JP6087177B2 - シリカマスターバッチ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、シリカとポリマーを含有するシリカマスターバッチ、それを用いたゴム組成物、及び空気入りタイヤに関するものである。
天然ゴムなどの天然のポリマーや、合成されたポリマーそのものの特性を変化させる技術として、末端構造変性や、側鎖に官能基を直接付加したり、ポリマーをグラフトさせて官能基を付加させたりする技術が用いられている(例えば、特許文献1〜6参照)。
かかる変性ポリマーは、例えば、ゴム組成物において、その物性を改良するために用いられ、シリカなどのフィラーとの相溶性を向上させることが求められている。ゴムなどのポリマー中におけるシリカの分散性を改良するためには、天然ゴムラテックスなどのポリマーエマルションにシリカスラリーを混合し、凝固乾燥させることによりシリカマスターバッチを製造する手法が用いられている(例えば、特許文献7,8参照)。かかるマスターバッチは、ポリマーとシリカを水中で混合(即ち、ウェット混合)するものであり、ウェットマスターバッチと称される。しかしながら、シリカのような表面に親水性のシラノール基を有するものは、疎水性のゴムポリマーへの取り込みが不十分となる場合がある。そのため、シリカ表面を疎水化することにより、取り込み性を向上することが行われているが、ウェット混合では疎水化されたシリカの水への分散性が悪くなるので、取り込まれたシリカがゴムポリマー中で凝集して存在しやすく、ゴム組成物の混練時に均一性を損なうおそれがある。
ところで、下記特許文献9には、接着剤、粘着剤等として有用な解重合天然ゴムについて開示されている。この文献では、有機溶剤に溶解した脱蛋白天然ゴムを、金属系触媒の存在下で空気酸化することにより解重合させて、数平均分子量が2000〜50000の液状の解重合天然ゴムを製造している。この文献には、主鎖が空気酸化によって分解されることで、一方の末端にカルボニル基を他方の末端にホルミル基を持つ分子鎖を生成した後、ホルミル基がアルドール縮合によって再結合する点が開示されている。しかしながら、この文献において解重合は有機溶剤の溶液中で行われており、分解したポリマーを含む系を酸性から塩基性、又は塩基性から酸性に変化させることにより再結合させる点は開示されていない。また、この文献は、天然ゴムを低分子量化した液状の解重合天然ゴムを得ることを目的としたものであり、補強剤としてのシリカとウェット混合することについても示唆されていない。
特開昭62−039644号公報 特開2000−248014号公報 特開2005−232261号公報 特開2005−041960号公報 特開2004−359716号公報 特開2004−359773号公報 特開2005−179436号公報 国際公開第2010/011345号 特開平08−081505号公報
本発明者は、先に特願2012−27374号及び特願2012−27376号において、主鎖構造に簡易的に官能基を導入することができる新規なポリマーの変性方法及び変性したポリマーを含むゴム組成物を提案している。本発明は、かかる変性方法を応用して、変性ポリマーの製造と同時にシリカをマスターバッチ化することによりシリカの分散性を向上させる、新規なシリカマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係るシリカマスターバッチの製造方法は、上記の課題を解決するために、炭素−炭素二重結合を主鎖に持つポリマーを、炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることにより分解して、分子量の低下したポリマー断片を含む水系エマルションを形成し、このポリマー断片を含む水系エマルションと、下記式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子と、シリカとを混合して混合物となし、この混合物を酸性の場合は塩基性に、塩基性の場合は酸性になるように酸塩基性を変化させることにより上記ポリマー断片を結合させて、少なくとも一方の分子末端にアルコキシシリル基が導入された変性ポリマーとシリカとを含むシリカマスターバッチを得るものである。
Figure 0006087177
但し、式(A)において、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、Rはアルデヒド基又はカルボニル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは1〜3の数を示し、nは1又は2の数を示し、lは0〜2の数を示す。
上記において、変性ポリマーは、下記式(B)で表される末端基を少なくとも一方の分子末端に有するものとすることができる。
Figure 0006087177
但し、式(B)において、R、R、R、m、n及びlは、式(A)の、R、R、R、m、n及びlとそれぞれと同じである。
本発明のゴム組成物の製造方法は、上記製造方法により得られたシリカマスターバッチを用いるものとし、本発明の空気入りタイヤの製造方法はそのゴム組成物を用いものとする。
本発明によれば、主鎖の二重結合を酸化開裂させることによりポリマーを分解して分子量を一旦低下させた後、分解したポリマーと下記式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とを含む系を、酸性を塩基性に、又は塩基性を酸性にすることにより、分解したポリマーの分子末端にアルコキシシリル基を容易に組み込むことができる。これにより得られる変性ポリマーは、水中に存在している構造と乾燥時の構造とが異なり、水中において水酸基で存在する構造が乾燥時に脱水反応によりカルボニル基に変化する。このことを利用し、ポリマーの分解後にシリカと混合し、結合反応の段階で反応系中にシリカを存在させておくことにより、シリカ表面の親水基であるシラノール基と変性ポリマーの水酸基とが水素結合しやすくなる。そのため、変性ポリマー中にシリカが取り込まれやすく、シリカの分散性が向上したマスターバッチを得ることができる。
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
本実施形態に係るシリカマスターバッチの製造方法は、炭素−炭素二重結合を主鎖に持つポリマーを、この二重結合を酸化開裂させることで分解した後、分解したポリマー断片を含む反応系と式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とシリカを混合し、この反応系の酸塩基性を変化させることによりポリマー断片を結合させて構造を変化させた変性ポリマーを生成させ、この変性ポリマーとシリカを含むシリカマスターバッチを得るものである。
本実施形態において、変性対象となるポリマーとしては、主鎖の繰り返しユニットに炭素−炭素二重結合を持つポリマーを用いることができる。このようなポリマーとしては、各種ジエン系ポリマー、好ましくはジエン系ゴムポリマーが挙げられ、その他に、不飽和ポリエステル、不飽和ポリオール、不飽和ポリウレタン、ポリアルキン化合物、及び不飽和脂肪酸等が挙げられる。
ジエン系ポリマーとは、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、又は、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン化合物をモノマーの少なくとも一部として用いて得られるポリマーである。これらの共役ジエン化合物は、いずれか1種で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。ジエン系ポリマーには、共役ジエン化合物と共役ジエン化合物以外の他のモノマーとの共重合体も含まれる。他のモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種ビニル化合物が挙げられる。これらのビニル化合物は、いずれか1種でも2種以上を併用してもよい。
ジエン系ゴムポリマーとしては、より詳細には、分子内にイソプレンユニット及び/又はブタジエンユニットを有する各種ゴムポリマーが好ましく、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム等が挙げられる。これらの中でも、天然ゴム、合成イソプレンゴムを用いることが好ましい。
変性対象となる上記ポリマーとしては、数平均分子量が6万以上のものを用いることが好ましい。本実施形態では、常温(23℃)で固形状のポリマーを対象とするためである。例えば、ゴムポリマーをそのまま材料として加工する上で、常温において力を加えない状態で塑性変形しないためには、数平均分子量が6万以上であることが好ましい。ここで、固形状とは、流動性のない状態である。ポリマーの数平均分子量は、6万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。
変性対象となる上記ポリマーとしては、溶媒に溶解したものを用いることができる。好ましくは、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちラテックスを用いることである。水系エマルションを用いることにより、ポリマーを分解させた後に、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させることで再結合反応を生じさせることができる。水系エマルションの濃度(ポリマーの固形分濃度)は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。固形分濃度が高くなりすぎるとエマルション安定性が低下してしまい、反応場のpH変動に対してミセルが壊れやすくなり、反応に適さない。逆に固形分濃度が小さすぎる場合は反応速度が遅くなり、実用性に劣る。
ポリマーの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、上記ポリマーの水系エマルションに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、又は、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。過ヨウ素酸であれば、反応系を制御しやすく、また、水溶性の塩が生成されるので、変性ポリマーを凝固乾燥させる際に、水中にとどまらせることができ、変性ポリマーへの残留が少ない。なお、酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の、塩化物や有機化合物との塩や錯体などの、金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、この金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
上記酸化開裂によりポリマーが分解し、末端にカルボニル基(>C=O)やアルデヒド基(−CHO)を持つポリマー(即ち、ポリマー断片)が得られる。一実施形態として、このポリマー断片は、下記式(1)で表される構造を末端に持つ。
Figure 0006087177
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基であり、イソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではRがメチル基、他方の開裂末端ではRが水素原子となり、ブタジエンユニットが開裂した場合、開裂末端はともにRが水素原子となる。より詳細には、分解したポリマーは、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(1)で表される構造を持ち、すなわち、下記式(7)及び(8)に示すように、ジエン系ポリマー鎖の一方の末端又は両末端に、式(1)で表される基が直接結合したポリマーが生成される。
Figure 0006087177
式(7)及び(8)において、Rは水素原子又はメチル基であり、波線で表した部分がジエン系ポリマー鎖である。例えば、天然ゴムを分解した場合、波線で表した部分はイソプレンユニットの繰り返し構造からなるポリイソプレン鎖である。
上記酸化開裂によってポリマーを分解することにより、分子量が低下する。分解後のポリマーの数平均分子量は特に限定されないが、3百〜50万であることが好ましく、より好ましくは5百〜10万であり、更に好ましくは1千〜5万である。なお、分解後の分子量の大きさにより、再結合後の官能基量を調節することができるが、分解時の分子量が小さすぎると、同一分子内での結合反応が生じやすくなる。
次に、ポリマー断片を含む反応系、即ち水系エマルションに式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とシリカを加えて混合する。シリカは、例えばシリカスラリーとして混合することが好ましい。ここで、シリカスラリーとは、シリカを水中に分散させてなるシリカの水分散液である。
シリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)でも乾式シリカ(無水ケイ酸)でもよいが、粒子表面のシラノール基量が多い湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)80〜300m/gであることが好ましく、より好ましくは150〜250m/gであり、更に好ましくは180〜230m/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠して測定される。
シリカスラリーの調製は、公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ハイシアーミキサー、コロイドミルなどの公知の分散機を用いて、シリカを水中に分散させることができる。シリカスラリー中におけるシリカの濃度は特に限定されず、例えば1〜20質量%とすることができる。なお、シリカスラリーには、界面活性剤などの各種添加剤が含まれていてもよい。
ポリマー断片を含む水系エマルション(即ち、ポリマーエマルション)と式(A)で表される官能性分子とシリカスラリーとの混合は、公知の混合機を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、ホモミキサー中でシリカスラリーを攪拌しながらポリマーエマルションを滴下する方法、ホモミキサー中でポリマーエマルションを攪拌しながらシリカスラリーを滴下する方法などが挙げられる。
このようにして得られる混合液において、ポリマー断片とシリカの配合比は特に限定されないが、ポリマー断片100質量部に対してシリカが5〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜100質量部である。
上記のようにしてポリマーを分解させた後、分解したポリマーと次式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とを含む反応系を、塩基性の場合は酸性に、酸性の場合は塩基性にすることにより結合させる。
Figure 0006087177
但し、式(A)において、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、Rはアルデヒド基又はカルボニル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは1〜3の数を示し、nは1又は2の数を示し、lは0〜2の数を示す。mとnとlの合計は4である。カルボニル基の例としては、カルボキシル基、炭素数1〜5のアルキル基を有するケト基(−C(=O)R'、R'の炭素数:1〜5)、炭素数1〜5のアルキル基を有するエステル基(−C(=O)OR"、R"の炭素数:1〜5)等が挙げられる。
式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子は、ビニル基を少なくとも1つ有する官能性分子の炭素−炭素二重結合を酸化開裂させて得ることができる。この酸化開裂反応は上記ポリマーの酸化開裂反応に準じて行うことができ、ポリマーの酸化開裂反応と同時に行うこともできる。ビニル基を少なくとも1つ有する官能性分子の好ましい具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシエチルビニルシラン、ジエトキシエチルビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、メトキシジエチルビニルシラン、エトキシジエチルビニルシラン、ジエトキシプロピルビニルシラン、ジメトキシプロピルビニルシラン、メトキシジプロピルビニルシラン、エトキシジプロピルビニルシラン、ジメトキシジビニルシラン、ジエトキシジビニルシラン、メトキシメチルジビニルシラン、エトキシエチルジビニルシラン、メトキシエチルジビニルシラン、エトキシメチルジビニルシラン、メトキシプロピルジビニルシラン、エトキシプロピルジビニルシラン、トリビニルメトキシシラン、トリビニルエトキシシラン、トリビニルプロポキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジビニルシラン、ジエチルジビニルシラン、ジプロピルジメチルシラン、ジブチルジビニルシラン、ジペンチルジビニルシラン、ジヘキシルジビニルシラン、ジへプチルジビニルシラン、ジオクチルジビニルシラン、ジノニルジビニルシラン、ジノニルジビニルシラン、ジデシルジビニルシラン、メチルエチルジビニルシラン、メチルプロピルジビニルシラン、メチルブチルジビニルシラン、メチルペンチルジビニルシラン、メチルヘキシルジビニルシラン、メチルヘプチルジビニルシラン、メチルオクチルジビニルシラン、メチルノニルジビニルシラン、メチルデシルジビニルシラン、エチルプロピルジビニルシラン、エチルブチルジビニルシラン、エチルペンチルジビニルシラン、エチルヘキシルジビニルシラン、エチルヘプチルジビニルシラン、エチルオクチルジビニルシラン、エチルノニルジビニルシラン、エチルデシルジビニルシラン、プロピルブチルジビニルシラン、プロピルペンチルジビニルシラン、プロピルヘキシルジビニルシラン、プロピルヘプチルジビニルシラン、プロピルオクチルジビニルシラン、プロピルノニルジビニルシラン、プロピルデシルジビニルシラン、ブチルペンチルジビニルシラン、ブチルヘキシルジビニルシラン、ブチルヘプチルジビニルシラン、ブチルオクチルジビニルシラン、ブチルノニルジビニルシラン、ブチルデシルジビニルシラン、ペンチルヘキシルジビニルシラン、ペンチルヘプチルジビニルシラン、ペンチルオクチルジビニルシラン、ペンチルノニルジビニルシラン、ペンチルデシルジビニルシラン、ヘキシルヘプチルジビニルシラン、ヘキシルオクチルジビニルシラン、ヘキシルノニルジビニルシラン、ヘキシルデシルジビニルシラン、ヘプチルオクチルジビニルシラン、ヘプチルノニルジビニルシラン、ヘプチルデシルジビニルシラン、オクチルノニルジビニルシラン、オクチルデシルジビニルシラン、ノニルデシルジビニルシラン、トリビニルエトキシシラン、トリビニルメトキシシラン、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリビニルシクロトリシラザン、トリビニルシラン(オルト、メタ、パラの位置異性体、ノルマル、イソ、ターシャル等の構造異性体を含む)等が挙げられる。
上記式(1)の構造は2種類の互変異性をとり、元の炭素−炭素二重結合構造に結合するものと、下記式(2)〜(6)で表される結合構造を形成するものとに分かれる。本実施形態では、反応場のpHを制御することにより、アルドール縮合反応を優先させて、式(2)〜(6)で表される結合構造を含むポリマーを生成することができる。詳細には、反応系、特に水系エマルションの液中には安定化のためpH調節されているものがあり、分解に使用する方法や薬品の種類や濃度により、分解時のpHが酸性か塩基性のどちらかに寄る。そのため、開裂とは逆反応である結合反応が優先的に進行するように、分解時の反応系が酸性になっている場合には、反応系を塩基性にすることが好ましく、反対に分解時の反応系が塩基性になっている場合には、反応系を酸性にすることが好ましい。
Figure 0006087177
上記式(2)〜(6)において、Rは上記式(A)のRに由来する炭素数1〜10のアルキル基を示す。上記式(A)のnが1のときは、これらの式(2)〜(6)に示された結合構造は分子末端のみに形成され、これらのうち式(2)で表される結合構造は、具体的には次式(B)で表される末端基を形成する。上記式(A)のnが2のときは、これらの式(2)〜(6)に示された結合は分子末端に形成されるとともに主鎖中にも形成される。
Figure 0006087177
但し、式(B)において、R、R、R、m、n及びlは、式(A)の、R、R、R、m、n及びlとそれぞれと同じである。
ここで、Rが水素原子である末端構造を持つポリマーとアルデヒド基を有する式(A)で表される官能性分子とが結合する場合、アルドール縮合反応により式(4)で表される結合構造となり、これから水が脱離することにより式(5)で表される結合構造となる。Rが水素原子である末端構造を持つポリマーとカルボニル基を有する式(A)で表される官能性分子とが結合する場合、アルドール縮合反応により式(3)で表される結合構造となり、これから水が脱離することにより式(2)で表される結合構造となる。アルコキシシリル基同士が結合すると、式(6)で表される結合構造となる。
なお、例えばRがメチル基である末端構造を持つポリマーとカルボニル基を有する式(A)で表される官能性分子とが結合する場合など、上記式(2)〜(6)以外の結合構造が生成される場合もあるが、そのような結合構造は微量であり、式(2)〜(6)の結合構造が主として生成される。
結合反応させる際の反応系、即ち水系エマルションのpHは、反応系を塩基性にする場合、7より大きければよく、7.5〜13であることが好ましく、より好ましくは8〜10である。一方、反応系を酸性にする場合、7より小さければよく、4〜6.8であることが好ましく、より好ましくは5〜6である。pHの調整は、反応系に酸や塩基を加えることにより行うことができる。特に限定するものではないが、例えば、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、又は、リン酸などが挙げられ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
結合反応に際しては、pHを調節するための酸や塩基が結合反応の触媒となり、さらに反応を調節するための触媒としてピロリジン−2−カルボン酸を用いてもよい。
以上のように結合反応させた後、変性ポリマーをシリカとともに凝固させ、脱水乾燥することにより、変性ポリマーとシリカを含むシリカマスターバッチ(ウェットマスターバッチ)が得られる。凝固は、公知の方法を用いて行うことができ、凝固剤を用いてもよい。また、凝固させずに、公知の噴霧乾燥機を用いて、混合液を噴霧乾燥することによりシリカマスターバッチを得てもよい。
本実施形態によれば、上記のように結合反応させることにより、上記式(2)〜(6)で表される結合構造を少なくとも1つ有する変性ポリマーが得られる。すなわち、実施形態に係る変性ポリマーは、上記式(2)〜(6)で表される結合構造の少なくとも1種を分子内に有し、特に式(B)で表される末端基を少なくとも一方の分子末端に有し、ジエン系ポリマー鎖が上記結合構造を介して直接連結された構造を有する。
ここで、ジエン系ポリマー鎖とは、上記変性対象であるジエン系ポリマーの分子鎖のうちの一部の分子鎖である。例えば、共役ジエン化合物の単独重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、その共役ジエン化合物からなる構成ユニットをAとして、−(A−で表されるAの繰り返し構造である(nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、二元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA及びAとして(AとAの少なくとも一方は共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A−(A−で表されるA及びAの繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,mはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、三元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA、A及びAとして(AとAとAの少なくとも1つは共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A−(A−(A−で表されるA、A及びAの繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,m,pはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。四元共重合体以上も同様である。
一実施形態において、変性ポリマーは、上記式(2)〜(6)で表される結合構造のうちの少なくとも1種の結合構造を分子内に有し、下記式(9)で表されるポリイソプレン鎖がその結合構造を介して連結されてなる変性イソプレンゴムであってもよい。
Figure 0006087177
上記変性イソプレンゴムは、変性対象として天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを用いた場合であり、ジエン系ポリマー鎖として、イソプレンユニットの繰り返し構造からなる上記ポリイソプレン鎖を有する。式(9)中、nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である。
上記式(2)〜(6)で表される結合構造は、変性ポリマーの1分子中に1つ以上含まれ、通常は1分子中に複数の結合構造が含まれる。複数含まれる場合、上記式(2)〜(6)で表される結合構造のいずれか1種を複数含んでもよく、2種以上のものが含まれてもよい。アルコキシシリル基の導入率、すなわち変性率は、式(2)〜(6)の結合構造の含有量の合計であり、0.001〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜15モル%、更に好ましくは0.01〜5モル%である。アルコキシシリル基の導入量が少なすぎると導入による分散性向上効果が小さく、一方、多すぎると分子鎖中のゴム弾性を阻害することからゴム状成分含有量低下による物性悪化のおそれが生じる。ここで、結合構造の含有率(変性率)は、変性ポリマーを構成する全構成ユニットのモル数に対する結合構造のモル数の比率であり、例えば、天然ゴムの場合、変性ポリマーの全イソプレンユニットと結合構造のモル数の合計に対する結合構造のモル数の比率である。
例えば、天然ゴムや合成イソプレンゴムの場合(即ち、ジエン系ポリマー鎖がイソプレンユニットを有する場合)、通常、式(2)〜(6)で表される結合構造が全て含まれるが、式(2)で表される結合構造が主として含まれ、その場合、式(2)で表される結合構造の含有率は0.001〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜15モル%、更に好ましくは0.01〜5モル%である。
変性ポリマーの数平均分子量は6万以上であることが好ましく、より好ましくは6万〜100万であり、更に好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜50万である。このように変性ポリマーの分子量は、上記の通り官能性分子を介して再結合させることにより、元のポリマーと同等に設定することが好ましく、これにより、分子量を低下させず、従って物性への悪影響を回避しながら、ポリマーの末端にアルコキシシリル基を導入することができる。もちろん、元のポリマーよりも分子量が小さなものを得てもよい。なお、変性ポリマーの重量平均分子量は、特に限定しないが、7万以上であることが好ましく、より好ましくは10万〜150万であり、更に好ましくは30万〜100万である。
本実施形態によれば、上記のように、主鎖の二重結合を酸化開裂させることによりポリマーを分解して分子量を一旦低下させた後、分解したポリマーと下記式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とを含む系の酸塩基性を変化させることにより、分解したポリマーと官能性分子とを結合させて、少なくとも分子末端にアルコキシシリル基が導入された変性ポリマーを生成するので、ポリマーの単分散化により、より均一な構造に収束させることができる。すなわち、変性ポリマーの分子量分布を元のポリマーの分子量分布よりも小さくすることができる。これは、酸化開裂により分解したポリマーはより短いものほど反応性が高く、結合しやすいので、短いポリマーが少なくなることで分子量の均一化が図られると考えられる。
また、本実施形態によれば、二重結合を解離させる薬剤である酸化剤の種類や量、反応時間などを調整することにより酸化開裂させる反応を制御し、また、再結合させる際のpHや触媒、反応時間などを調整することにより結合反応を制御でき、これらの制御によって変性ポリマーの分子量を制御することができる。そのため、変性ポリマーの数平均分子量を元のポリマーと同等に設定することができ、また元のポリマーよりも低く設定することもできる。
本実施形態によれば、上記のようにポリマー断片の結合反応時に式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子とシリカを混合しておくことにより、次のような作用効果が奏される。
上記変性ポリマーは、水中に存在している構造と、乾燥時の構造とが異なり、アルドール付加により得られた水酸基を含む構造は、乾燥することにより脱水反応が起こってカルボニル基に変化する。例えば、アルドール付加により生成された式(3)又は(4)で表される結合構造は、水中ではこれら式(3)又は(4)の構造で存在しているが、乾燥時に脱水反応が起こって式(2)又は(5)の構造の方が多くなる。このように水中ではほとんどのカルボニル基が水酸基として存在しており、それらの水酸基はエマルション中で親水側に存在している。そのため、変性ポリマーの水酸基がシリカ表面の親水基であるシラノール基と水素結合を形成しやすい。よって、乾燥後に変性ポリマーとシリカを混合する場合に比べて、シリカは変性ポリマー中に取り込まれやすく、シリカの分散性を向上することができる。
また、シリカを疎水化して水中に分散させる必要がないので、シリカ表面の親水基の影響により、シリカの水への分散性が高く、そのため、変性ポリマー中に取り込まれたシリカの凝集も抑えることができる。
また、分解後のポリマー断片により形成されるミセル即ち分散相は、結合反応後の変性ポリマーにより形成されるミセル即ち分散相と比べて小さいので、分解後の段階でシリカを混合することにより、シリカが変性ポリマー中に一層取り込まれやすく、シリカの分散性を高めることができる。
本実施形態に係るシリカマスターバッチは、各種ポリマー組成物に用いることができるが、ゴム組成物に用いることが好ましい。すなわち、上記変性ポリマーとして変性ジエン系ゴムを含むシリカ含有ゴムマスターバッチを得て、このゴムマスターバッチを用いてゴム組成物を調製することが好ましい。ゴム組成物の用途としても特に限定されず、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。例えば、タイヤ用ゴム組成物に用いた場合、シリカの分散性を向上させることにより、低燃費性能を向上することができる。
本実施形態に係るゴム組成物は、上記シリカマスターバッチを含むものである。ゴム組成物において、ゴム成分は、シリカマスターバッチ由来の変性ポリマーのみからなるものであってもよいが、シリカマスターバッチから配合されるものとは別に、他のゴムを配合してもよい。他のゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、又は、ハロゲン化ブチルゴム等の各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。ゴム組成物中のゴム成分全体に対するシリカマスターバッチ由来の変性ポリマーの量は、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上とする。
本発明のゴム組成物には、シリカマスターバッチ由来のシリカの他に、追加のフィラーを配合してもよい。追加のフィラーとしては、例えば、カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF級、ISAF級、HAF級、FEF級などの各種グレードのファーネスカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量部である。
本ゴム組成物には、シランカップリング剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することもできる。シランカップリング剤としては、スルフィドシランやメルカプトシランなどが挙げられ、その配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
上記加硫剤としては、硫黄、又は、硫黄含有化合物(例えば、塩化硫黄、二塩化硫黄、高分子多硫化物、モルホリンジスルフィド、及びアルキルフェノールジスルフィド等)が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、又は、グアニジン系などの各種加硫促進剤を用いることができ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練することにより得られる。すなわち、第一混合段階で、シリカマスターバッチに対し、加硫剤及び加硫促進剤を除く各種添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
このようにして得られたゴム組成物は、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、上記ゴム組成物を、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
各測定方法は、以下の通りである。
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMn、Mw及びMw/Mnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard」×2)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
[結合構造の含有率]
NMRにより、結合構造(2)〜(6)の含有率を測定した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準として測定した。ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、緩和試薬としてアセチルアセトンクロム塩87mgを加え、NMR10mm管にて測定した。
式(2)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが129ppmにある。式(3)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが56ppmにある。式(4)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが204ppmにある。式(5)の結合構造については、13C−NMRにおいてケイ素の隣にあるカーボンのピークが132pmにある。式(6)の結合構造については、ケイ素の隣にあるビニル炭素のカーボンピークが124.8ppmにある。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により各構造の含有率(モル%)を決定した。
なお、ベースポリマー成分における各ユニットのモル数については、イソプレンユニットでは、二重結合を挟んでメチル基と反対側の炭素及びそれに結合した水素(=CH−)のピーク、即ち13C−NMRによる122ppmのピークに基づいて算出した。
[pH]
東亜ディーケーケー(株)製のポータブルpH計「HM−30P型」を用いて測定した。
[比較例1:未変性ゴム]
天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA−NR」、DRC(Dry Rubber Content)=60質量%)を、変性せずにそのままメタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、未変性天然ゴムを調製した。得られた未変性ゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が202万、数平均分子量が51万、分子量分布が4.0であった。
[比較例2:未変性ゴムシリカマスターバッチA]
比較例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、水系エマルションとシリカスラリーを混合した。詳細には、シリカとしては、デグサ社製「VN3」(BET比表面積=183m/g)を用いた。シリカを10.5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転/分×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーを得た。このシリカスラリーと、上記ポリマーを含む水系エマルションとを、ポリマー100質量部に対してシリカ10質量部となる割合で混合した。得られた混合液をメタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、未変性変性ゴムとシリカを含む、シリカ含有ゴムマスターバッチ(未変性シリカマスターバッチA)を得た。
得られた未変性シリカマスターバッチAは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ10質量部を含むものである。
[比較例3:未変性シリカマスターバッチB]
比較例2において、ポリマーを含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー100質量部に対してシリカ30質量部となる割合で混合し、その他は比較例2と同様にして、未変性シリカマスターバッチBを得た。得られたシリカマスターバッチBは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ30質量部を含むものである。
[比較例4:未変性シリカマスターバッチC]
比較例2において、ポリマーを含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー100質量部に対してシリカ50質量部となる割合で混合し、その他は比較例2と同様にして、未変性シリカマスターバッチCを得た。得られたシリカマスターバッチCは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ50質量部を含むものである。
[比較例5:未変性シリカマスターバッチD]
比較例2において、ポリマーを含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー100質量部に対してシリカ100質量部となる割合で混合し、その他は比較例2と同様にして、未変性シリカマスターバッチDを得た。得られたシリカマスターバッチDは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ100質量部を含むものである。
[比較例6:変性ゴム]
比較例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、この天然ゴムラテックスをDRC=30質量%に調整した上で、ラテックス中に含まれるポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(HIO)1.65gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルション状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(5)で表される構造を含むポリマー断片が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が13500、数平均分子量が5300、分子量分布が2.6であり、また分解後の反応液のpHは6.2であった。
これにビニルトリメトキシシラン0.03gに過ヨウ素酸(HIO)0.001gを加えて23℃で0.5時間撹拌させて得られた反応生成物を加え、その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で24時間攪拌しつつ反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ゴムを得た。
このように酸化分解した反応系に対し、水酸化ナトリウムを加えて、この反応系を酸性から強制的に塩基性に変化させたことにより、酸化開裂の際に加えた過ヨウ素酸の効果を中和させつつ再結合反応を優先させることができ、式(2)〜(6)で表される結合構造を含む変性天然ゴムが得られた。なお、ピロリジン−2−カルボン酸を触媒に用いているが、これは反応を促進させるためのものであり、無くても反応は進む。
得られた変性ゴムは、重量平均分子量Mwが148万、数平均分子量Mnが47万、分子量分布Mw/Mnが3.1であり、上記結合構造の含有率が、式(2)では0.01モル%、式(3)では0.002モルであり、式(4)では0.001モル%であり、式(5)では0.004モル%であり、式(6)は0モル%であり、合計で0.017モル%であった。
[実施例1:シリカマスターバッチA]
比較例6において過ヨウ素酸による分解反応を行った後、得られたポリマー断片を含む水系エマルションに、ビニルトリメトキシシラン0.03gに過ヨウ素酸(HIO)0.001gを加えて23℃で0.5時間撹拌させて得られた反応生成物とシリカスラリーを混合した。詳細には、シリカとしてはデグサ社製「VN3」(BET比表面積=183m/g)を用いた。シリカを10.5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転/分×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーを得た。得られたシリカスラリーと、上記ポリマー断片を含む水系エマルションとビニルトリエトキシシランの酸化開裂物とを、ポリマー断片100質量部に対してシリカ10質量部となる割合で混合した。
得られた混合液に対し、比較例2と同様にして再結合反応を行った。すなわち、上記混合液に、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で24時間攪拌しつつ反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、変性ゴムとシリカを含む、シリカ含有ゴムマスターバッチ(シリカマスターバッチA)を得た。
得られたシリカマスターバッチAは、変性ゴム100質量部に対してシリカ10質量部を含むものである。なお、シリカマスターバッチA中の変性ゴムは、シリカが混在しているため、NMRによる結合構造の含有率測定は行っていないが、ポリマーについての再結合反応条件自体は比較例2と同じであるため、比較例2の変性ゴムと同じ結合構造構成及び分子量を有していると考えられる。次のシリカマスターバッチB及びCについても同様である。
[実施例2:シリカマスターバッチB]
実施例1において、ポリマー断片を含む水系エマルションとビニルトリエトキシシランの酸化開裂物とシリカスラリーを混合する際に、ポリマー断片100質量部に対してシリカ30質量部となる割合で混合し、その他は実施例1と同様にして、シリカマスターバッチBを得た。得られたシリカマスターバッチBは、変性ゴム100質量部に対してシリカ30質量部を含むものである。
[実施例3:シリカマスターバッチC]
実施例1において、ポリマー断片を含む水系エマルションとビニルトリエトキシシランの酸化開裂物とシリカスラリーを混合する際に、ポリマー断片100質量部に対してシリカ50質量部となる割合で混合し、その他は実施例1と同様にして、シリカマスターバッチCを得た。得られたシリカマスターバッチCは、変性ゴム100質量部に対してシリカ50質量部を含むものである。
[実施例4:シリカマスターバッチD]
実施例1において、ポリマー断片を含む水系エマルションとビニルトリエトキシシランの酸化開裂物とシリカスラリーを混合する際に、ポリマー断片100質量部に対してシリカ100質量部となる割合で混合し、その他は実施例1と同様にして、シリカマスターバッチDを得た。得られたシリカマスターバッチDは、変性ゴム100質量部に対してシリカ100質量部を含むものである。
[比較例7:変性ゴム]
比較例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、この天然ゴムラテックスをDRC=30質量%に調整した上で、ラテックス中に含まれるポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(HIO)1.1gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルション状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(5)で表される構造を含むポリマー断片が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が23500、数平均分子量が6200、分子量分布が3.8であり、また分解後の反応液のpHは8.0であった。
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の塩酸を反応液のpHが6.0になるように加え、23℃で24時間攪拌しつつ反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ゴムを得た。
このように酸化分解した反応系に対し、塩酸を加えて、この反応系を塩基性から強制的に酸性に変化させたことにより、再結合させることができ、式(2)〜(6)で表される結合構造を含む変性天然ゴムが得られた。なお、ピロリジン−2−カルボン酸を触媒に用いているが、反応を促進させるためのものであり、無くても反応は進む。
得られた変性ゴムは、重量平均分子量Mwが179万、数平均分子量Mnが47万、分子量分布Mw/Mnが3.8であり、上記結合構造の含有率が、式(2)は0.6モル%、式(3)は0.05モル%、式(4)は0.0モル%、式(5)は0.01モル%であり、式(6)は0モル%であり、合計で0.017モル%であった。
[実施例5:シリカマスターバッチE]
比較例7において過ヨウ素酸による分解反応を行った後、得られたポリマー断片を含む水系エマルションに、得られたポリマー断片を含む水系エマルションに、ビニルトリメトキシシラン0.03gに過ヨウ素酸(HIO)0.001gを加えて23℃で0.5時間撹拌させて得られた反応生成物とシリカスラリーを混合した。詳細には、シリカとしては、デグサ社製「VN3」(BET比表面積=183m/g)を用いた。シリカを52.5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転/分×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーを得た。このシリカスラリーと、上記ポリマー断片を含む水系エマルションとを、ポリマー断片100質量部に対してシリカ50質量部となる割合で混合した。
得られた混合液に対し、比較例7と同様にして再結合反応を行った。すなわち、この混合液に、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1gを加え、1規定の塩酸を反応液のpHが6になるように加え、23℃で24時間攪拌しつつ反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、変性ゴムとシリカを含む、シリカ含有ゴムマスターバッチ(シリカマスターバッチE)を得た。
得られたシリカマスターバッチEは、変性ゴム100質量部に対してシリカ50質量部を含むものである。なお、シリカマスターバッチE中の変性ゴムは、シリカが混在しているため、NMRによる結合構造の含有率測定は行っていないが、ポリマーについての再結合反応条件自体は比較例7と同じであるため、比較例7の変性ゴムと同じ結合構造を有していると考えられる。分子量についても同様である。
[ゴム組成物についての実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分又はシリカマスターバッチに対して硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加して混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加して混練して、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。未変性ゴム、変性ゴム及びシリカマスターバッチは、上記で合成したものであり、シリカは、上記シリカマスターバッチ作製時と同じものを用いた。また、表1中の括弧内の数値は、マスターバッチ中のシリカ含有量を示す。
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、低発熱性、引張特性、耐摩耗性能低燃費性能(tanδ(60℃))及びウェットスキッド性能(tanδ(0℃))を評価した。各評価方法は次の通りである。
・低発熱性:JIS K6394に準じて、東洋精機製スペクトロメータを用いて、温度60℃、周波数50Hz、初期歪み10%、動歪み2%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低発熱性に優れることを示す。
・引張特性:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、各コントロールの値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく引張特性に優れることを示す。
・耐摩耗性能:ランボーン摩耗試験機を用いて、温度23℃、スリップ率50%の条件で摩耗損失体積を測定し、その測定値の逆数について、各コントロールの値を100とした指数で表示した。指数値が大きいほど、耐摩耗性が良好であることを示す。
・低燃費性能(tanδ(60℃)):USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度60℃の条件で損失係数tanδを測定し、その逆数について、各コントロールの値を100とした指数で表示した。コントロールについては、シリカの配合量毎に、未変性ゴムを用いた比較試験例1,3,5,7を、それぞれのコントロールとした。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性能(転がり抵抗性能)に優れることを示す。
・ウェットスキッド性能(tanδ(0℃)):USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、各比較試験例の値を100とした指数で表示した。0℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、湿潤路面に対するグリップ性能(ウェット性能)の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが大きく、ウェット性能に優れることを示す。
Figure 0006087177
結果は、表1に示す通りである。比較試験例1,4,7,10は、比較例1の未変性ゴムを通常のドライ混合によりシリカと混合してゴム組成物を調製したものである。比較試験例2,5,8,11は、比較例2〜5に係る未変性ゴムシリカマスターバッチを用いてゴム組成物を調製したものである。比較試験例3,6,9,12は、比較例6の変性ゴムを通常のドライ混合によりシリカと混合してゴム組成物を調製したものである。試験例1〜5は、実施例1〜5に係るシリカマスターバッチを用いてゴム組成物を調製したものである。比較試験例13は、比較例7の変性ゴムを通常のドライ混合によりシリカと混合してゴム組成物を調製したものである。
比較試験例3,6,9,12では,天然ゴムを解離結合させて式(2)〜(6)で表される結合構造を持つ変性ゴムを用いたため、未変性ゴムを用いた比較試験例1,4,7,10に対して、低燃費性能が顕著に改善されていた。試験例1〜5では、天然ゴムの解離結合時にシリカをウェット混合したシリカマスターバッチを用いたので、それぞれ対応する比較試験例3,6,9,12,13に対して、低燃費性能に更なる改善効果が見られた。

Claims (9)

  1. 炭素−炭素二重結合を主鎖に持つポリマーを、この炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることにより分解して、分子量の低下したポリマー断片を含む水系エマルションを形成し、
    前記ポリマー断片を含む水系エマルションと、下記式(A)で表されるアルコキシシリル基を構造に有する官能性分子と、シリカとを混合して混合物となし、
    前記混合物を、酸性の場合は塩基性に、塩基性の場合は酸性になるように酸塩基性を変化させることにより前記ポリマー断片を結合させて、少なくとも一方の分子末端にアルコキシシリル基が導入された変性ポリマーとシリカとを含むシリカマスターバッチを得る
    ことを特徴とするシリカマスターバッチの製造方法。
    Figure 0006087177
    但し、式(A)において、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、Rはアルデヒド基又はカルボニル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは1〜3の数を示し、nは1又は2の数を示し、lは0〜2の数を示す。
  2. シリカを水中に分散させたシリカスラリーとして、前記水系エマルション及び式(A)で表される官能性分子と混合することを特徴とする、請求項1に記載のシリカマスターバッチの製造方法。
  3. 前記酸化開裂により得られたポリマー断片が、下記式(1)で表される構造を末端に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のシリカマスターバッチの製造方法。
    Figure 0006087177
    式中、Rは、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基である。
  4. 前記変性ポリマーが、下記式(B)で表される末端基を少なくとも一方の分子末端に有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカマスターバッチの製造方法。
    Figure 0006087177
    但し、式(B)において、R、R、R、m、n及びlは、式(A)の、R、R、R、m、n及びlとそれぞれと同じである。
  5. 前記炭素−炭素二重結合を主鎖に持つ前記ポリマーがジエン系ゴムポリマーであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリカマスターバッチの製造方法。
  6. 前記ジエン系ゴムポリマーが天然ゴム又は合成イソプレンゴムであることを特徴とする、請求項5に記載のシリカマスターバッチの製造方法。
  7. 前記変性ポリマー100質量部に対してシリカを5〜150質量部含有するシリカマスターバッチを製造することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリカマスターバッチの製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られたシリカマスターバッチを用いることを特徴とする、ゴム組成物の製造方法
  9. 請求項に記載の製造方法により得られたゴム組成物を用いることを特徴とする、空気入りタイヤの製造方法
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