以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分として用いられる変性ジエン系ゴムは、下記式(A)で表される構造を含む連結基を分子内に有し、ジエン系ポリマー鎖が該連結基を介して連結された構造を持つものである。
かかる変性ジエン系ゴムは、特に限定するものではないが、ジエン系ポリマーを、その主鎖中に存在する炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることで分解して分子量を低下させるとともに、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンを、そのビニル基を酸化開裂させることで分解させ、これらの分解物を含む系の酸塩基性を変化させて該分解物を結合させることにより得ることができる。
変性対象となるジエン系ポリマーとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、又は、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン化合物をモノマーの少なくとも一部として用いて得られるポリマーが挙げられる。これらの共役ジエン化合物は、いずれか1種で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
該ジエン系ポリマーとしては、共役ジエン化合物と共役ジエン化合物以外の他のモノマーとの共重合体も含まれる。他のモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種ビニル化合物が挙げられる。これらのビニル化合物は、いずれか1種でも2種以上を併用してもよい。
該ジエン系ポリマーとして、より詳細には、分子内にイソプレンユニット、ブタジエンユニット及びクロロプレンユニットの少なくとも1種(好ましくは、イソプレンユニット及び/又はブタジエンユニット)を有する各種ゴムポリマーが好ましく、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、又は、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらの中でも、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、及び合成イソプレンゴムからなる群から選択された少なくとも1種を用いることが好ましい。
変性対象となるジエン系ゴムポリマーとしては、数平均分子量が6万以上のものを用いることが好ましい。好ましい実施形態として、常温(23℃)で固形状のポリマーを対象とするためである。例えば、ゴムポリマーをそのまま材料として加工する上で、常温において力を加えない状態で塑性変形しないためには、数平均分子量が6万以上であることが好ましい。ここで、固形状とは、流動性のない状態である。ジエン系ポリマーの数平均分子量は、6万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。
変性対象となるジエン系ポリマーとしては、溶媒に溶解したものを用いることができる。好ましくは、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちラテックスを用いることである。水系エマルションを用いることにより、ポリマーを分解させた後に、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させることで結合反応を生じさせることができる。水系エマルションの濃度(ポリマーの固形分濃度)は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。このような固形分濃度とすることで、反応場のpH変動に対してミセルが壊れやすくなるのを抑えて、エマルションの安定性を高めることができ、また実用上の反応速度を確保することができる。
1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン(以下、ジビニルシラザン化合物ということがある。)は、下記式で表されるビニル化合物であり、ビニル基を2つ有することにより、ジエン系ポリマーの内部にジビニルシラザン化合物由来の構造を組み込むことができる。
上記ジエン系ポリマーの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、ジエン系ポリマーの水系エマルションに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、又は、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。過ヨウ素酸であれば、反応系を制御しやすく、また、水溶性の塩が生成されるので、変性ポリマーを凝固乾燥させる際に、水中にとどまらせることができ、変性ポリマーへの残留が少ない。なお、酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の、塩化物や有機化合物との塩や錯体などの、金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、該金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
上記ジビニルシラザン化合物のビニル基を酸化開裂させるにも、ジエン系ポリマーの酸化開裂と同様の酸化剤を用いることができる。これらのジエン系ポリマーとジビニルシラザン化合物の酸化開裂は、それぞれ別々の系で酸化剤を加えて酸化開裂してもよく、あるいはまた、ジエン系ポリマーとジビニルシラザン化合物を予め混合してから混合系に酸化剤を加えることにより一緒に酸化開裂してもよい。
上記酸化開裂によりジエン系ポリマーが分解し、末端にカルボニル基(>C=O)やアルデヒド基(即ち、ホルミル基:−CHO)を持つポリマー(以下、ポリマー断片ということがある。)が得られる。一実施形態として、該ポリマー断片は、下記式(B1)で表される構造を末端に持つ。
式中、R
1は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、クロロ基である。例えば、イソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
1がメチル基、他方の開裂末端ではR
1が水素原子となる。ブタジエンユニットが開裂した場合、開裂末端はともにR
1が水素原子となる。クロロプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
1がクロロ基、他方の開裂末端ではR
1が水素原子となる。より詳細には、分解したポリマーは、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(B1)で表される構造を持ち、すなわち、下記式(B1−1)及び(B1−2)に示すように、ジエン系ポリマー鎖の一方の末端又は両末端に、式(B1)で表される基が直接結合したポリマーが生成される。
式(B1−1)及び(B1−2)において、R1は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、波線で表した部分がジエン系ポリマー鎖である。例えば、天然ゴムを分解した場合、波線で表した部分はイソプレンユニットの繰り返し構造からなるポリイソプレン鎖である。スチレンブタジエンゴムを分解した場合、波線で表した部分はスチレンユニットとブタジエンユニットを含むランダム共重合体鎖である。
上記酸化開裂によってポリマーを分解することにより、分子量が低下する。分解後のポリマーの数平均分子量は特に限定されないが、3百〜50万であることが好ましく、より好ましくは5百〜10万であり、更に好ましくは1千〜5万である。なお、分解後の分子量の大きさにより、再結合後の官能基量を調節することができるが、分解時の分子量が小さすぎると、同一分子内での結合反応が生じやすくなる。
一方、ジビニルシラザン化合物については、ビニル基の酸化開裂により分解し、末端にアルデヒド基(−CHO)を持つ化合物が得られる。詳細には、切断反応後の末端構造は、下記式(B2)のようになる。
以上のようにしてジエン系ポリマーとジビニルシラザン化合物を分解させた後、これらの分解物を含む反応系の酸塩基性を変化させることにより分解物を結合させる。ここで、ジエン系ポリマーとジビニルシラザン化合物を別々に酸化開裂させた場合、これらを混合してから、混合液の酸塩基性を変化させて結合させればよい。一方、ジエン系ポリマーとジビニルシラザン化合物を予め混合してから酸化開裂させた場合、分解後、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させて結合させればよい。
このように酸塩基性を変化させることにより、開裂とは逆反応である結合反応が優先的に進行するようになる。すなわち、上記酸化開裂は可逆反応であり、逆反応である結合反応よりも開裂反応が優先的に進行するので、平衡に達するまで分子量は低下していく。その際、反応場の酸塩基性を逆転させると、今度は結合反応が優先的に進行するようになるので、一旦低下した分子量は上昇に転じ、平衡に達するまで分子量が増大する。そのため、所望の分子量を持つ変性ポリマーが得られる。なお、上記式(B1)の構造は2種類の互変異性をとり、元の炭素−炭素二重結合構造に結合するものと、上記式(A8)〜(A11)で表されるようにアルドール縮合反応により酸素原子を含む構造に結合するものとに分かれる。本実施形態では、反応場のpHを制御することにより、アルドール縮合反応を優先させて、酸素原子を含むポリマーを生成することができる。詳細には、反応系、特に水系エマルションの液中には安定化のためpH調節されているものがあり、分解に使用する方法や薬品の種類や濃度により分解時のpHが酸性か塩基性のどちらかに寄る。そのため分解時の反応系が酸性になっている場合には、反応系を塩基性にする。反対に分解時の反応系が塩基性になっている場合には、反応系を酸性にする。
上記のように反応系の酸塩基性を変えることにより、分解されたポリマーが再結合されるが、その際、本実施形態によれば、ジビニルシラザン化合物を酸化開裂したものが反応系中に含まれているので、ジビニルシラザン化合物の一部がポリマーの主鎖に組み込まれる。そのため、変性ジエン系ゴムは、上記式(A)で表される構造を含む連結基を分子内に有し、ジエン系ポリマー鎖が該連結基を介して連結された構造を持つ。式(A)中、Zは、水素原子、メチル基又はアルデヒド基である。より詳細には、該連結基は、下記式(A1)〜(A4)で表される構造の群から選択された少なくとも1種の構造を含む。
式(A1)の構造は、式(B1)においてR1がメチル基である末端構造を持つポリマー断片と、式(B2)で表される末端構造を持つ化合物とが、アルドール縮合反応により結合し、水が脱離することにより形成される。式(A4)の構造は、式(B1)においてR1が水素原子である末端構造を持つポリマー断片と、式(B2)で表される末端構造を持つ化合物とが、アルドール縮合反応により結合し、水が脱離することにより形成される。これらの中でも、式(A1)〜(A3)の構造を含む連結基が主成分として通常形成される。そのため、該変性ジエン系ゴムは、式(A1)〜(A4)のいずれかで表される構造を含む連結基の群から選択された少なくとも1種の連結基を有する。
また、本実施形態によれば、式(A1)〜(A4)で表される構造の他に、下記式(A5)で表される構造や下記式(A6)で表される構造を含む連結基も形成され得る。そのため、該変性ジエン系ゴムは、式(A5)又は(A6)で表される構造を含む連結基の少なくとも1種の連結基を、更に有してもよい。但し、式(A5)及び(A6)の構造は含まれていたとしても、通常は少量である。なお、式(A5)の構造は、式(A1)の構造の副成分として形成されるものであり、式(A5)の構造から水が脱離することで式(A1)の構造となる。式(A6)の構造は、式(A4)の構造の副成分として形成されるものであり、式(A6)の構造から水が脱離することで式(A4)の構造となる。
また、本実施形態によれば、上記式(B2)で表される構造同士が結合することにより、下記式(A7)で表される構造も形成され得る。そのため、変性ジエン系ゴムは、式(A7)で表される構造を含む連結基を更に有してもよい。
より詳細には、本実施形態によれば、変性ジエン系ゴムは、下記式(C)で表される少なくとも1種の連結基を分子内に有し、ジエン系ポリマー鎖が該連結基を介して直接連結された構造を持つ。
式中、M
1及びM
2は、それぞれ独立に上記式(A1)〜(A6)のいずれかで表されるものであって、好ましくは式(A1)〜(A4)のいずれかであり、いずれもケイ素原子が窒素原子に結合している。sは、0〜5の整数を示し、ある実施形態では0〜2である。なお、sが1以上の場合、シラザンが連結していることを意味する。一例として、M
1及びM
2がともに式(A1)であり、s=0の場合、連結基は下記式(C1)で表される。
上記結合反応は、通常、ポリマー断片同士の間でも生じるので、実施形態に係る変性ジエン系ゴムは、下記式(A8)〜(A11)で表される連結基の群から選択された少なくとも1種の連結基を分子内に有し、ジエン系ポリマー鎖が該連結基を介して直接連結された構造も有する。詳細には、R
1が水素原子である末端構造を持つポリマー断片同士が結合する場合、アルドール縮合反応により式(A9)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(A8)で表される連結基となる。R
1が水素原子である末端構造を持つポリマー断片とR
1がメチル基である末端構造を持つポリマー断片が結合する場合、アルドール縮合反応により式(A11)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(A10)で表される連結基となる。
結合反応させる際の反応系のpHは、反応系を塩基性にする場合、7より大きければよく、7.5〜13であることが好ましく、より好ましくは8〜10である。一方、反応系を酸性にする場合、pHは7より小さければよく、4〜6.8であることが好ましく、より好ましくは5〜6である。ラテックスのミセルが破壊するのを抑えるために、酸性度を上げすぎないことが好ましい。pHの調整は、反応系に酸や塩基を加えることにより行うことができる。特に限定するものではないが、例えば、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、又は、リン酸などが挙げられ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
結合反応に際しては、pHを調節するための酸や塩基が結合反応の触媒となり、さらに反応を調節するための触媒としてピロリジン−2−カルボン酸を用いてもよい。
以上のように結合反応させた後、水系エマルションを凝固乾燥させることにより、常温で固形状の変性ジエン系ゴムが得られる。得られた変性ジエン系ゴムは、結合反応により上記式(A)で表される構造を含む連結基が主鎖中に導入され、主鎖構造が変性される。すなわち、ジビニルシラザン化合物に由来する基である−Si(CH3)2−NH−Si(CH3)2−を含む構造を連結基として、ジエン系ポリマーの骨格主鎖二重結合間に、かかる官能基を持つ連結基が直鎖状に導入される。また、上記官能基とともに、アルドール縮合反応によりカルボニル基やアルデヒド基などの酸素原子を含む官能基も、連結基の一部として主鎖構造に導入される。
ある実施形態として、該変性ジエン系ゴムは、式(C)で表される少なくとも1種の連結基と、式(A8)〜(A11)で表される少なくとも1種の連結基を分子内に有し、これらの連結基をXとし、ジエン系ポリマー鎖をYとして、―Y−X−Y−で表される構造を分子内に含み、通常は連結基Xとジエン系ポリマー鎖Yが交互に繰り返した構造を持つ。
ここで、ジエン系ポリマー鎖とは、上記変性対象であるジエン系ポリマーの分子鎖のうちの一部の分子鎖である。例えば、共役ジエン化合物の単独重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、該共役ジエン化合物からなる構成ユニットをA1として、−(A1)n−で表されるA1の繰り返し構造である(nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、二元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA1及びA2として(A1とA2の少なくとも一方は共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A1)n−(A2)m−で表されるA1及びA2の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,mはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、三元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA1、A2及びA3として(A1とA2とA3の少なくとも1つは共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A1)n−(A2)m−(A3)p−で表されるA1、A2及びA3の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,m,pはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。四元共重合体以上も同様である。
より詳細には、例えば、変性対象として天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いた場合、ジエン系ポリマー鎖は、イソプレンユニットの繰り返し構造からなる、下記式(D1)で表されるポリイソプレン鎖である。また、変性対象としてスチレンブタジエンゴムを用いた場合、ジエン系ポリマー鎖は、スチレンユニットとブタジエンユニットを含む、下記式(D2)で表されるランダム共重合体鎖である。また、変性対象としてポリブタジエンゴムを用いた場合、ジエン系ポリマー鎖は、ブタジエンユニットの繰り返し構造からなる、下記式(D3)で表されるポリブタジエン鎖である。該ジエン系ポリマー鎖としては、これらのポリイソプレン鎖、スチレンブタジエン共重合体鎖、及びポリブタジエン鎖からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。なお、式(D1)、(D2)及び(D3)中、n,mはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である。
上記連結基は、変性ジエン系ゴムの1分子中に1つ以上含まれ、通常は1分子中に複数の連結基が含まれる。複数含まれる場合、上記式(A1)〜(A11)で表される構造を含む連結基はいずれか1種を複数含んでもよく、2種以上のものが含まれてもよい。連結基の含有率は、特に限定されないが、式(A1)〜(A11)で表される基の合計で、0.001〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15モル%、更に好ましくは0.5〜10モル%である。ここで、連結基の含有率(変性率)は、変性ポリマーを構成する全構成ユニットのモル数に対する式(A1)〜(A11)で表される構造のモル数の比率である。例えば、変性対象ポリマーが天然ゴムの場合、変性ポリマーの全イソプレンユニットのモル数と前記式(A1)〜(A11)の構造のモル数の合計に対する該構造のモル数の比率である。変性対象ポリマーがスチレンブタジエンゴムの場合、変性ポリマーにおけるブタジエンユニットのモル数とスチレンユニットのモル数と前記式(A1)〜(A11)の構造のモル数の合計に対する該構造のモル数の比率である。
式(A1)〜(A11)で表される各構造の含有率も特に限定されず、一実施形態として、主成分である式(A1)〜(A4)で表される構造の合計で含有率が0.001〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15モル%、更に好ましくは0.5〜10モル%である。また、例えば、天然ゴムや合成イソプレンゴムの場合(即ち、ジエン系ポリマー鎖がイソプレンユニットを有する場合)、通常、式(A8)〜(A11)で表される連結基が全て含まれ得るが、式(A10)で表される連結基が主として含まれ、その場合、式(A10)で表される連結基の含有率は0.001〜20モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10モル%、更に好ましくは0.5〜5モル%である。また、スチレンブタジエンゴムの場合(即ち、ジエン系ポリマー鎖が共役ジエン化合物としてブタジエンユニットのみを含む場合)、通常、式(A8)と(A9)で表される連結基が含まれるが、式(A8)で表される連結基が主として含まれ、その場合、式(A8)で表される連結基の含有率は0.001〜20モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10モル%、更に好ましくは0.5〜5モル%である。
変性ジエン系ゴムの数平均分子量は、特に限定しないが、6万以上であることが好ましく、より好ましくは6万〜100万であり、更に好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。このように変性ジエン系ゴムの分子量は、上記の通り結合させることにより、元のポリマーと同等に設定することが好ましい。これにより、分子量を低下させず、従って物性への悪影響を回避しながら、ポリマーの主鎖に官能基を導入することができる。もちろん、元のポリマーよりも分子量が小さなものを得てもよい。なお、変性ジエン系ゴムの重量平均分子量は、特に限定しないが、7万以上であることが好ましく、より好ましくは10万〜200万である。
本実施形態によれば、ジエン系ポリマーの主鎖を分解し再結合させる際に、ジビニルシラザン化合物に由来する構造を挿入することができ、主鎖構造に官能基を導入することができる。また、この変性方法は、グラフトでも直接付加でもなく開環でもないポリマーの主鎖構造そのものを変化させるものであり、従来の変性方法とは明確に異なり、主鎖構造に簡易的に官能基を導入することができる。また、ジエン系ポリマーを分解して一旦分子量を低下させた後、再結合させて変性ポリマーを合成するので、単分散化が図られ、ある程度の長さに揃えた変性ポリマーを得ることができる。また、この変性方法であると、二重結合を解離させる薬剤である酸化剤の種類や量、反応時間などを調整することにより酸化開裂させる反応を制御できる。また、再結合させる際のpHや触媒、反応時間などを調整することにより結合反応を制御できる。そして、これらの制御によって変性ポリマーの分子量を制御することができる。そのため、変性ポリマーの数平均分子量を元のポリマーと同等に設定することができ、また元のポリマーよりも低く設定することもできる。
以上により得られた変性ジエン系ゴムであると、主鎖構造にジビニルシラザン構造に由来する官能基が導入され、また、アルドール縮合反応によるカルボニル基やホルミル基などの官能基も導入されるので、ポリマーとフィラーとの間での相互作用を変化させて、フィラーの相溶性ないし分散性を向上することができる。そのため、低燃費性の向上や、引張特性の向上が見られ、特にタイヤトレッド用配合においては重要な補強性とウェットスキッド性能、転がり抵抗性能の高レベルでの両立が可能となる。
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分としては、上記変性ジエン系ゴムの単独でもよく、変性ジエン系ゴムと他のゴムとのブレンドでもよい。他のゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、又は、ハロゲン化ブチルゴム等の各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。ゴム成分中に占める上記変性ジエン系ゴムの含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部中、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。
本実施形態にかかるゴム組成物において、フィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、クレー、又は、タルクなどの各種無機充填剤を用いることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、シリカ及び/又はカーボンブラックが好ましく用いられる。
シリカとしては、特に限定されず、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)150〜250m2/gであるものが好ましく用いられ、より好ましくは180〜230m2/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF、ISAF、HAF、FEFなどの各種グレードのファーネスカーボンブラックを用いることができる。
上記フィラーの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜150質量部であり、好ましくは20〜120質量部、更に好ましくは30〜100質量部である。好適な一実施形態として、シリカを10〜120質量部で含有してもよく、またシリカを30〜100質量部で含有してもよい。
本実施形態に係るゴム組成物において、フィラーとしてシリカを配合する場合、シリカの分散性を更に向上するために、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、オイル等の軟化剤、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
上記加硫剤としては、硫黄、又は、硫黄含有化合物(例えば、塩化硫黄、二塩化硫黄、高分子多硫化物、モルホリンジスルフィド、及びアルキルフェノールジスルフィド等)が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、又は、グアニジン系などの各種加硫促進剤を用いることができ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、フィラーとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。好ましくは、タイヤ用として用いることであり、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<変性ジエン系ゴム>
変性ジエン系ゴムに関する各測定方法は、以下の通りである。
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMn、Mw及びMw/Mnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard×2」)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
[連結基の含有率]
NNMRにより、連結基の含有率を測定した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」により測定した。ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、緩和試薬としてアセチルアセトンクロム塩87mgを加え、NMR10mm管にて測定した。
式(A1)の構造については、13C−NMRにおいてケイ素側のビニル炭素のカーボンピークが131ppmにある。式(A2)の構造については、13C−NMRにおいてケイ素側のビニル炭素のカーボンピークが117ppmにある。式(A3)の構造については、13C−NMRにおいてケイ素側のビニル炭素のカーボンピークが110ppmにある。式(A4)の構造については、13C−NMRにおいてケイ素側のビニル炭素のカーボンピークが149ppmにある。式(A5)の構造については、13C−NMRにおいて水酸基の付いた炭素のカーボンピークが61ppmにある。式(A6)の構造については、13C−NMRにおいて水酸基の付いた炭素のカーボンピークが64ppmにある。式(A7)の構造については、ケイ素の隣のビニル炭素のカーボンピークが124.8ppmにある。対称的に存在するビニル炭素も同ppmに存在するため、定量の際にはピーク面積の半分の値を式(A7)のピーク比とした。式(A8)の構造については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが185ppmにある。ただし、式(A4)のケトン基の付いたカーボンも、このピークに含まれるので、上に記載の149ppmの比を差し引いた値を式(A8)のピーク比とした。式(A9)の構造については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが200ppmにある。ただし、式(A6)のケトン基の付いたカーボンも、このピークに含まれるので、上に記載の64ppmの比を差し引いた値を式(A9)のピーク比とした。式(A10)の構造については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが195ppmにある。ただし、式(A1)のケトン基の付いたカーボンも、このピークに含まれるので、上に記載の131ppmの比を差し引いた値を式(A10)のピーク比とした。式(A11)の構造については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが205ppmにある。ただし、式(A5)のケトン基の付いたカーボンも、このピークに含まれるので、上に記載の61ppmの比を差し引いた値を式(A11)のピーク比とした。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により構造量(モル数)を決定した。なお、式(A9)については、末端ケトン(式(B1)の構造)が現れる場合、ここのカーボンピーク(200ppm)に重複してしまうので、次の方法で末端ケトン量を定量し、取り除いた。すなわち、1H−NMRによりケトン基に付いたプロトンのピークが9.0ppmにでてくるので、ベースポリマー成分との比により残存量を決定した。
なお、ベースポリマー成分における各ユニットのモル数については、イソプレンユニットでは、二重結合を挟んでメチル基と反対側の炭素及びそれに結合した水素(=CH−)のピーク、即ち13C−NMRによる122ppm、1H−NMRによる5.2ppmに基づいて算出した。スチレンブタジエン共重合体鎖については、スチレンユニットのフェニル基における主鎖と結合した炭素を除く5つの炭素、及びこれに結合した5つの水素のピーク、即ち13C−NMRによる125−130ppm、1H−NMRによる7.2ppmに基づいて算出した(但し、5つ分のピークなので5で割った)。また、本実施例では変性対象のスチレンブタジエンゴムラテックスのスチレン量が21.76質量%であったため、上記で算出したスチレン量の割合からスチレンユニットとブタジエンユニットのモル数を算出した。
[pH]
東亜ディ−ケーケー(株)製のポータブルpH計「HM−30P型」を用いて測定した。
[合成例1:変性ジエン系ゴムBの合成]
変性対象のジエン系ゴムとして、天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA−NR」、DRC(Dry Rubber Content)=60質量%)を用いた。この天然ゴムラテックスに含まれる未変性の天然ゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が202万、数平均分子量が51万、分子量分布が4.0であった。
DRC=30質量%に調節した上記天然ゴムラテックス中のポリマー質量100gに対して、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンを9.6g添加し撹拌混合した後、過ヨウ素酸(H5IO6)3.3gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルジョン状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(B1)で表される構造を含むポリマーが得られた。また、ジビニルシラザン化合物のビニル基が酸化開裂し、上記式(B2)で表される構造を両末端に持つ化合物が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が14500、数平均分子量が6200、分子量分布が2.5であり、また分解後の反応液のpHは6.2であった。
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させた後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ジエン系ゴムBを得た。
このように酸化分解した反応系に対し、水酸化ナトリウムを加えて、該反応系を酸性から強制的に塩基性に変化させたことにより、酸化開裂の際に加えた過ヨウ素酸の効果を中和させつつ結合反応を優先させることができた。そのため、上記式(A1)〜(A11)で表されるいずれかの構造を含む連結基を分子内に有し、式(D1)で表されるポリイソプレン鎖が該連結基を介して連結されてなる変性ジエン系ゴムBが得られた。なお、ピロリジン−2−カルボン酸を触媒に用いているが、反応を促進させるためのものであり、無くても反応は進む。
得られた変性ジエン系ゴムBは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが155万、数平均分子量Mnが48万、分子量分布Mw/Mnが3.2であり、式(A1)の含有率が0.5モル%、式(A2)の含有率が1.2モル%、式(A3)の含有率が0.4モル%、式(A4)の含有率が0.3モル%、式(A7)の含有率が1.0モル%であり、式(A8)〜(A11)の含有率が1.8モル%であり、式(A1)〜(A11)の合計で5.6モル%であった。
[比較合成例1:変性ジエン系ゴムAの合成]
合成例1において、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンを添加せずに、過ヨウ素酸を加え、その他は合成例1と同様にして、変性ジエン系ゴムAを得た。結果を表1に示す。
[合成例2:変性ジエン系ゴムDの合成]
変性対象のジエン系ゴムとして、スチレンブタジエンゴムラテックス(日本ゼオン(株)製「SBRラテックスLX110、DRC=50質量%)を用いた。スチレンブタジエンゴムラテックスに含まれる未変性のスチレンブタジエンゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が68万、数平均分子量が32万、分子量分布が2.1であった。
DRC=30質量%に調節した上記SBRラテックス中のポリマー質量100gに対して、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンを9.6g添加し撹拌混合した後、過ヨウ素酸(H5IO6)3.3gを加え、23℃で3時間攪拌した。分解後のポリマーは、重量平均分子量が3900、数平均分子量が3400、分子量分布が1.2であり、また分解後の反応液のpHは5.9であった。
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させた後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ジエン系ゴムDを得た。
得られた変性ジエン系ゴムDは、上記式(A1)〜(A11)で表されるいずれかの構造を含む連結基が分子内に導入され、式(D2)で表されるスチレンブタジエンランダム共重合体鎖が該連結基を介して連結されたものであった。変性ジエン系ゴムDは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが41万、数平均分子量Mnが26万、分子量分布Mw/Mnが1.6であり、式(A2)の含有率が1.0モル%、式(4)の含有率が0.5モル%、式(A6)の含有率が0.3モル%、式(A7)の含有率が1.0モル%であり、式(A8)の含有率が0.9モル%、式(A9)の含有率が0.5モル%であり、式合計で4.2モル%であった。
[比較合成例2:変性ジエン系ゴムCの合成]
合成例2において、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンを添加せずに、過ヨウ素酸を加え、その他は合成例2と同様にして、変性ジエン系ゴムCを得た。結果を表1に示す。
<ゴム組成物>
上記で合成した変性ジエン系ゴムを用いてゴム組成物の評価を行った。詳細には、バンバリーミキサーを使用し、下記表2及び表3に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。ゴム成分を除く、表2及び表3中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、ウェットスキッド性能(tanδ(0℃))と低燃費性能(tanδ(60℃))を評価するとともに、引張試験を行い、弾性率M300と引張強度を評価した。各評価方法は次の通りである。
・ウェットスキッド性能(tanδ(0℃)):USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、表2では比較例1の値、表3では比較例3の値を、それぞれ100とした指数で表示した。0℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、湿潤路面に対するグリップ性能(ウェットスキッド性能)の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが大きく、ウェットスキッド性能に優れることを示す。
・低燃費性能(tanδ(60℃)):温度を60℃に変え、その他はtanδ(0℃)と同様にして、tanδを測定し、その逆数について、表2では比較例1の値、表3では比較例3の値を、それぞれ100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性能に優れることを示す。
・弾性率M300:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、表2では比較例1の値、表3では比較例3の値を、それぞれ100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく剛性が高い。
・引張強度:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って破断時の強度を測定し、表2では比較例1の値、表3では比較例3の値を、それぞれ100とした指数で表示した。指数が大きいほど、引張強度が高く、良好である。
結果は、表2及び表3に示す通りである。比較例2では、天然ゴムを酸化開裂した後、再結合させることで得られた変性ジエン系ゴムAを用いたものであり、式(A8)〜(A11)で表される連結基を主鎖中に持つため、コントロールである未変性の天然ゴムを用いた比較例1に対して、低燃費性能とウェットスキッド性能に優れていた。実施例1であると、式(A8)〜(A11)の連結基に加えて、ジビニルシラザン化合物に由来する官能基である式(A1)〜(A7)の構造が主鎖中に導入された変性ジエン系ゴムBを用いたので、比較例1に対してはもちろんのこと、比較例2に対しても、低燃費性能とウェットスキッド性能に優れていた。
ベースポリマーとしてスチレンブタジエンゴムを用いた変性ジエン系ゴムC及びDについても同様である。すなわち、表3に示すように、合成例2の変性ジエン系ゴムDを用いた実施例2であると、未変性のSBRを用いた比較例3に対してはもちろんのこと、ジビニルシラザン化合物に由来する官能基を導入していない変性ジエン系ゴムCを用いた比較例4に対しても、低燃費性能とウェットスキッド性能に優れていた。