JP6025468B2 - 白金族の分離回収法 - Google Patents
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Description
かつては発熱材や万年筆のペン先など生活用品で馴染みが深かった白金の用途は、今では、自動車触媒や電子部品、化学工業の触媒などとしての利用が著しく増加している。その中でも、白金族の大部分(パラジウム50%,白金55%,ロジウム87%)が自動車触媒に使用されている。これは、他の触媒材料に比べて触媒活性が高く、耐久性もよいからである。また、自動車触媒については、現時点で白金族を含むものよりも性能の優れた触媒は開発されていない。現在、排ガス規制の強化などから、自動車触媒における白金族の需要が増加している。
また、(特許文献2)には、「白金族元素と不純物元素を含む塩化物溶液から白金族元素を回収する方法において、塩化物溶液をポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させて白金族元素を選択的に吸着させる第一の工程、吸着処理後の樹脂を洗浄処理する第二の工程、及び洗浄処理後の樹脂から白金族元素を溶離させる第三の工程を含むことを特徴とする白金族元素の分離回収方法」が開示されている。
(1)(特許文献1)に開示の技術は、吸着速度が遅いロジウムに対してモル比で10〜50倍の塩化スズを添加しなければならず、浸出液のロジウムの含有量の計測や塩酸濃度の調整や塩化スズの添加量の調整等が必要であるとともに、浸出液中のロジウムが低濃度である場合、ロジウムを十分に吸着できないという課題を有していた。
(2)(特許文献2)に開示の技術は、白金族を分離回収できるが、溶液に含まれる白金族を個々の金属元素別に分離回収できず、かつ、個々の金属の純度や回収率も低いという課題を有していた。
請求項1に記載の白金族の分離回収法は、
(a)パラジウム、ロジウム、白金を含む自動車廃触媒等からなる白金族混合物を、塩酸溶液に浸出させて浸出液を作製する浸出工程と、(b)前記浸出液と、親水性処理を施さないで作成されたパラジウム吸着剤と、を第1吸着分離器内で接触させて前記パラジウムを分離回収する第1分離回収工程と、(c)白金吸着剤が充填された第2吸着分離器内に、前記第1分離回収工程で得られる第1分離回収後浸出液を前記ロジウムが吸着され難い速い空間速度で通液し、前記白金を分離回収する第2分離回収工程と、(d)前記第2分離回収工程後の第2分離回収後浸出液とロジウム吸着剤とを、撹拌式吸着槽内で固液比が1.5〜5g/Lの範囲で接触させて前記ロジウムをバッチ式に分離回収する第3分離回収工程と、を有し、(e)前記パラジウム吸着剤が、多孔質樹脂と、前記多孔質樹脂に担持された抽出剤と、を備え、(f)前記白金吸着剤及び前記ロジウム吸着剤が、弱塩基性イオン交換樹脂である構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)自動車廃触媒等からなる白金族混合物を直接塩酸溶液で浸出を行う湿式法を用いた浸出工程を有しているので、環境負荷が小さく、パラジウム、ロジウム、白金を、選択的に高含有率で塩酸溶液に抽出できるので、各々の回収工程を備えることで、パラジウム、ロジウム、白金を分離回収することができる。
(2)吸着速度の違いを利用し、白金の回収にはカラム法、ロジウムの回収にはバッチ法を用いることで、白金とロジウムを別々に回収することができ、分離回収工程を高効率で安定して行うことができる。
(3)第1分離回収工程において、多孔質樹脂に抽出剤を含浸させたパラジウム吸着剤と浸出液を接触させるので、白金やロジウムを吸着せず、パラジウムのみを選択的に回収することができる。
(4)弱塩基性イオン交換樹脂は、白金及びロジウムを選択的に吸着することができるが、第2分離回収工程において、白金及びロジウムを含む第1分離回収後、浸出液をロジウムが吸着でき難い速い空間速度で白金吸着剤(弱塩基性イオン交換樹脂)と接触させるので、吸着速度の遅いロジウムが吸着し難く、白金を選択的に分離回収できる。
(5)第2分離回収工程後の第2分離回収後浸出液とロジウム吸着剤とを、撹拌式吸着槽内で固液比が1.5〜5g/Lの範囲で接触させて前記ロジウムをバッチ式に分離回収する第3分離回収工程と、を有するので、ロジウムの分離回収に、カラム法では1カ月半かかる吸着時間を数時間から数十時間程度まで短縮することができ、生産性や省力性に優れるとともに、第2分離回収後浸出液中のロジウム濃度が低くても分離回収率に優れている。
(6)パラジウム吸着剤に親水性処理を施さないので、第1分離回収工程において連続使用等でのDHSの漏出を抑えることができ、パラジウムの吸着率の低下を抑えることができる。
(7)第3分離回収工程のロジウム吸着剤と第2分離回収後浸出液との固液比が1.5〜5g/Lである構成を有しているので、第2分離回収工程後浸出液から、ロジウム濃度が低濃度であっても、ロジウムの吸収率を高くすることができる。
また、廃触媒は0.01〜5mm程度の粒径に粉砕等しても良い。廃触媒を粉砕等すると、廃触媒の搬送が行い易く、浸出工程における、廃触媒の投入や、濾過等の作業性を高めることができる。
廃触媒の粉砕方法としては、ハンマー等で粗く粉砕した後に、ボールミルや擂潰器等によって任意の粒径に粉砕する方法等が好適に選択される。
浸出液は、塩酸溶液を撹拌しながら調整を行うことで調整時間を短縮することができる。但し、浸出液の調整量が少量の場合、撹拌せず放置する方が、手間がかからず、利便性を向上させることができる。
浸出液の調製において、塩酸溶液(c)と廃触媒(d)の重量混合比は、塩酸溶液の濃度等にもよるが、c/d≧10,好ましくはc/d≧20であることが好ましい。重量比が20より小さくなるにつれ、塩酸溶液の濃度や温度にもよるが貴金属類の浸出率が悪くなる傾向にあり、10より小さくなるにつれこの傾向が著しくなるので好ましくない。
また、塩酸溶液に過塩素酸ナトリウム等を添加することで、廃触媒からの白金族の浸出時間の短縮等の効果が得られるので好ましい。
浸出工程で用いる塩酸溶液の濃度としては、温度条件にもよるが0.5mol/L〜10mol/L、好ましくは、1mol/L〜5mol/Lが好適に選ばれる。1mol/Lより低くなるにつれ、廃触媒からの白金族の抽出が不十分となり、浸出効率が低くなる傾向になり0.5mol/L以下ではその傾向が著しくなるため好ましくない。また、5mol/Lより高くなるにつれ、第1分離回収工程での、パラジウム吸着剤のパラジウムの選択性が低くなる傾向にあり、10mol/Lを超えると、この傾向が著しくなるため好ましくない。
多孔質樹脂としては、疎水性が高く、抽出剤を疎水性相互作用により担持させることが可能なものであれば、特に限定されず、エステル系合成吸着剤やスチレン−ジビニルベンゼン共重合吸着剤等を用いることができる。また、多孔質樹脂は、比表面積が500〜2000,好ましくは500〜1200m2/dry−gであることが好ましい。樹脂の吸着溶離反応は、樹脂内部への拡散が律速とされるため、樹脂が多孔性に優れるほど溶離速度が増し分離し易くなる。
多孔性樹脂に含浸させる抽出剤の含浸量が少なくなるにつれ、パラジウムの吸着量が減少する傾向にあるので、多孔性樹脂には、含浸させることができる最大量の抽出剤を含浸させることが好ましい。例えば、DHSの場合は1.4mmol/g−resinが好ましい。
また、パラジウムの吸着方法としてはカラム法や、バッチ法があるが、カラム法を用いる方が好ましい。バッチ法の場合、パラジウム吸着剤と浸出液を流動接触させるため、多孔質樹脂に含浸させた抽出剤が漏出し易くなり好ましくないからである。
パラジウム吸着剤は、親水性処理を施さないことが好ましい。パラジウム吸着剤にイオン交換水やドデシル硫酸ナトリウム溶液等による親水性処理を施すと、DHS等の抽出剤とドデシル硫酸ナトリウムがミセルを形成することが原因となり、多孔質樹脂に含浸された抽出剤が漏出し易くなるからである。
第2分離回収工程の第2吸着分離器としては、固定層方式、移動層方式、流動層方式等を使用することができる。
第3分離回収工程の撹拌式吸着槽は、バッチ法で行うことができればどのようなものでも良く、撹拌槽や振とう機等が用いられる。
また、第3分離回収工程の前に、第2分離回収後浸出液を加熱等により濃縮する濃縮工程を備えることで、ロジウムがロジウム吸着剤に吸着され易くなり、回収率を増すことができるので好ましい。
第3分離回収工程のロジウム吸着剤量とバッチ内の第2分離回収後浸出液量の固液比としては、1.5〜5g/L、好ましくは3〜5g/Lが好適に用いられる。固液比が3g/Lより小さくなると、ロジウム吸着剤に対する第2分離回収後浸出液の液量が充分でなく、ロジウムの吸着率が落ちる傾向にあり、1.5g/Lより小さくなるにつれこれらの傾向が著しくなるので好ましくない。また、固液比が5g/Lより大きくなるにつれ、吸着剤に比べ第2分離回収後浸出液の液量が少なくなるので、吸着剤へのロジウムの吸着量が少なくなり、ロジウムを溶出させる際に使用する溶離液の液量を少なくする必要があり、生産性が悪くなるため、好ましくない。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)抽出剤が一般式R1−S−R2で表される化合物であるため、第一分離回収工程においてパラジウムをより選択的に吸着することができ、パラジウムの分離回収効率を高めることができる。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)多孔質樹脂として多孔性に優れるエステル系合成吸着剤を使用するので、溶離速度が高く、パラジウムをより分離し易くすることができる。
(2)前記多孔質樹脂がエステル系合成吸着剤であるので、疎水性が高く、抽出剤を疎水性相互作用により担持させることができ、DHS等の抽出剤をイオン交換法に適用することができる。
この構成により、請求項1乃至4の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)第2分離回収工程がカラム式であり、第1分離回収後浸出液の空間速度が2〜10h-1である構成を有しているので、第2分離回収工程において吸着速度の遅いロジウムが吸着され難く、白金を選択的性に優れる。
第2分離回収工程において空間速度は2〜10h-1であることが好適である。空間速度が2h-1より小さくなるにつれて、白金吸着剤へのロジウムの吸着量が増え、第2分離回収工程における白金の選択性が低下する傾向にあり好ましくない。また、10より大きくなるにつれて、白金吸着剤へ白金が吸着できなくなる傾向にあり好ましくない。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)高含有率で別個に、パラジウム、ロジウム、白金を分離回収することができる白金族の分離回収法を提供することができる。
(2)パラジウム吸着剤中の抽出剤の漏出を抑えることができ、パラジウムの吸着率の低下が起き難い白金族の分離回収法を提供することができる。
(3)ロジウムの吸着率を高めることができる白金族の分離回収法を提供することができる。
(1)パラジウムの分離回収率に優れる白金族の分離回収法を提供することができる。
(1)操作性に優れ、パラジウムの分離回収率に優れる白金族の分離回収法を提供することができる。
(1)吸着速度の遅いロジウムが吸着され難く、白金を選択的に吸着することができる白金族の分離回収法を提供することができる。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1における白金族の分離回収法を示すフローチャートである。
図1中、S1は廃触媒を液温50〜80℃の0.5〜10mol/L塩酸溶液に浸漬しパラジウム,ロジウム及び白金が浸出した浸出液を得る浸出液調整工程、S2は多孔質樹脂に抽出剤を含浸させパラジウム吸着剤を得るパラジウム吸着剤調整工程、S3はパラジウム吸着剤調整工程S2で得られたパラジウム吸着剤が充填されたカラム等の第1吸着分離器に浸出液調整工程S1で得られた浸出液を供給してパラジウム吸着剤にパラジウムを選択的に吸着させた後,アンモニア溶液等の溶離液でパラジウム吸着剤からパラジウムを溶離してパラジウム溶離液を回収する第1分離回収工程、S4は第1分離回収工程S3で得られたパラジウム溶離液からパラジウムを含有する沈殿物を分離回収し還元焼成を行うことでパラジウムの単体を得るパラジウム沈殿焼成工程、S5は白金吸着剤である弱塩基性陰イオン交換樹脂の官能基であるアミノ基の対イオンをヒドロキシル基に置換する白金吸着剤調整工程、S5は白金吸着剤調整工程S5で得られた白金吸着剤が充填されたカラム等の第2吸着分離器に第1分離回収工程S3によってパラジウムが分離された第1分離回収後浸出液を2〜10h-1の空間速度で供給して白金吸着剤に白金を選択的に吸着させた後,チオ尿素−塩酸溶液等の溶離液で白金吸着剤から白金を溶離して白金溶離液を回収する第2分離回収工程、S7は第2分離回収工程S6で得られた白金溶離液から白金を含有する沈殿物を分離回収し還元焼成することで白金の単体を得る白金沈殿焼成工程、S8はロジウム吸着剤である弱塩基性陰イオン交換樹脂の官能基であるアミノ基の対イオンをヒドロキシル基に置換するロジウム吸着剤調整工程、S9はロジウム吸着剤調整工程S8で得られたロジウム吸着剤と第2分離工程S6で白金が分離された第2分離回収後浸出液を撹拌式吸着槽内で固液比1.5〜5g/Lになるように混合し撹拌してロジウムを選択的に吸着させた後,塩素酸ナトリウム−塩酸溶液等の溶離液でロジウム吸着剤からロジウムを溶離してロジウム溶離液を回収する第3分離回収工程、S10は第3分離回収工程で得られたロジウム溶離液からロジウムを含有する沈殿物を分離回収し還元焼成することでロジウムの単体を得るロジウム沈殿焼成工程である。
廃触媒を破砕する方法としては、ボールミル、擂潰器等を用いることができる。
廃触媒と塩酸溶液は、廃触媒量cと塩酸溶液量dの重量比が、c/d≧10,好ましくはc/d≧20であることが望ましい。
浸出液には、塩酸溶液の他、過塩素酸−塩酸や硝酸−塩酸の混酸等を用いることもできる。また、塩酸溶液に過塩素酸ナトリウム等を添加することで、廃触媒からの白金族の抽出時間の短縮、各分離回収工程における白金族の吸着率の向上の効果が得られる。
また、多孔質樹脂としては、エステル系合成吸着剤や、スチレン−ジビニルベンゼン共重合吸着剤等を用いることができる。
パラジウム吸着剤からパラジウムを溶離させる溶離液としては、0.5〜5mol/Lアンモニア溶液を用いることが好ましいが、チオ尿素−塩酸溶液等を用いることもできる。また、溶離液の濃度は溶離条件等によって適宜変更しても良い。
第2分離回収工程S6の第2吸着分離器としては、第1分離回収後浸出液を空間速度が2〜10h-1となるように通液できれば良く、カラム法を好適に使用することができる。カラム法は、第1分離回収後浸出液と白金吸着剤の接触時間を、空間速度を調節するだけで容易に調整でき、ロジウムの吸着を防止し易いので好ましい。
白金吸着剤から白金を溶離させる溶離液としては、0.01〜1mol/Lチオ尿素−0.1〜5mol/L塩酸溶液を用いることが好ましい。また、溶離液の濃度は溶離条件等によって適宜変更しても良い。
また、第3分離回収工程S9の撹拌式吸着槽は、撹拌槽や振とう機等ロジウムの分離回収をバッチ法で行うことができればどのようなものでも使用することができる。
ロジウム吸着剤からロジウムを溶離させる溶離液としては、0.1〜2mol/L塩素酸ナトリウム−1〜5mol/L塩酸溶液を用いることが好ましいが、王水等を用いることもできる。溶離液の濃度は溶離条件等によって適宜変更しても良い。
浸出液調整工程S1において、まず、自動車廃触媒を、50〜80℃に加熱した0.5〜10mol/L塩酸溶液に24時間浸漬して浸出液を作製する。
次いで、浸出液調整工程S1で得られた浸出液を通液し、パラジウムを吸着させ、吸着が破過に達した後、再びイオン交換水で洗浄し、最後に、1.5mol/Lアンモニア溶液を通液させ、吸着したパラジウムを溶離し、パラジウム溶離液を得る。
次いで、第1分離回収工程後浸出液を空間速度2〜10h-1になるように通液し、白金吸着剤に白金を吸着させ、吸着が破過に達した後、再びイオン交換水で洗浄し、最後に溶離液として、0.1mol/Lチオ尿素−1.0mol/L塩酸溶液を通液させ、吸着した金属を溶離した白金溶離液を得る。
次に、上澄み液に1moL/L水酸化ナトリウム溶液を加えpH=10に調整し、一晩放置し、該上澄み液を遠心分離等により、更に沈殿物と上澄み液を分け、沈殿物に関しては遠心分離を用いて超純水で洗浄を行い、真空乾燥機にて105℃以上の温度で恒量まで乾燥させる。
次いで、得られた沈殿物とチオ尿素と白金が錯体形成した沈殿物を混合し、水素雰囲気下において300〜500℃で2時間還元焼成し、純度は99.99%以上の白金単体を得た。
次に、ロジウム吸着後のロジウム吸着剤と1.0 mol/L塩素酸ナトリウム−2.0mol/L塩酸溶液を容器に入れ、48時間振とうさせロジウムの溶離を行い、振とう後濾過し、ロジウム溶離液を得る。
次いで、得られた沈殿物を、水素雰囲気下において約500℃で2時間程還元焼成し、純度は99.99%以上のロジウムを得る。
(1)自動車廃触媒を直接塩酸溶液で浸出を行う湿式法を用いた浸出工程を有しているので、環境負荷が小さく、パラジウム、ロジウム、白金を、選択的に高含有率で塩酸溶液に抽出できるので、各々の回収工程によってパラジウム、ロジウム、白金を各々選択的に分離回収することができる。
(2)第1分離工程S3において、多孔質樹脂に抽出剤を含浸させたパラジウム吸着剤と浸出液を接触させるので、白金やロジウムを吸着せず、パラジウムのみを選択的に分離回収することができる。
(3)第2分離回収工程S6において空間速度を上げることで、吸着速度の遅いロジウムを白金吸着剤に吸着させずに白金のみを分離回収出来る。
(4)第3分離回収工程S9において、ロジウムをバッチ法によってロジウム吸着剤に吸着させるので、カラム法では1カ月半かかる吸着時間を数時間から数十時間程度まで短縮することができ、生産性や省力性に優れるとともに、第2分離回収後浸出液中のロジウム濃度が低くても分離回収率に優れる。
(6)第一分離回収工程S3において、抽出剤がDHSの場合、パラジウムをより選択的に吸着することができるので、パラジウムの分離回収効率を高めることができる。
(7)多孔質樹脂として多孔性に優れる(比表面積の大きい)エステル系合成吸着剤を使用した場合、溶離速度が高く、パラジウムをより分離し易くすることができる。
(8)パラジウム吸着剤に親水性処理を施さないので、第1分離回収工程S3において連続使用等におけるDHSの漏出を抑えることができ、パラジウムの吸着率の低下を抑えることができる。
(9)第2分離回収工程S6がカラム式であり、第1分離回収後浸出液の空間速度が2〜10h-1である構成を有しているので、吸着速度の遅いロジウムが吸着され難く、白金を選択的に吸着することが出来る。
(10)第3分離回収工程S9のロジウム吸着剤と第2分離回収後浸出液との固液比が1.5〜5g/Lである構成を有しているので、第2分離回収工程後浸出液から、ロジウム濃度が低濃度であっても、ロジウムの吸収率を高くすることができる。
(実施例1)
<浸出液の塩酸濃度によるパラジウム吸着剤の選択性の変化>
1,3, 5, 7, 9mol/Lの塩酸溶液にパラジウム、ロジウム、白金、セリウム、鉄、マグネシウム、アルミニウムが50mg/L含まれるように溶かした各金属塩酸溶液を其々20 mL準備した。
次に、500mLナスフラスコに多孔質樹脂(三菱化学株式会社製:ダイアイオンHP2MG)27.26gと、DHS(大八工業株式会社製)11.48gと、をナスフラスコに入れ、更にアセトン200mLを加え、真空乾燥機(EYELA東京理化機器株式会社製:VOS−201SD)を用い、105℃で12時間乾燥を行い、DHSが1.46mmol/g含浸したパラジウム吸着剤を得た。
調製したパラジウム吸着剤20 mgと準備した塩酸溶液20mLを50 mL三角フラスコに入れ、振とう機(EYELA東京理化機器株式会社:NTS−4000C)で24時間、25℃で60rpmの振動条件で振とうした。その後、塩酸溶液を濾過して濾液を得た。得られた濾液は誘導プラズマ発光分光分析装置ICP−AES(株式会社島津製作所製:ICP−7000)を用いて各金属濃度を測定した。結果を表1及び図2に示す。
図2より、塩酸濃度が1〜5mol/Lの時、DHS含浸した多孔質樹脂からなるパラジウム吸着剤はパラジウムに対して高い選択性を示し、7mol/Lになると微量に他の金属を吸着することが分かる。更に9mol/Lの時、鉄などは吸着率が30%近くなり、選択性が悪いことが分かる。このように、1〜5mol/L塩酸溶液で浸出液を作製する時、パラジウム吸着剤はパラジウムに対して非常に高い選択性を有することが分かった。これは、HSAB則に従って、柔らかい酸であるパラジウムと柔らかい塩基である硫黄が安定な錯体を形成することに起因していると考えられる。
(実施例2)
各金属塩酸溶液の代わりに50,100,150,200,250mg/Lのパラジウムを含む1mol/L塩酸溶液20mLを用いた以外は、実施例1と同様にした。
50mL三角フラスコに実施例1のパラジウム吸着剤20mgに、イオン交換水20mLを入れ、振とう機で24時間、25℃で60rpmの振動条件で振とうさせてパラジウム吸着剤に親水性処理を施した以外は、実施例2と同様にした。
50mL三角フラスコに実施例1のパラジウム吸着剤20mgに、10wt%のドデシル硫酸ナトリウム溶液20mLを入れ、振とう機で24時間、25℃で60rpmの振動条件で振とうさせてパラジウム吸着剤に親水性処理を施した以外は、実施例2と同様にした。
実施例2及び比較例1,2の金属吸着性を表2及び図3に、抽出剤(DHS)の漏出率を表3に示す。
図3より、親水性処理を施していないパラジウムの吸着量は、約0.75mmol/gであるのに比べ、親水性処理を施した比較例1の吸着量は約0.35mmol/g、比較例2の吸着量は約0.6mmol/gであった。
また表1より、親水性処理を行っていない実施例1のパラジウム吸着剤に比べ、イオン交換水でパラジウム吸着剤の親水性処理を行った比較例1では20%、ドデシル硫酸ナトリウム溶液でパラジウム吸着剤の親水性処理を行った比較例2では47%、DHSが漏出した。これは、DHSとドデシル硫酸ナトリウムがミセルを形成することが原因であると考えられる。
以上のことから、パラジウム吸着剤は親水性処理を施さずに用いた方が良いことが示された。
<白金の分離回収の空間速度最適化>
弱塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製:ダイアイオンWA‐21)110gを準備し、1mol/L塩酸溶液300mL(和光純薬工業株式会社製)、イオン交換水300
mL、1mol/L水酸化ナトリウム溶液300mL(和光純薬工業株式会社製)、イオン交換
水300mL、の順に洗浄し、これを3回繰り返した後に真空乾燥機(EYELA東京理化機器株式会社製:VOS−201SD)を用い、105℃で12時間乾燥して、白金吸着剤を得た。
次に、WA−21の親水性処理として、0.1wt%ドデシル硫酸ナトリウムと白金吸着剤を加え、振とう機(EYELA東京理化機器株式会社:NTS−4000C)で24時間振とうした。振とう後、ろ過を行い、親水性処理済の白金吸着剤(1.75g)を内径8mm、長さ100mmのカラムに充填した両端にはガラスウールを詰めた。次に、イオン交換水を通液させて洗浄、脱気した後、表4に記載の組成の塩酸溶液([HCl]=5mol/L)を金属の吸着が破過に達するまで空間速度2.5h-1の条件で通液した後、再びイオン交換水で洗浄し、最後に溶離液として0.1mol/Lチオ尿素−1.0mol/L塩酸溶液及び1.0mol/L硫酸を通液させ、吸着した金属を溶離し、溶離液を得た。
通液はペリスタルティックポンプ(EYELA東京理化機器株式会社,SMP−21)を用い、吸着、または溶離の際、サンプル液はフラクションコレクター(EYELA東京理化機器株式会社,DC−1500)を用いて採取し、金属濃度は誘導プラズマ発光分光分析装置ICP−AES(株式会社島津製作所製:ICP−7000Ver.2)を用いて測定した。破過曲線の結果を図4、溶離曲線の結果を図5に示す。
図4より、白金はB.V.=100付近で破過し始め、B.V.=500で飽和状態に達し、ロジウムの吸着は見られるものの、供給液を通液した直後から破過し始め、ほとんど吸着することができなかった。これは、ロジウムの吸着速度が遅いことが原因だと考えられる。また、白金吸着剤は白金族金属以外の共雑イオンの吸着特性に対する影響はなく、白金,ロジウムに対する選択的吸着特性を示した。
図5より、溶離においては、0.1mol/Lチオ尿素−1.0mol/L塩酸溶液を用いることで白金を、最大濃縮濃度は2800mg/Lまで濃縮できることが分かった。この時、白金の溶出率を破過曲線と溶離曲線の積分値から算出したところ、100%溶離していることが分かった。また、B.V.=30から1.0mol/L硫酸を通液させたことで、ロジウムが溶離された。しかし、ロジウムの溶離率は79%であった。
以上のことから、白金吸着剤には、白金及びロジウムに対する選択的吸着特性があるが、空間速度2.5h-1以上にすることでロジウムの吸着を抑え、白金を選択的に吸着できることが分かった。また、0.1mol/Lチオ尿素−1.0mol/L塩酸溶液を用いることで白金を100%溶離できることが分かった。
(実施例4)
弱塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製:ダイアイオンWA‐21)110gを準備し、1mol/L塩酸溶液300mL(和光純薬工業株式会社製)、イオン交換水300mL、1mol/L水酸化ナトリウム溶液300mL(和光純薬工業株式会社製)、イオン交換水300mL、の順に洗浄し、これを3回繰り返した後に真空乾燥機(EYELA東京理化機器株式会社製:VOS−201SD)を用い、105℃で12時間乾燥して、ロジウム吸着剤を得た。
次に、該ロジウム吸着剤0.25gを、ロジウムを30mg/L含んだ5mol/L塩酸溶液150、250、350、600 mLにそれぞれ混合し、1Lの三角フラスコ内でマグネットスターラーバーを60rpmの速度で撹拌し、108時間振とうした。振とう後、濾過を行い、実施例1と同様に濾液の金属濃度を測定し、吸着が飽和に達する時間を計測した。結果を表5及び図6に示す。
また、吸着が飽和に達した0.25gのロジウム吸着剤と1.0mol/L塩素酸ナトリウム−1.0mol/L塩酸溶液及び1.0mol/L塩素酸ナトリウム−2.0mol/L塩酸溶液を10,20,50,150,250 mLをそれぞれ混合し、48時間振とうさせロジウムの溶離を行い、溶離液を得た。溶離液は振とう後濾過し、濾液の金属濃度を測定した。また、金属濃度は、実施例1と同様に測定した。結果を表6に示す。
ミニプラントの内径20mm、長さ180 mmのカラムを準備し、実施例4に記載のロジウム吸着剤を充填し、該カラムの両端にはガラスウールを詰め、イオン交換水を通液して洗浄、脱気を行った。
次に、30mg/Lのロジウムを含む5mol/Lの塩酸溶液を準備し、該カラムに空間速度5.0h-1の条件で通液した。通液は、ロジウムの吸着が飽和に達するまで行った。通液後の塩酸溶液中のロジウム濃度の測定は実施例1と同様にした。この時の破過曲線を図7に示す。
図6より、ロジウムの吸着が飽和に達するまでの時間は、液量に関係なく48時間を要することが確認された。また、図7より、カラム法でロジウムの吸着を行った比較例1の破過曲線の立ち上がりは非常に緩やかであった。また、カラム法においてロジウムの吸着が飽和に達した時間は1月半であった。
このことから、バッチ法で吸着を行った実施例4は、カラム法で吸着を行った比較例1のロジウムの吸着が飽和に達する時間(1月半)と比較すると、大幅に吸着速度が改善されたことがわかる。また、供給液量150mLの場合において48時間振とうすることで吸着率が90%を達成出来ることが示された。
以上のことから、ロジウム吸着剤によるRhの分離回収においてはカラム法ではなくバッチ法の方が適していることが明らかとなり、溶離液には1.0 mol/L塩素酸ナトリウム−2.0mol/L塩酸溶液を用いることが最適であることが分かった。
図8より、固液比S/Aが大きくなるにつれ吸着率は上昇し、固液比S/Aが1.5g/Lより大きくなると、ロジウムの吸着率が80〜90%程度となり、3g/Lを超えるとロジウムの吸着率が100%になることが分かった。このことから、ロジウム吸着剤と第2分離回収後浸出液量の固液比S/Aが3g/L以上であれば、ロジウムを100%吸着できることが示された。
(実施例5)
実施例1のパラジウム吸着剤(1.59g)を内径8mm、長さ100mmのカラムに充填した両端にはガラスウールを詰めた。次に、イオン交換水を通液させて洗浄、脱気した後、実施例1に記載の1mol/L塩酸溶液を金属の吸着が破過に達するまで空間速度6.25h-1の条件で通液した後、再びイオン交換水で洗浄し、最後に溶離液として1.5mol/Lアンモニア溶液を通液させ、吸着した金属を溶離した。
次いで、得られたパラジウム溶離液3mLを試験管に入れ、1mol/L塩酸溶液を加え、1晩放置した。その後、該溶離液を3000rpmの条件で5分間遠心分離器にかけ、沈殿物と上澄みに分け、上澄み液はpH測定器(株式会社堀場製作所製)を用いてpHを測定し、pH1〜7におけるパラジウムを含む沈殿物の沈殿率の変化を測定した。
実施例3の白金溶離液(約pH1)を遠心分離にかけ、上澄み液とチオ尿素及び白金の錯体である沈殿物を分離した。
次いで、分離して得られた上澄み液3mLを試験管に入れ、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、1晩放置した。その後、該溶離液を遠心分離にかけ、更に沈殿物と上澄みに分け、該上澄み液はpHメーター(株式会社堀場製作所製)を用いてpHを測定し、pH1〜12における白金を含む沈殿物の沈殿率の変化を測定した。
実施例4のロジウム溶離液を遠心分離にかけ、上澄み液とチオ尿素とロジウムの錯体である沈殿物を分離した。
次いで、分離して得られた上澄み液3mLを試験管に入れ、80℃まで加熱し、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、濾過を行い、沈殿物と濾液に分離し、濾液はpH測定器(株式会社堀場製作所製)を用いてpHを測定し、pH1〜12におけるロジウムを含む沈殿物の沈殿率の変化を測定した。
実施例5乃至7の結果を図9乃至11に示す。尚、沈殿率は、沈殿前の溶離液中の金属濃度と沈殿後の溶離液中の金属濃度から算出した。
図9より、パラジウム溶離液の場合、pH6未満にするとパラジウムを含む沈殿物の沈殿率が60%を超え、pH1に近づくとパラジウムを含む沈殿物の沈殿率は100%になることが分かった。
図10より、白金溶離液の場合、pHに関係なく80%以上の沈殿率があるが、pHが9を超えた当たりから白金を含む沈殿物の沈殿率は100%程になることが分かった。
また、図11より、ロジウム溶離液の場合、低pH域では沈殿率が20%、pH5でも沈殿率が50%程しかないが、pHが10を超えるとロジウムを含む沈殿物の沈殿率が100%になることが分かった。
以上のことから、パラジウム溶離液はpH1未満、白金溶離液及びロジウム溶離液はpH10以上にすることで、白金族金属を効率よく回収できることが分かった。
Claims (4)
- (a)パラジウム、ロジウム、白金を含む自動車廃触媒等からなる白金族混合物を、塩酸溶液に浸出させて浸出液を作製する浸出工程と、(b)前記浸出液と、親水性処理を施さないで作成されたパラジウム吸着剤と、を第1吸着分離器内で接触させて前記パラジウムを分離回収する第1分離回収工程と、(c)白金吸着剤が充填された第2吸着分離器内に、前記第1分離回収工程で得られる第1分離回収後浸出液を前記ロジウムが吸着され難い速い空間速度で通液し、前記白金を分離回収する第2分離回収工程と、(d)前記第2分離回収工程後の第2分離回収後浸出液とロジウム吸着剤とを、撹拌式吸着槽内で固液比が1.5〜5g/Lの範囲で接触させて前記ロジウムをバッチ式に分離回収する第3分離回収工程と、を有し、(e)前記パラジウム吸着剤が、多孔質樹脂と、前記多孔質樹脂に担持された抽出剤と、を備え、(f)前記白金吸着剤及び前記ロジウム吸着剤が、弱塩基性イオン交換樹脂であることを特徴とする白金族の分離回収法。
- 前記抽出剤が一般式R1−S−R2(式中、R1及びR2は炭素原子数5〜10のアルキル基又はアリル基,アリール基であり、R1及びR2が同時に水素となることはない)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の白金族の分離回収法。
- 前記多孔質樹脂がエステル系合成吸着剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の白金族の分離回収方法。
- 前記第2分離回収工程がカラム法であり、前記第1分離回収後浸出液の前記空間速度が2〜10h-1であることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1に記載の白金族の分離回収法。
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