対して、0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータA表面にブリードすることが、充分に抑制される。
成形用組成物は溶媒を含有してもよい。特に薄型のセパレータAが作製される場合には、成形用組成物が溶媒を含有することで、この成形用組成物が液状(ワニス状及びスラリー状を含む)に調製されてもよい。溶媒としては、たとえばメチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が好ましい。溶媒は一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。溶媒の使用量は、成形用組成物からシート状のセパレータAを作製する際の成形性を考慮して適宜設定される。特に、成形用組成物の粘度が1000〜5000cpsの範囲となるように、溶媒の使用量が設定されることが好ましい。尚、溶媒は必要に応じて使用されればよく、熱硬化性樹脂として液状樹脂が使用されるなどにより成形用組成物が液状に調製されるならば、溶媒が使用されなくてもよい。
セパレータA中のイオン性不純物の含有量は少ないことが好ましく、特に質量比率でナトリウム含量が5ppm以下、塩素含量が5ppm以下であることが好ましい。そのためには、成形用組成物中のイオン性不純物の含有量が低いことが好ましく、特に成形用組成物の固形分全量に対する質量比率で、ナトリウム含量が5ppm以下、塩素含量が5ppm以下であることが好ましい。この場合、セパレータAからのイオン性不純物の溶出が抑制され、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下が抑制される。
セパレータA及び成形用組成物のイオン性不純物の含有量が上記のように低減されるためには、成形用組成物を構成する熱硬化性樹脂、硬化剤、黒鉛、その他添加剤等の各成分それぞれのイオン性不純物の含有量が低いことが好ましく、特に各成分に対する質量比率で、ナトリウム含量が5ppm以下、塩素含量が5ppm以下であることが好ましい。
尚、イオン性不純物の含有量は、対象物の抽出水中のイオン性不純物の量に基づいて導出される。前記抽出水は、対象物10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中に対象物を投入し、90℃で50時間処理することで得られる。抽出水中のイオン性不純物は、イオンクロマトグラフィにて評価される。この抽出水中のイオン性不純物量に基づいて、対象物中のイオン性不純物の量が、対象物に対する質量比に換算して導出される。
成形用組成物は、この成形用組成物から形成されるセパレータAのTOC(total organic carbon)が100ppm以下となるように調製されることが好ましい。
TOCは、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中にセパレータAが投入され、90℃で50時間処理された後の水溶液を用いて測定される数値である。TOCは、例えばJIS K0102に準拠して、島津製全有機炭素分析装置「TOC−50」などで測定される。測定にあたっては、サンプルの燃焼により発生するCO濃度が非分散型赤外線ガス分析法で測定され、サンプル中の炭素濃度が定量される。この炭素濃度の測定によって、有機物質濃度が間接的に測定され、サンプル中の無機炭素(IC)、全炭素(TC)が測定され、全炭素と無機炭素の差(TC−IC)から全有機炭素(TOC)が計測される。
セパレータAのTOCが100ppm以下となると、燃料電池の特性低下が更に抑制される。
TOCの値は、成形用組成物を構成する各成分として高純度の成分が選択されたり、更に樹脂の当量比が調整されたり、成形時に後硬化処理がおこなわれたりすることで、低減される。
成形用組成物は、上記のような各成分が適宜の手法で混合され、必要に応じて混練・造粒等されることで調製される。
この成形用組成物が成形されることで、セパレータAが得られる。セパレータAには例えば図1に示すように、左右両側面に複数個の凸部(リブ)1aが形成されることで、隣り合う凸部1a同士の間に、燃料である水素ガスと、酸化剤である酸素ガスの流路であるガス供給排出用溝2が形成される。
ワニス状に調製された成形用組成物から薄型のセパレータAが得られる場合には、成形用組成物は特に、100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有し、且つ平均粒径30〜70μmの黒鉛粒子;オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂から成り、或いはこのオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種とからなるエポキシ樹脂成分;硬化剤であるフェノール樹脂;並びに、測定開始温度30℃、昇温速度10℃/分、保持温度120℃、保持温度での保持時間30分の条件で加熱した場合の重量減少が5%以下である、2位に炭化水素基を有する置換イミダゾールを、含有することが好ましい。この場合、まず成形用組成物がシート状に成形されることで、燃料電池セパレータ成形用シート(成形用シート)が得られる。成形用組成物は、例えばキャスティング(展進)成形によりシート状に成形される。この成形の際には、複数種の膜厚調節手段が適用され得る。このような複数種の膜厚調節手段が適用されるキャスティング法は、例えばすでに実用化されているマルチコータによって実現される。キャスティングのための膜厚調節手段としては、スリットダイとともに、ドクターナイフおよびワイヤーバーの少なくとも一方が用いられることが好ましい。
成形用シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であれば更に好ましい。また、この厚みは0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であれば更に好ましい。成形用シートの厚みが0.5mm以下であればセパレータAの薄型化や軽量化、並びにそれによる低コスト化が充分に達成され、特に厚みが0.3mm以下であれば溶媒が使用される場合の成形用シート内部の溶媒の残存が効果的に抑制される。またこの厚みが0.05mm未満の場合にはセパレータAの製造にあたっての有利さが充分に発揮されなくなり、特に成形性を考慮すると、この厚みは0.1mm以上であることが好ましい。
この成形用シートが、キャスティングにともなう乾燥によって半硬化(Bステージ)状態とされ、必要に応じて所定の平面寸法にカット(切断)もしくは打ち抜かれた後、成形されることで、両面に複数個の凸部(リブ)1aが形成されると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2が形成される。これにより、セパレータAが得られる。このセパレータAが波板状に形成され、且つその一方の面の凸部1aの裏側に、他方の面のガス供給排出用溝2が形成されると、薄型でありながら両面に複数個の凸部(リブ)1aを有すると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2を有するセパレータAが得られる。
セパレータAの作製にあたっては、1枚の成形用シートからセパレータAが作製されてもよく、複数枚の成形用シートからセパレータAが作製されてもよい。このように成形用シートが使用されることで、薄型のセパレータAの製造が可能となり、特に厚み0.2〜1.0mmの範囲のセパレータAの製造も可能となる。また、セパレータAの製造時に成形用シートが使用されることで、薄型のセパレータAが製造される場合でも成形材料を薄く且つ均一に配置して成形することが容易となり、成形性や厚み精度が高くなる。
尚、セパレータAの作製時には、成形用シートと適宜の導電性基材とが積層されてもよい。導電性基材が用いられると、セパレータAの機械的強度が向上する。導電性基材が用いられる場合には、例えば導電性基材の両側にそれぞれ成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)が積層された積層物が圧縮・熱硬化成形され、或いは成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)の両側にそれぞれ導電性基材を積層された積層物が圧縮・熱硬化成形される。
導電性基材としては、たとえば、カーボンペーパー、カーボンプリプレグ、カーボンフェルト等が挙げられる。これらの導電性基材は、導電性を損なわない範囲で、ガラス、樹脂等の基材成分を含有してもよい。導電性基材の厚みは、0.03〜0.5mmの範囲が好ましく、0.05〜0.2mmの範囲がより好ましい。
ワニス状の成形用組成物は、成形用シートの作製を経て薄型のセパレータAが製造される場合だけでなく、成形用シートの作製を経ることなくセパレータAが製造される場合にも有用である。この場合、成形用組成物の保存安定性や成形性が優れたものになる。
成形用組成物(成形用組成物から形成された成形用シートを含む)からセパレータAを得るためには、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形が採用される。上述のような組成を有する成形用組成物から、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形によりセパレータAが作製されることで、密度ばらつきが少なく、且つ厚み精度の高いセパレータAが得られる。
減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形においては、成形用組成物が金型内に充填された後、金型内或いは金型内を含む金型の周囲が減圧されて、金型内が減圧条件下又は真空条件下に維持される。この状態で、金型が加熱されると共に所定の圧縮力でプレスされることで、圧縮成形がされる。その後、金型が冷却装置により常温になるまで冷却された後、金型からセパレータAが取り出される。
この圧縮成形時には、金型内或いは金型内を含む金型の周囲の真空度が80kPa以上であることが好ましく、特に真空度が95kPa以上であることが好ましい。この真空度の上限は特に制限されないが、実用上は100kPaまでである。
圧縮成形時の加熱温度及び圧縮圧力は、成形用組成物の組成、導電性基材の有無及び種類、成形厚みなどにもよるが、例えば加熱温度120〜190℃の範囲、圧縮圧力1〜40MPaの範囲で設定されることが好ましい。
減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形にあたっては、任意の構造の成形装置が用いられる。例えば真空吸引のための微小な開口を有する金型を備える成形装置が用いられる。また、真空吸引可能な機構を有する成形機を備える成形装置が用いられてもよい。特に成形機が真空吸引可能な機構を備えている場合、金型設計の自由度が高くなり、更に金型のメンテナンスも容易となる点で、好ましい。このような成形機としては、大竹機械工業製の真空エアー抜きゴム成形機が挙げられる。一方、真空吸引のための小孔を有する金型が使用される場合には、減圧時間の短縮化が可能になるという利点がある。
減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形における圧縮方法としては、機械式の圧縮方法や、油圧、空圧、水圧などを利用した機構による圧縮方法などが採用される。圧縮成形に要する成形時間は適宜設定されるが、金型の冷却時間を含めても1分前後から5分程度で充分である。
圧縮成形に用いられる金型は、例えば加熱手段を内蔵し、下型及び上型を備えている。下型と上型の双方には、セパレータAの凸部1aに対応する凹部が形成される。真空吸引可能な機構を備えている成形機が用いられる場合には、例えばまず金型が開かれた状態で上型と下型とが予備加熱された後、下型上に篩などから成形用組成物が落下して載せられる。これにより下型の上に成形用組成物が均一に載せられる。成形用組成物から成形用シートが形成されている場合には、成形用シート、或いは成形用シートと導電性基材とが、下型の上に載せられる。続いて、金型を収容する真空チャンバーが閉じられ、真空チャンバー内が減圧される。真空チャンバー内が所定の真空度となったら、上型が下型に向けて降下して型締めがされる。これにより成形用組成物が所定の金型温度及び圧縮力により加熱圧縮され、金型内でセパレータAが形成される。続いて、金型が冷却装置により常温まで冷却された後、この金型からセパレータAが取り出される。
真空吸引のための微小な開口を有する金型が用いられる場合には、例えばまず金型が開かれた状態で上型と下型とが予備加熱された後、下型の上に成形用組成物が篩から落下させられる。これにより下型の上に成形用組成物が均一に載せられる。成形用組成物から成形用シートが形成されている場合には、成形用シート、或いは成形用シートと導電性基材とが、下型の上に載せられる。続いて、上型が下型に向けて降下して型締めがされると共に、金型の開口を通じて金型内が真空吸引されて、金型内が減圧される。この状態で、所定の金型温度及び圧縮力により成形用組成物が加熱圧縮され、金型内でセパレータAが形成される。この金型が冷却装置により常温まで冷却された後、この金型からセパレータAが取り出される。
このセパレータAの厚みは、2mm以下に形成される。特にセパレータAにおける最も厚み寸法の大きい箇所の厚み寸法が0.5〜2.0mmの範囲であり、最も厚み寸法の小さい箇所の厚み寸法が0.3〜0.7mmの範囲であることが好ましい。このような薄型のセパレータAを作製するにあたり、本実施形態によれば、上記のような組成を有する成形性の高い成形用組成物から、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形によりセパレータAが作製されることで、成形時に成形用組成物中からボイドが速やかに取り除かれることで、厚み精度の高いセパレータAが得られる。
セパレータAの密度ばらつき幅は0.015g/cm以下であり、特に0.01g/cm以下であることが好ましい。密度ばらつき幅とは、セパレータAにおける密度が最も高い部位における密度の値と、密度が最も低い部位における密度の値との差のことである。本実施形態によれば、上記のような組成を有する成形性の高い成形用組成物から、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形によりセパレータAが作製されることで、成形時に成形用組成物中からボイドが速やかに取り除かれて成形用組成物が均一化し、密度ばらつき幅の小さいセパレータAの製造が可能となる。このようにセパレータAの密度ばらつきが0.015g/cm以下、特に0.01g/cm以下であると、セパレータAが薄型であっても割れが生じにくくなって生産性が向上すると共に、セパレータAの電気伝導度、ガス透過性及び機械的強度が向上する。
以上のようにして製造されるセパレータAを用いることで、燃料電池が製造される。図1は固体高分子型燃料電池の一例を示す。2枚のセパレータA,Aの間に、固体高分子電解質膜などの電解質4とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)などからなる膜−電極複合体(MEA)5が介在することで、単電池(単位セル)が構成されている。この単位セルが数十個〜数百個並設されることで、電池本体(セルスタック)が構成される。
図2に、ガスケット12を使用して構成される燃料電池の単セルの構造の一例を示す。この単セルは、セパレータA,A、ガスケット12,12、及び膜−電極複合体5が重ねられることで構成されている。セパレータAには、凸部1a及びガス供給排出用溝2が形成されている領域を取り囲む外周部分に、燃料用貫通孔13a,13aと酸化剤用貫通孔13b,13bとが形成されている。燃料用貫通孔13a,13aは二つ形成されており、各燃料用貫通孔13a,13aはセパレータAの燃料電極3aと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。酸化剤用貫通孔13b,13bも二つ形成されており、各酸化剤用貫通孔13b,13bはセパレータAの酸化剤電極3bと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。この外周部分には、冷却用貫通孔13cも形成されている。
尚、本実施形態では、図2に示されるように、セパレータAにはストレートタイプのガス供給排出用溝2が形成されている。一般に、セパレータAにおけるガス供給排出用溝2としては、屈曲を有するサーペンタインタイプの溝と屈曲を有さないストレートタイプの溝とがある。勿論、図2に示されるセパレータAにおいて、このセパレータAにサーペンタインタイプのガス供給排出用溝2が形成されてもよい。
本実施形態では、セパレータAの外周部分に、シーリングのためのガスケット12が積層されている。このガスケット12は、その略中央部に、膜−電極複合体5における燃料電極3aや酸化剤電極3bを収容するための開口15を有し、この開口15においてセパレータAのガス供給排出用溝2が露出する。この開口15の外周側には、前記セパレータAの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔14a、酸化剤用貫通孔14b及び冷却用貫通孔14cがそれぞれ形成されている。
膜−電極複合体5における電解質4の外周部分にも、前記セパレータAの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔16a、酸化剤用貫通孔16b及び冷却用貫通孔16cがそれぞれ形成されている。
この単セル構造では、セパレータA、ガスケット12、及び電解質4の各燃料用貫通孔13a.14a,16aが連通することで、燃料電極への燃料の供給及び排出のための燃料用流路が構成される。また、各酸化剤用貫通孔13b,14b,16bが連通することで、酸化剤電極への酸化剤の供給及び排出のための酸化剤用流路が構成される。また、各冷却用貫通孔13c,14c,16cが連通することで、冷却水等が流通する冷却用流路が構成される。
このような燃料電池の単セル構造において、燃料電極3aと酸化剤電極3b、並びに電解質4は、燃料電池のタイプに応じた公知の材料で形成される。固体高分子型燃料電池の場合、燃料電極3a及び酸化剤電極3bは例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の基材に、触媒を担持させて構成される。燃料電極3aにおける触媒としては例えば白金触媒、白金・ルテニウム触媒、コバルト触媒等が挙げられ、酸化剤電極3bにおける触媒としては白金触媒、銀触媒等が挙げられる。また、固体高分子型燃料電池の場合、電解質4は例えばプロトン伝導性の高分子膜から形成され、特にメタノール直接型燃料電池の場合は例えばプロトン伝導性が高く、電子導電性やメタノール透過性を殆ど示さないフッ素系樹脂等から形成される。
ガスケット12は、例えば天然ゴム、シリコーンゴム、SIS共重合体、SBS共重合体、SEBS、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素系ゴム等などから選択されるゴム材料から形成される。このゴム材料には粘着付与剤が配合されてもよい。
燃料電池に組み込まれる前のセパレータAに、予めガスケット12が積層されていてもよい。図3に、ガスケット12を備えるセパレータAの一例を示す。このガスケット12を備えるセパレータAが、膜−電極複合体5と積層されることで、単セル構造が構成される。
セパレータAにガスケット12が積層される際は、例えば予めシート状又は板状に形成されたガスケット12がセパレータAに接着や融着などにより接合される。
セパレータAの表面上でガスケット12の材料が成形されることで、セパレータAにガスケット12が積層されてもよい。例えば未加硫のゴム材料がスクリーン印刷等によりセパレータAの表面上の所定位置に塗布され、このゴム材料の塗膜が加硫されることで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12が形成される。前記加硫にあたっては、加熱、電子線などの放射線の照射、或いはその他適宜の加硫方法が採用される。この場合、薄型のセパレータAに対してもガスケット12が容易に積層される。また、セパレータAが金型内にセットされ、このセパレータAの表面上の所定位置に未加硫のゴム材料が射出されると共にこのゴム材料が加熱されるなどして加硫されることで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12が形成されてもよい。このように金型成形によりガスケット12が形成される場合は、トランスファー成形のほか、コンプレッション成形、インジェクション成形等が採用され得る。
このようにセパレータAの表面上でガスケット12が形成されると、セパレータAの製造効率が向上し、セパレータAの製造コスト低減に寄与する。地球環境問題への意識の高まり等により、近年、燃料電池の普及が求められており、そのためには燃料電池の低コスト化が求められている。このため、セパレータAの製造コスト低減は重要である。セパレータA上でガスケット12が形成されると、セパレータAが高温に加熱されるなど過酷な状態に曝されるが、本実施形態ではセパレータAの吸湿性が低いため、セパレータAに加熱等によりクラックが生じることが抑制される。
図4は複数の単セルからなる燃料電池C(セルスタック)の一例を示す。この燃料電池Cは、燃料用流路に連通する燃料の供給口17a及び排出口17bと、酸化剤用流路に連通する酸化剤の供給口18a及び排出口18bと、冷却用流路に連通する冷却水の供給口19a及び排出口19bとを有する。
[実施例1〜14、比較例1〜3]
各実施例及び比較例につき、表1に示す原料成分を攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)に表1に示す組成となるように入れて攪拌混合し、得られた混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕することで、成形用組成物を得た。
得られた成形用組成物を、金型温度185℃、成形圧力35.3MPa、成形時間2分の条件で圧縮成形した。尚、実施例1においては、成形前に金型にノンシリコンタイプの外部離型剤(ダイキン工業株式会社製、ダイフリ−)をスプレー塗布し、他の実施例及び比較例では外部離型剤の塗布はおこなわなかった。次に金型を閉じたまま除圧し、30秒間保持した後に金型を開き、セパレータAを取り出した。
この圧縮成形時に、実施例1〜14では、真空チャンバー内で金型に成形用組成物を配置してから、表1の「減圧開始時間」欄に示す時間が経過した時点で、真空チャンバー内の減圧を開始し、真空チャンバー内を表1に示す真空度に到達させた。減圧開始から真空チャンバー内が所定の真空度に到達するまでに要した時間を、表1の「真空度到達時間」の欄に示す。真空チャンバー内が所定の真空度に達してから、上型を下型に向けて降下させて型締めし、成形用組成物に圧縮成形を施した。
得られたセパレータAの形状は、平面視200mm×250mmの矩形状であり、厚みは最も厚い箇所で1.5mm、最も薄い箇所で0.5mmであった。セパレータAの片面には長さ250mm、幅1mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を25本、反対側の面には長さ250mm、幅0.5mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を25本形成した。
このセパレータAの表面に、マコー株式会社製のウエットブラスト処理装置(形式PFE−300T/N)を用い、砥粒としてアルミナ粒子を含むスラリー用いてブラスト処理を施すことで、セパレータAの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)を0.5μmに調整した。このセパレータAをイオン交換水で洗浄し、更に温風乾燥した。
[密度ばらつき幅評価]
各実施例及び比較例について、10枚のセパレータAを作製した。各セパレータAの、凸部1aが形成されていない外周部分の4つの各辺部分から、それぞれ平面視10mm×40mmの試験片を2つずつ切り出し、一つのセパレータAあたり8個の試験片を得た。
各試験片の密度を、JIS K 7112に規定されている水中置換法に準じて測定した。すなわち、まず金属線で吊した試験片の重量を空気中で測定した。次にこの金属線で吊した試験片を蒸留水に浸漬して、この蒸留水中から気泡などを除去した後、蒸留水中で試験片の重量を測定した。その結果にから、試験片の密度を下記の式から算出した。
密度=[a/(a−b)]×ρw.t
a:空気中で測定された試験片の重量(g)。
b:蒸留水中で測定された試験片の重量(g)。
ρw.t:測定時温度における蒸留水の密度。
この結果に基づいて、各実施例及び比較例ごとに、試験片の密度の測定結果のばらつき幅を調査し、次のように評価した。
◎:密度のばらつき幅が0.01g/cm以下。
○:密度のばらつき幅が0.01g/cmより大きく、0.015g/cm以下。
×:密度のばらつき幅が0.015g/cmより大きい。
[連続成形性評価]
各実施例及び比較例において、同一の金型を用いて50枚のセパレータAを連続して作製した。
各セパレータAの1枚ごとの密度のばらつき幅を、上記密度ばらつき幅評価に準じて調査し、次のように評価した。
◎:密度のばらつき幅が0.01g/cmより大きいセパレータAが1枚も存在しない場合。
○:密度のばらつき幅が0.01g/cmより大きく、0.015g/cm以下となるセパレータAが少なくとも1枚存在し、且つ密度のばらつき幅が0.015g/cmより大きいセパレータAが存在しない。
×:密度のばらつき幅が0.015g/cmより大きいセパレータAが少なくとも1枚存在する。
[厚み精度評価]
各実施例で得られたセパレータAの厚みをマイクロメータで、一つのセパレータAにつき異なる12箇所の位置で測定した。各実施例につき30個のサンプルについて測定をおこない、厚みのばらつきが±15μmを超えるサンプル数で、厚み精度を評価した。表1により、各実施例では薄型成形性が良好であって、厚み精度が良いことがわかる。
[曲げ強度評価]
各実施例及び比較例において、セパレータAを作製する場合と同じ方法で80mm×10mm×4mmの寸法の曲げ強度測定用の成形品を作製し、JIS K6911に準拠し、支点間距離64mm、クロスヘッドスピード2mm/分の条件で曲げ強度を測定した。
[接触抵抗評価]
各実施例及び比較例において、セパレータAの厚みを3mmに形成し、このセパレータAの上下にカーボンペーパーを配置し、更にその上下に銅板を配置し、上下方向に面圧1MPaの圧力をかけた。そして、2枚のカーボンペーパー間の電圧を電圧計で測定すると共に2枚の銅板間の電流を電流計で測定し、その結果から抵抗(平均値)を計算した。なお、使用したカーボンペーパーは、東レ社製のTGP−H−Mシリーズ(090M:厚さ0.28mm、120M:厚さ0.38mm)である。
[TOC評価]
JIS K0551−4.3に準拠し、まず各実施例及び比較例におけるセパレータAをメタノールで1分間洗浄した後、イオン交換水にて1分間洗浄した。次いで、ガラス製容器中にセパレータAとイオン交換水とを、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水中に燐酸を添加してpH2以下に調整した後、湿式酸化−赤外線式TOC測定法(東レエンジニアリング社製「東レアストロTOC自動分析計MODEL1800」を使用)にて、有機炭酸量を測定した。
[水溶性イオン分析]
各実施例及び比較例におけるセパレータAをメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中にセパレータAとイオン交換水とを、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)をイオンクロマトグラフィ(島津製作所社製「CDD−6A」)で測定した。
[電気伝導度評価]
各実施例及び比較例におけるセパレータAをメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中にセパレータAとイオン交換水とを、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)を導電率計で測定した。
尚、表中の各成分の詳細は次の通りである
・エポキシ樹脂A:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製「EOCN−1020−75」、エポキシ当量199、融点75℃)
・エポキシ樹脂B:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製「830CRP」、エポキシ当量171、25℃で液状)
・硬化剤A:ノボラック型フェノール樹脂(群栄化学社製「PSM6200」、OH当量105)
・熱硬化性フェノール樹脂A:レゾール型フェノール樹脂(群栄化学社製「サンプルA」、融点75℃、13C−NMR分析によるオルト−オルト25〜35%、オルト−パラ60〜70%、パラ−パラ5〜10%)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学社製「TPP」)
・天然黒鉛(中越黒鉛工業所社製「WR50A」、平均粒径50μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン4ppm、塩化物イオン2ppm)
・人造黒鉛(エスイーシー社製「SGP100」、平均粒径100μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン3ppm、塩化物イオン1ppm)
・カップリング剤:エポキシシラン(日本ユニカー社製「A187」)
・ワックスA:天然カルナバワックス(大日化学社製「H1−100」、融点83℃)
・ワックスB:モンタン酸ビスアマイド(大日化学社製「J−900」、融点123℃)
Figure 0005520104
A 燃料電池セパレータ
C 燃料電池

Claims (3)

  1. 熱硬化性樹脂成分と黒鉛とを含有する成形用組成物を、圧縮成形する燃料電池セパレータの製造方法であって、
    前記成形用組成物における前記熱硬化性樹脂成分の割合が、固形分全量に対して、15〜28質量%であり、
    前記成形用組成物における前記黒鉛の割合が、固形分全量に対して、72〜85質量%であり
    記熱硬化性樹脂成分が、エポキシ樹脂、前記エポキシ樹脂の硬化剤及び触媒からなり、
    前記成形用組成物が、更にカップリング剤及び内部離型剤を含有し、
    前記成形用組成物の圧縮成形を、真空度95kPa以上の条件で行い、
    前記成形用組成物を、密度のばらつき幅0.01g/cm以下、厚み2.0mm以下に形成することを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
  2. 前記成形用組成物が、前記内部離型剤を固形分全量に対して0.1〜0.5質量%含有する請求項1に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
  3. 燃料電池セパレータの最も厚み寸法の大きい箇所の厚み寸法を0.5〜2.0mmの範囲、最も厚み寸法の小さい箇所の厚み寸法を0.3〜0.7mmの範囲に形成する請求項1又は2に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
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