JP2004107735A - 効率の高い溶銑脱りん方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スラグ中に2CaO・SiO2固相が存在する溶銑脱りん処理において、脱燐処理中の反応速度を高位に維持し、高効率で生産性の高い精錬を可能とする方法を提供すること。
【解決手段】処理後スラグの塩基度を1.7から2.1、T.Feを15から30mass%とすることにより、脱りん速度を高位とする最適なスラグ内2CaO・SiO2固相率効率が実現でき、かつ、高い脱りん効率が得られる。また、脱燐処理開始時点の塩基度Bsと、処理後の塩基度Beとの比Bs/Beを0.5から0.9とすることにより、初期の脱りん速度を十分高く保持することを可能とする。さらに、用いる石灰の一部または全部を脱炭滓中のCaOで置換することも可能である。また、ハロゲン化物を用いないため、耐火物の著しい溶損を生じることなく精錬が可能である。
【選択図】 図2
【解決手段】処理後スラグの塩基度を1.7から2.1、T.Feを15から30mass%とすることにより、脱りん速度を高位とする最適なスラグ内2CaO・SiO2固相率効率が実現でき、かつ、高い脱りん効率が得られる。また、脱燐処理開始時点の塩基度Bsと、処理後の塩基度Beとの比Bs/Beを0.5から0.9とすることにより、初期の脱りん速度を十分高く保持することを可能とする。さらに、用いる石灰の一部または全部を脱炭滓中のCaOで置換することも可能である。また、ハロゲン化物を用いないため、耐火物の著しい溶損を生じることなく精錬が可能である。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はスラグ中に2CaO・SiO2固相が存在する溶銑脱りん処理において、脱燐処理中の反応速度を高位に維持し、高効率で生産性の高い精錬を可能とする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、発明者らが特開2001−26807号公報に開示したように、スラグ中に2CaO・SiO2固相を存在せしめることにより、従来より効率良く脱りん処理を行うことが可能であることを明らかとした。2CaO・SiO2固相が存在することによって、脱りん効率が向上する理由は以下の通りである。溶銑予備処理では脱炭処理と比較し温度が低く、処理中のスラグには固相が存在している。メタルと直接反応するのは主にスラグ中の液相であり、ほとんどの固相はPを含むことが出来ないため、一般に固相は脱りん反応に寄与しないと考えられるが、数種ある固相のうち2CaO・SiO2固相のみは3CaO・P2O5の形でPを固溶することが出来るため、脱りん反応に寄与すると考えられる。スラグ中にPを固溶しない固相が存在する場合は、液相にPが濃化するため脱りんに不利となる。一方、スラグ中に2CaO・SiO2固相が存在し、この固相に液相スラグからのPが固溶されれば、液相中のP濃度は低位に保持されるため脱りんに有利に働く。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の通り、スラグ中に2CaO・SiO2固相が存在することによって、平衡脱りん能が上昇することは明らかとなったが、実操業では限られた処理時間で目的のPレベルまで精錬しなければならないため、反応速度が極めて重要である。一般に、脱りん反応ではスラグ内の物質移動が律速段階の一つであることが多く、スラグ中に固相が多量に存在すればPの移動経路である液相が減少し、Pの物質移動速度が低下することが考えられる。さらに、P2O5は液相領域を広げる働きがあるが、P2O5のみが2CaO・SiO2固相に選択的に移行した場合、固相近傍の液相が凝固し物質移動を阻害することも考えられる。
【0004】
よって、平衡論的な脱りん能と、反応速度の両方を高位とする最適な固相率が存在すると考えられる。
さらに、メタルと直接反応するのはスラグの液相であるため、液相スラグの脱りん能が重要であり、また、液相スラグから2CaO・SiO2固相へのPの分配を高位とするためにも液相スラグの組成も重要である。
しかし、これまでスラグは均一液相として扱われることが多く、固液間の反応に関する知見に乏しく、上記考察に基づく最適組成範囲を定量的に決定はされていなかったため、スラグの組成を定量的に最適に設定することで、さらなる溶銑脱りん効率の向上が望まれていた。
【0005】
本発明は、従来技術が持つ、2CaO・SiO2固相を存在せしめた場合の脱りん処理において固液間反応に関する知見が乏しいために、特に速度論的観点からみた最適2CaO・SiO2固相率・最適液相組成を決定されていなかったという問題を解決し、高脱りん能かつ高反応速度を実現可能とならしめる効率の高い溶銑脱りん方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は以下の各方法にある。
(1) 精錬容器にフラックスと酸素を投入する溶銑脱りん方法において、少なくともフラックスとしてCaO成分を添加し、処理後スラグに2CaO・SiO2相を存在させ、脱りん処理後スラグの塩基度を1.7から2.1、T.Feを15mass%から30mass%とすることを特徴とする効率の高い溶銑脱りん方法。
(2) 脱りん処理開始時点の塩基度Bsと、脱りん処理終了後の塩基度Beとの比Bs/Beを0.5から0.9とすることを特徴とする(1)に記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
(3) フラックスとして添加するCaO成分の一部または全部に脱炭滓を用いることを特徴とする(2)に記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
(4) フラックスとしてハロゲン化物を用いないことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、効率の高い溶銑脱りん方法を達成するための、スラグの最適組成範囲を定量的に把握するために、3t規模の脱りん実験を行い、処理中のスラグの急冷サンプルを鉱物相解析することにより、溶銑脱りん反応速度およびメタルからスラグへのP分配と2CaO・SiO2固相率およびスラグ組成との関係を詳細に調査した。この実験では終点でスラグの塩基度は1.0から3.0、T.Feは5mass%から40mass%、温度は1330℃から1380℃であった。
【0008】
まず、2CaO・SiO2固相率と脱りん反応速度の関係は図1に示す通りとなった。ここで横軸の2CaO・SiO2固相率は、スラグ全体に占める2CaO・SiO2固相の質量濃度であり、(1)式で定義される。
2CaO・SiO2固相率(mass%)=2CaO・SiO2固相の質量(kg)
/スラグ全体の質量(kg)×100・・・(1)
しかし、2CaO・SiO2固相に限らず(1)式の右辺の2つの質量は直接測定することが困難である。そこで固・液各相の質量濃度は、EPMAにより得られた各相の定量分析値と仮に置いた各相の質量濃度とを用いてスラグ全体の平均組成を計算し、この平均組成の計算値がガラスビード法と蛍光X線分析によって得られたスラグサンプル全体の平均組成の分析値に近似するように、各相の質量濃度を試行錯誤法によって求めた。その他の方法として、画像解析によって求めても良い。
【0009】
また、縦軸のkはメタルとスラグ全体との間の脱りん反応を一次反応と仮定した場合の反応速度定数である。スラグのマクロ的な流動性は物質移動に影響を及ぼし、したがって流動性と相関が高い固相の質量濃度、特に本発明では2CaO・SiO2固相率が反応速度に及ぼす影響は大きい。
【0010】
図1から2CaO・SiO2固相率が10mass%から40mass%の間で高い反応速度が得られることが明らかとなった。2CaO・SiO2固相率が10mass%より低位の場合はスラグ全体の脱りん能が低く従って駆動力が小さいために速度も低い。2CaO・SiO2固相率の増加によって液相中のP濃度が低位となるため、反応速度が増大するが、2CaO・SiO2固相率が40mass%より高くなると物質移動が阻害されるために、2CaO・SiO2固相率の増加によって反応速度が低下する。2CaO・SiO2固相率は、スラグ全体の組成により決定される。
【0011】
一方で、スラグ液相のもつ平衡論的な脱りん能は、反応速度のみではなく到達P濃度に大きな影響を及ぼす。ここで、到達P濃度とは脱りん処理後のメタル中[P]の質量濃度である。脱りん反応は(2)式で示されるように、スラグ・メタル界面に存在するPがOによって酸化された後、スラグ中のCaOで固定化されると言われており、液相スラグ中のCaO濃度及びスラグ・メタル界面の酸素活量が高いほど脱りんが効率良く進行する。
【0012】
スラグ液相中T.Fe濃度が上昇するとスラグ・メタル界面の酸素活量も上昇し、スラグの平衡論的な脱りん能が増大するが、前記T.Feが上昇しすぎると、相対的にスラグ液相中CaO濃度が低下するため、脱りん能は低下する。通常、スラグの8−9割程度をCaO,FeO,SiO2が占めており、前記T.Feを一定とした場合スラグ液相中のCaO濃度は塩基度でほぼ決定されるため、スラグ液相の塩基度が高いほど脱りん能は高い。
【0013】
ここで、スラグの塩基度とは、スラグ中のCaOの質量濃度/SiO2の質量濃度であり、またスラグのT.Feはスラグ中の全鉄濃度(質量%)を示す。このときT.Feにはスラグ中のメタル分の鉄は含まれない。
2[P]+5[O]+3CaO→3CaO・P2O5・・・(2)
スラグの全体組成が定まると、2CaO・SiO2固相率と液相の組成が相平衡から一義的に定まる。したがって、脱りん反応速度を最大とする2CaO・SiO2固相率を実現し、かつ、液相スラグの平衡論的な脱りん能を適正とする、最適なスラグ全体の平均組成、すなわちスラグ全体のT.Feと塩基度が存在することに着目した。
【0014】
そこで、1350℃における2CaO・SiO2固相率10mass%から40mass%の領域におけるスラグ全体の平均T.Fe及びスラグ全体の平均塩基度に対する処理終点でのP分配の関係を調査した。
ここでP分配LPは、スラグ全体のPの質量濃度(mass%)をメタル中のP質量濃度(mass%)で除した値である。また、スラグ全体の平均T.Fe及びスラグ全体の平均塩基度はやはり処理終点の値である。処理終点のP濃度は処理終点でのスラグ成分に大きく影響を受けるため、処理終点のスラグ組成を用いた。その結果を図2に示す。また、1250〜1400℃でも同様の調査を行ったが、LPの絶対値は異なる温度では多少変化するものの、ほぼ同様の結果が得られた。
【0015】
この図から、塩基度で1.7〜2.1かつT.Feで15〜30mass%において高いP分配が得られることが明らかとなった。塩基度が1.7よりも小さい場合液相スラグの平衡脱りん能が小さくかつ2CaO・SiO2固相率が低下し、また塩基度が2.1よりも大きい場合には2CaO・SiO2固相率が増大することに加え他の固相(たとえば3CaO・SiO2など)の存在比率が高くなるためやはりスラグの脱りん能が小さくなり脱りん速度も低下し、どちらの場合においても高反応速度かつ高脱りん能を実現できない。また、T.Feが15mass%より低い場合は固相率が高くなりスラグ内の物質移動が阻害され、T.Feが30mass%よりも高い場合は2CaO・SiO2固相率が低下することに加え液相中のCaO濃度が相対的に低下するために平衡論的な脱りん能も低下するために、どちらの場合においても高反応速度かつ高脱りん能を実現できない。
【0016】
請求項1においては、上記に基づき2CaO・SiO2脱りん処理終了後のスラグの組成を塩基度で1.7から2.1、T.Feで15mass%から30mass%と限定した。また、さらに高効率な脱りんのためには塩基度が1.8から2.0、T.Feが20mass%から25mass%の領域が望ましい。
【0017】
本発明の実施方法として、処理後スラグに2CaO・SiO2相を存在させるには、スラグ中のCaOとSiO2成分の質量濃度比およびスラグ中の酸化鉄質量濃度をフラックスの投入量および上底吹き強度の組み合わせによって調整することで達成される。
【0018】
また、脱りん処理終了後のスラグの組成を制御するには例えば以下のような方法がある。まず、T.Feの制御は、推測される脱炭、脱珪、脱燐量などを考慮した物質収支計算の結果に応じて投入する酸化鉄量と送酸量を調整して行う。この際、底吹き機能を有する精錬炉の場合はその攪拌強度を増加させることによりT.Feは減少し、上吹き送酸機能を有する精錬炉の場合、上吹き酸素の噴流強度を増大することによってもT.Feが減少する。その逆も成り立つ。
【0019】
次に、塩基度はCaO源(石灰石、生石灰、ドロマイトなど)とSiO2源(珪砂など)を、脱珪量を考慮した物質収支計算の結果によって応じて添加する。
ここで脱りん処理終了後とは、厳密には酸素あるいはフラックスの両方の供給を停止した時点を指し、本明細書での記述は特に明示しない限り、この時点の前後1分でのスラグ・メタルの成分を用いているが、前記処理終了後に精錬容器から出湯・排滓した後のスラグを用いても良い。
【0020】
また、通常の溶銑脱りん方法としては、精錬容器内の溶銑にフラックスと酸素を投入することで実施されるが、フラックスとしては生石灰、石灰石、ドロマイト等のCaO含有物があり、また酸素を投入する方法としては、上・底吹き酸素、鉄鉱石、ミルスケールやダスト等がある。フラックスは、上方から塊または排ガス流に随伴されない程度の粗粒で投入することが一般的であるが、底部または浸漬管にて吹き込むことや、上吹きガス噴流に随伴させて吹き付けることでも達成できる。
【0021】
また、2CaO・SiO2固相への液相スラグからのPの移動は、固相内の拡散が律速になると考えられる。したがって、スラグ中のP濃度が低位な処理の初期に2CaO・SiO2固相がスラグ内に存在した場合、スラグの流動性を阻害しやすくするばかりか、液相スラグから2CaO・SiO2固相へのPの移動が遅いために液相スラグ中のP濃度が高位となりやすい。
【0022】
一方、2CaO・SiO2固相の存在しない、あるいは2CaO・SiO2固相率の低いスラグにCaO分を添加した場合、CaO表面に2CaO・SiO2が生成する。この2CaO・SiO2生成の時点で2CaO・SiO2にPが取り込まれるために、あらかじめPを含まずに存在する2CaO・SiO2固相への液相スラグからのPの移動よりも、2CaO・SiO2が生成する時点での2CaO・SiO2固相へのPの取り込みの方が速いということが、発明者らの研究から明らかとなった。
【0023】
上記の知見を基に、処理終点の塩基度を1.7から2.1とし、T.Feを15mass%から30masss%として、Bs/Beが終点のP分配にどのような影響を及ぼすかを調査した。図3に処理終点でのスラグ全体の平均塩基度および同T.Feを一定とした場合の結果を示すが、全体的にBs/Beが0.5から0.9で終点のLPが向上した。この結果をもとに請求項2では、高い反応速度を実現するための好ましい方法として、処理の初期の塩基度つまりCaO濃度を処理終点と比して低位とし、処理の経過に従ってCaOを添加する方法を規定している。Bs/Beが0.5よりも低い場合は処理中に添加する石灰の量が多く追加添加した石灰の滓化が起こりにくい。一方でBs/Beが0.9よりも大きい場合は、全体量に対する追加装入する石灰量の割合が少なく、処理の初期から存在する2CaO・SiO2固相率が高いためにP分配が向上しにくい。
【0024】
また、脱りん処理開始時点とは酸素及びフラックスのいずれかまたは両方の供給を開始した時点であり、この時点での設定塩基度をBsとし、処理終点のスラグ全体の平均塩基度をBeとする。前述したが、処理終点の塩基度管理に出湯・排滓後のスラグを用いても良い。処理の終点は、あらかじめ過去の処理から必要な総酸素量およびフラックス量を求めておき、投入酸素量および投入フラックス量で判断することが一般的である。この時の塩基度Beと上記Bsとの比Bs/Beを0.5から0.9の範囲になる様にする。
【0025】
ただし、脱燐処理開始時点での設定塩基度Bsは、処理開始から初回の副原料を投入し終わるまでの期間で添加された副原料中のCaO分の総和(kg/t−溶銑)を、溶銑中のSiが全て酸化されるとした場合のSiO2量及び珪砂などのSiO2含有副原料中のSiO2量の総和(kg/t−溶銑)で除した値である。また先に述べたように請求項2では、スラグ中P濃度が低い脱燐初期に2CaO・SiO2固相を極力存在せしめず、スラグ中P濃度が高くなるにつれて2CaO・SiO2固相を上昇せしめることを目的としており、粉体を連続して添加するなど、副原料の投入が連続して行われる場合は、処理開始から処理終了までの処理時間のうち2割程度が経過した時点までに投入された副原料を考慮してBsとする。
【0026】
また、処理の経過に従ってCaOを添加する手法としては、粉体による処理全期あるいは一部での継続的な投入が滓化などの面で好ましいが、塊石灰を処理開始から処理終点までの間に1回以上添加しても良い。この石灰には石灰石、生石灰、水酸化カルシウム、ドロマイトを含む。
【0027】
フラックスとして添加するCaO成分として脱炭滓を利用する際には、伝熱律速による脱炭滓の急激な融解によりスラグ中T.Feが急上昇し突沸する現象が起こることが問題であるが、請求項2に記載の方法によって初期の塩基度を低位とした場合、脱炭滓は近傍に存在するスラグ液相と反応して溶解するために急激なT.Feの上昇を引き起こさない。そのため突沸現象を生じることなく脱炭滓の利用が可能となる。従って、請求項3ではフラックスとして添加するCaO成分の一部または全部に脱炭滓を用いることを規定した。
フラックスとして添加するCaO成分として脱炭滓を利用することで、新たなCaO分を用いないためにフラックスコストを低減し、かつ、スラグ量を低減可能であるという利点がある。
【0028】
本発明では2CaO・SiO2固相の存在が重要であり、ハロゲン化物による液相率の増大は反応速度や到達Pレベルの向上になんら好影響を持たない。また一方でハロゲン化物を用いないことにより、炉の耐火物寿命を長期化する利点があり、したがって請求項4ではハロゲン化物を使用しないことを特徴とした。
【0029】
【実施例】
実施例及び比較例では、300t規模の上底吹き転炉を用いた。酸素は上吹きランスから2.0Nm3/min/ton−溶銑の速度で供給し、底吹きは小径集合管羽口とし窒素を処理の全般にわたり、2000Nm3/h供給した。C:4.15〜4.23%、Si:0.35〜0.37%、Mn:0.25〜0.28%、P:0.09〜0.11%、S:0.014〜0.016%(ここで%はすべてmass%を表す。以降も同様。)で温度が1330〜1350℃の、約300tの溶銑を転炉に装入し、脱燐精錬を8分間行った。脱りん開始時点で生石灰をCaO換算で14〜15kg/t−溶銑(以降同様)、鉄鉱石をFe2O3換算で21.0kg/t、上部バンカーから投入した。これらの吹錬では特に断らない限り、蛍石などのハロゲン化物を含有する副原料は使用しなかった。
【0030】
[実施例1]
上記の条件で8分の吹錬終了後サブランスにてサンプリングを行った。この時のメタルの成分は、C:3.81%、Si:0.01%、Mn:0.11%、P:0.012%、S:0.015%で溶鉄温度は1368℃であった。また、このときのスラグ組成は、T.Fe:16.1%、CaO:41.3%、SiO2:22.7%、S:0.3%、P2O5:6.5%、MnO:5.1%、Al2O3:2.2%、MgO:1.2%、CaF2:0.1%以下であった。この急冷スラグの鉱物相解析の結果ガラス相と固相に分かれていることが確認され固相は2CaO・SiO2と3CaO・P2O5の固溶体とほぼ同定され、前述の手法からこの固相率が22mass%となっていることが明らかとなった。処理終了後のスラグ全体の平均塩基度で1.82かつ同T.Feで16.1mass%が得られ、この結果2CaO・SiO2固相率で22mass%が得られた。このために高いLP:237が得られた。
【0031】
[実施例2]
前記実施例1と同等の条件で初期の生石灰投入量のみをCaO換算で10kg/tとし、処理開始後3分及び5分の時点で2kg/tずつ追加装入した。初期の溶銑成分も実施例1とほぼ同様であった。8分の吹練終了後サブランスにてサンプリングを行った。メタル成分は、C:3.78%、Si:0.01%、Mn:0.12%、P:0.007%、S:0.015%で溶鉄温度は1365℃であった。また、このときのスラグ組成は、T.Fe:23.4%、CaO:35.4%、SiO2:19.5%、S:0.3%、P2O5:6.9%、MnO:3.5%、Al2O3:1.2%、MgO:2.2%、CaF2:0.1%以下であった。このスラグを急冷して鉱物相解析するとガラス相と固相に分かれていることが確認され固相は2CaO・SiO2と3CaO・P2O5の固溶体とほぼ同定され、前述の手法からこの固相率が21mass%となっていることが明らかとなった。処理開始後、処理時間8分に対して2割が経過した1.6分の時点で、投入したCaO分を考慮した設定塩基度Bsは1.30であり、処理終了後のスラグ全体の平均塩基度Beは1.82、かつ処理終了後のT.Feで23.4mass%が得られ、この結果2CaO・SiO2固相率で21mass%が得られた。また、Bs/Beは0.71となり、このために高いLP:430が得られた。
【0032】
[実施例3]
初期の生石灰投入量をCaO換算で14kg/tのうち10kg/tを脱炭滓で置換して吹錬を実施した。このとき用いた脱炭滓の組成は塩基度が3.8、T.Feが18mass%であった。脱炭滓を用いた以外は実施例2と同様の条件で実施した。吹錬中突沸することは一度もなく、8分の吹錬の後に得られたメタルの組成は、C:3.92%、Si:0.01%、Mn:0.13%、P:0.013%、S:0.014%であった。脱炭滓を用いた場合でも、処理後のスラグ成分および2CaO・SiO2固相率は実施例2と大きな相違は無く同一の現象が生じていると考えられ、また、新たなCaO分としての生石灰などのフラックスコストを低減し、かつ、精錬工程におけるスラグ発生量を低減することが出来た。
これらのように、本発明によって後述する比較例に対し高速で効率の良い脱りん処理を行うことが出来た。
【0033】
【比較例】
[比較例1]
生石灰投入量のみをCaO換算で18kg/tとし、同様に8分間の処理を行った。この結果、メタル成分は、C:3.71%、Si:0.01%、Mn:0.16%、P:0.031%、S:0.013%で溶鉄温度は1340℃であった。また、このときのスラグ組成は、T.Fe:11.0%、CaO:52.6%、SiO2:21.3%(スラグ塩基度=2.47)、S:0.3%、P2O5:4.3%、MnO:3.1%、Al2O3:1.4%、MgO:2.5%、CaF2:0.1%以下であった。このスラグを急冷して鉱物相解析するとガラス相と固相に分かれていることが確認され固相は2CaO・SiO2と3CaO・P2O5の固溶体にほぼ同定され、画像解析からこの固相率が45mass%となっていることが明らかとなった。
【0034】
処理終了後のスラグ全体の平均塩基度は2.47かつ同T.Feは11.0mass%となり、この結果2CaO・SiO2固相率は45mass%となった。スラグ全体としては高い塩基度が得られたが、固相率が高く反応が阻害され、また、このためにLPは低く、61となった。
【0035】
[比較例2]
比較例1と同様の条件で、副原料としてCaF2分換算で2kg/tの蛍石を添加した。メタル成分は、C:3.65%、Si:0.01%、Mn:0.20%、P:0.025%、S:0.011%で溶鉄温度は1360℃であった。また、スラグ中のMgO濃度が6.7%となり、耐火物の溶損が生じた。
【0036】
【発明の効果】
本発明によって、スラグ中に2CaO・SiO2固相が存在する溶銑脱りん処理において、脱燐処理中の反応速度を高位に維持し、高効率で生産性の高い精錬が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】反応速度に及ぼす2CaO・SiO2固相率の影響を示した図。
【図2】2CaO・SiO2固相率に基づき反応速度を考慮した場合の、P分配に及ぼすスラグの組成の影響を示した図。
【図3】終点設定塩基度に対する初期装入塩基度の比とP分配の関係を示した図。
【発明の属する技術分野】
本発明はスラグ中に2CaO・SiO2固相が存在する溶銑脱りん処理において、脱燐処理中の反応速度を高位に維持し、高効率で生産性の高い精錬を可能とする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、発明者らが特開2001−26807号公報に開示したように、スラグ中に2CaO・SiO2固相を存在せしめることにより、従来より効率良く脱りん処理を行うことが可能であることを明らかとした。2CaO・SiO2固相が存在することによって、脱りん効率が向上する理由は以下の通りである。溶銑予備処理では脱炭処理と比較し温度が低く、処理中のスラグには固相が存在している。メタルと直接反応するのは主にスラグ中の液相であり、ほとんどの固相はPを含むことが出来ないため、一般に固相は脱りん反応に寄与しないと考えられるが、数種ある固相のうち2CaO・SiO2固相のみは3CaO・P2O5の形でPを固溶することが出来るため、脱りん反応に寄与すると考えられる。スラグ中にPを固溶しない固相が存在する場合は、液相にPが濃化するため脱りんに不利となる。一方、スラグ中に2CaO・SiO2固相が存在し、この固相に液相スラグからのPが固溶されれば、液相中のP濃度は低位に保持されるため脱りんに有利に働く。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の通り、スラグ中に2CaO・SiO2固相が存在することによって、平衡脱りん能が上昇することは明らかとなったが、実操業では限られた処理時間で目的のPレベルまで精錬しなければならないため、反応速度が極めて重要である。一般に、脱りん反応ではスラグ内の物質移動が律速段階の一つであることが多く、スラグ中に固相が多量に存在すればPの移動経路である液相が減少し、Pの物質移動速度が低下することが考えられる。さらに、P2O5は液相領域を広げる働きがあるが、P2O5のみが2CaO・SiO2固相に選択的に移行した場合、固相近傍の液相が凝固し物質移動を阻害することも考えられる。
【0004】
よって、平衡論的な脱りん能と、反応速度の両方を高位とする最適な固相率が存在すると考えられる。
さらに、メタルと直接反応するのはスラグの液相であるため、液相スラグの脱りん能が重要であり、また、液相スラグから2CaO・SiO2固相へのPの分配を高位とするためにも液相スラグの組成も重要である。
しかし、これまでスラグは均一液相として扱われることが多く、固液間の反応に関する知見に乏しく、上記考察に基づく最適組成範囲を定量的に決定はされていなかったため、スラグの組成を定量的に最適に設定することで、さらなる溶銑脱りん効率の向上が望まれていた。
【0005】
本発明は、従来技術が持つ、2CaO・SiO2固相を存在せしめた場合の脱りん処理において固液間反応に関する知見が乏しいために、特に速度論的観点からみた最適2CaO・SiO2固相率・最適液相組成を決定されていなかったという問題を解決し、高脱りん能かつ高反応速度を実現可能とならしめる効率の高い溶銑脱りん方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は以下の各方法にある。
(1) 精錬容器にフラックスと酸素を投入する溶銑脱りん方法において、少なくともフラックスとしてCaO成分を添加し、処理後スラグに2CaO・SiO2相を存在させ、脱りん処理後スラグの塩基度を1.7から2.1、T.Feを15mass%から30mass%とすることを特徴とする効率の高い溶銑脱りん方法。
(2) 脱りん処理開始時点の塩基度Bsと、脱りん処理終了後の塩基度Beとの比Bs/Beを0.5から0.9とすることを特徴とする(1)に記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
(3) フラックスとして添加するCaO成分の一部または全部に脱炭滓を用いることを特徴とする(2)に記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
(4) フラックスとしてハロゲン化物を用いないことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、効率の高い溶銑脱りん方法を達成するための、スラグの最適組成範囲を定量的に把握するために、3t規模の脱りん実験を行い、処理中のスラグの急冷サンプルを鉱物相解析することにより、溶銑脱りん反応速度およびメタルからスラグへのP分配と2CaO・SiO2固相率およびスラグ組成との関係を詳細に調査した。この実験では終点でスラグの塩基度は1.0から3.0、T.Feは5mass%から40mass%、温度は1330℃から1380℃であった。
【0008】
まず、2CaO・SiO2固相率と脱りん反応速度の関係は図1に示す通りとなった。ここで横軸の2CaO・SiO2固相率は、スラグ全体に占める2CaO・SiO2固相の質量濃度であり、(1)式で定義される。
2CaO・SiO2固相率(mass%)=2CaO・SiO2固相の質量(kg)
/スラグ全体の質量(kg)×100・・・(1)
しかし、2CaO・SiO2固相に限らず(1)式の右辺の2つの質量は直接測定することが困難である。そこで固・液各相の質量濃度は、EPMAにより得られた各相の定量分析値と仮に置いた各相の質量濃度とを用いてスラグ全体の平均組成を計算し、この平均組成の計算値がガラスビード法と蛍光X線分析によって得られたスラグサンプル全体の平均組成の分析値に近似するように、各相の質量濃度を試行錯誤法によって求めた。その他の方法として、画像解析によって求めても良い。
【0009】
また、縦軸のkはメタルとスラグ全体との間の脱りん反応を一次反応と仮定した場合の反応速度定数である。スラグのマクロ的な流動性は物質移動に影響を及ぼし、したがって流動性と相関が高い固相の質量濃度、特に本発明では2CaO・SiO2固相率が反応速度に及ぼす影響は大きい。
【0010】
図1から2CaO・SiO2固相率が10mass%から40mass%の間で高い反応速度が得られることが明らかとなった。2CaO・SiO2固相率が10mass%より低位の場合はスラグ全体の脱りん能が低く従って駆動力が小さいために速度も低い。2CaO・SiO2固相率の増加によって液相中のP濃度が低位となるため、反応速度が増大するが、2CaO・SiO2固相率が40mass%より高くなると物質移動が阻害されるために、2CaO・SiO2固相率の増加によって反応速度が低下する。2CaO・SiO2固相率は、スラグ全体の組成により決定される。
【0011】
一方で、スラグ液相のもつ平衡論的な脱りん能は、反応速度のみではなく到達P濃度に大きな影響を及ぼす。ここで、到達P濃度とは脱りん処理後のメタル中[P]の質量濃度である。脱りん反応は(2)式で示されるように、スラグ・メタル界面に存在するPがOによって酸化された後、スラグ中のCaOで固定化されると言われており、液相スラグ中のCaO濃度及びスラグ・メタル界面の酸素活量が高いほど脱りんが効率良く進行する。
【0012】
スラグ液相中T.Fe濃度が上昇するとスラグ・メタル界面の酸素活量も上昇し、スラグの平衡論的な脱りん能が増大するが、前記T.Feが上昇しすぎると、相対的にスラグ液相中CaO濃度が低下するため、脱りん能は低下する。通常、スラグの8−9割程度をCaO,FeO,SiO2が占めており、前記T.Feを一定とした場合スラグ液相中のCaO濃度は塩基度でほぼ決定されるため、スラグ液相の塩基度が高いほど脱りん能は高い。
【0013】
ここで、スラグの塩基度とは、スラグ中のCaOの質量濃度/SiO2の質量濃度であり、またスラグのT.Feはスラグ中の全鉄濃度(質量%)を示す。このときT.Feにはスラグ中のメタル分の鉄は含まれない。
2[P]+5[O]+3CaO→3CaO・P2O5・・・(2)
スラグの全体組成が定まると、2CaO・SiO2固相率と液相の組成が相平衡から一義的に定まる。したがって、脱りん反応速度を最大とする2CaO・SiO2固相率を実現し、かつ、液相スラグの平衡論的な脱りん能を適正とする、最適なスラグ全体の平均組成、すなわちスラグ全体のT.Feと塩基度が存在することに着目した。
【0014】
そこで、1350℃における2CaO・SiO2固相率10mass%から40mass%の領域におけるスラグ全体の平均T.Fe及びスラグ全体の平均塩基度に対する処理終点でのP分配の関係を調査した。
ここでP分配LPは、スラグ全体のPの質量濃度(mass%)をメタル中のP質量濃度(mass%)で除した値である。また、スラグ全体の平均T.Fe及びスラグ全体の平均塩基度はやはり処理終点の値である。処理終点のP濃度は処理終点でのスラグ成分に大きく影響を受けるため、処理終点のスラグ組成を用いた。その結果を図2に示す。また、1250〜1400℃でも同様の調査を行ったが、LPの絶対値は異なる温度では多少変化するものの、ほぼ同様の結果が得られた。
【0015】
この図から、塩基度で1.7〜2.1かつT.Feで15〜30mass%において高いP分配が得られることが明らかとなった。塩基度が1.7よりも小さい場合液相スラグの平衡脱りん能が小さくかつ2CaO・SiO2固相率が低下し、また塩基度が2.1よりも大きい場合には2CaO・SiO2固相率が増大することに加え他の固相(たとえば3CaO・SiO2など)の存在比率が高くなるためやはりスラグの脱りん能が小さくなり脱りん速度も低下し、どちらの場合においても高反応速度かつ高脱りん能を実現できない。また、T.Feが15mass%より低い場合は固相率が高くなりスラグ内の物質移動が阻害され、T.Feが30mass%よりも高い場合は2CaO・SiO2固相率が低下することに加え液相中のCaO濃度が相対的に低下するために平衡論的な脱りん能も低下するために、どちらの場合においても高反応速度かつ高脱りん能を実現できない。
【0016】
請求項1においては、上記に基づき2CaO・SiO2脱りん処理終了後のスラグの組成を塩基度で1.7から2.1、T.Feで15mass%から30mass%と限定した。また、さらに高効率な脱りんのためには塩基度が1.8から2.0、T.Feが20mass%から25mass%の領域が望ましい。
【0017】
本発明の実施方法として、処理後スラグに2CaO・SiO2相を存在させるには、スラグ中のCaOとSiO2成分の質量濃度比およびスラグ中の酸化鉄質量濃度をフラックスの投入量および上底吹き強度の組み合わせによって調整することで達成される。
【0018】
また、脱りん処理終了後のスラグの組成を制御するには例えば以下のような方法がある。まず、T.Feの制御は、推測される脱炭、脱珪、脱燐量などを考慮した物質収支計算の結果に応じて投入する酸化鉄量と送酸量を調整して行う。この際、底吹き機能を有する精錬炉の場合はその攪拌強度を増加させることによりT.Feは減少し、上吹き送酸機能を有する精錬炉の場合、上吹き酸素の噴流強度を増大することによってもT.Feが減少する。その逆も成り立つ。
【0019】
次に、塩基度はCaO源(石灰石、生石灰、ドロマイトなど)とSiO2源(珪砂など)を、脱珪量を考慮した物質収支計算の結果によって応じて添加する。
ここで脱りん処理終了後とは、厳密には酸素あるいはフラックスの両方の供給を停止した時点を指し、本明細書での記述は特に明示しない限り、この時点の前後1分でのスラグ・メタルの成分を用いているが、前記処理終了後に精錬容器から出湯・排滓した後のスラグを用いても良い。
【0020】
また、通常の溶銑脱りん方法としては、精錬容器内の溶銑にフラックスと酸素を投入することで実施されるが、フラックスとしては生石灰、石灰石、ドロマイト等のCaO含有物があり、また酸素を投入する方法としては、上・底吹き酸素、鉄鉱石、ミルスケールやダスト等がある。フラックスは、上方から塊または排ガス流に随伴されない程度の粗粒で投入することが一般的であるが、底部または浸漬管にて吹き込むことや、上吹きガス噴流に随伴させて吹き付けることでも達成できる。
【0021】
また、2CaO・SiO2固相への液相スラグからのPの移動は、固相内の拡散が律速になると考えられる。したがって、スラグ中のP濃度が低位な処理の初期に2CaO・SiO2固相がスラグ内に存在した場合、スラグの流動性を阻害しやすくするばかりか、液相スラグから2CaO・SiO2固相へのPの移動が遅いために液相スラグ中のP濃度が高位となりやすい。
【0022】
一方、2CaO・SiO2固相の存在しない、あるいは2CaO・SiO2固相率の低いスラグにCaO分を添加した場合、CaO表面に2CaO・SiO2が生成する。この2CaO・SiO2生成の時点で2CaO・SiO2にPが取り込まれるために、あらかじめPを含まずに存在する2CaO・SiO2固相への液相スラグからのPの移動よりも、2CaO・SiO2が生成する時点での2CaO・SiO2固相へのPの取り込みの方が速いということが、発明者らの研究から明らかとなった。
【0023】
上記の知見を基に、処理終点の塩基度を1.7から2.1とし、T.Feを15mass%から30masss%として、Bs/Beが終点のP分配にどのような影響を及ぼすかを調査した。図3に処理終点でのスラグ全体の平均塩基度および同T.Feを一定とした場合の結果を示すが、全体的にBs/Beが0.5から0.9で終点のLPが向上した。この結果をもとに請求項2では、高い反応速度を実現するための好ましい方法として、処理の初期の塩基度つまりCaO濃度を処理終点と比して低位とし、処理の経過に従ってCaOを添加する方法を規定している。Bs/Beが0.5よりも低い場合は処理中に添加する石灰の量が多く追加添加した石灰の滓化が起こりにくい。一方でBs/Beが0.9よりも大きい場合は、全体量に対する追加装入する石灰量の割合が少なく、処理の初期から存在する2CaO・SiO2固相率が高いためにP分配が向上しにくい。
【0024】
また、脱りん処理開始時点とは酸素及びフラックスのいずれかまたは両方の供給を開始した時点であり、この時点での設定塩基度をBsとし、処理終点のスラグ全体の平均塩基度をBeとする。前述したが、処理終点の塩基度管理に出湯・排滓後のスラグを用いても良い。処理の終点は、あらかじめ過去の処理から必要な総酸素量およびフラックス量を求めておき、投入酸素量および投入フラックス量で判断することが一般的である。この時の塩基度Beと上記Bsとの比Bs/Beを0.5から0.9の範囲になる様にする。
【0025】
ただし、脱燐処理開始時点での設定塩基度Bsは、処理開始から初回の副原料を投入し終わるまでの期間で添加された副原料中のCaO分の総和(kg/t−溶銑)を、溶銑中のSiが全て酸化されるとした場合のSiO2量及び珪砂などのSiO2含有副原料中のSiO2量の総和(kg/t−溶銑)で除した値である。また先に述べたように請求項2では、スラグ中P濃度が低い脱燐初期に2CaO・SiO2固相を極力存在せしめず、スラグ中P濃度が高くなるにつれて2CaO・SiO2固相を上昇せしめることを目的としており、粉体を連続して添加するなど、副原料の投入が連続して行われる場合は、処理開始から処理終了までの処理時間のうち2割程度が経過した時点までに投入された副原料を考慮してBsとする。
【0026】
また、処理の経過に従ってCaOを添加する手法としては、粉体による処理全期あるいは一部での継続的な投入が滓化などの面で好ましいが、塊石灰を処理開始から処理終点までの間に1回以上添加しても良い。この石灰には石灰石、生石灰、水酸化カルシウム、ドロマイトを含む。
【0027】
フラックスとして添加するCaO成分として脱炭滓を利用する際には、伝熱律速による脱炭滓の急激な融解によりスラグ中T.Feが急上昇し突沸する現象が起こることが問題であるが、請求項2に記載の方法によって初期の塩基度を低位とした場合、脱炭滓は近傍に存在するスラグ液相と反応して溶解するために急激なT.Feの上昇を引き起こさない。そのため突沸現象を生じることなく脱炭滓の利用が可能となる。従って、請求項3ではフラックスとして添加するCaO成分の一部または全部に脱炭滓を用いることを規定した。
フラックスとして添加するCaO成分として脱炭滓を利用することで、新たなCaO分を用いないためにフラックスコストを低減し、かつ、スラグ量を低減可能であるという利点がある。
【0028】
本発明では2CaO・SiO2固相の存在が重要であり、ハロゲン化物による液相率の増大は反応速度や到達Pレベルの向上になんら好影響を持たない。また一方でハロゲン化物を用いないことにより、炉の耐火物寿命を長期化する利点があり、したがって請求項4ではハロゲン化物を使用しないことを特徴とした。
【0029】
【実施例】
実施例及び比較例では、300t規模の上底吹き転炉を用いた。酸素は上吹きランスから2.0Nm3/min/ton−溶銑の速度で供給し、底吹きは小径集合管羽口とし窒素を処理の全般にわたり、2000Nm3/h供給した。C:4.15〜4.23%、Si:0.35〜0.37%、Mn:0.25〜0.28%、P:0.09〜0.11%、S:0.014〜0.016%(ここで%はすべてmass%を表す。以降も同様。)で温度が1330〜1350℃の、約300tの溶銑を転炉に装入し、脱燐精錬を8分間行った。脱りん開始時点で生石灰をCaO換算で14〜15kg/t−溶銑(以降同様)、鉄鉱石をFe2O3換算で21.0kg/t、上部バンカーから投入した。これらの吹錬では特に断らない限り、蛍石などのハロゲン化物を含有する副原料は使用しなかった。
【0030】
[実施例1]
上記の条件で8分の吹錬終了後サブランスにてサンプリングを行った。この時のメタルの成分は、C:3.81%、Si:0.01%、Mn:0.11%、P:0.012%、S:0.015%で溶鉄温度は1368℃であった。また、このときのスラグ組成は、T.Fe:16.1%、CaO:41.3%、SiO2:22.7%、S:0.3%、P2O5:6.5%、MnO:5.1%、Al2O3:2.2%、MgO:1.2%、CaF2:0.1%以下であった。この急冷スラグの鉱物相解析の結果ガラス相と固相に分かれていることが確認され固相は2CaO・SiO2と3CaO・P2O5の固溶体とほぼ同定され、前述の手法からこの固相率が22mass%となっていることが明らかとなった。処理終了後のスラグ全体の平均塩基度で1.82かつ同T.Feで16.1mass%が得られ、この結果2CaO・SiO2固相率で22mass%が得られた。このために高いLP:237が得られた。
【0031】
[実施例2]
前記実施例1と同等の条件で初期の生石灰投入量のみをCaO換算で10kg/tとし、処理開始後3分及び5分の時点で2kg/tずつ追加装入した。初期の溶銑成分も実施例1とほぼ同様であった。8分の吹練終了後サブランスにてサンプリングを行った。メタル成分は、C:3.78%、Si:0.01%、Mn:0.12%、P:0.007%、S:0.015%で溶鉄温度は1365℃であった。また、このときのスラグ組成は、T.Fe:23.4%、CaO:35.4%、SiO2:19.5%、S:0.3%、P2O5:6.9%、MnO:3.5%、Al2O3:1.2%、MgO:2.2%、CaF2:0.1%以下であった。このスラグを急冷して鉱物相解析するとガラス相と固相に分かれていることが確認され固相は2CaO・SiO2と3CaO・P2O5の固溶体とほぼ同定され、前述の手法からこの固相率が21mass%となっていることが明らかとなった。処理開始後、処理時間8分に対して2割が経過した1.6分の時点で、投入したCaO分を考慮した設定塩基度Bsは1.30であり、処理終了後のスラグ全体の平均塩基度Beは1.82、かつ処理終了後のT.Feで23.4mass%が得られ、この結果2CaO・SiO2固相率で21mass%が得られた。また、Bs/Beは0.71となり、このために高いLP:430が得られた。
【0032】
[実施例3]
初期の生石灰投入量をCaO換算で14kg/tのうち10kg/tを脱炭滓で置換して吹錬を実施した。このとき用いた脱炭滓の組成は塩基度が3.8、T.Feが18mass%であった。脱炭滓を用いた以外は実施例2と同様の条件で実施した。吹錬中突沸することは一度もなく、8分の吹錬の後に得られたメタルの組成は、C:3.92%、Si:0.01%、Mn:0.13%、P:0.013%、S:0.014%であった。脱炭滓を用いた場合でも、処理後のスラグ成分および2CaO・SiO2固相率は実施例2と大きな相違は無く同一の現象が生じていると考えられ、また、新たなCaO分としての生石灰などのフラックスコストを低減し、かつ、精錬工程におけるスラグ発生量を低減することが出来た。
これらのように、本発明によって後述する比較例に対し高速で効率の良い脱りん処理を行うことが出来た。
【0033】
【比較例】
[比較例1]
生石灰投入量のみをCaO換算で18kg/tとし、同様に8分間の処理を行った。この結果、メタル成分は、C:3.71%、Si:0.01%、Mn:0.16%、P:0.031%、S:0.013%で溶鉄温度は1340℃であった。また、このときのスラグ組成は、T.Fe:11.0%、CaO:52.6%、SiO2:21.3%(スラグ塩基度=2.47)、S:0.3%、P2O5:4.3%、MnO:3.1%、Al2O3:1.4%、MgO:2.5%、CaF2:0.1%以下であった。このスラグを急冷して鉱物相解析するとガラス相と固相に分かれていることが確認され固相は2CaO・SiO2と3CaO・P2O5の固溶体にほぼ同定され、画像解析からこの固相率が45mass%となっていることが明らかとなった。
【0034】
処理終了後のスラグ全体の平均塩基度は2.47かつ同T.Feは11.0mass%となり、この結果2CaO・SiO2固相率は45mass%となった。スラグ全体としては高い塩基度が得られたが、固相率が高く反応が阻害され、また、このためにLPは低く、61となった。
【0035】
[比較例2]
比較例1と同様の条件で、副原料としてCaF2分換算で2kg/tの蛍石を添加した。メタル成分は、C:3.65%、Si:0.01%、Mn:0.20%、P:0.025%、S:0.011%で溶鉄温度は1360℃であった。また、スラグ中のMgO濃度が6.7%となり、耐火物の溶損が生じた。
【0036】
【発明の効果】
本発明によって、スラグ中に2CaO・SiO2固相が存在する溶銑脱りん処理において、脱燐処理中の反応速度を高位に維持し、高効率で生産性の高い精錬が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】反応速度に及ぼす2CaO・SiO2固相率の影響を示した図。
【図2】2CaO・SiO2固相率に基づき反応速度を考慮した場合の、P分配に及ぼすスラグの組成の影響を示した図。
【図3】終点設定塩基度に対する初期装入塩基度の比とP分配の関係を示した図。
Claims (4)
- 精錬容器にフラックスと酸素を投入する溶銑脱りん方法において、少なくともフラックスとしてCaO成分を添加し、処理後スラグに2CaO・SiO2相を存在させ、脱りん処理後スラグの塩基度を1.7から2.1、T.Feを15mass%から30mass%とすることを特徴とする効率の高い溶銑脱りん方法。
- 脱りん処理開始時点の塩基度Bsと、脱りん処理終了後の塩基度Beとの比Bs/Beを0.5から0.9とすることを特徴とする請求項1に記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
- フラックスとして添加するCaO成分の一部または全部に脱炭滓を用いることを特徴とする請求項2に記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
- フラックスとしてハロゲン化物を用いないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の効率の高い溶銑脱りん方法。
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