以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分として用いられる変性ジエン系ゴムは、下記式(1)〜(4)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を分子内に有し、主鎖に直接結合した水酸基を含むジエン系ポリマー鎖が前記連結基を介して連結されたものである。
かかる変性ジエン系ゴムは、特に限定するものではないが、ジエン系ポリマーの解離結合とエポキシ化及び水酸基化を組み合わせることにより合成することができる。具体的には、下記第1及び第2の製法により得ることができる。第1の製法では、ジエン系ポリマーの解離結合を行った後、その主鎖にエポキシ基を導入し、更に該エポキシ基を水酸基化する。一方、第2の製法は、主鎖にエポキシ基を有するジエン系ポリマーを用いて行う方法であり、該ジエン系ポリマーを解離結合させる工程と、該エポキシ基の少なくとも一部を水酸基化する工程を含むものである。それぞれの方法について詳細に説明する。
[第1の製法]
第1の製法では、炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることでジエン系ポリマーを分解した後、得られたポリマー断片を含む系の酸塩基性を変化させることによりポリマー断片を結合させて、構造を変化させた中間体ポリマーを得て、その後、該中間体ポリマーの主鎖の炭素−炭素二重結合部分をエポキシ化し、更に生成したエポキシ基を水酸基化する。
変性対象となるジエン系ポリマーは、主鎖の繰り返しユニットに炭素−炭素二重結合を持つものであり、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、又は、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン化合物をモノマーの少なくとも一部として用いて得られるポリマーである。これらの共役ジエン化合物は、いずれか1種で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。ジエン系ポリマーには、共役ジエン化合物と共役ジエン化合物以外の他のモノマーとの共重合体も含まれる。他のモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種ビニル化合物が挙げられる。これらのビニル化合物は、いずれか1種でも2種以上を併用してもよい。
ジエン系ポリマーとしては、分子内にイソプレンユニット及び/又はブタジエンユニットを有する各種ゴムポリマーが好ましく、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、又は、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらの中でも、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、又はスチレンブタジエンゴムを用いることが好ましく、特に好ましくは天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いることである。
変性対象となるジエン系ポリマーとしては、数平均分子量が6万以上のものを用いることが好ましい。好ましい実施形態として、常温(23℃)で固形状のポリマーを対象とするためである。例えば、ゴムポリマーをそのまま材料として加工する上で、常温において力を加えない状態で塑性変形しないためには、数平均分子量が6万以上であることが好ましい。ここで、固形状とは、流動性のない状態である。ポリマーの数平均分子量は、6万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。
変性対象となるジエン系ポリマーとしては、溶媒に溶解したものを用いることができる。好ましくは、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちラテックスを用いることである。水系エマルションを用いることにより、ポリマーを分解させた後に、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させることで再結合反応を生じさせることができる。水系エマルションの濃度(ポリマーの固形分濃度)は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。固形分濃度が高くなりすぎるとエマルジョン安定性が低下してしまい、反応場のpH変動に対してミセルが壊れやすくなり、反応に適さない。逆に固形分濃度が小さすぎる場合は反応速度が遅くなり、実用性に劣る。
ジエン系ポリマーの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、ジエン系ポリマーの水系エマルションに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、又は、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。過ヨウ素酸であれば、反応系を制御しやすく、また、水溶性の塩が生成されるので、変性ポリマーを凝固乾燥させる際に、水中にとどまらせることができ、変性ポリマーへの残留が少ない。なお、酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の、塩化物や有機化合物との塩や錯体などの、金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、該金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
上記酸化開裂によりジエン系ポリマーが分解し、末端にカルボニル基(>C=O)やホルミル基(−CHO)を持つポリマー(即ち、ポリマー断片)が得られる。一実施形態として、該ポリマー断片は、下記式(5)で表される構造を末端に持つ。
式中、R
1は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、クロロ基である。例えば、イソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
1がメチル基、他方の開裂末端ではR
1が水素原子となる。ブタジエンユニットが開裂した場合、開裂末端はともにR
1が水素原子となる。クロロプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
1がクロロ基、他方の開裂末端ではR
1が水素原子となる。より詳細には、ポリマー断片は、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(5)で表される構造を持ち、すなわち、下記式(6)及び(7)に示すように、ジエン系ポリマー鎖の一方の末端又は両末端に、式(5)で表される基が直接結合したポリマーが生成される。
式(6)及び(7)において、R1は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、波線で表した部分がジエン系ポリマー鎖である。例えば、天然ゴムを分解した場合、波線で表した部分はイソプレンユニットの繰り返し構造からなるポリイソプレン鎖である。スチレンブタジエンゴムを分解した場合、波線で表した部分はスチレンユニットとブタジエンユニットを含むランダム共重合体鎖である。
上記酸化開裂によってジエン系ポリマーを分解することにより、分子量が低下する。分解後のポリマーの数平均分子量は特に限定されないが、3百〜50万であることが好ましく、より好ましくは5百〜10万であり、更に好ましくは1千〜5万である。なお、分解後の分子量の大きさにより、再結合後の官能基量を調節することができるが、分解時の分子量が小さすぎると、同一分子内での結合反応が生じやすくなる。
以上のようにしてジエン系ポリマーを分解させた後、分解したポリマーを含む反応系の酸塩基性を変化させることにより再結合させる。すなわち、分解後、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させることにより、開裂とは逆反応である結合反応が優先的に進行するようになる。上記酸化開裂は可逆反応であり、逆反応である結合反応よりも開裂反応が優先的に進行するので、平衡に達するまで分子量は低下していく。その際、反応場の酸塩基性を逆転させると、今度は結合反応が優先的に進行するようになるので、一旦低下した分子量は上昇に転じ、平衡に達するまで分子量が増大する。そのため、所望の分子量を持つ変性ポリマー(中間体ポリマー)が得られる。なお、上記式(5)の構造は2種類の互変異性をとり、元の炭素−炭素二重結合構造に結合するものと、上記式(1)〜(4)で表される連結基を形成するものとに分かれる。本実施形態では、反応場のpHを制御することにより、アルドール縮合反応を優先させて、式(1)〜(4)のいずれか少なくとも1種の連結基を含むポリマーを生成することができる。詳細には、反応系、特に水系エマルションの液中には安定化のためpH調節されているものがあり、分解に使用する方法や薬品の種類や濃度により分解時のpHが酸性か塩基性のどちらかに寄る。そのため分解時の反応系が酸性になっている場合には、反応系を塩基性にする。反対に分解時の反応系が塩基性になっている場合には、反応系を酸性にする。
ここで、R1が水素原子である末端構造を持つポリマー断片同士が結合する場合、アルドール縮合反応により式(3)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(4)で表される連結基となる。R1が水素原子である末端構造を持つポリマー断片とR1がメチル基である末端構造を持つポリマー断片が結合する場合、アルドール縮合反応により式(2)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(1)で表される連結基となる。なお、例えばR1がメチル基である末端構造を持つポリマー断片同士が結合する場合など、上記式(1)〜(4)以外の連結基が生成される場合もあるが、そのような連結基は微量であり、式(1)〜(4)の連結基が主として生成される。
結合反応させる際の反応系のpHは、反応系を塩基性にする場合、7より大きければよく、7.5〜13であることが好ましく、より好ましくは8〜10である。一方、反応系を酸性にする場合、7より小さければよく、4〜6.8であることが好ましく、より好ましくは5〜6である。pHの調整は、反応系に酸や塩基を加えることにより行うことができる。特に限定するものではないが、例えば、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、又は、リン酸などが挙げられ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
結合反応に際しては、pHを調節するための酸や塩基が結合反応の触媒となり、さらに反応を調節するための触媒としてピロリジン−2−カルボン酸を用いてもよい。
このようにして結合反応させて構造の変化した中間体ポリマーを得た後、中間体ポリマーの主鎖における少なくとも一部の炭素−炭素二重結合部分をエポキシ化する。該エポキシ化は、中間体ポリマーの主鎖に含まれる全ての二重結合部分に対して行ってもよいが、通常は、その一部の二重結合部分をエポキシ化する。なお、中間体ポリマーには、連結基として上記式(1)及び(4)のように炭素−炭素二重結合を含む場合があるが、これらの連結基は水系エマルション中では式(2)及び(3)のように炭素−炭素二重結合を含まない構造となっているため、水系エマルション中でエポキシ化する場合には、通常は連結基以外の部位でエポキシ化される。
エポキシ化の方法としては、特に限定されず、例えば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシ法、過酸法などのジエン系ゴムに対する公知の種々のエポキシ化法を用いて行うことができる。好ましくは、上記中間体ポリマーの主鎖の二重結合部分をラテックス中でエポキシ化することである。詳細には、上記で結合反応させた後の中間体ポリマーのラテックス(即ち、水系エマルション)に過酸化物と酸を加えて反応させることにより、主鎖の二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基を含むエポキシ化ポリマーが得られる。
得られたエポキシ化ポリマーにおいて、エポキシ基の含有量は、特に限定されないが、5〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは5〜15モル%である。ここで、エポキシ基の含有量(エポキシ化率)は、エポキシ化ポリマーを構成する全構成ユニットのモル数に対するエポキシ基のモル数の比率である。
次いで、得られたエポキシ化ポリマーに対し、そのエポキシ基の少なくとも一部を水酸基化する。水酸基化の手法は、特に限定されないが、エポキシ基を還元することで水酸基化することが好ましい。
例えば、エポキシ化ポリマーに対し、そのエポキシ基の一部又は全てを、ラテックス中で、ジイミド(H−N=N−H)又はその誘導体により還元することができる。ラテックス中で還元することにより、エポキシ化反応後にそのまま水酸基化を行うことができる。また、ジイミド又はその誘導体を用いたジイミド還元によりエポキシ基を還元することにより、酸によるエポキシ基への水付加の場合におけるジオール構造とは異なり、主鎖の二重結合部分に1つの水酸基が付加した構造(モノオール構造)となる。より詳細には、ジイミドとエポキシ基の反応では、ジイミド(N−N=N−H)の両端にある2個の水素原子がエポキシ基を攻撃して水素付加が起こり、残った2個の窒素原子が窒素ガス(N2)として遊離する。そのため、例として下記式(9)及び(10)で表されるようなモノオール構造となる。モノオール構造であれば、1分子中の水酸基量がジオール構造と同量であっても、水酸基を有する構成ユニット数としてはジオール構造の2倍となるので、ポリマー鎖内により均一に水酸基を分散させることができる。
ここで、ジイミドの誘導体としては、ラテックス中での反応時にジイミドを生成することができるジイミド前駆体が用いられ、例えば、ヒドラジン水和物(H2NNH2・H2O)、ヒドラジド化合物などが挙げられる。ヒドラジン水和物は、酸素(例えば、過酸)と反応することによりジイミドを生成することができる。ヒドラジド化合物は、オキソ酸の水酸基(ヒドロキシル基)をヒドラジノ基(−NH−NH2)で置換した構造を持つ化合物であり、分解することでジイミドを生成することができる。ヒドラジド化合物としては、例えば、p−トルエンスルホニルヒドラジド(熱分解によりp−トルエンスルホン酸とジイミドを生成する。)、トリイソプロピルベンゼンスルホン酸ヒドラジド、ベンゼンスルホン酸ヒドラジド、3−フルオロ−3−オキソ−1−プロパンスルホン酸ヒドラジドなどのスルホン酸ヒドラジド(RSO2NHNH2、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、酢酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、ペンタン酸ヒドラジド、シクロヘキサンカルボン酸ヒドラジド、ヒドラジンカルボン酸などのカルボヒドラジド(RCONHNH2、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、ベンゼンカルボチオ酸ヒドラジドなどのチオ酸ヒドラジド(RCSNHNH2、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、ペンタノヒドラジドイミドなどのヒドラジドイミド(R(=NH)NHNH2、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)、ベンゼンカルボヒドラゾン酸ヒドラジドなどのヒドラジドヒドラゾン(R(=NNH2)NHNH2、ここで、Rは、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であり置換基を有してもよい。)などが挙げられる。これらジイミド及びその誘導体は、いずれか1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上組み合わせて用いてもよい。
ジイミド又はその誘導体を用いてラテックス中で還元する方法としては、特に限定されず、例えば、上記エポキシ化ポリマーのラテックスに、ジイミド又はその誘導体を添加し加熱しながら攪拌することにより、これらエポキシ化ポリマーのエポキシ基を還元することができる。
以上のように水酸基化した後、水系エマルションを凝固乾燥させることにより、常温で固形状の上記変性ジエン系ゴムが得られる。
[第2の製法]
第2の製法は、予め主鎖にエポキシ基を導入したジエン系ポリマーを用いて行う方法であり、(a)その主鎖の炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることで分解した後、得られたポリマー断片を含む系の酸塩基性を変化させることによりポリマー断片を結合させて、構造を変化させたポリマーを得る工程(解離結合)と、(b)上記エポキシ基の少なくとも一部を水酸基化する工程と、を含むものである。これら(a)と(b)の工程はいずれを先に実施してもよいが、以下では(a)の工程を先に行う場合について説明する。但し、(b)の工程を先に行う場合も、順番が異なるだけであり、同様に実施することかできる。また、以下では、主として第1の製法と相違する部分について説明し、特に言及しない事項については同様であるとして説明を省略する。
第2の製法においては、ジエン系ポリマーの主鎖にエポキシ基を導入するエポキシ化を行った後に、得られたエポキシ化ジエン系ポリマーを用いて、上記(a)の解離結合を行う。かかるエポキシ化ジエン系ポリマーとしては、市販のエポキシ化天然ゴムのように、予めエポキシ化された市販のジエン系ポリマーを用いてもよい。エポキシ化の方法としては、上記と同様、公知の種々のエポキシ化法を用いて行うことができる。好ましくは、ジエン系ポリマーの主鎖の一部の二重結合部分をラテックス中でエポキシ化することであり、一例として、天然ゴムラテックスに過酸化物と酸を加えて反応させることにより、エポキシ化天然ゴムを得ることができる。
エポキシ化ジエン系ポリマーを用いてその炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることで、第1の製法と同様、上記式(5)で表される構造を末端に持つポリマー断片が得られる。但し、第2の製法では、上記式(6)及び(7)で表される構造において、式(5)で表される基に結合するジエン系ポリマー鎖は、少なくとも一部の炭素−炭素二重結合部分にエポキシ基が導入された構造を持つ。
次いで、得られたポリマー断片を含む系の酸塩基性を変えて再結合させることにより、第1の製法と同様、式(1)〜(4)のいずれか少なくとも1種の連結基を含む変性ジエン系ポリマーが得られる。但し、第2の製法では、予めエポキシ化したジエン系ポリマーを用いるので、この段階でジエン系ポリマー鎖には既にエポキシ基が導入されている。なお、主鎖にエポキシ基を有するジエン系ポリマーでは、上記酸化開裂の際に、エポキシ基部分も開裂するが、開裂したエポキシ基部分は、酸塩基性を変えても再結合しない。
このように再結合させた後、上記(b)の水酸基化を行う。水酸基化の手法は、第1の製法と同様であり、少なくとも一部のエポキシ基を還元することにより、水酸基を導入することができる。そして、水酸基化後に水系エマルションを凝固乾燥させることにより、常温で固形状の上記変性ジエン系ゴムが得られる。
以上の第1及び第2の製法により得られた変性ジエン系ゴムは、式(1)〜(4)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を分子内に有し、主鎖に直接結合した水酸基を含むジエン系ポリマー鎖が該連結基を介して直接連結された構造を有する。従って、該変性ジエン系ゴムは、式(1)〜(4)で表されるいずれかの連結基をXとし、水酸基を含むジエン系ポリマー鎖をYとして、―Y−X−Y−で表される構造を分子内に含み、通常は連結基Xとポリマー鎖Yが交互に繰り返した構造を持つ。
ここで、ジエン系ポリマー鎖とは、上記変性対象であるジエン系ポリマーの分子鎖のうちの一部の分子鎖である。例えば、共役ジエン化合物の単独重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、該共役ジエン化合物からなる構成ユニットをA1として、−(A1)n−で表されるA1の繰り返し構造である(nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、二元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA1及びA2として(A1とA2の少なくとも一方は共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A1)n−(A2)m−で表されるA1及びA2の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,mはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、三元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA1、A2及びA3として(A1とA2とA3の少なくとも1つは共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A1)n−(A2)m−(A3)p−で表されるA1、A2及びA3の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,m,pはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。四元共重合体以上も同様である。本実施形態では、上記構成ユニットのうち、共役ジエン化合物からなる少なくとも一部の構成ユニットに水酸基が導入されている。
ジエン系ポリマー鎖は、水酸基とともに、主鎖の二重結合部分の酸化により生成したエポキシ基を含んでもよい。すなわち、上記製造方法における水酸基化に際し、ジエン系ポリマー鎖に含まれる全てのエポキシ基を還元してもよいが、その一部を還元してもよく、その場合、ジエン系ポリマー鎖は、主鎖に直接結合した水酸基とともに、エポキシ基を含む。
一例として、変性対象として天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いた場合について説明する。この場合、ジエン系ポリマー鎖は、下記式(8)で表されるイソプレンユニットと、水酸基化されたイソプレンユニットとで構成されてもよい。すなわち、ジエン系ポリマー鎖は、水酸基化されたイソプレンユニットとして、下記式(9)で表される構成ユニットと下記式(10)で表される構成ユニットの少なくとも一方を有する。上記還元により通常は式(9)の構成ユニットが主として形成されるが、式(9)の構成ユニットと式(10)の構成ユニットを区別する実益はないと考えられる。そのため、ジエン系ポリマー鎖は、水酸基化されたイソプレンユニットとして、式(9)の構成ユニットのみ有するものであっても、式(10)の構成ユニットのみ有するものであっても、式(9)の構成ユニットと式(10)の構成ユニットの双方を有するものであってもよい。
また、上記のようにエポキシ基の一部が還元される場合、ジエン系ポリマー鎖は、式(8)のイソプレンユニット、並びに式(9)及び/又は(10)の構成ユニットとともに、下記式(11)で表されるエポキシ化されたイソプレンユニットも有する。
上記連結基は、変性ジエン系ゴムの1分子中に1つ以上含まれ、通常は1分子中に複数の連結基が含まれる。複数含まれる場合、上記式(1)〜(4)で表される連結基のいずれか1種を複数含んでもよく、2種以上のものが含まれてもよい。連結基の含有量は、特に限定されないが、式(1)〜(4)の連結基の合計で、0.001〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15モル%、更に好ましくは0.5〜10モル%、特に好ましくは0.5〜5モル%である。ここで、連結基の含有量(変性率)は、変性ジエン系ゴムを構成する全構成ユニットのモル数に対する連結基のモル数の比率である。例えば、変性対象が天然ゴムの場合、変性ジエン系ゴムにおける全イソプレンユニット(水酸基化ないしエポキシ化されたイソプレンユニットも含む)と連結基のモル数の合計に対する、連結基のモル数の比率である。
式(1)〜(4)で表される各連結基の含有率も特に限定されず、一実施形態として、それぞれ25モル%以下(即ち、0〜25モル%)であることが好ましい。例えば、天然ゴムや合成イソプレンゴムの場合(即ち、ジエン系ポリマー鎖がイソプレンユニットを有する場合)、通常、式(1)〜(4)で表される連結基が全て含まれ得るが、式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル基からなる連結基が主として含まれ、その場合、式(1)で表される連結基の含有率は0.001〜20モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10モル%、更に好ましくは0.5〜5モル%である。
変性ジエン系ゴムにおける水酸基の含有量も特に限定されないが、1〜15モル%であることが好ましく、より好ましくは2〜15モル%であり、更に好ましくは5〜10モル%である。ここで、水酸基の含有量は、変性ジエン系ゴムを構成する全構成ユニットのモル数に対する水酸基が導入された構成ユニットのモル数の比率であり、例えば、変性対象が天然ゴムの場合、変性ジエン系ゴムにおける全イソプレンユニット(水酸基化ないしエポキシ化されたイソプレンユニットも含む)と連結基のモル数の合計に対する、水酸基化されたイソプレンユニットのモル数の比率である。
変性ジエン系ゴムにおけるエポキシ基の含有量も特に限定されないが、20モル%以下であることが好ましい。エポキシ基は必須ではなく0モル%でもよい。より好ましくは1〜20モル%であり、更に好ましくは2〜15モル%であり、特に好ましくは5〜10モル%である。ここで、エポキシ基の含有量は、変性ジエン系ゴムを構成する全構成ユニットのモル数に対するエポキシ基のモル数の比率であり、例えば、変性対象が天然ゴムの場合、変性ジエン系ゴムにおける全イソプレンユニット(水酸基化ないしエポキシ化されたイソプレンユニットも含む)と連結基のモル数の合計に対する、エポキシ化されたイソプレンユニットのモル数の比率である。
変性ジエン系ゴムは、常温(23℃)で固形状であることが好ましい。そのため、変性ジエン系ゴムの数平均分子量は、6万以上であることが好ましく、より好ましくは6万〜100万であり、更に好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。変性ジエン系ゴムの分子量は、上記の通り再結合させることにより、元のポリマーと同等に設定することが好ましい。これにより、分子量を低下させず、従って物性への悪影響を回避しながら、ポリマーの主鎖に官能基を導入することができる。もちろん、元のポリマーよりも分子量が小さなものを得てもよい。なお、変性ジエン系ゴムの重量平均分子量は、特に限定しないが、7万以上であることが好ましく、より好ましくは10万〜180万である。
変性ジエン系ゴムのガラス転移点(Tg)は特に限定されないが、−60℃〜−30℃であることが好ましく、より好ましくは−50℃〜−35℃である。このようなガラス転移点を持つことにより、該変性ジエン系ゴムをタイヤ用ゴム組成物のゴム成分として用いたときに、転がり抵抗性能とウェット性能の両立効果を高めることができる。
上記第1及び第2の製法によれば、ポリマー主鎖を分解し再結合させる際に、上記の連結基のような主鎖とは異なる構造が挿入され、主鎖構造のセグメントの結合点が官能基化する。すなわち、反応性の高い構造を分子主鎖中に簡易的に導入することができる。また、上記製法によれば、二重結合を解離させる薬剤である酸化剤の種類や量、反応時間などを調整することにより酸化開裂させる反応を制御できる。また、再結合させる際のpHや触媒、反応時間などを調整することにより結合反応を制御できる。そして、これらの制御によって変性ジエン系ゴムの分子量を制御することができる。
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分としては、上記変性ジエン系ゴムの単独でもよく、変性ジエン系ゴムと他のゴムとのブレンドでもよい。他のゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、又は、ハロゲン化ブチルゴム等の各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。ゴム成分中に占める上記変性ジエン系ゴムの含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部中、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。
本実施形態にかかるゴム組成物において、フィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、クレー、又は、タルクなどの各種無機充填剤を用いることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、シリカ及び/又はカーボンブラックが好ましく用いられる。
シリカとしては、特に限定されず、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)150〜250m2/gであるものが好ましく用いられ、より好ましくは180〜230m2/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF、ISAF、HAF、FEFなどの各種グレードのファーネスカーボンブラックを用いることができる。
上記フィラーの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜150質量部であり、好ましくは20〜120質量部、更に好ましくは30〜100質量部である。また、シリカを配合する場合、シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部である。
本実施形態に係るゴム組成物において、フィラーとしてシリカを配合する場合、シリカの分散性を更に向上するために、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
上記加硫剤としては、硫黄、又は、硫黄含有化合物(例えば、塩化硫黄、二塩化硫黄、高分子多硫化物、モルホリンジスルフィド、及びアルキルフェノールジスルフィド等)が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、又は、グアニジン系などの各種加硫促進剤を用いることができ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、フィラーとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。好ましくは、タイヤ用として用いることであり、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
本実施形態に係るゴム組成物であると次の作用効果が奏される。すなわち、ゴム成分として用いる上記変性ジエン系ゴムは、主鎖構造に式(1)〜(4)で表させる官能基を持つ連結基が導入されている。これにより60℃付近のtanδを下げる効果があり、転がり抵抗性能を改善することができる。また、該連結基の導入により、元のジエン系ポリマーに対して、ガラス転移点の変化を小さくおさえながら、ガラス転移点付近のtanδを向上させる効果がある。かかる連結基が導入されたポリマーに対し、更にそのジエン系ポリマー鎖にエポキシ基を導入したことにより、ガラス転移点を高温側にシフトさせることができるので、ウェット性能を向上することができる。また、該エポキシ基を水酸基化することにより、シリカなどのフィラーとの相溶性を向上することができるので、ウェット性能を保持したまま、60℃付近のtanδを下げて、転がり抵抗性能を更に改良することができる。よって、転がり抵抗性能とウェット性能をより一層改良することができる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<変性ジエン系ゴム>
変性ジエン系ゴムに関する各測定方法は、以下の通りである。
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMn、Mw及びMw/Mnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard×2」)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
[連結基、水酸基及びエポキシ基の含有量]
NMRにより、連結基、水酸基及びエポキシ基の含有量を測定した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準とし測定した。ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、緩和試薬としてアセチルアセトンクロム塩87mgを加え、NMR10mm管にて測定した。
式(1)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが195ppmにある。式(2)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが205ppmにある。式(3)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが200ppmにある。式(4)の連結基については、13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが185ppmにある。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により構造量(モル数)を決定した。なお、式(3)については、末端ケトン(式(5)の構造)が現れる場合、ここのカーボンピーク(200ppm)に重複してしまうので、次の方法で末端ケトン量を定量し、取り除いた。すなわち、1H−NMRによりケトン基に付いたプロトンのピークが9.0ppmにでてくるので、ベースポリマー成分との比により残存量を決定した。
ベースポリマー成分におけるイソプレンユニットのモル数については、二重結合を挟んでメチル基と反対側の炭素及びそれに結合した水素(=CH−)のピーク、即ち13C−NMRによる122ppm、1H−NMRによる5.2ppmに基づいて算出した。水酸基については、水酸基結合部のプロトンピーク3.4ppm又は1.4〜1.6ppm、エポキシ基についてはエポキシ基結合部のプロトンピーク2.7ppmに基づいて構造量(モル数)を決定した。ここで、該プロトンピークは、いずれもメチル基が結合した炭素とは反対側の炭素に結合したHのピークである。なお、水酸基の場合、上記式(9)では該プロトンピークが3.4ppmであり、上記式(10)では該プロトンピークは1.4〜1.6ppmである。また、還元に際して二重結合部が水添されることがあるが、該水添イソプレンユニットについては、二重結合部に隣接する炭素に結合したプロトンに、水添に対応したピークが現れるので、その面積強度から水添イソプレンユニットの比率を求めて、全イソプレンユニット数の算出の際に考慮した。
[pH]
東亜ディ−ケーケー(株)製のポータブルpH計「HM−30P型」を用いて測定した。
[ガラス転移点]
JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:−150℃〜50℃)測定した。
[比較合成例1:未変性天然ゴム]
天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA−NR」、DRC(Dry Rubber Content)=60質量%)を、変性せずにそのまま凝固乾燥させることにより、未変性天然ゴムを調製した。未変性天然ゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が202万、数平均分子量が51万、分子量分布が4.0であり、またガラス転移点が−62℃であった。
[比較合成例2:変性ゴムaの合成]
比較合成例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、DRC=30質量%に調整した該天然ゴムラテックス100gに乳化剤:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.9gを加えて乳化状態を安定化させ、100rpmで撹拌しながら、30質量%過酸化水素水5.3g、ギ酸2.03gを滴下し、50℃で24時間反応させた。その後、エタノールを加えて凝固・乾燥させることにより、エポキシ化天然ゴム(変性ゴムa)を得た。
[比較合成例3:変性ゴムbの合成]
比較合成例2で得られる変性ゴムaを凝固させる前のラテックス100gに水300gを加えてDRCを7.5質量%に調節し、100rpmで攪拌しながら、パラトルエンスルホニルヒドラジド4.1gを加えて80℃で24時間反応させた。その後、エタノールを加えて凝固・乾燥させることにより、水酸基化エポキシ化天然ゴム(変性ゴムb)を得た。
[合成例1:変性ゴムAの合成]
比較合成例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、該天然ゴムラテックスをDRC=30質量%に調整した上で、ラテックス中に含まれるポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H5IO6)1.65gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルジョン状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(5)で表される構造を含むポリマー断片が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が13500、数平均分子量が5300、分子量分布が2.6であり、また分解後の反応液のpHは6.2であった。
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させた。このように酸化分解した反応系に対し、水酸化ナトリウムを加えて、該反応系を酸性から強制的に塩基性に変化させたことにより、酸化開裂の際に加えた過ヨウ素酸の効果を中和させつつ再結合反応を優先させることができた。なお、ピロリジン−2−カルボン酸を触媒に用いているが、反応を促進させるためのものであり、無くても反応は進む。
再結合反応を行った後、得られたラテックスをギ酸(10%に水で濃度を薄めたもの)により中和してから、30質量%過酸化水素水5.3g、ギ酸2.03gを滴下し、50℃で24時間反応させてエポキシ化した。
その後、得られたラテックス100gに水300gを加えてDRCを7.5質量%に調節し、100rpmで攪拌しながら、パラトルエンスルホニルヒドラジド4.1gを加えて80℃で24時間反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させることにより、常温で固形状の変性水酸基化エポキシ化天然ゴム(変性ゴムA)を得た。
得られた変性ゴムAは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが148万、数平均分子量Mnが49万、分子量分布Mw/Mnが3.0であり、上記連結基の含有量が、式(1)では1.0モル%、式(2)では0.3モル%、式(3)では0.2モル%、式(4)では0.5モル%であり、合計で2.0モル%であった。またエポキシ基の含有量が5モル%、水酸基の含有量が5モル%であり、ガラス転移点が−50℃であった。
[合成例2:変性ゴムBの合成]
比較合成例2においてエポキシ化反応を行った後、合成例1と同様の酸化開裂及び再結合反応を行い、その後、エポキシ基を還元して水酸基化した。詳細には、比較合成例2において、過酸化水素水及びギ酸を添加し50℃で24時間反応させた後、得られたエポキシ化天然ゴムのラテックスを1規定水酸化ナトリウムにより中和してから、該ラテックス中に含まれるポリマー質量100gに対し、過ヨウ素酸(H5IO6)1.65gを加え、23℃で3時間攪拌した。これにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(5)で表される構造を含むポリマー断片が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が19100、数平均分子量が8200、分子量分布が2.3であり、また分解後の反応液のpHは6.0であった。
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させて再結合反応を行った。その後、ギ酸(10%に水で濃度を薄めたもの)により中和してから、得られたラテックス100gに水300gを加えてDRCを7.5質量%に調節し、100rpmで攪拌しながら、パラトルエンスルホニルヒドラジド4.1gを加えて80℃で24時間反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させることにより、常温で固形状の変性水酸基化エポキシ化天然ゴム(変性ゴムB)を得た。
得られた変性ゴムBは、下記表1に示す通り、重量平均分子量Mwが161万、数平均分子量Mnが39万、分子量分布Mw/Mnが4.1であり、上記連結基の含有量が、式(1)では1.0モル%、式(2)では0.2モル%であり、合計で1.2モル%であった。またエポキシ基の含有量が5モル%、水酸基の含有量が5モル%であり、ガラス転移点が−50℃であった。表1に示すように、エポキシ化天然ゴムを解離結合させる場合、式(3)及び式(4)で示される連結基は生成されなかった。
[比較合成例4,7,9,11:変性ゴムc,f,h,jの合成]
エポキシ化反応における過酸化水素水とギ酸の量を表1記載の通りとし、その他は比較合成例2と同様にして、エポキシ化天然ゴム(変性ゴムc,f,h,j)を得た。
[比較合成例5,6,8,10,12:変性ゴムd,e,g,i,kの合成]
エポキシ化反応における過酸化水素水とギ酸の量、及び水酸基化反応におけるパラトルエンスルホニルヒドラジドの量を表1記載の通りとし、その他は比較合成例3と同様にして、水酸基化エポキシ化天然ゴム(変性ゴムd,e,g,i,k)を得た。
[合成例3,5,7,9,11:変性ゴムC,E,G,I,Kの合成]
エポキシ化反応における過酸化水素水とギ酸の量、及び水酸基化反応におけるパラトルエンスルホニルヒドラジドの量を表1記載の通りとし、その他は合成例1と同様にして、変性天然ゴム(変性ゴムC,E,G,I,K)を得た。
[合成例4,6,8,10,12:変性ゴムD,F,H,J,Lの合成]
エポキシ化反応における過酸化水素水とギ酸の量、及び水酸基化反応におけるパラトルエンスルホニルヒドラジドの量を表1記載の通りとし、その他は合成例2と同様にして、変性天然ゴム(変性ゴムD,F,H,J,L)を得た。
[比較合成例13:変性ゴムmの合成]
合成例1において再結合反応を行った後、エポキシ化反応及び水酸基化反応をせずに、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させることにより、常温で固形状の変性天然ゴム(変性ゴムm)を得た。
表1に示すように、未変性天然ゴムに対して解離結合を行った変性ゴムmでは、官能基を持つ連結基が導入されているが、ガラス転移点の変化はわずかであった。合成例に係る変性ゴムA〜Lでは、変性ゴムmに対してエポキシ基や水酸基を導入したことによりガラス転移点が高く、エポキシ基及び水酸基の合計導入量が多いほど、ガラス転移点が高くなっていた。
[参考例]
変性対象のポリマーとして、天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「LA−NR」、Mw=151万、Mn=26.9万、Mw/Mn=5.6)を用い、DRC=30質量%に調節した該天然ゴムラテックス中のポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H5IO6)1.1gを加え、23℃で6時間攪拌して、ポリマー鎖中の二重結合を酸化分解させた。得られた分解ポリマーは、Mw=10000、Mn=3000、Mw/Mn=3.4であり、分解後の反応液のpHは8.0であった。その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の塩酸を反応液のpHが6.8になるように加え、23℃で12時間攪拌し反応させた後、メタノール中に再沈させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ゴムを得た。得られた変性ゴムは、Mw=54万、Mn=14.2万、Mw/Mn=3.8であり、連結基の含有率が、式(1)では0.61モル%、式(2)では0.06モル%であり、合計で0.67モル%であった。このようにポリマーの解離結合反応は、解離後の系が塩基性であり、これを酸性に変化させる場合にも行うことができる。そのため、この場合にも結合反応後の該ポリマーをエポキシ化し更に水酸基化することで、実施形態に係る変性水酸基化エポキシ化天然ゴムが得られることは容易に理解できるであろう。
<ゴム組成物>
バンバリーミキサーを使用し、下記表2及び表3に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。ゴム成分を除く、表2及び表3中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、ウェットスキッド性能(tanδ(0℃))と転がり抵抗性能(tanδ(60℃))を評価するとともに、引張試験を行い、弾性率M300と引張強度を評価した。各評価方法は次の通りである。
・ウェットスキッド性能(tanδ(0℃)):USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。0℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、湿潤路面に対するグリップ性能(ウェットスキッド性能)の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが大きく、ウェットスキッド性能に優れることを示す。
・転がり抵抗性能(tanδ(60℃)):温度を60℃に変え、その他はtanδ(0℃)と同様にして、tanδを測定し、その逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての転がり抵抗性能(低燃費性能)に優れることを示す。
・弾性率M300:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく剛性が高い。
・引張強度:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って破断時の強度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、引張強度が高く、良好である。
結果は、表2及び表3に示す通りである。比較例13では、天然ゴムを解離結合させて式(1)〜(4)で表される連結基を持つ変性ゴムmを用いたため、未変性の天然ゴムを用いた比較例1に対して、転がり抵抗性能に優れ、ウェット性能も改善されていた。一方、エポキシ化天然ゴム(変性ゴムa,c,f,h,j)を用いた比較例2,4,7,9,11では、比較例1に対して、ウェット性能は改善されたものの、60℃でのtanδが高くなり、転がり抵抗性能に劣るものであった。また、そのエポキシ基を水酸基化した水酸基化エポキシ化天然ゴム(変性ゴムb,d,e,g,i,k)を用いた比較例3,5,6,8,10,12では、それぞれ対応する比較例に対して、水酸基の導入により転がり抵抗性能は改善されたものの、その効果は小さいものであった。これに対し、天然ゴムを解離結合させるとともにエポキシ化し更に水酸基化した変性ゴムA〜Lを用いた実施例1〜12であると、比較例1に対して転がり抵抗性能とウェット性能が顕著に改善されていた。また、これら実施例1〜12であると、単なるエポキシ化天然ゴムや水酸基化エポキシ化天然ゴムを用いた比較例2〜12に対してはもちろんのこと、比較例13に対しても、転がり抵抗性能及び/又はウェット性能において改善効果が見られた。また、実施例1〜12であると、弾性率及び引張強度が高く、補強性に優れており、そのため、補強性と、ウェットスキッド性能と、転がり抵抗性能が高レベルで両立できていた。