以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
本実施形態において、変性対象となるポリマーとしては、炭素−炭素二重結合を主鎖に含むジエン系ゴムポリマー(以下、単にゴムポリマー又はポリマーとも称する。)が挙げられる。ジエン系ゴムポリマーとしては、例えば、分子内にイソプレンユニット及び/又はブタジエンユニットを有する各種ゴムポリマーが挙げられ、具体的には、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、又は、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらのゴムポリマーは、いずれか1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、天然ゴム、合成イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、又はブタジエンゴムを用いることが好ましく、より好ましくは天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いることである。
変性対象となるジエン系ゴムポリマーとしては、数平均分子量が6万以上のものを用いることが好ましい。本実施形態では、常温(23℃)で固形状のポリマーを対象とするためである。例えば、ゴムポリマーをそのまま材料として加工する上で、常温において力を加えない状態で塑性変形しないためには、数平均分子量が6万以上であることが好ましい。ここで、固形状とは、流動性のない状態である。ジエン系ゴムポリマーの数平均分子量は、6万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。
変性対象となるジエン系ゴムポリマーとしては、溶媒に溶解したものを用いることができる。好ましくは、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちラテックスを用いることである。水系エマルションを用いることにより、ゴムポリマーを分解させた後に、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させることで、ポリマー断片同士の再結合反応や官能性分子との結合反応を生じさせることができる。水系エマルションの濃度(ゴムポリマーの固形分濃度)は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。固形分濃度が高くなりすぎるとエマルション安定性が低下してしまい、反応場のpH変動に対してミセルが壊れやすくなり、反応に適さない。逆に固形分濃度が小さすぎる場合は反応速度が遅くなり、実用性に劣る。
ジエン系ゴムポリマーの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、ジエン系ゴムポリマーの水系エマルションに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、又は、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。過ヨウ素酸であれば、反応系を制御しやすく、また、水溶性の塩が生成されるので、変性ポリマーを凝固乾燥させる際に、水中にとどまらせることができ、変性ポリマーへの残留が少ない。なお、酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の、塩化物や有機化合物との塩や錯体などの、金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、該金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
上記酸化開裂によりジエン系ゴムポリマーが分解し、末端にカルボニル基(>C=O)やアルデヒド基(即ち、ホルミル基(−CHO))を持つポリマー(即ち、ポリマー断片)が得られる。一実施形態として、該ポリマー断片は、下記式(5)で表される構造を末端に持つ。
式中、R
4は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、クロロ基である。例えば、イソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
4がメチル基、他方の開裂末端ではR
4が水素原子となる。ブタジエンユニットが開裂した場合、開裂末端はともにR
4が水素原子となる。クロロプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
4がクロロ基、他方の開裂末端ではR
4が水素原子となる。より詳細には、ポリマー断片は、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(5)で表される構造を持ち、すなわち、下記式(6)及び(7)に示すように、ジエン系ポリマー鎖の一方の末端又は両末端に、式(5)で表される基が直接結合したポリマー断片が生成される。
式(6)及び(7)において、R4は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、波線で表した部分がジエン系ポリマー鎖である。例えば、天然ゴムを分解した場合、波線で表した部分はイソプレンユニットの繰り返し構造からなるポリイソプレン鎖である。スチレンブタジエンゴムを分解した場合、波線で表した部分はスチレンユニットとブタジエンユニットを含むランダム共重合体鎖である。
上記酸化開裂によってジエン系ゴムポリマーを分解することにより、分子量が低下する。分解後のポリマーの数平均分子量は特に限定されないが、3百〜50万であることが好ましく、より好ましくは5百〜10万であり、更に好ましくは1千〜5万である。なお、分解後の分子量の大きさにより、再結合後の官能基量を調節することができるが、分解時の分子量が小さすぎると、同一分子内での結合反応が生じやすくなる。
上記のようにしてジエン系ゴムポリマーを分解した後、得られたポリマー断片と、アルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とを含む反応系を、酸性の場合は塩基性に、塩基性の場合は酸性になるように、酸塩基性を変化させる。
上記アルコキシシリル基を構造に持つ官能性分子は、分子内にアルコキシシリル基とともに、アルデヒド基及びカルボニル基からなる群から選択された少なくとも1つの官能基を持つ化合物である。具体的には、下記式(A)で表される官能性分子が挙げられる。
式(A)において、R1は炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシアルキル基を示し、R2はアルデヒド基又はカルボニル基を含む基を示し、R3はアルキル基を示し、mは1〜3の整数を示し、nは1〜3の整数を示し、lは0〜2の整数を示す。mとnとlの合計は4である。
R1は、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を示す。OR1で表されるアルコシキ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、又は、メトキシエトキシ基などが挙げられる。
R2は、上記ポリマー断片と結合するための官能基であり、nで表されるR2の数がポリマー断片に対する官能基数である。R2は、アルデヒド基(−CHO)又はカルボニル基(−COR5)であってもよく、また、これらアルデヒド基又はカルボニル基がアルカンジイル基を介してケイ素原子に結合する基(即ち、−R6−CHO、又は−R6−CO−R5)ものであってもよい。ここで、R5は炭素数1〜5のアルキル基を示し、より好ましくはメチル基である。R6は、特に限定しないが、炭素数1〜5のアルカンジイル基であることが好ましく、より好ましくはメチレン基である。R2の具体例としては、−CHO、−COCH3、又は、−CH2CHOなどが挙げられる。
R3は、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基を示し、更に好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
上記アルコキシシリル基を構造に持つ官能性分子、より詳細には式(A)で表される官能性分子は、ビニル基を少なくとも1つ有する官能性分子の炭素−炭素二重結合を酸化開裂させて得ることができる。すなわち、ビニル基を酸化開裂させることで、アルデヒド基又はカルボニル基となる。この酸化開裂反応は上記ジエン系ゴムポリマーの酸化開裂反応に準じて行うことができる。詳細には、ジエン系ゴムポリマーとビニル基を有する官能性分子は、それぞれ別々の系で酸化剤を加えて酸化開裂してもよく、あるいはまた、ジエン系ゴムポリマーとビニル基を有する官能性分子を予め混合してから混合系に酸化剤を加えることにより一緒に酸化開裂してもよい。好ましくは、ジエン系ゴムポリマーを酸化開裂した後、その反応系にビニル基を有する官能性分子を添加して該官能性分子を酸化開裂し、その後、得られた反応系の酸塩基性を変化させることである。なお、ジエン系ゴムポリマーとビニル基を有する官能性分子を別々に酸化開裂させた場合、これらを混合してから、混合液の酸塩基性を変化させればよい。
上記ビニル基を少なくとも1つ有する官能性分子の好ましい具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルメチルメトキシシラン、ジビニルメチルエトキシシラン、トリビニルエトキシシラン、又は、トリビニルメトキシシラン等が挙げられる。これらはいずれか一種単独で、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
上記のように、ポリマー断片と、アルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とを含む反応系の酸塩基性を変化させることにより、ポリマー断片を再結合させることができるとともに、ポリマー断片と官能性分子とを結合させることができる。そのため、アルコキシシリル基が導入された変性ジエン系ゴムポリマーが得られる。
詳細には、上記ポリマー断片を含む系は、反応場の酸塩基性を変化させることにより、開裂とは逆反応である結合反応が優先的に進行するようになる。上記酸化開裂は可逆反応であり、逆反応である結合反応よりも開裂反応が優先的に進行するので、平衡に達するまで分子量は低下していく。その際、反応場の酸塩基性を逆転させると、今度は結合反応が優先的に進行するようになるので、一旦低下した分子量は上昇に転じ、平衡に達するまで分子量が増大する。そのため、所望の分子量を持つ変性ジエン系ゴムポリマーが得られる。なお、上記式(5)の構造は2種類の互変異性をとり、元の炭素−炭素二重結合構造に結合するものと、下記式(1)〜(4)で表される連結基を形成するものとに分かれる。本実施形態では、反応場のpHを制御することにより、アルドール縮合反応を優先させて、式(1)〜(4)のいずれか少なくとも1種の連結基を含むポリマーを生成することができる。詳細には、反応系、即ち水系エマルションの液中には安定化のためpH調節されているものがあり、分解に使用する方法や薬品の種類や濃度により分解時のpHが酸性か塩基性のどちらかに寄る。そのため分解時の反応系が酸性になっている場合には、反応系を塩基性にする。反対に分解時の反応系が塩基性になっている場合には、反応系を酸性にする。
ここで、式(5)のR4が水素原子である末端構造を持つポリマー断片同士が結合する場合、アルドール付加により式(3)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(4)で表される連結基となる。R4が水素原子である末端構造を持つポリマー断片とR4がメチル基である末端構造を持つポリマー断片が結合する場合、アルドール付加により式(2)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(1)で表される連結基となる。なお、例えばR4がメチル基である末端構造を持つポリマー断片同士が結合する場合など、上記式(1)〜(4)以外の連結基が生成される場合もあるが、そのような連結基は微量であり、式(1)〜(4)の連結基が主として生成され、より詳細には、式(1)の連結基が主として生成される。
本実施形態では、このようなジエン系ゴムポリマーの解離結合反応に際し、その反応系中に、アルコキシシリル基を構造に持つ官能性分子を含ませる。これにより、ポリマー断片同士の再結合とともに、ポリマー断片と前記官能性分子との結合反応も進み、下記式(B1)〜(B4)で表される基の少なくとも1種が形成される。そのため、ジエン系ゴムポリマーの分子鎖にアルコキシシリル基が組み込まれる。
式(B1)〜(B4)において、R1は上記式(A)のR1に由来する炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシアルキル基を示す。ここで、例えば、式(5)のR4が水素原子である末端構造を持つポリマーとアルデヒド基を有する式(A)で表される官能性分子とが結合する場合、アルドール縮合反応により式(B3)で表される結合構造となり、これから水が脱離することにより式(B4)で表される結合構造となる。R4がメチル基である末端構造を持つポリマー断片とアルデヒド基を有する式(A)で表される官能性分子とが結合する場合、アルドール縮合反応により式(B2)で表される結合構造となり、これから水が脱離することにより式(B1)で表される結合構造となる。これらの中でも、通常は式(B1)で表される基が主として形成される。そのため、一実施形態において、変性ジエン系ゴムポリマーは、少なくとも式(B1)で表される基を有するが、式(B2)〜(B4)で表される基のいずれか一種以上を更に有してもよい。
式(A)のnが1のときは、上記式(B1)〜(B4)に示された結合構造は分子末端のみに形成され、具体的には、次式(C1)〜(C4)で表される末端基が形成される。
式(C1)〜(C4)において、R
1、R
2、R
3、m、n及びlは、式(A)の、R
1、R
2、R
3、m、n及びlとそれぞれと同じである。これらの中でも、式(C1)が主として形成され、一実施形態としてmが3の場合、変性ジエン系ゴムポリマーは、次式(C5)で表される構造を含む。式(C5)中、R
1は、式(A)のR
1と同じであり、波線で表した部分がジエン系ポリマー鎖である。
式(A)のnが2のときは、上記式(B1)〜(B4)に示された結合構造は、主として連結基として主鎖中に形成される。但し、上記式(C1)〜(C4)のように分子末端に形成されてもよい。式(B1)〜(B4)のうち主として形成される式(B1)で表される構造は、具体的には次式(F1)で表される連結基を形成する。そのため、この場合、変性ジエン系ゴムポリマーは、ジエン系ポリマー鎖が式(F1)で表される連結基を介して直接連結された構造を持つ。なお、式(F1)中、R
1及びR
3は、式(A)のR
1及びR
3とそれぞれと同じであり、pは1又は2の数を示す。
式(A)のnが3のときは、上記式(B1)〜(B4)に示された結合構造は、主として架橋点として主鎖中に形成される。但し、上記式(C1)〜(C4)のように分子末端に形成されてもよい。式(B1)〜(B4)のうち主として形成される式(B1)で表される構造は、具体的には次式(G1)で表される分岐状の連結基を形成する。そのため、この場合、変性ジエン系ゴムポリマーは、ジエン系ポリマー鎖が式(G1)で表される連結基を中心として三方に直接連結された構造を持つ。なお、式(G1)中、R
1は、式(A)のR
1と同じである。
結合反応させる際の反応系のpHは、反応系を塩基性にする場合、7より大きければよく、7.5〜13であることが好ましく、より好ましくは8〜10である。一方、反応系を酸性にする場合、7より小さければよく、4〜6.8であることが好ましく、より好ましくは5〜6である。pHの調整は、反応系に酸や塩基を加えることにより行うことができる。特に限定するものではないが、例えば、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、又は、リン酸などが挙げられ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
結合反応に際しては、pHの調節に用いられる酸や塩基が結合反応の触媒となり、さらに反応を調節するための触媒として、例えばピロリジン−2−カルボン酸を用いることができる。
次に、本実施形態では、上記結合反応により得られた変性ジエン系ゴムポリマーを含む系に、シランモノマーを添加し縮合重合させてシリカを生成させる。すなわち、本実施形態では、ジエン系ゴムポリマーの分子鎖中にアルコキシシリル基(Si−OR1)が導入されているので、これを用いてシランモノマーを分子内縮合反応(即ち、ゴムポリマー中でのin-situ縮合重合)させることにより、ゴムポリマーの分子鎖に結合させた状態でシリカ粒子を生成する。
シランモノマーとしては、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、又はこれらを組み合わせて用いることができる。このようにケイ素原子に結合したアルコキシ基を3つ以上有するものを用いることにより、重縮合反応による三次元的なつながりを持たせることが可能となる。これらのケイ素原子に結合したアルコキシ基やアルキル基の炭素数は、それぞれ4以下であることが好ましい。従って、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが好ましいものとして挙げられる。シランモノマーとしては、特に、反応性やコストの面から、テトラエトキシシラン(TEOS、Si(OC2H5)4)、テトラメトキシシラン(TMOS、Si(OCH3)4)が好ましい。
上記in-situ縮合重合は、結合反応後の変性ジエン系ゴムポリマーを含む水系溶媒(水系エマルション)に、上記シランモノマーとともに触媒を添加することにより行うことができる。触媒としては、塩酸等の酸性触媒や、アンモニア、エチレンジアミン等の塩基性触媒が用いられ、特にアンモニア等の塩基性触媒が好ましい。シランモノマー及び触媒を添加混合した後、混合物を撹拌しながら加熱することにより、アルコキシシランを加水分解及び重縮合させることができ、シリカ粒子を生成することができる。
例えば、次式(C6)に示された末端構造を持つ変性ジエン系ゴムポリマーの場合(式中、Etはエトキシ基を示す。)、その末端のアルコキシシリル基(Si−OEt)と、テトラエトキシシランとの間で縮合反応が生じて、シロキサン結合が形成されるとともに、テトラエトキシシラン同士が徐々に縮合して、シリカ(SiO
2)の三次元的なつながりが形成される。これにより、変性ジエン系ゴムポリマーのケイ素原子にシロキサン結合(−O−Si)を介して結合された状態にシリカが形成される。
以上のようにin-situ縮合重合によりシリカを生成した後、変性ジエン系ゴムポリマーをシリカとともに凝固させ、脱水乾燥することにより、ゴム−シリカ複合体が得られる。
本実施形態によれば、ジエン系ゴムポリマーを解離結合させることにより、上記式(1)〜(4)で表される連結基が主鎖中に導入され、構造を変化させた変性ポリマーが得られる。すなわち、実施形態に係る変性ジエン系ゴムポリマーは、上記式(1)〜(4)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を分子内に有し、ジエン系ポリマー鎖が該連結基を介して直接連結された構造を有してもよい。従って、一実施形態に係る変性ジエン系ゴムポリマーは、式(1)〜(4)で表されるいずれかの連結基をXとし、ジエン系ポリマー鎖をYとして、―Y−X−Y−で表される構造を分子内に含む。
また、本実施形態では、結合反応の時にアルコキシシリル基を持つ官能性分子を併用しているので、変性ジエン系ゴムポリマーは、上記式(B1)〜(B4)で表される基の少なくとも1種を分子内に有する。式(B1)〜(B4)で表される基は、上記のように変性ジエン系ゴムポリマーの分子末端又は分子鎖中に形成され、分子鎖中に形成される場合、式(1)〜(4)と同様に、ジエン系ポリマー鎖を連結する連結基を構成する。
本実施形態では、上記in-situ縮合重合により、変性ジエン系ゴムポリマーに導入されたアルコキシシリル基を起点としてシリカ粒子が生成されるので、ゴム−シリカ複合体中における変性ジエン系ゴムポリマーは、下記式(D1)〜(D4)で表される基の少なくとも1種を分子内に有し、式中のケイ素原子にシロキサン結合を介してシリカが結合した状態(即ち、Si−O−(SiO
2)
k。ここでkは1以上の数である。)となる。ここで、式(D1)〜(D4)はそれぞれ順に式(B1)〜(B4)に対応しており、そのため、式(D1)で表される基が主として形成される。従って、一実施形態において、変性ジエン系ゴムポリマーは、少なくとも式(D1)で表される基を有するが、式(D2)〜(D4)で表される基のいずれか一種以上を更に有してもよい。なお、式中のSi−O−以外の結合部分については、同様にシロキサン結合を介してシリカが結合してもよく、上記R
3で表されるアルキル基が結合してもよく、アルドール縮合による結合構造を介してジエン系ポリマー鎖が結合してもよい。
より詳細には、式(A)のnが1のときは、ゴム−シリカ複合体中における変性ジエン系ゴムポリマーは、下記式(E1)〜(E4)で表される基の少なくとも1種を少なくとも一方の分子末端に有し、該分子末端のケイ素原子にシロキサン結合を介してシリカが結合した状態となる。これらの中でも、式(E1)で表される基が主として含まれる。
式(E1)〜(E4)において、R2、R3、m、n及びlは、式(A)の、R2、R3、m、n及びlとそれぞれと同じである。
式(A)のnが2のときは、上記式(E1)〜(E4)に加えて、式(D1)〜(D4)に示された構造が連結基として主鎖中にも形成され、連結基としては上記式(F1)に対応する基が主に形成される。そのため、この場合、ゴム−シリカ複合体中における変性ジエン系ゴムポリマーは、式(F1)におけるSi−(OR1)pをSi−(O−)pとした構造を含む。また、式(A)のnが3のときは、上記式(E1)〜(E4)及び上記連結基としての構造に加えて、式(D1)〜(D4)に示された構造が架橋点として主鎖中に形成され、架橋点としては上記式(G1)に対応する基が主に形成される。そのため、この場合、ゴム−シリカ複合体中における変性ジエン系ゴムポリマーは、式(G1)におけるSi−OR1をSi−O−とした構造を含む。
ここで、ジエン系ポリマー鎖とは、上記変性対象であるジエン系ゴムポリマーの分子鎖のうちの一部の分子鎖である。例えば、共役ジエン化合物の単独重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、該共役ジエン化合物からなる構成ユニットをA1として、−(A1)n−で表されるA1の繰り返し構造である(nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、二元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA1及びA2として(A1とA2の少なくとも一方は共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしてはスチレンなどのビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A1)n−(A2)m−で表されるA1及びA2の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,mはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、三元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA1、A2及びA3として(A1とA2とA3の少なくとも1つは共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A1)n−(A2)m−(A3)p−で表されるA1、A2及びA3の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,m,pはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。四元共重合体以上も同様である。
より具体的には、例えば、変性対象として天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いた場合、ジエン系ポリマー鎖は、イソプレンユニットの繰り返し構造からなる、下記式(8)で表されるポリイソプレン鎖である。変性対象としてスチレンブタジエンゴムを用いた場合、ジエン系ポリマー鎖は、下記式(9)で表されるスチレンブタジエンランダム共重合体鎖である。変性対象としてブタジエンゴムを用いた場合、ジエン系ポリマー鎖は、下記式(10)で表されるポリブタジエン鎖である。これらの式中、n,mはそれぞれ独立に1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である。
一実施形態に係る変性ジエン系ゴムポリマーにおいて、式(1)〜(4)の連結基は、1分子中に1つ以上含まれ、通常は1分子中に複数の連結基が含まれる。複数含まれる場合、式(1)〜(4)で表される連結基のいずれか1種を複数含んでもよく、2種以上のものが含まれてもよい。連結基の含有率は、特に限定されないが、式(1)〜(4)の連結基の合計で、0.001〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15モル%、更に好ましくは0.5〜10モル%である。ここで、連結基の含有率は、変性ジエン系ゴムポリマーを構成する全構成ユニットのモル数に対する連結基のモル数の比率である。例えば、天然ゴムの場合、変性ポリマーの全イソプレンユニットと連結基と式(D1)〜(D4)で表される基のモル数の合計に対する連結基のモル数の比率である。
式(1)〜(4)で表される各連結基の含有率は特に限定されないが、それぞれ25モル%以下(即ち、0〜25モル%)であることが好ましい。例えば、変性対象として天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いた場合、通常、式(1)〜(4)で表される連結基が全て生成され得るが、式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル基からなる連結基が主として含まれ、その場合、式(1)で表される連結基の含有率は0.001〜20モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10モル%、更に好ましくは0.5〜5モル%である。
本実施形態に係る変性ジエン系ゴムポリマーには、式(D1)〜(D4)で表される基が1分子中に1つ以上含まれる。複数含まれる場合、式(D1)〜(D4)で表される基のいずれか1種を複数含んでもよく、2種以上のものが含まれてもよい。これらの基の含有率(即ち、シリル基の導入率)は、特に限定されないが、式(D1)〜(D4)で表される基の含有量の合計で0.01〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5モル%であり、更に好ましくは0.1〜3.5モル%である。また、式(D1)〜(D4)で表される各基の含有率は特に限定されないが、それぞれ10モル%以下であることが好ましく、また、主成分である式(D1)で表される基の含有率が0.01〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5モル%であり、更に好ましくは0.1〜3.5モル%である。ここで、式(D1)〜(D4)で表される基の含有率は、変性ジエン系ゴムポリマーを構成する全構成ユニットのモル数に対する式(D1)〜(D4)で表される基のモル数の比率である。なお、式(D1)〜(D4)で表される基の含有率は、式(B1)〜式(B4)で表される含有率の含有率と等しい。
本実施形態に係るゴム−シリカ複合体において、シランモノマーの縮合重合により生成されたシリカの含有量は、特に限定されないが、変性ジエン系ゴムポリマー100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜25質量部であり、更に好ましくは5〜15質量部である。
実施形態に係る変性ジエン系ゴムポリマーは、常温(23℃)で固形状であることが好ましい。そのため、変性ジエン系ゴムポリマーの数平均分子量は、6万以上であることが好ましく、より好ましくは6万〜100万であり、更に好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。変性ジエン系ゴムポリマーの分子量は、上記の通り再結合させることにより、元のポリマーと同等に設定することが好ましい。これにより、分子量を低下させず、従って物性への悪影響を回避しながら、ポリマーの主鎖や末端に官能基を導入することができる。もちろん、元のポリマーよりも分子量が小さなものを得てもよい。なお、変性ジエン系ゴムポリマーの重量平均分子量は、特に限定しないが、7万以上であることが好ましく、より好ましくは10万〜180万である。
本実施形態によれば、上記のように、主鎖の二重結合を酸化開裂させることによりポリマーを分解して分子量を一旦低下させた後、反応系の酸塩基性を変化させて再結合させることにより変性ジエン系ゴムポリマーを生成するので、ポリマーの単分散化により、より均一な構造に収束させることができる。すなわち、変性ジエン系ゴムポリマーの分子量分布を元のポリマーの分子量分布よりも小さくすることができる。これは、酸化開裂により分解したポリマー断片はより短いものほど反応性が高く、再結合しやすいので、短いポリマーが少なくなることで分子量の均一化が図られると考えられる。
また、本実施形態によれば、二重結合を解離させる薬剤である酸化剤の種類や量、反応時間などを調整することにより酸化開裂させる反応を制御し、また、再結合させる際のpHや触媒、反応時間などを調整することにより結合反応を制御でき、これらの制御によって変性ジエン系ゴムポリマーの分子量を制御することができる。そのため、変性ジエン系ゴムポリマーの数平均分子量を元のポリマーと同等に設定することができ、また元のポリマーよりも低く設定することもできる。
また、ポリマー主鎖を分解し再結合させる際に、主鎖とは異なる構造として上記連結基が挿入され、主鎖構造のセグメントの結合点が官能基化する。すなわち、反応性の高い構造が分子主鎖中に導入され、元のポリマーの特性を変化させることができる。このように、本実施形態の方法は、グラフトでも直接付加でもなく開環でもないポリマーの主鎖構造そのものを変化させるものであり、従来の変性方法とは明確に異なり、主鎖構造に簡易的に官能基を導入することができる。
また、上記ジエン系ゴムポリマーの解離結合に際し、アルコキシシリル基を構造に持つ官能性分子を反応系中に含ませておくことにより、ジエン系ゴムポリマーの末端又は分子鎖中にアルコキシシリル基を容易に組み込むことができる。そして、このアルコキシシリル基を導入した変性ジエン系ゴムポリマーに対してシランモノマーを縮合重合させることにより、アルコキシシリル基を起点としたシリカ粒子の生成が可能となる。すなわち、ジエン系ゴムポリマーの分子鎖と結合した状態でシリカが生成されるので、ジエン系ゴムポリマーに対するシリカの分散性を改良することができる。
本実施形態に係るゴム−シリカ複合体は、各種ゴム組成物に用いることができる。すなわち、ゴム−シリカ複合体中の変性ジエン系ゴムポリマーをゴム成分とし、該複合体中のシリカをフィラー成分として、該複合体にその他の添加剤を添加してゴム組成物を調製することができる。ゴム組成物に配合するゴム成分としては、ゴム−シリカ複合体として配合する変性ジエン系ゴムポリマー単独でもよく、他のジエン系ゴムとのブレンドでもよい。また、ゴム組成物には、ゴム−シリカ複合体に加えて、シリカやカーボンブラックなどの追加のフィラーを配合してもよい。上記その他の添加剤としては、例えば、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤が挙げられる。ゴム組成物の用途としても特に限定されず、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。例えば、タイヤ用ゴム組成物に用いた場合、シリカの分散性を向上させることにより、低燃費性能を向上することができる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた測定方法等は、以下の通りである。
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMn、Mw及びMw/Mnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard×2」)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
[pH]
東亜ディーケーケー(株)製のポータブルpH計「HM−30P型」を用いて測定した。
[官能基の含有率]
NMRにより、式(1)〜(4)の連結基の含有率を測定した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準とし測定した。ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、緩和試薬としてアセチルアセトンクロム塩87mgを加え、NMR10mm管にて測定した。
式(1)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが195ppmにある。式(2)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが205ppmにある。式(3)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが200ppmにある。式(4)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが185ppmにある。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により構造量(モル数)を決定した。なお、式(3)については、末端ケトン(式(5)の構造)が現れる場合、ここのカーボンピーク(200ppm)に重複してしまうので、次の方法で末端ケトン量を定量し、取り除いた。すなわち、1H−NMRによりケトン基に付いたプロトンのピークが9.0ppmにでてくるので、ベースポリマー成分との比により残存量を決定した。
なお、ベースポリマー成分における各ユニットのモル数については、イソプレンユニットでは、二重結合を挟んでメチル基と反対側の炭素及びそれに結合した水素(=CH−)のピーク、即ち13C−NMRによる122ppm、1H−NMRによる5.2ppmに基づいて算出した。
シリル基の含有率については、式(B1)〜(B4)で表される基の含有率を測定した。式(B1)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが129ppmにある。式(B2)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが56ppmにある。式(B3)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが204ppmにある。式(B4)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが132ppmにある。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により各構造の含有率(モル%)を決定した。なお、上記n=2の二官能の場合や、n=3の三官能の場合、2倍量又は3倍量のNMRピーク面積が出るため、2又は3で除算した値を各構造についてのシリル基の含有率とする。
[シリカ含有量]
メトラートレド社製「熱重量測定TGA−DSC1」により、残灰成分量を測定し、該残灰成分量をシリカの含有量として、ゴム−シリカ複合体中のシリカ量(即ち、変性ジエン系ゴムポリマー100質量部に対するシリカの質量部)を測定した。
[比較例1:変性ポリマーAの合成]
変性対象のポリマーとして、天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA−NR」、DRC(Dry Rubber Content)=60質量%)を用いた。この天然ゴムラテックスに含まれる未変性の天然ゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が202万、数平均分子量が51万、分子量分布が4.0であった。
DRC30質量%に調節した上記天然ゴムラテックス中のポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H5IO6)2.0gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルション状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(5)で表される構造を含むポリマー断片が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が10400、数平均分子量が3800、分子量分布が2.7であり、また分解後の反応液のpHは5.1であった。
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で18時間攪拌し反応させた後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ポリマーAを得た。
このように酸化分解した反応系に対し、水酸化ナトリウムを加えて、該反応系を酸性から強制的に塩基性に変化させたことにより、酸化開裂の際に加えた過ヨウ素酸の効果を中和させつつ再結合反応を優先させることができた。そのため、上記式(1)〜(4)で表される連結基を分子内に含む変性天然ゴム(変性ポリマーA)が得られた。なお、ピロリジン−2−カルボン酸を触媒に用いているが、反応を促進させるためのものであり、無くても反応は進む。
得られた変性ポリマーAは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが159万、数平均分子量Mnが25万、分子量分布Mw/Mnが6.4であり、上記連結基の含有量が、式(1)では1.2モル%、式(2)では0.3モル%、式(3)では0.2モル%、式(4)では0.5モル%であり、合計で2.2モル%であった。
[比較例2:変性ポリマーBの合成]
比較例1において天然ゴムの酸化開裂を行った後、得られた反応液にトリビニルエトキシシラン15gを加え、23℃で3時間攪拌して、トリビニルエトキシシランのビニル基の二重結合を酸化分解させた。分解後の反応液のpHは5.1であった。その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で18時間攪拌して再結合反応させた後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ポリマーBを得た。
得られた変性ポリマーBは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが163万、数平均分子量Mnが26万、分子量分布Mw/Mnが6.3であり、上記連結基の含有量が、式(1)では1.2モル%、式(2)では0.1モル%であり、式(3)では0.1モル%であり、式(4)では0.1モル%であった。また、シリル基として式(B1)で表される基(詳細には、主に式(G1))が主として含まれており、シリル基の含有量は、式(B1)では3.1モル%、式(B2)では0.03モル%、式(B3)では0.03モル%、式(B4)では0.07モル%であった。
[実施例1:ゴム−シリカ複合体aの合成]
比較例2において再結合反応を行った後、シランモノマーを添加してin-situ縮合重合を行った。すなわち、比較例2において1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え23℃で18時間攪拌して反応させた後、得られたラテックスをギ酸(10%に水で濃度を薄めたもの)により中和してから、遠心分離機により、ポリマー固形分だけを取り出し、予め水100gにラウリル硫酸ナトリウム1.0gを溶かした水溶液にその固形分50gを再分散させ、テトラエトキシシラン10gと28%アンモニア水溶液10mlを加え、3時間撹拌して反応させた。その後、遠心分離機により、ポリマー固形分(ポリマーに結合したシリカを含む)と、それ以外の成分(ポリマーに結合せず単独で生成したシリカを含む)とを、比重の違いにより分離し、予め水100gにラウリル硫酸ナトリウム1.0gに溶かした水溶液に、得られたポリマー固形分を再分散させてから、メタノール中に沈殿させて、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、ゴム−シリカ複合体aを得た。
ここで、上記遠心分離は、久保田製作所社製の遠心分離機「KUBOTA6800」及び同ローター「RA800」を用いて、8000rpm、30分間の条件で行った。このような遠心分離を行うことで、ポリマーに結合されていないシリカはポリマーから分離されるので、ポリマーに結合したシリカのみを含むゴム−シリカ複合体が得られる。
得られたゴム−シリカ複合体aは、変性ジエン系ゴムポリマーとしては比較例2の変性ポリマーBと同じであり、そのアルコキシシリル基のケイ素原子にシロキサン結合を介して結合したシリカを持つものであった。シリカ量は、表1に示すように、変性ジエン系ゴムポリマー100質量部に対して2.5質量部であった。
[実施例2,3:ゴム−シリカ複合体b,cの合成]
再結合反応後のin-situ縮合重合において遠心分離、再分散、反応の過程を実施例2では2回、実施例3では3回行い、その他は実施例1と同様にして、ゴム−シリカ複合体b,cを得た。得られたゴム−シリカ複合体b,cのシリカ量は、表1に示すように、変性ジエン系ゴムポリマー100質量部に対してそれぞれ5.8質量部と11.2質量部であった。
[比較例3:変性ポリマーCの合成]
比較例1において天然ゴムの酸化開裂を行った後、得られた反応液にビニルトリエトキシシラン10gを加え、23℃で3時間攪拌して、ビニルトリエトキシシランのビニル基の二重結合を酸化分解させた。分解後の反応液のpHは4.8であった。その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で18時間攪拌して再結合反応させた後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ポリマーCを得た。
得られた変性ポリマーCは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが141万、数平均分子量Mnが19万、分子量分布Mw/Mnが7.4であり、上記連結基の含有量が、式(1)では1.0モル%、式(2)では0.1モル%、式(3)では0.2モル%、(4)では0.2モル%であった。また、シリル基として式(B1)で表される基(詳細には、式(C5)でR1=エチル基)が主として含まれており、シリル基の含有量は、式(B1)では0.4モル%、式(B2)では0.0モル%、式(B3)では0.0モル%、式(B4)では0.1モル%であった。
[実施例4:ゴム−シリカ複合体dの合成]
比較例3において再結合反応を行った後、シランモノマーを添加してin-situ縮合重合を行った。すなわち、比較例3において1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え23℃で18時間攪拌して反応させた後、得られたラテックスをギ酸(10%に水で濃度を薄めたもの)により中和してから、実施例1と同じ遠心分離、再分散、及びテトラエトキシシランを用いた反応を3回行ってから、実施例1と同様に、遠心分離によりポリマーに結合したシリカを含むポリマー固形分を取り出し、再分散後に、メタノール中に沈殿させ、洗浄し乾燥して、ゴム−シリカ複合体dを得た。
得られたゴム−シリカ複合体dは、変性ジエン系ゴムポリマーとしては比較例3の変性ポリマーCと同じであり、そのアルコキシシリル基のケイ素原子にシロキサン結合を介して結合したシリカを持つものであった。シリカ量は、表1に示すように、変性ジエン系ゴムポリマー100質量部に対して5.2質量部であった。
[ゴム組成物の調製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分又はゴム−シリカ複合体に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。ゴム成分及びゴム−シリカ複合体を除く、表2中の各成分の詳細は、以下の通りである。なお、未変性ゴムは、比較例1で用いた天然ゴムラテックスをそのまま凝固乾燥させて得られたものである。
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、低発熱性能(tanδ(60℃))を評価するとともに、引張特性を評価した。各評価方法は次の通りである。
・低発熱性能(tanδ(60℃)):USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度60℃の条件で損失係数tanδを測定し、その逆数について、各コントロールの値を100とした指数で表示した。コントロールについては、シリカ量毎に、変性ポリマーAを用いた比較試験例2,5,8、及び変性ポリマーCを用いた比較試験例10を、それぞれのコントロールとした。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性能の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性能(転がり抵抗性能)に優れることを示す。
・引張特性:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、各コントロールの値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく引張特性に優れる。
結果は、表2に示す通りである。比較試験例2,5,8は、比較例1の変性ポリマーAを用いたものであり、未変性ゴムを用いた対応する比較試験例1,4,7に対して、低発熱性能に優れていた。比較試験例3,6,9は、更にシリル変性した変性ポリマーBを用いたものであり、それぞれ対応する比較試験例2,5,8に対して、低発熱性能に更なる改善効果が見られた。該シリル変性ポリマーBに対し更にin-situ縮合重合によりシリカを生成したゴム−シリカ複合体を用いた試験例1〜3であると、それぞれ対応する比較試験例3,6,9に対して低発熱性能の更なる改善効果が見られた。また、比較例3の変性ポリマーCを用いた比較試験例10に対し、該変性ポリマーCにシリカを生成したゴム−シリカ複合体を用いた試験例4であると、低発熱性能の改善効果が見られた。