ここで、空調ユニットに空気を取り込むための吸気口は、一般にエンジン近傍に設けられることが多い。車両の走行中、エンジンは非常に高温になるため、送風モードでは、エンジンの熱(以下、エンジン熱と称する)によって温められた温風が車室内に供給されてしまうことがある。また、フロントフード、すなわち車体前部の車両前後方向の幅が短いトラック等の車両では、外部からの空気の進入口から吸気口までの送風路が短い。このため、送風路において夏場の暑い時期の空気を冷ますことが難しく、上記と同様に車室内に温風が供給されてしまうことがある。更に、吸気口からごみ等が進入すると、空調ユニットの動作不良が生じるおそれがある。特許文献1の構成では、水の持ち込みについては防げるものの、上述した課題を解決することができない。
本発明は、このような課題に鑑み、送風モードにおける温風の車室内への供給、および空調ユニットへのごみ等の進入を防ぐことが可能な車両前部構造を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両前部構造の代表的な構成は、車両のエンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルと、ダッシュパネルに形成されダッシュパネルの車室側に配置された空調ユニットに外気を導入する吸気口とを備える車両前部構造であって、ダッシュパネルの前面に吸気口に被さるように固定される後方に開口した箱型のエアインテークボックスであって、吸気口の上下方向寸法の2倍以上の前後方向寸法を有し、前面に通気孔が形成されているエアインテークボックスと、エアインテークボックス内に配置され前方から見て少なくとも吸気口に重なるカバーと、エアインテークボックスの上方を覆ってエアインテークボックスの前端よりも前方まで延びるカウルトップガーニッシュとをさらに備えることを特徴とする。
上記構成によれば、吸気口は、上方がエアインテークボックスの上面やカウルトップガーニッシュによって覆われ、前方がカバーによって覆われる。このため、水、ほこりやごみ等の吸気口への進入を抑制することができる。またエアインテークボックスの下面が存在することにより、下方からの空気の取り込みが行われない。これにより、車両前部の下方に配置されるエンジンの周辺においてその熱の影響を受けた空気、すなわちエンジン熱によって温められた空気(以下、温風と称する)の直接の取り込みを防ぐことができる。したがって、送風モードにおける車室内への温風の供給を抑制することができる。
更に、エアインテークボックスの前後方向の寸法が吸気口の上下方向寸法の2倍以上に設定されることにより、エアインテークボックスの下面の面積を十分に確保することができる。これにより、エンジン熱の影響を受けた下方の空気は、前方に長い下面を回りこんだ後にエアインテークボックス内に吸い込まれる。したがって、エンジン熱の影響が低減された空気を空調ユニット、ひいては車室内に供給することが可能となる。
またエアインテークボックスの前後方向の寸法が吸気口の上下方向寸法の2倍以上に設定されることで、エアインテークボックス内において広い空間が確保される。これにより、エアインテークボックス内に空気を取り込む際の吸込圧を低下させることができる。したがって、取り込まれる際の空気の圧縮、ひいてはそれに起因する温度上昇を防ぐことができる。また圧縮された空気であれば、エアインテークボックス内において圧が解放されるため、空気の温度を低下させることが可能となる。このように、圧縮による空気の温度上昇を防ぎ、また圧の解放により空気の温度を低下させることができるため、送風モードにおける車室内への温風の供給を抑制することが可能となる。
上記エアインテークボックスの下面は、前方に向かうにしたがって下方に傾斜しているとよい。かかる構成により、エアインテークボックス内部に雨水等の水が浸入しても、その水は下面の傾斜に沿って前方側、すなわち吸気口から遠ざかる方向に流れる。このように水を吸気口から離れた位置までガイドすることで、吸気口内への水の浸入をより好適に防ぐことが可能となる。
またエアインテークボックスの下面が下方に傾斜していることにより、仮に下面にごみ等が堆積しても、そのごみが吸気口に進入するためには、ごみは、吸気口に向かって昇り坂になっている下面を上るように移動しなくてはならない。下面が水平であれば、ごみはそれを車両後方に移動させる力のみで吸気口に至ってしまうが、上記構成によれば、ごみが吸気口に進入するためには、車両後方に移動させる力に加えて、上方に移動させる力が必要となる。このため、ごみ等の吸気口への進入を更に抑制することが可能となる。
上記エアインテークボックスは、その前面、側面および上面の少なくとも1面に開口部を有するとよい。これにより、エアインテークボックス内に空気が入り込みやすくなるため、吸気口においても空気を取り込みやすくなる。またエアインテークボックス内の空気の流れが開放状態になるため、空気の圧を解放させる効果、ひいては放熱効果をより高めることができる。
また上記の開口部や、エアインテークボックスの前面に形成されている通気孔は、格子状であるとよい。これにより、通気孔による空気の取り入れ、および開口部による効果を得ながらも、エアインテークボックス内へのごみ等の進入を好適に防ぐことが可能となる。
上記カウルトップガーニッシュは、吸気口の車両内側の縁から少なくとも吸気口の上下方向寸法分以上に車両内側に移動した位置まで車両内側に延びているとよい。これにより、エアインテークボックスに側方から取り込まれる空気においても、カウルトップガーニッシュの延長部分を回りこんでからエアインテークボックス内部に取り込まれる。このように空気が取り込まれるまでの通過経路を長くすることにより、放熱効果を高めることができる。
上記カバーは、吸気口の上縁に沿ってダッシュパネルの前面に固定され、前方に向かうにしたがって下降して吸気口を覆い、当該車両前部構造は、ダッシュパネルの前面のカバーの固定箇所の上でビード状に前方に突出し車両側方に向かうにしたがって下方に傾斜するガイド形状をさらに備えるとよい。
上記構成により、車両前部の隙間、例えばカウルトップガーニッシュとダッシュパネルとの隙間から水が浸入しても、その水は、ガイド形状に沿って下方に移動し、エアインテークボックスの下面に落下する。したがって、吸気口への水の浸入防止効果を更に高めることが可能となる。
上記エアインテークボックスは、その前面の下端近傍に排水孔を有するとよい。これにより、エアインテークボックス内の水を排水孔を通じて外部に排水できるため、エアインテークボックス内における水の貯留を防ぐことができる。
本発明によれば、送風モードにおける温風の車室内への供給、および空調ユニットへのごみ等の進入を防ぐことが可能な車両前部構造を提供することができる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
図1は、本実施形態にかかる車両前部構造100の斜視図である。図1に示すように、本実施形態の車両前部構造100では、カウルトップパネル102(フロントフードとも称される)によって車両前部の上面が構成され、その前端に車両前面の上部を構成するフロントエンドパネル104が取り付けられている。フロントエンドパネル104の下端には、車両前面の下部を構成するフロントフェンダパネル106が取り付けられている。またカウルトップパネル102の後方には、フロントウインドウ108(ウインドシールドとも称される)が配置されている。
図2は、図1のA−A断面図である。図2に示すように、フロントエンドパネル104およびフロントフェンダパネル106の車両後方側にダッシュパネル110が配置されている。このダッシュパネル110により、車両前部構造100において、エンジン(不図示)が配置されるエンジンルーム100aと車室100bとが区画される。ダッシュパネル110の車室側には、車室100bに供給する空気の温度を調整する空調ユニット120が配置されている。
図3は、図1に示す車両前部構造100の内部構造を示す図であり、図3(a)は図1に示す車両前部構造100の内部の左上部分の拡大斜視図であり、図3(b)は図1に示す車両前部構造100の内部に配置されるダッシュパネルの左上部分を示す拡大斜視図である。図4は、図3(a)に示すエアインテークボックス130の拡大斜視図であり、図4(a)はエアインテークボックス130を上方から観察した拡大斜視図であり、図4(b)はエアインテークボックス130を前方から観察した拡大斜視図である。
図2および図3(b)に示すように、ダッシュパネル110には、空調ユニット120に外気を導入する吸気口112が形成されている。ダッシュパネル110において、吸気口112近傍の背面には、空調ユニット120のダクト122が接合されている。これにより、吸気口112に浸入した空気がダクト122を通過して空調ユニット120に取り込まれる。
また図2に示すように、本実施形態の特徴として、ダッシュパネル110において、吸気口112近傍の前面には、エアインテークボックス130およびカバー140が取り付けられる。本実施形態のエアインテークボックス130は、後方側の面が開口した箱型形状であり、吸気口112に被さるようにダッシュパネル110の前面に固定される。図3(a)に示すように、エアインテークボックス130の前面130aには通気孔132aが形成されている。これにより、エアインテークボックス130内に空気を取り入れ、吸気口112を通じてその空気を空調ユニット120に供給することが可能となる。
図2に示すように、本実施形態では、エアインテークボックス130の前後方向寸法L1は、吸気口112の上下方向寸法H1の2倍以上になるように設定される。これにより、エアインテークボックス130の下面130bにおいて車両前方に広い面積を確保することができる。このため、吸気口112より下方においてエンジン熱によって温められた温風は、エアインテークボックス130の下面130bに遮られるためエアインテークボックス130内に浸入できない。したがって、エンジン熱の影響を受けた温風の吸気口112への直接的な取り込みを防ぐことができ、送風モードにおける車室100b内への温風の供給を抑制することができる。
また、エンジン熱の影響を受けた温風は、前方に長いエアインテークボックス130の下面130bを回り込まないとエアインテークボックス130内に進入できないため、回り込んでいる間に温度が低下する。したがって、エンジン熱の影響が低減された空気を空調ユニット120、ひいては車室100b内に供給することができる。
更に、エアインテークボックス130の前後方向の寸法が吸気口112の上下方向寸法の2倍以上に設定されることでその内部において広い空間が確保されるため、エアインテークボックス130内に空気を取り込む際の吸込圧が低下する。これにより、エアインテークボックス130内に取り込まれる際に空気が圧縮されにくくなるため、圧縮に起因する空気の温度上昇を抑制することができる。
ここで、図2に示すように、例えばカウルトップパネル102とフロントウインドウ108との間や、フロントエンドパネル104とフロントフェンダパネル106との間は隙間が極めて狭い。このため、カウルトップパネル102とフロントウインドウ108との間から取り込まれる空気Bや、フロントエンドパネル104とフロントフェンダパネル106との間から取り込まれる空気Cは、取り込まれる際に圧縮され、温度が上昇する可能性がある。これに対しても、本実施形態のようにエアインテークボックス130の前後方向の寸法が吸気口112の上下方向寸法の2倍以上に設定することで、エアインテークボックス130内において広い空間を確保することができる。したがって、その広い空間において圧縮された空気の圧を解放し、空気の温度を下げることが可能である。
また図2に示すように、本実施形態では、エアインテークボックス130の下面130bを前方に向かうにしたがって下方に傾斜させている。これにより、エアインテークボックス130内にごみ等が進入し、下面130bに堆積しても、そのごみの吸気口112への進入を防ぐことができる。
詳細には、仮に下面130bが水平であった場合、ごみはそれを車両後方に移動させる力のみで吸気口112に至ってしまう。これに対し、本実施形態のように下面130bが前方に向かうにしたがって下方に傾斜している場合、ごみは、吸気口112に向かって昇り坂になっている下面130bを上るように移動しなくてはならず、そのためには車両後方に移動させる力に加えて、上方に移動させる力が必要となる。したがって、ごみが吸気口112に向かって移動しづらくなるため、吸気口112へのごみの進入を抑制することが可能となる。
更に、エアインテークボックス130の下面が前方に向かうにしたがって下方に傾斜していることで、エアインテークボックス130内部に雨水等の水が浸入しても、その水は、下面130bの傾斜に沿って車両前方(矢印D方向)に向かって移動する。したがって、浸入した水を吸気口112から離れた位置までガイドすることができ、吸気口112内ひいては空調ユニット120への水の浸入を防ぐことが可能となる。
また本実施形態では、図4(a)および(b)に示すように、エアインテークボックス130の前面130aの下端近傍に排水孔134を設けている。これにより、上述したように下面130bの傾斜によってエアインテークボックス130内の前方に導かれた水を、排水孔134を通じて外部に排水することができる。したがって、エアインテークボックス130内における水の貯留を防ぐことができる。
更に本実施形態では、図4(a)および(b)に示すように、エアインテークボックス130では、その前面130aに設けた通気孔132aに加え、側面130cおよび上面130dにも、開口部である通気孔132cおよび通気孔132dを設けている。そして、それらの通気孔132a・132c・132dを格子状としている。これにより、エアインテークボックス130内に空気が入り込みやすくなるため、吸気口112においても空気を取り込みやすくなり、エアインテークボックス130内の空気の流れが開放状態になることで、空気の圧を解放させる効果、ひいては放熱効果をより高めることが可能となる。また通気孔132a・132c・132d(開口部)が格子状であることにより、上記の効果を得ながらも、エアインテークボックス130内へのごみ等の進入を好適に防ぐことが可能となる。
なお、本実施形態では、側面130cおよび上面130dの両方に開口部である通気孔132c・132dを設けたが、これに限定するものではなく、いずれか一方の面のみに設けてもよいし、更に他方の側面130eにも通気孔を設けてもよい。また、通気孔132a・132c・132dの形状についても、必ずしもすべての通気孔を格子状にする必要はなく、必要に応じて適宜変更することが可能である。
更に、本実施形態では、通気孔132a・132c・132dを格子状とする構成を例示して説明したが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、通気孔132a・132c・132dを単なる開口とし、その開口に網状の部材を配置したり、パンチングメタルのように複数の開口によって通気孔132a・132c・132dを構成したりすることによっても同様の効果を得ることが可能である。
図2に示すように、上述したエアインテークボックス130の上方には、カウルトップガーニッシュ150が配置される。カウルトップガーニッシュ150は、後端がダッシュパネル110に固定され、エアインテークボックス130の上面130dを覆うように前方に延びる。これにより、吸気口112の上方がカウルトップガーニッシュ150によって覆われるため、水やほこり等のごみや水の上方からの吸気口112への進入を防ぐことができる。
本実施形態において、カウルトップガーニッシュ150の前端は、エアインテークボックス130の前端よりも前方に位置する。これにより、エアインテークボックス130の上面130dは、すべてカウルトップガーニッシュ150によって覆われる。これにより、上述したようにエアインテークボックス130の上面130dに通気孔132dを設けた場合であっても、その通気孔132dがカウルトップガーニッシュ150によって覆われる。これにより、通気孔132dからの水やほこり等のごみの進入を防ぐことが可能となる。
また本実施形態では、図3(a)に示すように、カウルトップガーニッシュ150は、吸気口112(図3(b)参照)の車両内側の縁から、その吸気口112の上下方向寸法H1分、車両内側に向かって延びている。これにより、エアインテークボックス130の側面130cに設けられた通気孔132c(図4(a)参照)から空気が取り込まれる際に、空気は、車幅方向に広いカウルトップガーニッシュ150の延長部分を回り込むこととなる。したがって、空気が取り込まれるまでの通過経路を長くなるため、放熱効果を高めることが可能である。
なお、本実施形態では、吸気口112の車両内側の縁から、その吸気口112の上下方向寸法H1分、カウルトップガーニッシュ150を延長する構成について例示したが、これに限定するものではない。カウルトップガーニッシュ150は、少なくとも吸気口112の上下方向寸法H1分以上延長されていればよく、図3(a)より更に車両内側に向かって延長させてもよい。
図5は、カバー140の詳細図であり、図5(a)は図1に示す車両前部構造100の内部に配置されるダッシュパネル110にカバー140を取り付けた状態の拡大斜視図であり、図5(b)は図5(a)の拡大斜視図である。なお、理解を容易にするために、図5(a)ではエアインテークボックス130を破線にて図示している。
図2および図5(a)に示すように、エアインテークボックス130内には、前方から見て吸気口に重なるカバー140が配置される。カバー140は、吸気口112の上縁に沿ってダッシュパネル110の前面に固定され、前方に向かうにしたがって下降して吸気口112を覆う。このように吸気口112の前方がカバー140によって覆われることで、前方からの水、ほこりやごみ等の吸気口112への進入を抑制することができる。
また本実施形態では、図2、図5(a)および(b)に示すように、カバー140にはフランジ142が形成されている。そして、このフランジ142に、ダッシュパネル110の前面のカバー140の固定箇所の上でビード状に前方に突出し車両側方に向かうにしたがって下方に傾斜するガイド形状144を設けている。これにより、仮にカウルトップガーニッシュ150とダッシュパネル110との隙間から水が浸入しても、その水は、図5(b)の矢印に示すようにガイド形状144に沿って下方に移動し、その下端においてエアインテークボックス130の下面に落下する。したがって、カバー140の水捌けを促進することができ、吸気口112への水の浸入防止効果を更に高めることが可能となる。
上記説明したように、本実施形態の車両前部構造100によれば、吸気口112が、上方がエアインテークボックス130の上面130dやカウルトップガーニッシュ150によって覆われ、前方がカバー140によって覆われるため、水、ほこりやごみ等の吸気口112への進入を防ぐことができる。またエアインテークボックス130の前後方向の寸法が吸気口112の上下方向寸法の2倍以上に設定されることにより、温風の放熱を促進できる。したがって、送風モードにおける温風の車室100b内への供給を抑制することが可能となる。
なお、本実施形態では、エアインテークボックス130とカバー140とを別部品とした構成を例示したが、これに限定するものではなく、それらは一体であってもよい。その場合、エアインテークボックス130の内部に、その上面130dから下方に向かって立設する壁部をカバー140としてもよい。ただし、上面130dに通気孔132dが設けられる場合には、壁部は通気孔132dより車両後方側に設定する必要がある。また、エアインテークボックス130とカバー140とを一体とする場合や、カバー140にフランジを設けない場合には、ダッシュパネル110の前面において吸気口112の上方近傍に、上述したガイド形状を設けるとよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。