JP6011248B2 - 転炉における溶銑の予備処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、転炉を用いた溶銑の予備処理方法に関し、詳しくは、予め脱珪処理されていない溶銑を効率良く脱珪処理し且つ脱燐処理するための予備処理方法に関する。
近年、溶銑の予備処理方法(脱珪処理、脱燐処理、脱硫処理)の開発が進み、転炉に装入される溶銑の燐、硫黄の濃度は、それ以上に除去する必要のないレベルまで低減され、転炉では主に脱炭精錬のみを行う製鋼精錬プロセスが完成しつつある。脱珪処理及び脱燐処理は、溶銑中の珪素或いは燐が溶銑に供給される酸素源(酸素ガスや酸化鉄)中の酸素によって酸化除去される反応であり、脱硫処理は、CaOなどの脱硫剤と溶銑中の硫黄とが反応して硫黄が除去される反応である。
特に脱燐処理は、下記の(1)式に脱燐反応を示すように、溶銑中の燐が酸素源中の酸素によって酸化されて生成する燐酸化物(P25)を、脱燐精錬剤として添加するCaO含有物質で固定することで行われている。
Figure 0006011248
但し、(1)式において、[P]、[Fe]は溶銑中の成分、(FeO)、(CaO)、(3CaO・P25)はスラグ中の成分を示している。つまり、溶銑中の燐(=P)がFeOによって酸化され、この酸化反応によって生成したP25がCaOと反応し、CaO含有物質の滓化によって生成されるスラグに吸収されるという反応である。
即ち、脱燐処理では、脱燐平衡の観点から、生成される燐酸化物(P25)をスラグで吸収するために、スラグの塩基度(=(質量%CaO)/(質量%SiO2))を所定の値以上に確保する必要がある。従来、脱燐反応を促進させるためにはスラグの塩基度を1.5〜3.0の範囲内に制御する必要のあることが一般的にいわれている。
ところで、高炉から出銑される溶銑には、0.3〜0.4質量%程度の珪素が含有されている。溶銑に酸素源を供給した場合、熱力学的に、溶銑中の珪素は溶銑中の燐よりも優先的に酸化されることから、脱燐処理前の溶銑中の珪素濃度が高い場合には、つまり、脱燐処理におけるSiO2の発生量が多い場合には、スラグの塩基度を所定の値に確保するためのCaO含有物質の使用量が多くなるのみならず、スラグの発生量が多くなり、製造コストを上昇させる。
そこで、転炉を用いて脱珪処理されていない溶銑を脱珪処理し、この脱珪処理に引き続いて脱燐処理する際に、前記問題を解決するために、脱珪処理後に一旦精錬を停止し、脱珪処理で生成された、SiO2を主成分とするスラグを転炉から排出し(「中間排滓」と呼ぶ)、炉内のスラグ量を減少させ、塩基度を確保するために脱燐処理で使用するCaO含有物質を低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
前述したように、脱燐処理を効率的に行うためにはスラグの塩基度を所定の値に制御することが効果的である。従って、特許文献1のように、脱珪処理、中間排滓、脱燐処理を1つの転炉で連続して行う場合に、脱燐処理で使用するCaO含有物質を低減した上で、脱燐処理におけるスラグの塩基度を所定の値に確保するためには、脱珪処理終了時の溶銑中珪素濃度を或る特定の範囲に制御することが必要になる。
この課題に対して、特許文献2は、溶銑中珪素濃度が0.20質量%以下になった以降に、中間排滓を行うことが最適であることを提案している。これは、脱珪処理終了時の溶銑中珪素濃度が0.20質量%よりも高い場合には、スラグの塩基度を2.0に調整するために必要なCaO含有物質が多くなりすぎ、コスト的に不利になるからとしている。一方、溶銑中珪素濃度が0.03質量%より低くなると脱珪効率が低下するので、溶銑中珪素濃度が0.03質量%以上の時点で中間排滓を行うことが好ましいとしている。
このように、脱珪処理後に中間排滓する場合には、脱珪処理の終了時点を正しく判定する必要があるが、脱珪処理時に供給される酸素ガスは、脱珪反応(Si+2O→SiO2)のみに供されるものではなく、溶銑中の炭素とも反応(C+O→CO)する。また、鉄鉱石などの固体酸素源も、脱珪反応以外に脱炭反応に寄与しており、従って、脱珪処理時に投入する酸素源の供給量だけからは、溶銑中の珪素濃度は推定できず、脱珪処理の終了時点を判定するのが困難である。
これに対して、特許文献3は、転炉を用いて溶銑を脱珪処理する際に、炉内から排出される排ガスの組成を分析し、排ガス中の窒素ガス濃度が30〜60体積%の範囲内の時点で脱珪処理を終了することで、溶銑の珪素濃度を0.2質量%近傍に制御できることを開示している。しかしながら、特許文献3は、単に脱珪処理終了時の珪素濃度の制御を行っているだけで、中間排滓時のスラグの流動性については考慮しておらず、スラグの性状によっては転炉の傾動だけでは排滓できない可能性がある。
転炉内のスラグのフォーミング及び滓化状況を検出する技術として特許文献4が提案されているが、特許文献4は、スラグのフォーミング及び滓化状況を検出するだけで、どのようにすればフォーミングが抑制されるか、或いは、どのようにすれば滓化が促進されるかは、何ら開示していない。
一方、脱燐処理においては、脱燐精錬剤として添加するCaO含有物質の滓化を促し、脱燐反応をより一層促進させるために、CaF2、Na2CO3、CaCl2などの媒溶剤が用いられてきた。
近年、製鋼スラグは路盤材や埋め立て材或いは製鋼精錬工程でのCaO源としてリサイクル使用されるようになっているが、それに伴って転炉スラグ中に含まれるフッ素(F)やナトリウム(Na)などの存在が問題になっている。これは、転炉スラグ中のフッ素やナトリウムなどが雨水や地下水によって溶出し、環境及び人体に悪影響を与える恐れがあるからである。そのために、最近では、環境調和を目的として、媒溶剤としてフッ素化合物やナトリウム化合物などを用いずに、溶銑の脱燐処理を効率的に行う技術の確立が求められている。
また、溶銑の脱燐処理では、CaO含有物質の滓化を促進させる上で、フッ素やナトリウム以外に、FeOの作用を利用することが必要であり、これを目的とした研究も進められている。同時に、スラグの性状を決定する上で重要な因子であるSiO2の生成量とCaO含有物質の投入速度との比を制御することも、溶銑の脱燐処理では重要である。
転炉での溶銑の酸化精錬(脱燐処理、脱炭精錬)でスラグ中のFeO量を制御する従来技術の例として、特許文献5が提案されている。特許文献5には、酸素吹錬開始以前に過去実績を参照して鋼種毎に目標とするスラグ中FeO量の推移を設定し、精錬中、送酸量、投入副原料情報、排ガス情報から実績FeO量を逐次算出し、算出された実績FeO量が目標とするFeO量の推移に近づくように、上吹きランスの送酸速度、ランス高さ、底吹きガス流量の何れか1つまたは2以上を制御する技術が開示されている。しかしながら、特許文献5は、スラグ中のFeO量の推移と脱燐反応との関係については明らかにしていない。
スラグ中のFeO量を制御する他の例として、特許文献6には、脱燐炉及び脱炭炉の2基の転炉を用いる高炭素極低燐鋼の溶製方法において、脱燐炉での脱燐精錬に際し、吹錬中の排ガス組成や流量、酸素ガス流量、副原料投入量及び溶銑成分から酸素バランスを逐次計算することにより求められる蓄積酸素量に基づいて炉内のFeO生成量を推定し、その推定したFeO量に応じて、上吹きランス高さ、酸素ガス流量、底吹きガス流量のうちの少なくとも何れか一つを調整して、処理後の溶銑中燐濃度を0.015質量%以下まで低減する技術が開示されている。しかしながら、特許文献6は、溶銑の脱燐処理での操業上重要な指標であるスラグの塩基度については記載していない。
また、フッ素化合物を使用せずに溶銑を脱燐処理する技術として、特許文献7には、溶銑の脱珪脱燐処理を行う際に、粒径1mm以下の微粉CaO源を上吹き酸素とともに吹き付ける方法と、直接溶銑中に吹き込む方法とを併用し、更に、溶銑中の珪素濃度が0.2質量%以上の場合には、粒径1mm以下の微粉CaO源に加えて粒径5mm以上の脱炭滓(転炉スラグ)を上方添加し、脱燐処理後のスラグ塩基度を1.8〜2.2とし、処理開始2分後のスラグ塩基度を1.0〜1.4、処理開始5分後のスラグ塩基度を1.4〜1.8とする技術が提案されている。
しかしながら、特許文献7は、CaO含有物質の滓化速度に直接影響するFeO生成量を逐次モニタリング・制御することはなく、投入するCaO含有物質の質量と、生成するSiO2の質量との比を規定しているだけである。
特開平10−152714号公報 特開平11−323420号公報 特開2003−277819号公報 特開平5−255726号公報 特開昭61−159520号公報 特開2006−206930号公報 特開2010−150574号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、1つの転炉を用い、予め脱珪処理されていない溶銑を脱珪処理し、この脱珪処理後に中間排滓を行い、その後、引き続いて脱燐処理して溶銑を予備処理するにあたり、脱珪処理時の精錬を制御することで、スラグの組成を、中間排滓が可能な組成に脱珪処理の所定時間内に調整するとともに、中間排滓時点の溶銑中珪素濃度を0.20質量%以下に制御することができ、生産性を向上させることができるとともに、中間排滓後の脱燐処理では過剰なCaO含有物質の投入をも回避することのできる、転炉における溶銑の予備処理方法を提供することである。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]上吹きランスから酸素ガスを供給するとともに底吹き羽口から攪拌用ガスを吹き込んで予め脱珪処理されていない溶銑を転炉にて脱珪処理し、その後、脱珪処理で生成したスラグを転炉から排出し、スラグの排出後、引き続いて脱燐処理して溶銑を予備処理するにあたり、脱珪処理中に、上吹きランスからの酸素ガス流量、精錬中の排ガスの組成、排ガスの流量、副原料投入量及び溶銑成分から酸素バランスを逐次計算することにより求められる不明酸素量に基づいて炉内スラグ中のFeO濃度を推定し、推定したFeO濃度の推移に照らし合わせて、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹き羽口からの攪拌用ガス流量の3種のうちの少なくとも何れか1種を調整し、この調整により、脱珪処理開始時から9分間経過する時点までに、炉内スラグのFeO濃度を3.0〜30質量%の範囲に調整し、その後、一旦前記上吹きランスからの酸素ガスの供給を中断して炉内スラグの少なくとも一部を転炉から排出し、炉内スラグの排出後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を再開して脱燐処理を行うことを特徴とする、転炉における溶銑の予備処理方法。
[2]脱珪処理開始時から7分間経過する時点までに、炉内スラグのFeO濃度を3.0〜30質量%の範囲に調整することを特徴とする、上記[1]に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
[3]脱珪精錬中、溶銑中の珪素濃度が0.30質量%以上である段階では、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹き羽口からの攪拌用ガス流量の3種のうちの上吹きランスからの酸素ガス流量を選択して上吹きランスからの酸素ガス流量を調整し、一方、溶銑中の珪素濃度が0.30質量%未満である段階では、前記3種のうちの上吹きランスのランス高さを選択して上吹きランスのランス高さを調整することを特徴とする、上記[1]または上記[2]に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
[4]脱燐処理では、スラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))が0.4〜5.5の範囲内となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するFeO量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加することを特徴とする、上記[1]ないし上記[3]の何れか1項に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
[5]脱珪処理では、スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が0.8〜1.2となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するSiO2量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加し、且つ、脱燐処理では、スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が1.0〜1.8の範囲内となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するSiO2量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加することを特徴とする、上記[1]ないし上記[4]の何れか1項に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
本発明によれば、上吹き酸素ガス及び攪拌用底吹き不活性ガスを備えた転炉における溶銑の脱珪処理、この脱珪処理後の中間排滓、この中間排滓後の溶銑の脱燐処理からなる溶銑の予備処理において、炉内スラグ中のFeO濃度を推定し、推定したFeO濃度の推移に照らし合わせて、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹き羽口からの攪拌用ガス流量のうちの少なくとも何れか1種を調整し、この調整により、脱珪処理開始時から所定の時間経過する時点までに、炉内スラグのFeO濃度を3〜30質量%の範囲に調製するので、脱珪処理終了時つまり中間排滓時の溶銑中珪素濃度を0.20質量%以下に安定して制御することができるとともに、スラグの組成は、中間排滓が可能な組成に調整され、その結果、中間排滓後の脱燐処理では過剰なCaO含有物質の投入を回避することができると同時に、脱珪処理開始から脱燐処理終了までを効率的に行うことが実現され、生産性の向上が達成される。
本発明を実施する際に用いる転炉設備の概略断面図である。 中間排滓時のスラグ中FeO濃度と、中間排滓後の溶銑中珪素濃度との関係を示す図である。 脱燐処理後の溶銑中燐濃度に及ぼす脱燐処理後のスラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))の影響を、添加条件1と添加条件2とで比較して示す図である。 添加条件2において、脱珪処理時のスラグ塩基度を0.5〜2.0の範囲で変化させたときに中間排滓時でのスラグ中の未滓化CaOの残留量を示す図である。 添加条件2において、脱燐処理時のスラグ塩基度を0.5〜2.5の範囲で変化させたときのスラグ塩基度と脱燐処理後の溶銑中燐濃度との関係を示す図である。 脱珪処理開示時から7分間経過した時点におけるスラグ中FeO濃度に及ぼす送酸速度、ランス高さの影響を示す図である。 脱珪処理におけるスラグ中FeO濃度の推移の例を、本発明例と比較例とで対比して示す図である。
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明を適用する転炉設備を説明する。図1は、本発明を実施する際に用いる転炉設備の1例の概略断面図である。
図1において、溶銑16を収容した転炉本体1の内部には、上方から上吹きランス2が挿入され、この上吹きランス2から酸素ガスが溶銑16に吹き付けられると同時に、転炉本体1の底部に配置した複数の底吹き羽口3から、Arガスや窒素ガスなどの不活性ガスからなる攪拌用底吹きガスが吹き込まれて溶銑16とスラグ17とが攪拌されながら、溶銑16の脱珪処理並びに脱燐処理が行われる。また、上吹きランス2への酸素ガス供給流路は、上吹きランス2に接続する前に分岐して生石灰(CaO)、石灰石(CaCO3)、焼成ドロマイト(MgO−CaO)などのCaO含有物質19を収容するディスペンサー18に接続し、ディスペンサー18を経由した酸素ガスが前記酸素ガス供給流路に再度連結しており、ディスペンサー18に収容されたCaO含有物質19が酸素ガスを搬送用ガスとして、上吹きランス2を介して溶銑16に吹き付け添加(投射)されるように構成されている。即ち、酸素吹錬の任意の期間に、任意の量のCaO含有物質19を溶銑16に投射して酸素吹錬を行うことができるように構成されている。CaO含有物質19は、脱珪処理では生成するスラグ17の塩基度調整用として機能し、脱燐処理では生成する燐酸化物(P25)を吸収する脱燐精錬剤として機能する。溶銑16の脱珪処理及び脱燐処理により、炉内からCOガスを含有する排ガスが発生する。
転炉本体1の上方には煙道4が設置され、煙道4の後段には、一次集塵機8、二次集塵機9、排ガス流量計11、誘引送風機12が、この順に設置されている。この排ガス処理設備は、排ガス中のCOガスを、冷却して除塵し未燃焼のまま回収する、非燃焼方式の排ガス処理設備(「OG式排ガス回収設備」ともいう)であり、この排ガス回収設備では、誘引送風機12の下流側に、更に、三方弁、煙突、回収弁、ガスホルダーなどが配置されるが図1では省略している。二次集塵機9として設置したPAベンチュリーには、PAダンパー10が設置されており、PAダンパー10の開度調整により転炉本体1の炉内圧が制御されるようになっている。つまり、脱珪処理及び脱燐処理によって転炉本体1の内部で発生する排ガスは、PAダンパー10によって流量制御されながら、電動機(図示せず)によって駆動される誘引送風機12で吸引され、ガスホルダーに回収されるようになっている。排ガス中のCOガス濃度が低い場合には、ガスホルダーで回収せず、煙突先端部で燃焼された後に大気に放出される。
煙道4の転炉本体1の炉口との接続側は、スカート5と呼ばれており、上下移動が可能な構造となっており、排ガスを回収する場合には、スカート5と転炉本体1の炉口とは原則的には密着した状態になる。また、煙道4には、CaO含有物質19としての生石灰や焼成ドロマイト、更には、鉄鉱石、ミルスケール、マンガン鉱石、コークス、黒鉛及び合金鉄(Fe−Mn、Fe−Siなど)などの副原料を転炉本体1に投入添加するための、ホッパー(「炉上ホッパー」ともいう)6及び投入シュート7などからなる副原料投入装置が設置されている。副原料投入装置から炉内に投入される生石灰、焼成ドロマイト、鉄鉱石、ミルスケールなどによってスラグ17が形成される。
煙道4には、脱珪処理及び脱燐処理によって転炉本体1の内部で発生する排ガスを採取するためのガス採取プローブ13が設置され、ガス採取プローブ13で採取された排ガスは、ガス分析装置14に送られ、ガス分析装置14において、排ガス中のCOガス濃度、CO2ガス濃度、水素ガス濃度及び酸素ガス濃度が測定される。これらの合計値と100質量%との差分が窒素ガスとして求められる。この場合に、底吹き羽口3から攪拌用底吹きガスとしてArガスを吹き込むときには、更にArガス濃度を差し引いて窒素ガス濃度が求められる。そして、測定された排ガス組成は演算装置15に送信されている。また、演算装置15には、上吹きランス2から炉内に供給される酸素ガスの流量、副原料投入装置によって投入される副原料の投入量、及び、排ガス流量計11で測定される排ガスの流量が送信されている。
この演算装置15は、脱珪処理中の酸素バランスを逐次計算し、計算した酸素バランスから求められる不明酸素量に基づいて、炉内のスラグ17のFeO濃度を推定し、推定したFeO濃度の推移を表示する装置である。以下、この演算装置15によるスラグ17のFeO濃度の推定方法及び推定値の推移を表示する方法を説明する。
演算装置15は、先ず、下記の(2)式を用いて精錬中にオンラインで不明酸素量を逐次算出する。
Figure 0006011248
但し、(2)式において、ΔWO2は、酸素吹錬開始時から時刻ti(秒)までの不明酸素量(Nm3/溶銑t)、Aは、上吹きランス2からの酸素ガス流量(Nm3/溶銑t)、Bは、投入副原料中の酸素ガス流量(Nm3/溶銑t)、Cは、転炉炉口での巻き込み空気中の酸素ガス流量(Nm3/溶銑t)、Dは、排ガス中のCOガス流量(Nm3/溶銑t)、Eは、排ガス中のCO2ガス流量(Nm3/溶銑t)、Fは、溶銑成分、具体的には溶銑中の珪素、マンガン、燐の酸化に消費される酸素ガス流量(Nm3/溶銑t)、Gは排ガス中の酸素ガス流量(Nm3/溶銑t)、tは時刻(秒)であり、時刻の添え字iは、吹錬開始時からi番目の計算であることを示している。ここで、不明酸素量(ΔWO2)は、炉内に供給される酸素量と炉外に排出される酸素量との差分であることから、炉内に酸化物として蓄積される酸素量を意味している。
尚、溶銑成分(Si、Mn、P)の変化は、予め脱珪処理中に求めた実績値に基づいて作成したモデル式を利用するものとする。即ち、化学分析により求めた脱珪処理前の溶銑16の化学組成を初期値とし、脱珪処理中のSi、Mn、Pの濃度推移を実績値に基づいて設定する。また、投入副原料中の酸素ガス流量(B)は、酸化鉄形態の副原料によって炉内に供給される酸素を酸素ガスに換算したものであり、例えば、酸化鉄形態の副原料が鉄鉱石の焼結鉱の場合には、「B(Nm3/溶銑t)=焼結鉱投入量(kg/溶銑t)×0.15」、鉄鉱石の場合には、「B(Nm3/溶銑t)=鉄鉱石投入量(kg/溶銑t)×0.20」で求めることができる。つまり、酸素ガス流量(B)は、酸化鉄形態の副原料中の酸素含有量とその添加量とから求めることができる。また、巻き込み空気中の酸素ガス流量(C)は、排ガス中の窒素ガス濃度から求めることができる。つまり、攪拌用底吹きガスが窒素ガスでない場合には、酸素ガス流量(C)は排ガス中の窒素ガス流量(Nm3/溶銑t)の1/4とすればよく、攪拌用底吹きガスが窒素ガスの場合には、排ガス中の窒素ガス流量から攪拌用窒素ガス流量を差し引いた値を巻き込み空気中の窒素ガス流量とし、この窒素ガス流量から酸素ガス流量(C)を求めればよい。
次いで、演算装置15は、上記のようにして求めた不明酸素量(ΔWO2)に基づき、下記の(3)式を用いて、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに炉内で生成したFeO量を推定する。
Figure 0006011248
但し、(3)式において、FeOiは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに炉内で生成したFeO量(kg/溶銑t)である。尚、(3)式は、「不明酸素量(ΔWO2)は、全てFeOの生成に使用される」という考え方で導出したものである。
一方、精錬中のスラグ17の質量は、下記の(4)式から求められる。
Figure 0006011248
但し、(4)式において、Wsiは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点での炉内のスラグ量(kg/溶銑t)、T.CaOiは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のCaO量(kg/溶銑t)、T.SiO2iは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のSiO2量(kg/溶銑t)と、溶銑中の珪素の酸化により生じるSiO2量(kg/溶銑t)との合計値、T.MgOiは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のMgO量(kg/溶銑t)、T.Al23iは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のAl23量(kg/溶銑t)、T.MnOiは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のMnO量(kg/溶銑t)と、溶銑中マンガンの酸化により生じるMnO量(kg/溶銑t)との合計値、T.P25iは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のP25量(kg/溶銑t)と、溶銑中の燐の酸化により生じるP25量(kg/溶銑t)との合計値である。
尚、T.SiO2iを計算するにあたり、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに、溶銑中の珪素の酸化により生じるSiO2量(kg/溶銑t)に関しては、下記の(5)式によって算出する。
Figure 0006011248
但し、(5)式において、kSiO2は、個々の転炉設備で決定される反応速度定数、InputO2は、上吹き酸素量(Nm3/溶銑t)である。
演算装置15は、(3)式から求められるFeOiと(4)式から求められるWsiとから、下記の(6)式を用いて、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点でのスラグ17のFeO濃度を算出する。但し、(6)式において、(質量%FeO)iは、酸素吹錬開始時からti時間経過した時点でのスラグ17のFeO濃度(質量%)である。
Figure 0006011248
即ち、演算装置15は、入力された、上吹きランス2からの酸素ガス流量、精錬中の排ガスの組成、排ガスの流量、副原料投入量及び溶銑成分(Si、Mn、P)から、酸素バランスを逐次計算して不明酸素量(ΔWO2)を求め、求めた不明酸素量(ΔWO2)に基づいて炉内のスラグ17のFeO濃度を推定し、推定した値をその都度表示することで、推定したFeO濃度の推移を表示する。
演算装置15によるスラグ中FeO濃度の推定値の精度を確認するべく、脱珪処理中及び脱珪処理終了後にスラグ17を採取し、採取したスラグ17の化学分析値と、演算装置15によるFeO濃度の推定値とを比較した結果、両者は±5%以内の精度で一致した。
本発明を適用する転炉設備はこのようにして構成されている。
この転炉設備を用い、スラグ17の組成を、中間排滓が可能な組成に脱珪処理の所定時間内に調整すると同時に、中間排滓時点の溶銑中珪素濃度を0.20質量%以下に制御することを目的として、脱珪処理、中間排滓、脱燐処理からなる予備処理試験を溶銑16に施し、中間排滓時のスラグ17のFeO濃度及び中間排滓後の溶銑16の珪素濃度について調査した。
脱珪処理は、酸素源として、上吹きランス2から酸素ガスを供給するとともに、副原料投入装置から酸化鉄(鉄鉱石)を供給し、更に、スラグ17の塩基度(=(質量%CaO)/(質量%SiO2))を調整するために、上吹きランス2から粒径1mm以下のCaO含有物質19を供給する、または、副原料投入装置から生石灰を上置き供給して行い、この脱珪処理におけるスラグ中FeO濃度を上記の(6)式により算出した。中間排滓は、転炉本体1をほぼ水平となるまで傾動させ、転炉本体1の炉口からスラグ17を炉外に排出させた。また、脱燐処理は、酸素源として、上吹きランス2から酸素ガスを供給するとともに、副原料投入装置から酸化鉄(鉄鉱石)を供給し、更に、上吹きランス2から粒径1mm以下のCaO含有物質19を供給する、または、副原料投入装置から生石灰を上置き供給して行った。
試験では、CaO含有物質19として生石灰を使用し、生石灰の添加条件として以下の2水準で実施した。即ち、脱珪処理及び脱燐処理において、使用するCaO含有物質19の全量を副原料投入装置から上置き供給する場合(添加条件1)と、使用するCaO含有物質19の全量を上吹きランス2から吹き付け供給する場合(添加条件2)の2水準とした。
この添加条件1及び添加条件2の試験操業において、脱珪処理中ではスラグ17の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が0.50〜2.0となり、また、脱燐処理中ではスラグ17の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が0.50〜2.5となるように、生石灰の供給条件を設定した。ここで、脱珪処理におけるT.SiO2i(kg/溶銑t)は、脱珪酸素吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のSiO2量(kg/溶銑t)と、(5)式によって計算される、溶銑中の珪素の酸化により生じるSiO2量(kg/溶銑t)との合計値とした。また、脱燐処理におけるT.SiO2i(kg/溶銑t)は、中間排滓後に炉内に残留したスラグ中のSiO2量(kg/溶銑t)と、脱燐吹錬開始時からti時間経過した時点までに投入された副原料中のSiO2量(kg/溶銑t)と、(5)式によって計算される、溶銑中の珪素の酸化により生じるSiO2量(kg/溶銑t)と合計値とした。
脱珪処理及び脱燐処理の操業条件を表1に、また、全ての試験操業における溶銑の化学成分の変化(平均値)を表2に示す。
Figure 0006011248
Figure 0006011248
図2に、添加条件1及び添加条件2において、中間排滓時でのスラグ中FeO濃度と中間排滓後の溶銑中珪素濃度との関係を調査した結果を示す。図2に示すように、中間排滓時のスラグ中FeO濃度が1.0質量%未満の場合は、中間排滓後の溶銑中珪素濃度が0.20質量%以上となる試験が発生した。これに対して、中間排滓時のスラグ中FeO濃度が3.0質量%以上の場合は、中間排滓後の溶銑中珪素濃度が0.20質量%以上となる試験は発生しなかった。また、図2には、転炉本体1を傾動させてもスラグ17を排滓できなかった試験も示すが、中間排滓時のスラグ中FeO濃度が3.0質量%未満であると、中間排滓後の溶銑中珪素濃度が0.20質量%以下であっても、スラグ17の流動性が悪く、スラグ17を排滓できない試験が発生することが分った。
従って、スラグ17の組成を中間排滓の可能な組成に調整すると同時に、中間排滓時点の溶銑中珪素濃度を0.20質量%以下に制御するためには、スラグ17のFeO濃度が3.0質量%以上確保された時点で中間排滓することが必要であることが分った。一方、スラグ中のFeO濃度が30質量%以上となると、鉄歩留まりの悪化及び処理時間の延長を招くので、スラグ中のFeO濃度が30質量%以下の時点で中間排滓する必要があることを本発明者らは、転炉での脱炭精錬などから確認している。
また、中間排滓の実施時期がばらつくと、脱珪処理及び脱燐処理の精錬時間のばらつきを招くので、生産性向上の観点から、脱珪処理開始時から一定の時間経過した時点で中間排滓することが好ましい。具体的には、脱珪処理開始時から望ましくは7分間経過した時点、或いは、少なくとも9分間経過した時点には中間排滓することが好ましい。
また、図3に、添加条件1及び添加条件2において、脱燐処理後の溶銑中燐濃度に及ぼす脱燐処理後のスラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))の影響について調査した結果を、添加条件1と添加条件2とで比較して示す。図3に示すように、生石灰を副原料投入装置から供給して行った場合(添加条件1)には、上記比((質量%CaO)/(質量%FeO))の値に余り影響されず、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は0.040質量%よりも高い結果となった。これに対して、生石灰を上吹きランス2から吹き付け添加した場合(添加条件2)には、上記比((質量%CaO)/(質量%FeO))の値が同一の条件下において、添加条件1に比較して脱燐処理後の溶銑中燐濃度は低下した。
特に、添加条件2では、スラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))を0.4〜5.5の範囲内とすることで、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は0.030質量%以下まで低下することが確認できた。これは、上記比((質量%CaO)/(質量%FeO))が0.4未満では、生石灰の供給速度が小さく、スラグの燐吸収能力が低いために脱燐反応が促進されず、脱燐終了時の溶銑中燐濃度が低下しにくく、一方、上記比((質量%CaO)/(質量%FeO))が5.5を超えると、FeO量に比べてCaO量が多くなり、生石灰が滓化しにくく、つまり、スラグ17の脱燐能が低いために脱燐反応が促進されず、脱燐終了時の溶銑中燐濃度が低下しにくくなることによる。
つまり、脱燐処理において、CaO含有物質19を上吹きランス2から吹き付け添加し、且つ、スラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))が0.4〜5.5の範囲内となるように上吹きランス2からのCaO含有物質19の添加量を制御することで、溶銑16の脱燐反応が促進され、短時間で安定して脱燐処理できることが分った。
また、図4に、添加条件2において、脱珪処理時のスラグ塩基度を0.5〜2.0の範囲で変化させたときに、中間排滓時にスラグ中に残留する未滓化CaOの濃度を調査した結果を示す。図4に示すように、脱珪処理中のスラグ塩基度が0.8よりも小さいと、スラグ17の脱燐能低下による復燐が見られ、一方、スラグ塩基度が1.2よりも大きいと、未滓化CaOの増大による固相率の上昇のためにスラグ17の流動性が悪くなり、スラグ17を排滓できない試験が発生することが分った。
本発明者らは、中間排滓後に炉内に残留するスラグ量は中間排滓前の40質量%程度であることを確認している。この知見に基づき、脱燐開始時のスラグ成分を推定し、添加条件2において、脱燐処理時のスラグ塩基度を0.5〜2.5の範囲で変化させ、スラグ塩基度と脱燐処理後の溶銑中燐濃度との関係を調査した。調査結果を図5示す。
図5に示すように、脱燐処理中のスラグ塩基度を1.0〜1.8の範囲に調整することで、脱燐処理が効率的に行われることが確認できた。これは、脱燐処理中のスラグ塩基度が1.0より小さいと、スラグ17の脱燐能低下により脱燐反応が促進されず、一方、脱燐処理中のスラグ塩基度が1.8よりも大きいと、CaO含有物質19が滓化しにくいことから脱燐反応が促進されないことによる。また、スラグ塩基度が1.8よりも大きいと、スラグ中の未滓化CaOが増加し、スラグ17のリサイクルの観点からも不利となる。
本発明は、これらの知見に基づきなされたもので、本発明に係る溶銑16の予備処理方法は、上吹きランス2から酸素ガスを供給するとともに底吹き羽口3から攪拌用ガスを吹き込んで予め脱珪処理されていない溶銑16を転炉にて脱珪処理し、その後、脱珪処理で生成したスラグ17を転炉から排出し、スラグ17の排出後、引き続いて脱燐処理して溶銑16を予備処理するにあたり、(2)式から求められる不明酸素量(ΔWO2)に基づいて炉内スラグ中のFeO濃度を推定し、推定したFeO濃度の推移に照らし合わせて、上吹きランス2からの酸素ガス流量、上吹きランス2のランス高さ、底吹き羽口3からの攪拌用ガス流量のうちの少なくとも何れか1種を調整し、この調整により、脱珪処理開始時から7分間ないし9分間経過する時点までに、炉内のスラグ17のFeO濃度を3.0〜30質量%の範囲に調整し、その後、転炉本体1を傾動させて炉内のスラグ17を排滓し、排滓後、上吹きランス2からの酸素ガスの供給を再開して脱燐処理を行うことを特徴とする。
尚、上記試験では、脱珪処理及び脱燐処理において、使用するCaO含有物質19の全量を上吹きランス2から供給するか、または、副原料投入装置から上置き添加するか、どちらか一方の方法を用いているが、上吹きランス2からのCaO含有物質19の上吹き添加と副原料投入装置からのCaO含有物質19の上置き添加とを併用しても構わず、また、脱珪処理では副原料投入装置から上置き添加し、脱燐処理では上吹きランス2から上吹き添加するなど、脱珪処理と脱燐処理とで異なる添加方法であっても構わない。
上吹きランス2からの酸素ガス流量を増加すると所謂「ハードブロー」になり、供給する酸素ガスは溶銑中の珪素及び炭素との反応に費やされてFeOの生成が少なくなるのみならず、溶銑16とスラグ17との攪拌が強くなることから溶銑16とスラグ17との反応が起こってスラグ17のFeOが還元され、これらにより、スラグ17のFeOは低下する或いは増加せずに維持される。逆に、上吹きランス2からの酸素ガス流量を低下すると所謂「ソフトブロー」になり、供給する酸素ガスと溶銑自体(鉄)との反応が起こりスラグ中のFeO濃度は上昇する。
上吹きランス2のランス高さ(ランス先端と静止時の炉内溶銑湯面との距離)を小さくすると、ハードブローになり、上記の理由でスラグ17のFeO濃度が低下する或いは増加せずに維持される。逆に、上吹きランス2のランス高さを大きくすると、ソフトブローになり、スラグ中のFeO濃度は上昇する。
また、底吹き羽口3からの攪拌用ガス流量を増加すれば、溶銑16とスラグ17との攪拌が強くなることから溶銑16とスラグ17との反応が起こってスラグ17のFeOが還元され、スラグ17のFeOは低下する或いは増加せずに維持される。逆に、攪拌用ガス流量を減少すれば、溶銑16とスラグ17との攪拌が弱くなることから溶銑16とスラグ17との反応は抑制され、スラグ17のFeOは増加する。
このように、上吹きランス2からの酸素ガス流量、上吹きランス2のランス高さ、底吹き羽口3からの攪拌用ガス流量の何れか1つを変更することによって、スラグ17のFeO濃度を調製可能であり、従って、本発明においては、脱珪処理中に演算装置15を用いてスラグ中FeO濃度を逐次推定し、スラグ中FeO濃度の推定値の推移から、吹錬開始時から例えば7分間経過時点におけるスラグ中FeO濃度の推定値が3.0質量%未満になると予測される場合には、上吹きランス2からの酸素ガス流量を低下する、上吹きランス2のランス高さを大きくする、底吹き羽口3からの攪拌用ガス流量を低下する、のうちの少なくとも1種以上を実施してスラグ中のFeO濃度を増加させ、吹錬開始より例えば7分間経過時点におけるスラグ中FeO濃度の推定値を3.0質量%以上に調製する。
逆に、吹錬開始時から例えば7分間経過時点におけるスラグ中FeO濃度の推定値が30質量%を超えると予測される場合には、上吹きランス2からの酸素ガス流量を増加する、上吹きランス2のランス高さを小さくする、底吹き羽口3からの攪拌用ガス流量を増加する、のうちの少なくとも1種以上を実施してスラグ中のFeO濃度を減少させ、吹錬開始より例えば7分間経過時点におけるスラグ中FeO濃度の推定値を30質量%以下に調製する。
更に、本発明者らは、スラグ中FeO濃度の生成挙動に関して調査した。具体的には、ベースの条件として、脱珪処理開始時から7分間経過する時点までの上吹きランス2からの送酸速度(=酸素ガス供給流量)の平均値を40000Nm3/hr、脱珪処理開始時から7分間経過する時点までのランス高さの平均値を2.0m、脱珪処理開始時から7分間経過する時点までの底吹き流量の平均値を600Nm3/hrと設定し、このベースの条件に対して、上吹きランス2からの送酸速度及びランス高さを変更し、送酸速度及びランス高さのFeOの生成に及ぼす影響を調査した。
図6に、ベースの条件に対して、脱珪処理開始時から7分間経過する時点までのランス高さの平均値及び底吹き流量の平均値については変化させず、脱珪処理開始時から7分間経過する時点までの送酸速度の平均値を5000Nm3/hrだけ増加させたときの、脱珪処理開始時から7分間経過した時点におけるスラグ中FeO濃度の推定値のベース条件に対する増減量(ΔFeO濃度)を示す(●印)。
また、図6に、ベースの条件に対して、脱珪処理開始時から7分間経過する時点までの送酸速度の平均値及び底吹き流量の平均値については変化させず、脱珪処理開始時から7分間経過する時点までのランス高さを0.6mだけ増加させたときの、脱珪処理開始時から7分間経過した時点におけるスラグ中FeO濃度の推定値のベース条件に対する増減量(ΔFeO濃度)を示す(□印)。
図6に示すように、脱珪処理開始時から7分間経過した時点におけるスラグ中FeO濃度の推定値は、溶銑中珪素濃度の影響が大きく、溶銑中珪素濃度が0.30質量%未満である場合には、ランス高さ増加に伴うソフトブロー化が、脱珪処理開始時から7分間経過した時点におけるスラグ中FeO濃度の増加に有効であることが分った。一方、溶銑中珪素濃度が0.30質量%以上である場合には、ソフトブローによる効果よりも送酸速度を増加させ、脱珪に消費される酸素以上の酸素分を供給することが、脱珪処理開始時から7分間経過した時点でのスラグ中FeO濃度の増加に有効であることが分った。
つまり、上吹きランス2からの酸素ガス流量、上吹きランス2のランス高さ、底吹き羽口3からの攪拌用ガス流量の3種のうちの一種を調整することでスラグ中のFeO濃度を増加させることができるが、特に、溶銑中珪素濃度が0.30質量%以上の段階ではその時点の送酸速度よりも高い送酸速度にすること、一方、溶銑中珪素濃度が0.30質量%未満の段階ではその時点のランス高さよりもランス高さを大きくすることで、スラグ中のFeO濃度は効率的に増加することが分った。尚、上吹きランス2からの酸素ガス流量、ランス高さ、底吹きガス流量の変動範囲は、表1に示す範囲で十分であるが、表1の範囲を外れて変化させても全く問題ない。
このように、本発明によれば、転炉における脱珪処理、脱珪処理後の中間排滓、中間排滓後の脱燐処理からなる溶銑の予備処理において、炉内スラグ中のFeO濃度を推定し、推定したFeO濃度の推移に照らし合わせて操業条件を調整し、脱珪処理開始時から7分間ないし9分間経過する時点までに、炉内スラグのFeO濃度を3〜30質量%の範囲に調製するので、中間排滓時の溶銑中珪素濃度を0.20質量%以下に安定して制御することができるとともに、スラグの組成を中間排滓の可能な組成に調整することができ、その結果、中間排滓後の脱燐処理では過剰なCaO含有物質の投入を回避することができると同時に、脱珪処理開始から脱燐処理終了までを効率的に行うことが実現され、生産性の向上が達成される。
図1に示す転炉設備を用いて、本発明に係る溶銑の予備処理(本発明例A、本発明例B)と、脱珪処理時にスラグ中のFeO濃度を調製しない従来法による予備処理(比較例C、比較例D)とを、それぞれ20チャージずつ実施した。脱燐処理終了時の溶銑中燐濃度の目標値は0.030質量%とした。
本発明例Aでは、脱珪吹錬開始時から粒径1mm以下の生石灰をCaO含有物質として上吹きランスから供給し、脱珪処理中でのスラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))が0.4〜5.5の範囲内となり、且つ、スラグの塩基度が0.8〜1.2となるように、上吹きランスからの生石灰の供給量を調整した。この脱珪処理中、スラグ中のFeO濃度を逐次推定し、上吹きランスからの送酸速度、ランス高さ、攪拌用ガス流量のうち少なくとも1種を調整して、推定したスラグ中のFeO濃度が脱珪処理開始時から7分間経過した時点で3.0〜30質量%となるよう調整し、7分間経過した時点で中間排滓を行った。その後、脱燐吹錬開始時から粒径1mm以下の生石灰をCaO含有物質として上吹きランスから供給し、脱燐処理中のスラグの塩基度が1.0〜1.8の範囲内となるように、上吹きランスからの生石灰の供給量を調整しつつ脱燐吹錬を継続して行った。
本発明例Bでは、脱珪吹錬開始時から粒径1mm以下の生石灰をCaO含有物質として上吹きランスから供給し、脱珪処理中でのスラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))が0.4〜5.5の範囲内となり、且つ、スラグの塩基度が0.8〜1.2となるように、上吹きランスからの生石灰の供給量を調整した。この脱珪処理中、スラグ中のFeO濃度を逐次推定し、溶銑中珪素濃度が0.30質量%未満の場合はランス高さを調整し、溶銑中珪素濃度が0.30質量%以上の場合は上吹きランスからの送酸速度を調整し、推定したスラグ中のFeO濃度が脱珪処理開始時から7分間経過した時点で3.0〜30質量%となるよう調整し、7分間経過した時点で中間排滓を行った。その後、脱燐吹錬開始時から粒径1mm以下の生石灰をCaO含有物質として上吹きランスから供給し、脱燐処理中のスラグの塩基度が1.0〜1.8の範囲内となるように、上吹きランスからの生石灰の供給量を調整しつつ脱燐吹錬を継続して行った。
図7に、本発明例A、本発明例B、比較例C及び比較例Dにおける、中間排滓を行うまでのスラグ中FeO濃度の推移を示す。比較例Cでは、スラグ中のFeO濃度が3.0質量%に達するより以前に中間排滓を実施しようとしたが、スラグの流動性が悪く排滓することができなかった。比較例Dでは、スラグ中FeO濃度は3.0質量%に達しており排滓が可能であったが、スラグ中のFeO濃度を制御していないため、排滓のタイミングが脱珪処理開始時から10分間経過した時点であった。
本発明例及び比較例における操業結果の平均値を表3に示す。尚、表3に示す「排滓実施率」とは、中間排滓時にスラグの一部または全量を排滓できたチャージの比率を示している。また、表3に示す比較例は、比較例C及び比較例Dを含むものである。
Figure 0006011248
表3に示すように、本発明例Aでは、排滓実施率が100%となり、また中間排滓後の溶銑中珪素濃度を0.20質量%以下に低減することができ、中間排滓後の脱燐処理においては、スラグ中における未滓化CaOの発生が防止されて、塩基度補償用の生石灰が低減できた結果、生石灰の総使用量が削減され、更には排滓実施率が100%となったことから中間排滓後の復燐が起こらず、脱燐処理後の燐濃度が低位に安定化した。また、中間排滓を脱珪処理開始時から7分間経過した時点で実施しており、脱珪処理開始から脱燐処理終了までの平均の処理時間が短縮された。
本発明例Bでは、本発明例Aと比較して、中間排滓までのFeO生成が促進されるので、中間排滓後の溶銑中燐濃度が低下し、脱燐処理後の燐濃度を本発明例Aに比較して更に低位に安定化することができた。
1 転炉本体
2 上吹きランス
3 底吹き羽口
4 煙道
5 スカート
6 ホッパー
7 投入シュート
8 一次集塵機
9 二次集塵機
10 PAダンパー
11 排ガス流量計
12 誘引送風機
13 ガス採取プローブ
14 ガス分析装置
15 演算装置
16 溶銑
17 スラグ
18 ディスペンサー
19 CaO含有物質

Claims (5)

  1. 上吹きランスから酸素ガスを供給するとともに底吹き羽口から攪拌用ガスを吹き込んで予め脱珪処理されていない溶銑を転炉にて脱珪処理し、その後、脱珪処理で生成したスラグを転炉から排出し、スラグの排出後、引き続いて脱燐処理して溶銑を予備処理するにあたり、
    脱珪処理中のスラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO ))を0.8〜1.2の範囲に調整するとともに、
    脱珪処理中に、上吹きランスからの酸素ガス流量、精錬中の排ガスの組成、排ガスの流量、副原料投入量及び溶銑成分から酸素バランスを逐次計算することにより求められる不明酸素量に基づいて炉内スラグ中のFeO濃度を推定し、
    推定したFeO濃度の推移に照らし合わせて、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹き羽口からの攪拌用ガス流量の3種のうちの少なくとも何れか1種を調整し、この調整により、脱珪処理開始時から9分間経過する時点までに、炉内スラグのFeO濃度を3.0〜30質量%の範囲に調整し、
    その後、一旦前記上吹きランスからの酸素ガスの供給を中断して炉内スラグの少なくとも一部を転炉から排出し、炉内スラグの排出後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を再開して脱燐処理を行うことを特徴とする、転炉における溶銑の予備処理方法。
  2. 脱珪処理開始時から7分間経過する時点までに、炉内スラグのFeO濃度を3.0〜30質量%の範囲に調整することを特徴とする、請求項1に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
  3. 脱珪精錬中、溶銑中の珪素濃度が0.30質量%以上である段階では、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹き羽口からの攪拌用ガス流量の3種のうちの上吹きランスからの酸素ガス流量を選択して上吹きランスからの酸素ガス流量を調整し、一方、溶銑中の珪素濃度が0.30質量%未満である段階では、前記3種のうちの上吹きランスのランス高さを選択して上吹きランスのランス高さを調整することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
  4. 脱燐処理では、スラグ中のCaO濃度とFeO濃度との比((質量%CaO)/(質量%FeO))が0.4〜5.5の範囲内となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するFeO量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
  5. 脱珪処理では、スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO))が0.8〜1.2となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するSiO量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加し、且つ、脱燐処理では、スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO))が1.0〜1.8の範囲内となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するSiO量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。
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